ゲスト
(ka0000)
【虚動】孤独の食堂づくり
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/11/28 19:00
- 完成日
- 2014/12/02 18:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王国、帝国、同盟、辺境、そしてサルヴァトーレ・ロッソ。
この4者が組んで進めることになったCAM研究。
目玉である公開実験は辺境で行われる。
●公開実験場予定地付近
「問題は、だ」
薄汚れた作業服の男が淡々とつぶやいている。
ロッソから出発して既に1週間が経過した。
全身が痒い。一度も風呂に入っていないからだ。
心身が冷えて力が出ない。温かい食事をここ2、3日食べていないからだ。
「あたたかさが足りない」
彼の背後には味も素っ気もないプレハブ小屋が建っていた。
実験場予定地周辺工事の人員のための宿泊施設兼倉庫であり、宿泊施設でもあり食堂でもある。
「足りない……うへへ」
いつの間にか限界を超えていたらしい。
熟練現場監督は、虚ろな目をしてだらしなく口を半開きにして乾いた笑い声を響かせていた。
●ハンターギルド本部
「あん?」
元ロッソ勤務、現ハンターの男が高速で瞬きをしていた。
ハンターギルド本部のあちこちに浮かぶ依頼票という名の3Dディスプレイ。
その1つに何故か見覚えがあったのだ。
「出張の志願者募集の張り紙かよ」
ロッソの一部で使われていた文面に酷似している。
臨時報酬や臨時休暇につられ、その後苛酷な仕事を押しつけられた記憶が鮮やかに蘇る。
体を震わせ去っていく男を呼び止めるかのように、3Dディスプレイがこわくないよー、と言いたげなお勧め文句を連続で表示する。
『ごはん食べ放題』(男注:消費期限切れぎりぎりの不味いレーション山盛り)
『雄大な自然があるよ』(男注:野良犬やカラスの排除も仕事のうちってことだ)
『みんなの役に立つ素晴らしいしごとです』(男注:各地から集まる連中全員を収容できるようしろって? トイレや獣避けの準備も必要だから……なんてブラックだ)
依頼票には、建築資材と水食糧は現地に用意されている物を使ってください、と小さく書かれている。
特に水と食糧は保存優先のため味は悪く、燃料がほとんど用意されていないため加熱もほとんどできない。
愉快な文章とは裏腹の、苛酷な依頼であった。
この4者が組んで進めることになったCAM研究。
目玉である公開実験は辺境で行われる。
●公開実験場予定地付近
「問題は、だ」
薄汚れた作業服の男が淡々とつぶやいている。
ロッソから出発して既に1週間が経過した。
全身が痒い。一度も風呂に入っていないからだ。
心身が冷えて力が出ない。温かい食事をここ2、3日食べていないからだ。
「あたたかさが足りない」
彼の背後には味も素っ気もないプレハブ小屋が建っていた。
実験場予定地周辺工事の人員のための宿泊施設兼倉庫であり、宿泊施設でもあり食堂でもある。
「足りない……うへへ」
いつの間にか限界を超えていたらしい。
熟練現場監督は、虚ろな目をしてだらしなく口を半開きにして乾いた笑い声を響かせていた。
●ハンターギルド本部
「あん?」
元ロッソ勤務、現ハンターの男が高速で瞬きをしていた。
ハンターギルド本部のあちこちに浮かぶ依頼票という名の3Dディスプレイ。
その1つに何故か見覚えがあったのだ。
「出張の志願者募集の張り紙かよ」
ロッソの一部で使われていた文面に酷似している。
臨時報酬や臨時休暇につられ、その後苛酷な仕事を押しつけられた記憶が鮮やかに蘇る。
体を震わせ去っていく男を呼び止めるかのように、3Dディスプレイがこわくないよー、と言いたげなお勧め文句を連続で表示する。
『ごはん食べ放題』(男注:消費期限切れぎりぎりの不味いレーション山盛り)
『雄大な自然があるよ』(男注:野良犬やカラスの排除も仕事のうちってことだ)
『みんなの役に立つ素晴らしいしごとです』(男注:各地から集まる連中全員を収容できるようしろって? トイレや獣避けの準備も必要だから……なんてブラックだ)
