ゲスト
(ka0000)
【CF】クリスマス・エトセトラ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/12/28 19:00
- 完成日
- 2018/01/03 23:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
聖輝節。リゼリオの広場にあるのは、クリスマスデコレーションを施された大きな木。
てっぺんにある立体ステンドグラスの星が、冷えきった空気にきらきらした光を投げかけている。
枝の各所に吊り下げられているのは幻獣、精霊、人形、お菓子などのオーナメント。
めっき玉に周囲の景色が映り混んでいる。
飾り立てられた商店のショ-ウィンドウ、その前を行き過ぎる人、又は立ち止まる人――エルフの女と人間の少年。
「――あのさ、マリーおねえさん。次に姉さんが招集かけようとしてきた時さ、私は一緒に船には乗らないって言って欲しいんだ」
マリーはナルシスの言葉にはっとし、ついで伏し目がちに言った。
「……迷惑だった?」
ナルシスはしばし口をつぐんだ。こめかみあたりの髪を掻き、思案している。
「いや、迷惑って言うか……困るんだ。おねえさんに何かあったらさ。だから」
マリーがさっと顔を上げた。緑色の瞳が正面から青い瞳を見据える。
「私だってナルシス君に何かあったら困るの。ナルシス君が私の知らないところで事故に遭ったり、まして死んじゃったりなんかしたら……困るの」
青い瞳の方が負けた。圧に押されるようにしてそらされた。
口ごもって、またこめかみを掻く。動揺したのだ。あまりに真っすぐ思いをぶつけられたもので。
「そう思ってくれるのはうれしいんだけど、でも……僕さ、今度姉さんが操舵手やれって言ってきた時こそは断りたいんだよ。だからまずマリーおねえさんから、船には乗らないって言って欲しいんだ。そしたら僕も船には乗らないって言いやすくなるから」
マリーは再び目を伏せた。言いにくそうに次の言葉を漏らす。
「……ナルシス君、本当にそう出来る?」
「え?」
「……本当にお姉さんを前にして頼みを断れる?」
自分でもそれが出来るかどうか疑わしいと思っているからだろう、ナルシスは膨れ面になった。
「出来るよ、その位。大体姉さんのあれは頼みなんてものじゃなくて命令……」
「あ、マリーさん! ナルシスさーん!」
唐突な呼び声がかかってきた。2人が顔を向けた先には、カチャ、そして八橋杏子がいた。
両者とも赤い帽子赤いコート赤いズボンそして革靴――サンタの姿。
ケーキ箱が1つ置かれた台を前にハンドベルを鳴らしている。
杏子が言った。
「よかったらこの最後の1つ買っていってくれない? それでちょうど私たちのノルマ分がはけるんだけど」
●
東方式焼肉屋『黄金の味』。
二階座敷ではハンターたちが談笑していた。彼らは今、飲み会をしているところである。
「今年も色々ありましたねー」
「まだ終わってないけどな」
「それにしてもカチャさんと杏子さん遅いですね」
「バイト入れてるんだって」
噂をすればなんとやら、階段を上ってくる音が聞こえてきた。襖が開く。
入ってきたのはカチャと杏子。
「遅くなりましたー」
そそくさと席につき駆けつけ三杯を飲んだカチャは一息ついた。
「そうそう、さっきマリーさんとナルシスさんに会いまして――」
と言いかけ、長い座卓の一角を二度見する。
この場にいるはずのない人物がそこに座っていた。カチャより少し肌の色が濃くて、瞳も髪も黒い女性。堅そうなジャーキーを肴にビールを飲んでいる。
「おおおおおおお母さん!? 何でここにいるの!?」
「あなたを待ってたのよ」
「何で!? 今年は私のうち、年末祭礼の総代でも何でもないでしょ!」
「ええ、もちろんそうよ。だけど別のイベントがあるのよ」
「ふぁ?」
「ほら、うちの部族人間相手の首狩り止めて今年で40年目でしょう。それを記念して何かやろうってことになったのよ。総会で相談した結果、ちょうど聖輝節だから、コラボしてツリーを作ろうかってことになって」
前段はともかく後段は穏便だ。と思っていたらとんでもなかった。
「その飾り付けに使う獣の首を、今、郷の大人が総出で刈ってるところなのよ。あなたもそれに協力しなさいね。成人してるわけだから、部族の一員として。というわけでさあ帰りましょう」
「いや」
「またそういうわがままを言ってこの子は」
「やだ。帰らない。かえらなぃぃいい!」
畳と廊下に爪跡を残し引きずられていくカチャ。
彼女は今年も落ち着いた年末を過ごせそうになかった。
●
「うーわしわっし。わしわっしー」
コボルドコボちゃんはジェオルジの田舎道を歩いていく。その手には白くて四角い箱。中に入っているのは、犬用のケーキ。
お休みで鍵がかかっているハンターオフィス・ジェオルジ支局の横を通りすぎ、コボちゃんハウスに入る。
