ゲスト
(ka0000)
【初心】橋の上の猿
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/21 12:00
- 完成日
- 2018/01/01 23:12
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ガタン、ゴトン、ガタタン
一台の馬車がゆく。砂利を噛む音が軽快だった。
この度のハンターたちの依頼は馬車の護衛だ。
そして、馬車はついにある橋にさしかかる。
●回想――ハンターオフィスにて
今回の依頼が職員によって説明される。
内容は馬車の護衛。なんでも街道に猿の雑魔が出没し、通行人を襲っているらしい。その数12体。
馬車を守りつつ、それらを撃退してほしいのだという。
もともとはあるハンターに持ち込まれた依頼であったが、ひとりでは人手が足りないために、こうしてオフィスの支援を受けることにしたそうな。
●さて――再び馬車である
歪虚の出現場所は特定されていない。ただ街道と歩いていると出会うというばかりだ。
朝からの行程で、時刻はすでに夜である。周りもよく見えなくなってきた。
奇襲にはもってこいだ。
「そろそろだろうな……」
ハンターが言う。
「旦那、本当に大丈夫なんですかね?」
震える声で御者――つまり今回の依頼人がいう。
「安心しな。ここにいるのは俺と、将来有望なハンターたちだ。怖がることはない」
そこで、ハンターはあなたたちに向き直って、作戦の確認をはじめた。
「今回の敵は、単純だ。的が多い方を追っかけてくる」
そこでこんな作戦を立てた。
敵が現れたら、このハンターと馬車は全速力で街まで向かっていく。そこまでたどり着けば安全だからだ。
「君たちには、敵と交戦してもらう。逃げていく俺らに敵がちょっかいださないとも限らない。そこらへん、よろしくたのむぜ」
あなたたちは会敵し次第、馬車を飛び降りて、敵を掃討する。それが今回の依頼の全貌だ。
「俺も街に着いたらすぐに馬で君たちのところへ戻ってくる。だから、そう心配するな。なんとかなる、そう思って戦いな」
ハンターはあなたたちに言う。
馬車は橋へ差し掛かる。下には川が流れていた。せせらぎが心地よい。
そのときである。
ぬっと幌を突き破って手が出てきた。それは、馬車に取り付いて、みるみる数を増やしていく。
「来たぞ! まずは奴さんを馬車から引き離せ! ちょっとくらいなら馬車が傷ついてもかまわん!」
矢や魔法が手に殺到する。手は悲鳴をあげながら離れていく。はたして、それは報告の通り、猿の雑魔であった。
あなたたちは馬車を飛び降り、猿と対峙する。
その数12体。飛び降りたあなたたちを囲むようにしている。
背後から、最後、あのハンターの声がした。
「俺もすぐに戻ってくる! それまで持ちこたえてくれ!」
慌ただしい音を立てて、馬車は走り去った。
車輪の砂を噛む音も聞こえなくなり、再び橋の上にはせせらぎだけが聞こえる。
徐々に騒がしくなる猿たち。それは戦闘への高揚か、獲物にありつける歓喜か、あるいは獲物を逃した怨嗟か。
あなたたちは武器を構えるのだった。
一台の馬車がゆく。砂利を噛む音が軽快だった。
この度のハンターたちの依頼は馬車の護衛だ。
そして、馬車はついにある橋にさしかかる。
●回想――ハンターオフィスにて
今回の依頼が職員によって説明される。
内容は馬車の護衛。なんでも街道に猿の雑魔が出没し、通行人を襲っているらしい。その数12体。
馬車を守りつつ、それらを撃退してほしいのだという。
もともとはあるハンターに持ち込まれた依頼であったが、ひとりでは人手が足りないために、こうしてオフィスの支援を受けることにしたそうな。
●さて――再び馬車である
歪虚の出現場所は特定されていない。ただ街道と歩いていると出会うというばかりだ。
朝からの行程で、時刻はすでに夜である。周りもよく見えなくなってきた。
奇襲にはもってこいだ。
「そろそろだろうな……」
ハンターが言う。
「旦那、本当に大丈夫なんですかね?」
震える声で御者――つまり今回の依頼人がいう。
「安心しな。ここにいるのは俺と、将来有望なハンターたちだ。怖がることはない」
