とある畑のミミズ退治

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/01 12:00
完成日
2014/12/09 07:36

みんなの思い出

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オープニング

 『傲慢』の歪虚、ベリアルが復活し、王都イルダーナに対して攻撃を仕掛けている──
 グラズヘイムの大手新聞社『ヘルメス情報局』によって出された号外による速報は、それまでにない早さでもって王国中に知らしめられた。
 王国北部──俗に北部亜人地帯と呼ばれる王国辺境部にその報せが届いたのは、事件の発生より10日後。その事実は北部の村々に住む人々に衝撃と共に迎えられた。酒場で、或いは井戸端で── 語られる話題は噂話を呼び、無責任な流言飛語を生んだ。
 王都は既に陥落し、この北部にもすぐに歪虚の群れが押し寄せてくるらしい──
 いや、亡き先王アレクシウス・グラハム陛下の威霊が現れ、五年前の様にベリアルを追い払って王都と王女殿下を守りたもうたそうだ──
 顔面を蒼白にして避難の準備を始める者。或いは、酔った赤ら顔で酒の肴に語り合う者── 村長ら『有力者』たちが『対策会議』とやらに小田原評定を繰り返す。
 そんな騒然とした雰囲気の中── 辺境の村落には似つかわしくない紳士が二人。村唯一の宿屋のテラス──庭先に放置されていたテーブルと椅子を彼らが勝手にそう呼んでいる──に座り、落ち着き払った態度で紅茶を飲みながら、人々の狂態を眺めていた。
「村人たちが騒いでおるな。なんでも王都に歪虚が攻め寄せて来たとか」
「ふむ。だからどうした、という話ではないかね。王都が陥ちれば王国自体が終わる。王都が持ち堪えればこの村には何の影響もない。どちらにせよ、ここの人々が騒いだ所で出来ることは何もないのだ。それならば常と変わらぬ日々を粛々と過ごせばよいではないか。村人たちの騒ぎようは、まったくもって論理的ではない」
 そう語る2人の紳士(然とした男たち)は、とある実験の為に古都アークエルスよりやって来た『農学者』と『生物学者』だった。
 実験内容は『村の畑の土壌の改良』。王国北部は荒地や痩せた土地が多く、耕作にはなかなか適さない。これをなんとか出来ないか、というのが彼らの研究テーマだった。
「予定では、昨晩は馳走でもてなされるはずだったのだがな。騒がしいことだ」
「まったくだ。我らは変わらぬ日々を過ごすとしよう」
 呟き、椅子から立ち上がる学者たち。騒然とする村の中を落ち着き払った態度で歩き…… やがて、村外れの小さな畑へ辿り着く。そこが彼らの実験場──村から貸与された、耕作放棄された畑だった。かつての耕作者は開拓を諦め、家族ぐるみで王都へ移住したという話だったが、歪虚に襲われた王都で今頃、彼らがどうしているか、などという話は、村人たちなどならともかく、とりあえず学者たちには関係ない。
「荒れ切っておるな。畑の表面はヒビが割れ、生えた野草すら枯れておる」
「これをなんとかするのは手間であるな。本来、土壌改良は長い年月をかけて行うものであるが……」
「だからこそ、私たちの実験が役に立とうというもの」
 学者たちは下働きに雇った村人たちに命じ、畑を耕せさせた。さらに、農学者がアークエルスから持参して来た『肥料』をそこに撒き。貯水池から運んで来た水を蓄え、農学者が研究・開発している『栄養剤』を混ぜ、散水にはこの水を撒くよう指示を出す。
 一方、生物学者は、アークエルスから運んで来たミミズを満遍なく畑に放った。
「ミミズは畑の土壌を改良する。しかも、土壌改良を効率良く行えるよう、それ用に私が改良を重ねた実験種だ」
「私の開発した肥料と栄養剤も、痩せた土地を劇的に改善する効果があるはずだ。本来ならその栄養も一~数作で失われるものだが、君の実験ミミズと合わせることでその効果は大幅に延長されるはず」
 はっ、はっ、はっ、と紳士的に高笑いする学者先生2人。本当に大丈夫か、あの人たち…… と顔を見合わせる大人たちに混ざって、子供たちが興味津々な顔をして作業の手伝いを買って出る。──田舎の村に娯楽は少ない。大人たちが難しい顔して歪虚の話で持ちきりの昨今、外から来た教授たちの『実験』は、子供たちにとって新たな娯楽の一種であった。

