ゲスト
(ka0000)
【虚動】ブリちゃんとボイン
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/04 15:00
- 完成日
- 2014/12/12 18:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●錬金術師組合
昼食を終えたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、助手のペリドと共に次の研究準備の為に組合の通路を歩いていた。
穏やかな日が差し込む心地の良い空気に、ペリドがのんびりと欠伸を零す。
「ふふ、お仕事が早めに片付いたらお昼寝でもしましょうか?」
「良いんですか!?」
「早めに終われば、ですけどね」
クスリと笑うリーゼロッテの部屋には、到底短時間では終わりそうにない仕事の山が出来ている。
これから行う研究に次いで、山になった仕事を片付けていては昼寝の時間など無くなるだろう。
それでも約束してくれると言う事は何か策があると言う事だ。
「じゃあボクは先生のお仕事が早く終わる様に目の覚めのお茶を淹れますね♪」
「お願いしますね」
リーゼロッテはそう言って頷きを返すと、研究室に急ぐべく足を動かした。だがその足は直ぐに止まる。
「とと、先生? どうしたんですか?」
危うくリーゼロッテの背にぶつかりそうになったペリドが不思議そうに問う。それに小さく笑って彼女は再び足を動かした。
「私にお客様のようです」
「お客様?」
言われて窓の外を見ると、組合建物を見上げるようにして立つ大柄な人物が見えた。
怪しいマントにサングラス。ピンクのソフトモヒカンだけが陽の元に晒されている人物は、リーゼロッテの姿を確認すると申し訳程度に頭を下げて手招いた。
「ペリド、お昼寝はお預けになりそうです。先に研究室へ行って、皆さんに準備を進めておいて下さいと伝えて下さい」
「え、先生? あ、ちょっと待ってくださいよ!」
ペリドは何が起きたのかさっぱりと言った様子。けれどリーゼロッテだけは来訪者が誰かわかっているらしく、素直な足取りで組合の外に出て行った。
「お久しぶりですね、ヤンさん。錬金術師組合に足を運ばれるなんて、何かあったのですか?」
錬金術師組合の建物から出て直ぐに、リーゼロッテは人目に付き辛い庭の隅で先程の人物と対面していた。
「直ぐに気付いて貰えて良かったわ。さっそくなんだけど、リーゼちゃんにお願いしたい事があるのよ」
「ヤンさんが私に頼みごと、ですか? 生憎と錬魔院からお願いされることはないと思うのですけど……」
若干表情を曇らせたリーゼロッテに、ヤンことワルプルギス錬魔院所属、機導兵器開発室の第一室長のヤン・ビットマンが苦笑いの元にサングラスを外す。
「これは錬魔院としてのお願いって言うより、個人的なお願いなのよ」
そう言って背に手を伸ばす。
そうしてマントを軽く動かすと、ヤンの後ろに隠れていた少女が顔を覗かせた。
「あ、ブリちゃんじゃないですか♪ お久しぶりですね、元気でしたか? ご飯、ちゃんと食べてますか?」
嬉々として身を乗り出してきたリーゼロッテにヤンが身元引受人を買って出ているブリジッタ・ビットマンが眉を寄せる。
「黙るのよー、でかぱい!」
「これ、ブリジッタ!」
トンッと少女の金髪を叩くヤンに、リーゼロッテは笑顔で首を横に振る。
「相変わらず元気さんですね♪ 背も少し大きくなったのではないですか? あ、もしかして錬金術師組合に――」
「それはないのよさ」
キッパリ遮ったブリジッタにリーゼロッテの目が瞬かれる。
「実はこの子と一緒に魔導アーマーの公開実験場に行って欲しいのよ」
「魔導アーマーの公開実験?」
どういう事でしょう。そう更に目を瞬く彼女にヤンは一部始終を説明した。勿論、錬魔院の機密事項に関わる部分は端折ってだ。
「CAM……錬魔院院長はそんなことまで……」
噂で魔導アーマーの開発が進んでいる事は聞いていた。けれどまさか実働段階にまで踏み切れる物を作っていたとは知らなかった。
しかもその開発にナサニエルが関わっている事も寝耳に水だ。
「公開実験には錬魔院院長も同席されるのでしょうか?」
「たぶん現地入りしていると思うわ」
「でしたら私も向かいます!」
錬金術師組合の組合長として錬魔院の動きを把握しておく必要がある。だがそれ以上に気になるのは、ナサニエルが成そうとしている事だ。
「リーゼちゃんならそう言ってくれると思ったわ♪ そこでお願いの続きなんだけど、ブリジッタとこの子の魔導アーマーを一緒に連れて行って欲しいのよ」
「え? ブリちゃんの魔導アーマー、ですか?」
本日2度目の驚きだ。
「この子の開発したカオルクヴァッペ――通称『カオルくん』は、他のアーマーよりマシな出来だから」
近々、ハンターの手を借りて模擬戦を行うらしい。そしてその模擬戦を元に最終調整したカオルくんを公開実験へ持ってきたいと言うのがヤンの希望だ。
「ブリちゃんも才能のある子だと思ってましたけど、凄いですね! 良いですよ、ブリちゃんとカオルくんも一緒に行きましょう!」
リーゼロッテはそう言うと、笑顔でブリジッタに手を伸ばした。
●数日後
完成した魔導アーマー『カオルクヴァッペ』を乗せた魔導トラックが、数名のハンターとリーゼロッテ、そしてブリジッタを乗せて駆けて行く。
「なんでまたハンターが一緒なのよー」
「護衛の任務は複数の兵士さんよりハンターさんの方が良いんですよ。大勢でわらわら動きよりも少数精鋭で乗り込んだ方が効率が良いんです」
不貞腐れたように膝を抱えるブリジッタに、リーゼロッテは角砂糖を口に運びながら微笑む。
彼等はこれから帝国第二師団のいるカールスラーエ要塞へ向かった後、魔導アーマーの実験場へ向かうことになる。
「それにしてもナサ君は何を考えているのでしょう……」
ふと思い出される義弟の姿に眉を寄せる。
ヤンの話を聞いて以降、リーゼロッテなりに情報を集めたがどうにも良い話を耳にしない。それどころか錬魔院の中でも摩擦を起こしていると言うではないか。
「……いざとなったら私が止めないと」
そう密かに零して目を閉じる。と、その時だ。
キキキーッ!
