ゲスト
(ka0000)
白銀のおとぎ話・1
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/22 15:00
- 完成日
- 2018/01/12 02:00
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●バチャーレ村の冬
同盟の農業推進地域ジェオルジ領内に、バチャーレという小さな村がある。
「手をつなぐ」という意味を持つ村に移り住んだサルヴァトーレ・ロッソの避難民たちにとっては、二度目の冬だ。
今は近隣の村々とも良好な関係を保ち、ジェオルジ領内からの移住者も増え、独立した共同体としてどうにか形を整えつつある。
村の代表はサイモン・小川(kz0211)といって、元々ロッソの植物プラントの管理技術者だった青年だ。
「さむ……!」
折角治った風邪がぶり返しそうな冷たい風が吹き付け、サイモンは震えあがる。
「去年もこんなに寒かったっけ?」
サイモンが首を傾げたところで、賑やかな声が響き渡る。
「ふええええん!」
「エリオ! あんたまたビアンカにいたずらしたね!!」
「ちげえって! ビアンカがレベッカのペンダントを勝手に触ってたんだよ!」
「ビアンカは自分のを持ってるのよ!」
「レベッカ、あんたおねえちゃんなんだよ、ちょっとぐらい貸してやんな!」
「やだああああ!!」
ジェオルジの別の村から移り住んできたアニタ・マネッティとその子供たちだ。
「あら村長さん、こんにちは。いつもうるさくてごめんねえ」
アニタはサイモンに愛想よくそう言った後、振り向いて子供達を叱りつける。
「ほら、さっさとお手伝いをすますんだよ! こんな寒い日に焚き木が切れたら、ブフェーラ・ディ・ネーレにさらわれっちまうよ!!」
一番年上のエリオは鼻を鳴らしたが、レベッカとビアンカは顔をこわばらせた。
子供たちがお手伝いに向かったのを見て、サイモンはアニタに尋ねる。
「なんですか、そのぶふぇ……?」
「ブフェーラ・ディ・ネーレ。吹雪の魔物だよ」
アニタは笑いながら、ジェオルジの一部で語り継がれるおとぎ話を教えてくれた。
それは女とも男ともつかない綺麗な青白い顔をしていて、いつも寒くて震えている魔物。
暖かさに嫉妬し、豊かさに嫉妬し、人のつながりに嫉妬する。
冬には幼子に冷たい息を吹きかけて母親から奪おうとし、夏には冷たすぎる風を送って作物の実りを台無しにしようとするという――。
「でも今年の冬は、この辺りにしちゃ随分と寒いね。ほんとにネーレでも出そうだよ」
「やはりいつもより寒いですか?」
「元々小麦が年に2回も収穫できるような場所なんだろ? それにしちゃ寒いよね」
アニタの言うとおりだった。
サイモンが更に何か言おうと口を開いたが、言葉は遮られた。
「主任……!」
ひとりの村人が、足をもつれさせながら現れたのだ。良く見ると、右肩が真っ赤に染まっている。
「どうした、何があったんだ!?」
「VOIDが……歪虚が出たんです!!」
リアルブルーから移住した仲間の言葉に、サイモンが一瞬言葉を失った。
●廃坑の歪虚
緊急の要請を受けて到着したハンター達に、サイモンはいつもの通り丁寧に挨拶した。
だが顔色は青ざめ、黒い瞳は暗く落ち窪んでいる。
「最近ではあの辺りに、歪虚は全く見られなかったのですが……」
村の傍を流れるキアーラ川の上流の森に古い廃坑がある。
長らく近付く者もいなかったが、バチャーレ村の産業になりそうな、魅力的な貴石の鉱脈がまだ残っている可能性があった。
地質学の専門家であるマリナが調査を始めたが、すぐ近くに地精霊の依り代となる祠が見つかり、それを狙った歪虚が出たり、当の精霊が拗ねたりして、なかなか進まないでいる。
雪が降る前に少しでもと、数人で廃坑の様子を見に行ったのだが。
一団が内部に入ったすぐ後、外に待機していた見張り2名が歪虚に襲われたのだ。
「彼らは負傷しましたが、命に別条はありません。……地精霊マニュス・ウィリディスが歪虚の気を逸らして、助けてくれたそうです」
だが精霊にも歪虚を排除するだけの力はない。
見張りはひとまずその場を逃れ、報告に戻ってきたという訳だった。
「可能性が少しでも残っているなら……全員を助けてやりたいんです。お願いします」
――最悪の場合、『回収』だけでも。
言葉にはならなかった思いが、ハンター達にはわかってしまうのだった。
同盟の農業推進地域ジェオルジ領内に、バチャーレという小さな村がある。
「手をつなぐ」という意味を持つ村に移り住んだサルヴァトーレ・ロッソの避難民たちにとっては、二度目の冬だ。
今は近隣の村々とも良好な関係を保ち、ジェオルジ領内からの移住者も増え、独立した共同体としてどうにか形を整えつつある。
