ゲスト
(ka0000)
【陶曲】決戦!同盟ヒズミーランド
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/13 07:30
- 完成日
- 2017/12/23 23:24
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「成程。大型遊具自体が大型歪虚の可能性、か……」
魔術師協会でお偉方が感心する。
「遊具そのものが自力移動できるんだから現地ので建設する手間も省け一夜城のように大型テーマパークはできるな、確かに」
「資材も人里離れた最終処分場のを盗んで使えば流通や帳簿からノーマーク。古い資材でも歪虚そのものになるならどうとでもなるのが今までの通例」
「人間側の協力者がいるのもこれで分かった。……確か同盟各地でぱっと見には見えない糸によって有力者の性格が豹変して騒ぎが発生したこともあった。腹黒のバルコーネ氏ならさもありなん」
集まったそのほかの地位のある者たちが口々に得心した様子で話す。
本日の緊急議案は、先日同盟の中心都市といえる極彩色の街「ヴァリオス」近郊に開園したリアルブルー風の大型テーマパーク「同盟ヒズミーランド」。同盟評議会に当初申請し建設認可を受けた施設とはかけ離れた規模で、薄いマイナスマテリアルの漂う状況からハンターを潜入調査に向かわせた。その報告書が上がって来たのだ。
「で、結論は『ヴァリオス侵攻のための大型歪虚集積基地』か……なかなかやってくれる」
一人がにやりとしながら手にしクレープにかじりつく。獲物を見据え戦いに備える野獣のような風貌に、甘い香りとポップなデザインの包み紙。
「だから人的被害や園内での行方不明事案が上がってこないんだな」
「つまり、人を集めているのはいきなり攻撃されないためのいわば人質。宿泊施設まで併設してるあたり、徹底してるねぇ」
一人、もう一人と手にしたクレープをパクリ。
「ほかの報告ではヴァリオス内で別の歪虚の活動が見られるそうだ」
「外と中から、か……やるね。拠点攻略の定石にとても忠実だ」
「しかも、もしかしたら本命は地下で進行しているドリル歪虚かもしれんという周到さ、か」
かぷり、もしゃり、はぐりとクレープを食べる面々。
「あ、あのぅ……」
ここで場違いな若い女性の遠慮がちの声が。
「何かね、君」
「もしかして私って、クレープを焼くためだけに呼ばれたんでしょうか?」
同席を命じられていたPクレープの南那初華(kz0135)が両手を組み合わせてもじもじしながら聞いていた。もしもそうならば、すでに会議参加者分のクレープは焼き終わっている。
「まあ、そうだ」
「頭を使えば甘いものも欲しくなるからな」
「えええっ!」
初華、ががん。……いや、少しほっとしているのか。もしそうならもう退席してもいいよね、とか思ってそうでもあるが。
「まあ、本音はともかく建前はこの報告書に偽りはないか、現地に一番長くいた者の口添えも欲しかったからだな……どうだ? 地下施設なんて見えない部分はともかく、園内には接客用の人間の従業員と、特に客対応しなくていい部署にいる人形型歪虚、そして子供客に見せかけたスケルトンなどがいるらしいが、本当に人的被害はなかったのか?」
こればかりは一日の潜入調査ではわからんからな、と。
「それは間違いないと思います。屋台の人も部外者でしたけど、そう言った関係のない人の目にもしゃべらない人形のような従業員さんには眉をひそめてたけど普通に働いてたし。迷子はあってもどれも解決してるみたいだったし」
それなら本音とか言わなくていいのに、とか唇を少しとがらせるとむしろお偉方の老人からはにやにやと喜ばれたり。からかわれるのも仕事の内だったのかもしれない。
「そうか。従業員も人質の内か」
「宿泊施設には人の方が多かったらしい。ただ逃げようにも何もない荒野の中。園外の泉付近に建てたのも頷けるな」
クレープを食べ終えた者たちが指先をちょんちょんとなめたりしつつそんな考察。
「それで、どうされるんです?」
「もちろん歪虚側から侵攻される前に潰さねばの」
「見えない地下からの攻撃が用意されている以上、急がねば」
初華の問いに次々真面目な顔で言葉が返って来る。
「君は引き続きクレープ販売で園内監視を」
「まずはヴァリオスとヒズミーランドを直線で結んだ線上に大型ユニット演習場でも造るかの」
「それ、あからさますぎないか?」
「距離はかなり離さねばならんが……まああちらももろバレ上等な布陣を用意しとるんじゃ。問題なかろう」
「園内で小爆発と派手に煙の上がる騒ぎを起こして『歪虚の仕業だ』と叫べば園内の客も避難するだろう。歪虚はいるんで問題はないし、これを合図にハンターが攻め込めば歪虚もどのみち動く。動かないと一方的に潰されるだけだしな」
「に、逃げる人からハンターが悪い、って誤解されない?」
初華、びくびくして聞いてみる。
「きっかけ作りに関してはこっちが悪いが、逃げてる最中に大型遊具が歪虚に変わっていけば事情は分かるじゃろ。問題ない」
「園内待機組は、これが歪虚がここにいるからだと園内の人に分かるように誘導よろしくな」
「ど、どひー」
地位のある老人からウインクとともに重責を負わせられ、ビビってしまう初華だった。激しくからかわれているようで。
「作戦のタイミングは作戦に参加するハンターに任せる。最初の騒ぎの偽装爆発セットのみ、こちらで用意しよう。ユニット演習場に待機してこの合図の後侵攻する者は事前に演習場での演習に参加するように。そのほかの場所には大型ユニットで潜伏できんぞ。飛行もことが起こるまで禁止じゃ」
とりあえず初華、当日はPクレープ号に給水タンクを増設したと見せ掛け機銃をセットすることにした。
というわけで、同盟ヒズミーランド攻略戦の準備が進められるのであった。
魔術師協会でお偉方が感心する。
「遊具そのものが自力移動できるんだから現地ので建設する手間も省け一夜城のように大型テーマパークはできるな、確かに」
「資材も人里離れた最終処分場のを盗んで使えば流通や帳簿からノーマーク。古い資材でも歪虚そのものになるならどうとでもなるのが今までの通例」
「人間側の協力者がいるのもこれで分かった。……確か同盟各地でぱっと見には見えない糸によって有力者の性格が豹変して騒ぎが発生したこともあった。腹黒のバルコーネ氏ならさもありなん」
集まったそのほかの地位のある者たちが口々に得心した様子で話す。
本日の緊急議案は、先日同盟の中心都市といえる極彩色の街「ヴァリオス」近郊に開園したリアルブルー風の大型テーマパーク「同盟ヒズミーランド」。同盟評議会に当初申請し建設認可を受けた施設とはかけ離れた規模で、薄いマイナスマテリアルの漂う状況からハンターを潜入調査に向かわせた。その報告書が上がって来たのだ。
「で、結論は『ヴァリオス侵攻のための大型歪虚集積基地』か……なかなかやってくれる」
一人がにやりとしながら手にしクレープにかじりつく。獲物を見据え戦いに備える野獣のような風貌に、甘い香りとポップなデザインの包み紙。
「だから人的被害や園内での行方不明事案が上がってこないんだな」
「つまり、人を集めているのはいきなり攻撃されないためのいわば人質。宿泊施設まで併設してるあたり、徹底してるねぇ」
一人、もう一人と手にしたクレープをパクリ。
「ほかの報告ではヴァリオス内で別の歪虚の活動が見られるそうだ」
「外と中から、か……やるね。拠点攻略の定石にとても忠実だ」
「しかも、もしかしたら本命は地下で進行しているドリル歪虚かもしれんという周到さ、か」
かぷり、もしゃり、はぐりとクレープを食べる面々。
「あ、あのぅ……」
ここで場違いな若い女性の遠慮がちの声が。
「何かね、君」
「もしかして私って、クレープを焼くためだけに呼ばれたんでしょうか?」
同席を命じられていたPクレープの南那初華(kz0135)が両手を組み合わせてもじもじしながら聞いていた。もしもそうならば、すでに会議参加者分のクレープは焼き終わっている。
「まあ、そうだ」
「頭を使えば甘いものも欲しくなるからな」
「えええっ!」
初華、ががん。……いや、少しほっとしているのか。もしそうならもう退席してもいいよね、とか思ってそうでもあるが。
「まあ、本音はともかく建前はこの報告書に偽りはないか、現地に一番長くいた者の口添えも欲しかったからだな……どうだ? 地下施設なんて見えない部分はともかく、園内には接客用の人間の従業員と、特に客対応しなくていい部署にいる人形型歪虚、そして子供客に見せかけたスケルトンなどがいるらしいが、本当に人的被害はなかったのか?」
こればかりは一日の潜入調査ではわからんからな、と。
「それは間違いないと思います。屋台の人も部外者でしたけど、そう言った関係のない人の目にもしゃべらない人形のような従業員さんには眉をひそめてたけど普通に働いてたし。迷子はあってもどれも解決してるみたいだったし」
それなら本音とか言わなくていいのに、とか唇を少しとがらせるとむしろお偉方の老人からはにやにやと喜ばれたり。からかわれるのも仕事の内だったのかもしれない。
「そうか。従業員も人質の内か」
「宿泊施設には人の方が多かったらしい。ただ逃げようにも何もない荒野の中。園外の泉付近に建てたのも頷けるな」
クレープを食べ終えた者たちが指先をちょんちょんとなめたりしつつそんな考察。
「それで、どうされるんです?」
「もちろん歪虚側から侵攻される前に潰さねばの」
「見えない地下からの攻撃が用意されている以上、急がねば」
初華の問いに次々真面目な顔で言葉が返って来る。
「君は引き続きクレープ販売で園内監視を」
「まずはヴァリオスとヒズミーランドを直線で結んだ線上に大型ユニット演習場でも造るかの」
「それ、あからさますぎないか?」
「距離はかなり離さねばならんが……まああちらももろバレ上等な布陣を用意しとるんじゃ。問題なかろう」
「園内で小爆発と派手に煙の上がる騒ぎを起こして『歪虚の仕業だ』と叫べば園内の客も避難するだろう。歪虚はいるんで問題はないし、これを合図にハンターが攻め込めば歪虚もどのみち動く。動かないと一方的に潰されるだけだしな」
「に、逃げる人からハンターが悪い、って誤解されない?」
初華、びくびくして聞いてみる。
「きっかけ作りに関してはこっちが悪いが、逃げてる最中に大型遊具が歪虚に変わっていけば事情は分かるじゃろ。問題ない」
「園内待機組は、これが歪虚がここにいるからだと園内の人に分かるように誘導よろしくな」
「ど、どひー」
地位のある老人からウインクとともに重責を負わせられ、ビビってしまう初華だった。激しくからかわれているようで。
「作戦のタイミングは作戦に参加するハンターに任せる。最初の騒ぎの偽装爆発セットのみ、こちらで用意しよう。ユニット演習場に待機してこの合図の後侵攻する者は事前に演習場での演習に参加するように。そのほかの場所には大型ユニットで潜伏できんぞ。飛行もことが起こるまで禁止じゃ」
とりあえず初華、当日はPクレープ号に給水タンクを増設したと見せ掛け機銃をセットすることにした。
というわけで、同盟ヒズミーランド攻略戦の準備が進められるのであった。
リプレイ本文
●Pクレープにて
「うわあっ、すご~い」
「お母さ~ん、回る回る~!」
同盟ヒズミーランドは本日も盛況だった。
空高く軌道の行きかうジェットコースターは軽快に走り子供たちの悲鳴が響き、ゆったり回るメリーゴーランドからは和やかな歓声が、そして大ダコの回転椅子では高くくるくる回りながら脚をぶらぶら。
誰もが夢の国を、大型テーマパークの醍醐味を享受していた。
「とはいえ今日は休日じゃないから少しお客さん少なめ。これが本当にただの遊園地ならね~」
屋台広場でそういうのは、魔導トラック屋台「Pクレープ」でクレープを焼いている南那初華(kz0135)。いい匂いのする焼きたてをくるっと鉄板からヘラで掬い取ると生クリームとかカットフルーツとかを挟んで三角に折る。
言外に、大型歪虚の集積基地だから、とため息。
「それにしてもこんな大掛かりな物になるなんてね……あ、初華さん、クレープありがとだよ♪」
初華から客として受け取った狐中・小鳥(ka5484)、早速ぱくっ……。
とはいかず、足元の気配に気付いた。小鳥の連れて来たユグディラ(ka5484unit003)が鼻を上げて物欲しそうに見上げているのだ。猫ひげもすこしへにょっとしている。
「猫に見えるように丸まっててほしいけど……これは仕方ないかな?」
小鳥、しゃがんでユグディラにも食べさせてやる。
「あら。少ないなら『タイムサービス』要員は必要なかったかしら?」
店の奥からPクレープのフリルエプロンを借りたケイ(ka4032)が顔を覗かせる。
「いやいや、必要だろう。しっかりお客さんを集めて商売繁盛しなくちゃなぁ」
店先でとぼけたように言うのは、応援要員の「戦場詩人」ことダイン・グラマン。大切そうに持っている手提げの荷物の正体は魔術師協会から持たされた進軍用意を知らせる爆破発煙筒セットだったりする。誰も担い手がいなかったから駆り出されたようで。
――ききっ。
「初華さん、お待たせ~っ!」
ここで魔導トラックがやって来た。窓から顔を出したのはメルクーア(ka4005)だ。カラフルに塗装した機体は、魔導トラック「A1」(ka4005unit001)。
「あら、クレープ屋さん。今日も賑やかですね~」
この様子に、隣のポップコーン屋台の女性店員が声を掛けて来た。
「あ、あはは。今日はタイムサービスをする予定だからっ。ほら、私のPクレープ号も上に貯水タンクが増設してあるでしょ?」
慌てて丁寧な説明をする初華。事前にバレるわけにはいかない。
「そーそー。タイムサービスのためにたくさん材料運んで来たから」
降りたメルクーアは二台に積み込んだ箱の数々を見せる。
「さすがに入り口で検品されなかったけどね~」
と誰にも聞こえないよう呟いて舌をペロッと出したり。
「それじゃ俺はこれで」
入れ替わるようにダインが手提げ荷物を持ってどこかに行った。
「じゃ、本格的にやりましょうか?」
ケイ、抱えていたボウルと混ぜ器を置くとトラック荷台の厨房から出て来た。それに先んじて、連れて来たユグディラ「にゃん子」(ka4032unit001)がぴょんと下りたり。
でもってにゃん子、したたたと裏に回って身を隠すと何をやってるのかドルン…という爆音が。
「じゃあ初華さん、行ってきます」
ケイがにこやかに会釈すると同時ににゃん子がユグディラ用魔導バイク「ユグディラ・キャリアー」 に跨って姿を現した。
「ケイさん、これお願い」
メルクーア、行きがけのケイにタイムサービスを知らせるチラシを手渡した。
ケイ、受け取ってぱんぱんと手を叩いて周りに呼び掛ける。
「さあ。Pクレープのささやかな余興、もうすぐ始まります!」
どるんどるんとバイクを噴かしにゃん子が付いて行く。通る途中に赤い消火器が点々と並んでいる。大型遊具のある場所まで行って曲乗りやリュートの演奏など、にゃん子の魅力を余すところなく振りまきケイがチラシを配って一般客をPクレープまで自然に避難させるつもりだ。
●決行前の緊張
途中、ベンチに座っていた男性がにやっとケイたちを見送った。
「見て、刹那」
中性的な顔立ちは、霧雨 悠月(ka4130)である。
隣に座るストレートの黒髪女性ももちろん気付いている。
「始まるみたい……かな?」
細める青い瞳は花厳 刹那(ka3984)。もう、先ほどまでの恋人同士の甘いひと時をのんびり過ごしていた表情はない。
そんな二人のかなり向こうで。
「レオ、美味しいねっ」
「そうです、ね。前回来た時は乗り物ばかりでしたから」
Uisca Amhran(ka0754)が恋人の瀬織 怜皇(ka0684)の隣を歩きながら表情を覗き込んでいる。怜皇、あーんとクレープにかじってそれを見ていたイスカはうふふ。そして自分もクレープにぱくり。
なお、イスカの連れて来たユグディラ「トルヴィ・クァス・レスターニャ」(ka0754unit002)はスキルでひっそりと存在感をなくしながら主人たちを遠くで見ていた。平和なのでふわ~っ、とあくびしたり。
が、猫ひげがぴぴんと立ち蒼い両目が見開かれた。
「あ、ケイさんだ……」
「いよいよ始まります、ね!」
主人とその恋人がひそひそ話をしながら身を固めるのを見て取るのだった。
「わー、クリスマスだからトナカイさんもいる~」
そんなトルヴィの視線の向こう側では、子供たちのはしゃぐ声が。
「ち、違うんです、お客さんです」
あわあわ誤解を解いているのはミオレスカ(ka3496)。何とか寄って来た子供たちに仮装スタッフではないことを理解してもらえた。
「カモフラージュも必要だと思ったんですが……はっ!」
ミオレスカ、園内スタッフに紛れる予定だったのだからこれは受け入れるべきだったと反省する。
とはいえ、どうすればいいか分からなかったのでまあいいか、な感じ。本番の潜入するときはしっかりしよう、と心に決める。
「いないわねぇ」
そんなミオレスカの目の前をキーリ(ka4642)が横切る。きょろきょろしてるが何を探しているのだろう?
