ゲスト
(ka0000)
阻止せよ! ゴブリン育成計画
マスター:成沢 灯
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/29 19:00
- 完成日
- 2018/02/04 01:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
夕闇が迫る森の中を少女は歩いていた。
その前には兄の背中がある。しかし大股で進むその背は少し気を抜くとすぐに遠ざかってしまう。
「おにいちゃん」
少女はか細い声でそう囁くと慌てて後を追いかけた。
「おにいちゃん、帰ろうよ」
そして何度呼ぼうと振り返ることのない彼の服を力なく掴む。
そこで兄はようやく彼女の方を顧みた。
むっと不機嫌そうに唇を突出して言う。
「おれは帰らない。お前は戻れよ」
「そんな……森に入ったってばれたらおかあさんに怒られちゃうよ」
頑なな兄に少女はそう詰め寄った。
彼女達が暮らす村では年端もいかない少年ばかりを狙った誘拐事件が発生していた。
そのため森へ立ち入らないようにと母からきつく言い含められている。
二人はそれを破ってまで森に入っているのだ。気付かれればきつく叱られるのは避けられない。
もしかしたらそのまま誘拐される危険だってあるのだ。
そんなリスクを冒してまでなぜ森へ足を踏み入れたのか。
それはつい数日前に攫われた兄の友人が理由だった。
「あいつが居なくなったのはおれのせいだ」
まだ誘拐事件が問題視される前。狩りの手伝いをしていた友人と兄。
その日、二人は途中ではぐれてしまい村に戻ったのは彼だけだった。
自分がしっかりしていれば。兄はそう思いながらこの数日を過ごした。
そして居ても立ってもいられなくなり、家を飛び出して友人捜しに乗り出したのだ。
「でも、おじさん達でも見つけられなかったんだよ?」
もちろん、この状況に村が何の対策もとっていないわけがない。
一昨日、昨日と行われた捜索のことは二人とも承知していた。
それでも尚、行方不明になった子ども達を見つけられなかったことも。
だから自分たちがどうにか出来るはずがない。
言外に込められた意味に兄は少女の手を振りほどくと「それでも!」と怒鳴り声を上げた。
少女の小さな体がびくりと震える。
今にも泣き出しそうな顔に少年は一度口を噤み、視線を逸らした。
「とにかく、お前は先に帰れよ」
力のない声だったが、そこに込められた決意は固かった。
「おにいちゃん」
対する少女も涙に濡れた瞳で首を横に振る。帰るのならば兄も一緒に帰りたい。
「お前なあ!」
それに少年は再び声を荒げた。
その時。
がさり、と近くの茂みが音を立てた。
二人、同時に身を竦ませる。
音は徐々に徐々に近付いてきた。
そして音の正体が姿を現したその瞬間、森に響き渡るほどの悲鳴が上がる。
――そして、少年と少女は姿を消した。
●
行方不明になった少女が見つかったのはすっかり夜も更けた真夜中だった。
無事に保護された少女は母に介抱されながら「おにいちゃんが……」と残して気を失ってしまった。
そして翌日、回復した彼女から村の長が話を聞くと、二人は友人を探していたところをゴブリンに襲われたのだという。
逃げる途中で少女は兄とはぐれてしまったため、兄がどうなったかはわからない。
しかし、ゴブリンは兄の方を追いかけていったという。
そのまま森の中を彷徨い、なんとか村にたどり着いたというのが昨日の顛末だった。
村長は少女の話から兄の方は既にゴブリンに捕らえられており、連日の誘拐事件も彼らの仕業だと結論づけた。
そして、村で有志の討伐隊を募り、ゴブリン討伐に乗り出した。
集まったのは村の男達、二十人。
彼らはすぐに森の中へ入ったが、それから数日間戻ってくることはなかった。
森の状態は逼迫しており、これ以上人を派遣することは難しかった。
そうして手をこまねいている内にどんどんと日が過ぎていく。
するとしばらくしてから討伐隊の内の五人が満身創痍の状態で村へと帰還した。
その中には精神を病んでいるのか。禄に言葉を交わせないような者も居た。
村長は可及的速やかにまだ症状の軽い一人から話を聞く。
彼が言うにゴブリンは総勢で三十体程。
森の奥にある洞窟を根城にしているという。
討伐隊はそこでゴブリン達に捕まった。
