【空の研究】Take off!

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/13 07:30
完成日
2017/12/18 16:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 空の研究所は今、研究所創設以来の大きなイベントを控えて大忙しだった。
 なにせ、開催が決まったのも急なら用意すべきことの量も多い。空の研究所は、所長のアメリア・マティーナ(kz0179)を含めても三人しかいない小さな機関だ。全員が多忙をきわめた。
「ホント、急激に忙しくなったよなあ」
 研究員のキランがぼやく。その隣で、事務や雑用を担当してる職員のスバルが苦笑した。
「キランさんも聞かされてなかったんですね」
「ああ、まったくな。ちょっとは相談しろってんだ」
 キランは不満そうなふうにしつつ、作業の手は止めない。わざと相談しなかったんじゃないだろうか、という言葉を、スバルは飲み込んだ。キランは何につけてもおおげさで、事が大きくなりすぎるきらいがある。加えて、とんでもない不運の持ち主だ。
「でも、まあ」
 キランは、噂をすれば、というようにやってきたアメリアを見て少し笑った。
「所長が久しぶりに楽しそうだから、いいとするかな」
「そうですね」
 スバルも頷いた。黒いローブのフードを深々とかぶり、いつもながら顔のわからないアメリアだったが、そのフードの下では間違いなく笑顔を作っているだろうと、ふたりには確信があった。



 イベントの開催が決まった経緯については、一カ月ほど、時をさかのぼる。
 アメリアはそのころ、いつになく口数が少なかった。目深にかぶったフードの下に表情を隠すことはいつものことだったが、それでも隠しきれない陰鬱さが漂っていた。
 メフィストとの、戦い。そしてそこで、失われた命。
 それが、原因だった。
 失われた命のひとつ、弱小貴族ヒューゴ・レンダックの葬儀に、アメリアは出席した。そこで、ある人物と久しぶりの対面をする。
 カリム・ルッツバードだった。王国の有力貴族である彼は、若くして当主となりながらも政治力・経済力を充分に持ち、企業運営にも力を発揮している実力者であった。穏やかな表情の顔立ちもまた、上品で甘い。
 空の研究所の後援者である彼は、ヒューゴ・レンダックと友人関係であったという。そもそも、アメリアとヒューゴの間に縁ができたのは、このルッツバード氏の橋渡しによるものだ。
 ルッツバード氏は、公の場にめったに顔を出さない。済ませられるものはすべて、秘書を代役に立てている。アメリアも、空の研究所の支援について契約を交わして以来、顔を合わせていなかった。
「お久しぶりですねーえ」
 しめやかに執り行われた葬儀のあと、アメリアはルッツバード氏に声をかけた。話をしておかなければならないと、思ったのだ。
「お久しぶりです、アメリア所長。……できれば、もっと違う場で再会したかったところですが」
 ルッツバード氏は、穏やかに挨拶をした。笑みは浮かべていなかったものの、きわめて冷静である。友人の葬儀に出た姿とはとても思えなかった。
(凄まじい自制心の持ち主ですねーえ)
 後援する研究所のオープニング・セレモニーですら代理を立てた人物だ。つまり、彼が葬儀に出席しているというその事実だけで、ヒューゴの死を心から悼んでいるということの裏づけになる。彼がこの穏やかな顔の下にどれほどの憤りと無念さを抱いているかがうかがい知れて、アメリアは息を飲んだ。
「お話したいことがございます、アメリア所長。おそらく、貴女からもあるのではありませんか」
「ええ。ございますねーえ」
 こうした会話を交わし、その一週間後に、アメリアはルッツバード邸に招かれた。そこで交わされた会話の内容は、ふたりだけしか知らない。だが、もっとも重要なのは。

