呪われし、乙女の首飾り

マスター:一要・香織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/16 07:30
完成日
2018/01/22 02:20

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 時は夕暮れ。
 しかし、空に茜の色は無く厚く重なった雷雲が浮かんで辺りは夜の様に暗かった。
 時折、雷鳴が轟き稲光が辺りを照らす。
 今にも降り出しそうな、そんな中、一人の男が馬を走らせていた。
 先刻まで平原を走っていたのだが、雷鳴に驚いた馬が急激に進路を変え今は林の中を進んでいる。
 馬は荷車を引き、その荷車にはガラクタと呼べる古めかしい石像や、盾の様な鉄の塊が乗せられている。
「チッ、降ってきやがった」
 男は悪態ついて空を睨む。
 黒々とした雲から耐えられなくなった雨粒が、ポツポツと地面を叩きはじめた。

 やがて馬は林を抜けぽっかりとした空間に出た。
 そこには――――所々崩れた大きな屋敷が、不気味に佇んでいた。
「こんな所に屋敷があるなんて」
 男はその屋敷を見上げ眉を寄せた。
 雨脚が強くなり始め、再び雷鳴が轟く。
 驚きに嘶く馬を引きながら、男は屋敷の中に踏み込んだ。
「結構広いな。雨がやむまで、しばらく休むか」
 崩れかかっている――とはいえ、屋敷の中は雨も風もない。
 男は馬の背を数回叩き安心させてやると、コツコツと足音をさせ屋敷の奥へと進んだ。
 床に積もった埃が男の足跡をくっきりと浮かび上がらせる。
「人が居なくなって随分経つみたいだな」
 静まり返ったその屋敷の状況に、男は笑みを浮かべた。

 男の名前は、ラント。ハンターだ。
 しかし、あのハンターではない……。
 男は古い遺跡や洞窟を引っ掻き回しそこにある遺物を見つける、トレジャーハンターだ。
 だが、それは自称……やっていることは盗賊となんら変わらない……。
 歳は20歳半ば、といったところだろうか。
 逞しい体は……、なるほど一人で洞窟に潜るのも頷けるものだ。
 今回も東にある古い遺跡に入り、一般人は眉を寄せるが、その道の人が見たら欲しがるような石像を持ち帰った。
 そして帰路にこの屋敷を見つけたのだ。
 街道からは随分と離れており、何処の領地に属しているのかも分からない様な場所。しかも、道も何もない林の中にポツリと存在していた。
 妙だ……そう思うものの、ラントの思考は既にこの屋敷に残された遺物へと向いている。
 屋敷の中にはあらゆるものが残っていた。
 家具も、衣装も、……そう金目の物も。
 銀製の燭台や銀の食器、アンティークの置物などどれも高値で売れそうだ。
 ラントは屋敷中を歩き回り物色した。
 2階の部屋に入った時だった。
 埃の上からでも分かる程の黒い奇妙な模様が床に書かれおり、その側には何かを積み上げたような膨らみに布が掛けられていた。
 それを目に留めた途端、ゾワリと背筋を這う悪寒を感じ、早々にその部屋を出て隣の部屋に入る。
 ここは女性の部屋だったのだろうか。
 天蓋付の大きなベットに、鏡台、センスのいいチェストは若い女性だったと想像させる。
 ラントは鏡台に近付き、そして引き出しを開けた。
 刹那、外で稲妻が光り部屋の中を明るく照らした。
 濃い紫色の大きな宝石が、その光に反応した様に引き出しの中で輝く。
「おっ、こいつはいいな!」
 ラントは大きな笑みを浮かべて、その紫の宝石が付いたネックレスの鎖を持ち上げ、すぐさま袋に入れた。
「ミルカにいい土産が出来たぜ」

 ラントは上機嫌で集めた遺物を荷車に乗せ、雨が上がったのと同時に、その屋敷から出て行った。

 ある街の酒場にラントの姿があった。
 目の前にはラントより少し若い女が座り、ラントが無事帰ってきたことを喜んでいる様だ。
 その女性はミルカ、ラントの恋人である。
 ミルカは隣の町に住んでいて、ラントの帰りを知ると親の目を盗みこうして会いに来る。
 二人の出会いは、単純だ。
 柄の悪い男達に絡まれていたミルカをラントが助けた。
 それだけだが、いつしか二人は真剣に愛し合い、いつかは結婚を……と考えている。
 しかしミルカの親がラントとの結婚を許すはずもなく、ズルズルと恋人という関係が続いている。

