ゲスト
(ka0000)
【虚動】滅ばざる者
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/30 07:30
- 完成日
- 2014/12/06 05:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「CAM……だっけ? 辺境の実験場で起動実験を行うんだよね?」
帝都バルトアンデルスを出発した輸送団は陸路で辺境との堺であるノアーラ・クンタウを目指していた。
錬魔院直下の兵士養成機関であるイルリヒト機関から輸送団の護衛を任されたベルフラウとゲルト・デーニッツはトラックの荷台に揺られながら流れる景色を眺めている。
「そうだ。部族側と協議の上、ノアーラ・クンタウの駐留軍が場所を手配すると聞いている」
「つまり、結局は帝国本位だよね。各国共同とは言え、辺境部族の人達はいい気がしないんじゃないかな……」
愛用の剣を抱くようにして座るベルフラウは憂いに瞳を細める。ゲルトは腕を組んだ姿勢のまま、表情を買えずに頷いた。
「当然反発はあるだろうな。錬魔院が絡む実験だ。それが大規模であればあるほど危険は伴う。お前も聞いた事があるだろう? 二十年程前に帝国領内で起きた爆発事故の件」
「えっと……確か、森の中の実験施設で、新型のマテリアル兵器を開発していたら、暴走して爆発したっていう……?」
「爆心地であった研究所は今も高濃度の汚染で閉鎖され、周囲にあった森も今や雑魔ひしめく立入禁止区域だ」
「そんな事にはならないよね……?」
「各国の前でそんな失態を晒せば帝国への風当たりは今以上に強くなる。部族との調和路線も瓦解するだろうな」
ぎゅっと膝を抱えるベルフラウ。ゲルトは頬を掻き、友人であり同僚でもあるエルガー・ウンターゲーエンの言葉を思い返していた。
『ベルフラウには危なっかしいところがある。精神的にも肉体的にもな。お前も仲間として、支えられる部分はフォローしてやれ』
そんな事を言われて送り出された以上、全く無視というわけにはいかない。
それに人に言われたからというだけではない。どちらにせよゲルトはベルフラウがどのような人間なのか、少し興味を持ち始めていたから。
何か声をかけようかと思案していた時だ。トラックが急停車し、軍人の騒ぎ声が聞こえてくる。外を見ると、進路を一体のスケルトンが妨害していた。
「スケルトン一体か。どうという事はない。ベルフラウ、俺達で始末するぞ」
「あ、うん!」
荷台から飛び降りた二人。同行していたハンターも後を追い飛び降りたが、ゲルトは首を横に振る。
「スケルトンに手こずるほど俺達は弱くない。あんた達は周辺の警戒を頼む」
それもそうだと頷くハンター。ゲルトとベルフラウは得物を取り出しスケルトンと対峙する。
「何しに出てきたんだろう、この子……?」
「一体で何が出来る。行くぞ、ベルフラウ」
駆け出すゲルト。ベルフラウは聖機剣を起動。淡い光を纏った剣を振るうようにして光弾を放つ。
追撃し、距離を詰め骨の顎にトンファーをねじ込み、ガントンファーの引き金を引く。ゲルトの一撃で頭は吹き飛び、尚スケルトンは腕を振り上げる。
「遅い」
回し蹴りで骨を吹き飛ばすと、大剣を引きずったベルフラウが追いつき、下から振り上げるような一撃でスケルトンをバラバラに粉砕した。
「あれっ!? なんか凄く弱い……!?」
「雑魔だからな」
眼鏡を光らせながら息を吐くゲルト。仕事は終わったと二人が引き返し始めた瞬間、ハンターの叫び声が響いた。
振り返った二人の前で倒した筈のスケルトンが立ち上がろうとしていた。バラバラの状態から再生し、更に形状を変化させていく。
「え……何!?」
再びトンファーで殴りかかるゲルト。しかしスケルトンはその一撃を片手で受け止め、先ほどのゲルトと全く同じ動作で蹴りを放った。
吹っ飛ぶゲルトだが受け身を取り銃撃する。ベルフラウも魔法で攻撃するが、スケルトンの瞳があるべき窪みが輝くと、二人の遠距離攻撃は弾き飛ばされてしまった。
「何をした……?」
そしてスケルトンは二人を無視してトラックへと向かう。まるでその動きは積み荷を狙っているかのようだ。
慌てて間に立ちふさがるハンター。スケルトンは体当たりで突っ込んでくるが、とてもその重みは骨とは思えない。
動きが止まった刹那、左右からゲルトとベルフラウが挟撃する。しかしスケルトンが紫色に発光した直後、ハンターもゲルトもベルフラウも、大きく背後へ吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!?」
「さっきから……何がどうなってるの!?」
触れられたわけではないのに身体が浮いて衝撃で吹き飛ぶ。防げないし何が起きているのかもわからない。
受け身を取って立ち上がるハンター。やはりスケルトンの狙いは積み荷のようで、護衛の帝国兵の銃撃を浴びても無視して荷台に熱い視線を送っている。
「積み荷を狙っているのか……魔導エンジンが輸送されていると理解しているのか?」
