ゲスト
(ka0000)
とある村の怪異
マスター:小林 左右也

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/29 07:30
- 完成日
- 2018/02/09 14:57
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●何とかを呪わば穴二つ?
こんなはずじゃなかった……。
クリムゾンウェストにはクリスマスもバレンタインもないはずじゃなかったの!
磐田恵、29歳。名前からもわかるようにリアルブルー出身者だ。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに!
髪を掻き毟り、ぎりぎりと唇を噛む。たちまち鉄の味が口の中に広がる。
グラムズヘイム王国の、片隅の片隅にある辺鄙な村に住まいを決めたのは、リアルブルーに蔓延るリア充イベントから逃れるためだといっても過言ではない。
だというのに、しっかりとリア充イベントは根付いていた。彼氏いない歴=年齢の恵にとっては、そんなイベントなど苦痛というか地獄だ。
どこかヨーロッパの雰囲気に惹かれて、グラズヘイム王国を選択したのが、そもそもの間違いだったのだ。
この間のクリスマスは、ずっと家に閉じこもって、悪夢が過ぎ去るのをひたすら耐えるしかなかった。
悪のイベントは通り過ぎたが、毎年のようにクリスマス・ツリーとして使われているモミの木すら憎たらしい。
そうだ。まだどこかにリア充イベントの魔の手が届いていない場所があるかもしれない。
どこかへ逃げよう……。
恵は無意識のうちに荷造りを始めていた。手あたり次第に鞄に荷物を突っ込んでいくが、ふと気が付く。
待ってよ。どうしてあたしが逃げないといけないわけ?
荷物の整理の際に出てきた五寸釘と金槌。その二つを手に取った。
これはリアルブルーから持ってきた、恵の愛用品である。何度これを使って、鬱憤を晴らす……いや心を癒してきたことだろう。
鞄をひっくり返し、儀式に使う一式を並べて、にっこりと微笑んだ。
そうだ人形を作らなきゃ。どこかで藁を貰ってこなきゃ……。
恵は肩を震わせて笑う。これでクリムゾンウェストのリア充どもを呪ってやろう。
ああ……夜が楽しみだわ。
●村に響く不気味な音
「ここ数日、真夜中に変な音がするんです」
依頼があったのは、グラズヘイム王国の片隅にある小さな村からだった。深夜になると、広場の方からコーン、コーンと堅いものを打ち付けるような音がするという。
その音は村中に響き渡り、村人に不安を与えているようだ。
さっそく数人のハンターたちが、村へ調査に向かった。
問題の広場には、大きなモミの木が立っていた。昨年のクリスマスも、このモミの木に子供たちお手製のオーナメントを飾ったという話だ。
クリスマスだけではない。村の祭りや市場といったイベントごとは、ほぼこの広場で行われ、このモミの木は様々なイベントの象徴的な存在であるという。
「ねえ、あれ……何かな?」
モミの木の中央に、片手で持てる程度の大きさの藁人形が無数に打ち付けられていた。藁人形は太い釘で幹に磔にされている。
「人形を飾ったってわけじゃなさそうですよね」
顔もない人形は十字架のような形をしていた。人形には書きなぐった似顔絵や、名前が書かれた紙片が一緒に釘で打ちつけられている。どういうものかわからないが、禍々しい気配すら感じる。
今回の依頼者であるセリナは、藁の人形を指さした。
「わたしの推測ですが、真夜中の変な音は、これが原因だと思うのです。いいえ、これに違いありません」
今回の依頼者であるセリナは、自信を持って言い放つ。
セリナは古今東西のオカルトの研究をしているということだ。彼女もまた、この怪異を解決するために呼び寄せられた人物であった。
リアルブルーの文化はずいぶんとクリムゾンウェストにも伝わっていたが、さすがに呪いの藁人形を知るものは少ないようだ。そもそもリアルブルー出身者でも、オカルト好きでもない限り興味を持たないであろう。
「ご存知ないようなら、教えて差し上げましょう」
まだ誰も何も言っていない。だが言いたくて堪らないのだろう。彼女は勝手に話を進める。
「これは明らかに『うしのこくまいり』が行われた証拠なのです。丑の刻参り。それは聖なる木に、呪いたい相手に見立てた藁人形を釘で打つという、リアルブルーの日本という国に古くから伝わる人を呪うための儀式なのです!」
「こ、怖!」
ハンターたちは、声を揃えて叫ぶ。
「この村でリアルブルーの方はひとりしかいないので、恐らく彼女に間違いないのです。でも昼間訪ねても出てきてくれませんし、深夜は……怖くてとてもじゃないですが確かめになんていけません。なんせ儀式は人に見られてはいけないそうで、うっかり彼女に会いに行ったりしたら殺されかねません」
物騒なことを、セリナは淡々と告げる。
犯人だと思われる人物の名は、磐田恵という女性だという。
「そもそも呪いなんて信じてはいませんが、このままじゃ気味が悪くて村の方々は夜も眠れないと訴えています」
まあ、私は面白いからいいのですけどね、とセリナは目を細める。
「村の方々のために、取り敢えず深夜の儀式をやめるよう、彼女を止めてもらえませんか? お願いします」
こんなはずじゃなかった……。
クリムゾンウェストにはクリスマスもバレンタインもないはずじゃなかったの!
