ゲスト
(ka0000)
【反影】イントゥ・ザ・ユニオン
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/02/01 22:00
- 完成日
- 2018/02/08 01:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
クリムゾン世界の反対側に横たわるのは邪神の領域。なにもかもが潰え果てた死の荒野。
その各所に点在するのは虚無――暗黒のドーム。
ドーム内には様々な異界が存在している。
それがどうして出来たのか何のためにあるのか、まだ詳しいことは分かっていない。ただ一つだけ確かなのは、そこにある世界が「もうどこにも存在していない」世界であるということだけ……。
●マゴイさん乗り込む
異界で待っていたのはひりつく乾ききった風と、それによって巻き上げられた多量の土埃だった。
英霊マゴイは咳き込みながら結界を張り、視界と安全を確保する。
彼女は今、体にかかる「重さ」を感じていた。どういう作用かは分からないが、この世界に足を踏み入れた瞬間実体を得たのである。
「……負のマテリアルが濃すぎる……」
そう言った直後、至近距離で地盤崩壊が起きる。後に残るのは計り知れない深さの大穴だけ。
続けて背後からまた地響きが聞こえた。どうやら自分が依って立つこの地面、とめどなく壊れ続けているらしい。
ユニオンは一体どうなってしまっているのだろう。
焦燥にかられながら彼女は歩きだす。転移の術を使うことはしなかった。なるべく力を使いたくなかったのだ。何しろ虚無のただ中においては、ただ立っているだけでもマテリアルが消費されていくので。
「……急がないと……」
とは言うものの彼女の歩みは、もどかしいほど遅かった。
マゴイの運動能力は、とびきり低い。彼らはそういう風に作られている。
●ここは敷居の高い国
荒野に立つ大きな大きな、とてつもなく大きな四角い箱。恐らくは、結界。
ハンターたちはその中へ入ろうと試みたが、入れなかった。足を踏み入れたと同時に外へ出てしまうのだ。何度やっても同じことだった。
らちが明かないと見た彼らは、口々に呼びかけてみる。
「もしもーし、誰かいませんか、もしもーし!」
「入れてくださいませんかー!」
結界の一部からするりと2人の人間が出てきた。
詰め襟の白いワンピースを着た長い髪の女性と、詰め襟の白いツーピースを着た短い髪の男性。両者驚くほど顔が似ている。
「……あやしい人達ね……」
「……どう見ても市民じゃないね……」
「……人に偽装した歪虚ではないかしら……」
「……オートマトンかも……」
「……どっちにしても入れない方がいい……市民の安全のために……」
「……僕もそう思うね……」
自分たちだけで話を進めて行く彼らに、ハンターの1人が言った。
「いやいや、違いますから、私たち人間ですから!」
「……あんなこと言ってる……」
「……信じがたいね……」
「……これは会議を開いてマゴイ全体で対処方針を検討すべき案件ではないかしら……」
「……どうもそのようだね……」
それだけ言い残し結界の内側に消える男女。そのままいくら待っても音沙汰なし。
戻ってこない相手に見切りをつけたハンターたちは、どうにか入れないかと試行錯誤し始めた。そこに近づいてきたのは、先ほど出てきた男女に顔が良く似た人物――英霊マゴイ。
悠然と歩いて(本人的にはそうじゃなかったのだが)来た彼女はハンターたちとの挨拶もそこそこに結界へ穴を空け、中へ入って行く。ハンターたちがその後に続いた。
マゴイはそれを見届けて穴を閉じ(彼女的に)せかせか急いで、行く手にそびえる巨大な建築物の方へ行ってしまう。
結界の中は、一風変わった趣の町であった。
建築物のどれもこれも差異が無い。判で押したように四角く白い。そのせいだろうか、街路樹は青々茂り花壇は花盛りなのに、なんだか味気無く見える。
そして驚くべきことに、人間にも差異が無い。
集まってきた人々の容姿が男女とも多く被っている。双子が多いとかそういうレベルではない。パッと見渡しただけで同パターンの顔を6つ7つすぐ発見出来てしまうのだから。
服も統一されている。どことなく作業服を思わせるデザインで、色は緑。
ハンターたちは異様さを感じ戸惑ったが、向こうはそれ以上に戸惑っていた。
「おい、なんやあいつら」
「市民じゃないぞ」
「ソルジャーを呼んで来た方がいいんじゃないか」
そこに赤服の一団がやってきた。数は10人。こちらも緑服の人々と変わらず、容姿が被り気味だ。
ライダスーツのような赤い服を着ている。左腕に細長い盾のようなものをつけ、右手に棒のようなものを持ち――片眼鏡型のインカムをかけている。
金髪の女が胸を反らし、話しかけてきた
「お前たち、何者――」
直後、どこからともなくアナウンスが入った。
【市民、市民、ユニオンに侵入者が入ってきました。ワーカーは避難してください。ソルジャーは対象を破壊してください。繰り返します。ワーカーは避難してください。ソルジャーは――】
緑服の人々が一斉に散る。
赤服の目付きが変わった。殺気を漲らせハンターたちへ襲いかかってくる。
●果てしなきリプレイ
ユニオンにおける施政の中心、タワー。方形を組み合わせて出来た螺旋状の巨大な建築物。
その地下でマゴイたちは今日も大中小様々な会議をしている。今日になっても会議をしている。滅亡まで24時間を切っているのだがそれでも会議をしている。きっと死んでも会議を止めないのだろう。事実そうなっているわけだが。
