はもんのつづき

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/25 07:30
完成日
2018/01/31 06:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 詩天へ戻った日、初名は速疾隊の隊士達が出迎えてくれた。
 隊士達は私服姿の為、非番だろうかと初名は思案するも、彼らの元気な姿を見て安堵の笑みを浮かべる。
 再会を喜ぶのも束の間、初名は出迎えた隊士達の様子に異変を感じた。
 何かあったのかと尋ねようとする初名を制して、ここから離れましょうと言わんばかりに隊士は行動を促す。
 市中は昼間の時間もあってか、いつも通りの賑わいを見せている。
「初名先生、おかえり!」
 顔見知った患者から声を掛けられ、初名は「ただいま戻りました」と笑顔で返す。短い世間話の間も隊士達は警戒を怠っていなかった。

 無事に屯所へ着くと、変わりない様子であり、枯葉と風に吹き荒らされた玄関を掃いていたのは待機中の即疾隊一番隊長である壬生和彦。
「壬生隊長、掃き掃除なんかは新人にやらせてください……」
「玄関は人目につくもの。気がついたら誰かがやらねばならない、それは隊長でも……」
 相変わらず前髪を伸ばして目元を隠す一番隊長は注意をする隊士に言葉を返す。
「隊長が雑用をするのかと市中に笑いものにされます」
「初名先生を心配したり、暇なのは皆一緒です」
 最後の一押しに負けた和彦は大人しく掃除をやめる。
 そんなやり取りを見ていた初名は堪えきれず、鈴を転がしたように笑いだす。
「ただいま戻りました。壬生隊長」
「おかえりなさい。初名先生……それは?」
 和彦が尋ねたのは、彼女が抱える布に包まれた長物。
「局長、副局長のご挨拶の時にお話しします」
 そう言って、初名は屯所の中へ入っていった。

 局長と副局長も揃っており、初名は改めて帰還の挨拶を行う。
「とはいえ、長旅となり大変だっただろう」
 局長が労わると、初名は今回の旅で経験した話を始めた。
 亀田医師の親友である刀匠白賀時光より、若かりし頃の話を伝える。
 才能ある剣士だったが、非覚醒者である故に鬱屈した日々を送っていた事、親が病魔に冒されたのを切っ掛けに医師を目指した事……。
 入れ違いに白賀は彼の為に刀を完成させたが、それは剣を捨てた彼の手に届くことはなかった。
 同じ場所で二度の窃盗に遭ってしまった刀であるが、その刀を然るべき人物に振るってほしく、初名は詩天に刀を持って帰った事を告げる。
「私に……ですか」
 思わぬご指名に和彦は目を丸くしてしまう。
「壬生隊長に思うところがあるのは存じております。ですが、貴方様にと……」
 即疾隊一番隊長である壬生和彦には一部の者しか知らない秘密がある。
 偽名であり、現詩天の敵対勢力の武将についていた古流剣術道場の現当主。
 自身は決戦を逃されて参加できずにおり、後に討ち死にした父親が歪虚の力で生ける屍として辻斬りをしていた。その父の管理をしていたのが和彦の母の父である亀田藤五郎だった。
 藤五郎は死に、父は和彦とハンターによって救いの死を受けた。
 和彦としても、胸中の整理がつきそうな頃である。
「すぐにとは申しません。お考え願います」
 控えめに呟く初名に和彦は曖昧な返事を返すだけだった。
「それはともかくとして……初名先生、暫くは即疾隊の屯所にて生活を行って頂きたい」
 申し出たのは前沢に初名は首を傾げる。
「如何されたのですか?」
「今、詩天には反幕府派である鬼哭組がいる。こちらも手を打っているが……貴女が狙われる可能性があるやもしれない」
 前沢が提示した情報に初名は隊士達の様子を思い出す。
「道理で警戒されているのですね」
「昼間は診療所を開いても構わねぇよ。ただ、午後からは屯所にいてくれ。寝る時は秋吉のところで寝てくれ」
 俺のところでもいいだがなとセクハラまがいに笑いを取る江邨に前沢と意外にも和彦のきつい視線が刺さる。
「おお怖い。西方でいうところの『しすこん』というやつだな」
「亀田医師の弟子ならば、私にとって『きょうだい』ですので」
 和彦が言えば、「摩耶さんのところでお世話になります」と初名は笑った。