 数日後──
 学者たちの実験の成果が出たのか、畑に最初の芽が生えた。
 それは異様な光景であった。畑はまるで緑の絨毯を敷き詰めたかのように新芽で多い尽くされていた。
 それは異様な光景であった…… その畑には、夥しい数の新芽だけでなく── 巨大なミミズも生えていた。
 全長数mにも届かんとする──胴回りだけで優に子供の腰回りを超える──その巨大なミミズは、集まり、その威容にあっけにとられる村人たちを高みから睥睨していた。そこへやって来る通りすがりの猪が1匹。新芽を喰らおうと畑に立ち入り…… 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで振り降りてきたミミズの頭に丸呑みにされた。
 呑み込まれ、ゴクリとミミズの『腹』へと落ちる猪。どよめき、後ずさる村人たちをよそにその『頭』がガパッと4つに開き、牙だらけの口中を広げながら。そこから4本の触手をうねらせつつ声にならない哄笑を上げる。
「どうしてこうなったっ!?」
 慌てて走り寄る農学者──もとい。アークエルスの『魔法農学者』が叫ぶ。彼が作った肥料と栄養剤は、『あの』とんでも都市、アークエルスで研究、開発された物。
 生物学者──もとい、なんちゃら生物学者の彼もまた同様。彼が実験を繰り返したミミズも、アークエルスで育ち、獲ったもの。つまり、『何が起こっても不思議ではない』。
「ぬぅ。様々な要因が複合的に絡み合った結果、巨大化したか? 土壌改良効果も何十倍! まさに劇的な改善であるな!」
 いや、確かに劇的ではあるけれども。村人は無言で畑に指を差した。その差す先で、通りすがりの猿の集団が畑に入ろうとしてミミズに威嚇されて追い払われていた。どうやら畑に入る存在を攻撃するらしい。縄張りを守っているつもりなのかなんなのか、あれでは自分たちも収穫もできない。
「いっそアレを名物にして観光名所にでもすればどうかね?」
「嫌ですよ。今は畑で大人しいですけど、いつ暴れだすか分からないじゃないですか」
「むぅ、そうか、惜しいのぉ。今度、同じことをしたとしても、今回のこの現象が再現できるかわからんというのに……」
 学者たちは惜しみつつもすぐに頭を切り替えた。どちらのせよ、今回の『失敗』を次に繋げる為には、あのミミズや畑を解析する必要がある。
「よし、では、ハンターたちにあのミミズの打倒を依頼しよう」
 おお~、と湧く村人たち。繰り返しになるが、田舎の村に娯楽は少ないのだ──