物凄い勢いでハンドルが切られ、魔導トラックが横転する勢いで岩壁にぶつかる。それに合わせてブリジッタが飛びそうになるが、咄嗟に伸ばしたリーゼロッテの手が彼女を引き留めた。
「な、何が……」
「先生、ブリ助ちゃん! 危ないからカオルくんの傍にいて下さい!」
「ペリド?」
ハンターに混じって同行していたペリドがトラックを飛び降りる。その視線の先にはモグラのような巨大な生き物が1体。良く見ると周囲には小さなモグラらしき存在も見える。
「モグラ型の歪虚? 腐ったような臭い……まさか、剣機の眷属?」
思わず零したリーゼロッテの声にハンター達の表情が引き締まる。そして何かを言おうとした所で、今まで黙っていたブリジッタが叫んだ。
「あ、あんたたち! あたしのカオルくんを何が何でも守るのよー! でないと承知しないのよさー!」
「ブリちゃん……」
必死の形相で叫んだ彼女の手が微かに震えている。それを包み込む様に握り締めると、リーゼロッテは願いを込めてハンターを見詰めた。
昼食を終えたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、助手のペリドと共に次の研究準備の為に組合の通路を歩いていた。
穏やかな日が差し込む心地の良い空気に、ペリドがのんびりと欠伸を零す。
「ふふ、お仕事が早めに片付いたらお昼寝でもしましょうか?」
「良いんですか!?」
「早めに終われば、ですけどね」
クスリと笑うリーゼロッテの部屋には、到底短時間では終わりそうにない仕事の山が出来ている。
これから行う研究に次いで、山になった仕事を片付けていては昼寝の時間など無くなるだろう。
それでも約束してくれると言う事は何か策があると言う事だ。
「じゃあボクは先生のお仕事が早く終わる様に目の覚めのお茶を淹れますね♪」
「お願いしますね」
リーゼロッテはそう言って頷きを返すと、研究室に急ぐべく足を動かした。だがその足は直ぐに止まる。
「とと、先生? どうしたんですか?」
危うくリーゼロッテの背にぶつかりそうになったペリドが不思議そうに問う。それに小さく笑って彼女は再び足を動かした。
「私にお客様のようです」
「お客様?」
言われて窓の外を見ると、組合建物を見上げるようにして立つ大柄な人物が見えた。
怪しいマントにサングラス。ピンクのソフトモヒカンだけが陽の元に晒されている人物は、リーゼロッテの姿を確認すると申し訳程度に頭を下げて手招いた。
「ペリド、お昼寝はお預けになりそうです。先に研究室へ行って、皆さんに準備を進めておいて下さいと伝えて下さい」
「え、先生? あ、ちょっと待ってくださいよ!」
ペリドは何が起きたのかさっぱりと言った様子。けれどリーゼロッテだけは来訪者が誰かわかっているらしく、素直な足取りで組合の外に出て行った。
「お久しぶりですね、ヤンさん。錬金術師組合に足を運ばれるなんて、何かあったのですか?」
錬金術師組合の建物から出て直ぐに、リーゼロッテは人目に付き辛い庭の隅で先程の人物と対面していた。
「直ぐに気付いて貰えて良かったわ。さっそくなんだけど、リーゼちゃんにお願いしたい事があるのよ」
「ヤンさんが私に頼みごと、ですか? 生憎と錬魔院からお願いされることはないと思うのですけど……」
若干表情を曇らせたリーゼロッテに、ヤンことワルプルギス錬魔院所属、機導兵器開発室の第一室長のヤン・ビットマンが苦笑いの元にサングラスを外す。
「これは錬魔院としてのお願いって言うより、個人的なお願いなのよ」
そう言って背に手を伸ばす。
そうしてマントを軽く動かすと、ヤンの後ろに隠れていた少女が顔を覗かせた。
「あ、ブリちゃんじゃないですか♪ お久しぶりですね、元気でしたか? ご飯、ちゃんと食べてますか?」
嬉々として身を乗り出してきたリーゼロッテにヤンが身元引受人を買って出ているブリジッタ・ビットマンが眉を寄せる。
「黙るのよー、でかぱい!」
「これ、ブリジッタ!」
トンッと少女の金髪を叩くヤンに、リーゼロッテは笑顔で首を横に振る。
「相変わらず元気さんですね♪ 背も少し大きくなったのではないですか? あ、もしかして錬金術師組合に――」
「それはないのよさ」
キッパリ遮ったブリジッタにリーゼロッテの目が瞬かれる。
「実はこの子と一緒に魔導アーマーの公開実験場に行って欲しいのよ」
「魔導アーマーの公開実験?」
どういう事でしょう。そう更に目を瞬く彼女にヤンは一部始終を説明した。勿論、錬魔院の機密事項に関わる部分は端折ってだ。
「CAM……錬魔院院長はそんなことまで……」
噂で魔導アーマーの開発が進んでいる事は聞いていた。けれどまさか実働段階にまで踏み切れる物を作っていたとは知らなかった。
しかもその開発にナサニエルが関わっている事も寝耳に水だ。
「公開実験には錬魔院院長も同席されるのでしょうか?」
「たぶん現地入りしていると思うわ」
「でしたら私も向かいます!」
錬金術師組合の組合長として錬魔院の動きを把握しておく必要がある。だがそれ以上に気になるのは、ナサニエルが成そうとしている事だ。
「リーゼちゃんならそう言ってくれると思ったわ♪ そこでお願いの続きなんだけど、ブリジッタとこの子の魔導アーマーを一緒に連れて行って欲しいのよ」