スーツに似た青い服を着たステーツマンは自室に引きこもっている。
扉の外からマゴイたちの切羽詰まった声が聞こえてくるが全て無視だ。
「α・ステーツマン、承認を!」
「α・ステーツマン、許可を!」
「α・ステーツマン、裁定を!」
それらを全て無視し寝転がっていた彼は、次の声でふと起き上がった。
「α・ステーツマン……! なぜ会議に出てこないの……!」
「……来たね、μ」
満足そうな呟きを彼が漏らしたところで、タワー全体に重苦しい音が響いた。
それは市民生産機関の神聖なる心臓部、共同体社会の子宮であるウテルスが上げている悲鳴だった。
ウテルスが死にかけている。
その事実にマゴイたちは激しく動揺した。悲鳴を上げ、誰も彼もが一斉にそちらへ向かう。いたいけにして守ってやらなければならないものを救おうと。
市民生産機関管理者としての反射訓練教育を受けてきた者にとって、それは当然引き起こされてしかるべき反応だった。
英霊マゴイもマゴイとしての意識を持っているからには同じことだ。常になく取り乱し、皆と一緒にウテルスへ向かう。身を焼くような悲嘆にかられて。
その各所に点在するのは虚無――暗黒のドーム。
ドーム内には様々な異界が存在している。
それがどうして出来たのか何のためにあるのか、まだ詳しいことは分かっていない。ただ一つだけ確かなのは、そこにある世界が「もうどこにも存在していない」世界であるということだけ……。
●マゴイさん乗り込む
異界で待っていたのはひりつく乾ききった風と、それによって巻き上げられた多量の土埃だった。
英霊マゴイは咳き込みながら結界を張り、視界と安全を確保する。
彼女は今、体にかかる「重さ」を感じていた。どういう作用かは分からないが、この世界に足を踏み入れた瞬間実体を得たのである。
「……負のマテリアルが濃すぎる……」
そう言った直後、至近距離で地盤崩壊が起きる。後に残るのは計り知れない深さの大穴だけ。
続けて背後からまた地響きが聞こえた。どうやら自分が依って立つこの地面、とめどなく壊れ続けているらしい。
ユニオンは一体どうなってしまっているのだろう。
焦燥にかられながら彼女は歩きだす。転移の術を使うことはしなかった。なるべく力を使いたくなかったのだ。何しろ虚無のただ中においては、ただ立っているだけでもマテリアルが消費されていくので。
「……急がないと……」
とは言うものの彼女の歩みは、もどかしいほど遅かった。
マゴイの運動能力は、とびきり低い。彼らはそういう風に作られている。
●ここは敷居の高い国
荒野に立つ大きな大きな、とてつもなく大きな四角い箱。恐らくは、結界。
ハンターたちはその中へ入ろうと試みたが、入れなかった。足を踏み入れたと同時に外へ出てしまうのだ。何度やっても同じことだった。
らちが明かないと見た彼らは、口々に呼びかけてみる。
「もしもーし、誰かいませんか、もしもーし!」
「入れてくださいませんかー!」
結界の一部からするりと2人の人間が出てきた。
詰め襟の白いワンピースを着た長い髪の女性と、詰め襟の白いツーピースを着た短い髪の男性。両者驚くほど顔が似ている。
「……あやしい人達ね……」
「……どう見ても市民じゃないね……」
「……人に偽装した歪虚ではないかしら……」
「……オートマトンかも……」
「……どっちにしても入れない方がいい……市民の安全のために……」
「……僕もそう思うね……」
自分たちだけで話を進めて行く彼らに、ハンターの1人が言った。
「いやいや、違いますから、私たち人間ですから!」
「……あんなこと言ってる……」
「……信じがたいね……」
「……これは会議を開いてマゴイ全体で対処方針を検討すべき案件ではないかしら……」
「……どうもそのようだね……」
それだけ言い残し結界の内側に消える男女。そのままいくら待っても音沙汰なし。
戻ってこない相手に見切りをつけたハンターたちは、どうにか入れないかと試行錯誤し始めた。そこに近づいてきたのは、先ほど出てきた男女に顔が良く似た人物――英霊マゴイ。
悠然と歩いて(本人的にはそうじゃなかったのだが)来た彼女はハンターたちとの挨拶もそこそこに結界へ穴を空け、中へ入って行く。ハンターたちがその後に続いた。
マゴイはそれを見届けて穴を閉じ(彼女的に)せかせか急いで、行く手にそびえる巨大な建築物の方へ行ってしまう。
結界の中は、一風変わった趣の町であった。
建築物のどれもこれも差異が無い。判で押したように四角く白い。そのせいだろうか、街路樹は青々茂り花壇は花盛りなのに、なんだか味気無く見える。
そして驚くべきことに、人間にも差異が無い。
集まってきた人々の容姿が男女とも多く被っている。双子が多いとかそういうレベルではない。パッと見渡しただけで同パターンの顔を6つ7つすぐ発見出来てしまうのだから。
服も統一されている。どことなく作業服を思わせるデザインで、色は緑。
ハンターたちは異様さを感じ戸惑ったが、向こうはそれ以上に戸惑っていた。
「おい、なんやあいつら」
「市民じゃないぞ」
「ソルジャーを呼んで来た方がいいんじゃないか」
そこに赤服の一団がやってきた。数は10人。こちらも緑服の人々と変わらず、容姿が被り気味だ。
ライダスーツのような赤い服を着ている。左腕に細長い盾のようなものをつけ、右手に棒のようなものを持ち――片眼鏡型のインカムをかけている。
