ゲスト
(ka0000)
【天誓】戦勝祝賀会 掲げよ祝杯
マスター:紫月紫織
このシナリオは5日間納期が延長されています。
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オープニング
激変の最中にあって、やらなければいけないことは多い。
だが、果たしてそれは本当に必要なのかという問いは出てこなかった。
国民の誰もが、あの激戦を生中継で、その両の眼で見ていたのだ。
誰もが、そこに何らかの英雄像を見ずには居られなかった。
であればこそ、そんな英雄たちを労いたいと思うのは自然な感情だった。
その空気を読み取ってか、満を持してヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は声を上げたのである。
「戦勝祝賀会をやるぞ!」
問題はまだ残っている、山積みもいいところだ。
暴食王ハヴァマールは何処かえと消え去ったままで行方はようとして知れないし、集めた精霊たちとの関係はまだまだこれからの部分も多い。
亜人たちなどは言うまでもないことだろう、ある日全てを謝罪して、それで一切合切収まるなどということは夢にすぎないかもしれない。
それでも、今はこの勝利を喜び、その新たな一歩を踏み出し、国民へと手を差し伸べた英雄たちを労おう。
そうした気持ちは多かれ少なかれ誰の胸の中にもあったのだ。
カンパはあっという間に集まり、足りない部分はヴィルヘルミナのポケットマネーから補填がなされ、会場が整備され料理人や給仕、メイドなどが集まるまでにそう時間はかからなかった。
――そして当日である。
壇上に上がったヴィルヘルミナはグラスを片手にマイクを握る。
「今日、この日に皆と生きて集えたことを光栄に思う。先の【天誓】作戦では大変世話になった。その勝利を祝して、今日の宴の席を設けた。皆、今日は心ゆくまで楽しんでくれ! 我らの新たな英雄たちに!」
乾杯だ! とグラスが高々と掲げられた。
幾つものテーブルが並べられ、そこに次々と料理が運ばれてくる。
肉も魚も、無論のことじゃがいももふんだんに使われて、様々なものが目白押しだった。
無論主食だけではない、各種デザートに加え飲み物もこれでもかと用意されている。
今ならばお菓子だけでお腹いっぱい、なんて事もまた実践できそうな、そんなびっくり詰め合わせと言った様相である。
参加者も無論、それに相応である。
先の【天誓】作戦に参加したハンター達はもちろん、来れるものは亜人も精霊もお構いなしである。
そんな様々なものたちが入り交じる会場を、壇上の端から眺めてヴィルヘルミナは穏やかに笑みを浮かべる。
――これこそ、帝国の未来の縮図であればいいのだがな。
そんなことを思いながら、グラスを一息に空にした。
だが、果たしてそれは本当に必要なのかという問いは出てこなかった。
国民の誰もが、あの激戦を生中継で、その両の眼で見ていたのだ。
誰もが、そこに何らかの英雄像を見ずには居られなかった。
であればこそ、そんな英雄たちを労いたいと思うのは自然な感情だった。
その空気を読み取ってか、満を持してヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は声を上げたのである。
「戦勝祝賀会をやるぞ!」
問題はまだ残っている、山積みもいいところだ。
暴食王ハヴァマールは何処かえと消え去ったままで行方はようとして知れないし、集めた精霊たちとの関係はまだまだこれからの部分も多い。
亜人たちなどは言うまでもないことだろう、ある日全てを謝罪して、それで一切合切収まるなどということは夢にすぎないかもしれない。
それでも、今はこの勝利を喜び、その新たな一歩を踏み出し、国民へと手を差し伸べた英雄たちを労おう。
そうした気持ちは多かれ少なかれ誰の胸の中にもあったのだ。
カンパはあっという間に集まり、足りない部分はヴィルヘルミナのポケットマネーから補填がなされ、会場が整備され料理人や給仕、メイドなどが集まるまでにそう時間はかからなかった。
――そして当日である。
壇上に上がったヴィルヘルミナはグラスを片手にマイクを握る。
「今日、この日に皆と生きて集えたことを光栄に思う。先の【天誓】作戦では大変世話になった。その勝利を祝して、今日の宴の席を設けた。皆、今日は心ゆくまで楽しんでくれ! 我らの新たな英雄たちに!」
乾杯だ! とグラスが高々と掲げられた。
幾つものテーブルが並べられ、そこに次々と料理が運ばれてくる。
肉も魚も、無論のことじゃがいももふんだんに使われて、様々なものが目白押しだった。
無論主食だけではない、各種デザートに加え飲み物もこれでもかと用意されている。
今ならばお菓子だけでお腹いっぱい、なんて事もまた実践できそうな、そんなびっくり詰め合わせと言った様相である。
参加者も無論、それに相応である。
先の【天誓】作戦に参加したハンター達はもちろん、来れるものは亜人も精霊もお構いなしである。
そんな様々なものたちが入り交じる会場を、壇上の端から眺めてヴィルヘルミナは穏やかに笑みを浮かべる。
――これこそ、帝国の未来の縮図であればいいのだがな。
そんなことを思いながら、グラスを一息に空にした。
リプレイ本文
ヴィルヘルミナの宣言とともに、高く祝杯が掲げられる。
多くの者達がそれに合わせて勝利を叫んだ。
様々な種族、精霊たちを交えた祝賀会は、飾り付けられた会場と灯された幾つものキャンドル、楽団の奏でる音色、それらを無邪気に彩る精霊たちによって、幻想的な世界へと変じていた。
水が、風が、炎が、氷が、雷が、音楽に合わせて踊るように会場を飾る。
今までの帝国であれば、決して見ることなど叶わなかっただろうその光景、それはまさしく、長き戦いの末に手にしたものである。
そんな光景の中、大ぶりのグラスになみなみと注がれたエールを一息に飲み干して、豪快に声を上げる姿。
「くあー……やっぱ勝った後の酒は格別だなぁ!」
体は痛むが心は弾む、そんな様子でボルディア・コンフラムス(ka0796)は空になったグラスに溢れんばかりのエールを注ぎ足して会場を軽く一瞥する。
酒も料理も、一人では物足りない。
そんなボルディアの視界に白い人影がひょいと現れ、様々な料理の盛られた陽気なワンプレートを差し出した。
「料理も美味しいの、おすすめなの」
「お、おお。さんきゅー?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)の差し出したプレートを受け取って、近場の席へと移動する。
その間、そこかしこのテーブルからフェルミはプレートにこれでもかというぐらいの料理を積み上げていた。
「それ、全部喰――えるのか?」
ボルディアからすれば自身よりも遥かに細身のフェルミの姿。
「修行(?)の成果を見せつけるの喉元まで食べ尽くすの私の胃袋が火を吹くのー」
そう言ってフォークを構えるフェルミを見守りつつ、ボルディアも早速とばかりに料理に手を伸ばす。
大きく切り分けられた肉の塊は、何かの丸焼きから切り出したものなのだろう、柔らかく、噛みしめれば肉汁がじゅわっと溢れ出す。
帝国名産のじゃがいもを使ったサラダは滋味にあふれ、野菜の甘さと程よく調和していた。
「くぅ~、飯もうめえな!」
食べ始めてしまえばあとは早いもので、フェルミの用意したワンプレートはあっさりと完食された。
その様子を嬉しそうにしながら、彼女も積み上げられた料理をじっくりと味わいながら食べ進めていく。
時折お互いに席を立っては料理を仕入れて戻ってくるのだが……。
「すげえ健啖家っぷりだなあ」
「祝勝会なのお料理楽しみなのー」
「食べたこと無いものとか多くて楽しいよな」
「うん、食べ尽くすの」
フォークを聖剣のように掲げ、そしてフェルミは再び料理へと没頭する、そんなどう考えても平和としか表現できないような目の前の光景に、思わず笑みが溢れた。
「……隣、空いているか?」
きちんとスーツに身を包んだアウレール・V・ブラオラント(ka2531)の姿に、料理を食べるボルディアの手が止まる。
