• 虚動

【虚動】ポンコツアーマーと共食い整備

マスター:稲田和夫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2014/12/02 22:00
完成日
2014/12/12 18:05

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 5年前に起こった王国を襲う災厄、その再来たるイスルダ島の歪虚の襲来は、クリムゾンウェストの世界を駆け巡り、震撼させた。
 異界より到来したラッツィオ島での戦い、そして帝国に再び姿を現した剣機の歪虚。
 世界を覆ういくつもの邪悪の影は、各国、各地域の首脳陣をリゼリオへと呼び集める。
 人類の明日を、如何に守るべきか。
 異世界リアルブルーの人々も交えた会合により、人類の希望は二つの兵器に託される。

 一つは、蒼き世界の機械の巨人、サルヴァトーレ・ロッソに眠る戦闘装甲機「CAM」。
 だがそれは、必要な燃料の入手に苦慮し、動くことはあたわなかった。
 一つは、帝国の練魔院にて研究されてきた魔導アーマー。
 長年の研究の結果、稼働実験にまで漕ぎ着けた、新たなる力。

 そして世界は、二つの力を合わせることを選択する。
 魔導アーマーの動力をCAMに搭載する実験が提唱され、世界はそれに向けて動き出した。
 仮に実験が成功すれば、人類は歪虚に対抗する大きな手段を得るだろう。
 だが……。


「以上だ」
 CAMのエンジンや、魔導アーマーを巡る動きが活発になり喧騒に包まれるゾンネンシュトラール帝国首都バルトアンデルス。
 そこにある第一師団の詰所の一つで、第一師団副長であるヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0059)は、椅子に座ったまま説明を終えた。
 聞いていた女性兵士は、直立不動のまま答える。
「はっ。しかし、錬魔院の誇る技術がこうも軽々しく……技術屋共は無神経に過ぎます」
 錬魔院院長ナサニエル・カロッサ(kz0028)がCAMの動力として魔導アーマーのエンジンを接収した事を不服とした魔導アーマーの開発陣は、ある行動に出た。
 許可も取らず独断で魔導アーマーをCAMの起動実験が行われる辺境に持ち込み、そこで直接魔導アーマーの優位性を実証しようというのだ。
 当然ながら、帝国の治安維持をも担う第一師団として、この事態を放置という訳にはいかない。
「我々が追跡していたグループの一つに、魔導アーマーを運ぶため、既に廃車となった機導トラックを再整備して辺境を目指した一団がある。それが、途中山道に入ったのを最後に消息不明となった」
 エイゼンシュテインが地図で指したのは帝国と辺境の国境に位置し、第二師団フュアアイネが統治するサンクトケルンテンベルク州の山岳地帯である。
「ハルクスたちには会場の警備がある。余裕は無い」
 既に初老に差し掛かった第二師団副長の名前を口にする時、一瞬男は懐かしそうに目を細めた。
「直ちに捜索へ向います」
 踵を鳴らし、最敬礼を行うその女性兵士は制服をぴっちりと着こなし、制帽まで被っておりいかにも軍人然としている。
 だが、眼鏡の奥から覗く険しい眼光とは裏腹にその身長は人間の少女くらいしかなかった。
「オレーシャ兵長」
 そのまま退出しようとしたオレーシャをエイゼンシュテインは呼び止める。
「任務完了後は実験場へ移動。一時的に第二師団に出向扱いとした上で警備への参加を命じる」
 オレーシャの目が急に輝き出した。
「と、ということは、その、リアルブルーの機械をこの目で……」
 無言で肯定するエイゼンシュテイン。
「あ、ありがとうございますっ!」
「なお、今回は任務の性質を鑑みて迅速に覚醒者を揃える必要があった。ハンターに依頼を出している」
 オレーシャの表情が険しくなる。
「彼らが選挙の際の反体制派摘発作戦で何をしたのかお忘れではないでしょう。我々の提案を蹴り、恩情で事を納めようとした結果、市民や兵士が傷つきかねない事態を招いた」
「だからこそ、だ」
 エイゼンシュテインは全く動じない。
「剣機討伐の際の彼らの健闘は聞いているだろう。今一度、機会を与えてみるのも不当ではあるまい」