リプレイ本文

「巨大ミミズ……というより、化け物ミミズですね。作った人たちの正気を疑ってしまいます」
 村の畑の真ん中に、巨大なミミズが生えている── その光景にひとしきり言葉を失った後、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はジト目で畑傍にいる学者たちを見やった。
「やれやれ、迷惑な学者さんたちだね、と」
「先に連中から仕置きした方がよいのではないか?」
 同様に苦笑するアルト・ハーニー(ka0113)。ミグ・ロマイヤー(ka0665)もまた心底呆れたように嘆息する。
「なんにしろ、どうみても人類にとっての脅威です。脅威ですので、全力で排除、させていただきます」
 ミオレスカ(ka3496)はそう言って一人こくりと頷いた。が、小声でおどおどとした話し方だったので、その声は誰の耳にも届かない。
「原因を作ったあの2人には後でじっくり話を聞くとして…… 地面に潜られると面倒ですね。短期決戦か、持久戦か。できれば短期で済ませたいものですが」
「動き回られると厄介なので、短期決戦に同意しますですよ。……にしても、なんつー傍迷惑な生き物を」
 案の定、ミオレスカの声に気づかず話を続けるアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)とシレークス(ka0752)。表面上は落ち着き払ったまま、内心、わたわたと慌てるミオレスカの横で、シアーシャ(ka2507)が複雑そうな表情で巨大ミミズを振り返る。
「畑を良くする為にはるばる遠くから連れて来られたのに…… 悪い事は何もしてないのに…… 倒す、って、少し、可愛そうだな……」
 そう哀れみの視線でミミズを見上げる乙女一人。その横でミグもまた語る。
「……メメズのくせにあーも太くでっかくなりおって。まるで(ピー!)の(ピーーー!!!)ではないか」
 何のてらいもなく言ってのける乙女()一人。ピシッ!? と石化するシアーシャの横で、白金 綾瀬(ka0774)もまた己の眉間を指で揉んだ。特殊作戦部隊という男所帯にいた手前、下ネタには慣れている。が、だからといって、内心、本当に照れや羞恥が全くないかと言えば、そんなことは決してない。
 冷や汗を垂らしつつ、チラとミミズを見上げるシアーシャ。でろん、と『頭』を開く大ミミズの姿に「うわぁぁん、やっぱり気持ち悪いよおおおおー!」と皆の後ろに身を隠す。
「幸いなのは、これが歪虚の類でないこと……でしょうか。とはいえ、このまま放置しておくわけにもいきませんし、早いところ倒してしまいましょう」
 一方、まったく動じずに話を続けるユーリ。むしろ男のアルトの方が何となく落ち着かなかったり。
「とりあえず、頑張って倒してみるかね、と。観客が多いのが落ち着かないが……」
「ってか、ものの見事に完全にわたくし達のことを見世物にしてやがりますです。……後で酒を奢らせてやがるのです」
 アルトとシレークスの言葉に振り返る。畑の周りでは、話を聞きつけて集まって来た村人たちが弁当持参でござとか敷き始めていた。
 それぞれの表情で畑へ向かうハンターたち。なんか色々諦めつつ、ミオレスカもまた後に続いた。


