ゲスト
(ka0000)
南海の島を探れ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2018/01/21 22:00
- 完成日
- 2018/01/27 22:47
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●マゴイ、ソルジャー、ワーカー、そして。
深夜。白い町角。白い花が咲く小さな花壇の中に黒い染みが現れた。
染みは人の形をとる。
背の高いすらりとした男。髪は銀色、瞳も銀色、着ている服は闇に溶けそうな深い青。うなじには以下の文字が刻まれている。
α・M・8658236・ステーツマン
「あのわずかな遺物からここまでユニオンを再現出来るとは……μ・F・92756471・マゴイ。君は相変わらず有能だ」
大儀そうな欠伸。倦怠感によどんだ目。
月明かりに照らされる彼の足元には影がない。
「あー、働きたくない。死ぬほど。死んでるけど」
とりとめない独り言をうだうだ呟きつつ彼は、また染みに戻っていく。
「まあ、ちょっと寝ようか……星の反対側まで移動するのも疲れるものだ……しかし君もここの連中に大分影響されているね……君は昔、歌など歌わなかった……」
彼が立っていた場所に咲いていた花は、くしゃくしゃに枯れていた。
翌朝。ワーカー・コボルドたちが、花壇の枯れた花を見つけた。
「……かれてる?」
「かれてる」
「うん、かれてる」
顔を見合わせすぐさま枯れた花を掘り出す。
予備の苗を持ってきて、植え替える。
「これでもとどおり」
「よかった」
「よかった」
コボルドたちは納得し満足した。そして昼ごろにはもうその一件を忘れてしまっていた。近々島にお客さんが来るというという話で、頭がいっぱいだったので。
●通商開始
グリーク商会が保養所建設のための土地を確保し提供してから数日後、マゴイは商会に寄港を許可する旨を伝えてきた。今後継続的な商業契約を結んでいいということも。
その上で第一回目の入港時、以下の人々を同船させるようにとの条件を出してきた。
1:ユニオンの保養所建設勤務者である、11人の市民候補者。
2:ハンターオフィス・ジェオルジ支局のコボルドコボちゃん。
理由はと聞くと、ユニオンの社会見学をしてもらいたいのだという。
もちろんグリーク商会は提示された条件を飲んだ。
商会からその報告を受けた魔術師協会は、ただちに調査隊の編成に取り掛かった。
●操舵手確保
予想通り操舵手としての召喚を受けたナルシスは、ここぞとばかり姉に言った。
「姉さん、僕さあ、正直正規の社員以上に貢献してるよね。これまでの分含めて、貰うもの貰っていい頃じゃないかと思うんだけど危険手当含めて。出してくれない? じゃなきゃ協力しないからね」
金の問題を持ち出せば相手が引くかと思ったのだ。何しろけち臭い姉だからして。
しかしニケは予想外にも、感心したような眼差しを向けてきた。
「……ふうん。あんたもどうやら労働の価値というものについて理解出来るようになってきたみたいね。いいわよ、相場に照らしてこれまでの分払ってあげる」
「え? なんて」
「給料を払ってあげるって言ってるのよ、ナルシス。ただしそれには条件があるわ――もう一度だけ操舵手をして。そしたら以降、私からは強制しないわ。あんた自身がやりたいって言ってくるなら話は別だけど」
●ぴょこの気持ち
『そうか、スペット、マゴイの島に行くのかの』
「せや。グリーク商会に便乗して魔術師協会が、調査団を派遣するちゅうことになってな。お前についても来てくれるように言うてくれて言われたんやけどな……まあ、断ってもええで。英霊の仕事があるんやちゅうたら、魔術師協会いうたてそれ以上無理は言えんし」
耳をゆらゆらさせスペットの彼の話を聞いていたぴょこは、不意に手を挙げた。
『わし、一緒に行ってもいいのじゃ』
「え――、ええんか? マゴイがおるんやぞ」
『うむ。そこはのう、なるべく近づかんようにすれば大丈夫じゃと思うで。わしものう、ユニオン見てみたいのじゃ。見ればもしかして何か思い出すこともあるかもしれんで』
そこで言葉を切ったぴょこは、スペットの頭を綿の詰まった手でぽふぽふ叩いた。
『わしのう、ずっと思っとったんじゃ。スペットが昔のわしのこと覚えておるのに、わしが昔のスペットのこと覚えてないのは、ふこーへいではないかとのう。βじゃった時おぬしがどんな顔しとったのか思い出してみたいのじゃ、わしがθじゃった時のことも思い出してみたいのじゃ』
スペットはふん、と鼻の詰まったような声を出した。それ以外の言葉がちょっと出せなかったのだ。胸が一杯になってしまって。真ん丸になった猫の目は少々潤んでいるように見えた。
●準備万端
島の大きい側には港湾が作られている。その一角に商業区がある。白くて四角い建物、碁盤目の舗装道。樽のような幹をした木が街路樹として植えられている。花壇もある。花壇の花はすべて白だ。マゴイの好きな色。
コボルド・ワーカーの一団は島の港に集い、商会の船がやってくるのを今か今かと待ち構えていた。
なにしろ仲間のコボが初めて訪ねて来るのだ。
「こぼにいろんなもの、みせよう」
「りっぱなすあな、りっぱなきのこあな」
「みせたらきっとびっくりするー」
楽しそうに笑いさざめく彼らの中心にいたマゴイは、時折不審そうに周囲へ首を巡らせる。
昨日から島の中に誰かがいるような感じがするのだ。ワーカーと自分以外の誰かが。
でもウォッチャーの島内監視網に異状を知らせるシグナルは出ていない。
なんにしても妙に落ち着かない気分。
島に外部者が来るからだろうかとも考えてみるが、すっきりしない。何にしても今自分はちょっと不安定になっているみたいだ。不安定なのはよくないことだ。後で生産機関に戻ってセルフ調整でもかけてみようか。
そんなことを思っているところ、コボルドたちがわっと歓声を上げた。
船が見えたのである。
●ようこそ島へ
「あれがマゴイ島?」
カチャは前方に見えてきた島影に目をこらす。
それは、大小二つの小山が連なったような形をしていた。
島の周囲は切り立った断崖。断崖の裾には木が密生していた。根は海水に浸かっているはずだが、皆平然と分厚い葉を茂らせている。
船は島との距離を縮めていく。
――断崖は自然に出来たものではないらしい。あちこちに窓のような穴が空き、外階段や通路が作られている。
垂直に切り立った切れ込みがあった。船の行き来が出来るほど大きな切れ込みが。
切れ込みの左右には以下の記号が、これまた大きく彫り込まれている。
→←
←→
とりあえず、ここが島の出入り口ということらしい。
深夜。白い町角。白い花が咲く小さな花壇の中に黒い染みが現れた。
染みは人の形をとる。
背の高いすらりとした男。髪は銀色、瞳も銀色、着ている服は闇に溶けそうな深い青。うなじには以下の文字が刻まれている。
α・M・8658236・ステーツマン
「あのわずかな遺物からここまでユニオンを再現出来るとは……μ・F・92756471・マゴイ。君は相変わらず有能だ」
大儀そうな欠伸。倦怠感によどんだ目。
月明かりに照らされる彼の足元には影がない。
「あー、働きたくない。死ぬほど。死んでるけど」
とりとめない独り言をうだうだ呟きつつ彼は、また染みに戻っていく。
「まあ、ちょっと寝ようか……星の反対側まで移動するのも疲れるものだ……しかし君もここの連中に大分影響されているね……君は昔、歌など歌わなかった……」
彼が立っていた場所に咲いていた花は、くしゃくしゃに枯れていた。
翌朝。ワーカー・コボルドたちが、花壇の枯れた花を見つけた。
「……かれてる?」
「かれてる」
「うん、かれてる」
顔を見合わせすぐさま枯れた花を掘り出す。
予備の苗を持ってきて、植え替える。
「これでもとどおり」
「よかった」
「よかった」
コボルドたちは納得し満足した。そして昼ごろにはもうその一件を忘れてしまっていた。近々島にお客さんが来るというという話で、頭がいっぱいだったので。
●通商開始
グリーク商会が保養所建設のための土地を確保し提供してから数日後、マゴイは商会に寄港を許可する旨を伝えてきた。今後継続的な商業契約を結んでいいということも。
その上で第一回目の入港時、以下の人々を同船させるようにとの条件を出してきた。
1:ユニオンの保養所建設勤務者である、11人の市民候補者。
2:ハンターオフィス・ジェオルジ支局のコボルドコボちゃん。
理由はと聞くと、ユニオンの社会見学をしてもらいたいのだという。
もちろんグリーク商会は提示された条件を飲んだ。
商会からその報告を受けた魔術師協会は、ただちに調査隊の編成に取り掛かった。
●操舵手確保
予想通り操舵手としての召喚を受けたナルシスは、ここぞとばかり姉に言った。
