ゲスト
(ka0000)
霧に覆われた収穫祭
マスター:虚現亭九楽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/03 15:00
- 完成日
- 2014/12/08 23:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
小さな農村で、野菜の収穫が最盛期を迎えていた。今年も例年通り、豊富な実りを授けてくれた大地に感謝するため、週末に収穫祭が行われる予定だった。収穫作業に祭りの準備が重なるため、一年のうちでも特に忙しい季節だ。
広場の中央では、祭りのシンボルである櫓の完成が近い。ぐるりと囲うように屋台も並び始めた。祭りが始まれば、歌あり踊りありの大騒ぎがここで行われる。屋台ではこれでもかというほどのごちそうと酒が振る舞われるはずだ。
今は日暮れ時、作業に勤しんでいた村人たちはすでに引き上げていた。静かな広場にぽつんと、櫓を見上げる少年がいた。少年は毎年の祭りを何よりも楽しみにしていた。特に、今年は初めて櫓に上がらせてもらえることになっている。少年の目は、期待に満ちていた。
●
村の北に、手付かずの小さな森がある。常緑樹が多く、今の季節でも鈍い緑に覆われている。地形と気候の影響か、季節を問わず靄がかかっている事が多く、村人が立ち寄ることは少ない。特に寒い季節になると、北の森から風に運ばれてきた濃い霧が、村を覆う事もある。そのため村では北の森を『霧の森』あるいは単に『霧』と呼んでいた。
この日も、足元からじわじわと、靄が立ち上がった。靄はみるみるうちに森を覆い隠す霧となった。吹きすさぶ寒風に乗って、霧は村へと近づいていった。
村にとっては珍しい現象ではない。ただし、この日の霧は、黒く大きな影を孕んでいた。
●
「霧が来てるみたいだから、とっとと帰るぞ」
父に声をかけられて、櫓を見上げていた少年が振り返った。父の言うとおり、村は輪郭を薄ぼんやりとさせていた。少年が父のもとへ走りだそうとした時、冷たい風と共に濃い霧の塊が広場に流れ込んできた。
視界が、真っ白になった。
真っ白な、渦巻く霧の中に、真っ黒な影があるのを見た。
霧をかき分けて、一直線に自分の方へ向かってくる黒く大きな影を、少年は見た。
「うわっ」
少年はその場に倒れこんだ。幸いにも影は、少年のすぐ脇を通りすぎて行っただけであった。
後ろから、大きな衝突音が聞こえた。
「どうした! 大丈夫か!」
父が叫んだ。霧の切れ目に、倒れこんだ少年を見つけた父は、すぐさま駆け寄った。
「大丈夫か。怪我は?」
「あ、あれ」
少年が指す方、そこには、黒く、大きなイノシシがいた。口の両脇からは立派な牙が生えている。
「ああ、櫓が!」
イノシシの激突により、櫓が無残にも崩れ落ちていた。
「危ない!」
イノシシが再び突進しようと構えたのを見て、父が少年に覆いかぶさった。
凄まじい音が、広場に谺した。
音がやみ、ようやく顔を上げた少年が見たのは、惨状だった。
●
「これじゃ今年の祭りは無理だなあ」
翌朝、広場に集まった村人を前に、村長が言った。広場には、櫓と屋台の残骸が、そこかしこに散らばっていた。ただでさえ忙しい時期に、これだけの被害を受けてはさすがに人手が足りない。残骸を片付けるだけで精一杯だろう。
「それで、そのイノシシはどうなったんだ」
村長の問いかけに、一人の村人が答えた。
「散々暴れた後、『霧』の方へ行ったのを見たよ」
「怪我人は?」
「瓦礫に当たって軽く怪我したのが何人か。幸い、それだけだ」
「ふう、やれやれ、どうしたものかな」
頭を抱えた村長に、寄ってきたのは婆やだった。
「祭りを中止させてはならん」
「婆や、何言ってるんだ。こんな状況だっていうのに」
婆やは村長の母である。明晰で感性が鋭く、隠居してからも村のご意見番として重宝されている。
「わしらみたいな農村はな、大地への感謝を忘れたらおしまいじゃ。災いは連鎖する。今年祭りができなければきっと来年また災いが来るぞ」
「そんなこと言われたって、さすがに無理だ」
村人たちは、消沈していた。
●
混み合うハンターオフィスの受付窓口に、小さな頭が、ひょこりと現れた。あどけない顔立ちだが、その目は強い。
「村を、救って欲しいんです!」
小さな農村で、野菜の収穫が最盛期を迎えていた。今年も例年通り、豊富な実りを授けてくれた大地に感謝するため、週末に収穫祭が行われる予定だった。収穫作業に祭りの準備が重なるため、一年のうちでも特に忙しい季節だ。
広場の中央では、祭りのシンボルである櫓の完成が近い。ぐるりと囲うように屋台も並び始めた。祭りが始まれば、歌あり踊りありの大騒ぎがここで行われる。屋台ではこれでもかというほどのごちそうと酒が振る舞われるはずだ。