金髪の女が胸を反らし、話しかけてきた
「お前たち、何者――」
直後、どこからともなくアナウンスが入った。
【市民、市民、ユニオンに侵入者が入ってきました。ワーカーは避難してください。ソルジャーは対象を破壊してください。繰り返します。ワーカーは避難してください。ソルジャーは――】
緑服の人々が一斉に散る。
赤服の目付きが変わった。殺気を漲らせハンターたちへ襲いかかってくる。
●果てしなきリプレイ
ユニオンにおける施政の中心、タワー。方形を組み合わせて出来た螺旋状の巨大な建築物。
その地下でマゴイたちは今日も大中小様々な会議をしている。今日になっても会議をしている。滅亡まで24時間を切っているのだがそれでも会議をしている。きっと死んでも会議を止めないのだろう。事実そうなっているわけだが。
スーツに似た青い服を着たステーツマンは自室に引きこもっている。
扉の外からマゴイたちの切羽詰まった声が聞こえてくるが全て無視だ。
「α・ステーツマン、承認を!」
「α・ステーツマン、許可を!」
「α・ステーツマン、裁定を!」
それらを全て無視し寝転がっていた彼は、次の声でふと起き上がった。
「α・ステーツマン……! なぜ会議に出てこないの……!」
「……来たね、μ」
満足そうな呟きを彼が漏らしたところで、タワー全体に重苦しい音が響いた。
それは市民生産機関の神聖なる心臓部、共同体社会の子宮であるウテルスが上げている悲鳴だった。
ウテルスが死にかけている。
その事実にマゴイたちは激しく動揺した。悲鳴を上げ、誰も彼もが一斉にそちらへ向かう。いたいけにして守ってやらなければならないものを救おうと。
市民生産機関管理者としての反射訓練教育を受けてきた者にとって、それは当然引き起こされてしかるべき反応だった。
英霊マゴイもマゴイとしての意識を持っているからには同じことだ。常になく取り乱し、皆と一緒にウテルスへ向かう。身を焼くような悲嘆にかられて。
リプレイ本文
●戦闘開始
「煌めけレセプションアーク!」
メイム(ka2290)の声とともに光の柱が立ちのぼり、範囲内のソルジャーを飲みこむ。
彼らはそれに耐えた。ダメージを受けていないわけではないが、戦闘不能になった者はいない。彼ら自身の特性なのか、それとも装備によるものなのか、とにかく魔法攻撃に対する耐性は持ち合わせているようだ。
セレスティア(ka2691)はプルガトリオを発動する。ロニ・カルディス(ka0551)も同じくプルガトリオを発動する。
「どうにも急展開なのは否めないが……ひとまずはこの場を乗り切らねばな」
敵を貫くために現出する無数の黒い刃。
ソルジャーのうち4人が貫かれ、行動を阻まれた。
それに乗じてソラス(ka6581)は、彼らの連携を阻もうとする。アースウォールを立ち上げることで。
しかし壁は数秒で壊された。近接の攻撃力は相当高いと見ていいだろう。
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は軽い口調で、ソルジャーたちの気を引きにかかる。
「どーも、俺は異世界からのトラベラー、シガレットだぜェ」
おどけたような物言いの後、ライトニングボルトを放つ。
それによって出来た囲みの隙間をルベーノ・バルバライン(ka6752)は突破しようとした。レクイエムを歌いながら。
そのみぞおち目がけソルジャーが――例のリーダー格が棒を突きこむ。その勢い、生易しいものではない。文字通り腹に突き刺さる。
天竜寺 詩(ka0396)はディヴァインウィルを発動し、ルベーノからソルジャーを引き離した。。不可視の壁で弾かれたリーダー格は、何が起きたのか理解しがたいといった顔である。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が聖罰刃『ターミナー・レイ』を抜いた。
「どうせ忘れてしまうのでしょうが、更に火に油を注ぐ必要もないでしょう。ここは素早く排除して通り抜けた方が良さそうですから」
斬撃が2人のソルジャーを袈裟がけに斬った。
服が破れ血が流れる。しかし彼らにひるむ様子はない。地面すれすれの前傾姿勢を取り、ハンスの懐に入る。剣を握っている手に棒を打ちつける。骨の折れる衝撃が来た。
ソラスが次々打ち立てるアースウォールが、次々に壊されて行く。
「これは手加減いるような相手じゃないよねー」
うそぶいたメイムはレセプションアークを発動した。ブラッドドレインと抱き合わせて。
詩が、ロニが、セレスティアが改めてプルガトリオを放つ。
ダメージの蓄積が抵抗力を弱めてきたらしい。ソルジャーたちは攻撃を受けてからまた動き出すまでの時間が若干空くようになってきた。
それを見計らってメイムが言う。
「詩さん、ルベーノさん先を急いで! 今回のメンバーなら、二人の言葉が特に強く届くと思うから~」
詩からヒーリングスフィアの治癒を受けたルベーノは、再度囲みを破りにかかる――今度はうまくいった。
彼はマゴイの身について特に危機感を抱いている。聞いた話によれば虚無に長時間いた者は、歪虚化して戻れなくなるらしい。ならば英霊においても同様ではあるまいか。ステーツマンはマゴイを歪虚化し傍らに留め置くつもりではないだろうか、という懸念が拭えなくて。
詩もルベーノに続き走る。
(それにしてもソルジャーの顔、ぴょこに似てる。さっき逃げて行ったワーカー……スペットの元の顔もあんな感じなのかな?)
