ゲスト
(ka0000)
【CF】マグノリアクッキーの2人の客F.
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/20 07:30
- 完成日
- 2017/12/27 22:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある日、その翌日
精輝節。広場で催しが開かれ街の彼方此方も賑やかに飾られて。
市場にも、この時期独特の装飾品やケーキを売る屋台が出ている。
勿論、ここ、洋菓子店マグノリアクッキージェオルジ支店も、それに倣ってピスタチオの緑とフレーズの赤をあしらうマカロンを並べていたりもする。
店に設けられた喫茶スペースの、3つだけのテーブル。
その1番奥が、どうやら今日は、いつにも増して賑やかだ。
●
向かい合って座る2人の女性、20手前だろうか、片方は2つに括った金髪、もう片方は長く伸ばした黒髪。
2人のテーブルには、ジュースのグラスとケーキとクッキーの皿がそれぞれに置かれ、中央にアイスボックスクッキーを盛った籠が置かれている。
ツインテールの少女がクッキーを摘まんで楽しそうに喋る。
「ねえねえ、プレゼント決まった?」
黒髪の少女もクッキーに手を伸ばして首を振った。
「うーん、まだぁ。迷っちゃって。やっぱり、お揃いのカップとか、マフラーとか、一緒に使える物が良いかなって思うんだけど、お店に行くと迷っちゃってー」
目をきらきらとさせながら何度も頷いて、括った髪を跳ねさせている。
「だよね、だよねー、私も、手袋とかセーターとか、暖かい物にしようかなって考えてたんだけどー」
「ねー、暖かい物が良いよね」
ねー、と揃った声に2人で笑う。
「でも店で並んでるの見ちゃうと、迷っちゃうんだよね。すごい可愛いキーホルダー見付けてさー、あと、格好いい万年筆、それから、お財布とか、時計とか……ちょっと高いんだけど、折角の精輝節だし……」
あれも、これも。ああ、当日が楽しみだ。
しかし、
「ダブルデートだしー、楽しみだしー、迷うよねー。あとさー、何着てこう?」
「あー、もうっ、悩みごと増やさないでよ!」
楽しい悩みごとの尽きる気配は無い。
からんと店のベルが鳴った。
どうやら新たな来客らしい。
悩める2人の目が、そちらへ向いて、じっと彼等を見詰めた。
精輝節。広場で催しが開かれ街の彼方此方も賑やかに飾られて。
市場にも、この時期独特の装飾品やケーキを売る屋台が出ている。
勿論、ここ、洋菓子店マグノリアクッキージェオルジ支店も、それに倣ってピスタチオの緑とフレーズの赤をあしらうマカロンを並べていたりもする。
店に設けられた喫茶スペースの、3つだけのテーブル。
その1番奥が、どうやら今日は、いつにも増して賑やかだ。
●
向かい合って座る2人の女性、20手前だろうか、片方は2つに括った金髪、もう片方は長く伸ばした黒髪。
2人のテーブルには、ジュースのグラスとケーキとクッキーの皿がそれぞれに置かれ、中央にアイスボックスクッキーを盛った籠が置かれている。
ツインテールの少女がクッキーを摘まんで楽しそうに喋る。
「ねえねえ、プレゼント決まった?」
黒髪の少女もクッキーに手を伸ばして首を振った。
「うーん、まだぁ。迷っちゃって。やっぱり、お揃いのカップとか、マフラーとか、一緒に使える物が良いかなって思うんだけど、お店に行くと迷っちゃってー」
目をきらきらとさせながら何度も頷いて、括った髪を跳ねさせている。
「だよね、だよねー、私も、手袋とかセーターとか、暖かい物にしようかなって考えてたんだけどー」
「ねー、暖かい物が良いよね」
ねー、と揃った声に2人で笑う。