「姉さん、僕さあ、正直正規の社員以上に貢献してるよね。これまでの分含めて、貰うもの貰っていい頃じゃないかと思うんだけど危険手当含めて。出してくれない? じゃなきゃ協力しないからね」
金の問題を持ち出せば相手が引くかと思ったのだ。何しろけち臭い姉だからして。
しかしニケは予想外にも、感心したような眼差しを向けてきた。
「……ふうん。あんたもどうやら労働の価値というものについて理解出来るようになってきたみたいね。いいわよ、相場に照らしてこれまでの分払ってあげる」
「え? なんて」
「給料を払ってあげるって言ってるのよ、ナルシス。ただしそれには条件があるわ――もう一度だけ操舵手をして。そしたら以降、私からは強制しないわ。あんた自身がやりたいって言ってくるなら話は別だけど」
●ぴょこの気持ち
『そうか、スペット、マゴイの島に行くのかの』
「せや。グリーク商会に便乗して魔術師協会が、調査団を派遣するちゅうことになってな。お前についても来てくれるように言うてくれて言われたんやけどな……まあ、断ってもええで。英霊の仕事があるんやちゅうたら、魔術師協会いうたてそれ以上無理は言えんし」
耳をゆらゆらさせスペットの彼の話を聞いていたぴょこは、不意に手を挙げた。
『わし、一緒に行ってもいいのじゃ』
「え――、ええんか? マゴイがおるんやぞ」
『うむ。そこはのう、なるべく近づかんようにすれば大丈夫じゃと思うで。わしものう、ユニオン見てみたいのじゃ。見ればもしかして何か思い出すこともあるかもしれんで』
そこで言葉を切ったぴょこは、スペットの頭を綿の詰まった手でぽふぽふ叩いた。
『わしのう、ずっと思っとったんじゃ。スペットが昔のわしのこと覚えておるのに、わしが昔のスペットのこと覚えてないのは、ふこーへいではないかとのう。βじゃった時おぬしがどんな顔しとったのか思い出してみたいのじゃ、わしがθじゃった時のことも思い出してみたいのじゃ』
スペットはふん、と鼻の詰まったような声を出した。それ以外の言葉がちょっと出せなかったのだ。胸が一杯になってしまって。真ん丸になった猫の目は少々潤んでいるように見えた。
●準備万端
島の大きい側には港湾が作られている。その一角に商業区がある。白くて四角い建物、碁盤目の舗装道。樽のような幹をした木が街路樹として植えられている。花壇もある。花壇の花はすべて白だ。マゴイの好きな色。
コボルド・ワーカーの一団は島の港に集い、商会の船がやってくるのを今か今かと待ち構えていた。
なにしろ仲間のコボが初めて訪ねて来るのだ。
「こぼにいろんなもの、みせよう」
「りっぱなすあな、りっぱなきのこあな」
「みせたらきっとびっくりするー」
楽しそうに笑いさざめく彼らの中心にいたマゴイは、時折不審そうに周囲へ首を巡らせる。
昨日から島の中に誰かがいるような感じがするのだ。ワーカーと自分以外の誰かが。
でもウォッチャーの島内監視網に異状を知らせるシグナルは出ていない。
なんにしても妙に落ち着かない気分。
島に外部者が来るからだろうかとも考えてみるが、すっきりしない。何にしても今自分はちょっと不安定になっているみたいだ。不安定なのはよくないことだ。後で生産機関に戻ってセルフ調整でもかけてみようか。
そんなことを思っているところ、コボルドたちがわっと歓声を上げた。
船が見えたのである。
●ようこそ島へ
「あれがマゴイ島?」
カチャは前方に見えてきた島影に目をこらす。
それは、大小二つの小山が連なったような形をしていた。
島の周囲は切り立った断崖。断崖の裾には木が密生していた。根は海水に浸かっているはずだが、皆平然と分厚い葉を茂らせている。
船は島との距離を縮めていく。
――断崖は自然に出来たものではないらしい。あちこちに窓のような穴が空き、外階段や通路が作られている。
垂直に切り立った切れ込みがあった。船の行き来が出来るほど大きな切れ込みが。
切れ込みの左右には以下の記号が、これまた大きく彫り込まれている。
→←
←→
とりあえず、ここが島の出入り口ということらしい。
リプレイ本文
●出航前の一幕
「ぴょこさまー! またお会いできてうれしいの」
『おー! ディーナかの! わしも会えてうれしいのじゃ! のじゃ!』
ぴょこの手を握り締めぴょんぴょん撥ねるディーナ・フェルミ(ka5843)は、渋い顔でいるスペットに問う。
「猫頭さんはぴょこさまの大事な人と聞いたの、今日は婚前旅行なの?」
「猫ちゃうわ」
「エクラさまは転生があるとおっしゃっているの、つまりぬいぐるみと猫の異種族婚に壁はないの。二人が婚姻するなら祝福のご用命いつでも承るの!」
「……猫ちゃう言うてるやろ」
忙しく耳を動かすスペットの後ろで宵待 サクラ(ka5561)は、顎に手をやる。
「ぬいぐるみと世界一美形との恋……うーん、ありかも?」
「もうその話はええ。お前ら、そもそも何しに島行く気や」
「それはもちろん、調査なの。ご飯つきの宿泊所が用意されているっていうから、楽しみにしてるの♪」
「南海へのご旅行ってあんまりなかったし、魚釣りしたいかなって思って。バカンスバカンス~」
「完全に遊びに行く気やないか……。ええか、あそこはマゴイの島やぞ。何がどうなってんのか分からへんねん。そんな浮かれた気分でおると足元掬われんぞ」
●島へようこそ
ディヤー・A・バトロス(ka5743)が船縁から身を乗り出した。
「おおー、これがマゴイ殿の島かー!」
切り立った断崖の間を進んだ先にあったのは港湾施設。ブロックを積んだようなデザインだ。
マゴイがいるのが見えた。訪問者を迎えに出てきたらしい。
それを囲んでいるコボルドの一団は歓迎の意志を、遠吠えと尻尾の動きで示している。
コボちゃんがそれに応じ、甲板の先端で遠吠えする。
星野 ハナ(ka5852) が満足げに頷いた。
「青い海にぃ、可愛らしいワンコーず……完璧ですぅ、リゾート感MAXですよぅ」
彼女の脳内では『依頼』と言う文字に【バカンス】というルビが振られている。
船が桟橋に横付けされた。乗組員とハンターたちは下船し、久しぶりに踏む大地の感触を確かめる。
エルバッハ・リオン(ka2434)はマゴイに挨拶した。
「お久しぶりです。よろしくお願いしますね」
『……お久しぶり……こちらこそよろしく……港湾地区と農業地区と工業地区の視察について歓迎する……』
「……それ以外の場所はどうなんです?」
『……それ以外は……結界を張っているから外部者は見られないし入れない……』
そこにニケが来る。
「マゴイさん、今回の納入品についての検査をお願いします」
『……分かったわ……』
マゴイは彼女と共に、降ろされた積荷の方へ行ってしまった。
(どうやらこの島には秘匿事項があるらしいな)
勝手はよく分からないが、調査には細心の注意を払った方がよさそうだ、と多田野一数(ka7110)は思った。
燐火(ka7111)は港の奥に見える白い町並みを眺め、わくわくと胸膨らませる。
「今まで遠出をしたことが少なかったから、楽しみです。どんな所でしょうか」
ソラス(ka6581)は港湾施設における建築物の一切に継ぎ目が見られないことに、感嘆の息を漏らす。
「これがユニオン、アーキテクチャーの街……コボルドの皆さんで建設を?」
コボルドたちは胸を張り短く吠える。コボちゃんが通訳。
「われわれ、まごい、てつだった。とてもりっぱなまち、できた。ほめろ」
操舵手のナルシスは係留杭に腰を下ろし、ふて腐れ切っていた。無理もない。こんなところには最初から来たくなかったのだから。
「あー、と……、上手くいかなくてごめんね」
天竜寺 詩(ka0396)は詫びられても、むすっとしたまま返事もしない。
マルカ・アニチキン(ka2542)は彼に近づき、2つ持っていたラッキースターのうち1つを手渡した。
「どうぞ持っていてください。もしかしていいことがあるかも知れませんので」
と言って場を離れる。ニケを追う。残るもう1つを彼女に渡すために。
●ユニオン式町づくり
ソラスとリオンは早速港湾地区を探索してみた。
商業区という触れ込み通り、街区は全て店舗だった。四角いビル。高さは全て4階で揃っている。通りに面した側はどの階も全て、一面ガラス張り(本当にガラスかどうかは知らないが)となっている。
しかしどこも中はからっぽ。店員もいない。
「コボルド・ワーカーは今現在40人だって言ってましたからねえ、マゴイさん」
「人数に対し、市街区の規模が大きすぎるのではないでしょうか」
「将来人口が増えるだろうからその時のために、と思って作ったのかも知れません」
2人は無人店舗の一つに入ってみる。鍵はかかっていなかったので。
何かないかと見回してみれば、2階に続く階段の横に一つの扉があった。
いつぞや魔術師協会に送られてきた書簡送信機についているのと同じ模様――方形を基礎にした幾何学模様――がついている。
