• 東幕

【東幕】男児が事を成すには時がある

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/21 22:00
完成日
2017/12/23 09:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 金月町から路地を少しばかり歩けば、人通りの多い道に突き当たる。
 近くに材木問屋がある事にも起因しているが、人足寄場の存在も大きい。元々は犯罪者の更生施設であったが、歪虚の活動により家屋や職を失った者が多数現れた事を受け、職を斡旋する場所として知られている。
 この役場の登場で若峰の復興は一気に進んだが、役場周辺に人が密集。治安の低下も懸念され始めていた。

 そんな役場近くの蕎麦屋に、ハンター達は呼び出されていた。
「そのまま座ってこちらを向くな。適当に何かを頼め」
 卓に着くなり、ハンター達は背中越しに話し掛けられる。
 言い方にやや腹を立てるも、ハンター達は黙って従う。その一言を発した人物が、依頼者である即疾隊副隊長の前沢恭吾だからだ。
 ハンター達は言われるままに蕎麦注文すると静かに前沢が口を開くのを待つ。
「……すまない。こちらにも事情があるのだ」
 背中越しで分からないが、前沢も蕎麦を手繰っているのだろう。
 時折、蕎麦を啜る音と醤油と出汁の香りが漂ってくる。
「それは構いませんが、何故この場所を指定されたのですか?」
 ハンターの一人が、率直な意見を述べた。
 店内は腹を満たそうとする人足達が引っ切りなしに出入りしている。
 店の外では大八車で大荷物を運ぶ者達が行き交い、車輪が砂利を蹴散らして騒音を奏でている。
 とても、依頼内容を話す環境には見えない。
 しかし――。
「言っただろ? 事情があるんだ。
 若峰で最近辻斬りが横行しているのは聞いたか? あれは、以前のような奴の犯行ではない」
 以前のような奴。
 それは先日、詩天で発生していた辻斬り事件だ。この時は歪虚と化した葦原流師範にして壬生和彦(kz0205)の父、葦原若松が引き犯した事件だった。
 また同時期に浪人による辻斬りも発生しているが、それとは事情が異なるようだ。
「どういう事でしょう?」
「あれは歪虚じゃない。紛れもねぇ、人間の仕業だ」
 人間の仕業。
 その言葉がハンターの背中に悪寒を走らせる。
 それは――敵が歪虚ではなく人間を想定させたからだ。
「鬼哭組。
 詩天独立を掲げる過激浪士集団だ。幕府や西方の国を敵視して、それらに協力する連中を襲い続けている」
 前沢の言葉に怒気が孕んでいる事は、背中越しにでも分かる。
 確かに三条家軍師の水野 武徳(kz0196)は幕府を警戒している。しかし、鬼哭組に言わせれば武徳のやり方は『手緩く』、詩天を腐敗させるだけだという。そのせいで武徳を支持する家臣も臆して屋敷に引き籠もる始末。三条家や武徳の基盤が揺らぎかねない勢いだ。
 鬼哭組は九代目詩天を掲げて国家体制を再構築しようと画策しているという噂もある。
「呉服問屋の友華屋前兵衛。
 三条家家臣の日向清正。
 皆、鬼哭組に辻斬りされた連中だ。幕府や西方諸国に肩入れしようとしていたが、朝方、斬り殺された。
