ゲスト
(ka0000)
【陶曲】麗しき人形―Erica03―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/30 07:30
- 完成日
- 2018/01/08 01:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
錯視の解けた廃屋の内装は朽ちて、壁や床にも外観から相応の傷みが多く、破れた窓からは蔦が入り込んで枯れている。
ハンター達に向き合って銃を構えるVOIDオートマトン。
人形の歪虚に届けられる際に、通常の物から手を加えられているらしく、大型のマシンガンとライフルを手に、ランチャーを背負っている。
その為にか剥がれた塗装が塗り直された様子はなく、パーツが剥き出しとなっている部分さえあった。
それがより、このオートマトンを機械じみて見せている。
オートマトンの背後には白い椅子に座らされた少女の亡骸、傷の様子出血の跡から、庭で花に擬態した大小の針に全身を数十箇所刺されていたらしい。
ハンター達へ向けて撃ったのは明滅して視覚を妨げる弾幕、その弾幕の向こうから柱を砕くほどの威力をもった一発の弾丸。
オートマトンと共に届けられた捻子は未だ人形の手の中に有る。一度は姿を見せたその人形はオートマトンの攻撃の隙に忽然と姿を消している。
「近い敵から狙いなさい。若しくは、活きの良いのの足を止めて。背中を見せるなら花に任せてしまいなさい」
人形からオートマトンへの指示だろう。
嗄れた声が笑う。その哄笑は次第に高く、少女らしい艶を帯びてふっと消えた。
再び動き出した鎧から見ても、近くにその気配を覗えるが、姿を見ることは叶わない。
●
ハンター達が廃屋に到達した直後に開けられた壁の穴から冷えきった風が吹き抜ける。
足元に転がっていた針は吹き溜まりを作るように隅へと流され、壁に這うように蔦を模した。
振り返れたならば、入り口の近くで花に戻った銀の針が風に揺れるように装って、その鋭利な葉を伸ばし、感知するマテリアルへ襲いかかる機を覗っている様が見える。
微かな機械音を立てて二丁の銃から弾丸が射出された。
錯視の解けた廃屋の内装は朽ちて、壁や床にも外観から相応の傷みが多く、破れた窓からは蔦が入り込んで枯れている。
ハンター達に向き合って銃を構えるVOIDオートマトン。
人形の歪虚に届けられる際に、通常の物から手を加えられているらしく、大型のマシンガンとライフルを手に、ランチャーを背負っている。
その為にか剥がれた塗装が塗り直された様子はなく、パーツが剥き出しとなっている部分さえあった。
それがより、このオートマトンを機械じみて見せている。
オートマトンの背後には白い椅子に座らされた少女の亡骸、傷の様子出血の跡から、庭で花に擬態した大小の針に全身を数十箇所刺されていたらしい。
ハンター達へ向けて撃ったのは明滅して視覚を妨げる弾幕、その弾幕の向こうから柱を砕くほどの威力をもった一発の弾丸。
オートマトンと共に届けられた捻子は未だ人形の手の中に有る。一度は姿を見せたその人形はオートマトンの攻撃の隙に忽然と姿を消している。
「近い敵から狙いなさい。若しくは、活きの良いのの足を止めて。背中を見せるなら花に任せてしまいなさい」
人形からオートマトンへの指示だろう。
嗄れた声が笑う。その哄笑は次第に高く、少女らしい艶を帯びてふっと消えた。
再び動き出した鎧から見ても、近くにその気配を覗えるが、姿を見ることは叶わない。
●
ハンター達が廃屋に到達した直後に開けられた壁の穴から冷えきった風が吹き抜ける。
足元に転がっていた針は吹き溜まりを作るように隅へと流され、壁に這うように蔦を模した。
振り返れたならば、入り口の近くで花に戻った銀の針が風に揺れるように装って、その鋭利な葉を伸ばし、感知するマテリアルへ襲いかかる機を覗っている様が見える。