そこで、ハンターはあなたたちに向き直って、作戦の確認をはじめた。
「今回の敵は、単純だ。的が多い方を追っかけてくる」
そこでこんな作戦を立てた。
敵が現れたら、このハンターと馬車は全速力で街まで向かっていく。そこまでたどり着けば安全だからだ。
「君たちには、敵と交戦してもらう。逃げていく俺らに敵がちょっかいださないとも限らない。そこらへん、よろしくたのむぜ」
あなたたちは会敵し次第、馬車を飛び降りて、敵を掃討する。それが今回の依頼の全貌だ。
「俺も街に着いたらすぐに馬で君たちのところへ戻ってくる。だから、そう心配するな。なんとかなる、そう思って戦いな」
ハンターはあなたたちに言う。
馬車は橋へ差し掛かる。下には川が流れていた。せせらぎが心地よい。
そのときである。
ぬっと幌を突き破って手が出てきた。それは、馬車に取り付いて、みるみる数を増やしていく。
「来たぞ! まずは奴さんを馬車から引き離せ! ちょっとくらいなら馬車が傷ついてもかまわん!」
矢や魔法が手に殺到する。手は悲鳴をあげながら離れていく。はたして、それは報告の通り、猿の雑魔であった。
あなたたちは馬車を飛び降り、猿と対峙する。
その数12体。飛び降りたあなたたちを囲むようにしている。
背後から、最後、あのハンターの声がした。
「俺もすぐに戻ってくる! それまで持ちこたえてくれ!」
慌ただしい音を立てて、馬車は走り去った。
車輪の砂を噛む音も聞こえなくなり、再び橋の上にはせせらぎだけが聞こえる。
徐々に騒がしくなる猿たち。それは戦闘への高揚か、獲物にありつける歓喜か、あるいは獲物を逃した怨嗟か。
あなたたちは武器を構えるのだった。
リプレイ本文
馬車が走り去っていく。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン……
車輪の音は次第に遠ざかり、ついに聞こえなくなった。
「無事行ったみたいですね……」
オグマ・サーペント(ka6921)が馬車の走り去った方向を見て言った。
そして、視線を戻し、敵を見据えた。
12体の雑魔となった猿たちを。
猿たちは馬車から飛び降りたハンターたちを囲んで、貪婪な瞳を輝かせていた。彼らは走り去った馬車よりも、そこから飛び降りてきたハンターたちの方に目をつけたようだ。きぃきぃ、という鳴き声がそこかしこで聞こえて来る。それはさざ波のように広がり、次第に空間を揺らす大音声となるのだった。足下のせせらぎは最早聞こえなかった。
その様を、天空に浮かんだ瞳のような月だけが見守っていた。
「光源はこれでいいかな」
白磐 猛仁(ka7066)が頭に事前に巻きつけたハンディLEDライトの調子を確認した。猿たちの顔がそれによって照らし出される。牙や爪など身体中に赤黒い汚れが付着していた。
「一体、どれだけの生き物が犠牲になったのでしょう」
サフィ・ロジエラ・アパーシア(ka7063)が顔をしかめる。
「ただの雑魔であろうと、名のある歪虚であろうと、私たちに仇なす者であることに変わりはありませんわ」
サフィの手にした盾がみるみる輝きだした。シャインによって武器が輝きを帯びたのだ。
「これが人間の賊であれば、身を窶すまでの経緯に憐れみの余地もあったかもしれませんが、今回はただの雑魔。遠慮の必要はありませんね」
サフィは光源となる盾を手に周囲を確認する。
「みなさん準備はよろしいですね」
他のハンターたちも光源となるライトを腕や武器にくくりつけることで、先頭の邪魔にならないように工夫していた。また、オグマは光る符と符靴によって光源を確保していた。
「うん、大丈夫だよ!」
鳳凰院瑠美(ka4534)がこたえる。
猛仁はオグマと、トラウィス(ka7073)はサフィと、ヴォルフガング・ヴァンダム(ka6944)は瑠美と、背中合わせになるようにハンターたちはすでに陣を取っていた。
「白磐さん、よろしくお願いします」
オグマが背後の猛仁に声をかける。
「こちらこそよろしく頼む。……どこから来るかわからないなら、どこから来てもいいようにするだけだ」
猛仁が不敵に言う。
猿たちの鳴き声も強くなる。彼らも身を低くし、いつでも飛びかかれる態勢だ。
