千慮の一失 千愚の一慮

マスター:守崎志野

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/23 12:00
完成日
2018/01/31 06:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 いきなり迫って来た刃は、あの時を思わせた。
 咄嗟に少女は傍にあった何かを手に取り、突き出した。
 鉄錆の臭いを含んだ赤が、視界に広がる。


「つまり、あなたはここで働きたいという事ね、ケイカ」
 要塞都市にある商店の簡素な事務室で、この店の主であり転移者達による辺境の開拓を進めるシャハラザード、通称シャハラの目が一人の少女に注がれる。濃い色のベールに覆われた表情はうかがい知れないが、その口調は穏やかだ。
 体格や声からすると女性。経歴からすると五十路に近い年齢の筈であり、相応しい落ち着きある物腰であるが、不思議な若々しさも漂う。
「はい、よろしくお願いします」
 ケイカと呼ばれた少女はまだ十四、五の幼さが残る容貌よりも大人びた雰囲気で応える。
「私としては働き手が増えるのは歓迎なのだけれど。でも、本当にここでいいの?リゼリオかポルトワールなら紹介出来るところがあるし、ここよりは安全だと思うのだけれど」
「いいえ。私のような人間にとって、この世界に安全な場所などありませんから」
 ケイカは元々覚醒しなかった転移者であり、路地裏にまるでボロ屑のように打ち捨てられていたのをシャハラが見つけた。そうなった理由や経緯について彼女は一切語ろうとしなかったが、それでもシャハラの計画で拓かれた辺境の集落に映り住んで自分を取り戻しつつあった。だが、一ヶ月程前に集落は生活が逼迫した部族に襲われてほぼ全滅し、通りがかったハンターに助けられたのは彼女を含めて三人だった。
「戦闘力という点では覚醒者や長年修行してきた人には到底敵いません。でも、力はそれだけではないと思いますから」
 精神的な傷が癒えた筈もなかろうが、それでも彼女は何かを掴もうとすることを選んだ。
「あなたがはっきりと決めているなら私に否やは無いわ、ケイカ。あなたはその年でかなりの教育を受けたようだし、飲み込みも早い。私にとってはいい話だわ」
 そう言うと、シャハラは卓上に置かれた書類の一つを手に取った。
「それじゃ、早速だけど仕事に掛かって貰えるかしら。内容はこの土地の聞き取り調査。詳しい事は」
 と、後に控えた二十歳を少し過ぎた位の温厚そうな青年を振り返る。
「フリッツから聞いて頂戴」


 まだ用事があるからとシャハラが出て行った後、フリッツは仕事の内容を説明し始めた。
「この店の手配で開拓を進めている土地が幾つか辺境に点在してるのは知ってるだろうけど、それらで最近不穏な動きがある」
 今回の調査対象になる開拓地は最初に出来た実験場とも言えるところだ。この地にあった作物を育てるだけで無く土壌や品種の改良、治水の問題にも取り組んでいる。人数は五十人程で転移者が四分の三、クリムゾンウエスト出身者が四分の一というところだ。
「この両者は元々関係が微妙だったんだけど」
 元来リアルブルーからの転移者とクリムゾンウエスト出身者とでは常識や習慣、当たり前とされてきた知識の存在など何もかもが大きく違う。それが仕事や居住を共にすれば当然軋轢は起こってくるだろう。
 当初は転移者が主に技術や研究系、クリムゾンウエスト出身者が作業系と仕事の役割分担を行う事で上手くいっていたのだが、開拓が軌道に乗るに従って様子が変わってきた。
 転移者達はクリムゾンウエスト出身者の口出しが気に食わず、クリムゾンウエスト出身者はこの世界をろくに知りもしない転移者達が実質自分達の上にいることが気に障る。どこにでもありそうな摩擦なのだが。
「それが積もり積もって険悪な空気になってきてる。例えばこの前の襲撃事件のようにね」
 言いながらフリッツは資料を見ているケイカの表情を伺った。その顔から知り得る感情は今のところ、無い。
 全くあの部族は使えなかったとフリッツは胸中で呟いた。こっちとしてはあの集落の転移者が土地から居なくなれば良かったのだから、収穫を強奪してさっさと逃げるか、或いはすぐに皆殺しにすれば良かったものを。
 もたついてハンターと出くわした上に、自害も出来ず捕縛されるとは。
(所詮は野蛮人か……まあ、だからこそ都合が良いんだが)
 自分の関与がバレるようなヘマはしていない。代わりはいくらでも居る。
「なので、こちらで介入する必要があると判断した訳だ。今回は、まず双方の言い分を」
「フリッツさん、質問いいですか?」
「どうぞ」
「いくら何でも変化が急すぎませんか?最近まで、多少の摩擦はあっても互いの立場を理解していたようですし、周辺の部族との関係も悪くなかったとなっていますけど」
「そうだね。もしかすると歪虚の介入もあり得るかもしれない」
 したり顔で頷きながら、便利なものだとフリッツは内心で嘲笑った。
 多少引っかかりがあったとしても『歪虚の仕業では?』と言っておけば誰もこちらを疑いもしない。そして歪虚との戦いに傾注しすぎた帝国は国民と国土が疲弊してきている。辺境が豊かになれば将来帝国との関係逆転もあり得る。
 シャハラは辺境を豊かにし、取引相手として育てることが将来への投資だと言うが、それではコストに対する見返りが小さすぎる。
 将来的には疲弊した帝国を金と物で裏から支配することを目指すべきなのだ。その為に、いずれは自分がシャハラが築いたものを乗っ取り、辺境の富を一手に握ってやる。
 ケイカにもその為の捨て石になって貰う。
「だから、ハンターオフィスにも同行の依頼を出しておいたからね。くれぐれも気をつけて。くれぐれも、ね」


