ゲスト
(ka0000)
【東幕】僕を狂っているといっても構わない
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/17 22:00
- 完成日
- 2018/01/20 07:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●五芒星に煌く
恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
口々に武士達が疑問の声を発した。
憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。
●
「ありましたっ!」
馬上の三条家軍師の水野 武徳(kz0196)に向かって報告する斥候。
幕府から詩天の三条家へ祭壇捜索の打診が着たのは、数日前の事だ。
詩天内に歪虚の影が存在するならば早々に排除せねばならない。
大まかな捜索地域を聞いた武徳は動き出した。
「そうか。やはり、折立岬にあったか」
折立岬。
詩天北部に位置する断崖絶壁である。高さ25メートルの崖は、見下ろすだけでも足がすくむ。武徳は幕府からの情報や位置関係から、祭壇が折立岬にあると考えていた。
「して、祭壇は何処に?」
「崖下の祠にそれらしき物がございました」
「…………それは、誠か!」
斥候の報告に驚く武徳。
それを受けて、傍らにいた武将が声をかける。
「殿、如何されましたか?」
「敵に狙われるとまずいのう」
実は、武徳の周辺がかなり騒がしい。
若峰では幕府や西方諸国との交流を関係する家臣や商人が斬られる事件が多発している。
犯行は鬼哭組を名乗る攘夷浪士集団であり、既に歪虚の関与もハンターによって判明している。若峰を守護する即疾隊の副隊長、前沢恭吾から『水野様が狙われる可能性が高い。警護を強化して欲しい』と打診を受けたばかりである。
「特に祭壇の場所がまずい。崖下となれば、我らが敵に狙われると危険だ」
武徳の懸念は祭壇がある祠の場所だった。
折立岬の崖下へ降りるには、崖の横にある脇道から下る他ない。道は左右二カ所にあるが、もしこの二カ所を敵に押さえられれば武徳は崖上から攻撃される事になる。
前方は海。今から船団を準備する暇も無く、逃げ場は無いと言っても良いだろう。
「おそらく、先日出会った松永という浪人が絡むであろう。あやつなら、この好機をのがすまいて」
「そうでしたか。今から若峰へ増援を求めますか?」
「ふむ。増援は早々に打診せよ。しかし、それを待っていては敵に時間を与える事にもなる。ハンター達はおるか?」
「後方に控えております」
祭壇破壊にはハンターも同行していた。
まさかこのような形で頼るとは武徳も予想していなかったに違いない。
「ハンターに伝えよ。折立岬にて敵の襲撃があり得る。十分に警戒せよ、と。
……わしの思い過ごしなら良いのじゃがな」
●
武徳は思い過ごしを願っていたが、鬼哭組の松永武人にその願いは届かない。
「水野は折立岬にいるって?」
「はい、そこを襲えば楽に倒せるでしょう。これも神の思し召しです」
武人に情報をもたらしたのは、ブラッドリーと呼ばれる歪虚だ。
黒い神父服に書物を手にする姿は、聖職者にしか見えない。ブラッドリーの周囲を漂う雷玉さえ無ければ……。
「神の思し召しねぇ。歪虚は怖いことを考える」
「それを言うなら、武人さんです。
あなたは歪虚さえ、目的の為に利用する」
「ああ。若峰を、詩天を一度潰して新しい国を築く。限られた時間でやるにゃ、歪虚でも何でも使えるもんは使うだけだ。
だが、裏切ってみろ? その時は……」
「神が心変わりしない限り、私は鬼哭組を支援します」
今のところ、ブラッドリーは鬼哭組に手を出していない。腹の中で何を考えているかは分からないが、邪魔をするなら潰せばいい。
「ふん、まあいい。
……奴ら、崖下の祠が目的と言ってたな。あの崖に続く道は崖の左右にある脇道しかねぇ。なら、水野が祠へ降りたところを見計らって左右の脇道を俺達が塞ぐ」
「敵が崖上に戦力を残していたら?」
「お前か俺が相手をすりゃあいい。その隙に光陰隊が脇道を封鎖する」
「光陰隊?」
ブラッドリーにも光陰隊という部隊に聞き覚えは無かった。
武人は、小さく頷く。
「詩天の未来のために覚醒者になった連中だ。即疾隊の連中も躍起にやって取り締まりを始めやがって、戦力も心配になってたところだ」
武人に促されてブラッドリーが向いた方向には、まだ幼さが残る顔立ちの少年ばかりであった。
武人が姿を見せた途端、少年達は一斉に立ち上がる。
「松永さん!」
「お前ぇ達、出番だ。
俺ぁ、命を賭ける覚悟を見て、こいつらを一人前に扱うと決めた。一人前の武士なら、国の為に戦う意思は無視できねぇよな」
武人は少年ばかりで構成された光陰隊を利用するのではなく、国の未来を憂う武士として扱っていた。
