【星籤】希望無き大地にて

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/01/25 15:00
完成日
2018/01/27 20:09

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

○201X年Y月Z日 欧州のある海峡トンネル
 その海峡の下には、海峡の名のトンネルが通っていた。
 技術革命による爆発的な発展の恩恵を受け、新たに作られた車両専用の海底トンネルだ。

 当然の事ながら、VOIDとの戦闘が開始されると重要な戦略線となった。
 戦時において、鉄道は線路の保持がウィークポイントとなり得るが、大型車両も余裕を持って走れるような新たな交通路の確保は、リスクの分散やより柔軟な作戦が立てられるようになるからだ。
 だが、地球を襲ったVOIDの攻勢は止まず、この海峡トンネルは使用不能に。
「星加少佐! このままでは、全滅します!」
「入口までなんとしても戻るぞ!」
 通信機からの部下の悲痛の叫びに、CAM隊を率いる星加少佐は応える。
 作戦は失敗だ。原因は明らか。狭いトンネル内でCAMは機動力を封じられて、VOIDの強力な攻撃力の餌食となっていたのだ。
 その可能性を、星加少佐は想定していた。だから、まずは少数での威力偵察を行うはずだったのだ。
 だが、どういう事か、後続部隊がトンネルに大挙しており、撤退しようもできない状況に陥った。
「後続部隊がなぜ突入を……事前の作戦とは違う動きだ」
 ボソっと星加少佐は呟いた。
 彼は知る由もないのだが、威力偵察の途中経過報告を聞いた上司が手柄欲しさに命令を勝手に変更したのだ。
「た、隊長ぉぉぉ!」
 また1機、やられた。
 航空支援が受けられれば違ったかもしれない。しかし、ここはトンネル内部だ。
「……後、少しだ。地上に出次第、各機散開!」
 光を求め、駆け抜けた――。
 地上に出た瞬間、星加少佐はモニターに映る光景に絶句する。
「なにが、あったというのか……」
 待避の邪魔になっていた後続部隊が先にトンネルから出ていたのだが、残らず壊滅していたのだ。
 トンネルから慌てて出てきた所を、先回りしたVOIDの強襲を受けたのだ。
 虫とミミズが合わさったような狂気VOIDの群れに、星加少佐はCAMを操作し、銃口を向ける。
「…………籃奈、孝純。どうやら、キャンプには行けそうにない……すまない……」
 星加少佐は覚悟を決めた。もはや、銃の残弾数も、満足に戦える味方も少ない。
 ここが自分の死地になるだろう。
 だからと言って、ただで終わらせるつもりもない。
「化物共め! 1体でも多く道連れだ!」

●暗雲
「まさか、貴方が評価員の一人だったとは……主人がお世話になりました」
 星加 籃奈(kz0247)が形だけの様相で軽く頭を下げた。
 目の前には、亡き夫のかつての上司。
「転属したと思ったら、ここで技術屋か。星加少佐……いや、星加大佐の判断ミスで、作戦が失敗した事を、私は気にしてはないよ」
「……それは……」
「人間誰しも失敗はあるものだからね」
 そう言って、上司は籃奈の肩をポンと叩いた。
「時が経つのは早い。君もいつまでも技術屋をやってないで、息子の事を大事にしたらどうだ?」
「新型CAMの開発は、今後のVOIDとの戦闘で必ず必要なのです」
「……そこまでの意気込みか。なら、仕方ない、か……。まぁ、私が君達の面倒を見てもいいんだがね。どうだ、そのつもりになるのであれば、次回のコンフェッサーの評価試験……甘く見られるが」
 いやらしい視線で籃奈の身体を舐めるように見ながら、上司は言った。
 籃奈は、それを払うように大袈裟に手を払う。
「必要ありません。コンフェッサーの出来は、充分です」
「……そうか。なら、構わないのだよ。精々、頑張るんだな」
 その台詞が終わらないうちに、籃奈は踵を返した。
 ハッキリ言って、籃奈はこの上司が大嫌いだった。戦死した夫も、この上司の事は嫌っていた。
 どんなに生活が困ったとしても、絶対にこの上司の助けは借りない。そう改めて強く決意して立ち去る。
 その後ろ姿を不機嫌な顔で上司は見送る。
「全く……自分の立場というものが解ってない。所詮は似た者同士というものか。私の誘いを断った事、死んで後悔すればいい」
 呪いにも似た言葉を呟いて……。