 『三途の鬼との戯れに候』という書き置きを添えられてな」
 要人が斬られたという事は、即疾隊の護衛に失敗した事を意味している。彼らの失敗を苦々しく思っているのは、他ならぬ副隊長の前沢だろう。
 前沢は、言葉を続ける。
「即疾隊が裏をかかれ続けた理由が、ようやく分かった。
 連中は様々な場所に仲間を潜り込ませていた。些細な会話に聞き耳立てて、情報をかき集めている……どうして気付いたかは聞かない方がいい」
 前沢が言うには、鬼哭組は仲間を様々な場所へ送り込んでいたようだ。
 即疾隊や三条家家臣の言葉を盗み聞き。
 必要であれば屋敷に忍び込み、情報を掠め取る。
 そして、集めた情報から要人や商人、即疾隊の動きを把握していたという訳だ。下手をすれば即疾隊にも潜り込んでいる可能性もある以上、屯所で話すことも難しい。
「それでこの場所、ですか。ここなら忙しい人々ばかりで誰も気にしない。皆、その日を生きることに精一杯ですから」
「はい、蕎麦。お待ちどさま」
 若い店員が蕎麦を持ってきた。
 前沢に言われるまま、注文していた蕎麦が卓の上に並ぶ。
 蕎麦の上には葱が添えられ、醤油独特の香りが鼻腔をくすぐる。
 そして、蕎麦の横に店員が置いていったのは一枚の書面であった。
「こっちも遊んでいた訳じゃない。連中に偽の情報を掴ませた。悪いが、その場所へ赴いて連中を斬れ。
 説得は不要だ。国を憂いて天誅と叫び、もう何人も斬ってる。ただの罪人だ。情け容赦は必要ない。生かせば、明日の犠牲者を増やすと思え」
 書面には護衛対象の名前、場所、時間が列挙されている。
 前沢の話の通りなら、この偽情報を流す事で鬼哭組をおびき出す事ができるようだ。
 だが、場所は複数書かれている。
「敵に怪しまれる事を懸念して、情報を複数流さしてもらった。その何処かに連中が現れる。そいつらを始末してもらいたい」
「一つ聞きたい。
 何故、ハンターに依頼を? 若峰の守護は即疾隊の仕事だったはずだ」
「言いにくい事を聞いてくるな」
 前沢は、大きくため息をついた。
 そして、沈黙。
 前沢とハンター達を包む喧噪。
 それから前沢が口を開くまでにしばしの時間を要した。
「はっきり言っておく。
 若峰は俺たちの町で、俺たちの居場所だ。若峰は、即疾隊の力だけで守る。
 そして、正直に言えばハンターの手を借りる事態が気に食わない。
 だが、俺達の力には限界がある。俺達だけでは、守りきれないの相手がいるのも現実だ」
 即疾隊を巡る状況はかなり厳しい。
 辻斬り以外にも治安維持を名目に、様々な事件の対処を求められている。それ自体は頼りにされている事を考えても喜ばしい事だ。
 だが、物事には限度がある。
 隊士増員が間に合わない中でも、鬼哭組の蛮行は続く。こうしている間に、彼らは目標を一人一人始末していく。
 この状況を放置するのは、若峰守護を担う前沢にとって看過できない。ハンターへの依頼も苦肉の策なのだろう。
「俺は、この町を守るためなら何だってやる。
 泥水を啜ってでも生き残り、最後の一人になっても即疾隊の旗を掲げて守り抜く。敵を欺き、ハンターを雇ってでも……おかみ。勘定はここへ置いておく」
 立ち上がり、器の蕎麦に小銭を置いた前沢。
 ハンターに目をくれる事なく、店を後した。