その志に、ブラッドリーは怪しい笑みを浮かべる。
「……本当、あなたは人間にしておくには惜しい存在です」
恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
口々に武士達が疑問の声を発した。
憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。
●
「ありましたっ!」
馬上の三条家軍師の水野 武徳(kz0196)に向かって報告する斥候。
幕府から詩天の三条家へ祭壇捜索の打診が着たのは、数日前の事だ。
詩天内に歪虚の影が存在するならば早々に排除せねばならない。
大まかな捜索地域を聞いた武徳は動き出した。
「そうか。やはり、折立岬にあったか」
折立岬。
詩天北部に位置する断崖絶壁である。高さ25メートルの崖は、見下ろすだけでも足がすくむ。武徳は幕府からの情報や位置関係から、祭壇が折立岬にあると考えていた。
「して、祭壇は何処に?」
「崖下の祠にそれらしき物がございました」
「…………それは、誠か!」
斥候の報告に驚く武徳。
それを受けて、傍らにいた武将が声をかける。
「殿、如何されましたか?」
「敵に狙われるとまずいのう」
実は、武徳の周辺がかなり騒がしい。
若峰では幕府や西方諸国との交流を関係する家臣や商人が斬られる事件が多発している。
犯行は鬼哭組を名乗る攘夷浪士集団であり、既に歪虚の関与もハンターによって判明している。若峰を守護する即疾隊の副隊長、前沢恭吾から『水野様が狙われる可能性が高い。警護を強化して欲しい』と打診を受けたばかりである。
「特に祭壇の場所がまずい。崖下となれば、我らが敵に狙われると危険だ」
武徳の懸念は祭壇がある祠の場所だった。
折立岬の崖下へ降りるには、崖の横にある脇道から下る他ない。道は左右二カ所にあるが、もしこの二カ所を敵に押さえられれば武徳は崖上から攻撃される事になる。
前方は海。今から船団を準備する暇も無く、逃げ場は無いと言っても良いだろう。
「おそらく、先日出会った松永という浪人が絡むであろう。あやつなら、この好機をのがすまいて」
「そうでしたか。今から若峰へ増援を求めますか?」
「ふむ。増援は早々に打診せよ。しかし、それを待っていては敵に時間を与える事にもなる。ハンター達はおるか?」
「後方に控えております」
祭壇破壊にはハンターも同行していた。
まさかこのような形で頼るとは武徳も予想していなかったに違いない。
「ハンターに伝えよ。折立岬にて敵の襲撃があり得る。十分に警戒せよ、と。
……わしの思い過ごしなら良いのじゃがな」
●
武徳は思い過ごしを願っていたが、鬼哭組の松永武人にその願いは届かない。
「水野は折立岬にいるって?」
「はい、そこを襲えば楽に倒せるでしょう。これも神の思し召しです」
武人に情報をもたらしたのは、ブラッドリーと呼ばれる歪虚だ。
黒い神父服に書物を手にする姿は、聖職者にしか見えない。ブラッドリーの周囲を漂う雷玉さえ無ければ……。
「神の思し召しねぇ。歪虚は怖いことを考える」
「それを言うなら、武人さんです。
あなたは歪虚さえ、目的の為に利用する」
「ああ。若峰を、詩天を一度潰して新しい国を築く。限られた時間でやるにゃ、歪虚でも何でも使えるもんは使うだけだ。
だが、裏切ってみろ? その時は……」
「神が心変わりしない限り、私は鬼哭組を支援します」
今のところ、ブラッドリーは鬼哭組に手を出していない。腹の中で何を考えているかは分からないが、邪魔をするなら潰せばいい。
「ふん、まあいい。
……奴ら、崖下の祠が目的と言ってたな。あの崖に続く道は崖の左右にある脇道しかねぇ。なら、水野が祠へ降りたところを見計らって左右の脇道を俺達が塞ぐ」
「敵が崖上に戦力を残していたら?」
「お前か俺が相手をすりゃあいい。その隙に光陰隊が脇道を封鎖する」
「光陰隊?」
ブラッドリーにも光陰隊という部隊に聞き覚えは無かった。
武人は、小さく頷く。
「詩天の未来のために覚醒者になった連中だ。即疾隊の連中も躍起にやって取り締まりを始めやがって、戦力も心配になってたところだ」
武人に促されてブラッドリーが向いた方向には、まだ幼さが残る顔立ちの少年ばかりであった。
武人が姿を見せた途端、少年達は一斉に立ち上がる。
「松永さん!」
「お前ぇ達、出番だ。
俺ぁ、命を賭ける覚悟を見て、こいつらを一人前に扱うと決めた。一人前の武士なら、国の為に戦う意思は無視できねぇよな」
武人は少年ばかりで構成された光陰隊を利用するのではなく、国の未来を憂う武士として扱っていた。
その志に、ブラッドリーは怪しい笑みを浮かべる。
「……本当、あなたは人間にしておくには惜しい存在です」
リプレイ本文
祠を破壊した後に立ち上った煙は、上空へと舞い上がり天ノ都の方へ飛び去っていく。