「よ~アウレール。剣豪にボッコボコにされたんだって? ホント、生きてて良かったぜ」
「そう簡単に死んでたまるか……痛っ、叩くな!」
一見してしゃんとしていたアウレールだが、ボルディアに背中をばしばしと叩かれて顔をしかめる。
「……なんだよ、無理してんなあ」
服越しに感じた包帯の感触に、まだ傷が治りきっていないことはすぐ知れた。
無論、それを口にするほど無粋ではないし、わかるのは前線で共に戦っているようなハンターや――
「作った人の真心なの味わうの」
いつの間にやらワンプレートを用意してきた、フェルミのような高位のヒーラーぐらいだろう。
プレートは多少しんどい体にも食べやすいようなものが選りすぐられていた。
「受け取れよ、彼女のおすすめは美味いぞ」
「む……では、ありがたく受け取らせてもらおう」
一息ついて、腰を下ろすアウレールを見つけてか、黒髪の女性がまた一人寄ってきてその肩にぽんと手を置く。
「見つけた♪」
「ミユ……貴女も来ていたのか」
「ええ、お祝いをしにね。見たところ飲み物が無いようだったから」
そう言って高瀬 未悠(ka3199)が差し出すグラスを受け取って、アウレールは短く礼を口にする。
「輝かしい受勲と貴方の新たなスタートに……乾杯」
「そういやアウレールは今回受勲してたっけか、そりゃ祝わないとな!」
グラスが割れるのではないか、と思うぐらい強めの乾杯に、注がれたエールが溢れてテーブルに跡を残す。
ボルディアに振り回され気味の様子を見ていると、年相応にしか見えなくて、未悠はなんとなくそんな様子にほっとする。
アウレールの持つ危うさと隣合わせの強さは、今このときだけ、わずかになりをひそめていた。
「偶には年相応な我儘を言ってもいいんじゃないかしら、私で良ければ付き合うわよ」
そんな言葉にアウレールが盛大に咽たのはここだけの話である。
あえて表現をするというのなら――場違い、というのが適切かもしれない。
祝勝会の場であって、二人はまるで違う空気を作り上げていた。
料理や勝利の余韻を楽しむ、という風情ではない二人は手を恋人繋ぎしたまま入場し、今はテラスの一角で二人の世界を楽しんでいた。
(この近さに慣れてしまったというか、うれしいような気がするというか……私、流され過ぎでしょうか)
そんな考え事をする穂積 智里(ka6819)の後頭部に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はまるでそれが当たり前というような動作でキスを落とす。
その行動が、智里をより一層思考のループに誘うのだ。
近すぎる、その距離……。
(私のマウジーは私がアビトゥーアに合格した頃より随分幼く感じますが……)
それにしても、これぐらいのことすら慣れないのかと思うと不便だと思う反面、別の感情もうかんでくる。
(それを待つのを楽しく感じる私は……だからこそ生国では異端なわけですが)
言葉は少なく、けれど互いを思う気持ちは密なまま、そんな姿は会場故に見られないわけもなく……。
(あれは推理するまでも無いわね……)
そう、見えたままに結論づけて、エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は熱い二人を横目に料理の皿を手にテラスを抜けていく。
さて、お目当ての人物(?)はどこだろうかと探してゆけば、二階の隅の席に陣取って、空になった皿を数枚積み上げているエフェメリスの姿があった。
向こうも気づいたのか、食べる手を止めて手を振ってくる。
「お久しぶり」
「あの時以来じゃな、楽しんどるか?」
「ええ、いろんな料理に出会えたしね。あ、これはおすすめよ」
そう言ってエーミの差し出した皿に、よいのかと確認してからエフェメリスは手を伸ばす。
そちらはすでに推理の済んだ皿であり、彼女の手元に残るのはまだ記していないものたちだ。
会食の場にあって、魔導書を開き何かを記載していく彼女の行動が気になったのだろう、食べる手も緩む。
それに気づいたのか、エーミもそれを語る側へと回る。
「私の推理術は、こういった事のために得た技術で、戦場での使用はイレギュラー。『知識』は受け継がれていくけど、私が興味あるのはこの料理が「何故」生まれてきたかなの。」
「ふむ、なるほどのう……わしらの頃は、とにかくかさを増やすのに必死だったもんじゃが……お主はそうやって世界を視るのじゃな」
それは料理を見る上で、エフェメリスにとっては全くと言っていいほどに考えなかった視点である。
美味い料理に興味深いエーミの視点と知見、気づけば食べる手は緩み話に口が使われることへと次第に寄ってゆく。
「世界は謎に満ちあふれているし、自分で作り出すことも可能なの」
そう語るエーミに、感心し頷くエフェメリスだった。
その視界に、見覚えのある姿が写り、ふらりと視線が向く。
つられて視線を向けたエーミもその姿を覚えていたらしく、四つの視線が交錯した。
気づいていそいそと近寄る陽光のような金髪に対し、しばらくじっとその姿を確認してから、静かな月のような金髪が続く。
「こちらにいらっしゃったのですね」
「うむ、久しいな、元気にしておったか? お主は今日は一人かえ?」
メアリ・ロイド(ka6633)とUisca Amhran(ka0754)の二人に座るように促す。
Uiscaは以前、隣り合うように立つものがおったなと思い出し、探して視線を動かすが……。
「できれば彼といっしょに参加したかったんですけど……今回は都合があわずに不参加なのです……」
「残念じゃな……そういえば礼がまだじゃったか。お主らのおかげでこうして無事にここに居られる、ありがとう。彼にも、伝えておいてもらえるかの?」
「はい、忘れず伝えておきますね」
テーブルの上に鍋をどんと置きながら答えるUiscaに微笑んで頷くエフェメリスは、内心で新たな食の気配を察知していた。
「私の部族のご馳走なのです! みなさんもぜひ!」
そう言ってUiscaが蓋を開けてでてきたのは雉鍋だった。
祝勝会で並ぶ料理とはまた毛色が違っているが、漂う香りはなんとも食欲をそそるものである。
促されて具を皿にひょいひょいと取っていくエフェメリスにエーミも続く。
エーミは早速とばかりに料理についての推理を巡らし始めるのだが、そんな中でメアリはじっとエフェメリスのことを確認していた。
そこにちゃんといるのだろうか、というような気配をまといつつ。
「そんなに熱い視線を向けられてしまうと穴が空いてしまいそうじゃな」
「ああ、すみません。そういうつもりではなかったのですが……戦闘開始直後の貴女は相打ち覚悟の死にそうな雰囲気だったもので」
そんなメアリの言葉に、エフェメリスは少々ばつが悪いといった様子で視線を泳がせる。
否定しないのは、それが事実だからに他ならない。
あの時、目的が果たせればそれで十分と、最初は本気で思っていたのだから。
「生きる方向に気持ちを切り替えてくれて、今こうして無事ここに立っているのが感慨深くて」
「それはお主らのおかげじゃよ」
そう言ってエフェメリスは雉の肉を口に放り込む。
照れ隠しなのだろう。
「……戦いに行く時は、生きて帰ることも考えた方が良いと個人的に思うのです。死を覚悟して、とか相打ち覚悟でなんてマイナスじゃなくて、負けても何でも生きて帰ってきてやる、ぐらいの意気込みの方が強そうだしな」
「そうじゃな……」
それが自分に対して"だけ"向けられたものなのかと少し考えを巡らせつつ同意する。
正直、決死の覚悟なんてものはいい気がしない、自分もかつてはそうだったはずなのだから。
「おかえり、エフェメリスさん」
少々ぎこちなく、けれど以前よりもはっきりとした色を持って笑むメアリに、ただいまと返すエフェメリスの顔は、どこかくすぐったそうだった。
「あー、しかし美味い肉じゃな」
気恥ずかしさを逸らすためか鍋に意識を向け、美味いのう、ともくもく食べ始めるエフェメリス、その後ろには依代となる天球儀が立てかけられていた。