「どうしてスケルトンが魔導エンジンを狙うの!?」
「わからん……それにまともなスケルトンとも思えん。まさかとは思うが……」
ゲルトはハンターに駆け寄る。そして肩を並べると落ち着いた声で告げる。
「俺の間違いなら良い。だが、噂で聞いたことがある。倒しても倒れないスケルトン、倒せば倒すだけ強くなる敵……」
「もしかして……」
「「 “剣魔”クリピクロウズ 」」
ゲルトとベルフラウの声が重なる。スケルトンは自らの骨の一部を引き抜き、形状を変化させまるで剣のようにして瞳を輝かせる。
「ほ、本当に剣魔なの? 確かに変だけど、そこまで強いって感じじゃないよ?」
「そういう敵だと聞いている。油断はするな。悪いがあんた達にも手を貸してもらうぞ」
頷くハンター。改めて得物を握り締め、仲間と共に剣魔へと走り出した。
帝都バルトアンデルスを出発した輸送団は陸路で辺境との堺であるノアーラ・クンタウを目指していた。
錬魔院直下の兵士養成機関であるイルリヒト機関から輸送団の護衛を任されたベルフラウとゲルト・デーニッツはトラックの荷台に揺られながら流れる景色を眺めている。
「そうだ。部族側と協議の上、ノアーラ・クンタウの駐留軍が場所を手配すると聞いている」
「つまり、結局は帝国本位だよね。各国共同とは言え、辺境部族の人達はいい気がしないんじゃないかな……」
愛用の剣を抱くようにして座るベルフラウは憂いに瞳を細める。ゲルトは腕を組んだ姿勢のまま、表情を買えずに頷いた。
「当然反発はあるだろうな。錬魔院が絡む実験だ。それが大規模であればあるほど危険は伴う。お前も聞いた事があるだろう? 二十年程前に帝国領内で起きた爆発事故の件」
「えっと……確か、森の中の実験施設で、新型のマテリアル兵器を開発していたら、暴走して爆発したっていう……?」
「爆心地であった研究所は今も高濃度の汚染で閉鎖され、周囲にあった森も今や雑魔ひしめく立入禁止区域だ」
「そんな事にはならないよね……?」
「各国の前でそんな失態を晒せば帝国への風当たりは今以上に強くなる。部族との調和路線も瓦解するだろうな」
ぎゅっと膝を抱えるベルフラウ。ゲルトは頬を掻き、友人であり同僚でもあるエルガー・ウンターゲーエンの言葉を思い返していた。
『ベルフラウには危なっかしいところがある。精神的にも肉体的にもな。お前も仲間として、支えられる部分はフォローしてやれ』
そんな事を言われて送り出された以上、全く無視というわけにはいかない。
それに人に言われたからというだけではない。どちらにせよゲルトはベルフラウがどのような人間なのか、少し興味を持ち始めていたから。
何か声をかけようかと思案していた時だ。トラックが急停車し、軍人の騒ぎ声が聞こえてくる。外を見ると、進路を一体のスケルトンが妨害していた。
「スケルトン一体か。どうという事はない。ベルフラウ、俺達で始末するぞ」
「あ、うん!」
荷台から飛び降りた二人。同行していたハンターも後を追い飛び降りたが、ゲルトは首を横に振る。
「スケルトンに手こずるほど俺達は弱くない。あんた達は周辺の警戒を頼む」
それもそうだと頷くハンター。ゲルトとベルフラウは得物を取り出しスケルトンと対峙する。
「何しに出てきたんだろう、この子……?」
「一体で何が出来る。行くぞ、ベルフラウ」
駆け出すゲルト。ベルフラウは聖機剣を起動。淡い光を纏った剣を振るうようにして光弾を放つ。
追撃し、距離を詰め骨の顎にトンファーをねじ込み、ガントンファーの引き金を引く。ゲルトの一撃で頭は吹き飛び、尚スケルトンは腕を振り上げる。
「遅い」
回し蹴りで骨を吹き飛ばすと、大剣を引きずったベルフラウが追いつき、下から振り上げるような一撃でスケルトンをバラバラに粉砕した。
「あれっ!? なんか凄く弱い……!?」
「雑魔だからな」
眼鏡を光らせながら息を吐くゲルト。仕事は終わったと二人が引き返し始めた瞬間、ハンターの叫び声が響いた。
振り返った二人の前で倒した筈のスケルトンが立ち上がろうとしていた。バラバラの状態から再生し、更に形状を変化させていく。
「え……何!?」
再びトンファーで殴りかかるゲルト。しかしスケルトンはその一撃を片手で受け止め、先ほどのゲルトと全く同じ動作で蹴りを放った。
吹っ飛ぶゲルトだが受け身を取り銃撃する。ベルフラウも魔法で攻撃するが、スケルトンの瞳があるべき窪みが輝くと、二人の遠距離攻撃は弾き飛ばされてしまった。
「何をした……?」
そしてスケルトンは二人を無視してトラックへと向かう。まるでその動きは積み荷を狙っているかのようだ。
慌てて間に立ちふさがるハンター。スケルトンは体当たりで突っ込んでくるが、とてもその重みは骨とは思えない。
動きが止まった刹那、左右からゲルトとベルフラウが挟撃する。しかしスケルトンが紫色に発光した直後、ハンターもゲルトもベルフラウも、大きく背後へ吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!?」
「さっきから……何がどうなってるの!?」
