ゲスト
(ka0000)
モグラ横丁の事件
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/01 22:00
- 完成日
- 2014/12/08 03:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
異界の船が転移して以来、リゼリオとその周辺はハンター景気に後押しされ街は賑わいを日々増している。
だが──
そんな中でも取り残された一角というのは存在するものだ。街外れも大概な、うらぶれた小さな盛り場のさらに外れ。日中に見ても開いているかわからない日用品店、少しいかがわしさを漂わせる落ちそうな看板、濁った小さな窓はさび付いて開けそうにない。
盛り場の従業員の狭く煤けたねぐら。数十mほどの古ぼけた鍵型の袋小路の渾名は、誰がつけたかモグラ横丁という。
●
「まずトラブルを疑ったんですがね。初動がマズかったのは認めます」
最初の被害者は横丁にねぐらを持つ酒乱の男で、よく暴れては酔いつぶれておりましたので。この地区の治安担当は言い訳じみた経緯を話す。
2日前。横丁の路上で初老の男が殺された。爪のついたショベルのようなもので、上段から力任せに殴られたらしき傷が致命傷だ。
事件のあった深夜、たまたま横丁入り口近くで作業中だった大工が、袋小路への出入りは無かったと証言。現場には凶器に合致するシャベルが放置されていた。だから役人は、横丁の住人を疑った。犬を飼い、力持ちで大柄で、酒乱の男とトラブルがあった者。
「犬、とは?」
ハンターの問いに、役人は被害者の服を指し示す。血のついた毛皮でこすったような跡。迂闊だった。犬がトラブルの原因だったと聞いて飛びついてしまった。人ではない痕跡を見つけた時点で歪虚を疑うべきだった。
まる1日、無駄足をふんだのだ。
進展があったのは昨夜。
珍しく悪い酒に酔った飲み屋の女将が、吐き気に耐えかねてねぐらから這い出し、横丁にできたばかりの空き地に蹲った。事を済ませその場所が事件現場と気づき、思わずあたりを見回したのち、簡単な後始末をして立ち去ろうとした。
「最初は誰もなにも居なかった。けれど、自分の他にも土を掘るような音がして、照明を掲げてみたの。そしたら、ああ! あのバケモノどもが土の中から出てきて……」
照明が直立したバケモノを照らし出した瞬間、慌てたように目を覆い硬直した隙を逃さず、ランタンを投げつけてねぐらのある建物に駆け込み扉を家具で塞いで夜が明けるまで震えていたと女将は供述。
1体は、大柄な男ほどの図体で大きな爪の生えた前足を持っていた。明かりも無い状態で追いかけてこられたら助からなかったろう。大きなバケモノだけに気をとられていたけれど、足元を絡みつくように小さな獣が擦り寄ってきていた。足が絡まって転んでいたら……
さらなる調書によれば、ランタンが当たって襲撃が止まり、おそらく硬直が解けて早々に土中に逃げたと推測された。しかし、翌朝の捜査では土の表面の数箇所に柔らかい箇所が見受けられただけで、通路も巣穴も形状を保ったものは見つけられなかった。
●
現場のつくりはこうです。と、ハンターが求める前に資料が差し出された。
もともとの横丁を上から見ればL字を回転させた鍵型の様だろう。
道は汚れ磨り減った石畳、両脇に連なる煤けたレンガや漆喰造りの二階建て。
そのL字の一辺の中ごろに、数日前、建物を取り壊してそこだけ柔らかい土が露出する狭い空き地ができていた。
「横丁の形は元のL字がF字になった、と考えてください。横丁の入り口はFの下部。突き当たりを右に折れる袋小路の手前に、細長い空き地があるわけです」
道幅はおおよそ4m。F字の縦辺、全長40m。F字の横辺、20m。
問題の空き地は縦辺中央あたり。間口が約6m、奥行きが12m程だろうか。
たぶん、最初の酒乱の男も、ここで酒臭さを撒き散らして潰れているところに奇禍にあったのだ。
つくづく。本当につくづく初動ミスが悔やまれる。
「この失敗に住人達は冷ややかでね。全面協力が得られる余裕はせいぜい1晩です」
侘しい場末の住人達だ。行く場所も無く、悠長に数日間を退避に回せる身分ではない。
本当に申し訳ない。早く解決しろとせっつかれた勇み足がこれです。
オフィスのミーティングルームで、役人は深々と頭を下げた。
異界の船が転移して以来、リゼリオとその周辺はハンター景気に後押しされ街は賑わいを日々増している。
だが──
そんな中でも取り残された一角というのは存在するものだ。街外れも大概な、うらぶれた小さな盛り場のさらに外れ。日中に見ても開いているかわからない日用品店、少しいかがわしさを漂わせる落ちそうな看板、濁った小さな窓はさび付いて開けそうにない。
