ゲスト
(ka0000)
度胸試しはほどほどに
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/29 15:00
- 完成日
- 2014/12/01 20:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
日が落ちて幾刻が過ぎただろうか。
辺りはしんと静まりかえり、たまに吹く風に揺られた草木の音がやけに響いて聞こえる。草をはむ足音すら、耳元で囁かれているかのようだ。
「ね、ねえ。やっぱり止めにしない?」
でっぷりと太った少年が周囲をきょろきょろと見回しながら言った。その顔は先ほどから血の気が引いて、青ざめている。
「おいおい、もうギブアップか? エドモンド」
応じたのは、松明を持った中肉中背の平凡そうな少年。
「エドモンドは臆病ですからねぇ」
続いて、ひっひと長身の痩せた少年があざ笑った。
「まあまあ、ロメオ。エドモンドだって好きで臆病やってんじゃないんだからよ」
ロメオと呼ばれた長身の少年が引きつったような笑い声を強めた。
「そうですねぇ、ピーノ。あんまり責めてやっては、意地悪というものでしょうか」
二人の嘲笑に、エドモンドと呼ばれた太っちょの少年は怒ったように顔を赤くして、二人の前に出た。
「そ、そんなことないや! ぼ、ぼくが先頭に立ってやる!」
そう言って前に踏み出したエドモンドを、ピーノとロメオがはやし立てる。
「おうおう、かっこいいね、エドモンド!」
「その意気ですよ、エドモンド」
丘の頂上に至る道を、エドモンドを先頭にして、三人は進んでゆく。
程なくして着いたのは、打ち捨てられ、廃れてしまった墓地の跡。
かつては農場を見渡せる恵まれた風景にあった墓地も、現在はぼろっちい木の柵で申し訳程度に囲まれているくらいだ。
手入れのされなくなった墓石は、そこここが欠け落ち、中には真っ二つに割れ地面に倒れているものや、雑草に覆われて見えなくなってしまっているものもある。
草木はてんでばらばらに散りばめられ、放棄されて久しい無情さを匂わせていた。
「ひゅ~。想像以上にやばそうな雰囲気だな」
ピーノの声色は、愉快そうなの半分、にわかにもたげてきた恐怖ゆえのが半分だった。
「そ、そうですねぇ。これは、なんとも……」
ロメオもさすがに怖くなってきたのか、常日頃から青紫の色をした唇を一層曇らせていた。
エドモンドに至っては、先ほどの威勢もどこへやら、言葉をつむぐ余裕すら無く明らかにガタガタと膝が震えている。
『度胸試し』――それが今三人がこうして、わざわざこんな薄気味の悪い場所へやってきた理由だ。
町から一キロほど離れた旧墓地で、一人ずつ一番奥にある墓石を削って欠片を入手してくる。それが三人の定めたルールだった。
けれど――。
「なあなあ、やっぱり一人ずつっていうのは止めて、三人で行かないか?」
「それがいいですねぇ。うん、そうです」
エドモンドに意見を言う余裕は欠片もない。
ピーノとロメオの二人の言葉により、三人は墓地の中へと足を進める。
先頭は変わらずエドモンド。ピーノとロメオの二人はエドモンドを半ば後ろから押し出すようにして、無言で前に進む。三人とも恐怖で口が固まってきていた。
木枯らしが通り抜ける。ぶるっと体が震えたのはきっとそのせいだろう。
ふと、何か物音のようなものがして、ピーノとロメオは後ろを振り返った。
ピーノは松明を掲げて、何とか先を見通そうとする。
そして――、地面が何やらぼこりと浮き上がろうとしているのが見えた。
ごくりと喉が鳴る。
一体何が――。
二人の見つめる先に、それは頭をのぞかせた。
地面から現れたのは、明らかに人と分かる骸骨の成れの果て。
「うわあああああああああああああああああ」
ピーノとロメオは絶叫を上げて、来た道を全力で引き返した。途中地面からのぞいた骸骨の頭を蹴り飛ばしてしまったのにも気づかないほどに、無我夢中の走りだった。
だが、恐怖と焦燥に駆られた足は思うように動いてくれない。
夜空を飾る三日月の下、二人はもつれるように丘を転げ落ちると、町へとたどり着いた頃には息絶え絶えになっていた。
どうやら骸骨は追っかけてきてはいないようだった。
「な、なんだよ、あれ。やべえってもんじゃねえぞ……」
息を切らせながら呟くピーノに、ロメオも無言でうなずく。
体力の乏しいロメオには、もう喋る気力さえ残っていなかった。
そして、二人は気付いた。
「あ、あれ? エドモンドは……?」
辺りはしんと静まりかえり、たまに吹く風に揺られた草木の音がやけに響いて聞こえる。草をはむ足音すら、耳元で囁かれているかのようだ。
「ね、ねえ。やっぱり止めにしない?」