微かな機械音を立てて二丁の銃から弾丸が射出された。
リプレイ本文
●
歪虚、眼前に整列した鎧は、殴り飛ばすには格好の獲物。
拳を構えて部屋を駆けるゾファル・G・初火(ka4407)は、片手にマテリアル鉱石を鎧い、もう片方にはマテリアルに呼応する幾何学模様をあしらう手甲を纏う。
マテリアルの煌めきを帯びる両の拳を振るって歪虚の銃口を引き付けながら殴り掛かる。
その光から飛び出すように東條 奏多(ka6425)が脚にマテリアルを込めてささくれた床を強く蹴った。
振るう大太刀の黄金の刃は、鎧を1領捉えて余る刃渡りで、腕を、続けて胴を刈り飛ばした。
僅かに開ける空間からその先を探すが、敵の周囲に人形の姿は見当たらない。
続くGacrux(ka2726)が長柄を振るう。その切っ先が鎧に届く手応えを感じながら、煙る視界を睨んだ。
空気を裂く弾丸の音が2人の脇を擦り抜けるようにゾファルに迫る。
咄嗟にグローブを盾に防ぐと、きんと高い音を立てて鉛弾が跳ね返り、その反動で身体はしなやかに宙へ。
背を床に打ち付け、痺れる痛みが腕に響く。
「鉄砲玉は鉄砲玉でも装甲された鉄砲玉のゾファルちゃんに、おとなしく殴り倒されときなージャン」
間を置かずに構え直すと、高揚を隠さない不敵な笑みを浮かべ、いっそうマテリアルを燃え立たせる。
3人の動きを追いヴィリー・シュトラウス(ka6706)は盾を構え、ユウ(ka6891)はその傍で状況を見る。
「いくわよ」
マリィア・バルデス(ka5848)が声を落として告げ、大型の魔導銃を構えた。
大型歪虚との戦闘を前提として作られた、マリィアの丈を超える銃身をもつそれを抱える様に支えて敵へ向ける。
照準の中央に歪虚、VOIDオートマトンを据えて、狙いを引いて道を作れる場所を探す。
椅子に座るように置かれた少女、その前に並んだ鎧が2、それを狙って弾丸の雨を降らせた。
弾倉の落ちる音を聞きながら、ユウはマテリアルを纏って壁伝いに行動を開始する。
少女までの距離、敵の、味方の動きを測りながら足を踏み出した。
一瞬でも速くその手を伸ばそうと、急く気持ちをその手が届くまでは抑え込んで息を潜める。
前に出た東條は導く星を思わせる得物を掲げた。
指は先ず、弾幕の引いた先に整然と佇むVOIDオートマトンを指し、続いてその両隣の鎧。
再度巡らせた漆黒の双眸に人形が映ることは無く、最後にもう1つ鎧を指した。
マテリアルの光りが後方まで広がり、その光りを受け取ってゾファルも意気揚々と領の拳を突き合わせて気合を入れる。
一度止められた程度では怯まない。桃の双眸は爛と煌めいて、拳の音は華やかに。
示された鎧に向けて拳を一発、鉱石の煌めく一瞬の流線を棚引かせ。続けてもう一発、最後にマテリアルを放って鎧を転がす。
その隙を埋める様に寄って繰る鎧を凪ぐ様に光りが広がっていく。
「連携して、接近を……」
光りの中央で剣を立て、その柄の宝石を介したマテリアルの光りの衝撃で鎧の体勢を崩すと、ヴィリーは仲間へ支援の届く距離を保って前進を試みる。
再装填された大型の銃でマリィアが残る鎧を狙う。マテリアルを込めた弾丸は並んだ鎧を2度貫くと、VOIDオートマトンを掠めてその足元の床に刺さる。
それはその弾丸に一瞥もくれずに、銃口をハンター達へ向けた。
マリィアが接近を試みると、その動きに合わせた弾幕が視界を遮り、放たれた銃弾が腕を狙う。
咄嗟に盾を向けて防ぎ、グローブのマテリアル障壁を展開する。支障は無いが、無視は出来ない衝撃が腕に響いた。
鎧の殆どは頽れている。
人形が近くで操っているからだろうか、壊れかけながらも迫ってくるが、転げた頭だけが動くことは無い。
長柄の穂先を翻し、ガクルックスは握り締める手に力を込めた。あと一歩で届く。
正面両端に壊れかけを計3体残すのみとなった。
殴られたらしい跡の残る鎧には、ゾファルが追撃の拳を向け、東條も至近の敵と対峙している。