「さあ、来い。俺に食らいついたらその時が最期だ」
猿たちは、ハンターたちの射程に飛び込んでいくのだった。
猿たちは、橋の欄干や味方の体などを踏み台にして四方八方からハンターたちに襲い掛かった。
頭部に爪による引っかき傷を受けたヴォルフガングが流れた血をぬぐうが、しかし、敵から目を話さない。
「これはまた厄介な敵だ。こうした相手と戦うのも、また一興」
ヴォルフガングは後ろに飛んで距離を取ろうとする猿の右足を刀で浅く傷つけていた。
「素早い、というのなら、鈍らせてその命を絶つまでだ」
剣心一如――、呼吸を整えてヴォルフガングは次の攻撃の狙いを定める。
だが、敵は12体。数で言えばどう考えても猿の方が有利だった。
「いたた、まったく、すばしっこいんだから……!」
瑠美は多く敵からの攻撃を受けていた。まだ目が慣れないのか、敵の動きに翻弄されていた。
「ご、ごめん。ちょっとやばいかも。回復お願いできるかな?」
「もちろんですわ!」
すかさず、サフィがヒールで瑠美の体力を回復した。
「ありがとっ! ……まずはじっくり観察させてもらうよ?」
瑠美は盾を構え、敵の攻撃に備えつつ、動きを見切るため、その青い瞳で敵を追いかける。
猿の攻撃は引っ掻きに噛みつきと非常に原始的なものだったが、あらゆるものを足場に立体的な動き故に回避が取りづらいのだ。
だが、トラウィスはムーバブルシールドによる高速移動で攻撃をガンレットではじき返した。
そして、すぐさま攻撃に転じる。
「……目標捕捉。殲滅します」
淡々とつぶやき、その手に稲妻が走る。
打ち出されたエレクトリックショットは猿の胸を焼き焦がした。
敵は歪虚。急所を射抜かれようが、体力が続く限り立ち向かって来る相手だ。
猿は胸に穴を開けながらも、なおもトラウィスに飛びかかろうとするが、麻痺によりうまく動けない。その隙をついて、トラウィスは猿を殴り飛ばすのだった。
「歪虚は解体する……」
猛仁の顔はフルフェイスのゴーグルに覆われているためにうかがい知れない。しかしその言葉には何か歪んだ思いが滲んでいた。
その猛仁の元へ猿が飛び込んで来た。足に齧り付こうと口を開いて蛇のように地を這って来たのだ。
それを猛仁は体を回転させて回避し、その勢いのまま、唸りを上げるチェーンソーを猿に叩きつけた。
胴の肉を削ぎ落とされながらも、猿は飛び込んだ方向へ走り抜けようとする。
オグマは符を掲げる。それは太陽のように輝きだし、三叉に別れて敵を強襲した。
風雷符――3体までの敵を一度に攻撃できる技だった。
猛仁の手を逃れた猿はしかし符の追跡まで逃れることはできなかった。符が炸裂し、雷が打ち出される。それに引き裂かれた猿は、苦悶の声をあげ、ついには体が塵となり、2度目の絶命を果たすのだった。
「数が多かもしれませんが、さっさと終わらせてしまいましょう」
オグマは次の札を装填した。
●
猿たちは獲物と思っていたものが、自分たちを殺傷したのに驚いたようだ。
その隙に、ハンターたちの攻撃は積み上げられていく。
しかし、猿ただではやられない。
せわしなくジャンプを繰り返し、縦横無尽に移動して来る。
ある猿の攻撃を瑠美が躱した。しかし、狙いすましたように、そこへ飛び込んで来る瑠美の背中へ食らいつこうとする猿がいた。
彼は仲間の体を踏みつけて、高く跳躍する。絶叫とともに瑠美へ飛びかかろうとしたが、その体は剣によって弾き落とされた。
「ここは通さぬ」
地面に打ち付けられた猿は、恨めしそうにヴォルフガングを見る。そうして、再び疾走し、今度はヴォルフガングの足元をすり抜けて瑠美の方へ行こうとする。
「何度来ても同じことだ」
やはり猿はヴォルフガングの剣筋に絡め取られ、後退をやむなくする。
ぎりぎりと歯ぎしりをして、猿はもう一度、ヴォルフガングに迫る。今度は首をかき切ろうとして。しかし、駆け出した刹那、体が前につんのめった。
「己の傷の如何すらわからぬとは哀れな猿よな」
いつのまにか、猿の体には、特に腕や足には浅い切り傷がいくつも出来ていた。
ヴォルフガングは猿を払い、退けつつ敵を傷つけていたのだ。
「それでは、その首……貰い受ける――!」
一閃、剣が振るわれ、猿の頭は弾き飛ばされた。