「空の研究所は王国派の機関であること」を前面に押し出す。

 ということを、決定した点である。
 そのためには、「空の研究所」の知名度を上げなければならない。いかに優れた機関で、王国を支えるにふさわしく、気軽には手出しのできないところであると、印象付けることが必要になってくるのだ。
 それは、長きに渡って研究所が狙われているという事実も鑑みた決定だった。
 かくして。
「研究発表会を行いますよーお」
 アメリアは、キランとスバルにそう言い放ったのである。
「研究の結果、我が研究所では飛行魔法「マジックフライト」の実用化に成功しました。これを、大々的に発表し、魔法と研究所の知名度を底上げするつもりです。協力してくれますよねーえ?」
「もちろんです」
 力強く頷くのはスバル。
「飛行魔法、ようやくか! おマッチどうさまでした、ってな!」
 と、懐からマッチを取り出して下手な駄洒落を言うキラン。
「ただの研究発表会ではおもしろくありません。派手にパフォーマンスをしたいと思いますよーお。会場には、王都にほど近い牧場を借り受けました」
 アメリアは計画を話し始めた。
「その牧場に直径十メートルの平面ステージを作ります」
「なんだよ、もうそんなにしっかり決まっているのか? 事前の相談、なしかよ!」
「平面ステージ、とはなんですか?」
 キランの言葉は黙殺され、アメリアはスバルの質問にのみ答えた。
「まあ、つまり、牧場の中に柵で円を作るだけですねーえ。観客にはその柵の外側でパフォーマンスを見ていただきます」
「平面、で問題ないんですか? 見やすいように、段差を作った方が……。あ、そうか」
「ええ、そうです」
 アメリアは嬉しそうに笑った。
「パフォーマンスは、空で行われるのですからねーえ。段差は必要ありませんよーお」
「ま、そりゃそうだよな」
 黙殺されたことにもめげず、キランがうんうん、と頷く。空の研究所の研究員として、キランも飛行魔法への思いが深いのだ。へこんでなどいられない。
「この魔法を利用したアイテムも発表予定ですがねーえ、まあ、これはまだ先のお楽しみということで、まずは、お披露目と行く予定です」
「忙しくなりそうだな!」

 そう、そしてまさしく忙しくなった。怒涛の準備期間に突入したのだ。

 そして今、離陸のときを迎える。

リプレイ本文

 まるで、お祭り騒ぎだった。借り受けた牧場に柵を立て、ステージを作った、その周りには、食べ物を売る屋台まで出現していた。
「賑やかになっちまったなあ」
 空の研究所の研究員・キランが、呆気にとられたように呟いた。
「いいですねーえ、たくさんの人に見ていただけますねーえ」
 空の研究所所長、アメリア・マティーナ ( kz0179 )は満足げに頷く。今日もいつも通り、黒いローブのフードを目深にかぶっていた。
「皆さん、熱心に準備をしてくださってましたからねーえ。研究と、練習の成果をしっかりお見せいたしましょう」
 アメリアは、今日のパフォーマンスのために集まってくれたハンターたちを振り返りながらそう言った。