●死地へ
 コンフェッサーの正式採用に向けての最終試験。実戦評価の場所が急遽、変更となった。
 場所は欧州のある海峡トンネル。目標はトンネルに潜む狂気VOIDだ。
 度々、討伐隊が編成されたものの、いずれも返り討ちにあっている。今では、すっかりVOIDの巣窟だ。
「航空支援が受けられないから、陸地からのガチの殴り合いになる」
「ふーん。その航空支援って何?」
 籃奈の説明を聞いた鳴月 牡丹(kz0180)が訊ねる。
「……飛行機って知ってる? 牡丹」
「あー。あの鉄の塊が飛んでるの! 見た事ある!」
「あれが武装して、空から攻撃するのさ」
「ふーん」
 牡丹はあまり興味なく応えた。
「トンネルに潜んでいる狂気VOIDは、空からの攻撃を受けると、すぐにトンネル内部や地中に逃げてしまう」
「なるほどね。それで、直接戦闘で討伐って事」
 強大な兵器を使うとトンネルそのものを壊しかねないからだ。
 一応、多少の戦闘には耐えられるといっても、限度と言うものがあるだろう。
「戦場となるトンネル入口周辺は、これまでの戦闘で荒野になっているようだけどね」
「ここって……籃奈?」
「そう。私の旦那が死んだ所さ……」
 籃奈は視線を息子が寝ている隣の部屋に向けた。
 今でも思い出せる。あの日、夫の戦死報告の一報が入った時の事を。
「……弔い合戦という事かな?」
 牡丹の言葉に籃奈は首を横に振った。
「いや、違うね。ここは激戦地なんだ……これまで幾隊も全滅している……だから、ぼt――」
「ボクは行くよ」
 籃奈の台詞を牡丹は遮った。
「ここで終わらせる訳にはいかないはずだよ。孝純君の事も、コンフェッサーの事も、ね」
「……ありがとう、牡丹」
 こうして、ハンター達に依頼が出される事になったのだった。

――――――――――
○解説
●目的
コンフェッサーの実戦評価

●内容
海峡トンネルに潜むVOIDの群れを星加籃奈が操縦するコンフェッサーと共に討伐する

●戦場
海峡トンネルの入口付近。
トンネル内部は壁や残骸などが崩壊しており、足場が悪い。
トンネル内で活動可能な幅はおおよそ8スクエア。高さは最大でおおよそ5スクエア。
トンネル外は荒野が広がっている。
トンネル内外には、所々、CAMや軍用車両の残骸が残っている。
ハンター達の初期位置はトンネル入口正面から50スクエアある状態からスタートとする。