ストーブに薪を入れ火をつけて、ケーキの箱を開く。
「わふーし、わしーしー♪」
ひとしきり唸り歌ってから、ケーキをがつがつ食べ始める。
目下コボルドが一番、クリスマスらしいことをしていた。
リプレイ本文
マリィア・バルデス(ka5848)は切り株を模して作られた小さな家を眺めた。
「こうやって見ると、規格外の家よね……コボちゃんにピッタリ、ってことなのかしら」
家の周囲には豆電球型の照明がぐるぐると巻かれている。どうやらコボルドもクリスマスを祝うらしい。
(そういえば一昨年の冬だったかしら、これを作ったのは)
マリィアは扉を叩いた。
中から扉が開いた。
口の周りに一杯クリームをつけたコボちゃんが出てくる。
「わふーし?」
「こんばんは、コボちゃん。クリスマスのごあいさつに来たんだけど、おうちに入れてくれる?」
彼女が手にした犬用クッキーにつられたか、コボちゃんが尾を振る。訪問許可の姿勢を示す。
「お邪魔しまーす」
コボルドの体格に合わせた低い天井にぶつからないよう背をかがめ、中に入る。
あかあか燃える暖炉。粗織りのカーペット。小さな洋服ダンスと整理棚。テーブルの上には食べかけの犬用ケーキ。
人間だったらそうでもないが、コボルドの住居としてはかなりの豪華さ。マリィアは思わずこめかみを押さえる。
「随分気合いが入った小屋……いえ、家だったのね。愛されてるわね、貴方」
●
「カチャ、グッドラック!」
天竜寺 詩(ka0396)は手を振った。母に強制連行されて行くカチャと、それについていくメイム(ka2290)、リナリス・リーカノア(ka5126)に向けて。
彼女の背後ではマルカ・アニチキン(ka2542)が魔筆ピンセールを使ってぴょこを描き、杏子に撮影してもらっている。
「うまく撮れましたか?」
「ええ、大丈夫。ばっちりよ。だけどこんなものどうするの?」
自分も会話に加わろうとする詩。
しかしその時彼女は町を流れていく雑踏の中に、知った顔を見つけた。
「あれ、詩さん。どこに行くんですかー?」
「ちょっと知り合いに今年最後の挨拶をしておこうと思って。すぐ戻ってくるから」
●
「お~……空気が熱い……外は寒いはずなのに、此処は違う、ね」
雪継・紅葉(ka5188)と七夜・真夕(ka3977)はレストランで食事。
年に一度しかないお祭りだから、ちょっと奮発。真っ白なクロスと薔薇の花で飾られたテーブルで、コース料理を食している。
ガラス窓を通して見えるのは広場の真ん中に飾られたツリー。
「きれいだね、真夕」
「そうだね。はい、紅葉。アーン♪」
「はい……あ~ん、だよ。ふふ」
幸福な時間を過ごしている2人には、広場を横切って行くカチャ一行の姿は、背景の一部としか映っていなかった。以下のやり取りも聞こえていなかった。
なにしろこのレストランのガラスは防音ガラスである。
「いーやー!」
「カチャの『いや』とか『やだ』はもっと、もっとっていう意味だもんね♪ ああ、ゾクゾクしちゃう♪」
●
マリィアは袋に手を突っ込みクッキーを食べるコボちゃんを眺める。
この一年の間だけでも、多くの変化が起きた。自分に、他人に、それから世界に――気にかけていた歪虚はもうどこにもいない。おばかでかわいい子は随分しっかりしてきた。
「軍にいた頃は、クリスマス休暇を取れなかった面子で、自分のところのクリスマスの食べ物を持ち寄って、盛大にばか騒ぎしてたのよねえ……」
あの頃は楽しかった。あんな日がずっと続くと思っていた。しかし今自分は異世界で会話できないコボルトを前にただ一人寂しく聖輝節を過ごしている……。
「……いやね、何を黄昏ているのかしら」
もしや私はかなり可哀想な部類に入るのではないだろうか、という気の迷いを振り切るため首を振る。
楽しくなければ自分で楽しくすればいい。誰も来ないなら、こちらが歩いていけばいい。そういえばリゼリオで飲み会があると、杏子から聞いていた。
人生を楽しくするのは全部自分の頑張りだ。思って小さく拳を握るマリィアは、コボちゃんに聞く。返事は期待せずに。
「ところでコボちゃんは、転移門は使えたかしら? 一緒にリゼリオに来る?」
「にく、くう、つれてけ」
この一年の間にコボちゃんは、カタコトながら喋れるようになっていた。
●
「つまりナルシス君はもう船の操縦はしたくないんだね」
詩の念押しにナルシスは、冒険心の欠片もない返答を返した。
「そりゃそうだよ。わけわかんない歪虚が湧くような場所に、誰が好き好んで行きたいと思うわけ?」
詩は考えた。
前回の依頼から察するに彼の姉ニケは、無駄な行動をしたり無駄金を使ったりするのを嫌うタイプかと思われる。
商会には経験豊かな本職の操舵手もいるだろう。なのに何故このやる気のない弟を召喚するのかと言えば、ひとえに金がかからないからではないだろうか?