 少しだけ、時を遡ろう。パフォーマンス披露の、三日前。ハンターたちは準備のため、空の研究所に集まっていた。空を飛ぶ魔法の完成と聞き、全員がそれぞれに、感動の色を示した。
 エアルドフリス(ka1856)は喜色を抑えきれぬように何度も何度も頷く。
「そうか……完成したか! 待ち望んでいたよ。思惑もあるようだが、栄えある場に参加できる事を光栄に思う」
 Holmes(ka3813)は口調こそ冷静であったが、その言葉は喜びにあふれていた。
「空を飛ぶ魔法……何とも夢のある魔法じゃあないか。前は物しか浮かせられなかったけど、今回はボク自身も飛ぶ事が出来る。いやはや、何とも素敵なものだね」
「皆さんが待ち遠しく思ってくださっていたこと、本当に有難く思いますよーお。さて。魔法についてご説明いたしましょうねーえ」
 アメリアはこの魔法が武器を浮かすことができるものであること、人はそれにつかまることによって飛ぶことができるのだということを説明し、まずは用意していた杖を浮かせ、それにつかまって浮いて見せた。数メートル浮上し、くるりとターンして見せる。目をキラキラと輝かせたのは岩井崎 旭(ka0234)だった。
「元々空を飛ぶ幻獣でもなく、メカでもなく、飛行機や戦艦でもなく。ほとんど生身で空が飛べるのか」
 早速飛びたい、と身を乗り出す面々の目の前にアメリアはローブをはためかせながら降り立ち、微笑んだ。
「では、皆さんにもやっていただきましょうねーえ」
 マギステルのハンターには魔法の発動方法を教え、その他のハンターには、希望する武器に魔法をかけてあげた。
 マルカ・アニチキン(ka2542)は、自分の魔法で浮き上がった瞬間、喉から不思議な声が出た。
「ア゛」
 驚愕と歓喜の感情が口から溢れ出した結果が、この一声に収まったのである。マルカは当日のパフォーマンスのことも考えて「魔筆」ピンセールに魔法をかけ、つかまったのだが、三十センチという長さのためか、ぶら下がるにもバランスが取りづらいようだった。
「魔筆でパフォーマンスをするのはよいのですが、飛ぶのはまた別の武器を考えた方がいいかもしれませんねーえ。研究所の杖をお貸ししましょう」
 アメリアがマルカの様子を見て呟く。
「わああ……!」
 その隣で央崎 遥華(ka5644)が魔法を成功させて歓声を上げた。魔法で空を飛ぶのは、長年の夢だった。感動もひとしおである。
「編隊飛行なんかを考えているのだがね」
 次々地面から足を離すハンターたちに、エアルドフリスがパフォーマンスの案を語り始めた。鞍馬 真(ka5819)がそれに参加を表明する。
「いいね、是非やろう。リアルブルーの戦闘機のパフォーマンスみたいに格好良くやりたいな。それにしても、空を飛べるなんて、まるで夢のようだよ」
 六人はそれぞれの案を持ち寄り、実演を試したり相談したり、パフォーマンスの準備を進めていった。アメリアはそれを眺めつつ微笑んだ。この中で誰よりも喜んでいるのは間違いなくアメリアだ。長年の夢が実現する瞬間は、もう目の前だった。
「アメリア、これはどうだろう、意見を聞かせてくれないか」
 Holmesに呼ばれ、アメリアは相談の輪に加わっていった。