 帝国北部。サンクトケルンテンベルク州の山岳地帯。その山道に機導トラックが止まっていた。
 エンジンを調べていた錬魔院の技術者が怒鳴る。
「駄目だ! エンジン自体は無事だが、補助する部品が駄目になってやがる! くそ……だからこんな事止めようと言ったんだ!」
「何だと! 一番乗り気だったのはお前じゃないか!」
 別の技術者が怒鳴る。
「よせ! ナサニエルの奴の鼻を明かすためには、そのCAMとかいうデク人形の実験場に、これを直接持ち込むしかないというのが俺達の結論だった筈だ!」
 リーダー格らしい技術者はそう皆を諌めると、防水シートを被っている荷台の魔導アーマーを見た。
「おい、見ろ! コボルドだ!」
 仲間が悲鳴を上げる。
 トラックを格好の獲物と判断したのだろう。一匹のコボルドが粗末な武器を構えて茂みの中から襲い掛かって来た。
 悲鳴を上げる技術者たち。
「伏せろ!」
 その時、凛とした女性の声が響くと同時に、何か重い物が空を切る音が響き、コボルドの頭がぐしゃりと弾けた。
 呆然とする技術者たちに、自身が投擲したモンキーレンチを回収したオレーシャは声を張り上げた。
「全員動くな。帝国第一師団の憲兵としての権限により貴様らとトラック及び輸送中の荷は一時的に我が軍が接収する」
 技術者たちは、がっくりと項垂れた。


「トラックが動かんだと?」
 リーダー格の男の言葉を聞いたオレーシャは険しい表情で腕を組んだ。
 既に辺りは暗くなっている。このままここに留まり続ければ、寒さだけでなく、新たなコボルドに襲われる可能性も高くなるだろう。
「ちっ、見せてみろ」
 オレーシャはトラックのエンジンを開けて中を確かめた。
「あ、あんた……解るのか? 憲兵の癖に」
「これでも帝国育ちのドワーフの端くれだ……なるほど、部品が完全に壊れているな。となると……」
 オレーシャは躊躇せず、荷台の魔道アーマーの動力部を開ける。
「ふん、かなり改造してあるが、無理をすればトラックの規格に合わせられん事も無いか」
 慣れた手つきで、荷台に合った工具箱を引っ掻き回すオレーシャに、技術者の一人が叫ぶ。
「待ってくれ! アーマーの部品は相当デリケートに調整してあるんだ! そんなことをしたら実験場でアーマーを動かせなくなる!」
「では、この魔導アーマーを山の中に放置するか?」
 技術者たちは悔しそうに沈黙した。
「理解できたようだな。なら、私を手伝え。それから……」
 オレーシャは転移門からここまで同行して来たあなたたちハンターを見る。
「貴様たちはコボルドの襲撃を警戒しろ。すぐに新手が来るだろう。相手はコボルトだが油断などするな。二度も私を失望させないでくれ」
 オレーシャはそう述べると振り向いて魔導アーマーの装甲を撫でた。
「お前も災難だったな。許せ。守るべきは技術を生み出す者たちの手であるべきだから」

リプレイ本文

「失望させるな、だって。 ボクらなにか期待させるようなことしたっけ? シュヴァルツさん心当たりある?」
 オレーシャの言葉を聞いた南條 真水(ka2377)は、そう相方のシュネー・シュヴァルツ(ka0352)に話しかけた。
「二度も失望と言われてもよくわかりませんけど……」
 シュネーも不思議そうに首をかしげる。
「二度も――とは、初見の者に随分とまた。ハンターならば皆同じ、か? 否定はせんが、俺個人としては狭量と言う他にないな。見ず知らずの者の責など負えんよ。それはお前とて同じと思うがね」
 一方、弥勒 明影(ka0189)は吸っていた煙草を口から離すと、薄く笑いながら言い返す。
「連帯責任という言葉もある」
 平然と言い返すオレーシャ。明影は苦笑して再び煙草を咥える。
「まぁ、戯れても仕方なしだ。失望させるなと言うのだ、ならば応えるまで」
 シュネーも、改めて魔導アーマーを見上げながら呟いた。
「兎に角、これにコボルドを近付けさせないようにしないと……ですね」
「そうそう☆ CAMにせよ、まどーアーマーにせよいくら画期的で便利っつっても動かせないンじゃあタダの鉄塊よネ♪ さ~て、非戦闘員も多いことだし、死なない程度に守ってやんなきゃ☆」
 リオン(ka1757)が笑う。
 一方、エルデ・ディアマント(ka0263)はうっとりとアーマーを見つめる。
「いいなぁ、魔導アーマー。全部ばらしてからまた組み立てたいな」
 しかし、技術者たちが必死で修理にかかるのを見て、慌てて口に手を当てる。
「っとと、それはまた今度でいいかな。修理も手伝いところだけど、それはわんこを追い払ってからがいいよね」
 だが、真水はアーマーをみてぼそりと呟く。
「はあ、こんなガラクタでCAMに対抗するつもりだったんだ。ナサニエルさんが裏で動いてるからどんなものかと思ってたのに、ちょっと期待外れだよ……」
 オレーシャは真水の言葉を聞いたが、僅かに眉を動かしただけで何も言わない。
 コボルドの群れが一斉に襲撃して来たのは、その直後であった。