頭をなくした猿の体は、周囲の闇に溶けるように、塵になって消えて行った。
オグマの風雷符が3体の猿を消し炭にした。
残り7体。すでに半数近くが葬られたことになる。
しかし、猿の敵意が萎えることはなかった。今もまだきぃきぃ鳴き続けて、不快な絶叫をあげて、駆け回っている。
猿たちは、複数体を一度に攻撃する手段を持つオグマ、そして回復手段を持つサフィを危険だと思ったのであろう、攻撃の手を集中して来ていた。
あらゆる物を踏み台にして、猿が強襲する。
「……させません」
トラウィスの機導砲が移動中の猿たち発射される。猿たちはやむなく急停止し地団駄を踏んだ。
「アパーシア様、ご無事ですか」
「ええ、多少の傷はありますが、問題ありませんわ」
まだ致命傷ではないまでも、サフィの脇腹からは血が流れていた。
その血の匂いで興奮したのか、猿たちはまたも絶叫しながらサフィへ襲いかかる。
「まったく、躾がなっていませんね」
「ご安心を。アパーシア様の背を守るのは最優先事項です」
「ええ、頼りにしてますわ」
サフィは柔らかく微笑むのだった。
●
その時である。
「オグマ、右の足元だ!」
猛仁が叫ぶが遅かった。
オグマの死角から飛び出した猿は、オグマの胸を抉り取って行ったのだ。
傷口にから鮮血が噴き出す。それは暗闇の中でなお赤く輝く命の雫だった。
「オグマさん!」
サフィが回復を飛ばすも、血の流れが少し弱まるばかり。傷は深かった。
「大丈夫か!?」
「ええ、なんとか……」
かろうじて膝をつくことなく、オグマが答える。
「これ以上、近づけさせません」
トラウィスが機導砲を放って、オグマに近く猿たちを牽制する。
猛仁も懸命に近づいてくる猿を振り払う。
また1匹、頭上を越えて行こうとするものを叩き落として、そのまま地面に押し付けながら解体するのだった。
「時間は稼ぐ! 立て直せるな!?」
「回復手段はありますから……」
オグマは、自身にヒールを施して傷を癒していくのだった。
「確かに素早いし……」
猿が仲間の踏んづけ飛び上がり、瑠美を狙って爪を振り上げた。
それをひらりと躱しした瑠美。
「最初はたくさんやられちゃったけど……」
しかし、今度は踏んづけられた猿が低空跳躍し、瑠美の足に齧り付こうとする。
「見慣れてくれば当てられるんだからねっ!」
瑠美は足を高く掲げ、そして踵を突っ込んでくる猿へ振り落とした。
頭蓋骨が砕ける鈍い音がして、猿は塵になっていくのだった。
「ここからは私達の反撃なんだからね!」
瑠美が今振り下ろした方の足を軸足にして、残った猿に回し蹴りを決めた。
猿は瑠美を経過して、距離を取り、瑠美とヴォルフガングを中心に回り始めた。
「さきほどまでの威勢はどうした?」
「そうだよ、かかっておいで! 蹴っ飛ばしてあげるっ!」
瑠美とヴォルフガングが挑発するも、猿は移動するばかりで行動に出ない。
2人と1匹の間を満月と持ちこんだ光源だけが気まずそうに照らしていた。
「こういう時は、相手が好戦的だとやりやすいが……」
しかし、ついに覚悟を決めたのか、猿はよだれを垂らしながら2人に飛びかかる。
「瑠美殿、任せた!」
「りょーかいっ!」
結局、猿には飛びかかるくらいしかできなかった。
瑠美は、戦いの前半でじっくり相手を観察し、肌で敵の動きを感じることで、その動作に慣れて来た。そんな芸のない攻撃がもはや当たるはずがなかった。
「もう動きには慣れちゃったもんね♪ 覚悟!」
瑠美の蹴りが猿の横っ面に叩きこまれた。
猿はそのまま、何の抵抗もなく吹き飛んで、地面に叩きつけられ消滅するばかりだった。
トラウィスの機導砲を避けて、1体の猿がサフィに迫る。
繰り出された爪をサフィは盾で弾き返す。
「盾の輝きが目くらましになればいいですが、あまり強い光ではこちらも目が眩んでしまいますから、もどかしいですわね……」
輝く盾を手にするサフィに、再度猿が迫る。
「回復しかできないと思ったら大間違いですよ?」
猿が、サフィの喉笛に噛み付かんと飛び上がった。その動きにサフィも合わせる。
サフィは、盾を引いた。サフィの白い喉笛が晒される。
猿はもう、喉笛にむしゃぶりつくことしか考えていないのであろう。よだれをだらだら垂らして、襲いくる。