ちらりとそちらへ視線を向けたあと、Uiscaの視線が彼女へと戻る。
「エフェさん、星のことを教えてくれませんか?貴女の生きた時代の星……今の時代の星……、色々な時代の星の記憶を知りたいのです」
「土地や世相によっても変わってくるから実用的というと難しいが、わしが知る昔の記憶であれば喜んで語ろう」
かくて、様々な話の移ろう宴が、祝賀会の一角で始まろうとしていた。
正装に身を包んで、持った皿の料理――主に肉を食いながら、誰かを探している様子のコボルドに、鞍馬 真(ka5819)は興味をそそられた。
「誰か、お探しかな?」
振り返ったコボルトは、正装に見合う立派な姿をしていた。
「来テイルノカモわからないが、人ヲ、探シテイル」
「人を? 知ってる人かな?」
「ソウスケトイウ、知ラナイダロウカ?」
「ソウスケ……うーん……」
すぐさま思い当たる人物というわけではなかった真は首を傾げる。
少しの間、その人物の人となりを聞いた真は、会場で似た人物の居場所を伝えて別れた。
力になれたかはわからない、が分かれてまた会場をふらりと料理をつまみつつ移動する。
「……嬉しい光景だね。」
二階から階下を望む、その光景は今までの帝国の歴史からすればありえないようなもの、だからこそ、此度の勝利は何物にも代えがたい未来への導なのだ。
テラスで二人の世界を作っているカップルを見つけて横目に素通りしたりしていたが、やがて厨房の方での何やかやを聞きつけて会場からその足は遠のいた。
「祝勝会……殿方の胃袋を掴むチャンスですよぅ」
居たのはなぜか、祝勝会の参加者でありながら料理を作る側に回った星野 ハナ(ka5852)だった。
厨房の一角を占拠して野望に満ちているが、時と場所の選び方を間違ってはいないだろうか……。
「めでたくて豪勢……丸焼き系ですよねぇ、やっぱりぃ。でも見慣れなくて引いちゃう人もいそうだから鳥サイズでしょぉかぁ」
そんなことを言いながらテキパキと作業をすすめる彼女に、そのベクトルは間違っていると突っ込むべきか、殉職を見送るべきか、究極の選択を強いられる真だった。
「そこの方、お手すきですか?」
「えっと……はい?」
どう答えるのが正解なのか、なんとなく退路がない気がする。
「良ければ手伝って頂けますか? それともこちらの小気味いい音ダックがお好みでしょうか!? ここまで作ったら後はデザートも作っちゃいましょぉ」
だめだ、僕では止められない……そう悟った真はそのまま厨房に飲み込まれていった。
――この感じ。
「方向の間違った努力の気配……」
「なに……それ……」
夜桜 奏音(ka5754)の直感に基づいたつぶやきに、エリ・ヲーヴェン(ka6159)が怪訝な目を向ける。
「いえ、多分気の所為です。気の所為ったらきのせいです」
厨房には近づかんでおこう、とポツリと漏れた奏音のつぶやきに、エリがちらりと会場の扉を開けてそちらへと視線を向けると……
「これで殿方もぉ…ふふふふ」
という声が聞こえてきて扉をそっ閉じした、あれは触れてはいけないこの世の秘密かなにかだ、一種の禁忌に違いない。
「私……暴食王の相手は……してないのよね……」
かくてエリは強引に話題を変えることにした。
「ああ、だからお見かけしてなかったんですね」
「……ヒンメルのところに……行ってたから……」
対ハヴァマール戦のときに見かけていれば、顔ぐらい覚えていただろう。
だがあの時の戦場はいくつにも分散した特殊なものだった、多くの場所で一つの目的のために多くの者が戦っていたのだ。
「……ということは、あなたは?」
「ちょっとやりあってきました、あれは……ヤバいの一言に尽きます。次回、ハヴァマールと戦う時はもう少し対処できるように要精進ですね」
思い出したのか、微かに震える手で飲み物を流し込む。
精進とは言ったものの、黒曜封印符を用いて力を抑えてなお有り余る暴力、絶対的な力の差をどうすれば埋められるのか。
「私も、上手く行った……とは言えない……戦いだった……けど……。次に生かすわ……」
「そうですね、生きている以上、次に生かさなくては……」
そんなふうに二人が話している所、側の扉が開いてサービスワゴンを押す二人が入ってきた。
真とハナである。
「うふふふ殿方ぁ~~~」
各テーブルへと新たな料理を振る舞いながら、二人は会場の奥へと消えていく。
人によってはちょっとしたホラーに見えるかも知れないが、それはさておき、香ばしく焼き上げられたダックを切り分けることに、奏音は意識を切り替えた。
「こんなに豪勢で、本当に好きに飲み食いしていいのか?」
「勤労の対価、という事で。タダ飯食いがこの場では推奨されるものかと」
カイン・シュミート(ka6967)の言葉に、マッシュ・アクラシス(ka0771)が簡素に答える。
最もであるし、この場においては遠慮するほうが失礼に当たるだろうというのは確かだ。
「そういうものか、じゃあ遠慮せず。ほら、アントスもルルディも」
そう言って両肩にとまらせているモフロウにもお裾分けをする。
「カインさんのモフロウはよく懐いていますね」
エルフハイム産のワインを見つけて香りと味を確かめつつ、観那(ka4583)は二人に合わせる感じでゆるゆると酒につまみをつついていた。
時折向ける視線の先では、エフェメリス達が何やらわいわいと騒いでいる。
途中では天球儀を取り出して何やら説明している様子で、少し気になったが……。
そんな中で、会場を見回しながら思案気味のマッシュ。
「やっぱ、パイセンも感慨深いもんあるんですか?」
「……まあ、そうですね。一昔前であれば考えられなかった光景ですから」
近年の変化はあまりにも急で、歴史の転換点を否応なく感じさせられる。
「良いも悪いも、後の歴史が決めることでしょう。私は今後共、有意義な仕事であればそれで結構」
そう言ってくいっと手のワイングラスを空にする。
「仕事人間ですね、マッシュさんは」
お注ぎしましょう、といってワインの瓶をかざす観那に、マッシュはだいぶ腰を掲げながらそれを頼むのだった。
三人で話しつつ、料理やお酒の銘柄などを確認していると、やがて遠目に見ていた席に座っていたものたちが散っていく。
「どうやら場が空いたようですね」
いまがチャンスだ。
「言の葉を導き手はご機嫌麗しゅう……と言いたいが、普通にこんばんは」
「はは、カインに観那……と、初めましてじゃな?」
軽くマッシュとエフェメリスが挨拶を交わしたところで、改めて無事であることを確認して安心したのかカインがほっと息を吐く。
まずはと軽く乾杯を交わしたところで、席のメンツがぐるりとかわった。
「無事で良かった。嬉し……アントス、ルルディ何で機嫌悪ぃんだ?」
何やら不機嫌になってカインをつつき始めるモフロウ二羽に、エフェメリスだけが小さく笑った。
最初こそ少し硬かった話し始めは、これからを語るに至って次第に弾んでゆく。
「行ってみたい場所、リアルブルーの話は興味があるがの」
うまい飯があるらしい、なんて付け足された言葉に、三人から笑いが漏れる。
「お酒とかはどうなんですか?」
「酒も美味いものばっかりで驚いておるよ、そっちのなんか濁ったやつが不思議な口当たりでのう」
「これですか?」
そういって観那が手に取った瓶には、花蜜酒「白霞」と記されていた。
「どうやら美味しいものに目がない感じですか」
「そりゃ、うっかり目覚めたらうまいものだらけとなれば、そうなるじゃろ?」
マッシュの言葉にエフェメリスはそう笑って返す。
長くなった話のあと、名残惜しい別れ際が訪れるのは世の常だ。
「本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございます。此度の恩に報いるためにも、運命の精霊が望む未来を観れるよう、精進していく所存です。……エフェメリスさんの未来に、幸多からん事を」
「ありがとう、観那。お主達にも、良き未来が掴めるように」
「かんぱーい♪」
時間は少し遡り、盛大に乾杯が行われた直後。
