ゲスト
(ka0000)
【初夢】Bar木蓮のひっくり返った初夢
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/10 07:30
- 完成日
- 2018/01/15 23:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
open 18:00pm
close 1:00am
l.o. 0:30am
●
ビジネス街の駅、改札を出て数メートルの所にそのホテルのエントランス。
最上階で展望エレベーターを降り、ホールを出て左。夜景を眺める宿泊客を横目に柔らかな絨毯を敷いた廊下を突き当たりまで。
bar木蓮の穏やかな間接照明の光が今宵も灯されている。
バーカウンターの中には酒瓶が並び、カウンターには隙間を詰めた椅子が並ぶ。小さなテーブルセットも置かれているが、寛げる席の殆どは夜景を望む窓へ向く。
全面を硝子張りにした窓側のカウンター席からは高層階からの華やかな夜景を望む。
連なる車のライトと、林立するビル、昏い湾を渡す華やかな橋、数えるほどの物寂しい本物の星を扇ぎ聳えるタワー。
古いジャズを聞きながら地上の星空を眺めて、ミックスナッツを摘まみながら旨い酒を楽しむ。
ここにはそんな客が多い。
華やかな夜の界隈に、長く続く店が有る。
Bar木蓮は、半世紀の長きにわたって街を眺めてきた。
その街を見下ろすこのホテルに出された支店には、本店の店長の孫息子、木蓮ソウビが勤めている。
新年の祝いに新しくメニューに加え、一昨日から出しているのは苺のカクテル。
苺のピュレを注いだカクテルグラスに、グレナデンシロップで赤みを増した苺のジュースとリキュールをシェークして、ホワイトラムをフロート。最後にピンを刺した苺を一粒落とすと、靄の立つような濃い赤から透明へ緩やかなグラデーションを描く。
「名前、結局そうなったんですね」
「――ああ、悪くないだろう?」
「良くも無いですよ。本当に支店長はネーミングセンス無いんですから」
初日の出の苺スペシャル。注文を躊躇う小っ恥ずかしい名前がそのカクテルに与えられた。
●
昨晩の客は、新年の挨拶回りを終えて来たらしい若い男2人が互いを労い。
自分への誕生日プレゼントだという妙齢の女性、バースデーサービスは勿論、初日の出の苺スペシャル。
祖父の店からの常連の女性が若い男を連れて。祖父の店での修行中に見た男とは別人だが、醸し出す雰囲気はよく似ていた。
閉店間際に1人の老紳士。最近よく見かける彼にはまず故郷の地酒の焼酎を。焼酎は好む店員が彼是と見繕って季節や流行で品揃えが変わるが、この瓶だけは切らさずに置いている。
さて、今宵のお客様は。
open 18:00pm
close 1:00am
l.o. 0:30am
●
ビジネス街の駅、改札を出て数メートルの所にそのホテルのエントランス。
最上階で展望エレベーターを降り、ホールを出て左。夜景を眺める宿泊客を横目に柔らかな絨毯を敷いた廊下を突き当たりまで。
bar木蓮の穏やかな間接照明の光が今宵も灯されている。
バーカウンターの中には酒瓶が並び、カウンターには隙間を詰めた椅子が並ぶ。小さなテーブルセットも置かれているが、寛げる席の殆どは夜景を望む窓へ向く。
全面を硝子張りにした窓側のカウンター席からは高層階からの華やかな夜景を望む。
連なる車のライトと、林立するビル、昏い湾を渡す華やかな橋、数えるほどの物寂しい本物の星を扇ぎ聳えるタワー。
古いジャズを聞きながら地上の星空を眺めて、ミックスナッツを摘まみながら旨い酒を楽しむ。
ここにはそんな客が多い。
華やかな夜の界隈に、長く続く店が有る。
Bar木蓮は、半世紀の長きにわたって街を眺めてきた。