リプレイ本文

●実戦評価
 一面の荒野。元々の地形ではない。空爆によるものだ。
 辺りは野鳥の姿も無く、聞こえてくるのはCAMや魔導アーマーのエンジン音が静かに響いていた。
 その静けさも、戦闘が開始されるまでの間の事だ。
「性能評価ねぇ……」
 注意深く戦場を観察しながら龍崎・カズマ(ka0178)が呟いた。
 聞けば、実戦評価の場所は急遽変更となったという。その意図をカズマには解せなかった。
 もしかして、想定――VOID以外の障害――の可能性もあるとすれば、警戒を怠らずにはいられないのは彼の性分だろう。
「今回の戦いの結果次第でコンフェッサーの評価が決まるんでしょ?」
 アイビス・グラス(ka2477)は魔導アーマーの最終調整をしつつ、そう尋ねた。
 それに答えたのは、強化人間の星加 籃奈(kz0247)だ。
「そう思って貰って構わない」
「だったら、私はやっぱり、プラヴァーで出る事にするわ……見た目はゲテモノっぽいけどね、うん」
 ちょっと遠い目をしながらアイビスは自機を見上げた。
 依頼の目的はあくまでも、実戦評価。籃奈機よりも目立っても意味はない。
「評価項目は分かっているのか?」
 カズマの問いかけに籃奈は両手を挙げる。
「詳細までは分からない。機体特有の能力がどれだけ実戦で有効か、偉い人達が見て決めるんだろう」
「そうか……って、ちょっと待て、牡丹」
 結局は評価員の一存かと思いながら、何気なく愛機の方へ視線を戻したら、そこには鳴月 牡丹(kz0180)が機体に軽く小突いていた。
「CAMってなかなか、堅いんだね」
 そんな牡丹に並んで同じようにCAMを小突いているイレーヌ(ka1372)。
「硬くて逞しいだろう、牡丹」
「どさくさに紛れて、また、ボクの尻を撫でるぅ!」
 二人はユニットを用意していない。
 生身のまま戦うつもりなのだ。というか、生身で戦った方が強い牡丹に付き合う形のイレーヌ……という雰囲気の方が強いかもしれないが。
 大事な相棒に、この女二人は何をしているんだと持ち主が呼び掛けようとした時だった、一際大きく、甲高い機械音が響いた。
「はやてにおまかせですの!」
 八劒 颯(ka1804)の元気な声は――ドリル音によって周囲には聞こえてないようだが。
 出撃準備完了である。ちらりと視線を籃奈機の方に向けた。
 一見、線の細そうな機体ではあるが、コンフェッサーは格闘戦重視という。ハンター達に判明されている能力は格闘戦を補う魔法的な力ばかりだが……。
「この新型、格闘戦に強いのであればダインスレイブを守るバディ機という運用もありですね」
 それは別の所で開発が進められている新型CAMだ。砲撃戦に特化しているという話である。
 確かに、運用方法的には其々の特徴を活かせば理にかなっているだろう。最も、狙ったそうなった訳ではなく、偶然なのだが……。
 全員が機体に乗り込み、あるいは、生身であるイレーヌと牡丹はウォーミングアップを終えたのを確認し、アニス・テスタロッサ(ka0141)が全員に伝える。
「敵の総数がわからねぇんだ。突っ込み過ぎんじゃねぇぞ」
 トンネル内部に潜んでいるのは1体だが、それ以外はどれだけの数がいるか不明である。
 少なくとも、数体という訳ではないだろう。下手に動けば囲まれて全滅という事も考えられる。
「突入のときは俺がケツを持つ。その分、退路の確保は任せるぞ」
「コンフェッサーの実力、十分に見せてあげるわ」
 アニスの言葉に籃奈は自信満々に微笑を浮かべて応えた。