ぷはぁ、とコーラを半分ほどあけて、メイム(ka2290)一息ついた所でグラスを置いた。
(ゼナさんいないなー)
壇上周辺を軽く見回してみても、目当ての姿は見当たらない。
その代わりに、見覚えのある赤い髪とジャケットが目について、グラスを片手にそちらの方へと移動する。
目指す先に居たのは人を探し会場を回るルベーノ・バルバライン(ka6752)だった。
「ルベーノさんこんにちは。今日はひとりー? 会場のどこかにミモザさんもいるらしいから、紹介してくれると嬉しいな」
「メイムか。うむ、らしいから先程から俺も探しているのだが、見当たらん」
目的の人物が小柄であるためか、人混みにすっかり紛れてしまっているのだろう。
「この人混みだしね、会場を広く回ってる人とかに聞いてみる?」
「それも手か。そこなウェイター、ちょっといいか?」
「ん……シンさん!? なにしてんの?」
ルベーノに声をかけられて振り返った真に気づき、メイムが困惑の声をあげる。
なぜにウェイターなのか。
「いや、胃袋をつかむのです、って彼女につかまって……」
指差す方にこんがり焼けたダックを配って回るハナの姿。
「ハナさんですか」
察した、とばかりのメイムの声に、事情がわからないルベーノが少々首をひねったあと、まあそれはよいからと強引に話を変えた。
「ルベーノおにーちゃん?」
壁の方の席で花となっていたミモザは、久しぶりに会ったルベーノに驚いて食べる手を止めた。
「はっはっは、メリークリスマス、ミモザ。元気にしていたか。クリスマスプレゼントだ」
そう言って贈り物よろしくラッピングされた包みをミモザへと渡す、そのルベーノの姿は妹思いな剛毅な兄といった感じである。
「この子が話に聞く……初めましてミモザさん、あたしはメイムって言うよ、依頼で一緒になる時は宜しくね」
「え? あっ、は……はい、よろしくお願いします……」
初対面の空いてに若干気後れ気味だったミモザは、けれどメイムの勢いに飲まれて流されてしまう。
そもそもとして場の雰囲気に飲まれかけていたのかもしれない。
「ところでシルヴァがどこにいるか知らないか?」
「んー、多分二階だとおもうけど」
「そうか、ではいくぞ」
「えっ」
打てば響くような即答にあっけにとられたミモザは、すでに進み始めたルベーノを追いかけるべく食べている途中のお皿を慌てて手に取った。
探す道々話はすすみ、名前の由来のことなどメイムとミモザは話しながら後をついていく。
「なるほど、それで名前をもらったんだね」
「はい。なので、名前も宝物なんです」
「そっか、そういうのいいね」
「居たな」
次第にほわほわとした雰囲気を帯びてくる二人を、ルベーノの声が遮った。
こちらもまた、会場の隅っこで目立たないようにしているのだから、ある意味ミモザと似ているのかもしれない。
「食べているか、シルヴァ? メリークリスマス」
「……ルベーノさん、お久しぶりですね。メリークリスマス」
一瞬驚いたものの、すぐに顔を取り繕ってシルヴァは微笑んで返す。
その様子にルベーノは、うむと頷いて見せた。
「うむ、元気そうでなによりだ」
そのまま流れるように、手渡された包みを見て、シルヴァはあら、と表情をほころばせた。
半透明の可愛らしい包みの中には、色とりどりのマカロンとマシュマロが詰め込まれている。
「ふふ、ありがとうございます。まさか贈り物をもらうなんて思わなかったわ」
「ミモザはまだ子供だから普段使いの物で喜んでくれるだろうが、大人のお前は消え物の方が後腐れなくて良かろう? 分かったか、ミモザ? クリスマスはこうやって大人同士でも感謝のプレゼントやカードを交換したり渡したりするのだ。来年はお前もシルヴァに贈ってやれ、きっと喜ぶ」
「あらあら、これは来年が楽しみねぇ」
そうミモザに言って聞かせるルベーノの姿にメイムとの様子、ミモザはよい人のめぐり合わせに恵まれたと、表には出さず喜ぶシルヴァなのだった。
「そういえば、ミモザさんから見たルベーノさんはどんな感じなの?」
妹的存在と言っていたことを思い出し、こそっと本人に聞こえないように聞くメイムに、ミモザは少しの間言葉を探して視線を泳がせる。
「なんか、すごいおにーちゃん、かな?」
いろんな表現をごった煮にしたようなその表現に、なるほどとメイムは内心で頷くのだった。
「お、こんなところに居たのか」
ルベーノたちとは反対側のほうから現れたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)に、その場の視線が集中する。
「む?」
「あら、グリムバルドさん」
「バルドおにーちゃんだ」
「グリムさんだー」
ばったりと顔を合わせた面々が、わりと面識のある状況というのもなかなか珍しいのではないだろうか。
山盛りのジャガイモ料理を皿にのせて会場を巡っていたらしく、今はざく切りのポテトフライとハッシュドポテトなどがたんまりと乗っていた。
「隅っこでひっそりしてようとおもったんだけど、大所帯になってきたわね」
「なんだその皿は、芋ばかりではないか」
「好きなんだよ、じゃがいもと菓子があればだいたい幸せだぜ? ときにシルヴァさん、その菓子がしこたま盛られた皿は……」
「ちょっと物珍しいものがあったから」
グリムバルドからの視線を避けるようにあさっての方へと視線を投げたシルヴァだが、少しして皿をテーブルの中央へと動かしてくる。
「まあ、みんなで食べましょう、ほら」
「もしかしてシルヴァお姉ちゃんそれが目当てだったの?」
「聞こえないわね!」
無論、本気ではないのだろうが、ノリよく大げさな身振り手振りにどこからともなく笑いが漏れる。
「しかしこうも見知った顔が集まるとなると、あとニ、三人はくるんじゃないか?」
「見つけましたよっ!」
「おわっ!」
背後からの元気な声が完全に不意打ちだったのか、グリムバルドの取ろうとしたポテトがケチャップの中にダイブした。
「ミモザさん! さぁ、お祝いですよ!」
アシェ-ル(ka2983)は現れるやいなやミモザを後ろから捕獲する。
別に逃げられるわけでもないだろうが、そのさまは何やら鼻息荒い。
「ミモザさんも立派な功労者なのですから、もっと中央いきましょう!」
アシェールの指し示す中央、そこは一時的にテーブルがどけられてダンスフロアとなっており、今もちらほらと相手が入れ替わっている様子だ。
流石に視線も集中するのか恥ずかしそうなミモザ。
「其々が役目をキチンと果たしたからこその勝利ですから、ミモザさんも胸を張りましょう!」
その様子を、保護者はスルーして甘味へと意識を戻した。
「という事で、踊りましょう! 大丈夫です! 私、下手っぴなので!」
「そ、それは何が大丈夫なの?!」
どうやら、アシェールも今回の勝利に相当舞い上がっている様子だった。
「足踏まれてもいいっていってるんだし、今のうちに経験してきなさいな」
「そんな風に言うってことは、シルヴァさんは踊れる感じなのかな?」
不意に差し込まれたグリムバルドの言葉に、不動で一言。
「ご想像におまかせするわ」
と返すのだった。
「あら、入れ違っちゃったかしら?」
「今日は先客万来ね、どうしたの紫水晶?」
現れた未悠に軽く手を振りつつ、シルヴァが返す。
「御礼を言いに来たのだけれど、連れて行かれちゃったみたいね。貴女達と共闘できて心強かったわ。敵を倒すよりも味方を守る…それがシルヴァの戦い方なのね」
「ん、んー……そう、ね」
少し歯切れの悪い返事をするシルヴァ。
なんとなくお互い察したままに、けれどそれを口にすることはなかった。
次第に夜も更けて人が少し少なくなった頃、ついぞシェリル・マイヤーズ(ka0509)は想い人――カッテ・ウランゲルと鉢合わせた。
月明かりが照らすテラスに、ふいと現れたその姿、時間が止まったような錯覚。
「カッテ……」
「シェリルさん、お久しぶりです」
月明かりに照らされて、彼の片耳に覚えのある色のイヤリングが映った。
「逢えてよかっ――」
カッテが微笑んで言葉を紡ぐより一瞬速く、シェリルは飛び出していた。