「え? ブリちゃんの魔導アーマー、ですか?」
本日2度目の驚きだ。
「この子の開発したカオルクヴァッペ――通称『カオルくん』は、他のアーマーよりマシな出来だから」
近々、ハンターの手を借りて模擬戦を行うらしい。そしてその模擬戦を元に最終調整したカオルくんを公開実験へ持ってきたいと言うのがヤンの希望だ。
「ブリちゃんも才能のある子だと思ってましたけど、凄いですね! 良いですよ、ブリちゃんとカオルくんも一緒に行きましょう!」
リーゼロッテはそう言うと、笑顔でブリジッタに手を伸ばした。
●数日後
完成した魔導アーマー『カオルクヴァッペ』を乗せた魔導トラックが、数名のハンターとリーゼロッテ、そしてブリジッタを乗せて駆けて行く。
「なんでまたハンターが一緒なのよー」
「護衛の任務は複数の兵士さんよりハンターさんの方が良いんですよ。大勢でわらわら動きよりも少数精鋭で乗り込んだ方が効率が良いんです」
不貞腐れたように膝を抱えるブリジッタに、リーゼロッテは角砂糖を口に運びながら微笑む。
彼等はこれから帝国第二師団のいるカールスラーエ要塞へ向かった後、魔導アーマーの実験場へ向かうことになる。
「それにしてもナサ君は何を考えているのでしょう……」
ふと思い出される義弟の姿に眉を寄せる。
ヤンの話を聞いて以降、リーゼロッテなりに情報を集めたがどうにも良い話を耳にしない。それどころか錬魔院の中でも摩擦を起こしていると言うではないか。
「……いざとなったら私が止めないと」
そう密かに零して目を閉じる。と、その時だ。
キキキーッ!
物凄い勢いでハンドルが切られ、魔導トラックが横転する勢いで岩壁にぶつかる。それに合わせてブリジッタが飛びそうになるが、咄嗟に伸ばしたリーゼロッテの手が彼女を引き留めた。
「な、何が……」
「先生、ブリ助ちゃん! 危ないからカオルくんの傍にいて下さい!」
「ペリド?」
ハンターに混じって同行していたペリドがトラックを飛び降りる。その視線の先にはモグラのような巨大な生き物が1体。良く見ると周囲には小さなモグラらしき存在も見える。
「モグラ型の歪虚? 腐ったような臭い……まさか、剣機の眷属?」
思わず零したリーゼロッテの声にハンター達の表情が引き締まる。そして何かを言おうとした所で、今まで黙っていたブリジッタが叫んだ。
「あ、あんたたち! あたしのカオルくんを何が何でも守るのよー! でないと承知しないのよさー!」
「ブリちゃん……」
必死の形相で叫んだ彼女の手が微かに震えている。それを包み込む様に握り締めると、リーゼロッテは願いを込めてハンターを見詰めた。
リプレイ本文
「か、カオルくんは、ぜったいに守るのよー」
カタカタと震えるブリジッタの独り言に目を向けると、シェラリンデ(ka3332)はリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の手の上から自分の手を重ねて幼い青の瞳を覗き込んだ。
「大丈夫、ボクたちがすぐ敵を倒して見せるから。安心して、待っていて」
ね? そう笑い掛ける彼女に、ブリジッタの眉が寄る。そうして険しく目を細めると、彼女は魔導アーマーが括り付けられている荷台を指差した。
「敵もそうだけどー、どーみてもあの変態も危険なのよーっ!!」
「これが魔導アーマーね。私が整備してたCAMに異世界の技術組み込むなんて最高だと思わない? 穢れを知らない少女にアレコレいけないことを教えてあげるってゆーか、メカ屋魂が疼いてしょうがないわ……うへへ……うへへへ……」
岩にぶつかった事で一部が露見した魔導アーマーに頬擦りしながら怪しい笑いを零す遥・シュテルンメーア(ka0914)。彼女を目にしたブリジッタの眉が吊り上る。
「あ、あたしのカオルくんに頬ずりするなんて百万年はやいのよー! はなれなさいなのーっ!」
先程まで震えていたのは何だったのか。激しく抗議する彼女に思わず笑みが零れる。そんな彼女の近くでは、トラックから降りた關 湊文(ka2354)がライフルの弾を確認している所だった。
「元気の良い子ね。それに比べて、あの歪虚は何なのだろう」
チラリと見た先に居る歪虚は明らかに土竜っぽい。しかもトラックが去った今を好機と取って頭を出したり引っ込めたりしているのだから更に意味が分からない。
「出たり入ったり……ポコポコしてる感じが可愛いですよね。さしずめ『ぽっくん』と言った所でしょうか♪」
「いや、名前じゃなくて……と言うか、そのネーミングセンス、独特よね……」
研究に携わる者とは少し変わっているのだろうか。
額を押さえた湊文の言葉に「お褒め頂き光栄です♪」と返したリーゼロッテ。それを耳にしたウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)が眉を上げる。
「どう聞いても褒めて無さそうだが。まあ良い。何もせず終わって報酬を受け取るのは美学としてどうかと思っていたところだ。別に襲撃を歓迎はしないが、これで張合いも出る」
言って荷台から華麗に飛び降りる姿に、未だにその場に留まるエハウィイ・スゥ(ka0006)が「うぅ」と情けない声を上げた。