●戦闘開始
 海峡トンネルを目指して一気に駆け出すハンター達。
 その爆音と振動に気が付いたようで、虫とミミズが合わさったような中型VOIDが雨後の竹の子の如く、次々と出現する。
 数えるの馬鹿馬鹿しい。
「こじ開けんぞ! 歩兵は遅れねぇように八劒の魔導アーマーにでもしがみつけ!」
 イレーヌと牡丹にそう伝えながら、アニスがプラズマライフルを発射した。
 マルチロックで侵攻方向上のVOIDを狙った。
「ツッ!」
 エースパイロット用に改修された専用機であっても、アニスの操縦に機体が思った通りに追いつかない。
 マルチロックオンは高度な演算を必要になる。それ故、攻撃にスキルを用いる場合、演算能力を越えてしまうのだ。
 具体的には攻撃の際、効果範囲が1体に限られるメインアクションタイミングの攻撃のスキルに限られてしまう。
「だったら!」
 別のスキルに切り替えた。マテリアルを使って弾を加速させるのだ。
 そして、その判断はハンター達にとって有利な結果を生んだ。
「思った以上に堅い様子だな」
 VOIDの状態を観察していたカズマが言う。
 波動放射装置を起動させて、アニスが撃った個体に追撃を加えて倒す。その感触をみるに、見た目以上に硬度が高いようだ。
「空爆を凌いだってのは、地中に潜るだけじゃなくて、此奴自体の堅さもあるって事か」
 カズマの推察は確かめる手段が無いが、おおよそ、その通りだ。
 もう1体を颯が駆るGustavが自慢のドリルで突進して砕いた。最初に与えたダメージが効いているのは確実だ。
「硬いけど余裕ですわ!」
 侵攻方向が開けた。この隙に一気に突破するしかない。
 アニスは銃弾を巻き散らしながら、通信を開く。
「星加! ネットとダミー! 奴等の動きを止めろ!」
「分かったわ!」
 コンフェッサーからマテリアルの塊のようなものが射出されると、瞬く間に膨らんだ。
 マテリアルバルーン。機体によく似た疑似体を作り出す、コンフェッサーの能力の一つ。
 その疑似体の影に隠れつつ、アイビスの魔導アーマーが不用意に近づいてきたVOIDに向かって殴りに掛かる。
 衝撃波を帯びた巨大な鉤爪が武器自体の質量とスキルトレースによってアイビスの力と合わさって、恐るべき凶器と化す。
「相手の防御力を崩せれば倒せないレベルじゃないね!」
「硬いだけで、耐久力はそれほど高くないって事か、アイビス君!」
 プラヴァーの股下を抜けるように飛び出した牡丹が拳をVOIDに叩き込んだ。
 格闘士の能力の中には、マテリアルの力で相手の防御力を減少させて衝撃を与えるスキルがある。
「威力の低い攻撃はあまり、意味が無いって事だね」
「それじゃ、試してみるか」
 牡丹の後を着いてきたイレーヌが不敵な笑みを浮かべながら、人間の手のような5本指を追加した魔導ガントレットを掲げた。
 これで殴ると殴る際の快感が倍増する……らしい。
「図太いの叩き込んでやろう!」
 マテリアルの輝きを伴いながら、ぶち込んだその一撃で、3体目となる中型VOIDを粉砕した。
 接近戦は不利だと思ったのか、中型VOIDの目玉から光線が放たれる。
 威力がある訳でもない。しかし、このままここで戦っていても消耗するだけだ。
「一気にトンネル内部に突入するぞ!」
 僅かに浮きつつ後ろ向きで最後尾を受け持ちつつ、プラズマクラッカーを放って、アニスは仲間達に呼び掛けた。
 目的はトンネル内部に潜む大型VOIDな訳なのだから。

●暗き闇に潜む脅威
 トンネル内部は真っ暗だ。カズマが乗るMARTIAに搭載されたマテリアル式大型サーチライトが光を放つ。
 圧倒的なまでの灯りに先に照らされたのは、妙な前面装甲を持った大型狂気VOIDだった。
 VOIDは黒く輝く負のマテリアルを不気味に発していた。カズマが機体と自身の感覚を限りなく同調させていた意味はあった。限りなく、嫌な予感が肌を駆け巡る。
「構えろぉ!」
 カズマは力の限り叫ぶと大型のシールドを構える。
 マテリアルエネルギーをマント状に展開させてると同時に、籃奈機からマテリアルの障壁がカズマ機の眼前に出現した。
 直後、放たれる強大な光線。VOIDはハンター達がトンネルに突入してくるのを待っていたのだろう。
 溜めに溜めた力を、光源を目標に撃ってきたのだ。
 もし、カズマの機体より先に、他の誰かが灯りをつけたら、あるいは、高性能な防御力を誇るR7でなければ、その一撃で大惨事になっていただろう。
「助かったぜ」
「こちらの台詞よ。先に入ったのが、カズマさんで良かったわ」
 籃奈の緊張した声が通信機から入ってくる。
 カズマは被害状況をざっと確認する。幾つもの警報が鳴り続けているが、戦闘に支障は無いだろう。
「次を撃たれる前にいくですわ!」
 仲間に支援の為、機導術を行使していた、颯の魔導アーマーが瓦礫が散乱するトンネル内部を疾走する。
 こういう場所では、CAMよりも小さい魔導アーマーの方が動きに融通が利く。
「瓦礫の中にも中型VOIDが隠れてるわ。気を付けて、颯さん」
 機体に搭載されているマテリアルレーダーを起動させたアイビスが仲間に伝える。
 Gustavを咄嗟に横滑りさせて、隠れていた中型VOIDの叩き伏せのような奇襲攻撃を避けた。
 危機一髪だ。教えて貰わなかったら、かなり手痛い一撃を受けていただろう。
「信じますわよ!」
 なおも大型VOIDに向かって突貫していく颯。コンフェッサーの見せ場も用意したい所でもある。なにしろ、敵を討伐するだけではなく、これは、コンフェッサーの実戦評価なのだから。
 それに、ここで足を止めてしまう訳にはいかない。最前線を行く自分自身が前に進まないと、後続も前に進めないからだ。ここは仲間達を信じ、奥のVOIDを目指す。
 獲物を逃さないといった様子で中型VOIDが向きを変えたが、そこへアニス機の射撃が直撃した。
 レラージュ・ベナンディは射撃に特化された機体である。この位の援護、なんら問題は無い。
「星加、余裕あったら適当なタイミングでダミー出してくれ。デカブツの的を散らせたい」
 一撃でカズマ機を中破状態に持っていく強力な光線だ。
 こういう場面でもマテリアルバルーンは有効だろう。マテリアルで出来ているのであれば、マテリアルに反応する狂気VOIDには有効かもしれない。

