ゲスト
(ka0000)
【CF】マグノリアクッキーの2人の客M.
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/17 12:00
- 完成日
- 2017/12/25 23:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある日
精輝節。広場で催しが開かれ街の彼方此方も賑やかに飾られて。
市場にも、この時期独特の装飾品やケーキを売る屋台が出ている。
勿論、ここ、洋菓子店マグノリアクッキージェオルジ支店も、それに倣ってピスタチオの緑とフレーズの赤をあしらうマカロンを並べていたりもする。
店に設けられた喫茶スペースの、3つだけのテーブル。
その1番奥が、どうやら今日は、酷く静かだ。
●
向かい合って座る2人の男性、20手前だろうか、片方は短く刈った黒髪、もう片方は癖の強い赤毛。
2人のテーブルにはコーヒーカップが2つだけ置かれている。
短髪の方が、深い溜息を吐いた。
「あー、決まらねぇ……」
それに相槌を打つ赤毛の青年。
「なあ、女って何が好きなんだよ」
それそれ首を横に振って、項垂れ、天井を仰いで、また、溜息を吐く。
華やいだ季節に似つかわしくない、憂鬱そうな表情で肩を落としている。
「ホントだよ。何がプレゼント交換でダブルデートだよ……お前決まった」
肘を天板に突いて、組んだ指で口許を隠して、短髪の青年が目だけを向かいに座る友人に向ける。
「決まるわけないだろ。もうさ、適当に……適当に……あの辺の菓子とかでいいんじゃね?」
赤毛の青年は苛立ったように答えて、店の販売コーナーを振り向いた。
焼き菓子を包んだ色取り取りの包みが並んでいる。
ポピュラーな物から、季節限定の物まで様々だ。大きさも、手に乗る物から抱えるほどの物まで揃っている。
「あの辺って、……どの辺だよ」
友人にそこを突っ込まれると、赤毛の青年は小さく唸って黙り込んだ。
「…………あー、彼奴等絶対気合入れてくるよな」
だよなあ、と、同意の声。
「何着てくるんだろうな」
さあな、と。そして、何度目かの溜息を吐きながら、
「……俺等は?」
そう尋ねれば、友人はひらりと手を揺らし、こう答える。
「……さあ?」
からんと店のベルが鳴った。
どうやら新たな来客らしい。
悩める2人の目が、そちらへ向いて、じっと彼等を見詰めた。
精輝節。広場で催しが開かれ街の彼方此方も賑やかに飾られて。
市場にも、この時期独特の装飾品やケーキを売る屋台が出ている。
勿論、ここ、洋菓子店マグノリアクッキージェオルジ支店も、それに倣ってピスタチオの緑とフレーズの赤をあしらうマカロンを並べていたりもする。
店に設けられた喫茶スペースの、3つだけのテーブル。
その1番奥が、どうやら今日は、酷く静かだ。
●
向かい合って座る2人の男性、20手前だろうか、片方は短く刈った黒髪、もう片方は癖の強い赤毛。
2人のテーブルにはコーヒーカップが2つだけ置かれている。
短髪の方が、深い溜息を吐いた。
「あー、決まらねぇ……」
それに相槌を打つ赤毛の青年。
「なあ、女って何が好きなんだよ」
それそれ首を横に振って、項垂れ、天井を仰いで、また、溜息を吐く。
華やいだ季節に似つかわしくない、憂鬱そうな表情で肩を落としている。
「ホントだよ。何がプレゼント交換でダブルデートだよ……お前決まった」
肘を天板に突いて、組んだ指で口許を隠して、短髪の青年が目だけを向かいに座る友人に向ける。
「決まるわけないだろ。もうさ、適当に……適当に……あの辺の菓子とかでいいんじゃね?」
赤毛の青年は苛立ったように答えて、店の販売コーナーを振り向いた。
焼き菓子を包んだ色取り取りの包みが並んでいる。
ポピュラーな物から、季節限定の物まで様々だ。大きさも、手に乗る物から抱えるほどの物まで揃っている。
「あの辺って、……どの辺だよ」