「……ヒズミーかヒズミン」
ぽそっとここのマスコットキャラの名をこぼす。性格的に一緒に戯れるという感じではないが、一体何をする気なのか?
ともかく、ミオレスカとともにその一帯に張り付いている者もいる。
「人が通り抜けられるんだから、イェジドだって頑張れば通れると思ったのになぁ。二十四郎とお出掛けしたかったー」
赤い消火器が横にあるベンチに座ってぶちぶち言いながらうーんと背伸びして空を見上げているのは、宵待 サクラ(ka5561)。
どうやら自ら可愛がるイジェド「二十四郎」を連れて来たかった様子だ。
というか、お出掛けですか。
「よせ。バレる」
隣に座っている不動シオン(ka5395)がぶっきらぼうに突っ込む。前屈みの姿勢で組んだ両手で口元などを隠し、時折左右に鋭い眼光を飛ばして様子を探っている。
「分かってるけど強襲だよね? 押し入っちゃえばいいんだよ」
サクラ、忍ぶつもり欠片もなし。
「一人出掛けて悪いと思ってるなら土産にこれでもやるといい」
シオン、サクラにヒズミー帽子を差し出した。「いいの?」と喜ぶサクラ。これで一件落着。というか、いつの間にシオンはそれを手に入れたのか?
その目の前をブーツを鳴らして女性が颯爽と横切った。
「ふうん……あれが整備棟ですか」
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)が髪を肩の後ろに跳ねのけ少し離れた場所にある施設を眺める。
そして遊具もない場所に人が固まるのはまずいと思ったのかすぐにカツカツと場所を変えた。
「……これだけ大きな平屋なら地下室は十分な広さがありますね。ほかに外からの入り口はあるかどうか」
ぽそりとつぶやくき周囲を見回るが、それらしきものはなかった。
●園外の泉にも
時は遡り、園外。
「よしよし。いい子じゃのう」
馬車置き場で星輝 Amhran(ka0724)がリーリーの「由野」(ka0724unit001)を撫でている。漆黒の吉野は紅の瞳を細めて気持ちよさそうにしている。
「うーむ、隣の泉で水浴びさせてやってもいいのじゃが……」
そう言って視線を向けたオアシスと宿泊施設では。
「ま、確かにこんな荒野にゃもったいねぇ泉だ」
セルゲン(ka6612)がお供のユキウサギ「餅助」(ka6612unit001)を連れて、美しく陽光を反射する泉の周りを散歩していた。ちょっと外れれば緑は消えて荒野の岩肌が広がる場所だ。
「精霊が本当にいるかもしれねぇ。もしもそうなら……」
敵に捕らわれたり利用されてないか、という言葉は飲み込み注意深く周囲を観察する。餅助はその様子をくんくんと鼻を鳴らしながら見上げる。餅のように真っ白な毛に、所々焦げ目を思わせる茶色い毛が混じった愛らしい姿に微笑するセルゲン。
「……ま、噂だしな」
そう言い残して泉を離れる。
で、その精霊の名を取ったという宿泊施設「ユノーチカ」で。
「何かあった時の避難場所は泉の近くですね、分かりました」
従業員にそう言ってハンス・ラインフェルト(ka6750)とユキウサギ「シュネーハーゼ」(ka6750unit001)が出てきた。観光客を装い、何かあった時施設としての対応を確認していたようだ。
「その避難場所に罠があったら大惨事ですからね」
周囲を念入りに調べる。
「バルコーネ氏などはここに寝泊まりしていませんでしたね。皆さんに知らせておいた方がいいでしょう」
魔導スマートフォンで通話する。
場所は変わって園内。ジェットコースター近く。
「はい……分かりました、ハンスさん。伝えておきますね」
ぷつ、と魔導スマートフォンを切ったのは、穂積 智里(ka6819)。近くには赤い消火器。
きょろ、と子供たちが右に左に行きかう周囲を見回すと、目当ての人影を見つけて駆け寄った。
「お? 智里じゃねーか?」
ジャック・エルギン(ka1522)がふらふらしていた。
「出資者は宿泊施設の方に居ついてるわけではないそうです」
「ってことはやっぱ支配人もそーだよなぁ。サンキュ、智里」
ジャック、情報に感謝し右手を上げ歩き去る。
(ま、出資者はこの際後回しだ。支配人の「火付けのY」を潰さねーとまたなんかやってくるぜ?)
できれば確実にいると分かるここで息の根を止めてやる、と物思いに沈みつつ鋭い眼光を見せる。
その少し離れたところで空蝉(ka6951)が立っていた。
「……時は来ましたか」
細い顎に手を添えて、肌に感じられるざわめきに集中している。
そこへ、ウサ耳のヒズミー帽子が差し出された。
「今日はサービスです。……ぜひ楽しんでください」
実は、出資者のバルコーネだったり。盛り上げるため、あまり笑顔になっていない人にヒズミー帽子を無料で配って回っているようだ。ちなみにシオンがヒズミー帽子を持っていたのも、これが理由。手渡された理由をもしも知ったら、「余計なお世話だ」とぶっきらぼうに言ったに違いないが。
ともかく受け取った空蝉、ただ手にしただけ。
周りを見ると、ケイが歌いにゃん子が曲乗りしながら屋台広場の方に引き返していた。
「これからPクレープはタイムサービスを予定しているの。是非是非寄って頂戴な」
多くの客を連れている。タイムセールの効果、てきめんである。
で、逆に園内の奥の方を見るとダインがジェットコースターの支柱の陰に爆破煙幕装置の入った手提げをセットして距離を取っていた。
「始まりますね……」
空蝉、準備する。そっともらったうさ耳帽子を近くにあった消火器に可愛らしくかぶせておくのだった。
●はじまりの爆発
そして屋台広場。
「あ、ケイさんお帰りなさ~い」
「南那さん、たくさん連れて来たからよろしくね?」
「よし、それじゃがんばろ~」
ケイと初華、メルクーアが盛り上がる近くでは。
「あー、グデちゃん勝手にそっちに行っちゃ駄目ですぅ、さっきオヤツ買ってあげたじゃないですかぁ」
星野 ハナ(ka5852)が常に猫ひげぴんの自由人ならぬ自由猫幻獣なユグディラ「グデちゃん」(ka5852unit004)に振り回されていた。
まったくもう、と首根っこひっつかんで持ち上げたその瞬間!
――どごぉ……ん。ぼしゅぅ~。
「な、なんですぅ、一体ぃ~」
背後から聞こえて来た爆音に振り返るハナ。
振り返ると一筋の煙が立ち上っていた。
「……歪虚だ~っ、歪虚が暴れて自爆した~っ!」
遠くから聞こえるそんな声。……ダインの声だが。
「きゃーっ!」
遅れて多くの悲鳴が聞こえる。
実際、ジェットコースターの軌道高架の一つがぐらっとバランスを崩したと思うと、まるで生き物のように自らワキワキと足を動かしてバランスを取った!
「本当に歪虚……」
「しかもでかい」
「に、逃げろ~っ!」
口々に驚きの声を上げる来場者。堰を切ったように逃げ惑い始めた。
「だ、だれかが従業員と戦ってる……」
「子供の骸骨もいるわ!」
ダイン、襲われたように見せて戦い始めたようだ。
「歪虚ですかぁ? それは大変ですぅ。グデちゃん、行ってみましょう~」
ハナ、グデちゃんを抱いて騒ぎの方に。
そしてほどなく、南の方から爆音。本格的に園内すべての大型遊具が歪虚の姿を取り始めると、半信半疑だった客たちもパニックに陥るのだった。
「ティ、ティーカップが勝手に!」
中には遊具に乗ったまま、勝手に動き出された客もいる。
「任せて!」
これを見た悠月、斬魔刀「祢々切丸」を手に狂ったようにそこかしこに動き出したティーカップにジャンプして飛び乗った。逃げ遅れて小さくなっていた子供たちがびっくりして見上げる。
♪
さあ、走り出せ。
ほら、元気よく。
勇気、感じて駆け出して……
♪
悠月、ファセット・ソングとともに客を乗せたまま暴走したカップの中心に祢々切丸を突き立て砕く!
「……ね、大丈夫だったでしょ? さあ、今の歌いながら駆け出して」
「うんっ。お兄ちゃん、ありがとう!」
カップから出た子供たちに微笑みかけると、子供たちはぱあっと明るい顔をして手を取り合って避難した。
「これでよし……次!」
振り返った悠月の背後に、気配。
――ざすっ、ばさっ!
「……背中、がら空きでしたよ?」
一瞬の斬撃とともに黒い長髪が舞い、ふわりと落ち着いた。
ほかの暴走ティーカップを斬り、禍炎剣「レーヴァテイン」を再び鞘に納め立ち上がったのは、刹那。
「まあ、私と一緒だから問題ないかな?」
「刹那……キミの剣捌きはゾクゾクするね。…心強いよ」
見つめ合い、にこり。
そして二人同時に自分の後ろを向き、ばさり。
「僕も負けてられないねっ」
「皆で協力して、生き残りましょう?」
悠月はティーカップを、刹那は本体から離れて駆け回るメリーゴーランドの馬を切って捨てた。刹那はさらに一般人の係員を呼んで子供たちの避難を手伝ってもらうのだった。
●ユニット隊、突入!