今は日暮れ時、作業に勤しんでいた村人たちはすでに引き上げていた。静かな広場にぽつんと、櫓を見上げる少年がいた。少年は毎年の祭りを何よりも楽しみにしていた。特に、今年は初めて櫓に上がらせてもらえることになっている。少年の目は、期待に満ちていた。
●
村の北に、手付かずの小さな森がある。常緑樹が多く、今の季節でも鈍い緑に覆われている。地形と気候の影響か、季節を問わず靄がかかっている事が多く、村人が立ち寄ることは少ない。特に寒い季節になると、北の森から風に運ばれてきた濃い霧が、村を覆う事もある。そのため村では北の森を『霧の森』あるいは単に『霧』と呼んでいた。
この日も、足元からじわじわと、靄が立ち上がった。靄はみるみるうちに森を覆い隠す霧となった。吹きすさぶ寒風に乗って、霧は村へと近づいていった。
村にとっては珍しい現象ではない。ただし、この日の霧は、黒く大きな影を孕んでいた。
●
「霧が来てるみたいだから、とっとと帰るぞ」
父に声をかけられて、櫓を見上げていた少年が振り返った。父の言うとおり、村は輪郭を薄ぼんやりとさせていた。少年が父のもとへ走りだそうとした時、冷たい風と共に濃い霧の塊が広場に流れ込んできた。
視界が、真っ白になった。
真っ白な、渦巻く霧の中に、真っ黒な影があるのを見た。
霧をかき分けて、一直線に自分の方へ向かってくる黒く大きな影を、少年は見た。
「うわっ」
少年はその場に倒れこんだ。幸いにも影は、少年のすぐ脇を通りすぎて行っただけであった。
後ろから、大きな衝突音が聞こえた。
「どうした! 大丈夫か!」
父が叫んだ。霧の切れ目に、倒れこんだ少年を見つけた父は、すぐさま駆け寄った。
「大丈夫か。怪我は?」
「あ、あれ」
少年が指す方、そこには、黒く、大きなイノシシがいた。口の両脇からは立派な牙が生えている。
「ああ、櫓が!」
イノシシの激突により、櫓が無残にも崩れ落ちていた。
「危ない!」
イノシシが再び突進しようと構えたのを見て、父が少年に覆いかぶさった。
凄まじい音が、広場に谺した。
音がやみ、ようやく顔を上げた少年が見たのは、惨状だった。
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「これじゃ今年の祭りは無理だなあ」
翌朝、広場に集まった村人を前に、村長が言った。広場には、櫓と屋台の残骸が、そこかしこに散らばっていた。ただでさえ忙しい時期に、これだけの被害を受けてはさすがに人手が足りない。残骸を片付けるだけで精一杯だろう。
「それで、そのイノシシはどうなったんだ」
村長の問いかけに、一人の村人が答えた。
「散々暴れた後、『霧』の方へ行ったのを見たよ」
「怪我人は?」
「瓦礫に当たって軽く怪我したのが何人か。幸い、それだけだ」
「ふう、やれやれ、どうしたものかな」
頭を抱えた村長に、寄ってきたのは婆やだった。
「祭りを中止させてはならん」
「婆や、何言ってるんだ。こんな状況だっていうのに」
婆やは村長の母である。明晰で感性が鋭く、隠居してからも村のご意見番として重宝されている。
「わしらみたいな農村はな、大地への感謝を忘れたらおしまいじゃ。災いは連鎖する。今年祭りができなければきっと来年また災いが来るぞ」
「そんなこと言われたって、さすがに無理だ」
村人たちは、消沈していた。
●
混み合うハンターオフィスの受付窓口に、小さな頭が、ひょこりと現れた。あどけない顔立ちだが、その目は強い。
「村を、救って欲しいんです!」
リプレイ本文
●
村の広場にはいまだ、残骸が散らばっていた。
「祭りの邪魔だなんて全くもって野暮だねェ」
その光景を見たディッシュ・ハーツ(ka1048)がつぶやいた。
「折角のお祭りが雑魔のせいで中止なんて許せないよね。頑張って退治しなきゃ!」
隣でセラ・グレンフェル(ka1049)が意気込む。
「みんなの楽しみにしているお祭り、なんとしても成功させてあげたいですね」
ティーナ・ウェンライト(ka0165)の声は、温厚ながらも強い意思を持っている。
「きっちり退治してお祭りを楽しんでもらわないとね!」
天竜寺 詩(ka0396)が胸の前で拳を握りしめる。
「まあ祭りは好きにやってくれや」
アーヴィン(ka3383)はそう言い放って、壊された屋台の前に屈みこんだ。
屋台を調べていたアーヴィンが立ち上がった。
「野菜と果物だな。くずが飛び散ってる。この匂いに釣られたのかもな」
「それなら、傷んだ野菜や果物もらってくるよ。イノシシをおびき出すのに使えるかも」
セラはそう言って、走りだしていった。
「俺はシーツでも調達してこようかね。顔にかぶせて目隠しにできるかもしれない」
ディッシュがセラを追って広場を出る。