友人にそこを突っ込まれると、赤毛の青年は小さく唸って黙り込んだ。
「…………あー、彼奴等絶対気合入れてくるよな」
だよなあ、と、同意の声。
「何着てくるんだろうな」
さあな、と。そして、何度目かの溜息を吐きながら、
「……俺等は?」
そう尋ねれば、友人はひらりと手を揺らし、こう答える。
「……さあ?」
からんと店のベルが鳴った。
どうやら新たな来客らしい。
悩める2人の目が、そちらへ向いて、じっと彼等を見詰めた。
リプレイ本文
●
向けられた視線を躱すようにショップ側のテーブルに着いたネーナ・ドラッケン(ka4376)とグラディート(ka6433)。
「メニュー、貰えるかな」
「はい、姉さん」
差し出されたメニューボードを傾けて、さらりと視線を巡らせる。注文を決めてグラディートに渡そうとした時にまたドアのベルが鳴った。
初めて来た店の明るい内装や甘い匂いに期待しながら、ステラ・フォーク(ka0808)は、久しぶりに見かけた友人に笑顔を向けて会釈を、空いていた中央のテーブルに向かう。椅子に掛けてメニューへ手を伸ばし、指で辿りながら首を傾げた。
「んー。どれにしようかしら……」
暫く迷ってから、店員に声を掛ける。
「ティータイムセットお願いできるかしら」
飲み物とパウンドケーキも選んで伝え、畏まりましたと頭を下げた店員にお願いしますといった時、カランとベルの音を聞いた。
ステラの向かいだけが空いた店内に、相席の可否が尋ねられる。
どうぞと伝えると、根国・H・夜見(ka7051)を案内して店員はキッチンへ戻って行った。
「あら、いいわね。一緒に頼みましょうか」
グラディートにメニューを差し出しながら、ティータイムのセットにすると告げたステラに、グラディートはペアセットを提案する。
2人分のティータイムセットに季節のクッキーがそれぞれ追加されるのは魅力だが、1人で食べるには多すぎる。
「ネーナ姉さんが乗ってくれて良かったよ、僕はアップルにしようかな」
グラディートが店員を呼んで注文を済ませる。
ステラに礼を告げて席に着いた根国は、メニューを見ながら唸っていた。
「いやー、どれも美味しそうっスねー……目移りしちゃうっスー」
全部と行きたいところだが、財布が心許ない。
メニューボードを両手で掴んでじっと見詰める。
どうして食べ物は食べたら無くなるのだろう。項垂れるように呟いて、店員に声を掛けながら、店員が側に来てからも、注文する寸前まで悩んでから、思い切った声でオーダーを。
●
最初に運ばれてきたのはステラの頼んだティータイムセット。
トレイから下ろされた白いプレート、黄色い断面に覗く林檎は火が入って、薄く色付いて透き通り、添えられたクリームにも小さく切った林檎が覗く。クリームに乗った小さなミントの緑が鮮やかに目を惹いた。
傍らに置かれたティーポットとカップ、小さなミルクピッチャーとシュガーポット。
それから格子と渦巻きのアイスボックスクッキー、プレーンとカカオの二種の生地を重ねて模様を作り、冷やし固めた物をスライスして焼いた、軽い食感のクッキーを一掴みほど乗せた皿に添えられる。
美味しそう、と瞬いてポットに手を伸ばす。
白磁のカップに注いだ紅茶は、淡い金のリングを縁に作る深い紅の水色でカップを満たし、温かな湯気を立てて静かに香る。
一口カップを傾ける。
ジェオルジで作られている物なのだろうか、酸味を控えた円やかな味と果実のような香りが広がる。
向かいの根国にも同じケーキとクッキー、大きなマグカップに注がれた温かなカフェオレが運ばれてくる。
外の寒さに冷えた指を温めるように両手でマグカップを持ち、どちらから食べようか、追加で頼んだもう1つのケーキとクッキーを待とうかと、心を弾ませる。
パウンドケーキの皿を2つ、ドリンクのカップを2つ。
店員がそれぞれ確かめながらネーナとグラディートの前へ置く。
グラディートは目の前に置かれた白いマグカップと、林檎のパウンドケーキに目を細めた。