もちろん、園内の爆発と煙は遠く南方に位置するユニット演習場でも確認された。
「歪虚遊園地でなければ一度行って見たかったですねぇ。…ふ、フラさんとぉ……ふぇ?」
遠くジェットコースターなどをコクピット内から見遣っていた弓月・小太(ka4679)、合図に気付いて搭乗する魔導型デュミナス(ka4679unit002)を水ミーランドの方に向けた。
その横でどごぉ、といきなりスラスターオンしたのは、オファニム:タイプ「Re:AZ-L」(ka1439unit003)。通称ラズにゃ……「ラジエル」。パイロットは……。
「ここはとーぜん、スピード勝負! 一気に行くよーっ!」
コクピットで腰を上げて前傾姿勢のウーナ(ka1439)が叫ぶ。
機体はフライトフレーム「アディード」 装備のハイマニューバカスタム。もともとパイロット保護何それな腕周り足周り腰周りの可動域確保のため殲滅力を重視した過剰装甲を省いたスレンダーな機体。ウーナの髪の色の合わせたピンクのストライプ各所に施され一心同体の様相を見せてかっ飛んでいく。
「ま、負けませんよぉ~」
小太もデュミナスのスラスターオン。
おっと。
演習場にはもう一機残っているぞ。黒い機体だ。
「……演習場コントロール、こちら演習中のリオン」
コクピット内で落ち着いて通信しているのは白きエルフ、エルバッハ・リオン(ka2434)。
「合図確認。三機小隊、出撃します」
「了解。グッド・ラック!」
管制からのゴーサインと同時にR7エクスシア「ウィザード」(ka2434unit003)のアクティブスラスター全開。まるでマントのような追加装甲版がなびき、巨体が一気に風となる。
「ロビン、行くよ」
さらに三機の後方から幻獣が飛び立った。茶褐色の翼はグリフォン「ロビン」(ka5153unit005)で、騎乗は央崎 枢(ka5153)。
「……ん?」
クールな表情を少し緩めたのは、ロビンの飛行がいつになく力強く速いため。
「へぇ。普段はおとなしくて天然なロビンも、勇ましく……」
相棒に頼もしさを感じ先行する三機とは軸をずらして飛ぶよう手綱を引いた。もしも射撃を受けて前が避けると回避しにくいからだ。
が、反応しない。
かたくなに前に食らい付こうと速度を上げている。
「……これ強がってんな」
しかたない、とそのままに。隠れて飛ぶのも奇襲になる。
そして地上部隊も。
「んじゃ出資者様を探しに行くぜ、相棒?」
トリプルJ(ka6653)がミラーグラス「エクリプス・ソル」のブリッジを人差し指で押し上げた。ぐっ、とその体が沈んだのは、騎乗するイェジド(ka6653unit002)が身を沈めたから。
「そらっ、急げ!」
掛け声と同時に弾かれたようにイェジドが大地を疾駆する。
「七竃。彼の突入を支援しつつ前進を」
さらにどしんと続くのは、刻令ゴーレム「Volcanius」の「七竃」。エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がはっきりとした発音で指示を飛ばしている。
その緑色の瞳に、がしゃんとジェットコースター高架橋の一部が歩行したように見えた。先行するCAM部隊の射線が行くと、残りの高架もばらばらになりまるで節くれだった虫やゲジゲジのように多数の足をわしゃわしゃ動かし南側を向いた。ジェットコースター本体は車体横の装甲が翼のように持ち上がって座席部分の天蓋になると、走行の消えた部分から多数の足が出て来た。まるでムカデだ。移動もわしゃわしゃとまさにムカデ。
「まずは炸裂弾を」
発射指示を受け七竃の12ポンド試作ゴーレム砲が火を噴いた。反動もすごいが微動するだけで耐え抜く機体もすごい。魔導型大砲特化タイプのカスタム機ならではの迫力がある。
どごぉん…と遠くで炸裂音。がくりと本体を揺らす敵。
これを受けて敵も何かを飛ばしてきた。
「放物線……遠距離攻撃特化ね。七竃、左に回避」
ゴーレムと移動するエラ。
元いた場所にざくざく、と巨大なニードルが大地に立つ。
「炸裂弾じゃない分助かるけど……」
前はどうだろう、と不安になる。
その、最前列。
「当たるわけないじゃない!」
敵の水平射撃に対してウーナ、右に左に第六感を働かせ機敏に動く。
「このライフルなら、この距離からでも当てられるはず、ですぅ…!」
小太はロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で巨大ムカデを狙う。前のウーナがレールゲジゲジの射撃を誘発していること、敵ムカデがこちらにやってきているので早期に迎え撃てるのが大きい。
ばしっ、ばしっと命中するがヒットした天蓋が粉々になって弾けるのみ。これは手数が必要になりそうだ。
「……誰も乗ってなかったはずですよぉ」
もしもいたら、との心配が頭を過るが、走行中でなかったことや実際に目視で乗客を確認できなかったことを信じて撃ち続ける小太だった。
「さて、歪虚の拠点を叩き潰すとしましょうか」
三機の一番後ろだったウィザードがこの交戦中に上がって来た。
三列目からの突出にレールゲジゲジの射撃が間に合わない。量産型フライトパックのフライトブーストで飛行だ。これまでとは移動の質が違う。さらに敵もレールガン的な長い本体を持つので方向転換が難しいようだ。
「ですがこちらを」
炸裂弾の魔砲「天雷」を細身で当たり判定の少ないレールゲジゲジたちの足元に放っておいてから、園内中ほどから浮遊し動き出した大ダコ遊具の頭部に30mmアサルトライフルをぶっ放す。
と、同時にタコも口から何かを放ってきた。横に浮遊したメリーゴーランドの土台からもミサイル的な何ががやって来る。
――どーん!
こちらは炸裂弾。直撃ではないが飛び散ったつぶてや爆風で煽られる。
「少し敵の数が多いですか?」
「だったら少々食らっても突っ込むよ!」
エルバッハの分析と、むしろ闘志を燃やしプラズマライフルだけでなく左でハンドガンを持つウーナ。
激しい戦闘が繰り広げられる。
●ドリルタンク破壊作戦
こちら、園内。
「あっ……」
逃げ惑う中に子供が多い。躓く女の子もいる。
そこに歪虚化しそこらじゅうを走り回るゴーカートが迫ってきた。
「危ない!」
ケイが 龍矢「シ・ヴァユ」を構え妨害射撃。女の子、母親に連れられて脱出する。
「にゃん子さん、頼んだわ」
「にゃ!」
ケイの指示ににゃん子が駆け寄り「元気ににゃ~れ」。これで母子は大丈夫だろう。
そして進路の変わったゴーカートにはデルレイが襲う!
「みなさん下がってください! 正門を抜けてオアシスへ」
放ったのは穂積だ。堕杖「エグリゴリ」を構え北へと腕を振っている。
その穂積の背後にケイの鋭い視線。制圧射撃の射線が伸びる!
はっ、と立ち止まっていたのはセルゲンと餅助。煙を見て園内に突入したようだ。
「子供じゃないわね。……整備棟に行くのでしょう? 急いで」
ケイが撃ったフードを被った子どもは壁掛け猫を抱いた子供のスケルトンだった。セルゲン、逃げない様子の背中から避難を呼び掛けていたのだ。ケイの位置からはフードの中が見えていた。
「まさか骸骨歪虚だったとはな……感謝する!」
とにかくセルゲン、人波に逆らって急ぐ。
その少し前、整備棟。
――どかっ!
シオンの蹴りで正面の扉が吹っ飛んだ。シオンはそのまま前に。その脇から小柄な体を利してミオレスカとサクラが左右に開いた。
一斉に振り返る作業員歪虚たち。シオンとミオレスカの拳銃がそれらを撃ち抜き、サクラのクナイが突き刺さる。がたぴしっ、と崩れかけるがさすがは歪虚。壊れた人形のような格好でスパナやペンチを手に襲ってきた!
が、その突撃が不意に止められる。
『──照合ERROR。負ノ汚染ヲ感知。対象ヲ殲滅シマス』
「地下への扉は?!」
二列目から機械的な音声を発した空蝉とコート「トリスティス」をなびかせたセツナが前三人を追い越し斬撃を見舞う。空蝉は試作振動刀とスペルブレイドの二刀流で、セツナは太刀「宗三左文字」と毘沙門籠手でとにかく手数重視。縦横無尽の美しい二重奏で寄る敵の出鼻をくじいた。
「あそこの扉! ちゃんと前回調べたんだから」
「よし」
「突入します」
サクラの先導し右に流れる。シオンとミオレスカもここは空蝉とセツナに任せて続き地下への階段へ突入!
「待ち構えてるかもしれん……さて、戦場を作るぞ。夢の国という名の戦場をな!」
突入するや否や、ガウンガゥンと階段の下に向かって銃を乱射するシオン。
「あ、引っ込んでまた出て来た! よーし……」
かんかんかんと階段を下るシオンの後ろからミオレスカが大火弓を構え援護のハウンドバレット。敵が並ぶ狭い場所を利用しているので変則的な軌道も少なくて効果的。多くを傷つける効果的な一撃となった。
「押して通るよ!」
この援護を背後にサクラも聖罰刃「ターミナー・レイ」を振るいシオンと並び下る!
そしてついに地下室、踊り場に到着。
「よし。もう銃はいい」
「いたよ、ドリルタンク!」
銃を仕舞い妖刀「村正」を妖しく抜刀。その後ろをサクラが走り踊り場の階段を下る。シオンは面倒だとばかり手すりを越えて飛び降りた。
目指すはキャタピラに巨大ドリルの先端を持つ鋼鉄製の車両、ドリルタンク。
しかし、まだ敵の工兵が地下に残っている。懸命に二人を止めに入る。
この隙にミオレスカ、空蝉、セツナも到着!
「あっ! 動き出しそう!」
「優先的にキャタピラを狙いましょう!」
ミオレスカがタンクの前方に制圧射撃。セツナ、発進する前にと足周りへ突っ込んだ。
『……スペルブレイド』
その横合いからまたしても空蝉、開眼!
瞳の中のシグナルランプが点滅し、突撃する仲間の道を作るべく敵工兵を受け流し地べたに這いつくばらせ自身は流れるように次の敵へと向かい障害排除に専念する。
「装甲の脆弱なポイントを狙え!」
シオンも突っ込んだ。キャタピラ狙いだ。
「逃がさないからね! ヴァリオス侵攻なんて絶対させないよ」
サクラは操縦席を探して敵に取りついたが自律型のようだ。進行方向に飛び降りやはりキャタピラに攻撃する。
その時、セルゲン到着。
「間に合ったか! 頼むな、餅助」
『きゅ!』
相棒に託して自らはタンク後方へ。ユキウサギの餅助、ぴょんぴょんと警戒にヴァリオス方面の壁前に移動すると結界術、紅水晶を展開した。
同時に、がくんとタンクの車体が沈んだ。
「よしっ!」
皆の声が同時に響く。キャタピラ破壊に成功したのだ。
「……何?」
が、予期せぬ出来事が。
一番大きな声を出したのは後方のセルゲンだ。
何とドリルタンク、キャタピラがぼろっとなくなるとモグラのような前肢後肢が出て来て四足歩行に切り替わったのだ。この辺り、ジェットコースターと逆のパターンだ。
とにかくドリルタンク、旋回。後ろの壁に向かってドリルを立てた。セルゲンは予期せぬ展開に吹っ飛ばされた。残りのメンバーも追うが掘った土を後ろに激しく吐き出し防御している。
――ガリガリガリ……。
やがて、掘った土で穴も埋まり追うこともできなくなった。
向かったのはあくまで、ヴァリオスと反対側である。
●ヒズミー&ヒズミンの惨劇
その頃、イスカと怜皇は手を取り合っていた。
「悪の着ぐるみたち、そこまでなのです!」
「子どもたちの夢を壊すなんて許せません、ね!」
着ぐるみマスコットのヒズミーとヒズミンがちびっ子たちと戯れていた時に爆発が起こり、ヒズミーたちの様子が豹変。暴れ出したのだ。
なお、ヒズミーたちは「こんなはずじゃない」な感じのアピールをしている風にも見えたのだが、パニックになった子どもたちに地団駄を踏んでいたようだ。決して子供を襲っていたわけではないのだが、暴れているようにも見えるかもしれないという程度。
そこへばばん、と登場したと怜皇とイスカは毅然として落ち着いてヒーロー然としていた。絆を示すように手をつなぐ余裕も見せたポーズに子供たち支持が集まる!
「ここは俺たちハンターに任せて……」
「みんなは早く安全な場所に。……私が歌ってる間に!」
怜皇のエレキトリックショックに、イスカの皆を落ち着かせる歌を紡ぐ。
何というヒーローショー!
これで完全にヒズミー&ヒズミンは悪役を押し付けられた!
というか、本性を現した。
ヒズミーたちはデルタレイのように三角形を描きその頂点にニンジンを具現化。撃ってきた!
「くっ!」
「ルディ、子供たちは大丈夫? キララ姉さま、こっちです!」
身体を張る怜皇。その隙にイスカはインカムで連絡。
そしてそれはやって来た。
――ばしっ!
誰だ、とは問わないが足元に銃撃を受け頭上を見やるヒズミーたち。
そこに、陽光遮り案内小屋の屋根の上に謎の影いや騎乗の影。
「仮面の黒騎士……悪を滅せと疾く推参!」
目を伏せうつむいた顔を上げたのは、誰が呼んだか仮面の黒騎士いや星輝 Amhranこと……。
「キララ姉さま!」
「悪の戦士ヒズミーズよ、ヌシらの悪行ソコまでじゃぁ! とぉぉぉーぅ!!」
両手を組んできゅん声のイスカの姉、キララその人。いま、騎乗するリーリー「由野」とともに屋根からジャンプ。
三人目の戦士だッ!
「ええい、退くのじゃ!」
蒼機槍「ダチュラ」 をぶん回して着地直後を狙う雑魚係員歪虚をなぎ倒すキララ。イスカ、龍片握って右に付く。運命符の怜皇は左。
決着の予感に子供たちを守っていたユグディラのルヴィが鼻先を上げる。
「いまこそ!」
「三人連携!」
「必殺技じゃーっ!」
それぞれ掲げ、怜皇の呼んだ雷撃が、イスカの生んだ無数の闇の刃が、そしてキララが上空に投じた蒼機槍の光刃が白鳥のように自由に舞い、ヒズミーたちを倒す雨となった!
実はそこで倒れたほかにもヒズミーたちはいた。
すでにキーリが一体と対峙している。いま、ニンジン攻撃を食らった。怒りを溜めるキーリ。
「一匹なのは気に入らないけど、久々に私の全力ってもんを見せてあげるわ!」
ほんきーりんを見られるなんて得したわね、な感じでドヤ顔しつつ聖典「リグ・シャ・ロカ」をグリムリリース。
本という名の薪を心の暖炉に焚べ、護衛にわらわら集まる係員人形歪虚ともども見据えて魔杖「スキールニル」 を振りかざす!
「ピッカピカの新技よ。新技。ほら、今ならタダで見て良いわよ?」
エクステンドキャストったメテオストームはグリムリリースでいつもより特大火力!
――どーん!