 何が偶然だ。食材に毒草が混じるなんて、偶然に起こる訳が無い。
 あいつらは詳しい筈なのだから。

 収穫物が盗まれたのに気付かなかった?
 奴らが手引きしたのでは無いか?

 密やかな囁きの中、ケイカとハンター達が訪れる。
「聞き取りは皆を集めての方が良いでしょうか?それとも時間は掛かるけど個別の方が正直なところが聞けるでしょうか?」

 ……あの小娘は歪虚よりも人を憎んでいる。
 ……もしかしたら……

 ケイカに向けられた刃が動くまで、あと少し。

リプレイ本文


「多かれ少なかれ、不平不満位は出てくるものだが……それにしても行き過ぎな感はあるな」
 ロニ・カルディス(ka0551)はこの依頼に対して疑念を拭えないようだった。そもそも盗難や毒物混入の犯人捜しを目的とするなら開拓民自身から依頼の要望が出るのが普通だろう。なのに、今回はそうではない。見方によっては知られたくないかのようにも思える。
「犯人を捜す、罪人を裁く……大変ご立派な考えです」
 極めて穏やかな調子でノエル・ウォースパイト(ka6291)が言葉を挟んだ。
「しかし、それらは本当の意味での解決策とは言えないのでは?」
 だからこそ、犯人捜しではなく聞き取り調査なのではないか、と。
「だけど、こういうことを簡単に言って欲しくないと思うんだ」
 宵待 サクラ(ka5561)が指したのは依頼人の見解の部分だ。歪虚が関わっている可能性もゼロでは無いとあるが、わからない事をすぐに歪虚と結びつけるのは弱い立場の者を歪虚に仕立てて排斥するような、魔女狩りもどきを横行させることに繋がる。
 自分達が襲撃された時のことを思い出したのか、ケイカの表情が一層厳しくなった。そんな彼女にディーナ・フェルミ(ka5843)は頭を撫でたり手を繋いだり、疲れてない?と声を掛けたりしているが、ケイカの態度はどこか素っ気なく、返ってくるのは生返事だ。
 もしかして自分の言動を鬱陶しく思っているのではないかと心配してディーナは続けた。
「解決に護衛が必要ということは、解決させないための襲撃があるかもしれないということなの。だから依頼が済むまで、なるべく一緒に行動したいと思うの……窮屈だったら、ごめんね?」
「……今の私一人襲撃して、何が止められると」
 自嘲気味のその言葉を遮るように 
「わふーっ!この間の子です!」
 その一言で、ピリピリした表情のケイカが目を丸くする。
「えっと、確か魔王……」
「まだ、卵ですっ」
「……の、卵さん」
 くすぐったそうに笑うアルマ・A・エインズワース(ka4901)にケイカは律儀に言い足す。
「お名前聞いてなかったですー。あ、僕、アルマですっ」
 そんなやりとりをラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)はどこかほっとする思いで眺めたが、すぐに気を引き締める。前回の有様にもめげず彼女が新しく仕事を始めたのはいいが、今回の事もきな臭い。ケイカの人間不信に拍車を掛けるような事が起こらなければ良いが。
 当たってほしくない懸念は、開拓地に着いて早々に的中することになる。