「それならナルシス君も今度操舵を頼まれたら、労働の正当な対価として危険手当付きの報酬を要求してみたらどうかな。ナルシス君は身内とはいっても別に社員じゃないんでしょ? それなら猶更相場より高く要求してもいい筈だし。そしたらニケさんも、それなら社員を使った方が安くつく、と思うかもしれないよ」
ナルシスが狭めていた眉を開く。
「……それはやってみる価値ありそうだね。姉さん損するの大嫌いだから、そういう論法で行ったら話引っ込める可能性あるよね」
側でやり取りを聞いていたマリーは、安堵の言葉を漏らした。
「本当?」
詩は去年の今頃彼女がサンドバッグを叩いていたことを思い出し、しばしの感慨に耽る。
(まぁ私としては時々でも働いた方がいいとは思うけど)
という思いを胸に秘め宴会に戻ろうとするところ、マリーに引き留められた。礼を言うために。
「ありがとう――詩も、いいお年を」
●
猛烈に吹雪く山奥。
頭頂部から背中にかけ真っ赤なたてがみを生やした羆が、雄たけびを上げている。
「ふりぃぃず!」
メイムが響によって、羆の動きを牽制する。
「首に一撃だよ、頑張れー♪」
リナリスはカチャにウィンドガストとファイアエンチャントの支援を送る。
炎の如き赤光をまとう斧を、羆の首目がけ叩き込むカチャ。
羆は避けた。
斧は羆の額に当たった。傷は浅い。羆は血を撒き散らしながら一層猛り、前足を振り下ろす。カチャは転がるようにしてそれを避ける。
呆れたようにメイムが言った。
「なんだか知らないけどさー、ここの獣ってみんな強力過ぎない?」
雪に覆われた山麓。
エルバッハ・リオン(ka2434)は戦馬に跨り、首狩りに参加していた。
鳥として作り出した式が見ている景色を郷の大人たちに伝え、獲物探索の手間を省く。
「あの林の奥に鹿の群れがいます。回り込んでこちらの原に追い出してきてください。出てきたものを狩り取りますので」
「あいよ。ところであんた、寒くねえか? そんな水着みてえな服着てよ」
「いえ、全然」
涼しい顔で答えつつ彼女は、前方にある峰を見た。
この時期カチャがどうしているかと気になったので郷を訪れてみれば、やはりというかお祭り騒ぎに駆り出されていた。
今はあの白く霞んでいる山中でメイム、リナリスと狩りをしているらしいが――成果を上げているだろうか。
●
食事を済ませた真夕と紅葉は、真っすぐ家に――喫茶スノウ・ガーデンに帰る。
クリスマス一色に彩られた大通りのあちらにもこちらにも、親しげに寄り添う人々の姿。冷えた空気は物理的接近を促進するものなのだろう。
彼女たちも当然ながら、その法則に従い身を寄せ合う。
紅葉が不意に手を握ってきたので、真夕はぎゅっと握り返した。
「冬は手を繋ぐのに言い訳ができるからいいわよね」
その言葉に紅葉は、こくんと頷いた。
●
血の匂いに誘われたか狼の群れが現れた。
リナリスはスリープクラウドを放つ。
「首おいてけえええっ!」
メイムは羆にドローミーをかけ、自分の側に引き寄せた。
それに向かおうとしていたカチャは急な巨体の移動に対処するのが間に合わず、再度狙いを外してしまう。
羆は幻の鎖を引きちぎり、彼女に襲いかかった。
メイムはハンドアックスを投げ支援に努めたが、うまく刺さらず片耳を弾き飛ばすに終わった。
振り上げられた野生の鉄腕がカチャの頭部に振り下ろされた。
眠った狼の首を落としていたリナリスが駆け寄る。
「カチャー!」
メイムも叫んだ。嘘泣きを交えて。
「嗚呼カチャさん!」
再度ハンドアックスを投げ羆の首を刎ねる。それからカチャの傍らに膝をつき、ヒールをかける。
「おお カチャよ 死んでしまうとは情けない そなたにもういちどきかいをあたえよう ふたたびこのようなことがないようにな さあゆけカチャよ」
カチャが血に濡れた顔でむくりと起き上がった。
「……死んでませんけど?」
「よかった。じゃあもう一度頑張ろう♪」
と言ってメイムが指す先には新たに出てきた赤毛の羆。
カチャはやけくそ気味にそちらへ向かう。リナリスが剣を手に後を追う。
「カチャと一緒ならもう何も怖くない!」
ところでリナリスが連れてきた犬のレオポルトは、狩りが始まるや否や死んだふりをし続けている。