 突如として負のマテリアルがトンネル内部に充満する。
「狂気汚染かよ。めんどくせぇな……。だが、まぁ……ベアトリクス程じゃねぇ」
「イニシャライズオーバーを起動させる」
 銃撃での援護を続けながら言ったアニス機を、カズマ機から放たれた結界が包み込む。
 狂気VOIDは精神汚染を繰り出してくるが、対策が取れていれば、怖いものでもない。
「大丈夫か。さすがだよ」
 万が一の為、精神汚染から回復させる為のスキルを準備していたイレーヌが感心した。
 全員が其々の役割や力を把握しているからこその連携だろう。
「どっちかというと傷の回復の方が必要かな」
 牡丹が中型VOIDを殴り倒しつつ言った。
 精神汚染の問題が無い。しかし、数の多い中型VOIDの攻撃からいつまでも無傷という訳にはいかない。
「まぁ、牡丹は心配無用だと思うが、万が一、大きな怪我をした場合はフルリカバリーで回復するさ」
「いやいや、幾らボクでも、無敵じゃないし」
 どんなに強いハンターであっても、避けきれない攻撃というものは存在するし、それが防具の隙間を突くという事もあり得る。
 何度も死線を越えてきただけあって、そういう所は謙虚な牡丹だ。
「そっち行ったよ! アイビス君!」
「自分の体を動かしてるとは言え、やっぱり生身の様には行かないわね……」
 牡丹の合図に応えながら、アイビスは機体の向きを捻じった。
 可能な限り、生身の動きに近いように作られているプラヴァーであるが、やはり、生身と全く同じという訳にはいかない。
 トンネル入口での攻防は熾烈を極めていた。
 退路を残すという状況ではない。挟撃されないように食い止めているという状況だ。
 だが、作戦として誤りだったのかというと、そうでもない。もし、中型VOIDを殲滅してからのトンネル突入なら、大型VOIDを討伐する余力は無かったかもしれないからだ。
「敵の動きに注意してね、僅かな時間差を狙って襲撃してくるかもしれないから……」
「一気に畳掛けて、攻勢に出ないと押されっぱなしだ」
 籃奈がそう告げながら、マテリアル製のネットを中型VOIDに射出し、アイビス機の攻撃を支援した。
 マテリアルネットは敵の回避行動を困難にさせる能力のようだ。
「連発はできないけど、その分、ありったけの力を叩き込んであげるわ!」
 アイビスの魔導アーマーからCAMのようなスラスターが疑似的にマテリアルで生み出される。
 素早い動きを見せたプラヴァーの攻撃が敵に打ち込まれると同時に炎のようなオーラが広がった。
 堅い装甲を抜ける為の一撃だ。
「アイビス君、ナイスだよ!」
 これがチャンスと見、牡丹が嬉しそうな表情で拳を叩き込んだ。
 二人の絶妙なコンビネーションに負けていられないと、籃奈が機体を操作した。
 マテリアルの流れがコンフェッサーの拳に集って輝き出す。
「なんだあの能力は……」
 モニターに映る光景を横目で確認しながら、アニスは固唾を呑んで見守る。
 コンフェッサーは近接戦闘を想定されている機体だ。試験用の特別機という事であり、今は多彩な能力がセットされているようだが……肝心の攻撃という能力をまだ見せていない。
 これだけ、補助能力があるという事は、必ず、“本命”が残っている。それが、今、目の前で姿を現す所なのだ。
「これが……この一撃こそが、不屈の魂の体現!」
 籃奈の叫びと共に、コンフェッサーがマテリアルの輝きに包まれた拳を中型VOIDへと突き出した。
 堅い防御があったとは思えない鋭さと衝撃を持って、VOIDの身体を深く抉ったのだった。
「凄い! 籃奈、今のは何だい?」
 驚くイレーヌに籃奈が次の標的を定めながら応える。
「マテリアルフィスト……このコンフェッサーの最大の攻撃手段さ。相手の装甲をある程度、無力化できる」
 コンフェッサーはクラスタ型VOIDやVOID勢力域での敵地や悪環境での作戦を想定されている。
 それ故の特別な攻撃能力という事だろう。
 相手に大きなダメージを与えるには二つ方法がある。一つが、武器の威力そのものを高めていく方法。しかし、これは武器に依存する為、万が一、武器が作戦に応じたものでない場合や、武器そのものが故障した際には、大きな戦力ダウンとなる。
 もう一つが、相手の防御力を低下させ、結果的に与えるダメージを増やす方法だ。これなら、仮に一級の武器でなくとも、最低限のダメージは与える事ができる。
 そして、マテリアルフィストはこれに該当する。
 当然のことながら、強力な武器を装備した状態で使えば、圧倒的な攻撃力となるのはいうまでもない。
 どんな悪環境でも作戦を遂行する事ができる機体――それが、このコンフェッサーなのだろう。 

