• 東幕

【東幕】待たず海路の日和となりて

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/17 22:00
完成日
2018/01/29 00:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●五芒星に煌く
 恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
 本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
 紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
 警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
 その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
 同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
 武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
 口々に武士達が疑問の声を発した。
 憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
 明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
 戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
 明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
 それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
 紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
 憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
 武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
 それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
 その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
 ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。


●恋文の中身
 史郎(kz0242)が詩天へやってきて数日が経過していた。取引はきわめて順調。新規の契約も結ぶことができ、史郎は連日あちらこちらへ出かけては忙しくしていた。
「ま、忙しくしてる方が性に合ってるけど。さすがにちょっと疲れたかな……」
 ようやく少しのんびりできると、史郎は詩天にかまえている小さな営業所でくつろいでいた。そこへ。
「失礼いたします。史郎さんの営業所は、こちらでよろしいでしょうか」
 上品に尋ねる声がした。戸口に、小柄な袴姿がひとつ。
「おや」
 史郎は微笑んだ。立っていたのは、三条家当主・三条真美(kz0198)。変装のつもりなのだろう、男子の装いでいるが、持ち前の可憐さは少しも隠せていない。
「ええ、ここですよ。どうぞ中へ……、三条真美さま」
 史郎は客人を中へ招き入れ、しっかりと戸を閉めてから、その名を呼んだ。外の気配を察するに、周囲に人影はない。戸の外側に、ひとり屈強な男が立っているようだが、おそらく真美の従者だろう。
「やっぱりわかってしまうんですね……。ええと、一応、この姿のときはシン、と呼んでいただけると」
「かしこまりました。ああ、今お茶を」
 史郎は真美に椅子をすすめ、手早く茶を用意してもてなした。
「本日はどういったご用件で? わざわざお越しいただかずとも、呼びつけてくださいましたら馳せ参じましたのに」
 変装までしてやってきたのだ、ただ遊びにきたわけではないだろうと、史郎はすぐに本題へ入れるよう話を向けた。真美は真剣な面持ちで頷くと、懐から手紙を一通、取り出した。それは先日史郎が真美のもとへ届けた「スーさんからの恋文」であった。
「史郎さんに届けていただいた手紙です。おそらく、すでにお察しのことと思いますが、これは恋文を装った密書です。史郎さんがスーさんと呼んでいらっしゃる方は、この国の帝……、スメラギ様でいらっしゃいます」
 真美の言葉に、史郎は黙って頷いた。驚くべき要素は、今の話の中にひとつもない。真美は史郎のそんな様子に少し苦笑して、話を続けた。いわく。
 恋文を装った密書には「国内の五か所の地点に歪虚が集結しつつある」ということ、「その五か所のうち一か所が、詩天の北の沖合にある『朧干潟』である」ということが記されていたという。
 さらに。
「事態は深刻で、いつになく大規模な戦闘になると予想されています。国内に五か所、それも同時に、なのですから当然ではありますが。ですので、詩天の要である私には、不測の事態に備え、詩天を動かないで欲しい、と要請がありました。そして……、『朧干潟』へは史郎さんにハンターを率いて向かってもらうように、と」
「……は?」
 さすがの史郎にも予想できなかった内容が飛び出し、史郎は珍しく呆気にとられて、美しく輝く瞳を見開いた。
「え、俺ですか? 失礼ながら、何かの間違いでは? 俺は兵士じゃない。ただの商人ですよ」
「存じ上げております。しかし今、帝には動かせる手勢がおりません。史郎さんは、一介の商人とは思えぬ身体能力と戦闘技術をお持ちだとか。それを見込んでの頼みだと、書いてありました」
「確かに身は軽い方ですが……」
 困惑を顔に残したまま、史郎は内心で舌を巻いていた。
(変装は下手くそだけど、人をよく見てるな、スーさんは)
「……ま、三条家の当主直々にお越しの上、帝の命とあらば、お断りするわけにもいきませんでしょう。お引き受けいたしますよ」
 史郎は肩をそびやかして笑って見せた。真美がホッとしたような笑顔になる。
「ただし」
 史郎は人差し指を立ててニヤリとした。
「俺はあくまでも商人です。お代はしっかり頂戴いたしますよ」