村の代表はサイモン・小川(kz0211)といって、元々ロッソの植物プラントの管理技術者だった青年だ。
「さむ……!」
折角治った風邪がぶり返しそうな冷たい風が吹き付け、サイモンは震えあがる。
「去年もこんなに寒かったっけ?」
サイモンが首を傾げたところで、賑やかな声が響き渡る。
「ふええええん!」
「エリオ! あんたまたビアンカにいたずらしたね!!」
「ちげえって! ビアンカがレベッカのペンダントを勝手に触ってたんだよ!」
「ビアンカは自分のを持ってるのよ!」
「レベッカ、あんたおねえちゃんなんだよ、ちょっとぐらい貸してやんな!」
「やだああああ!!」
ジェオルジの別の村から移り住んできたアニタ・マネッティとその子供たちだ。
「あら村長さん、こんにちは。いつもうるさくてごめんねえ」
アニタはサイモンに愛想よくそう言った後、振り向いて子供達を叱りつける。
「ほら、さっさとお手伝いをすますんだよ! こんな寒い日に焚き木が切れたら、ブフェーラ・ディ・ネーレにさらわれっちまうよ!!」
一番年上のエリオは鼻を鳴らしたが、レベッカとビアンカは顔をこわばらせた。
子供たちがお手伝いに向かったのを見て、サイモンはアニタに尋ねる。
「なんですか、そのぶふぇ……?」
「ブフェーラ・ディ・ネーレ。吹雪の魔物だよ」
アニタは笑いながら、ジェオルジの一部で語り継がれるおとぎ話を教えてくれた。
それは女とも男ともつかない綺麗な青白い顔をしていて、いつも寒くて震えている魔物。
暖かさに嫉妬し、豊かさに嫉妬し、人のつながりに嫉妬する。
冬には幼子に冷たい息を吹きかけて母親から奪おうとし、夏には冷たすぎる風を送って作物の実りを台無しにしようとするという――。
「でも今年の冬は、この辺りにしちゃ随分と寒いね。ほんとにネーレでも出そうだよ」
「やはりいつもより寒いですか?」
「元々小麦が年に2回も収穫できるような場所なんだろ? それにしちゃ寒いよね」
アニタの言うとおりだった。
サイモンが更に何か言おうと口を開いたが、言葉は遮られた。
「主任……!」
ひとりの村人が、足をもつれさせながら現れたのだ。良く見ると、右肩が真っ赤に染まっている。
「どうした、何があったんだ!?」
「VOIDが……歪虚が出たんです!!」
リアルブルーから移住した仲間の言葉に、サイモンが一瞬言葉を失った。
●廃坑の歪虚
緊急の要請を受けて到着したハンター達に、サイモンはいつもの通り丁寧に挨拶した。
だが顔色は青ざめ、黒い瞳は暗く落ち窪んでいる。
「最近ではあの辺りに、歪虚は全く見られなかったのですが……」
村の傍を流れるキアーラ川の上流の森に古い廃坑がある。
長らく近付く者もいなかったが、バチャーレ村の産業になりそうな、魅力的な貴石の鉱脈がまだ残っている可能性があった。
地質学の専門家であるマリナが調査を始めたが、すぐ近くに地精霊の依り代となる祠が見つかり、それを狙った歪虚が出たり、当の精霊が拗ねたりして、なかなか進まないでいる。
雪が降る前に少しでもと、数人で廃坑の様子を見に行ったのだが。
一団が内部に入ったすぐ後、外に待機していた見張り2名が歪虚に襲われたのだ。
「彼らは負傷しましたが、命に別条はありません。……地精霊マニュス・ウィリディスが歪虚の気を逸らして、助けてくれたそうです」
だが精霊にも歪虚を排除するだけの力はない。
見張りはひとまずその場を逃れ、報告に戻ってきたという訳だった。
「可能性が少しでも残っているなら……全員を助けてやりたいんです。お願いします」
――最悪の場合、『回収』だけでも。
言葉にはならなかった思いが、ハンター達にはわかってしまうのだった。
リプレイ本文
●
洞窟の入口が見渡せる場所についた頃には、小雪が舞い始めた。
「この寒さで1昼夜……!」
クレール・ディンセルフ(ka0586)は白い息を吐き、遭難者達の身を案じる。昼でさえこの寒さなのだから、夜はどれほどだろう。
ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)はわずかに目を伏せ、聖書を強く胸に抱く。
『待っててください、必ず助け出してみせますから』
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が仲間に合図を送った。白い狼にそっくりな歪虚が2体、姿を現したのだ。
(あの入口から現れたのではないな。他にも出入口があるのか)
とはいえ、まずは目前の敵を排除して目の前の入り口から入るのが早いだろう。
天王寺茜(ka4080)は僅かに顔をゆがめるサイモンの肩に、軽く手を添えた。
「……大丈夫ですよ、サイモンさん」
敢えて明るい笑顔を見せる。
「ほら、マリナさんは頭も良いし、きっと歪虚をやり過ごして、助けを待ってるはずよ」
「そうですよ、私達に任せてください」