ケーキの傍に置かれた丸いクッキーは、その形が歪むほどチョコチップが混ぜられている。
橙色や黄色の果皮が細かく刻まれて生地を明るく鮮やかに、表面に覗く僅かに解けて焦げた大粒のチョコチップが誘う様に。
姉さん、食べようとグラディートが声を掛けて、2人の間に置かれた篭に盛られたアイスボックスクッキーに手を伸ばした。
それからすぐに、分けて食べようと誘ったナッツのパウンドケーキ、零れるほどのナッツが混ざったケーキが半分にカットして盛り付けられ、同じプレートの両側にチョコレートソースでハートが描かれている。
根国の元へも、追加のクッキーとケーキが運ばれてくる。
季節のクッキーに合わせた、季節のパウンドケーキは甘酸っぱい香りがふわりと広がり、照明で表面を艶やかに溶かすレモンのシャーベットとオランジェットが添えられている。
いい香り、と喉が鳴って目が輝く。
きらきらと鮮やかな赤い双眸で並べられた二つのケーキを見比べて、丸いクッキーと小さなクッキーにも彷徨わせる。
しかし、まずは林檎から。
「頂くっスー」
フォークで切り取ったケーキにクリームを付けてぱくりと食む。
しっとりと焼けた甘い生地、食感を残す甘い林檎、クリームが蕩けて生の林檎の瑞々しさ。
口一杯に林檎の香が広がって思わず満面の笑みを浮かべる。
「ああ……やっぱり果物は美味しいっスねー……」
溶けるようなケーキの柔らかさに、しゃりっとした歯応えとじわっと広がる甘さが絶妙に。
それからクッキーと、もう1つのケーキ。
この冷えた季節の柑橘は旬らしく味が良い、一口齧ったクッキーはさっくりと柔らかく、かりっとしたチョコレートの甘さと香りにもよく調和している。
どれから食べようかとグラディートが悩みながら、ネーナに視線を向けた。
ネーナの指が籠のクッキーへ伸ばされた。
何かを気にしたような挙措に視線を追えば1つ隔てた席の男性客を一瞥した目がグラディートに戻る。
「プレゼント一つ自分で選べないというのは……」
「こう、今時のお兄さんたちだよねー」
思わず、といった様子で零れたネーナの言葉ににこりと微笑みながら眉を下げて、グラディートもクッキーを摘まんだ。
ネーナが渦巻きを摘まむとお揃いと笑って同じ模様を、さくっと軽い食感に、美味しいねと笑う。
ナッツのパウンドケーキを2人の間へ、分けやすく切られてチョコレートソースもそれぞれに添えられたケーキに、どっちが良いと尋ねると、ネーナが選ぶのを待つ間カフェオレを一口、二口。
先客の2人が気になったのはステラも同様で、半分ほど食べたケーキをそのまま、カップも置いて声を掛ける機を覗っている。
●
「あの。少しいいですか? お話に口を挟んでしまってごめんなさい」
ステラが彼等の方へ身体を向けて声を掛けた。
悩む声が聞こえてしまって、と言えば2人の客は顔を見合わせて頷いた。
「僕で良ければお話し聞くよー」
ステラの隣から覗き込むように、グラディートも声を掛け、ステラとネーナに視線を向けた。
少年の言葉に少し安堵したらしく2人は悩みをぽつりぽつりと零すように打ち明けた。
曰く、精輝節にダブルデート、はしゃいでいる互いの恋人達、プレゼントも服も決まっていない自分達。
「ちなみに、予算はいくらぐらい?」
彼等の言葉を頷きながら聞いていたグラディートが尋ねると、2人はそれぞれ同じ金額を、恋人への贈り物として多くも少なくも無い額を答えた。
それくらいだと、と考えながら、グラディートは女性3人に、女性ならどう思うと目配せを。
ネーナは2人に退屈そうな目を向けた。
関わるつもりは無かったが、友人や、弟のように思っているグラディートが助けるというなら、吝かでは無いと溜息交じりに口を開く。
「その女性の趣味は? 好きなことは。色や形、なんでもいいよ」
ネーナの言葉に2人はぽつり、ぽつりと答え始め、次第にその言葉は止め処なく。