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)は、祠の破壊で幕府からの勅命を果たした事を察した。
だが、武徳を襲う脅威は祠を破壊した後に訪れた。
「詩天様の為、この国の為に……死んでもらうぞ」
折立岬の上から響く声。
鬼哭組首魁の松永武人だ。
「やはり参ったか」
「下がってもらおう。敵の狙いは武徳、あなただ」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)は、大火弓「オゴダイ」を携えて武徳の前へ進み出る。
実は事前にウィーダらハンター達に襲撃の可能性は知らされていた。
幕府の命を受けて破壊した祠は折立岬の下に存在していた。その下へ続く道は、岬の左右にある脇道のみ。この脇道を押さえられれば、武徳達は退路を断たれる事になる。
「相手は歪虚じゃなくて、人間か。だが、それだけだ。
……襲ってくる以上は敵だ。覚悟しなよ」
ウィーダは龍矢「シ・ヴァユ」をオゴダイに番える。
敵は左右の脇道から4人。崖上の声を考えれば、さらに敵が控えていると考えるべきだ。
「ガキ、か。だが、刀を手に襲ってくるのか。……覚悟はできてるよな?」
魔剣「ストームレイン」を握り締め、アーサー・ホーガン(ka0471)は一気に左の脇道へ向かって駆け出した。
脇道を降りてくる相手は浪士、それも舞剣士。
年は9歳から14歳前後。明らかに詩天でも元服前の少年達だ。
もし、最近覚醒者となったのであれば経験は不足。アーサーはそこにつけ込み、一気に叩くつもりだ。
「大事な人にまた逢いたいなら……いや、覚悟があって来たのなら掛けてはいけない言葉だね」
アーサーの背後から、瀬崎 琴音(ka2560)がファイアスローワーを放つ。
扇状に炎の力を持ったエネルギーが、脇道の光陰隊に向けて飛来する。
「ひっ」
浪士は、思わず息を飲んだ。
国の為、愛する者の為にこの場所へ赴いた。
覚悟は既に決めていた。
それでも、実際戦場の空気に触れて臆した。
人が人を傷つける混迷の場――それが、光陰隊は初めて経験する戦場だ。
「ここで怯むな! 俺達は、戦うと決めただろう!」
光陰隊のもう一人が、弓を引きながら叫ぶ。
それに答えるように刀を手にした少年は、頭を振って不安を振り払う。
「そうだよな。ここまで来たんだ。ここで水野を討ち取るんだ」
弓を手にした少年は、決意表明の如く矢を放った。
しかし、矢を向けられたアーサーはその矢をストームレインで簡単に弾いて見せた。
「俺は、敵に情けをかけるほど慈悲深くはないんでな。
老いも若きも関係ねぇ。配慮すべきは、敵よりも味方の命だ……詫びはしねぇぞ」
アーサーは、脇道の階段を登り始めた。
●
ハンター達が脇道を駆け上がる頃。
「あなたは確か……」
姿を見せたマリィア・バルデス(ka5848)を前に、ブラッドリーは記憶を呼び起こす。
「ブラッドリー、知り合いか?」
「以前街でお目にかかりました」
武人の言葉に、神父姿の歪虚ブラッドリーは答える。
だが、マリィアは神父には目も暮れず、武徳へを見据えた
「松永、だっけ? あなた、負け戦と気付いているでしょう?」
マリィアには説得をするつもりはない。
話している間に二人の注意がこちらに向けられればいい。その間に他のハンターが脇道を上る時間を稼げるからだ。
「負け戦か」
「自分が負け戦だと分かっている方は、いつだって禁断の術に手を出すのよ。それは古今東西変わらない。
あなたはね、自分の主義主張ですら大多数には受け入れられず、民の善にも正義にも幸せにも寄与しないって心の底では分かっているのよ」
「民に受け入れられまいが、関係ねぇ。
幕府は詩天様との見合いを画策したぞ。世継ぎのいねぇ詩天だ。このまま幕府の直轄になるのか? 俺には詩天が幕府に奪われるのを黙ってはいられねぇ」
武人は会話に乗ってきた。
彼には彼なりに詩天を案じているのだろう。
だが、ここでブラッドリーが思わぬ言葉を口にする。
「時間が無いのです。この国にも、松永さんにも……」
「時間?」
「余計な事を言うんじゃねぇよ。もうお互いの理想なんて関係ねぇ。結局は強ぇ方が残るだけだ」
武人は、仕込み刀を抜き放つ。
(これ以上は無理か)
時間の引き延ばしが難しいと感じたマリィアは、魔導銃「狂乱せしアルコル」を構える。
二対一の不利な状況の中、マリィアは眼前の二人を見据えていた。
●
右の脇道もハンターが駆け上がる。
「刃を持って相対するなら、相応の扱いをするしかあるまい」
三條 時澄(ka4759)は、納刀のまま階段を上っていく。
内心、気が進まないのは事実だ。
だが、少年といえど刀を手に戦場へ立ったのだ。
一人の侍として扱うべき。それが戦場の作法である。
「久しぶりの東の地なんだけど……こっちはこっちで相変わらず立て込んでるのね。