盛り場の従業員の狭く煤けたねぐら。数十mほどの古ぼけた鍵型の袋小路の渾名は、誰がつけたかモグラ横丁という。
●
「まずトラブルを疑ったんですがね。初動がマズかったのは認めます」
最初の被害者は横丁にねぐらを持つ酒乱の男で、よく暴れては酔いつぶれておりましたので。この地区の治安担当は言い訳じみた経緯を話す。
2日前。横丁の路上で初老の男が殺された。爪のついたショベルのようなもので、上段から力任せに殴られたらしき傷が致命傷だ。
事件のあった深夜、たまたま横丁入り口近くで作業中だった大工が、袋小路への出入りは無かったと証言。現場には凶器に合致するシャベルが放置されていた。だから役人は、横丁の住人を疑った。犬を飼い、力持ちで大柄で、酒乱の男とトラブルがあった者。
「犬、とは?」
ハンターの問いに、役人は被害者の服を指し示す。血のついた毛皮でこすったような跡。迂闊だった。犬がトラブルの原因だったと聞いて飛びついてしまった。人ではない痕跡を見つけた時点で歪虚を疑うべきだった。
まる1日、無駄足をふんだのだ。
進展があったのは昨夜。
珍しく悪い酒に酔った飲み屋の女将が、吐き気に耐えかねてねぐらから這い出し、横丁にできたばかりの空き地に蹲った。事を済ませその場所が事件現場と気づき、思わずあたりを見回したのち、簡単な後始末をして立ち去ろうとした。
「最初は誰もなにも居なかった。けれど、自分の他にも土を掘るような音がして、照明を掲げてみたの。そしたら、ああ! あのバケモノどもが土の中から出てきて……」
照明が直立したバケモノを照らし出した瞬間、慌てたように目を覆い硬直した隙を逃さず、ランタンを投げつけてねぐらのある建物に駆け込み扉を家具で塞いで夜が明けるまで震えていたと女将は供述。
1体は、大柄な男ほどの図体で大きな爪の生えた前足を持っていた。明かりも無い状態で追いかけてこられたら助からなかったろう。大きなバケモノだけに気をとられていたけれど、足元を絡みつくように小さな獣が擦り寄ってきていた。足が絡まって転んでいたら……
さらなる調書によれば、ランタンが当たって襲撃が止まり、おそらく硬直が解けて早々に土中に逃げたと推測された。しかし、翌朝の捜査では土の表面の数箇所に柔らかい箇所が見受けられただけで、通路も巣穴も形状を保ったものは見つけられなかった。
●
現場のつくりはこうです。と、ハンターが求める前に資料が差し出された。
もともとの横丁を上から見ればL字を回転させた鍵型の様だろう。
道は汚れ磨り減った石畳、両脇に連なる煤けたレンガや漆喰造りの二階建て。
そのL字の一辺の中ごろに、数日前、建物を取り壊してそこだけ柔らかい土が露出する狭い空き地ができていた。
「横丁の形は元のL字がF字になった、と考えてください。横丁の入り口はFの下部。突き当たりを右に折れる袋小路の手前に、細長い空き地があるわけです」
道幅はおおよそ4m。F字の縦辺、全長40m。F字の横辺、20m。
問題の空き地は縦辺中央あたり。間口が約6m、奥行きが12m程だろうか。
たぶん、最初の酒乱の男も、ここで酒臭さを撒き散らして潰れているところに奇禍にあったのだ。
つくづく。本当につくづく初動ミスが悔やまれる。
「この失敗に住人達は冷ややかでね。全面協力が得られる余裕はせいぜい1晩です」
侘しい場末の住人達だ。行く場所も無く、悠長に数日間を退避に回せる身分ではない。
本当に申し訳ない。早く解決しろとせっつかれた勇み足がこれです。
オフィスのミーティングルームで、役人は深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●
今晩は美しい冬の半月なのに、空が鍵形に切りとられた横町からは望むべくもない。
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は見上げた空から横町入り口に止めた馬車に視線を移す。懐のブランデーの小瓶の穏やかな温もりを確かめ、使う機会がなければいいがと、冷気にふるえる。レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が念をおし、いっさい酒気を帯びない約束で夕方まで居残った住民の最後の一団が、ハンターの見送る中、役人の差し向けた避難所へ向かう馬車に乗り込む。
「貧すれば鈍する、それが世の常ですが……」
レイの嘆息──