「じゃあボクは方位磁石を借りてくるよ。森の中で帰りの方向わかんなくなっちゃうと困るしね」
弓月 幸子(ka1749)もまた去っていった。
「僕は目撃情報を集めてきますね。イノシシがどのくらいの大きさだったのか、それによって戦闘の状況も変わってきますし」
葛音 水月(ka1895)が付近の村人に話を聞きに行った。
「イノシシか、保存食としてはぜひとも欲しいな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は、早くもコックとしての血が騒ぎ始めている。
散っていたハンターらが再び広場に集まった。
「目撃者の方によると、イノシシはかなり大きいみたいです。馬で引くような大きな幌付きの荷車くらい、だそうです」
「動物に近けりゃあ良いんだが、まあどこまで似ているかだな」
リカルドがつぶやいた。
「それだけ巨大ならわかりやすい痕跡があるはずだな。それを辿るか」
アーヴィンの言葉にみなが賛同し、注意深く痕跡を探りながら、『霧の森』へと向かっていった。
●
ハンターらにとってみれば、痕跡を見つけるのは容易だった。『霧の森』付近では、細い木がなぎ倒されていた。下草が踏み荒らされ、折れた枝が転がっているのが見える。
「森の中は足元が悪そうだから、靴にロープを巻いて滑り止めにするといいよ」
天竜寺がそう言い、持参してきたロープを切って全員に配った。
「なるほど、勉強になりますね」
ティーナが受け取り靴に巻く。各々が靴にロープを巻く中、リカルドとアーヴィンはさらに、体に泥を塗った。
「匂い消しだ。イノシシは鼻がきくからな」とリカルド。
「狩りの基本だな」アーヴィンが頷いた。
森の中は、枝葉に覆われ薄暗い。そのうえ霧で見通しが悪い。地面と下草は露に濡れているが、靴に巻いたロープは十分にすべり止めの役目を果たしてくれた。
「すごい霧だね。はぐれないようにしないと……みんないる?」
弓月がそう言って、LEDライトを点灯した。
「離れすぎないようにしないとね。まとまりすぎるのもまずいけど」
セラも、少し間隔を開けて歩くディッシュも、LEDライトを点けた。
天竜寺は、シャインによって光り輝くリュミエールボウを掲げた。頭上には金色の輪が、左には片翼がある。
「いつ現れても対応できるよう、僕も身構えておきましょう」
葛音が腰に着けたランタンを灯し、黒い猫耳と尻尾をピクピクと動かした。
森の深部へと進むにつれ、霧もまた濃くなっていった。
やがて、少し開けた場所に出た。牙で擦れた跡だろうか、傷が付いた木がある。地面は踏み荒らされ、掘り返されている。雑魔の確かな気配を感じて、緊張感を高めた。
ひときわ大きな木があった。大人が五人ほど、手を繋げばやっと周りを囲めるくらいの太さだろうか。
セラが大木に手を置いて、言った。
「この大木にイノシシをぶつけられないかな」
「そうだね。ここで待ち伏せてみよう」
ディッシュが頷いた。セラが、大木の周りに野菜や果物を撒き散らした。
「さっきのロープ、余ってますか?」
「あるよ。はい」
葛音が、天竜寺から受け取ったロープを木に縛り付けた。ロープは二本の木のあいだで、膝ほどの高さにピンと張られた。
「これでうまく転んでくれたらいいのですが」
「じゃあここにも撒いておこう」
セラはロープの周りにも野菜くずを撒いた。
●
ハンターらは、明かりを消し、息を潜め、お互いに距離を取り陣形を築いた。
その時はすぐに訪れた。
枝をへし折りながら突進してきたイノシシ雑魔はまず、側面にいたリカルドのバトルライフルを食らうことになる。
「最近のコックさんは材料の現地調達もやるから、戦闘スキルが高いんだよ」
「ホーリーライト、いきます! 当たって!」
ティーナのホーリーライトがイノシシの顔に命中した。
ほぼ同時に天竜寺が放った矢は、イノシシの足を捉えていた。
「止まれぇ!」
しかし、それでもイノシシは止まらない。目指す先には、葛音がいた。
衝突寸前、葛音はひらりと宙に跳んだ。
「ふっふー、スリリングですねー!」
瞬脚とマルチステップによる、猫もかくやという見事な身のこなしだった。
イノシシは張られたロープに足を取られ、葛音が地面に突き立てていたスピアへと、鼻から突っ込んだ。スピアは、天竜寺のホーリーセイバーにより白く輝いていた。
だが、イノシシは立ち上がった。足に矢が刺さったまま、鼻にスピアが刺さったまま。
振り返り、再び突進の構えを見せる。次に向かう先にいるのは、ディッシュだ。ディッシュはこれを好機と、大木を背に身構えた。
セラの足元に、水面のような波紋が広がった。
「ディッシュ!」
セラのプロテクションにより、ディッシュの体が光に包まれた。同時に緑の風も渦巻いた。弓月のウインドガストだ。弓月は普段のかわいらしい姿とは打って変わって、鋭い目をしている。