扉の横には012345と書かれたパネル。
(……恐らく空間操作に間係する何か……)
目測をつけたソラスは、パネルに手を伸ばしてみた。偶然触れた2の数字が明滅した。
扉を開けてみれば、今自分がいるのと同じ部屋が見えた。だが窓から見えている景色が違う。視点が一階分だけ上がっている。
リオンが言った。
「階を移動するための装置ってことですね」
ソラスは、続けて3、4を押してみた。3、4階に出た。5はなんなのかと思ったら屋上である。
こうなると俄然気になってくるのが0だ。
好奇心を滾らせ押してみる。開けてみる。
「これは……」
ソラスは驚いた。そこには長く広い地下通路があったのだ。
ぽつぽつした明かりに照らされて、自分が通ってきたのと同じ扉が幾つも並んでいる。
リオンは薄暗がりに目を細める。
「もしかして、この区の建物全部地下で繋がってるのでは…」
行く手から、マゴイに引率された市民候補者たちが歩いてきた。
『……このように島の施設は……地下通路で結ばれているので……天候に関わりなく人の移動、もしくは物資の輸送が……』
どうやら下で繋がっているのは、ここに限った話ではないようだ。
●異郷ぶら歩き
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)はカーミン・S・フィールズ(ka1559)、ディヤー、と港湾地区を見回っていた。
「花がたくさんあるのはいいけど、白ばっかりね」
「そうね。これも決まりなのかしら。そういえばカーミン、マッピングは許してもらえたの?」
「ええ。聞いてみたら見回り許可が出ている場所についてはいいってことだったわ。ところでディ――」
と傍らに首を向けたカーミンは気づいた。さっきまで近くにいた小僧の姿がないことに。
どうやら勝手に離れて行ったらしい。
「ガキはどこいった!」
●コボルドの商法
ゴエモンを連れた天竜寺 舞(ka0377)はマルカ、リナリス・リーカノア(ka5126)、カチャとともに、港湾区ぶら歩きをしていた。
「カチャ、今日は相部屋で一緒に寝ようねー♪」
「え? 宿泊所は全部シングルだってマゴイさん言ってませんでしたか?」
「そんな細かいことはいいじゃない♪」
との会話を後ろにしつつマルカは、心配そうに言う。
「お店開いてませんね。商業区の人手が足りないんでしょうか」
「かもねー。まあ、そもそもコボルド達がものを買うとも思えないけど」
そんな彼女の見解はほどなくして裏切られた。
1軒の店に数匹のコボルドが群がっているのを見つけのである。
近づいてみれば陳列台には大きな木枠の箱が置いてあった。その中には色々なキノコが詰め込まれている。
買い手のコボルドが売り手のコボルドに何か言う。
すると売り手のコボルドは勘定台の引き出しから、台帳らしきものを取り出した。
買い手のコボルドはそれにぺたりと手形を押す。
そして思い思いにキノコを選び、店先においてある紙袋に詰め持っていく。
始めから終わりまで現金のやり取りは一切ない。
「……掛け売りシステムなんでしょうか」
とマルカは推察してみる。
リナリスはさりげなく商店の価格を確認してみようとしたが、それはどこにも表示されていなかった。
商品の品質を確かめる。
どれもなかなか新しい。今とってきたばかりのようだ。
そこにカーミンとエーミがやってくる。
エーミは島独自の食材について、たいへん興味を示す。ここにいる間宿泊所のキッチンを借り、料理を作ってみようとも思っているのだ。
「あら、きのこも取れるのね。ご飯に期待はしておいていいわよ?」
カーミンはディヤーを見なかったかと舞たちに聞いたが、情報は得られなかった。
●ユニオンの規格
詩はスペット、ぴょこ、サクラ、ディーナ、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と港湾区域巡りをしている。
無人の店にも入ってみる。汚したり壊したりしなければ大丈夫だろうと。
「ここは雑貨屋さんですかね」
ルンルンは写真を撮り回り首を傾げる。
「あの隅にある穴はなんでしょうかー」
棚に並ぶのは無数の食器類。全部が全部同じデザイン。色も無地の白のみ。違うのは大中小の大きさだけ。
「せめて形を変えて違いを出すとかない?」
半眼になって聞いてくる詩に、スペットは言った。
「ないやろな。市民全員に同じものが漏れなく行き渡るのがええちゅうのが、ユニオンの考えやから」
ぴょこはカップの1つを手に取りいじりまわす。
サクラはそれを慌てて止めに入る。
「ぴょこさま、陶器は割れ物だから丁寧に扱わなきゃ駄目ですよ」
『これ陶器ではないぞよ?』
「え?」
ディーナは自分もカップを手に取り、確かめてみた。
確かに触った感触と軽さは陶器のものではない。何と言おうか、木製品に近い。
そこに扉が開く音。コボルドだ。汚れた皿やカップを手にしていた彼は、それを壁の穴に放り込んだ。そして棚から新しいのを取り持って行った。
スペットが今思い出したように言う。
「あ、せや。ユニオンでは食器て使い捨てやったわ」
●痕跡
ディヤーはエーミたちから離れた後、そのあたりを歩いていたコボルドたちと合流し、一緒にあちこち散策していた。
どの通りも白い建物白い道、白い花が花盛り。
「……白ばっかじゃな。マゴイ殿が好きと言うても、白ばかりでは白は映えぬぞ?」
コボルドたちは、?と言う具合に頭を傾ける。
食べるとか飲むとかいったことはボディランゲージで十分伝えられるが、色というものはどう表現したらいいのか、と悩むディヤー。
コボがいれば通訳しているのだが、あいにく今は近くにいない。
(どこぞに折り紙売ってる店はないかのー)
きょろきょろし、向かいの花壇に目を留める。
一株だけやけにしおたれている。
近づいてみると土が掘り返された形跡がある。コボルドに聞けば、最近新しく植え替えたものらしい。
それなのにこの有り様。
(……これは歪虚由来のマテリアル枯れか?)
●宿泊所でお食事
外部者用の宿泊所は港湾地区の端にあった。
ほかの四角よりも大きい四角な建物。
外見のそっけなさにルンルンは、ちょっとがっかりする。
「宿泊所、ワンルームマンションみたいでちょっと味気ないのです」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)も別の意味でここに泊まることが心残りであった。
本当は市民候補者たちのように、ワーカー居住区の施設へ泊まりたかったのだが、マゴイから断られてしまったのである。
『……外部者は外部者用の宿泊所に泊めるのが決まり……ワーカーと同じ食事をしたいということについてなら………宿泊所にも同じものが出るので問題ないと思う……』
中に入ってみると、受付にいるのは人でなくウオッチャー。
ホテル内のあちこちには見逃しようがないくらい大きな文字で、どこに何があるのかくどいほど明記してあった。
このかいだんをあがると、にかいです。
このどあは、かいだんをつかわず、いどうするためのいどうどあです。
このろうかのさきに、しょくどうがあります。
「……なんかさ、あたしたち馬鹿にされてない?」
という舞の言葉に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)は肩をすくめる。
「マゴイにやり過ぎ感があるのはいつものことだ。気にしてもしょうがあるまい」
「同感ですね」
と相槌を打つニケ。彼女もお泊まり組の1人だ。ついでに言うとナルシスも。船で寝るのは飽き飽きした、という理由。
食堂の扉を開くと長いテーブルに、幾つもの大皿が並べられていた。
「わ、バイキングですぅ♪」
ハナはうれしげに手を叩いた。
もしかして栄養ブロック的なものが出てきたらと懸念していたディーナも一安心。うきうきとトレー、皿を手に取り近づいて……微妙な顔になった。
肉野菜穀類。焼く煮る揚げる蒸すの違いはありそうだが、どれもこれもブロック状の食べ物だったのである。そうでないのはデザートである果物くらいだ。
ディヤーは揚げ物をつまみ食いし、くわと目を見開いた。
「ぬお! これめっちゃうまいぞ! 原料がなんだか全っ然わからんが!」
そこにエーミが深鍋を持って入ってきた。
「さあさあみんな、こっちも食べてね」
そこに入っていたのは彼女特製、南国風キノコスープである。
●海でお泊り
詩は船の中。ハンモックでゆらゆら。
サクラは船にお泊り。理由はぴょこがそうしたがったから。宿泊所はウォッチャーがたくさんいるので落ち着かないのだそうだ。
むろん、スペットもこっちに泊まっている。
ぴょこはボタンの目を開いたままくーくー寝ている。
「皆、今頃何食べてるのかなあ」
宿泊所にちょっと興味があったサクラがぽつりと言うと、スペットは欠伸をした。