触れられたわけではないのに身体が浮いて衝撃で吹き飛ぶ。防げないし何が起きているのかもわからない。
受け身を取って立ち上がるハンター。やはりスケルトンの狙いは積み荷のようで、護衛の帝国兵の銃撃を浴びても無視して荷台に熱い視線を送っている。
「積み荷を狙っているのか……魔導エンジンが輸送されていると理解しているのか?」
「どうしてスケルトンが魔導エンジンを狙うの!?」
「わからん……それにまともなスケルトンとも思えん。まさかとは思うが……」
ゲルトはハンターに駆け寄る。そして肩を並べると落ち着いた声で告げる。
「俺の間違いなら良い。だが、噂で聞いたことがある。倒しても倒れないスケルトン、倒せば倒すだけ強くなる敵……」
「もしかして……」
「「 “剣魔”クリピクロウズ 」」
ゲルトとベルフラウの声が重なる。スケルトンは自らの骨の一部を引き抜き、形状を変化させまるで剣のようにして瞳を輝かせる。
「ほ、本当に剣魔なの? 確かに変だけど、そこまで強いって感じじゃないよ?」
「そういう敵だと聞いている。油断はするな。悪いがあんた達にも手を貸してもらうぞ」
頷くハンター。改めて得物を握り締め、仲間と共に剣魔へと走り出した。
リプレイ本文
アイビス・グラス(ka2477)の拳で呆気無くバラバラになった剣魔を前に、次の攻撃動作に入っていたルオ(ka1272)とリリア・ノヴィドール(ka3056)が目を丸くする。
「アイビスさん……そんなあっさり四霊剣の一角を倒すなんて凄いな!」
「ち、違う違う! 私は軽い先制攻撃のつもりで……!」
ルオの尊敬の眼差しに両手を振るアイビス。剣魔は倒れて動かない。ともあれ、これは好機である。
「なんじゃかよくわからんが、相手が剣魔なら正面突破は危険じゃし、魔導エンジンを無事送り届けるのが最優先じゃ。ハンター主体で足止めする故。避難の指揮を頼むのじゃ。後で必ず合流するからの」
「……ああ。適切な判断だ。これより護衛対象と共に離脱する」
カナタ・ハテナ(ka2130)の指示に頷くゲルトこそ、最も怪訝な様子だった。ゲルトは言われた通りエンジンを積まないトラック一台を残し、離脱を開始する。
「妙だな。ゲルトと戦った時より、明らかに弱くなっている」
宮前 怜(ka3256)はライフルを構えたまま思案する。
思えばゲルトと戦った時もそうだ。最初はろくな反撃も出来ず呆気無く倒れた。が、再生後は明らかに動きが変わっていた。
「……条件でもあるのか?」
「何にせよ普通の相手ではなさそうです。不死と呼ばれる存在の話はいくつか見聞きしましたが――骨だけで再生するのは初めてですね」
構え直すセレン・コウヅキ(ka0153)の視線の先、バラバラの骨が集いまた人の形を型取り始めていた。
「げ、やっぱり復活しちゃったか」
「また私が先制するから、二人は後に続いて!」
アイビスの言葉に頷くルオとリリア。素早く距離を詰め、マテリアルを帯びた拳を繰り出すアイビス。だがその拳は剣魔の拳によって留められていた。
全く同じモーションからの相殺……否。先程までとは比べ物にならない膂力で弾き返される。
「ぐ……っ!?」
「なろ……! 骸骨相手に槍で行くには……こうか!?」
オケアニスで薙ぎ払うルオ。これが剣魔に直撃し、また一撃で呆気無くバラバラになる。
「ん!? 俺そんなに強くした!?」
慌てるルオ。これで二度倒した事になるが、剣魔は更に復活。そして今度は違う動きを見せる。
自らの一部である骨を引き抜き、再構築して作られたのは槍。そしてルオと同じようにそれを構えて見せる。
「は?」
繰り出してきたのは突きではなく薙ぎ払い。ルオも槍で受けるが、やはり力負けしてガードを崩される。
「ルオさん!」
チャクラムを投げつけると同時にルオの腕を引いて下がらせるリリア。空振った剣魔の一撃は大地を抉り取る凶悪な威力で空を裂く。その追撃はレオン・イスルギ(ka3168)の炎の矢で阻まれ、そして剣魔は三度目の撃破を迎えた。
「何なのですか、これは? またも呆気無く……」
「自分を倒した相手の動きを模倣している? ううん……模倣じゃなくて、上回っているの?」
目を細めるエイル・メヌエット(ka2807)。この不気味さは危険だと本能が訴えかけている。カナタも冷や汗を流し。
「嫌な感じじゃのぅ。この背筋がひやっとする感じ、剣妃の時と同じじゃ」
また復活する。今度は槍をくるりと回し――その穂先に黒い炎を宿し、それを矢のようにして放った。狙いはレオンだ。
炎の矢というレベルではなかった。爆発、そして周囲に黒い光が舞い散る。同じ中衛のカナタとベルフラウも煽りを食らう。
「ぬあーっ、言わんこっちゃないのぅ! 無事かレオンどん!?」
槍で攻撃するルオだがあっさり防がれる。アイビスも同じ結果だ。だがセレンと怜が狙撃すると直撃、また吹っ飛んで転がっていく。
「……なんて無警戒な」
「いや、そういうわけでもないのだろうな」
険しい表情でセレンと肩を並べる怜。彼の視線の先には、二人が撃ち込んだ弾丸を掌に浮かべている剣魔の姿がある。
「今回復するわ!」