猫のムカリは郷の屋内でぬくぬくお留守番である。
●
マルカのフルートに合わせ、マイクを持った詩が歌う。
「♪わたしの~祠のまーえでー鳴かないでくださーい~そこにわたしは居ません~、吊るされてなんていませーん♪」
マリィアは杏子と世間話。
「ここ一年はバタバタだったわね。有名どころの歪虚が次々倒されてるし。これは来年あたり、残りの分も一気にカタがつくんじゃない?」
「だといいんだけどねー。あなたはどう思う?」
マリィアから水を向けられたのはマルカのパルム。小さなコーヒーカップを片手に、鷹揚な頷きを返す。
続けて杏子が聞く。
「コボちゃんはどう思う?」
転移門を通過した負荷で先程までぐたっていた彼だったが、詩がヒールをかけてくれたおかげですっかり回復。元気にわしわし吠える。
「にく、もっと、たのめ」
●
新鮮な獣の首が飾られたツリーを囲んで、タホ郷は飲め食え歌えの大騒ぎ。
メイムとリオンは座の一席で、ぐつぐつ煮えた肉鍋をつつく。
「それにしてもタホ郷はバーバリアンだよねぇ」
「カチャさんの耐久力が高いのも頷けますね」
当のカチャはリナリスと一緒に、いつの間にか退座している。
(まあ、今はリナリスさんのターンかな)
そんなことを思うメイムのもとに、カチャの母であるケチャがやってきた。
「あなたたち、今年もよく来てくれたわね。まあ、どうぞ一杯」
と言って大きな革袋から、2人の杯に酒を注ぐ。
一口飲んでみたら心臓が爆発しそうな代物だった。
聞けば様々な酒(とその他色々)を混合したものらしい。
「リナリスが土産を持ってきてくれてね。それで作ったのよ。本当に気が利く女婿よ、あの子は」
●
「治ってよかった……あたし心臓が止まりそうだったんだから……」
「うひゃ、くすぐったい、くすぐったいですってば!」
上着を引き上げて頭をもぐりこませてくるリナリスにお腹を嘗められたカチャは、ただただ笑い転げていた。
相当酔いが回っているようだ。
「ねーえカチャ、クリスマスから年末にかけての7日間は聖の7日間て言われてるの知ってる?」
「えー、知りませんけどー」
「もー、クルセイダーなのに不勉強-。その期間に契りを交わして過ごしたものには神の祝福があるんだよ? 例えばー、あたしたちみたいにっ♪」
「ふぁ」
●
「お疲れ様……いつもドタバタが多いし、今日ぐらいゆっくりしないと。……うん。ボクが独り占め、だよ」
真夕は紅葉から渡された紅茶を一口飲んで、窓を見た。
黒を背景に浮かび上がるのは暖かそうな街明かり。街路樹にからまるイルミネーションが華を添えている。
「これで更に雪でも降ってくれるなら最高なんだけれどね」
紅葉は彼女の側に寄って体をくっつけ、同じものを見る。
真夕はその頬をチョンとついた。照れたのかくすぐったかったのか身を揺する紅葉。
続いて頭をかき回すように撫でる。
すると予想外の反撃。ハグしてほお擦り。
思わず赤面。気を取り直して反撃。
――遠慮会釈ないじゃれあいの中ふと気づけば、窓の外に雪が舞っていた。
すべてを白が包んで行く様を、2人飽きもせず見守る。
(来年はどんな年になるのかな)
と考えながらいつしか真夕は、大事な手を握りしめていた。
紅葉が彼女の袖を摘まみ、ささやく。この日この時この場所で一緒にいてくれることを感謝しながら。
「あ、あのね……? 折角の日だから、キス、してほしいな。駄目、かな……?」
真夕が頬を染める。何があってもこの手だけは離さないという願いを乗せて、言葉を紡ぎ出す。
「来年も、そのまた次も、ずっとずっとよろしくね。大好きよ。紅葉」
恋人たちは口づけを交わす。聖なる夜に。
●
夜中。
よれよれに着崩れたカチャはランタンを持ち、宴の後始末を確認していた。
「本当に祝福あるんですかねえ……」
お焚き上げの火が消えているのを確かめ帰ろうとし――はたと気づくと見慣れぬ家屋の中、見知った顔が目の前にある。
「エル――」
さん、と言おうとして、手足が縛られていることに気づく。
「どうしても、カチャさんを私の物にしたくてたまらないんです」
満面の壊れた笑顔。カチャの背筋は凍りつく。
「い……いや……」