そこには誘拐された少年達も居たが、大人と子どもは別々に幽閉されたため、救い出すことは叶わなかったという。
そして彼らは棍棒などで殴られるなどの拷問を受けながら戦士となるための訓練を受けさせられた。
なんとかゴブリンの隙を見て大人達は逃げ出したものの、その内の十人程が再び捕らえられ、数名は弓矢で射殺された。
ゴブリンの目的は訓練した人間達を使って近隣の村々を襲わせて支配することだという。
この村も直に乗っ取られる。
男はそう言うと堅く口を閉ざした。
事態を深刻に捉えた村長はこのままではいけないとハンターにゴブリン討伐を依頼することにした。
「もはや我々の手には余る事態です。どうか皆様のお力で村人を救ってください」
夕闇が迫る森の中を少女は歩いていた。
その前には兄の背中がある。しかし大股で進むその背は少し気を抜くとすぐに遠ざかってしまう。
「おにいちゃん」
少女はか細い声でそう囁くと慌てて後を追いかけた。
「おにいちゃん、帰ろうよ」
そして何度呼ぼうと振り返ることのない彼の服を力なく掴む。
そこで兄はようやく彼女の方を顧みた。
むっと不機嫌そうに唇を突出して言う。
「おれは帰らない。お前は戻れよ」
「そんな……森に入ったってばれたらおかあさんに怒られちゃうよ」
頑なな兄に少女はそう詰め寄った。
彼女達が暮らす村では年端もいかない少年ばかりを狙った誘拐事件が発生していた。
そのため森へ立ち入らないようにと母からきつく言い含められている。
二人はそれを破ってまで森に入っているのだ。気付かれればきつく叱られるのは避けられない。
もしかしたらそのまま誘拐される危険だってあるのだ。
そんなリスクを冒してまでなぜ森へ足を踏み入れたのか。
それはつい数日前に攫われた兄の友人が理由だった。
「あいつが居なくなったのはおれのせいだ」
まだ誘拐事件が問題視される前。狩りの手伝いをしていた友人と兄。
その日、二人は途中ではぐれてしまい村に戻ったのは彼だけだった。
自分がしっかりしていれば。兄はそう思いながらこの数日を過ごした。
そして居ても立ってもいられなくなり、家を飛び出して友人捜しに乗り出したのだ。
「でも、おじさん達でも見つけられなかったんだよ?」
もちろん、この状況に村が何の対策もとっていないわけがない。
一昨日、昨日と行われた捜索のことは二人とも承知していた。
それでも尚、行方不明になった子ども達を見つけられなかったことも。
だから自分たちがどうにか出来るはずがない。
言外に込められた意味に兄は少女の手を振りほどくと「それでも!」と怒鳴り声を上げた。
少女の小さな体がびくりと震える。
今にも泣き出しそうな顔に少年は一度口を噤み、視線を逸らした。
「とにかく、お前は先に帰れよ」
力のない声だったが、そこに込められた決意は固かった。
「おにいちゃん」
対する少女も涙に濡れた瞳で首を横に振る。帰るのならば兄も一緒に帰りたい。
「お前なあ!」
それに少年は再び声を荒げた。
その時。
がさり、と近くの茂みが音を立てた。
二人、同時に身を竦ませる。
音は徐々に徐々に近付いてきた。
そして音の正体が姿を現したその瞬間、森に響き渡るほどの悲鳴が上がる。
――そして、少年と少女は姿を消した。
●
行方不明になった少女が見つかったのはすっかり夜も更けた真夜中だった。
無事に保護された少女は母に介抱されながら「おにいちゃんが……」と残して気を失ってしまった。
そして翌日、回復した彼女から村の長が話を聞くと、二人は友人を探していたところをゴブリンに襲われたのだという。
逃げる途中で少女は兄とはぐれてしまったため、兄がどうなったかはわからない。
しかし、ゴブリンは兄の方を追いかけていったという。
そのまま森の中を彷徨い、なんとか村にたどり着いたというのが昨日の顛末だった。
村長は少女の話から兄の方は既にゴブリンに捕らえられており、連日の誘拐事件も彼らの仕業だと結論づけた。
そして、村で有志の討伐隊を募り、ゴブリン討伐に乗り出した。
集まったのは村の男達、二十人。
彼らはすぐに森の中へ入ったが、それから数日間戻ってくることはなかった。
森の状態は逼迫しており、これ以上人を派遣することは難しかった。
そうして手をこまねいている内にどんどんと日が過ぎていく。