「でも店で並んでるの見ちゃうと、迷っちゃうんだよね。すごい可愛いキーホルダー見付けてさー、あと、格好いい万年筆、それから、お財布とか、時計とか……ちょっと高いんだけど、折角の精輝節だし……」
あれも、これも。ああ、当日が楽しみだ。
しかし、
「ダブルデートだしー、楽しみだしー、迷うよねー。あとさー、何着てこう?」
「あー、もうっ、悩みごと増やさないでよ!」
楽しい悩みごとの尽きる気配は無い。
からんと店のベルが鳴った。
どうやら新たな来客らしい。
悩める2人の目が、そちらへ向いて、じっと彼等を見詰めた。
リプレイ本文
●
擦れ違う青年の後を小走りに追ってきた若い女性が、彼に腕を絡ませる。
肩越しに振り返った2人は幸せそうに笑みを交わして歩いて行った。
長い髪を揺らし唇を結んで顎を引く。俯いた姿がショウウィンドウに映り込んだ。
その店内を覗えば窓に向かう棚に、箱詰めされたクッキーや造花の装飾が並べられ、この季節に売り出しているらしい赤と緑のリボンの包みが幾つも置かれている。
奥にはテーブルも有るらしい。甘い物でも食べて気分を晴らそうと思った。
高瀬 未悠(ka3199)が隅の席に掛けて注文を終えた頃、十色 エニア(ka0370)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)が店内に。
中央のテーブルに掛けて、ペアのセットを指しながらそれぞれのドリンクとケーキを選び始める。
「たまには……こういうのも……いい、ね……」
小柄なシェリルが少し乗り出すように向けられたメニューを読みながら言う。
そうだねと柔らかな声で応じた十色が、決まったと首を傾がせた。
隣のテーブルの声が賑やかに、覗う様な視線を感じる。姉妹かな、男の子じゃない、じゃあカップルかな、潜めて囁き合う声に思わず苦笑いして、シェリルが決まったと顔を上げると店員を呼ぶ。
高瀬のテーブルにプレートが運ばれてくる。
縁に淡い色の小花とレースの模様をあしらう楕円の大きな白磁。
5種のケーキがバランス良く配されている。
沈んでいた気持ちは、その甘い匂いと可憐な見目に幾らか和らいで、美味しそうと呟きながら頬を緩ませた。
ゆっくりと目で楽しんでからフォークを取り一口ずつ。
その頃、ギルドからの帰途に通り掛かったユリアン(ka1664)が硝子越しに知った姿を見付けた。
妹の友人が、たくさんのケーキを前にして、どこか気落ちした様相で座っている。
「未悠さん」
店に入ると、声を掛けて向かいの椅子に掛けた。
「甘いものが本当に好きなんだね」
高瀬は曖昧に微笑んで目を逸らした。
●
十色とシェリルのテーブルに皿とカップが運ばれ、続けて2人の間にアイスボックスクッキーを盛った籠が置かれた。
ポットの紅茶をティーカップに注ぐ。濃い紅の水色がカップに満ちて、縁に淡い蜜の様な金色の輪が浮かび上がる。砂糖を一掬いゆっくりと掻き混ぜて、ケーキへ視線を向けた。
「分けて食べようか?」
「うん。半分こしてたべるよ……なんだか、ちょっと、楽しい……」
レモンシャーベットとオランジェットを添えたフルーツのパウンドケーキ。
爽やかに香る柑橘の甘酸っぱさに目を細め、端から中心へフォークを入れて切り分ける。
クッキーと合わせた季節の果物が切れ目から幾つも覗いて、フォークの端から零れ落ちる。
ケーキを半分と、小さなシャーベットも一掬い、2つ添えられたオランジェットも1つ添えてシェリルの皿へ映すと、シェリルもチョコレートのパウンドケーキを半分、十色の皿に乗せる。
生地に練り込まれたチョコレートの色は濃く、チョコチップが幾つか零れている。
添えられているのは白のクリームと、ラズベリーとブルーベリー。鮮やかな果実の粒がクリームに映え、チョコレートの色に重ねるととても鮮やかに見えた。
