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【CF】臨時サンタ、募集中

マスター:奈華里

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/24 15:00
完成日
2018/01/04 00:25

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 サンタクロースは一年良い子にしていた子供の元にプレゼントを持ってやってくる。
 その話を信じて、少年は毎日いい子に過ごした。元々華やかな都会部から離れた場所に住んでいるからサンタに願いが届きにくいのだろうと幼ながらに理解していた。けれど、噂に聞いたサンタというのはとても不思議な力を持っていて、どんな離れた場所にもプレゼントを届けに来るのだとそう記されていたから、少年はその話を信じたのだ。だけど…去年もその前の年も彼の元にサンタは現れない。
「やっぱり嘘っぱちだったんだ…」
 大事にしていたサンタ伝説が記された本。その本を抱える手に力が籠る。
 床に投げつけてしまいたいと思うものの、どうしてかそれが出来ない。
 もし、投げつけたらもう本当にサンタが来てくれないかもしれない…。
 嘘だったんだと自分に言い聞かせても、もう一方には信じていたい自分も存在する。
「どうしてうちにはサンタは来てくれないの?」
 その問いに両親は曖昧な表情を返す。
「さて、どうしてだろうねぇ。道に迷っているのかもねぇ」
 そうして困った様に紡がれる答えはそんなもので、少年を納得させるには至らない。
(不思議な力があるのに道に迷うの? 違う…きっとうちが貧乏だから来てくれないんだ)
 サンタが来ない理由を考えて、少年が出した結論は実に現実的だった。
 都会部ならまだしもこんな場所にいたら、サンタだって面倒な筈だ。幼いながらに旅費が頭を過る。
 山深くの山小屋に住む少年の両親は木こりである。山小屋周辺の木を切り、それを売って生計を立てているのだが、土地自体は彼等のものではないから地主に売上の一部を返上しなくてはならない。それに街までの移動にも時間とお金がかかるから買い出しも一苦労。親子三人食べて行くのがやっとなのだ。
「お小遣いを使えば来てくれるかな…」
 サンタ宛の手紙を書きながら少年は机に置いた瓶を手に取る。
 そこには微々たる量の硬貨が重なり入っている。少年はそこで決意した。
(少しだけだけど…これがあればきっと)
 手紙に瓶の中にあった硬貨を入れる。そうして、願い事を書き記して父にその手紙を託す。
「絶対絶対届けてよっ」
 少年が必死に頼み込む。その手紙を受け取って、父はハッとした。
 中の硬貨に気付いたのだろう。何とも言えない心情を必死に隠す。
「ああ、わかったよ。じゃあ、街に行ってくるから」
 父は少年の頭をそっと撫でて玄関を後にした。
 そうして…彼は街に向かう中、必死に考えを巡らせる。
 息子がここまでしているのだ。何とか息子の願いを叶えてあげたい。
 たった一度でいい。サンタクロースに会わせてやりたい。
 けれど、一般的にいうサンタクロースの正体を父は知っている。
 正確に言えば実際にサンタクロースという存在もいるらしいのだが、彼等に出会うのは難しいだろう。
 だから自分はどうすればいい? プレゼントを用意したいが、そんな余裕はないのだ。
「あぁ…神よ。私はどうすれば…」
 途方に暮れて、ふらふらしているとふと小さな教会に辿り着いて、その扉の前には一匹の猫――ぼさぼさの毛並みの仏頂面だ。だが、何故かひかれて近付けば教会の中には大きなツリー。この教会のものらしい。
「おじさん、どうかした?」
 声を掛けられて視線を移すと、そこにはさっきの猫を抱いた少女がいる。
「あ、いや…少しね」
 そういう彼を少女は中へと促して、シスターの言葉が彼を救う事となる。
「事情はよく判りました。私達で預かっている子供達にもクリスマス休暇で帰る子供さん達がいるんです。そういう子達にも贈り物をしようという企画が上がってまして…よしければ住所を聞いても?」
「え、ええ…構いませんが、その企画というのは」
「サンタクロースです。本物じゃないけど、ハンターさん達にサンタになって貰ってプレゼントを届けて貰おうって」
 少女が言う。どうやら彼女は既にサンタのそれを知っていると見える。
「どうですか? 一か所行く所が増えてもきっと彼等なら快く引き受けて下さる筈ですよ」
 にこやかな笑顔でシスターの一人が尋ねる。
「そ、それは願ってもない事…宜しくお願いしますっ!」
 少年の父はそう言って深々と頭を下げるのであった。