ノワ(ka3572)もしっかり胸を張る。
「数時間後には、皆でただいまってきっと言ってますから♪」
「ありがとうございます。でも皆さんもくれぐれも気をつけてください。中は狭いですから」
サイモンはその場に身を隠し、ハンター達は行動を開始する。
「準備はいいか。仕掛けるぞ」
ルトガーは古びた包帯を巻きつけた逞しい腕を突き出す。呪文を刻んだ包帯そのものが彼の武器だ。
開けた場所なら遠慮することはない。こちらに気付いて接近するオオカミめがけて、ファイアスローワーの炎を見舞う。
1体は前足を炎に巻かれ、僅かに体勢を崩す。もう1体はその背後から高くジャンプした。
「悪いけど、歪虚を逃がす気はあんまりないのっ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はその真正面に飛び出し、掲げたメイスから光を放った。セイクリッドフラッシュの光が歪虚の目をくらませる。
だが大きく開いた口はディーナを丸のみするかのようだ。それでもディーナは引かない。
「里が襲われたら大変だもの。ここで倒さなきゃ」
その耳に、静かな歌声が届く。クレールの歌う声に反応して、手にした魔導機械が形を変える。
オオカミの目撃情報からは、敵が何らかの行動阻害の手段を持っていると思われた。クレールの歌はそれに対抗する力を仲間に与える。
歪虚はディーナの痛撃で弾き飛ばされながらも、すぐに地面を蹴って襲いかかる。
敵は四足だが、こちらは二足。ルトガーは岩で身体を支えつつ、辺りを見回す。
苔に覆われた岩場は滑りやすく、その下がどのような状態かも分かりにくい。
「あまり動き回るのは得策ではないだろう」
ルトガーは手負いの歪虚の足元を狙い、デルタレイで攻撃。ジャンプでかわす歪虚だったが、それも計算のうちだった。
「おい、そっちへ行くぞ」
更に追い立てるように追撃し、物陰に潜んでタイミングをはかっていた茜と挟撃できる場所へ。
「こっちは行き止まりよ!」
正面からもデルタレイを受け戸惑ったように動きを止めた歪虚を、ノワの機械槍が貫いた。
「もふもふでも歪虚のオオカミさんはおしおきですよ!」
2体の歪虚を倒し、一同は息をつく。
「怪我をした人は今のうちに治しておくの」
だがディーナの見たところ、皆の負傷は大したことはなさそうだった。
「酷くないなら、治癒術は温存したほうがよさそうね」
クレールの提案に、異論は出なかった。
サイモンが地図を広げ、これからの行動を確認する。
「採掘場までの坑道は調査済みです。ただまだ全てを確認した訳ではないので……特に奥に行くほど、地図に載っていない分岐もあるかと思います」
「わかる部分から確認すればいいの」
ディーナは地図を覗き込み、仮に『何か』に追われた場合に、逃げ込みそうな場所をチェックする。
サイモン達が調査していない部分を、遭難者が知っている可能性は低いだろう。
とはいえ、全員で一緒に回っていては時間がかかりそうなので、それぞれの装備品も考え、2班に分かれて捜索することにした。
「みんな、気をつけてね。戻ったらあつーい紅茶であったまりましょ!」
茜が呼びかけ、一同は坑道へと入って行った。
●
LEDライトが坑道を明るく照らす。並んで歩けるのは2人がせいぜいだ。
やがて最初の大きな分岐に到着する。
それぞれの通路は大きなY字型に分かれており、急いで戻ってきた場合、入口ではなく別の分岐に迷い込みそうだった。
「ここからは別行動だな。何かあったら知らせろ」
ルトガーはマッピングセットを広げ、分岐点を確認すると、魔導スマートフォンをハンズフリーモードに。
共に行動するのは、クレールとティアンシェだ。
クレールはトランシーバーを、ティアンシェは魔導短伝話をそれぞれ調整する。
「メイちゃんは地図をお願いね」
クレールはティアンシェに声をかけると、ペイント弾を装填した。戻って来る時に分かりやすいように、壁に蛍光弾で印をつける。
ティアンシェがLEDライトで行く先を照らし、右側の通路へと進んでいく。
「じゃあ私達はこっちですね。皆さん、宜しくお願いします!」
ノワ、茜、ディーナ、そしてサイモンが後についていく。
ディーナが『灯火の水晶球』で通路を明るく照らし出した。
遭難者からこちらを見つけやすくするとともに、敵の不意打ちにいち早く気づけるようにするためだ。
「すぐ先に分岐があるの。その先は行き止まりなの」
行き止まりの奥まで辿り着いたところで、不意にディーナが呟く。
「……音がしたの」
一瞬互いに顔を見合わせ、すぐに元来た道を戻って行く。
茜がチョークでつけた印を確認し、更に奥へ。か細い声が岩壁を伝って聴こえてくる。
やがて声の主が見つかった。こちらの明かりを見つけて、呼びかけていたらしい。サイモンが彼らの名を呼びながら駆け寄る。