「おいしそう……」
シェリルがじっと見入りながら呟いた。
微笑ましく見詰め、十色もケーキにフォークを伸ばして一口。
柔らかく解けるような食感と干した果実の甘い香り。溶ける前に掬ったシャーベットはすっきりとして甘酸っぱい。
一口大に切ったケーキに、クリームを少しとブルーベリーを一粒載せて、フォークで掬う様にぱくりと頬張るとシェリルが目を輝かせる。
唇に残ったクリームを舐め取って、美味しいと僅かに頬が綻んだ。
ユリアンがメニューを見ながら悩んでいる。
林檎が好きなんだけれど、そう言いながら、季節の果物も気になって。
高瀬の前に置かれたプレートには、一揃いが乗せられている。
端の1つを指す、しっとりと焼かれたプレーンのパウンドケーキにクリームとバニラアイスが添えられている。
シンプルで素朴な味が美味しい。
次に指を移してベリーを飾るクリームをそえたチョコレート。
生地の中の林檎が透き通って甘味を増しシナモンがよく香っている。クリームに混ぜ込まれた生の林檎ともよく合っていて、口の中が林檎で一杯になる。
零れるほどのナッツを混ぜて焼いたケーキに、添えられているのはハートを描いたチョコレートソース。
ユリアンがもう1つ気にしていた季節のドライフルーツのケーキは柑橘の香りが瑞々しく、添えられているのはレモンシャーベットとオランジェット。
順に味を話して、どうすると尋ねればユリアンは1つ頷いて柚の気になるドライフルーツのケーキにすると店員に声を掛けた。
ユリアンの注文が届いた頃、1つ離れたテーブルから、プレゼントに迷う少女達の声が聞こえてきた。
好きな人の話しをしているのだろうと、その言葉の端々から覗える。
「あの子の瞳みたいな綺麗な紫色ね。もらったの?」
高瀬が何と無しに視線をユリアンに向けると、ユリアンの手が触れる紫のマント留めが目に入る。
「……ありがたく使っているよ」
優しい色の紫を撫でて穏やかな声が答えた。
ケーキのおいしさについ、好きな人と食べたくなると二人して溜息が零れた。
最近、好きな人に思うように会えていない。
互いに同じ色の溜息を察し、目が合うと困ったように肩を竦めた。
「……最近……エフィーリアさん……会えて……ない?」
シェリルの声に十色が頷く。
2人とも忙しい。依頼がデートの口実になりそうな程。
「……寂しい?」
シェリルが小さな手を伸ばす。細い指が揺れると、その意図を察したように十色が顎を引く。
頭に乗った手が遠慮がちにゆっくり撫でる。
「ありがとう、……シェリルさんも……」
会えないのは、寂しいよね。零れた髪が表情を隠し、俯いたままで十色が言う。
優しく動いていた手が暫し止まって、またゆっくりと撫でて引っ込める。
「あの人の為に……私ができるのは……依頼をこなしていくこと……」
あの人も。稚い可憐さと聡明さを併せ持った橙色の瞳を思い浮かべる。
帝国の皇子である彼も頑張っている。街中が華やぐこの季節に会えないのはとても寂しいけれど仕方ない。
それでも今日は、1人では無い。
ブラウンの柔らかな眼差しが十色に向けられた。
会いたい、もどかしい、そう言い合える優しい友人と一緒、それに、美味しいケーキも有る。
早く会えますように。祈るように目を伏せて、ふと隣のテーブルから聞こえた声に瞬いた。
「プレゼントか……買うよねー」
しみじみと零れた様な十色の声に、シェリルがこくんと頷いた。
●
話し込んでいた少女達が、隣のテーブルに声を掛ける。
精輝節のデートで悩んでいるんです、贈りたい物が多すぎて。
「二人とも……恋……してるんだ、ね……」
応じたシェリルがじっと見上げる様な視線を向ける。
プレゼント、と聞き返す様に呟いて首を傾げた。