VOIDオートマトンを庇う様に移動した鎧へ、マテリアルを込めて力強く突き付けた速い刺突。装置の駆動する振動を握り締め、最後の鎧を貫いて振り払えば、繋ぎ目に黒い靄を漂わせた四肢が派手な音を立てて転がり、振り払われたがらんどうの頭と腹は他のそれに紛れて横たわった。
●
道が開けた。
床を蹴った足からマテリアルを全身へ。重力から逃れる身体を壁に貼り付かせると、迫る針を振り切って天井まで駆け上がる。鎧が散らかる上を走り抜け、最後の1体が落ちる時、天井を蹴って翻るユウの肢体は、音も無くVOIDオートマトンの背後へと降りる。
前進、マリィアがホルスターから抜いた拳銃を構える。2発限りの装填の数だけ並んだ銃口は何れも敵の中心へ向く。
1発目の弾丸は真っ直ぐに、そして、ぶれるような弾道が左右に行き交ってVOIDオートマトンを2度掠めた。
黒いマシンガンの銃口がマリィアに向く。
放たれた弾幕に視界を遮られる中、金属の触れ合った甲高い音を聞いた。
その音に反応して放つ残りの一発は、先の弾丸を放って溢れたマテリアルを収束させた力強い軌跡を描いて射出され、敵の腹を貫いた。
重い弾丸を刀身に受け留める。
正義を定めたマテリアルの光りを纏い尚、その弾丸の衝撃に黄金の刀身は柄の内で茎が震える様に鳴り、歯を噛んで片膝を突けば、擦れる熱が痛みを醸す。
それを構わずに振り切って黒い弾丸を払い退け、東條は敵の至近を譲らずに凜と構え直す。
「俺は赦さないよ……二度とこんなことをさせない」
VOIDオートマトンの背後、椅子の上に覗く少女のほっそりした青白い身体、血塗れの服。
何故、彼女をと問い質したい人形を探す瞳が揺れた。
直ぐさま張られる弾幕にガクルックスが槍を突き付ける。
視界の端にユウた到達した動きを捉えている。
「俺は、ここですよ?」
挑発に乗ったのか、或いは間近で翻る槍の煌めきに、それを取り回すガクルックスの活発なマテリアルに反応したのだろうか、黒い弾丸が槍に絡む様に迫る。
旋回する長柄で叩き落とし、弾丸そのものは防ぐも、鈍い音を響かせた衝撃に圧され、姿勢が崩れる。
自身の手が得物を支えきれずに腹までその衝撃を伝えると、咳き込んだ口腔に錆の匂いを感じた。
それでもガクルックスはその場を離れずに、敵へ得物を向け直した。
消耗している自身を更に追い込んで刃にマテリアルを纏わせる。
狙うのは銃を扱う腕の関節。
翻り、振り下ろされる穂先は的確に狙っていたが、人成らざる関節の回転で向けられた銃身がそれを阻んだ。
ぎん、と重く鈍い音が響き、衝撃の伝わったVOIDオートマトンの足元の床板が割れる。
東條は星の得物を握り、周囲を見回す。敵を定める指は、しかし、眼前のVOIDオートマトン1体で下ろされた。
気迫に満ちた声を上げ、ゾファルは拳を敵へ繰り出す。
一撃、二撃。
躱された軽さと、機械の身体を覆う硬い金属の表皮を殴りつけた手応え。
その動きで加速する三撃。貫く様に放たれた拳は銃身で防がれながらも深く塗装を剥いで蹌踉めかせる。
やや後方から迫るヴィリーが構えた剣を突き付ける。
魔導銃を構え直したマリィアも、マテリアルに操られた弾丸の、猟犬の如く駆る動きで敵の表面を削ぐ。
一発毎に軽くなる弾倉。残弾は後2発。
「……絶対に届かせる」
重い銃の反動に顔色1つ変えずに静かな声が告げた。
ハンター達が追い込んでいくVOIDオートマトンの後方、防衛に徹せざるを得なくなった隙に降り立ったユウが椅子から少女を抱き上げた。
冷え切った身体。その冷たさに間に合わなかったことを悟る。
「助けるのが遅くなってごめんね、もう大丈夫だよ」
既に命の灯火が切れて小さな身体を包む様に抱き込んで仲間の方へ向けた肩越しの視線。
合流の途を探しながら濡れてしまいそうな黒い瞳は、気持ちを切り替えて敵を睨み、蒼白の鱗が彩る白い腕が少女を確りと抱きかかえる。
これ以上傷付けない。血の気の無い頬、血塗れのワンピース。その様相に唇を噛み締めた。