するとしばらくしてから討伐隊の内の五人が満身創痍の状態で村へと帰還した。
その中には精神を病んでいるのか。禄に言葉を交わせないような者も居た。
村長は可及的速やかにまだ症状の軽い一人から話を聞く。
彼が言うにゴブリンは総勢で三十体程。
森の奥にある洞窟を根城にしているという。
討伐隊はそこでゴブリン達に捕まった。
そこには誘拐された少年達も居たが、大人と子どもは別々に幽閉されたため、救い出すことは叶わなかったという。
そして彼らは棍棒などで殴られるなどの拷問を受けながら戦士となるための訓練を受けさせられた。
なんとかゴブリンの隙を見て大人達は逃げ出したものの、その内の十人程が再び捕らえられ、数名は弓矢で射殺された。
ゴブリンの目的は訓練した人間達を使って近隣の村々を襲わせて支配することだという。
この村も直に乗っ取られる。
男はそう言うと堅く口を閉ざした。
事態を深刻に捉えた村長はこのままではいけないとハンターにゴブリン討伐を依頼することにした。
「もはや我々の手には余る事態です。どうか皆様のお力で村人を救ってください」
リプレイ本文
●
岩井崎 旭(ka0234)が連れるイヌワシ、ジェローが空を駆ける。
ファミリアズアイでジェローと視覚を共有した彼が捕らえたのは村人達が言っていたゴブリンが根城にしていると思われる洞窟だった。
「洞窟はこのまま進んでいけば着きそうだ。……あと、すぐ近くに人影、とゴブリンの姿もあるな。ここからじゃ何をやってるかまでは見えないな」
彼を守るようにして周囲の警戒に当たる仲間達に見えた物を伝える。
「確か見つかってないのは少年十名と大人十三名ですよね。全員そこにいるんでしょうか?」
尋ねたのは夜桜 奏音(ka5754)だ。問いかけに旭はううんと眉間に皺を寄せた。
「そこまで数がいるようには見えないな。まだ中にも居ると思うぜ」
そういうと彼は遠くを見つめていた瞳を仲間に向ける。
すると木々の隙間を縫ってジェローが彼の元へと帰還した。
それを合図に全員は顔を見合わせて進軍を始める。
「こんなところガキがうろちょろするもんやないで……」
森の中を進みながら直感視を使用していた冬樹 文太(ka0124)が小さくぼやいた。
「周囲に敵影はなしや。あと、あそこに獣道があるけど、もしかしてゴブリンの通り道やろか?」
彼が指し示した場所には草木をかき分けた跡があり、確かに道のようになっていた。
二人が並んで通れる程の広さで、使い込まれている様子が窺えた。
真っ直ぐに伸びた道と事前に村で聞いていた情報、そして旭の見た物から総合的に判断してそこが洞窟まで伸びていることは明白だ。
「迷わず進むならここを通っていった方が確かだろうな」
多田野一数(ka7110)が少し迷うような素振りを見せながらそう提案した。
「罠もなさそうやし、大丈夫とちゃうか?」
それに文太が同意を示す。他の者からも異論が出ることはなかった。
周囲に警戒をしながらその道を進む。
しばらくすると、少し開けた空間に出る。そこが洞窟の入り口だった。
「隠れましょう」
先頭を行くクオン・サガラ(ka0018)が木の陰に身を潜める。
全員息を殺して入り口の様子を窺った。
六人ほどの人々が並ばされているのが見える。服装などから捕らえられた村人であると思われた。
彼等を囲うように十体ほどのゴブリンが棍棒を片手に立っている。入り口付近には二体の弓を番えたゴブリンが居た。
下卑た笑みを浮かべながら一列になった村人達を棍棒で滅多打ちにしている。
悲鳴が上がる。
苦悶の声が響く。
そこには恐怖が広がっていた。
「許せない……」
その非道な行いにティス・フュラー(ka3006)の静かな怒りに満ちた声が森に小さく響く。
彼女は大きく深呼吸をすると手に持った杖に力を込めた。
「スリープクラウド!」
声と共に現れたガスにゴブリン達は一瞬動揺する素振りを見せるが、すぐに眠りへと落ちていった。
それに合わせてクオンが飛び出す。高速で放たれた矢が少し離れた位置に居る弓を持ったゴブリンを撃ち抜いた。
仲間を殺されたもう一体のゴブリンは狙いをクオンに定めて弓を放とうとする。
しかし、木の隙間から狙いを定めていた文太の射撃によって眉間を撃ち抜かれてその動きを止めた。