でっぷりと太った少年が周囲をきょろきょろと見回しながら言った。その顔は先ほどから血の気が引いて、青ざめている。
「おいおい、もうギブアップか? エドモンド」
応じたのは、松明を持った中肉中背の平凡そうな少年。
「エドモンドは臆病ですからねぇ」
続いて、ひっひと長身の痩せた少年があざ笑った。
「まあまあ、ロメオ。エドモンドだって好きで臆病やってんじゃないんだからよ」
ロメオと呼ばれた長身の少年が引きつったような笑い声を強めた。
「そうですねぇ、ピーノ。あんまり責めてやっては、意地悪というものでしょうか」
二人の嘲笑に、エドモンドと呼ばれた太っちょの少年は怒ったように顔を赤くして、二人の前に出た。
「そ、そんなことないや! ぼ、ぼくが先頭に立ってやる!」
そう言って前に踏み出したエドモンドを、ピーノとロメオがはやし立てる。
「おうおう、かっこいいね、エドモンド!」
「その意気ですよ、エドモンド」
丘の頂上に至る道を、エドモンドを先頭にして、三人は進んでゆく。
程なくして着いたのは、打ち捨てられ、廃れてしまった墓地の跡。
かつては農場を見渡せる恵まれた風景にあった墓地も、現在はぼろっちい木の柵で申し訳程度に囲まれているくらいだ。
手入れのされなくなった墓石は、そこここが欠け落ち、中には真っ二つに割れ地面に倒れているものや、雑草に覆われて見えなくなってしまっているものもある。
草木はてんでばらばらに散りばめられ、放棄されて久しい無情さを匂わせていた。
「ひゅ~。想像以上にやばそうな雰囲気だな」
ピーノの声色は、愉快そうなの半分、にわかにもたげてきた恐怖ゆえのが半分だった。
「そ、そうですねぇ。これは、なんとも……」
ロメオもさすがに怖くなってきたのか、常日頃から青紫の色をした唇を一層曇らせていた。
エドモンドに至っては、先ほどの威勢もどこへやら、言葉をつむぐ余裕すら無く明らかにガタガタと膝が震えている。
『度胸試し』――それが今三人がこうして、わざわざこんな薄気味の悪い場所へやってきた理由だ。
町から一キロほど離れた旧墓地で、一人ずつ一番奥にある墓石を削って欠片を入手してくる。それが三人の定めたルールだった。
けれど――。
「なあなあ、やっぱり一人ずつっていうのは止めて、三人で行かないか?」
「それがいいですねぇ。うん、そうです」
エドモンドに意見を言う余裕は欠片もない。
ピーノとロメオの二人の言葉により、三人は墓地の中へと足を進める。
先頭は変わらずエドモンド。ピーノとロメオの二人はエドモンドを半ば後ろから押し出すようにして、無言で前に進む。三人とも恐怖で口が固まってきていた。
木枯らしが通り抜ける。ぶるっと体が震えたのはきっとそのせいだろう。
ふと、何か物音のようなものがして、ピーノとロメオは後ろを振り返った。
ピーノは松明を掲げて、何とか先を見通そうとする。
そして――、地面が何やらぼこりと浮き上がろうとしているのが見えた。
ごくりと喉が鳴る。
一体何が――。
二人の見つめる先に、それは頭をのぞかせた。
地面から現れたのは、明らかに人と分かる骸骨の成れの果て。
「うわあああああああああああああああああ」
ピーノとロメオは絶叫を上げて、来た道を全力で引き返した。途中地面からのぞいた骸骨の頭を蹴り飛ばしてしまったのにも気づかないほどに、無我夢中の走りだった。
だが、恐怖と焦燥に駆られた足は思うように動いてくれない。
夜空を飾る三日月の下、二人はもつれるように丘を転げ落ちると、町へとたどり着いた頃には息絶え絶えになっていた。
どうやら骸骨は追っかけてきてはいないようだった。
「な、なんだよ、あれ。やべえってもんじゃねえぞ……」
息を切らせながら呟くピーノに、ロメオも無言でうなずく。
体力の乏しいロメオには、もう喋る気力さえ残っていなかった。
そして、二人は気付いた。
「あ、あれ? エドモンドは……?」
リプレイ本文
●
「墓地の様子? 暗くて分からないよ。そんなに奥に行く前に引き返したと思うけど……」
少年二人から状況の手がかりになるものはないかと聞こうとした一行に、ピーノは心もとなげに答えた。
つい先ほど体験したばかりの恐怖のためか、取り残された友人への焦りのためか、二人の瞳には、まだ怯えとも焦りともとれる色彩が強く残っている。
フェリア(ka2870)は手早くエドモンドなる少年の人相や特徴を聞き出すと、
「話は分かったわ」と事務的に言って、ハンターオフィスを出ていく。今は時間が惜しかった。
それに倣うように皆も続き、最後に残ったミィナ・アレグトーリア(ka0317)が、不安そうなピーノとロメオを見つめた。
「助ける為にうちらが来たんよ。頑張るから祈ってて欲しいのん」と真剣な表情から一転してにこっと笑いかけると、ピーノとロメオの瞳にかすかに光がさしたようだった。
●
