ゲスト
(ka0000)
立ち退いていただきます
マスター:KINUTA
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/12/18 22:00
- 完成日
- 2017/12/23 22:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●マゴイの仕事
マゴイは市民生産機関の最奥にいた。
彼女の前にはチューブに取り巻かれた5メートルほどの建造物がある。
これこそはウテルス――市民生産機関の神聖なる心臓部。共同体社会の子宮。
部外者にとってはグロテスクにも見えるが、マゴイにとってはいかにも小さくか弱げで、守ってやらなければならないという気持ちにさせるもの。
実際の大きさがどうこうという問題ではない。確かにこのウテルスはユニオンで通常使用されていたものに比べれば、おもちゃのような大きさなのだが――たとえこれが100メートル規模のものだとしても、彼女は、やっぱり同じ感想を抱いただろう。
『……早くあなたが動かせるようになるといいのだけれど……』
呟いてマゴイは、そうっと場を後にする。眠っている子を起こすまいとするかのように。
亜空間から戻ってきたばかりだが、やることはたくさんある。
ワーカーたちの視察から得た情報を分析してみた結果、収穫が幾つかあった。
ハンターたちはワーカーたちに絵を見せて意思を伝えようとしていた。ワーカーたちは、一定の割合でそれを理解していた。『コボちゃん』という個体の助けもあるが、それでもとにかく意味を解していた。
あのやり方はいい。彼らに文字を覚えさせるのに役立ちそうだ。
それと輪を投げる遊び。あの程度のものならすぐ設置出来る。休日の際のよいレクリエーションになるだろう。
この世界の文化レベルについて言えば、一部はなんとか資本主義に到達しているが、大半は封建制を脱する段階に届いていない。社会意識が技術向上に追いついていない印象を受ける。
(……これでは家族も……なかなかなくならないわね……何かあった場合頼るべき公的機関がないのだから……)
つらつら考えながら地上に出てきたマゴイは、いつものように見回りを始めた。
そこにコボルドたちが走ってくる。
「まごーい」
「まごーい、にんぎょきた」
「すいろのぼってきた」
水路へ行ってみれば確かに、人魚たちが来ていた。
「ああ、精霊様おられましたか。実はあなた様へ手紙を預かっていまして――」
と言いながら、閉じた二枚貝を差し出てくる。
二枚貝がぱかりと口を開けた。その中には、巻かれた書簡が入っていた。
●魔術師協会の仕事
その日魔術師協会職員のタモンは休日だったのだが、上司から以下の呼び出しを受け、急ぎ出勤することになった。
「タモンくん、悪いが出てきてくれ。スペットくんも呼んでくれたまえ。グリーク商会というところがだね、マゴイの住んでいる場所を見つけたと言って来たんだ。資料も持ち込んできたんだが、我々だけでは真偽の判別がつきがたくて」
「間違いなくマゴイさんの島であるということでよろしいですね?」
「あー、間違いないわ。こんな分かりやすいもん作るのあいつしかおらへんわ」
と言ってスペットは、海中から突き出た柱の写真に半眼を向けた。
グリーク商会次期会長ニケ・グリークは満足げに両手を組み、椅子の背もたれに身を預ける。
「よかった。これで話を次に進められそうです」
タモンは彼女が持ってきた海図を見ている。
そこには点線で瓢箪が描かれていた。海にそびえている柱の周囲を巡って測定し図に表してみた結果、そのような形となったらしい――海賊の地図に描かれている宝島と、ほぼ同じ形状だ。
どうも違和感が拭えない。これまでマゴイは、現在地に関しての情報公開を拒んでいたように思えるのに、こうも存在を誇示するものを設置するというのは……。
「どういうことなんでしょうか、スペットさん」
「んー、誇示するつもりはないけど、背に腹は変えられんちゅう感じやと思うで。これだけの規模の結界作ろうと思うたら、どうしたって発動の触媒を巨大化せんとあかんし」
「あ、この柱そうすると……護符みたいなものですか?」
「まあ、そんな感じや」
ニケは2人の会話を逐一頭に入れつつ、言う。
「警戒心の強い方なんですね」
「マゴイちゅうたらそんなもんや。で、あんたの話てなんやねん」
その問にたいしてニケは、一つの書状を取り出す。それは彼女がマゴイに当てて送ったものの写しだった。
内容を読んだタモンとスペットは驚愕する。
「保養所建設の土地を提供するやと!」
「本気ですか!?」