その街を見下ろすこのホテルに出された支店には、本店の店長の孫息子、木蓮ソウビが勤めている。
新年の祝いに新しくメニューに加え、一昨日から出しているのは苺のカクテル。
苺のピュレを注いだカクテルグラスに、グレナデンシロップで赤みを増した苺のジュースとリキュールをシェークして、ホワイトラムをフロート。最後にピンを刺した苺を一粒落とすと、靄の立つような濃い赤から透明へ緩やかなグラデーションを描く。
「名前、結局そうなったんですね」
「――ああ、悪くないだろう?」
「良くも無いですよ。本当に支店長はネーミングセンス無いんですから」
初日の出の苺スペシャル。注文を躊躇う小っ恥ずかしい名前がそのカクテルに与えられた。
●
昨晩の客は、新年の挨拶回りを終えて来たらしい若い男2人が互いを労い。
自分への誕生日プレゼントだという妙齢の女性、バースデーサービスは勿論、初日の出の苺スペシャル。
祖父の店からの常連の女性が若い男を連れて。祖父の店での修行中に見た男とは別人だが、醸し出す雰囲気はよく似ていた。
閉店間際に1人の老紳士。最近よく見かける彼にはまず故郷の地酒の焼酎を。焼酎は好む店員が彼是と見繕って季節や流行で品揃えが変わるが、この瓶だけは切らさずに置いている。
さて、今宵のお客様は。
リプレイ本文
●
今宵も美味しいお酒と幸せをお客様に。
開店直後の来客はカウンターへ直進、いらっしゃいませと声を掛ける間も無く、ニコラシカと緊張した声で。
すぐに提供されたブランデーのショットグラス。縞模様に向いた薄切りのレモンで蓋をして、その上に砂糖を盛る。
レモンを摘まむと、口の中へ放り込み、広がる酸味に目を瞑りながら噛み締め、砂糖が溶けて馴染むところへブランデーを一息に。
たん、とグラスを置き、代金を傍らへ。
まだ若く見えるその男性客は、すぐに踵を返して出て行った。
何だったんでしょうねと、ガラス戸に揺れるベルを眺める店員。支店長はグラスを磨きながらさあと首を傾げて見せた。
それから2時間ほど経った頃、知った顔に支店長が目を細めた。
お久しぶりです。そう言って軽い会釈で迎えると、馴染みの客、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はカウンターの席へ。
「年越しも正月も私には無かった! 無かったのよ木蓮さん!」
仕事のトラブルで吹き飛んだ年末からの連休を嘆く。
お疲れさまです。労いの言葉とグラスを用意しながら、支店長の手が1度止まる。甘い酒を好んでいたグリムバルドに、お勧めがありますよと言ってメニュープレートを裏返す。
苺は、お好きですか。
「何これ。……初日の出の苺スペシャル? 面白そうね! これがいいわ!」
シェーカーに注がれたジュースとリキュール、シロップ。カクテルグラスの底にピュレを落として注ぎ、静かにラムを足す。揺らいだ境界が静まった所へ苺を射止めれば、白い筋が日の出の光りの広がりを思わせて、赤い靄がホワイトラムを少しずつ染めていく。
注文が少ないのだろう、飾る余裕の無い手が一つずつ確かめる様に作り上げた赤いカクテルをコースターの上に置く。
偶にはゆったり。
ラムの香りを味わって、果実を引き上げて甘酸っぱさと甘いリキュールに心を酔わせ、華やがせる。
おや、と支店長が首を傾げた。
開店の頃に見た客がまた。
項垂れて肩を落として、酔った様子では無いものの、覚束ない足取りでカウンターに向かってくる。
先刻とは異なり、星野 ハナ(ka5852)はグリムバルドと反対の端の椅子に座るとカウンターテーブルに視線を落として、ぽつりと注文する。
コーヒーリキュールとウォッカのカクテル。
そこを装飾した広口のグラスとミキシンググラスに氷を重ね、注いだ酒をマドラーでからりと。