 そうして迎えたパフォーマンス当日。
「成功するといいよな」
 キランが呟くのに大きく頷きつつ、アメリアはその言葉を訂正する。
「するといい、ではありませんよーお。成功させるのです、必ず」
「そうだね」
 後ろから遥華が微笑みながらやってきた。観客はもう柵の周囲でパフォーマンスの開始を今か今かと待ちかねている。準備は万全だ。
「お集りの皆様、お待たせいたしました。これより、空の研究所の研究発表パフォーマンスを開始いたします!」
 司会進行役を任された、研究所職員のスバルが会場の真ん中に立った。期待に満ちた拍手が起こる。その中へまず飛び出していったのは、真だった。魔法のかかった杖に横乗りになり、長い髪やストールを靡かせて会場を大きく回って飛び回る。
「……せっかく飛べるんだから、格好良く飛びたいよね!」
 杖の上でこっそりそう呟きながら真は華麗にオープニングを飾った。そこへ、魔弦「エレゲイア」にぶら下がったHolmesと、ギター「ジャガーノート」につかまるようにして飛ぶ遥華が加わってゆく。三名で、飛行しながらの「空中演奏」が始まった。
 わあああああ、と歓声が上がった。空から降る音楽はまるで天国からの祝福のよう。空を飛ぶ要であるギターを、抱えるというよりはつかまりつつ器用に奏でる遥華は、人々の反応にホッとした。空をくるくると飛行しながら三人息を合わせて演奏される音楽は、人々の目も耳も楽しませた。真のフルート「ホライズン」が、空からでも高らかに人々に旋律を届ける。ぶら下がる恰好で飛び続けているHolmesは、マッスルトーチでさらなる注目を集めていた。
 曲の終了に合わせてゆっくりと三人が地上に降り立つと、会場はまたも、割れんばかりの拍手に包まれた。
 丁寧にお辞儀をしながら、遥華は、観客の中に軍の関係者らしき人々がいるのに気がついた。やはりこのパフォーマンスは「そうした意味」も持っているのだ。
「それではお次は、空中散歩をご覧いただきましょう!」
 スバルのその声に合わせて、次に登場したのは旭。旭は、覚醒状態においてミミズクの翼の幻影を得る。頭部もミミズクのようになった、その姿で、翼を大きく広げて高く飛び上がると、実に神秘的なシルエットが観客の目を楽しませた。足に装着したレガースに魔法を付与しているのである。旭は感慨深く、空の中で胸いっぱいに深呼吸をする。ずっと見上げてきた空に、手が届いた。思わず、声を震わせる。
「すっげぇよなぁ。浪漫だよなぁ。やっぱさぁ、そうこなくっちゃ」
 旭は徐々に高度を落とし、飛行と言うよりは歩行、という足どりでゆったり移動する。最初はバランスを取るのが難しかったようでふらふらしていたが、三日間の練習の結果、散歩、と呼べるまでの余裕を持った足どりを習得したのである。
「みんな、空だ! 空の時代が来るぞ!」
 観客に叫びながら手を振ると、子どもたちがはしゃいだ声を上げながら振りかえしてくれた。
「次は、当研究所所長、アメリア・マティーナの登場です」
 旭のパフォーマンスの後、スバルがそうアナウンスすると、会場が期待に満ちた拍手をした。アメリアが、助手としてキランを伴い、会場に姿を現す。深々とお辞儀をしてから、パフォーマンスを開始した。助手は、キランだけでは手が足りないため、真にも協力してもらっている。
 まず、槍に大きな布をくくり付け、まるで旗のようにしたものを浮かせた。布には、魔法陣が描かれている。キランと真が布を広げつつ、杖に跨って浮上すると、適度な高さに保ったところで、霧吹きを空中にたっぷりとかけた。何が始まるのだろうか、と人々の注目が集まる中。
「あっ、虹が出来た!」
 誰かが、そう叫んで指を指した。まさしく、布の上に、虹が出来上がっている。アメリアが、その瞬間を逃さず呪文を唱えた。しかし。
「あれ? 何も起きないよ?」
 その声に、真はニヤリとした。アメリアが杖に跨り、魔法をかけて浮上する。そして。虹の上に、そっと……、降り立った。虹は、消えることなく、アメリアの足を支えた。
「あっ、虹を硬化させる魔法です……っ」
 マルカが声を上げた。そう、これはアメリアが研究所を持つ前に完成させていた、虹を一時的に硬化させる魔法であった。それを、虹らしく、空中でやって見せたというわけだ。
「あなた方と我々に、虹のような架け橋を」
 アメリアがそう言いながら、観客に手を振った。皆、大喜びで拍手をしている。その、アメリアの上を。
「そろそろ俺の出番だな」
 エアルドフリスが愛用の杖に跨って登場した。その後ろから、アクションスーツを着たマルカもやってきて、注目を集めている。ふたりは挨拶するようにぐるり、と大きく会場を一周してから、あらかじめ地面に置いておいた布の包みを協力して持ち上げ、アメリアの頭上付近へと高く飛び上がった。そこで、ばさり、と布を開くと。
「わああ、雪よ! 虹が出てるのに、雪も降ってるわ!」
 雪に見立てた紙ふぶきが、ひらひらちらちらと降ってきたのである。虹が放つ光と、上空の微風によってそれはきらきらと輝くように舞う。
「こんな、幻想的なものも見られるのね」
「綺麗だねえ」
 賞賛のため息が会場に満ちた。アメリアは虹の上で深くお辞儀をすると、紙ふぶきが舞う中をゆっくりゆっくり下降する。キランと真が、息を合わせて魔法陣の布を下ろしていく。それを見て、司会のスバルが次のパフォーマンスへと続くアナウンスをした。
「皆さま、そろそろこの研究発表パフォーマンスもクライマックスです。どうぞ今一度、上空へご注目ください!」
 虹の魔法の助手を終えた真と、遥華、旭が再び登場した。紙ふぶきを撒き終えたエアルドフリス、マルカと合流し、隊列を整える。マルカと旭が両端に。真ん中にはエアルドフリス。その脇に、真と遥華。横一列になった五人は。
「さあいこう」
 エアルドフリスの、ひとりごとのような呟きを合図にして、横一列のまま、速度を上げて一糸乱れぬ飛行を見せた。エアルドフリスの杖の先に結ばれたカラフルな紐が、さあっとたなびく。そこから、徐々に扇形に見えるように隊列を広げ、同じタイミングで高度を上げたかとおもうと曲線を描いて下がった。
「すごーい!!」
 曲芸、と呼べるかはわからないが、見ていて圧倒されるだけの迫力と美しさのある隊列飛行だった。
 と、扇の両端から、鮮やかな色がほとばしった。その色は、くるくると渦を巻いたり、花模様を見せたりと、移動に合わせて何かが描かれていく。
「飛行の軌跡を描く……、航空ショーの定番だよな」
「お空にお絵かきです……っ」
 両端を飛んでいる旭とマルカが、魔筆で空に線や絵を描いたのである。空を、飛んだ軌跡がくっきりと描かれ、そして次第に滲んでいくのを、観客の声援の中で感慨深げに見上げているのはHolmesだった。誰かが途中で落ちてしまうようなことになってしまっても、自分がいればファントムハンドで助けられる、と考え、油断無く待機していたのである。
「もしもの時の保険というのは大事なのさ」
 そう。空を飛ぶことは喜びだけれど、それが生み出す悲劇の可能性も、考えておかなければならないのである。