 亀田診療所が久しぶりに開いた。
 知る人ぞ知る若峰の美人医師は勉強熱心だと皆が誉めている。
「皆さん、順番ですよー!」
 初名が言えば、皆がそれに従う。

 なんとか年を越せたが、昼は診療所、夜は即疾隊屯所というサイクルは変わっていなかった。
 急病時は屯所に来るようにと言っているので、患者達も了承してくれている。
 昼間は隊服を脱いだ隊士達が初名の警護と雑用をしていた。
 普段は規律厳しい隊士達であるが、物腰の柔らかい者が対応し、更なる地位向上を狙ったりしていた。時折、一番隊隊長の壬生和彦が顔を出したりすると、女性患者の黄色い悲鳴が飛んだりする。
 鏡開きも過ぎた頃、初名は老人患者を玄関まで送っていった。
「初名先生、ありがとうなぁ」
「六郎おじいさんが最後ですし、今日だけですよ」
 そう言う初名に老人は心配そうな顔をする。
「最近はまた若峰でよくない輩を見かける。野犬も多いし、お前さんには危ない目にあってほしくないなぁ」
「大丈夫です。ご心配、ありがとうございます」
 即疾隊が守ってくれるとはいえ、いつ、何が起こるかわからない。
 初名は事情を知ってても、この亀田診療所の主だった亀田医師は患者
 患者が角を曲がるまで見送っていると、笠を被った浪人風の男が立っている。
「もし……?」
 初名が尋ねると、浪人は警戒させてしまったと非礼を詫びる。
「以前にこちらを歩いていた際、門が閉じていたため、無人だったのかと思いまして」
「ああ、左様ですか。今は昼まで開いておりまして。何か不調が?」
 心配する初名の様子に浪人は悪いところはないと告げた。
「ただの好奇心故、御免」
 それだけ言い、浪人は去ってしまった。
 笠を被っていたため、あまり顔立ちは見えなかったが、かなり整っていたような気がする。
「初名先生! 昼間とはいえ、危ないですよーー!」
 隊士が初名の方へと駆けてくる。
「すみません。もう、終わりですので、片づけましょう」
 軽い調子で謝る初名はすぐに診療所へひっこんでしまう。

 翌朝、初名と当番の隊士達が亀田診療所の門の前に立った時、異変に気付いた。
「錠前をこじ開けようとした……?」
 隊士の一人が、勝手口と錠前を括りつける部分と、錠前が交わるところが削られたような跡が見える。
「門の方も見て来てくれ」
 隊士二人が門の方へ向かうと、すぐに勝手口の方へと向かう。
「おい。玄関にも不審な跡がある」
「門を押して入ろうとしていたようだ」
 門の方へと向かえば、地面に門の下部分が擦れている様子があった。
「……とりあえず、中へ。確認しましょう」
 現状は何か取られたりする様子はなく、胸を撫で下ろして今日のところは診療所を開くことにする。

 帰宅後、局長達に状況を伝えると、局長は肩を落とす。
「ウチも十分な戦力を割くのはキツイ。いっちょ、ハンターに頼むとするか」
 明るい声音で局長が提案すると、皆が動き出した。