リプレイ本文

●サンタとは
「ほぇ~…サンタって就職試験とかないんスねー」
 オフィスの依頼で目に留まった臨時サンタ募集であるが、ハンターがこうも簡単に出来るとあって些か拍子抜けというか何というか…。とにかく不思議に思ってしまう根国・H・夜見(ka7051)である。
「まあ、確かにそうだよね。一つ間違えば犯罪者だし」
 その隣ではネーナ・ドラッケン(ka4376)が思った事を素直に言葉にする。
「あなたもこの依頼に?」
 自分と同じ位の少女の言葉に根国が思わず尋ねる。
「そうだよ。ボクはネーナ。ネーナ・ドラッケン。旅の吟遊詩人さ」
 だが、彼女はエルフであるから、見た目ほどの歳ではない筈だ。
「おうおう、可愛いサンタばかりお揃いだな」
 とそこへ今回唯一の男性サンタ、トリプルJ(ka6653)ことジョナサン・ジュード・ジョンストンが声をかけてくる。そんな彼は既に準備万端ーーサンタらしさを演出する為、引き締まった筋肉はサンタ衣装の下に隠して、伝説のそれに近付けようと腹周りには綿を仕込み、口髭まで装着しその気だ。
「あら、なかなかの再現っぷりですね。私も近付けては見たのですが」
 そんなJの姿を見取って、負けを認めるセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)。
 彼女は女性であるから仕方がないのであるが、それでもと鼻の下に白いくるんと巻いた口髭をつけて、努めてサンタクロースらしさを出そうと試みている。
「みんな気合入ってるっスね。しかし、申告無しにサンタを名乗ってプレゼントを配っても怒られないって……ハッ、それはつまり著作権フリーであるからこそ誰しもがなれる事によって世界中に出現でき…」
「とそこまでだ。何処に子供がいるかわからないからな。夢は壊さない約束だろう?」
 根国がサンタの真実を少しばかり暴露しそうになってJがたしなめる。
「それに俺が聞いた話によると、本物のサンタは実在してそいつは何と分速三百キロで飛ぶらしいぞ」
 どこから聞いて来たのか衝撃の事実に目を丸くする残りの三人。
「そんな馬鹿な…」
「いや、マジだ。だってそうだろう。その位の速さでないと世界中は巡れねぇ。サンタ伝説が広まるまではなんたって一人で配っていたって言うしな」
「ふぉぉぉぉ、それは凄いっスね。サンタ半端ないっス☆」
 その話を素直に受け取って根国が目を輝かせる。
 彼女の記憶に刻まれているものがどんなものであったとしても、今の彼女自身がどう動くかで未来は紡がれる。だから、自分がオートマトンであろうと人としてあろうとするならば、きっと未来は思う程暗いものにはならないだろう。
「さて、長話をしている場合じゃねぇな。険しい道のりだって言うし手分けして配達するか」
 依頼人のシスターから予め子供達の住まう場所を記した地図を受け取っていたJが仲間達と行く場所の相談を始める。
(そういえば何年か前まで聖輝祭にはそのままの姿でプレゼントをあげていましたね。あの子達は今それぞれ働きに各地に赴きましたが…今夜は楽しめているのでしょうか?)
 地図には自分の知っている地方の名称もあって、セツナはふとそんな事を思い出す。
 彼女は帝国の革命の折、両親とはぐれ辺境の遊牧の民に拾われ育てられた。そんな過去があったからこそ、辺境では孤児達の姉として子供達と接してきたのだ。
「セツナはこことここ、任せて大丈夫かな?」
 黙ってしまっていた彼女にネーナが尋ねる。
「ええ、構いません。外に待たせているイェジドの雹(ka5645unit001)の毛並みは白…雪に紛れるのは得意ですから」
 狼型の幻獣・イェジドは全長三メートルもあるが、彼女の雹はどこか犬のようであり、常に傍ら寄り添う程信頼関係は厚い。中にも入りたそうにしていたのだが、流石に人の多いハンターオフィス内には入れる事を躊躇い、外で待機させている。
「そか。そりゃあ良かった。ちなみにボクのお供はワイバーンのゼファー(ka4376unit001)って言うんだ」
 飛行能力を持つ小型の竜・ワイバーン。気性が荒いとされているが青龍の眷属は人には親しく理性的。敵だと認識しなければ、無闇に襲ってくる事はあまりないとされている。
「今夜の空の旅は寒そうですが…。お互い頑張りましょう」
 セツナが言う。
「もちろん。こんな機会滅多にないし…サンタと言うには無理があるかもだけでうまく乗り切ってみせるよ」
 見た目が未成年という事もあって、見つかった時の誤魔化し方は既に決めてきているネーナのようだった。