磐田恵、29歳。名前からもわかるようにリアルブルー出身者だ。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに!
髪を掻き毟り、ぎりぎりと唇を噛む。たちまち鉄の味が口の中に広がる。
グラムズヘイム王国の、片隅の片隅にある辺鄙な村に住まいを決めたのは、リアルブルーに蔓延るリア充イベントから逃れるためだといっても過言ではない。
だというのに、しっかりとリア充イベントは根付いていた。彼氏いない歴=年齢の恵にとっては、そんなイベントなど苦痛というか地獄だ。
どこかヨーロッパの雰囲気に惹かれて、グラズヘイム王国を選択したのが、そもそもの間違いだったのだ。
この間のクリスマスは、ずっと家に閉じこもって、悪夢が過ぎ去るのをひたすら耐えるしかなかった。
悪のイベントは通り過ぎたが、毎年のようにクリスマス・ツリーとして使われているモミの木すら憎たらしい。
そうだ。まだどこかにリア充イベントの魔の手が届いていない場所があるかもしれない。
どこかへ逃げよう……。
恵は無意識のうちに荷造りを始めていた。手あたり次第に鞄に荷物を突っ込んでいくが、ふと気が付く。
待ってよ。どうしてあたしが逃げないといけないわけ?
荷物の整理の際に出てきた五寸釘と金槌。その二つを手に取った。
これはリアルブルーから持ってきた、恵の愛用品である。何度これを使って、鬱憤を晴らす……いや心を癒してきたことだろう。
鞄をひっくり返し、儀式に使う一式を並べて、にっこりと微笑んだ。
そうだ人形を作らなきゃ。どこかで藁を貰ってこなきゃ……。
恵は肩を震わせて笑う。これでクリムゾンウェストのリア充どもを呪ってやろう。
ああ……夜が楽しみだわ。
●村に響く不気味な音
「ここ数日、真夜中に変な音がするんです」
依頼があったのは、グラズヘイム王国の片隅にある小さな村からだった。深夜になると、広場の方からコーン、コーンと堅いものを打ち付けるような音がするという。
その音は村中に響き渡り、村人に不安を与えているようだ。
さっそく数人のハンターたちが、村へ調査に向かった。
問題の広場には、大きなモミの木が立っていた。昨年のクリスマスも、このモミの木に子供たちお手製のオーナメントを飾ったという話だ。
クリスマスだけではない。村の祭りや市場といったイベントごとは、ほぼこの広場で行われ、このモミの木は様々なイベントの象徴的な存在であるという。
「ねえ、あれ……何かな?」
モミの木の中央に、片手で持てる程度の大きさの藁人形が無数に打ち付けられていた。藁人形は太い釘で幹に磔にされている。
「人形を飾ったってわけじゃなさそうですよね」
顔もない人形は十字架のような形をしていた。人形には書きなぐった似顔絵や、名前が書かれた紙片が一緒に釘で打ちつけられている。どういうものかわからないが、禍々しい気配すら感じる。
今回の依頼者であるセリナは、藁の人形を指さした。
「わたしの推測ですが、真夜中の変な音は、これが原因だと思うのです。いいえ、これに違いありません」
今回の依頼者であるセリナは、自信を持って言い放つ。
セリナは古今東西のオカルトの研究をしているということだ。彼女もまた、この怪異を解決するために呼び寄せられた人物であった。
リアルブルーの文化はずいぶんとクリムゾンウェストにも伝わっていたが、さすがに呪いの藁人形を知るものは少ないようだ。そもそもリアルブルー出身者でも、オカルト好きでもない限り興味を持たないであろう。
「ご存知ないようなら、教えて差し上げましょう」
まだ誰も何も言っていない。だが言いたくて堪らないのだろう。彼女は勝手に話を進める。
「これは明らかに『うしのこくまいり』が行われた証拠なのです。丑の刻参り。それは聖なる木に、呪いたい相手に見立てた藁人形を釘で打つという、リアルブルーの日本という国に古くから伝わる人を呪うための儀式なのです!」
「こ、怖!」
ハンターたちは、声を揃えて叫ぶ。
「この村でリアルブルーの方はひとりしかいないので、恐らく彼女に間違いないのです。でも昼間訪ねても出てきてくれませんし、深夜は……怖くてとてもじゃないですが確かめになんていけません。なんせ儀式は人に見られてはいけないそうで、うっかり彼女に会いに行ったりしたら殺されかねません」
物騒なことを、セリナは淡々と告げる。
犯人だと思われる人物の名は、磐田恵という女性だという。
「そもそも呪いなんて信じてはいませんが、このままじゃ気味が悪くて村の方々は夜も眠れないと訴えています」
まあ、私は面白いからいいのですけどね、とセリナは目を細める。
「村の方々のために、取り敢えず深夜の儀式をやめるよう、彼女を止めてもらえませんか? お願いします」
リプレイ本文
●夜の奇行
カーン、カーン……。
草木も眠る丑三つ時。静まり返った村に響き渡る音。セリナの言う通り、犯人は磐田恵で間違いない。情報どおり、彼女の儀式の衣装はかなり薄着だ。この寒さの中でかなりの根性がないとできそうにない。