リプレイ本文

 詩天に到着したハンター達は即疾隊屯所へと向かう。
 門番をしている若い隊士二人に声をかけると、一人が中へ案内してくれた。厳寒の中でも、道場の方向より威勢のいい掛け声が聞こえてきた。
「ほう……」
 興味深そうにハンス・ラインフェルト(ka6750)が道場の方へ視線を向けるが、燐火(ka7111)は掛け声に肩を竦める。
 通された部屋に入ってきたのは局長と一番隊隊長、そして今回の護衛対象である初名。
「寒い中、悪いな」
 いつもながら軽い調子の局長が挨拶をすると、エルバッハ・リオン(ka2434)から挨拶をしていく。
 初名が見知ったハンターもいたので、彼女は安心した様子だった。
「お変わりなく、何よりです。些か窮屈な様子ですね」
 木綿花(ka6927)が初名の様子に安堵しつつも、自宅から離れる不安さを察しているようだ。
「皆様によくして頂いておりますし、贅沢は言ってられません」
 にこっと微笑む初名はゆっくり首を横に振る。
「少しでも安心して診療ができるように協力は惜しみません」
 エステル・クレティエ(ka3783)の言葉に宵待 サクラ(ka5561)も頷く。
「当然だよねっ!」
「は、初名さんをお守りしま、しゅっ」
 意気込む燐火であったが、緊張で噛んでしまい、恥ずかしくなってパニックになってしまう。
「初名先生は即疾隊の仲間でもあります。私も手伝いますが、何卒お願いします」
 穏やかに和彦が言えば燐火は一つ頷いた。
「そうだ。もし、よかったら刀の手入れをさせてもらえませんか?」
 舞剣士でもあるサクラの申し出に初名はお願いしますと告げる。
「二度も盗まれるほど美しい刀ですからね」
 ハンスが言えば、初名は刀匠より聞いた刀の話をハンター達に伝えた。

 ハンターの行動が開始すると、診療所の両隣に挨拶をしてきた大男がいた。
 若峰にもハンターの出入りが始まって一年以上。金の髪でも驚かない。
「まぁ、あのこを守ってあげなよ。いい子なんだ。即疾隊の主治医になると聞いた時は本当に心配したし、よくない噂も流れたんだ」
「はぁ……」
「それでも、あの子は本当に頑張ってもう噂なんかで飛んでいくような子じゃない。皆知ってるよ。即疾隊もよくやっている」
 いたずらに女性を辱めるような噂を流し、嫌がらせをする輩もいるとハンスは初名に指摘したが、彼女は気乗りの無い返事。大丈夫なのかと思ったが、初名はそれを乗り越えたのだと理解する。
 早めの時間に商業街区の方へ赴き、買い物を行う。
 鬼哭組の情報も探ってみたが、特にこれといった情報は得られず、ハンスは材料を買って診療所へ戻る。
 診療時間の間に燐火と即疾隊世話係の秋吉摩耶に料理をしてもらう。この料理はハンター達のお弁当となる。
 午後はハンター達だけが残ることになっているので、普通に飯炊きをすれば居留守が知られるからだ。
 ハンスは清掃をしつつ警備に入り、エルバッハと木綿花は診療所内外の警戒に当たっていた。
 診療時間が近づいてきているので、彼女達は現れた患者へ挨拶しつつ、周囲を窺う。
 亀田診療所の患者達は即疾隊の隊士に慣れている方でもあるので、ハンスが入り口付近にいても、少しだけ驚いて挨拶をし合い、騒ぎには至らない。
 エルバッハや木綿花はにこやかに声をかけると、「お疲れ様」と「朝早くからありがとうね」と労ってくれる。
 庭の清掃の為、ハンスが中に入る。入れ替わりにエルバッハが入り口前に立ち、少し離れたところで木綿花が控える。
 しばし経つと診療所に来る患者の流れが途切れる。門の外は静かで、中から賑やかな声が聞こえてきた。
 この診療所の日常パターンなのだろうか……とエルバッハは中へ視線を向けるが、門の外の警戒は怠っていない。
 笠を被った浪人がエルバッハとすれ違うように向かってきている。
 敵意はわからないが、彼女は気取られないように浪人へ注意を向けていた。彼女の様子に気づいた木綿花もまた、門の外に注意を向けていた。
 浪人はエルバッハのすぐ近くを変わらぬペースで歩いていく。
 道を開けるように彼女は一歩引き、ぶつからないように配慮するような様子でエルバッハの背丈では浪人を見上げる。
 浪人も気遣われたのかと察するように笠の縁を指で挟み、笠を引く。
 彼女は不審がられないように浪人の様子を探る。
 笠から覗く顔のラインは細面であり、中肉中背。着古した着物を着ているが、顎は綺麗に剃られてあった。
 すれ違った瞬間、エルバッハは浪人の横顔を少し見れたが、若そうに思える。
 浪人が左に曲がっていくのを確認し、エルバッハは木綿花の方へと顔を向ける。
「敵意や害意はありませんでしたが……」
 木綿花もエルバッハの方へと向かい、浪人が歩いていった方向へ顔を向けた。