●ハプニング多発中
 配達をするのは子供が寝静まった夜であるが、そこまでの道のりが結構あるから出発は皆昼を過ぎた辺り。それぞれが用意したサンタ服に身を包んでの出発となる。一番彼らがいたオフィスから近い場所だったのはネーナさん。しかし、依頼内容にあった通り険しい道のりというのは伊達ではないらしい。ミニスカサンタの衣装にコートを羽織ってゼファーの背に跨る。彼女の普段着から見れば肌の露出が多い衣装は慣れているものの冬の気温には流石に滲みる。
「うぅ…寒い寒い」
 そこでゼファーの背に身を寄せてみる。が所詮は竜の肌。体温が低く、暖を取るには至らない。
「おおっと、確かこの辺の筈だけど…って、え」
 そうしてやっと辿り着くも夜空の下、立ち並ぶ煙突の数に暫し硬直。
 動かなくなった主人に顔を向けたゼファーであるが、それに気付いてもち直す彼女。首を振り、パンパンと頬を打ち気合を入れ直す。そして、後は地道に。
 サンタと言えば煙突からであるが、まずは地上に降りて表札を確認。これは骨が折れそうだ。
「ごめん、ゼファー。そこで持っててよね」
 彼女はそう言って少し離れた場所の木にワイバーンを隠すと、静まった街路を一つ一つ歩いて回る。そうしてようやく見つけた家に壁登りを発動して忍者の如く。煤だらけの煙突から滑り込む。すると暖炉の傍にはツリーと大きな靴下が下げられているから、どうやらここにプレゼントを置いておけばいいと見える。
「顔見れないのかぁ。残念だなぁ…でもここの子に幸あれ」
 プレゼントにそう祈りを込めて、彼女はその場を後にする。
 けれど、どうしても顔が見たくて、煙突を登って外に出た後、窓に張り付いたのが間違いだった。
「おい、あれ…まさか泥棒じゃないか?」
「へっ?」
 突如聞こえた言葉に彼女が慌てる。
 声の方には街の青年団なのだろう。街の見回りをしていたらしい青年達がこちらを指差しているではないか。
「あっ、いや…ボクはハンターで」
「なにおぅ、あんな幼いサンタがあるかー」
「捕まえろー!」
 青年達が彼女のいる家の方へと走ってくる。
(ちょっとこんなの聞いてないって! ってかあんな事思った罰なのか、これは!)
 サンタは犯罪に向いている。そんな事を少しでも考えたからだろうか。今更後悔しても遅い。
 本来なら、今彼らに事情を説明するべきなのだろうが、まだ全てを配り終えてはいない。
 そこで彼女は已む無く、
「ごめんなさーーい! 説明は後でするから見逃して―――!」
 そう叫んで、一目散にゼファーの元へと走るのであった。