岩にもたれかかっていたのは2人の男性だった。
ディーナと茜が怪我を癒す間に、ノワが別れた仲間に連絡を入れた。
サイモンが1人に問いただす。
「マリナはどうしたんだ?」
「それが……」
男は言葉に詰まりながら、更に奥を指差した。
「採掘場跡で歪虚に襲われて、ここまで逃げてきたんですが。マリナは道を間違ったのか、また奥へ向かってしまったんです。連れていた犬に後を追わせましたが、どちらも戻ってきません……」
ふたりは傷が重く、後を追うことはできなかったようだ。サイモンがいたわるように肩をたたく。
かけつけたティアンシェが、ふたりを毛布でくるんだ。
「大変だったな、もう安心して大丈夫だ。ほら、ゆっくり飲むんだ」
ルトガーがミネラルウォーターを差し出した。
「これも食べるといいの。お腹に何か入れると力が出るの」
ディーナはチョコレートを割って、ふたりの口に含ませる。
サイモンは遭難者ふたりとその場に残し、何かあればトランシーバーで連絡を入れてもらうことにした。
置いて行かれるのは不安だろうが、狭い坑道で一般人3人をカバーしながら敵と遭遇するのは避けたいところだ。
『大丈夫、大丈夫。あなた方のことは必ず守るの、です。だから、私たちを信じて待っててください』
ティアンシェは更に毛布をかけ、ふたりを勇気づける言葉を歌に乗せる。
覚醒の証である金の輪を纏うときのみ、ティアンシェは『声』を取り戻すのだ。
「マリナさん大丈夫かな……」
茜には、マリナが単純に道を間違って奥へ行ったとは思えなかった。
(何か気になることでもあったのかな? それでも怪我人を置いて行くような人じゃないと思うんだけど)
物思いは、ノワの小さな叫び声で中断される。
「あっ……」
灯りをかざして確認すると、ノワは息絶えた茶色い犬に駆け寄った。
「この子がさっきの人達の……」
ノワは意を決して、『深淵の声』で犬が最期に見た光景を追う。
「……マリナさん、何かに呼ばれてるみたいに歩いて行く……でもこの子は『怖い、行っちゃだめ』って思って追いかけて……」
ノワはそこで言葉をつぐんだ。痛みと悲しみを受け止めるために、ギュッと目をつぶる。
「オオカミの歪虚なの?」
茜が尋ねるが、ノワの辿った犬の記憶ではそこまではわからなかった。
「……わかりません。でも、とっても嫌な感じでした」
ぞわり、と妙な感触が一同の足元を撫でていくようだった。
●
坑道の先は採掘場の跡地だった。灯りを受けて、岩肌がキラキラ光る。
「あら? これって……」
ノワと茜には見覚えのある輝きだった。キアーラ石の鉱脈らしい。
マリナは廃坑を調査して、これを見つけたのだろう。
更に灯りを掲げる。中は広く、手持ちの明かりでは全体がどうなっているのかわからない。
ルトガーが何かに気付いて合図を送り、一同はそちらを注視する。
残土の小山の陰に、衣服を纏った人のようなものが転がっていたのだ。
ルトガーは低い声で、慎重に呼びかける。
「マリナか? 助けに来た。周辺の安全を確保するまで、静かにしていてくれ。ただし、緊急を要する場合は、簡単な合図をしてほしい」
だが相手の反応はない。
ハンター達は交わす視線で、互いの意思を確認する。
クレールは最後尾にとどまり、脱出路を確保。万一の場合には、サイモン達のところへ駆けつけなければならない。
ルトガーと茜、そして聖書を抱きしめたティアンシェがじりじりと前に出る。
ノワとディーナは身構えながら、辺りを警戒する。
「マリナさんですか? 聞こえたら返事をしてください」
茜の呼び声に人影は反応しなかったが、残土の陰から白い影が姿を現した。
先程のものより一回り大きなオオカミ型歪虚だ。更に2体、小型のものが姿を見せ、こちらに向かって牙をむく。
「ここからは行かせませんの」
ディーナが、言葉通りの強い意志を乗せたプルガトリオを連続で打ち込む。
無数の闇の刃が歪虚を選んで襲いかかり、小型の1体が身を震わせ、唸り声を上げた。
プルガトリオによって移動を封じられたために、怒り狂っているようだ。
それを見てか、ボス歪虚が天井に向かって遠吠えのような声を上げる。声は洞窟に反射し、おどろおどろしく響き渡った。
咆哮は耳にしたものの動きを封じるためだったが、ティアンシェとルトガーは何事もなかったように突き進む。
ティアンシェのレジストによる光が、ふたりを守っていた。
『こんな寒いところから、すぐに出してあげますからね』
ティアンシェは倒れている人影を庇い、襲いかかる小型歪虚の前に身をさらした。
鋭い爪が細い肩にかかるのと、分厚い聖書が歪虚の顔面を打つのはほとんど同時だった。
「こんのー!」
茜が機杖をふるい、『ジャッジメント』の光の杭を歪虚に打ち込む。
そうして相手を釘付けにしたところに、ノワが機械槍に力と思いを込めてクラッシュブロウを叩きつけた。