 一方、診療所内ではとても賑やかである。
 赤子からお年寄りまで患者が診てもらいたくてくるのだ。
「おねーちゃん、あそぼ!」
 子供を一人にしておけずに連れてこられてる子供もいる為、診療所に用事の無い子供は元気なもの。
「お手玉しよう!」
 他の子供達も集まってきてしまい、サクラは子供の相手をする。
「ははぁ、今日はおねえちゃんが沢山いるからな。甘えたいんだろ」
 膝が痛いという老人がサクラに群がる子供達をからかうが、全く気にせずに甘えていた。
「すまないねぇ。風邪をひいてしまって、あまり構えなくて」
「大丈夫! 結構丈夫だから♪」
 明るい調子で子供達と遊ぶサクラは大人達に感謝されていた。
「あ、あのっ! 何かすることありますか?」
 調理を終えた燐火が待合室に顔を出すと、新しい遊び相手だと思った子供達が燐火に飛びつく。
「えええええ!?」
 いきなり抱きつかれて燐火は目を回してしまい、とりあえず子供達は引きはがしてもらう。
「最近は鬼哭組の件があって、中々外で遊べなくて」
「この辺は野犬なんかも夜にうろうろしてて、遠吠えがうるさかったりするんだよな」
 大人達が世間話がてらに話を進める。
「そ、そうですか……」
 おずおず返事をする燐火だったが、すぐに子供達に遊んでと急かされてしまう。
 診療室ではエステルが助手を務めており、初名より借りた作業着は袖や肩回りは少し縫ってつめている。
「診療録はあちらの棚です」
 エステルは初名の直営に駆り出され、診療開始前に設備の説明もしてくれた。
 ハンターの仕事とはいえ、他の診療所を検分できるのは正直嬉しいが、領分は忘れていない。
 診療録は世帯ごとに、括られており、複数の筆跡がある患者もいた。おそらくは元の主、亀田医師のものだと察する。
 亀田医師も初名も細かく病状やメモを書き綴っており、家族や飼い犬や猫の名前も書いていた。細やかな仕事にエステルは心が温まるような気がして口もとを緩めてしまう。
「次の方を呼んでください」
「はいっ」
 初名の指示を受けてエステルは待合室の方へ行き、患者の名を呼ぶ。

 診療が終わり、患者達は帰宅していった。
「はぁ……あれだけ賑やかだったのに、今はとても静かです……」
 ぽそりと一人ごちで呟くのは燐火。
「お疲れ様です。子供達のお相手お疲れ様でした」
「いいい、いえ! お、お役に立てれたらっ!」
 不意に初名に声をかけられた燐火はすぐに背筋を伸ばして返事をする。
「片づけもいいでしょう。戻りましょう」
「は、はいっ!」
 初名に促された燐火は玄関へと向かう。
「エステルさん、留守をお願いします」
「すぐに戻るね」
「はい」
 サクラと初名に声をかけられたエステルは一つ頷く。
 そして、エステルは一人留守番をする。在宅を怪しまれるため、火鉢は使えず、午前中に温めてくれた温石と毛布で暖をとる。
 音がない状態なので、普段は聞こえない外の雑音が微かに聞こえる。時折、人が歩いている音が聞えていた。
 ある足音が止まったことに気づいたエステルは顔を上げると、診療所の外壁を叩く音が微かに聞こえた。
「くそ……どこにいるんだ……っ」
 周囲に誰もいないのだろう。トーンを上げた声がエステルに聞こえる。
 すぐに歩き出して、再び静かになった。