依頼票には、建築資材と水食糧は現地に用意されている物を使ってください、と小さく書かれている。
特に水と食糧は保存優先のため味は悪く、燃料がほとんど用意されていないため加熱もほとんどできない。
愉快な文章とは裏腹の、苛酷な依頼であった。
リプレイ本文
●辺境
「うお、思った以上に何もねーじゃん!」
岩井崎 旭(ka0234)は吹きつける風に負けずに目を見開いた。
何もない。
あるのは精々動物の気配だけ。人も物も有用な資源も目に入らず、感覚としては本当になにもない。
彼の後ろから、からころと軽快な音が近づいてくる。
振り返ると全高2メートル越えの荷物が数歩先まで近づいていた。
中腰になると荷物の下に荷車が見え、本当に小さいのに何故か安定している。
旭がうしろに回り込むと、荷物より2桁は体積が少ないエルフが目に入った。
「力持ちだな」
荷車を調達する準備の良さに加えて悪路をものともせずに運ぶ体力。旭はたいしたものだと態度で語っていた。
シャロン(ka3470)は、荷車を押しながら子猫のように首を振る。
ギルド本部で借りた荷車はリアルブルー仕様だったようで、本体もタイヤも軽い割に頑丈でしかも扱いやすい。シャロンの小さな体でも全く苦労なくここまで来ることができた。
「燃料と水がこれだけあれば大丈夫かな~?」
荷車に満載された燃料と水を眺めてつぶやく木島 順平(ka2738)。彼も荷物を運んでいるが、豪華仕様荷車がないのでその量はシャロンより少なかった。
旭がいきなり警戒を強める。荷車も数メートル前進して静止する。
「うわわ、ゾンビに占拠されちゃってるんだよ~!」
順平もデリンジャーの安全装置を外し、いつでも術を使えるようワンドを構えた。遠くに見えるプレハブっぽい建物から、人間の神経を逆なでする奇怪な動きで人型が近づいてくる。
シャロンが荷物の影から顔を出す。
あっと気付いて得物を抜かず人型の装備を指さした。
「ロッソからの出向者だな」
レオン=G=ノゥフェイス(ka3507)が苦笑して自分の顎髭をひと撫でする。
薄汚れた作業着はロッソ内で使われているもので、人間が浮かべちゃいけない表情な顔も良く見れば現地にいるはずの作業員のものだ。
「まあ……こんなとこでは荒むわなぁ」
己の荷物の中から調味料を取り出す。数人のハンターが手分けして受け取って、作業員の心を癒すために厨房目指して駆けだしていった。
●再生
薄切りにされた堅焼きパンが、熱せられたフライパンの上で踊っている。
その上に別の鍋で柔らかくした干し肉、さらに別の鍋で加熱したレトルトカレーをかけてチーズをのせる。
蕩けたチーズがカレーと肉汁と絡まり素晴らしく食欲をそそる香りに変化した。
セレナ(ka2595)がフライパンを持ったまま数歩後退する。
厨房と外界を遮る格子付き窓に、各種ゾンビ風の作業員が詰めかけていた。
どうやらこれ以上待たせる訳にはいかないようだ。ナイフで素早く切って人数分の小皿に載せて厨房から出る。
すると作業員達が火事場の馬鹿力でハンター並みの速度で皿を奪い、中身を口に流し込む。
むさ苦しい男共が涙をこぼす。実に数週間ぶりの暖かさと刺激が、ゾンビ並みに堕した心を急速に回復させていく。
その結果、鈍っていた胃腸の働きも回復してしまう。
「トイっ」
淑女であり恩人でもあるセレナに気付いて言い直す。
「厠に」
「速く済ませろよ!」
「すぐに終わるか馬鹿野郎外でしやがれっ」
たった1つしかないトイレの中と外で醜い戦いが繰り広げられていた。
「そんなことで騒ぐなよみっともない」
レオンがトイレの側面を叩いて視線を集める。
「2つほど組み立てたぞ」
親指で示す先には、熟練の技が無くても組み立て可能な簡易トイレが複数並んでいた。
ありがとうと言う余裕もなく駆け出す男共を見送り息を吐き出す。
「食を直す前に医者を連れて来るべきだったかしら」
セレナは溜息をついて紅茶を入れて、封を切った直後の瓶から酒精を注ぐ。
トイレから出てきた男が目を血走らせて近づいてくる。
禁酒禁煙どころかあらゆる欲を制限されていた直後なので、あまりにも魅力的に過ぎた。