捜査ミスの影響は想像以上に死活問題だったらしい。商売の手配に仕入れ、表の倍の日数と金が無駄になる。支払いは待ってくれず借金は嵩む。最初から歪虚を疑って対応できていたら、まだ痛手は最小ですんだものを。今晩で片づくんでしょうねぇ? 朝から予定があるんだよ。何人もの住民が念を押す。
「まぁ任せて下さいよ」
敢えて軽く那月 蛍人(ka1083)が、捜査で拘束されていた男に請け合った。態度が悪いのは仕方ない。不愉快な取り調べが骨折り損ときては。心配ないから近寄らないように。俺たちに任せてくれと、明るく送り出す。空き地近くの飲み屋の入り口からカエデ・グリーンフィールド(ka3568)が半身を乗り出し馬車に乗った女将に手を振る。ホットビール──。超級まりお(ka0824)の提案した誘引策に使う熱燗は、酒の種類は違えどリアルブルーのじぱんぐ文化だ。びゅーちふるな妾に免じて、と大張り切りで、飲食店の一角を借り受けられないかと思案するまりおと店の持ち主の女将をエレガントに引き合わせたのは、この元お嬢様だ。
「ぷはっ! ホットビール作っておいてなんだけど、アルコール臭強烈すぎるよー」
交渉してみるものだ。調理場に加え鍋も貸して貰えたとホクホクで、まりおは缶ビールを湯煎する。この臭いで敵を引きずり出す。
蛍人の分が出来上がったよ、囮役がんばってね、と、手拭いと靴下を漬け込むように革袋にビールを注いで持ち主に渡すと、まりおは残る自分の缶を空き地前の石畳に撒こうとつまみ上げる。
熱燗。60度近い酒と容器がまりおの手指を灼き、宙に舞い、中身を散らして石畳に転がった。
「ぬぁっちゃぁっ!」
撒こうとした量の半分はまりおの服に吸われただろうか。火傷を案じる仲間に、早くケリをつけよう、と促す。正直……早く風呂に入りたかった。
●
レイは空き地奥に待機すると、ランタンに掛かけた覆布の隙間を片手で遮る。研ぎすませた感覚を雑魔の気配感知に振り分ける。
空き地前の石畳、建物のわずかな凹凸に隠れ、直前まで入念にカエデと打ち合わせていたリチャード・バートン(ka3303)が住民から借り受けたランタンを遮光して待機しているはずだ。空き地隣の建物の陰にはユキヤ。石畳を固めるまりおとカエデが初動に連動して動くため、息を潜めてその爪を研いでいる。
掘削音感知で1回、雑魔出現で2回。豆粒程の点滅を送り、後は一気に攻勢に出る。囮役がどう動こうとも、私が確実に退路を塞ぐ。だから……。レイが言葉を継ぐ前に、任せたと笑った相手は、今、石畳から数歩、空き地に分け行っていた。
じゅぶじゅぶと蛍人の足音に混じり靴の中でビールが攪拌される音がする。さらに水音。
(被害者が襲われた状況再現は忠実に、っと)
柔らかい土に瞬時に吸い込まれてなお、漬け汁に使ったホットビールの強烈なアルコール臭が空き地に漂う。LEDライトに手をかけて、泥酔者特有の緩慢な動きで様子を窺う。獲物はここだ。食らいつけ。逃げ惑う力もない人々を手に掛けたように俺を襲え。数歩背後の石畳を意識しながらもゆらゆら佇む。
──数十秒のち。
かすかな掘削音。
レイの感知と信号のすぐ後、想像以上の速さで音量が近く激しくなり、ふいに止む。
蛍人の目前。
先刻見送った元容疑者の大男の威容そのままに、大型のモグラ雑魔が赤い目を光らせ立ち上がっていた。
雑魔が両腕を下ろした状態で出現したのは幸いだった。
ミスとはいえ捜査の見立ては工具をもった大男相当、その発達した爪を持つ腕がゆっくりと上がり振り下ろされる前に、盾を構え攻撃に備えることができたのだから。
一発目!
「釣れた! 追い立てるほうは任せた!」
蛍人のカエトラが悲鳴を上げる。攻撃を受け流すまま体をひねり、石畳の上へと足を運ぶ。ほんの数歩、勢いに任せた動作ならさらに短い。しかし──小型の雑魔が足に絡みつくのが早かった。たっぷり靴下に染み込ませたきついビールの臭いが、予想より早く小型雑魔を引き寄せたものか。
半身だけをかろうじて石畳に乗り上げ蛍人が転倒する。
再度! 襲う大型雑魔の爪が光る。
「そこまでです!」
空き地の中、蛍人を襲う雑魔の背後に躍り出たユキヤのホーリーライトが、振り下ろされた爪の軌道を僅かに変えた。爪が石畳にぶつかる衝撃音と僅かな血臭。
「ここまでは計画通り……だな!」
大丈夫、上出来だ。このくらいはかすり傷。ニッと笑う蛍人の襟首を駆け寄るカエデが引っ掴み、火事場のバカ力で雑魔の攻撃範囲から引きずり出す。空き地奥に仕掛けたランタンの覆いを剥ぎ取るのもそこそこに、レイが雑魔の背面に回り雷神斧に籠めた渾身のクラッシュブロウを背に見舞う。
「空き地側は押さえました。どのタイミングで雑魔たちが逃走を図ろうとも、地中に潜ることは許しません」
さあ、一撃を見舞われたいですか? それとも弾き飛ばされたい、とか?