「例えば……手の好きなもの、好きな色から……考えるとか……」
相手のことを思って選んだ物なら、何だって喜んで貰えると思うけれど。
「そうだね……」
私だったらと、視線を向けられた十色が目を閉じて考えながら応じる。
「部屋とかにいる事が多いならちょっとした置き物、外出とか多いならペアのアクセサリとかお揃いのマフラーなんかがいいかなー」
やっぱり、ペアとか、お揃いっていいですよね。少女達がきらきらと目を輝かせ、互いのお喋りに戻っている。
その隙に、十色は籠のクッキーを指し、食べたら買い物に行こうと囁いた。
お姉さんはどうですか、ともう1つ隣の高瀬へも声が掛けられた。
ケーキをじっくり味わっていた高瀬は一旦フォークを置いて2人へ目を向ける。
「プレゼントは然り気無く彼の欲しい物をリサーチするのはどう? 難しいなら彼の好きな物とか普段よく使いそうな物とか……」
リサーチ間に合うかな、少女達は顔を見合わせて首を捻る。
後半は思い付く物が幾つか有るらしく、はしゃいだ声が戻っている。
5人の様子を微笑ましく眺めていたユリアンにも、男性の意見も、と求められ少女達の熱い視線が向けられた。
「そんな気持ちで選んでくれたものなら何でも嬉しいと思うけどな」
ユリアンが店に来た時からその話題が続いていたのだろう。そんなに色々と考えて選んだ物なら、何だって彼女達の恋人を喜ばせるだろうと目を細めた。
高価な物は次が大変になるから頑張りすぎずに、マフラーや手袋は何枚あっても嬉しい物。
あとは。
「あと、まぁ 大抵の男は鈍くて色々気付かないからさ……」
貰ったものを着けていなくても許して貰えると助かる。気持ちは本当に、嬉しいのだから。
目を惹く彼の振る舞いは罪作りだと少女達と話すユリアンを眺め、高瀬は短い溜息を吐く。
求められた服装のアドバイスに、褒めて貰えると嬉しいわよね、と、彼女達自身が一番着たい服を勧めて、高瀬は2人から目を逸らした。
恋をしている彼女達は輝いて見える。
寂しがってないで、自分を磨かなくては。
ケーキの最後の1口を頬張って腰を浮かせた。
伝票を手にカウンターへ、店を出た足が賑やかな通りへと急く。
新しい服と靴、それから化粧品とボディクリームを買って帰ろう。
それから、彼が喜びそうなプレゼント。思い浮かべる彼の笑顔に、胸の奥が温かくなる。
何かを思い立ったような顔で席を立った高瀬を見送り、ユリアンもカウンターへ向かう。
置かれていたギフトクッキーを1つ、妹の土産にと会計に添える。
冷たい風に、見えなくなった高瀬の後ろ姿を遠く眺めるように目を細める。
「……未悠さんの想い人は鈍い所か……」
呟きに紛れた吐息が白い。応援する様に閉じた目を開いて歩き始めた。
ありがとうございました、と高瀬とユリアンに別れを告げた少女達はアドバイスを復唱するように相談に戻る。
好きな色は緑、青、茶色とかの落ち着いた色も嫌いでは無くて、ペアで身に着けてくれそうなアクセサリーはあるかな。欲しがっていたのは靴だけど、ちょっと高いかも知れない。使う物なら、やっぱりマフラーかな。
「……あったかくなるものっていう考えは……素敵……心も……温かくなる、ね……」
好みそうな色のマフラーを探して、お揃いの物を自分たちも。
恋人だけでは無く、4人でお揃いになってしまいそうだけれど。
纏まったらしい少女達の声に少しほっとしたようにシェリルが十色に視線を戻す。
籠のクッキーは残り2枚だった。
「決めたなら……買いにいこう……」
1枚ずつそれを摘まむと、十色も頷いて席を立つ。
会計のカウンターでギフトクッキーを見付けると暫く眺めてから添えた。
「まぁ、会いにくいなりに、出来る事はあるよねー……って信じていたいよね」