 一方、大型VOIDに取り付いた颯。だが、正面装甲は想定以上だった。
「その前面装甲、はやてのドリルで貫けるでしょうか?」
 硬いという次元ではない。幾重にもCAMや軍用車両が重なっているのだ。
 その間にも、大型VOIDは不気味な唸り声のようなものをあげながら、力を溜めだした。もう一度、強力な光線を放つつもりなのだろう。
「装甲の隙間を抉り落せれば、ドリルで貫けるはずだ!」
 カズマが通信機で応える。ドリルの先端が入り込めさえすれば……。
 その為には、鋭い槍のようなもので穴を開けるか、ペンチかなにかで装甲の一部を無理矢理、剥がす必要があるだろう。
 しかし、カズマは入口付近で中型VOIDと戦闘中で、駆け付けるには距離が離れている。
「俺がやる!」
 勇ましい声を揚げたのはアニスだった。
 機体のフレームからマテリアルの翼のようなものが舞った。トンネル内を超低空で飛ぶ。
 狙いは半壊しているCAMの傍に転がっているバールのようなもの。
「そこだ!」
 装甲の繋ぎ目にそれを突き刺すと、てこの原理で剥がしに掛かった。
 その僅かに開いた穴に向かって、颯の魔導アーマーが巨大なドリルの先端を捻じ込む。
「びりびり電撃どりるぅ!!!」
 同時に操縦席が剥き出しという魔導アーマーの利点を活かして、攻撃直後に高度な機導術を行使する颯。
 直後、ドリルに注ぎ込まれたマテリアルが眩く輝きを放った。
 捻じ込んだ際の衝撃、注ぎ込まれた機導術。
 圧倒的な一撃は大型VOIDの正面装甲を破壊した。こうなれば、後は怖いものはない。
 続く、ハンター達の攻撃で、大型VOIDは討伐されたのであった。


