• 虚動

【虚動】爆発亀とぜんまい仕掛けの姫君

マスター:えーてる

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/29 22:00
完成日
2014/12/10 17:12

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「辺境におけるCAM起動実験については、ご説明するまでもないかと存じます」
 受付嬢イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)は、そう依頼の説明を開始した。
「同盟軍は実験に向けての各種業務に忙しく、人手が足りていないようです。今回の依頼は港湾都市ポルトワール、CAM輸送船が停泊する港における夜間警備となります」
 イルムは地図を広げると、港湾都市ポルトワールから指をつつっと動かした。
「輸送船はポルトワールを発し、リゼリオでCAMを積み込んだ後……おおよそこの辺りでCAMを下ろし、マギア砦南方まで輸送します」
 その指が更に陸地の西側へと弧を描き、マギア砦周辺で終着する。
 加えて、とイルムは資料を提示した。
「最近、海賊の動きが妙に活発です。その割には、あまり直接的に仕掛けてくることはないようですが……。そういう事情もあって、軍の警備はリゼリオ近辺や海路に集中しており、陸上の脅威の監視にこうしてハンターを雇ったという次第です」
 どこにいっても人手不足は深刻だ。世知辛い世の中である。
「警備小屋に駐留しての夜間警備となります。明かりは十分確保されていますが、追加の明かりは携帯することを推奨します。背はあまり高くないですが、見張り塔もあります。詳しい情報はこちらの資料を参照してください」
 と言って、彼女は資料を手渡した。
 普段の彼女であれば、淀みなく資料を提示して終わりのはずだが……イルムは手元の資料をめくりながら、何事かを思案している。
 指先が彼女の波打つ後ろ髪に絡みつき、くるくると髪を巻き出す。
 彼女の見ている資料を覗き込む。過去の海賊の出没情報、警備の配置状況、近辺でのヴォイドの発生情報。
「……全く根拠の無い、私の勝手な想像なのですが」
 髪を弄ぶ指を止め、イルムは顔を上げた。
「今回の依頼、恣意的な何かを感じます……ただの警備では終わらないように思います。十分注意してください」
 果たして、イルムの顔はいつもよりほんの少しだけ、不安そうにも見えた。
「全て杞憂に終わればいいのですが……いえ。ともかく、依頼遂行をよろしくお願い致します」


「そろそろ頃合いですわね」
 夕闇に紛れるように、彼女はスラムの建物の屋上に佇んでいた。そこは丁度、見張り塔の死角になる位置だった。
 派手で際どい装いのドレスに身を包み、つばの広い帽子で表情を隠している。金糸の髪がさらさらと風になびいた。
 その背後に控えるように男が一人膝を付いた。
「配置につきやした。予定通りに行動を開始しやす」
「そう」
 彼女はドレスを潮風にたなびかせながら、正面から照りつける陽の光を意にも介さず、眼下の光景をじっと眺めている。
 男たちには興味が無いようで、仕事だから嫌々、という態度が見え隠れしていた。男もその部下も金によって動いているだけで、彼女への畏敬などは持ちあわせていないのだろう。
「しかし、大丈夫なんすか」
「あら、何がですの?」
「陽動――と、御大は言ってやしたが、軍の連中の目を引ける程の暴動、姉御に出来やすかね」
「姉御、というのは美しくありませんわね」
 女性は、くすりと微笑んだ。
「心配など、貴方達にされる筋合いはありませんわ。期待を裏切らぬことだけを、私は期待していますの」
 その笑みが残虐な色を帯びていることに男は気付き、ぶるりと背筋を震わせた。
 夕日が沈んでいく。世界が、紫を経て闇に落ちようとしていた。
「与えられた役目に忠実になりなさいな。私を、ひいてはあのお方を、失望させないでくださいまし」
「へへっ、おまかせくだせぇ……お嬢様」
 粗野な言葉遣いの男は、これ以上の長居は禁物と、愛想笑いとともにその場を去った。
 残された女性は、にやにやとした笑みを崩さず、眼下のそれらを睥睨している。
「さぁて、ハンターの皆々様方」
 港湾都市ポルトワール、そしてその軍港。
 彼女の眼前で、日は水平線の彼方に消えた。
 夜闇を押しのけるように、小さな灯たちが必死に寄り集まり、街を照らそうとしている。
「パーティのお時間ですわ」
 夕闇の中を掻き分けるようにしてそれはやって来た。八脚のそれは、口に加えた何かを女性に差し出す。
 少々大きな、抱えるようなサイズの海亀の玩具であった。ボタンを押すと子亀が転がり出てくるという、子供向けの玩具である。彼女はそれを片手でぶら下げていた。
「贅を凝らしたもてなしというわけではありませんけれど、少々遊んでいきましょう」
 眼下を馬車が走り抜ける。同盟軍の輸送馬車だ。彼女はそれを見下ろして、その手の玩具を森の中へと放った。
 弧を描いて落ちていく亀の玩具に、ぞわり、と負のマテリアルが纏わりつく。
 途端、海亀はまるで命を得たかのように駆動を始めた。
「おーっほっほっほっほっ! さぁ、私を楽しませなさい、塵芥共!」
 そうして、彼女もまたひらりと身を闇に投じる。
 月明かりにちらりと当たったその肌は、まるで陶器のような質感を持つ白だった。
 その直後、小規模な爆音と共に、馬のいななきと人々の喧騒が響いた。パーティーの幕開けである。