「変わった奴だな、お前。西方から来た異人なのに、詩天の為に働きたいってぇのは?」
 鬼哭組首領、松永武人は宿の窓から差し込む月明かりの下で蛇皮線を奏でている。
 人払いをした部屋には武人の他のもう一人の人物が対面に立つ。
「私は誰の味方でもありません。神の使いですから」
「神、か。俺にとっちゃぁお前が何者だろうと、詩天の為に戦うなら邪魔はしねぇよ」
「神はあなた達を後押しすると仰っています。ですから、私はあなたをお助けします」
「……好きにしな」
 武人はそう言った後、黙って蛇皮線を奏で続けていた。

リプレイ本文

「今夜、現れてくれると良いのですが」
 商店や中流階級の住居が立ち並ぶ中央区の道を、狭霧 雷(ka5296)はロニ・カルディス(ka0551)と共に歩く。
 いつもであれば二人はハンターなのだが、今日ばかりは異なる。
 川相屋清兵衛とその護衛役。
 ハンディLEDライトで照らす道を、当てもなく歩き続ける。
「来る。そうでなければ困る」
 清兵衛に分した狭霧の少し後ろで、大きめの外套を羽織って姿を隠すロニ。
 既に即疾隊を通して『若白髪の優男』『西方気触れで使えもしないハンター用の装飾品を身につけている』等の偽情報を流している。
 これで食いついてくれれば良いのだが――。
「ところで……鬼哭組は何故、人を斬り続けていると思います? 何か理由がある気がします」
「分からない。ただ、人を斬る事で何かが変わる。そういう願望が垣間見えるな」
 雑談として始めた狭霧とロニの会話。
 実は人斬りの犯人は見当がついている。
 ――鬼哭組。
 世直しとして弱腰の詩天現政権を打倒し、外部勢力に負けない強い国を作る。
 その為に、外部勢力に与しようとする者達を斬っているというのが即疾隊の見立てだ。
「人を斬って世の中が良くなる。本当にそんな事があるのでしょうか?」
「俺にはあると思えない。だが、この国には一種の不満が渦巻いている。そんな気がしてならない」
 ロニが口にした――不満。
 それは三条家の不甲斐なさと言ったところか。
 幕府側の動きで九代目詩天の三条 真美(kz0198)の見合い話。詩天を君主としていただく民にしてみれば、幕府側が国の象徴を簒奪したと映っているのかもしれない。
 国を憂うが故の凶行。
 辿り着く先は、やはり悲劇的な将来しか見えない。
「報われない努力、ですね」
 狭霧の前を冷たい風が通り過ぎた。


「異常なし、と。敵はまだ現れないか」
 中央区にある家屋の屋根に登った八原 篝(ka3104)は、 魔導機式複合弓「ピアッサー」を握りしめる。
 ドールバイザー「クレヤボヤンス」の暗視機能で宵闇でも視界はクリアだ。
 狭霧とロニを後方から支援する為、事前に巡回ルートを昼間にチェックしていた八原。襲撃しやすい場所に目星を付けて敵の出現ポイントを確認していた。さらに壁歩きで高所から二人の周囲を警戒して襲撃に備えている。
「殺せってのが依頼人のご用命だけど、それにわたしは頷いてない。あの人はずっと後ろを向いて蕎麦を食べていただけ」
 八原は、依頼人である即疾隊副隊長の前沢恭吾の事を思い出していた。
 前沢は襲撃犯を斬れ、下手な情は不要と言い切った。
 だが、八原はそれに同調する事はできなかった。もし、襲撃犯に子供が交じっていた場合、自分に手は出せない。
「動けない相手にトドメは刺さない。手を抜く気はないけどね」
 八原は、離れた狭霧とロニを追いかける。
 襲撃犯に子供がいない事を祈りながら。