愛馬のエルカイトに跨り急行するフェリアに並走して、ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は馬をとばす。闇夜の中というのに、その手綱さばきは見事なものだ。
子供の命が危ないとあらば、おちおちとゆっくりなどしていられない。元騎士としても、守るべき対象である民子の救出に否やは無い。
「墓地かぁ……。幽霊とか……実は苦手なんだけど、がんばるぞっ」と、自身を奮い立たせるリンカ・エルネージュ(ka1840)。少年らのやんちゃさにも、どこか共感を抱かないでもなく、子供のピンチと聞いて衝動的に引き受けた依頼だが、苦手なものは苦手なのだ。
少し遅れて、町から馬を借りた十色 エニア(ka0370)と喜屋武・D・トーマス(ka3424)、アーシュラ・クリオール(ka0226)、ヤナギ・エリューナク(ka0265)、そしてミィナと続いた。
「肝試しって……男の子って本当に馬鹿」
アーシュラが、つとに冷えてきた風に顔を顰めて呟く。
しょうがないから助けには行くけど、無謀と勇気の区別が分かるようになってほしいものだ。
「まあ、子供だしね。でも……ちょっと面白そうだね」
とエニアが性別不詳の笑みを浮かべると、
「俺もイイと思うゼ。度胸試し、結構じゃねーか」
と、ヤナギもにやりと口元を僅かに歪めた。
「もう……。きみもそう思うの?」とアーシュラに話を振られたトーマスは、何かを答えようとして、だが口を噤んだ。
トーマスは夜の墓地で度胸試しに興じた少年たちに、子供らしさを感じつつも半ば呆れていた。ここはリアルブルーでは無い。向こうなら安全なことでも、この世界ではそうとは限らないことを、転移以来、ひしひしと感じていたからだ。
まだハンター歴が浅いとはいえ、この世界の厳しさは承知しているつもりだ。
「ともあれ……その話は、子供を助けてからにしましょうか」
口に出してはそう答え、トーマスは手綱を持つかじかみそうな手に力をこめた。
●
墓地に程近い場所で馬を止めた一行は馬から降り、時間を気にしつつも、敵を引き付ける組と少年を保護する組とに別れることにして、簡単な作戦を決める。まだ町を出てから五分とたっていない。
「私は騎乗したまま墓地に突入して敵の注意を引こう。幸い、我々には魔術師が多い。十分な援護がもらえれば、戦線を維持することも可能だろう。突破させないよう注意しよう」
ユルゲンスが自慢のディバインランスを掲げて、勇壮な兜の下に光る瞳に力を宿した。
「うちも引き付け役をやりたいのん。スケルトンさんを引き付けちゃうよ~」
ミィナが立候補すると、「私も光源の確保とスケルトンへの対応に回るわ。少年の方は任せるわね」とトーマスが顔を引き締める。
「あたしもスケルトンの方にしようかな。ただ、引き寄せた敵が男の子と遭遇しないように注意しようね」
アーシュラは腰ほどもある長い金髪をばさりと払う。
「俺も当然スケルトン側だ。戦いが無いんじゃ、つまんねェからな」
飄々と言うヤナギに戸惑いつつも、フェリアはエニアとリンカを見る。
「なら、私たちで子供を保護しようかしら」
「そだね! 保護したら、私が先に少年を町まで連れて帰るね!」
元気の良いリンカに、エニアは相変わらずだなと苦笑した。
「エニアさんもいいかしら?」
「うん。わたしは勝手に合わせるから、気にしなくていいよ?」との言葉に、フェリアは優雅に首肯する。
「さあ、参ろうか!」
ユルゲンスの言葉に一同は大きく頷いて見せた。
●
スケルトンに見つからぬよう、そっと墓地に近づく。
墓地は奇妙なほどに静まり返っている。
人の手が久しく入っていない墓地は、背丈の低い草木が生え放題で、所々身の丈ほどもある墓石もあってか、視界が悪い。
エドモンドはまだ無事なのか。それを確認しようにも、この静けさと暗闇では下手な動きはできない。
ユルゲンスとヤナギを先頭に進み、後衛組が配置につくのを見計らって、アーシュラが二人に攻性強化をかける。それを待って、躊躇いを見せる馬を叱咤して、ユルゲンスが一気に墓地に突撃した。
軽快な鎧の音を蹄とともに繰り出して中央付近まで進出したユルゲンスが、一旦馬をとめて大声を張り上げる。
「姿を見せよ雑魔共! 我が槍を恐れぬのならば掛かってくるがいい!」
墓地のそこここから何かが蠢く音がしてくるのに合わせて、ユルゲンスと後衛組との丁度中間辺りに陣取ったアーシュラが、ランタンの代わりに肩に固定したLEDライトでユルゲンスを照らし出す。トーマスはリトルファイアで光源を作り、ミィナがそれを利用してたいまつに火を灯し、土がむき出しになっている地面に突き刺す。
暗がりから現れた二体のスケルトンがユルゲンスに襲いかかったのを切っかけに、けたたましい戦闘の音が墓地に鳴り響いた。