出来上がったそれをグラスに注ぎ差し出して、ナッツのオーダーを受け取る。
一粒摘まんで一口、二口。夕方の勢いが嘘のような飲み方に、支店長は心の中で首を傾げた。
グラスの空く頃に追加のオーダーは、ラムとコーラの少し癖の強い物。
溜息を零し、空いたグラスは脇に退け伏せる様に項垂れて氷の混ざる音を聞く。
からりからり。搾ったライムとホワイトラムとコーラを混ぜてグラスに注ぐ。
皮を細く飾りきりにしたライムを一切れ添えたそれが星野の前に静かに置かれた。
やはり、また一口飲んでナッツを一粒摘まみ。味わっては溜息を吐いて。
星野が3杯目に頼んだギムレットを空けた頃、来客を知らせるベルが鳴った。
横長の革鞄を提げた黒髪の女性。いらっしゃいませと迎えた支店長に、円らな黒い瞳が軽く視線を返して店内を軽く眺めた鞍馬 真(ka5819)は、夜景に惹かれたように窓側のカウンターへ。
支店長から、新作だと伝えるように言付かって来た店員がメニューボードを示す。
「……そう、じゃあ1杯目はそれにするかな、初日の出の苺スペシャル。後ナッツも」
ありがとうございます、畏まりました。
嬉しそうな店員は、美味しいのに名前の所為で人気が無いんだと、こっそり囁いた。
カクテルグラスに注がれた赤と透明のコントラスト。苺で混ぜる度に広がっていく赤い朝焼け。
靄がグラス一杯に広がって、甘い香りを漂わせる。苺を齧るとドアの開くベルが聞こえた。
硝子に映り込んだのは見上げるほどの身長、褐色の肌に赤い髪を束ねている。
この店で見かけたことがある顔だが、1人なのは珍しい。
冷泉 緋百合(ka6936)も鞍馬に気が付いたらしく、隣の椅子に手を掛けて尋ねる。
驚いた様に瞬いて、グラスの脚を両手で握りながらこくんと首を縦に揺らした。
「どんなのでも良いんだが……」
メニューボードを流し見て、なんと無しにその長さが目に留まった物を注文する。
「話すのは、初めてだな……時々見かけてはいたが」
「そうだね。初めまして、かな」
緊張した雰囲気で目を逸らしグラスを傾けている。
慣れていないためだろうか、そんな様子も可愛らしく見詰めているとふと、側に置かれた鞄が目に入る。
彼女に似合いの深みのある深い青に染め、薄らと金のラメを散らした意匠の丈夫そうな横長の鞄。
「気になるのかな? 楽器が趣味で……フルートを、少しね」
人気のポップスや、有名なクラシックを中心に演奏するアマチュア楽団に属していて、今日もその練習帰り。
「君を見かける時は、大抵そうだと思うよ」
「フルートか。いいな、聞かせてくれるか」
少し身を乗り出すと、鞍馬はグラスを揺らして身を竦めた。
今度演奏会のチラシを持ってくる、と、半分ほどの赤いカクテルで口許を隠しながら。
●
1杯目を空けて、今日はこれだけのつもりだったのにと、メニューボードの縁を撫でながら。
近くの席の客が飲んでいると、ついつい飲みたくなってしまう。
出来れば甘くて、おいしい物を。
苺とシロップの甘さに労われ、けれどまだまだ足りない気がする。
菓子作りが趣味だと聞いていた支店長のクッキーが無性に食べたい。
「……直截に言うと私は疲れたのよ! 明日から正月休み。一日だけだけどね!」
いえーい、と騒いでみても明後日からを思うと今一つ振り切れない。
音楽が変わる。
ピアノのバラード。
穏やかで優しい旋律。
「……なに、これ?」
内緒話のように人差し指を立てて。
サービスです、と差し出されたグラス。
淡い琥珀色のカクテルが注がれている。
好みには少し辛くてほろ苦い。
今かかっている曲をイメージしたカクテルだというそれは、ハーブや蜂蜜の香りを移したウィスキーとワインに陣を加えたもの。好みに寄せて比率は変えられ、蜂蜜の香りを強く感じた。
くいっと一気にいってしまいたい味だけど、甘さを感じながら味わってみる。