無事でよかったという想い。
変わっていく国への不安。
様々なものがない混ぜになって、そんな行動に出たシェリルをカッテはそっと抱きとめる。
「ご心配おかけしました」
「いいの……信じたまま、やりきれば」
手の中に、確かな暖かさ。
それが確かにカッテを後押ししてくれる。
「もしも……もしも、ね。追われることになったら、絶対に攫いに行くから」
「ふふふ……シェリルさんは頼もしいですね」
溜まったものを吐き出すように、足りない時間を埋めるように、ゆっくりと言葉少なに語り合う二人の姿を、視るものはほとんど居なかった。
次第に閑散としていく会場が見通しを良くして、近衛 惣助(ka0510)はホロンと巡り逢った。
「ソウスケ!」
「ホロン! 来てたんだな! 息災かい?」
「ウム、元気デヤッテイル。ソウスケモ無事ナヨウデヨカッタ」
大きな戦いの後だからこそ、無事を確かめたかった。
そう告げるホロンと一緒に、次第と閑散とし始めた会場の席で話をふくらませる。
最近のブラストエッジのこと。
流石にイサ・ジャとラシュラ・ベノも一緒に席を外すのは難しかったらしいが、ホロンだけはマハ王という事もあり、なんとか時間を作ったらしい。
すっかり遅くなった乾杯を交わして、静かな話は続く。
「色々あったもんな……ブラストエッジでの俺達の戦いが、巡り巡って今回の勝利に繋がった気がするよ」
少し自惚れが過ぎるだろうか。
けれどホロンは静かに頷いて同意する。
「小サナ川ガ大キナ流レニナルヨウナ、ソンナ縁ヲ感ジル」
互いに同じようなことを思っていたとしり、自然と笑いあった。
未来は続いてゆく。
この流れの先に。
そう、今は信じられる。
冷たい夜風に酔いを覚ましながら、中庭のベンチに腰を下ろし、ゆらりと思いを巡らせる。
……そも、私は讃えられたくて戦いに臨んだのではない。
しかし英雄の一人にいつしか数えられていた。
ぼんやりとして形にならない思いは、次第に一つの答えへと結ばれてゆき、それが結実した時アウレールははたと膝を打った。
こみ上げてくるのは苦笑だ。
「そうか、貴方達が言っていたのはこれか」
望むままに走り抜けた。
そして今がある。
今、たしかに「物語」を継いだ、そして繋いでゆくのだ。
目の前にある困難は膨大で、けれど怯む気は一切しない。
確かな決意と覚悟を持って顔をあげ、そして彼は不意に声をかけられた。
「探したぞ。感心せんな、怪我人がうろつくのは」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル。
敬愛すべき至尊の君の姿があった。
多くの者達がそれに合わせて勝利を叫んだ。
様々な種族、精霊たちを交えた祝賀会は、飾り付けられた会場と灯された幾つものキャンドル、楽団の奏でる音色、それらを無邪気に彩る精霊たちによって、幻想的な世界へと変じていた。
水が、風が、炎が、氷が、雷が、音楽に合わせて踊るように会場を飾る。
今までの帝国であれば、決して見ることなど叶わなかっただろうその光景、それはまさしく、長き戦いの末に手にしたものである。
そんな光景の中、大ぶりのグラスになみなみと注がれたエールを一息に飲み干して、豪快に声を上げる姿。
「くあー……やっぱ勝った後の酒は格別だなぁ!」
体は痛むが心は弾む、そんな様子でボルディア・コンフラムス(ka0796)は空になったグラスに溢れんばかりのエールを注ぎ足して会場を軽く一瞥する。
酒も料理も、一人では物足りない。
そんなボルディアの視界に白い人影がひょいと現れ、様々な料理の盛られた陽気なワンプレートを差し出した。
「料理も美味しいの、おすすめなの」
「お、おお。さんきゅー?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)の差し出したプレートを受け取って、近場の席へと移動する。
その間、そこかしこのテーブルからフェルミはプレートにこれでもかというぐらいの料理を積み上げていた。
「それ、全部喰――えるのか?」
ボルディアからすれば自身よりも遥かに細身のフェルミの姿。
「修行(?)の成果を見せつけるの喉元まで食べ尽くすの私の胃袋が火を吹くのー」
そう言ってフォークを構えるフェルミを見守りつつ、ボルディアも早速とばかりに料理に手を伸ばす。
大きく切り分けられた肉の塊は、何かの丸焼きから切り出したものなのだろう、柔らかく、噛みしめれば肉汁がじゅわっと溢れ出す。
帝国名産のじゃがいもを使ったサラダは滋味にあふれ、野菜の甘さと程よく調和していた。
「くぅ~、飯もうめえな!」
食べ始めてしまえばあとは早いもので、フェルミの用意したワンプレートはあっさりと完食された。
その様子を嬉しそうにしながら、彼女も積み上げられた料理をじっくりと味わいながら食べ進めていく。
時折お互いに席を立っては料理を仕入れて戻ってくるのだが……。
「すげえ健啖家っぷりだなあ」
「祝勝会なのお料理楽しみなのー」
「食べたこと無いものとか多くて楽しいよな」
「うん、食べ尽くすの」
フォークを聖剣のように掲げ、そしてフェルミは再び料理へと没頭する、そんなどう考えても平和としか表現できないような目の前の光景に、思わず笑みが溢れた。
「……隣、空いているか?」
きちんとスーツに身を包んだアウレール・V・ブラオラント(ka2531)の姿に、料理を食べるボルディアの手が止まる。
「よ~アウレール。剣豪にボッコボコにされたんだって? ホント、生きてて良かったぜ」
「そう簡単に死んでたまるか……痛っ、叩くな!」
一見してしゃんとしていたアウレールだが、ボルディアに背中をばしばしと叩かれて顔をしかめる。
「……なんだよ、無理してんなあ」
服越しに感じた包帯の感触に、まだ傷が治りきっていないことはすぐ知れた。
無論、それを口にするほど無粋ではないし、わかるのは前線で共に戦っているようなハンターや――
「作った人の真心なの味わうの」
いつの間にやらワンプレートを用意してきた、フェルミのような高位のヒーラーぐらいだろう。
プレートは多少しんどい体にも食べやすいようなものが選りすぐられていた。
「受け取れよ、彼女のおすすめは美味いぞ」
「む……では、ありがたく受け取らせてもらおう」
一息ついて、腰を下ろすアウレールを見つけてか、黒髪の女性がまた一人寄ってきてその肩にぽんと手を置く。
「見つけた♪」
「ミユ……貴女も来ていたのか」
「ええ、お祝いをしにね。見たところ飲み物が無いようだったから」
そう言って高瀬 未悠(ka3199)が差し出すグラスを受け取って、アウレールは短く礼を口にする。
「輝かしい受勲と貴方の新たなスタートに……乾杯」
「そういやアウレールは今回受勲してたっけか、そりゃ祝わないとな!」
グラスが割れるのではないか、と思うぐらい強めの乾杯に、注がれたエールが溢れてテーブルに跡を残す。
ボルディアに振り回され気味の様子を見ていると、年相応にしか見えなくて、未悠はなんとなくそんな様子にほっとする。
アウレールの持つ危うさと隣合わせの強さは、今このときだけ、わずかになりをひそめていた。
「偶には年相応な我儘を言ってもいいんじゃないかしら、私で良ければ付き合うわよ」
そんな言葉にアウレールが盛大に咽たのはここだけの話である。
あえて表現をするというのなら――場違い、というのが適切かもしれない。
祝勝会の場であって、二人はまるで違う空気を作り上げていた。
料理や勝利の余韻を楽しむ、という風情ではない二人は手を恋人繋ぎしたまま入場し、今はテラスの一角で二人の世界を楽しんでいた。
(この近さに慣れてしまったというか、うれしいような気がするというか……私、流され過ぎでしょうか)
そんな考え事をする穂積 智里(ka6819)の後頭部に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はまるでそれが当たり前というような動作でキスを落とす。
その行動が、智里をより一層思考のループに誘うのだ。
近すぎる、その距離……。