明かりが墓地の入口から中央付近にかけて照らし出すのを見て、シェリア達保護組も木の柵を乗り越えて墓地へと密かに侵入する。
リンカが地面に向けて、あまり光が散らないようにLEDライトをつける。
「ねぇ、エド君いるー? 助けに来たから出ておいでー」
リンカは小さく声を抑えつつも、なるべく遠くまで聞こえるように細く長く語りかける。
が、応えは無い。
そのとき、ライトの明かりかリンカの声に反応したのか、何かががさっと動くのが聞こえた。
エニアの背に九つの羽のような形のオーラが一瞬顕現し、ウィンドガストを自身に唱えたのと同じくして、フェリアの長い銀髪が淡く輝いて、髪と同色に煌めく翼が幻影として表れる。
音のした方にライトを向けたリンカの目に、猛然と走りくるスケルトンの姿が映った。
だが、スケルトンの疾走はフェリアの魔法によって阻止される。
「死を冒涜せし者よ。あるべき場所へと帰りなさい!」
鋭い風の刃がスケルトン目がけて放たれた。体中に傷が刻まれ、左肘から先が吹っ飛んだスケルトンに対して、フェリアは杖を振り上げ、眉を立てながら朗々と告げた。
エニアはリトルファイアにて光源を作り、敵を引き付ける。
「エドくーーん! どこーー!?」
事ここに至っては、音量を気にするよりもエドモンドの保護を優先すべきと判断したリンカは、自身も覚醒し声の限りにエドモンドを呼んだ。
「だ、だれ?」
それが功を奏したのか、そのかすれたような声は思いの外近くから聞こえた。
リンカが照らしていた墓石の裏でうずくまり、目を閉じ耳を塞いで震えていたエドモンドが、恐る恐る明かりに顔をのぞかせた。その背後から迫るスケルトンの姿と一緒に――。
リンカが駆けだすよりも早く、エニアの水球がエドモンドの頬をかすめて背後のスケルトンを吹き飛ばし、墓石に叩きつける。
「リンカさん、今のうちに」
「ありがとっ!」
リンカはエドモンドの傍に駆け寄ると、少しでも動きやすいようにとウィンドガストをかけてやる。
「もう大丈夫だからね!」
リンカの言葉に、明らかにエドモンドの顔が弛緩する。
「泣くのはまだ早いよ! ほら立って、走る!」
フェリアが相対していたスケルトンを得意のファイアアローにて粉砕し、周囲に気を配りながらすり足で二人の下へ。
「私が援護するから、あなたにはこのまま少年を町までお願いするわね」
エニアはエドモンドの体中にあった細かな擦り傷を軽く応急手当し、
「少し、不安があるけど……送るのは任せるね」とリンカに信頼を寄せた。
リンカは頷き、エドモンドを促して背後に注意を払いながら馬まで走らせる。
太ったエドモンドの足は遅く、エニアとフェリアは追いすがるスケルトンの足止めに全力を傾けた。
仲間の援護のお陰で追手がいないのを確認し、リンカはエドモンドを元気づけながら町まで急いだ。早く仲間の下へ戻るために――。
●
墓地の中央では、今まさに戦いが始まろうとしていた。
「我が槍の一撃をくらえ!」
馬を駆り、馬上からユルゲンスが強打を見舞う。迫りくるスケルトン二体の内、一体が衝撃に大きくのけぞった。手綱を捌いて反転しようとしたユルゲンスに、もう一体のスケルトンが走り寄り剣を振りかぶる。
「させないよ」
アルケミストタクトから放出した一条の光が、剣をふりかぶったスケルトンを貫く。が、敵は倒れることもなく健在だ。
「おいおい、頼むゼ?」
いつのまに移動していたのか、スケルトンの白い体に赤い髪が踊り、ヤナギの狙いすました一閃が肩の骨を断ち切った。
「あーごめんごめん。やっぱりこっちの方が確実かな」
アーシュラはモーニングスターに持ち替え、ヤナギの攻撃にて地面に倒れ、右腕を失ったスケルトン相手に思い切り振り下ろすと、敵は蒸発するように無に帰した。
中央付近で戦闘を行う三人を尻目に、入口側に陣取っていたミィナとトーマスの下にも、一体のスケルトンが現れていた。
背後から至近に現れたスケルトンに、ミィナとトーマスの二人は驚き、だがすぐさま心を整え武器を構えた。
こん棒を持ったスケルトンのぎこちない一撃をトーマスがナイフで受ける。
ぎりぎりと押し込んでくるこん棒を何とか力ではねのけると、
「トーマスさん、下がるのん!」というミィナの声に、大きく後ろに跳躍して身を低くした。
すかさず、光り輝く一本の矢がスケルトンの足元を打ち崩す。
生まれたばかりのためなのか、今一足元の覚束ない敵であったのが運が良かった。
「ゼファーの風で切り裂かれなさい!」
衝撃に倒れたスケルトンを、遅滞なくトーマスのウィンドスラッシュが消滅させた。
トーマスの強張っていた顔が幾分和らぎを見せた。ゼファーの使い心地も悪くない。手に取るように馴染んでいる。
落ち着く間もなく、また新たなスケルトンが遠くからやってくるのを見て、身体を包み込む白梟のような翼に、額にサークレットのような紋様を発光させたミィナが叫ぶ。