ごおうと巻き起こった爆発的な炎の中に揺らぐヒズミーの焦げた影。
そんなマスコットキャラ火ダルマの光景を背に振り返るキーリ。びくっとする、これを見守っていたちびっ子たち。
「……今晩、悪夢にうなされても私のせいじゃないからね?」
キーリ、にたぁ。
ちびっ子たちはちびりそうなくらい震えあがったのち、本気で逃げたという。
「いやぁ……色々ツッコミどころ満載の遊園地だな」
園内上空に枢のグリフォン「ロビン」が到達していた。大型遊具歪虚との戦いはCAM隊&砲撃隊に任せ、三機の背後に隠れてから一気に上昇し上を越えて来たのだ。
で、下を見ると歪虚人形と子供のリアル鬼ごっこ状態。
「遊園地ってのは本来、楽しいもの」
ロビンの手綱を引いて急降下させる。ちびっこに迫っていた作業員歪虚を牽制し逃げる手助け。
さらにヒズミーも一匹ここにいた。滞空させてロビンの足で攻撃するが、メリーゴーランドの馬とティーカップのカップが空を飛んでやって来た。
「へえ、楽しいこともできるじゃねーか」
これに感心した枢だが、すぐにバスターソードを抜刀。囲まれる前にロビンを突っ込ませた!
――ばすっ、ずぱっ!
高速ですり抜け際、ルパイントリガーで左右に剣を振る。
「怖いのはホラーハウスだけで遊園地全体がおっそろしい場所になる必要はねーんだ」
振り返る枢。
赤黒い斬撃の軌跡が残り、斬り付けられたカップや馬がふらふらと高度を下げていた。もちろん、残りの敵が来る。
「ヒズミー一体発見、頼む」
仲間に連絡して改めて迎撃。
下では怜皇、イスカ、キララとキーリがヒズミーを挟撃。
雷が落ち光と闇の刃が舞い、そして火柱が立っていた。
●火付けのYの大仕事
この時、整備棟以外にも屋内突入を仕掛ける者がいた。
「うふふふ~」
ハナである。
「偉い人はぁ、フラフラしてるよりどっしりどこかに構えてる気がするんですよねぇ」
前回偵察した管理棟に突入。狙いは……。
「バルコーネさんも頭から糸出して傀儡化されてるみたいですしぃ、ふらふら園内を歩き回ってる可能性も捨てきれませんけどぉ」
どうやら火付けのYのようで。
しかし、前回発見していた偉そうな人のいる部屋はもぬけの殻だった。
ががん、と立ち尽くすハナ。これを見上げたグデちゃんも見習い、ががんとした顔をする。
「大人しくふんぞり返ってればいいのにぃ。……Yと一緒にドリル歪虚に乗り込まれるのが1番嫌ですぅ。そうじゃないといいなぁって思ってますけどぉ」
急いでほかを探しに行く。グデちゃん、ちょっと遅れたけど急いでついて行く。
「歪虚の仕業だ。支配人が狙われている。どこにいるか知ってるか?」
こちらジャック。手堅く人間の従業員を見つけて胸ぐら掴んで聞いている。
「お、おそらく午後二時の子供たちの入れ替え準備のため園内中央付近かと……」
「サンキュ。よし、行くぞ!」
ペットのイヌイット・ハスキーとともに逃げる人波をかき分ける。
犬を連れてきたのには訳がある。
(……過去に包囲から一瞬で消えたと報告があった)
ジャック自身は見てないのでここからは想像になる。
(歪虚にゃ転移を使うヤツもいるが、十三魔レベルの高位に限られる)
では、十三魔レベルか?
「違うな」
思わず口にして、ニヤリ。
もしそうならなぜ逃げる?
(そこまでの高位にゃ感じねえ。必ず、何か見落としがあるはずだ)
強い意志とともに園中央に行くと、遠く南の戦況を眺めて考え事をしている人形のような肌を持つ男を発見した。黒い服装で手足が長くほっそりした男である。
「あれ、火付けのYだよ!」
ここで小鳥、合流。戦ったことがあるので知っている。
この騒ぎにYが気付き振り向いた。黒く渦を巻いているような瞳を向ける。
「そろそろ此処で仕留めたい所だよね。これ以上、関わり合いになりたい相手でもないしっ」
小鳥、先手を取って近付く。連れのユグディラが援護に幻獣弓を発射。
ここで小鳥とジャック、初めて見た!
何とY、自らの影を直立させて弓を防いだのだ。
いや、身代わりに攻撃を受けたというところか?
影が消えたところに小鳥が詰めて右手の魔剣で斬り付けるが、これは影をかなり前に出して間合いをごまかしていた関係上、簡単にかわされる。ただ小鳥は二刀流。踊るように左の禍炎剣が斬り付けるがこれもかわした。ダンスのような攻撃にYも身を任せ先読みしているようだ。
(影を使ったが、Yの足元に影はあったな)
観察に徹していたジャックだが、ここで動いた!
「これなら読めねぇだろ!」
小鳥の生み出すリズムを崩すように、バスタードソードで力強く切り込んだ。小鳥の華麗な連撃とは明らかに異質な攻撃だ!
――ばしっ!
「何?」
再び偽の影を直立させて身代わりにした。さらにユグディラの矢。これは普通にかわす。
「読めたんだよ!」
一連の流れで、逆にYのリズムを呼んだ小鳥がわざと少し距離を置いた。腰溜めに剣を構える。
「この距離でも私の間合いなんだよ!」
小鳥の発言と構えは明らかに射撃技を示唆していた。
「空間を斬り裂け!」
振り抜くと同時に偽の影を直立させるY。
が、攻撃を受け止めることはできなかった!
「ぐっ!」
「……次元斬だよ!」
小鳥の一撃、偽影を無視してその奥のYを斬った。
「もらった!」
この隙を逃がすジャックではない。
止めとばかりにブラッドバーストで斬り込んだが、その一撃は空を切った。
「何?」
瞳を見開くジャックだが、冷静になれ、とすぐに自分に言い聞かせた。
小鳥の一撃を食った瞬間、Yは身を崩して偽影を解除した。
そして、本物の影とは別に違う影が足元から違う方向にぎゅんと長く伸びていたのを視界の端に捕えていた。
「影、どこまで伸びた?」
「あっちの先だよ!」
聞いたジャックに走り出す小鳥。
そのチェイスの先で……。
「突然なんですかぁ? 目立つ歪虚はブッコロですぅ捩子もYもまとめて滅びろですぅ」
ハナの声ッ!
追った小鳥とジャックが見たのは、突然Yが近くに出現し驚き、近くの雑魚歪虚ともども葬ろうと最大火力のスキルを使おうとするハナの姿だった。
ハナ、複数の符を放ち五色光符陣を発動!
(また逃げるのか?)
ジャックはYの足元、影がどこに伸びるか注視していた。
しかし、伸びない。
一発食った。
「連撃ですよぅ」
ハナ、もう一発!
発した光の中、Yは偽影を自分のすぐ前に張り身代わりにした。何と、無傷。ほかの歪虚はくたっとなっているが。
「まだまだですぅ」
さらに一発!
Y、もう一度偽影。
(身代わり利用は連発できるが逃走の連発はできない?)
「連発の合間を狙うんだよ! 火が好きなら自分が燃えればいいんだよ!」
ジャックが看破する。小鳥も同様に感じ、巻き込まれるのを覚悟で背後を斬り付けに近寄った。紅蓮斬だ!
その、瞬間だったッ!
――どごぉ……ん。ぶしゃーっ!
地下深くから爆発音とともに振動が走り、北の泉から水柱が上がったではないか!
「やった、か。ヴァリオス侵攻はならずとももう一つの目的は果たせたな……」
Y、ここで初めて楽しそうに笑い、しゃべった。
「何ですぅ?」
「どういうことだ?」
ハナが攻撃を止めジャックとともに問う。
「そしてこれが私の真の目的……爆発芸術の完成形だ。そこのお嬢さんの望む通り」
「何するつもりかなっ?!」
Yの言葉に危険を感じ再び紅蓮斬で襲う小鳥。
――ずぱっ!
今度は入った。
が、同時にYが自爆した!
「わっ!」
巻き込まれ吹っ飛ぶ小鳥。倒れたまま動かない。
――どごん、どごぉんどごぉん!
間髪入れず園内各地で爆発炎上が起こった。
何と、安全対策のために園側が手厚く配置していたと思われた消火器が……それ全部が一斉に爆発炎上したのだ。
火付けのYと呼ばれた男の、最期の火付け大仕事である。
同盟ヒズミーランドがあっという間に火の海に沈んだ。
もちろんまだ一般人の避難は終わっていない。阿鼻叫喚の様相を呈する。
「くそっ。しっかりしろ、小鳥」
「納得できないですぅ」
ジャックとハナ、ぐったりする小鳥を運ぶ。ユグディラとグデちゃんが必死に回復を頑張るがすでに重体は確定的。追い込んだ証でもあるが。
●出資者、発見!
「おいおい、マジかよ?」
イジェドに乗ったJが敷地南の塹壕を飛び越え到着した時、まさに大爆発して園内炎上した時だった。
「急ぐぜ、相棒。バルコーネを確保しとけば、Yや他の歪虚の企みも分かるかもしれないからな……絶対逃がせんし歪虚に連れ去られるわけにもいかないだろう?」
幸い、消火器の配置に従って大炎上している。基本的に道に炎そのものがあるわけではない。イジェド、勇敢にJを乗せたまま突入する。
そしてすぐに目当ての人物を発見した。
「子供は逃げ遅れてないか! ……くそう、もうしばらく後なら招待客の入れ替えでこんなところに子供も残っていないのに」
飛び切り人の良さそうな声を張り上げる人物がいた。
J、瞳を凝らすとその人物の頭部から糸のようなものが上に伸びているのが分かった。
「間違いねぇ、あれがバルコーネだ」
殺到し鉄爪を振るって頭上の糸を切る。
「おわっ。何だ、熱いじゃないか! こんなところにはおれぬ。おい、お前。ワシをその後ろに乗せろ!」
バルコーネ、いきなり目つきと言葉遣いが悪くなりJに命令する。
「……言われずともそのつもりだがよ」
こいつ、ここに縛っておいてやろうか、と一瞬実行に移そうとしたがぐっと我慢するJ。よく我慢した。お手柄である。
とにかく北の泉を目指す。
「ほへ?」
屋台広場ではPクレープ号の兵装を解除していた初華が園内爆発炎上に目を丸くしていた。撃ちに行くどころではない!
「避難が先だよ、初華さん! はいは~い。ちっちゃな子や走れない人は乗ってね~っ!」
メルクーアが声を張る。
彼女の魔導トラックはPクレープの物資を運ぶと称して空の木箱を積んで来た。それを下ろした今、大量人員を輸送することができる。次々に乗せてドアを閉めた。
「じゃ、しばらく我慢してね~」
ばうん、とふかして正門に向かうメルクーア。すし詰めにしたので結構な人数が無事に避難できた。
もちろん、炎の中で人形歪虚やスケルトン歪虚はもう我慢する必要はないと襲っている。泣いて座り込む子供と手を焼く親に魔の手が伸びる。
そこに間一髪、デルタレイの光が。
「大丈夫です、慌てないで……私達はハンターですから」
穂積である。杖を振るって身を盾にして戦う。
「あ、ありがとうございます」
「正門を抜けてオアシスへ。そこまで行けば大丈夫です」
穂積、言い切る。
信頼する姿を思い浮かべて。
「あっ。大道芸のお姉ちゃん!」
避難する女の子が声を上げた先には。
「覚えててくれたの? 歪虚はここで食い止めるわ」
ケイが龍矢を構え逃げる人を追う歪虚を制圧射撃で食い止めていた。にゃん子は通る人を見て怪我をしている人を見つけては「げんきににゃ~れ!」で回復に努めている。
そしてケイの食い止めた敵は。
「あは、とんでもないゲリラライブ……刹那、大丈夫?」
歌っては斬り付ける悠月がいた。
特に施設の中を確認して逃げ遅れがないかを気にしている。
聞いた刹那を振り返るが、いつの間にか消えていた。
「はっ!」
何と刹那、壁を足場に高く跳躍していた。
上空にティーカップが浮かんで接近していたのだ。跳躍はそこを狙っていた。
――すたん、どすっ!
着地と同時に禍炎剣を突き刺す。さらに足元に銃撃、銃撃。
ぱりん、と割れたカップから再び姿を現した刹那、そのまま地上に着地。スカートがどうとかは内緒。
もう一匹、空から寄ってきたが……。
「こっちは俺に任せろ!」
ヒズミーを倒した後の要とロビンが到着。着地した刹那を追撃させず蹴散らした。
もちろん、地上では悠月が恋人の前に立ちはだかっていたが。
「……やっぱり、すごいよ」
背中越しに誇らしく言う。
「よぉし、奥にゃもう誰もいねぇぜ」
ここでバルコーネを後ろに乗せたJが通り過ぎた。火勢も強くなっている。
引き上げ時だ。
北の正門ではハンスが出てくる人を待っていた。
「大丈夫ですよみなさん。ここからは安全です。……泉の近くは危険ですからさらに北へ。落ち着いて移動して下さい」
実は消火器の一斉爆発火災は宿泊施設でも発生していた。こちらはその直前の泉の大噴水ですでに火勢は弱まっていたが水浸しだ。また水が吹き上がるか知れたものではないので泉の北側へと誘導している。
そこへ、ききっと魔導トラックの止まる音。
「ハンスさん、泉の向こうに下ろしてきたよ」
メルクーアである。
「ありがとうございます。あちらなら間違いありません」
「じゃ、もう一回行くから」
A1を走らせるメルクーア。初華さんが心配だわ、とか言い残して屋台広場に急ぐ。
実際、目立つ魔導トラックを動かしたので徒歩で避難する人の目印になりやすかった。もちろん、入り乱れる中、周りの人をひいてしまわない運転で難易度の高い行動だったがこれまでの運転歴がものをいった。
ハンスの方は一息ついたが、そこへ。
「て、敵も来た~っ!」
園内からそんな声が耳に入れば即座に移動し、抜刀。
迫っていた人形歪虚を大剣「獄門刀」でばっさりと斬る。
と、そこで顔を上げた。
「ハンスさん! これより南の人は多分全員逃げたと思います」
避難してきた穂積、嬉しそうな顔を見せる。
なお、言葉は少ないが伝えたいことがある。
つまり、後に来るのは敵しかいない、と。
「分かりました、それではマウジーは誘導優先で。私とハーゼで敵を抑えます」
ハンス、言いたいことを理解し頷く。シュハーネーゼと追ってくるであろう敵を迎え撃ちに走る。
「……私ももう少し、頑張る」
その姿を見て元気が出た穂積、可愛らしく握りこぶしを作って頷いた。
●大型遊具歪虚、掃討
「大噴水に……爆発炎上ですか?」
戦線最後方にいたエラ、思わぬ展開に息を飲んでいた。
「思ったより人手がいるかもしれません。七竃、北上です」
味方ユニットが敵と接敵したのを合図に砲撃しながら最終ラインを押し上げていたが、その速度を速めた。最悪、南に人が逃げてくる可能性があると判断したのだ。
「逃げ遅れがないか気になります」
大ダコ歪虚と遠距離戦闘をしていたエルバッハ、モニターに映る大惨事に目を疑った。ここで砲弾を食らって墨を浴びるがスラスターでバランスを取り立ち直る。
そして意を決して前に出た。
いや、敵も南へ強力に前進して来たぞ?