「気になるんやったら明日は泊まったらええがな。出発は明後日やろ」
つれづれに詩も会話に加わる。
「ねえねえスペット、太陽光集積炉ってどういうもの」
「太陽光を集めてマテリアルエネルギーに転換する装置や」
「そのまんまだね……ねえねえ、スペットはぴょことどこで出会ったの?」
「何やいきなり」
「だって気になるんだもん。ねえねえ、どこで会ったの? 今日見て回ったようなお店?」
「んー、そうやな……俺が覚えてるのはこいつが、めっちゃ焦って街頭ウォッチャーガンガン叩きまくっとった姿やな」
「どういうシチュエーション?」
「弾みで壊したん、なんとか動かそうとしてたらしいねん」
●宿泊所のウォッチャーが見た光景。
リオンは魔導スマホをかけている。
「あ、マルカさんですか。明日は見学に行かれますか?」
マルカはスマホを耳に当て、びくびくしながらこちらを見る。
「あ、はい……」
舞はずっと窓の外を見て、何か物思いに耽っている。
シャワーを浴びていたエーミはふと気がかりそうにこちらを向き、呟いている。
「水着かなにかあればよかったんだけど……」
ディヤーは腹を出しベッドから転げ落ちている。
カーミンは鉛筆を唇に当て、うーんと唸っている。自作した地図を眺めて。
一数は寝ている。
ソラスは寝ている。
燐火も寝ているが、まだ起きている。しきりに寝返りを打っている。
ルンルンはベッドの上に今日撮った写真を広げ、整理している。
ハナはベッドにタロットカードを広げ考えこんでいる。
ディーナはラウンジでハンスと会話。
「――そうですか、ディーナさんも明日、ワーカーの職業体験に参加を」
「そうなの。非覚醒者でも無理なく出来るものかどうか見極めたくて。ハンスさんも?」
「ええ。体験しなければ相互理解は始まらない。そういうことだと思いますよ? 私たちは今、同じ世界にいるのですから」
「え……ちっ、ちょっとそれ……何ですか……」
「環境が変わるとエキサイトしちゃうよね♪ 今まで出した事ない様な声出させてあげる♪」
リナリスとカチャは、寝る気はまったくなさそうだ。
ルベーノは――部屋に見当たらない。
●夜の街角
マゴイは夜の港湾地区をそぞろ歩いている。
特に目的があるわけではない。今日の仕事は一段落している。
ただこの見慣れた通りを歩くのが好きなのだ。
そこに足音。曲がり角から出てきたのはルベーノ。
「おお、マゴイ。探しに行こうと思っていたところだが、ちょうどいい」
と言って彼は薔薇や百合、その他色々な白い花を集め白籠に盛ったプリザーブフラワーを差し出した。
「これは祝いだ。白が好きなのだろう? 俺としてはお前の一歩がこれからもこの世界の中で共に歩めるものであってくれればと思うが、それはまた別の話だ。休めないお前でも安らぐ何かがあっても良かろう。執務室にでも飾っておけ。持てないなら俺に憑依して運べばいい」
マゴイは籠に見入り目を細めた。
『……とてもいい……』
彼女の手が籠を包む。籠がふわりと浮く。ルベーノは少なからず驚く。
「ものが持てるようになったのか?」
『……いいえ……浮かせ方に幅が出てきただけ……それではこれは預かるわね……そうそう……ワーカーたちにおみやげ……ありがとう……皆とても喜んでいた……』
そう言い残してマゴイ場を去って行く。歌いながら。
『ユニオン、ユニオン、いいところ……』
●農業地区視察団ご一行様
島に来て2日目。
市民候補者と見学希望のハンターたちはマゴイに引率され、農業地区を訪れていた。
燐火は目を丸くしてあたりの景色を見やる。
「こ、これが畑?」
故郷で芋畑しか見たことのなかった彼女にとって島の畑は、まるで畑に見えなかった。
植わっている作物は背の高いもの、低いもの、葉の長いもの、短いもの、尖ったもの丸いものと色々あるが、はじめて目にするものばかり。
羽のほとんどない鳥が時折茂みから飛び出してくる。
大トカゲが足の間にある皮膜を広げ、木から木へと飛び回っている。
大きな四角い池には馬鹿でかいハスが植わっていた。その間を蛇のような魚がうねり泳ぎ回る。
『……あれらは……ワーカーの動物性蛋白質を補うものとして植物と一緒に移植し改良したもの……』
一数は手帳に彼女の説明と、ざっとした植物のイラストを記している。
「これが昨日の食事の原料かな?」
と、こちらも記録に勤しむリナリス。
カチャは昨晩彼女と落花狼藉をやらかしたせいで寝起きから頭がよく稼働していない。
「あー……そーかもですねー……」
と生返事。
ルベーノは行く手に白い花ばかりが咲いている一角を見つけた。港湾地区にあった花壇の苗は、ここで作られているらしい。
「まるで植物園みたいです」
ルンルンはカメラを構え、ひっきりなしシャッターを切る。
ハナはマゴイに言う。この農業区域、島の売りになるのではないかと。
「こっちでも観光業を始めたら、ユニオン市民になりたい方が増えそうですぅ」
『……農業区域は外部者に見せるためのものじゃないわよ……市民生活に欠かせない食料と……工業製品の原材料となるものの供給源……』
「再建黎明期なんですからぁ、世界と共存する擦りあわせは必要だと思いますぅ」
マルカもそれには同感だった。せっかくここまで作ったもの、他の人々にも受け入れられないと勿体ない気がする。
「島の名前、ユニオンが生まれたクリムゾンレッドの島…『ユニゾンアイランド』はいかがでしょうか?……ユニゾンには共鳴を意味しています。互いに呼応を合わせて今後も是非よろしくしたいと」
マゴイはちょっと考えた。
『……それ……逆だと思う……「クリムゾンレッドに生まれたユニオン」だと思う……この島……だから……縮めたら……クリオン?』
「……深海生物の名前みたいなんですけど」
ぴょこ、スペット、詩、サクラは引率のはるか後方を歩いていた。やっぱりマゴイにはちょっと近づきづらいというぴょこの意向を受けて。
バナナ畑の一角に入ってみれば、頭の上からガサガサという物音。
詩は樹上にいるディヤーの姿を目ざとく見つけた。
「ディヤーくん、勝手に取っちゃいけないんじゃないのー」
「ぬほ! いや、ワシはあれじゃ、品質検査をしていたのじゃ」
と言いながら降りてくるディヤー。
そこで突如バナナの木が崩れるように倒れた。
「ちちち、違うぞ。こ、これはワシのせいではな――」
と言いかけたディヤーは絶句する。倒れたバナナの木がたちまち枯れてしまったのだ。
続いて1本、さらにもう1本倒壊。
その後ろから銀色の目と髪をした男が現れた。
ぴょこはピンと耳を上げ、スペットは目を見開く。
『ステーツマン!?』
「なんでここにおんねん!」
反射的に詩はシャドウブリッドで攻撃した。わざわざ調べずとその行いから、歪虚であることは丸分かりだったからだ。
しかし相手はそれを意に介していない。
直後スペットに異変が起きた。
目を押さえうずくまる。ぴょこが駆け寄る。
『なんじゃ、どしたのじゃスペット!』
「目、目が見……」
あえぐような声が途中で絶えた。
息が詰まりかけている。
詩はピュリファイケーションを発動し、彼の体にかかっている干渉を打ち消す。
サクラは聖罰剣で切りかかる。それはダメージを与えなかった。なぜなら相手は実体が無かったのだ。マゴイと同じように。
ぴょこが短い手をぐるぐる回しステーツマンに向かって行く。
『ステーツマン、βをいじめるでない! あっち行くのじゃ、行くのじゃー!』
【動くなソルジャー。指示があるまで待機せよ】
ぴょこの動きががくんと止まった。
詩は息を呑む。ステーツマンがマゴイと同じく『理性の声』を使ったことに。
ぴょこはその場から動けずじたじた足踏みした。そしてもう一度腕を振り上げる。
『す、ステーツマ』
【動くな。待機せよ】
『うう~~! いやじゃいやじゃ、わし動きたいのじゃー!』
【動くな。待機せよ】
詩はぴょこに駆け寄りサルヴェイションをかけた。
「しっかり、ぴょこ! ぴょこはもうソルジャーじゃないんだから、あんなのに従わなくていいんだよ!」
ステーツマンは興ざめした顔でそれを眺め、あくびした。続けて声もなく笑った。
「確かにそうだね。理性の声への服従行動を満足に示せないソルジャーに、ソルジャーとしての存在価値などありはしない」
ディヤーはファイアーボールを天に向けて放った。
ついでエレメンタルコールをエーミに飛ばす。
その時異変を聞きつけた先行者の一団が戻ってきた。
●工場地区視察
農業地区に隣接する、工場地区。マゴイ引率の農業地区見学に参加してないハンターたちは、ここで自由見学をしている。ナルシス、ニケもそれに参加している。
(まぁ好きでユニオンに入る人達だからあたしがどうこう言う権利はないけど、物好きだなー)
と市民候補者たちについて思う舞は、職業体験をしているハンスとディーナに目をやった。
彼らはコボルドたちとともに機械を操作している。壁に書いてある説明版の手順に従って。