「わんこさんのかたき討ちです!」
茜は歪虚をノワに任せ、ティアンシェの様子を確認する。
「大丈夫? 動ける?」
ティアンシェは気丈に頷くが、歪虚の爪がつけた傷は時間を追うごとに身体の芯まで冷やすようだ。
「毒……とも違うわね。呪いに近い感じかな」
茜は機導浄化術でティアンシェの不調を取り除いた。
ティアンシェならその気になれば歪虚の攻撃は避けられたはずだ。だが守るべきものを守るため、引かなかったのだ。
「これで大丈夫だと思うけど」
『有難うございます。傷はマリナさんを助けてから癒します』
ティアンシェは微笑むと、すぐに立ち上がった。
その視線の先では、大型の歪虚が巨大な爪をふるっていた。
ルトガーは攻性防壁で歪虚の攻撃を受け止める。相手の身体は大きく、力も強い。
無傷では済まないが、歪虚を押し込み、時間を稼ぐ。
クレールは追加の敵が出てこないことを確認しつつ、『紋章剣「月雫」』の射程内まで接近し、歪虚を三日月の紋章の刃で斬りつける。
「マリナさんは? 救出できそう?」
歪虚から目を離さず尋ねる。
ボス歪虚はタフだった。それぞれの術が尽きれば、すぐに襲いかかってくるだろう。
マリナと、坑道で待っているサイモン達を無事に逃がすことを優先すべきだとクレールは考えていた。
勿論、全員がそのことをわかっている。
だがディーナは可能ならここで歪虚を倒しておくべきだと主張する。
「ここに歪虚が居たら、精霊さまは力を奪われ続けて顕現できなくなるかもしれないの」
遭難者を庇ってくれたという地精霊は全く姿を現さない。
力を使い果たしてしまった可能性もあるのだ。
「もちろん遭難した人達を助けるのが最優先だけど、倒せるなら倒した方が良いの。それに歪虚が入ってきた入り口を確認して塞ぐ必要もあると思うの」
「それには同意だ」
ルトガーだ。
「だがまずは被害者を連れ出してくれないか」
歪虚を更に押し込み、人影から離す。ノワが駆け寄った。
目を閉じたままの青白い顔には見覚えがあった。ノワは呼吸と脈動を確かめる。
「マリナさんです。体温は下がっていますが、ちゃんと息もあります!」
「あぶない!」
クレールが警戒の声を上げつつ、更に攻撃を仕掛ける。拘束を振り切った歪虚が、地面を蹴って突進してきたのだ。
「!!」
ノワはマリナを抱きしめ、身をかがめる。その背を歪虚の太い脚が蹴り飛ばす。
そしてそのまま、ルトガーやクレールに襲いかかるかと見えた歪虚は、大きく飛び跳ねると、岩肌にぶつかるようにして方向を変えた。
「逃げるつもりなの!」
ディーナが後を追うが、白い巨体はそのまま風のように駆け、廃坑の奥へと姿を消したのだった。
●
クレールがカリスマリスを鎖に、眠ったままのマリナを背負う。
「歪虚の声はあちらにも届いているかもしれない。メイちゃんと先にいくね」
サイモン達を案じ、ティアンシェと共に元来た道を戻って行った。
他の4人はそれぞれに内部を確認し、とりあえずこの空間から外に出ることはできないと確認した。
「ということは更に奥に分岐があるのか。厄介だな」
ルトガーが歪虚の逃げ込んだ先を見つめる。
ハンターといえど、今の状態で突っ込んでいくのは危険だ。
「調査が必要なら改めて出動しよう。ところで地精霊はどこだろうな。人間を守ってくれたお礼を言いたいのだが」
「祠に戻ったら探してみましょう」
茜が促し、坑道を引き返す。
サイモンは戻ってきた一同の顔を見て、ほっとした表情を浮かべた。
咆哮に驚いたひとりが駆けだし、それを止めようとしたサイモンが岩に身体をぶつけていたが、大した傷ではなかった。
ディーナは目を閉じたままのマリナに治癒術を施す。
その白い頬を見つめながら、ひとつの疑念を口にした。
「ネーレ、吹雪の魔物……本当にお伽話ならいいけど……」
この大地に生まれたものには確信に近い疑念。
洞窟の奥から吹きつける風は、冷たい悪意を孕んだ口笛のように響いていた。
<了>
洞窟の入口が見渡せる場所についた頃には、小雪が舞い始めた。
「この寒さで1昼夜……!」
クレール・ディンセルフ(ka0586)は白い息を吐き、遭難者達の身を案じる。昼でさえこの寒さなのだから、夜はどれほどだろう。
ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)はわずかに目を伏せ、聖書を強く胸に抱く。
『待っててください、必ず助け出してみせますから』
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が仲間に合図を送った。白い狼にそっくりな歪虚が2体、姿を現したのだ。
(あの入口から現れたのではないな。他にも出入口があるのか)
とはいえ、まずは目前の敵を排除して目の前の入り口から入るのが早いだろう。
天王寺茜(ka4080)は僅かに顔をゆがめるサイモンの肩に、軽く手を添えた。