纏まっていたゴブリン達は全てスリープクラウドによって眠りに誘われていた。その一体一体をリカルド=フェアバーン(ka0356)が手に持った刀で喉を突き、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)もまた首を跳ねて着実に息の根を止めていく。
「彼らはどうしましょう?」
全てが終わると血のりを払いながらユーリが言う。その眼下には苦痛から解放され、安らかに眠る村人達がいた。
万が一を恐れてティスと奏音がロープを持ってきたが、先ほどの様子を見た限りだと目が覚めてもきちんと説明をすれば彼等が暴れる危険性は少ないように思えた。
「目が覚めたら俺が説明しよか。それならわざわざ縛らなくても良いやろ」
にこやかに告げる文太の提案に異議を唱える者は居ない。
そして周囲の見回りを買って出たクオンと、未だ目覚める気配のない村人の警護をする文太を除いた六名。旭、ユーリ、リカルド、ティス、奏音、一数が洞窟の中に侵入することになった。
六人が洞窟内部に侵入していくのを見送ってクオンがフライングスレッドに乗り込んだ。
「ではわたしは他に出口がないかを見てきます」
ゆっくりと舞い上がったその体はあっという間に洞窟を越える。
洞窟の上部には深い森が延々と広がっていた。
そこから他に出入り口になりそうな場所は見当たらない。
クオンはそれを目視で確認すると事前に周波数を合わせていたトランシーバーに向けて声を掛けた。
「こちらクオン・サガラ。他に出入り口になりそうな場所はありません。入り口の警戒に戻ります」
そしてゆっくりと上空で旋回すると入り口に向かう。
その途中、トランシーバーが文太の声を受信した。
「冬樹や。改めて報告やけど眠ってる村人は六人、ゴブリンは十三体居ったで」
村人から聞いた話ではゴブリンは合計で三十体居たという。つまり残りは十七体。それだけの数が洞窟の中にまだ潜んでいるということだった。
●
洞窟に潜入した六人は分岐に差し掛かっていた。
二股に分かれた道。そこで旭が耳を澄ます。
彼の持つスキル、超聴覚が洞窟全体の音をくまなく拾い上げた。
「右側が騒がしいな。結構な人数が居るみたいだ」
その耳が金属音と大きな笑い声を捉える。
「残りは十七体だよな?」
一数が静かに呟いた。
左側の通路が気になりはしたが、どちらにどれだけの敵が潜んでいるかわからない。ここで戦力を分けるのは得策とは思えなかった。
「入り口は一カ所しかない。仮にここから逃げてもサガラと冬樹が抑えるだろう。なら俺達は多い方を片付けるべきじゃないか?」
そう提案したのはリカルドだ。
彼らは頷き合うと隊列を組んで左側の通路を歩み始めた。
洞窟の中は広くない。しかし並んで歩くのには苦労しないほどの幅がある。
しばらく歩いていると僅かに光が覗いているのが見えた。
ぼんやりとした橙色は松明の明かりのようだ。
物陰に隠れて覚醒者達は中の様子を窺う。
そこでは七名の村人が強制的に働かされていた。四名がツルハシを持って硬い岩肌を掘り進め、三名が袋に詰めた岩を一カ所に集めている。
全員が虚ろな瞳でただひたすらに同じ作業を繰り返している。
そこに人の尊厳はなく、その扱いはまるで機械のようだった。
ゴブリン達は遠巻きにその様を見ている。中には力尽きて倒れた者を棍棒で殴って無理矢理働かせている個体もあった。
旭が後ろを振り返る。仲間達が頷くのを確認してから旭はサングラスを掛けると「行くぞ」と短く呟き、光の弾をゴブリン達に向けて素早く放った。
突然の閃光に村人やゴブリンから悲鳴が上がる。
暗闇を目映く照らし出す光から覚醒者達は顔を逸らしてやり過ごす。
そして、光が収まるのを待って中へと飛び込んだ。
「さぁ、互いの祈りと願いを刃に乗せて切り結びましょう。命が惜しいのなら剣を捨てなさい、剣をとるなら命を捨てる覚悟で挑みなさい」
静かに囁いたユーリは蒼い稲妻のようにゴブリンへ切り込む。閃光は直線上に居た三体を一気に仕留めた。
未だに光に目が眩んでいるゴブリンは抵抗することも出来ず、血だまりの中に倒れた。
そして彼女はそのまま迎撃のために迅雷の構えをとる。
その間に奏音は手に持った符をゴブリン三体に向けて放った。迸る雷撃は寸分の違いもなくゴブリンを刺し貫き、あっという間に息の根を止める。
近くではティスが氷の矢を生み出し、それをゴブリンに向けて放つ。それはゴブリンを凍てつかせるとそのまま命を絶った。