「おおおおおっ……!」
「すげーぞ、ねえちゃん!」
 覚醒し、10代の少女から20代の女性へと変貌したユーリを見やって、村人たちからやんやの喝采が上がった。同じく覚醒し、全身を淡い金色に輝かせるシレークスや、髪から七色の光を溢れさせるミオレスカもまた囃し立てられ、巨大な埴輪のオーラを背負ったアルトも「埴輪の時代が来たっ!?」と喜んで手を振り返す。戦闘に備え、装備や服を軽量化するアデリシアには、パーツが一つ外れる度になんか毛色の違う声が飛び。覚醒で外見上の変化をみせない綾瀬とシアーシャは、村の子供たちからまだかな、まだかな、と期待を寄せられちゃってなんかもうすみません変わりませんごめんなさい()
「『防性強化』だ。少々かじられても平気なように強化してやる」
 一方、ミグは眼帯から炎のオーラを吹き上げながら、畑に入っていく囮役、アルトとシレークスの二人の防御力を強化した。アデリシアもまた同様に、防御の戦歌を歌い上げて前衛を支援する。
「さて、お前の相手は俺たちでするんだぞ、と。すまないが退治されてくれ」
「さあ、かかってきやがれです。この●●●●●野郎!」
 アルトとシレークスが畑に入って挑発すると、天に屹立する大ミミズがぐりんとその『鎌首』をもたげた。足を止めた二人へ近づき、蛇の様な『アウトボクシング』で牙による『噛みつき』を仕掛けてくる。
 そこへ飛ばされるミグの『防御障壁』。光の壁が砕けて散る中、一歩踏み出したアルトとシレークスがそれぞれ交互に連携しながら胴と頭部をぶん殴り。その交戦を確認したユーリとシアーシャが側方から畑へ侵入。根が張り、比較的堅い畝の部分を跳ぶ様に移動しながら敵へと向けて突進する。
「前衛の方が足止めをしてくれている間に、射撃による攻撃を重ねます」
「正直言ってあんまり凝視したくないけど…… 文句は言ってられないわね」
 囮役に喰いつき前進してきたミミズに対して、前衛の後方、畑の端からミオレスカと綾瀬が突撃銃と魔導銃による銃撃を開始した。狙うは高所。前衛の陰からミミズの頭部が出た瞬間、指切りの三点射で狙撃する。
(アレはミミズ、ただのミミズ…… 狙うべき目標、倒すべきただの敵……)
 うねうねと蠢くピンク色の肉塊を照準の向こうに捉え、己に言い聞かせるようにしながら引き金を引く綾瀬。直視したくないものを照準に捉え続けなければならないという現実になんとなく泣きたくなりながら、それでも銃手の矜持を支えに、のたうつミミズの頭部を目と照準と銃撃で追う。
(やはり、弱点としては、目を狙うべき…… 目、目……アレ? み、みみずの目玉?)
 そんな綾瀬の横で存外、平気な顔して(←よくわかってなかったり)魔導銃を単射していたミオレスカは、ミミズに目がないことに気づいてぱちくりと瞬きした。
 直後、度重なる銃撃に怒り、頭部を四つに開いて声なく雄叫ぶ大型ミミズ。ミオレスカは「じゃ、口でいいです」と、ありったけのスキルとマテリアルを注ぎ込んで口中に銃撃を叩き込んだ。綾瀬もまた「むしろこちらの方が狙い易い」とそこに十字砲火を重ね。怯み、頭部をもたげて後ろへ下げる大ミミズを見上げながら、ユーリとシアーシャの二人が雷光の如く側面からミミズへ肉薄していく。
「ミミズさんの死骸もきっと畑の養分に…… ごめんね! 畑の為に倒されてー!」
 ミミズに突進したシアーシャが、肩越しに大剣を振り被り。突進の勢いを回転へと転換しつつ、遠心力で広がるスカートの様に大剣を横へとぶん回した。その身に遅れて繰り出された刃を横から上へと斬り上げ……続けて「どーん!」と振り下ろす。
 ユーリもまた速度を殺さずミミズへと肉薄すると、その速度と己の質量を太刀へと乗せて抜刀した。下からの斬り上げで表皮を切り裂き、続く切り下ろしで刃に円の軌跡を描く。迸る体液を半身をずらしてかわしつつ、クルリと回る間に納刀。出所の見えない抜き打ちによって再びミミズの胴を薙ぐ。
 自分が取り囲まれたことを感じたのだろう。ミミズは鎌首の根元を基点にその身をよじると、まるで縄を振るかの如く己の巨体を振り、周囲を薙ぎ払った。ユーリはそれを跳び避けようとして、その脚を払われた。慌てず受身を取って着地したところを柔らかい地面に足を取られ──直後、再来したミミズの横波を後ろに跳んで受け凌ぐ。
 ユーリのすぐ側にいたシアーシャには、運良くその攻撃は当たらなかった。まるで自分を避けるように左右を薙ぎ払っていったミミズの波打つ胴を見送り、思わず首を竦めたシアーシャが無傷の自分にきょとんとする。
 そのままゴロリと畑の上を転がったミミズは、次に囮と後衛に向き直った。まるでバネの様にその身を縦にギュッと縮め…… 直後、引き絞った弓から放たれた矢の如くその身をハンターたちへ撃ち放つ。
 とっさに戦槌を立てて受けに回ったアルトは、受けたその槌とミグの障壁ごと横へと弾かれた。宙を舞うハンマー。一撃で腕がいかれたアルトを見て、アデリシアが回復へ支援を変える。
 まともに正面から受けたシレークスは、ミミズの口に槌頭を突っ込んで噛まれることを防ぎつつ、その『顎』に『咥えられた』まま一緒に後列まで吹っ飛んだ。
「ちょっ、こっちに来ないでよ!」
 前衛ごとすっとんできたミミズの巨体に、一旦攻撃を止めて全力でその場から後退する綾瀬。その全力具合は敵の攻撃範囲から離れるためか、それともてらてら光るミミズの気色悪さから逃れる為か。
 その衝撃にコロコロと後ろに転がるミオレスカ。巻き起こる砂塵の中、ミグは慌てず騒がず笑みさえ浮かべて、手の平上に生み出した雷撃をミミズへと突き出し。だが、その腕を掻い潜って下へと逃れたミミズの巨体に、直後、ミグの小さな身体が「ぬあーっ!」と弾き飛ばされる。
 アデリシアは側方へコロリと転がりミミズの突進をやり過ごすと、膝をついたまま腿のホルスターから小型拳銃を取り出し、追い撃った。
「やはり、扱いなれない武器で細長い動目標を狙うのは些か骨が折れるか……」
「ひゃああぁあっ?! ちょ、せ、聖職者にこういうのは勘弁しやがれですよ、って、ああっ!?」
 ミミズの棘に切られた己の太ももを見下ろし呟くアデリシアの耳に、シレークスの悲鳴が届く。
 見れば、ミミズの口中から生えた4本の触手がシレークスに絡みつきつつあった。その豊満な身体を締め上げ拘束しながら麻痺毒を流し込むべく這い回り、僅かな鎧の隙間から次々と中へと潜り込んでいく触手たち。アデリシアは間髪入れずに地を蹴ると、その手の平から輝く聖なる光弾を撃ち放って拘束する触手を断ち切った。……うん、やはり自分には銃よりこちらが性に合う。
 そのまま落ちて来たシレークスの身体を受け止め。あられもない姿になった(注:少年誌レベルですヨ?)シレークスの怪我の具合を確認し、回復する為、一旦、その身を引き摺って敵の攻撃範囲から逃れ出る。その際、シレークスの肌が晒されぬよう、女性らしい配慮も欠かさない。……いや、肌の露出具合から言えば、アデリシアの方も結構なけしからなさではあるのだが。