 一方、共に頑張ろうと誓ったもう一人。セツナの方も今まさに、軽いピンチに陥っていた。
「ねぇ、おにぃちゃん。これ何だろう?」
 侵入に成功した家に子供は二人。年の少し離れた兄妹らしい。
 すっかり寝静まっていたのだが、突如吹雪いた風の音に妹が目を覚まし起き上がって、その直後床に落ちた変な物を見つけたからさあ大変。傍にいた兄を起こし、今に至る。
 ちなみに廊下に落ちていた変な物が何かというと、それは紛れもなくセツナが変装用に用意していたサンタの付け髭だった。実のところここに来るまでにも何度か落していたから、もうつけるまいと決意しポケットに突っ込んだ筈なのだが、どういう訳かそれを落としてしまっていたらしい。
(これは困りましたね…正直に出て行くべきでしょうか?)
 咄嗟の出来事に近くの箪笥に身を隠してしまった彼女であるが、自分が女のサンタであるいい訳なら考えてきている。それにサンタクロースならもし見つかっても、こんな隠れ動揺したりはしない筈だ。そう考えて、意を決し箪笥の取っ手に手をかける。だが、その時兄の方が何かに気付いたようで…。
「それはきっとツリーの飾りだよ。おまえ、今晩もツリーの周りではしゃいでたじゃんか」
 箪笥の方をちらりと見つつ、フォローの一言。タンスの中でセツナが目を丸くする。
「そっか、そうだよね。わたし、サンタさんのおひげかと」
 女の勘か、はたまた子供の想像力の賜物か落とし物の正体を見破っている妹には目を見張る。
「へっ、ばっかじゃねーの。髭がとれたりするもんかっ」
「そうだよね。えへへ、間違えちゃったぁ」
 二人がそんなやり取りをし、またベッドへと戻っていく。
 そんな微笑ましい光景を前にセツナからすくりと笑みが零れた。
 サンタクロースとは…子供達を喜ばせる職業だと思っていたが、逆にこちらも大きなものを頂いているのだと知る。
(本当にかわいいですね)
 ベッドに潜って、小さな寝息が聞こえ始めた頃を見計らいセツナがようやく箪笥から姿を現す。
「サンタクロースっていっぱいいるんだな。けど、女だったとは」
 そんな彼女に寝た振りを決め込んでいた兄の方が上体を起こさぬまま、プレゼントを置いていく彼女に話しかける。
「ええ、今年はこの近所の担当は私ですから。それにサンタクロースは子供に夢に現れるもの…あなたが夢に描いた姿が私なのですよ」
 そっと男の子の髪に触れて静かに言う。
「そっか。そうかもしれねぇ…」
 家庭環境については詳しく聞いていないが、彼等の部屋の母親らしき写真に花が添えられている事からして、もしかすると母は故人となっている可能性が高いといえる。そんな彼が子供ながらに微苦笑するのを見て、彼女は母親代わりにおやすみのキスを額に落とす。
「さっきはありがとうございました。それではよい夢を」
 名残惜しいが、まだ全ての家に配り終えてはいない。
 だから、少年にそう別れを告げて彼女は窓の外で待っている雹の元へと戻る。
「さぁ、もう一息です。頑張りましょうね」
 久方振りに子供に触れて、彼女の心には温かな火が灯っていた。