「今回はすごかったんだってね?」
 ラントの羽振りの良さの噂を聞いたミルカは、ラントの仕事が上手くいったことを喜んだ。
「そうなんだ、ミルカにも土産があるぞ」
 そう言って、ラントは床に置いていた荷物から小さな袋を取り出した。
 ゴソゴソと手探り、摘み上げたチェーンの先には紫色の宝石が付いている。
「わあ、素敵なネックレス!」
 うっとりとした顔で、ミルカはそのネックレスを眺めた。
「ミルカに似合うと思ってさ」
 ラントはミルカの後ろに回り込み、その細い首にネックレスを垂らした。
 胸元に輝く宝石を見つめ、
「ありがとう、ラント! 大事にするね」
 そう言ってミルカは笑顔を溢した。
 ミルカの細い指が紫の宝石に触れ、石の形をなぞる……その時、ゾクリ――、背筋が痺れる程の悪寒がして、次の瞬間、心臓が握りつぶされそうな程の苦しさに襲われた。
「うぅ……」
 苦し気に胸を抑えるミルカを目にして、ラントは驚いた。
「ミルカ? どうしたんだ?」
 直ぐに駆け寄りその体を支えようとすると、
「ぎゃあぁぁぁぁぁ――――――」
 ミルカの……いや、人間のそれとは思えない悲鳴が店中に響いた。
「お、おい……」
 フラリッ、と立ち上がったミルカは、禍々しいほどの気配をさせ、その瞳は蝙蝠の目の様にすべてが黒い。まるで闇を映しているかの様だった。
 おもむろに伸ばされた手がテーブルの上のナイフを掴んだ。
 それに呼応するように、店中のナイフがカタカタと動きだし、ポルターガイストとでもいうのだろうかナイフはふわりと宙に浮かんだ。
 宙に浮かぶナイフは蝋燭の光を反射してギラリと光り、ミルカが振り下ろしたのと同時にラントを目掛けて飛んだ。
「ギャア――」
 痛みに顔を歪めるラントに向かいミルカは再びナイフを振り下ろした。
 店の中に居た客たちがその惨状を目にして出口に向かって走り出すと、それを追いかける様に宙に浮かんだナイフが飛ぶ。
「きゃあーー」
 逃げる客に刺さったナイフは赤い雫を滴らせ、次の目標に向かって鋭く飛んだ。
「ミル、カ……やめてくれ」
 もうそこには恋人のミルカは居ない……。
 そこに居るのは悪霊の入れ物に成り果てた、哀れな女性……。
 ラントは歯を食い縛り、残りの力を振り絞ってミルカに足払いを掛けた。
 ミルカの身体がぐらりと傾き、床に膝を着いた隙に、ラントはなんとか酒場から逃げ出した。

リプレイ本文

 その町は何時にも増して静かだった。
 酒場の前に集まったハンター達は、その異様な静けさに眉を顰める。
「初依頼から、ヘビーだな……」
 苦々しく笑みを漏らした多田野一数(ka7110)が呟くと、
「悪霊退治なんて初めてです……」
 マルカ・アニチキン(ka2542)も同調する様に言葉を零す。
「悪霊ねぇ。十中八九、歪虚や雑魔の類だろう? ……それにしても興味深いもんが出てきたねぇ」
 龍宮 アキノ(ka6831)はオモチャを見つけた子供の様に、口元に妖しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、行くっすよ」
 そう言った神楽(ka2032)が打ちつけられた扉を勢いよく蹴破った。