「ほぁ…夜は寒いの……それにこの音……ふえぇぇ」
怖くないと、白樺(ka4596)は小さく震える手をきゅっと握り締める。
だが、無表情のまま大木に釘を打ち付ける恵の姿は誰の目から見ても怖い。
「それにしても、その妙な知識の源はどこからなのでしょうかねー」
その情熱を別にぶつければ恋人くらいできそうなものなのですが、と玉兎・恵(ka3940)呟く。しかも同じ名前というのが微妙だ。
「ダメだ! 見てはいかん!」
儀式を行う恵の姿を、半ば呆れ気味に眺める恵の前に、エメラルド・シルフィユ(ka4678)が立ち塞がる。
信心深いエメラルドは異世界の呪いを恐れているようが、一方アレイダ・リイン(ka6437)は馬鹿々々しいと一蹴する。
「呪いとか悪霊とか、そういうのに突っ走るのは科学的に立証できる日が来てからにしてほしいね」
「し、しかしそれで万一誰かが彼女の呪いにかかれば……」
ブツブツと呟くエメラルドに恵がツッコみを入れる。
「見ていないうちにいなくなったら? 任務にならないでしょ?」
「確かに。やむを得んか……だが儀式の最中は見てはならないぞ」
「はいはい」
「絶対に見ては……!」
全員に「しいっ!」と諫められ、エメラルドは口元を押される。
「それにしても、呪いにかける情熱があるなら、自分を磨くことに情熱をかけて貰いたいです」
控えめにだが、ぽつりと呟いた燐火(ka7111)の言葉に誰もが頷く。しかしそんな中、静かにハンターたちのやりとりを眺めている空蝉(ka6951)だけは、絶えず薄っすらと微笑みを浮かべていた。
カーン、カーン……不気味な音が響き渡る中、ミオレスカ(ka3496)は着々と焼き芋の用意を進める。枯葉を集め、火を入れる。パチパチを音を立てて枯葉が燃える。暗く寒い中に灯る炎は、見ているだけでホッとする。
頃合いを見て、ミオレスカは用意したサツマイモを枯葉の中に埋める。ぽってりと大きなサツマイモは、じっくりと焼けばさぞかし美味しいだろう。
ふと、金槌の音が止んだ。儀式が終わったようだ。
モミの木に背を向けた磐田の表情は鬼気迫るものだった。寒さで歯を震わせ、その顔色は白いというよりか青い。汗で張り付いた黒髪をはらいもせず、疲れ切った体を引きずるように歩き出す。
作戦開始。一番となったミア(ka7035)はピヨピヨ……と磐田の下へと向かう。ふわふわモフモフなその後ろ姿を、ハンターたちは固唾を呑んで見守る。
「ピヨー、カーンカーン聞こえて眠れないピヨー」
「うっ!」
磐田の目の前に現れたのは、大きなにわとりであった。頭にひよこを乗せたそれは、思わず抱き締めたくなるような丸みを帯びたフォルム。見るからに手触りも良さそうだ。ふわふわモフモフを具現化したミアを目にして、磐田は思わず後ずさった。
「なにこれ、か、か、か……」
乾いた彼女の唇が震えている。可愛い、とようやく呟いた磐田は、どうやら可愛いものに弱いらしい。はわわ……と目を潤ませている。
追い打ちを掛けるように、ミアは愛らしく首を傾げる。
「なにしてるピヨ?」
「何、何をしいてるって……」
声まで可愛い! と悶えていたが、はっと我に返る。
「もしかして、見た? にわとりさん、見ちゃったの?」
ミアは首を振るが、すでに磐田の視界には入っていなかった。
「見たよね……間違いないよね……殺さないと……もーマジ勘弁なんですけど」
ぶつぶつと呟きながら、刀のように帯に挟んだ包丁に手を掛けた。その手は微かに震えている。
「ピヨ?」
「うわあぁぁ! ぜったい無理いぃ!」
磐田は絶叫すると、脱兎のごとく逃げ出した。
疾走したつもりのようだが、高下駄ではそう早く走れるはずもない。しばらくもしないうちに磐田はこけた。
「いたぁ……」
傷みを堪えながら起き上がった彼女の前に、立ちはだかっていたのはアレイダ・リイン(ka6437) であった。彼女の姿を目にした途端、磐田の目つきは一変。険しいものになる。
「君は寂しさの埋め合わせるためにこんな真似をしたんだね?その気持ちはわかるよ。しかし……」
「見たね?」
のろのろと起き上がり、磐田は再び包丁の柄に手を掛ける。しかしアレイダは答えず、ただ静かに微笑む。
「リア充は殲滅する! 恨むならあんたのお綺麗な顔を恨みな!」
どうやら可愛い系以外には容赦がないようだ。
「叩き潰してやる!」
包丁から金槌に武器を変更すると、奇声を上げてアレイダに突進する。
「それにいい年して子供じみた嫉妬心剥き出しにしてみっともないったらありゃしないね」
「うるさい! いい年言うなぁ!」
三十路を目前にした微妙なお年頃なのだ。年齢の話題は禁句であった。彼女が戦う目的は、呪い返しのためではなく、目の前のリア充を倒すことになっていた。