「本気です。我がグリーク商会は、マゴイさんと商取引がしたいと思っています。そのためにはまず先方の望むところを提供し、信用してもらいませんと。そうすれば、寄港の許可もいただきやすくなりますでしょう? つきましては、以前から彼女と交流があるあなたがたとも協力関係を築きたいと思っています。取引を通じて商会が得た情報はあなたがたに渡します。その代わり彼女から物質的援助を求められた場合、その調達と配送を私たちに一任していただければと――」
●ハンターの仕事
ハンターたちが訪れたのは、とある鉱山町――いや、もう町と呼べるかどうかも分からないほど廃れ切った町だった。
以前は良質な鉄などが取れていたのだが、近年鉱脈が尽きてしまった。これまで鉱山一本で成り立ってきた町はうまく他路線への切り替えが出来なかった。揚げ句、鉱山の跡地と施設とその周辺の土地を全て(それは、町が有している土地の大半となるのだが)ポルトワールの業者に売り払ったのだとか。
「いやもう、有り難いことでした。困っておったんです。財政難のおり片付けようにも片付けられませんで……立ち退かせることもままならず」
禿げ散らかした町長はそう言って、住宅区を指さした。道はゴミだらけ、壁は落書きだらけ。すさんだ空気が満ち満ちている。
目の端が赤く爛れた男がつかつか近づいてきた。町長目がけ、唾を飛ばす勢いでどなった。
「俺たちは出ていかねえからな! 帰れ! こうなったのは何もかもてめえのせいだ!」
男がわめくだけわめいて戻って行くのを横目に、1人のハンターが聞く。
「で、どうしたらいいんですか」
「この一帯の住人を追い出してください。目ぼしい建物を全て壊してください。建物があるからいかんのです。彼らもいつまでも、ここを離れられないのです。住むところがなくなれば、きれいに諦めがつくでしょうよ」
町長の心情は、言葉ほどに冷たいものでは無さそうだった。丸いおでこには幾重もしわが刻まれ、厚ぼったい目はうっすら潤んでいる。
「金はもう貰っているんです。生活再建資金として彼らに渡す分も――あなたがたへの依頼料も含めて」
近づいてくる車輪の音が聞こえた。
車体に青十字のマークが記されている馬車だった。
ハンターたちの近くまで来て停車し、1人の娘が降りてくる。黒い引っ詰め髪をし眼鏡をかけた、いかにも頭の回転の良さそうな娘が。
「まだ整地が出来てないんですか? 困りますね町長さん」
リプレイ本文
●作戦会議
居座り住民の頑なさを前にしたハンターたちはいったん場を引き下がり、作戦を練るとした。
「土地を買い取った後ですか? マゴイさんにお渡しするんですよ。保養所を作るための用地を探しているとおっしゃっていましたから」
かの名前がここで出てくるとは思わなかった天竜寺 詩(ka0396)は絶句した。
ソラス(ka6581)も驚く。
「……随分な急展開ですね。ニケさん、あの後、マゴイさんとの間でやり取りなどしましたか?」
「まあ、少々」
どうやって住民を立ち退かせるか。そこを一番に考えるエルバッハ・リオン(ka2434)はニケに、提案を行う。
「ニケさん、反対派の引き抜き工作をされてみてはいかがでしょう? 何か取引材料を提供するおつもりはありますか?」
「……立ち退き料を幾らか積み増す位ならしてもいいですが」
話が生臭くなってきたがそれはそれ。ルベーノ・バルバライン(ka6752)は問題の本質のみを見ている。
「……これは正しくマゴイ案件だな」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は朗らかに言う。
「こーいうのも必要なことですからねっ。わたしも商人としての経験はありますし、多少はお手伝い出来るかと」
彼女はグリーク商会による住民への慰撫工作として、家屋の確保、職の斡旋、私品の買い取りなどを提示した。
それについてニケは乗り気でなかった。灰色の視線を町長に向ける。
「退去者の今後について対策を講じるのは、私ではなく彼の仕事ですよ。私はそのためにこそ、十分な費用を渡しているんですけどね」
町長は頭を拭き、しどろもどろに答えた。
「なにぶん急な話でして、手配がなかなか進ませんで、一応住むところは、ひとまず役場の集会場や空き家を利用するということになっておりますのですが……仕事口は……この近辺には働く場所が少なくて……」
どうやらこの町長、気はいいが実務能力がないらしい。
嘆息した詩はニケに聞く。
「もし希望する人がいたら此処の職員として雇えないかな?」
「それは建設予定の保養所で働けないかということですか?」
「うん、そう」