セレンとベルフラウがレオンの傷を癒やすが、そこを狙い剣魔が右手で銃の形を作る。まるで児戯の悪ふざけのような動きで、自分がもらった弾丸を高速で撃ち返した。
撃たれたのはベルフラウの腹だ。剣魔は自分でやっておきながらその威力に驚いたように首を傾げている。
「――っ、全く、自分の弾丸で仲間を傷つけられるとは。こうも腹立たしいのですね」
苛立ちを隠せず呟くセレン。と、その時だ。リリアが仲間を制すように大声で叫んだ。
「ドッペルゲンガーなの! 剣魔はこっちの行動をまねっこしてるの!」
「そりゃわかるけど、攻撃しないわけにはいかないだろ!?」
「だから、“てかげん”するのよ! 最初から全力で攻撃してたら、そのうち倒せなくなっちゃうわ! “真似させる攻撃をこっちで選ぶ”のよ!」
その言葉に怜は息を吐く。成る程、その通りだ。こっちが強い攻撃を仕掛ければ相応で返してくる。ならば加減をするしかない。
「そういう事か……いや、それしかないのぅ。皆聞くのじゃ! この隊列をそのままシフトさせる!」
「隊列を……シフト?」
カナタの声に眉を潜めるレオン。続けカナタとリリアが説明する。
「同じ面子で倒し続けてはいずれ“倒せなく”なる!」
「だから力は少しずつ強くして、毎回違う連携で、違う人が倒さなきゃならないのよ!」
「え……えぇ!? それをいつまで続ければいいんだ?」
「コアである部位を発見するか、奴が再生不能になるまでだな」
目を瞑りふと笑う怜。その返答にルオはげんなりした様子で肩を落とした。
「まずはあたし達三人で! 止めはまだのあたしが、援護は二人でよろしくね!」
「先制は俺が行く。これまでと違う攻撃……よし!」
「二番手は任せて! リリアさん、フィニッシュブローはお願いね!」
並んだ状態から走り出す前衛三人。ルオが今度繰り出したのは突きだ。
「俺のリアルブルーへの帰還を邪魔するなら……その頭蓋、串刺しにしてやる!」
これが直撃。やはり“知らない攻撃”に弱い。宣言通り頭を貫き大地に串刺しにすると、アイビスが拳を握り締め飛びかかる。
「何度復活しようが襲ってこようが私達は諦めない! 復活するならしなくなるまで倒すだけよ!」
スキルはまだ使わない。戦士としての技量だけ、鍛えた拳だけで骸骨の肋骨を砕く。
「突きよ! 横に避けてなの!」
アイビスと入れ替わりリリアが短剣を繰り出す。この一撃で骨が崩れ出すと。
「ルオさん、その槍に引っかかってる頭、遠くに投げちゃうのよ!」
「え!? こうか!?」
思い切り穂先の頭蓋骨を遠投するルオ。頭が戻ってこないのに戸惑う剣魔。二人はガッツポーズと共に背後に跳ぶ。
「次お願いなの!」
今度はカナタ、レオン、ベルフラウの中衛が前に出る。
「近接戦闘は望む所。吹き飛ばしても組み合わさるならば……削り、削ぎ、燃やし尽くして、灰と化すまで攻め立てるまで」
「お先に! 聖機剣は起動しなければただの鈍器です!」
ベルフラウが聖機剣で殴るとやはり剣魔は対応出来ない。ぐらつく所へカナタが鉄扇を打ち込む。
「持ってて良かったサブウェポン……ほいっ!」
「二人共お下がり下さい」
最後に懐に入ったレオンが抜刀するカキンという音と共にスライドした刃が剣魔の胴を薙ぎ払った。
「案の定、初見の動きに対応出来ておらんのう! ゆけ、エイルどん!」
「接近戦だってちゃんと想定してるんだから!!」
そして後衛、エイル、怜、セレン。まずは怜がライフルを撃ちながら駆け出し牽制する。
「弱点を探す。エイル、あの布を剥げるか?」
「え、ええ。やってみるわ!」
「エスコートします」
銃撃には既に耐性がある。怜の射撃はあっさり防がれた上に弾を奪われたが、そうわかっていれば手は幾らでもある。
セレンは一気に距離を詰める。剣魔は銃は遠距離で使用する物と理解している。だから、至近距離の銃撃なんて想定していない。
突き出した左手に握られた拳銃、それを剣魔の身体に押し当て引き金を引く。慌てて反撃しようとする剣魔の腕を抑え、その膝に銃口を捩じ込み発砲。関節を破壊すると背後へ転がるように跳ぶ。
「このっ!」
崩れかけた骨を覆う黒い布に剣を引っ掛け引き裂くエイル。その後ろから駆け寄った怜がライフルの重底を肋骨に叩き込んだ。
「……特に布の下に異変はない、か。下がるぞ」
「なんだかこの人達、無茶苦茶していたような……」
「気にせず走って下さい。次が来ます」
入れ替わり立ち代わり攻撃するハンター達。剣魔は何度も倒れ、倒れる度に強くなる。だんだんと攻撃は通用しなくなり、剣魔の素の力も上がっていく。
「こいつ……どんどん強くなってやがるぜ!」
「このままでは完全に対応される……が、弱点らしいものも見つからん」
「何か……手はないのですか?」
刀を受け止められたレオンが肩で息をしながら呟く。終わりの見えない戦い。もう戦闘開始からどれだけ時が経っただろう。
倒す度に強くなる敵。使えなくなる攻撃、連携。徐々に反撃は苛烈になり、ハンター達の体力は削られていく……。
何度目かわからないアイビスの拳が剣魔を倒した後の復活、その様子がこれまでと違った。