●朧干潟
 その干潟は、普段は海に沈んでいるという。存在しているのかいないのか、はっきり確認できない朧な干潟……、朧干潟。誰がそう呼び始めたかわからぬが、そこにはそうした風雅な名がついていた。
「我々の目的は、干潟に巣食っている歪虚の殲滅と、祭壇の破壊です」
 干潟へ向かう船の甲板で、史郎がハンターたちに説明をした。史郎は今、いつもは身に着けていない帽子をかぶっていた。頭がすっぽりすべて入る、丸くて大きな帽子だ。史郎いわく「気合」が必要なときはこれをかぶるという。
「皆さん、頼みますよ。……生きて、帰りたいですからね」
 史郎が鋭く細めた双眸の先に、一年に五日しか姿を現さぬ幻の干潟『朧干潟』が見えてきていた。

リプレイ本文

 朧干潟へ向かう船の中で、ハンターたちは戦闘の方針について話し合っていた。史郎 ( kz0242 )は口を挟むことはなかったが、ひとことも漏らさずに聞き入っていた。普段は微笑みを絶やさぬ彼も、今は真剣な面持ちである。相談がまとまると、鳳城 錬介(ka6053)が史郎に声をかけた。
「あ、そういえばご挨拶を忘れておりました。こんにちは、史郎さん。商い以外にこういう仕事もしているんですね……今回もどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。本当なら、こういう仕事は断るんですけどね。事情が事情だけに、そうもいかない」
 史郎が苦笑する。
「天ノ都を囲う五芒星……ですか。術の事はよく分かりませんが、放って置くのはまずい事は分かります。この祭壇を潰す過程で少しでも何か分かると良いのですが……」
 祭壇を破壊する前に可能な限りで調査をする、というのは、相談の中でまとまったことのひとつだった。
「五芒星……、祭壇……。歪虚共が何を思うて居るかは知らぬ……が……不穏な動きで在るに相違無い。懸念は払っておくに越した事はあるまいよ」
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が優美な動きで煙管を構え、紫煙を吐きつつ船のゆく先を眺めた。