●願い事
 コンコンと軽く窓を叩く。これがハンターサンタが来た時の合図としている。
 そしてこの合図を使っているのはJだ。彼が最後に尋ねる事になったのは手紙に硬貨を入れた、あの少年のいる家だった。サンタ伝説を信じて、ずっと待っていた少年。だからこそここに向かうサンタは男性の、一番伝説に近いサンタクロースの姿をしている彼が受け持つ事となった。その時にあらかじめ少年の父親と合図を決めていたから、その音を聞くや否や玄関の扉が開く。
「今年こそ絶対に来てくれるって、そう信じて待っていたんですよ」
 何とも言えない表情で父親が暖炉の前、毛布にくるまって眠ってしまった少年を紹介する。父親の話によると何度も部屋に連れて行こうとしたのだが、その度に目を覚ましてまだここにいると言い張っていたらしい。
「もしよければ、貴方が連れて行ってあげてくれませんか?」
 少年の夢だったサンタクロースとの出会い。そのお願いに彼が頷く。
(よっぽど会いたかったんだろうな)
 これまでがこれまでだけに。話を聞いているから、素直にそう思う。
 そこでそっと抱きかかえて、Jは出来るだけ静かに少年を部屋へと運ぶ。
 がその途中で少年は目を覚まして、
「さ、サンタ…本当にサ」
「これこれ、静かにの」
 感激のあまり大声を出し腕から落ちそうになる少年をいさめて、サンタJがにこりと笑う。
「やった。やっと来てくれたんだ…」
 そうして諭されると小声でそう呟き、瞳には嬉し涙がうっすら。大人しくベッドに運ばれる彼の様子を穏やかに見つめて、Jはサンタ気分を存分に味わう。
(こんな平和な依頼は大歓迎だな。こっちまで心が洗われる気分だぜ)
 そうしてベッドに寝かせ、プレゼントを傍に置こうとする彼。
 だが、少年がその手に手を伸ばして細やかな願い事を口にする。
「お願い、サンタさん。一度だけでいいからそりに乗せて!」
 Jの腕を掴んで、純粋な瞳で頼まれた願い…。
 しかし、彼の相棒はグリフォン(ka6653unit003)だ。一応トナカイのコスプレとして角のカチューシャっぽいものを付けてはいるが、それでもソリではないから違和感は否めないだろう。だから、彼は考える。そうして、導き出した回答は…。
「わかった。しかし、まだ配達が終わっておらんし…もう少し後でもよいかのぅ」
 そう約束を取りつけて、一度家を出た後は慌てて根国のいると思われる方角に進路を取る。
「すまんな、相棒。新たな用事が出来た。悪いが、至急頼む」
 己がグリフォンにそう言うと、相棒は大きく羽を羽ばたかせる。
 急がなければ。月が沈み始める中、彼らは空を駆ける。

 一方その頃根国は一頻り悩んでいた。
 張り切って出てきたものの問題の家には煙突がなかったのだ。
 気分を大事にしてソリまで用意して、空を飛んできたというのにこれでは彼女の中のイメージが台無しである。加えて、彼女の配達地域は比較的暖かい場所が多く、海の傍という所もあって尚更残念極まりない。
「けど、文句は言っていられないっスよ。本物のサンタは毎年これを乗り越えているんスから」
 超絶サンタリスペクト状態の根国。まず普通に玄関へと向かう。
 そして普通にノックをしかけて、やはりストップ。親が出ればいいが、もし子供が出て来てしまったらと思い留まる。だが、かと言って、窓を割る訳にはいかない。そこで最終的に絞り出したのは。
「こうやっておいておけば大丈夫っスかね」
 玄関に置いたプレゼントーーそのままだと強風で転んだり汚れたりするからと寒さ避けに持ってきた毛布で包み、防寒する。
「うぅ、少し自分が寒くなるっスけど、仕方ないっすスね」
 ぶるると肩を震わせつつ、彼女が呟く。
 それを繰り返して、指定の場所を配り切る頃には乗せていた毛布はなくなり、比較的暖かい場所を飛ぶ彼女であっても寒く感じる程になってしまったが、仕方ない。
「よし、これで完りょ……ん、あれはJさんっすか」
 そこへ近付いてくるJの姿を見つけて、彼女が首を傾げる。
「おーい、根国。すまんが、もう一仕事やってみないか?」
 その誘いに彼女は目を丸くするも、内容を聞いてはあっさり快諾するのであった。