「人数分はありますから慌てないでくださいね」
トレイから出てはーいと素直な幼児のように応える男達。彼等はようやく人間らしさを取り戻しつつあった。
●ただいま工事進行中
重機も無いのに深い場所まで杭が打ち込まれている。
順平はハンマーを下ろして額の汗を拭う。
「たまには、こーゆー仕事ってのもいーもんだよな」
心の底からの明るい笑みを浮かべる。
現在到着から2日目。風呂には湯船もシャワーもなくセレナが用意してくれた濡れタオルがあるだけで、食事も女性陣が頑張ってくれてはいるがレトルト中心だ。しかしまだまだ楽しく頑張れそうだった。
「有刺鉄線伸ばすぞー! 伸ばし終わるまで危険だからなっ」
はっはっはと豪快な笑い声と共に役犬原 昶(ka0268)が注意を促す。
工期最優先の防護柵、というより疎らに打たれた杭に針金の端を固定し伸ばしていく。針金には凶悪な針がついていて、中型以下の野生動物なら恐れて近づかないだろう。
「師匠ー! こんなもんでいいすっかー?」
褒めて褒めてと尻尾を振る大型犬っぽく騒ぐ昶。遠くで現場監督と打ち合わせ中だったコランダム(ka0240)が気付いておざなりにうなずくだけで昶のテンションが上がり、腕まくりしてゴミ捨て場の建設にとりかかる。
「犬原さん犬原さん」
順平が両手にバケツを持ってやって来る。
「応っ」
昶はスコップだけで地面に大穴を開けている。
「ゴミ捨て場は害獣を誘き寄せる囮に使えると思うんだ」
順平より頭1つ分以上体格が良い昶が一瞬静止し、次の瞬間には暗さのない歓声をあげた。
「いいなそれ! ワンコ無勢が俺に牙向くのが無駄だってこと、今回絶対分からせてやるぜ!」
敷地を見回っていた柴犬達が、また言ってるよ、懲りないなこの舎弟は、という視線を向けているのに昶だけが気付いていなかった。
そこから30メートル東に、辺境の環境に負け薄汚れてしまった小屋がある。
その中では戦闘とは別種の緊迫感で満ちていた。
「釘を使わない工法を採用すべきです」
押しかけ弟子の活躍を窓越しに一瞥してから視線をもとに戻す。
現場監督が席について設計図を凝視している。数枚ある全てが、コランダムによって完成した設計図だ。
「あっちの様式……なら……」
飾り気のないつなぎに包まれていても魅力的なコランダム。普通の男なら色香に迷いそうなのに監督は設計図に夢中だった。
「いいだろう。次期工事の俺の担当分はこっちに切り替える」
「仕口工法の採用、ありがとうございます」
コランダムが頭を下げる。
「建設と整備の詳細マニュアルまでつけられてからな。礼を言うのはこっちの……」
ドアが勢いよく開く。現場監督の声がかき消される。
「工法の話っすか? 工法……。ボックスラーメン……? ラーメン美味いっすよね! 俺ラーメン好きっす!」
図面を見てもコランダムから習った知識に辿り着けない。
昶の頭は決して悪くはない。悪くはないのだが教えを受けているときに師匠格好良いっす素敵っすという思考しかしていないので理解できるはずがないのだ。
「ちゃんと聞いていなさい」
コランダムが容赦なくハリセン叩き込んでも効きやしない。
「し……師匠がぶったー!」
昶が泣きそうなのは体のダメージが原因でも状況の理解が原因でもなく、飼い主もとい師匠におこられたことだけが理由だった。
コランダムは監督が腕時計を指さしているのに気付く。肩を落としてハリセンを片付け、今ある資材を使った設計の修正や次回の発注書にとりかかる。
「ししょー」
おなかすいたと声で昶が訴えかけると凶器じみた固さのパンが投げ渡された。コランダムも監督も、目の前の仕事に没頭してパンをかみ砕いている。ブラック経験者にとってはこの程度修羅場の名に値しないのかもしれない。
●料理の力
からすと野犬が連携して攻め寄せた。
飢えに負けた犬の群れが、有刺鉄線に気づかず接近して悲鳴と血を垂れ流す。
からすの群れは地上の地獄を無視して食料庫を目指し、しかし横合いからの襲撃を受けて真横へ逃げた。
「一旦退避!」
セレナの命令に従いからすに一撃加えたフクロウが後退。