二人の武器がぶつかり、鈍い音と火花が飛び散る。金槌をイガリマで防いだものの、案外磐田の一撃が重たいことに驚く。アレイダは闘気昂揚で戦闘準備を整える。
きぇっ! と奇声と共に磐田は振り上げた金槌を振り下ろす。
わかりやすい磐田の攻撃を避けるのは簡単だった。しかし案外素早く、そしてしつこい。イガリマが届かない距離に逃れた磐田は雄叫びを上げながら、高下駄を投げ飛ばしてきた。
アレイダが高下駄での攻撃で隙が生まれた瞬間、磐田は跳躍し、金槌で脳天から……という構想があったのだろう。しかし、覚醒者としての潜在能力があったとしても、所詮は素人。アレイダは高下駄など軽くかわし、金槌は振り上げられる前に磐田の手から弾き飛ばす。気が付くとアレイダのイマリガの切っ先は、磐田の喉元に向けられていた。
「大人なら欲しいモノやしたいことぐらい、自分で探しな」
「こ、の、リア充がぁ!」
叫ぶものの、歯の根が合わず声は震えている。ぎり、と周囲にも聞こえるほどの歯軋りをした時だった。
「や、やめましょう!」
飛び出した燐火がアレイダと磐田の間を割るように立ちはだかる。アレイダも無論本気ではない。磐田が大人しくなったのを見届けで、そっと刃を引く。
「こんばんは。こんな時間に女の子が一人で歩いてちゃ危ないの」
地面に転がる磐田に、白樺はそっと手を差し出す。突然現れた白樺と燐火の姿に驚いた様子だ。
「角とオッドアイ……ちょ、やば……可愛いすぎ」
リアルブルー出身者と明らかに違う彼女ら? の容姿に感動しているらしい。クリムゾンウェストに友人がいないという情報は確かのようだ。
「あのね、夜になると変な音がするって聞いたから調べに来たんだけど、お姉さん音のした方から来たけど知らない?」
白樺の手を取りかけた磐田の動きが止まった。こいつ等もか、と小さく呟き、すさんだ目で二人を見つめる。
できれば彼女と戦いたくない。磐田を説得する言葉を、燐火なりに必死に考えた。
「こ、恋人がいるからリア充、いないからリア充じゃない、何て事無いと思うのですが」
「はぁ?」
声に険しさが宿る。恋人の話題は禁句だったと気付いた瞬間、磐田の手が包丁に伸びる。
刃が弧を描く。燐火はすばやく距離を取る。逃すまいと磐田は刃を振り上げて跳躍する。しかし白樺は逃げようとしなかった。
「いいよ! 全部受け止めるの」
彼女の攻撃を受け入れようと両腕を広げる。まさか逃げないとは磐田も思わなかったようだ。一瞬、彼女の瞳に動揺が走る。
「……え」
磐田が恐る恐る目を開くと、目の前にいるのは空蝉であった。白樺を庇った彼は攻撃を避けもせず、その身に刃を受けていた。
「う、そ」
刃を突き立てた手ごたえと、空蝉の腹部に刺さった包丁が磐田を正気に戻したようだ。小さな悲鳴を上げると、その場にずるりとへたり込んだ。カラン、と地面に包丁が転がる。
戦闘はおろか、人など刺したこと一度もない無い。磐田はだた自分のしでかしたことに茫然となる。
戦意を喪失した磐田を気絶させる必要はない。そう判断した空蝉は、静かに戦闘の終わりを告げた。
「ターゲット確保」
震えている磐田の前にしゃがみ込んだ白樺は、にこりと微笑みかける。
「……あ、シロは白樺、よろしくなのっ♪ お姉さんのお名前聞いても良いかな?」
「恵……」
「恵って素敵な名前なの♪ 」
寒そうな肩に上着を掛けてあげながら、白樺はゆっくりと優しく囁く。
「恵かぁ。誰かの為に……ってお名前……じゃぁ、恵の為には誰なんだろうね?」
「……の為に、なんて。どうせいないし」
俯いた磐田の目から、ぼろっと涙が零れる。本人は堪えようと唇を噛みしめているが、涙は決壊したかのように止まらない。
「う、う、……わああん!」
静まり返った村に、子供のような泣き声が響き渡る。そして泣き声とはもるように、ミオレスカの鼻歌が聴こえてきた。
「ららららー、おいもー、美味しいー。でもちょっと大きいからー……」
甘い焼き芋の匂いが漂ってきた。どうやら食べ頃のようである。
●本当は寂しかったんです
焼き芋は、ほくほくと甘く焼きあがっていた。ミオレスカは最初に磐田に手渡すが、突然手渡された焼き芋に戸惑っているようだ。
「深夜のお勤め、ご苦労様です」
もちろんハンターたちの分もある。真っ先に取りに来たのは最後のひとつは空蝉のものだ。彼が刺されたことを思い出し、ミオレスカは一人佇む空蝉に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「はい……謝謝」
空蝉は焼き芋を受け取ると淡くほほ笑む。幸いボディは破損には至らなかったらしい。しかし包丁がひしゃげるほどの打撃があった後だ。大事を取るに越したことはない。
「ん、美味しい!」
にわとりが焼き芋を食べている。着ぐるみのまま、どうやって食べているのがは謎である。小さな手で熱々の焼き芋を持ち、ふうふうと食べている燐火の姿も微笑ましい。
「恵、ミルクティーにあうよ♪」
白樺に勧められ、磐田もようやく焼き芋を口にする。