 一方、初名を送り届けた直営組はエステルの魔導短伝話へ発信していた。
「思ったより距離がありましたね……」
 一応は発信されているようだが、通話ができない。エルバッハは可憐な顔立ちが険しくなる。
「向こうからの発信が上手くいけばいいのですが……」
 隣に立つハンスも不安そうだ。
「とりあえず、戻るね」
 初名の着物を着たサクラが門の方へと向かうと、即疾隊世話役の摩耶が飛び出してきた。
「待ってる子に飲ませて」
 サクラは素直に頷き、頭巾を被って戻っていく。
 戻る時は特に異変を感じることはなかった。診療所に戻ったサクラはエステルに持たされた物を渡し、中を確認すると、栓をしてある徳利二本と温石二個。
 それぞれの徳利の中身は甘酒とお茶。
「助かります」
 安堵したようにエステルは甘酒を飲んでから、先ほど起こった事をサクラに話す。
 サクラは彼女の話を聞きつつ、先ほど初名の許可をもらったので、刀の手入れを行っている。
 依頼人の話によれば、二度も人に盗まれている。
 何か仕掛けがあるのかもしれないと思い、サクラは確認したかったのだ。
 刀はとても美しく、刀身に光の反射で蛇の鱗のような柄が浮かび上がっていた。
 特に何か細工がしてあるわけではなさそうだ。
「そういえば、一度目に盗まれた時、蛇の歪虚が関与していたと初名さんは仰ってましたよね」
「うん」
 エステルの言葉にサクラは頷いて手入れを終えた刀を観音扉の収納へ置き、鍵をかける。
 初名曰く、一度目の盗難時に刀を手にしていた賊は二つの頭を持った蛇歪虚に操られていた。
 それから刀身に蛇の鱗のような柄が微かに浮かぶようになったという。
 思案に沈黙が落ちた瞬間だった。
 玄関の方から叩く音が響く。今は戸を閉めている為、叩いているのだろう。
 すぐさまエステルは魔導短伝話で屯所にいる仲間へ発信すると、診療所に向かっているエルバッハに繋がった。
「不審者が来てます」
 もうすぐ夜の警備班が交代に来る。
 それまで少しでも被害を抑えなくてはならないと、二人は飛び出した。
 勝手口から飛び出したサクラはエステルに中からの施錠を頼んでおり、施錠の音を背にして彼女はナイトカーテンを発動し、玄関の方へと向かう。
 不審者は三人。外見は浪人、年齢は二十代ぐらい。無精ひげを生やしている。
 一番サクラに近い浪人の前に立つと、彼女の背後からエステルが放った氷の矢が足へ直撃する。動きが鈍った隙を逃さずにサクラは姿勢低く浪人の腹を刀で薙ぐ。
 活人剣の効果で浪人は生きていたが、痛みで地に倒れ、悶えている。
 邪魔者に気づいた浪人達がサクラの方へと向かっていく。
 剣を構えたサクラは下がらずに浪人達を見据えると、彼らの目の焦点があってないことに気づいた。
「何か、おかしいよっ!」
 本能的にサクラは警告の声を上げる。