「彼女たちがそれを貰って微笑む顔を思い浮かべれば、自然に出てくるんじゃないか」
趣味は2人とも店を巡ったり甘いものを食べたり、新しい店を探すのが好きだったり、いつもの店で長々と喋り続けたり。
色はピンクと赤、それから薄い水色に、太陽の黄色。形は揃ってハートと言った。
分かっているじゃないかとネーナが呟き、グラディートがくすくすと笑っている、
「プレゼントを贈るのでしたら、小物かお菓子が丁度いいかしら。例えば耳飾りや髪飾り、とか」
それなら、色も形も探しやすい。
「防寒具をチョイスしてもよいと思いますわね」
もう少し細かな好み、柄や質、それからサイズを知っているならと、ステラが提案する。
それは少し難しそうだと揃って首を横に振った。
「花も素敵ですわね。二、三本包んでもらって……」
「好きな相手から花を貰って気を悪くする女性はそんないないから。今の季節ならストックがオススメ」
花房の多いストックなら数本でも見栄えはするだろう。
それに、花言葉もいい。
「愛情の絆。覚えておいてもいいんじゃないかな」
2人が尊敬の眼差しでステラとネーナを見詰める。
シャーベットを味わって、美味しいと幸せそうに頬を蕩けさせていた根国は、不意に視線を向けられ目を瞠った。
「自分惚れた腫れたはあんまり分からないっスけどー……」
話す声だけは聞こえていたが、ついつい食べる方に夢中になって仕舞ったと、スプーンを手放さずに。
尚も向けられる目にそれを置くと、そうっスね、と小さく呟いた。
「2人の思い出の中で、一番強く印象に残ってるものとか、相手も喜ぶんじゃないっスかねー」
思い出なら、とグラディートが手を振るように呼び掛けて提案する
「お安めだけど可愛らしいアクセを売ってる店を先に見ておいて、彼女さんに似合いそうなのをピックアップしておくといいよ? 迷いすぎて選べなかったから、一緒に選んでもらえないか?……ってデート先を一つ追加するってのはどうかな?」
グラディートが首を傾げる。
「ここの一緒に選ぶってのがポイントだよ?」
「きっと、自然と話しに花が咲くとも思うっスよー?」
一緒に選ぶのなら、と頷きながら根国はシャーベットに戻る。
少し冷えた口に未だ温かいカフェオレはとても美味しい。
恋人達の好みの色と形のアクセサリー、ストックの花束、一緒に選べて思い出になりそうなデート先を追加。
2人の考えが纏まったところ、ふと思い出したというようにグラディートが装いについて、清潔感の有る物と勧める。分かったと答えた2人は礼を言って腰を浮かす。
早速店を探して、花屋の目星を付けに行くらしい。
●
2人の去った店内、残った4人はそれぞれのケーキやクッキーを食べながら、話を弾ませる。
「ボクはネーナ。ネーナ・ドラッケンだ。よろしく……ディ」
「僕はグラディート、ネーナ姉さんの親戚だよー」
初対面だったかなと、改めてネーナが根国に名乗り、向かいのグラディートにも促す。
「よろしくっス……クッキー美味しいっスね、オレンジの香りもいいっスけど、こっちの甘すぎない味と可愛い見た目が素敵っス」
どれが気に入ったスか、と話が弾んで、偶然同じ物を頼んでいたらしいステラとも感想を話し込んで。
穏やかな昼下がり、友人とお茶をする機会、というのはかけがえの無い時間だと思うと、ネーナはカップを手に瞼を伏せる。
「そうですわね……」
いつ以来でしょうか、とステラが答えはたと瞬いて扉の方へ目を向けた。
ここのクッキーを恋人さんと、と、勧めても良かったかも知れない。思い付いてから首を傾がせる。
甘い物が好きだと言っていた彼等の恋人達は、もしかしたら行きつけにしているかも知れない。
伝票を手に席を立って、会計のカウンターに置かれたクッキーのギフト。
精輝節の色のリボンをあしらわれたそれは、季節のクッキーと、アイスボックスクッキーの詰め合わせ。
兄弟への土産に、或いは大切な人への贈り物に。1つずつ手にとって、会計に添えることにした。