「カチャさんの『いや』と『やだ』はもっとしてという意味でしたね?」
「――と、そんな夢を見たんですよ。これは初夢でも同じ夢を見るかも知れませんね」
朝。カチャ実家玄関先。
目の下に隈を作ったカチャは、それ以外言葉が見つからないといった調子でリオンに言った。
「……へえ……」
「ちなみに最後カチャさんの首にロープを巻き付けて、『これでカチャさんは永遠に私の物です。安心してください。ずっと大切にしますから』と言って、息絶えるまで絞めてました」
メイムが脇から茶々を入れる。
「わー、エルさん病んでるねぇ♪」
そこにリナリスが来た。カチャの襟首を掴み、廊下の奥へ引きずり戻していく。
「もー、まだ聖の7日間は終わってないよ♪」
それを見送ったリオンは,メイムに言う。焼酎が入った紙袋を掲げて。
「私たちは先に帰りましょうか。この通りお土産も貰ったことですし」
「そうだね」
●
「世間はクリスマスだったらしいですぜ」
「さよか。でも塀の中じゃ関係あらへんな」
刑務所の食堂で硬いパンを食うのは、スペットとブルーチャ。
そこに看守が来た。
「おーい、お前達に差し入れが送られて来てるぞ」
娑婆と関わりのあるスペットだけでなく、ブルーチャーにもとは珍しい。何者かと差出人の名を見れば。マルカ・アニチキンの署名。
開けてみればブラックサンタのコスチューム2人分。飲み会の写真。メッセージカード。
『メリークリスマス。2人とも良い人になったんですから、サンタは必要ですよね。お勤め頑張ってよいお年を』
ブルーチャーは感極まったように言った。
「世間も捨てたもんじゃねえですな」
「せやな」
「こうやって見ると、規格外の家よね……コボちゃんにピッタリ、ってことなのかしら」
家の周囲には豆電球型の照明がぐるぐると巻かれている。どうやらコボルドもクリスマスを祝うらしい。
(そういえば一昨年の冬だったかしら、これを作ったのは)
マリィアは扉を叩いた。
中から扉が開いた。
口の周りに一杯クリームをつけたコボちゃんが出てくる。
「わふーし?」
「こんばんは、コボちゃん。クリスマスのごあいさつに来たんだけど、おうちに入れてくれる?」
彼女が手にした犬用クッキーにつられたか、コボちゃんが尾を振る。訪問許可の姿勢を示す。
「お邪魔しまーす」
コボルドの体格に合わせた低い天井にぶつからないよう背をかがめ、中に入る。
あかあか燃える暖炉。粗織りのカーペット。小さな洋服ダンスと整理棚。テーブルの上には食べかけの犬用ケーキ。
人間だったらそうでもないが、コボルドの住居としてはかなりの豪華さ。マリィアは思わずこめかみを押さえる。
「随分気合いが入った小屋……いえ、家だったのね。愛されてるわね、貴方」
●
「カチャ、グッドラック!」
天竜寺 詩(ka0396)は手を振った。母に強制連行されて行くカチャと、それについていくメイム(ka2290)、リナリス・リーカノア(ka5126)に向けて。
彼女の背後ではマルカ・アニチキン(ka2542)が魔筆ピンセールを使ってぴょこを描き、杏子に撮影してもらっている。
「うまく撮れましたか?」
「ええ、大丈夫。ばっちりよ。だけどこんなものどうするの?」
自分も会話に加わろうとする詩。
しかしその時彼女は町を流れていく雑踏の中に、知った顔を見つけた。
「あれ、詩さん。どこに行くんですかー?」
「ちょっと知り合いに今年最後の挨拶をしておこうと思って。すぐ戻ってくるから」
●
「お~……空気が熱い……外は寒いはずなのに、此処は違う、ね」
雪継・紅葉(ka5188)と七夜・真夕(ka3977)はレストランで食事。
年に一度しかないお祭りだから、ちょっと奮発。真っ白なクロスと薔薇の花で飾られたテーブルで、コース料理を食している。
ガラス窓を通して見えるのは広場の真ん中に飾られたツリー。
「きれいだね、真夕」
「そうだね。はい、紅葉。アーン♪」
「はい……あ~ん、だよ。ふふ」
幸福な時間を過ごしている2人には、広場を横切って行くカチャ一行の姿は、背景の一部としか映っていなかった。以下のやり取りも聞こえていなかった。
なにしろこのレストランのガラスは防音ガラスである。
「いーやー!」