「スケルトンさん、うちらのが甘いよ~!」
今日ばかりは、目立つのが仕事だ。覚醒時の発光も抑える必要はない。
「さぁ、残さず倒すわよ!」
トーマスの掛け声に、ミィナは翼をはためかせて応えた。
反転し、再び突撃をして重い一撃をくらわせたユルゲンスは、消滅した敵に目もくれず油断なく辺りを見渡し、ミィナらを襲おうとしているスケルトンへと馬首をめぐらせた。
新たに沸いた敵に向かうヤナギを、アーシュラが補佐しようと走る。
少年の保護組はどうなったか――。五人の胸中に答える応えは、暫くして届けられた。
●
リンカらの離脱を確認したフェリアとエニアが明かりを目指し、墓地を横断して合流したときには、戦闘は終わり、倒したスケルトンの数は八体にも及んでいた。
「おーい、大丈夫ー?」
エニアのマイペースな声に、煌々と明かりを焚き周囲を警戒していた五人の空気に緩みが見えた。
「スケルトンは?」
フェリアの問いに、アーシュラが答える。
「八体倒したけど、もういなさそうだね」
「こっちも三体倒したから、全部で十一体か。思ったより多かったのかな? まあ、得体の知れない敵じゃなくて良かったよ」
「念のため、一回りしてから戻ろうか」
ユルゲンスの進言通り、一通り墓地を見て回り、これ以上スケルトンが沸く気配が無いのを確認してから、七人は馬の下へと戻る。
さて町へ帰ろうかと騎乗したところで、町から馬で駆けてきたリンカがびっくりしたように皆を見た。
「まさか……」
皆が無言で頷くのを見て、リンカは汗に濡れた銀髪をたなびかせ、夜空を仰ぐ。
「私なんにも戦ってないよーー!!」
子供の保護も立派な仕事の一つだよ、とアーシュラが慰めるようにリンカの肩を叩いた。
●
ハンターオフィスに戻った一行の前に、ピーノ、エドモンド、ロメオの三人が立つ。三人の頭には、見るからに大きな瘤ができていた。
それを見て、頬を引っぱたこうとしていたフェリアは思いとどまった。
「少年よ、恐れぬ心は大事なものだが、顧みる勇気はもっと大切なものなのだぞ?」
威厳たっぷりのユルゲンスの風体に、少年三人は罰が悪そうに俯いた。
不意に髪に触れる感触を感じ顔を上げると、フェリアがもう仕方ないといった感じで少年らの頭を優しく撫でていた。
「……良かったわね。怖かったでしょう」
「叱られるんは、君たちが大切だから。その裏返しなのん。あんまりおとーちゃんおかーちゃんを困らせたらあかんのよ~」とミィナに励まされ、フェリアの穏やかな声音と手のひらの感触に、エドモンドは涙を滲ませた。リンカはうんうんと頷き、その光景を見守っていた。
「あんたらが、エドを助けてくれたっていうハンターか?」
いかつい顔をした大男が突然脇から進み出る。ミィナはびっくりしながらも、こくこくと肯定した。
すると、大男は突然頭を深く下げた。
「すまん。このバカどものせいで迷惑かけた。然るべき礼はさせてもらうから安心してくれ」
「ま、その子たちには勇敢と勇気を教えてやってくれればいいよ」
アーシュラの青い瞳に見つめられ、少年三人は背筋をぴんと伸ばす。
「そう言ってもらえるとありがたい。こんなんでも、一応俺の息子なんでな。命を救ってくれてありがとう」
大男は改めてハンターたちに頭を下げた。
依頼を終え、ハンターらは次々とオフィスから出ていく。
トーマスは外に出る間際に、見送りをする少年らの前で立ち止まった。
「勇敢も無謀も、臆病も慎重も、表裏一体なの。それが解るまでは、ちゃんと大人の言う事は聞いたほうがいいわよ?」
にっこりと笑うトーマスの笑みに、三人は怖気づきつつ首を縦に振る。
「なんだかんだと言え、即座に人に頼ったのも、無理して暴走しなかったのも正解だったよ。クッキーでも食べて元気出して、ね」
そう言ってエニアが差し出した自作のクッキーを、ようやく笑みの戻った三人は嬉しそうに受け取った。
帰り道、リンカが道端で花を探している光景を町人の何人かが見たという。
荒れた墓にせめてもの手向けを、と――。
「墓地の様子? 暗くて分からないよ。そんなに奥に行く前に引き返したと思うけど……」
少年二人から状況の手がかりになるものはないかと聞こうとした一行に、ピーノは心もとなげに答えた。
つい先ほど体験したばかりの恐怖のためか、取り残された友人への焦りのためか、二人の瞳には、まだ怯えとも焦りともとれる色彩が強く残っている。
フェリア(ka2870)は手早くエドモンドなる少年の人相や特徴を聞き出すと、
「話は分かったわ」と事務的に言って、ハンターオフィスを出ていく。今は時間が惜しかった。
それに倣うように皆も続き、最後に残ったミィナ・アレグトーリア(ka0317)が、不安そうなピーノとロメオを見つめた。