「なら私に言われてもどうしようもありません。マゴイさんが決めることですから」
と言ってニケはソフィアに魔導カメラを渡した。
続けてリオンにネクタイピンのようなものを渡す。
リオンは聞いた。
「これは何ですか?」
「録音機です。工作は二人一組で。必ず現場の写真を撮って、会話を録音するようにしてください」
ソラスがニケに聞く。手回しのいい人だと思いながら。
「退去者をグリーク商会に就職させることは出来ませんか? 再教育の手間はかかるかと思いますが、新航路に合わせて増船するなら人手も必要でしょう?」
ニケはにべもなく答えた。
「私は彼らを商会に就職させる気などありませんよ。人手についてはもう手配していますから」
そこでルベーノが口を挟む。
「ニケ、マゴイと連絡を取ることは出来るか?」
●工作
空き家に連れ込んだ男に対しリオンは、まず謝罪した。
「申し訳ありません。私はグリーク商会のものなのですが、どうしてもお話したいことがありまして……」
「商会だと? 話なんかねえ! 俺たちはここから出て行かねえぞ、帰れ!」
「お怒りはごもっともです。私共も今回の件については、心痛めております」
上目使いに言いながら出て行こうとする相手の腕にすがりつく。わざと胸が当たるように。
「私たちも強硬手段は取りたくありません。今、立ち退きを了解してもらえれば、皆さんにも新たな道を用意することができます。ですから、協力をお願いします」
と、金貨の入った袋を差し出す。険しかった男の表情が急におどおどしたものになった。
前もっての偵察でリオンは知っていた。この男が居座り組の中で最も貧しているということを。
「どうぞお受け取りください」
「こ、こんなもの俺は……」
「私たちはこれから関係者を招き、取り壊しについての説明会を行います。その場で立ち退きへの賛意を表明していただきたいのです。もしそれをしていただけるのでしたら――改めて更なる報酬をお渡しします」
「……」
「もー、クモの巣だらけじゃん」
天井裏の穴から下を覗くソファイアは小声で愚痴り、素早くシャッターを切る。男が金を受け取り懐に入れる瞬間を狙って。
●交渉
ニケから連絡を受けた魔術師協会は、現場にスペットとタモンを派遣してきた。インカム通信機を添えて。
ルベーノはマゴイへ通信機越しの状況説明をした後、こう結んだ。
「彼らをユニオン市民として迎える気はないか」
『……それは、ある……市民が増えるのは歓迎するわ……』
「そうか。ならお前を彼らに引き合わせよう。ただし、今から言う3つの条件を守ってくれ。1つ、ウォッチャーを絶対使わないこと。2つ、試用期間をとり適性を見定めること。3つ、望んでユニオン市民になった者でも望めば離脱を認めること。でなければ、この話は進められない」
しばしの沈黙の後、不審げな声。
『……試用期間を取り適性を見定めることは問題ないとして……ほかの2つは受け入れられない……』
「何故だ?」
『……ユニオンにはウォッチャーが必要……市民の幸福に不可欠なインフラを廃することは認められない』
そのまま話が流れそうになるところを、スペットがフォローする。
「待て待て、そやない、ルベーノが言いたいのはやな、市民化教育にウォッチャーの思考干渉能力を使うなちゅうこっちゃ。ウォッチャー自体を無くせと言うとるのやない」
『……ああ……そう……それなら認めていいわ……』
ウォッチャーがユニオンにおいて当たり前の存在なのだということを、改めて思い知らされる一幕。
文化の違いというのは難しいものだと感じ入りつつ、ソラスが聞く。
「市民からの離脱も認められませんか?」
『認めないというか出来ない……異世界に送るための転送装置がないから……』
詩はこそっとスペットに聞く。
「もしかしてマゴイ、市民離脱=追放とか思ってる……?」
「確実に思っとるな」
そこでニケがちょっといいですか、と断って話に入ってきた。
「マゴイさん、離脱者は異世界に追放しなければならないんですね?」
『法的にそう』
「ではそこは、ハンターオフィスに委託してみては? 彼らは異世界へ人間を転移させる手段を持っています」
ニケの案を聞いたタモンは、飛び上がるほど驚いた。
「待ってください、あれには時間制限が付いていて、それを過ぎたらまた元の世界に戻ってくるんですよ。大体あれは一般人には――」
『適用されない』という彼の言葉を遮るように、ニケは続ける。
「戻ろうが戻るまいが、一度異世界に送ったという事実には変わりないでしょう。なら法的な問題は生じないのでは? そこのところはどうなんです、マゴイさん」