レイが戦法の全リソースを大型雑魔の即応に当てる。
「横丁の入り口に向かおうとしても無駄、じゃぞ」
なにせ妾が睨んでおるのだからのぅ?
蛍人と横丁の入り口を背に塞いで立つカエデが雑魔を睨み──
「ここで散るのが嫌なら、あちらへご案内しましょうか?」
ホーリーライトの弾数に不足はありませんよ?
ユキヤが得物を向けて構える。
雑魔たちの正面は建物。背面の巣穴は絶たれ、街中方面へ向かうことは許されない。現状、三方の他に残る道はひとつ──袋小路へと至る鍵型の石畳。
「小型のモグラはお任せを」
リチャードが余計な邪魔の入らぬよう、蛍人ごと引きずられてなお執拗にその足へ絡み巻きつく小型雑魔を始末にかかる。キィキィと耳障りな鳴き声をあげ、小さくも禍々しい爪をせわしく動かして、小型雑魔はアルコールに反応して体を擦り付ける。するりぬるりとめまぐるしく、しかし決して離れようとしない。
最初の犠牲者に残された毛皮で刷いたような痕跡は、こうやってつけられたのだ。
犬? どこが犬か。犬であるものか。こんな悪意の獣が犬と間違えられてたまるものか。
多少手荒に引き剥がしても構やしない、遠慮するなと蛍人が激を飛ばす。
「大丈夫っ! こんなチビは僕が翻弄しちゃうから、挟撃とか狙えるんじゃないかなっ?」
おっまたせー! まりおが瞬脚からの飛燕を駆使し手裏剣八握剣を小型雑魔に見舞う。
もとよりブラフ。外れても次がある。驚き慌て浮きあしだったところを蹴り剥がし、着地もままならないところに村雨丸で薙ぎ払う。──かすった。雑魔はまだ消えない。
一緒に絡み付いていた仲間が蹴り飛ばされ、びくりと残る1匹が反応した隙に、懐に忘れていたLEDライトを蛍人が照射する。体をもたげていたのが命取り。リチャードの手が今度こそ、小形雑魔の体を捕らえ引き剥がす。固く拘束する力も緩めないまま、さらにスラッシュエッジをショートソードに乗せ、確実に首をはねる。それでもまだ消えないならば、残りの全スキルをかけてもと、リチャードの目が朽ちかける1匹と手負いのもう1匹も追う。
「陸上で鍛えた僕の運動神経、舐めちゃ困るなぁ」
ホィッ! ホィッ! 軽やかにマルチステップを踏むまりおがリチャードの視線に気づき、このやけに纏わりつくやつをそっちに蹴飛ばすから挟撃宜しくとアイコンタクト。せいっ! っと勢いよく蹴飛ばして──剣呑な雰囲気に気がついたのはその直後だった。
●
「……なんで大きいのまで、僕を睨んでるのかな?」
大きいやつは囮役の蛍人を追いかけてきて、今は皆に囲まれているところ。僕の相手はこのチビモグラ。僕はやつのターゲットじゃないはずなのに。なのに!
「匂いかぁーっ!」
囮役のアルコール臭に混ざる血の臭いと土の臭い。煤けた石畳の上を転げ、上書きされた雑多な臭い。数日前に襲った獲物は、雑多な臭いが勝ったときに動かなくなったし、襲う理由も無くなった。だから、この雑魔は──
包囲された一角に新たに加わった、より強烈で純粋なアルコール臭。雑魔における襲撃の優先順位が、雑臭混じりの囮から邪魔者へ、そして新たな獲物──まりおへと切り替わった。
敵を追い込む場所がひとつなら、新たな囮役が逃げる場所もまたひとつ。
「大丈夫です。僕も牽制と追い込みに回ります!」
「援護射撃は任せておくがよい。妾が凶刃を阻んでくれようぞ」
ユキヤとカエデが支援は任せて横丁奥へ走れと、まりおへ叫ぶ。
ユキヤの照準は逐次、大型雑魔を追尾。懐から保険の筈だったブランデーの小瓶を取り出し、コルク栓を弾く。
なに、邪魔をするだけじゃからな。どこにでもこのデリンジャーが当たればよいのじゃ。カエデも備えの銃器を取り出す。
えい……ままよ! 襲い掛かる爪をすんででかわし、想像のダッシュボタンを全開にしてまりおは横丁の奥に向かって駆け出した。
「ダッシュ! ジャンプ! ドリフトは……無理かも?」
「分断します。とにかく避けてください」
まりおの掛け声に合わせ、後を追う二人の射撃、ホーリーライトが大型雑魔を追いたて、デリンジャーが爪の動きを阻害する。追い込みの仕上げ。まりおのマルチステップからの回避と同時に、直角に折れるその地点めがけユキヤが投げたブランデーの小瓶が、芳香を散らし石畳に砕け散る。
新たなアルコール臭に混乱した雑魔が建物壁面に激突し、よろけながら獲物を探す。
F字の角。2方の壁。残る袋小路と入り口から、ハンター達が武器を突きつけていた。
「小型雑魔、全殲滅を確認。作戦通り、照明の配置調整、完了しています」