剣魔は瞳を輝かせ絶叫する。同時にハンター達全員の力が抜け、膝をついた。
「なんじゃ!?」
奪った光を飲み干した剣魔は黒い炎を纏った影に変貌。その様相は亡霊型の歪虚そのものだ。
「うそ……まだ強くなるの?」
「……違う、これは光明だ」
唖然とするエイル。だが怜は落ち着いた声で語る。
「考えていた。奴が何をしにここに現れたのか。奴にエンジンを戦略的に狙う素振りは見えない。ならば何故ここに現れたのか」
怨嗟の声を上げながら剣魔が瞳を輝かせると、待機していた一台の魔動トラックが浮かび上がる。それは剣魔めがけて吹っ飛び、そして空中でバラバラになった。
「エネルギーだ。奴は純粋にエネルギーを欲して現れた。新型のエンジンという、マテリアルの塊を」
砕けた車からエンジンを掴み、それをバリバリと食らう。砕けた鉄材が装甲となり、まるで出来の悪いモンタージュのような怪物は蒸気を巻き上げハンターを睨む。
「つまり奴にも限界はあるという事だ」
「それは良いがの。あんなもの……どう倒せというんじゃ」
青ざめるカナタ。機械と骨の融合は剣機型を思わせる。怪物は唸りを上げ。その両腕に槍と剣を構築し走り出す。
「加減してちゃ止められない! 本気で行くよ!」
駆け出すアイビスとルオ。アイビスはその拳に光を集める。
「流れる風の様に速く、激しい風の様に強く……!」
その拳を打ち付けたのは地面。爆風で抉るように砂埃を巻き上げ、それを突き破る蹴りで剣魔を穿つ。が、アイビスの身体は衝撃波を受け後方へ飛ぶ。
「最初に使った攻撃……出し惜しみしてやがったのか!?」
再び瞳が輝くがルオはその瞬間槍を前に投げた。するとルオは飛ばず、槍だけが勢い良く空を舞う。
「目には見えないが直線攻撃だ! 先に何かに当たれば効果は受けねぇ……んだろぉ!?」
剣魔を殴りつけ、火炎瓶を身体に埋め込み下がるルオ。リリアはチャクラムでそれを割り、炎に包まれた身体に剣を突き刺す。
次の瞬間、剣魔は全身から周囲に衝撃を放った。前衛三人共勢い良く空を舞い、頭から落ちたルオが血を流し倒れる。
「お、い……アリか、それ……」
「回復は私が!」
ベルフラウに頷き、味方にホーリーセイバーを付与するエイルとカナタ。レオンも自らの刀に炎を纏わせる。
「やはりか。吹き飛ばし攻撃には連続使用限界がある! 援護する、行け!」
銃撃を弾かれないと確認した怜が叫ぶ。エイルはホーリーライトを放つが、頭部に直撃してもびくともしない。
セレンの跳弾が左右から角度をつけて剣魔を襲うが手にした剣で弾かれる。そして直ぐ様カナタがドリルを手に襲いかかった。
「とっておきじゃ!」
更に刀を振り上げ目を見開くレオン。渾身の一撃を振り下ろす。
「八ツ原御流天津交法“破軍”が崩し――墜鋼!」
エンチャントを纏った二人の攻撃が炸裂する。剣魔は二人を弾かなかったが、代わりに自らの剣を湾曲させた。
捻れた骨が炎を纏う様に二人は驚きを隠せない。高速回転する、そしてレオンと同じ動きで振り下ろされ、直線状を薙ぎ払う光の竜巻が二人を引き裂いた。
「混ぜるのはナシ……じゃろ……!」
「そんな……逃げてレオンさん、カナタさん!」
絶叫するエイル。レオンもカナタも意識が跳んでいるのか動けない。止めを振り上げる剣魔――だが次の瞬間動きを止め。
まるで電池の切れた玩具のようにガラガラと崩れ出し、唐突に戦闘は終了するのであった。
「ただの骨……よね?」
剣魔の残骸を手に呟くエイル。ハンター達は骨を囲い、正体不明の敵を吟味していた。
救援が到着したのは戦闘終了から三十分ほど経過してからだった。ゲルトが医療班を呼んだ為治療も受ける事が出来た。
「この膝は私が砕いた部分です。ちゃんと砕けていますが、戦闘中は問題なく稼働していました」
「骨そのものを破壊してもあまり意味はないのかのぅ……あ~、くらくらする」
うつろな目でスケッチとるカナタ。セレンはその様子に苦笑し。
「もう少し休んだ方が良いのでは」
「今のうちにわかった事を纏めんとのう……次倒せなくなる」
「うぅ、次なんて考えたくない……出来る事なら、もう二度と現れないで、なのよ」
心底嫌そうなリリアの声にレオンは頭の包帯を撫で。
「古来より屍人には火葬と相場が決まっていますが、特別通用した様子でもありませんでした」
「それはホーリーセイバーもよね」
「魔法を模倣されるのは想定外です。鍛錬の果てに習得した技をああも繰り返されるのは納得行きません」
不満そうに呟くレオンだが、ご尤もである。アイビスは溜息混じりに歩み寄り。
「ルオさん完全に気を失ってるね。しばらく目を覚まさないかも」
「頭から行ったからな。だが得られた情報も大きい。少なくとも、こいつに核はなかった。倒れたのは純粋なエネルギー切れか、或いは……」
「少なくとも完全に倒れればリセットじゃろう。次回も最終形態からスタートだったら、とっくに誰も倒せなくなっておる。この類の敵を滅ぼすには、それこそ強力な浄化術か何かが必要なのかもしれんの」
呟くカナタ。レオンは背後を振り返る。そこには苛烈な攻撃の爪痕が大地を抉っていた。