追おうとするからすをセレナの銃が牽制する。
その間に野犬が細い出入り口を見つけて1匹でも突破させようとしたが、待ち構えていたセレナの柴犬に気づいて動きが止まる。
「お前等なんかに」
旭が覚醒する。
マテリアルによりミミズク風に見える顔に、何故か精気がほとんど感じられなかった。
「保存食とはいえ野菜食わせるかー!」
持ち込んだ生鮮食品はとうに尽きて生野菜など全く食っていない。
野生の、しかも人間大のミミズクの殺気が群れの戦意を消失させた。傷ついた野犬をそのままにして痩せた野犬達は命を燃やし尽くす勢いで去っていった。
旭は覚醒状態を解除し、地面に落ちた烏を掴み一応の血抜きをする。
「そろそろ食事の時間でけど」
セレナは痛々しげに口にする。もう、ろくなものが残っていないのだ。
ゾンビっぽい動きで遺体焼却にいそしむ旭を眺め、セレナは深く息を吐く。
「糞不味い携帯食しか寄越さなかった奴は誰です? 袋にしたい気分ですね……」
せめて足湯でも用意してあげようと思ったとき、旭は勢いよく顔を上げ、それまでの数倍の速度で仕事を終わらせ建物群に向けて駆け出した。
旭の持ち馬であるサラダも主並の勢いで荷物運びを終わらせ彼に続いている。
セレナが視線をずらす。
昨日建ったばかりの厨房専門スペースに、若い作業員が鼻息を荒くして詰めかけていた。
時間は5分ほど遡る。
昼の食事当番を任されたエルバッハ・リオン(ka2434)がまずしたのは、両腕の手袋を外してドレスを脱ぐことだった。
彼女に特殊性癖がある訳ではない。調理に向いていない装備を外しただけだ。
その結果、世の女性の大半が嫉妬と羨望に身を焦がす白い肌があらわになるが彼女にとってはささいなことだ。要所を隠す装備はきちんと身につけているし。
「うぉぉぉ」
「え、エルフの……」
「裸えぷろんスゲー」
窓の外に鈴生りになった若手作業員共がなにやら騒いでいる。
ビキニアーマーの上にエプロンを装備し、腰から下が作業台の陰になったエルバッハは、いわゆる裸エプロンスタイルに見えているのだ!
「入っていいかー!」
食い物の匂いに気づいた旭による高速ノック。
エルバッハが仕方がないなぁと振り向いて両手を腰にあてると、雄大な2つのふくらみが確かに揺れた。
歓声が轟く。禁欲生活が祟って前屈みになる野郎が何人か。無論、旭はその中に含まれていない。
「数に限りがありますから1人1切れですよ。ビールは勤務時間外の人限定です」
柔らかく熱したパンにウナギの蒲焼を一切れ添えて野郎共へ配っていく。
女慣れしている連中なのに初な少年のように皆真っ赤だ。
エルフ耳、豊かな銀髪、母性に富んだ双球に白い肌の組み合わせは、新たな性癖を刻みつけるに足る威力を持っていた。
「くぅ、生き返る」
色気より食い気なのは旭によって、作業員達がようやく我に返る。
エルバッハはくすりと微笑んで、出来る限りの料理をしあげていくのだった。
●食材とのたたかい
むさ苦しい男達が無言でカードのやりとりをしていた。1組のカード投げ出される。
「ブタだ」
「けっ」
ゾンビから復活しエルフに魅了された野郎共が、なぜかすっかりやさぐれてしまっていた。
「シャワー浴びてくる」
男用シャワーはレオンがつくった穴あき革袋シャワーしかない。それでもないよりはずっとましだ。
「井戸が掘れればな」
ちゃぶ台未満のテーブルにカードを広げるレオン。
飛び抜けて良い役が成立したこのカードもレオンの手製で、娯楽が文字通り皆無だった作業員にとっては札束にも勝る価値があった。
宿舎の窓から赤い薄明かりが差し込む。朝日だ。
「ちくしょー。今日からレーションかー」
野郎共がすすり泣く様は控えめに表現してみっともない。
レオンはぽんと肩を叩いて1人だけで外に出た。
「おはようございます~」
順平が声をかけてくる。
レオンは振り返り、軽く目を見開いて口笛を吹いた。
立派な石で組まれた竈作られた釜。味のある手作り椅子に机。机には清潔な布がかけてあり実にいい雰囲気だ。
「不寝番のついでにね~」