 開拓地には神経を逆なでするような嫌な雰囲気が漂っていた。特に、連絡を受けて開拓民が集まっている中央の大きい小屋の扉を開けると、冷たく澱んだ空気に息が詰まる。
 拙いなとラィルがロニに目配せし、ロニが頷く。こちらの警戒をあからさまにすると開拓民達を刺激するかもしれないと先にケイカ、その左右にサクラとディーナ、ケイカの真後ろにアルマ、少し下がってロニ、ラィル、ノエルが続く形になっている。
 開拓者の反応やこの雰囲気がケイカに与える圧迫感も心配だが、何かあったら殺る気満々にも見える仲間のやり過ぎも心配だ。
「まあ、仕方ないかな」
 ケイカが小さく呟く。本来ならシャハラは無理でもフリッツ辺りが来ると思っていたのだろう。よそ者、それも小娘を寄越すとは、馬鹿にしているのかという気になるのも察しが付く。
「ケイカちゃん……大丈夫?ちょっと休む?」
 そんなケイカを、一旦出てから少し休んで心の準備をした方が良いとディーナが気遣うが、ケイカは首を横に振った。
「仕事はこれからですから。今、休んでなんて」
 いられません、という言葉が消える。前方の人中から一人の男が飛び出し、鎌を振りかざしてケイカに向かってきた。
 ケイカの手が咄嗟に近くに立て掛けられていた槍を掴むが、それより早くサクラが飛び出す。
「いかん!」
 ラィルの声と共に、襲撃者の手から獲物が飛ばされて床を転がっていく。その場にいる開拓者が思わず引く中、大きく傾いだ襲撃者の身体をサクラが容赦なく踏み倒す。
 一方ケイカが手に強いた槍はそれを突き刺す前に誰かに手首を掴まれて止められていた。
「魔王……じゃなくて、アルマ……さん?」
「大丈夫です、ケイカさん。守ってあげるですー」
 槍の穂先で傷付いたのか、手に血が流れるのを気にもしない様子で
「僕は君の味方ですー。こないだも言ったですよ?」
 驚いた様子のケイカにアルマが場違いな程無邪気に笑みを浮かべた。とりあえずケイカは大丈夫そうだと踏んだディーナがアルマにヒールを掛ける。
「これだけハンターの目がある中で堂々と襲撃してくるとは……」
 ロニの表情が曇る。ハンターでもないよそ者と言うことでケイカが反感を買う可能性は考えていたが、ここまで露骨な真似をしてくるとは。
 或いは皆が合意の上だと言うことか?
「女の子を襲うような輩は殺されても仕方がないと思うんだ。覚悟はいいね?」
 サクラが殺気に満ちて剣先を踏みつけている男に向ける。
「ちょっと待った!それはまずいやろ?」
 先程もラィルが止めなければ鎌ではなく腕が飛んでいたかもしれない。殺しまではしないにせよ、ここで力に訴えすぎるのは却って皆の口を噤ませてしまいかねない。怯えから苦し紛れの嘘を吐かれても、今の自分達にはそれが嘘か本当かを見抜くだけの材料を持っていないのだ。
 そんな気配を察したのか、サクラに踏みつけられている男が僅かに顔を上げ、吐き捨てた。
「お前ら……ハンターのくせに歪虚の肩を持つのか……」
 はぁ?という表情でサクラが改めて男を見下ろす。
「だったら何でこの子を襲ったんだよ。非覚醒者に倒せる歪虚なんていないよ。特に人型は強いからね」
 この世界に暮らす者だったらそのくらいは心得ているだろう。要するに歪虚云々を口実にした魔女狩り思考が蔓延っているという事だろうか。
「人型の歪虚を一対一で倒せるのは力のある覚醒者だけなんだよ。それがどれ程のことか、身を以てお勉強して貰おうか?」
「そのくらいでいいんやないか?もう戦意喪失しとるやろ。足、どけたってや」
 渋々という感じでサクラが解放した男をラィルが腕を掴んで引っ張り起こす。だが、男の受難はそれで終わらなかった。
「で、最初に歪虚さんがどうって言い出したの、誰です?」
「誰って、誰もが……!」
 不満げに言いかけた男の声が裏返る。アルマが怒った大型犬よろしく男の首に噛み付いたのだ。怪我をする程ではないが、何ともシュールな絵面ではある。
「見張りをしてた人、みんな出てくるですー」
 見張りをしていた時に誰か、見慣れない者を見なかったか。いたとすれば怪しいのはその人物だ。
 だが、名乗り出る者も指摘する者もなく、皆気まずそうに黙っている。
「どうにも埒が明かんな」
 肩をすくめたラィルに、ロニが頷いて進み出た。
「ちょっと聞いてくれ。皆、何か言いたくても人前では言いにくい事もあるだろう」
 その為、自分とラィルが一人ずつ個別に話をする。勿論秘密は厳守するし、依頼人に報告する場合も名前は出さない。
「どのみち、このままでは困るやろ?」
 ラィルの目線の先には未だに噛み付いたままのアルマがいる。
「待ってもらっとる間は、みんなでこっちの話を聞いといて欲しいんや」
 口裏を合わせられるのを防いだり、不審な行動をする者を見つけたりしやすいと言うこともあるが、出来ればケイカに対する誤解を解いて貰いたい。
「……次やったらほんとにたべちゃうですー」
 とりあえずこれ以上やっても引き出せることはないし、ケイカに危害を加える気も起こさないだろうと思ったのか、アルマが男を離す。
 這々の体で仲間の元に戻る男を見送り、ロニはケイカに尋ねた。
「出来れば茶でも持ち込んで緊張を和らげたいのだが。用意できるだろうか?」
「茶葉はちょっと……お酒なら作ってる筈ですが」
 ケイカの目が窓の外を向く。そこにはロニが見た事の無い低木と、そこに鈴なりに実っている金色の実があった。ロニにとっては見た事が無い物だ。
「酒?」
「はい、あの実と薬草から。将来特産品に出来ないかと」
 酒好きのロニとしては心引かれる話ではあったが、今はそんなことを言っている場合ではないし、茶の代わりに酒を出しても余計な騒ぎを起こすかもしれない。
 何よりもケイカの言葉に、何故か一瞬開拓民の表情が強張ったような気がしたのだ。