 朧干潟に降り立ったハンターたちは、すでに禍々しい雰囲気を十分に感じ取っていた。
「わぁ、八重干瀬に来たみたいでお得感満載です……歪虚が絡んでなかったらもっと良かったですけど」
 穂積 智里(ka6819)が残念そうに言う。
「祠の位置を確認しました。まだ、それらしきもの、というレベルではありますが」
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が、軍用双眼鏡を用いて早速状況確認をする。
「敵がこちらへ向かってくる様子はありません。私たちの到着に気が付いていないのか、それとも……」
「気が付いていてもなお、祠を守ることに徹しているか、じゃな」
 蜜鈴が後を引き取って言うと、エラは頷いた。
「何やらかす気だか知らねーが、好き放題はさせらんねーな!」
 岩井崎 旭(ka0234)がパシッと拳を握って気合を入れたのに全員で頷いて、任務遂行のための隊列を組んだ。
「史郎さんはこちらに」
 エラがサイドカーを示す。コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はいち早く馬に跨り、先陣を切るべく前を見据えていた。
(五芒星は悪魔の象徴とも言われているが、歪虚にしてみれば儀式の最中に現れたハンターはまさに悪魔や疫病神に等しい存在だろう)
 そう考えて、コーネリアは口元を歪めた。憎むべき歪虚にそう思われるなら、彼女としては願ったりである。妹の無念を晴らすためなら一切の慈悲を捨て、粛々と歪虚を滅ぼすだけだ。
「行こう」
 全員の準備が整ったのを見て取って、史郎が静かに告げた。そこには、おおらかな商人の面影はない。
 干潟のわりに水はけのよい大地は、いかなる進行手段の性能も妨げなかった。足並みを揃えて前進したハンターたちの中で、エラが注意深く祠があるらしい方向を繰り返し確認している。
「敵影、確認できました。祠を取り囲んでいる様子ですね……。相変わらず、こちらへ向かう様子はありません。油断は禁物ですが」
「そうよのう。ちと仕掛けてみるか。敵の気を引く事も含めてのう?」
そう言って行動を起こしたのは蜜鈴だった。エクステンドキャストを使用し、雷霆を発動させるべくマテリアルを練る。祠の探索が必要であれば、と考えていた策であるが、その必要がなくなったとしても、敵の気を引くことに有効であろうという判断からだった。
 しかし、蜜鈴の雷霆に対して、敵は素直に誘い出されてはくれなかった。祠をぐるりと取り囲み、ハンターたちを迎え討つべく姿勢を低くしている。
「ふむ。意外と仕事熱心じゃのう」
 蜜鈴が形の良い唇を歪める。誘い出す、とまではいかなかったものの、敵の、特に魚型の雑魔を騒がせることには成功したようで、ハンターたちが射程に入るよりも早く、口から海水を吹き始めた。
「おや。焦ったっていいことはありませんよ」
 錬介がそう呟き、自身は焦ることなく海水弾が当たる可能性のある範囲に立ち入った瞬間に、ガウスジェイルを発動させた。それとほぼ同時に。
「いきます!」
 智里がデルタレイで魚型雑魔三匹に攻撃をかける。ギョァアアアアア、と醜い鳴き声で雑魔が呻き、身をよじらせたが、鱗を少し穿った程度で、屠るには至らなかった。しかし、ダメージは確実に与えられたと見えた。
「繰り返せば行けそうです!」
 智里が叫ぶ。雑魔たちは、さすがにその場を動かずに戦うというわけにもいかぬと思ったのか、魚の形のくせに二足歩行、という雑魔たちは、その外見の気持ち悪さを裏切らぬ気味の悪さで、ぐねぐねと体をうねらせながらハンターたちの方へ前進していった。智里、蜜鈴、エラが、その七体の立ち位置を分散させるように誘導する。
「こっちも行くぜぇ!」
 旭がそう叫びながら、自分は大型犬歪虚の方へ注意を向ける。雑魔が攻撃を受けたことでさすがにじっとはしていられなくなったらしい、犬型も動きだし始めていた。
「エラさん、私が!」
「はい、お願いします」
 智里とエラが確認を取り合い、智里は史郎を含めた六人に多重性強化をかける。
「犬型が一斉に攻撃に入る模様です! 迎撃をお願いします!」
 エラが全体の動きを確認して伝達すると、旭とコーネリアが応じる。動きの速い犬型歪虚は、あっという間に前衛の眼前に迫り、後衛にすら突っ込もうとする勢いであったが、そこを、旭がファントムハンドで抑え込みにかかった。
「行かせるかよっ!」
 素早く立ち回っていた犬型歪虚が立て続けに二体、ファントムハンドに捕らえられ、途端に動きを制限された。
「よし!」
 コーネリアはその動けなくなった犬型を、フローズンパニッシャーと高加速射撃を用いて確実に仕留めてゆく。いかに俊敏性に優れていようと、動けなくさせてしまえばこちらのものである。
 しかし、旭のファントムハンドから逃れた犬型が、一体だけいた。素早く、注意深く逃げ回りながら、グルルルルル、という唸りを大きくして牙を向く。
「くそっ!」
 旭が毒づいて、再び動きを止めようと仕掛けるが、同じ手段はもう通じないようだった。狙いを一瞬たりとも定めさせない判断力と俊敏さで逃げ回り、それは次第に逃げ回るばかりでなくふたりとの距離も詰めてきていた。三体で動き出した時とは明らかに違う光が、歪虚の目にはあった。コーネリアは、その光に見覚えがあった。これは、怒りからくる光だ。
「儀式の邪魔をされてお怒りか? それとも何かとんでもないモノを呼び出してしまって大慌てか? どっちにしろ貴様らは詰んでいる」
 怒りにまかせて襲い掛かろうとする歪虚を、コーネリアは嘲笑う。冷静に、拳銃へと武器を持ち替え、正面から高速で迫る犬の眉間に標準を合わせた。
「私は貴様らが散りゆく様を見るのが三度の飯より大好きなんだ! せいぜい美しい悲鳴を奏でろ……!」
 その、言葉どおりに。