厨房があるのだから無駄な設備と考えるのは素人だ。依頼の指定は100人分の施設でも、公開実験当日にはここだけでその数倍集まってもおかしくない。しかも薪の節約の役に立つ竈と、レクリエーションに使える机やベンチもある。
「一杯やりたくなるな」
レオンが席に座ると、近くに張られていたテントが小さく揺れた。
「ん」
シャロンが顔を出す。
瞬きするたびに目の光が強くなり、4度目のまたたきでするりとテントから抜け出した。
朝の大地は冷たいのに、薄着のシャロンの動きはいつも通りだ。
「元気だな」
レオンは少しだけ羨ましげに小さなエルフを見つめていた。
シャロンは幼女風の見かけとは逆に、非常に慣れた動きで薪を運び火をおこして調理を始めている。
水はしっかり加熱しその上でスープに仕上げ、乾涸びた干し肉を加えて味を整える。
野趣と繊細さを兼ね備えた香りに、レオンの腹が物欲しげに動く。
「ん、食事は人生」
シャロンの手はとまらない。
水気の抜けた堅焼きパンを一度崩して砂糖水と混ぜてクッキー状にし、一部はチーズやツナをのせてピザ風に仕上げる。
複数の良い香りに気づいたのだろう。作業員達が目を輝かせて宿舎から出てきていた。
「5年年上なら結婚を前提なおつきあいを申し込むんだが」
「馬鹿お前5年なら早すぎだろ。すんません同僚が馬鹿言って」
90度近く頭を下げる男に対し、気にしないでというようにふるふるするシャロンだった。
「あっ、食欲が……」
作業員が物欲しげにシャロンを見る。
シャロンは小さな手でクッキーを渡す。けれど作業員の腹は食欲が完全復活したらしく猛烈に食欲を主張している。
「水も足りないね~」
順平が水瓶を覗き込む。瓶には飲料用と筋入されているが微かな異臭が漂っていた。
「浄化はこれで最後~」
水が美しく澄み渡る。
作業員に加えて現場監督まで現れ切ない視線を向けてくる。
「俺も手伝う。ふやかしたビスケットは……」
野郎共が高速で首を横に振る。
レオンは鼻をならしてレーションから取り出したチョコバーとコーヒーを加工。辛うじてティラミスっぽい何かをつくりあげ欠食野郎共に押しつけた。
「実験する準備のも大変だね~。実験が成功したら、乗れるチャンスができると良いな~」
そうつぶやく順平を、森育ちのシャロンが不思議そうに見上げていた。
ハンター達は膨大な物資と入れ替わりに帰還した。
本番に向けた工事は現場も急ピッチで行われているが、貧相になった食事にハンターを懐かしがる者が多いらしかった。
「うお、思った以上に何もねーじゃん!」
岩井崎 旭(ka0234)は吹きつける風に負けずに目を見開いた。
何もない。
あるのは精々動物の気配だけ。人も物も有用な資源も目に入らず、感覚としては本当になにもない。
彼の後ろから、からころと軽快な音が近づいてくる。
振り返ると全高2メートル越えの荷物が数歩先まで近づいていた。
中腰になると荷物の下に荷車が見え、本当に小さいのに何故か安定している。
旭がうしろに回り込むと、荷物より2桁は体積が少ないエルフが目に入った。
「力持ちだな」
荷車を調達する準備の良さに加えて悪路をものともせずに運ぶ体力。旭はたいしたものだと態度で語っていた。
シャロン(ka3470)は、荷車を押しながら子猫のように首を振る。
ギルド本部で借りた荷車はリアルブルー仕様だったようで、本体もタイヤも軽い割に頑丈でしかも扱いやすい。シャロンの小さな体でも全く苦労なくここまで来ることができた。
「燃料と水がこれだけあれば大丈夫かな~?」
荷車に満載された燃料と水を眺めてつぶやく木島 順平(ka2738)。彼も荷物を運んでいるが、豪華仕様荷車がないのでその量はシャロンより少なかった。
旭がいきなり警戒を強める。荷車も数メートル前進して静止する。
「うわわ、ゾンビに占拠されちゃってるんだよ~!」
順平もデリンジャーの安全装置を外し、いつでも術を使えるようワンドを構えた。遠くに見えるプレハブっぽい建物から、人間の神経を逆なでする奇怪な動きで人型が近づいてくる。
シャロンが荷物の影から顔を出す。
あっと気付いて得物を抜かず人型の装備を指さした。
「ロッソからの出向者だな」