空き地とその前の石畳をリチャードが再配置したランタンとLEDライトが照らす。無理に突破しようと図っても、容易にその顔面に照明を叩き込める。
「そういうわけだ。あっちもこっちも行き止まりだな!」
「備えあればなんとやら、ですね」
防御は気にするな。全力で潰せ。蛍人の放つプロテクションの光が、レイとカエデの全身を包む。
「では参ろうか……の? 妾の相手を出来た名誉を土産に黄泉路を逝け」
闘心昂揚。祖霊と精霊よ、我が武運に加護を与えたまえ。クラッシュブロウを日本刀に込め、カエデは一気に大型雑魔の懐へ潜り込む。横撃だ。避けられまい。だが失念していた。大男が持つ工具相当のリーチと、四足歩行にかかった時の敏捷ささえ無いならば──。
「待て! さっきのは戦意高揚の景気づけじゃ。まずは……ひぃっ!」
日本刀で受け流すのがやっと。どこかが切れたのだろうか。鼻の奥がキナ臭い。
まだ大丈夫、一気に片をつける時までヒールは温存がよかろう。慌ててカエデへ治療を施そうとするユキヤを制し代わりにホーリーライトの牽制を促す。折角の地の利。穴を開けるわけにもいくまいて。だが更に望めるならば……背面を取れるならば……
「逃走ならば心配無用。しかし、間合いの利と前屈姿勢が取れる状況が続いては…」
握る武器に紫電を奔らせレイが大型雑魔を跳ね除ける。
「こいつを倒す算段があるなら喜んで乗るぞ?」
カエトラを掲げた蛍人を見、再度、前屈姿勢をとろうとする雑魔を睨み、レイはなんでも素直に真に受ける男の恐ろしさを垣間見せる。
「では、シールドバッシュで受け崩したあれを、私のほうに背を向くよう押し込んでください」
一瞬あっけにとられた蛍人は、すぐにレイへ快諾の返事を返す。
迷う暇はない。直立から前屈へ姿勢を変えながら蛍人へ向かってくる大型雑魔を受け止めいなし、レイの構える雷神斧へ弾くように押しやる。よろけ出た雑魔の背をレイがノックバックで弾き飛ばせば、畢竟、雑魔は腹面から壁へ叩きつけられることとなる。
「言いませんでしたか? 逃走は許しません、と。逃げるそぶりすら許すものですか」
「良い姿勢じゃな。そのまま立ち往生する前に、悪い手を先にお仕置きせぬとな」
背面狙いの好機を逃さず──カエデの祈りを込めたクラッシュブロウが、磔となった雑魔の腕を切り落とす。
皆も続け。この爪が人の命を奪ったのじゃ。多少擦り切れた性分であっても、殺されてよい者たちでは決してないぞ。
倒れることもできず、爪を振るうこともできず。
大型のモグラ雑魔の腕は落ちて、また落ちて、朽ちていく。
そして最後には何も残らなかった。
●
朝といわず、すぐに討伐完了の報せは届けましょう。
諸々の確認後、未明のうちに避難所に走ったユキヤの一報を受け、白む冬の空の下、横丁に住民が帰還する。
「摘んでおいて幸いでした……」
今朝には死んだ爺さんの野辺送りだから、少しでも早く帰りたかったのさ。冬だから寂しい枕飾りになると思ってた。心づくしに礼を言い、女将と何名かの住民が粗末な棺にレイが用意した野花を入れる。
「こんな時に酒臭くてごめんな」
「殲滅の確認兼ねて、空き地で服とかぎゅうぎゅう絞ったんだけどねー」
蛍人とまりおは結局、着替えも惜しんで確認作業にあたってそのままだ。
棺に寄り添う犬を見つけたリチャードに、飼い主の大男は言う。元は爺さんが拾った犬だから、こいつが襲う筈なんてねぇよ。
安堵の表情を浮かべたのはリチャードだけではなかった。
荒んだ暮らしの表からは見えない住民事情。
カエデはまたひとつ世界を知る。
ただ、いまは、誰にも等しく──
「心穏やかな眠りのあらんことを、じゃな」
今晩は美しい冬の半月なのに、空が鍵形に切りとられた横町からは望むべくもない。
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は見上げた空から横町入り口に止めた馬車に視線を移す。懐のブランデーの小瓶の穏やかな温もりを確かめ、使う機会がなければいいがと、冷気にふるえる。レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が念をおし、いっさい酒気を帯びない約束で夕方まで居残った住民の最後の一団が、ハンターの見送る中、役人の差し向けた避難所へ向かう馬車に乗り込む。
「貧すれば鈍する、それが世の常ですが……」
レイの嘆息──
捜査ミスの影響は想像以上に死活問題だったらしい。商売の手配に仕入れ、表の倍の日数と金が無駄になる。支払いは待ってくれず借金は嵩む。最初から歪虚を疑って対応できていたら、まだ痛手は最小ですんだものを。今晩で片づくんでしょうねぇ? 朝から予定があるんだよ。何人もの住民が念を押す。