こっち、そう呼び掛けるように放たれた弾丸。1度はVOIDオートマトンの握る銃身に弾かれても、翻ってその足を射抜く。込められたマテリアルは最後の弾丸に収束し、その力を留めて放たれる瞬間を待っている。
だん、と、踏み込まれた足音が隙間だらけの廃屋に響き渡った。
殴り込んだ距離のまま更に進めた足は敵の足先を踏んで挑発する。
踏み抜こうとさえ思ったその爪先は他と違わず金属に覆われて存外硬く、舌打ちを1つ。
掴みかかるような格好で一発、更にもう一発、全力を、振るえる限りのマテリアルを込めて最後の一発を叩き込む。
姿勢を崩す敵を見下ろして、肩を聳やかし。掌を上向けて指先だけで招いてみせる。
「拳でかかってこいや、ジャン?」
そのごつくて詰まらない銃なんか捨てて。
挑発に首が揺れるが構える銃は何れもゾファルを狙わない。
少女を抱えるために留まるユウを狙うようにぐるりと機械の首が回った。
その動きにガクルックスはゴーグル越しの視界を意識する。鎧は全て倒れVOIDオートマトンは追い詰められている。この状況を人形は見ていないはずがない。
捉えるためのワイヤーも手許に有る。
天井、柱の陰、割れた壁や窓の影。人形が潜めそうな死角を辿っていく。
「魔女の力とやらで、この状況を打開してみては?」
挑発の声に答えたのは、VOIDオートマトンの弾幕だった。
東條は奪われる死角の外を探る。違和感は、一瞬の隙に動いた気配は。
感覚を澄ませて気配を探すが捉える前に弾丸の音が聞こえた。
大丈夫。これくらい。
マテリアルの盾で少女を覆い、背中に受けた弾丸が鎧に刺さる。
皮膚まで伝わった衝撃に裂け、滴った血は鎧の隙間から伝い零れ、足元にぽたぽたと滴っている。
痛みに足を止めず、ユウは合流のために走った。
全身で支える大型の魔導銃。トリガーに掛けた指。
これまで撃ち続けた全てのマテリアルを束ねて放つ最後の一撃。
弾幕の晴れる瞬間に引き切って。抑え込む反動に床板を割る。
ユウを庇う様にヴィリーが盾を構えて迎え、マリィアは靄の引いた先を睨んだ。
●
腹に空いた穴からパーツが零れ、頭は拳の形に拉げている。幾筋も傷付いた二丁の銃を下ろして立ち尽くす。
動きを止めた敵に、マリィアは役目を終えた銃を手放す。次があるなら必要なのはこちらだと盾を向けてユウに続き少女の亡骸を守る。
終わったのだろうか訝しげな空気の中、振り切るようにゾファルがもう一発殴りつけると、ころりと落とした頸を細かなパーツに、更に小さな粒子に変えてVOIDオートマトンは完全に沈黙した。
首を無くし、続いて腕を、胴はマリィアが開けた穴を広げるようにぱらぱらと崩れて消えて行った。
全てが消えたように思われたが、1つだけ拳銃が残されていた。負のマテリアルの気配が強く、触れることも憚られるそれを見下ろした。
拳銃1つ残して消えた敵、終わったと思う瞬間に変わる気配に、ハンター達が一斉に得物を構えた。
「……残念。随分と良い駒を遣わせて頂きましたのに。可哀想な女の子も捕らわれて、2度と目覚めることが無いなんて……こんな物語、悲しすぎるわ。――いいえ、賭に負けてしまったのは私の方ですわね。仕方ありません」
嗄れた男の声に重なる高い声。少女めいたそれは美しくも不快で耳を塞ぎたくなる。悲しいと言いながら、笑っているようにさえ聞こえるその声の方向を探りながら眉間に深く皺を刻み、姿を見せろとガクルックスが挑発的に声を発する。
人形はどこからともなく、けれど広がったスカートや髪が天井から振ってきたのだと察せられる姿で、拳銃の上に現れた。
手放すには惜しいですけれど。そう言って手の中に転がして見せた2つの黒い捻子。
ガクルックスが突き付けた槍を躱し、捻子を放り投げた手が拳銃を拾った。
続けざまに撃ち尽くされた弾丸はハンター達を掠りもせずに。
捻子と対峙した経験があり気に掛けていたガクルックス、東條、ヴィリーは、人形から目を逸らさずに、しかし、その気配を逃さぬよう、捻子の転がる方向を探る。