マゴイは考えていた。相当長い時間考えていた。最終的に出てきたのは、次の言葉だった。
『……その事案が発生した場合の正しい対処について法に明文化されていないからどちらとも言えない……』
「明文化されていない? 何故です」
『……転送装置で異世界に送られたものが戻ってこられるはずがないからよ……』
マゴイの声には困惑が滲んでいた。
ルベーノが話を戻す。
「もし彼らがユニオン市民として保養所勤務を望むなら、そういう生産活動はアリかもしれないと思ってな。お前とて、これで一挙に仲間のマゴイやソルジャー、ステイツマンを得られるかもしれん。お前がウォッチャーを使用するなら俺達は全面戦争も辞さんが、そうでないなら……多様性の一助として、共存の道を探りたくもあるのだ」
この時点で一同はマゴイに対し、
1:市民化教育にウォッチャーを使わないこと。
2:試用期間を持つこと。
を確約させた。
途中離脱者についての処遇は、法解釈における今後の検討課題とされた。
●説得
居残り住民を前にしての説明会が、居住区で始まった。
リオン、ソフィアはそれぞれ住民席の両脇に立っている。騒ぎが起きればすぐ鎮圧出来るように。
ルベーノと詩は会場の入り口付近に控え、言葉を交わしていた。
「人は集団生活する生き物だ。人と言う仲間を得ることで、マゴイもこの世界に適応するかもしれん」
「だといいけどね」
ソラスは町長と一緒に、今後のサポートについての説明を行っている。ニケもその場にいるが、事態を静観する構え。スペットは完全に部外者なので何も言いようがない。
「――何かご意見ご要望などがあればこの場でおっしゃってください」
そう言った途端、あちこちから不満の声が上がった。
「決定事項て、わしら抜きで話が進んだことじゃないか!」
「俺たちは最初から鉱山の再建を申し立ててきたんだ! なのに一度もまともな回答がなかった!」
リオンはこそっとハンカチを取り出し振った。
居残り住民の1人が立ち上がり、どもりながら言う。
「なあ、俺らの生活面倒見てくれるって言うなら、立ち退きを考えてみてもいいんじゃねえか?」
「サッコ、お前裏切るのか!」
「いや、裏切るたって、正直この鉱山にゃもう脈がねえし……そんならこの先いくら掘ったって一文にもならねえし……」
「道を変えてみればまた脈が出るかも知れねえ!」
(アホか。出るならこうなってねえよ)
ソフィアは辛辣な思いを笑顔で包み、壇上に移動した。
「あのですね皆さん、いい加減に現実を見て、受け入れてください。もう家屋撤去は決定事項なんですよ? このまま無理に居座るなら強制退去になるんです。援助は一切なしで。そうなればあなたがたはすでに職を失った上に家を失う、我々は手助けが出来ない。双方にとっていいことは一つもないんです」
厳しく決断を促す彼女の後に、ソラスが続ける。
「もしこのままここに住みたいというなら、この跡地に立てられる保養所にもしかして職が得られるかも……」
前ぶれなく彼の近くの空間に、ドアのような切り込みが現れた。
そこをべろんとめくるようにして詰め襟の白ワンピースを着た女が出てくる。
もちろん(多々変り種の)英霊マゴイである。
『……転移成功……』
と言いながらめくれた空間を貼り戻した彼女は、目を丸くする居残り住民たちに言う。
『………それではユニオンについての説明を……』
そこからユニオンの幸福な共同体社会の理念と実践私的所有の否定と胎外生殖の意義についての話が小一時間続いた。
『……というわけで……市民になりたい方はこの場で申し出ていただきたく……』
会場はすっかり静かになっていた。
スペット、ルベーノ、ソラスが適宜注釈を入れはしても、マゴイの話す内容はクリムゾンの社会常識を(リアルブルーもかも知れないが)あまりに越えていたのである。
マゴイと会うのが初めてのソフィアも正直理解が追いつかず、表情が無になる有り様だ。
一人の鉱夫が手を挙げ、聞いた。
「あのー、よ。労働時間6時間週休二日ってことだけどよ、本当にそれで食っていけるか? 俺はこの通り女房とガキが2人いるんだが、養っていけるのか?」
『……あなたが養う必要なんて全然ない……あなた同様その女性も子供もそれぞれ市民としてユニオンから衣食住を保証される……』
詩はマゴイの言葉がなるべく伝わりやすくなるよう、補則を加える。
「家族の絆は否定されるよ。それとただ一人の人を愛する事も認められない。可能性として、自分の恋人や配偶者が別の誰かに抱かれる事も許容しないといけない」
それを聞いて、まあ予想し得たことだが、拒否反応が起きた。
「じょ、冗談じゃねえ。俺はごめんだ」