「カチャの『いや』とか『やだ』はもっと、もっとっていう意味だもんね♪ ああ、ゾクゾクしちゃう♪」
●
マリィアは袋に手を突っ込みクッキーを食べるコボちゃんを眺める。
この一年の間だけでも、多くの変化が起きた。自分に、他人に、それから世界に――気にかけていた歪虚はもうどこにもいない。おばかでかわいい子は随分しっかりしてきた。
「軍にいた頃は、クリスマス休暇を取れなかった面子で、自分のところのクリスマスの食べ物を持ち寄って、盛大にばか騒ぎしてたのよねえ……」
あの頃は楽しかった。あんな日がずっと続くと思っていた。しかし今自分は異世界で会話できないコボルトを前にただ一人寂しく聖輝節を過ごしている……。
「……いやね、何を黄昏ているのかしら」
もしや私はかなり可哀想な部類に入るのではないだろうか、という気の迷いを振り切るため首を振る。
楽しくなければ自分で楽しくすればいい。誰も来ないなら、こちらが歩いていけばいい。そういえばリゼリオで飲み会があると、杏子から聞いていた。
人生を楽しくするのは全部自分の頑張りだ。思って小さく拳を握るマリィアは、コボちゃんに聞く。返事は期待せずに。
「ところでコボちゃんは、転移門は使えたかしら? 一緒にリゼリオに来る?」
「にく、くう、つれてけ」
この一年の間にコボちゃんは、カタコトながら喋れるようになっていた。
●
「つまりナルシス君はもう船の操縦はしたくないんだね」
詩の念押しにナルシスは、冒険心の欠片もない返答を返した。
「そりゃそうだよ。わけわかんない歪虚が湧くような場所に、誰が好き好んで行きたいと思うわけ?」
詩は考えた。
前回の依頼から察するに彼の姉ニケは、無駄な行動をしたり無駄金を使ったりするのを嫌うタイプかと思われる。
商会には経験豊かな本職の操舵手もいるだろう。なのに何故このやる気のない弟を召喚するのかと言えば、ひとえに金がかからないからではないだろうか?
「それならナルシス君も今度操舵を頼まれたら、労働の正当な対価として危険手当付きの報酬を要求してみたらどうかな。ナルシス君は身内とはいっても別に社員じゃないんでしょ? それなら猶更相場より高く要求してもいい筈だし。そしたらニケさんも、それなら社員を使った方が安くつく、と思うかもしれないよ」
ナルシスが狭めていた眉を開く。
「……それはやってみる価値ありそうだね。姉さん損するの大嫌いだから、そういう論法で行ったら話引っ込める可能性あるよね」
側でやり取りを聞いていたマリーは、安堵の言葉を漏らした。
「本当?」
詩は去年の今頃彼女がサンドバッグを叩いていたことを思い出し、しばしの感慨に耽る。
(まぁ私としては時々でも働いた方がいいとは思うけど)
という思いを胸に秘め宴会に戻ろうとするところ、マリーに引き留められた。礼を言うために。
「ありがとう――詩も、いいお年を」
●
猛烈に吹雪く山奥。
頭頂部から背中にかけ真っ赤なたてがみを生やした羆が、雄たけびを上げている。
「ふりぃぃず!」
メイムが響によって、羆の動きを牽制する。
「首に一撃だよ、頑張れー♪」
リナリスはカチャにウィンドガストとファイアエンチャントの支援を送る。
炎の如き赤光をまとう斧を、羆の首目がけ叩き込むカチャ。
羆は避けた。
斧は羆の額に当たった。傷は浅い。羆は血を撒き散らしながら一層猛り、前足を振り下ろす。カチャは転がるようにしてそれを避ける。
呆れたようにメイムが言った。
「なんだか知らないけどさー、ここの獣ってみんな強力過ぎない?」
雪に覆われた山麓。
エルバッハ・リオン(ka2434)は戦馬に跨り、首狩りに参加していた。
鳥として作り出した式が見ている景色を郷の大人たちに伝え、獲物探索の手間を省く。
「あの林の奥に鹿の群れがいます。回り込んでこちらの原に追い出してきてください。出てきたものを狩り取りますので」
「あいよ。ところであんた、寒くねえか? そんな水着みてえな服着てよ」
「いえ、全然」
涼しい顔で答えつつ彼女は、前方にある峰を見た。
この時期カチャがどうしているかと気になったので郷を訪れてみれば、やはりというかお祭り騒ぎに駆り出されていた。