「イノシシさんこちら……きゃー!? 速いってば!」
セラがホーリーライトを放つ。
「ボクのターン!! まずはこれだよ」
弓月のアースバレットが炸裂する。
確かに、イノシシにはダメージが届いた。だがしかし、イノシシの速度はさほど緩まない。
「無茶はしないでいただきたいな!」
ディッシュが布を構える。寸前、イノシシの右目に、矢が突き刺さった。少し離れた場所から狙いを定めていた、アーヴィンの矢だ。
「ただ直線で突っ込むだけなら、外すほうが難しいな」
ほんの僅かに、イノシシがひるみを見せたその隙を、ディッシュは逃さなかった。広げた麻布をイノシシの顔にかぶせ、横へ飛ぶ。
視界を奪われたイノシシは狙い通り、大木に激突した。
左の牙が、大木へ突き刺さった。
右の牙は、ディッシュの胸をかすめていた。
「ディッシュ! 大丈夫?」
ディッシュに駆け寄ったセラが、すぐにヒールで回復をする。
「心配ないよ。スキルのおかげでかすり傷で済んだよ」
イノシシの湾曲した牙は、大木に深く刺さり抜けそうにない。イノシシはその場でただじたばたと、四肢を暴れさせることしかできなかった。
「トドメを刺しませんとね」
ティーナが、モーニングスターを掲げた。
●
ハンターらの滅多打ちを食らったイノシシの雑魔は、程なく消滅した。
「イノシシを一頭ふせて、ターンエンド」
弓月が高らかに宣言した。
葛音はスピアと、木に張られたロープを回収した。
「ありがとう、役に立ちました」
「いえいえ」
天竜寺が葛音からロープを受け取った。
「ちっ、肉が残れば燻製にしたかったんだがな」
リカルドが残念そうに言った。
「肉なら、調達できそうだぜ」
そう言ったのはアーヴィンだ。
「探索中に、鹿らしき痕跡を見つけた。収穫の時期だから人里に降りてきてるんだろう。狩ってこようと思うが、どうだ?」
「鹿か。悪くない。放っておけば畑を荒らすだろうしな。よし、下処理は任せろ」
「じゃあ俺たちは先に村に帰るよ。祭りの準備を手伝わないとね」
ディッシュがそう言って、リカルドとアーヴィンを見送った。
●
忙しく人が動き回る広場で、組み上がろうとしている櫓を見上げる少年がいた。身軽さを活かして、高所でひょいひょいと作業を進める葛音を、少年はぽかんとした顔で眺めていた。
「すごいもんだなあ、あの兄ちゃん。いや、姉ちゃん、か?」
通りすがった村人が、葛音を見上げて感心した。
「ディッシュ、ここに置いておくね」
セラが資材を運んできた。
「俺も上の作業を手伝ってこよう」
ディッシュも腕まくりをして、資材を抱えてするすると足場を登っていく。
「僕も手伝います!」
櫓を見上げていた少年が、セラに言った。
「それじゃあ、一緒に資材を運ぼうね。無理しちゃダメだよ」
「はいっ」
少年は笑顔で、木材を両手いっぱいに抱えた。
「こんなに早く屋台が直るなんてねえ。本当にありがたいよ」
「えへへ」
屋台の復旧を手伝っていた弓月は、村人の言葉に少し照れくさそうにはにかんだ。
「ほれ、肉だ」
アーヴィンが、どさり、と屋台に置いたのは、大量の鹿肉だった。
「わあすごい。こんなに」
天竜寺が感嘆した。
「いいお料理が作れそうです」
ティーナと天竜寺が早速、調理に取り掛かった。
●
日が傾き、村に朱の光が差し込む頃、村の随所で篝火が焚かれた。広場で、村長が集まった村人の前に立つ。
「今年も、大地は我らに実りを授けてくれました。ハンターの皆様が、村に平和をもたらしてくれました。盛大に祝い、感謝を捧げましょう!」
これを合図に、どんちゃん騒ぎの祭りが始まった。
広場の中央では、ディッシュが村人から借りた弦楽器をポロンとかき鳴らした。
「まあ、人並み程度の腕だけどね」
「私、踊るよ!」
ディッシュの演奏に合わせて、セラが陽気に踊る。
周りの演奏者も、ディッシュに合わせて笛を吹き、太鼓を叩く。
村人たちが集まって、いつの間にか、セラの周りに踊りの輪ができた。
その中から、美しい歌声が聞こえてきた。
『深い深い霧の中 現れい出しは牙持つ雑魔
破壊の限りを尽くせしも 集いし八つの光あり
暗き森へと分け入りて 闇の力を殲滅す
齎されしは楽しい祭り 皆が望んだ収穫祭
さぁ飲め歌え 昨日の疲れを癒しつつ 明日への活力呼び覚ませ♪』
天竜寺の歌が広場いっぱいに響き渡り、祭りがさらに盛り上がっていく。
葛音は食べ物片手に、歌と踊りを眺めていた。
ふと見回すと、ひとつの屋台に、大きな人だかりができていた。そちらへ近づいてみると、食欲を刺激する、スパイスの香りが漂ってきた。村人の歓声が聞こえる。
「うまい! こんなうまいもん食ったことねえ!」
「そうかい。これはカレーっていうんだ。肉や野菜を香辛料と一緒に煮込んだ料理だ」