「青の船より運ばれし希望の巨人。その新たな心臓を守り抜けたのは幸いですが……」
「あんなわけの分からない化け物と、また戦わなきゃ行けないのよね」
拳を握り締めるアイビス。こうして輸送は再開され、その後敵との遭遇もなく、ハンター達は無事に任務を終えた。
剣魔の残骸は帝国で回収され調べられる事になったが、結果は芳しくはなかった。
それはただの誰かの骨であり、それ以上の意味など見つけられなかったのだから――。
「アイビスさん……そんなあっさり四霊剣の一角を倒すなんて凄いな!」
「ち、違う違う! 私は軽い先制攻撃のつもりで……!」
ルオの尊敬の眼差しに両手を振るアイビス。剣魔は倒れて動かない。ともあれ、これは好機である。
「なんじゃかよくわからんが、相手が剣魔なら正面突破は危険じゃし、魔導エンジンを無事送り届けるのが最優先じゃ。ハンター主体で足止めする故。避難の指揮を頼むのじゃ。後で必ず合流するからの」
「……ああ。適切な判断だ。これより護衛対象と共に離脱する」
カナタ・ハテナ(ka2130)の指示に頷くゲルトこそ、最も怪訝な様子だった。ゲルトは言われた通りエンジンを積まないトラック一台を残し、離脱を開始する。
「妙だな。ゲルトと戦った時より、明らかに弱くなっている」
宮前 怜(ka3256)はライフルを構えたまま思案する。
思えばゲルトと戦った時もそうだ。最初はろくな反撃も出来ず呆気無く倒れた。が、再生後は明らかに動きが変わっていた。
「……条件でもあるのか?」
「何にせよ普通の相手ではなさそうです。不死と呼ばれる存在の話はいくつか見聞きしましたが――骨だけで再生するのは初めてですね」
構え直すセレン・コウヅキ(ka0153)の視線の先、バラバラの骨が集いまた人の形を型取り始めていた。
「げ、やっぱり復活しちゃったか」
「また私が先制するから、二人は後に続いて!」
アイビスの言葉に頷くルオとリリア。素早く距離を詰め、マテリアルを帯びた拳を繰り出すアイビス。だがその拳は剣魔の拳によって留められていた。
全く同じモーションからの相殺……否。先程までとは比べ物にならない膂力で弾き返される。
「ぐ……っ!?」
「なろ……! 骸骨相手に槍で行くには……こうか!?」
オケアニスで薙ぎ払うルオ。これが剣魔に直撃し、また一撃で呆気無くバラバラになる。
「ん!? 俺そんなに強くした!?」
慌てるルオ。これで二度倒した事になるが、剣魔は更に復活。そして今度は違う動きを見せる。
自らの一部である骨を引き抜き、再構築して作られたのは槍。そしてルオと同じようにそれを構えて見せる。
「は?」
繰り出してきたのは突きではなく薙ぎ払い。ルオも槍で受けるが、やはり力負けしてガードを崩される。
「ルオさん!」
チャクラムを投げつけると同時にルオの腕を引いて下がらせるリリア。空振った剣魔の一撃は大地を抉り取る凶悪な威力で空を裂く。その追撃はレオン・イスルギ(ka3168)の炎の矢で阻まれ、そして剣魔は三度目の撃破を迎えた。
「何なのですか、これは? またも呆気無く……」
「自分を倒した相手の動きを模倣している? ううん……模倣じゃなくて、上回っているの?」
目を細めるエイル・メヌエット(ka2807)。この不気味さは危険だと本能が訴えかけている。カナタも冷や汗を流し。
「嫌な感じじゃのぅ。この背筋がひやっとする感じ、剣妃の時と同じじゃ」
また復活する。今度は槍をくるりと回し――その穂先に黒い炎を宿し、それを矢のようにして放った。狙いはレオンだ。
炎の矢というレベルではなかった。爆発、そして周囲に黒い光が舞い散る。同じ中衛のカナタとベルフラウも煽りを食らう。
「ぬあーっ、言わんこっちゃないのぅ! 無事かレオンどん!?」
槍で攻撃するルオだがあっさり防がれる。アイビスも同じ結果だ。だがセレンと怜が狙撃すると直撃、また吹っ飛んで転がっていく。
「……なんて無警戒な」
「いや、そういうわけでもないのだろうな」
険しい表情でセレンと肩を並べる怜。彼の視線の先には、二人が撃ち込んだ弾丸を掌に浮かべている剣魔の姿がある。
「今回復するわ!」
セレンとベルフラウがレオンの傷を癒やすが、そこを狙い剣魔が右手で銃の形を作る。まるで児戯の悪ふざけのような動きで、自分がもらった弾丸を高速で撃ち返した。
撃たれたのはベルフラウの腹だ。剣魔は自分でやっておきながらその威力に驚いたように首を傾げている。
「――っ、全く、自分の弾丸で仲間を傷つけられるとは。こうも腹立たしいのですね」
苛立ちを隠せず呟くセレン。と、その時だ。リリアが仲間を制すように大声で叫んだ。
「ドッペルゲンガーなの! 剣魔はこっちの行動をまねっこしてるの!」
「そりゃわかるけど、攻撃しないわけにはいかないだろ!?」
「だから、“てかげん”するのよ! 最初から全力で攻撃してたら、そのうち倒せなくなっちゃうわ! “真似させる攻撃をこっちで選ぶ”のよ!」
その言葉に怜は息を吐く。成る程、その通りだ。こっちが強い攻撃を仕掛ければ相応で返してくる。ならば加減をするしかない。