 ――警備中のハンターたちに「謎の雑魔、出現」の報が入ったのは、夜も更けたとある時間であった。

リプレイ本文


「あー、夜勤とかマジだっるぅー……」
「一度眠りますか?」
 鵤(ka3319)のぼやきに、クオン・サガラ(ka0018)が律儀に答えた。
「ああ、大丈夫よ? おっさんちゃーんと昼間熟睡したし? もう目ぇ冴えまくり、みたいなぁ?」
 ひらひら手を振って答え、トランシーバーと魔導短伝話を手に取った。
「あーあー、こちら見張り塔。馬車来てるぜぇ、そろそろ物陰に入っちまうから警戒よろしくぅ」
『了解。護衛につくわ』
 通信を切って外を見る。街道は可能な限り明かりが追加され、暗所の減るよう手配してある。
「あ、クオン君、サンドイッチ貰ってもいい?」
「勿論どうぞ」
 そういうクオンもサンドイッチを齧っていた。
 月影 夕姫(ka0102)はショットアンカーで屋根上に登ると、やってくる馬車を一瞥し、それから路地を見下ろす。
「視認の難しい位置からとなると、後方や路地から突然というのもあるわね」
 歩哨は主に見張り塔の視界外をカバーする役目を負っている。両手を開けるためにと肩に括ったライトを少し直した。
「亀だからって地上からしか来ないとは限らないわよね」
 飛んでくるとは思いたくないけれど、と屋上を見回して、夕姫は呟く。
「う~、許せないぃ。本来玩具は子供の為の物じゃないか。それを犯罪に使うなんて!」
 レイン・レーネリル(ka2887)は街道沿いに路地や曲がり角を確認しながら、遠くから来る馬車を目に留めた。
「あ、勿論精密な玩具は大人も楽しめるけどね。良いよね、あの歯車の噛み合いとかさ……じゃなくて!」
 その様子に隣のルーエル・ゼクシディア(ka2473)は苦笑し、ふと言葉を漏らす。
「出現した敵だけど……何だか妙な姿の雑魔だね」
「そういえば気になってるんだけど、人工物の雑魔って自然発生するものなのかな?」
「それ自体は珍しいことじゃないと思うけど……ほら、動く鎧とか」
「あー……、でも今回のは」
 ルーエルは頷いた。
「ちょっと、妙だよね。玩具の雑魔が、馬車を襲うっていう状況は……」
 一方、ロイ・J・ラコリエス(ka0620)はまた別の場所を巡回していた。
「素早い亀とか面白いね……まさか、速さ至高の考え方がカメにまで広まった?」
「いや、そうじゃねぇだろ」
 近くにいた龍崎・カズマ(ka0178)は思わずツッコんだ。遠目に馬車を見ながら、巡回を続ける。
 ――視界の端で、何かが動いた気がした。


 彼女はそこに降り立つと、眼下の光景を見下ろして、口元を釣り上げる。
「お手並み拝見ですわ。――始めなさい、我が下僕よ」
 囁くような言葉は、夜風に紛れて消えた。
「これもあの方の目的のため。下手は許しませんわよ?」