「……おい、兄ちゃん。もしかして人手が必要か?」
 ハンターたちの劣勢を見て、農具に手を伸ばす農民たちを。アルトは、ハンマーを持った手を広げて背中でそれを押し留めた。
 村人に被害を出す訳にはいかないよなぁ、と辛そうな顔に微笑を浮かべ…… みんな、こっから追い込むぞ、と、自らも戦槌を手に戦場へと戻る。
 畑の端まで到達したミミズに正面から打ちかかるアルト。走っていた綾瀬もまたミミズからきっかり10mの位置で足を止め、再びミミズの頭へ発砲する。ミオレスカもまた同様。ミグもまた身を起こして防御支援を再開する。
「悪いけど、地中に潜られちゃ困るのよ……!」
 再び向かってくるハンターたちに嫌気が差したのか、地中に逃れようとした巨大ミミズは、だが、綾瀬が斜め側方から放った威嚇射撃に足止めされた。綾瀬の心中は複雑である。地中に潜ってしまえば、もうアレを見なくて済むというのに──!
「……その攻撃は、一度、見させてもらった」
 再びその身を縮めるミミズを見やって、ユーリは土交じりの唾を吐き捨てると、矢の如く宙を飛ぶミミズに合わせて自らも跳躍。敵の突進にカウンターを合わせるように己の身も回転させた。抜刀した刀身を水平に薙ぎながらその刀身をミミズの頭部へ叩きつけ── その巨体と刃が衝突する衝撃に、弾き飛ばされるユーリ。だが、同時に、跳躍中に横合いから攻撃を受けたミミズもまた頭部に大きな裂傷を負い、本来の攻撃目標とは離れた地面に突っ込んで倒れ込む。
 そこへすかさず踏み込むシアーシャ。跳躍し、己の全体重を掛けた渾身の刺突を全力で突き下ろし。刃はミミズの身体を貫通、地面へと縫い付ける。
「このままミミズさんの開きに…… って、きゃああああ!」
 ぶしゃあー! と飛び出した体液にコロリと後ろに転がるシアーシャ。だが、突き刺した大剣は抜けない。そこへ、アデリシアに応急で怪我を癒してもらったシレークスが戦槌を手に戻ってくる。
「埴輪男! 私に合わせやがるですよ!」
「……ダブルハンマーか! そうだな、いくらなんでも左右から同時に打ち込めば……!」
 その声に応じ、左右に分かれてミミズを挟み込むアルトとシレークス。タイミングは1、2の3。この連携技に際して入れる合いの手が二人にはある。
「「いくぞ! 埴…… 輪……」」「愛!」「砕き!」
 最後の部分で叫ぶ単語が異なるがとりあえずは問題ない。ミミズの左右から同時に挟み打つように放たれた2つの戦槌が、ミミズの胴を押し潰す。その衝撃にたまらず仰け反り、地へと落ち、倒れるミミズの頭部。すかさず走り寄るミグとアデリシア。極悪な笑みを浮かべて魔導銃の銃口をミミズの口に突っ込んだミグが情け容赦なく引き金を引き。戦中につき表情を消したアデリシアがシュッと息を吐きながら光弾を口中へと叩き込む。
 暴れだそうとしたミミズは──だが、直後に鳴り響いた銃声によって、その活動を停止した。見れば、退化した目の跡に一発の銃痕。振り返れば、魔導銃を構えたミオレスカの姿──
「いたんだ……」
「……恐縮です」
 内心、ちょっと慌てながら、ミオレスカがぺこりと頭を下げた。