(私のマウジーは私がアビトゥーアに合格した頃より随分幼く感じますが……)
それにしても、これぐらいのことすら慣れないのかと思うと不便だと思う反面、別の感情もうかんでくる。
(それを待つのを楽しく感じる私は……だからこそ生国では異端なわけですが)
言葉は少なく、けれど互いを思う気持ちは密なまま、そんな姿は会場故に見られないわけもなく……。
(あれは推理するまでも無いわね……)
そう、見えたままに結論づけて、エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は熱い二人を横目に料理の皿を手にテラスを抜けていく。
さて、お目当ての人物(?)はどこだろうかと探してゆけば、二階の隅の席に陣取って、空になった皿を数枚積み上げているエフェメリスの姿があった。
向こうも気づいたのか、食べる手を止めて手を振ってくる。
「お久しぶり」
「あの時以来じゃな、楽しんどるか?」
「ええ、いろんな料理に出会えたしね。あ、これはおすすめよ」
そう言ってエーミの差し出した皿に、よいのかと確認してからエフェメリスは手を伸ばす。
そちらはすでに推理の済んだ皿であり、彼女の手元に残るのはまだ記していないものたちだ。
会食の場にあって、魔導書を開き何かを記載していく彼女の行動が気になったのだろう、食べる手も緩む。
それに気づいたのか、エーミもそれを語る側へと回る。
「私の推理術は、こういった事のために得た技術で、戦場での使用はイレギュラー。『知識』は受け継がれていくけど、私が興味あるのはこの料理が「何故」生まれてきたかなの。」
「ふむ、なるほどのう……わしらの頃は、とにかくかさを増やすのに必死だったもんじゃが……お主はそうやって世界を視るのじゃな」
それは料理を見る上で、エフェメリスにとっては全くと言っていいほどに考えなかった視点である。
美味い料理に興味深いエーミの視点と知見、気づけば食べる手は緩み話に口が使われることへと次第に寄ってゆく。
「世界は謎に満ちあふれているし、自分で作り出すことも可能なの」
そう語るエーミに、感心し頷くエフェメリスだった。
その視界に、見覚えのある姿が写り、ふらりと視線が向く。
つられて視線を向けたエーミもその姿を覚えていたらしく、四つの視線が交錯した。
気づいていそいそと近寄る陽光のような金髪に対し、しばらくじっとその姿を確認してから、静かな月のような金髪が続く。
「こちらにいらっしゃったのですね」
「うむ、久しいな、元気にしておったか? お主は今日は一人かえ?」
メアリ・ロイド(ka6633)とUisca Amhran(ka0754)の二人に座るように促す。
Uiscaは以前、隣り合うように立つものがおったなと思い出し、探して視線を動かすが……。
「できれば彼といっしょに参加したかったんですけど……今回は都合があわずに不参加なのです……」
「残念じゃな……そういえば礼がまだじゃったか。お主らのおかげでこうして無事にここに居られる、ありがとう。彼にも、伝えておいてもらえるかの?」
「はい、忘れず伝えておきますね」
テーブルの上に鍋をどんと置きながら答えるUiscaに微笑んで頷くエフェメリスは、内心で新たな食の気配を察知していた。
「私の部族のご馳走なのです! みなさんもぜひ!」
そう言ってUiscaが蓋を開けてでてきたのは雉鍋だった。
祝勝会で並ぶ料理とはまた毛色が違っているが、漂う香りはなんとも食欲をそそるものである。
促されて具を皿にひょいひょいと取っていくエフェメリスにエーミも続く。
エーミは早速とばかりに料理についての推理を巡らし始めるのだが、そんな中でメアリはじっとエフェメリスのことを確認していた。
そこにちゃんといるのだろうか、というような気配をまといつつ。
「そんなに熱い視線を向けられてしまうと穴が空いてしまいそうじゃな」
「ああ、すみません。そういうつもりではなかったのですが……戦闘開始直後の貴女は相打ち覚悟の死にそうな雰囲気だったもので」
そんなメアリの言葉に、エフェメリスは少々ばつが悪いといった様子で視線を泳がせる。
否定しないのは、それが事実だからに他ならない。
あの時、目的が果たせればそれで十分と、最初は本気で思っていたのだから。
「生きる方向に気持ちを切り替えてくれて、今こうして無事ここに立っているのが感慨深くて」
「それはお主らのおかげじゃよ」
そう言ってエフェメリスは雉の肉を口に放り込む。
照れ隠しなのだろう。
「……戦いに行く時は、生きて帰ることも考えた方が良いと個人的に思うのです。死を覚悟して、とか相打ち覚悟でなんてマイナスじゃなくて、負けても何でも生きて帰ってきてやる、ぐらいの意気込みの方が強そうだしな」
「そうじゃな……」
それが自分に対して"だけ"向けられたものなのかと少し考えを巡らせつつ同意する。
正直、決死の覚悟なんてものはいい気がしない、自分もかつてはそうだったはずなのだから。
「おかえり、エフェメリスさん」
少々ぎこちなく、けれど以前よりもはっきりとした色を持って笑むメアリに、ただいまと返すエフェメリスの顔は、どこかくすぐったそうだった。
「あー、しかし美味い肉じゃな」
気恥ずかしさを逸らすためか鍋に意識を向け、美味いのう、ともくもく食べ始めるエフェメリス、その後ろには依代となる天球儀が立てかけられていた。
ちらりとそちらへ視線を向けたあと、Uiscaの視線が彼女へと戻る。
「エフェさん、星のことを教えてくれませんか?貴女の生きた時代の星……今の時代の星……、色々な時代の星の記憶を知りたいのです」
「土地や世相によっても変わってくるから実用的というと難しいが、わしが知る昔の記憶であれば喜んで語ろう」
かくて、様々な話の移ろう宴が、祝賀会の一角で始まろうとしていた。
正装に身を包んで、持った皿の料理――主に肉を食いながら、誰かを探している様子のコボルドに、鞍馬 真(ka5819)は興味をそそられた。
「誰か、お探しかな?」
振り返ったコボルトは、正装に見合う立派な姿をしていた。
「来テイルノカモわからないが、人ヲ、探シテイル」
「人を? 知ってる人かな?」
「ソウスケトイウ、知ラナイダロウカ?」
「ソウスケ……うーん……」
すぐさま思い当たる人物というわけではなかった真は首を傾げる。
少しの間、その人物の人となりを聞いた真は、会場で似た人物の居場所を伝えて別れた。
力になれたかはわからない、が分かれてまた会場をふらりと料理をつまみつつ移動する。
「……嬉しい光景だね。」
二階から階下を望む、その光景は今までの帝国の歴史からすればありえないようなもの、だからこそ、此度の勝利は何物にも代えがたい未来への導なのだ。
テラスで二人の世界を作っているカップルを見つけて横目に素通りしたりしていたが、やがて厨房の方での何やかやを聞きつけて会場からその足は遠のいた。
「祝勝会……殿方の胃袋を掴むチャンスですよぅ」
居たのはなぜか、祝勝会の参加者でありながら料理を作る側に回った星野 ハナ(ka5852)だった。
厨房の一角を占拠して野望に満ちているが、時と場所の選び方を間違ってはいないだろうか……。
「めでたくて豪勢……丸焼き系ですよねぇ、やっぱりぃ。でも見慣れなくて引いちゃう人もいそうだから鳥サイズでしょぉかぁ」
そんなことを言いながらテキパキと作業をすすめる彼女に、そのベクトルは間違っていると突っ込むべきか、殉職を見送るべきか、究極の選択を強いられる真だった。
「そこの方、お手すきですか?」
「えっと……はい?」
どう答えるのが正解なのか、なんとなく退路がない気がする。
「良ければ手伝って頂けますか? それともこちらの小気味いい音ダックがお好みでしょうか!? ここまで作ったら後はデザートも作っちゃいましょぉ」
だめだ、僕では止められない……そう悟った真はそのまま厨房に飲み込まれていった。
――この感じ。
「方向の間違った努力の気配……」
「なに……それ……」
夜桜 奏音(ka5754)の直感に基づいたつぶやきに、エリ・ヲーヴェン(ka6159)が怪訝な目を向ける。