リカルドの屋台だった。
葛音も思わず香りに惹かれて、リカルドの屋台に立ち寄ることにした。
「カレーなんて久しぶりに見ましたよ」
「ああ、こっちの世界じゃカレーの香辛料を手に入れるのは一苦労だからな。せっかくの祭りだってんで、持ってきてはいたんだが、ちと少なかったな」
カレーは大きな鍋にまだ残っているが、屋台に集まる人の数もまた多い。
「あ、この肉はさっきの」
「獲れたての鹿肉だ。もうちょい時間があればじっくり煮込んでもっと柔らかくなるんだが」
「僕にも一杯、もらえますか? あ、少なめでいいので」
葛音は後ろに並ぶ村人たちに、少し遠慮した。
「おう、ほらよ」
「ありがとう」
葛音が人だかりから抜けだして、カレーを口にした。
「あ、おいしい」
「ティーナさん、ここはもう大丈夫だから、お祭りを楽しんでおいで」
「そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきます」
屋台を手伝っていたティーナは前掛けを外して持ち場を離れ、気になっていた別の屋台を覗きこんだ。
「こちらは、何という料理なのですか?」
「芋団子だよ。地味なもんだが、この村じゃよく食べるんだ。何にもない村だが、芋だけはいっぱいあるからね」
「どのように作るのでしょうか」
「簡単だよ。ふかした芋をつぶして丸めて、中に肉や野菜を詰めて茹でるんだ。ソースをかけたり、スープに入れてもいい」
「勉強になります」
ティーナは頷きながら、真剣にメモを取っていた。
村の娘に囲まれて、アーヴィンは大いに肉を食らい、大いに酒を飲んでいた。
そこへ、婆やがやってきた。
「楽しんでおいでかな、ハンター様」
「ああ、いい祭りだな」
「それはよかった」
婆やは顔をほころばせ、うんうんと頷いた。
「取っておいてくれ。村のために使うといい」
アーヴィンが、懐から取り出した金を気前よく婆やに差し出した。
「ハンター様、受け取れませぬ」
「いいんだ。好き放題飲んで食って、十分に楽しませてもらったからな、その分だ。祭りのやり直しで余計に金がかかったんだろう。気にせず受け取ってくれ」
婆やは、ゆっくりと、穏やかに話した。
「わしらが一番大事にしているものは、感謝なのじゃ。恵みをもたらしてくれた大地に、太陽に、雨に。ハンターの皆様にもまた、感謝を捧げねばならぬ。村を救ってもらい、祭りの準備まで手伝ってもらってしまった。このうえお金まで受け取るわけにはいかぬのじゃ。どうか、わしらの感謝を受け取ってもらえぬじゃろうか」
「そういうことなら構わん。だが、俺は人より食うし、飲むぜ」
「かっかっか。結構じゃ。ありったけの肉と酒をハンター様に」
「はいっ」
村娘が元気よく、走りだしていった。
「おいしいものがいっぱいだね」
弓月は少年と屋台を巡っていた。ひと通り、屋台の料理を楽しんだ後、広場中央、踊りの輪のところまで来た。
「せっかくだし一緒に踊らない? ダンスはあんまり得意じゃないからよければだけど……」
弓月の言葉に、しかし少年はもじもじしている。
「あの……僕、あの櫓に登りたいんだ」
「そっか! じゃあ、櫓に行こう!」
弓月が少年の手を取り、櫓へと引っ張っていった。櫓は、はしごで登ることになる。
「大丈夫? ひとりで登れる?」
「うん。大丈夫」
少年はゆっくりとだが一段ずつ、はしごを登っていく。弓月が下から、少々心配な目つきで、それを眺めていた。
やがて、少年が最後の段を登りきり、櫓の上に立った。
「やった! 登れたよ!」
「うん! やったね!」
弓月も追ってはしごを登り、櫓の上に立った。櫓の上から見たその光景に、弓月は思わずため息をついた。
「わあ、きれい……」
少年が、櫓の上から村を見渡した。
暮れなずむ村、篝火の明かりがぽつぽつと灯る村。
村人たちが陽気に踊り、歌声と、笑い声が谺する村。
少年が本当に見たかった景色が、そこにはあった。
村の広場にはいまだ、残骸が散らばっていた。
「祭りの邪魔だなんて全くもって野暮だねェ」
その光景を見たディッシュ・ハーツ(ka1048)がつぶやいた。
「折角のお祭りが雑魔のせいで中止なんて許せないよね。頑張って退治しなきゃ!」
隣でセラ・グレンフェル(ka1049)が意気込む。
「みんなの楽しみにしているお祭り、なんとしても成功させてあげたいですね」
ティーナ・ウェンライト(ka0165)の声は、温厚ながらも強い意思を持っている。
「きっちり退治してお祭りを楽しんでもらわないとね!」
天竜寺 詩(ka0396)が胸の前で拳を握りしめる。
「まあ祭りは好きにやってくれや」
アーヴィン(ka3383)はそう言い放って、壊された屋台の前に屈みこんだ。
屋台を調べていたアーヴィンが立ち上がった。