「そういう事か……いや、それしかないのぅ。皆聞くのじゃ! この隊列をそのままシフトさせる!」
「隊列を……シフト?」
カナタの声に眉を潜めるレオン。続けカナタとリリアが説明する。
「同じ面子で倒し続けてはいずれ“倒せなく”なる!」
「だから力は少しずつ強くして、毎回違う連携で、違う人が倒さなきゃならないのよ!」
「え……えぇ!? それをいつまで続ければいいんだ?」
「コアである部位を発見するか、奴が再生不能になるまでだな」
目を瞑りふと笑う怜。その返答にルオはげんなりした様子で肩を落とした。
「まずはあたし達三人で! 止めはまだのあたしが、援護は二人でよろしくね!」
「先制は俺が行く。これまでと違う攻撃……よし!」
「二番手は任せて! リリアさん、フィニッシュブローはお願いね!」
並んだ状態から走り出す前衛三人。ルオが今度繰り出したのは突きだ。
「俺のリアルブルーへの帰還を邪魔するなら……その頭蓋、串刺しにしてやる!」
これが直撃。やはり“知らない攻撃”に弱い。宣言通り頭を貫き大地に串刺しにすると、アイビスが拳を握り締め飛びかかる。
「何度復活しようが襲ってこようが私達は諦めない! 復活するならしなくなるまで倒すだけよ!」
スキルはまだ使わない。戦士としての技量だけ、鍛えた拳だけで骸骨の肋骨を砕く。
「突きよ! 横に避けてなの!」
アイビスと入れ替わりリリアが短剣を繰り出す。この一撃で骨が崩れ出すと。
「ルオさん、その槍に引っかかってる頭、遠くに投げちゃうのよ!」
「え!? こうか!?」
思い切り穂先の頭蓋骨を遠投するルオ。頭が戻ってこないのに戸惑う剣魔。二人はガッツポーズと共に背後に跳ぶ。
「次お願いなの!」
今度はカナタ、レオン、ベルフラウの中衛が前に出る。
「近接戦闘は望む所。吹き飛ばしても組み合わさるならば……削り、削ぎ、燃やし尽くして、灰と化すまで攻め立てるまで」
「お先に! 聖機剣は起動しなければただの鈍器です!」
ベルフラウが聖機剣で殴るとやはり剣魔は対応出来ない。ぐらつく所へカナタが鉄扇を打ち込む。
「持ってて良かったサブウェポン……ほいっ!」
「二人共お下がり下さい」
最後に懐に入ったレオンが抜刀するカキンという音と共にスライドした刃が剣魔の胴を薙ぎ払った。
「案の定、初見の動きに対応出来ておらんのう! ゆけ、エイルどん!」
「接近戦だってちゃんと想定してるんだから!!」
そして後衛、エイル、怜、セレン。まずは怜がライフルを撃ちながら駆け出し牽制する。
「弱点を探す。エイル、あの布を剥げるか?」
「え、ええ。やってみるわ!」
「エスコートします」
銃撃には既に耐性がある。怜の射撃はあっさり防がれた上に弾を奪われたが、そうわかっていれば手は幾らでもある。
セレンは一気に距離を詰める。剣魔は銃は遠距離で使用する物と理解している。だから、至近距離の銃撃なんて想定していない。
突き出した左手に握られた拳銃、それを剣魔の身体に押し当て引き金を引く。慌てて反撃しようとする剣魔の腕を抑え、その膝に銃口を捩じ込み発砲。関節を破壊すると背後へ転がるように跳ぶ。
「このっ!」
崩れかけた骨を覆う黒い布に剣を引っ掛け引き裂くエイル。その後ろから駆け寄った怜がライフルの重底を肋骨に叩き込んだ。
「……特に布の下に異変はない、か。下がるぞ」
「なんだかこの人達、無茶苦茶していたような……」
「気にせず走って下さい。次が来ます」
入れ替わり立ち代わり攻撃するハンター達。剣魔は何度も倒れ、倒れる度に強くなる。だんだんと攻撃は通用しなくなり、剣魔の素の力も上がっていく。
「こいつ……どんどん強くなってやがるぜ!」
「このままでは完全に対応される……が、弱点らしいものも見つからん」
「何か……手はないのですか?」
刀を受け止められたレオンが肩で息をしながら呟く。終わりの見えない戦い。もう戦闘開始からどれだけ時が経っただろう。
倒す度に強くなる敵。使えなくなる攻撃、連携。徐々に反撃は苛烈になり、ハンター達の体力は削られていく……。
何度目かわからないアイビスの拳が剣魔を倒した後の復活、その様子がこれまでと違った。
剣魔は瞳を輝かせ絶叫する。同時にハンター達全員の力が抜け、膝をついた。
「なんじゃ!?」
奪った光を飲み干した剣魔は黒い炎を纏った影に変貌。その様相は亡霊型の歪虚そのものだ。
「うそ……まだ強くなるの?」
「……違う、これは光明だ」
唖然とするエイル。だが怜は落ち着いた声で語る。
「考えていた。奴が何をしにここに現れたのか。奴にエンジンを戦略的に狙う素振りは見えない。ならば何故ここに現れたのか」
怨嗟の声を上げながら剣魔が瞳を輝かせると、待機していた一台の魔動トラックが浮かび上がる。それは剣魔めがけて吹っ飛び、そして空中でバラバラになった。
「エネルギーだ。奴は純粋にエネルギーを欲して現れた。新型のエンジンという、マテリアルの塊を」
砕けた車からエンジンを掴み、それをバリバリと食らう。砕けた鉄材が装甲となり、まるで出来の悪いモンタージュのような怪物は蒸気を巻き上げハンターを睨む。
「つまり奴にも限界はあるという事だ」