 海峡トンネルに潜むVOIDをハンター達は、強化人間 星加籃奈が乗るコンフェッサーと共に討伐した。
 また、戦闘中における、コンフェッサーの能力を存分に活かす事ができ、高評価にあると判定される事になる。
 その後の微調整を組みながら、やがて、コンフェッサーは少数ではあるが、量産化へと進みだす事になるのであった。


 ――評価試験、了。


●歪な秒針が刻み出す日
 静まり返った海峡トンネル。改めて、レーダーで周囲を確認するアイビス。
「周囲に敵影はないかな。残骸が酷いようだけど」
「はやてのドリルで片付けましょうか?」
 まだドリルを回したりないような颯の言葉。
 一同が苦笑を浮かべる中で、モニターごしに映る籃奈の思い詰めたような表情をアニスは見た。
「……ここで身内の誰かでも死んだか?」
 その言葉に籃奈は『なんで分かったの』と言わんばかりに驚く。
 アニスはやや顔を伏せながら言葉を続ける。
「軍人やってりゃ、嫌でもわかるようになるじゃねぇか。なんとなくってやつだ……」
「籃奈。もしかして、旦那の機体が残っているかもしれないよ」
 牡丹がそう言うと手身近な瓦礫をどかしていく。
「……私の夫は、この戦場で死んだんだ……遺体も機体も戻ってない」
「なら、探すか」
 途切れ途切れに言った籃奈の台詞に応えるようにカズマが言った。
 サーチライトの出力と向きを微調整する。
「形見の品が残っていないか調べるか」
 イレーヌが腕まくりをして気合を入れる。この状況では遺体の発見は絶望的だが、せめて、形見の品は見つけたい所だ。
 探索を始めだしたハンター達に籃奈は感謝の言葉を告げながら、機体から降りた。
「そういえば、アニスさん、さっき何かの残骸がありませんでした?」
「多分、何かの残骸だったと思うが……」
 颯の言葉に記憶を辿り、その方角を指さすアニス。先程の戦闘で、大型の狂気VOIDの装甲を剥がすために手にしたバールのようなもの。それがCAMの傍に転がっていたのだ。
 アニスの言葉に従ってアイビスとカズマが向かう。
「これね……半壊しているけど」
「吹き飛ばされて、コックピットが剥き出しだな」
 二人の台詞は、CAMの最後がどれだけ壮絶だったかを告げていた。
 バールのようなもので大型VOIDの装甲を剥がそうとしたのだろう。搭乗者は最後の最後まで諦めていなかったと見て取れた。
 状況的には、パイロットが無事だったとは思えないが、比較的、操縦席周りは無事だった所を見ると、CAMが戦闘能力を喪失した為、降りた後でCAMが吹き飛ばされたようにも見える。
「多分それだな。隊長機用のマーキングだ」
 僅かに残ったマークの一部を見つめながらアニスが静かに呟く。
 コックピットを覗き込んだカズマは幾つかの遺品らしきものを見つけた。
 レコーダーが残っているか不明だが、回収しておくべきだろう。それと共に手帳のような物を見つけた。
 その手帳の裏表紙に刻まれた名前を見て、反対側から覗き込んだ牡丹がカズマと視線を合わせた。
「籃奈の夫の名前だよ」
 振り返ったカズマは籃奈の為にコックピットから離れる。
「……籃奈」
 心配するような声でイレーヌが彼女の名を呼んだ。
 ヨロヨロと近付いた籃奈はカズマから手帳を受け取りつつ、確かめるように操縦席のボロボロのシートに手を当てる。
「……間違いない。主人の……機体……」
 そして、身を預けるようにシートに崩れ込んだ。
 嗚咽が海峡トンネルに静かに、響いた――。

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参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    メルティア
    MARTIA(ka0178unit003
    ユニット|CAM
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    グスタフ
    Gustav(ka1804unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka2477unit002
    ユニット|魔導アーマー

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/20 17:20:15
アイコン 【確認用】
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
アイコン 【相談用】
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/01/25 07:37:06