「張り合いって……トラックに揺られて要塞に行くだけの簡単なお仕事だと思ったから依頼受けたのに……なんでや! なんで歪虚が出てくるんや!」
「出た物は仕方がないよ。ほら、一緒に闘おう?」
差し出された手は、闘う気満々のシュラリンデだ。
彼女は差し出された手と顔の双方を見比べると、重い溜息を吐いてのっそり立ち上がった。
「まぁ一応お仕事ですからね……お給金分は働きますけどね……くそぅ」
やっぱり納得いかない。そう零すエハウィイに小さく笑って、シュラリンデはペリドを振り返る。
「ペリド殿にはトラックの護衛をお願いするよ。あの歪虚はボクたちが何とかするから」
ね? と同意を求めて前を向く。
既にぽっくん――基、土竜は闘う気満々だ。それを視界に据え、時音 ざくろ(ka1250)は黒い刀身の剣を抜き取った。
「うん。アーマーもブリジッタも、ざくろが絶対護るよ! 女の子達を怖い目には遭わせられないもん!」
勇ましい言葉に同行するハンターが同意するように頷く。但し、約1名を除いて。
「あぁ、素敵。本当にたまらないわぁ……」
未だに魔導アーマーに頬擦りする遥にブリジッタがキレた。
「あぁんたのせ・い・で、シリアスが台なしだわよ! ほーら、あんたも行くのよさ! って、いい加減はーなーれーるーのーよぉぉおっ!」
ベリッと効果音が聞こえそうな勢いで引き剥がされた遥にブリジッタは荒く息をしてハンターを振り返る。
「あ、あたしを、ここまで働かせたのだから、ぜったいに勝つのよさ! でないとー死んでもたたるオオカミになるのよー!」
ハッキリ言って意味が分からない。それでも彼女が魔導アーマーを大事に想っている事だけは伝わって来た。
「任せろ」
ウルヴァンはそう言って前を向くと、手にしていた鞭を開放して駆け出した。
●
荒野の中に開いた無数の穴。そこを出たり入ったりする土竜型の歪虚を視界に、シェラリンデは軽やかな足取りで魔導トラックと離れた穴を目指していた。
「悪いけれど、守るべき人がいる以上、早めに倒させてもらうよ」
そう口にしながら取り出したハンカチを穴の中に放り込む。こうする事で土竜を誘き寄せようと言うのだ。
しかし――
「後ろだ」
低く響く声に身を反す。と、直後、彼女の頬を土竜が掠めた。
「……、少しは、知恵が回るみたいだね」
苦笑しながら頬を伝う血を拭う。その上でサーベルを抜き取ると、飛び出した勢いで戻ろうとする土竜に向き直った。
「でも、こっちだって負けてないよ!」
全身にマテリアルを充満させて綺麗な動きで刃を振り抜く。すると伸びきったままだった土竜の胴が両断された。
『キュァアンッ』
「ふふ、ボクの勝ちだね」
口角を上げて囁くシェラリンデ。そんな彼女の後方では、先程危機を知らせてくれたウルヴァンが、彼女とは違った方法で土竜を呼び出そうとしていた。
「……何でブランデー?」
ブランデーの入った瓶の蓋を片手で取り払う姿に、湊文が僅かに離れた位置から問う。これに彼の目が一瞬だけ動いた。
「仕事が終わったら飲む気だったんだが……まずは仕事の確実な遂行の方が優先だ」
酒はまた買えば良い。そう言葉を添えてブランデーを穴に流し込む。そうして反応を待とうとしたのだが、案外変化は早く来た。
「火柱が上がってるのよ!」
魔導トラックの傍で待機していたブリジッタの声にエハウィイが眉を寄せた。
戦闘開始直後、魔導トラックから離れた場所に土竜を誘き出そうと言う事で動き出したハンター達。そして今火柱が上がっているのは、彼等が向かった先だ。
「チッ、髪が焦げるだろ」
間近で火柱を回避したウルヴァンは、僅かに火傷した腕を抑えながら眉を潜める。その上で自身に駆け寄るざくろに気付くと、緩やかに目を瞬いた。
「何だそれは?」
「ブリジッタが貸してくれたんだ」
言って彼が差し出したのはブリジッタが纏っていた白衣だ。
トラックの荷台に人の匂いが濃く付いたシーツ等を探していた所、彼女が渋々貸してくれたらしい。
「きっと人が沢山集まってる上に匂いが濃くて穴に近い方が、彼奴らも気になるって思うんだ」
だから。そう言葉を紡いだ彼の目が動いた。
鼻をヒク付かせ、間近にある穴を見詰める。そして微かに耳を掠めた音に目を見開くと、傍に居たウルヴァンとシェラリンデの腕を引いて飛び退いた。
「!?」
「こいつは」
飛び退いた直後に飛び上がって来た土竜に2人の目が見開かれる。けれどこの状況を冷静に見詰めている人物がいた。
「視界良好。射線も問題なし……身体張ってる人達がうまくおびき寄せてくれる。ならば私はそのチャンスを絶対に逃さない」
前衛である彼等と少しだけ距離を置いてライフルを構える湊文。彼女はマテリアルを込めた瞳で敵を見据えると、迷う事無く飛び上がって来た土竜の胴を撃った。
「このタイミング。捉えたら絶対逃がさないんだから」
言葉通りに外さなかった弾が土竜の胴を貫通する。そして撃ち抜いた勢いのままに舞い上がる土竜にウルヴァンの鞭が迫った。
「――仕留める」
先程はざくろに助けられたが、落ち着けばなんて事はない。彼は鞭で絡めるようにして土竜の体を薙ぐと、長い体を穴の外へ引き出した。
そこに湊文の銃弾が再び迫る。
『キュァアンッ』