「……大丈夫ですよ、サイモンさん」
敢えて明るい笑顔を見せる。
「ほら、マリナさんは頭も良いし、きっと歪虚をやり過ごして、助けを待ってるはずよ」
「そうですよ、私達に任せてください」
ノワ(ka3572)もしっかり胸を張る。
「数時間後には、皆でただいまってきっと言ってますから♪」
「ありがとうございます。でも皆さんもくれぐれも気をつけてください。中は狭いですから」
サイモンはその場に身を隠し、ハンター達は行動を開始する。
「準備はいいか。仕掛けるぞ」
ルトガーは古びた包帯を巻きつけた逞しい腕を突き出す。呪文を刻んだ包帯そのものが彼の武器だ。
開けた場所なら遠慮することはない。こちらに気付いて接近するオオカミめがけて、ファイアスローワーの炎を見舞う。
1体は前足を炎に巻かれ、僅かに体勢を崩す。もう1体はその背後から高くジャンプした。
「悪いけど、歪虚を逃がす気はあんまりないのっ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はその真正面に飛び出し、掲げたメイスから光を放った。セイクリッドフラッシュの光が歪虚の目をくらませる。
だが大きく開いた口はディーナを丸のみするかのようだ。それでもディーナは引かない。
「里が襲われたら大変だもの。ここで倒さなきゃ」
その耳に、静かな歌声が届く。クレールの歌う声に反応して、手にした魔導機械が形を変える。
オオカミの目撃情報からは、敵が何らかの行動阻害の手段を持っていると思われた。クレールの歌はそれに対抗する力を仲間に与える。
歪虚はディーナの痛撃で弾き飛ばされながらも、すぐに地面を蹴って襲いかかる。
敵は四足だが、こちらは二足。ルトガーは岩で身体を支えつつ、辺りを見回す。
苔に覆われた岩場は滑りやすく、その下がどのような状態かも分かりにくい。
「あまり動き回るのは得策ではないだろう」
ルトガーは手負いの歪虚の足元を狙い、デルタレイで攻撃。ジャンプでかわす歪虚だったが、それも計算のうちだった。
「おい、そっちへ行くぞ」
更に追い立てるように追撃し、物陰に潜んでタイミングをはかっていた茜と挟撃できる場所へ。
「こっちは行き止まりよ!」
正面からもデルタレイを受け戸惑ったように動きを止めた歪虚を、ノワの機械槍が貫いた。
「もふもふでも歪虚のオオカミさんはおしおきですよ!」
2体の歪虚を倒し、一同は息をつく。
「怪我をした人は今のうちに治しておくの」
だがディーナの見たところ、皆の負傷は大したことはなさそうだった。
「酷くないなら、治癒術は温存したほうがよさそうね」
クレールの提案に、異論は出なかった。
サイモンが地図を広げ、これからの行動を確認する。
「採掘場までの坑道は調査済みです。ただまだ全てを確認した訳ではないので……特に奥に行くほど、地図に載っていない分岐もあるかと思います」
「わかる部分から確認すればいいの」
ディーナは地図を覗き込み、仮に『何か』に追われた場合に、逃げ込みそうな場所をチェックする。
サイモン達が調査していない部分を、遭難者が知っている可能性は低いだろう。
とはいえ、全員で一緒に回っていては時間がかかりそうなので、それぞれの装備品も考え、2班に分かれて捜索することにした。
「みんな、気をつけてね。戻ったらあつーい紅茶であったまりましょ!」
茜が呼びかけ、一同は坑道へと入って行った。
●
LEDライトが坑道を明るく照らす。並んで歩けるのは2人がせいぜいだ。
やがて最初の大きな分岐に到着する。
それぞれの通路は大きなY字型に分かれており、急いで戻ってきた場合、入口ではなく別の分岐に迷い込みそうだった。
「ここからは別行動だな。何かあったら知らせろ」
ルトガーはマッピングセットを広げ、分岐点を確認すると、魔導スマートフォンをハンズフリーモードに。
共に行動するのは、クレールとティアンシェだ。
クレールはトランシーバーを、ティアンシェは魔導短伝話をそれぞれ調整する。
「メイちゃんは地図をお願いね」
クレールはティアンシェに声をかけると、ペイント弾を装填した。戻って来る時に分かりやすいように、壁に蛍光弾で印をつける。
ティアンシェがLEDライトで行く先を照らし、右側の通路へと進んでいく。
「じゃあ私達はこっちですね。皆さん、宜しくお願いします!」
ノワ、茜、ディーナ、そしてサイモンが後についていく。
ディーナが『灯火の水晶球』で通路を明るく照らし出した。
遭難者からこちらを見つけやすくするとともに、敵の不意打ちにいち早く気づけるようにするためだ。
「すぐ先に分岐があるの。その先は行き止まりなの」
行き止まりの奥まで辿り着いたところで、不意にディーナが呟く。
「……音がしたの」
一瞬互いに顔を見合わせ、すぐに元来た道を戻って行く。