しかし、それか叶わなかった。
高い、打擲音が響き渡る。
サフィの鞭が、猿にヒットした音だった。
「まったく、服が汚れてしまいますわ」
サフィは、さっと裾を払って、姿勢を正す。
猿はといえば、殴りつけられたショックで、地面でしばらく痙攣し、やがて塵になって消えていくのだった。
オグマの傷は回復術によってある程度止血していた。
「ご心配おかけしました。これで、もう大丈夫です」
オグマが胸の傷を確かめ、敵に向き直る。
そして、金色の目で自分に傷を負わせた猿をじろりと睨んだ。それに呼応するかのように覚醒によって顕現した蛇の幻影がするするとオグマの体を這い回る。
「私の命はここで終わらせるわけにはいきませんから」
オグマが符を放った。
残り3体。その猿は全てオグマの射程の中にいた。
「あなたたちは、ここで眠ってください」
符が、それぞれの猿に飛んでいく。
猿はその威力を今まで戦いで思い知ったのであろう、逃げようと走り出した。
2体の猿に符は追いついた。しかし、1体は器用に体を捻って回避を成功させるかに思えた。
「甘い!」
オグマの鋭い声とともに、桜の幻想が猿の眼前に現れる。
桜幕符――桜吹雪の幻影を作り出すことで敵の視界を塞ぎ、行動を阻害する技だった。
猿は、桜の幕によって完全に符を見失った。
その、刹那。轟音が響き渡った。
ついにオグマの放った符が稲妻に姿を変え、敵を撃ち抜く音だった。
稲妻が、闇夜の中で、ぼんやりと幻想的に輝く桜吹雪を引き裂いた。
桜が、無風の中で吹き荒れて、その嵐が去った時には、猿の姿はどこにもなかった。
「これで終わり、ですね」
その、耳を弄するほどの落雷を最後に、橋の上には平穏が戻り、せせらぎが再び聞こえ始めていた。
「みんな、お疲れ様」
猛仁は、マテリアルヒーリングで自身の傷を癒してから、戦いを生き抜いた仲間たちに労いの言葉をかけるのだった。
●
「狭い場所での集団相手……いい経験としておこうか」
猛仁は先ほどの戦いを吟味しているらしかった。ついで、今までの依頼で縁のあるサフィに声をかけて、初依頼のときと比べてどうだったかあれこれ語り合っていた。
すると、遠くから、蹄が地面を叩く音が聞こえて来た。
しばらくすると、橋のたもとに、馬車を無事に届けて来たベテランハンターが馬に乗って現れたのだ。
早速瑠美がハンターのところに駆け寄って戦果を報告した。
「えへへ。私達だってやれば出来るんだからね♪」
Vサインを作ってそう言うのだった。
雑魔と化した猿が消えた以上、この戦いを見ていたのは、空に輝く月ばかり。それでも各々の胸に刻まれたものはあったであろうか。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン……
車輪の音は次第に遠ざかり、ついに聞こえなくなった。
「無事行ったみたいですね……」
オグマ・サーペント(ka6921)が馬車の走り去った方向を見て言った。
そして、視線を戻し、敵を見据えた。
12体の雑魔となった猿たちを。
猿たちは馬車から飛び降りたハンターたちを囲んで、貪婪な瞳を輝かせていた。彼らは走り去った馬車よりも、そこから飛び降りてきたハンターたちの方に目をつけたようだ。きぃきぃ、という鳴き声がそこかしこで聞こえて来る。それはさざ波のように広がり、次第に空間を揺らす大音声となるのだった。足下のせせらぎは最早聞こえなかった。
その様を、天空に浮かんだ瞳のような月だけが見守っていた。
「光源はこれでいいかな」
白磐 猛仁(ka7066)が頭に事前に巻きつけたハンディLEDライトの調子を確認した。猿たちの顔がそれによって照らし出される。牙や爪など身体中に赤黒い汚れが付着していた。
「一体、どれだけの生き物が犠牲になったのでしょう」
サフィ・ロジエラ・アパーシア(ka7063)が顔をしかめる。
「ただの雑魔であろうと、名のある歪虚であろうと、私たちに仇なす者であることに変わりはありませんわ」
サフィの手にした盾がみるみる輝きだした。シャインによって武器が輝きを帯びたのだ。
「これが人間の賊であれば、身を窶すまでの経緯に憐れみの余地もあったかもしれませんが、今回はただの雑魔。遠慮の必要はありませんね」