「自分の女を黙って寝取られろっていうのか。そんなのおかしいだろ」
マゴイはざわつきに向けて言う。
『……今の説明は不十分……自分が他人の恋人や配偶者を抱く可能性について言及していない……そもそも『自分の』女『自分の』男というものはユニオンに存在しない………皆は皆のものであるからして誰とでもしていい……するべき……共同体の安定化のために……』
会場全体が妙な感じに静まってしまった。
詩は咳払いし、仕切り直す。
「私、アマリリス商会って所と関係があるんだけど、そこはセル鉱山って鉱山を持ってるの。鉱山の仕事がしたいなら紹介する事はできるけど」
鉱夫たちはその言葉を聞いて我に返った。
再び場がザワザワし始める。
「その鉱山、どこにあるんだ?」
「フマーレの近くだよ。ただし、もと山賊の人も働いてる。今はすっかり改心してるけど」
「町長、あんたの探してきた口は何だ」
「山ひとつ向こうの製材所と……後は土木関係と、運送馬車の御者が……ただ、どれもここから通うには遠いです」
「……どうする」
「ここにいるのが一番いいんだが、市民って言われてもなあ……」
『……保養所が出来るまでは試用期間だから……市民登録しない……』
「え、そうなのか。じゃあその後、やっぱり市民にならないってことでもいいのか?」
『……いい……でもその場合ここから出て行ってもらう……』
ルベーノはマゴイに言った。
「メインを保養所経営として、何か月か島嶼部出張で良いのではないか」
対して彼女は、首を振る。
『……市民生産機関をそんなに長い間放置出来ない……管理出来るのは私しかいないのだから……』
●整地
ソラスとリオンのグラビティフォールが、瞬く間に家屋をひしぎ潰す。
ソフィアが超重練成で巨大化させた機動剣カオスウィースで、柱を切り裂く。
詩がセイクリッドフラッシュで壁を吹き飛ばす。
ルベーノが拳で塀をやすやす壊していく。
全てが終わるまでに一時間もかからなかった。
ニケが手配しておいたのだろう、瓦礫の回収業者がやって来た。大型馬車や魔導トラックの荷台に今出たばかりの瓦礫を積み込んで行く。
ソラスは好奇心から彼らの持ってきた工作アーマーに乗りこんでみた。
しかし、うまく扱えなかった。
「意外としんどいですね……」
解体現場の外側を見ればかつての住民たちが、貧弱な家財道具を傍らに、失われて行く風景を見つめていた。
何となしの罪悪感を抱きつつ機体から降り、そちらへ近づいて行く。
「あの、どなたか機体の操作に詳しい方、手伝っていただけませんか? お代は渡しますので」
1人が立ち上がり、応じてくれた。
「……自分で片付ける方が気が楽だからな」
と寂しげに笑って。
最後にソフィアが起動浄化術で、周辺一帯を浄化していく。
「大サービスですよ」
その間マゴイはと言えば、市民志願者に質問を行っていた。
『……あなたは字を読み書くことが出来る……?……計算は何桁まで出来る……?』
居残っていた50人の鉱夫のうち30人は、慣れた仕事を新天地で見つけようと家族を連れこの地を去り、セル鉱山へ再就職した。
残り20人のうち9人は町長の勧める口へ。
最後の11人がマゴイと契約を結び、保養所建設に携わることとなったのであった。
居座り住民の頑なさを前にしたハンターたちはいったん場を引き下がり、作戦を練るとした。
「土地を買い取った後ですか? マゴイさんにお渡しするんですよ。保養所を作るための用地を探しているとおっしゃっていましたから」
かの名前がここで出てくるとは思わなかった天竜寺 詩(ka0396)は絶句した。
ソラス(ka6581)も驚く。
「……随分な急展開ですね。ニケさん、あの後、マゴイさんとの間でやり取りなどしましたか?」
「まあ、少々」
どうやって住民を立ち退かせるか。そこを一番に考えるエルバッハ・リオン(ka2434)はニケに、提案を行う。
「ニケさん、反対派の引き抜き工作をされてみてはいかがでしょう? 何か取引材料を提供するおつもりはありますか?」
「……立ち退き料を幾らか積み増す位ならしてもいいですが」
話が生臭くなってきたがそれはそれ。ルベーノ・バルバライン(ka6752)は問題の本質のみを見ている。
「……これは正しくマゴイ案件だな」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は朗らかに言う。
「こーいうのも必要なことですからねっ。わたしも商人としての経験はありますし、多少はお手伝い出来るかと」
彼女はグリーク商会による住民への慰撫工作として、家屋の確保、職の斡旋、私品の買い取りなどを提示した。