『子亀発見……8-2! D-8-2だ!』
「りょーかい、対処任せた。……おたく、ノイズひどいよ?」
 事前に取り決めた区画設定を思い返しながら、鵤はカズマに答える。それから改めて味方に情報を伝達する。馬車に近い夕姫とルーエル、レインは馬車の護衛に入ったようだ。
『ノイズ……ねぇ?』
 カズマは訝しんだ。マテリアルの異常なら歪虚を倒せば止まる。カズマとロイは子機にチャクラムを投擲し、命中させた。
「所詮亀だね、もうちょっと速いのを期待してたんだけどねー」
 衝撃で爆発した子機を見ながら、ロイがこぼす。
「親亀はここにはいねえな……」
「馬車の方に向かおう」
 道中、別の路地から出現する子機を対処しつつ、カズマとロイは街道へ出た。
 一方、既に馬車の護衛についている三人は子機の群れに襲われていた。子亀は街道にまで進出し、道を塞ぎつつある。
「爆発範囲は狭いね」
 先頭にいる子機をホーリーライトが打ち据えて爆破させれば、レインも魔導拳銃で一体ずつ吹き飛ばす。だが通路にはまだ十体近くの子亀がいる。馬車も止まらざるを得ない状態だ。
 そこで、屋上にいる夕姫は包みを宙に放り投げる。
「何かに当たれば爆発するなら、面で一気に誘爆させれば!」
 ぶち撒けられたのは大量の小石だ。それらは広範囲に散らばり、夕姫の狙い通りに多数の亀を巻き込んで誘爆させた。
「よしっ、これなら……二人とも、馬車に近いやつはお願い!」
「まっかせて!」
 程なく街道へ出た亀は一掃され、御者は礼と共に施設へと消えていった。
『次の馬車が来ます。ヴォイドの発見を急ぎましょう』
「忙しいわね。交通妨害なんていい迷惑だわ」
 クオンの通信に、夕姫が包みを担ぐ。
「親機の大まかな方向は分かりませんか?」
『おたくらの位置に近い路地だと思うけど、もうちょい情報が欲しいねぇ』
 と言う鵤に、三人は頷く。
「しかし、まるで自走地雷ですね」
「こっちの世界でまでそんな怖いもんに追い回されるとはねぇ」
 監視塔でのクオンの呟きに、鵤は笑って同意した。眼下では、丁度ロイとカズマも合流した所だ。
「もうひと踏ん張り必要ってことだね。任せてよ」
 ロイは自信ありげに胸を叩いた。
『馬車、監視塔の視界外に入ります』
「さて、それじゃ皆で頑張るとしますかね」
 馬車がやってきたのに合わせて、路地の奥で何かが動く。
 現れた新たな子亀を前に、五人は武器を構えた。


 何体目かの子亀を撃破して、レインはうーんと唸った。
「……この人工感あふれる鋼鉄ボディでまさか森にずっと住んでました、は無いよねぇ?」
 レインは呟いた。
「もしかして誰かが人為的にリリースしてる、とか?」
「馬車を襲わせるために?」
 ロイが首を傾げる横で、夕姫が首を横に振った。
「そもそも都市内に入らせる意味が薄いわ。妥当なのは……囮とか」
 自分で口にして、嫌な予感が脳裏をよぎる。
「これが囮や本来の目的への目晦ましだとしたら、本来の目的は何? ……港や船の方は大丈夫かしら」

「鵤さん、あれ」
 その港方面を見ていたクオンが、指差したものがあった。
「なんだありゃ。一般人……って様子じゃねぇなぁ」
 明らかに光源の薄い部分を選んで、港へと向かう男たちが四名ほどいる。
 二人は一瞬視線を合わせ、鵤が弓を取り、クオンはトランシーバーを起動した。
「後ろ暗い顔してるじゃないの。こそこそしちゃってまぁ」
 気楽な言葉と裏腹に、鋭く射られた矢は男の足を貫いて転倒させる。
「ぐわっ!?」
「くそっ、気付かれた!」
 その隣で、クオンは通信を入れる。
「こちら監視塔。港へ向かう不審な人影を数名発見しました。応援をお願いします」
『了解、俺が行くよ!』
 トランシーバーの向こうでロイが答え、眼下で彼が走り出すのをクオンが確認。彼も弓を手に取る。
「さて、わたしはここから撃つくらいしか出来ませんし」
 クオンと鵤の射撃に遮蔽へと隠れる男たち。矢は間断なく射掛けた。
「強引に突破とかされなくてよかったよぉ」
「それはそれで、騒ぎになれば軍の人たちも気付くでしょうし」
 と、駆けつけてきたロイが遮蔽の裏へと突貫した。
「ハンターか、くそったれ!」
「何が陽動だ、あの女!」
「へぇ?」
 ロイはダガーを逆手に跳躍した。
「面白い話してるね。後でたっぷり聞かせてもらうよ」
「なっ――」
「気付くのも遅いし、反応も遅いよ」
 ダガーが閃き、程なくして男たちは地に伏した。