茜がチョークでつけた印を確認し、更に奥へ。か細い声が岩壁を伝って聴こえてくる。
やがて声の主が見つかった。こちらの明かりを見つけて、呼びかけていたらしい。サイモンが彼らの名を呼びながら駆け寄る。
岩にもたれかかっていたのは2人の男性だった。
ディーナと茜が怪我を癒す間に、ノワが別れた仲間に連絡を入れた。
サイモンが1人に問いただす。
「マリナはどうしたんだ?」
「それが……」
男は言葉に詰まりながら、更に奥を指差した。
「採掘場跡で歪虚に襲われて、ここまで逃げてきたんですが。マリナは道を間違ったのか、また奥へ向かってしまったんです。連れていた犬に後を追わせましたが、どちらも戻ってきません……」
ふたりは傷が重く、後を追うことはできなかったようだ。サイモンがいたわるように肩をたたく。
かけつけたティアンシェが、ふたりを毛布でくるんだ。
「大変だったな、もう安心して大丈夫だ。ほら、ゆっくり飲むんだ」
ルトガーがミネラルウォーターを差し出した。
「これも食べるといいの。お腹に何か入れると力が出るの」
ディーナはチョコレートを割って、ふたりの口に含ませる。
サイモンは遭難者ふたりとその場に残し、何かあればトランシーバーで連絡を入れてもらうことにした。
置いて行かれるのは不安だろうが、狭い坑道で一般人3人をカバーしながら敵と遭遇するのは避けたいところだ。
『大丈夫、大丈夫。あなた方のことは必ず守るの、です。だから、私たちを信じて待っててください』
ティアンシェは更に毛布をかけ、ふたりを勇気づける言葉を歌に乗せる。
覚醒の証である金の輪を纏うときのみ、ティアンシェは『声』を取り戻すのだ。
「マリナさん大丈夫かな……」
茜には、マリナが単純に道を間違って奥へ行ったとは思えなかった。
(何か気になることでもあったのかな? それでも怪我人を置いて行くような人じゃないと思うんだけど)
物思いは、ノワの小さな叫び声で中断される。
「あっ……」
灯りをかざして確認すると、ノワは息絶えた茶色い犬に駆け寄った。
「この子がさっきの人達の……」
ノワは意を決して、『深淵の声』で犬が最期に見た光景を追う。
「……マリナさん、何かに呼ばれてるみたいに歩いて行く……でもこの子は『怖い、行っちゃだめ』って思って追いかけて……」
ノワはそこで言葉をつぐんだ。痛みと悲しみを受け止めるために、ギュッと目をつぶる。
「オオカミの歪虚なの?」
茜が尋ねるが、ノワの辿った犬の記憶ではそこまではわからなかった。
「……わかりません。でも、とっても嫌な感じでした」
ぞわり、と妙な感触が一同の足元を撫でていくようだった。
●
坑道の先は採掘場の跡地だった。灯りを受けて、岩肌がキラキラ光る。
「あら? これって……」
ノワと茜には見覚えのある輝きだった。キアーラ石の鉱脈らしい。
マリナは廃坑を調査して、これを見つけたのだろう。
更に灯りを掲げる。中は広く、手持ちの明かりでは全体がどうなっているのかわからない。
ルトガーが何かに気付いて合図を送り、一同はそちらを注視する。
残土の小山の陰に、衣服を纏った人のようなものが転がっていたのだ。
ルトガーは低い声で、慎重に呼びかける。
「マリナか? 助けに来た。周辺の安全を確保するまで、静かにしていてくれ。ただし、緊急を要する場合は、簡単な合図をしてほしい」
だが相手の反応はない。
ハンター達は交わす視線で、互いの意思を確認する。
クレールは最後尾にとどまり、脱出路を確保。万一の場合には、サイモン達のところへ駆けつけなければならない。
ルトガーと茜、そして聖書を抱きしめたティアンシェがじりじりと前に出る。
ノワとディーナは身構えながら、辺りを警戒する。
「マリナさんですか? 聞こえたら返事をしてください」
茜の呼び声に人影は反応しなかったが、残土の陰から白い影が姿を現した。
先程のものより一回り大きなオオカミ型歪虚だ。更に2体、小型のものが姿を見せ、こちらに向かって牙をむく。
「ここからは行かせませんの」
ディーナが、言葉通りの強い意志を乗せたプルガトリオを連続で打ち込む。
無数の闇の刃が歪虚を選んで襲いかかり、小型の1体が身を震わせ、唸り声を上げた。
プルガトリオによって移動を封じられたために、怒り狂っているようだ。
それを見てか、ボス歪虚が天井に向かって遠吠えのような声を上げる。声は洞窟に反射し、おどろおどろしく響き渡った。
咆哮は耳にしたものの動きを封じるためだったが、ティアンシェとルトガーは何事もなかったように突き進む。
ティアンシェのレジストによる光が、ふたりを守っていた。
『こんな寒いところから、すぐに出してあげますからね』
ティアンシェは倒れている人影を庇い、襲いかかる小型歪虚の前に身をさらした。
鋭い爪が細い肩にかかるのと、分厚い聖書が歪虚の顔面を打つのはほとんど同時だった。