悲鳴を上げて崩れる土竜。その姿を視界に留め、湊文は静かに口角を上げた。
一方、魔導トラックの傍で一連の流れを見ていたブリジッタは、今度は別の意味で驚きを覚えていた。
「やっぱりあいつ変態なのよ」
わなわなと震える彼女の視線の先には、土竜の穴に下着を投げ込む遥の姿があった。
「人体? 食物? 刺激臭? さあ、何に反応するかしら?」
クスリと笑う遥は戦闘開始後すぐに、全員に向かって「脱げ」と言い放った。その理由は土竜が何に反応するのか調べたかっただけなのだが、理解はされなかったらしい。
「あの下着、服のしたからでてきたのよー」
ハンター信じられない、信じられない。そう繰り返すブリジッタだが、土竜はまんざらでもなかったらしい。
「いらっしゃい」
ふふっと笑った遥の前に、下着を頭に着けた土竜が飛び出してくる。その勢いは他の穴よりも若干増しており、遥の見事な金髪が微かに風に舞う。
彼女はそれを流し目で見送ると、手を翳して光のエネルギーを放った。これに土竜の体が大きく仰け反る。
「驚いた? でも正直に殴ってあげるだけじゃ面白くないでしょう? そもそも相手のルールに従う必要ないし?」
確かに叩くだけが全てではない。となれば銃撃も充分に有効だ。とは言え、若干土竜が可哀想にも見える。
撃たれた事で体を揺らす土竜は、頭に被っていた下着を落として穴に戻ろうとした。が、残念でした。
「穴から出たら逃がさない……これで止めだ!」
駆け付けたざくろが渾身の力を込めて黒の刀身を叩き込む。すると土竜は既に限界だったのか、か細い声を上げてその場に崩れ落ちた。
「ふぅ、だいぶ減ったな」
辺りを見渡せば既に半数以上の土竜が倒れている。シェラリンデやウルヴァン、それに湊文が確実に仕留めてくれているお蔭だろう。
それらを見ながら、ざくろはふとある物を思い出した。
「そう言えば日本にいた頃遊んだなぁ」
「ああ、モグラ叩きね。ゲーセンにもよくあったわー」
そう言いながらざくろの胸をひと撫でする。
「な、なな何するの?!」
触られた胸を押さえて真っ赤になる彼に、遥の目が落ちる。そうして自身の手を見下ろすと、チッと舌打ちを零した。
「ない」
「ない、って……ざくろ男! 男だから!」
遥の目標は女性陣の乳を揉む事、そして魔導アーマーの技術見学と護衛だ。つまり今のは目標達成の一環だったのだが、若干誤ったらしい。
「何してるんだろうね、あの人たち」
呆れを半分滲ませたエハウィイの言葉に、リーゼロッテは微笑み、ブリジッタに到っては「信じられないのよ!」と顔を真っ赤にさせて震えている。
「でもまあ、この分なら楽に倒せそうかな。あ、ないとは思うけどぽっくんがトラックの方まで襲ってくるかもだから、異変を少しでも感じたら私に声掛ける事、おっけー?」
どうせなら2人にも働いて貰おう。そう思って提案していた事なのだが、闘いが終盤に差し掛かった今もこれは有効だ。
「にしても……でかぱいデカイな、リアルなんて理不尽ばっかりだ」
チラッと見たリーゼロッテの胸部にケッと息を吐く。そうして前を向いた瞬間、傍でともに護衛をしていたペリドが声を上げた。
「エハちゃん、下!」
咄嗟に盾を構えて反応した直後、彼女の腕に凄まじいまでの衝撃が走った。
「くっ!」
いつの間に出来たのか、足元に出来た穴から飛んでくる石の礫に目を眇める。そうして攻撃の全てを受け止めると、盾を持つ手とは逆の手が動いた。
「もぅ怒っただ! 働きたくない言ったべ!」
振り上げたメイスが光の弾を作り出す。そうして土竜目掛けて放つと、敵は抵抗する間もなく崩れ落ちた。
その様子にブリジッタが密かに息を呑む。
「ブリ助にでかぱい、怪我はないかな?」
「ええ、大丈夫です」
そう言って微笑んだリーゼロッテとは対照的に、ブリジッタは少しだけ眉を寄せて頷いた。
●
「ブリジッタ嬢、無事討伐は終わったよ。怪我はないかい?」
戦闘を終えて魔導トラックの傍に戻ってきたシェラリンデが声を掛けると、ブリジッタは少し不機嫌な様子を見せて頷いた。
これに彼女の首が傾げられる。
「何かあったのかい?」
「さあ? 戻ってからずっとこんな感じよ」
肩を竦める湊文によると、ブリジッタの様子は誰か1人へ向けた物では無いようだ。つまり誰が話しかけても同じ態度らしい。
「もしかしてこの子、考えごとでもしてるんじゃないの?」
「考えごと? ざくろ、カオルくんのこと詳しく聞いてみたかったんだけどな……」
遥の言葉に、話しかけても答えてくれない可能性がある事を知ったざくろが視線を落とす。折角魔導アーマーの開発者に会う事が出来て、質問できる機会だったのに。
そう零す彼の肩をウルヴァンが叩いた。
「まあ、また話す機会もあるだろう。それにしても何を考えてるんだろうな」
歪虚は討伐したし、魔導アーマーも無事。後は目的地である帝国第二師団のいるカールスラーエ要塞へ行けば良い。
けれど次に彼女が口にした言葉を耳にして、彼等は彼女の悩みを知る。
「そう、そうなのよ。カオルくんにたりないもの……バランスもだけど、武装がたりないのよ!」
パンッと手を叩いて地面に何か書き始めた彼女に皆が目を瞬く。そうして黙々と思考を巡らせる姿に、ウルヴァンが息を吐いた。
「どうするんだ、これ」