「……あれ、かな?」
 狭霧とロニが中央区の橋に差し掛かった時、ある男が姿を見せる。
 肩から蛇皮線を下げ、煙管を燻らせながら橋の中央に佇む一人の男。
 音すら吸い込んでしまうような闇の中、男は黙って下流を眺めていた。
 真剣のような鋭さと妖艶な雰囲気。
 護衛役のロニが前を先行する。
 そして、橋の中央に差し掛かった辺りで男は口を開く。
「俺ぁ、純粋に詩天が好きだ。だが、このままじゃいけねぇ。いずれ幕府か西方の国に呑み込まれちまう。そうなったら、この国は……詩天じゃねぇ。生きた屍だ」
 男は振り返る。
 同時に、橋の上で狭霧達を挟撃するように浪士が姿を見せる。
 足の上で狭霧達を襲うつもりのようだ。
「悪ぃが、ここで死んで貰う」
「……で、そうやって斬ってきたんですね」
「!」
 狭霧が一言呟いた。
 ここで男は気付く。目の前に居る男が、この襲撃を待っていた事に。
 だが、気付くのは遅かった。
 狭霧の体から放たれるオーラ。蒼き瞳が、覚醒の証を示す。
 そして、行く手を塞ぐ浪士に向けて地を駆けるものを使用して間合いを詰める。
「覚醒者か!」
 浪士も事態に気付いたようだ。
 だが、反撃の隙は与えない。
 浪士が刀を抜くよりも前に、狭霧のリボルバー「レインメイカー」を浪士の足に向かって放つ。
 太股が弾丸を貫き、浪士はその場で転倒。
 そのまま倒れ込む浪士に向けて狭霧はのし掛かる。
「オーダーは『見敵必殺』。情け容赦はございませんよ」
 そのままレインメーカーを浪士の頭部に向けて発射。
 弾丸を受けた浪士は、頭を撃ち抜かれて絶命した。
 一方、ロニも素早く後方の浪士に対して素早い対処を見せる。
「この辺りで来ると思っていた」
 ホーリーヴェールによる防御壁を展開するロニは、プルガトリオによる無数の刃を作り出した。
 浪士が鯉口を切って刀を抜き放った瞬間、刃は浪士の体を貫いていく。
「くっ、くそ!」
 刃は一瞬にして消えていくが、浪士はその場から動く事はできない。
 橋の上の空間に体を動かせなくなる。
 それは路地に隠れていた八原にとっては的でしかない。
「子供じゃない。良かった。
 けど、動きは止めさせて貰うわよ」
 ピアッサーから放たれるコールドアロー。
 一矢、続けて一矢。
 二つ番えによる連続高速射撃。
 放たれた矢は、浪士の刀を握っていた右腕と背中に命中。
 刀を取り落として浪士はその場で倒れ込む。
「松永さん、ここは逃げて下さい……」
「松永? やはり、お前は鬼哭組の松永武人か」
 浪士の口にした名前で、ロニは事前に受けていた情報を思い出した。
 この武人こそが、鬼哭組を率いて人斬りを続けている元凶である。
「へぇ、ちったぁ俺も有名人になったってところか。まあ、悪評だろうがな」
「自分で分かっているのですか。でしたら、ここで大人しく捕まってもらえませんか?」 狭霧は、レインメーカーを武人に向けて構える。
 狭霧とロニ、そして八原の腕前は浪士二人を瞬く間に片付けた事からも明白だ。
 三対一。
 だが、それに対しても武人に臆する様子は無い。
「断る。捕まれば、この国はすべてが終わるからな」
「終わり? 凶行が終わるの間違いではないのか?」
「凶行ねぇ。……この国がぶっ壊れるまで、俺ぁ終わらせる気はねぇよ」
 武人は、断言する。
 詩天が壊れるまで、人斬りを止める気は無い。
 ここで八原はある事に気付く。タクティカルヘッドセットを通じて魔導短伝話を持つロニへその事を伝える。
「幕府を警戒する者は、三条家にもいる。彼らと協力をすれば、このような真似をする必要はないのではないか?」
 八原の抱いた疑問をロニはそのまま武人へ投げつけた。
 武人は煙管燻らせた後、ゆっくりと口を開く。
「そんな時間がねぇんだ、俺にぁ。俺ぁ、後の奴が国を立て直しやすいように、悪人として国をぶっ壊すだけだ」
「なに? どういう……」
 ロニが言い掛けた瞬間、武人は袖から複数の球体を転がした。
 それは、魔導由来の焙烙玉。小さな橋程度なら橋に穴を開ける事は難しくない。
「やるからにゃ、派手にやろうぜ。それが祭りってもんだろ?」
 爆発。
 同時に川に生じる水柱。
 離れた場所にいた八原の目にもはっきりと見える。
「橋を落としたの? むちゃくちゃじゃない」
 現場へ走る八原。
 狭霧とロニを引き上げた頃には、武人は姿を消していた。