「歪虚さんのせいなら簡単です。でもそれなら内部崩壊でごちゃごちゃより、どっかーん、で片付くですよ?」
 それに、歪虚さんの匂いがしないですーというアルマに続いて、私からもいいかなとディーナが言葉を続ける。
「歪虚は飲食しないから、人が毒を食べて弱るなんて思わないの。そんな小細工しなくても近づくだけで人が弱るから」
「改めて言うけど」
 更にサクラが続ける。
「人間型で非覚醒者が倒せる歪虚って居ないんだよ。人型は強いからね。非覚醒者が殺せる相手はただの非覚醒者で、殺した人はただの人殺しなんだ」
 サクラの背後で、ケイカが強く拳を握る。ディーナがその手をそっと握った。
「歪虚狩りを騙って人を殺す非覚醒者は、雑魔作りを狙った契約者かもしれない。だからこの地域に、そういう相手は生死不問の捕縛依頼を出しとくね?忘れない方が良いと思うよ?いつでも私、狩りに来るから」
 駄目押しとばかりのサクラの言葉に開拓民がざわつく。余り良い方向ではないが、それは一つの変化だった。
「ここで騒ぎを起こしているのは、歪虚崇拝者の可能性はあっても歪虚じゃない。歪虚の噂を流している人が居る。その人が犯人だと思うの。来たばかりのケイカちゃんは、毒を盛ったり噂を流したりなんて出来ないの」
 取りなすようにディーナが付け加えたが、ざわめきは大きくなっていく。ハンターに敵わない分、反動でケイカに非難と憎悪が集まるのではと思われた時。
「ヒトの心には悪魔が棲むと申します。事情や心情次第で、誰しも犯人や罪人に成り得るもの」
 それまで黙っていたノエルが進み出た。
「ここで犯人を見つけ、裁けば一つの区切りは付けられるでしょう。でも、それではまた、同じ事の繰り返しではないでしょうか」
 それまでケイカを庇い、彼女を襲った者を糾弾する調子とは全く違う言葉に、開拓民達は思わず言葉を失った。
「 食糧が盗まれたなれば、見張りの仕組みを見直しましょう。毒草が紛れ込んだならば、それを防ぐための方法を考えましょう。そうすれば、犯人がこの中にいたとしても同じ事は出来ないでしょう」
 自ら経験し、知恵を付けた者は同じ手に欺されはしない。
「せっかく様々な方がいらっしゃるのだから、多種多様な意見を戦わせるべきです」
 都合の悪いことを怖れ、不安から目の前に吊り下げられたスケープゴートに飛びついても、その先は奈落だ。おそらく誰も、本当は気付いていたのだろう。
 気付いてはいるが、どうにも出来ない。スケープゴートに飛びつく以外の道が見いだせない。
「もし歪虚が関わっているとしても――それら悉くを斬り殺すのが、私たちハンターのお仕事ですので。ご心配には及びませんよ」
 ハンターならそうだろう。けれど、皆、ハンターのように強くはないのだから……そう思ったケイカの視線が、振り向いたアルマの目と合う。瞬間、ケイカは顔を上げて前に進み出た。
「ケイカちゃん!?」
 危ない、とディーナとサクラが止めようとするが
「止めちゃ駄目、ですー」
「でも、危ないよ。今、前に出たら……」
「その時は守る、ですー」
 今、ハンターの後に庇われるだけで終わったら、『自分の手で』と言ったあの日の言葉が嘘になる。
「私のいた集落は一夜にして全滅しました。そして、襲撃した人達は集落を歪虚の手先だと言いました。勿論濡れ衣です」
 集落の人々をそんな理由で殺戮した者達を恨み、呪った。
「もし、あの時の事件と今回の事に繋がりがあるとしたら、裏で糸を引いている存在があるとしたら、私はそれを明らかにしたい。見つけ出して思い知らせたい。その為には、皆さんの話が必要なんです!」
 それは立派な演説ではないが、経験を踏みしめて立ち上がった者が持つ重みがあった。
「子供の私が信用できないなら、先程のお二人にお話しください。ここで起こったことを、闇に葬らないでください。お願いします」
 襲撃や罵声はなく、場は静まりかえった。