それについてニケは乗り気でなかった。灰色の視線を町長に向ける。
「退去者の今後について対策を講じるのは、私ではなく彼の仕事ですよ。私はそのためにこそ、十分な費用を渡しているんですけどね」
町長は頭を拭き、しどろもどろに答えた。
「なにぶん急な話でして、手配がなかなか進ませんで、一応住むところは、ひとまず役場の集会場や空き家を利用するということになっておりますのですが……仕事口は……この近辺には働く場所が少なくて……」
どうやらこの町長、気はいいが実務能力がないらしい。
嘆息した詩はニケに聞く。
「もし希望する人がいたら此処の職員として雇えないかな?」
「それは建設予定の保養所で働けないかということですか?」
「うん、そう」
「なら私に言われてもどうしようもありません。マゴイさんが決めることですから」
と言ってニケはソフィアに魔導カメラを渡した。
続けてリオンにネクタイピンのようなものを渡す。
リオンは聞いた。
「これは何ですか?」
「録音機です。工作は二人一組で。必ず現場の写真を撮って、会話を録音するようにしてください」
ソラスがニケに聞く。手回しのいい人だと思いながら。
「退去者をグリーク商会に就職させることは出来ませんか? 再教育の手間はかかるかと思いますが、新航路に合わせて増船するなら人手も必要でしょう?」
ニケはにべもなく答えた。
「私は彼らを商会に就職させる気などありませんよ。人手についてはもう手配していますから」
そこでルベーノが口を挟む。
「ニケ、マゴイと連絡を取ることは出来るか?」
●工作
空き家に連れ込んだ男に対しリオンは、まず謝罪した。
「申し訳ありません。私はグリーク商会のものなのですが、どうしてもお話したいことがありまして……」
「商会だと? 話なんかねえ! 俺たちはここから出て行かねえぞ、帰れ!」
「お怒りはごもっともです。私共も今回の件については、心痛めております」
上目使いに言いながら出て行こうとする相手の腕にすがりつく。わざと胸が当たるように。
「私たちも強硬手段は取りたくありません。今、立ち退きを了解してもらえれば、皆さんにも新たな道を用意することができます。ですから、協力をお願いします」
と、金貨の入った袋を差し出す。険しかった男の表情が急におどおどしたものになった。
前もっての偵察でリオンは知っていた。この男が居座り組の中で最も貧しているということを。
「どうぞお受け取りください」
「こ、こんなもの俺は……」
「私たちはこれから関係者を招き、取り壊しについての説明会を行います。その場で立ち退きへの賛意を表明していただきたいのです。もしそれをしていただけるのでしたら――改めて更なる報酬をお渡しします」
「……」
「もー、クモの巣だらけじゃん」
天井裏の穴から下を覗くソファイアは小声で愚痴り、素早くシャッターを切る。男が金を受け取り懐に入れる瞬間を狙って。
●交渉
ニケから連絡を受けた魔術師協会は、現場にスペットとタモンを派遣してきた。インカム通信機を添えて。
ルベーノはマゴイへ通信機越しの状況説明をした後、こう結んだ。
「彼らをユニオン市民として迎える気はないか」
『……それは、ある……市民が増えるのは歓迎するわ……』
「そうか。ならお前を彼らに引き合わせよう。ただし、今から言う3つの条件を守ってくれ。1つ、ウォッチャーを絶対使わないこと。2つ、試用期間をとり適性を見定めること。3つ、望んでユニオン市民になった者でも望めば離脱を認めること。でなければ、この話は進められない」
しばしの沈黙の後、不審げな声。
『……試用期間を取り適性を見定めることは問題ないとして……ほかの2つは受け入れられない……』
「何故だ?」
『……ユニオンにはウォッチャーが必要……市民の幸福に不可欠なインフラを廃することは認められない』
そのまま話が流れそうになるところを、スペットがフォローする。
「待て待て、そやない、ルベーノが言いたいのはやな、市民化教育にウォッチャーの思考干渉能力を使うなちゅうこっちゃ。ウォッチャー自体を無くせと言うとるのやない」
『……ああ……そう……それなら認めていいわ……』
ウォッチャーがユニオンにおいて当たり前の存在なのだということを、改めて思い知らされる一幕。
文化の違いというのは難しいものだと感じ入りつつ、ソラスが聞く。
「市民からの離脱も認められませんか?」
『認めないというか出来ない……異世界に送るための転送装置がないから……』
詩はこそっとスペットに聞く。
「もしかしてマゴイ、市民離脱=追放とか思ってる……?」
「確実に思っとるな」