「助ける為にうちらが来たんよ。頑張るから祈ってて欲しいのん」と真剣な表情から一転してにこっと笑いかけると、ピーノとロメオの瞳にかすかに光がさしたようだった。
●
愛馬のエルカイトに跨り急行するフェリアに並走して、ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は馬をとばす。闇夜の中というのに、その手綱さばきは見事なものだ。
子供の命が危ないとあらば、おちおちとゆっくりなどしていられない。元騎士としても、守るべき対象である民子の救出に否やは無い。
「墓地かぁ……。幽霊とか……実は苦手なんだけど、がんばるぞっ」と、自身を奮い立たせるリンカ・エルネージュ(ka1840)。少年らのやんちゃさにも、どこか共感を抱かないでもなく、子供のピンチと聞いて衝動的に引き受けた依頼だが、苦手なものは苦手なのだ。
少し遅れて、町から馬を借りた十色 エニア(ka0370)と喜屋武・D・トーマス(ka3424)、アーシュラ・クリオール(ka0226)、ヤナギ・エリューナク(ka0265)、そしてミィナと続いた。
「肝試しって……男の子って本当に馬鹿」
アーシュラが、つとに冷えてきた風に顔を顰めて呟く。
しょうがないから助けには行くけど、無謀と勇気の区別が分かるようになってほしいものだ。
「まあ、子供だしね。でも……ちょっと面白そうだね」
とエニアが性別不詳の笑みを浮かべると、
「俺もイイと思うゼ。度胸試し、結構じゃねーか」
と、ヤナギもにやりと口元を僅かに歪めた。
「もう……。きみもそう思うの?」とアーシュラに話を振られたトーマスは、何かを答えようとして、だが口を噤んだ。
トーマスは夜の墓地で度胸試しに興じた少年たちに、子供らしさを感じつつも半ば呆れていた。ここはリアルブルーでは無い。向こうなら安全なことでも、この世界ではそうとは限らないことを、転移以来、ひしひしと感じていたからだ。
まだハンター歴が浅いとはいえ、この世界の厳しさは承知しているつもりだ。
「ともあれ……その話は、子供を助けてからにしましょうか」
口に出してはそう答え、トーマスは手綱を持つかじかみそうな手に力をこめた。
●
墓地に程近い場所で馬を止めた一行は馬から降り、時間を気にしつつも、敵を引き付ける組と少年を保護する組とに別れることにして、簡単な作戦を決める。まだ町を出てから五分とたっていない。
「私は騎乗したまま墓地に突入して敵の注意を引こう。幸い、我々には魔術師が多い。十分な援護がもらえれば、戦線を維持することも可能だろう。突破させないよう注意しよう」
ユルゲンスが自慢のディバインランスを掲げて、勇壮な兜の下に光る瞳に力を宿した。
「うちも引き付け役をやりたいのん。スケルトンさんを引き付けちゃうよ~」
ミィナが立候補すると、「私も光源の確保とスケルトンへの対応に回るわ。少年の方は任せるわね」とトーマスが顔を引き締める。
「あたしもスケルトンの方にしようかな。ただ、引き寄せた敵が男の子と遭遇しないように注意しようね」
アーシュラは腰ほどもある長い金髪をばさりと払う。
「俺も当然スケルトン側だ。戦いが無いんじゃ、つまんねェからな」
飄々と言うヤナギに戸惑いつつも、フェリアはエニアとリンカを見る。
「なら、私たちで子供を保護しようかしら」
「そだね! 保護したら、私が先に少年を町まで連れて帰るね!」
元気の良いリンカに、エニアは相変わらずだなと苦笑した。
「エニアさんもいいかしら?」
「うん。わたしは勝手に合わせるから、気にしなくていいよ?」との言葉に、フェリアは優雅に首肯する。
「さあ、参ろうか!」
ユルゲンスの言葉に一同は大きく頷いて見せた。
●
スケルトンに見つからぬよう、そっと墓地に近づく。
墓地は奇妙なほどに静まり返っている。
人の手が久しく入っていない墓地は、背丈の低い草木が生え放題で、所々身の丈ほどもある墓石もあってか、視界が悪い。
エドモンドはまだ無事なのか。それを確認しようにも、この静けさと暗闇では下手な動きはできない。
ユルゲンスとヤナギを先頭に進み、後衛組が配置につくのを見計らって、アーシュラが二人に攻性強化をかける。それを待って、躊躇いを見せる馬を叱咤して、ユルゲンスが一気に墓地に突撃した。
軽快な鎧の音を蹄とともに繰り出して中央付近まで進出したユルゲンスが、一旦馬をとめて大声を張り上げる。
「姿を見せよ雑魔共! 我が槍を恐れぬのならば掛かってくるがいい!」
墓地のそこここから何かが蠢く音がしてくるのに合わせて、ユルゲンスと後衛組との丁度中間辺りに陣取ったアーシュラが、ランタンの代わりに肩に固定したLEDライトでユルゲンスを照らし出す。トーマスはリトルファイアで光源を作り、ミィナがそれを利用してたいまつに火を灯し、土がむき出しになっている地面に突き刺す。