「……所詮は肉袋ですわね。期待するだけ無駄でしたわ」
 彼女は嘆息した。ある意味では、予想された結末ではある。
「余計なことを喋られると……面倒ですわね」
 とは言うものの、今の所彼女の不満と言えば、気付かれぬように声を潜めていなければならないことだけだ。
「さぁ、私を楽しませてくださいまし――覚醒者の皆々様」


 男たちを一先ず監視塔に預け、ロイは馬車組に合流した。
「このままじゃ埒があかないや」
 ルーエルが苦く呟く。馬車にこそ被害は出ていないが、終わりが見えない。
「こっちもそろそろ小石は打ち止めよ」
 夕姫の範囲誘爆に助けられていた面もあるので、このままではジリ貧だ。
『あーあー、こちら見張り台でぇーす。三時の方向、二つ奥の路地から射出されてるっぽいぜ?』
 そこへ鵤の通信が入った。
『あと奴さん、最初と対して位置変わってないねぇ。移動超遅いんでない? ダッシュすれば追いつけるかもよぉ?』
「よしっ。行くぞ、元を断つ」
 カズマの言葉にルーエルとレインが頷いた。
「私は馬車の護衛に残るわ。任せたわよ」
 夕姫が小石袋を投げ落とし、道を切り開く。
「俺も残るよ! こんなノロマ、一匹も通さないからさ!」
 ロイがチャクラムで一匹仕留めた脇を抜けて、三人は路地の奥へと駆け出した。
「出てきなさい亀さん玩具、私達が元の姿に戻してあげる」
 断続的にやってくる子機を銃撃とチャクラムで撃墜しつつ、三人は路地の奥、大型の海亀へと武器を構えた。
「……何これ」
 レインは呻いた。それはボタンを押すと中の子供が出てくる玩具のようだが、雑魔となった今は体内で子機を生産し、ひとりでに子亀を産み落としていた。
 何より、それは操り人形のように何か糸のような負のマテリアルに動かされていた。これは尋常ではない。
 ハンターの登場で、周囲に残っていた子亀たちが一斉に三人に突撃し始めた。
 カズマらは銃撃とチャクラムと魔法でそれらを吹き飛ばして少し後退するが、そうしているうちに新たな雑魔が投下される。
「早いな」
 カズマが苦い声を出す横で、ルーエルはパイルバンカーを担ぎ直した。
「あ、ちょっと! 特攻しないでね! 危険だよぉ!」
 意図を察したレインの忠告に、首を横に振って答える。
「大丈夫……それに雑魔にやられっ放しなんて、我慢できないもの」
「同感だ。補佐する、行け」
 ルーエルは踏み込んだ。幾つかの子機が彼にぶつかり、爆発するが。
「もう!」
 レインの防御障壁が、爆風を防いで砕け散った。
「無茶しないでって!」
「ありがと、レインお姉さん」
 雑魔親機に相対したルーエルは、パイルバンカーを振りかぶる。今まさに子機を投下する直前の親機へ、カズマのチャクラムが突き刺さった。誘爆で動きの止まった親亀に杭が至近距離で炸裂する。が、表面に傷がついたのみ。
「硬い、けど!」
 ルーエルは逃走経路を塞ぎ、三人で親機を街道へと引きずり出す。
「こちらカズマ、K-6で親機を引きずりだした」
『了解しました。援護します』
 監視塔から矢が放たれ、子機に突き立つ。
「亀さんこっちらーっと。追いつけるかな?」
 ロイも駆けつけ、進路を塞いだ。退路を失った親機に攻撃が殺到する。
「これでっ!」
 ルーエルが再三杭を撃ちこむと、ついに雑魔は機能を停止した。残る子機も、生産が止まれば怖くない。
「自身すら囮として残った亀で……って深読みしすぎかしら」
 保険として残った夕姫は、そう呟いて苦笑した。


 彼女は笑った。
「ほほほ。流石、この程度では壊れてくれませんわね……それでこそですわ」
 そう、それでこそだ。それでこそ――壊し甲斐があるというもの。
 とはいえ、それは今ではない。不服だが撤退しなければ、とドレスの裾を翻したその時だ。
「あら」