そこでニケがちょっといいですか、と断って話に入ってきた。
「マゴイさん、離脱者は異世界に追放しなければならないんですね?」
『法的にそう』
「ではそこは、ハンターオフィスに委託してみては? 彼らは異世界へ人間を転移させる手段を持っています」
ニケの案を聞いたタモンは、飛び上がるほど驚いた。
「待ってください、あれには時間制限が付いていて、それを過ぎたらまた元の世界に戻ってくるんですよ。大体あれは一般人には――」
『適用されない』という彼の言葉を遮るように、ニケは続ける。
「戻ろうが戻るまいが、一度異世界に送ったという事実には変わりないでしょう。なら法的な問題は生じないのでは? そこのところはどうなんです、マゴイさん」
マゴイは考えていた。相当長い時間考えていた。最終的に出てきたのは、次の言葉だった。
『……その事案が発生した場合の正しい対処について法に明文化されていないからどちらとも言えない……』
「明文化されていない? 何故です」
『……転送装置で異世界に送られたものが戻ってこられるはずがないからよ……』
マゴイの声には困惑が滲んでいた。
ルベーノが話を戻す。
「もし彼らがユニオン市民として保養所勤務を望むなら、そういう生産活動はアリかもしれないと思ってな。お前とて、これで一挙に仲間のマゴイやソルジャー、ステイツマンを得られるかもしれん。お前がウォッチャーを使用するなら俺達は全面戦争も辞さんが、そうでないなら……多様性の一助として、共存の道を探りたくもあるのだ」
この時点で一同はマゴイに対し、
1:市民化教育にウォッチャーを使わないこと。
2:試用期間を持つこと。
を確約させた。
途中離脱者についての処遇は、法解釈における今後の検討課題とされた。
●説得
居残り住民を前にしての説明会が、居住区で始まった。
リオン、ソフィアはそれぞれ住民席の両脇に立っている。騒ぎが起きればすぐ鎮圧出来るように。
ルベーノと詩は会場の入り口付近に控え、言葉を交わしていた。
「人は集団生活する生き物だ。人と言う仲間を得ることで、マゴイもこの世界に適応するかもしれん」
「だといいけどね」
ソラスは町長と一緒に、今後のサポートについての説明を行っている。ニケもその場にいるが、事態を静観する構え。スペットは完全に部外者なので何も言いようがない。
「――何かご意見ご要望などがあればこの場でおっしゃってください」
そう言った途端、あちこちから不満の声が上がった。
「決定事項て、わしら抜きで話が進んだことじゃないか!」
「俺たちは最初から鉱山の再建を申し立ててきたんだ! なのに一度もまともな回答がなかった!」
リオンはこそっとハンカチを取り出し振った。
居残り住民の1人が立ち上がり、どもりながら言う。
「なあ、俺らの生活面倒見てくれるって言うなら、立ち退きを考えてみてもいいんじゃねえか?」
「サッコ、お前裏切るのか!」
「いや、裏切るたって、正直この鉱山にゃもう脈がねえし……そんならこの先いくら掘ったって一文にもならねえし……」
「道を変えてみればまた脈が出るかも知れねえ!」
(アホか。出るならこうなってねえよ)
ソフィアは辛辣な思いを笑顔で包み、壇上に移動した。
「あのですね皆さん、いい加減に現実を見て、受け入れてください。もう家屋撤去は決定事項なんですよ? このまま無理に居座るなら強制退去になるんです。援助は一切なしで。そうなればあなたがたはすでに職を失った上に家を失う、我々は手助けが出来ない。双方にとっていいことは一つもないんです」
厳しく決断を促す彼女の後に、ソラスが続ける。
「もしこのままここに住みたいというなら、この跡地に立てられる保養所にもしかして職が得られるかも……」
前ぶれなく彼の近くの空間に、ドアのような切り込みが現れた。
そこをべろんとめくるようにして詰め襟の白ワンピースを着た女が出てくる。
もちろん(多々変り種の)英霊マゴイである。
『……転移成功……』
と言いながらめくれた空間を貼り戻した彼女は、目を丸くする居残り住民たちに言う。
『………それではユニオンについての説明を……』
そこからユニオンの幸福な共同体社会の理念と実践私的所有の否定と胎外生殖の意義についての話が小一時間続いた。
『……というわけで……市民になりたい方はこの場で申し出ていただきたく……』
会場はすっかり静かになっていた。
スペット、ルベーノ、ソラスが適宜注釈を入れはしても、マゴイの話す内容はクリムゾンの社会常識を(リアルブルーもかも知れないが)あまりに越えていたのである。
マゴイと会うのが初めてのソフィアも正直理解が追いつかず、表情が無になる有り様だ。