シガレットはプルガトリオをソルジャーに見舞い、ルベーノたちの逃走を補助する。
続けてハンスの次元斬。
そこに重々しい音が聞こえた。軋むような呻くような。塔がある方向からだ。
ソルジャーたちは怪訝そうか顔をしたもののすぐ興味を失い、戦闘を再開する。ハンターたち同様彼らも知らなかった。それがウテルスの悲鳴だということが。
ソラスはグラビティフォールを仕掛ける。ソルジャーの1人が耐え切れず崩れ落ちた。
セレスティアが残りのソルジャーたちをプルガトリオで縫い付けた。
「いまです! いってください!」
彼女の声に背を押され、ソラスもまた走りだす。マゴイを捜し当て連れ戻すために。行き掛けの駄賃にマジックアローを連射して。
「いかん、あいつらタワーの方へ行ったぞ!」
「追え!」
ロニとハンスがソルジャーたちに追いつく。黒い刃。続けて斬撃。
「Θさんと同型なら、近接で投げるのは得意でしょうから、遠距離排除の方がよろしいかと思いまして、ね?」
3人のソルジャーが脱落した。
メイムは射程距離が最も長いファミリアアタックを使う。
「行って、あんず!」
光の塊となった妖精は正確に1人のソルジャーを――リーダー格であろう女を撃ち、移動力を損なわせた。
●ウテルスの中
ルベーノと詩はタワーに入った後、下へと向かった。手掛かりは全くないのだがマゴイならそこに向かうような気がしたのだ。島においても地下に本拠地を構えていることであるし。
例の移動ドアによって下降を繰り返す。追いついてきたソラスと合流して。
繰り返し目にしたのは際限なく続く廊下と開きっぱなしの扉、散乱している無数の書類――そして最終的に、ウテルスへたどり着く。
そこは柔らかい赤色光に包まれた広大な空間だ。壁も床も有機的な素材で出来ている。中央に脈打つ巨大な臓器――としか見えないものがあった。表面全体が糜爛し息も絶え絶えな様子だ。
無数のマゴイがそれを取り巻きマテリアルを注ぎ込み続けている。限界以上の力を出し切り、次々に死んで行く。
●戦闘続行
セレスティアはシガレットに接近しようとしているソルジャーに向け、繰り返しレクイエムを歌い上げ、動きを鈍らせる。
彼女もそうだが、今回依頼に参加しているハンターの多数が回復系のスキルを持っていたことは、とても有効であった。
ソルジャーにはそういったものがない。この差は大きい。個々の戦闘力が高くても、徐々に押され気味となって行く。
自分が抜けても大丈夫だろうという局面まで来てから、ハンスが抜けた。
「ここではマゴイさんにも実体がある。つまりあのステイツマンもここでなら斬れる可能性があるということですね…ふふふ、面白いじゃありませんか」
続けてロニが抜ける。
「あまり悠長にしていられんな」
●マゴイさん
誰も彼も自分の作業に夢中で不審者の侵入を気にかけていないのはいいのだが、こうまで似た顔が多い中での人探しは至難の業だ。
「マゴイさん!」
「ユニオン島のマゴイさん!」
「お前の島のコボルドワーカーを……お前のために白い花を育てているクリオンのコボルド・ワーカーを置いて行くつもりか! 答えろ、μ・マゴイ! μ・F・92756471・マゴイ!」
ウテルスの傷口を手で塞いでいたマゴイのうちの1人が、彼らの方に顔を向けた。ぼんやり訝しげな面持ちで。
『……彼らは誰かしら……』
彼女がそんな呟きを漏らしたとき、臓器から滝のように血が噴き出した。
マゴイは悲鳴を上げた。半泣きになって破れた箇所の処置に向かおうとするが、転がっていた別のマゴイの死体につまづきこける。床一面を覆う血溜まりに足をとられつつ、もがいて起き上がる。
その大変な取り乱しように、詩は正直驚いた。
(こんなマゴイ、初めて見るかも)
『ウテルス、死んでは駄目……あなたが死んでは駄目……』
マゴイはウテルスの傷口に手を当て力を注ぎ込もうとし始めた。
危険だと見たソラスが押し止どめようとする。
「マゴイさん、駄目ですよ!」
詩はサルヴェイションを試みた。マゴイが歌っていた歌に乗せて。
「ユニオンユニオンいいところ みんなであそんでたのしいな♪」
そのときルベーノがマゴイを抱え上げた。口づけをした。軽くではなく深く。
「「!?」」
唐突な展開に目を剥く詩とソラス。
息を塞がれて苦しくなったマゴイはルベーノの胸を押し、顔を離した。
サルヴィェイションの効果があったらしい。彼女はそこで初めて周囲にいる人間が誰なのか認識した。何度も瞬きをする。
『……あなたたちがどうしてここにいるの……』
ルベーノは彼女を降ろし、正面からじっと目を見据えた。
「正気に戻ったか……口を漱げ、そして俺の話を聞け」
『後にして。私は見ての通り忙しい。治療しないとウテルスが死んでしまう』
まだ今一つ落ち着いていないなと思いながらソラスは、噛んで含めるように言った。