「こんのー!」
茜が機杖をふるい、『ジャッジメント』の光の杭を歪虚に打ち込む。
そうして相手を釘付けにしたところに、ノワが機械槍に力と思いを込めてクラッシュブロウを叩きつけた。
「わんこさんのかたき討ちです!」
茜は歪虚をノワに任せ、ティアンシェの様子を確認する。
「大丈夫? 動ける?」
ティアンシェは気丈に頷くが、歪虚の爪がつけた傷は時間を追うごとに身体の芯まで冷やすようだ。
「毒……とも違うわね。呪いに近い感じかな」
茜は機導浄化術でティアンシェの不調を取り除いた。
ティアンシェならその気になれば歪虚の攻撃は避けられたはずだ。だが守るべきものを守るため、引かなかったのだ。
「これで大丈夫だと思うけど」
『有難うございます。傷はマリナさんを助けてから癒します』
ティアンシェは微笑むと、すぐに立ち上がった。
その視線の先では、大型の歪虚が巨大な爪をふるっていた。
ルトガーは攻性防壁で歪虚の攻撃を受け止める。相手の身体は大きく、力も強い。
無傷では済まないが、歪虚を押し込み、時間を稼ぐ。
クレールは追加の敵が出てこないことを確認しつつ、『紋章剣「月雫」』の射程内まで接近し、歪虚を三日月の紋章の刃で斬りつける。
「マリナさんは? 救出できそう?」
歪虚から目を離さず尋ねる。
ボス歪虚はタフだった。それぞれの術が尽きれば、すぐに襲いかかってくるだろう。
マリナと、坑道で待っているサイモン達を無事に逃がすことを優先すべきだとクレールは考えていた。
勿論、全員がそのことをわかっている。
だがディーナは可能ならここで歪虚を倒しておくべきだと主張する。
「ここに歪虚が居たら、精霊さまは力を奪われ続けて顕現できなくなるかもしれないの」
遭難者を庇ってくれたという地精霊は全く姿を現さない。
力を使い果たしてしまった可能性もあるのだ。
「もちろん遭難した人達を助けるのが最優先だけど、倒せるなら倒した方が良いの。それに歪虚が入ってきた入り口を確認して塞ぐ必要もあると思うの」
「それには同意だ」
ルトガーだ。
「だがまずは被害者を連れ出してくれないか」
歪虚を更に押し込み、人影から離す。ノワが駆け寄った。
目を閉じたままの青白い顔には見覚えがあった。ノワは呼吸と脈動を確かめる。
「マリナさんです。体温は下がっていますが、ちゃんと息もあります!」
「あぶない!」
クレールが警戒の声を上げつつ、更に攻撃を仕掛ける。拘束を振り切った歪虚が、地面を蹴って突進してきたのだ。
「!!」
ノワはマリナを抱きしめ、身をかがめる。その背を歪虚の太い脚が蹴り飛ばす。
そしてそのまま、ルトガーやクレールに襲いかかるかと見えた歪虚は、大きく飛び跳ねると、岩肌にぶつかるようにして方向を変えた。
「逃げるつもりなの!」
ディーナが後を追うが、白い巨体はそのまま風のように駆け、廃坑の奥へと姿を消したのだった。
●
クレールがカリスマリスを鎖に、眠ったままのマリナを背負う。
「歪虚の声はあちらにも届いているかもしれない。メイちゃんと先にいくね」
サイモン達を案じ、ティアンシェと共に元来た道を戻って行った。
他の4人はそれぞれに内部を確認し、とりあえずこの空間から外に出ることはできないと確認した。
「ということは更に奥に分岐があるのか。厄介だな」
ルトガーが歪虚の逃げ込んだ先を見つめる。
ハンターといえど、今の状態で突っ込んでいくのは危険だ。
「調査が必要なら改めて出動しよう。ところで地精霊はどこだろうな。人間を守ってくれたお礼を言いたいのだが」
「祠に戻ったら探してみましょう」
茜が促し、坑道を引き返す。
サイモンは戻ってきた一同の顔を見て、ほっとした表情を浮かべた。
咆哮に驚いたひとりが駆けだし、それを止めようとしたサイモンが岩に身体をぶつけていたが、大した傷ではなかった。
ディーナは目を閉じたままのマリナに治癒術を施す。
その白い頬を見つめながら、ひとつの疑念を口にした。
「ネーレ、吹雪の魔物……本当にお伽話ならいいけど……」
この大地に生まれたものには確信に近い疑念。
洞窟の奥から吹きつける風は、冷たい悪意を孕んだ口笛のように響いていた。
<了>
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 灯光に託す鎮魂歌
ディーナ・フェルミ(ka5843)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓です。 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/12/21 22:48:31 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/19 19:09:39 |