レオン=G=ノゥフェイス(ka3507)が苦笑して自分の顎髭をひと撫でする。
薄汚れた作業着はロッソ内で使われているもので、人間が浮かべちゃいけない表情な顔も良く見れば現地にいるはずの作業員のものだ。
「まあ……こんなとこでは荒むわなぁ」
己の荷物の中から調味料を取り出す。数人のハンターが手分けして受け取って、作業員の心を癒すために厨房目指して駆けだしていった。
●再生
薄切りにされた堅焼きパンが、熱せられたフライパンの上で踊っている。
その上に別の鍋で柔らかくした干し肉、さらに別の鍋で加熱したレトルトカレーをかけてチーズをのせる。
蕩けたチーズがカレーと肉汁と絡まり素晴らしく食欲をそそる香りに変化した。
セレナ(ka2595)がフライパンを持ったまま数歩後退する。
厨房と外界を遮る格子付き窓に、各種ゾンビ風の作業員が詰めかけていた。
どうやらこれ以上待たせる訳にはいかないようだ。ナイフで素早く切って人数分の小皿に載せて厨房から出る。
すると作業員達が火事場の馬鹿力でハンター並みの速度で皿を奪い、中身を口に流し込む。
むさ苦しい男共が涙をこぼす。実に数週間ぶりの暖かさと刺激が、ゾンビ並みに堕した心を急速に回復させていく。
その結果、鈍っていた胃腸の働きも回復してしまう。
「トイっ」
淑女であり恩人でもあるセレナに気付いて言い直す。
「厠に」
「速く済ませろよ!」
「すぐに終わるか馬鹿野郎外でしやがれっ」
たった1つしかないトイレの中と外で醜い戦いが繰り広げられていた。
「そんなことで騒ぐなよみっともない」
レオンがトイレの側面を叩いて視線を集める。
「2つほど組み立てたぞ」
親指で示す先には、熟練の技が無くても組み立て可能な簡易トイレが複数並んでいた。
ありがとうと言う余裕もなく駆け出す男共を見送り息を吐き出す。
「食を直す前に医者を連れて来るべきだったかしら」
セレナは溜息をついて紅茶を入れて、封を切った直後の瓶から酒精を注ぐ。
トイレから出てきた男が目を血走らせて近づいてくる。
禁酒禁煙どころかあらゆる欲を制限されていた直後なので、あまりにも魅力的に過ぎた。
「人数分はありますから慌てないでくださいね」
トレイから出てはーいと素直な幼児のように応える男達。彼等はようやく人間らしさを取り戻しつつあった。
●ただいま工事進行中
重機も無いのに深い場所まで杭が打ち込まれている。
順平はハンマーを下ろして額の汗を拭う。
「たまには、こーゆー仕事ってのもいーもんだよな」
心の底からの明るい笑みを浮かべる。
現在到着から2日目。風呂には湯船もシャワーもなくセレナが用意してくれた濡れタオルがあるだけで、食事も女性陣が頑張ってくれてはいるがレトルト中心だ。しかしまだまだ楽しく頑張れそうだった。
「有刺鉄線伸ばすぞー! 伸ばし終わるまで危険だからなっ」
はっはっはと豪快な笑い声と共に役犬原 昶(ka0268)が注意を促す。
工期最優先の防護柵、というより疎らに打たれた杭に針金の端を固定し伸ばしていく。針金には凶悪な針がついていて、中型以下の野生動物なら恐れて近づかないだろう。
「師匠ー! こんなもんでいいすっかー?」
褒めて褒めてと尻尾を振る大型犬っぽく騒ぐ昶。遠くで現場監督と打ち合わせ中だったコランダム(ka0240)が気付いておざなりにうなずくだけで昶のテンションが上がり、腕まくりしてゴミ捨て場の建設にとりかかる。
「犬原さん犬原さん」
順平が両手にバケツを持ってやって来る。
「応っ」
昶はスコップだけで地面に大穴を開けている。
「ゴミ捨て場は害獣を誘き寄せる囮に使えると思うんだ」
順平より頭1つ分以上体格が良い昶が一瞬静止し、次の瞬間には暗さのない歓声をあげた。
「いいなそれ! ワンコ無勢が俺に牙向くのが無駄だってこと、今回絶対分からせてやるぜ!」
敷地を見回っていた柴犬達が、また言ってるよ、懲りないなこの舎弟は、という視線を向けているのに昶だけが気付いていなかった。
そこから30メートル東に、辺境の環境に負け薄汚れてしまった小屋がある。
その中では戦闘とは別種の緊迫感で満ちていた。
「釘を使わない工法を採用すべきです」