 薄暗い店内に、彼女は佇んでいた。
 悪霊に憑りつかれて我をなくし、すべてを屠ろうする禍々しい気配を漂わせている。
 ハンター達が扉を蹴破る音に、ミルカは振り向いた。
 話に聞いていたよりも、その見た目は人間らしからぬものだった。
 その姿を見たハンター達が顔を顰めると同時に、ミルカはナイフを振り上げた。
 ポルターガイストの様に浮かんだナイフがハンター達に向かって飛び、先に踏み込んだフィリテ・ノート(ka0810)と神楽が、そのナイフの標的となった。
「をぉおお! やっぱし、入っていきなりか!!」
 フィリテは焦ったような声を出しながら、手にしたマントを振り回して飛んでくるナイフを払い落とすと、同時に神楽も聖盾剣でナイフを叩き落とした。
 二人がミルカの気を引いているうちに、隠の徒を使ったマルカ、そしてアキノと一数が店内へと侵入する。
「ミルカさん、今助けてあげますからね」
 そう声を掛けながら近付くフィリテを警戒したのか、ミルカは一歩後ずさり、
「ぐぅううぅ――――」
 腹の底から響く様な叫び声を上げた。
 途端、テーブルの上やカウンターの上にあったグラスが、パンッと弾ける様に割れ、その破片が雨の如く辺りに降った。
「きゃあ」
「うわっ」
 テーブルの陰に隠れていたマルカや一数が小さな悲鳴を上げる。
 無論、その場にいるミルカにもガラスの雨が降り注いだ。
 鋭く尖った破片は、ミルカの肌を斬りつけ赤い雫が腕を滑る。
「入れ物にしている人間がどうなろうと、構わないってわけっすね」
 神楽が冷ややかな声で呟くと、
「ともあれ、ミルカはこのままだと完全に歪虚化してしまうだろうし、即刻でケリをつけようか」
 アキノは不敵に笑い聖盾を掲げた。
「まあ、微妙に自業自得な気がするっすけど、仕事なんで助けてやるっすよ」
 そう言いながら、神楽はミルカの正面に立った。
 フィリテも隣に並ぶとウィンドガストを唱える。途端、何処からか吹く緑の風がフィリテを包み回避能力を引き上げた。
 正面に立つ二人を忌々しげに見つめ、ミルカが再びナイフを掲げると、床に叩き落とされたナイフがふわりと宙に浮かび、鈍い光を反射させた。
 ミルカの意識が神楽とフィリテに向いている隙に、気付かれない様に一数が背後から距離を詰める。
 宙に浮かぶナイフが一際明るく光り標的に向かい飛び出すと、神楽の幻影触手がミルカを拘束する。
 神楽とフィリテを目掛けて飛んで来るナイフをフィリテがマントで払うが、払いきれないいくつかは二人の肌を掠めた。
 触手がミルカの身体に巻き付くのを確認した一数は、飛びこんで背後から羽交い絞めにする。
「ぐぁああ――――」
 身体を捩り拘束から逃れようと暴れるミルカの思考に呼応するように、店中のあらゆるものが、――ミルカを目掛けて飛んだ。
「おいおい……」
 むちゃするな……、そう言いたげに一数が苦笑いを浮かべた瞬間、マルカが唱えたマジックアローの衝撃が、飛んで来る椅子の軌道を変え、アキノの聖盾が蝋燭の燭台を叩き落とした。
「ケケケ、触手プレイの始まりっす~! う~ん、エロイっす」
 冗談を言いながら、神楽はミルカの襟元に手を伸ばすと、ビリッとブラウスを引き破った。
 ミルカのふくよかな胸の谷間が露わになると、そこには黒にも紫にも見える禍々しい宝石があった。
 時間が経ったせいだろうか……、随分と肌に埋まってしまい僅かに顔を出す程度だ……。
「これは……」
 それを目にしたマルカは息を飲んだ。
 宝石が晒されたことが気に障ったのか、ミルカは先ほどよりも強い力で暴れ出した。
 手に持ったナイフが一数を斬りつける。
「ちっ、舐めるなよ悪霊」
 一数は眉を顰めて舌打ちし背後からミルカの脚を払った。
 ミルカはズルリと滑るように体勢が崩れ、床に倒れた。
 直後、アキノが聖盾を使って体を押さえつけ一数もミルカの腕を捻り上げた。
「ここまで埋まってたら、引き抜くのは難しいよね?」
 その宝石を見つめフィリテが問いかけると、
「そうだな。憑りつかれた原因だ、このまま破壊するしかないだろう」
 答えるアキノの静かな声が、場の緊張感を僅かに高めた。
「これしか手がないっすが、死んでも恨むなっす!」
 神楽が聖盾剣を振りかぶると、マルカは両手を握り信仰心全開で悪霊退散を祈った。
 ギラリと光った剣が、小さな宝石を目掛け垂直に振り下ろされ、切っ先が宝石に当たったところでピタリと止まった。
 ピシッ――宝石に亀裂が走り、パキッと割れた小さな欠片が転がった―――。
 ハンター達が目を見張る中、
「あぁ――ぐぅ、ああぁぁぁあ――――」
 断末魔の様な叫びがミルカの口から吐き出され、宝石は一瞬鋭い光を放つとボロボロと崩れ出し……塵となって消えた。
 晒された胸元には宝石が埋まっていた痕跡もなく、そこに横たわるのはラントが愛する女、ミルカの姿。
 傷だらけで、やつれてはいるが、穏やかな顔で瞳を閉じている。
「悪霊は無事に退治できましたね」
 マルカがホッと息を吐くと、
「冷や汗をかいたわ」
 フィリテも釣られて息を吐いた。
 神楽はポーチからヒーリングポーションを取り出すと、ミルカの口にあてがい飲ませてやった。
 途端ミルカの傷はみるみる消えていき、顔色も良くなる。
 その様子を眺めているはず……なのに、神楽は鼻の下は段々と伸び始めた……。
「いつまで見てるんですか?」
 すこし怒り気味にマルカが言うと、神楽の視線はミルカの胸元からマルカへと移った。
「これくらい、いいじゃないっすか。減るもんじゃないっす」
 神楽がニヤリと笑うと、フィリテが手にしていたマントをミルカの身体に掛けた。
「そんなこと言ってると後で恨みを買いますよ」
 フィリテも頬を膨らませ、神楽に言う。
「さあ、病院に連れて行こう」
 アキノがその場を沈める様に声を張ると、ハンター達はミルカを病院まで運んだ。