サフィは光源となる盾を手に周囲を確認する。
「みなさん準備はよろしいですね」
他のハンターたちも光源となるライトを腕や武器にくくりつけることで、先頭の邪魔にならないように工夫していた。また、オグマは光る符と符靴によって光源を確保していた。
「うん、大丈夫だよ!」
鳳凰院瑠美(ka4534)がこたえる。
猛仁はオグマと、トラウィス(ka7073)はサフィと、ヴォルフガング・ヴァンダム(ka6944)は瑠美と、背中合わせになるようにハンターたちはすでに陣を取っていた。
「白磐さん、よろしくお願いします」
オグマが背後の猛仁に声をかける。
「こちらこそよろしく頼む。……どこから来るかわからないなら、どこから来てもいいようにするだけだ」
猛仁が不敵に言う。
猿たちの鳴き声も強くなる。彼らも身を低くし、いつでも飛びかかれる態勢だ。
「さあ、来い。俺に食らいついたらその時が最期だ」
猿たちは、ハンターたちの射程に飛び込んでいくのだった。
猿たちは、橋の欄干や味方の体などを踏み台にして四方八方からハンターたちに襲い掛かった。
頭部に爪による引っかき傷を受けたヴォルフガングが流れた血をぬぐうが、しかし、敵から目を話さない。
「これはまた厄介な敵だ。こうした相手と戦うのも、また一興」
ヴォルフガングは後ろに飛んで距離を取ろうとする猿の右足を刀で浅く傷つけていた。
「素早い、というのなら、鈍らせてその命を絶つまでだ」
剣心一如――、呼吸を整えてヴォルフガングは次の攻撃の狙いを定める。
だが、敵は12体。数で言えばどう考えても猿の方が有利だった。
「いたた、まったく、すばしっこいんだから……!」
瑠美は多く敵からの攻撃を受けていた。まだ目が慣れないのか、敵の動きに翻弄されていた。
「ご、ごめん。ちょっとやばいかも。回復お願いできるかな?」
「もちろんですわ!」
すかさず、サフィがヒールで瑠美の体力を回復した。
「ありがとっ! ……まずはじっくり観察させてもらうよ?」
瑠美は盾を構え、敵の攻撃に備えつつ、動きを見切るため、その青い瞳で敵を追いかける。
猿の攻撃は引っ掻きに噛みつきと非常に原始的なものだったが、あらゆるものを足場に立体的な動き故に回避が取りづらいのだ。
だが、トラウィスはムーバブルシールドによる高速移動で攻撃をガンレットではじき返した。
そして、すぐさま攻撃に転じる。
「……目標捕捉。殲滅します」
淡々とつぶやき、その手に稲妻が走る。
打ち出されたエレクトリックショットは猿の胸を焼き焦がした。
敵は歪虚。急所を射抜かれようが、体力が続く限り立ち向かって来る相手だ。
猿は胸に穴を開けながらも、なおもトラウィスに飛びかかろうとするが、麻痺によりうまく動けない。その隙をついて、トラウィスは猿を殴り飛ばすのだった。
「歪虚は解体する……」
猛仁の顔はフルフェイスのゴーグルに覆われているためにうかがい知れない。しかしその言葉には何か歪んだ思いが滲んでいた。
その猛仁の元へ猿が飛び込んで来た。足に齧り付こうと口を開いて蛇のように地を這って来たのだ。
それを猛仁は体を回転させて回避し、その勢いのまま、唸りを上げるチェーンソーを猿に叩きつけた。
胴の肉を削ぎ落とされながらも、猿は飛び込んだ方向へ走り抜けようとする。
オグマは符を掲げる。それは太陽のように輝きだし、三叉に別れて敵を強襲した。
風雷符――3体までの敵を一度に攻撃できる技だった。
猛仁の手を逃れた猿はしかし符の追跡まで逃れることはできなかった。符が炸裂し、雷が打ち出される。それに引き裂かれた猿は、苦悶の声をあげ、ついには体が塵となり、2度目の絶命を果たすのだった。
「数が多かもしれませんが、さっさと終わらせてしまいましょう」
オグマは次の札を装填した。
●
猿たちは獲物と思っていたものが、自分たちを殺傷したのに驚いたようだ。
その隙に、ハンターたちの攻撃は積み上げられていく。
しかし、猿ただではやられない。
せわしなくジャンプを繰り返し、縦横無尽に移動して来る。
ある猿の攻撃を瑠美が躱した。しかし、狙いすましたように、そこへ飛び込んで来る瑠美の背中へ食らいつこうとする猿がいた。