「あんた達、ここで話すことを他で漏らさないと約束してくれるか?」
 個別の聞き取りが終盤に入った頃、順番がきた年嵩の男が男がいきなり言い出した。
 ロニもラィルもおや、と思ったがすぐに頷いた。
「勿論や」
「約束しよう」
 正直、ここまでの聞き取りははかばかしくなかった。更に挙動不審と言えば皆にそんなところがあり、揃って何かを隠しているとしか思えない。それでいてお互いが疑り合っている、そんな感じだ。
「あんた達、ここの畑を見てどう思った?」
 種や苗木はシャハラから渡されたものだが、と言われて二人は顔を見合わせた。正直、そこまで注意していなかった。
「見た事の無い果樹があったな」
 窓の外にあった木を思い出してロニが答えた。
「そうだ。俺達はてっきりクリムゾンウエストに固有の品種を改良したものと思っていたが、クリムゾンウエストの連中はリアルブルーの品種だと思っていた」
 それだけならどうと言うことはない。男は持っていた袋から一本の植物を出した。
「何や、これ?」
 葉は麻に似ているのに濃い紫の花が付き、豆に似た実が付いている。全体が不自然なキメラのようで、どこかグロテスクだ。
「単純に考えれば交雑種……だが、こいつらは種属が違う。自然の状態で交雑が起こることはあり得ない」
 考えてみると、ここで育てられている作物は異常だ。年に数回の収穫が可能な麦や豆、土地の毒を吸収して薬に変え、土地を肥沃に変えるハーブ……
 それらは彼らリアルブルー出身者には生命の設計図を書き換え、或いは別のものを作り出す技術を連想させた。
 一時は食糧危機の救世主になるかと思われた技術だったが、思いもよらない毒を作り出す可能性や生態系への悪影響などが指摘され、然程広まらなかった。国によっては厳しい規制を設けてさえいる。
「当然、それには専門の設備がいる。クリムゾンウエストにそんなものがある筈無いと思ったが……」
 自分達は何を作っている?目的は何なのか?
 それらに対する説明はない。だが、特に転移者にとってはここを追われたらどこに行けば良いのかと考えると、問い詰める勇気はなかった。
「歪虚の関わりを誰が言い出したとかはわからん。だが、それが容易く信じられた原因は多分これだ」


 一つの謎が明らかになり、それは新たな謎を生んで一人の幼い復讐者に自らが行うべき復讐の形を示した。
 その行く先は、未だ見えない。

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MVP一覧

  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥka1929
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイトka6291

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アルマ・A・エインズワース(ka4901
エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/01/23 05:38:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/22 12:04:54