 エステル達が戦う少し前、診療所組から連絡を受けたのは交代の為に診療所へ向かっていた木綿花とエルバッハ。
 木綿花はエルバッハの様子に気づき、すぐに燐火の魔導短伝話へ着信した。
 診療所と屯所の真ん中くらいの距離な為、どちらとも通話が可能であり、木綿花は事情を簡潔に説明した。
 屯所の方では燐火が不審者が診療所に来ている旨を伝えると、安心してくださいとハンスが不安げな様子を見せる初名に声をかける。
「お二方、行ってください。皆様をお助け下さいっ!」
 堰切ったように叫ぶ初名に二人は驚く。
「で、で、ででもっ! 守るのがお、お仕事ですし」
「私達の仲間が必ずしもやり遂げます」
 おろおろする燐火に対し、ハンスが静かに告げる。
「皆様の強さは分かっておりますが……」
「だ、大丈夫ですからっ!」
 おっかなびっくりだが、燐火は初名の手を取り、言葉を重ねる。
「危なくなったら、み、みなさんは……必ず連絡入れますのでっ」
 必死に伝えようとする燐火の言葉に初名は肩を落とす。
「燐火さんの言う通りです。心配なのはわかっておりますが、今は待つのがやるべきことです」
 ハンスが言えば、初名は一つ頷いた。

 通話を終えたエルバッハと木綿花は診療所へと走る。
 目の前では診療所の外壁の屋根に昇ったエステルが野良犬にアイスボルトで行動阻害し、サクラが浪人二人を相手にしている真っ最中の光景があった。
 エステルがエルバッハと目が合い、二人は同じ魔法を発動させる。
 青白い雲状のガスが発生すると、サクラが後ろに下がった。ガスが晴れると、浪人の片方は倒れており、もう一人は辛うじて立っていた。
 フラフラしながらも移動を始める浪人は逃げ道を塞ぐ木綿花達に気づいていないようだ。
「気を付けて、この人達、何かおかしい!」
 サクラの警告に木綿花は即座にシールドを構え、浪人へ向かう。
 浪人は木綿花に気づき、刀を振り上げる。
 低い姿勢にて木綿花はシールドで上からの攻撃に備え、浪人の懐へ飛び込む。
 容赦なく振り下ろされた刃はシールドで防げたが、攻撃の衝撃を受けてしまう。彼女はそのまま空いた腕を伸ばし、エレクトリックショックを発動させた。
 浪人は叫ぶことも儘ならないまま、ゆっくり地に落ちる。
 残ったのは二匹の野良犬だった。
 唸り声をあげてハンター達を威嚇している。
 符を中空に舞い上げたのはエルバッハ。彼女は躊躇することなく、彼女は風雷陣を発動させ、野良犬を狙う。
 それでもまだ動いていたので、サクラと木綿花がそれぞれ仕留めた。 

 不審者達を捕えた後は縄で縛り、一度は診療所内に押し込む。犬は放置したのち、甲高い悲鳴を上げてどこかへ逃げてしまった。
 屯所の人手を借り、不審者を屯所へと運び、木綿花とエルバッハはそのまま診療所に残って夜の警備に当たる。
 気を取り戻した不審者達は燐火にびくびくしながらも頑張って尋問していた。
「こっちは何も覚えてねぇよ!」
 鬼とはいえ、子供の燐火に横暴な態度をとる浪人にハンスが前に出る。
「最近は鬼哭組の動きが活発だとか」
 ハンスの言葉に浪人達は尋問されることになり、奥へと引っ立てられた。
 その後、尋問を終えた結果、浪人達は鬼哭組浪士であった。しかし、入って日も浅く、まだ碌に活動もしてなかったという。
 ここ最近は記憶がほぼなく、鬼哭組の浪士と最後に会ったのも憶えてないとのこと。
 ただ、記憶が曖昧になる前に三人は女と会話をしたという。
 会話の内容は探し物をしているという事だったとか。
 その者達が襲撃してきた後は一度も不審な輩が亀田診療所に現れた気配はなかったという。
 とりあえず、即疾隊は三人を放免し、監視をつかせることにした。

 詩天を去る時、木綿花は一度若峰を振り返る。
「また、何かありそうですね」
 エステルの言葉に彼女は頷いた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • イコニアの騎士
    宵待 サクラka5561

重体一覧

参加者一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • 勇気ある者
    燐火(ka7111
    鬼|12才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エステル・クレティエ(ka3783
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/24 23:57:46
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/23 12:07:40