今の様子から察するに、今すぐに出発するのは厳しそうだ。けれど彼女の思考を遮る強者がいた。
「はい、考え事はトラックの上でしましょうね」
ひょいっと体を抱えて歩き出した遥に、ブリジッタの眉が上がる。
「な、なにするなのよ! あたしはまだ考えることがああああ――」
問答無用でトラックに積み込まれたブリジッタに笑みを零しリーゼロッテも歩き出す。と、そんな彼女に声を掛ける者があった。
「ねえ、でかぱいてさぁ、基本笑ってるけど何か偶に笑顔が曇ってるよ?」
振り返った先にいたのはエハウィイだ。
「えっと……そう、見えますか?」
「人間なんだからそんなの当たり前なんだけどさ……まぁその、悩み事は周りに相談しといた方がいいからね、そんだけ!」
最後は吐き捨てるように言ってトラックに乗ったエハウィイに目を瞬く。そうして自身の胸に手を添えると、リーゼロッテは少し苦笑を滲ませてトラックに乗り込んで行った。
カタカタと震えるブリジッタの独り言に目を向けると、シェラリンデ(ka3332)はリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の手の上から自分の手を重ねて幼い青の瞳を覗き込んだ。
「大丈夫、ボクたちがすぐ敵を倒して見せるから。安心して、待っていて」
ね? そう笑い掛ける彼女に、ブリジッタの眉が寄る。そうして険しく目を細めると、彼女は魔導アーマーが括り付けられている荷台を指差した。
「敵もそうだけどー、どーみてもあの変態も危険なのよーっ!!」
「これが魔導アーマーね。私が整備してたCAMに異世界の技術組み込むなんて最高だと思わない? 穢れを知らない少女にアレコレいけないことを教えてあげるってゆーか、メカ屋魂が疼いてしょうがないわ……うへへ……うへへへ……」
岩にぶつかった事で一部が露見した魔導アーマーに頬擦りしながら怪しい笑いを零す遥・シュテルンメーア(ka0914)。彼女を目にしたブリジッタの眉が吊り上る。
「あ、あたしのカオルくんに頬ずりするなんて百万年はやいのよー! はなれなさいなのーっ!」
先程まで震えていたのは何だったのか。激しく抗議する彼女に思わず笑みが零れる。そんな彼女の近くでは、トラックから降りた關 湊文(ka2354)がライフルの弾を確認している所だった。
「元気の良い子ね。それに比べて、あの歪虚は何なのだろう」
チラリと見た先に居る歪虚は明らかに土竜っぽい。しかもトラックが去った今を好機と取って頭を出したり引っ込めたりしているのだから更に意味が分からない。
「出たり入ったり……ポコポコしてる感じが可愛いですよね。さしずめ『ぽっくん』と言った所でしょうか♪」
「いや、名前じゃなくて……と言うか、そのネーミングセンス、独特よね……」
研究に携わる者とは少し変わっているのだろうか。
額を押さえた湊文の言葉に「お褒め頂き光栄です♪」と返したリーゼロッテ。それを耳にしたウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)が眉を上げる。
「どう聞いても褒めて無さそうだが。まあ良い。何もせず終わって報酬を受け取るのは美学としてどうかと思っていたところだ。別に襲撃を歓迎はしないが、これで張合いも出る」
言って荷台から華麗に飛び降りる姿に、未だにその場に留まるエハウィイ・スゥ(ka0006)が「うぅ」と情けない声を上げた。
「張り合いって……トラックに揺られて要塞に行くだけの簡単なお仕事だと思ったから依頼受けたのに……なんでや! なんで歪虚が出てくるんや!」
「出た物は仕方がないよ。ほら、一緒に闘おう?」
差し出された手は、闘う気満々のシュラリンデだ。
彼女は差し出された手と顔の双方を見比べると、重い溜息を吐いてのっそり立ち上がった。
「まぁ一応お仕事ですからね……お給金分は働きますけどね……くそぅ」
やっぱり納得いかない。そう零すエハウィイに小さく笑って、シュラリンデはペリドを振り返る。
「ペリド殿にはトラックの護衛をお願いするよ。あの歪虚はボクたちが何とかするから」
ね? と同意を求めて前を向く。
既にぽっくん――基、土竜は闘う気満々だ。それを視界に据え、時音 ざくろ(ka1250)は黒い刀身の剣を抜き取った。
「うん。アーマーもブリジッタも、ざくろが絶対護るよ! 女の子達を怖い目には遭わせられないもん!」
勇ましい言葉に同行するハンターが同意するように頷く。但し、約1名を除いて。
「あぁ、素敵。本当にたまらないわぁ……」
未だに魔導アーマーに頬擦りする遥にブリジッタがキレた。
「あぁんたのせ・い・で、シリアスが台なしだわよ! ほーら、あんたも行くのよさ! って、いい加減はーなーれーるーのーよぉぉおっ!」
ベリッと効果音が聞こえそうな勢いで引き剥がされた遥にブリジッタは荒く息をしてハンターを振り返る。
「あ、あたしを、ここまで働かせたのだから、ぜったいに勝つのよさ! でないとー死んでもたたるオオカミになるのよー!」
ハッキリ言って意味が分からない。それでも彼女が魔導アーマーを大事に想っている事だけは伝わって来た。
「任せろ」
ウルヴァンはそう言って前を向くと、手にしていた鞭を開放して駆け出した。