押しかけ弟子の活躍を窓越しに一瞥してから視線をもとに戻す。
現場監督が席について設計図を凝視している。数枚ある全てが、コランダムによって完成した設計図だ。
「あっちの様式……なら……」
飾り気のないつなぎに包まれていても魅力的なコランダム。普通の男なら色香に迷いそうなのに監督は設計図に夢中だった。
「いいだろう。次期工事の俺の担当分はこっちに切り替える」
「仕口工法の採用、ありがとうございます」
コランダムが頭を下げる。
「建設と整備の詳細マニュアルまでつけられてからな。礼を言うのはこっちの……」
ドアが勢いよく開く。現場監督の声がかき消される。
「工法の話っすか? 工法……。ボックスラーメン……? ラーメン美味いっすよね! 俺ラーメン好きっす!」
図面を見てもコランダムから習った知識に辿り着けない。
昶の頭は決して悪くはない。悪くはないのだが教えを受けているときに師匠格好良いっす素敵っすという思考しかしていないので理解できるはずがないのだ。
「ちゃんと聞いていなさい」
コランダムが容赦なくハリセン叩き込んでも効きやしない。
「し……師匠がぶったー!」
昶が泣きそうなのは体のダメージが原因でも状況の理解が原因でもなく、飼い主もとい師匠におこられたことだけが理由だった。
コランダムは監督が腕時計を指さしているのに気付く。肩を落としてハリセンを片付け、今ある資材を使った設計の修正や次回の発注書にとりかかる。
「ししょー」
おなかすいたと声で昶が訴えかけると凶器じみた固さのパンが投げ渡された。コランダムも監督も、目の前の仕事に没頭してパンをかみ砕いている。ブラック経験者にとってはこの程度修羅場の名に値しないのかもしれない。
●料理の力
からすと野犬が連携して攻め寄せた。
飢えに負けた犬の群れが、有刺鉄線に気づかず接近して悲鳴と血を垂れ流す。
からすの群れは地上の地獄を無視して食料庫を目指し、しかし横合いからの襲撃を受けて真横へ逃げた。
「一旦退避!」
セレナの命令に従いからすに一撃加えたフクロウが後退。
追おうとするからすをセレナの銃が牽制する。
その間に野犬が細い出入り口を見つけて1匹でも突破させようとしたが、待ち構えていたセレナの柴犬に気づいて動きが止まる。
「お前等なんかに」
旭が覚醒する。
マテリアルによりミミズク風に見える顔に、何故か精気がほとんど感じられなかった。
「保存食とはいえ野菜食わせるかー!」
持ち込んだ生鮮食品はとうに尽きて生野菜など全く食っていない。
野生の、しかも人間大のミミズクの殺気が群れの戦意を消失させた。傷ついた野犬をそのままにして痩せた野犬達は命を燃やし尽くす勢いで去っていった。
旭は覚醒状態を解除し、地面に落ちた烏を掴み一応の血抜きをする。
「そろそろ食事の時間でけど」
セレナは痛々しげに口にする。もう、ろくなものが残っていないのだ。
ゾンビっぽい動きで遺体焼却にいそしむ旭を眺め、セレナは深く息を吐く。
「糞不味い携帯食しか寄越さなかった奴は誰です? 袋にしたい気分ですね……」
せめて足湯でも用意してあげようと思ったとき、旭は勢いよく顔を上げ、それまでの数倍の速度で仕事を終わらせ建物群に向けて駆け出した。
旭の持ち馬であるサラダも主並の勢いで荷物運びを終わらせ彼に続いている。
セレナが視線をずらす。
昨日建ったばかりの厨房専門スペースに、若い作業員が鼻息を荒くして詰めかけていた。
時間は5分ほど遡る。
昼の食事当番を任されたエルバッハ・リオン(ka2434)がまずしたのは、両腕の手袋を外してドレスを脱ぐことだった。
彼女に特殊性癖がある訳ではない。調理に向いていない装備を外しただけだ。
その結果、世の女性の大半が嫉妬と羨望に身を焦がす白い肌があらわになるが彼女にとってはささいなことだ。要所を隠す装備はきちんと身につけているし。
「うぉぉぉ」
「え、エルフの……」
「裸えぷろんスゲー」
窓の外に鈴生りになった若手作業員共がなにやら騒いでいる。
ビキニアーマーの上にエプロンを装備し、腰から下が作業台の陰になったエルバッハは、いわゆる裸エプロンスタイルに見えているのだ!