「まぁ任せて下さいよ」
敢えて軽く那月 蛍人(ka1083)が、捜査で拘束されていた男に請け合った。態度が悪いのは仕方ない。不愉快な取り調べが骨折り損ときては。心配ないから近寄らないように。俺たちに任せてくれと、明るく送り出す。空き地近くの飲み屋の入り口からカエデ・グリーンフィールド(ka3568)が半身を乗り出し馬車に乗った女将に手を振る。ホットビール──。超級まりお(ka0824)の提案した誘引策に使う熱燗は、酒の種類は違えどリアルブルーのじぱんぐ文化だ。びゅーちふるな妾に免じて、と大張り切りで、飲食店の一角を借り受けられないかと思案するまりおと店の持ち主の女将をエレガントに引き合わせたのは、この元お嬢様だ。
「ぷはっ! ホットビール作っておいてなんだけど、アルコール臭強烈すぎるよー」
交渉してみるものだ。調理場に加え鍋も貸して貰えたとホクホクで、まりおは缶ビールを湯煎する。この臭いで敵を引きずり出す。
蛍人の分が出来上がったよ、囮役がんばってね、と、手拭いと靴下を漬け込むように革袋にビールを注いで持ち主に渡すと、まりおは残る自分の缶を空き地前の石畳に撒こうとつまみ上げる。
熱燗。60度近い酒と容器がまりおの手指を灼き、宙に舞い、中身を散らして石畳に転がった。
「ぬぁっちゃぁっ!」
撒こうとした量の半分はまりおの服に吸われただろうか。火傷を案じる仲間に、早くケリをつけよう、と促す。正直……早く風呂に入りたかった。
●
レイは空き地奥に待機すると、ランタンに掛かけた覆布の隙間を片手で遮る。研ぎすませた感覚を雑魔の気配感知に振り分ける。
空き地前の石畳、建物のわずかな凹凸に隠れ、直前まで入念にカエデと打ち合わせていたリチャード・バートン(ka3303)が住民から借り受けたランタンを遮光して待機しているはずだ。空き地隣の建物の陰にはユキヤ。石畳を固めるまりおとカエデが初動に連動して動くため、息を潜めてその爪を研いでいる。
掘削音感知で1回、雑魔出現で2回。豆粒程の点滅を送り、後は一気に攻勢に出る。囮役がどう動こうとも、私が確実に退路を塞ぐ。だから……。レイが言葉を継ぐ前に、任せたと笑った相手は、今、石畳から数歩、空き地に分け行っていた。
じゅぶじゅぶと蛍人の足音に混じり靴の中でビールが攪拌される音がする。さらに水音。
(被害者が襲われた状況再現は忠実に、っと)
柔らかい土に瞬時に吸い込まれてなお、漬け汁に使ったホットビールの強烈なアルコール臭が空き地に漂う。LEDライトに手をかけて、泥酔者特有の緩慢な動きで様子を窺う。獲物はここだ。食らいつけ。逃げ惑う力もない人々を手に掛けたように俺を襲え。数歩背後の石畳を意識しながらもゆらゆら佇む。
──数十秒のち。
かすかな掘削音。
レイの感知と信号のすぐ後、想像以上の速さで音量が近く激しくなり、ふいに止む。
蛍人の目前。
先刻見送った元容疑者の大男の威容そのままに、大型のモグラ雑魔が赤い目を光らせ立ち上がっていた。
雑魔が両腕を下ろした状態で出現したのは幸いだった。
ミスとはいえ捜査の見立ては工具をもった大男相当、その発達した爪を持つ腕がゆっくりと上がり振り下ろされる前に、盾を構え攻撃に備えることができたのだから。
一発目!
「釣れた! 追い立てるほうは任せた!」
蛍人のカエトラが悲鳴を上げる。攻撃を受け流すまま体をひねり、石畳の上へと足を運ぶ。ほんの数歩、勢いに任せた動作ならさらに短い。しかし──小型の雑魔が足に絡みつくのが早かった。たっぷり靴下に染み込ませたきついビールの臭いが、予想より早く小型雑魔を引き寄せたものか。
半身だけをかろうじて石畳に乗り上げ蛍人が転倒する。
再度! 襲う大型雑魔の爪が光る。
「そこまでです!」
空き地の中、蛍人を襲う雑魔の背後に躍り出たユキヤのホーリーライトが、振り下ろされた爪の軌道を僅かに変えた。爪が石畳にぶつかる衝撃音と僅かな血臭。
「ここまでは計画通り……だな!」
大丈夫、上出来だ。このくらいはかすり傷。ニッと笑う蛍人の襟首を駆け寄るカエデが引っ掴み、火事場のバカ力で雑魔の攻撃範囲から引きずり出す。空き地奥に仕掛けたランタンの覆いを剥ぎ取るのもそこそこに、レイが雑魔の背面に回り雷神斧に籠めた渾身のクラッシュブロウを背に見舞う。
「空き地側は押さえました。どのタイミングで雑魔たちが逃走を図ろうとも、地中に潜ることは許しません」
さあ、一撃を見舞われたいですか? それとも弾き飛ばされたい、とか?