「それは良いがの。あんなもの……どう倒せというんじゃ」
青ざめるカナタ。機械と骨の融合は剣機型を思わせる。怪物は唸りを上げ。その両腕に槍と剣を構築し走り出す。
「加減してちゃ止められない! 本気で行くよ!」
駆け出すアイビスとルオ。アイビスはその拳に光を集める。
「流れる風の様に速く、激しい風の様に強く……!」
その拳を打ち付けたのは地面。爆風で抉るように砂埃を巻き上げ、それを突き破る蹴りで剣魔を穿つ。が、アイビスの身体は衝撃波を受け後方へ飛ぶ。
「最初に使った攻撃……出し惜しみしてやがったのか!?」
再び瞳が輝くがルオはその瞬間槍を前に投げた。するとルオは飛ばず、槍だけが勢い良く空を舞う。
「目には見えないが直線攻撃だ! 先に何かに当たれば効果は受けねぇ……んだろぉ!?」
剣魔を殴りつけ、火炎瓶を身体に埋め込み下がるルオ。リリアはチャクラムでそれを割り、炎に包まれた身体に剣を突き刺す。
次の瞬間、剣魔は全身から周囲に衝撃を放った。前衛三人共勢い良く空を舞い、頭から落ちたルオが血を流し倒れる。
「お、い……アリか、それ……」
「回復は私が!」
ベルフラウに頷き、味方にホーリーセイバーを付与するエイルとカナタ。レオンも自らの刀に炎を纏わせる。
「やはりか。吹き飛ばし攻撃には連続使用限界がある! 援護する、行け!」
銃撃を弾かれないと確認した怜が叫ぶ。エイルはホーリーライトを放つが、頭部に直撃してもびくともしない。
セレンの跳弾が左右から角度をつけて剣魔を襲うが手にした剣で弾かれる。そして直ぐ様カナタがドリルを手に襲いかかった。
「とっておきじゃ!」
更に刀を振り上げ目を見開くレオン。渾身の一撃を振り下ろす。
「八ツ原御流天津交法“破軍”が崩し――墜鋼!」
エンチャントを纏った二人の攻撃が炸裂する。剣魔は二人を弾かなかったが、代わりに自らの剣を湾曲させた。
捻れた骨が炎を纏う様に二人は驚きを隠せない。高速回転する、そしてレオンと同じ動きで振り下ろされ、直線状を薙ぎ払う光の竜巻が二人を引き裂いた。
「混ぜるのはナシ……じゃろ……!」
「そんな……逃げてレオンさん、カナタさん!」
絶叫するエイル。レオンもカナタも意識が跳んでいるのか動けない。止めを振り上げる剣魔――だが次の瞬間動きを止め。
まるで電池の切れた玩具のようにガラガラと崩れ出し、唐突に戦闘は終了するのであった。
「ただの骨……よね?」
剣魔の残骸を手に呟くエイル。ハンター達は骨を囲い、正体不明の敵を吟味していた。
救援が到着したのは戦闘終了から三十分ほど経過してからだった。ゲルトが医療班を呼んだ為治療も受ける事が出来た。
「この膝は私が砕いた部分です。ちゃんと砕けていますが、戦闘中は問題なく稼働していました」
「骨そのものを破壊してもあまり意味はないのかのぅ……あ~、くらくらする」
うつろな目でスケッチとるカナタ。セレンはその様子に苦笑し。
「もう少し休んだ方が良いのでは」
「今のうちにわかった事を纏めんとのう……次倒せなくなる」
「うぅ、次なんて考えたくない……出来る事なら、もう二度と現れないで、なのよ」
心底嫌そうなリリアの声にレオンは頭の包帯を撫で。
「古来より屍人には火葬と相場が決まっていますが、特別通用した様子でもありませんでした」
「それはホーリーセイバーもよね」
「魔法を模倣されるのは想定外です。鍛錬の果てに習得した技をああも繰り返されるのは納得行きません」
不満そうに呟くレオンだが、ご尤もである。アイビスは溜息混じりに歩み寄り。
「ルオさん完全に気を失ってるね。しばらく目を覚まさないかも」
「頭から行ったからな。だが得られた情報も大きい。少なくとも、こいつに核はなかった。倒れたのは純粋なエネルギー切れか、或いは……」
「少なくとも完全に倒れればリセットじゃろう。次回も最終形態からスタートだったら、とっくに誰も倒せなくなっておる。この類の敵を滅ぼすには、それこそ強力な浄化術か何かが必要なのかもしれんの」
呟くカナタ。レオンは背後を振り返る。そこには苛烈な攻撃の爪痕が大地を抉っていた。
「青の船より運ばれし希望の巨人。その新たな心臓を守り抜けたのは幸いですが……」
「あんなわけの分からない化け物と、また戦わなきゃ行けないのよね」
拳を握り締めるアイビス。こうして輸送は再開され、その後敵との遭遇もなく、ハンター達は無事に任務を終えた。
剣魔の残骸は帝国で回収され調べられる事になったが、結果は芳しくはなかった。
それはただの誰かの骨であり、それ以上の意味など見つけられなかったのだから――。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/25 23:32:32 |
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四霊剣『剣魔』撃退【相談卓】 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/11/30 07:12:32 |