今はあの白く霞んでいる山中でメイム、リナリスと狩りをしているらしいが――成果を上げているだろうか。
●
食事を済ませた真夕と紅葉は、真っすぐ家に――喫茶スノウ・ガーデンに帰る。
クリスマス一色に彩られた大通りのあちらにもこちらにも、親しげに寄り添う人々の姿。冷えた空気は物理的接近を促進するものなのだろう。
彼女たちも当然ながら、その法則に従い身を寄せ合う。
紅葉が不意に手を握ってきたので、真夕はぎゅっと握り返した。
「冬は手を繋ぐのに言い訳ができるからいいわよね」
その言葉に紅葉は、こくんと頷いた。
●
血の匂いに誘われたか狼の群れが現れた。
リナリスはスリープクラウドを放つ。
「首おいてけえええっ!」
メイムは羆にドローミーをかけ、自分の側に引き寄せた。
それに向かおうとしていたカチャは急な巨体の移動に対処するのが間に合わず、再度狙いを外してしまう。
羆は幻の鎖を引きちぎり、彼女に襲いかかった。
メイムはハンドアックスを投げ支援に努めたが、うまく刺さらず片耳を弾き飛ばすに終わった。
振り上げられた野生の鉄腕がカチャの頭部に振り下ろされた。
眠った狼の首を落としていたリナリスが駆け寄る。
「カチャー!」
メイムも叫んだ。嘘泣きを交えて。
「嗚呼カチャさん!」
再度ハンドアックスを投げ羆の首を刎ねる。それからカチャの傍らに膝をつき、ヒールをかける。
「おお カチャよ 死んでしまうとは情けない そなたにもういちどきかいをあたえよう ふたたびこのようなことがないようにな さあゆけカチャよ」
カチャが血に濡れた顔でむくりと起き上がった。
「……死んでませんけど?」
「よかった。じゃあもう一度頑張ろう♪」
と言ってメイムが指す先には新たに出てきた赤毛の羆。
カチャはやけくそ気味にそちらへ向かう。リナリスが剣を手に後を追う。
「カチャと一緒ならもう何も怖くない!」
ところでリナリスが連れてきた犬のレオポルトは、狩りが始まるや否や死んだふりをし続けている。
猫のムカリは郷の屋内でぬくぬくお留守番である。
●
マルカのフルートに合わせ、マイクを持った詩が歌う。
「♪わたしの~祠のまーえでー鳴かないでくださーい~そこにわたしは居ません~、吊るされてなんていませーん♪」
マリィアは杏子と世間話。
「ここ一年はバタバタだったわね。有名どころの歪虚が次々倒されてるし。これは来年あたり、残りの分も一気にカタがつくんじゃない?」
「だといいんだけどねー。あなたはどう思う?」
マリィアから水を向けられたのはマルカのパルム。小さなコーヒーカップを片手に、鷹揚な頷きを返す。
続けて杏子が聞く。
「コボちゃんはどう思う?」
転移門を通過した負荷で先程までぐたっていた彼だったが、詩がヒールをかけてくれたおかげですっかり回復。元気にわしわし吠える。
「にく、もっと、たのめ」
●
新鮮な獣の首が飾られたツリーを囲んで、タホ郷は飲め食え歌えの大騒ぎ。
メイムとリオンは座の一席で、ぐつぐつ煮えた肉鍋をつつく。
「それにしてもタホ郷はバーバリアンだよねぇ」
「カチャさんの耐久力が高いのも頷けますね」
当のカチャはリナリスと一緒に、いつの間にか退座している。
(まあ、今はリナリスさんのターンかな)
そんなことを思うメイムのもとに、カチャの母であるケチャがやってきた。
「あなたたち、今年もよく来てくれたわね。まあ、どうぞ一杯」
と言って大きな革袋から、2人の杯に酒を注ぐ。
一口飲んでみたら心臓が爆発しそうな代物だった。
聞けば様々な酒(とその他色々)を混合したものらしい。
「リナリスが土産を持ってきてくれてね。それで作ったのよ。本当に気が利く女婿よ、あの子は」
●
「治ってよかった……あたし心臓が止まりそうだったんだから……」
「うひゃ、くすぐったい、くすぐったいですってば!」
上着を引き上げて頭をもぐりこませてくるリナリスにお腹を嘗められたカチャは、ただただ笑い転げていた。
相当酔いが回っているようだ。
「ねーえカチャ、クリスマスから年末にかけての7日間は聖の7日間て言われてるの知ってる?」
「えー、知りませんけどー」
「もー、クルセイダーなのに不勉強-。その期間に契りを交わして過ごしたものには神の祝福があるんだよ? 例えばー、あたしたちみたいにっ♪」