向けられた視線を躱すようにショップ側のテーブルに着いたネーナ・ドラッケン(ka4376)とグラディート(ka6433)。
「メニュー、貰えるかな」
「はい、姉さん」
差し出されたメニューボードを傾けて、さらりと視線を巡らせる。注文を決めてグラディートに渡そうとした時にまたドアのベルが鳴った。
初めて来た店の明るい内装や甘い匂いに期待しながら、ステラ・フォーク(ka0808)は、久しぶりに見かけた友人に笑顔を向けて会釈を、空いていた中央のテーブルに向かう。椅子に掛けてメニューへ手を伸ばし、指で辿りながら首を傾げた。
「んー。どれにしようかしら……」
暫く迷ってから、店員に声を掛ける。
「ティータイムセットお願いできるかしら」
飲み物とパウンドケーキも選んで伝え、畏まりましたと頭を下げた店員にお願いしますといった時、カランとベルの音を聞いた。
ステラの向かいだけが空いた店内に、相席の可否が尋ねられる。
どうぞと伝えると、根国・H・夜見(ka7051)を案内して店員はキッチンへ戻って行った。
「あら、いいわね。一緒に頼みましょうか」
グラディートにメニューを差し出しながら、ティータイムのセットにすると告げたステラに、グラディートはペアセットを提案する。
2人分のティータイムセットに季節のクッキーがそれぞれ追加されるのは魅力だが、1人で食べるには多すぎる。
「ネーナ姉さんが乗ってくれて良かったよ、僕はアップルにしようかな」
グラディートが店員を呼んで注文を済ませる。
ステラに礼を告げて席に着いた根国は、メニューを見ながら唸っていた。
「いやー、どれも美味しそうっスねー……目移りしちゃうっスー」
全部と行きたいところだが、財布が心許ない。
メニューボードを両手で掴んでじっと見詰める。
どうして食べ物は食べたら無くなるのだろう。項垂れるように呟いて、店員に声を掛けながら、店員が側に来てからも、注文する寸前まで悩んでから、思い切った声でオーダーを。
●
最初に運ばれてきたのはステラの頼んだティータイムセット。
トレイから下ろされた白いプレート、黄色い断面に覗く林檎は火が入って、薄く色付いて透き通り、添えられたクリームにも小さく切った林檎が覗く。クリームに乗った小さなミントの緑が鮮やかに目を惹いた。
傍らに置かれたティーポットとカップ、小さなミルクピッチャーとシュガーポット。
それから格子と渦巻きのアイスボックスクッキー、プレーンとカカオの二種の生地を重ねて模様を作り、冷やし固めた物をスライスして焼いた、軽い食感のクッキーを一掴みほど乗せた皿に添えられる。
美味しそう、と瞬いてポットに手を伸ばす。
白磁のカップに注いだ紅茶は、淡い金のリングを縁に作る深い紅の水色でカップを満たし、温かな湯気を立てて静かに香る。
一口カップを傾ける。
ジェオルジで作られている物なのだろうか、酸味を控えた円やかな味と果実のような香りが広がる。
向かいの根国にも同じケーキとクッキー、大きなマグカップに注がれた温かなカフェオレが運ばれてくる。
外の寒さに冷えた指を温めるように両手でマグカップを持ち、どちらから食べようか、追加で頼んだもう1つのケーキとクッキーを待とうかと、心を弾ませる。
パウンドケーキの皿を2つ、ドリンクのカップを2つ。
店員がそれぞれ確かめながらネーナとグラディートの前へ置く。
グラディートは目の前に置かれた白いマグカップと、林檎のパウンドケーキに目を細めた。
ケーキの傍に置かれた丸いクッキーは、その形が歪むほどチョコチップが混ぜられている。
橙色や黄色の果皮が細かく刻まれて生地を明るく鮮やかに、表面に覗く僅かに解けて焦げた大粒のチョコチップが誘う様に。
姉さん、食べようとグラディートが声を掛けて、2人の間に置かれた篭に盛られたアイスボックスクッキーに手を伸ばした。
それからすぐに、分けて食べようと誘ったナッツのパウンドケーキ、零れるほどのナッツが混ざったケーキが半分にカットして盛り付けられ、同じプレートの両側にチョコレートソースでハートが描かれている。