それにしても……年端もいかない子供まで戦場に立つ、か」
同じく右の脇道を上がるユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、複雑な胸中だ。
行く手を阻むは、覚醒者といえど少年。
しかし、覚悟を持って臨むのであれば、ユーリはそれに答えるだけだ。
「戦場で語るは言葉に非ず、互いの祈りと願いを刃に込めて斬り結ぶ事だけ」
「く、来る!」
蒼姫刀「魂奏竜胆」を手にしたユーリを前に、光陰隊の少年は刀で行く手を阻む。
衝突する刃。
擦れ合う金属音が響く中、刀を挟んで向かい合う二人。
その傍らを時澄は一気に駆け抜ける。
「御免」
「あっ!」
追いかけようと時澄を視線で追う少年。
だが、今度はユーリがそれを阻んだ。
「あなたは、その刀を振るわなければいけないわ。自分の信じる何かの為に剣を取ったのなら、ね」
「!」
敵でありながら、励ましのような言葉をかけるユーリ。
それは依頼の最中でありながら、ユーリ自身の心から漏れ出た言葉だ。
それによって少年の瞳に光が戻る。
「絶対に、この先へ行かせない」
時澄は納刀したまま、階段を駆け上がる。
だが、眼前に立ちはだかるのは、弓を手にした少年。
「こ、こいつ!」
放たれる矢。
だが、臆して放たれた矢は命中する事無く、時澄の頬を掠めて通り過ぎていく。
「俺にも譲れんものがあるのでな。敵対するなら容赦はせんよ」
大きく踏み込む時澄。
同時に鞘から抜き放たれる試作溶断刀「ブレイジングKAGUTUCHI」。
高速で抜き放たれた一撃が、少年の体を捉えた。
「うっ」
呻く少年。
だが、胴に装備された鎧により刃により届かない。
痛みに堪えながら、脇差しへ手を伸ばそうとする。
「そんな暇、与えないよ」
崖下にいたウィーダは、オゴタイの弦を引く。
エイジングにより命中率が上げられ、放物線を描くシ・ヴァユ。
見事、矢は少年の腕を貫いた。
「痛っ」
思わず、腕に手を当てて痛みを堪える少年。
そして、このチャンスを逃さず、時澄の第二撃が炸裂する。
「覚えておけ。心意気だけでは、どうにもらなん事もある……高い代償だったな」
少年の体を吹き飛ばし、再びブレイジングKAGUTUCHIを鞘へ収めた時澄。
振り返れば、ユーリも光陰隊を片付けて階段へと登り始めていた。
「光陰隊では彼らを止められなかったか。それならばそれも良い」
二手に分かれてはいるが、いずれの道でも光陰隊はハンターを止められなかった。
そしてハンター達は、崖の上へと登るだけだ。
●
「くっ!」
マリィアは、クイックリロードで再装填したばかりの狂乱せしアルコムと黄金拳銃で、フォールシュート。
上空から降り注ぐ弾丸の雨。
しかし、ブラッドリーは上に手を向け、光の盾で弾丸を防ぐ。
「どうしました? 動きは見事ですが、お一人で足掻くおつもりですか?」
ブラッドリーの余裕な表情。
歪虚と舞剣士を相手取っているのだが、物理攻撃を防ぐブラッドリーの光の盾に阻まれてダメージは思うように当てられない。
大きな収穫と言えば、武人から負のマテリアルの気配がない事だ。これは武人が契約者や堕落者ではない事を示している。
「そらよっ!」
武人は大きく踏み込み、上段から一刀。
マリィアはそれをパリィグローブ「ディスターブ」によるマテリアルの盾で弾く。
「覚醒者なのに」
「だからなんだ?」
睨み合うマリィアと武人。
闘争の中でぶつかり合う双方。
それでも、マリィアの不利は否めない。
「神に抗う者に引導渡して差し上げましょう」
ブラッドリーの光球が一際輝き始める。
だが――。
「させるかよっ!」
ブラッドリーの後方から、アーサーが迫る。
手にしていた二つの刃――魔剣「ストームレイン」と太刀「螺旋丸」が、ブラッドリーへ振るわれる。
「横から邪魔とは、無粋ですね」
ブラッドリーは光の盾でアーサーの連撃を受け止める。
だが、ソウルエッジで強化された一撃は強烈で、連撃の果てに光球を消し去る事に成功する。
一方、武人の方にも――。
「私は私の大切な者達と明日を生きる為に剣を振るう。
貴方が剣を振るうは、何の為? 貴方がその刃に込める祈りと願いは、何?」
マリィアと武人の間へ割って入るように、ユーリが青白いマテリアルの雷を纏いながら滑り込んできた。
同時に蒼姫刀「魂奏竜胆」の切っ先は、武人へと向けられる。
「光陰隊の連中、止められなかったか……くっ」
ユーリの刺突一閃を仕込み刀で受け流そうとする武人。
だが、刃を弾けない。武人の肩口は刃によって斬られた。
「先程の問い、答えてもらえる?」
「俺ぁ、光陰隊の連中と変わらねぇよ。この国を他に負けない国にする。その為に、詩天を……ぶっ壊す!」
仕込み刀を下段から振り上げる武人。
それに反応して、今度はユーリが魂奏竜胆で刃を弾く。
覚醒者同士の衝突。
想いが故に、想いは力へと昇華する。
●