後方まで下がって少女を守っていたユウと、ユウの傍まで下がったマリィアは柱の砕ける音を聞いた。
誰かの声が逃げろと言った。瞬間、天井が降ってきた。
ヴィリーが盾を構え、迫る針を押しのける様に庭へ。
廃屋内での傷を広げること無く脱出すると、後方でその建物が崩れる音を聞いた。
「……危なかった……まだ、牙を剥いてくるなんてことも有り得るか」
呟いて、否と首を振った。脱出を終えた背後、針はその場に散らかって襲いかかってくる様子所か、全く動く気配が無い。触れればあの鋭さは無く、赤黒く錆び付いたそれは容易く崩れるほどだった。
警戒を保って剣を向けながら探るが、動かないのは庭に広がっていた物も、屋敷の中に有った物も同様らしい。
東條も残骸の1つを見下ろして眉間に皺を刻む。
出所不明の鎧、針、調べようにも針は風化寸前、鎧は崩れた廃屋の下敷き。
何か残されていないかと数歩廃屋に近付けば、折り重なった板の下から淀んだマテリアルの気配を感じる。
「残って、いるのか」
最後に投じられた黒い捻子が、この廃屋の下敷きに。
歪みを広げながら外へ出る時を待っている。
緊急の報告を伴いオフィスへ急ぐ。
少女の亡骸は丁寧に、彼女を探していた人達の元へ。
縋り付いて嗚咽を漏らす母親に、ユウは言葉を無くして見詰める。
状況を伝えると、黄と黒に染めたロープを抱えて職員が飛び出していき、残った受付嬢がハンター達に解決の礼を告げる。
言葉を掛けられる状態では無い母親と、立ち尽くす父親。
人形の笑い声が蘇って拳を握り締め、目をきつく瞑った。
けれど彼女は家に帰れたのだから。
言い聞かせるような受付嬢の言葉に促されて、オフィスを後にする。
歪虚、眼前に整列した鎧は、殴り飛ばすには格好の獲物。
拳を構えて部屋を駆けるゾファル・G・初火(ka4407)は、片手にマテリアル鉱石を鎧い、もう片方にはマテリアルに呼応する幾何学模様をあしらう手甲を纏う。
マテリアルの煌めきを帯びる両の拳を振るって歪虚の銃口を引き付けながら殴り掛かる。
その光から飛び出すように東條 奏多(ka6425)が脚にマテリアルを込めてささくれた床を強く蹴った。
振るう大太刀の黄金の刃は、鎧を1領捉えて余る刃渡りで、腕を、続けて胴を刈り飛ばした。
僅かに開ける空間からその先を探すが、敵の周囲に人形の姿は見当たらない。
続くGacrux(ka2726)が長柄を振るう。その切っ先が鎧に届く手応えを感じながら、煙る視界を睨んだ。
空気を裂く弾丸の音が2人の脇を擦り抜けるようにゾファルに迫る。
咄嗟にグローブを盾に防ぐと、きんと高い音を立てて鉛弾が跳ね返り、その反動で身体はしなやかに宙へ。
背を床に打ち付け、痺れる痛みが腕に響く。
「鉄砲玉は鉄砲玉でも装甲された鉄砲玉のゾファルちゃんに、おとなしく殴り倒されときなージャン」
間を置かずに構え直すと、高揚を隠さない不敵な笑みを浮かべ、いっそうマテリアルを燃え立たせる。
3人の動きを追いヴィリー・シュトラウス(ka6706)は盾を構え、ユウ(ka6891)はその傍で状況を見る。
「いくわよ」
マリィア・バルデス(ka5848)が声を落として告げ、大型の魔導銃を構えた。
大型歪虚との戦闘を前提として作られた、マリィアの丈を超える銃身をもつそれを抱える様に支えて敵へ向ける。
照準の中央に歪虚、VOIDオートマトンを据えて、狙いを引いて道を作れる場所を探す。
椅子に座るように置かれた少女、その前に並んだ鎧が2、それを狙って弾丸の雨を降らせた。
弾倉の落ちる音を聞きながら、ユウはマテリアルを纏って壁伝いに行動を開始する。
少女までの距離、敵の、味方の動きを測りながら足を踏み出した。
一瞬でも速くその手を伸ばそうと、急く気持ちをその手が届くまでは抑え込んで息を潜める。
前に出た東條は導く星を思わせる得物を掲げた。