「さて、一先ず雑魔は片付けたが」
 カズマは呟き、ロイは頷いた。
「黒幕がいるらしいね」
「この襲撃も意図的ってことかしら……なら目的は何?」
『CAMに決まってるよぉ』
 夕姫の疑問に鵤が答え、皆それを肯定した。
 レインは壊れた玩具を見ながら呟いた。
「まるで操られてるみたいだった。見ている奴がいる気がする」
「なら、見渡せるような場所に居そうな気もするけれど……」
『こちらからは見当たりません』
 クオンは答える。視界の良好な監視塔から見当たらないなら、やはり何処にも……
『監視は続けとくよぉ。まだ依頼、終わっちゃいないからね』
 魔導短伝話の向こうで、ノイズ混じりの鵤の声が響く。
「待て……なんでノイズが入る? 雑魔はとっくに倒したし、監視塔には……」
 その時、ふとカズマは思い至った。ルーエルもレインもその答えに行き着いた。
 監視塔から見えない、戦いの様子が最も見える、視界の良好な場所。
「監視塔の」
「屋上なら――!」

「――あら」

 女性、のように見えた。派手な意匠のドレスに身を包み、つばの広い帽子で顔を隠している。
 彼女は月光を背に立っていた。
 反射的にカズマの投げ放ったチャクラムが、鋭く女性の首元を狙う。
「無粋ですわね」
 だが女性は指でそれを捕らえると、そのままくるくる指先で回した。
「いや何、警戒も警備のお仕事なんでね?」
「仕事熱心ですのね。では、こちらはお返ししますわ」
 という言葉に続いて鈍い音。彼の足元、石畳に殆ど埋もれるようにしてチャクラムが突き立った。目で追えない程の早さに、皆の警戒心が一気に跳ね上がる。
「ハンターの皆々様、おめでとうございます。見事鼠を捕まえ、剰え私の存在に気付いた。このゲームは皆様の勝ちですわ」
 月光が雲に紛れて陰りを見せる。逆光が失せ、その肌が露わになる。
 朗々とした声が夜闇に響き渡り、続いて負のマテリアルが辺りを駆け巡った。
「ですからその勝利を讃えて、名乗らせて頂きましょう」
 ――明らかに格上。
 通常の歪虚など比べ物にならないほどのマテリアル量――!
「嫉妬の裔に連なりし、歯車仕掛けの紡錘者。破壊こそ快楽と呼ぶもの」
 朧月に照らされる肌は、人にはあり得ない、冷たい陶器質のものだった。
「――我が名は蜘蛛姫、モナ・アラーネア」
 しゅるり、と指先から鋼糸が溢れた。
「なになに、なによ。目撃者は消せってやつぅ?」
「いいえ。それでは美しくありませんし、何よりルールに反しますもの。私はここで引きますわ」
 鵤の言葉に、彼女は首を横に振った。
「しかし」
「うひゃぁ!?」
 鋼糸が鎌首をもたげ、監視塔へと突き立った。
「そこの肉袋だけは処分しないといけませんの。御免遊ばせ」
 鋼糸は、中で気絶していた男たちの首を刎ねた。
「何が……何が目的なのよ、貴女」
「ゲームですわ」
 夕姫の問いかけに、モナはくすりと笑った。その言葉に肩を震わせた者がいた。
「……ゲームだって?」
 レインは、溶けて消えていく海亀の玩具を背に、立ち上がった。
「玩具は人を笑顔にするものだ。ゲームは皆で楽しむものだ……」
 レインは決然と、ピグマリオの女――モナへと指を突きつけた。
「子供たちの玩具で人を散々傷つけて遊ぶような事、私は絶対に……許さない!」
 彼女は目を瞬かせると、くすりと微笑んで鷹揚に両手を広げた。
「ふっ、おほほほっ」
 彼女の指先が踊り、軍の施設から無人の鉄の馬車が飛び出した。
 あの海亀の玩具と同じく、マテリアルの糸で操られている。
「近々、あのお方が直々に監修する、楽しい楽しいゲームがありますの。そこでお待ちしていますわ。是非ご参加くださいませ」
「待てっ!」
 馬もなしに自走し旋回するそれへと飛び降り、陶器人形の姫はドレスの裾を翻した。
「それでは皆様、御機嫌よう――おーっほっほっほっほっほっ!!」
 高らかな笑い声と共に、彼女は街の遠くへと消えていった。

依頼結果

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MVP一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫ka0102
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディアka2887
  • は た ら け
    ka3319

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 韋駄天
    ロイ・J・ラコリエス(ka0620
    人間(紅)|12才|男性|疾影士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 護りの光
    ガイウス=フォン=フェルニアス(ka2612
    ドワーフ|99才|男性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/28 02:08:54
アイコン 護衛相談
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/11/29 19:25:56