 ギャァアアアアアア!!!!!!!

 断末魔の叫びが響き渡り、眉間に銃弾を三発喰らった犬型歪虚が、霧散した。
 その間にも、魚型雑魔に対しては残りのハンターたちが対応していた。智里がデルタレイを繰り返し、エラも三烈を放つ。蜜鈴はできるだけ祠から離れた位置に敵を誘導しつつ華炎を当てている。錬介が、それらの攻撃が当たりやすいようにとプルガトリオで足止めをしてサポートしていた。
「こりゃあ……」
 史郎はハンターたちの戦いぶりに絶句する。身を守るために、いつでもダーツを放てるようにしていたものの、一本たりとも使う必要はなさそうだった。
(帽子をかぶってくる必要すら、なかったかもなあ)
 胸中で呟いて苦笑すると、そんな史郎の様子をどう思ったものだか、エラと錬介が戦況を報告しつつ指示を仰ぐ。
「殲滅はもう少し時間がかかりそうですが、祭壇までの道は開かれました」
「どうしますか、同時進行で前へ進みますか?」
 史郎は少しだけ考えた。ほぼ一方的な攻撃になっているとはいえ、雑魔の鱗の防御力の高さゆえに一撃必殺、とはいかず、時間がかかっているようだった。だが、海水の弾を撃たせる隙も与えぬほどの猛攻に、いつまでも耐えられるわけはない。この状況で、急いた前進は無意味といえた。
「いや、すべて叩き潰してから進みましょう。何の役にもたっていない俺が指示して申し訳ないですが」
「承知いたしました」
 エラが生真面目に頷き、味方の支援と同時に、自らの攻撃も続けた。
 と、犬型を退治し終えた旭とコーネリアも雑魔討伐に加勢し、敵はますます劣勢に追い込まれてゆく。
 智里のデルタレイをまともに喰らって体についに穴をあけてしまった一体に、コーネリアが鎧徹しでトドメをさす。そのむこうでは蜜鈴の荘厳が雑魔を圧しつぶし、屠っていた。
「狙えるもんなら狙ってみやがれ! こいつの本領発揮だ!行、く、ぜ、ぇ、ぇぇぇぇぇ!!!」
 旭がジェット全開の「I.F.O.」で飛び上がる。しかし、それで暴れ回る必要もなかった。最後の一体を、エラの三烈が穿ち、雑魔はすべて、かき消えた。
「なんだよ、思ったよりあっけなかったな」
 旭が残念そうにぼやく。誰一人、怪我も負わずしれっとしているハンターたちを、史郎は呆れ半分、感心半分、といった表情で眺めた。
「恐れ入りましたよ、まったく……」
 史郎がそう呟いた瞬間、祠──祭壇を中心にして、負のマテリアルがすうっと流れて行った。