「野菜と果物だな。くずが飛び散ってる。この匂いに釣られたのかもな」
「それなら、傷んだ野菜や果物もらってくるよ。イノシシをおびき出すのに使えるかも」
セラはそう言って、走りだしていった。
「俺はシーツでも調達してこようかね。顔にかぶせて目隠しにできるかもしれない」
ディッシュがセラを追って広場を出る。
「じゃあボクは方位磁石を借りてくるよ。森の中で帰りの方向わかんなくなっちゃうと困るしね」
弓月 幸子(ka1749)もまた去っていった。
「僕は目撃情報を集めてきますね。イノシシがどのくらいの大きさだったのか、それによって戦闘の状況も変わってきますし」
葛音 水月(ka1895)が付近の村人に話を聞きに行った。
「イノシシか、保存食としてはぜひとも欲しいな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は、早くもコックとしての血が騒ぎ始めている。
散っていたハンターらが再び広場に集まった。
「目撃者の方によると、イノシシはかなり大きいみたいです。馬で引くような大きな幌付きの荷車くらい、だそうです」
「動物に近けりゃあ良いんだが、まあどこまで似ているかだな」
リカルドがつぶやいた。
「それだけ巨大ならわかりやすい痕跡があるはずだな。それを辿るか」
アーヴィンの言葉にみなが賛同し、注意深く痕跡を探りながら、『霧の森』へと向かっていった。
●
ハンターらにとってみれば、痕跡を見つけるのは容易だった。『霧の森』付近では、細い木がなぎ倒されていた。下草が踏み荒らされ、折れた枝が転がっているのが見える。
「森の中は足元が悪そうだから、靴にロープを巻いて滑り止めにするといいよ」
天竜寺がそう言い、持参してきたロープを切って全員に配った。
「なるほど、勉強になりますね」
ティーナが受け取り靴に巻く。各々が靴にロープを巻く中、リカルドとアーヴィンはさらに、体に泥を塗った。
「匂い消しだ。イノシシは鼻がきくからな」とリカルド。
「狩りの基本だな」アーヴィンが頷いた。
森の中は、枝葉に覆われ薄暗い。そのうえ霧で見通しが悪い。地面と下草は露に濡れているが、靴に巻いたロープは十分にすべり止めの役目を果たしてくれた。
「すごい霧だね。はぐれないようにしないと……みんないる?」
弓月がそう言って、LEDライトを点灯した。
「離れすぎないようにしないとね。まとまりすぎるのもまずいけど」
セラも、少し間隔を開けて歩くディッシュも、LEDライトを点けた。
天竜寺は、シャインによって光り輝くリュミエールボウを掲げた。頭上には金色の輪が、左には片翼がある。
「いつ現れても対応できるよう、僕も身構えておきましょう」
葛音が腰に着けたランタンを灯し、黒い猫耳と尻尾をピクピクと動かした。
森の深部へと進むにつれ、霧もまた濃くなっていった。
やがて、少し開けた場所に出た。牙で擦れた跡だろうか、傷が付いた木がある。地面は踏み荒らされ、掘り返されている。雑魔の確かな気配を感じて、緊張感を高めた。
ひときわ大きな木があった。大人が五人ほど、手を繋げばやっと周りを囲めるくらいの太さだろうか。
セラが大木に手を置いて、言った。
「この大木にイノシシをぶつけられないかな」
「そうだね。ここで待ち伏せてみよう」
ディッシュが頷いた。セラが、大木の周りに野菜や果物を撒き散らした。
「さっきのロープ、余ってますか?」
「あるよ。はい」
葛音が、天竜寺から受け取ったロープを木に縛り付けた。ロープは二本の木のあいだで、膝ほどの高さにピンと張られた。
「これでうまく転んでくれたらいいのですが」
「じゃあここにも撒いておこう」
セラはロープの周りにも野菜くずを撒いた。
●
ハンターらは、明かりを消し、息を潜め、お互いに距離を取り陣形を築いた。
その時はすぐに訪れた。
枝をへし折りながら突進してきたイノシシ雑魔はまず、側面にいたリカルドのバトルライフルを食らうことになる。
「最近のコックさんは材料の現地調達もやるから、戦闘スキルが高いんだよ」
「ホーリーライト、いきます! 当たって!」
ティーナのホーリーライトがイノシシの顔に命中した。
ほぼ同時に天竜寺が放った矢は、イノシシの足を捉えていた。
「止まれぇ!」
しかし、それでもイノシシは止まらない。目指す先には、葛音がいた。
衝突寸前、葛音はひらりと宙に跳んだ。
「ふっふー、スリリングですねー!」
瞬脚とマルチステップによる、猫もかくやという見事な身のこなしだった。
イノシシは張られたロープに足を取られ、葛音が地面に突き立てていたスピアへと、鼻から突っ込んだ。スピアは、天竜寺のホーリーセイバーにより白く輝いていた。
だが、イノシシは立ち上がった。足に矢が刺さったまま、鼻にスピアが刺さったまま。