駆け出したリカルドはふらつくゴブリンの一体に狙いを定めると至近距離から銃で二発頭を撃ち抜く。ぐらりとその体が傾ぎ、物言わぬ屍だけがそこに転がった。
その中でようやく目くらましから解放されたゴブリンの数体が逃走を図ろうと走り出す。
ゴブリンは村人に向かって突き進んでおり、近くにいた一数は電光石火でその内の一体を撃破した。
旭もまた幻影によって生み出された巨大な手をゴブリンへと差し向ける。それに捕まれたゴブリンは身動きを取ることも出来ず彼の元まで誘われ、入れ違いで彼の持つ槍に刺し貫かれた。
場は混迷を極めていた。
入り口を塞がれたゴブリンは逃げ惑い、少しでも自身の有利にことが運ぶように村人達を人質にとろうと躍起になる。
「我が刃恐れるならば、この雷越す事敵わず――。一振りの刃たる蒼姫の剣、その業の一つ」
その隙をついて、玲瓏な声が場を支配した。
その身を雷と化したユーリの蒼刃剣舞・白銀雷姫が炸裂する。
周囲にいるゴブリン三体は手も足も出ない。
轟音が響き、全員の意識が一瞬そちらに引き寄せられたその瞬間、不意に「ひいっ」という悲鳴が洞窟内に響いた。
全員が声に視線を向けるとゴブリンの一体が壁の隅で震えていた村人を人質に取っていた。
「ゴブリンなんて魅了したくないんですけどね……」
それを見過ごす奏音ではない。彼女はテンプテーションを使ってゴブリンを魅了する。
ゴブリンは奏音から目を離せなくなり、その瞬間、村人を掴んでいた手が緩んだ。
「離れてください!」
その隙にティスが叫ぶ。村人が離れたのを確認して、彼女のアイスボルトが炸裂した。
氷矢にさし貫かれたゴブリンは自分の身に何が起きたのかもわからないままにその場に倒れ伏した。
覚醒者達の躍進によりゴブリンは残り二体。
勝てないと諦めたのか、その場に立ち止まったゴブリンの眉間をリカルドが再び銃で頭を撃ち抜く。渇いた発砲音が二発響いた。
最後の一体は諦めが悪く、最後まで村人を人質に取ろうとしていた。村人に注意を払っていた一数は再び電光石火を放ってゴブリンの命を絶つ。
それを以てその場にいたゴブリンは全て倒れ伏した。
「ああ……」
静かな嘆息。それを漏らしたのはようやく状況を呑み込んだ村人達の一人だった。
「あんた達、助けに来てくれたのか」
「ああ。大丈夫か?」
憔悴しきった村人に一数が応える。
すると部屋の隅で未だに震えていた一人が尋ねた。
「子ども達はどうしたんだ?」
そこで覚醒者達は改めてその空間を見渡した。
ゴブリンの死体と村人七人以外には誰も居ない。
「倒したゴブリンの数は十七体です」
奏音が告げる。
全員がそれぞれ数えるが結果が変わることはなかった。
「こちらも数え直しました」
そこで入り口で待つクオンから連絡が入る。
「倒したのは三十でちょうどやで。子ども達はどこかに絶対居るはずや」
文太からも報告が入る。そこには僅かな焦りが滲んでいる。
「となれば後は一つしかないな」
しかし対するリカルドは冷静な声で応じると入り口に向けて歩き出した。
●
爆音と爆風の中、先ほどまで戦場だった洞窟が崩れていくのをクオン、ユーリ、リカルド、ティス、奏音の五人が眺めていた。
文太、旭、一数の三人は森の探索と村人の保護を手伝っている。
幸いにも生者であれ死者であれ村人は全員が見つかった。
子ども達は分岐路の左側、その先にあった牢のような空間に閉じ込められていた。
全員、目立った外傷もなく、しばらく休めばすぐに元通りの生活を送れるようになるだろう。
残った五名はこの惨劇を招いた後始末のために洞窟を二度と使えないように用意してもらった爆薬で爆破した。
中にはクオンによって火葬に付されたゴブリンの灰も共に埋められている。
既に他に生き残りがいないことは確認済みだった。繁殖はしていなかったらしく、ゴブリンの子どもの姿はなかった。
生き残りがいる気配もない以上、これ以上悲劇が繰り返されることはないだろう。
しかし、わかったのはそれだけだった。
なぜゴブリンがこのような凶行に至ったのか。それに関する手がかりはなかった。
「なんや随分ズル賢い奴も居たんやなあ」
がらがらと崩れていく洞窟を眺めながら文太がしみじみと呟いた。
「誰かに教わりでもしたんでしょうかね」
奏音は深刻な顔で疑問を呈する。