「この後、村でお風呂借りるでしょ? で、湯浴みを済ませて出て来た所で村の素敵な男の子と出会うのよ。んで、『濡れ髪に、水も滴る、いい女』状態の私に『なんて強くて美しい女の子なんだ』って一目惚れ! 盛り上がった二人はその日の内に…… って、きゃああああー!」
 ミミズの体液に染まったまま妄想の世界へ旅立ったシアーシャが、ぐねぐねと悶絶しながら(大剣を持った)手をバンバンとミミズに叩きつけた。
 既に戦闘は終っていた。綾瀬は既にミミズには一顧だにせず、「怪我人はいませんかー」と村人たちの間を回る。
「……で、この死骸はいったいどうすればよいのでしょうか?」
 倒れ伏したミミズ(とシアーシャ)を遠目に見やって、困ったように呟くアデリシア。ミオレスカの口がポソリと動く。
「……蒲焼」
「え?」
「巨大な動物性たんぱく質です。そして、醤油とお砂糖を使った甘辛いたれは万能です」
 ……食べるの? と問うアデリシア。私は遠慮しておきます、と言いだしっぺなのに断るミオレスカ。ミグは苦笑混じりに嘆息しながら、ミミズの方を見返した。いや、このままシアーシャに細切れにさせて畑の肥料にしてしまえばいいか。

 ちなみに、畑に生えた草は一代限りで枯れ果てた。
「まだまだ研鑽が必要よな」
 教授たちは頷き合った。

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参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/28 21:21:34
アイコン 相談用
アデリシア・R・時音(ka0746
人間(クリムゾンウェスト)|26才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/12/01 01:38:13