「武徳殿、脇道の道を切り拓きました。皆と共にこちらへ」
崖上へ到達した時澄が、崖下に向けて声を張り上げる。
崖下の武徳へ知らせるだけでなく、敵の目論見が崩れた事を理解させる為の宣言だ。
「武徳、階段にはまだ覚醒者が残っている。そいつらは任せて」
武徳の護衛役であるウィーダは、武徳へ釘を刺した。
無力化されても相手は覚醒者。
武徳の部下が非覚醒者である事を考えても、通行の際にはウィーダが対応すべきだ。
「うむ、頼むぞ」
ウィーダを頼りに武徳と部下達は階段へ移動を開始する。
「真美が信を置く者を殺らせる訳にはいかんのでな。ここは退いてもらうぞ」
武人へ斬り合いを挑むユーリ。
その傍らに納刀のまま足を開く、時澄。
武人にも分かる。
居合いからの一撃に賭けるつもりだ。
「ちっ」
武人は思わず舌打ちする。
一方、ブラッドリーの方にもハンターが攻撃を仕掛ける。
「もう諦めなよ」
琴音のファイアスローワーをブラッドリーは光の盾で受け止める。
派手に衝突するマテリアル。
その間にも、アーサーは二刀による連続斬りを叩き込む。
「そろそろ終わらせてやるよ」
アーサーの二連撃に続いて放たれる、アスラトゥーリ。
三撃目による突きは、光の壁を形成していた光球を破壊。
さらにブラッドリーへ強烈な一撃となって突き刺さる。
「くっ、急造の光では荷が重すぎたようです」
「何?」
言っている意味が理解できないアーサー。
その時、脇道の階段から光陰隊の少年が上がってきた。
「松永さん、すいません。でも……せめて松永さんを助けたいんです」
「あ、きみは」
琴音には見覚えがある。
先程、脇道へ上がる際に弓を破壊して無力化した少年だ。
『こんな急ぐようなやり方じゃないと国って変えられないのかな。どこの世界でも』
琴音の言葉で心が折れた少年。
戦意消失として琴音は敢えて放置しておいたのだが、武人の身を案じて階段を上がってきたようだ。
「良い時に来ましたね」
「あ、てめぇ!」
跪いていたブラッドリーは少年の方へ駆け寄り、背後へ回って肩にそっと手を置いた。
「あなたは松永さんの為に戦いたい。役に立ちたい。……そうですね?」
「はい。何としても松永さんだけはこの場から逃がさないといけません。その為には何だってします」
「結構。なら、使わせてもらいますよ。あなたの光を、ね」
その言葉と同時に少年の首を背後から握るブラッドリー。
次の瞬間、激しい電撃が少年を襲う。
「ああああああっ!」
悲鳴?
痙攣?
いずれとも限定できない声が少年から放たれる。次第に少年の体から立ち上る煙。
琴音は、思わず叫ぶ。
「きみっ!」
名を知らぬ少年へ呼び掛ける琴音。
「心配はいりません。あなたは神の傍へ召されるのです」
ブラッドリーの手から放たれる電撃。
最後に放たれた放電は、一際大きく、眩しい。
目を瞑った琴音が再び目を開けた時、少年の姿は無かった。代わりにブラッドリーの傍らに漂う新たなる光球。
琴音もアーサーも、ここで気付いた。
ブラッドリーは光球を『こうやって』増やしていたのだ。
「ひ、酷い」
「新しい光はどんな輝きを見せてくれますかね」
「ふざけやがって。今度は一撃じゃ済まさねぇ」
アーサーも怒りを露わにする。
だが、怒るのはハンターだけでは無かった。
「おいっ! 今、何やりやがった!」
声を荒げたのは武人であった。
構えていた仕込み刀を下ろし、怒りをブラッドリーへ向ける。
「彼の力ではハンターに勝てません。だから、私が有効活用してあげるのです」
「光陰隊の連中は、覚悟を決めてた。なのに、てめぇは……」
そう言い掛けた次の瞬間、武人は激しく咳き込み始める。
その激しさはあまりに異常だ。
「武人」
マリィアが、呟いた。
一方、武人は片膝を付いた後、口から大量の血液を垂れ流した。
朱に染まる大地。
それは、ユーリや時澄の攻撃によるものではない。
「病身の体で戦うのであれば、神の加護を受けるべきです」
「……」
仕込み刀を杖にして立ち上がる武人。
時間が無い。
先程マリィアが聞いた言葉は、武人の体を指していたのだ。
「だから、こんな性急なやり方をしたんだ」
琴音も急ぎすぎるやり方に納得する。
だが、それでも手心を加える訳にはいかない。
「病なれど、真美に仇なす所業は見過ごせぬ」
「病気で剣を振るうなら、単に命を捨てているだけよ」
ユーリも時澄も武人をこのまま逃すつもりはない。
「やる気、か」
「いけません。ここで松永さんを失う訳にはいきません。撤退します」
ブラッドリーの言葉の後、光球が激しい輝きを見せる。
――ホワイトアウト。
ハンター達の視界が戻った頃には、武人とブラッドリーの姿は消えていた。
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)は、祠の破壊で幕府からの勅命を果たした事を察した。
だが、武徳を襲う脅威は祠を破壊した後に訪れた。