 予定していた、すべてのパフォーマンスが終了した。ハンターたちは全員が拍手喝采を受け、たくさんのねぎらいの言葉で観客に迎えられた。
 アメリアはその中でも、王国の有力者に囲まれてあれこれと質問を受けている。どうやら、カリム・ルッツバード氏が心当たりに声をかけてくれていたらしい。
「このパフォーマンスを成功させたことで、知名度は向上するだろうな。便利さのアピールとかも考えていたけど……それよりも空を飛べる楽しさや高揚感が前面に出てしまったな」
 真はアメリアの様子を横目に見て苦笑し、すでに旭と空の浪漫についての話で盛り上がっている一般観客の方へと足を向けた。逆に、アメリアの方へ加わっていたのは、遥華とマルカだった。
「空からの医療急行、物資輸送などに役立てられると思います。ユニットが扱えない時でも空から援護ができるかもしれません。王国軍の助けとなれるのではないでしょうか」
 熱意をこめて、しかし理路整然と提案をする遥華の言葉には、なるほど、と頷く者が多かった。それはもちろん、先ほどまで目の前で展開されていた飛行パフォーマンスの成果である。
 感動を伝えることで、印象は良くなる。空の研究所に対して半信半疑である人がいたとしても、それを氷解することができるといい、と考えていた遥華にとって、これは喜ばしい反応だった。
 マルカは、空の研究所が開発したグッズについての宣伝をしてくれていた。「月眼点液β」を手に、礼儀正しく微笑む彼女の宣伝に一番喜んでいたのは……。
「それ、俺が開発したんです!」
 キランであった。
 有力者との相談や、一般観客からの感想が飛び交う中、誰かがふと、こんなことを口にした。
「空を飛ぶ、って言ったら、箒だよねえ? 箒では飛べないの?」
 その言葉はしっかりと、アメリアの耳に届いた。同じ思いを抱き続けているHolmesが、物言いたげな微笑を向けてくる。アメリアも、フードの下でゆったりと微笑んで、そっと、人差し指を唇にあてた。
「それは、まだ後のお楽しみ、ということですよーお」



「ヒトはついに空へ至る」
 パフォーマンスが終わってもなお盛り上がる会場で、エアルドフリスはひとり、空を見上げていた。先ほどまで、自分が飛んでいた空を。
「だが我々の心はいつまでも不自由な……」
 この空の下で、人々は様々な思惑を抱え、生きていく。ちょうど、背後で交わされている提案のような、そんなものも。
「……いや」
 言葉を切って、ひとつ、かぶりをふる。
「今は可能性を信じるとしよう」
 その顔は、笑顔であった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 雷影の術士
    央崎 遥華ka5644

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 空の研究所相談卓
マルカ・アニチキン(ka2542
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/12/13 00:03:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/11 20:41:19