 ハンターたちは、敵がいなくなり、どこかガランとした印象となった朧干潟を進んだ。中央に位置している祠は、ごく小さいものではあったが、長い間海中にあったにしてはしっかりとしていた。作られた当初は、それなりに立派な祠であったはずだ。祭壇は、その石造りの祠の中と入口前に真新しい木材で枠組みを作られ、設えられていた。
「つまり、祭壇を破壊、とはこの木材の部分を壊してしまえばいいわけですよね」
 史郎が言うと、その隣で蜜鈴が頷く。
「そのようじゃの」
 エラが魔導カメラで、錬介が魔導スマートフォンのカメラ機能で、それぞれ祭壇を撮影してゆく。
「祭壇の方には文様などは特にないようですね……」
 エラが注意深く観察しながら呟くと、エラとは反対側を確認していた錬介が同意して頷いた。
「中には何かありますか?」
 錬介に尋ねられて、史郎と蜜鈴が確認をすると、イルカのものであろうか、それとも鯨であろうか、ともかく、大型の海洋生物のものと思われる骨と、数枚の貝殻が出てきた。
「生贄、の代わりかのう」
「そうかもしれませんね。ここが、海だから、こういった内容なのかもしれない、と思うと、他の四か所の祭壇はまったく違うものになっている可能性もありますね」
「その可能性は高いじゃろうの」
 史郎の推測に、蜜鈴は頷き、ふむ、と考え込んだ。
「祭壇そのものに意味が有るのか、此の場所に憤怒のマテリアルを穿つ事に意味が有るのか……。五芒星、桔梗印……水を拭えば火が燃ゆる……か……。相生で無く相剋を狙うのであれば、星の点を穢す事により天ノ都に何ぞ害があるのでは……とは、考え過ぎかのう……?」
 深く考察を重ねる蜜鈴に感心しつつ、史郎はその考察をそっと心に書き留めた。スーさん……スメラギに報告をするときに役に立つかもしれないと思ったのである。
「なあ、祠の方には何か彫ってあるものがあるぜ」
 祠の後ろに回り込んでいた旭がランタンをかざして言うと、錬介がすかさずその部分も写真に撮った。史郎もそちらへ回り込む。
「ああ、これは、祠を作った人が入れたものなんじゃないかな。随分古いし、消えかけてる……。たぶん、祭壇とは関係がないでしょう」
「一応、撮影はしておきました。写真はまとめて幕府に提出しておきましょう」
「そうですね。俺からもスーさ……じゃねえや、帝に報告いたしますよ」
 錬介と史郎が頷き合う。
 調査の間、智里はというと、「機導浄化術・白虹」で祠周辺のマテリアルを浄化していた。
「調査は終わったか? 祭壇の破壊も任務のひとつだろう?」
 コーネリアが声をかける。撮影をしていたエラと錬介、調査と考察をしていた蜜鈴がそれぞれの作業の終了を確認し合って、祭壇の破壊に取りかかった。
「可能なれば祭壇のみの破壊を……」
 蜜鈴がそう言うと、数名が同意を示して頷いた。智里のおかげで、祠自体の浄化はかなり済んでいる。木材で組まれた祭壇だけを破壊すれば、禍根は残らないのではないかと思われた。
「祠を残すことに問題があるというのなら、俺が責任を持って再度破壊に来ますよ。幕府にもそのように申し伝えます」
 一応、責任者ですからね、と史郎は笑った。内心では、もっと違うことを考えていたが。
(ここまで関わった以上、この先何もなしに見逃してもらえるとは思わない方がいいもんなあ。スーさんのことだから、まだ便利使いしてきそうだし。ま、金さえ払ってくれればいいんだけどさ)
 史郎の言葉を受け、ハンターたちはバキバキと木材を祠から引き剥がして祭壇を破壊すると、木材も跡形もなく燃やし尽くした。
 すっかり静かになった朧干潟をぐるりと見回して、智里が言う。
「ここが浄化されたら、夏にはみんなで泳ぎに来たりできるようになるんでしょうか……。そうなったら楽しみです」
「……そうですね」
 史郎は、微笑んだ。そうなったら、どんなにいいだろう。
(それがかなうときは、この国が、東方が、今度こそ平和で穏やかな日々を取り戻すときだ)
 頭をすっぽりと覆う帽子を毟り取って、史郎は干潟の上空を眺めた。海風に、史郎の艶やかな黒髪が、さらさらと靡いた。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/01/17 02:19:30
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/14 22:03:53