 中央区と北区では、街の様子は一変する。
 北区は三条家家臣の屋敷が多く建ち並ぶ。建物の敷地も大きく、まさに豪邸と表現しても差し支えない。
 そんな街並みの中、ハンター達の姿はあった。
「何卒お頼み申します、護衛殿。どうしても今、この書簡を直接届けねばならぬのです」 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、芝居がかった言い回しで護衛役の瀬崎 琴音(ka2560)へ懇願する。
 片眼鏡を外し、防寒用の大きな外套を羽織って見せれば遠目にはエルフには見えない。
 事前に即疾隊を通じて『今村健太郎は長い黒髪、長身の大人しそうな男、左目下に黒子』という情報を流しておいた。うまくいけば、この情報に釣られて鬼哭組は現れるはずだ。
「今村様、ご安心を。この瀬崎、必ず今村様をお守り致します」
 元大道芸人のアルマに負けじと、琴音も芝居で返す。
 鬼哭組が現れる前の緊張感もあってか、二人の芝居には必要以上に熱が入っている。
 そんな二人のやり取りを物陰から見守る者がいた。
「……迫真の演技ね、二人とも」
 マリィア・バルデス(ka5848)は、屋敷の外壁から二人の演技を見守っていた。
 八原同様、マリィアも昼間の内にルートを確認。自分が潜みやすい場所を確認しておいた。あとは予定通り立ち回れば良いのだが、マリィアにもこの依頼で気がかりな点があった。
「敵は攘夷派らしいじゃない? 西と結ばないなら、どこと手を結ぶのかしら。この国由来の歪虚……無い話じゃないわね。堕落者自体は攘夷に反しない。主義主張の為に最悪な選択をするなんて……あり得る事よね」
 マリィアが気がかりだったのは、鬼哭組の裏に潜む存在である。
 武人は、この国を壊すと言っている。
 その点だけ考えれば、歪虚と目的と一致する。
「エトファリカボードが不自然に盗まれ、見つかった。歪虚の影は、確かにこの国にあるのよ」
 マリィアの抱く一抹の不安。
 そして、その不安は思わぬ形で的中する事になる。
「何者だい? この肩を三条家家臣、今村健太郎様と知っての狼藉かい?」
 琴音の声が夜の若峰に響く。
 琴音が前方から誰かが近づいてくるのを気付いたのだ。
 琴音とアルマの息遣いから、二人の緊張が伝わってくる。
 ――それは、異様な光景であった。
 深夜、若峰の和風な屋敷が取り囲む道を歩いてくるのは、西方の神父。
 手には聖書らしき書物。端正な顔立ちだが、目を惹くのは神父の周囲を囲むように漂う複数の光球であった。
 そして、マテリアルが『負』に塗れている事にマリィアが気付く。
「歪虚……!」
 反射的に琴音が刀「和泉兼重」の鯉口を切る。
 鬼哭組と関連のある歪虚――仮に関係が無いとしても、若峰を堂々と歩く歪虚を放置する訳にはいかない。
「試してみますか」
「わふっ?」
 意味が分からないという様子で首を傾げるアルマ。
 だが、神父は答える様子を見せない。
 漂う光球が突如輝き、アルマに向かって雷撃を放つ。
「Cadena de insensatos」
 光の障壁が雷撃を阻む。
 距離があった為、藍色の鎖の幻影で神父の行動を阻害する事はできなかったが、雷撃を防ぐ事には成功した。
「わぅ、エルフ違いですー。僕、お芝居上手でした?」
 外套を脱ぎ捨て、片眼鏡をつけるアルマ。
 神父の攻撃に反応した時点で、これが罠だった事も神父には分かったのだろう。
 自嘲気味に神父は笑みを浮かべる。
「ええ。上手な芝居でした。ですが、神の遣いである私に嘘は通用しません」
「せい!」
 琴音は運動強化と攻性強化で身体強化。手にしていた提灯を投げつけた後、兼重を一気に抜き放つ。
 しかし――。
「なっ!?」
 刃は神父へ届かない。
 複数の光球が壁を形成。その壁によって刃が阻まれてしまったのだ。
「離れてっ!」
 後方から走り込んできたマリィアが、魔導銃「狂乱せしアルコル」によるフォールシュートを放った。
 声に応じて距離を取った琴音の後、神父に目掛けて弾丸の雨が降り注ぐ。
 だが、その攻撃も神父の頭上に展開した光球達の壁によって阻まれる。
(物理防御? あの光球が……)
 マリィアは冷静に状況を分析する。
 琴音とマリィアの攻撃は光球によって阻まれたものの、攻撃を受け止める度に光球の数が減っている。
 つまり、攻撃を続けていればあの光球は失われるはずだ。