「えーと、まずここのハンドルを左に回転させ」
「投入口を開いて再生対象である古食器を投入……」
一連の手続きを見るにつけカーミンは、疑問を感じざるを得ない。
マゴイがこの場にいないので、工場にいるウォッチャーに聞く。
「ねえ、この作業エバーグリーンの技術力を持ってすれば、全自動化出来るんじゃないの?」
【はい、可能です】
「じゃあなんでやらないの?」
【市民のためです。適度な労働は共同体社会の一員としての肯定感と充実感をもたらします。それがあってこそ人は幸福になれるのです】
「なるほど。一理ありますね」
とニケが言う。
ナルシスは嫌そうに呟いた。
「労働しなくて生きて行けるならその方が断然幸福だと思うけど」
エーミは首を傾げ考えていた。ディヤーから昨日聞いた花のことを。
(もし侵入者がいるならウォッチャーが反応しないわけがないわ。それがないということは、犯人はユニオンのシステムについて熟知している可能性が……)
そこにファイアボールの爆音が響いた。
エレメンタルコールがかかってきた。
『農業地区へ来てくれ! 緊急的歪虚事態発生じゃー!』
●ステーツマン
『……α・M・8658236・ステーツマン……?』
「……やあ、久しぶりμ・F・92756471・マゴイ。君と最後に寝たのはいつだったかな……あまりに昔のことでもうよく思い出せないが」
マゴイは枯死した木々とステーツマンとの関連性について、うまく結び付けられなかったらしい。戸惑いながらもこんなことを言い出した。
『……α・ステーツマン……私はあなたに決めてもらわなければいけない重要案件を溜めている……今から会議に出席を……』
それに対しステーツマンは嘆息した。
「私はやりたくない」
『……え? 何故……』
「何故って、働きたくないからだよ。仕事するなんてまっぴらだね」
『ハ?』
マゴイが固まる。
ハナは上記の会話が行われている間に生命感知をしてみたのが、ステーツマンはものの見事に引っ掛からなかった。
「真っ黒けに歪虚ですぅ」
と言う彼女の言葉を受け、ルベーノが仕掛ける。青龍翔咬刃が放たれる。
それは相当なダメージを与えるはずだった――相手に肉体があれば。
ステーツマンは避けもしない。自分から動きもしない。でありながら、確実に周囲へ影響を与えている。
まず最初に影響を受けたのは一般人である市民候補者たちだ。
「なんだ、目が、目が」
「目が見えない……!」
その声によってマゴイは我に返った。急いで彼らを包む結界を張った。
『α・ステーツマン……ワーカーに危害を加えるとは何事なの……』
「私は別に何もしちゃいないよ。彼らが勝手に具合悪くなっているだけのことさ」
ハナが五色光符陣を放つ。ステーツマンは幾らか後ずさった。効いたらしい。
マルカは魔法洗浄を発動する。空中に生まれた渦巻く白い光が負の干渉を妨害した。しかしそれは向こうの力の進行を弱めるだけのことであって、悪影響を完全に打ち消すまでには至らない。
一数は自分の視界が急激にぼやけて来るのを覚えた。燐火も、カチャも。
ステーツマンが言う。
「私の力は生物をこういう順に壊して行くらしい。まず最初に視覚。続いて聴覚。嗅覚。味覚。触覚。その後内臓器官が徐々に機能を放棄し、最後に心臓が止まる。抵抗が強いほど持ちこたえられる時間は長いようだが……」
ルベーノは口を歪めた。弱りかけている視力で相手を睨みつける。
「ほう、ならば俺は相当の間持つということだな」
工場地区にいたハンターたちが駆けつけてきた。
リナリスはアースウォールを作ったが、それはステーツマンの攻撃の妨げにならなかった。
舞はヒートソードで切りつけるが、何の手ごたえもない。
彼女の視界は急にかすみ始める。闇へと切り替わる。
続いて周囲の音が遠ざかる。小さくなって消えていく。
そこに詩が駆け寄り、ピュリファイケーションをかけた。視力、聴力が再び戻る。
ソラスがカウンターマジックでステーツマンを妨害している間にハンスは、破邪顕正を使用して数一、燐火、カチャへの悪影響を断ち切った。
エーミは加護符を放ち仲間の応援に努める。
ディーナはセイクリッドフラッシュを放つ
リオンもファイアーボールとブリザードを同時に発動し、ぶつける。相手に影響を及ぼせるかどうかは分からないが、注意を引くことは出来るだろうと。
刃ではダメージを与えられないと悟ったカーミンは攻撃を中断し、市民候補を防御しているマゴイに問う。
「アレは上司なの?」
『……そのはずなのだけど……ちょっとよく分からない……彼が本当にα・M・8658236・ステーツマンなのだとしたら仕事がしたくないなんて言葉を口にするはずがない……そんなことあり得ない……』
リナリスからスリープクラウドを受けたステーツマンは、目をこすり首を振る。
「μ・マゴイ。君は自分の作ったこれがユニオンだと思うかい?」
『……そうよ、ユニオンよ……』
「そうかい。でもこれはユニオンとは違うものだ」
その言葉を受けてマゴイはうろたえた。
『……どこがどう違うというの……』
「それを知るために君は、一度本来のユニオンに戻ってみる必要があると思うよ」
『……そんなことは出来ない……時間を溯る方法は確立されていない……』
「何も昔に戻る必要はないさ。今現在もユニオンは存在しているよ、この星の裏側に。興味があるなら来たまえ。歓迎するよ」
そして現れたときと変わらず唐突に消えた。
マゴイはその後市民候補者を居住区の病院施設に連れて行き、診察と治療を施した。
そしてハンターたちの協力の下、ステーツマンに汚染された区域を閉鎖し浄化した。
●残された課題
宿泊所のエントランスホールでは、舞、ニケ、ナルシスの会話が繰り広げられている。
「いや、見た目も言うこともナルシスによーく似てたんだよね、そのステーツマンって奴。働きたくない仕事はいやだってさあ」
「へえー……聞いたナルシス。あんた生き方改めないとそいつ同様、ゆくゆく歪虚になっちゃうわよ」
「なんだよそれ、完全にこじつけじゃん!」
ぴょこは目に温湿布を当てるスペットの横で、しょんぼりしている。
『すまんのうβ。わしおぬし助けてやれんかった……』
「ええわ。俺の名前と顔、思い出してくれたんやろ」
『うん、まあ、それだけじゃがの……』
「そんだけでも来た甲斐あったわ」
その頃詩は――カーミンは――エーミは――リオンは――――――
マゴイはウォッチャーから送られてくる外部者たちの映像を前に、1人考え込んでいた。白い花篭がぽつんと置かれた会議室で。
ステーツマンから言われた言葉は彼女をいたく悩ませている。
違う。どこが違うのだろう。私は昔のユニオンと同じものを作っているはずなのだが。
『……これは一度事実を確認してみる必要があるわね……』
ひとまず外部者を期日通り送り出して、島の破損箇所を直し、ワーカーたちに留守にすることを申し付けてから行ってみよう。
世界の裏側へ。あの懐かしきユニオンへ。
「ぴょこさまー! またお会いできてうれしいの」
『おー! ディーナかの! わしも会えてうれしいのじゃ! のじゃ!』
ぴょこの手を握り締めぴょんぴょん撥ねるディーナ・フェルミ(ka5843)は、渋い顔でいるスペットに問う。
「猫頭さんはぴょこさまの大事な人と聞いたの、今日は婚前旅行なの?」
「猫ちゃうわ」
「エクラさまは転生があるとおっしゃっているの、つまりぬいぐるみと猫の異種族婚に壁はないの。二人が婚姻するなら祝福のご用命いつでも承るの!」
「……猫ちゃう言うてるやろ」
忙しく耳を動かすスペットの後ろで宵待 サクラ(ka5561)は、顎に手をやる。
「ぬいぐるみと世界一美形との恋……うーん、ありかも?」
「もうその話はええ。お前ら、そもそも何しに島行く気や」
「それはもちろん、調査なの。ご飯つきの宿泊所が用意されているっていうから、楽しみにしてるの♪」
「南海へのご旅行ってあんまりなかったし、魚釣りしたいかなって思って。バカンスバカンス~」
「完全に遊びに行く気やないか……。ええか、あそこはマゴイの島やぞ。何がどうなってんのか分からへんねん。そんな浮かれた気分でおると足元掬われんぞ」
●島へようこそ
ディヤー・A・バトロス(ka5743)が船縁から身を乗り出した。
「おおー、これがマゴイ殿の島かー!」
切り立った断崖の間を進んだ先にあったのは港湾施設。ブロックを積んだようなデザインだ。
マゴイがいるのが見えた。訪問者を迎えに出てきたらしい。
それを囲んでいるコボルドの一団は歓迎の意志を、遠吠えと尻尾の動きで示している。
コボちゃんがそれに応じ、甲板の先端で遠吠えする。
星野 ハナ(ka5852) が満足げに頷いた。
「青い海にぃ、可愛らしいワンコーず……完璧ですぅ、リゾート感MAXですよぅ」
彼女の脳内では『依頼』と言う文字に【バカンス】というルビが振られている。