「望むところです」
エルバッハ、ウィザードのM・CAMダガーを抜いて……体ごとタコの前進を受け止めた。
――ががが……。
地に足を付き止めようと踏ん張る。もちろんダガーは刺さっている。それでも敵は前進をやめないが……。
――ぴた、ずずぅん。
「射撃でかなわないと思ったのでしょうか? ですが追加装甲版がありますしね」
ウィザード、無事だ。
一方、ウーナのラジエルは自由を舞うバラのように戦っていた。
「噂は聞いたけど、こんな物騒な事してたんだ」
二挺銃で多数のレールゲジゲジと戦っていた。
「……つまり暴れ放題の夢の国だね」
もともとエルバッハの重厚なウィザードと対照的にシンプルなシルエットで軽量。
対して敵は都市攻略を想定してか長射程武器を体に装備した細長い体型。接近されると小回りが全くできない。
もちろん、射撃攻撃では当たり判定が少ないので苦労するはずなのだが、ウーナはゼロ距離射撃狙いを迷うことなく選択していた。
「CAMで青竜紅刃流やるための機体にこんなの敵じゃないね!」
乱戦大好き、といわんばかりにスラスターで突っ込んでかく乱し、銃口を押し付けるように近付けてズドン。敵の小回りのしにくさもあって圧倒している。
「微妙に虫型なのが嫌ですねぇ……と、はわわわ!? ち、近付いてくるのは禁止ですよぉ!」
あおりを食ったのは小太。
下がりながらムカデ歪虚を射撃し、ウーナやエルバッハの方に方向転換しようとすれば近付き撃っていた。もちろん、エラの七竃からの砲撃もここに集中していた。
おかげですでにムカデの外装はかなり剥がれジェットコースターの形にもどっていた。
そこで、園の爆発炎上。
敵の体力も危険域を迎えたのか微妙な位置取りから一気に南下して来た。
「き、近接対応もありはしますがぁ…!?」
小太、やむなくプラズマカッター。
ムカデの突進を斬り付けていなした。
ただし、抜かれた後は小太も強気!
「離れてしまえば問題ないですよぉ」
再び銃に換装。
敵の背後から撃つ!
迫力ある射撃を見せる。
「まずは三散……そして三烈。穿て、瞬光!」
抜かれた敵の正面にはエラがいた。デルタレイを基にしたスキルは、手数重視と一撃必殺の二種類。敵が複数命中する大きさなのでどんどん撃っていく。
ただ、すぐに横に避難。
理由は明快。
さらに後方の七竃が炸裂弾を水平発射したのだ。
――どぅん……ばしっ、ばしっ。
くわえて背後からの小太の射撃。
これで暴走ジェットコースターのムカデは息絶えた。
「……エラさん、助かりましたよぅ」
「何よりです。最後、敵はヒズミーランドを守るというよりヴァリオス侵攻に切り替えたような動きでしたね」
小太からの感謝の連絡に、エラは最後方から観察していた手ごたえを話すのだった。
●魔法協会にて、後日
「二時に決行すれば被害はもう少し抑えられたじゃろうの」
「それにしても、ヴァリオス侵攻と泉の精霊、そして集まった人を施設ごと爆破炎上、か」
「ヴァリオス侵攻だけは阻止できたがの」
お偉方が報告書に目を通していた。
「それと、火付けのYの撃破……自爆じゃが、これが大きいな」
「火付けのテロに遭う可能性がぐっと減る」
「バルコーネ氏の救出も、かの。これで聞き込みができる」
評価点に目を細める。バルコーネ氏はこの直後に雲隠れするが。
「しかし、泉とオアシスは豹変したの」
「伝説の通り、精霊はいたのだろう。地下水脈辺りに。そこでドリルタンクが爆発して精霊が消滅したとしか考えられん」
オアシスの緑は失われ、泉は沼と化していた。いずれ枯れると判断されている。
「それならなぜドリルタンクは別のほうを向いていた?」
「オアシスの方を向いてりゃ精霊に気付かれるかもしれんからかの?」
その辺は、不明。
不明なだけにハンターの責任ではないと判断された。
「消火器の仕掛けは……まさかじゃったの」
とにかく、不穏な巨大歪虚集積基地を排除することに成功した。
「うわあっ、すご~い」
「お母さ~ん、回る回る~!」
同盟ヒズミーランドは本日も盛況だった。
空高く軌道の行きかうジェットコースターは軽快に走り子供たちの悲鳴が響き、ゆったり回るメリーゴーランドからは和やかな歓声が、そして大ダコの回転椅子では高くくるくる回りながら脚をぶらぶら。
誰もが夢の国を、大型テーマパークの醍醐味を享受していた。
「とはいえ今日は休日じゃないから少しお客さん少なめ。これが本当にただの遊園地ならね~」
屋台広場でそういうのは、魔導トラック屋台「Pクレープ」でクレープを焼いている南那初華(kz0135)。いい匂いのする焼きたてをくるっと鉄板からヘラで掬い取ると生クリームとかカットフルーツとかを挟んで三角に折る。
言外に、大型歪虚の集積基地だから、とため息。
「それにしてもこんな大掛かりな物になるなんてね……あ、初華さん、クレープありがとだよ♪」
初華から客として受け取った狐中・小鳥(ka5484)、早速ぱくっ……。
とはいかず、足元の気配に気付いた。小鳥の連れて来たユグディラ(ka5484unit003)が鼻を上げて物欲しそうに見上げているのだ。猫ひげもすこしへにょっとしている。
「猫に見えるように丸まっててほしいけど……これは仕方ないかな?」
小鳥、しゃがんでユグディラにも食べさせてやる。
「あら。少ないなら『タイムサービス』要員は必要なかったかしら?」
店の奥からPクレープのフリルエプロンを借りたケイ(ka4032)が顔を覗かせる。
「いやいや、必要だろう。しっかりお客さんを集めて商売繁盛しなくちゃなぁ」
店先でとぼけたように言うのは、応援要員の「戦場詩人」ことダイン・グラマン。大切そうに持っている手提げの荷物の正体は魔術師協会から持たされた進軍用意を知らせる爆破発煙筒セットだったりする。誰も担い手がいなかったから駆り出されたようで。
――ききっ。
「初華さん、お待たせ~っ!」
ここで魔導トラックがやって来た。窓から顔を出したのはメルクーア(ka4005)だ。カラフルに塗装した機体は、魔導トラック「A1」(ka4005unit001)。
「あら、クレープ屋さん。今日も賑やかですね~」
この様子に、隣のポップコーン屋台の女性店員が声を掛けて来た。
「あ、あはは。今日はタイムサービスをする予定だからっ。ほら、私のPクレープ号も上に貯水タンクが増設してあるでしょ?」
慌てて丁寧な説明をする初華。事前にバレるわけにはいかない。
「そーそー。タイムサービスのためにたくさん材料運んで来たから」
降りたメルクーアは二台に積み込んだ箱の数々を見せる。
「さすがに入り口で検品されなかったけどね~」
と誰にも聞こえないよう呟いて舌をペロッと出したり。
「それじゃ俺はこれで」
入れ替わるようにダインが手提げ荷物を持ってどこかに行った。
「じゃ、本格的にやりましょうか?」
ケイ、抱えていたボウルと混ぜ器を置くとトラック荷台の厨房から出て来た。それに先んじて、連れて来たユグディラ「にゃん子」(ka4032unit001)がぴょんと下りたり。
でもってにゃん子、したたたと裏に回って身を隠すと何をやってるのかドルン…という爆音が。
「じゃあ初華さん、行ってきます」
ケイがにこやかに会釈すると同時ににゃん子がユグディラ用魔導バイク「ユグディラ・キャリアー」 に跨って姿を現した。
「ケイさん、これお願い」
メルクーア、行きがけのケイにタイムサービスを知らせるチラシを手渡した。
ケイ、受け取ってぱんぱんと手を叩いて周りに呼び掛ける。
「さあ。Pクレープのささやかな余興、もうすぐ始まります!」
どるんどるんとバイクを噴かしにゃん子が付いて行く。通る途中に赤い消火器が点々と並んでいる。大型遊具のある場所まで行って曲乗りやリュートの演奏など、にゃん子の魅力を余すところなく振りまきケイがチラシを配って一般客をPクレープまで自然に避難させるつもりだ。
●決行前の緊張
途中、ベンチに座っていた男性がにやっとケイたちを見送った。
「見て、刹那」
中性的な顔立ちは、霧雨 悠月(ka4130)である。
隣に座るストレートの黒髪女性ももちろん気付いている。
「始まるみたい……かな?」
細める青い瞳は花厳 刹那(ka3984)。もう、先ほどまでの恋人同士の甘いひと時をのんびり過ごしていた表情はない。
そんな二人のかなり向こうで。
「レオ、美味しいねっ」
「そうです、ね。前回来た時は乗り物ばかりでしたから」
Uisca Amhran(ka0754)が恋人の瀬織 怜皇(ka0684)の隣を歩きながら表情を覗き込んでいる。怜皇、あーんとクレープにかじってそれを見ていたイスカはうふふ。そして自分もクレープにぱくり。
なお、イスカの連れて来たユグディラ「トルヴィ・クァス・レスターニャ」(ka0754unit002)はスキルでひっそりと存在感をなくしながら主人たちを遠くで見ていた。平和なのでふわ~っ、とあくびしたり。
が、猫ひげがぴぴんと立ち蒼い両目が見開かれた。
「あ、ケイさんだ……」
「いよいよ始まります、ね!」
主人とその恋人がひそひそ話をしながら身を固めるのを見て取るのだった。
「わー、クリスマスだからトナカイさんもいる~」
そんなトルヴィの視線の向こう側では、子供たちのはしゃぐ声が。
「ち、違うんです、お客さんです」
あわあわ誤解を解いているのはミオレスカ(ka3496)。何とか寄って来た子供たちに仮装スタッフではないことを理解してもらえた。
「カモフラージュも必要だと思ったんですが……はっ!」
ミオレスカ、園内スタッフに紛れる予定だったのだからこれは受け入れるべきだったと反省する。
とはいえ、どうすればいいか分からなかったのでまあいいか、な感じ。本番の潜入するときはしっかりしよう、と心に決める。
「いないわねぇ」
そんなミオレスカの目の前をキーリ(ka4642)が横切る。きょろきょろしてるが何を探しているのだろう?
「……ヒズミーかヒズミン」
ぽそっとここのマスコットキャラの名をこぼす。性格的に一緒に戯れるという感じではないが、一体何をする気なのか?
ともかく、ミオレスカとともにその一帯に張り付いている者もいる。
「人が通り抜けられるんだから、イェジドだって頑張れば通れると思ったのになぁ。二十四郎とお出掛けしたかったー」
赤い消火器が横にあるベンチに座ってぶちぶち言いながらうーんと背伸びして空を見上げているのは、宵待 サクラ(ka5561)。
どうやら自ら可愛がるイジェド「二十四郎」を連れて来たかった様子だ。
というか、お出掛けですか。
「よせ。バレる」
隣に座っている不動シオン(ka5395)がぶっきらぼうに突っ込む。前屈みの姿勢で組んだ両手で口元などを隠し、時折左右に鋭い眼光を飛ばして様子を探っている。
「分かってるけど強襲だよね? 押し入っちゃえばいいんだよ」
サクラ、忍ぶつもり欠片もなし。
「一人出掛けて悪いと思ってるなら土産にこれでもやるといい」
シオン、サクラにヒズミー帽子を差し出した。「いいの?」と喜ぶサクラ。これで一件落着。というか、いつの間にシオンはそれを手に入れたのか?