「マゴイさん、ここは明らかに現存世界とは違います。多分――負のマテリアルで捻出した幻影のようなものです~。向うの島に帰りましょう。コボルドたちが待ってますよ」
ルベーノはマゴイを降ろした。ウテルスの方を向こうとする顔を両手で挟んで押さえ、目をのぞき込んだ。
「μ・マゴイ、α・ステイツマンは歪虚だ。ここにお前を長く取り込んでお前の力を得て、さらに強い歪虚になろうとし」
次の瞬間言葉が途切れた。真後ろにステーツマンが現れたのだ。
至近距離からの意識的な汚染はたちどころに彼の五感、並びに身体能力を奪った。
「皆は皆のものという関係性が適用されるのは市民間に限られるんだが、君は何か勘違いしてないかね?」
と言いながらステーツマンは、昏倒したルベーノを蹴り飛ばす。
直後その足が半歩後退した。マゴイが障壁で弾いたのだ。
ステーツマンはマゴイに笑いかけた。
「どうしたんだマゴイ。こいつらは市民でもなんでもないんだよ。そうまで気にかけること、ないじゃないかね」
詩がルベーノに駆け寄り、ヒーリングスフィアを施した。悪影響の解除は出来なくても、これ以上の生命力の減少は避けられるかと。
『……α・ステーツマン……あなたの行動は正しくない……ユニオンへの敵対的行動をとらないなら外部者であっても市民同様生命身体を保護されるべきだと……昔自分でそう言っていたではないの……』
そう訴えるマゴイに対しステーツマンは、また笑った。鼻と鼻が触れそうなほどの至近距離まで顔を近づけて。
「じゃあ今その発言を撤回しよう。敵対行動を取ろうが取るまいが市民以外の生命身体は破壊すべきだ、と」
『そんな、それはユニオン法の趣旨に反する……』
「そうかい。なら今その法を書き換えよう。手伝いたまえ、μ・マゴイ。法案の作成は君の仕事だろう。また昔のように私の――」
ソラスは取っておいたカウンターマジックを発動させた。
ステーツマンは次に起こそうとしていた何らかの行動を阻害されたらしい。軽い苛立ちを込めてソラスを見た。
ソラスの目が見えなくなる。
その時後から追いかけてきたロニとハンスが、やっとウテルスに到達した。
ロニのプルガトリオがステーツマンに向かい、つかの間動きを止めた。
ハンスは破邪顕正の刃を振るい、仲間たちにかけられていた負の影響を一時解除する。
ルベーノが動いた。まだ視力が完全に回復したわけではなかったが、ぼんやりした色と形の区別はつく。それだけ分かれば十分だった。マゴイを担ぎ上げ場から引きはがす。
好機とばかりハンスが斬りかかった。
「この前のお返しをさせていただきたいと思っていまして、ねっ!」
斬撃が相手の肩に入った。傷口から油のような黒いものが滲み出てくる。
ステーツマンは喉をひくりと震わせた。続いて耳を塞ぎたくなるような咆哮を発した。
衝撃でウテルスが真っ二つに裂け弾け飛ぶ。
ステーツマンはその姿を、巨大な蟻に変じさせた。鎌のような顎がハンスの体に打ち込まれる。
ソラスは残っていたグラビティフォールをぶつけ足止めを試みたが、速度が多少落ちたほどの効果しか得られなかった。
担がれていたマゴイが残っていた力を使いハンターともども転移を行ったのは、その時であった。
●クライシス・リプレイ
青空にひびが入り音もなく割れていく。覗き見えるのは結界の外にある本当の空。土埃が渦巻く濁った空。
セレスティアはロザリオを固く握り締めた。
「始まったようですね」
汚染された風が一陣吹き込んできただけで、街路樹が枯れ花が落ちる。建物がボロボロに崩れていく。
隠れていたワーカーたちが飛び出して来た。ソルジャーの周囲におろおろと群がる。
「ソルジャー、これ何や、何が起きてんのや!」
「どうしたらいいんだ!」
それに答えるソルジャーたちもまた、おろおろしている。
「いや、待て俺たちにも分からん」
「マゴイに聞いてみなくては……」
シガレットは打ち身をさすりつつソルジャーのリーダー……金髪の女性に話しかけた。
「ざっくり説明すると邪神っていう悪い神様がエバーグリーンを世界規模で破壊してるワケだ。ここの崩落もそのひとつでな」
女性はぽかんと口を開けた。
「……かみさまってなんだ? じゃしんってなんだ?」
「え」
「そんな言葉は今まで聞いたことないが」
「えーと、いや……」
答えに詰まるシガレット。
メイムとセレスティアがフォローする。
「すんごく強い奴ってことだよ」
「その上にとんだ悪人なんです」
「……なるほど、強くて悪い奴か」
その説明でいいのだろうかとも思うが一応大意は通じたらしいので、シガレットは再度仕切り直す。
「とにかくそいつがユニオンを攻撃しているんだ。俺たちはその調査に来たんだ。だからそのインカムを貸してくれるか?」
それを聞くとソルジャーは強い拒否感を示した。
「駄目だ! 絶対に駄目だ! これは私の大事なものだ!」
シガレットはふーっと息を吐く。
「そうか、分かった。諦めよう……」
と言った直後さっと相手のインカムを引ったくる。