根国の元へも、追加のクッキーとケーキが運ばれてくる。
季節のクッキーに合わせた、季節のパウンドケーキは甘酸っぱい香りがふわりと広がり、照明で表面を艶やかに溶かすレモンのシャーベットとオランジェットが添えられている。
いい香り、と喉が鳴って目が輝く。
きらきらと鮮やかな赤い双眸で並べられた二つのケーキを見比べて、丸いクッキーと小さなクッキーにも彷徨わせる。
しかし、まずは林檎から。
「頂くっスー」
フォークで切り取ったケーキにクリームを付けてぱくりと食む。
しっとりと焼けた甘い生地、食感を残す甘い林檎、クリームが蕩けて生の林檎の瑞々しさ。
口一杯に林檎の香が広がって思わず満面の笑みを浮かべる。
「ああ……やっぱり果物は美味しいっスねー……」
溶けるようなケーキの柔らかさに、しゃりっとした歯応えとじわっと広がる甘さが絶妙に。
それからクッキーと、もう1つのケーキ。
この冷えた季節の柑橘は旬らしく味が良い、一口齧ったクッキーはさっくりと柔らかく、かりっとしたチョコレートの甘さと香りにもよく調和している。
どれから食べようかとグラディートが悩みながら、ネーナに視線を向けた。
ネーナの指が籠のクッキーへ伸ばされた。
何かを気にしたような挙措に視線を追えば1つ隔てた席の男性客を一瞥した目がグラディートに戻る。
「プレゼント一つ自分で選べないというのは……」
「こう、今時のお兄さんたちだよねー」
思わず、といった様子で零れたネーナの言葉ににこりと微笑みながら眉を下げて、グラディートもクッキーを摘まんだ。
ネーナが渦巻きを摘まむとお揃いと笑って同じ模様を、さくっと軽い食感に、美味しいねと笑う。
ナッツのパウンドケーキを2人の間へ、分けやすく切られてチョコレートソースもそれぞれに添えられたケーキに、どっちが良いと尋ねると、ネーナが選ぶのを待つ間カフェオレを一口、二口。
先客の2人が気になったのはステラも同様で、半分ほど食べたケーキをそのまま、カップも置いて声を掛ける機を覗っている。
●
「あの。少しいいですか? お話に口を挟んでしまってごめんなさい」
ステラが彼等の方へ身体を向けて声を掛けた。
悩む声が聞こえてしまって、と言えば2人の客は顔を見合わせて頷いた。
「僕で良ければお話し聞くよー」
ステラの隣から覗き込むように、グラディートも声を掛け、ステラとネーナに視線を向けた。
少年の言葉に少し安堵したらしく2人は悩みをぽつりぽつりと零すように打ち明けた。
曰く、精輝節にダブルデート、はしゃいでいる互いの恋人達、プレゼントも服も決まっていない自分達。
「ちなみに、予算はいくらぐらい?」
彼等の言葉を頷きながら聞いていたグラディートが尋ねると、2人はそれぞれ同じ金額を、恋人への贈り物として多くも少なくも無い額を答えた。
それくらいだと、と考えながら、グラディートは女性3人に、女性ならどう思うと目配せを。
ネーナは2人に退屈そうな目を向けた。
関わるつもりは無かったが、友人や、弟のように思っているグラディートが助けるというなら、吝かでは無いと溜息交じりに口を開く。
「その女性の趣味は? 好きなことは。色や形、なんでもいいよ」
ネーナの言葉に2人はぽつり、ぽつりと答え始め、次第にその言葉は止め処なく。
「彼女たちがそれを貰って微笑む顔を思い浮かべれば、自然に出てくるんじゃないか」
趣味は2人とも店を巡ったり甘いものを食べたり、新しい店を探すのが好きだったり、いつもの店で長々と喋り続けたり。
色はピンクと赤、それから薄い水色に、太陽の黄色。形は揃ってハートと言った。
分かっているじゃないかとネーナが呟き、グラディートがくすくすと笑っている、
「プレゼントを贈るのでしたら、小物かお菓子が丁度いいかしら。例えば耳飾りや髪飾り、とか」
それなら、色も形も探しやすい。