船が桟橋に横付けされた。乗組員とハンターたちは下船し、久しぶりに踏む大地の感触を確かめる。
エルバッハ・リオン(ka2434)はマゴイに挨拶した。
「お久しぶりです。よろしくお願いしますね」
『……お久しぶり……こちらこそよろしく……港湾地区と農業地区と工業地区の視察について歓迎する……』
「……それ以外の場所はどうなんです?」
『……それ以外は……結界を張っているから外部者は見られないし入れない……』
そこにニケが来る。
「マゴイさん、今回の納入品についての検査をお願いします」
『……分かったわ……』
マゴイは彼女と共に、降ろされた積荷の方へ行ってしまった。
(どうやらこの島には秘匿事項があるらしいな)
勝手はよく分からないが、調査には細心の注意を払った方がよさそうだ、と多田野一数(ka7110)は思った。
燐火(ka7111)は港の奥に見える白い町並みを眺め、わくわくと胸膨らませる。
「今まで遠出をしたことが少なかったから、楽しみです。どんな所でしょうか」
ソラス(ka6581)は港湾施設における建築物の一切に継ぎ目が見られないことに、感嘆の息を漏らす。
「これがユニオン、アーキテクチャーの街……コボルドの皆さんで建設を?」
コボルドたちは胸を張り短く吠える。コボちゃんが通訳。
「われわれ、まごい、てつだった。とてもりっぱなまち、できた。ほめろ」
操舵手のナルシスは係留杭に腰を下ろし、ふて腐れ切っていた。無理もない。こんなところには最初から来たくなかったのだから。
「あー、と……、上手くいかなくてごめんね」
天竜寺 詩(ka0396)は詫びられても、むすっとしたまま返事もしない。
マルカ・アニチキン(ka2542)は彼に近づき、2つ持っていたラッキースターのうち1つを手渡した。
「どうぞ持っていてください。もしかしていいことがあるかも知れませんので」
と言って場を離れる。ニケを追う。残るもう1つを彼女に渡すために。
●ユニオン式町づくり
ソラスとリオンは早速港湾地区を探索してみた。
商業区という触れ込み通り、街区は全て店舗だった。四角いビル。高さは全て4階で揃っている。通りに面した側はどの階も全て、一面ガラス張り(本当にガラスかどうかは知らないが)となっている。
しかしどこも中はからっぽ。店員もいない。
「コボルド・ワーカーは今現在40人だって言ってましたからねえ、マゴイさん」
「人数に対し、市街区の規模が大きすぎるのではないでしょうか」
「将来人口が増えるだろうからその時のために、と思って作ったのかも知れません」
2人は無人店舗の一つに入ってみる。鍵はかかっていなかったので。
何かないかと見回してみれば、2階に続く階段の横に一つの扉があった。
いつぞや魔術師協会に送られてきた書簡送信機についているのと同じ模様――方形を基礎にした幾何学模様――がついている。
扉の横には012345と書かれたパネル。
(……恐らく空間操作に間係する何か……)
目測をつけたソラスは、パネルに手を伸ばしてみた。偶然触れた2の数字が明滅した。
扉を開けてみれば、今自分がいるのと同じ部屋が見えた。だが窓から見えている景色が違う。視点が一階分だけ上がっている。
リオンが言った。
「階を移動するための装置ってことですね」
ソラスは、続けて3、4を押してみた。3、4階に出た。5はなんなのかと思ったら屋上である。
こうなると俄然気になってくるのが0だ。
好奇心を滾らせ押してみる。開けてみる。
「これは……」
ソラスは驚いた。そこには長く広い地下通路があったのだ。
ぽつぽつした明かりに照らされて、自分が通ってきたのと同じ扉が幾つも並んでいる。
リオンは薄暗がりに目を細める。
「もしかして、この区の建物全部地下で繋がってるのでは…」
行く手から、マゴイに引率された市民候補者たちが歩いてきた。
『……このように島の施設は……地下通路で結ばれているので……天候に関わりなく人の移動、もしくは物資の輸送が……』
どうやら下で繋がっているのは、ここに限った話ではないようだ。
●異郷ぶら歩き
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)はカーミン・S・フィールズ(ka1559)、ディヤー、と港湾地区を見回っていた。
「花がたくさんあるのはいいけど、白ばっかりね」
「そうね。これも決まりなのかしら。そういえばカーミン、マッピングは許してもらえたの?」
「ええ。聞いてみたら見回り許可が出ている場所についてはいいってことだったわ。ところでディ――」
と傍らに首を向けたカーミンは気づいた。さっきまで近くにいた小僧の姿がないことに。
どうやら勝手に離れて行ったらしい。
「ガキはどこいった!」
●コボルドの商法
ゴエモンを連れた天竜寺 舞(ka0377)はマルカ、リナリス・リーカノア(ka5126)、カチャとともに、港湾区ぶら歩きをしていた。
「カチャ、今日は相部屋で一緒に寝ようねー♪」
「え? 宿泊所は全部シングルだってマゴイさん言ってませんでしたか?」
「そんな細かいことはいいじゃない♪」
との会話を後ろにしつつマルカは、心配そうに言う。
「お店開いてませんね。商業区の人手が足りないんでしょうか」
「かもねー。まあ、そもそもコボルド達がものを買うとも思えないけど」
そんな彼女の見解はほどなくして裏切られた。
1軒の店に数匹のコボルドが群がっているのを見つけのである。
近づいてみれば陳列台には大きな木枠の箱が置いてあった。その中には色々なキノコが詰め込まれている。
買い手のコボルドが売り手のコボルドに何か言う。
すると売り手のコボルドは勘定台の引き出しから、台帳らしきものを取り出した。
買い手のコボルドはそれにぺたりと手形を押す。
そして思い思いにキノコを選び、店先においてある紙袋に詰め持っていく。
始めから終わりまで現金のやり取りは一切ない。
「……掛け売りシステムなんでしょうか」
とマルカは推察してみる。
リナリスはさりげなく商店の価格を確認してみようとしたが、それはどこにも表示されていなかった。
商品の品質を確かめる。
どれもなかなか新しい。今とってきたばかりのようだ。
そこにカーミンとエーミがやってくる。
エーミは島独自の食材について、たいへん興味を示す。ここにいる間宿泊所のキッチンを借り、料理を作ってみようとも思っているのだ。
「あら、きのこも取れるのね。ご飯に期待はしておいていいわよ?」
カーミンはディヤーを見なかったかと舞たちに聞いたが、情報は得られなかった。
●ユニオンの規格
詩はスペット、ぴょこ、サクラ、ディーナ、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と港湾区域巡りをしている。
無人の店にも入ってみる。汚したり壊したりしなければ大丈夫だろうと。
「ここは雑貨屋さんですかね」
ルンルンは写真を撮り回り首を傾げる。
「あの隅にある穴はなんでしょうかー」
棚に並ぶのは無数の食器類。全部が全部同じデザイン。色も無地の白のみ。違うのは大中小の大きさだけ。
「せめて形を変えて違いを出すとかない?」
半眼になって聞いてくる詩に、スペットは言った。
「ないやろな。市民全員に同じものが漏れなく行き渡るのがええちゅうのが、ユニオンの考えやから」
ぴょこはカップの1つを手に取りいじりまわす。
サクラはそれを慌てて止めに入る。
「ぴょこさま、陶器は割れ物だから丁寧に扱わなきゃ駄目ですよ」
『これ陶器ではないぞよ?』
「え?」
ディーナは自分もカップを手に取り、確かめてみた。
確かに触った感触と軽さは陶器のものではない。何と言おうか、木製品に近い。
そこに扉が開く音。コボルドだ。汚れた皿やカップを手にしていた彼は、それを壁の穴に放り込んだ。そして棚から新しいのを取り持って行った。
スペットが今思い出したように言う。
「あ、せや。ユニオンでは食器て使い捨てやったわ」
●痕跡
ディヤーはエーミたちから離れた後、そのあたりを歩いていたコボルドたちと合流し、一緒にあちこち散策していた。
どの通りも白い建物白い道、白い花が花盛り。
「……白ばっかじゃな。マゴイ殿が好きと言うても、白ばかりでは白は映えぬぞ?」
コボルドたちは、?と言う具合に頭を傾ける。
食べるとか飲むとかいったことはボディランゲージで十分伝えられるが、色というものはどう表現したらいいのか、と悩むディヤー。
コボがいれば通訳しているのだが、あいにく今は近くにいない。
(どこぞに折り紙売ってる店はないかのー)
きょろきょろし、向かいの花壇に目を留める。
一株だけやけにしおたれている。
近づいてみると土が掘り返された形跡がある。コボルドに聞けば、最近新しく植え替えたものらしい。
それなのにこの有り様。
(……これは歪虚由来のマテリアル枯れか?)