「入っていいかー!」
食い物の匂いに気づいた旭による高速ノック。
エルバッハが仕方がないなぁと振り向いて両手を腰にあてると、雄大な2つのふくらみが確かに揺れた。
歓声が轟く。禁欲生活が祟って前屈みになる野郎が何人か。無論、旭はその中に含まれていない。
「数に限りがありますから1人1切れですよ。ビールは勤務時間外の人限定です」
柔らかく熱したパンにウナギの蒲焼を一切れ添えて野郎共へ配っていく。
女慣れしている連中なのに初な少年のように皆真っ赤だ。
エルフ耳、豊かな銀髪、母性に富んだ双球に白い肌の組み合わせは、新たな性癖を刻みつけるに足る威力を持っていた。
「くぅ、生き返る」
色気より食い気なのは旭によって、作業員達がようやく我に返る。
エルバッハはくすりと微笑んで、出来る限りの料理をしあげていくのだった。
●食材とのたたかい
むさ苦しい男達が無言でカードのやりとりをしていた。1組のカード投げ出される。
「ブタだ」
「けっ」
ゾンビから復活しエルフに魅了された野郎共が、なぜかすっかりやさぐれてしまっていた。
「シャワー浴びてくる」
男用シャワーはレオンがつくった穴あき革袋シャワーしかない。それでもないよりはずっとましだ。
「井戸が掘れればな」
ちゃぶ台未満のテーブルにカードを広げるレオン。
飛び抜けて良い役が成立したこのカードもレオンの手製で、娯楽が文字通り皆無だった作業員にとっては札束にも勝る価値があった。
宿舎の窓から赤い薄明かりが差し込む。朝日だ。
「ちくしょー。今日からレーションかー」
野郎共がすすり泣く様は控えめに表現してみっともない。
レオンはぽんと肩を叩いて1人だけで外に出た。
「おはようございます~」
順平が声をかけてくる。
レオンは振り返り、軽く目を見開いて口笛を吹いた。
立派な石で組まれた竈作られた釜。味のある手作り椅子に机。机には清潔な布がかけてあり実にいい雰囲気だ。
「不寝番のついでにね~」
厨房があるのだから無駄な設備と考えるのは素人だ。依頼の指定は100人分の施設でも、公開実験当日にはここだけでその数倍集まってもおかしくない。しかも薪の節約の役に立つ竈と、レクリエーションに使える机やベンチもある。
「一杯やりたくなるな」
レオンが席に座ると、近くに張られていたテントが小さく揺れた。
「ん」
シャロンが顔を出す。
瞬きするたびに目の光が強くなり、4度目のまたたきでするりとテントから抜け出した。
朝の大地は冷たいのに、薄着のシャロンの動きはいつも通りだ。
「元気だな」
レオンは少しだけ羨ましげに小さなエルフを見つめていた。
シャロンは幼女風の見かけとは逆に、非常に慣れた動きで薪を運び火をおこして調理を始めている。
水はしっかり加熱しその上でスープに仕上げ、乾涸びた干し肉を加えて味を整える。
野趣と繊細さを兼ね備えた香りに、レオンの腹が物欲しげに動く。
「ん、食事は人生」
シャロンの手はとまらない。
水気の抜けた堅焼きパンを一度崩して砂糖水と混ぜてクッキー状にし、一部はチーズやツナをのせてピザ風に仕上げる。
複数の良い香りに気づいたのだろう。作業員達が目を輝かせて宿舎から出てきていた。
「5年年上なら結婚を前提なおつきあいを申し込むんだが」
「馬鹿お前5年なら早すぎだろ。すんません同僚が馬鹿言って」
90度近く頭を下げる男に対し、気にしないでというようにふるふるするシャロンだった。
「あっ、食欲が……」
作業員が物欲しげにシャロンを見る。
シャロンは小さな手でクッキーを渡す。けれど作業員の腹は食欲が完全復活したらしく猛烈に食欲を主張している。
「水も足りないね~」
順平が水瓶を覗き込む。瓶には飲料用と筋入されているが微かな異臭が漂っていた。
「浄化はこれで最後~」
水が美しく澄み渡る。
作業員に加えて現場監督まで現れ切ない視線を向けてくる。
「俺も手伝う。ふやかしたビスケットは……」
野郎共が高速で首を横に振る。
レオンは鼻をならしてレーションから取り出したチョコバーとコーヒーを加工。辛うじてティラミスっぽい何かをつくりあげ欠食野郎共に押しつけた。
「実験する準備のも大変だね~。実験が成功したら、乗れるチャンスができると良いな~」
そうつぶやく順平を、森育ちのシャロンが不思議そうに見上げていた。
ハンター達は膨大な物資と入れ替わりに帰還した。
本番に向けた工事は現場も急ピッチで行われているが、貧相になった食事にハンターを懐かしがる者が多いらしかった。
依頼結果
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相談 シャロン(ka3470) エルフ|10才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/28 09:38:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/27 21:31:36 |