その目の前をブーツを鳴らして女性が颯爽と横切った。
「ふうん……あれが整備棟ですか」
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)が髪を肩の後ろに跳ねのけ少し離れた場所にある施設を眺める。
そして遊具もない場所に人が固まるのはまずいと思ったのかすぐにカツカツと場所を変えた。
「……これだけ大きな平屋なら地下室は十分な広さがありますね。ほかに外からの入り口はあるかどうか」
ぽそりとつぶやくき周囲を見回るが、それらしきものはなかった。
●園外の泉にも
時は遡り、園外。
「よしよし。いい子じゃのう」
馬車置き場で星輝 Amhran(ka0724)がリーリーの「由野」(ka0724unit001)を撫でている。漆黒の吉野は紅の瞳を細めて気持ちよさそうにしている。
「うーむ、隣の泉で水浴びさせてやってもいいのじゃが……」
そう言って視線を向けたオアシスと宿泊施設では。
「ま、確かにこんな荒野にゃもったいねぇ泉だ」
セルゲン(ka6612)がお供のユキウサギ「餅助」(ka6612unit001)を連れて、美しく陽光を反射する泉の周りを散歩していた。ちょっと外れれば緑は消えて荒野の岩肌が広がる場所だ。
「精霊が本当にいるかもしれねぇ。もしもそうなら……」
敵に捕らわれたり利用されてないか、という言葉は飲み込み注意深く周囲を観察する。餅助はその様子をくんくんと鼻を鳴らしながら見上げる。餅のように真っ白な毛に、所々焦げ目を思わせる茶色い毛が混じった愛らしい姿に微笑するセルゲン。
「……ま、噂だしな」
そう言い残して泉を離れる。
で、その精霊の名を取ったという宿泊施設「ユノーチカ」で。
「何かあった時の避難場所は泉の近くですね、分かりました」
従業員にそう言ってハンス・ラインフェルト(ka6750)とユキウサギ「シュネーハーゼ」(ka6750unit001)が出てきた。観光客を装い、何かあった時施設としての対応を確認していたようだ。
「その避難場所に罠があったら大惨事ですからね」
周囲を念入りに調べる。
「バルコーネ氏などはここに寝泊まりしていませんでしたね。皆さんに知らせておいた方がいいでしょう」
魔導スマートフォンで通話する。
場所は変わって園内。ジェットコースター近く。
「はい……分かりました、ハンスさん。伝えておきますね」
ぷつ、と魔導スマートフォンを切ったのは、穂積 智里(ka6819)。近くには赤い消火器。
きょろ、と子供たちが右に左に行きかう周囲を見回すと、目当ての人影を見つけて駆け寄った。
「お? 智里じゃねーか?」
ジャック・エルギン(ka1522)がふらふらしていた。
「出資者は宿泊施設の方に居ついてるわけではないそうです」
「ってことはやっぱ支配人もそーだよなぁ。サンキュ、智里」
ジャック、情報に感謝し右手を上げ歩き去る。
(ま、出資者はこの際後回しだ。支配人の「火付けのY」を潰さねーとまたなんかやってくるぜ?)
できれば確実にいると分かるここで息の根を止めてやる、と物思いに沈みつつ鋭い眼光を見せる。
その少し離れたところで空蝉(ka6951)が立っていた。
「……時は来ましたか」
細い顎に手を添えて、肌に感じられるざわめきに集中している。
そこへ、ウサ耳のヒズミー帽子が差し出された。
「今日はサービスです。……ぜひ楽しんでください」
実は、出資者のバルコーネだったり。盛り上げるため、あまり笑顔になっていない人にヒズミー帽子を無料で配って回っているようだ。ちなみにシオンがヒズミー帽子を持っていたのも、これが理由。手渡された理由をもしも知ったら、「余計なお世話だ」とぶっきらぼうに言ったに違いないが。
ともかく受け取った空蝉、ただ手にしただけ。
周りを見ると、ケイが歌いにゃん子が曲乗りしながら屋台広場の方に引き返していた。
「これからPクレープはタイムサービスを予定しているの。是非是非寄って頂戴な」
多くの客を連れている。タイムセールの効果、てきめんである。
で、逆に園内の奥の方を見るとダインがジェットコースターの支柱の陰に爆破煙幕装置の入った手提げをセットして距離を取っていた。
「始まりますね……」
空蝉、準備する。そっともらったうさ耳帽子を近くにあった消火器に可愛らしくかぶせておくのだった。
●はじまりの爆発
そして屋台広場。
「あ、ケイさんお帰りなさ~い」
「南那さん、たくさん連れて来たからよろしくね?」
「よし、それじゃがんばろ~」
ケイと初華、メルクーアが盛り上がる近くでは。
「あー、グデちゃん勝手にそっちに行っちゃ駄目ですぅ、さっきオヤツ買ってあげたじゃないですかぁ」
星野 ハナ(ka5852)が常に猫ひげぴんの自由人ならぬ自由猫幻獣なユグディラ「グデちゃん」(ka5852unit004)に振り回されていた。
まったくもう、と首根っこひっつかんで持ち上げたその瞬間!
――どごぉ……ん。ぼしゅぅ~。
「な、なんですぅ、一体ぃ~」
背後から聞こえて来た爆音に振り返るハナ。
振り返ると一筋の煙が立ち上っていた。
「……歪虚だ~っ、歪虚が暴れて自爆した~っ!」
遠くから聞こえるそんな声。……ダインの声だが。
「きゃーっ!」
遅れて多くの悲鳴が聞こえる。
実際、ジェットコースターの軌道高架の一つがぐらっとバランスを崩したと思うと、まるで生き物のように自らワキワキと足を動かしてバランスを取った!
「本当に歪虚……」
「しかもでかい」
「に、逃げろ~っ!」
口々に驚きの声を上げる来場者。堰を切ったように逃げ惑い始めた。
「だ、だれかが従業員と戦ってる……」
「子供の骸骨もいるわ!」
ダイン、襲われたように見せて戦い始めたようだ。
「歪虚ですかぁ? それは大変ですぅ。グデちゃん、行ってみましょう~」
ハナ、グデちゃんを抱いて騒ぎの方に。
そしてほどなく、南の方から爆音。本格的に園内すべての大型遊具が歪虚の姿を取り始めると、半信半疑だった客たちもパニックに陥るのだった。
「ティ、ティーカップが勝手に!」
中には遊具に乗ったまま、勝手に動き出された客もいる。
「任せて!」
これを見た悠月、斬魔刀「祢々切丸」を手に狂ったようにそこかしこに動き出したティーカップにジャンプして飛び乗った。逃げ遅れて小さくなっていた子供たちがびっくりして見上げる。
♪
さあ、走り出せ。
ほら、元気よく。
勇気、感じて駆け出して……
♪
悠月、ファセット・ソングとともに客を乗せたまま暴走したカップの中心に祢々切丸を突き立て砕く!
「……ね、大丈夫だったでしょ? さあ、今の歌いながら駆け出して」
「うんっ。お兄ちゃん、ありがとう!」
カップから出た子供たちに微笑みかけると、子供たちはぱあっと明るい顔をして手を取り合って避難した。
「これでよし……次!」
振り返った悠月の背後に、気配。
――ざすっ、ばさっ!
「……背中、がら空きでしたよ?」
一瞬の斬撃とともに黒い長髪が舞い、ふわりと落ち着いた。
ほかの暴走ティーカップを斬り、禍炎剣「レーヴァテイン」を再び鞘に納め立ち上がったのは、刹那。
「まあ、私と一緒だから問題ないかな?」
「刹那……キミの剣捌きはゾクゾクするね。…心強いよ」
見つめ合い、にこり。
そして二人同時に自分の後ろを向き、ばさり。
「僕も負けてられないねっ」
「皆で協力して、生き残りましょう?」
悠月はティーカップを、刹那は本体から離れて駆け回るメリーゴーランドの馬を切って捨てた。刹那はさらに一般人の係員を呼んで子供たちの避難を手伝ってもらうのだった。
●ユニット隊、突入!
もちろん、園内の爆発と煙は遠く南方に位置するユニット演習場でも確認された。
「歪虚遊園地でなければ一度行って見たかったですねぇ。…ふ、フラさんとぉ……ふぇ?」
遠くジェットコースターなどをコクピット内から見遣っていた弓月・小太(ka4679)、合図に気付いて搭乗する魔導型デュミナス(ka4679unit002)を水ミーランドの方に向けた。
その横でどごぉ、といきなりスラスターオンしたのは、オファニム:タイプ「Re:AZ-L」(ka1439unit003)。通称ラズにゃ……「ラジエル」。パイロットは……。
「ここはとーぜん、スピード勝負! 一気に行くよーっ!」
コクピットで腰を上げて前傾姿勢のウーナ(ka1439)が叫ぶ。
機体はフライトフレーム「アディード」 装備のハイマニューバカスタム。もともとパイロット保護何それな腕周り足周り腰周りの可動域確保のため殲滅力を重視した過剰装甲を省いたスレンダーな機体。ウーナの髪の色の合わせたピンクのストライプ各所に施され一心同体の様相を見せてかっ飛んでいく。
「ま、負けませんよぉ~」
小太もデュミナスのスラスターオン。
おっと。
演習場にはもう一機残っているぞ。黒い機体だ。
「……演習場コントロール、こちら演習中のリオン」
コクピット内で落ち着いて通信しているのは白きエルフ、エルバッハ・リオン(ka2434)。
「合図確認。三機小隊、出撃します」
「了解。グッド・ラック!」
管制からのゴーサインと同時にR7エクスシア「ウィザード」(ka2434unit003)のアクティブスラスター全開。まるでマントのような追加装甲版がなびき、巨体が一気に風となる。
「ロビン、行くよ」
さらに三機の後方から幻獣が飛び立った。茶褐色の翼はグリフォン「ロビン」(ka5153unit005)で、騎乗は央崎 枢(ka5153)。
「……ん?」
クールな表情を少し緩めたのは、ロビンの飛行がいつになく力強く速いため。
「へぇ。普段はおとなしくて天然なロビンも、勇ましく……」
相棒に頼もしさを感じ先行する三機とは軸をずらして飛ぶよう手綱を引いた。もしも射撃を受けて前が避けると回避しにくいからだ。
が、反応しない。
かたくなに前に食らい付こうと速度を上げている。
「……これ強がってんな」
しかたない、とそのままに。隠れて飛ぶのも奇襲になる。
そして地上部隊も。
「んじゃ出資者様を探しに行くぜ、相棒?」
トリプルJ(ka6653)がミラーグラス「エクリプス・ソル」のブリッジを人差し指で押し上げた。ぐっ、とその体が沈んだのは、騎乗するイェジド(ka6653unit002)が身を沈めたから。
「そらっ、急げ!」
掛け声と同時に弾かれたようにイェジドが大地を疾駆する。
「七竃。彼の突入を支援しつつ前進を」
さらにどしんと続くのは、刻令ゴーレム「Volcanius」の「七竃」。エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がはっきりとした発音で指示を飛ばしている。
その緑色の瞳に、がしゃんとジェットコースター高架橋の一部が歩行したように見えた。先行するCAM部隊の射線が行くと、残りの高架もばらばらになりまるで節くれだった虫やゲジゲジのように多数の足をわしゃわしゃ動かし南側を向いた。ジェットコースター本体は車体横の装甲が翼のように持ち上がって座席部分の天蓋になると、走行の消えた部分から多数の足が出て来た。まるでムカデだ。移動もわしゃわしゃとまさにムカデ。
「まずは炸裂弾を」
発射指示を受け七竃の12ポンド試作ゴーレム砲が火を噴いた。反動もすごいが微動するだけで耐え抜く機体もすごい。魔導型大砲特化タイプのカスタム機ならではの迫力がある。
どごぉん…と遠くで炸裂音。がくりと本体を揺らす敵。
これを受けて敵も何かを飛ばしてきた。
「放物線……遠距離攻撃特化ね。七竃、左に回避」
ゴーレムと移動するエラ。
元いた場所にざくざく、と巨大なニードルが大地に立つ。
「炸裂弾じゃない分助かるけど……」
前はどうだろう、と不安になる。
その、最前列。
「当たるわけないじゃない!」
敵の水平射撃に対してウーナ、右に左に第六感を働かせ機敏に動く。
「このライフルなら、この距離からでも当てられるはず、ですぅ…!」
小太はロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で巨大ムカデを狙う。前のウーナがレールゲジゲジの射撃を誘発していること、敵ムカデがこちらにやってきているので早期に迎え撃てるのが大きい。
ばしっ、ばしっと命中するがヒットした天蓋が粉々になって弾けるのみ。これは手数が必要になりそうだ。
「……誰も乗ってなかったはずですよぉ」
もしもいたら、との心配が頭を過るが、走行中でなかったことや実際に目視で乗客を確認できなかったことを信じて撃ち続ける小太だった。
「さて、歪虚の拠点を叩き潰すとしましょうか」
三機の一番後ろだったウィザードがこの交戦中に上がって来た。
三列目からの突出にレールゲジゲジの射撃が間に合わない。量産型フライトパックのフライトブーストで飛行だ。これまでとは移動の質が違う。さらに敵もレールガン的な長い本体を持つので方向転換が難しいようだ。
「ですがこちらを」
炸裂弾の魔砲「天雷」を細身で当たり判定の少ないレールゲジゲジたちの足元に放っておいてから、園内中ほどから浮遊し動き出した大ダコ遊具の頭部に30mmアサルトライフルをぶっ放す。
と、同時にタコも口から何かを放ってきた。横に浮遊したメリーゴーランドの土台からもミサイル的な何ががやって来る。
――どーん!
こちらは炸裂弾。直撃ではないが飛び散ったつぶてや爆風で煽られる。
「少し敵の数が多いですか?」
「だったら少々食らっても突っ込むよ!」
エルバッハの分析と、むしろ闘志を燃やしプラズマライフルだけでなく左でハンドガンを持つウーナ。
激しい戦闘が繰り広げられる。
●ドリルタンク破壊作戦
こちら、園内。
「あっ……」
逃げ惑う中に子供が多い。躓く女の子もいる。
そこに歪虚化しそこらじゅうを走り回るゴーカートが迫ってきた。
「危ない!」
ケイが 龍矢「シ・ヴァユ」を構え妨害射撃。女の子、母親に連れられて脱出する。
「にゃん子さん、頼んだわ」
「にゃ!」
ケイの指示ににゃん子が駆け寄り「元気ににゃ~れ」。これで母子は大丈夫だろう。
そして進路の変わったゴーカートにはデルレイが襲う!
「みなさん下がってください! 正門を抜けてオアシスへ」
放ったのは穂積だ。堕杖「エグリゴリ」を構え北へと腕を振っている。
その穂積の背後にケイの鋭い視線。制圧射撃の射線が伸びる!