今夜はのんびり過ごすのだから。
2杯目に頼んだのは同じ苺のリキュールを使ったもの、シャンパングラスに注がれた淡い赤に細かな炭酸の粒子が昇っていく。
グラスを眺めながら聞くピアノジャズ。
「こういうのも、いつか演奏してみたいと思ってるんだ……、あ、これ知ってる?」
切り替わったの軽快なサックスのメロディラインに、速いテンポのドラムが乗る明るい曲。
1フレーズ聞いて頷いた冷泉に、鞍馬が嬉しそうに微笑んだ。
どことなく中性的な面差しも、仄かな酒気で頬を赤らめた笑顔は女性らしい可憐さが勝り、魅力的に見えた。
曲の話しは広がり、フルートのこと、楽団のこと。
大切そうに撫でたフルートバッグ、唯一の趣味だと言いながら、最近披露した曲やその思い出話。
「……君の奏でる音色は、とても美しいのだろうな」
その声のように。
唇へ向けられた銀の瞳。精悍な相貌は鞍馬を見詰めて僅かに口角を上向かせた。
しどろもどろに視線を泳がせ、言い淀んで顔を背け。
しかし頬は飲み干したばかりの苺のリキュールのように赤い。
「あ、ありがとう、……で、いいの、かな?」
困ったような笑顔で首を傾げると、冷泉もくっと喉で笑った。
「その礼は、口説かれてくれたってことか?」
「えーと、……お友達からは、どうかな?」
分かった、友達から。
袖口をぎゅっと、所在なく視線を彷徨わせて身を竦ませている。
口説かれ慣れてない初心な反応を楽しみながら、お友達を改札まで送ろうと腰を浮かせ。
店を出ると、夜景に飛び込むような硝子のエレベータから夜を臨む。
●
お酒、お好きなんですね。
既にカウンターテーブルには5つのグラスが並んでいる。オールドファッショングラス、カクテルグラスにロンググラス。氷が溶けて刺さっていた2本のストローが揺れた。
ナッツは既に無くなっていて、皿を撫でる様に弄りながら、6杯目に入って3度目の溜息。
「告白しようとした初デートで、振られた……」
支店長の何気ない言葉に泣き濡れたような声。テーブルに零れた結露を指先で引き延ばし、綴る文字は文字にならず、唯々くるくるとのの字を繰り返している。
「好かれるってどうすりゃいいんだろーなー」
飲んでいるのは竹を彷彿とさせる辛口の物。
「眺めてるだけで幸せになれるって、重要だと思うんだ」
辛口のシェリーに苦みの強いオレンジリキュール。
「だからさ、顔は10人並みかそれ以上であってほしいんだよ」
噛み締めるように一口、そして、のの字。
「それとやっぱり子供は欲しいからさ、50歳以下ではあって欲しいんだ」
高齢出産の世界記録に挑んで欲しいわけでは無いと呟いて、また、のの字。
「あとは、犯罪者じゃなくて、俺を好きになってくれれば万々歳なのに……」
最後の1口は、くいと煽って。空にしたグラスを並べ置く。
テキーラベースで一杯と、注文して視線は何となく窓へ向く。
小さく写る星野自身を眺めて頬杖を突いた。
「俺の容姿も十人並みは行ってる筈だし、好きになる以外の間口は相当広いはずなんだけどなー」
不躾なことを言ってしまったようですね。
真逆、酒の話しを向けただけで。と、支店長が大振りのグラスを置いて、その傍らにカットしたパイナップルを3切れ程小皿で添える。
「一杯ひっかけて気合を入れて。食事の後でここに連れてくるつもりだったんだよ……」
それは残念、と、客が1人減ってしまいましたねと目を細めて。
パイナップルを齧って、カクテルを呷る。
支店長はモテそうだし、と零れた声に、まあ面倒見は良いほうよね、とカウンターでうとうとと。
眠らないで下さいなんて出された炭酸水を飲みながら。
「……そういえば、今夜はお客さん少ないのね」
見回して、残っているのももうカウンターの自身ともう1人だけのよう。