暗がりから現れた二体のスケルトンがユルゲンスに襲いかかったのを切っかけに、けたたましい戦闘の音が墓地に鳴り響いた。
明かりが墓地の入口から中央付近にかけて照らし出すのを見て、シェリア達保護組も木の柵を乗り越えて墓地へと密かに侵入する。
リンカが地面に向けて、あまり光が散らないようにLEDライトをつける。
「ねぇ、エド君いるー? 助けに来たから出ておいでー」
リンカは小さく声を抑えつつも、なるべく遠くまで聞こえるように細く長く語りかける。
が、応えは無い。
そのとき、ライトの明かりかリンカの声に反応したのか、何かががさっと動くのが聞こえた。
エニアの背に九つの羽のような形のオーラが一瞬顕現し、ウィンドガストを自身に唱えたのと同じくして、フェリアの長い銀髪が淡く輝いて、髪と同色に煌めく翼が幻影として表れる。
音のした方にライトを向けたリンカの目に、猛然と走りくるスケルトンの姿が映った。
だが、スケルトンの疾走はフェリアの魔法によって阻止される。
「死を冒涜せし者よ。あるべき場所へと帰りなさい!」
鋭い風の刃がスケルトン目がけて放たれた。体中に傷が刻まれ、左肘から先が吹っ飛んだスケルトンに対して、フェリアは杖を振り上げ、眉を立てながら朗々と告げた。
エニアはリトルファイアにて光源を作り、敵を引き付ける。
「エドくーーん! どこーー!?」
事ここに至っては、音量を気にするよりもエドモンドの保護を優先すべきと判断したリンカは、自身も覚醒し声の限りにエドモンドを呼んだ。
「だ、だれ?」
それが功を奏したのか、そのかすれたような声は思いの外近くから聞こえた。
リンカが照らしていた墓石の裏でうずくまり、目を閉じ耳を塞いで震えていたエドモンドが、恐る恐る明かりに顔をのぞかせた。その背後から迫るスケルトンの姿と一緒に――。
リンカが駆けだすよりも早く、エニアの水球がエドモンドの頬をかすめて背後のスケルトンを吹き飛ばし、墓石に叩きつける。
「リンカさん、今のうちに」
「ありがとっ!」
リンカはエドモンドの傍に駆け寄ると、少しでも動きやすいようにとウィンドガストをかけてやる。
「もう大丈夫だからね!」
リンカの言葉に、明らかにエドモンドの顔が弛緩する。
「泣くのはまだ早いよ! ほら立って、走る!」
フェリアが相対していたスケルトンを得意のファイアアローにて粉砕し、周囲に気を配りながらすり足で二人の下へ。
「私が援護するから、あなたにはこのまま少年を町までお願いするわね」
エニアはエドモンドの体中にあった細かな擦り傷を軽く応急手当し、
「少し、不安があるけど……送るのは任せるね」とリンカに信頼を寄せた。
リンカは頷き、エドモンドを促して背後に注意を払いながら馬まで走らせる。
太ったエドモンドの足は遅く、エニアとフェリアは追いすがるスケルトンの足止めに全力を傾けた。
仲間の援護のお陰で追手がいないのを確認し、リンカはエドモンドを元気づけながら町まで急いだ。早く仲間の下へ戻るために――。
●
墓地の中央では、今まさに戦いが始まろうとしていた。
「我が槍の一撃をくらえ!」
馬を駆り、馬上からユルゲンスが強打を見舞う。迫りくるスケルトン二体の内、一体が衝撃に大きくのけぞった。手綱を捌いて反転しようとしたユルゲンスに、もう一体のスケルトンが走り寄り剣を振りかぶる。
「させないよ」
アルケミストタクトから放出した一条の光が、剣をふりかぶったスケルトンを貫く。が、敵は倒れることもなく健在だ。
「おいおい、頼むゼ?」
いつのまに移動していたのか、スケルトンの白い体に赤い髪が踊り、ヤナギの狙いすました一閃が肩の骨を断ち切った。
「あーごめんごめん。やっぱりこっちの方が確実かな」
アーシュラはモーニングスターに持ち替え、ヤナギの攻撃にて地面に倒れ、右腕を失ったスケルトン相手に思い切り振り下ろすと、敵は蒸発するように無に帰した。
中央付近で戦闘を行う三人を尻目に、入口側に陣取っていたミィナとトーマスの下にも、一体のスケルトンが現れていた。
背後から至近に現れたスケルトンに、ミィナとトーマスの二人は驚き、だがすぐさま心を整え武器を構えた。
こん棒を持ったスケルトンのぎこちない一撃をトーマスがナイフで受ける。
ぎりぎりと押し込んでくるこん棒を何とか力ではねのけると、
「トーマスさん、下がるのん!」というミィナの声に、大きく後ろに跳躍して身を低くした。
すかさず、光り輝く一本の矢がスケルトンの足元を打ち崩す。
生まれたばかりのためなのか、今一足元の覚束ない敵であったのが運が良かった。
「ゼファーの風で切り裂かれなさい!」
衝撃に倒れたスケルトンを、遅滞なくトーマスのウィンドスラッシュが消滅させた。