「なんてな! やっぱ借りるぜ! 返済期限は無期限な!」
女は逆上した。インカムを取り返そうと彼につかみ掛かってくる。
「何をする、返――」
直後この世のものとは思えない咆哮が周囲に轟き渡った。
ハンターたちは思わず耳を押さえる。
ワーカーとソルジャーは恐慌に陥った。叫び声を上げ走りだす。今し方崩落した場所へ向かって。
「待――」
シガレットは女を引き留めようとした。しかし遅かった。女は穴の中へ落ちて行く――
●ユニオンより帰還
気づけばメイムは、虚無に入る前にいた荒れ野に立っていた。
周囲を見回せば仲間のハンターたち。8名揃っている。
シガレットが己の手を眺めぼやいている。
「中の物は持ち出せねえってわけか」
英霊マゴイはどうなったかと見回せば、いた。どうやら取り込まれずにすんだようだ。
しかし白い衣装があちこち血だらけ。やつれ果てた顔で肩を落とし、しょげ切っている。
『……ウテルスが死んでしまった……』
「マゴイ、貴方には貴方が作ったユニオン島があるでしょ? 例えそこが本来のユニオンと違ってたとしても、コボルド達にとっては楽しい住処じゃない。貴方はそんな国を作った事を誇りに思うべきだよ」
詩がそう言っても、ほろほろ泣いているばかり。
『……α・ステーツマンもステーツマンじゃなくなってしまった……』
なんだか知らないが、よっぽどのことがあったらしい。
「煌めけレセプションアーク!」
メイム(ka2290)の声とともに光の柱が立ちのぼり、範囲内のソルジャーを飲みこむ。
彼らはそれに耐えた。ダメージを受けていないわけではないが、戦闘不能になった者はいない。彼ら自身の特性なのか、それとも装備によるものなのか、とにかく魔法攻撃に対する耐性は持ち合わせているようだ。
セレスティア(ka2691)はプルガトリオを発動する。ロニ・カルディス(ka0551)も同じくプルガトリオを発動する。
「どうにも急展開なのは否めないが……ひとまずはこの場を乗り切らねばな」
敵を貫くために現出する無数の黒い刃。
ソルジャーのうち4人が貫かれ、行動を阻まれた。
それに乗じてソラス(ka6581)は、彼らの連携を阻もうとする。アースウォールを立ち上げることで。
しかし壁は数秒で壊された。近接の攻撃力は相当高いと見ていいだろう。
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は軽い口調で、ソルジャーたちの気を引きにかかる。
「どーも、俺は異世界からのトラベラー、シガレットだぜェ」
おどけたような物言いの後、ライトニングボルトを放つ。
それによって出来た囲みの隙間をルベーノ・バルバライン(ka6752)は突破しようとした。レクイエムを歌いながら。
そのみぞおち目がけソルジャーが――例のリーダー格が棒を突きこむ。その勢い、生易しいものではない。文字通り腹に突き刺さる。
天竜寺 詩(ka0396)はディヴァインウィルを発動し、ルベーノからソルジャーを引き離した。。不可視の壁で弾かれたリーダー格は、何が起きたのか理解しがたいといった顔である。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が聖罰刃『ターミナー・レイ』を抜いた。
「どうせ忘れてしまうのでしょうが、更に火に油を注ぐ必要もないでしょう。ここは素早く排除して通り抜けた方が良さそうですから」
斬撃が2人のソルジャーを袈裟がけに斬った。
服が破れ血が流れる。しかし彼らにひるむ様子はない。地面すれすれの前傾姿勢を取り、ハンスの懐に入る。剣を握っている手に棒を打ちつける。骨の折れる衝撃が来た。
ソラスが次々打ち立てるアースウォールが、次々に壊されて行く。
「これは手加減いるような相手じゃないよねー」
うそぶいたメイムはレセプションアークを発動した。ブラッドドレインと抱き合わせて。
詩が、ロニが、セレスティアが改めてプルガトリオを放つ。
ダメージの蓄積が抵抗力を弱めてきたらしい。ソルジャーたちは攻撃を受けてからまた動き出すまでの時間が若干空くようになってきた。
それを見計らってメイムが言う。
「詩さん、ルベーノさん先を急いで! 今回のメンバーなら、二人の言葉が特に強く届くと思うから~」
詩からヒーリングスフィアの治癒を受けたルベーノは、再度囲みを破りにかかる――今度はうまくいった。
彼はマゴイの身について特に危機感を抱いている。聞いた話によれば虚無に長時間いた者は、歪虚化して戻れなくなるらしい。ならば英霊においても同様ではあるまいか。ステーツマンはマゴイを歪虚化し傍らに留め置くつもりではないだろうか、という懸念が拭えなくて。
詩もルベーノに続き走る。
(それにしてもソルジャーの顔、ぴょこに似てる。さっき逃げて行ったワーカー……スペットの元の顔もあんな感じなのかな?)