●サンタの聖夜
「じゃあ行くっスよー」
「はい」
 根国のフライングスレッドに少年を乗せて、彼女は旅立つ。
 彼女の乗っているソリは文字通り空飛ぶソリ。このソリがあれば、たとえスキルを有していなくとも飛ぶことが可能になるという特別仕様の代物だ。一応一人乗りではあるのだが、彼女が少年を膝に置く事で一人乗りとして機能して、なんとかかんとか飛び立ってくれたようだ。
「どうじゃ、凄いじゃろう?」
 その傍ではJがゼファーと共に飛ぶ。
 ちなみに根国の事についてはネーナの案を採用して、サンタの娘という扱いで少年に紹介している。
「どうっスか? 魔法のソリの乗り心地は?」
 根国もその気になって少年に感想を求める。
 だが、少年の方は興奮最高潮といった様子で眼下に見える街並みに目を奪われ、それ所ではない。
「すごいすごいすごーい♪」
 今まで山のほんの一角からあまり出た事のない子だ。街でさえ父に連れられて、極たまに行く位だから見るものすべてが新鮮。僅かな月明かりの下でも瞳が輝きに満ちているのがはっきりとわかる。
(いやーホント、夢を配れるって良いっすねー♪)
 今の状況に最高の幸せを感じて、根国の表情も明るい。
 だが、やはり定員オーバーだったのか、はたまた飛行時間が来てしまったのか小屋に戻る帰路にそれは起こる。少年の住む山小屋まで後少しの所で徐々に下がっていくソリ――。
 嫌な予感が脳裏を過る。
 しかし少年がいる手前、それを口に出す訳にはいかないし、危険にさらすなどご法度だ。
 ちらりとJを見る根国だが、Jの方はそれにまだ気付いていない。
(やばいっス…使用回数もこれが最後っスし)
 距離的には山の天辺さえ越えれば後は何とでもなる。
 が、後少しという所でそれが持ちそうになく、このままでは着陸に激しい衝撃が伴うだろう。
(こうなったら奥の手っスね)
 本当は着いてからとも思っていたが、気を逸らすにはこの方法しかない。
 がたがた音を立て始めたソリに限界を感じて、根国はスキルを使い火球を作り空目掛け投げ上げる。
「おねぇさん?」
 そう問う少年だったが、次の瞬間どっかーーんとそれは爆発。
 彼等の目の前に花火の様な火花が舞い下りる。が勿論それに熱はなく、それと同時の豪快で乱暴な着地となったが、少年はそちらに気が反れ衝撃を気にも留めない。
「フィナーレっスよ! だからしっかり捕まってるっス~♪」
 そこで成り行き任せではあるが、手綱を着けていた事をいい事にそのまま山の斜面を猛スピードで激走、下山。小屋までの雪そソリ体験に大喜び。逆にJらは二人のその破天荒さに驚くばかり。
 そのまま何とか山小屋まで辿り着いて…少年にとっては忘れられないクリスマスになった事だろう。
「有難う御座いました。とても楽しかったです」
 丁寧にぺこりと頭を下げて少年が言う。
「いやぁ~それ程で」
 そう照れる根国を余所に、Jは懐から例の手紙を取り出して、
「これは君の貯めた大事なお金じゃ。だから、返しておくぞ」
 と蓄えた白鬚を緩やかに撫でつつそう告げ依頼完了。
 サンタに会う為にお金は必要ない。その事を教えオフィスへ帰還する。

 すると帰った彼等にサプラーイズ。
 どうやら、シスター達からのクリスマスプレゼントらしい。机の上にはチキンやサラダ、シチューなどの料理と共に、それぞれの取り皿の横には小さなカップケーキ。マジパン細工で作られたサンタ帽が可愛らしい。
「これは……やってよかったっスね」
 根国が感激しつつ言う。
「そうですね。こんな素敵なクリスマス、初めてかもしれません」
 そう言うのはセツナだ。
「じゃ、頂こうか。ところで、ネーナ。お前どうしたんだ?」
 戻ってきた煤だらけの姿にJが問う。
「あ、いや大した事じゃないんだ。ホント、マジで…だから聞かないで」
 彼女はそう答えて、ただ黙々と料理を食べ始める。
(なんでボクだけ…)
 そう思う彼女であったが、夜が明けると街のあちこちから子供達の嬉しい悲鳴が届き始めて、彼女を含め自然と笑顔になる臨時サンタ達であった。

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MVP一覧

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    根国・H・夜見ka7051

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参加者一覧

  • 光森の舞手
    ネーナ・ドラッケン(ka4376
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ゼファー
    ゼファー(ka4376unit001
    ユニット|幻獣
  • 洗斬の閃き
    セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ヒョウ
    雹(ka5645unit001
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka6653unit003
    ユニット|幻獣
  • 最期の一矢を
    根国・H・夜見(ka7051
    オートマトン|15才|女性|魔術師

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アイコン 相談卓
根国・H・夜見(ka7051
オートマトン|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/12/23 18:09:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/23 18:08:12