一人の鉱夫が手を挙げ、聞いた。
「あのー、よ。労働時間6時間週休二日ってことだけどよ、本当にそれで食っていけるか? 俺はこの通り女房とガキが2人いるんだが、養っていけるのか?」
『……あなたが養う必要なんて全然ない……あなた同様その女性も子供もそれぞれ市民としてユニオンから衣食住を保証される……』
詩はマゴイの言葉がなるべく伝わりやすくなるよう、補則を加える。
「家族の絆は否定されるよ。それとただ一人の人を愛する事も認められない。可能性として、自分の恋人や配偶者が別の誰かに抱かれる事も許容しないといけない」
それを聞いて、まあ予想し得たことだが、拒否反応が起きた。
「じょ、冗談じゃねえ。俺はごめんだ」
「自分の女を黙って寝取られろっていうのか。そんなのおかしいだろ」
マゴイはざわつきに向けて言う。
『……今の説明は不十分……自分が他人の恋人や配偶者を抱く可能性について言及していない……そもそも『自分の』女『自分の』男というものはユニオンに存在しない………皆は皆のものであるからして誰とでもしていい……するべき……共同体の安定化のために……』
会場全体が妙な感じに静まってしまった。
詩は咳払いし、仕切り直す。
「私、アマリリス商会って所と関係があるんだけど、そこはセル鉱山って鉱山を持ってるの。鉱山の仕事がしたいなら紹介する事はできるけど」
鉱夫たちはその言葉を聞いて我に返った。
再び場がザワザワし始める。
「その鉱山、どこにあるんだ?」
「フマーレの近くだよ。ただし、もと山賊の人も働いてる。今はすっかり改心してるけど」
「町長、あんたの探してきた口は何だ」
「山ひとつ向こうの製材所と……後は土木関係と、運送馬車の御者が……ただ、どれもここから通うには遠いです」
「……どうする」
「ここにいるのが一番いいんだが、市民って言われてもなあ……」
『……保養所が出来るまでは試用期間だから……市民登録しない……』
「え、そうなのか。じゃあその後、やっぱり市民にならないってことでもいいのか?」
『……いい……でもその場合ここから出て行ってもらう……』
ルベーノはマゴイに言った。
「メインを保養所経営として、何か月か島嶼部出張で良いのではないか」
対して彼女は、首を振る。
『……市民生産機関をそんなに長い間放置出来ない……管理出来るのは私しかいないのだから……』
●整地
ソラスとリオンのグラビティフォールが、瞬く間に家屋をひしぎ潰す。
ソフィアが超重練成で巨大化させた機動剣カオスウィースで、柱を切り裂く。
詩がセイクリッドフラッシュで壁を吹き飛ばす。
ルベーノが拳で塀をやすやす壊していく。
全てが終わるまでに一時間もかからなかった。
ニケが手配しておいたのだろう、瓦礫の回収業者がやって来た。大型馬車や魔導トラックの荷台に今出たばかりの瓦礫を積み込んで行く。
ソラスは好奇心から彼らの持ってきた工作アーマーに乗りこんでみた。
しかし、うまく扱えなかった。
「意外としんどいですね……」
解体現場の外側を見ればかつての住民たちが、貧弱な家財道具を傍らに、失われて行く風景を見つめていた。
何となしの罪悪感を抱きつつ機体から降り、そちらへ近づいて行く。
「あの、どなたか機体の操作に詳しい方、手伝っていただけませんか? お代は渡しますので」
1人が立ち上がり、応じてくれた。
「……自分で片付ける方が気が楽だからな」
と寂しげに笑って。
最後にソフィアが起動浄化術で、周辺一帯を浄化していく。
「大サービスですよ」
その間マゴイはと言えば、市民志願者に質問を行っていた。
『……あなたは字を読み書くことが出来る……?……計算は何桁まで出来る……?』
居残っていた50人の鉱夫のうち30人は、慣れた仕事を新天地で見つけようと家族を連れこの地を去り、セル鉱山へ再就職した。
残り20人のうち9人は町長の勧める口へ。
最後の11人がマゴイと契約を結び、保養所建設に携わることとなったのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
相談場所 ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/12/18 19:38:42 |
||
質問所 ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/12/18 19:34:49 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/17 08:57:40 |