シガレットはプルガトリオをソルジャーに見舞い、ルベーノたちの逃走を補助する。
続けてハンスの次元斬。
そこに重々しい音が聞こえた。軋むような呻くような。塔がある方向からだ。
ソルジャーたちは怪訝そうか顔をしたもののすぐ興味を失い、戦闘を再開する。ハンターたち同様彼らも知らなかった。それがウテルスの悲鳴だということが。
ソラスはグラビティフォールを仕掛ける。ソルジャーの1人が耐え切れず崩れ落ちた。
セレスティアが残りのソルジャーたちをプルガトリオで縫い付けた。
「いまです! いってください!」
彼女の声に背を押され、ソラスもまた走りだす。マゴイを捜し当て連れ戻すために。行き掛けの駄賃にマジックアローを連射して。
「いかん、あいつらタワーの方へ行ったぞ!」
「追え!」
ロニとハンスがソルジャーたちに追いつく。黒い刃。続けて斬撃。
「Θさんと同型なら、近接で投げるのは得意でしょうから、遠距離排除の方がよろしいかと思いまして、ね?」
3人のソルジャーが脱落した。
メイムは射程距離が最も長いファミリアアタックを使う。
「行って、あんず!」
光の塊となった妖精は正確に1人のソルジャーを――リーダー格であろう女を撃ち、移動力を損なわせた。
●ウテルスの中
ルベーノと詩はタワーに入った後、下へと向かった。手掛かりは全くないのだがマゴイならそこに向かうような気がしたのだ。島においても地下に本拠地を構えていることであるし。
例の移動ドアによって下降を繰り返す。追いついてきたソラスと合流して。
繰り返し目にしたのは際限なく続く廊下と開きっぱなしの扉、散乱している無数の書類――そして最終的に、ウテルスへたどり着く。
そこは柔らかい赤色光に包まれた広大な空間だ。壁も床も有機的な素材で出来ている。中央に脈打つ巨大な臓器――としか見えないものがあった。表面全体が糜爛し息も絶え絶えな様子だ。
無数のマゴイがそれを取り巻きマテリアルを注ぎ込み続けている。限界以上の力を出し切り、次々に死んで行く。
●戦闘続行
セレスティアはシガレットに接近しようとしているソルジャーに向け、繰り返しレクイエムを歌い上げ、動きを鈍らせる。
彼女もそうだが、今回依頼に参加しているハンターの多数が回復系のスキルを持っていたことは、とても有効であった。
ソルジャーにはそういったものがない。この差は大きい。個々の戦闘力が高くても、徐々に押され気味となって行く。
自分が抜けても大丈夫だろうという局面まで来てから、ハンスが抜けた。
「ここではマゴイさんにも実体がある。つまりあのステイツマンもここでなら斬れる可能性があるということですね…ふふふ、面白いじゃありませんか」
続けてロニが抜ける。
「あまり悠長にしていられんな」
●マゴイさん
誰も彼も自分の作業に夢中で不審者の侵入を気にかけていないのはいいのだが、こうまで似た顔が多い中での人探しは至難の業だ。
「マゴイさん!」
「ユニオン島のマゴイさん!」
「お前の島のコボルドワーカーを……お前のために白い花を育てているクリオンのコボルド・ワーカーを置いて行くつもりか! 答えろ、μ・マゴイ! μ・F・92756471・マゴイ!」
ウテルスの傷口を手で塞いでいたマゴイのうちの1人が、彼らの方に顔を向けた。ぼんやり訝しげな面持ちで。
『……彼らは誰かしら……』
彼女がそんな呟きを漏らしたとき、臓器から滝のように血が噴き出した。
マゴイは悲鳴を上げた。半泣きになって破れた箇所の処置に向かおうとするが、転がっていた別のマゴイの死体につまづきこける。床一面を覆う血溜まりに足をとられつつ、もがいて起き上がる。
その大変な取り乱しように、詩は正直驚いた。
(こんなマゴイ、初めて見るかも)
『ウテルス、死んでは駄目……あなたが死んでは駄目……』
マゴイはウテルスの傷口に手を当て力を注ぎ込もうとし始めた。
危険だと見たソラスが押し止どめようとする。
「マゴイさん、駄目ですよ!」
詩はサルヴェイションを試みた。マゴイが歌っていた歌に乗せて。
「ユニオンユニオンいいところ みんなであそんでたのしいな♪」
そのときルベーノがマゴイを抱え上げた。口づけをした。軽くではなく深く。
「「!?」」
唐突な展開に目を剥く詩とソラス。
息を塞がれて苦しくなったマゴイはルベーノの胸を押し、顔を離した。
サルヴィェイションの効果があったらしい。彼女はそこで初めて周囲にいる人間が誰なのか認識した。何度も瞬きをする。
『……あなたたちがどうしてここにいるの……』
ルベーノは彼女を降ろし、正面からじっと目を見据えた。
「正気に戻ったか……口を漱げ、そして俺の話を聞け」
『後にして。私は見ての通り忙しい。治療しないとウテルスが死んでしまう』
まだ今一つ落ち着いていないなと思いながらソラスは、噛んで含めるように言った。
「マゴイさん、ここは明らかに現存世界とは違います。多分――負のマテリアルで捻出した幻影のようなものです~。向うの島に帰りましょう。コボルドたちが待ってますよ」
ルベーノはマゴイを降ろした。ウテルスの方を向こうとする顔を両手で挟んで押さえ、目をのぞき込んだ。
「μ・マゴイ、α・ステイツマンは歪虚だ。ここにお前を長く取り込んでお前の力を得て、さらに強い歪虚になろうとし」
次の瞬間言葉が途切れた。真後ろにステーツマンが現れたのだ。
至近距離からの意識的な汚染はたちどころに彼の五感、並びに身体能力を奪った。
「皆は皆のものという関係性が適用されるのは市民間に限られるんだが、君は何か勘違いしてないかね?」
と言いながらステーツマンは、昏倒したルベーノを蹴り飛ばす。
直後その足が半歩後退した。マゴイが障壁で弾いたのだ。
ステーツマンはマゴイに笑いかけた。
「どうしたんだマゴイ。こいつらは市民でもなんでもないんだよ。そうまで気にかけること、ないじゃないかね」