「……おいしい」
思わず零れた磐田の呟きに、ミオレスカは、ずずいっと距離を詰める。
「暗くて不安な時に誰かと一緒に食べる温かいものって、いっそう美味しいですよね」
こくり、と磐田は頷いた。
「ブルーからこられた方なのですね。お醤油やお味噌の料理ってどんなものがあるんですか?」
「醤油や、味噌?」
戸惑うように磐田は「えっと……」と宙を睨む。どうやら料理はあまりしないようだ。
「ええと、塩なら知っているけど……盛り塩、とか?」
それは料理ではない。
「いやまて。盛り塩は料理ではないぞ。邪気を祓い、浄化を促すものでは?」
だがここは敢えて流そうと思っていたら、エメラルドがツッコんでしまった。
「呪いに身を堕とした君が浄化の方法を知っているとは……まだきっと救いはある」
「はあ」
磐田の塩対応にも気付かず、彼女は訴える。
「め、めぐ……磐田恵」
こほん。咳払いをしてエメラルドは語り出す。
「君が辛かったのはわかる。その為村人を呪おうとする気持ちもやむを得ない」
アレイダも、これだけは言っておかねばと磐田に告げる。
「このご時世、呪いなんてものが都合よく使えるわけないじゃないか。歪虚って化け物が絡んでいるかもしれないよ? もしそうだとしたら君自身の命だって危ない」
「う……」
磐田は唇を噛みしめる。自らの行動を悔やんでいるのか、指摘されて悔しいのかはわからない。
「君が本当に欲しているのは復讐か? そうではないだろう。君の前に生涯伴侶が現れないなど誰が決めた!?」
「……はあぁ?」
これは不味い。恵はすかさずエメラルドの熱弁のフォローに回る。
「ね、もし伴侶を見つけたいなら、その為には暗いところにいちゃ駄目です。あなたはもっとお日様の下に出て輝くべきなのですよ! 恵も以前はもてませんでしたし」
同じ名前だと知った途端、磐田はどす黒い笑みを浮かべる。
「ふ、ふふ……前はモテなかったんだ?」
「はい。でも、こっちにきてから知り合っただんな様と結ばれるまでになりました」
「だ、だんな様?!」
年下の少女にだんな様がいると聞いて、度肝を抜かれた顔になる。
「貴女のモテない理由はその格好にありますっ! もっと、身だしなみとかおしゃれに気を使うべきなのですよ!」
「なっ! いつもはもっとちゃんと」
「却下です」
「ま、待て恵。彼女の格好は儀式を行うための由緒正しい……」
エメラルドが磐田を擁護するが、恵はファッションチェックに忙しいのでスルーされた。二人の格好を交互に見て、恵はひとり頷く。
「うん、磨けば光りますよ。きっと」
うんうん、とミアもファッションチェックに加わる。
「キレイな黒髪なのに、勿体ないピヨ。飾るなら蝋燭じゃなくて髪飾りにするピヨ。それに、磐田ちゃんは細身だからどんなお洋服も着れるピヨよ」
二人に褒められて満更ではないようだ。青白い磐田の頬が赤くなる。
「エメもね、あんまり露出が多いと軽ーい男の人ばっかり寄ってきちゃうよ」
「この格好は男の気を引く為ではない!」
「このリア充代表ともいえるこの恵が、二人まとめてレクチャーしてさしあげます」
任せてください、と恵は胸を叩く。
「勝手に話を進めるな!」
エメラルドの叫びは虚しく消える。
そんなやり取りを眺めていた燐火が、ひとつの提案をする。
「こ、この際、友達とはいかなくても、し、知り合いをつくってはどうでしょう」
「と、友達ぃ?!」
磐田は素っ頓狂な声を上げる。
「ま、まずはご近所の人とかから。出来る事ならお手伝いしますし」
それは名案だと、テンパる磐田の手を最初に取ったのは白樺だった。
「ね、シロとお友達になってほしいの。シロは恵の寂しそうなお顔より、絶対に可愛い笑顔が見たいな?」
「え、あ、うん」
磐田熟れたトマトのような顔で頷く。今度は空いた片方の手をミアがにぎりしめる。
「ミアはミアニャス。よかったら、ミアとお友達になろうニャス♪」
「う、あ、うん」
思ってもみなかった友達申請に、磐田は挙動不審である。しかし、もう陰鬱な空気は纏っていない。
静かに磐田を囲むハンターたちを見つめていた空蝉が、ゆるりと腰を上げた。
「恵殿、今宵はもう遅い。ご自宅まで送ります」
磐田をお姫様抱っこで抱き上げる。うひゃあ、と乙女らしからぬ奇声を上げるが、空蝉は気にする様子もない。
「恵さん!」
空蝉に運ばれる磐田に、ミオレスカは呼び掛ける。
「今度、遊びに来てもいいですか? 作り方は何とかしますので、是非どんな物があるかもっと教えてください」
今度は白樺も大きく手を振る。
「シロも遊びに行くね♪」
もう友達だからね! と告げると磐田の強張っていた表情に、初めて笑みが零れた。
カーン、カーン……。
草木も眠る丑三つ時。静まり返った村に響き渡る音。セリナの言う通り、犯人は磐田恵で間違いない。情報どおり、彼女の儀式の衣装はかなり薄着だ。この寒さの中でかなりの根性がないとできそうにない。