「前にゴブリンの軍隊を画策した歪虚がいた。その時の生き残りかもな」
ぶっきらぼうに応えたのはリカルドだ。
結局、ゴブリン達が誰かに入れ知恵されたのか、それとも自ら学び行動を起こしたのか。真相はわからない。
しかし、村人達を苦しめた悪夢はこれで終わりを告げたのだった。
岩井崎 旭(ka0234)が連れるイヌワシ、ジェローが空を駆ける。
ファミリアズアイでジェローと視覚を共有した彼が捕らえたのは村人達が言っていたゴブリンが根城にしていると思われる洞窟だった。
「洞窟はこのまま進んでいけば着きそうだ。……あと、すぐ近くに人影、とゴブリンの姿もあるな。ここからじゃ何をやってるかまでは見えないな」
彼を守るようにして周囲の警戒に当たる仲間達に見えた物を伝える。
「確か見つかってないのは少年十名と大人十三名ですよね。全員そこにいるんでしょうか?」
尋ねたのは夜桜 奏音(ka5754)だ。問いかけに旭はううんと眉間に皺を寄せた。
「そこまで数がいるようには見えないな。まだ中にも居ると思うぜ」
そういうと彼は遠くを見つめていた瞳を仲間に向ける。
すると木々の隙間を縫ってジェローが彼の元へと帰還した。
それを合図に全員は顔を見合わせて進軍を始める。
「こんなところガキがうろちょろするもんやないで……」
森の中を進みながら直感視を使用していた冬樹 文太(ka0124)が小さくぼやいた。
「周囲に敵影はなしや。あと、あそこに獣道があるけど、もしかしてゴブリンの通り道やろか?」
彼が指し示した場所には草木をかき分けた跡があり、確かに道のようになっていた。
二人が並んで通れる程の広さで、使い込まれている様子が窺えた。
真っ直ぐに伸びた道と事前に村で聞いていた情報、そして旭の見た物から総合的に判断してそこが洞窟まで伸びていることは明白だ。
「迷わず進むならここを通っていった方が確かだろうな」
多田野一数(ka7110)が少し迷うような素振りを見せながらそう提案した。
「罠もなさそうやし、大丈夫とちゃうか?」
それに文太が同意を示す。他の者からも異論が出ることはなかった。
周囲に警戒をしながらその道を進む。
しばらくすると、少し開けた空間に出る。そこが洞窟の入り口だった。
「隠れましょう」
先頭を行くクオン・サガラ(ka0018)が木の陰に身を潜める。
全員息を殺して入り口の様子を窺った。
六人ほどの人々が並ばされているのが見える。服装などから捕らえられた村人であると思われた。
彼等を囲うように十体ほどのゴブリンが棍棒を片手に立っている。入り口付近には二体の弓を番えたゴブリンが居た。
下卑た笑みを浮かべながら一列になった村人達を棍棒で滅多打ちにしている。
悲鳴が上がる。
苦悶の声が響く。
そこには恐怖が広がっていた。
「許せない……」
その非道な行いにティス・フュラー(ka3006)の静かな怒りに満ちた声が森に小さく響く。
彼女は大きく深呼吸をすると手に持った杖に力を込めた。
「スリープクラウド!」
声と共に現れたガスにゴブリン達は一瞬動揺する素振りを見せるが、すぐに眠りへと落ちていった。
それに合わせてクオンが飛び出す。高速で放たれた矢が少し離れた位置に居る弓を持ったゴブリンを撃ち抜いた。
仲間を殺されたもう一体のゴブリンは狙いをクオンに定めて弓を放とうとする。
しかし、木の隙間から狙いを定めていた文太の射撃によって眉間を撃ち抜かれてその動きを止めた。
纏まっていたゴブリン達は全てスリープクラウドによって眠りに誘われていた。その一体一体をリカルド=フェアバーン(ka0356)が手に持った刀で喉を突き、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)もまた首を跳ねて着実に息の根を止めていく。
「彼らはどうしましょう?」
全てが終わると血のりを払いながらユーリが言う。その眼下には苦痛から解放され、安らかに眠る村人達がいた。
万が一を恐れてティスと奏音がロープを持ってきたが、先ほどの様子を見た限りだと目が覚めてもきちんと説明をすれば彼等が暴れる危険性は少ないように思えた。
「目が覚めたら俺が説明しよか。それならわざわざ縛らなくても良いやろ」
にこやかに告げる文太の提案に異議を唱える者は居ない。