「詩天様の為、この国の為に……死んでもらうぞ」
折立岬の上から響く声。
鬼哭組首魁の松永武人だ。
「やはり参ったか」
「下がってもらおう。敵の狙いは武徳、あなただ」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)は、大火弓「オゴダイ」を携えて武徳の前へ進み出る。
実は事前にウィーダらハンター達に襲撃の可能性は知らされていた。
幕府の命を受けて破壊した祠は折立岬の下に存在していた。その下へ続く道は、岬の左右にある脇道のみ。この脇道を押さえられれば、武徳達は退路を断たれる事になる。
「相手は歪虚じゃなくて、人間か。だが、それだけだ。
……襲ってくる以上は敵だ。覚悟しなよ」
ウィーダは龍矢「シ・ヴァユ」をオゴダイに番える。
敵は左右の脇道から4人。崖上の声を考えれば、さらに敵が控えていると考えるべきだ。
「ガキ、か。だが、刀を手に襲ってくるのか。……覚悟はできてるよな?」
魔剣「ストームレイン」を握り締め、アーサー・ホーガン(ka0471)は一気に左の脇道へ向かって駆け出した。
脇道を降りてくる相手は浪士、それも舞剣士。
年は9歳から14歳前後。明らかに詩天でも元服前の少年達だ。
もし、最近覚醒者となったのであれば経験は不足。アーサーはそこにつけ込み、一気に叩くつもりだ。
「大事な人にまた逢いたいなら……いや、覚悟があって来たのなら掛けてはいけない言葉だね」
アーサーの背後から、瀬崎 琴音(ka2560)がファイアスローワーを放つ。
扇状に炎の力を持ったエネルギーが、脇道の光陰隊に向けて飛来する。
「ひっ」
浪士は、思わず息を飲んだ。
国の為、愛する者の為にこの場所へ赴いた。
覚悟は既に決めていた。
それでも、実際戦場の空気に触れて臆した。
人が人を傷つける混迷の場――それが、光陰隊は初めて経験する戦場だ。
「ここで怯むな! 俺達は、戦うと決めただろう!」
光陰隊のもう一人が、弓を引きながら叫ぶ。
それに答えるように刀を手にした少年は、頭を振って不安を振り払う。
「そうだよな。ここまで来たんだ。ここで水野を討ち取るんだ」
弓を手にした少年は、決意表明の如く矢を放った。
しかし、矢を向けられたアーサーはその矢をストームレインで簡単に弾いて見せた。
「俺は、敵に情けをかけるほど慈悲深くはないんでな。
老いも若きも関係ねぇ。配慮すべきは、敵よりも味方の命だ……詫びはしねぇぞ」
アーサーは、脇道の階段を登り始めた。
●
ハンター達が脇道を駆け上がる頃。
「あなたは確か……」
姿を見せたマリィア・バルデス(ka5848)を前に、ブラッドリーは記憶を呼び起こす。
「ブラッドリー、知り合いか?」
「以前街でお目にかかりました」
武人の言葉に、神父姿の歪虚ブラッドリーは答える。
だが、マリィアは神父には目も暮れず、武徳へを見据えた
「松永、だっけ? あなた、負け戦と気付いているでしょう?」
マリィアには説得をするつもりはない。
話している間に二人の注意がこちらに向けられればいい。その間に他のハンターが脇道を上る時間を稼げるからだ。
「負け戦か」
「自分が負け戦だと分かっている方は、いつだって禁断の術に手を出すのよ。それは古今東西変わらない。
あなたはね、自分の主義主張ですら大多数には受け入れられず、民の善にも正義にも幸せにも寄与しないって心の底では分かっているのよ」
「民に受け入れられまいが、関係ねぇ。
幕府は詩天様との見合いを画策したぞ。世継ぎのいねぇ詩天だ。このまま幕府の直轄になるのか? 俺には詩天が幕府に奪われるのを黙ってはいられねぇ」
武人は会話に乗ってきた。
彼には彼なりに詩天を案じているのだろう。
だが、ここでブラッドリーが思わぬ言葉を口にする。
「時間が無いのです。この国にも、松永さんにも……」
「時間?」
「余計な事を言うんじゃねぇよ。もうお互いの理想なんて関係ねぇ。結局は強ぇ方が残るだけだ」
武人は、仕込み刀を抜き放つ。
(これ以上は無理か)
時間の引き延ばしが難しいと感じたマリィアは、魔導銃「狂乱せしアルコル」を構える。
二対一の不利な状況の中、マリィアは眼前の二人を見据えていた。
●
右の脇道もハンターが駆け上がる。
「刃を持って相対するなら、相応の扱いをするしかあるまい」
三條 時澄(ka4759)は、納刀のまま階段を上っていく。
内心、気が進まないのは事実だ。
だが、少年といえど刀を手に戦場へ立ったのだ。
一人の侍として扱うべき。それが戦場の作法である。
「久しぶりの東の地なんだけど……こっちはこっちで相変わらず立て込んでるのね。
それにしても……年端もいかない子供まで戦場に立つ、か」
同じく右の脇道を上がるユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、複雑な胸中だ。
行く手を阻むは、覚醒者といえど少年。