●
荒野の中に開いた無数の穴。そこを出たり入ったりする土竜型の歪虚を視界に、シェラリンデは軽やかな足取りで魔導トラックと離れた穴を目指していた。
「悪いけれど、守るべき人がいる以上、早めに倒させてもらうよ」
そう口にしながら取り出したハンカチを穴の中に放り込む。こうする事で土竜を誘き寄せようと言うのだ。
しかし――
「後ろだ」
低く響く声に身を反す。と、直後、彼女の頬を土竜が掠めた。
「……、少しは、知恵が回るみたいだね」
苦笑しながら頬を伝う血を拭う。その上でサーベルを抜き取ると、飛び出した勢いで戻ろうとする土竜に向き直った。
「でも、こっちだって負けてないよ!」
全身にマテリアルを充満させて綺麗な動きで刃を振り抜く。すると伸びきったままだった土竜の胴が両断された。
『キュァアンッ』
「ふふ、ボクの勝ちだね」
口角を上げて囁くシェラリンデ。そんな彼女の後方では、先程危機を知らせてくれたウルヴァンが、彼女とは違った方法で土竜を呼び出そうとしていた。
「……何でブランデー?」
ブランデーの入った瓶の蓋を片手で取り払う姿に、湊文が僅かに離れた位置から問う。これに彼の目が一瞬だけ動いた。
「仕事が終わったら飲む気だったんだが……まずは仕事の確実な遂行の方が優先だ」
酒はまた買えば良い。そう言葉を添えてブランデーを穴に流し込む。そうして反応を待とうとしたのだが、案外変化は早く来た。
「火柱が上がってるのよ!」
魔導トラックの傍で待機していたブリジッタの声にエハウィイが眉を寄せた。
戦闘開始直後、魔導トラックから離れた場所に土竜を誘き出そうと言う事で動き出したハンター達。そして今火柱が上がっているのは、彼等が向かった先だ。
「チッ、髪が焦げるだろ」
間近で火柱を回避したウルヴァンは、僅かに火傷した腕を抑えながら眉を潜める。その上で自身に駆け寄るざくろに気付くと、緩やかに目を瞬いた。
「何だそれは?」
「ブリジッタが貸してくれたんだ」
言って彼が差し出したのはブリジッタが纏っていた白衣だ。
トラックの荷台に人の匂いが濃く付いたシーツ等を探していた所、彼女が渋々貸してくれたらしい。
「きっと人が沢山集まってる上に匂いが濃くて穴に近い方が、彼奴らも気になるって思うんだ」
だから。そう言葉を紡いだ彼の目が動いた。
鼻をヒク付かせ、間近にある穴を見詰める。そして微かに耳を掠めた音に目を見開くと、傍に居たウルヴァンとシェラリンデの腕を引いて飛び退いた。
「!?」
「こいつは」
飛び退いた直後に飛び上がって来た土竜に2人の目が見開かれる。けれどこの状況を冷静に見詰めている人物がいた。
「視界良好。射線も問題なし……身体張ってる人達がうまくおびき寄せてくれる。ならば私はそのチャンスを絶対に逃さない」
前衛である彼等と少しだけ距離を置いてライフルを構える湊文。彼女はマテリアルを込めた瞳で敵を見据えると、迷う事無く飛び上がって来た土竜の胴を撃った。
「このタイミング。捉えたら絶対逃がさないんだから」
言葉通りに外さなかった弾が土竜の胴を貫通する。そして撃ち抜いた勢いのままに舞い上がる土竜にウルヴァンの鞭が迫った。
「――仕留める」
先程はざくろに助けられたが、落ち着けばなんて事はない。彼は鞭で絡めるようにして土竜の体を薙ぐと、長い体を穴の外へ引き出した。
そこに湊文の銃弾が再び迫る。
『キュァアンッ』
悲鳴を上げて崩れる土竜。その姿を視界に留め、湊文は静かに口角を上げた。
一方、魔導トラックの傍で一連の流れを見ていたブリジッタは、今度は別の意味で驚きを覚えていた。
「やっぱりあいつ変態なのよ」
わなわなと震える彼女の視線の先には、土竜の穴に下着を投げ込む遥の姿があった。
「人体? 食物? 刺激臭? さあ、何に反応するかしら?」
クスリと笑う遥は戦闘開始後すぐに、全員に向かって「脱げ」と言い放った。その理由は土竜が何に反応するのか調べたかっただけなのだが、理解はされなかったらしい。
「あの下着、服のしたからでてきたのよー」
ハンター信じられない、信じられない。そう繰り返すブリジッタだが、土竜はまんざらでもなかったらしい。
「いらっしゃい」
ふふっと笑った遥の前に、下着を頭に着けた土竜が飛び出してくる。その勢いは他の穴よりも若干増しており、遥の見事な金髪が微かに風に舞う。
彼女はそれを流し目で見送ると、手を翳して光のエネルギーを放った。これに土竜の体が大きく仰け反る。
「驚いた? でも正直に殴ってあげるだけじゃ面白くないでしょう? そもそも相手のルールに従う必要ないし?」
確かに叩くだけが全てではない。となれば銃撃も充分に有効だ。とは言え、若干土竜が可哀想にも見える。
撃たれた事で体を揺らす土竜は、頭に被っていた下着を落として穴に戻ろうとした。が、残念でした。
「穴から出たら逃がさない……これで止めだ!」
駆け付けたざくろが渾身の力を込めて黒の刀身を叩き込む。すると土竜は既に限界だったのか、か細い声を上げてその場に崩れ落ちた。
「ふぅ、だいぶ減ったな」
辺りを見渡せば既に半数以上の土竜が倒れている。シェラリンデやウルヴァン、それに湊文が確実に仕留めてくれているお蔭だろう。
それらを見ながら、ざくろはふとある物を思い出した。