「ほぁ…夜は寒いの……それにこの音……ふえぇぇ」
怖くないと、白樺(ka4596)は小さく震える手をきゅっと握り締める。
だが、無表情のまま大木に釘を打ち付ける恵の姿は誰の目から見ても怖い。
「それにしても、その妙な知識の源はどこからなのでしょうかねー」
その情熱を別にぶつければ恋人くらいできそうなものなのですが、と玉兎・恵(ka3940)呟く。しかも同じ名前というのが微妙だ。
「ダメだ! 見てはいかん!」
儀式を行う恵の姿を、半ば呆れ気味に眺める恵の前に、エメラルド・シルフィユ(ka4678)が立ち塞がる。
信心深いエメラルドは異世界の呪いを恐れているようが、一方アレイダ・リイン(ka6437)は馬鹿々々しいと一蹴する。
「呪いとか悪霊とか、そういうのに突っ走るのは科学的に立証できる日が来てからにしてほしいね」
「し、しかしそれで万一誰かが彼女の呪いにかかれば……」
ブツブツと呟くエメラルドに恵がツッコみを入れる。
「見ていないうちにいなくなったら? 任務にならないでしょ?」
「確かに。やむを得んか……だが儀式の最中は見てはならないぞ」
「はいはい」
「絶対に見ては……!」
全員に「しいっ!」と諫められ、エメラルドは口元を押される。
「それにしても、呪いにかける情熱があるなら、自分を磨くことに情熱をかけて貰いたいです」
控えめにだが、ぽつりと呟いた燐火(ka7111)の言葉に誰もが頷く。しかしそんな中、静かにハンターたちのやりとりを眺めている空蝉(ka6951)だけは、絶えず薄っすらと微笑みを浮かべていた。
カーン、カーン……不気味な音が響き渡る中、ミオレスカ(ka3496)は着々と焼き芋の用意を進める。枯葉を集め、火を入れる。パチパチを音を立てて枯葉が燃える。暗く寒い中に灯る炎は、見ているだけでホッとする。
頃合いを見て、ミオレスカは用意したサツマイモを枯葉の中に埋める。ぽってりと大きなサツマイモは、じっくりと焼けばさぞかし美味しいだろう。
ふと、金槌の音が止んだ。儀式が終わったようだ。
モミの木に背を向けた磐田の表情は鬼気迫るものだった。寒さで歯を震わせ、その顔色は白いというよりか青い。汗で張り付いた黒髪をはらいもせず、疲れ切った体を引きずるように歩き出す。
作戦開始。一番となったミア(ka7035)はピヨピヨ……と磐田の下へと向かう。ふわふわモフモフなその後ろ姿を、ハンターたちは固唾を呑んで見守る。
「ピヨー、カーンカーン聞こえて眠れないピヨー」
「うっ!」
磐田の目の前に現れたのは、大きなにわとりであった。頭にひよこを乗せたそれは、思わず抱き締めたくなるような丸みを帯びたフォルム。見るからに手触りも良さそうだ。ふわふわモフモフを具現化したミアを目にして、磐田は思わず後ずさった。
「なにこれ、か、か、か……」
乾いた彼女の唇が震えている。可愛い、とようやく呟いた磐田は、どうやら可愛いものに弱いらしい。はわわ……と目を潤ませている。
追い打ちを掛けるように、ミアは愛らしく首を傾げる。
「なにしてるピヨ?」
「何、何をしいてるって……」
声まで可愛い! と悶えていたが、はっと我に返る。
「もしかして、見た? にわとりさん、見ちゃったの?」
ミアは首を振るが、すでに磐田の視界には入っていなかった。
「見たよね……間違いないよね……殺さないと……もーマジ勘弁なんですけど」
ぶつぶつと呟きながら、刀のように帯に挟んだ包丁に手を掛けた。その手は微かに震えている。
「ピヨ?」
「うわあぁぁ! ぜったい無理いぃ!」
磐田は絶叫すると、脱兎のごとく逃げ出した。
疾走したつもりのようだが、高下駄ではそう早く走れるはずもない。しばらくもしないうちに磐田はこけた。
「いたぁ……」
傷みを堪えながら起き上がった彼女の前に、立ちはだかっていたのはアレイダ・リイン(ka6437) であった。彼女の姿を目にした途端、磐田の目つきは一変。険しいものになる。
「君は寂しさの埋め合わせるためにこんな真似をしたんだね?その気持ちはわかるよ。しかし……」
「見たね?」
のろのろと起き上がり、磐田は再び包丁の柄に手を掛ける。しかしアレイダは答えず、ただ静かに微笑む。
「リア充は殲滅する! 恨むならあんたのお綺麗な顔を恨みな!」
どうやら可愛い系以外には容赦がないようだ。
「叩き潰してやる!」
包丁から金槌に武器を変更すると、奇声を上げてアレイダに突進する。
「それにいい年して子供じみた嫉妬心剥き出しにしてみっともないったらありゃしないね」
「うるさい! いい年言うなぁ!」
三十路を目前にした微妙なお年頃なのだ。年齢の話題は禁句であった。彼女が戦う目的は、呪い返しのためではなく、目の前のリア充を倒すことになっていた。
二人の武器がぶつかり、鈍い音と火花が飛び散る。金槌をイガリマで防いだものの、案外磐田の一撃が重たいことに驚く。アレイダは闘気昂揚で戦闘準備を整える。