「ごめんなさい、ここから先には通さないよ」
 マコト・タツナミ(ka1030)の振るうウォーハンマーが、真正面から錆びた剣を構えて突っ込んで来たコボルトの頭を一撃で粉砕する。
 側面から奇襲を仕掛けようとした一団は、エルデに看破された挙句、シュネーにすれ違い様に斬られ、明影の銃弾に倒れる。
 このように、コボルドたちは当初ハンターたちの的確な迎撃によりなす術も無く蹴散らされるかに思われた。
 状況が変化したのは、コボルドたちの攻撃が一旦止んだ直後である。
「危ない!」
 最初にそう叫んだのはシュネーであった。咄嗟に、技術者の一人を庇うように覆い被さったシュネーの背中に、藪の中から投擲された石が突き刺さる。それを皮切りに、藪の両側からそれこそ嵐の如く、石つぶての雨が降り注ぐ。
「わ、わ、あっぶなー……眼鏡が割れたらどうしてくれるんだ、まったく……」
 慌てて地面に伏せる真水。その頭上を更に無数の石が通り過ぎていく。
 更に、技術者を庇ったエルデにも小石が命中する。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
 技術者の一人が悲鳴を上げる。
「大丈夫だよ、これくらいの傷なら唾付けときゃ治るしね」
 笑って見せるエルデだが、直ぐに険しい表情になって呟く。
「だけど、このままじゃ不利だね……何とかしなきゃ」
 一方、この状況下でもリオンは相変わらずであった。
「うおお! マジヤベーって感じ? おっと危ない! はっずれー! お返しだぜ! キュートな銃弾をプレゼントフォーユー! BANG!」
 小石を回避しつつ、デリンジャーを藪に撃ちまくる。狙いは正確なようで、銃声の度に悲鳴と血飛沫が上がる。
 しかし、コボルドたちもここで勝負を決するつもりなのか、投石は緩まない。
「ウヒョー! これはもう、まどーアーマー? 動かして何とかしちゃったりするべきなんじゃね!? ヤッベー! そうなったら マジウケる展開なんですケド!」
 リオンは冗談のつもりだったのかもしれないが、オレーシャは真面目な表情でぽん、と手を打った。
「成る程……お前とお前」
「ボク?」
「わ、私ですか?」
 オレーシャが声をかけたのはエルデとマコトであった。藪への応射を止めて振り向く二人。
「リアルブルーの人間は部品の取り外しを手伝え。ドワーフはアーマーを動かせ」
 オレーシャがこの二人を選んだのは自分同様器械に強そうだったからだろう。
「すまない。まだ持つか?」
 遊撃という役割上、誰よりもシュネーは傷が多かった。しかし、的確にコボルドの奇襲を見抜き、効果的に味方を援護している彼女をここで退かせる訳にはいかなかった。
 シュネーはちょっと驚いた顔をしたが、血まみれの顔で笑って見せる。
「……ご心配なく」
そして、リオンの方は相変わらず暴れ回っていた。
「ホラホラ、そんなすっとろい動きしてっとヤられちゃうぞ~! ズバァーッ! 言わんこっちゃない!」
 迂闊に顔を出したコボルドの頭を斬り飛ばしたリオンはサディスティックな笑みを浮かべる。
 そこに、投石が思いっきり顔面に命中して額から血が流れた。
 しかし、リオンはその血をペロッと舐めて更に恍惚とした表情を見せる。
「あっちも、心配は無用か……まず、アーマーを降車して、トラックのエンジンの前に立たせて盾にしろ。まだ手足を動かすことは出来る」
 マコトとエルデは目を輝かせて頷いた。
「全く、しつこいなあ……南条さんは、既に道中で体力が尽きたというのに……これ以上無理させると荷物になっちゃうぞ」
 銃を構えた真水が溜息をつく。その手は微かに震えていた。
「ほら。南條さん虚弱だからしかたないんだよ」
「代わろう」
 何時の間にか、真水の背後に来ていたオレーシャは真水の腕から銃を取ると代りに一発撃って、すぐに荷台に伏せた。
「お前はナサニエル院長に心酔しているのか?」
「あっち側は機械の文明で技術の世界。CAMはその結晶みたいなものなんだよ。そこに至るまでどれだけの血が流れてきたと思う? どれだけの人の骨山の上に、CAMは立っているんだと思う? だから悪いけど、一緒にして欲しくないんだよ」
 オレーシャはじっと聞いていたが、やがて笑った。
「リアルブルーもクリムゾンウェストも変わらないらしい」
「……どういう意味なのかな?」
「お前の言う屍山血河を代償に発展して来たのは、錬魔院も、その研究成果であるアーマーも変わらんという事だ……それに、ナサニエル博士がアーマーのエンジンを接収したということは、「あの」博士が相応にアーマーの成果を認めたということではないのか」
「……どうでもいい。ボク……南条さんは機械に興味は無いよ」
「確かに、院長殿は天才だ。だが、技術とは天才によってだけではなく、それを実際に運用する人間たちの汗と涙の果てに結実するもの……見ろ。彼らの『意地』だ」
 荷台から顔を出した真水とオレーシャが見たのは、アーマーが投石を受け装甲をへこませつつのろのろとそれでも一歩ずつ着実にトラックのエンジン部へ移動する光景であった。