「防寒具をチョイスしてもよいと思いますわね」
もう少し細かな好み、柄や質、それからサイズを知っているならと、ステラが提案する。
それは少し難しそうだと揃って首を横に振った。
「花も素敵ですわね。二、三本包んでもらって……」
「好きな相手から花を貰って気を悪くする女性はそんないないから。今の季節ならストックがオススメ」
花房の多いストックなら数本でも見栄えはするだろう。
それに、花言葉もいい。
「愛情の絆。覚えておいてもいいんじゃないかな」
2人が尊敬の眼差しでステラとネーナを見詰める。
シャーベットを味わって、美味しいと幸せそうに頬を蕩けさせていた根国は、不意に視線を向けられ目を瞠った。
「自分惚れた腫れたはあんまり分からないっスけどー……」
話す声だけは聞こえていたが、ついつい食べる方に夢中になって仕舞ったと、スプーンを手放さずに。
尚も向けられる目にそれを置くと、そうっスね、と小さく呟いた。
「2人の思い出の中で、一番強く印象に残ってるものとか、相手も喜ぶんじゃないっスかねー」
思い出なら、とグラディートが手を振るように呼び掛けて提案する
「お安めだけど可愛らしいアクセを売ってる店を先に見ておいて、彼女さんに似合いそうなのをピックアップしておくといいよ? 迷いすぎて選べなかったから、一緒に選んでもらえないか?……ってデート先を一つ追加するってのはどうかな?」
グラディートが首を傾げる。
「ここの一緒に選ぶってのがポイントだよ?」
「きっと、自然と話しに花が咲くとも思うっスよー?」
一緒に選ぶのなら、と頷きながら根国はシャーベットに戻る。
少し冷えた口に未だ温かいカフェオレはとても美味しい。
恋人達の好みの色と形のアクセサリー、ストックの花束、一緒に選べて思い出になりそうなデート先を追加。
2人の考えが纏まったところ、ふと思い出したというようにグラディートが装いについて、清潔感の有る物と勧める。分かったと答えた2人は礼を言って腰を浮かす。
早速店を探して、花屋の目星を付けに行くらしい。
●
2人の去った店内、残った4人はそれぞれのケーキやクッキーを食べながら、話を弾ませる。
「ボクはネーナ。ネーナ・ドラッケンだ。よろしく……ディ」
「僕はグラディート、ネーナ姉さんの親戚だよー」
初対面だったかなと、改めてネーナが根国に名乗り、向かいのグラディートにも促す。
「よろしくっス……クッキー美味しいっスね、オレンジの香りもいいっスけど、こっちの甘すぎない味と可愛い見た目が素敵っス」
どれが気に入ったスか、と話が弾んで、偶然同じ物を頼んでいたらしいステラとも感想を話し込んで。
穏やかな昼下がり、友人とお茶をする機会、というのはかけがえの無い時間だと思うと、ネーナはカップを手に瞼を伏せる。
「そうですわね……」
いつ以来でしょうか、とステラが答えはたと瞬いて扉の方へ目を向けた。
ここのクッキーを恋人さんと、と、勧めても良かったかも知れない。思い付いてから首を傾がせる。
甘い物が好きだと言っていた彼等の恋人達は、もしかしたら行きつけにしているかも知れない。
伝票を手に席を立って、会計のカウンターに置かれたクッキーのギフト。
精輝節の色のリボンをあしらわれたそれは、季節のクッキーと、アイスボックスクッキーの詰め合わせ。
兄弟への土産に、或いは大切な人への贈り物に。1つずつ手にとって、会計に添えることにした。
依頼結果
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談 ステラ・フォーク(ka0808) 人間(リアルブルー)|12才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/12/16 23:59:19 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/13 23:39:00 |