●宿泊所でお食事
外部者用の宿泊所は港湾地区の端にあった。
ほかの四角よりも大きい四角な建物。
外見のそっけなさにルンルンは、ちょっとがっかりする。
「宿泊所、ワンルームマンションみたいでちょっと味気ないのです」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)も別の意味でここに泊まることが心残りであった。
本当は市民候補者たちのように、ワーカー居住区の施設へ泊まりたかったのだが、マゴイから断られてしまったのである。
『……外部者は外部者用の宿泊所に泊めるのが決まり……ワーカーと同じ食事をしたいということについてなら………宿泊所にも同じものが出るので問題ないと思う……』
中に入ってみると、受付にいるのは人でなくウオッチャー。
ホテル内のあちこちには見逃しようがないくらい大きな文字で、どこに何があるのかくどいほど明記してあった。
このかいだんをあがると、にかいです。
このどあは、かいだんをつかわず、いどうするためのいどうどあです。
このろうかのさきに、しょくどうがあります。
「……なんかさ、あたしたち馬鹿にされてない?」
という舞の言葉に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)は肩をすくめる。
「マゴイにやり過ぎ感があるのはいつものことだ。気にしてもしょうがあるまい」
「同感ですね」
と相槌を打つニケ。彼女もお泊まり組の1人だ。ついでに言うとナルシスも。船で寝るのは飽き飽きした、という理由。
食堂の扉を開くと長いテーブルに、幾つもの大皿が並べられていた。
「わ、バイキングですぅ♪」
ハナはうれしげに手を叩いた。
もしかして栄養ブロック的なものが出てきたらと懸念していたディーナも一安心。うきうきとトレー、皿を手に取り近づいて……微妙な顔になった。
肉野菜穀類。焼く煮る揚げる蒸すの違いはありそうだが、どれもこれもブロック状の食べ物だったのである。そうでないのはデザートである果物くらいだ。
ディヤーは揚げ物をつまみ食いし、くわと目を見開いた。
「ぬお! これめっちゃうまいぞ! 原料がなんだか全っ然わからんが!」
そこにエーミが深鍋を持って入ってきた。
「さあさあみんな、こっちも食べてね」
そこに入っていたのは彼女特製、南国風キノコスープである。
●海でお泊り
詩は船の中。ハンモックでゆらゆら。
サクラは船にお泊り。理由はぴょこがそうしたがったから。宿泊所はウォッチャーがたくさんいるので落ち着かないのだそうだ。
むろん、スペットもこっちに泊まっている。
ぴょこはボタンの目を開いたままくーくー寝ている。
「皆、今頃何食べてるのかなあ」
宿泊所にちょっと興味があったサクラがぽつりと言うと、スペットは欠伸をした。
「気になるんやったら明日は泊まったらええがな。出発は明後日やろ」
つれづれに詩も会話に加わる。
「ねえねえスペット、太陽光集積炉ってどういうもの」
「太陽光を集めてマテリアルエネルギーに転換する装置や」
「そのまんまだね……ねえねえ、スペットはぴょことどこで出会ったの?」
「何やいきなり」
「だって気になるんだもん。ねえねえ、どこで会ったの? 今日見て回ったようなお店?」
「んー、そうやな……俺が覚えてるのはこいつが、めっちゃ焦って街頭ウォッチャーガンガン叩きまくっとった姿やな」
「どういうシチュエーション?」
「弾みで壊したん、なんとか動かそうとしてたらしいねん」
●宿泊所のウォッチャーが見た光景。
リオンは魔導スマホをかけている。
「あ、マルカさんですか。明日は見学に行かれますか?」
マルカはスマホを耳に当て、びくびくしながらこちらを見る。
「あ、はい……」
舞はずっと窓の外を見て、何か物思いに耽っている。
シャワーを浴びていたエーミはふと気がかりそうにこちらを向き、呟いている。
「水着かなにかあればよかったんだけど……」
ディヤーは腹を出しベッドから転げ落ちている。
カーミンは鉛筆を唇に当て、うーんと唸っている。自作した地図を眺めて。
一数は寝ている。
ソラスは寝ている。
燐火も寝ているが、まだ起きている。しきりに寝返りを打っている。
ルンルンはベッドの上に今日撮った写真を広げ、整理している。
ハナはベッドにタロットカードを広げ考えこんでいる。
ディーナはラウンジでハンスと会話。
「――そうですか、ディーナさんも明日、ワーカーの職業体験に参加を」
「そうなの。非覚醒者でも無理なく出来るものかどうか見極めたくて。ハンスさんも?」
「ええ。体験しなければ相互理解は始まらない。そういうことだと思いますよ? 私たちは今、同じ世界にいるのですから」
「え……ちっ、ちょっとそれ……何ですか……」
「環境が変わるとエキサイトしちゃうよね♪ 今まで出した事ない様な声出させてあげる♪」
リナリスとカチャは、寝る気はまったくなさそうだ。
ルベーノは――部屋に見当たらない。
●夜の街角
マゴイは夜の港湾地区をそぞろ歩いている。
特に目的があるわけではない。今日の仕事は一段落している。
ただこの見慣れた通りを歩くのが好きなのだ。
そこに足音。曲がり角から出てきたのはルベーノ。
「おお、マゴイ。探しに行こうと思っていたところだが、ちょうどいい」
と言って彼は薔薇や百合、その他色々な白い花を集め白籠に盛ったプリザーブフラワーを差し出した。
「これは祝いだ。白が好きなのだろう? 俺としてはお前の一歩がこれからもこの世界の中で共に歩めるものであってくれればと思うが、それはまた別の話だ。休めないお前でも安らぐ何かがあっても良かろう。執務室にでも飾っておけ。持てないなら俺に憑依して運べばいい」
マゴイは籠に見入り目を細めた。
『……とてもいい……』
彼女の手が籠を包む。籠がふわりと浮く。ルベーノは少なからず驚く。
「ものが持てるようになったのか?」
『……いいえ……浮かせ方に幅が出てきただけ……それではこれは預かるわね……そうそう……ワーカーたちにおみやげ……ありがとう……皆とても喜んでいた……』
そう言い残してマゴイ場を去って行く。歌いながら。
『ユニオン、ユニオン、いいところ……』
●農業地区視察団ご一行様
島に来て2日目。
市民候補者と見学希望のハンターたちはマゴイに引率され、農業地区を訪れていた。
燐火は目を丸くしてあたりの景色を見やる。
「こ、これが畑?」
故郷で芋畑しか見たことのなかった彼女にとって島の畑は、まるで畑に見えなかった。
植わっている作物は背の高いもの、低いもの、葉の長いもの、短いもの、尖ったもの丸いものと色々あるが、はじめて目にするものばかり。
羽のほとんどない鳥が時折茂みから飛び出してくる。
大トカゲが足の間にある皮膜を広げ、木から木へと飛び回っている。
大きな四角い池には馬鹿でかいハスが植わっていた。その間を蛇のような魚がうねり泳ぎ回る。
『……あれらは……ワーカーの動物性蛋白質を補うものとして植物と一緒に移植し改良したもの……』
一数は手帳に彼女の説明と、ざっとした植物のイラストを記している。
「これが昨日の食事の原料かな?」
と、こちらも記録に勤しむリナリス。
カチャは昨晩彼女と落花狼藉をやらかしたせいで寝起きから頭がよく稼働していない。
「あー……そーかもですねー……」
と生返事。
ルベーノは行く手に白い花ばかりが咲いている一角を見つけた。港湾地区にあった花壇の苗は、ここで作られているらしい。
「まるで植物園みたいです」
ルンルンはカメラを構え、ひっきりなしシャッターを切る。
ハナはマゴイに言う。この農業区域、島の売りになるのではないかと。
「こっちでも観光業を始めたら、ユニオン市民になりたい方が増えそうですぅ」
『……農業区域は外部者に見せるためのものじゃないわよ……市民生活に欠かせない食料と……工業製品の原材料となるものの供給源……』
「再建黎明期なんですからぁ、世界と共存する擦りあわせは必要だと思いますぅ」
マルカもそれには同感だった。せっかくここまで作ったもの、他の人々にも受け入れられないと勿体ない気がする。
「島の名前、ユニオンが生まれたクリムゾンレッドの島…『ユニゾンアイランド』はいかがでしょうか?……ユニゾンには共鳴を意味しています。互いに呼応を合わせて今後も是非よろしくしたいと」
マゴイはちょっと考えた。
『……それ……逆だと思う……「クリムゾンレッドに生まれたユニオン」だと思う……この島……だから……縮めたら……クリオン?』
「……深海生物の名前みたいなんですけど」
ぴょこ、スペット、詩、サクラは引率のはるか後方を歩いていた。やっぱりマゴイにはちょっと近づきづらいというぴょこの意向を受けて。
バナナ畑の一角に入ってみれば、頭の上からガサガサという物音。
詩は樹上にいるディヤーの姿を目ざとく見つけた。
「ディヤーくん、勝手に取っちゃいけないんじゃないのー」
「ぬほ! いや、ワシはあれじゃ、品質検査をしていたのじゃ」
と言いながら降りてくるディヤー。
そこで突如バナナの木が崩れるように倒れた。
「ちちち、違うぞ。こ、これはワシのせいではな――」
と言いかけたディヤーは絶句する。倒れたバナナの木がたちまち枯れてしまったのだ。
続いて1本、さらにもう1本倒壊。
その後ろから銀色の目と髪をした男が現れた。
ぴょこはピンと耳を上げ、スペットは目を見開く。
『ステーツマン!?』
「なんでここにおんねん!」
反射的に詩はシャドウブリッドで攻撃した。わざわざ調べずとその行いから、歪虚であることは丸分かりだったからだ。