そして周囲の見回りを買って出たクオンと、未だ目覚める気配のない村人の警護をする文太を除いた六名。旭、ユーリ、リカルド、ティス、奏音、一数が洞窟の中に侵入することになった。
六人が洞窟内部に侵入していくのを見送ってクオンがフライングスレッドに乗り込んだ。
「ではわたしは他に出口がないかを見てきます」
ゆっくりと舞い上がったその体はあっという間に洞窟を越える。
洞窟の上部には深い森が延々と広がっていた。
そこから他に出入り口になりそうな場所は見当たらない。
クオンはそれを目視で確認すると事前に周波数を合わせていたトランシーバーに向けて声を掛けた。
「こちらクオン・サガラ。他に出入り口になりそうな場所はありません。入り口の警戒に戻ります」
そしてゆっくりと上空で旋回すると入り口に向かう。
その途中、トランシーバーが文太の声を受信した。
「冬樹や。改めて報告やけど眠ってる村人は六人、ゴブリンは十三体居ったで」
村人から聞いた話ではゴブリンは合計で三十体居たという。つまり残りは十七体。それだけの数が洞窟の中にまだ潜んでいるということだった。
●
洞窟に潜入した六人は分岐に差し掛かっていた。
二股に分かれた道。そこで旭が耳を澄ます。
彼の持つスキル、超聴覚が洞窟全体の音をくまなく拾い上げた。
「右側が騒がしいな。結構な人数が居るみたいだ」
その耳が金属音と大きな笑い声を捉える。
「残りは十七体だよな?」
一数が静かに呟いた。
左側の通路が気になりはしたが、どちらにどれだけの敵が潜んでいるかわからない。ここで戦力を分けるのは得策とは思えなかった。
「入り口は一カ所しかない。仮にここから逃げてもサガラと冬樹が抑えるだろう。なら俺達は多い方を片付けるべきじゃないか?」
そう提案したのはリカルドだ。
彼らは頷き合うと隊列を組んで左側の通路を歩み始めた。
洞窟の中は広くない。しかし並んで歩くのには苦労しないほどの幅がある。
しばらく歩いていると僅かに光が覗いているのが見えた。
ぼんやりとした橙色は松明の明かりのようだ。
物陰に隠れて覚醒者達は中の様子を窺う。
そこでは七名の村人が強制的に働かされていた。四名がツルハシを持って硬い岩肌を掘り進め、三名が袋に詰めた岩を一カ所に集めている。
全員が虚ろな瞳でただひたすらに同じ作業を繰り返している。
そこに人の尊厳はなく、その扱いはまるで機械のようだった。
ゴブリン達は遠巻きにその様を見ている。中には力尽きて倒れた者を棍棒で殴って無理矢理働かせている個体もあった。
旭が後ろを振り返る。仲間達が頷くのを確認してから旭はサングラスを掛けると「行くぞ」と短く呟き、光の弾をゴブリン達に向けて素早く放った。
突然の閃光に村人やゴブリンから悲鳴が上がる。
暗闇を目映く照らし出す光から覚醒者達は顔を逸らしてやり過ごす。
そして、光が収まるのを待って中へと飛び込んだ。
「さぁ、互いの祈りと願いを刃に乗せて切り結びましょう。命が惜しいのなら剣を捨てなさい、剣をとるなら命を捨てる覚悟で挑みなさい」
静かに囁いたユーリは蒼い稲妻のようにゴブリンへ切り込む。閃光は直線上に居た三体を一気に仕留めた。
未だに光に目が眩んでいるゴブリンは抵抗することも出来ず、血だまりの中に倒れた。
そして彼女はそのまま迎撃のために迅雷の構えをとる。
その間に奏音は手に持った符をゴブリン三体に向けて放った。迸る雷撃は寸分の違いもなくゴブリンを刺し貫き、あっという間に息の根を止める。
近くではティスが氷の矢を生み出し、それをゴブリンに向けて放つ。それはゴブリンを凍てつかせるとそのまま命を絶った。
駆け出したリカルドはふらつくゴブリンの一体に狙いを定めると至近距離から銃で二発頭を撃ち抜く。ぐらりとその体が傾ぎ、物言わぬ屍だけがそこに転がった。
その中でようやく目くらましから解放されたゴブリンの数体が逃走を図ろうと走り出す。
ゴブリンは村人に向かって突き進んでおり、近くにいた一数は電光石火でその内の一体を撃破した。
旭もまた幻影によって生み出された巨大な手をゴブリンへと差し向ける。それに捕まれたゴブリンは身動きを取ることも出来ず彼の元まで誘われ、入れ違いで彼の持つ槍に刺し貫かれた。
場は混迷を極めていた。
入り口を塞がれたゴブリンは逃げ惑い、少しでも自身の有利にことが運ぶように村人達を人質にとろうと躍起になる。