「いえ、多分気の所為です。気の所為ったらきのせいです」
厨房には近づかんでおこう、とポツリと漏れた奏音のつぶやきに、エリがちらりと会場の扉を開けてそちらへと視線を向けると……
「これで殿方もぉ…ふふふふ」
という声が聞こえてきて扉をそっ閉じした、あれは触れてはいけないこの世の秘密かなにかだ、一種の禁忌に違いない。
「私……暴食王の相手は……してないのよね……」
かくてエリは強引に話題を変えることにした。
「ああ、だからお見かけしてなかったんですね」
「……ヒンメルのところに……行ってたから……」
対ハヴァマール戦のときに見かけていれば、顔ぐらい覚えていただろう。
だがあの時の戦場はいくつにも分散した特殊なものだった、多くの場所で一つの目的のために多くの者が戦っていたのだ。
「……ということは、あなたは?」
「ちょっとやりあってきました、あれは……ヤバいの一言に尽きます。次回、ハヴァマールと戦う時はもう少し対処できるように要精進ですね」
思い出したのか、微かに震える手で飲み物を流し込む。
精進とは言ったものの、黒曜封印符を用いて力を抑えてなお有り余る暴力、絶対的な力の差をどうすれば埋められるのか。
「私も、上手く行った……とは言えない……戦いだった……けど……。次に生かすわ……」
「そうですね、生きている以上、次に生かさなくては……」
そんなふうに二人が話している所、側の扉が開いてサービスワゴンを押す二人が入ってきた。
真とハナである。
「うふふふ殿方ぁ~~~」
各テーブルへと新たな料理を振る舞いながら、二人は会場の奥へと消えていく。
人によってはちょっとしたホラーに見えるかも知れないが、それはさておき、香ばしく焼き上げられたダックを切り分けることに、奏音は意識を切り替えた。
「こんなに豪勢で、本当に好きに飲み食いしていいのか?」
「勤労の対価、という事で。タダ飯食いがこの場では推奨されるものかと」
カイン・シュミート(ka6967)の言葉に、マッシュ・アクラシス(ka0771)が簡素に答える。
最もであるし、この場においては遠慮するほうが失礼に当たるだろうというのは確かだ。
「そういうものか、じゃあ遠慮せず。ほら、アントスもルルディも」
そう言って両肩にとまらせているモフロウにもお裾分けをする。
「カインさんのモフロウはよく懐いていますね」
エルフハイム産のワインを見つけて香りと味を確かめつつ、観那(ka4583)は二人に合わせる感じでゆるゆると酒につまみをつついていた。
時折向ける視線の先では、エフェメリス達が何やらわいわいと騒いでいる。
途中では天球儀を取り出して何やら説明している様子で、少し気になったが……。
そんな中で、会場を見回しながら思案気味のマッシュ。
「やっぱ、パイセンも感慨深いもんあるんですか?」
「……まあ、そうですね。一昔前であれば考えられなかった光景ですから」
近年の変化はあまりにも急で、歴史の転換点を否応なく感じさせられる。
「良いも悪いも、後の歴史が決めることでしょう。私は今後共、有意義な仕事であればそれで結構」
そう言ってくいっと手のワイングラスを空にする。
「仕事人間ですね、マッシュさんは」
お注ぎしましょう、といってワインの瓶をかざす観那に、マッシュはだいぶ腰を掲げながらそれを頼むのだった。
三人で話しつつ、料理やお酒の銘柄などを確認していると、やがて遠目に見ていた席に座っていたものたちが散っていく。
「どうやら場が空いたようですね」
いまがチャンスだ。
「言の葉を導き手はご機嫌麗しゅう……と言いたいが、普通にこんばんは」
「はは、カインに観那……と、初めましてじゃな?」
軽くマッシュとエフェメリスが挨拶を交わしたところで、改めて無事であることを確認して安心したのかカインがほっと息を吐く。
まずはと軽く乾杯を交わしたところで、席のメンツがぐるりとかわった。
「無事で良かった。嬉し……アントス、ルルディ何で機嫌悪ぃんだ?」
何やら不機嫌になってカインをつつき始めるモフロウ二羽に、エフェメリスだけが小さく笑った。
最初こそ少し硬かった話し始めは、これからを語るに至って次第に弾んでゆく。
「行ってみたい場所、リアルブルーの話は興味があるがの」
うまい飯があるらしい、なんて付け足された言葉に、三人から笑いが漏れる。
「お酒とかはどうなんですか?」
「酒も美味いものばっかりで驚いておるよ、そっちのなんか濁ったやつが不思議な口当たりでのう」
「これですか?」
そういって観那が手に取った瓶には、花蜜酒「白霞」と記されていた。
「どうやら美味しいものに目がない感じですか」
「そりゃ、うっかり目覚めたらうまいものだらけとなれば、そうなるじゃろ?」
マッシュの言葉にエフェメリスはそう笑って返す。
長くなった話のあと、名残惜しい別れ際が訪れるのは世の常だ。
「本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございます。此度の恩に報いるためにも、運命の精霊が望む未来を観れるよう、精進していく所存です。……エフェメリスさんの未来に、幸多からん事を」
「ありがとう、観那。お主達にも、良き未来が掴めるように」
「かんぱーい♪」
時間は少し遡り、盛大に乾杯が行われた直後。
ぷはぁ、とコーラを半分ほどあけて、メイム(ka2290)一息ついた所でグラスを置いた。
(ゼナさんいないなー)
壇上周辺を軽く見回してみても、目当ての姿は見当たらない。
その代わりに、見覚えのある赤い髪とジャケットが目について、グラスを片手にそちらの方へと移動する。
目指す先に居たのは人を探し会場を回るルベーノ・バルバライン(ka6752)だった。
「ルベーノさんこんにちは。今日はひとりー? 会場のどこかにミモザさんもいるらしいから、紹介してくれると嬉しいな」
「メイムか。うむ、らしいから先程から俺も探しているのだが、見当たらん」
目的の人物が小柄であるためか、人混みにすっかり紛れてしまっているのだろう。
「この人混みだしね、会場を広く回ってる人とかに聞いてみる?」
「それも手か。そこなウェイター、ちょっといいか?」
「ん……シンさん!? なにしてんの?」
ルベーノに声をかけられて振り返った真に気づき、メイムが困惑の声をあげる。
なぜにウェイターなのか。
「いや、胃袋をつかむのです、って彼女につかまって……」
指差す方にこんがり焼けたダックを配って回るハナの姿。
「ハナさんですか」
察した、とばかりのメイムの声に、事情がわからないルベーノが少々首をひねったあと、まあそれはよいからと強引に話を変えた。
「ルベーノおにーちゃん?」
壁の方の席で花となっていたミモザは、久しぶりに会ったルベーノに驚いて食べる手を止めた。
「はっはっは、メリークリスマス、ミモザ。元気にしていたか。クリスマスプレゼントだ」
そう言って贈り物よろしくラッピングされた包みをミモザへと渡す、そのルベーノの姿は妹思いな剛毅な兄といった感じである。
「この子が話に聞く……初めましてミモザさん、あたしはメイムって言うよ、依頼で一緒になる時は宜しくね」
「え? あっ、は……はい、よろしくお願いします……」
初対面の空いてに若干気後れ気味だったミモザは、けれどメイムの勢いに飲まれて流されてしまう。
そもそもとして場の雰囲気に飲まれかけていたのかもしれない。
「ところでシルヴァがどこにいるか知らないか?」
「んー、多分二階だとおもうけど」
「そうか、ではいくぞ」
「えっ」
打てば響くような即答にあっけにとられたミモザは、すでに進み始めたルベーノを追いかけるべく食べている途中のお皿を慌てて手に取った。
探す道々話はすすみ、名前の由来のことなどメイムとミモザは話しながら後をついていく。
「なるほど、それで名前をもらったんだね」
「はい。なので、名前も宝物なんです」
「そっか、そういうのいいね」
「居たな」
次第にほわほわとした雰囲気を帯びてくる二人を、ルベーノの声が遮った。