指は先ず、弾幕の引いた先に整然と佇むVOIDオートマトンを指し、続いてその両隣の鎧。
再度巡らせた漆黒の双眸に人形が映ることは無く、最後にもう1つ鎧を指した。
マテリアルの光りが後方まで広がり、その光りを受け取ってゾファルも意気揚々と領の拳を突き合わせて気合を入れる。
一度止められた程度では怯まない。桃の双眸は爛と煌めいて、拳の音は華やかに。
示された鎧に向けて拳を一発、鉱石の煌めく一瞬の流線を棚引かせ。続けてもう一発、最後にマテリアルを放って鎧を転がす。
その隙を埋める様に寄って繰る鎧を凪ぐ様に光りが広がっていく。
「連携して、接近を……」
光りの中央で剣を立て、その柄の宝石を介したマテリアルの光りの衝撃で鎧の体勢を崩すと、ヴィリーは仲間へ支援の届く距離を保って前進を試みる。
再装填された大型の銃でマリィアが残る鎧を狙う。マテリアルを込めた弾丸は並んだ鎧を2度貫くと、VOIDオートマトンを掠めてその足元の床に刺さる。
それはその弾丸に一瞥もくれずに、銃口をハンター達へ向けた。
マリィアが接近を試みると、その動きに合わせた弾幕が視界を遮り、放たれた銃弾が腕を狙う。
咄嗟に盾を向けて防ぎ、グローブのマテリアル障壁を展開する。支障は無いが、無視は出来ない衝撃が腕に響いた。
鎧の殆どは頽れている。
人形が近くで操っているからだろうか、壊れかけながらも迫ってくるが、転げた頭だけが動くことは無い。
長柄の穂先を翻し、ガクルックスは握り締める手に力を込めた。あと一歩で届く。
正面両端に壊れかけを計3体残すのみとなった。
殴られたらしい跡の残る鎧には、ゾファルが追撃の拳を向け、東條も至近の敵と対峙している。
VOIDオートマトンを庇う様に移動した鎧へ、マテリアルを込めて力強く突き付けた速い刺突。装置の駆動する振動を握り締め、最後の鎧を貫いて振り払えば、繋ぎ目に黒い靄を漂わせた四肢が派手な音を立てて転がり、振り払われたがらんどうの頭と腹は他のそれに紛れて横たわった。
●
道が開けた。
床を蹴った足からマテリアルを全身へ。重力から逃れる身体を壁に貼り付かせると、迫る針を振り切って天井まで駆け上がる。鎧が散らかる上を走り抜け、最後の1体が落ちる時、天井を蹴って翻るユウの肢体は、音も無くVOIDオートマトンの背後へと降りる。
前進、マリィアがホルスターから抜いた拳銃を構える。2発限りの装填の数だけ並んだ銃口は何れも敵の中心へ向く。
1発目の弾丸は真っ直ぐに、そして、ぶれるような弾道が左右に行き交ってVOIDオートマトンを2度掠めた。
黒いマシンガンの銃口がマリィアに向く。
放たれた弾幕に視界を遮られる中、金属の触れ合った甲高い音を聞いた。
その音に反応して放つ残りの一発は、先の弾丸を放って溢れたマテリアルを収束させた力強い軌跡を描いて射出され、敵の腹を貫いた。
重い弾丸を刀身に受け留める。
正義を定めたマテリアルの光りを纏い尚、その弾丸の衝撃に黄金の刀身は柄の内で茎が震える様に鳴り、歯を噛んで片膝を突けば、擦れる熱が痛みを醸す。
それを構わずに振り切って黒い弾丸を払い退け、東條は敵の至近を譲らずに凜と構え直す。
「俺は赦さないよ……二度とこんなことをさせない」
VOIDオートマトンの背後、椅子の上に覗く少女のほっそりした青白い身体、血塗れの服。
何故、彼女をと問い質したい人形を探す瞳が揺れた。
直ぐさま張られる弾幕にガクルックスが槍を突き付ける。
視界の端にユウた到達した動きを捉えている。
「俺は、ここですよ?」
挑発に乗ったのか、或いは間近で翻る槍の煌めきに、それを取り回すガクルックスの活発なマテリアルに反応したのだろうか、黒い弾丸が槍に絡む様に迫る。
旋回する長柄で叩き落とし、弾丸そのものは防ぐも、鈍い音を響かせた衝撃に圧され、姿勢が崩れる。
自身の手が得物を支えきれずに腹までその衝撃を伝えると、咳き込んだ口腔に錆の匂いを感じた。
それでもガクルックスはその場を離れずに、敵へ得物を向け直した。