レイが戦法の全リソースを大型雑魔の即応に当てる。
「横丁の入り口に向かおうとしても無駄、じゃぞ」
なにせ妾が睨んでおるのだからのぅ?
蛍人と横丁の入り口を背に塞いで立つカエデが雑魔を睨み──
「ここで散るのが嫌なら、あちらへご案内しましょうか?」
ホーリーライトの弾数に不足はありませんよ?
ユキヤが得物を向けて構える。
雑魔たちの正面は建物。背面の巣穴は絶たれ、街中方面へ向かうことは許されない。現状、三方の他に残る道はひとつ──袋小路へと至る鍵型の石畳。
「小型のモグラはお任せを」
リチャードが余計な邪魔の入らぬよう、蛍人ごと引きずられてなお執拗にその足へ絡み巻きつく小型雑魔を始末にかかる。キィキィと耳障りな鳴き声をあげ、小さくも禍々しい爪をせわしく動かして、小型雑魔はアルコールに反応して体を擦り付ける。するりぬるりとめまぐるしく、しかし決して離れようとしない。
最初の犠牲者に残された毛皮で刷いたような痕跡は、こうやってつけられたのだ。
犬? どこが犬か。犬であるものか。こんな悪意の獣が犬と間違えられてたまるものか。
多少手荒に引き剥がしても構やしない、遠慮するなと蛍人が激を飛ばす。
「大丈夫っ! こんなチビは僕が翻弄しちゃうから、挟撃とか狙えるんじゃないかなっ?」
おっまたせー! まりおが瞬脚からの飛燕を駆使し手裏剣八握剣を小型雑魔に見舞う。
もとよりブラフ。外れても次がある。驚き慌て浮きあしだったところを蹴り剥がし、着地もままならないところに村雨丸で薙ぎ払う。──かすった。雑魔はまだ消えない。
一緒に絡み付いていた仲間が蹴り飛ばされ、びくりと残る1匹が反応した隙に、懐に忘れていたLEDライトを蛍人が照射する。体をもたげていたのが命取り。リチャードの手が今度こそ、小形雑魔の体を捕らえ引き剥がす。固く拘束する力も緩めないまま、さらにスラッシュエッジをショートソードに乗せ、確実に首をはねる。それでもまだ消えないならば、残りの全スキルをかけてもと、リチャードの目が朽ちかける1匹と手負いのもう1匹も追う。
「陸上で鍛えた僕の運動神経、舐めちゃ困るなぁ」
ホィッ! ホィッ! 軽やかにマルチステップを踏むまりおがリチャードの視線に気づき、このやけに纏わりつくやつをそっちに蹴飛ばすから挟撃宜しくとアイコンタクト。せいっ! っと勢いよく蹴飛ばして──剣呑な雰囲気に気がついたのはその直後だった。
●
「……なんで大きいのまで、僕を睨んでるのかな?」
大きいやつは囮役の蛍人を追いかけてきて、今は皆に囲まれているところ。僕の相手はこのチビモグラ。僕はやつのターゲットじゃないはずなのに。なのに!