きぇっ! と奇声と共に磐田は振り上げた金槌を振り下ろす。
わかりやすい磐田の攻撃を避けるのは簡単だった。しかし案外素早く、そしてしつこい。イガリマが届かない距離に逃れた磐田は雄叫びを上げながら、高下駄を投げ飛ばしてきた。
アレイダが高下駄での攻撃で隙が生まれた瞬間、磐田は跳躍し、金槌で脳天から……という構想があったのだろう。しかし、覚醒者としての潜在能力があったとしても、所詮は素人。アレイダは高下駄など軽くかわし、金槌は振り上げられる前に磐田の手から弾き飛ばす。気が付くとアレイダのイマリガの切っ先は、磐田の喉元に向けられていた。
「大人なら欲しいモノやしたいことぐらい、自分で探しな」
「こ、の、リア充がぁ!」
叫ぶものの、歯の根が合わず声は震えている。ぎり、と周囲にも聞こえるほどの歯軋りをした時だった。
「や、やめましょう!」
飛び出した燐火がアレイダと磐田の間を割るように立ちはだかる。アレイダも無論本気ではない。磐田が大人しくなったのを見届けで、そっと刃を引く。
「こんばんは。こんな時間に女の子が一人で歩いてちゃ危ないの」
地面に転がる磐田に、白樺はそっと手を差し出す。突然現れた白樺と燐火の姿に驚いた様子だ。
「角とオッドアイ……ちょ、やば……可愛いすぎ」
リアルブルー出身者と明らかに違う彼女ら? の容姿に感動しているらしい。クリムゾンウェストに友人がいないという情報は確かのようだ。
「あのね、夜になると変な音がするって聞いたから調べに来たんだけど、お姉さん音のした方から来たけど知らない?」
白樺の手を取りかけた磐田の動きが止まった。こいつ等もか、と小さく呟き、すさんだ目で二人を見つめる。
できれば彼女と戦いたくない。磐田を説得する言葉を、燐火なりに必死に考えた。
「こ、恋人がいるからリア充、いないからリア充じゃない、何て事無いと思うのですが」
「はぁ?」
声に険しさが宿る。恋人の話題は禁句だったと気付いた瞬間、磐田の手が包丁に伸びる。
刃が弧を描く。燐火はすばやく距離を取る。逃すまいと磐田は刃を振り上げて跳躍する。しかし白樺は逃げようとしなかった。
「いいよ! 全部受け止めるの」
彼女の攻撃を受け入れようと両腕を広げる。まさか逃げないとは磐田も思わなかったようだ。一瞬、彼女の瞳に動揺が走る。
「……え」
磐田が恐る恐る目を開くと、目の前にいるのは空蝉であった。白樺を庇った彼は攻撃を避けもせず、その身に刃を受けていた。
「う、そ」
刃を突き立てた手ごたえと、空蝉の腹部に刺さった包丁が磐田を正気に戻したようだ。小さな悲鳴を上げると、その場にずるりとへたり込んだ。カラン、と地面に包丁が転がる。
戦闘はおろか、人など刺したこと一度もない無い。磐田はだた自分のしでかしたことに茫然となる。
戦意を喪失した磐田を気絶させる必要はない。そう判断した空蝉は、静かに戦闘の終わりを告げた。
「ターゲット確保」
震えている磐田の前にしゃがみ込んだ白樺は、にこりと微笑みかける。
「……あ、シロは白樺、よろしくなのっ♪ お姉さんのお名前聞いても良いかな?」
「恵……」
「恵って素敵な名前なの♪ 」
寒そうな肩に上着を掛けてあげながら、白樺はゆっくりと優しく囁く。
「恵かぁ。誰かの為に……ってお名前……じゃぁ、恵の為には誰なんだろうね?」
「……の為に、なんて。どうせいないし」
俯いた磐田の目から、ぼろっと涙が零れる。本人は堪えようと唇を噛みしめているが、涙は決壊したかのように止まらない。
「う、う、……わああん!」
静まり返った村に、子供のような泣き声が響き渡る。そして泣き声とはもるように、ミオレスカの鼻歌が聴こえてきた。
「ららららー、おいもー、美味しいー。でもちょっと大きいからー……」
甘い焼き芋の匂いが漂ってきた。どうやら食べ頃のようである。
●本当は寂しかったんです
焼き芋は、ほくほくと甘く焼きあがっていた。ミオレスカは最初に磐田に手渡すが、突然手渡された焼き芋に戸惑っているようだ。
「深夜のお勤め、ご苦労様です」
もちろんハンターたちの分もある。真っ先に取りに来たのは最後のひとつは空蝉のものだ。彼が刺されたことを思い出し、ミオレスカは一人佇む空蝉に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「はい……謝謝」
空蝉は焼き芋を受け取ると淡くほほ笑む。幸いボディは破損には至らなかったらしい。しかし包丁がひしゃげるほどの打撃があった後だ。大事を取るに越したことはない。
「ん、美味しい!」
にわとりが焼き芋を食べている。着ぐるみのまま、どうやって食べているのがは謎である。小さな手で熱々の焼き芋を持ち、ふうふうと食べている燐火の姿も微笑ましい。
「恵、ミルクティーにあうよ♪」
白樺に勧められ、磐田もようやく焼き芋を口にする。
「……おいしい」
思わず零れた磐田の呟きに、ミオレスカは、ずずいっと距離を詰める。