お土産に出来たら良い。精輝節のリボンを撫でて願いを呟く。
盛り上がった気持ちと、思い付いたネタを忘れない内に賑やかな街へ。
思いが届くことを祈りながら、シェリルも十色とともに歩いて行く。
擦れ違う青年の後を小走りに追ってきた若い女性が、彼に腕を絡ませる。
肩越しに振り返った2人は幸せそうに笑みを交わして歩いて行った。
長い髪を揺らし唇を結んで顎を引く。俯いた姿がショウウィンドウに映り込んだ。
その店内を覗えば窓に向かう棚に、箱詰めされたクッキーや造花の装飾が並べられ、この季節に売り出しているらしい赤と緑のリボンの包みが幾つも置かれている。
奥にはテーブルも有るらしい。甘い物でも食べて気分を晴らそうと思った。
高瀬 未悠(ka3199)が隅の席に掛けて注文を終えた頃、十色 エニア(ka0370)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)が店内に。
中央のテーブルに掛けて、ペアのセットを指しながらそれぞれのドリンクとケーキを選び始める。
「たまには……こういうのも……いい、ね……」
小柄なシェリルが少し乗り出すように向けられたメニューを読みながら言う。
そうだねと柔らかな声で応じた十色が、決まったと首を傾がせた。
隣のテーブルの声が賑やかに、覗う様な視線を感じる。姉妹かな、男の子じゃない、じゃあカップルかな、潜めて囁き合う声に思わず苦笑いして、シェリルが決まったと顔を上げると店員を呼ぶ。
高瀬のテーブルにプレートが運ばれてくる。
縁に淡い色の小花とレースの模様をあしらう楕円の大きな白磁。
5種のケーキがバランス良く配されている。
沈んでいた気持ちは、その甘い匂いと可憐な見目に幾らか和らいで、美味しそうと呟きながら頬を緩ませた。
ゆっくりと目で楽しんでからフォークを取り一口ずつ。
その頃、ギルドからの帰途に通り掛かったユリアン(ka1664)が硝子越しに知った姿を見付けた。
妹の友人が、たくさんのケーキを前にして、どこか気落ちした様相で座っている。
「未悠さん」
店に入ると、声を掛けて向かいの椅子に掛けた。
「甘いものが本当に好きなんだね」
高瀬は曖昧に微笑んで目を逸らした。
●
十色とシェリルのテーブルに皿とカップが運ばれ、続けて2人の間にアイスボックスクッキーを盛った籠が置かれた。
ポットの紅茶をティーカップに注ぐ。濃い紅の水色がカップに満ちて、縁に淡い蜜の様な金色の輪が浮かび上がる。砂糖を一掬いゆっくりと掻き混ぜて、ケーキへ視線を向けた。
「分けて食べようか?」
「うん。半分こしてたべるよ……なんだか、ちょっと、楽しい……」
レモンシャーベットとオランジェットを添えたフルーツのパウンドケーキ。
爽やかに香る柑橘の甘酸っぱさに目を細め、端から中心へフォークを入れて切り分ける。
クッキーと合わせた季節の果物が切れ目から幾つも覗いて、フォークの端から零れ落ちる。
ケーキを半分と、小さなシャーベットも一掬い、2つ添えられたオランジェットも1つ添えてシェリルの皿へ映すと、シェリルもチョコレートのパウンドケーキを半分、十色の皿に乗せる。
生地に練り込まれたチョコレートの色は濃く、チョコチップが幾つか零れている。
添えられているのは白のクリームと、ラズベリーとブルーベリー。鮮やかな果実の粒がクリームに映え、チョコレートの色に重ねるととても鮮やかに見えた。
「おいしそう……」
シェリルがじっと見入りながら呟いた。
微笑ましく見詰め、十色もケーキにフォークを伸ばして一口。
柔らかく解けるような食感と干した果実の甘い香り。溶ける前に掬ったシャーベットはすっきりとして甘酸っぱい。