しかし、覚悟を持って臨むのであれば、ユーリはそれに答えるだけだ。
「戦場で語るは言葉に非ず、互いの祈りと願いを刃に込めて斬り結ぶ事だけ」
「く、来る!」
蒼姫刀「魂奏竜胆」を手にしたユーリを前に、光陰隊の少年は刀で行く手を阻む。
衝突する刃。
擦れ合う金属音が響く中、刀を挟んで向かい合う二人。
その傍らを時澄は一気に駆け抜ける。
「御免」
「あっ!」
追いかけようと時澄を視線で追う少年。
だが、今度はユーリがそれを阻んだ。
「あなたは、その刀を振るわなければいけないわ。自分の信じる何かの為に剣を取ったのなら、ね」
「!」
敵でありながら、励ましのような言葉をかけるユーリ。
それは依頼の最中でありながら、ユーリ自身の心から漏れ出た言葉だ。
それによって少年の瞳に光が戻る。
「絶対に、この先へ行かせない」
時澄は納刀したまま、階段を駆け上がる。
だが、眼前に立ちはだかるのは、弓を手にした少年。
「こ、こいつ!」
放たれる矢。
だが、臆して放たれた矢は命中する事無く、時澄の頬を掠めて通り過ぎていく。
「俺にも譲れんものがあるのでな。敵対するなら容赦はせんよ」
大きく踏み込む時澄。
同時に鞘から抜き放たれる試作溶断刀「ブレイジングKAGUTUCHI」。
高速で抜き放たれた一撃が、少年の体を捉えた。
「うっ」
呻く少年。
だが、胴に装備された鎧により刃により届かない。
痛みに堪えながら、脇差しへ手を伸ばそうとする。
「そんな暇、与えないよ」
崖下にいたウィーダは、オゴタイの弦を引く。
エイジングにより命中率が上げられ、放物線を描くシ・ヴァユ。
見事、矢は少年の腕を貫いた。
「痛っ」
思わず、腕に手を当てて痛みを堪える少年。
そして、このチャンスを逃さず、時澄の第二撃が炸裂する。
「覚えておけ。心意気だけでは、どうにもらなん事もある……高い代償だったな」
少年の体を吹き飛ばし、再びブレイジングKAGUTUCHIを鞘へ収めた時澄。
振り返れば、ユーリも光陰隊を片付けて階段へと登り始めていた。
「光陰隊では彼らを止められなかったか。それならばそれも良い」
二手に分かれてはいるが、いずれの道でも光陰隊はハンターを止められなかった。
そしてハンター達は、崖の上へと登るだけだ。
●
「くっ!」
マリィアは、クイックリロードで再装填したばかりの狂乱せしアルコムと黄金拳銃で、フォールシュート。
上空から降り注ぐ弾丸の雨。
しかし、ブラッドリーは上に手を向け、光の盾で弾丸を防ぐ。
「どうしました? 動きは見事ですが、お一人で足掻くおつもりですか?」
ブラッドリーの余裕な表情。
歪虚と舞剣士を相手取っているのだが、物理攻撃を防ぐブラッドリーの光の盾に阻まれてダメージは思うように当てられない。
大きな収穫と言えば、武人から負のマテリアルの気配がない事だ。これは武人が契約者や堕落者ではない事を示している。
「そらよっ!」
武人は大きく踏み込み、上段から一刀。
マリィアはそれをパリィグローブ「ディスターブ」によるマテリアルの盾で弾く。
「覚醒者なのに」
「だからなんだ?」
睨み合うマリィアと武人。
闘争の中でぶつかり合う双方。
それでも、マリィアの不利は否めない。
「神に抗う者に引導渡して差し上げましょう」
ブラッドリーの光球が一際輝き始める。
だが――。
「させるかよっ!」
ブラッドリーの後方から、アーサーが迫る。
手にしていた二つの刃――魔剣「ストームレイン」と太刀「螺旋丸」が、ブラッドリーへ振るわれる。
「横から邪魔とは、無粋ですね」
ブラッドリーは光の盾でアーサーの連撃を受け止める。
だが、ソウルエッジで強化された一撃は強烈で、連撃の果てに光球を消し去る事に成功する。
一方、武人の方にも――。
「私は私の大切な者達と明日を生きる為に剣を振るう。
貴方が剣を振るうは、何の為? 貴方がその刃に込める祈りと願いは、何?」
マリィアと武人の間へ割って入るように、ユーリが青白いマテリアルの雷を纏いながら滑り込んできた。
同時に蒼姫刀「魂奏竜胆」の切っ先は、武人へと向けられる。
「光陰隊の連中、止められなかったか……くっ」
ユーリの刺突一閃を仕込み刀で受け流そうとする武人。
だが、刃を弾けない。武人の肩口は刃によって斬られた。
「先程の問い、答えてもらえる?」
「俺ぁ、光陰隊の連中と変わらねぇよ。この国を他に負けない国にする。その為に、詩天を……ぶっ壊す!」
仕込み刀を下段から振り上げる武人。
それに反応して、今度はユーリが魂奏竜胆で刃を弾く。
覚醒者同士の衝突。
想いが故に、想いは力へと昇華する。
●
「武徳殿、脇道の道を切り拓きました。皆と共にこちらへ」
崖上へ到達した時澄が、崖下に向けて声を張り上げる。
崖下の武徳へ知らせるだけでなく、敵の目論見が崩れた事を理解させる為の宣言だ。
「武徳、階段にはまだ覚醒者が残っている。そいつらは任せて」