「暗くて不安な時に誰かと一緒に食べる温かいものって、いっそう美味しいですよね」
こくり、と磐田は頷いた。
「ブルーからこられた方なのですね。お醤油やお味噌の料理ってどんなものがあるんですか?」
「醤油や、味噌?」
戸惑うように磐田は「えっと……」と宙を睨む。どうやら料理はあまりしないようだ。
「ええと、塩なら知っているけど……盛り塩、とか?」
それは料理ではない。
「いやまて。盛り塩は料理ではないぞ。邪気を祓い、浄化を促すものでは?」
だがここは敢えて流そうと思っていたら、エメラルドがツッコんでしまった。
「呪いに身を堕とした君が浄化の方法を知っているとは……まだきっと救いはある」
「はあ」
磐田の塩対応にも気付かず、彼女は訴える。
「め、めぐ……磐田恵」
こほん。咳払いをしてエメラルドは語り出す。
「君が辛かったのはわかる。その為村人を呪おうとする気持ちもやむを得ない」
アレイダも、これだけは言っておかねばと磐田に告げる。
「このご時世、呪いなんてものが都合よく使えるわけないじゃないか。歪虚って化け物が絡んでいるかもしれないよ? もしそうだとしたら君自身の命だって危ない」
「う……」
磐田は唇を噛みしめる。自らの行動を悔やんでいるのか、指摘されて悔しいのかはわからない。
「君が本当に欲しているのは復讐か? そうではないだろう。君の前に生涯伴侶が現れないなど誰が決めた!?」
「……はあぁ?」
これは不味い。恵はすかさずエメラルドの熱弁のフォローに回る。
「ね、もし伴侶を見つけたいなら、その為には暗いところにいちゃ駄目です。あなたはもっとお日様の下に出て輝くべきなのですよ! 恵も以前はもてませんでしたし」
同じ名前だと知った途端、磐田はどす黒い笑みを浮かべる。
「ふ、ふふ……前はモテなかったんだ?」
「はい。でも、こっちにきてから知り合っただんな様と結ばれるまでになりました」
「だ、だんな様?!」
年下の少女にだんな様がいると聞いて、度肝を抜かれた顔になる。
「貴女のモテない理由はその格好にありますっ! もっと、身だしなみとかおしゃれに気を使うべきなのですよ!」
「なっ! いつもはもっとちゃんと」
「却下です」
「ま、待て恵。彼女の格好は儀式を行うための由緒正しい……」
エメラルドが磐田を擁護するが、恵はファッションチェックに忙しいのでスルーされた。二人の格好を交互に見て、恵はひとり頷く。
「うん、磨けば光りますよ。きっと」
うんうん、とミアもファッションチェックに加わる。
「キレイな黒髪なのに、勿体ないピヨ。飾るなら蝋燭じゃなくて髪飾りにするピヨ。それに、磐田ちゃんは細身だからどんなお洋服も着れるピヨよ」
二人に褒められて満更ではないようだ。青白い磐田の頬が赤くなる。
「エメもね、あんまり露出が多いと軽ーい男の人ばっかり寄ってきちゃうよ」
「この格好は男の気を引く為ではない!」
「このリア充代表ともいえるこの恵が、二人まとめてレクチャーしてさしあげます」
任せてください、と恵は胸を叩く。
「勝手に話を進めるな!」
エメラルドの叫びは虚しく消える。
そんなやり取りを眺めていた燐火が、ひとつの提案をする。
「こ、この際、友達とはいかなくても、し、知り合いをつくってはどうでしょう」
「と、友達ぃ?!」
磐田は素っ頓狂な声を上げる。
「ま、まずはご近所の人とかから。出来る事ならお手伝いしますし」
それは名案だと、テンパる磐田の手を最初に取ったのは白樺だった。
「ね、シロとお友達になってほしいの。シロは恵の寂しそうなお顔より、絶対に可愛い笑顔が見たいな?」
「え、あ、うん」
磐田熟れたトマトのような顔で頷く。今度は空いた片方の手をミアがにぎりしめる。
「ミアはミアニャス。よかったら、ミアとお友達になろうニャス♪」
「う、あ、うん」
思ってもみなかった友達申請に、磐田は挙動不審である。しかし、もう陰鬱な空気は纏っていない。
静かに磐田を囲むハンターたちを見つめていた空蝉が、ゆるりと腰を上げた。
「恵殿、今宵はもう遅い。ご自宅まで送ります」
磐田をお姫様抱っこで抱き上げる。うひゃあ、と乙女らしからぬ奇声を上げるが、空蝉は気にする様子もない。
「恵さん!」
空蝉に運ばれる磐田に、ミオレスカは呼び掛ける。
「今度、遊びに来てもいいですか? 作り方は何とかしますので、是非どんな物があるかもっと教えてください」
今度は白樺も大きく手を振る。
「シロも遊びに行くね♪」
もう友達だからね! と告げると磐田の強張っていた表情に、初めて笑みが零れた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/28 09:26:31 |
|
![]() |
相談卓 空蝉(ka6951) オートマトン|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/01/29 00:13:18 |