彼は仲間の体を踏みつけて、高く跳躍する。絶叫とともに瑠美へ飛びかかろうとしたが、その体は剣によって弾き落とされた。
「ここは通さぬ」
地面に打ち付けられた猿は、恨めしそうにヴォルフガングを見る。そうして、再び疾走し、今度はヴォルフガングの足元をすり抜けて瑠美の方へ行こうとする。
「何度来ても同じことだ」
やはり猿はヴォルフガングの剣筋に絡め取られ、後退をやむなくする。
ぎりぎりと歯ぎしりをして、猿はもう一度、ヴォルフガングに迫る。今度は首をかき切ろうとして。しかし、駆け出した刹那、体が前につんのめった。
「己の傷の如何すらわからぬとは哀れな猿よな」
いつのまにか、猿の体には、特に腕や足には浅い切り傷がいくつも出来ていた。
ヴォルフガングは猿を払い、退けつつ敵を傷つけていたのだ。
「それでは、その首……貰い受ける――!」
一閃、剣が振るわれ、猿の頭は弾き飛ばされた。
頭をなくした猿の体は、周囲の闇に溶けるように、塵になって消えて行った。
オグマの風雷符が3体の猿を消し炭にした。
残り7体。すでに半数近くが葬られたことになる。
しかし、猿の敵意が萎えることはなかった。今もまだきぃきぃ鳴き続けて、不快な絶叫をあげて、駆け回っている。
猿たちは、複数体を一度に攻撃する手段を持つオグマ、そして回復手段を持つサフィを危険だと思ったのであろう、攻撃の手を集中して来ていた。
あらゆる物を踏み台にして、猿が強襲する。
「……させません」
トラウィスの機導砲が移動中の猿たち発射される。猿たちはやむなく急停止し地団駄を踏んだ。
「アパーシア様、ご無事ですか」
「ええ、多少の傷はありますが、問題ありませんわ」
まだ致命傷ではないまでも、サフィの脇腹からは血が流れていた。
その血の匂いで興奮したのか、猿たちはまたも絶叫しながらサフィへ襲いかかる。
「まったく、躾がなっていませんね」
「ご安心を。アパーシア様の背を守るのは最優先事項です」
「ええ、頼りにしてますわ」
サフィは柔らかく微笑むのだった。
●
その時である。
「オグマ、右の足元だ!」
猛仁が叫ぶが遅かった。
オグマの死角から飛び出した猿は、オグマの胸を抉り取って行ったのだ。
傷口にから鮮血が噴き出す。それは暗闇の中でなお赤く輝く命の雫だった。
「オグマさん!」
サフィが回復を飛ばすも、血の流れが少し弱まるばかり。傷は深かった。
「大丈夫か!?」
「ええ、なんとか……」
かろうじて膝をつくことなく、オグマが答える。
「これ以上、近づけさせません」
トラウィスが機導砲を放って、オグマに近く猿たちを牽制する。
猛仁も懸命に近づいてくる猿を振り払う。
また1匹、頭上を越えて行こうとするものを叩き落として、そのまま地面に押し付けながら解体するのだった。
「時間は稼ぐ! 立て直せるな!?」
「回復手段はありますから……」
オグマは、自身にヒールを施して傷を癒していくのだった。
「確かに素早いし……」
猿が仲間の踏んづけ飛び上がり、瑠美を狙って爪を振り上げた。
それをひらりと躱しした瑠美。
「最初はたくさんやられちゃったけど……」
しかし、今度は踏んづけられた猿が低空跳躍し、瑠美の足に齧り付こうとする。
「見慣れてくれば当てられるんだからねっ!」
瑠美は足を高く掲げ、そして踵を突っ込んでくる猿へ振り落とした。
頭蓋骨が砕ける鈍い音がして、猿は塵になっていくのだった。
「ここからは私達の反撃なんだからね!」
瑠美が今振り下ろした方の足を軸足にして、残った猿に回し蹴りを決めた。
猿は瑠美を経過して、距離を取り、瑠美とヴォルフガングを中心に回り始めた。
「さきほどまでの威勢はどうした?」
「そうだよ、かかっておいで! 蹴っ飛ばしてあげるっ!」
瑠美とヴォルフガングが挑発するも、猿は移動するばかりで行動に出ない。
2人と1匹の間を満月と持ちこんだ光源だけが気まずそうに照らしていた。
「こういう時は、相手が好戦的だとやりやすいが……」
しかし、ついに覚悟を決めたのか、猿はよだれを垂らしながら2人に飛びかかる。
「瑠美殿、任せた!」
「りょーかいっ!」
結局、猿には飛びかかるくらいしかできなかった。