ずっとここにいたから、少し出入りはあったけれど、カウンターに来る常連客とは顔を合わせていない気がする。
そう思うと、ふと日付が頭を過ぎる。炭酸水の中に沈んだレモンを踊らせて、やっぱり甘いお酒をもう一杯。
「――木蓮さん! 糖分が沁みそうな甘いカクテル、何か作って!」
畏まりました。そう引き受けて暫く。甘いカクテルを楽しむグリムバルドと、酔う様子も無く只管杯を重ねる星野を見守り。
ほんの少し長引いた営業を終え。
今年も良い年になりますように、なんとなしにそんな祈りを込めながら、帰り道はいつもより少しだけゆっくり歩く。
今宵も美味しいお酒と幸せをお客様に。
開店直後の来客はカウンターへ直進、いらっしゃいませと声を掛ける間も無く、ニコラシカと緊張した声で。
すぐに提供されたブランデーのショットグラス。縞模様に向いた薄切りのレモンで蓋をして、その上に砂糖を盛る。
レモンを摘まむと、口の中へ放り込み、広がる酸味に目を瞑りながら噛み締め、砂糖が溶けて馴染むところへブランデーを一息に。
たん、とグラスを置き、代金を傍らへ。
まだ若く見えるその男性客は、すぐに踵を返して出て行った。
何だったんでしょうねと、ガラス戸に揺れるベルを眺める店員。支店長はグラスを磨きながらさあと首を傾げて見せた。
それから2時間ほど経った頃、知った顔に支店長が目を細めた。
お久しぶりです。そう言って軽い会釈で迎えると、馴染みの客、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はカウンターの席へ。
「年越しも正月も私には無かった! 無かったのよ木蓮さん!」
仕事のトラブルで吹き飛んだ年末からの連休を嘆く。
お疲れさまです。労いの言葉とグラスを用意しながら、支店長の手が1度止まる。甘い酒を好んでいたグリムバルドに、お勧めがありますよと言ってメニュープレートを裏返す。
苺は、お好きですか。
「何これ。……初日の出の苺スペシャル? 面白そうね! これがいいわ!」
シェーカーに注がれたジュースとリキュール、シロップ。カクテルグラスの底にピュレを落として注ぎ、静かにラムを足す。揺らいだ境界が静まった所へ苺を射止めれば、白い筋が日の出の光りの広がりを思わせて、赤い靄がホワイトラムを少しずつ染めていく。
注文が少ないのだろう、飾る余裕の無い手が一つずつ確かめる様に作り上げた赤いカクテルをコースターの上に置く。
偶にはゆったり。
ラムの香りを味わって、果実を引き上げて甘酸っぱさと甘いリキュールに心を酔わせ、華やがせる。
おや、と支店長が首を傾げた。
開店の頃に見た客がまた。
項垂れて肩を落として、酔った様子では無いものの、覚束ない足取りでカウンターに向かってくる。
先刻とは異なり、星野 ハナ(ka5852)はグリムバルドと反対の端の椅子に座るとカウンターテーブルに視線を落として、ぽつりと注文する。
コーヒーリキュールとウォッカのカクテル。
そこを装飾した広口のグラスとミキシンググラスに氷を重ね、注いだ酒をマドラーでからりと。
出来上がったそれをグラスに注ぎ差し出して、ナッツのオーダーを受け取る。
一粒摘まんで一口、二口。夕方の勢いが嘘のような飲み方に、支店長は心の中で首を傾げた。
グラスの空く頃に追加のオーダーは、ラムとコーラの少し癖の強い物。
溜息を零し、空いたグラスは脇に退け伏せる様に項垂れて氷の混ざる音を聞く。
からりからり。搾ったライムとホワイトラムとコーラを混ぜてグラスに注ぐ。
皮を細く飾りきりにしたライムを一切れ添えたそれが星野の前に静かに置かれた。
やはり、また一口飲んでナッツを一粒摘まみ。味わっては溜息を吐いて。
星野が3杯目に頼んだギムレットを空けた頃、来客を知らせるベルが鳴った。