こちらもまた、会場の隅っこで目立たないようにしているのだから、ある意味ミモザと似ているのかもしれない。
「食べているか、シルヴァ? メリークリスマス」
「……ルベーノさん、お久しぶりですね。メリークリスマス」
一瞬驚いたものの、すぐに顔を取り繕ってシルヴァは微笑んで返す。
その様子にルベーノは、うむと頷いて見せた。
「うむ、元気そうでなによりだ」
そのまま流れるように、手渡された包みを見て、シルヴァはあら、と表情をほころばせた。
半透明の可愛らしい包みの中には、色とりどりのマカロンとマシュマロが詰め込まれている。
「ふふ、ありがとうございます。まさか贈り物をもらうなんて思わなかったわ」
「ミモザはまだ子供だから普段使いの物で喜んでくれるだろうが、大人のお前は消え物の方が後腐れなくて良かろう? 分かったか、ミモザ? クリスマスはこうやって大人同士でも感謝のプレゼントやカードを交換したり渡したりするのだ。来年はお前もシルヴァに贈ってやれ、きっと喜ぶ」
「あらあら、これは来年が楽しみねぇ」
そうミモザに言って聞かせるルベーノの姿にメイムとの様子、ミモザはよい人のめぐり合わせに恵まれたと、表には出さず喜ぶシルヴァなのだった。
「そういえば、ミモザさんから見たルベーノさんはどんな感じなの?」
妹的存在と言っていたことを思い出し、こそっと本人に聞こえないように聞くメイムに、ミモザは少しの間言葉を探して視線を泳がせる。
「なんか、すごいおにーちゃん、かな?」
いろんな表現をごった煮にしたようなその表現に、なるほどとメイムは内心で頷くのだった。
「お、こんなところに居たのか」
ルベーノたちとは反対側のほうから現れたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)に、その場の視線が集中する。
「む?」
「あら、グリムバルドさん」
「バルドおにーちゃんだ」
「グリムさんだー」
ばったりと顔を合わせた面々が、わりと面識のある状況というのもなかなか珍しいのではないだろうか。
山盛りのジャガイモ料理を皿にのせて会場を巡っていたらしく、今はざく切りのポテトフライとハッシュドポテトなどがたんまりと乗っていた。
「隅っこでひっそりしてようとおもったんだけど、大所帯になってきたわね」
「なんだその皿は、芋ばかりではないか」
「好きなんだよ、じゃがいもと菓子があればだいたい幸せだぜ? ときにシルヴァさん、その菓子がしこたま盛られた皿は……」
「ちょっと物珍しいものがあったから」
グリムバルドからの視線を避けるようにあさっての方へと視線を投げたシルヴァだが、少しして皿をテーブルの中央へと動かしてくる。
「まあ、みんなで食べましょう、ほら」
「もしかしてシルヴァお姉ちゃんそれが目当てだったの?」
「聞こえないわね!」
無論、本気ではないのだろうが、ノリよく大げさな身振り手振りにどこからともなく笑いが漏れる。
「しかしこうも見知った顔が集まるとなると、あとニ、三人はくるんじゃないか?」
「見つけましたよっ!」
「おわっ!」
背後からの元気な声が完全に不意打ちだったのか、グリムバルドの取ろうとしたポテトがケチャップの中にダイブした。
「ミモザさん! さぁ、お祝いですよ!」
アシェ-ル(ka2983)は現れるやいなやミモザを後ろから捕獲する。
別に逃げられるわけでもないだろうが、そのさまは何やら鼻息荒い。
「ミモザさんも立派な功労者なのですから、もっと中央いきましょう!」
アシェールの指し示す中央、そこは一時的にテーブルがどけられてダンスフロアとなっており、今もちらほらと相手が入れ替わっている様子だ。
流石に視線も集中するのか恥ずかしそうなミモザ。
「其々が役目をキチンと果たしたからこその勝利ですから、ミモザさんも胸を張りましょう!」
その様子を、保護者はスルーして甘味へと意識を戻した。
「という事で、踊りましょう! 大丈夫です! 私、下手っぴなので!」
「そ、それは何が大丈夫なの?!」
どうやら、アシェールも今回の勝利に相当舞い上がっている様子だった。
「足踏まれてもいいっていってるんだし、今のうちに経験してきなさいな」
「そんな風に言うってことは、シルヴァさんは踊れる感じなのかな?」
不意に差し込まれたグリムバルドの言葉に、不動で一言。
「ご想像におまかせするわ」
と返すのだった。
「あら、入れ違っちゃったかしら?」
「今日は先客万来ね、どうしたの紫水晶?」
現れた未悠に軽く手を振りつつ、シルヴァが返す。
「御礼を言いに来たのだけれど、連れて行かれちゃったみたいね。貴女達と共闘できて心強かったわ。敵を倒すよりも味方を守る…それがシルヴァの戦い方なのね」
「ん、んー……そう、ね」
少し歯切れの悪い返事をするシルヴァ。
なんとなくお互い察したままに、けれどそれを口にすることはなかった。
次第に夜も更けて人が少し少なくなった頃、ついぞシェリル・マイヤーズ(ka0509)は想い人――カッテ・ウランゲルと鉢合わせた。
月明かりが照らすテラスに、ふいと現れたその姿、時間が止まったような錯覚。
「カッテ……」
「シェリルさん、お久しぶりです」
月明かりに照らされて、彼の片耳に覚えのある色のイヤリングが映った。
「逢えてよかっ――」
カッテが微笑んで言葉を紡ぐより一瞬速く、シェリルは飛び出していた。
無事でよかったという想い。
変わっていく国への不安。
様々なものがない混ぜになって、そんな行動に出たシェリルをカッテはそっと抱きとめる。
「ご心配おかけしました」
「いいの……信じたまま、やりきれば」
手の中に、確かな暖かさ。
それが確かにカッテを後押ししてくれる。
「もしも……もしも、ね。追われることになったら、絶対に攫いに行くから」
「ふふふ……シェリルさんは頼もしいですね」
溜まったものを吐き出すように、足りない時間を埋めるように、ゆっくりと言葉少なに語り合う二人の姿を、視るものはほとんど居なかった。
次第に閑散としていく会場が見通しを良くして、近衛 惣助(ka0510)はホロンと巡り逢った。
「ソウスケ!」
「ホロン! 来てたんだな! 息災かい?」
「ウム、元気デヤッテイル。ソウスケモ無事ナヨウデヨカッタ」
大きな戦いの後だからこそ、無事を確かめたかった。
そう告げるホロンと一緒に、次第と閑散とし始めた会場の席で話をふくらませる。
最近のブラストエッジのこと。
流石にイサ・ジャとラシュラ・ベノも一緒に席を外すのは難しかったらしいが、ホロンだけはマハ王という事もあり、なんとか時間を作ったらしい。
すっかり遅くなった乾杯を交わして、静かな話は続く。
「色々あったもんな……ブラストエッジでの俺達の戦いが、巡り巡って今回の勝利に繋がった気がするよ」
少し自惚れが過ぎるだろうか。
けれどホロンは静かに頷いて同意する。
「小サナ川ガ大キナ流レニナルヨウナ、ソンナ縁ヲ感ジル」
互いに同じようなことを思っていたとしり、自然と笑いあった。
未来は続いてゆく。
この流れの先に。
そう、今は信じられる。
冷たい夜風に酔いを覚ましながら、中庭のベンチに腰を下ろし、ゆらりと思いを巡らせる。
……そも、私は讃えられたくて戦いに臨んだのではない。
しかし英雄の一人にいつしか数えられていた。
ぼんやりとして形にならない思いは、次第に一つの答えへと結ばれてゆき、それが結実した時アウレールははたと膝を打った。
こみ上げてくるのは苦笑だ。
「そうか、貴方達が言っていたのはこれか」
望むままに走り抜けた。
そして今がある。
今、たしかに「物語」を継いだ、そして繋いでゆくのだ。
目の前にある困難は膨大で、けれど怯む気は一切しない。
確かな決意と覚悟を持って顔をあげ、そして彼は不意に声をかけられた。
「探したぞ。感心せんな、怪我人がうろつくのは」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル。
敬愛すべき至尊の君の姿があった。
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