 一息吐いたハンター達がミルカの病室を訪れると、ミルカは既に意識を取り戻していて、悲痛な面持ちで窓の外を眺めていた。
「体調はどうですか?」
 ドアから顔を覗かせたフィリテを先頭に、ハンター達はミルカを見舞う為部屋の中へと入った。
「あ……、助けて下さった、ハンターの方ですか?」
 弱弱しい、か細い声でミルカが尋ねると、
「そうだよ」
 フィリテが元気に答えた。
「あの……ありがとう、ございました」
 そう言ったミルカは俯き、黙り込んでしまった。
 ギュッと手を握り込むミルカの肩は小さく震え、恐怖と……自責の念に苦しめられているのが分かる。
「温かい飲み物は心を癒してくれると聞いたことがある」
 一数はそう言いながらベット脇のテーブルに温かい紅茶の入ったポットを置いた。
 カチャリと蓋が鳴り、中の液体が揺れたことで、ポットからは芳醇な香りが漂い、ハンター達の胸をも温かくさせた。
「まあ、あんま気にすんなっす。どう考えても悪いのは危ない宝石を送ったラントっす」
「…………」
 ミルカは俯いたままだ。
「悪いのは悪霊だ……ミルカさんが気に病む必要はない」
 一数も重ねて言葉を掛けると、ミルカは首を振った。
「でも……私、ラントの事を傷つけて……。私を見つめる冷たい瞳が……目に、焼き付いてる」
 悪霊に憑りつかれた直後の事だろう。
 ミルカの意識は悪霊に憑りつかれても僅かに残っていたようだ。
 ラントを襲い傷つけ、そして恐怖に歪む顔を見てミルカはショックを受けているようだった。
「きっと……私の事なんてもう愛してなんかない……死んだ方が、良かったんだわ」
 ミルカはボロボロと大粒の涙を流し始めた。
 その悲痛な感情は部屋の空気を重くし、ハンター達は眉を顰めて顔を見合わせた。
「それは、違うと思うよ」
 その空気を一蹴するように、アキノが口を開いた。
「えっ?」
 ミルカも顔を上げ、アキノを見つめる。
「ラントは酒場から逃げ出した後、自らハンターオフィスに助けを求めている。貴方の事を愛していないなら、そんなことはしなかっただろう」
「私もそう思います」
 マルカも続け様呟いた。
「今回はお互いがお互いを傷つけてしまったのだから、両成敗で水に流して、貴方たちはこれからの事を考えるべきですよ」
 マルカは元気づける様にニコリと微笑みミルカの手を握った。
「これからの、事……?」
 小さく首を傾げたミルカを見つめていた一数が、フッとドアの方へ視線を向けた。
 唇の端を持ち上げ、
「こういうのは、直接会って話さないとな」
 そう言うとドアまで歩いて行き、廊下を覗き込むと誰かの手を引いて戻ってきた。
「……ラント……」
 ミルカの口から驚きの声が上がる。
「合わせる顔が無くて、入って来れなかったのかい?」
 アキノが微笑ましげにラントを見ると、ラントは視線を彷徨わせた後、ミルカの側にしゃがみ込んだ。
「ミルカ、すまない……許して欲しい」
「っ!」
 ミルカは苦し気に息を飲んだ。
「あれが、あんなに危険な物だったとは知らず……君を危ない目に合わせてしまった」
「ラント……私こそ……ごめんなさい」
 二人のやり取りに、ハンター達は口元を綻ばせた。
「俺が言うのも生意気だが、ミルカさんは良い子だ。もう泣かせないで欲しいと思う」
「……ああ、約束する」
 そう言い切ったラントにマルカはズイッと詰め寄った。
「貴方の職業は今後もミルカさんを傷つける恐れがあるわ。だから、この機会に社会復帰するのが良いと思います」
「え?」
 予想外の指摘にラントは口が開いた。
「それは良い考えだね」
 フィリテは笑みを浮かべながら二人を見つめる。
「一人で遺跡に潜る腕っぷしっす。傭兵とかなら直ぐに雇って貰えそうっすね」
 神楽の言葉に頷きながら一数も続ける。
「ちゃんとした職業に就けば、ミルカさんの父親に認めてもらえるかもしれないな」
 ハンター達の言葉を聞いていたラントの表情が、少しずつ真摯な顔つきに変わっていく。
 ラントの中で、なにか決心が着いたのだろうか――。
「まずは……、ミルカさんが退院したら、酒場の片付けを手伝ってはどうかしら?」
 マルカの提案に、ミルカとラントは同時に頷いた。
「ええ。そうします」
「ああ」
 二人は見つめ合い、小さく笑みを溢す。
「じゃあ、……私たちは行くとしようか」
 アキノが声を掛けると、
「あ……、あの、ありがとうございました。それから、ごめんなさい。皆さんも、たくさん傷つけてしまって」
 ミルカは申し訳なさそうに唇を噛んだ。
「わたし達はいいのよ。大丈夫。仕事柄慣れてるし、ね。……それよりも元に戻ってよかったわ……うん」
 フィリテは満面の笑みを浮かべて手を振り、病室を出て行った。
 部屋に残されたラントとミルカは、お互いの手を取り、その手の温もりを感じながら微笑み合った。