トーマスの強張っていた顔が幾分和らぎを見せた。ゼファーの使い心地も悪くない。手に取るように馴染んでいる。
落ち着く間もなく、また新たなスケルトンが遠くからやってくるのを見て、身体を包み込む白梟のような翼に、額にサークレットのような紋様を発光させたミィナが叫ぶ。
「スケルトンさん、うちらのが甘いよ~!」
今日ばかりは、目立つのが仕事だ。覚醒時の発光も抑える必要はない。
「さぁ、残さず倒すわよ!」
トーマスの掛け声に、ミィナは翼をはためかせて応えた。
反転し、再び突撃をして重い一撃をくらわせたユルゲンスは、消滅した敵に目もくれず油断なく辺りを見渡し、ミィナらを襲おうとしているスケルトンへと馬首をめぐらせた。
新たに沸いた敵に向かうヤナギを、アーシュラが補佐しようと走る。
少年の保護組はどうなったか――。五人の胸中に答える応えは、暫くして届けられた。
●
リンカらの離脱を確認したフェリアとエニアが明かりを目指し、墓地を横断して合流したときには、戦闘は終わり、倒したスケルトンの数は八体にも及んでいた。
「おーい、大丈夫ー?」
エニアのマイペースな声に、煌々と明かりを焚き周囲を警戒していた五人の空気に緩みが見えた。
「スケルトンは?」
フェリアの問いに、アーシュラが答える。
「八体倒したけど、もういなさそうだね」
「こっちも三体倒したから、全部で十一体か。思ったより多かったのかな? まあ、得体の知れない敵じゃなくて良かったよ」
「念のため、一回りしてから戻ろうか」
ユルゲンスの進言通り、一通り墓地を見て回り、これ以上スケルトンが沸く気配が無いのを確認してから、七人は馬の下へと戻る。
さて町へ帰ろうかと騎乗したところで、町から馬で駆けてきたリンカがびっくりしたように皆を見た。
「まさか……」
皆が無言で頷くのを見て、リンカは汗に濡れた銀髪をたなびかせ、夜空を仰ぐ。
「私なんにも戦ってないよーー!!」
子供の保護も立派な仕事の一つだよ、とアーシュラが慰めるようにリンカの肩を叩いた。
●
ハンターオフィスに戻った一行の前に、ピーノ、エドモンド、ロメオの三人が立つ。三人の頭には、見るからに大きな瘤ができていた。
それを見て、頬を引っぱたこうとしていたフェリアは思いとどまった。
「少年よ、恐れぬ心は大事なものだが、顧みる勇気はもっと大切なものなのだぞ?」
威厳たっぷりのユルゲンスの風体に、少年三人は罰が悪そうに俯いた。
不意に髪に触れる感触を感じ顔を上げると、フェリアがもう仕方ないといった感じで少年らの頭を優しく撫でていた。
「……良かったわね。怖かったでしょう」
「叱られるんは、君たちが大切だから。その裏返しなのん。あんまりおとーちゃんおかーちゃんを困らせたらあかんのよ~」とミィナに励まされ、フェリアの穏やかな声音と手のひらの感触に、エドモンドは涙を滲ませた。リンカはうんうんと頷き、その光景を見守っていた。
「あんたらが、エドを助けてくれたっていうハンターか?」
いかつい顔をした大男が突然脇から進み出る。ミィナはびっくりしながらも、こくこくと肯定した。
すると、大男は突然頭を深く下げた。
「すまん。このバカどものせいで迷惑かけた。然るべき礼はさせてもらうから安心してくれ」
「ま、その子たちには勇敢と勇気を教えてやってくれればいいよ」
アーシュラの青い瞳に見つめられ、少年三人は背筋をぴんと伸ばす。
「そう言ってもらえるとありがたい。こんなんでも、一応俺の息子なんでな。命を救ってくれてありがとう」
大男は改めてハンターたちに頭を下げた。
依頼を終え、ハンターらは次々とオフィスから出ていく。
トーマスは外に出る間際に、見送りをする少年らの前で立ち止まった。
「勇敢も無謀も、臆病も慎重も、表裏一体なの。それが解るまでは、ちゃんと大人の言う事は聞いたほうがいいわよ?」
にっこりと笑うトーマスの笑みに、三人は怖気づきつつ首を縦に振る。
「なんだかんだと言え、即座に人に頼ったのも、無理して暴走しなかったのも正解だったよ。クッキーでも食べて元気出して、ね」
そう言ってエニアが差し出した自作のクッキーを、ようやく笑みの戻った三人は嬉しそうに受け取った。
帰り道、リンカが道端で花を探している光景を町人の何人かが見たという。
荒れた墓にせめてもの手向けを、と――。
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相談卓 リンカ・エルネージュ(ka1840) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/11/29 13:27:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/24 14:51:23 |