「匂いかぁーっ!」
囮役のアルコール臭に混ざる血の臭いと土の臭い。煤けた石畳の上を転げ、上書きされた雑多な臭い。数日前に襲った獲物は、雑多な臭いが勝ったときに動かなくなったし、襲う理由も無くなった。だから、この雑魔は──
包囲された一角に新たに加わった、より強烈で純粋なアルコール臭。雑魔における襲撃の優先順位が、雑臭混じりの囮から邪魔者へ、そして新たな獲物──まりおへと切り替わった。
敵を追い込む場所がひとつなら、新たな囮役が逃げる場所もまたひとつ。
「大丈夫です。僕も牽制と追い込みに回ります!」
「援護射撃は任せておくがよい。妾が凶刃を阻んでくれようぞ」
ユキヤとカエデが支援は任せて横丁奥へ走れと、まりおへ叫ぶ。
ユキヤの照準は逐次、大型雑魔を追尾。懐から保険の筈だったブランデーの小瓶を取り出し、コルク栓を弾く。
なに、邪魔をするだけじゃからな。どこにでもこのデリンジャーが当たればよいのじゃ。カエデも備えの銃器を取り出す。
えい……ままよ! 襲い掛かる爪をすんででかわし、想像のダッシュボタンを全開にしてまりおは横丁の奥に向かって駆け出した。
「ダッシュ! ジャンプ! ドリフトは……無理かも?」
「分断します。とにかく避けてください」
まりおの掛け声に合わせ、後を追う二人の射撃、ホーリーライトが大型雑魔を追いたて、デリンジャーが爪の動きを阻害する。追い込みの仕上げ。まりおのマルチステップからの回避と同時に、直角に折れるその地点めがけユキヤが投げたブランデーの小瓶が、芳香を散らし石畳に砕け散る。
新たなアルコール臭に混乱した雑魔が建物壁面に激突し、よろけながら獲物を探す。
F字の角。2方の壁。残る袋小路と入り口から、ハンター達が武器を突きつけていた。
「小型雑魔、全殲滅を確認。作戦通り、照明の配置調整、完了しています」
空き地とその前の石畳をリチャードが再配置したランタンとLEDライトが照らす。無理に突破しようと図っても、容易にその顔面に照明を叩き込める。
「そういうわけだ。あっちもこっちも行き止まりだな!」
「備えあればなんとやら、ですね」
防御は気にするな。全力で潰せ。蛍人の放つプロテクションの光が、レイとカエデの全身を包む。
「では参ろうか……の? 妾の相手を出来た名誉を土産に黄泉路を逝け」
闘心昂揚。祖霊と精霊よ、我が武運に加護を与えたまえ。クラッシュブロウを日本刀に込め、カエデは一気に大型雑魔の懐へ潜り込む。横撃だ。避けられまい。だが失念していた。大男が持つ工具相当のリーチと、四足歩行にかかった時の敏捷ささえ無いならば──。
「待て! さっきのは戦意高揚の景気づけじゃ。まずは……ひぃっ!」
日本刀で受け流すのがやっと。どこかが切れたのだろうか。鼻の奥がキナ臭い。
まだ大丈夫、一気に片をつける時までヒールは温存がよかろう。慌ててカエデへ治療を施そうとするユキヤを制し代わりにホーリーライトの牽制を促す。折角の地の利。穴を開けるわけにもいくまいて。だが更に望めるならば……背面を取れるならば……
「逃走ならば心配無用。しかし、間合いの利と前屈姿勢が取れる状況が続いては…」
握る武器に紫電を奔らせレイが大型雑魔を跳ね除ける。
「こいつを倒す算段があるなら喜んで乗るぞ?」
カエトラを掲げた蛍人を見、再度、前屈姿勢をとろうとする雑魔を睨み、レイはなんでも素直に真に受ける男の恐ろしさを垣間見せる。
「では、シールドバッシュで受け崩したあれを、私のほうに背を向くよう押し込んでください」
一瞬あっけにとられた蛍人は、すぐにレイへ快諾の返事を返す。
迷う暇はない。直立から前屈へ姿勢を変えながら蛍人へ向かってくる大型雑魔を受け止めいなし、レイの構える雷神斧へ弾くように押しやる。よろけ出た雑魔の背をレイがノックバックで弾き飛ばせば、畢竟、雑魔は腹面から壁へ叩きつけられることとなる。
「言いませんでしたか? 逃走は許しません、と。逃げるそぶりすら許すものですか」
「良い姿勢じゃな。そのまま立ち往生する前に、悪い手を先にお仕置きせぬとな」
背面狙いの好機を逃さず──カエデの祈りを込めたクラッシュブロウが、磔となった雑魔の腕を切り落とす。
皆も続け。この爪が人の命を奪ったのじゃ。多少擦り切れた性分であっても、殺されてよい者たちでは決してないぞ。
倒れることもできず、爪を振るうこともできず。
大型のモグラ雑魔の腕は落ちて、また落ちて、朽ちていく。
そして最後には何も残らなかった。
●
朝といわず、すぐに討伐完了の報せは届けましょう。
諸々の確認後、未明のうちに避難所に走ったユキヤの一報を受け、白む冬の空の下、横丁に住民が帰還する。
「摘んでおいて幸いでした……」
今朝には死んだ爺さんの野辺送りだから、少しでも早く帰りたかったのさ。冬だから寂しい枕飾りになると思ってた。心づくしに礼を言い、女将と何名かの住民が粗末な棺にレイが用意した野花を入れる。
「こんな時に酒臭くてごめんな」
「殲滅の確認兼ねて、空き地で服とかぎゅうぎゅう絞ったんだけどねー」
蛍人とまりおは結局、着替えも惜しんで確認作業にあたってそのままだ。
棺に寄り添う犬を見つけたリチャードに、飼い主の大男は言う。元は爺さんが拾った犬だから、こいつが襲う筈なんてねぇよ。
安堵の表情を浮かべたのはリチャードだけではなかった。
荒んだ暮らしの表からは見えない住民事情。
カエデはまたひとつ世界を知る。
ただ、いまは、誰にも等しく──
「心穏やかな眠りのあらんことを、じゃな」
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相談卓 カエデ・グリーンフィールド(ka3568) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/12/01 21:06:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/29 21:32:24 |