 後日、ハンター達は興味に釣られ、ラントから聞いた屋敷へと足を踏み入れた。
「悪霊のネックレスが無くなったせいかしら、……酷い汚染はないようですね」
「この程度なら自然に治癒されるっすね」
 マルカが呟くと、神楽も頷き呟いた。
「あの宝石の入手経路が分かる資料は残っていないかねぇ。歪虚が絡んでいるのなら類似の事件が起こっていてもおかしくないからねぇ」
 アキノは次の研究対象をこれに決めたのか、楽しそうに口を開いた。
 ハンター達は屋敷内を探索し、そして二階へと足を向けた。
 ラントが話していた部屋に入ると、床には埃の上からでも分かる黒い模様……。
 よく見れば、引きずった跡なのだろうか模様は線状に延びていて、それは何かを積み上げたような膨らみを持つ布の下に消えている。
「これって……もしかして」
 フィリテは嫌気を露わにして一歩退いた。
 その様子を見つめていた一数は皆と目配せをすると、布の端を手に取り、勢いよく引いた。
「っ!」
 現れたのは幾つのも白骨化した死体……。
 そう、床に描かれた黒い模様は血の跡だった。
 遺体を引きずった跡が線状に延びて奇妙な模様となったようだ。
 この遺体は……この屋敷の住人。
 跡取りを巡る争いで次男に殺された一家の亡骸だった。
「これは……、凄惨だな」
 顔を顰めた一数はポツリと呟き、元通りに布を被せた。

「取りあえず、調査はお仕舞だね」
 屋敷の外に出たハンター達はマルカの言葉に頷いた。
「あと何年かしたらこの屋敷も崩れるだろう。それまで、この屋敷が人目に付かないと良いな」
 アキノがそう呟くと林の方から吹き込んだ風が、ハンター達の間を抜けて行った。
 屋敷に背を向けたハンター達。
 皆は一様に、この屋敷に眠る魂が安らかであることを祈ったのだった――。

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参加者一覧

  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノ(ka6831
    人間(蒼)|26才|女性|機導師

  • 多田野一数(ka7110
    人間(蒼)|16才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
マルカ・アニチキン(ka2542
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/11 08:08:08
アイコン 相談卓
マルカ・アニチキン(ka2542
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/15 23:30:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/11 21:08:51