武徳の護衛役であるウィーダは、武徳へ釘を刺した。
無力化されても相手は覚醒者。
武徳の部下が非覚醒者である事を考えても、通行の際にはウィーダが対応すべきだ。
「うむ、頼むぞ」
ウィーダを頼りに武徳と部下達は階段へ移動を開始する。
「真美が信を置く者を殺らせる訳にはいかんのでな。ここは退いてもらうぞ」
武人へ斬り合いを挑むユーリ。
その傍らに納刀のまま足を開く、時澄。
武人にも分かる。
居合いからの一撃に賭けるつもりだ。
「ちっ」
武人は思わず舌打ちする。
一方、ブラッドリーの方にもハンターが攻撃を仕掛ける。
「もう諦めなよ」
琴音のファイアスローワーをブラッドリーは光の盾で受け止める。
派手に衝突するマテリアル。
その間にも、アーサーは二刀による連続斬りを叩き込む。
「そろそろ終わらせてやるよ」
アーサーの二連撃に続いて放たれる、アスラトゥーリ。
三撃目による突きは、光の壁を形成していた光球を破壊。
さらにブラッドリーへ強烈な一撃となって突き刺さる。
「くっ、急造の光では荷が重すぎたようです」
「何?」
言っている意味が理解できないアーサー。
その時、脇道の階段から光陰隊の少年が上がってきた。
「松永さん、すいません。でも……せめて松永さんを助けたいんです」
「あ、きみは」
琴音には見覚えがある。
先程、脇道へ上がる際に弓を破壊して無力化した少年だ。
『こんな急ぐようなやり方じゃないと国って変えられないのかな。どこの世界でも』
琴音の言葉で心が折れた少年。
戦意消失として琴音は敢えて放置しておいたのだが、武人の身を案じて階段を上がってきたようだ。
「良い時に来ましたね」
「あ、てめぇ!」
跪いていたブラッドリーは少年の方へ駆け寄り、背後へ回って肩にそっと手を置いた。
「あなたは松永さんの為に戦いたい。役に立ちたい。……そうですね?」
「はい。何としても松永さんだけはこの場から逃がさないといけません。その為には何だってします」
「結構。なら、使わせてもらいますよ。あなたの光を、ね」
その言葉と同時に少年の首を背後から握るブラッドリー。
次の瞬間、激しい電撃が少年を襲う。
「ああああああっ!」
悲鳴?
痙攣?
いずれとも限定できない声が少年から放たれる。次第に少年の体から立ち上る煙。
琴音は、思わず叫ぶ。
「きみっ!」
名を知らぬ少年へ呼び掛ける琴音。
「心配はいりません。あなたは神の傍へ召されるのです」
ブラッドリーの手から放たれる電撃。
最後に放たれた放電は、一際大きく、眩しい。
目を瞑った琴音が再び目を開けた時、少年の姿は無かった。代わりにブラッドリーの傍らに漂う新たなる光球。
琴音もアーサーも、ここで気付いた。
ブラッドリーは光球を『こうやって』増やしていたのだ。
「ひ、酷い」
「新しい光はどんな輝きを見せてくれますかね」
「ふざけやがって。今度は一撃じゃ済まさねぇ」
アーサーも怒りを露わにする。
だが、怒るのはハンターだけでは無かった。
「おいっ! 今、何やりやがった!」
声を荒げたのは武人であった。
構えていた仕込み刀を下ろし、怒りをブラッドリーへ向ける。
「彼の力ではハンターに勝てません。だから、私が有効活用してあげるのです」
「光陰隊の連中は、覚悟を決めてた。なのに、てめぇは……」
そう言い掛けた次の瞬間、武人は激しく咳き込み始める。
その激しさはあまりに異常だ。
「武人」
マリィアが、呟いた。
一方、武人は片膝を付いた後、口から大量の血液を垂れ流した。
朱に染まる大地。
それは、ユーリや時澄の攻撃によるものではない。
「病身の体で戦うのであれば、神の加護を受けるべきです」
「……」
仕込み刀を杖にして立ち上がる武人。
時間が無い。
先程マリィアが聞いた言葉は、武人の体を指していたのだ。
「だから、こんな性急なやり方をしたんだ」
琴音も急ぎすぎるやり方に納得する。
だが、それでも手心を加える訳にはいかない。
「病なれど、真美に仇なす所業は見過ごせぬ」
「病気で剣を振るうなら、単に命を捨てているだけよ」
ユーリも時澄も武人をこのまま逃すつもりはない。
「やる気、か」
「いけません。ここで松永さんを失う訳にはいきません。撤退します」
ブラッドリーの言葉の後、光球が激しい輝きを見せる。
――ホワイトアウト。
ハンター達の視界が戻った頃には、武人とブラッドリーの姿は消えていた。
依頼結果
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/12 13:09:02 |
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相談卓 三條 時澄(ka4759) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/01/17 20:42:07 |