一口大に切ったケーキに、クリームを少しとブルーベリーを一粒載せて、フォークで掬う様にぱくりと頬張るとシェリルが目を輝かせる。
唇に残ったクリームを舐め取って、美味しいと僅かに頬が綻んだ。
ユリアンがメニューを見ながら悩んでいる。
林檎が好きなんだけれど、そう言いながら、季節の果物も気になって。
高瀬の前に置かれたプレートには、一揃いが乗せられている。
端の1つを指す、しっとりと焼かれたプレーンのパウンドケーキにクリームとバニラアイスが添えられている。
シンプルで素朴な味が美味しい。
次に指を移してベリーを飾るクリームをそえたチョコレート。
生地の中の林檎が透き通って甘味を増しシナモンがよく香っている。クリームに混ぜ込まれた生の林檎ともよく合っていて、口の中が林檎で一杯になる。
零れるほどのナッツを混ぜて焼いたケーキに、添えられているのはハートを描いたチョコレートソース。
ユリアンがもう1つ気にしていた季節のドライフルーツのケーキは柑橘の香りが瑞々しく、添えられているのはレモンシャーベットとオランジェット。
順に味を話して、どうすると尋ねればユリアンは1つ頷いて柚の気になるドライフルーツのケーキにすると店員に声を掛けた。
ユリアンの注文が届いた頃、1つ離れたテーブルから、プレゼントに迷う少女達の声が聞こえてきた。
好きな人の話しをしているのだろうと、その言葉の端々から覗える。
「あの子の瞳みたいな綺麗な紫色ね。もらったの?」
高瀬が何と無しに視線をユリアンに向けると、ユリアンの手が触れる紫のマント留めが目に入る。
「……ありがたく使っているよ」
優しい色の紫を撫でて穏やかな声が答えた。
ケーキのおいしさについ、好きな人と食べたくなると二人して溜息が零れた。
最近、好きな人に思うように会えていない。
互いに同じ色の溜息を察し、目が合うと困ったように肩を竦めた。
「……最近……エフィーリアさん……会えて……ない?」
シェリルの声に十色が頷く。
2人とも忙しい。依頼がデートの口実になりそうな程。
「……寂しい?」
シェリルが小さな手を伸ばす。細い指が揺れると、その意図を察したように十色が顎を引く。
頭に乗った手が遠慮がちにゆっくり撫でる。
「ありがとう、……シェリルさんも……」
会えないのは、寂しいよね。零れた髪が表情を隠し、俯いたままで十色が言う。
優しく動いていた手が暫し止まって、またゆっくりと撫でて引っ込める。
「あの人の為に……私ができるのは……依頼をこなしていくこと……」
あの人も。稚い可憐さと聡明さを併せ持った橙色の瞳を思い浮かべる。
帝国の皇子である彼も頑張っている。街中が華やぐこの季節に会えないのはとても寂しいけれど仕方ない。
それでも今日は、1人では無い。
ブラウンの柔らかな眼差しが十色に向けられた。
会いたい、もどかしい、そう言い合える優しい友人と一緒、それに、美味しいケーキも有る。
早く会えますように。祈るように目を伏せて、ふと隣のテーブルから聞こえた声に瞬いた。
「プレゼントか……買うよねー」
しみじみと零れた様な十色の声に、シェリルがこくんと頷いた。
●
話し込んでいた少女達が、隣のテーブルに声を掛ける。
精輝節のデートで悩んでいるんです、贈りたい物が多すぎて。
「二人とも……恋……してるんだ、ね……」
応じたシェリルがじっと見上げる様な視線を向ける。
プレゼント、と聞き返す様に呟いて首を傾げた。
「例えば……手の好きなもの、好きな色から……考えるとか……」
相手のことを思って選んだ物なら、何だって喜んで貰えると思うけれど。
「そうだね……」
私だったらと、視線を向けられた十色が目を閉じて考えながら応じる。
「部屋とかにいる事が多いならちょっとした置き物、外出とか多いならペアのアクセサリとかお揃いのマフラーなんかがいいかなー」