「マコト君! 後どのくらいかかりそう!?」
 アーマーの上からエルデが叫ぶ。既にアーマーの装甲は穴だらけである。
「もう少し……! 後この駆動系さえ乗せ換えれば……!」
 額についた汗を油を拭いながらマコトは叫ぶ。
「後はそのコードを切れば ……どうした?」
 マコトの手が止まったのに気付いた技術者が怪訝な顔をする。
「こ、これを外したら……このアーマーは完全に動かなくなるんですよね……」
 沈黙する技術者。しかし、事態は切迫していた。
「上から来ます! 気をつけて……!」
 シュネーが叫ぶ。
 エルデの頭上に張り出していた枝ががさがさと動いたかと思うと、一匹のコボルトが素早く飛び降りた。樹上からの奇襲を狙っていたらしい。
「このぉっ!」
 シュネーのおかげで、敵に気付いたエルデは本能的に操縦席でレバーを引いた。
 それは、パンチと呼ぶには余りに遅く、お粗末で、単に手を振り回しただけという表現が相応しい。
 それでも、コボルドがアーマーに全く注意していなかった事と落下が直線的な物であったため、奇跡的にアーマーの腕の鉄球がコボルドに命中。その体を弾き飛ばす。
「やった……!」
 だが、その光景はこのアーマーに賭けて来た男たちの胸に熱い物をこみ上げさせる光景ではあった。
「マコト君!」
 エルデもまた一瞬興奮に顔を輝かせたがすぐに叫ぶ。
「ごめんなさいっ!」
 意を決したマコトが、握ったニッパーに力を込めた瞬間、アーマーは高く手を上げた姿勢のまま機能を停止したのであった。



 とはいえ、やはり試作品。殴り飛ばされたコボルドはほとんどダメージを受けていないのか、即座に立ちあがり周囲の様子を確かめようとする。
「どうした、畜生?」
 しかし、そこにトラックの上から飛び降りた明影が銃を構える。
 身構えるコボルド。
 明影は不敵に笑うと、銃を捨てゆっくりと日本刀を引き抜いた。
 気がつけば、投石は止み周囲は静寂に満ちている。
 コボルド側が周囲の手ごろな石を投げ尽くした事、そして、彼らにとって勝負を決める一手であった樹上からの奇襲が防がれ戦意が失われかけていることが原因である。
 獣とて、いやむしろ獣であるからこそ相手の強さには敏感だ。
 まして、このコボルドはどうやら群れの中でも知能の高いボス格らしく、暫くは動かなかった。
 しかし、群に自分の強さを見せておくためにも、ここは退けないと感じたのか咆哮を上げ明影に襲い掛かる。
「良い覚悟だ」
 明影も、踏み出す。
 黒い二つの影が空中で交錯したのは一瞬。
 マントを翻して着地した明影の背後で、腰の所で二つに両断されたコボルドの骸がどさりと落下した。
「存分に魅せて貰った。そして――」
 明影は仲間たちの方を振り返る。
 限界が来たのか、荷台で大の字になっている真水と彼女を気遣う傷だらけのシュネー。
 技術者たちと喜び合うエルデとマコト。
「やったね、みろっちゃん! お疲れ様! イェー!」
 そして、相変わらずのテンションで駆け寄って来たリオンのハイタッチに明影は苦笑しながら応じて、笑う。
「真水、シュネー、麻琴、エルデ、リオン。皆の輝き、確かに魅せて貰った」