しかし相手はそれを意に介していない。
直後スペットに異変が起きた。
目を押さえうずくまる。ぴょこが駆け寄る。
『なんじゃ、どしたのじゃスペット!』
「目、目が見……」
あえぐような声が途中で絶えた。
息が詰まりかけている。
詩はピュリファイケーションを発動し、彼の体にかかっている干渉を打ち消す。
サクラは聖罰剣で切りかかる。それはダメージを与えなかった。なぜなら相手は実体が無かったのだ。マゴイと同じように。
ぴょこが短い手をぐるぐる回しステーツマンに向かって行く。
『ステーツマン、βをいじめるでない! あっち行くのじゃ、行くのじゃー!』
【動くなソルジャー。指示があるまで待機せよ】
ぴょこの動きががくんと止まった。
詩は息を呑む。ステーツマンがマゴイと同じく『理性の声』を使ったことに。
ぴょこはその場から動けずじたじた足踏みした。そしてもう一度腕を振り上げる。
『す、ステーツマ』
【動くな。待機せよ】
『うう~~! いやじゃいやじゃ、わし動きたいのじゃー!』
【動くな。待機せよ】
詩はぴょこに駆け寄りサルヴェイションをかけた。
「しっかり、ぴょこ! ぴょこはもうソルジャーじゃないんだから、あんなのに従わなくていいんだよ!」
ステーツマンは興ざめした顔でそれを眺め、あくびした。続けて声もなく笑った。
「確かにそうだね。理性の声への服従行動を満足に示せないソルジャーに、ソルジャーとしての存在価値などありはしない」
ディヤーはファイアーボールを天に向けて放った。
ついでエレメンタルコールをエーミに飛ばす。
その時異変を聞きつけた先行者の一団が戻ってきた。
●工場地区視察
農業地区に隣接する、工場地区。マゴイ引率の農業地区見学に参加してないハンターたちは、ここで自由見学をしている。ナルシス、ニケもそれに参加している。
(まぁ好きでユニオンに入る人達だからあたしがどうこう言う権利はないけど、物好きだなー)
と市民候補者たちについて思う舞は、職業体験をしているハンスとディーナに目をやった。
彼らはコボルドたちとともに機械を操作している。壁に書いてある説明版の手順に従って。
「えーと、まずここのハンドルを左に回転させ」
「投入口を開いて再生対象である古食器を投入……」
一連の手続きを見るにつけカーミンは、疑問を感じざるを得ない。
マゴイがこの場にいないので、工場にいるウォッチャーに聞く。
「ねえ、この作業エバーグリーンの技術力を持ってすれば、全自動化出来るんじゃないの?」
【はい、可能です】
「じゃあなんでやらないの?」
【市民のためです。適度な労働は共同体社会の一員としての肯定感と充実感をもたらします。それがあってこそ人は幸福になれるのです】
「なるほど。一理ありますね」
とニケが言う。
ナルシスは嫌そうに呟いた。
「労働しなくて生きて行けるならその方が断然幸福だと思うけど」
エーミは首を傾げ考えていた。ディヤーから昨日聞いた花のことを。
(もし侵入者がいるならウォッチャーが反応しないわけがないわ。それがないということは、犯人はユニオンのシステムについて熟知している可能性が……)
そこにファイアボールの爆音が響いた。
エレメンタルコールがかかってきた。
『農業地区へ来てくれ! 緊急的歪虚事態発生じゃー!』
●ステーツマン
『……α・M・8658236・ステーツマン……?』
「……やあ、久しぶりμ・F・92756471・マゴイ。君と最後に寝たのはいつだったかな……あまりに昔のことでもうよく思い出せないが」
マゴイは枯死した木々とステーツマンとの関連性について、うまく結び付けられなかったらしい。戸惑いながらもこんなことを言い出した。
『……α・ステーツマン……私はあなたに決めてもらわなければいけない重要案件を溜めている……今から会議に出席を……』
それに対しステーツマンは嘆息した。
「私はやりたくない」
『……え? 何故……』
「何故って、働きたくないからだよ。仕事するなんてまっぴらだね」
『ハ?』
マゴイが固まる。
ハナは上記の会話が行われている間に生命感知をしてみたのが、ステーツマンはものの見事に引っ掛からなかった。
「真っ黒けに歪虚ですぅ」
と言う彼女の言葉を受け、ルベーノが仕掛ける。青龍翔咬刃が放たれる。
それは相当なダメージを与えるはずだった――相手に肉体があれば。
ステーツマンは避けもしない。自分から動きもしない。でありながら、確実に周囲へ影響を与えている。
まず最初に影響を受けたのは一般人である市民候補者たちだ。
「なんだ、目が、目が」
「目が見えない……!」
その声によってマゴイは我に返った。急いで彼らを包む結界を張った。
『α・ステーツマン……ワーカーに危害を加えるとは何事なの……』
「私は別に何もしちゃいないよ。彼らが勝手に具合悪くなっているだけのことさ」
ハナが五色光符陣を放つ。ステーツマンは幾らか後ずさった。効いたらしい。
マルカは魔法洗浄を発動する。空中に生まれた渦巻く白い光が負の干渉を妨害した。しかしそれは向こうの力の進行を弱めるだけのことであって、悪影響を完全に打ち消すまでには至らない。
一数は自分の視界が急激にぼやけて来るのを覚えた。燐火も、カチャも。
ステーツマンが言う。
「私の力は生物をこういう順に壊して行くらしい。まず最初に視覚。続いて聴覚。嗅覚。味覚。触覚。その後内臓器官が徐々に機能を放棄し、最後に心臓が止まる。抵抗が強いほど持ちこたえられる時間は長いようだが……」
ルベーノは口を歪めた。弱りかけている視力で相手を睨みつける。
「ほう、ならば俺は相当の間持つということだな」
工場地区にいたハンターたちが駆けつけてきた。
リナリスはアースウォールを作ったが、それはステーツマンの攻撃の妨げにならなかった。
舞はヒートソードで切りつけるが、何の手ごたえもない。
彼女の視界は急にかすみ始める。闇へと切り替わる。
続いて周囲の音が遠ざかる。小さくなって消えていく。
そこに詩が駆け寄り、ピュリファイケーションをかけた。視力、聴力が再び戻る。
ソラスがカウンターマジックでステーツマンを妨害している間にハンスは、破邪顕正を使用して数一、燐火、カチャへの悪影響を断ち切った。
エーミは加護符を放ち仲間の応援に努める。
ディーナはセイクリッドフラッシュを放つ
リオンもファイアーボールとブリザードを同時に発動し、ぶつける。相手に影響を及ぼせるかどうかは分からないが、注意を引くことは出来るだろうと。
刃ではダメージを与えられないと悟ったカーミンは攻撃を中断し、市民候補を防御しているマゴイに問う。
「アレは上司なの?」
『……そのはずなのだけど……ちょっとよく分からない……彼が本当にα・M・8658236・ステーツマンなのだとしたら仕事がしたくないなんて言葉を口にするはずがない……そんなことあり得ない……』
リナリスからスリープクラウドを受けたステーツマンは、目をこすり首を振る。
「μ・マゴイ。君は自分の作ったこれがユニオンだと思うかい?」
『……そうよ、ユニオンよ……』
「そうかい。でもこれはユニオンとは違うものだ」
その言葉を受けてマゴイはうろたえた。
『……どこがどう違うというの……』
「それを知るために君は、一度本来のユニオンに戻ってみる必要があると思うよ」
『……そんなことは出来ない……時間を溯る方法は確立されていない……』
「何も昔に戻る必要はないさ。今現在もユニオンは存在しているよ、この星の裏側に。興味があるなら来たまえ。歓迎するよ」
そして現れたときと変わらず唐突に消えた。
マゴイはその後市民候補者を居住区の病院施設に連れて行き、診察と治療を施した。
そしてハンターたちの協力の下、ステーツマンに汚染された区域を閉鎖し浄化した。
●残された課題
宿泊所のエントランスホールでは、舞、ニケ、ナルシスの会話が繰り広げられている。
「いや、見た目も言うこともナルシスによーく似てたんだよね、そのステーツマンって奴。働きたくない仕事はいやだってさあ」
「へえー……聞いたナルシス。あんた生き方改めないとそいつ同様、ゆくゆく歪虚になっちゃうわよ」
「なんだよそれ、完全にこじつけじゃん!」
ぴょこは目に温湿布を当てるスペットの横で、しょんぼりしている。
『すまんのうβ。わしおぬし助けてやれんかった……』
「ええわ。俺の名前と顔、思い出してくれたんやろ」
『うん、まあ、それだけじゃがの……』
「そんだけでも来た甲斐あったわ」
その頃詩は――カーミンは――エーミは――リオンは――――――
マゴイはウォッチャーから送られてくる外部者たちの映像を前に、1人考え込んでいた。白い花篭がぽつんと置かれた会議室で。
ステーツマンから言われた言葉は彼女をいたく悩ませている。
違う。どこが違うのだろう。私は昔のユニオンと同じものを作っているはずなのだが。
『……これは一度事実を確認してみる必要があるわね……』
ひとまず外部者を期日通り送り出して、島の破損箇所を直し、ワーカーたちに留守にすることを申し付けてから行ってみよう。
世界の裏側へ。あの懐かしきユニオンへ。
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入国?前に ソラス(ka6581) エルフ|20才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/01/21 18:16:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/21 22:01:21 |