「そう言えば日本にいた頃遊んだなぁ」
「ああ、モグラ叩きね。ゲーセンにもよくあったわー」
そう言いながらざくろの胸をひと撫でする。
「な、なな何するの?!」
触られた胸を押さえて真っ赤になる彼に、遥の目が落ちる。そうして自身の手を見下ろすと、チッと舌打ちを零した。
「ない」
「ない、って……ざくろ男! 男だから!」
遥の目標は女性陣の乳を揉む事、そして魔導アーマーの技術見学と護衛だ。つまり今のは目標達成の一環だったのだが、若干誤ったらしい。
「何してるんだろうね、あの人たち」
呆れを半分滲ませたエハウィイの言葉に、リーゼロッテは微笑み、ブリジッタに到っては「信じられないのよ!」と顔を真っ赤にさせて震えている。
「でもまあ、この分なら楽に倒せそうかな。あ、ないとは思うけどぽっくんがトラックの方まで襲ってくるかもだから、異変を少しでも感じたら私に声掛ける事、おっけー?」
どうせなら2人にも働いて貰おう。そう思って提案していた事なのだが、闘いが終盤に差し掛かった今もこれは有効だ。
「にしても……でかぱいデカイな、リアルなんて理不尽ばっかりだ」
チラッと見たリーゼロッテの胸部にケッと息を吐く。そうして前を向いた瞬間、傍でともに護衛をしていたペリドが声を上げた。
「エハちゃん、下!」
咄嗟に盾を構えて反応した直後、彼女の腕に凄まじいまでの衝撃が走った。
「くっ!」
いつの間に出来たのか、足元に出来た穴から飛んでくる石の礫に目を眇める。そうして攻撃の全てを受け止めると、盾を持つ手とは逆の手が動いた。
「もぅ怒っただ! 働きたくない言ったべ!」
振り上げたメイスが光の弾を作り出す。そうして土竜目掛けて放つと、敵は抵抗する間もなく崩れ落ちた。
その様子にブリジッタが密かに息を呑む。
「ブリ助にでかぱい、怪我はないかな?」
「ええ、大丈夫です」
そう言って微笑んだリーゼロッテとは対照的に、ブリジッタは少しだけ眉を寄せて頷いた。
●
「ブリジッタ嬢、無事討伐は終わったよ。怪我はないかい?」
戦闘を終えて魔導トラックの傍に戻ってきたシェラリンデが声を掛けると、ブリジッタは少し不機嫌な様子を見せて頷いた。
これに彼女の首が傾げられる。
「何かあったのかい?」
「さあ? 戻ってからずっとこんな感じよ」
肩を竦める湊文によると、ブリジッタの様子は誰か1人へ向けた物では無いようだ。つまり誰が話しかけても同じ態度らしい。
「もしかしてこの子、考えごとでもしてるんじゃないの?」
「考えごと? ざくろ、カオルくんのこと詳しく聞いてみたかったんだけどな……」
遥の言葉に、話しかけても答えてくれない可能性がある事を知ったざくろが視線を落とす。折角魔導アーマーの開発者に会う事が出来て、質問できる機会だったのに。
そう零す彼の肩をウルヴァンが叩いた。
「まあ、また話す機会もあるだろう。それにしても何を考えてるんだろうな」
歪虚は討伐したし、魔導アーマーも無事。後は目的地である帝国第二師団のいるカールスラーエ要塞へ行けば良い。
けれど次に彼女が口にした言葉を耳にして、彼等は彼女の悩みを知る。
「そう、そうなのよ。カオルくんにたりないもの……バランスもだけど、武装がたりないのよ!」
パンッと手を叩いて地面に何か書き始めた彼女に皆が目を瞬く。そうして黙々と思考を巡らせる姿に、ウルヴァンが息を吐いた。
「どうするんだ、これ」
今の様子から察するに、今すぐに出発するのは厳しそうだ。けれど彼女の思考を遮る強者がいた。
「はい、考え事はトラックの上でしましょうね」
ひょいっと体を抱えて歩き出した遥に、ブリジッタの眉が上がる。
「な、なにするなのよ! あたしはまだ考えることがああああ――」
問答無用でトラックに積み込まれたブリジッタに笑みを零しリーゼロッテも歩き出す。と、そんな彼女に声を掛ける者があった。
「ねえ、でかぱいてさぁ、基本笑ってるけど何か偶に笑顔が曇ってるよ?」
振り返った先にいたのはエハウィイだ。
「えっと……そう、見えますか?」
「人間なんだからそんなの当たり前なんだけどさ……まぁその、悩み事は周りに相談しといた方がいいからね、そんだけ!」
最後は吐き捨てるように言ってトラックに乗ったエハウィイに目を瞬く。そうして自身の胸に手を添えると、リーゼロッテは少し苦笑を滲ませてトラックに乗り込んで行った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/30 02:47:28 |
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教えて!リーゼロッテせんせー! エハウィイ・スゥ(ka0006) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/03 23:17:47 |
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相談卓 シェラリンデ(ka3332) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/12/03 22:53:34 |