「我が刃恐れるならば、この雷越す事敵わず――。一振りの刃たる蒼姫の剣、その業の一つ」
その隙をついて、玲瓏な声が場を支配した。
その身を雷と化したユーリの蒼刃剣舞・白銀雷姫が炸裂する。
周囲にいるゴブリン三体は手も足も出ない。
轟音が響き、全員の意識が一瞬そちらに引き寄せられたその瞬間、不意に「ひいっ」という悲鳴が洞窟内に響いた。
全員が声に視線を向けるとゴブリンの一体が壁の隅で震えていた村人を人質に取っていた。
「ゴブリンなんて魅了したくないんですけどね……」
それを見過ごす奏音ではない。彼女はテンプテーションを使ってゴブリンを魅了する。
ゴブリンは奏音から目を離せなくなり、その瞬間、村人を掴んでいた手が緩んだ。
「離れてください!」
その隙にティスが叫ぶ。村人が離れたのを確認して、彼女のアイスボルトが炸裂した。
氷矢にさし貫かれたゴブリンは自分の身に何が起きたのかもわからないままにその場に倒れ伏した。
覚醒者達の躍進によりゴブリンは残り二体。
勝てないと諦めたのか、その場に立ち止まったゴブリンの眉間をリカルドが再び銃で頭を撃ち抜く。渇いた発砲音が二発響いた。
最後の一体は諦めが悪く、最後まで村人を人質に取ろうとしていた。村人に注意を払っていた一数は再び電光石火を放ってゴブリンの命を絶つ。
それを以てその場にいたゴブリンは全て倒れ伏した。
「ああ……」
静かな嘆息。それを漏らしたのはようやく状況を呑み込んだ村人達の一人だった。
「あんた達、助けに来てくれたのか」
「ああ。大丈夫か?」
憔悴しきった村人に一数が応える。
すると部屋の隅で未だに震えていた一人が尋ねた。
「子ども達はどうしたんだ?」
そこで覚醒者達は改めてその空間を見渡した。
ゴブリンの死体と村人七人以外には誰も居ない。
「倒したゴブリンの数は十七体です」
奏音が告げる。
全員がそれぞれ数えるが結果が変わることはなかった。
「こちらも数え直しました」
そこで入り口で待つクオンから連絡が入る。
「倒したのは三十でちょうどやで。子ども達はどこかに絶対居るはずや」
文太からも報告が入る。そこには僅かな焦りが滲んでいる。
「となれば後は一つしかないな」
しかし対するリカルドは冷静な声で応じると入り口に向けて歩き出した。
●
爆音と爆風の中、先ほどまで戦場だった洞窟が崩れていくのをクオン、ユーリ、リカルド、ティス、奏音の五人が眺めていた。
文太、旭、一数の三人は森の探索と村人の保護を手伝っている。
幸いにも生者であれ死者であれ村人は全員が見つかった。
子ども達は分岐路の左側、その先にあった牢のような空間に閉じ込められていた。
全員、目立った外傷もなく、しばらく休めばすぐに元通りの生活を送れるようになるだろう。
残った五名はこの惨劇を招いた後始末のために洞窟を二度と使えないように用意してもらった爆薬で爆破した。
中にはクオンによって火葬に付されたゴブリンの灰も共に埋められている。
既に他に生き残りがいないことは確認済みだった。繁殖はしていなかったらしく、ゴブリンの子どもの姿はなかった。
生き残りがいる気配もない以上、これ以上悲劇が繰り返されることはないだろう。
しかし、わかったのはそれだけだった。
なぜゴブリンがこのような凶行に至ったのか。それに関する手がかりはなかった。
「なんや随分ズル賢い奴も居たんやなあ」
がらがらと崩れていく洞窟を眺めながら文太がしみじみと呟いた。
「誰かに教わりでもしたんでしょうかね」
奏音は深刻な顔で疑問を呈する。
「前にゴブリンの軍隊を画策した歪虚がいた。その時の生き残りかもな」
ぶっきらぼうに応えたのはリカルドだ。
結局、ゴブリン達が誰かに入れ知恵されたのか、それとも自ら学び行動を起こしたのか。真相はわからない。
しかし、村人達を苦しめた悪夢はこれで終わりを告げたのだった。
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相談卓 リカルド=フェアバーン(ka0356) 人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/01/29 03:10:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/27 21:41:53 |