 ――そんなマリィアの推理をよそに、無邪気な者がいる。
「わふっ。僕、個人的に紫草さんとお友達ですし……詩天の事とかだから? ってお話です」
 アルマは、神父に向けて唐突に話し掛けた。
 鬼哭組の一味と見れば、神父もまた詩天の将来を憂いていると考えるのが自然だ。
 だが、神父からは思わぬ答えが返ってくる。
「そうですね」
「わふっ?」
「私もこの国に興味はありません。
 友人が消えるその瞬間まで惹かれた『ハンター』。
 私は、彼らを知りたい。そして、必要なら神に仕える使徒として悔い改めさせたいのです」
 神父はこの国を憂う訳ではなく、ハンターに思うところがあるようだ。
「わふ、わふっ。そうだ! 『取ってこい』って言われたです。僕と遊ぶですーっ」
 アルマが脳天気に叫ぶ。
 人間だろうと歪虚だろうと、躊躇も情けも一切ない。それがアルマの強みだろうか。
「estrella fugaz」
 小声の詠唱からアルマは、紺碧の流星を放つ。
 光でできた三角の頂点から、一つ一つ伸びた光。
 一気に神父へと襲い掛かる。
 先程と同じように神父は光球により攻撃を防ごうとする。
 ――しかし。
「これは!」
 神父も攻撃を受けて気付いたのだろう。
 アルマの紺碧の流星は、威力が段違いである事に。
 壁を生み出していた光球は、攻撃を受ける度に消滅。
 瞬く間にその数を減らしていく。
「もっと遊ぶですっ!」
「くっ!」
 アルマの攻撃を横に逸らすと同時に、神父はその場から離れる。
 壁は瞬く間に消滅。光の線は、闇へと吸い込まれていく。
 攻撃は確かに届いていない。だが、神父にとっては予想外の展開だったのだろう。事実、残った光球は一つだけ。それも時折点滅して弱々しく光るだけだ。
「これが、ハンターですか」
「わふっ? もう終わりです? 取ってこないと褒めて貰えないです」
 未だ本気を出していないアルマに対して神父は驚愕させられる。
 これがハンターの実力。しかも、その行動理由は絶対的存在からの使命などではない。自身の考えに従った行動だ。
 神父とっては驚きの連続だったろう。
「これで壁は作れない。違う?」
「ふふ、そうですね。これで確信しました。ハンターは神にとって必要な人材。
 ……ここは退きましょう。私は、ブラッドリー」
「待てっ!」
 琴音は撤退を予期して前で出る。
 だが、それよりも前にブラッドリーの最後の光球が光を増した。
 そして――ホワイトアウト。
 周囲は光に包まれる。
「また、お目にかかりましょう。特にわふわふとうるさい――駄犬さん」
 光が消えた頃、ブラッドリーの姿は消失していた。


「ハンターの恐ろしさ、この身を持って知り……どうされました? 武人さん」
 アジトへ戻ったブラッドリーの前で、武人は激しき咳き込んだ。
 そして、押さえた手から漏れる紅い血。手で受け止めきれず、地面へと滴り墜ちる。
「言っているではありませんか。神の遣いになれば、その苦しさからも解放されますよ」
 ブラッドリーの差し伸べる手。
 だが、武人はそれを払いのける。
「断る。俺ぁ、命ある限りこの詩天の為に働く。礎となるんだ。神とやらはいらねぇよ」

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MVP一覧

  • 弓師
    八原 篝ka3104
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 漆黒深紅の刃
    瀬崎 琴音(ka2560
    人間(蒼)|13才|女性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 能力者
    狭霧 雷(ka5296
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン キュジィに質問
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/12/19 10:51:11
アイコン 相談卓
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/12/21 08:42:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/19 04:37:29