詩がルベーノに駆け寄り、ヒーリングスフィアを施した。悪影響の解除は出来なくても、これ以上の生命力の減少は避けられるかと。
『……α・ステーツマン……あなたの行動は正しくない……ユニオンへの敵対的行動をとらないなら外部者であっても市民同様生命身体を保護されるべきだと……昔自分でそう言っていたではないの……』
そう訴えるマゴイに対しステーツマンは、また笑った。鼻と鼻が触れそうなほどの至近距離まで顔を近づけて。
「じゃあ今その発言を撤回しよう。敵対行動を取ろうが取るまいが市民以外の生命身体は破壊すべきだ、と」
『そんな、それはユニオン法の趣旨に反する……』
「そうかい。なら今その法を書き換えよう。手伝いたまえ、μ・マゴイ。法案の作成は君の仕事だろう。また昔のように私の――」
ソラスは取っておいたカウンターマジックを発動させた。
ステーツマンは次に起こそうとしていた何らかの行動を阻害されたらしい。軽い苛立ちを込めてソラスを見た。
ソラスの目が見えなくなる。
その時後から追いかけてきたロニとハンスが、やっとウテルスに到達した。
ロニのプルガトリオがステーツマンに向かい、つかの間動きを止めた。
ハンスは破邪顕正の刃を振るい、仲間たちにかけられていた負の影響を一時解除する。
ルベーノが動いた。まだ視力が完全に回復したわけではなかったが、ぼんやりした色と形の区別はつく。それだけ分かれば十分だった。マゴイを担ぎ上げ場から引きはがす。
好機とばかりハンスが斬りかかった。
「この前のお返しをさせていただきたいと思っていまして、ねっ!」
斬撃が相手の肩に入った。傷口から油のような黒いものが滲み出てくる。
ステーツマンは喉をひくりと震わせた。続いて耳を塞ぎたくなるような咆哮を発した。
衝撃でウテルスが真っ二つに裂け弾け飛ぶ。
ステーツマンはその姿を、巨大な蟻に変じさせた。鎌のような顎がハンスの体に打ち込まれる。
ソラスは残っていたグラビティフォールをぶつけ足止めを試みたが、速度が多少落ちたほどの効果しか得られなかった。
担がれていたマゴイが残っていた力を使いハンターともども転移を行ったのは、その時であった。
●クライシス・リプレイ
青空にひびが入り音もなく割れていく。覗き見えるのは結界の外にある本当の空。土埃が渦巻く濁った空。
セレスティアはロザリオを固く握り締めた。
「始まったようですね」
汚染された風が一陣吹き込んできただけで、街路樹が枯れ花が落ちる。建物がボロボロに崩れていく。
隠れていたワーカーたちが飛び出して来た。ソルジャーの周囲におろおろと群がる。
「ソルジャー、これ何や、何が起きてんのや!」
「どうしたらいいんだ!」
それに答えるソルジャーたちもまた、おろおろしている。
「いや、待て俺たちにも分からん」
「マゴイに聞いてみなくては……」
シガレットは打ち身をさすりつつソルジャーのリーダー……金髪の女性に話しかけた。
「ざっくり説明すると邪神っていう悪い神様がエバーグリーンを世界規模で破壊してるワケだ。ここの崩落もそのひとつでな」
女性はぽかんと口を開けた。
「……かみさまってなんだ? じゃしんってなんだ?」
「え」
「そんな言葉は今まで聞いたことないが」
「えーと、いや……」
答えに詰まるシガレット。
メイムとセレスティアがフォローする。
「すんごく強い奴ってことだよ」
「その上にとんだ悪人なんです」
「……なるほど、強くて悪い奴か」
その説明でいいのだろうかとも思うが一応大意は通じたらしいので、シガレットは再度仕切り直す。
「とにかくそいつがユニオンを攻撃しているんだ。俺たちはその調査に来たんだ。だからそのインカムを貸してくれるか?」
それを聞くとソルジャーは強い拒否感を示した。
「駄目だ! 絶対に駄目だ! これは私の大事なものだ!」
シガレットはふーっと息を吐く。
「そうか、分かった。諦めよう……」
と言った直後さっと相手のインカムを引ったくる。
「なんてな! やっぱ借りるぜ! 返済期限は無期限な!」
女は逆上した。インカムを取り返そうと彼につかみ掛かってくる。
「何をする、返――」
直後この世のものとは思えない咆哮が周囲に轟き渡った。
ハンターたちは思わず耳を押さえる。
ワーカーとソルジャーは恐慌に陥った。叫び声を上げ走りだす。今し方崩落した場所へ向かって。
「待――」
シガレットは女を引き留めようとした。しかし遅かった。女は穴の中へ落ちて行く――
●ユニオンより帰還
気づけばメイムは、虚無に入る前にいた荒れ野に立っていた。
周囲を見回せば仲間のハンターたち。8名揃っている。
シガレットが己の手を眺めぼやいている。
「中の物は持ち出せねえってわけか」
英霊マゴイはどうなったかと見回せば、いた。どうやら取り込まれずにすんだようだ。
しかし白い衣装があちこち血だらけ。やつれ果てた顔で肩を落とし、しょげ切っている。
『……ウテルスが死んでしまった……』
「マゴイ、貴方には貴方が作ったユニオン島があるでしょ? 例えそこが本来のユニオンと違ってたとしても、コボルド達にとっては楽しい住処じゃない。貴方はそんな国を作った事を誇りに思うべきだよ」
詩がそう言っても、ほろほろ泣いているばかり。
『……α・ステーツマンもステーツマンじゃなくなってしまった……』
なんだか知らないが、よっぽどのことがあったらしい。
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【質問卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/01/28 16:47:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/31 12:48:52 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/02/01 22:02:08 |