横長の革鞄を提げた黒髪の女性。いらっしゃいませと迎えた支店長に、円らな黒い瞳が軽く視線を返して店内を軽く眺めた鞍馬 真(ka5819)は、夜景に惹かれたように窓側のカウンターへ。
支店長から、新作だと伝えるように言付かって来た店員がメニューボードを示す。
「……そう、じゃあ1杯目はそれにするかな、初日の出の苺スペシャル。後ナッツも」
ありがとうございます、畏まりました。
嬉しそうな店員は、美味しいのに名前の所為で人気が無いんだと、こっそり囁いた。
カクテルグラスに注がれた赤と透明のコントラスト。苺で混ぜる度に広がっていく赤い朝焼け。
靄がグラス一杯に広がって、甘い香りを漂わせる。苺を齧るとドアの開くベルが聞こえた。
硝子に映り込んだのは見上げるほどの身長、褐色の肌に赤い髪を束ねている。
この店で見かけたことがある顔だが、1人なのは珍しい。
冷泉 緋百合(ka6936)も鞍馬に気が付いたらしく、隣の椅子に手を掛けて尋ねる。
驚いた様に瞬いて、グラスの脚を両手で握りながらこくんと首を縦に揺らした。
「どんなのでも良いんだが……」
メニューボードを流し見て、なんと無しにその長さが目に留まった物を注文する。
「話すのは、初めてだな……時々見かけてはいたが」
「そうだね。初めまして、かな」
緊張した雰囲気で目を逸らしグラスを傾けている。
慣れていないためだろうか、そんな様子も可愛らしく見詰めているとふと、側に置かれた鞄が目に入る。
彼女に似合いの深みのある深い青に染め、薄らと金のラメを散らした意匠の丈夫そうな横長の鞄。
「気になるのかな? 楽器が趣味で……フルートを、少しね」
人気のポップスや、有名なクラシックを中心に演奏するアマチュア楽団に属していて、今日もその練習帰り。
「君を見かける時は、大抵そうだと思うよ」
「フルートか。いいな、聞かせてくれるか」
少し身を乗り出すと、鞍馬はグラスを揺らして身を竦めた。
今度演奏会のチラシを持ってくる、と、半分ほどの赤いカクテルで口許を隠しながら。
●
1杯目を空けて、今日はこれだけのつもりだったのにと、メニューボードの縁を撫でながら。
近くの席の客が飲んでいると、ついつい飲みたくなってしまう。
出来れば甘くて、おいしい物を。
苺とシロップの甘さに労われ、けれどまだまだ足りない気がする。
菓子作りが趣味だと聞いていた支店長のクッキーが無性に食べたい。
「……直截に言うと私は疲れたのよ! 明日から正月休み。一日だけだけどね!」
いえーい、と騒いでみても明後日からを思うと今一つ振り切れない。
音楽が変わる。
ピアノのバラード。
穏やかで優しい旋律。
「……なに、これ?」
内緒話のように人差し指を立てて。
サービスです、と差し出されたグラス。
淡い琥珀色のカクテルが注がれている。
好みには少し辛くてほろ苦い。
今かかっている曲をイメージしたカクテルだというそれは、ハーブや蜂蜜の香りを移したウィスキーとワインに陣を加えたもの。好みに寄せて比率は変えられ、蜂蜜の香りを強く感じた。
くいっと一気にいってしまいたい味だけど、甘さを感じながら味わってみる。
今夜はのんびり過ごすのだから。
2杯目に頼んだのは同じ苺のリキュールを使ったもの、シャンパングラスに注がれた淡い赤に細かな炭酸の粒子が昇っていく。
グラスを眺めながら聞くピアノジャズ。
「こういうのも、いつか演奏してみたいと思ってるんだ……、あ、これ知ってる?」
切り替わったの軽快なサックスのメロディラインに、速いテンポのドラムが乗る明るい曲。
1フレーズ聞いて頷いた冷泉に、鞍馬が嬉しそうに微笑んだ。
どことなく中性的な面差しも、仄かな酒気で頬を赤らめた笑顔は女性らしい可憐さが勝り、魅力的に見えた。
曲の話しは広がり、フルートのこと、楽団のこと。
大切そうに撫でたフルートバッグ、唯一の趣味だと言いながら、最近披露した曲やその思い出話。