消耗している自身を更に追い込んで刃にマテリアルを纏わせる。
狙うのは銃を扱う腕の関節。
翻り、振り下ろされる穂先は的確に狙っていたが、人成らざる関節の回転で向けられた銃身がそれを阻んだ。
ぎん、と重く鈍い音が響き、衝撃の伝わったVOIDオートマトンの足元の床板が割れる。
東條は星の得物を握り、周囲を見回す。敵を定める指は、しかし、眼前のVOIDオートマトン1体で下ろされた。
気迫に満ちた声を上げ、ゾファルは拳を敵へ繰り出す。
一撃、二撃。
躱された軽さと、機械の身体を覆う硬い金属の表皮を殴りつけた手応え。
その動きで加速する三撃。貫く様に放たれた拳は銃身で防がれながらも深く塗装を剥いで蹌踉めかせる。
やや後方から迫るヴィリーが構えた剣を突き付ける。
魔導銃を構え直したマリィアも、マテリアルに操られた弾丸の、猟犬の如く駆る動きで敵の表面を削ぐ。
一発毎に軽くなる弾倉。残弾は後2発。
「……絶対に届かせる」
重い銃の反動に顔色1つ変えずに静かな声が告げた。
ハンター達が追い込んでいくVOIDオートマトンの後方、防衛に徹せざるを得なくなった隙に降り立ったユウが椅子から少女を抱き上げた。
冷え切った身体。その冷たさに間に合わなかったことを悟る。
「助けるのが遅くなってごめんね、もう大丈夫だよ」
既に命の灯火が切れて小さな身体を包む様に抱き込んで仲間の方へ向けた肩越しの視線。
合流の途を探しながら濡れてしまいそうな黒い瞳は、気持ちを切り替えて敵を睨み、蒼白の鱗が彩る白い腕が少女を確りと抱きかかえる。
これ以上傷付けない。血の気の無い頬、血塗れのワンピース。その様相に唇を噛み締めた。
こっち、そう呼び掛けるように放たれた弾丸。1度はVOIDオートマトンの握る銃身に弾かれても、翻ってその足を射抜く。込められたマテリアルは最後の弾丸に収束し、その力を留めて放たれる瞬間を待っている。
だん、と、踏み込まれた足音が隙間だらけの廃屋に響き渡った。
殴り込んだ距離のまま更に進めた足は敵の足先を踏んで挑発する。
踏み抜こうとさえ思ったその爪先は他と違わず金属に覆われて存外硬く、舌打ちを1つ。
掴みかかるような格好で一発、更にもう一発、全力を、振るえる限りのマテリアルを込めて最後の一発を叩き込む。
姿勢を崩す敵を見下ろして、肩を聳やかし。掌を上向けて指先だけで招いてみせる。
「拳でかかってこいや、ジャン?」
そのごつくて詰まらない銃なんか捨てて。
挑発に首が揺れるが構える銃は何れもゾファルを狙わない。
少女を抱えるために留まるユウを狙うようにぐるりと機械の首が回った。
その動きにガクルックスはゴーグル越しの視界を意識する。鎧は全て倒れVOIDオートマトンは追い詰められている。この状況を人形は見ていないはずがない。
捉えるためのワイヤーも手許に有る。
天井、柱の陰、割れた壁や窓の影。人形が潜めそうな死角を辿っていく。
「魔女の力とやらで、この状況を打開してみては?」
挑発の声に答えたのは、VOIDオートマトンの弾幕だった。
東條は奪われる死角の外を探る。違和感は、一瞬の隙に動いた気配は。
感覚を澄ませて気配を探すが捉える前に弾丸の音が聞こえた。
大丈夫。これくらい。
マテリアルの盾で少女を覆い、背中に受けた弾丸が鎧に刺さる。
皮膚まで伝わった衝撃に裂け、滴った血は鎧の隙間から伝い零れ、足元にぽたぽたと滴っている。
痛みに足を止めず、ユウは合流のために走った。
全身で支える大型の魔導銃。トリガーに掛けた指。
これまで撃ち続けた全てのマテリアルを束ねて放つ最後の一撃。
弾幕の晴れる瞬間に引き切って。抑え込む反動に床板を割る。
ユウを庇う様にヴィリーが盾を構えて迎え、マリィアは靄の引いた先を睨んだ。
●
腹に空いた穴からパーツが零れ、頭は拳の形に拉げている。幾筋も傷付いた二丁の銃を下ろして立ち尽くす。
動きを止めた敵に、マリィアは役目を終えた銃を手放す。次があるなら必要なのはこちらだと盾を向けてユウに続き少女の亡骸を守る。