「ふぁ」
●
「お疲れ様……いつもドタバタが多いし、今日ぐらいゆっくりしないと。……うん。ボクが独り占め、だよ」
真夕は紅葉から渡された紅茶を一口飲んで、窓を見た。
黒を背景に浮かび上がるのは暖かそうな街明かり。街路樹にからまるイルミネーションが華を添えている。
「これで更に雪でも降ってくれるなら最高なんだけれどね」
紅葉は彼女の側に寄って体をくっつけ、同じものを見る。
真夕はその頬をチョンとついた。照れたのかくすぐったかったのか身を揺する紅葉。
続いて頭をかき回すように撫でる。
すると予想外の反撃。ハグしてほお擦り。
思わず赤面。気を取り直して反撃。
――遠慮会釈ないじゃれあいの中ふと気づけば、窓の外に雪が舞っていた。
すべてを白が包んで行く様を、2人飽きもせず見守る。
(来年はどんな年になるのかな)
と考えながらいつしか真夕は、大事な手を握りしめていた。
紅葉が彼女の袖を摘まみ、ささやく。この日この時この場所で一緒にいてくれることを感謝しながら。
「あ、あのね……? 折角の日だから、キス、してほしいな。駄目、かな……?」
真夕が頬を染める。何があってもこの手だけは離さないという願いを乗せて、言葉を紡ぎ出す。
「来年も、そのまた次も、ずっとずっとよろしくね。大好きよ。紅葉」
恋人たちは口づけを交わす。聖なる夜に。
●
夜中。
よれよれに着崩れたカチャはランタンを持ち、宴の後始末を確認していた。
「本当に祝福あるんですかねえ……」
お焚き上げの火が消えているのを確かめ帰ろうとし――はたと気づくと見慣れぬ家屋の中、見知った顔が目の前にある。
「エル――」
さん、と言おうとして、手足が縛られていることに気づく。
「どうしても、カチャさんを私の物にしたくてたまらないんです」
満面の壊れた笑顔。カチャの背筋は凍りつく。
「い……いや……」
「カチャさんの『いや』と『やだ』はもっとしてという意味でしたね?」
「――と、そんな夢を見たんですよ。これは初夢でも同じ夢を見るかも知れませんね」
朝。カチャ実家玄関先。
目の下に隈を作ったカチャは、それ以外言葉が見つからないといった調子でリオンに言った。
「……へえ……」
「ちなみに最後カチャさんの首にロープを巻き付けて、『これでカチャさんは永遠に私の物です。安心してください。ずっと大切にしますから』と言って、息絶えるまで絞めてました」
メイムが脇から茶々を入れる。
「わー、エルさん病んでるねぇ♪」
そこにリナリスが来た。カチャの襟首を掴み、廊下の奥へ引きずり戻していく。
「もー、まだ聖の7日間は終わってないよ♪」
それを見送ったリオンは,メイムに言う。焼酎が入った紙袋を掲げて。
「私たちは先に帰りましょうか。この通りお土産も貰ったことですし」
「そうだね」
●
「世間はクリスマスだったらしいですぜ」
「さよか。でも塀の中じゃ関係あらへんな」
刑務所の食堂で硬いパンを食うのは、スペットとブルーチャ。
そこに看守が来た。
「おーい、お前達に差し入れが送られて来てるぞ」
娑婆と関わりのあるスペットだけでなく、ブルーチャーにもとは珍しい。何者かと差出人の名を見れば。マルカ・アニチキンの署名。
開けてみればブラックサンタのコスチューム2人分。飲み会の写真。メッセージカード。
『メリークリスマス。2人とも良い人になったんですから、サンタは必要ですよね。お勤め頑張ってよいお年を』
ブルーチャーは感極まったように言った。
「世間も捨てたもんじゃねえですな」
「せやな」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【質問卓】? メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/12/28 14:50:15 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/28 16:56:16 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/12/27 20:01:02 |