 
 群のボスが倒されたことで、コボルドたちは撤退していった。
 余裕を持って修理を完了させた一行は、ハンターたちの力で魔導アーマーを再びトラックに積載し(注:真水は除く、つつがなく出発した。
 だが、トラックが暫く進んだ所で明影が口を開く。
「ところで……この技術者共は如何するのかね」
 何事かと振り向く一同の視線を集めながらも、明影は悠然と煙草をくゆらせて続ける。
「 許可なく兵器を持ち出して、挙句にこの騒ぎだ。本来ならば、持ち出しだけでも極刑と成る筈だが――さて?」
 物騒な事を述べる明影。しかし、当の技術者たちはきょとんとした表情を見せるばかりだ。
「そりゃあ、普通の国なら、ね。でも「あの」皇帝陛下なら……」
 ぽつりと呟く真水。
 その言葉通り、技術者たちは明影の言うような極刑の可能性など思いも至らなかったらしい。
 まあ、確かにそんなお国柄だからこそ、技術者たちもこんな無茶をしたのだろう。
「極刑なんて困るな」
 大真面目な表情でエルデが口を挟む。
「このサイズに、動力から制御系まで全部詰める技術は、事態が落ち着いたら是非ご教授願いたいからね……ボクの夢の為には是非とも習得しておきたいんだ」
「夢?」
 技術者の一人が怪訝な表情で尋ねる。
「そう、空に浮かぶあの月へ行くことさ」
 最初、技術者は呆然としていたが、やがて口元を緩ませる。
「おかしいかな?」
 エルデが尋ねる。
「いや……そんな発想があった事に驚いているんだ。錬魔院は武器を開発するための機関だからな。だが……言われてみれば、俺にも技術をそんな風に使って、人類に貢献したいと思っていた時代はあったと思ってな」
 懐かしそうに、無精髭を撫でる技術者。
「辺境での実験……技術融合の架け橋になれば良いですね」
 おずおずと口を開くマコト。
「架け橋?」
 別の技術者が質問してきたので、マコトは答えた。
「ま、魔導アーマーのエンジンで動くCAMも楽しみだけど、CAMの技術も魔導アーマーにフィードバック出来たらなって思うんです……それぞれの特性が活かせて楽しそうだなぁ、なんて……」
「……そう考えれば、今回の事も?」
 その発想は無かった的な表情になる若い技術者に、オレーシャはさり気無く言った。
「だから、お前たちは専門以外のことには視野が狭いというのだ……まあ、結果としては良かったのかもしれん。こうして、直にそのCAMを見る機会が出来たのだから」
 オレーシャの一言に、顔を見合わせる技術者たち。
「やれやれ……この体たらくでは、そこのハンターの言うように極刑も止む無し、か?」
 呆れた顔で軽口を叩くオレーシャに、シュネーが真面目な表情で首を振った。
「私はそのCAMに乗っていたので整備員の有り難さはわかります……この機械や、技術者の命とか未来が私なんかと比べて、どれだけ貴重か……大丈夫です。極刑になんてなりませんよ」
「違う」
 だが、今度はオレーシャが真剣な表情で首を振った。
「確かに技術を生み出す者たちは偉大だ。だが、彼らの生み出した技術は実際に使う者が居てこそ進歩する。そして、いかに優れた武器であっても最後にその引き金を引くのは人間だ。そこに価値の優劣などない。どちらも戦いには欠くべからざるものだ!」
 オレーシャは、シュネーの両肩を掴みその目を見つめながら真剣な調子で語る。
 シュネーはその剣幕に圧倒されたのか、照れたようにこう言った
「と、とにかく、其方が無事ならそれで良かった……です」
「……すまない」
 オレーシャは慌てて制帽を目深に被り、目元を隠して誤魔化す。
「そして、改めて貴様らの健闘に感謝と……謝罪を述べる」
 シュネーと真水は暫く目をしばたたかせた後、顔を見合わせてちょっと笑った。
「――見ず知らずの者の責、少しは晴らせたようだな」
 明影はニヤリと笑うと、また煙草の煙を吐いた。その煙が、魔導アーマーに纏わりつく。
 主要なパーツを抜かれた上に、装甲が穴だらけになったそれは最早文字通りのポンコツに過ぎなかったが、その姿はどこか誇らしげだった。

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MVP一覧

  • 大口叩きの鍛冶職人
    エルデ・ディアマントka0263
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツka0352

重体一覧

参加者一覧

  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • 大口叩きの鍛冶職人
    エルデ・ディアマント(ka0263
    ドワーフ|11才|女性|機導師
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • スカイブルーゲイル
    マコト・タツナミ(ka1030
    人間(蒼)|21才|女性|機導師
  • HappyTerror
    リオン(ka1757
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
弥勒 明影(ka0189
人間(リアルブルー)|17才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/12/02 19:39:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/28 21:40:43