終わったのだろうか訝しげな空気の中、振り切るようにゾファルがもう一発殴りつけると、ころりと落とした頸を細かなパーツに、更に小さな粒子に変えてVOIDオートマトンは完全に沈黙した。
首を無くし、続いて腕を、胴はマリィアが開けた穴を広げるようにぱらぱらと崩れて消えて行った。
全てが消えたように思われたが、1つだけ拳銃が残されていた。負のマテリアルの気配が強く、触れることも憚られるそれを見下ろした。
拳銃1つ残して消えた敵、終わったと思う瞬間に変わる気配に、ハンター達が一斉に得物を構えた。
「……残念。随分と良い駒を遣わせて頂きましたのに。可哀想な女の子も捕らわれて、2度と目覚めることが無いなんて……こんな物語、悲しすぎるわ。――いいえ、賭に負けてしまったのは私の方ですわね。仕方ありません」
嗄れた男の声に重なる高い声。少女めいたそれは美しくも不快で耳を塞ぎたくなる。悲しいと言いながら、笑っているようにさえ聞こえるその声の方向を探りながら眉間に深く皺を刻み、姿を見せろとガクルックスが挑発的に声を発する。
人形はどこからともなく、けれど広がったスカートや髪が天井から振ってきたのだと察せられる姿で、拳銃の上に現れた。
手放すには惜しいですけれど。そう言って手の中に転がして見せた2つの黒い捻子。
ガクルックスが突き付けた槍を躱し、捻子を放り投げた手が拳銃を拾った。
続けざまに撃ち尽くされた弾丸はハンター達を掠りもせずに。
捻子と対峙した経験があり気に掛けていたガクルックス、東條、ヴィリーは、人形から目を逸らさずに、しかし、その気配を逃さぬよう、捻子の転がる方向を探る。
後方まで下がって少女を守っていたユウと、ユウの傍まで下がったマリィアは柱の砕ける音を聞いた。
誰かの声が逃げろと言った。瞬間、天井が降ってきた。
ヴィリーが盾を構え、迫る針を押しのける様に庭へ。
廃屋内での傷を広げること無く脱出すると、後方でその建物が崩れる音を聞いた。
「……危なかった……まだ、牙を剥いてくるなんてことも有り得るか」
呟いて、否と首を振った。脱出を終えた背後、針はその場に散らかって襲いかかってくる様子所か、全く動く気配が無い。触れればあの鋭さは無く、赤黒く錆び付いたそれは容易く崩れるほどだった。
警戒を保って剣を向けながら探るが、動かないのは庭に広がっていた物も、屋敷の中に有った物も同様らしい。
東條も残骸の1つを見下ろして眉間に皺を刻む。
出所不明の鎧、針、調べようにも針は風化寸前、鎧は崩れた廃屋の下敷き。
何か残されていないかと数歩廃屋に近付けば、折り重なった板の下から淀んだマテリアルの気配を感じる。
「残って、いるのか」
最後に投じられた黒い捻子が、この廃屋の下敷きに。
歪みを広げながら外へ出る時を待っている。
緊急の報告を伴いオフィスへ急ぐ。
少女の亡骸は丁寧に、彼女を探していた人達の元へ。
縋り付いて嗚咽を漏らす母親に、ユウは言葉を無くして見詰める。
状況を伝えると、黄と黒に染めたロープを抱えて職員が飛び出していき、残った受付嬢がハンター達に解決の礼を告げる。
言葉を掛けられる状態では無い母親と、立ち尽くす父親。
人形の笑い声が蘇って拳を握り締め、目をきつく瞑った。
けれど彼女は家に帰れたのだから。
言い聞かせるような受付嬢の言葉に促されて、オフィスを後にする。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/29 02:19:11 |
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作戦相談 東條 奏多(ka6425) 人間(リアルブルー)|18才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/30 07:08:31 |