やっぱり、ペアとか、お揃いっていいですよね。少女達がきらきらと目を輝かせ、互いのお喋りに戻っている。
その隙に、十色は籠のクッキーを指し、食べたら買い物に行こうと囁いた。
お姉さんはどうですか、ともう1つ隣の高瀬へも声が掛けられた。
ケーキをじっくり味わっていた高瀬は一旦フォークを置いて2人へ目を向ける。
「プレゼントは然り気無く彼の欲しい物をリサーチするのはどう? 難しいなら彼の好きな物とか普段よく使いそうな物とか……」
リサーチ間に合うかな、少女達は顔を見合わせて首を捻る。
後半は思い付く物が幾つか有るらしく、はしゃいだ声が戻っている。
5人の様子を微笑ましく眺めていたユリアンにも、男性の意見も、と求められ少女達の熱い視線が向けられた。
「そんな気持ちで選んでくれたものなら何でも嬉しいと思うけどな」
ユリアンが店に来た時からその話題が続いていたのだろう。そんなに色々と考えて選んだ物なら、何だって彼女達の恋人を喜ばせるだろうと目を細めた。
高価な物は次が大変になるから頑張りすぎずに、マフラーや手袋は何枚あっても嬉しい物。
あとは。
「あと、まぁ 大抵の男は鈍くて色々気付かないからさ……」
貰ったものを着けていなくても許して貰えると助かる。気持ちは本当に、嬉しいのだから。
目を惹く彼の振る舞いは罪作りだと少女達と話すユリアンを眺め、高瀬は短い溜息を吐く。
求められた服装のアドバイスに、褒めて貰えると嬉しいわよね、と、彼女達自身が一番着たい服を勧めて、高瀬は2人から目を逸らした。
恋をしている彼女達は輝いて見える。
寂しがってないで、自分を磨かなくては。
ケーキの最後の1口を頬張って腰を浮かせた。
伝票を手にカウンターへ、店を出た足が賑やかな通りへと急く。
新しい服と靴、それから化粧品とボディクリームを買って帰ろう。
それから、彼が喜びそうなプレゼント。思い浮かべる彼の笑顔に、胸の奥が温かくなる。
何かを思い立ったような顔で席を立った高瀬を見送り、ユリアンもカウンターへ向かう。
置かれていたギフトクッキーを1つ、妹の土産にと会計に添える。
冷たい風に、見えなくなった高瀬の後ろ姿を遠く眺めるように目を細める。
「……未悠さんの想い人は鈍い所か……」
呟きに紛れた吐息が白い。応援する様に閉じた目を開いて歩き始めた。
ありがとうございました、と高瀬とユリアンに別れを告げた少女達はアドバイスを復唱するように相談に戻る。
好きな色は緑、青、茶色とかの落ち着いた色も嫌いでは無くて、ペアで身に着けてくれそうなアクセサリーはあるかな。欲しがっていたのは靴だけど、ちょっと高いかも知れない。使う物なら、やっぱりマフラーかな。
「……あったかくなるものっていう考えは……素敵……心も……温かくなる、ね……」
好みそうな色のマフラーを探して、お揃いの物を自分たちも。
恋人だけでは無く、4人でお揃いになってしまいそうだけれど。
纏まったらしい少女達の声に少しほっとしたようにシェリルが十色に視線を戻す。
籠のクッキーは残り2枚だった。
「決めたなら……買いにいこう……」
1枚ずつそれを摘まむと、十色も頷いて席を立つ。
会計のカウンターでギフトクッキーを見付けると暫く眺めてから添えた。
「まぁ、会いにくいなりに、出来る事はあるよねー……って信じていたいよね」
お土産に出来たら良い。精輝節のリボンを撫でて願いを呟く。
盛り上がった気持ちと、思い付いたネタを忘れない内に賑やかな街へ。
思いが届くことを祈りながら、シェリルも十色とともに歩いて行く。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/17 18:52:46 |