はっ、と立ち止まっていたのはセルゲンと餅助。煙を見て園内に突入したようだ。
「子供じゃないわね。……整備棟に行くのでしょう? 急いで」
ケイが撃ったフードを被った子どもは壁掛け猫を抱いた子供のスケルトンだった。セルゲン、逃げない様子の背中から避難を呼び掛けていたのだ。ケイの位置からはフードの中が見えていた。
「まさか骸骨歪虚だったとはな……感謝する!」
とにかくセルゲン、人波に逆らって急ぐ。
その少し前、整備棟。
――どかっ!
シオンの蹴りで正面の扉が吹っ飛んだ。シオンはそのまま前に。その脇から小柄な体を利してミオレスカとサクラが左右に開いた。
一斉に振り返る作業員歪虚たち。シオンとミオレスカの拳銃がそれらを撃ち抜き、サクラのクナイが突き刺さる。がたぴしっ、と崩れかけるがさすがは歪虚。壊れた人形のような格好でスパナやペンチを手に襲ってきた!
が、その突撃が不意に止められる。
『──照合ERROR。負ノ汚染ヲ感知。対象ヲ殲滅シマス』
「地下への扉は?!」
二列目から機械的な音声を発した空蝉とコート「トリスティス」をなびかせたセツナが前三人を追い越し斬撃を見舞う。空蝉は試作振動刀とスペルブレイドの二刀流で、セツナは太刀「宗三左文字」と毘沙門籠手でとにかく手数重視。縦横無尽の美しい二重奏で寄る敵の出鼻をくじいた。
「あそこの扉! ちゃんと前回調べたんだから」
「よし」
「突入します」
サクラの先導し右に流れる。シオンとミオレスカもここは空蝉とセツナに任せて続き地下への階段へ突入!
「待ち構えてるかもしれん……さて、戦場を作るぞ。夢の国という名の戦場をな!」
突入するや否や、ガウンガゥンと階段の下に向かって銃を乱射するシオン。
「あ、引っ込んでまた出て来た! よーし……」
かんかんかんと階段を下るシオンの後ろからミオレスカが大火弓を構え援護のハウンドバレット。敵が並ぶ狭い場所を利用しているので変則的な軌道も少なくて効果的。多くを傷つける効果的な一撃となった。
「押して通るよ!」
この援護を背後にサクラも聖罰刃「ターミナー・レイ」を振るいシオンと並び下る!
そしてついに地下室、踊り場に到着。
「よし。もう銃はいい」
「いたよ、ドリルタンク!」
銃を仕舞い妖刀「村正」を妖しく抜刀。その後ろをサクラが走り踊り場の階段を下る。シオンは面倒だとばかり手すりを越えて飛び降りた。
目指すはキャタピラに巨大ドリルの先端を持つ鋼鉄製の車両、ドリルタンク。
しかし、まだ敵の工兵が地下に残っている。懸命に二人を止めに入る。
この隙にミオレスカ、空蝉、セツナも到着!
「あっ! 動き出しそう!」
「優先的にキャタピラを狙いましょう!」
ミオレスカがタンクの前方に制圧射撃。セツナ、発進する前にと足周りへ突っ込んだ。
『……スペルブレイド』
その横合いからまたしても空蝉、開眼!
瞳の中のシグナルランプが点滅し、突撃する仲間の道を作るべく敵工兵を受け流し地べたに這いつくばらせ自身は流れるように次の敵へと向かい障害排除に専念する。
「装甲の脆弱なポイントを狙え!」
シオンも突っ込んだ。キャタピラ狙いだ。
「逃がさないからね! ヴァリオス侵攻なんて絶対させないよ」
サクラは操縦席を探して敵に取りついたが自律型のようだ。進行方向に飛び降りやはりキャタピラに攻撃する。
その時、セルゲン到着。
「間に合ったか! 頼むな、餅助」
『きゅ!』
相棒に託して自らはタンク後方へ。ユキウサギの餅助、ぴょんぴょんと警戒にヴァリオス方面の壁前に移動すると結界術、紅水晶を展開した。
同時に、がくんとタンクの車体が沈んだ。
「よしっ!」
皆の声が同時に響く。キャタピラ破壊に成功したのだ。
「……何?」
が、予期せぬ出来事が。
一番大きな声を出したのは後方のセルゲンだ。
何とドリルタンク、キャタピラがぼろっとなくなるとモグラのような前肢後肢が出て来て四足歩行に切り替わったのだ。この辺り、ジェットコースターと逆のパターンだ。
とにかくドリルタンク、旋回。後ろの壁に向かってドリルを立てた。セルゲンは予期せぬ展開に吹っ飛ばされた。残りのメンバーも追うが掘った土を後ろに激しく吐き出し防御している。
――ガリガリガリ……。
やがて、掘った土で穴も埋まり追うこともできなくなった。
向かったのはあくまで、ヴァリオスと反対側である。
●ヒズミー&ヒズミンの惨劇
その頃、イスカと怜皇は手を取り合っていた。
「悪の着ぐるみたち、そこまでなのです!」
「子どもたちの夢を壊すなんて許せません、ね!」
着ぐるみマスコットのヒズミーとヒズミンがちびっ子たちと戯れていた時に爆発が起こり、ヒズミーたちの様子が豹変。暴れ出したのだ。
なお、ヒズミーたちは「こんなはずじゃない」な感じのアピールをしている風にも見えたのだが、パニックになった子どもたちに地団駄を踏んでいたようだ。決して子供を襲っていたわけではないのだが、暴れているようにも見えるかもしれないという程度。
そこへばばん、と登場したと怜皇とイスカは毅然として落ち着いてヒーロー然としていた。絆を示すように手をつなぐ余裕も見せたポーズに子供たち支持が集まる!
「ここは俺たちハンターに任せて……」
「みんなは早く安全な場所に。……私が歌ってる間に!」
怜皇のエレキトリックショックに、イスカの皆を落ち着かせる歌を紡ぐ。
何というヒーローショー!
これで完全にヒズミー&ヒズミンは悪役を押し付けられた!
というか、本性を現した。
ヒズミーたちはデルタレイのように三角形を描きその頂点にニンジンを具現化。撃ってきた!
「くっ!」
「ルディ、子供たちは大丈夫? キララ姉さま、こっちです!」
身体を張る怜皇。その隙にイスカはインカムで連絡。
そしてそれはやって来た。
――ばしっ!
誰だ、とは問わないが足元に銃撃を受け頭上を見やるヒズミーたち。
そこに、陽光遮り案内小屋の屋根の上に謎の影いや騎乗の影。
「仮面の黒騎士……悪を滅せと疾く推参!」
目を伏せうつむいた顔を上げたのは、誰が呼んだか仮面の黒騎士いや星輝 Amhranこと……。
「キララ姉さま!」
「悪の戦士ヒズミーズよ、ヌシらの悪行ソコまでじゃぁ! とぉぉぉーぅ!!」
両手を組んできゅん声のイスカの姉、キララその人。いま、騎乗するリーリー「由野」とともに屋根からジャンプ。
三人目の戦士だッ!
「ええい、退くのじゃ!」
蒼機槍「ダチュラ」 をぶん回して着地直後を狙う雑魚係員歪虚をなぎ倒すキララ。イスカ、龍片握って右に付く。運命符の怜皇は左。
決着の予感に子供たちを守っていたユグディラのルヴィが鼻先を上げる。
「いまこそ!」
「三人連携!」
「必殺技じゃーっ!」
それぞれ掲げ、怜皇の呼んだ雷撃が、イスカの生んだ無数の闇の刃が、そしてキララが上空に投じた蒼機槍の光刃が白鳥のように自由に舞い、ヒズミーたちを倒す雨となった!
実はそこで倒れたほかにもヒズミーたちはいた。
すでにキーリが一体と対峙している。いま、ニンジン攻撃を食らった。怒りを溜めるキーリ。
「一匹なのは気に入らないけど、久々に私の全力ってもんを見せてあげるわ!」
ほんきーりんを見られるなんて得したわね、な感じでドヤ顔しつつ聖典「リグ・シャ・ロカ」をグリムリリース。
本という名の薪を心の暖炉に焚べ、護衛にわらわら集まる係員人形歪虚ともども見据えて魔杖「スキールニル」 を振りかざす!
「ピッカピカの新技よ。新技。ほら、今ならタダで見て良いわよ?」
エクステンドキャストったメテオストームはグリムリリースでいつもより特大火力!
――どーん!
ごおうと巻き起こった爆発的な炎の中に揺らぐヒズミーの焦げた影。
そんなマスコットキャラ火ダルマの光景を背に振り返るキーリ。びくっとする、これを見守っていたちびっ子たち。
「……今晩、悪夢にうなされても私のせいじゃないからね?」
キーリ、にたぁ。
ちびっ子たちはちびりそうなくらい震えあがったのち、本気で逃げたという。
「いやぁ……色々ツッコミどころ満載の遊園地だな」
園内上空に枢のグリフォン「ロビン」が到達していた。大型遊具歪虚との戦いはCAM隊&砲撃隊に任せ、三機の背後に隠れてから一気に上昇し上を越えて来たのだ。
で、下を見ると歪虚人形と子供のリアル鬼ごっこ状態。
「遊園地ってのは本来、楽しいもの」
ロビンの手綱を引いて急降下させる。ちびっこに迫っていた作業員歪虚を牽制し逃げる手助け。
さらにヒズミーも一匹ここにいた。滞空させてロビンの足で攻撃するが、メリーゴーランドの馬とティーカップのカップが空を飛んでやって来た。
「へえ、楽しいこともできるじゃねーか」
これに感心した枢だが、すぐにバスターソードを抜刀。囲まれる前にロビンを突っ込ませた!
――ばすっ、ずぱっ!
高速ですり抜け際、ルパイントリガーで左右に剣を振る。
「怖いのはホラーハウスだけで遊園地全体がおっそろしい場所になる必要はねーんだ」
振り返る枢。
赤黒い斬撃の軌跡が残り、斬り付けられたカップや馬がふらふらと高度を下げていた。もちろん、残りの敵が来る。
「ヒズミー一体発見、頼む」
仲間に連絡して改めて迎撃。
下では怜皇、イスカ、キララとキーリがヒズミーを挟撃。
雷が落ち光と闇の刃が舞い、そして火柱が立っていた。
●火付けのYの大仕事
この時、整備棟以外にも屋内突入を仕掛ける者がいた。
「うふふふ~」
ハナである。
「偉い人はぁ、フラフラしてるよりどっしりどこかに構えてる気がするんですよねぇ」
前回偵察した管理棟に突入。狙いは……。
「バルコーネさんも頭から糸出して傀儡化されてるみたいですしぃ、ふらふら園内を歩き回ってる可能性も捨てきれませんけどぉ」
どうやら火付けのYのようで。
しかし、前回発見していた偉そうな人のいる部屋はもぬけの殻だった。
ががん、と立ち尽くすハナ。これを見上げたグデちゃんも見習い、ががんとした顔をする。
「大人しくふんぞり返ってればいいのにぃ。……Yと一緒にドリル歪虚に乗り込まれるのが1番嫌ですぅ。そうじゃないといいなぁって思ってますけどぉ」
急いでほかを探しに行く。グデちゃん、ちょっと遅れたけど急いでついて行く。
「歪虚の仕業だ。支配人が狙われている。どこにいるか知ってるか?」
こちらジャック。手堅く人間の従業員を見つけて胸ぐら掴んで聞いている。
「お、おそらく午後二時の子供たちの入れ替え準備のため園内中央付近かと……」
「サンキュ。よし、行くぞ!」
ペットのイヌイット・ハスキーとともに逃げる人波をかき分ける。
犬を連れてきたのには訳がある。
(……過去に包囲から一瞬で消えたと報告があった)
ジャック自身は見てないのでここからは想像になる。
(歪虚にゃ転移を使うヤツもいるが、十三魔レベルの高位に限られる)
では、十三魔レベルか?
「違うな」
思わず口にして、ニヤリ。
もしそうならなぜ逃げる?
(そこまでの高位にゃ感じねえ。必ず、何か見落としがあるはずだ)
強い意志とともに園中央に行くと、遠く南の戦況を眺めて考え事をしている人形のような肌を持つ男を発見した。黒い服装で手足が長くほっそりした男である。
「あれ、火付けのYだよ!」
ここで小鳥、合流。戦ったことがあるので知っている。
この騒ぎにYが気付き振り向いた。黒く渦を巻いているような瞳を向ける。
「そろそろ此処で仕留めたい所だよね。これ以上、関わり合いになりたい相手でもないしっ」
小鳥、先手を取って近付く。連れのユグディラが援護に幻獣弓を発射。
ここで小鳥とジャック、初めて見た!
何とY、自らの影を直立させて弓を防いだのだ。
いや、身代わりに攻撃を受けたというところか?
影が消えたところに小鳥が詰めて右手の魔剣で斬り付けるが、これは影をかなり前に出して間合いをごまかしていた関係上、簡単にかわされる。ただ小鳥は二刀流。踊るように左の禍炎剣が斬り付けるがこれもかわした。ダンスのような攻撃にYも身を任せ先読みしているようだ。
(影を使ったが、Yの足元に影はあったな)
観察に徹していたジャックだが、ここで動いた!
「これなら読めねぇだろ!」
小鳥の生み出すリズムを崩すように、バスタードソードで力強く切り込んだ。小鳥の華麗な連撃とは明らかに異質な攻撃だ!
――ばしっ!
「何?」
再び偽の影を直立させて身代わりにした。さらにユグディラの矢。これは普通にかわす。
「読めたんだよ!」
一連の流れで、逆にYのリズムを呼んだ小鳥がわざと少し距離を置いた。腰溜めに剣を構える。
「この距離でも私の間合いなんだよ!」
小鳥の発言と構えは明らかに射撃技を示唆していた。
「空間を斬り裂け!」
振り抜くと同時に偽の影を直立させるY。
が、攻撃を受け止めることはできなかった!