振り返り、再び突進の構えを見せる。次に向かう先にいるのは、ディッシュだ。ディッシュはこれを好機と、大木を背に身構えた。
セラの足元に、水面のような波紋が広がった。
「ディッシュ!」
セラのプロテクションにより、ディッシュの体が光に包まれた。同時に緑の風も渦巻いた。弓月のウインドガストだ。弓月は普段のかわいらしい姿とは打って変わって、鋭い目をしている。
「イノシシさんこちら……きゃー!? 速いってば!」
セラがホーリーライトを放つ。
「ボクのターン!! まずはこれだよ」
弓月のアースバレットが炸裂する。
確かに、イノシシにはダメージが届いた。だがしかし、イノシシの速度はさほど緩まない。
「無茶はしないでいただきたいな!」
ディッシュが布を構える。寸前、イノシシの右目に、矢が突き刺さった。少し離れた場所から狙いを定めていた、アーヴィンの矢だ。
「ただ直線で突っ込むだけなら、外すほうが難しいな」
ほんの僅かに、イノシシがひるみを見せたその隙を、ディッシュは逃さなかった。広げた麻布をイノシシの顔にかぶせ、横へ飛ぶ。
視界を奪われたイノシシは狙い通り、大木に激突した。
左の牙が、大木へ突き刺さった。
右の牙は、ディッシュの胸をかすめていた。
「ディッシュ! 大丈夫?」
ディッシュに駆け寄ったセラが、すぐにヒールで回復をする。
「心配ないよ。スキルのおかげでかすり傷で済んだよ」
イノシシの湾曲した牙は、大木に深く刺さり抜けそうにない。イノシシはその場でただじたばたと、四肢を暴れさせることしかできなかった。
「トドメを刺しませんとね」
ティーナが、モーニングスターを掲げた。
●
ハンターらの滅多打ちを食らったイノシシの雑魔は、程なく消滅した。
「イノシシを一頭ふせて、ターンエンド」
弓月が高らかに宣言した。
葛音はスピアと、木に張られたロープを回収した。
「ありがとう、役に立ちました」
「いえいえ」
天竜寺が葛音からロープを受け取った。
「ちっ、肉が残れば燻製にしたかったんだがな」
リカルドが残念そうに言った。
「肉なら、調達できそうだぜ」
そう言ったのはアーヴィンだ。
「探索中に、鹿らしき痕跡を見つけた。収穫の時期だから人里に降りてきてるんだろう。狩ってこようと思うが、どうだ?」
「鹿か。悪くない。放っておけば畑を荒らすだろうしな。よし、下処理は任せろ」
「じゃあ俺たちは先に村に帰るよ。祭りの準備を手伝わないとね」
ディッシュがそう言って、リカルドとアーヴィンを見送った。
●
忙しく人が動き回る広場で、組み上がろうとしている櫓を見上げる少年がいた。身軽さを活かして、高所でひょいひょいと作業を進める葛音を、少年はぽかんとした顔で眺めていた。
「すごいもんだなあ、あの兄ちゃん。いや、姉ちゃん、か?」
通りすがった村人が、葛音を見上げて感心した。
「ディッシュ、ここに置いておくね」
セラが資材を運んできた。
「俺も上の作業を手伝ってこよう」
ディッシュも腕まくりをして、資材を抱えてするすると足場を登っていく。
「僕も手伝います!」
櫓を見上げていた少年が、セラに言った。
「それじゃあ、一緒に資材を運ぼうね。無理しちゃダメだよ」
「はいっ」
少年は笑顔で、木材を両手いっぱいに抱えた。
「こんなに早く屋台が直るなんてねえ。本当にありがたいよ」
「えへへ」
屋台の復旧を手伝っていた弓月は、村人の言葉に少し照れくさそうにはにかんだ。
「ほれ、肉だ」
アーヴィンが、どさり、と屋台に置いたのは、大量の鹿肉だった。
「わあすごい。こんなに」
天竜寺が感嘆した。
「いいお料理が作れそうです」
ティーナと天竜寺が早速、調理に取り掛かった。
●
日が傾き、村に朱の光が差し込む頃、村の随所で篝火が焚かれた。広場で、村長が集まった村人の前に立つ。
「今年も、大地は我らに実りを授けてくれました。ハンターの皆様が、村に平和をもたらしてくれました。盛大に祝い、感謝を捧げましょう!」
これを合図に、どんちゃん騒ぎの祭りが始まった。
広場の中央では、ディッシュが村人から借りた弦楽器をポロンとかき鳴らした。
「まあ、人並み程度の腕だけどね」
「私、踊るよ!」
ディッシュの演奏に合わせて、セラが陽気に踊る。
周りの演奏者も、ディッシュに合わせて笛を吹き、太鼓を叩く。
村人たちが集まって、いつの間にか、セラの周りに踊りの輪ができた。
その中から、美しい歌声が聞こえてきた。
『深い深い霧の中 現れい出しは牙持つ雑魔
破壊の限りを尽くせしも 集いし八つの光あり
暗き森へと分け入りて 闇の力を殲滅す
齎されしは楽しい祭り 皆が望んだ収穫祭
さぁ飲め歌え 昨日の疲れを癒しつつ 明日への活力呼び覚ませ♪』
天竜寺の歌が広場いっぱいに響き渡り、祭りがさらに盛り上がっていく。
葛音は食べ物片手に、歌と踊りを眺めていた。