瑠美は、戦いの前半でじっくり相手を観察し、肌で敵の動きを感じることで、その動作に慣れて来た。そんな芸のない攻撃がもはや当たるはずがなかった。
「もう動きには慣れちゃったもんね♪ 覚悟!」
瑠美の蹴りが猿の横っ面に叩きこまれた。
猿はそのまま、何の抵抗もなく吹き飛んで、地面に叩きつけられ消滅するばかりだった。
トラウィスの機導砲を避けて、1体の猿がサフィに迫る。
繰り出された爪をサフィは盾で弾き返す。
「盾の輝きが目くらましになればいいですが、あまり強い光ではこちらも目が眩んでしまいますから、もどかしいですわね……」
輝く盾を手にするサフィに、再度猿が迫る。
「回復しかできないと思ったら大間違いですよ?」
猿が、サフィの喉笛に噛み付かんと飛び上がった。その動きにサフィも合わせる。
サフィは、盾を引いた。サフィの白い喉笛が晒される。
猿はもう、喉笛にむしゃぶりつくことしか考えていないのであろう。よだれをだらだら垂らして、襲いくる。
しかし、それか叶わなかった。
高い、打擲音が響き渡る。
サフィの鞭が、猿にヒットした音だった。
「まったく、服が汚れてしまいますわ」
サフィは、さっと裾を払って、姿勢を正す。
猿はといえば、殴りつけられたショックで、地面でしばらく痙攣し、やがて塵になって消えていくのだった。
オグマの傷は回復術によってある程度止血していた。
「ご心配おかけしました。これで、もう大丈夫です」
オグマが胸の傷を確かめ、敵に向き直る。
そして、金色の目で自分に傷を負わせた猿をじろりと睨んだ。それに呼応するかのように覚醒によって顕現した蛇の幻影がするするとオグマの体を這い回る。
「私の命はここで終わらせるわけにはいきませんから」
オグマが符を放った。
残り3体。その猿は全てオグマの射程の中にいた。
「あなたたちは、ここで眠ってください」
符が、それぞれの猿に飛んでいく。
猿はその威力を今まで戦いで思い知ったのであろう、逃げようと走り出した。
2体の猿に符は追いついた。しかし、1体は器用に体を捻って回避を成功させるかに思えた。
「甘い!」
オグマの鋭い声とともに、桜の幻想が猿の眼前に現れる。
桜幕符――桜吹雪の幻影を作り出すことで敵の視界を塞ぎ、行動を阻害する技だった。
猿は、桜の幕によって完全に符を見失った。
その、刹那。轟音が響き渡った。
ついにオグマの放った符が稲妻に姿を変え、敵を撃ち抜く音だった。
稲妻が、闇夜の中で、ぼんやりと幻想的に輝く桜吹雪を引き裂いた。
桜が、無風の中で吹き荒れて、その嵐が去った時には、猿の姿はどこにもなかった。
「これで終わり、ですね」
その、耳を弄するほどの落雷を最後に、橋の上には平穏が戻り、せせらぎが再び聞こえ始めていた。
「みんな、お疲れ様」
猛仁は、マテリアルヒーリングで自身の傷を癒してから、戦いを生き抜いた仲間たちに労いの言葉をかけるのだった。
●
「狭い場所での集団相手……いい経験としておこうか」
猛仁は先ほどの戦いを吟味しているらしかった。ついで、今までの依頼で縁のあるサフィに声をかけて、初依頼のときと比べてどうだったかあれこれ語り合っていた。
すると、遠くから、蹄が地面を叩く音が聞こえて来た。
しばらくすると、橋のたもとに、馬車を無事に届けて来たベテランハンターが馬に乗って現れたのだ。
早速瑠美がハンターのところに駆け寄って戦果を報告した。
「えへへ。私達だってやれば出来るんだからね♪」
Vサインを作ってそう言うのだった。
雑魔と化した猿が消えた以上、この戦いを見ていたのは、空に輝く月ばかり。それでも各々の胸に刻まれたものはあったであろうか。
依頼結果
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面白かった! | 8人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 白磐 猛仁(ka7066) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/20 23:27:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/17 22:40:49 |