「ぐっ!」
「……次元斬だよ!」
小鳥の一撃、偽影を無視してその奥のYを斬った。
「もらった!」
この隙を逃がすジャックではない。
止めとばかりにブラッドバーストで斬り込んだが、その一撃は空を切った。
「何?」
瞳を見開くジャックだが、冷静になれ、とすぐに自分に言い聞かせた。
小鳥の一撃を食った瞬間、Yは身を崩して偽影を解除した。
そして、本物の影とは別に違う影が足元から違う方向にぎゅんと長く伸びていたのを視界の端に捕えていた。
「影、どこまで伸びた?」
「あっちの先だよ!」
聞いたジャックに走り出す小鳥。
そのチェイスの先で……。
「突然なんですかぁ? 目立つ歪虚はブッコロですぅ捩子もYもまとめて滅びろですぅ」
ハナの声ッ!
追った小鳥とジャックが見たのは、突然Yが近くに出現し驚き、近くの雑魚歪虚ともども葬ろうと最大火力のスキルを使おうとするハナの姿だった。
ハナ、複数の符を放ち五色光符陣を発動!
(また逃げるのか?)
ジャックはYの足元、影がどこに伸びるか注視していた。
しかし、伸びない。
一発食った。
「連撃ですよぅ」
ハナ、もう一発!
発した光の中、Yは偽影を自分のすぐ前に張り身代わりにした。何と、無傷。ほかの歪虚はくたっとなっているが。
「まだまだですぅ」
さらに一発!
Y、もう一度偽影。
(身代わり利用は連発できるが逃走の連発はできない?)
「連発の合間を狙うんだよ! 火が好きなら自分が燃えればいいんだよ!」
ジャックが看破する。小鳥も同様に感じ、巻き込まれるのを覚悟で背後を斬り付けに近寄った。紅蓮斬だ!
その、瞬間だったッ!
――どごぉ……ん。ぶしゃーっ!
地下深くから爆発音とともに振動が走り、北の泉から水柱が上がったではないか!
「やった、か。ヴァリオス侵攻はならずとももう一つの目的は果たせたな……」
Y、ここで初めて楽しそうに笑い、しゃべった。
「何ですぅ?」
「どういうことだ?」
ハナが攻撃を止めジャックとともに問う。
「そしてこれが私の真の目的……爆発芸術の完成形だ。そこのお嬢さんの望む通り」
「何するつもりかなっ?!」
Yの言葉に危険を感じ再び紅蓮斬で襲う小鳥。
――ずぱっ!
今度は入った。
が、同時にYが自爆した!
「わっ!」
巻き込まれ吹っ飛ぶ小鳥。倒れたまま動かない。
――どごん、どごぉんどごぉん!
間髪入れず園内各地で爆発炎上が起こった。
何と、安全対策のために園側が手厚く配置していたと思われた消火器が……それ全部が一斉に爆発炎上したのだ。
火付けのYと呼ばれた男の、最期の火付け大仕事である。
同盟ヒズミーランドがあっという間に火の海に沈んだ。
もちろんまだ一般人の避難は終わっていない。阿鼻叫喚の様相を呈する。
「くそっ。しっかりしろ、小鳥」
「納得できないですぅ」
ジャックとハナ、ぐったりする小鳥を運ぶ。ユグディラとグデちゃんが必死に回復を頑張るがすでに重体は確定的。追い込んだ証でもあるが。
●出資者、発見!
「おいおい、マジかよ?」
イジェドに乗ったJが敷地南の塹壕を飛び越え到着した時、まさに大爆発して園内炎上した時だった。
「急ぐぜ、相棒。バルコーネを確保しとけば、Yや他の歪虚の企みも分かるかもしれないからな……絶対逃がせんし歪虚に連れ去られるわけにもいかないだろう?」
幸い、消火器の配置に従って大炎上している。基本的に道に炎そのものがあるわけではない。イジェド、勇敢にJを乗せたまま突入する。
そしてすぐに目当ての人物を発見した。
「子供は逃げ遅れてないか! ……くそう、もうしばらく後なら招待客の入れ替えでこんなところに子供も残っていないのに」
飛び切り人の良さそうな声を張り上げる人物がいた。
J、瞳を凝らすとその人物の頭部から糸のようなものが上に伸びているのが分かった。
「間違いねぇ、あれがバルコーネだ」
殺到し鉄爪を振るって頭上の糸を切る。
「おわっ。何だ、熱いじゃないか! こんなところにはおれぬ。おい、お前。ワシをその後ろに乗せろ!」
バルコーネ、いきなり目つきと言葉遣いが悪くなりJに命令する。
「……言われずともそのつもりだがよ」
こいつ、ここに縛っておいてやろうか、と一瞬実行に移そうとしたがぐっと我慢するJ。よく我慢した。お手柄である。
とにかく北の泉を目指す。
「ほへ?」
屋台広場ではPクレープ号の兵装を解除していた初華が園内爆発炎上に目を丸くしていた。撃ちに行くどころではない!
「避難が先だよ、初華さん! はいは~い。ちっちゃな子や走れない人は乗ってね~っ!」
メルクーアが声を張る。
彼女の魔導トラックはPクレープの物資を運ぶと称して空の木箱を積んで来た。それを下ろした今、大量人員を輸送することができる。次々に乗せてドアを閉めた。
「じゃ、しばらく我慢してね~」
ばうん、とふかして正門に向かうメルクーア。すし詰めにしたので結構な人数が無事に避難できた。
もちろん、炎の中で人形歪虚やスケルトン歪虚はもう我慢する必要はないと襲っている。泣いて座り込む子供と手を焼く親に魔の手が伸びる。
そこに間一髪、デルタレイの光が。
「大丈夫です、慌てないで……私達はハンターですから」
穂積である。杖を振るって身を盾にして戦う。
「あ、ありがとうございます」
「正門を抜けてオアシスへ。そこまで行けば大丈夫です」
穂積、言い切る。
信頼する姿を思い浮かべて。
「あっ。大道芸のお姉ちゃん!」
避難する女の子が声を上げた先には。
「覚えててくれたの? 歪虚はここで食い止めるわ」
ケイが龍矢を構え逃げる人を追う歪虚を制圧射撃で食い止めていた。にゃん子は通る人を見て怪我をしている人を見つけては「げんきににゃ~れ!」で回復に努めている。
そしてケイの食い止めた敵は。
「あは、とんでもないゲリラライブ……刹那、大丈夫?」
歌っては斬り付ける悠月がいた。
特に施設の中を確認して逃げ遅れがないかを気にしている。
聞いた刹那を振り返るが、いつの間にか消えていた。
「はっ!」
何と刹那、壁を足場に高く跳躍していた。
上空にティーカップが浮かんで接近していたのだ。跳躍はそこを狙っていた。
――すたん、どすっ!
着地と同時に禍炎剣を突き刺す。さらに足元に銃撃、銃撃。
ぱりん、と割れたカップから再び姿を現した刹那、そのまま地上に着地。スカートがどうとかは内緒。
もう一匹、空から寄ってきたが……。
「こっちは俺に任せろ!」
ヒズミーを倒した後の要とロビンが到着。着地した刹那を追撃させず蹴散らした。
もちろん、地上では悠月が恋人の前に立ちはだかっていたが。
「……やっぱり、すごいよ」
背中越しに誇らしく言う。
「よぉし、奥にゃもう誰もいねぇぜ」
ここでバルコーネを後ろに乗せたJが通り過ぎた。火勢も強くなっている。
引き上げ時だ。
北の正門ではハンスが出てくる人を待っていた。
「大丈夫ですよみなさん。ここからは安全です。……泉の近くは危険ですからさらに北へ。落ち着いて移動して下さい」
実は消火器の一斉爆発火災は宿泊施設でも発生していた。こちらはその直前の泉の大噴水ですでに火勢は弱まっていたが水浸しだ。また水が吹き上がるか知れたものではないので泉の北側へと誘導している。
そこへ、ききっと魔導トラックの止まる音。
「ハンスさん、泉の向こうに下ろしてきたよ」
メルクーアである。
「ありがとうございます。あちらなら間違いありません」
「じゃ、もう一回行くから」
A1を走らせるメルクーア。初華さんが心配だわ、とか言い残して屋台広場に急ぐ。
実際、目立つ魔導トラックを動かしたので徒歩で避難する人の目印になりやすかった。もちろん、入り乱れる中、周りの人をひいてしまわない運転で難易度の高い行動だったがこれまでの運転歴がものをいった。
ハンスの方は一息ついたが、そこへ。
「て、敵も来た~っ!」
園内からそんな声が耳に入れば即座に移動し、抜刀。
迫っていた人形歪虚を大剣「獄門刀」でばっさりと斬る。
と、そこで顔を上げた。
「ハンスさん! これより南の人は多分全員逃げたと思います」
避難してきた穂積、嬉しそうな顔を見せる。
なお、言葉は少ないが伝えたいことがある。
つまり、後に来るのは敵しかいない、と。
「分かりました、それではマウジーは誘導優先で。私とハーゼで敵を抑えます」
ハンス、言いたいことを理解し頷く。シュハーネーゼと追ってくるであろう敵を迎え撃ちに走る。
「……私ももう少し、頑張る」
その姿を見て元気が出た穂積、可愛らしく握りこぶしを作って頷いた。
●大型遊具歪虚、掃討
「大噴水に……爆発炎上ですか?」
戦線最後方にいたエラ、思わぬ展開に息を飲んでいた。
「思ったより人手がいるかもしれません。七竃、北上です」
味方ユニットが敵と接敵したのを合図に砲撃しながら最終ラインを押し上げていたが、その速度を速めた。最悪、南に人が逃げてくる可能性があると判断したのだ。
「逃げ遅れがないか気になります」
大ダコ歪虚と遠距離戦闘をしていたエルバッハ、モニターに映る大惨事に目を疑った。ここで砲弾を食らって墨を浴びるがスラスターでバランスを取り立ち直る。
そして意を決して前に出た。
いや、敵も南へ強力に前進して来たぞ?
「望むところです」
エルバッハ、ウィザードのM・CAMダガーを抜いて……体ごとタコの前進を受け止めた。
――ががが……。
地に足を付き止めようと踏ん張る。もちろんダガーは刺さっている。それでも敵は前進をやめないが……。
――ぴた、ずずぅん。
「射撃でかなわないと思ったのでしょうか? ですが追加装甲版がありますしね」
ウィザード、無事だ。
一方、ウーナのラジエルは自由を舞うバラのように戦っていた。
「噂は聞いたけど、こんな物騒な事してたんだ」
二挺銃で多数のレールゲジゲジと戦っていた。
「……つまり暴れ放題の夢の国だね」
もともとエルバッハの重厚なウィザードと対照的にシンプルなシルエットで軽量。
対して敵は都市攻略を想定してか長射程武器を体に装備した細長い体型。接近されると小回りが全くできない。
もちろん、射撃攻撃では当たり判定が少ないので苦労するはずなのだが、ウーナはゼロ距離射撃狙いを迷うことなく選択していた。
「CAMで青竜紅刃流やるための機体にこんなの敵じゃないね!」
乱戦大好き、といわんばかりにスラスターで突っ込んでかく乱し、銃口を押し付けるように近付けてズドン。敵の小回りのしにくさもあって圧倒している。
「微妙に虫型なのが嫌ですねぇ……と、はわわわ!? ち、近付いてくるのは禁止ですよぉ!」
あおりを食ったのは小太。
下がりながらムカデ歪虚を射撃し、ウーナやエルバッハの方に方向転換しようとすれば近付き撃っていた。もちろん、エラの七竃からの砲撃もここに集中していた。
おかげですでにムカデの外装はかなり剥がれジェットコースターの形にもどっていた。
そこで、園の爆発炎上。
敵の体力も危険域を迎えたのか微妙な位置取りから一気に南下して来た。
「き、近接対応もありはしますがぁ…!?」
小太、やむなくプラズマカッター。
ムカデの突進を斬り付けていなした。
ただし、抜かれた後は小太も強気!
「離れてしまえば問題ないですよぉ」
再び銃に換装。
敵の背後から撃つ!
迫力ある射撃を見せる。
「まずは三散……そして三烈。穿て、瞬光!」
抜かれた敵の正面にはエラがいた。デルタレイを基にしたスキルは、手数重視と一撃必殺の二種類。敵が複数命中する大きさなのでどんどん撃っていく。
ただ、すぐに横に避難。
理由は明快。
さらに後方の七竃が炸裂弾を水平発射したのだ。
――どぅん……ばしっ、ばしっ。
くわえて背後からの小太の射撃。
これで暴走ジェットコースターのムカデは息絶えた。
「……エラさん、助かりましたよぅ」
「何よりです。最後、敵はヒズミーランドを守るというよりヴァリオス侵攻に切り替えたような動きでしたね」
小太からの感謝の連絡に、エラは最後方から観察していた手ごたえを話すのだった。
●魔法協会にて、後日
「二時に決行すれば被害はもう少し抑えられたじゃろうの」
「それにしても、ヴァリオス侵攻と泉の精霊、そして集まった人を施設ごと爆破炎上、か」
「ヴァリオス侵攻だけは阻止できたがの」
お偉方が報告書に目を通していた。
「それと、火付けのYの撃破……自爆じゃが、これが大きいな」
「火付けのテロに遭う可能性がぐっと減る」
「バルコーネ氏の救出も、かの。これで聞き込みができる」
評価点に目を細める。バルコーネ氏はこの直後に雲隠れするが。
「しかし、泉とオアシスは豹変したの」
「伝説の通り、精霊はいたのだろう。地下水脈辺りに。そこでドリルタンクが爆発して精霊が消滅したとしか考えられん」
オアシスの緑は失われ、泉は沼と化していた。いずれ枯れると判断されている。
「それならなぜドリルタンクは別のほうを向いていた?」
「オアシスの方を向いてりゃ精霊に気付かれるかもしれんからかの?」
その辺は、不明。
不明なだけにハンターの責任ではないと判断された。
「消火器の仕掛けは……まさかじゃったの」
とにかく、不穏な巨大歪虚集積基地を排除することに成功した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 メルクーア(ka4005) ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/12/13 01:01:43 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/13 05:47:55 |
|
![]() |
【質問】教えて初華おねーさん♪ 狐中・小鳥(ka5484) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/12/12 13:35:01 |