ふと見回すと、ひとつの屋台に、大きな人だかりができていた。そちらへ近づいてみると、食欲を刺激する、スパイスの香りが漂ってきた。村人の歓声が聞こえる。
「うまい! こんなうまいもん食ったことねえ!」
「そうかい。これはカレーっていうんだ。肉や野菜を香辛料と一緒に煮込んだ料理だ」
リカルドの屋台だった。
葛音も思わず香りに惹かれて、リカルドの屋台に立ち寄ることにした。
「カレーなんて久しぶりに見ましたよ」
「ああ、こっちの世界じゃカレーの香辛料を手に入れるのは一苦労だからな。せっかくの祭りだってんで、持ってきてはいたんだが、ちと少なかったな」
カレーは大きな鍋にまだ残っているが、屋台に集まる人の数もまた多い。
「あ、この肉はさっきの」
「獲れたての鹿肉だ。もうちょい時間があればじっくり煮込んでもっと柔らかくなるんだが」
「僕にも一杯、もらえますか? あ、少なめでいいので」
葛音は後ろに並ぶ村人たちに、少し遠慮した。
「おう、ほらよ」
「ありがとう」
葛音が人だかりから抜けだして、カレーを口にした。
「あ、おいしい」
「ティーナさん、ここはもう大丈夫だから、お祭りを楽しんでおいで」
「そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきます」
屋台を手伝っていたティーナは前掛けを外して持ち場を離れ、気になっていた別の屋台を覗きこんだ。
「こちらは、何という料理なのですか?」
「芋団子だよ。地味なもんだが、この村じゃよく食べるんだ。何にもない村だが、芋だけはいっぱいあるからね」
「どのように作るのでしょうか」
「簡単だよ。ふかした芋をつぶして丸めて、中に肉や野菜を詰めて茹でるんだ。ソースをかけたり、スープに入れてもいい」
「勉強になります」
ティーナは頷きながら、真剣にメモを取っていた。
村の娘に囲まれて、アーヴィンは大いに肉を食らい、大いに酒を飲んでいた。
そこへ、婆やがやってきた。
「楽しんでおいでかな、ハンター様」
「ああ、いい祭りだな」
「それはよかった」
婆やは顔をほころばせ、うんうんと頷いた。
「取っておいてくれ。村のために使うといい」
アーヴィンが、懐から取り出した金を気前よく婆やに差し出した。
「ハンター様、受け取れませぬ」
「いいんだ。好き放題飲んで食って、十分に楽しませてもらったからな、その分だ。祭りのやり直しで余計に金がかかったんだろう。気にせず受け取ってくれ」
婆やは、ゆっくりと、穏やかに話した。
「わしらが一番大事にしているものは、感謝なのじゃ。恵みをもたらしてくれた大地に、太陽に、雨に。ハンターの皆様にもまた、感謝を捧げねばならぬ。村を救ってもらい、祭りの準備まで手伝ってもらってしまった。このうえお金まで受け取るわけにはいかぬのじゃ。どうか、わしらの感謝を受け取ってもらえぬじゃろうか」
「そういうことなら構わん。だが、俺は人より食うし、飲むぜ」
「かっかっか。結構じゃ。ありったけの肉と酒をハンター様に」
「はいっ」
村娘が元気よく、走りだしていった。
「おいしいものがいっぱいだね」
弓月は少年と屋台を巡っていた。ひと通り、屋台の料理を楽しんだ後、広場中央、踊りの輪のところまで来た。
「せっかくだし一緒に踊らない? ダンスはあんまり得意じゃないからよければだけど……」
弓月の言葉に、しかし少年はもじもじしている。
「あの……僕、あの櫓に登りたいんだ」
「そっか! じゃあ、櫓に行こう!」
弓月が少年の手を取り、櫓へと引っ張っていった。櫓は、はしごで登ることになる。
「大丈夫? ひとりで登れる?」
「うん。大丈夫」
少年はゆっくりとだが一段ずつ、はしごを登っていく。弓月が下から、少々心配な目つきで、それを眺めていた。
やがて、少年が最後の段を登りきり、櫓の上に立った。
「やった! 登れたよ!」
「うん! やったね!」
弓月も追ってはしごを登り、櫓の上に立った。櫓の上から見たその光景に、弓月は思わずため息をついた。
「わあ、きれい……」
少年が、櫓の上から村を見渡した。
暮れなずむ村、篝火の明かりがぽつぽつと灯る村。
村人たちが陽気に踊り、歌声と、笑い声が谺する村。
少年が本当に見たかった景色が、そこにはあった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/01 18:36:54 |
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相談卓 ティーナ・ウェンライト(ka0165) 人間(リアルブルー)|28才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/02 23:59:36 |