「……君の奏でる音色は、とても美しいのだろうな」
その声のように。
唇へ向けられた銀の瞳。精悍な相貌は鞍馬を見詰めて僅かに口角を上向かせた。
しどろもどろに視線を泳がせ、言い淀んで顔を背け。
しかし頬は飲み干したばかりの苺のリキュールのように赤い。
「あ、ありがとう、……で、いいの、かな?」
困ったような笑顔で首を傾げると、冷泉もくっと喉で笑った。
「その礼は、口説かれてくれたってことか?」
「えーと、……お友達からは、どうかな?」
分かった、友達から。
袖口をぎゅっと、所在なく視線を彷徨わせて身を竦ませている。
口説かれ慣れてない初心な反応を楽しみながら、お友達を改札まで送ろうと腰を浮かせ。
店を出ると、夜景に飛び込むような硝子のエレベータから夜を臨む。
●
お酒、お好きなんですね。
既にカウンターテーブルには5つのグラスが並んでいる。オールドファッショングラス、カクテルグラスにロンググラス。氷が溶けて刺さっていた2本のストローが揺れた。
ナッツは既に無くなっていて、皿を撫でる様に弄りながら、6杯目に入って3度目の溜息。
「告白しようとした初デートで、振られた……」
支店長の何気ない言葉に泣き濡れたような声。テーブルに零れた結露を指先で引き延ばし、綴る文字は文字にならず、唯々くるくるとのの字を繰り返している。
「好かれるってどうすりゃいいんだろーなー」
飲んでいるのは竹を彷彿とさせる辛口の物。
「眺めてるだけで幸せになれるって、重要だと思うんだ」
辛口のシェリーに苦みの強いオレンジリキュール。
「だからさ、顔は10人並みかそれ以上であってほしいんだよ」
噛み締めるように一口、そして、のの字。
「それとやっぱり子供は欲しいからさ、50歳以下ではあって欲しいんだ」
高齢出産の世界記録に挑んで欲しいわけでは無いと呟いて、また、のの字。
「あとは、犯罪者じゃなくて、俺を好きになってくれれば万々歳なのに……」
最後の1口は、くいと煽って。空にしたグラスを並べ置く。
テキーラベースで一杯と、注文して視線は何となく窓へ向く。
小さく写る星野自身を眺めて頬杖を突いた。
「俺の容姿も十人並みは行ってる筈だし、好きになる以外の間口は相当広いはずなんだけどなー」
不躾なことを言ってしまったようですね。
真逆、酒の話しを向けただけで。と、支店長が大振りのグラスを置いて、その傍らにカットしたパイナップルを3切れ程小皿で添える。
「一杯ひっかけて気合を入れて。食事の後でここに連れてくるつもりだったんだよ……」
それは残念、と、客が1人減ってしまいましたねと目を細めて。
パイナップルを齧って、カクテルを呷る。
支店長はモテそうだし、と零れた声に、まあ面倒見は良いほうよね、とカウンターでうとうとと。
眠らないで下さいなんて出された炭酸水を飲みながら。
「……そういえば、今夜はお客さん少ないのね」
見回して、残っているのももうカウンターの自身ともう1人だけのよう。
ずっとここにいたから、少し出入りはあったけれど、カウンターに来る常連客とは顔を合わせていない気がする。
そう思うと、ふと日付が頭を過ぎる。炭酸水の中に沈んだレモンを踊らせて、やっぱり甘いお酒をもう一杯。
「――木蓮さん! 糖分が沁みそうな甘いカクテル、何か作って!」
畏まりました。そう引き受けて暫く。甘いカクテルを楽しむグリムバルドと、酔う様子も無く只管杯を重ねる星野を見守り。
ほんの少し長引いた営業を終え。
今年も良い年になりますように、なんとなしにそんな祈りを込めながら、帰り道はいつもより少しだけゆっくり歩く。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/08 16:25:11 |