リアルブルーへお忍びで…?

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/04 22:00
完成日
2018/02/11 07:08

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ある意味それは今だからこそ、と言うことだったのだろう。

「……ジーク、リアルブルーってどんなところデスか?」
 いつもと変わらぬ辺境ユニオン「ガーディナ」、そこでリムネラは補佐役のジークに問いかけていた。
「うーん……どんな、と言われると、やはり地域で文化差が大きいですからね。僕も日独ハーフで、……そうですね、喩えるならエトファリカと帝国の血を引いている、みたいな、そういうまったく異なる文化を身につけつつ育ってきたので……だからこそ逆に、この世界での順応性が高かったのかもしれませんが」
「帝国と東方、と言っても、リアルブルーの文化はこの世界より進んでいるデショウ? 本当は、ワタシも一度、リアルブルーという場所、行ってみたいのデスケレド」
 ユニオンのリーダーとして、そうそうここを離れるわけに行かないのがリムネラという存在だ。言ってみれば、辺境ユニオンの精神的支柱であり、それゆえに彼女を好いてくれている人は多い。
 しかし、同時に彼女も年齢相応に好奇心の強い少女であることに間違いない。リアルブルーという見知らぬ世界に、興味を抱いても仕方はあるまい。
「リアルブルーと言っても本当に広いですからね。それに、リムネラさんはやはりユニオンやソサエティにとっても重要な人物であることには変わりないんですけれど……でも、ソサエティの事務局がある付近なら、或いはどうでしょう。リアルブルーの、いわゆるポップカルチャーと呼ばれるものに触れるのなら、まったく問題はないと思いますし、ルートをきちんと伝えておけば、リアルブルー観光も、無理のない範囲で可能かもしれません」
 リアルブルーのハンターズソサエティ事務局は秋葉原である。
 たしかに、興味を惹くだろうものが山のようにあるに違いない。
「……ちなみに、リアルブルーにも、聖地のような場所はアリマスか?」
 興味深げに聞くリムネラ。この場合の「聖地」とはいわゆるアニメなどの舞台という意味でなく、宗教的にプリミティブなパワーを持つ場所、と言う意味だ。リムネラだって聖地の巫女であるのだから、そういう宗教的なスポットも興味があるのだ。
「ええと、確かに近くには、その地域でも有名な神社がありますね。そう言うものも、観光に加えますか?」
「エエ! 観光だけでナク、そういうリアルブルーの信仰にも、興味がアリマスから。とくに新年を祝う行事は盛んだと聞いてイマスし」
 リムネラはにっこりと微笑んでみせる。
「でも、ひとりで向かうにはやはり不安がありますし……ハンターの皆さんに護衛をお願いしたらどうでしょう。骨休めも兼ねているなら、そういう人たちも喜ぶのでは?」
「そうデスね。……ヘレも一緒に行きマショウね?」
 ジークの提案に、リムネラは白龍ヘレをそっと撫でながら、頷いて見せた。


 そんなわけで――
 『アキハバラと神田明神観光(要人警護依頼)』
 と言う依頼、そしてその企画のしおりがハンターオフィスに届けられたのであった。
 要人警護とあるが、具体名はなし。お忍び観光らしいことが仄めかされてあり、当日のお楽しみ、と言うことなのだろう。

・アキハバラ――言わずと知れた一大ポップカルチャーマーケット。いわゆるクールジャパンなものを見たり聞いたりするならここ。

・神田明神――東京の鎮守ともされる有名な神社。アニメの舞台などにもなっているが、信仰は今も形をきちんと残している。

 さあ、ハンターの皆さん。『要人警護』しながら、こんな場所を回ってみませんか?

リプレイ本文


 依頼人不明の、要人護衛依頼。それでも人は集まるもので、八人のハンターたちは依頼人をそわそわと待ち続ける。
 と、
「ヨロシクお願いしますね」
 そう言いながらやってきて、ぺこりとお辞儀をしたのは――オフホワイトのセーターにタータンチェックのスカートという落ち着いた出で立ちをした、『ガーディナ』リーダー・リムネラだった。リアルブルー風の落ち着いた雰囲気の服装に、少し大きめの鞄の中にちょこんとヘレが鎮座している。
 そんな風に照れくさそうに挨拶をしたリムネラを見て、嬉しそうに近づいてぎゅっと抱きつくのは、エルフ姉妹の姉(ただし見た目は妹のほうが大人っぽい雰囲気ではあるのだが)、星輝 Amhran(ka0724)。
「おー、リム殿久しぶりじゃのぅ! ユニオンのほうは、好調かや?」
「もうっ、キララ姉さまたら。リムネラさんはいろいろ忙しいので、こういう場もお忍びって事なんでしょう?」
「ぐぐ、そうかもしれんのう……」
 妹のUisca Amhran(ka0754)に軽くたしなめられ、キララは少し残念そうにリムネラから離れる。とはいえイスカのほうも多少はわくわくしているのは間違いなく、
「ね、リムネラさん。今日はユニオンリーダーのお仕事は忘れて、楽しもう!」
 そう笑顔で頷いた。
(なるほど……『要人警護』とのこと、でしたけれど……リムネラさんのこと、だったんですね……確かにユニオンリーダーともなれば、ソサエティにとっても重要人物になるのは納得です)
 天央 観智(ka0896)はそんな様子を見て一人頷いてみせる。
「で、秋葉原観光でしたっけ。まあ……多分きっと、治安は良いところ……な筈、ですから。ここ何年かは知りませんけれど……少なくとも、数年前までは確実に……そう、でしたよ」
 リアルブルー出身の観智は、そう言ってそっと微笑んでみせる。安心感を引き出そうという笑みは、やがてみんなにも伝播していった。
「そういえば、チューダさんは来なかったんですね? いえ、割と最近……よくリムネラさんと、一緒に催しとかをしていた印象でしたから。そういうことなら、美味しいものとかをしっかり食べて、帰ってから土産話とかを……たっぷりと聞かせてあげられると、良いかもしれませんね」
 観智はきょろきょろと周囲を見合わして、幻獣王の姿のないことを確認する。言われて見れば確かに最近よく一緒に行動をしている姿を見掛けていたので、何となく不思議なかんじがする。
 しかし、リアルブルーに向かうことに一行のだれもが期待を感じているのは確かな話のようで、
「アキハバラ観光なんて、はじめてだからすごく楽しみだよー、わくわくするなー!」
 そう言ってそわそわしているのはイリエスカ(ka6885)。オートマトンは彼女の他にもう一人、フィロ(ka6966)もだが、彼女は依頼人であるリムネラのことを「ご主人様」と呼び、他の仲間たちにも「様」づけをするという、徹底的なメイドタイプ。
「ご主人様、皆様、私もああいった場所は不慣れですので、よろしくお願い致します。無論護衛依頼であることは忘れてはおりません。楽しんで参りましょうね、ご主人様」
 ぺこりと頭を下げて、そっと笑みを浮かべるのは、流石メイドと言うべきか。
「あきはばら? は、初めてなので、楽しみだけど、す、少し、緊張します。ボクみたいなのが、行っても、大丈夫なところ、なのでしょうか……?」
「大丈夫だよ」
 人見知りをしがちな燐火(ka7111)に、多田野一数(ka7110)は頷き返す。
「うんうん、いいわねブルー、そしてアキハバラ! 折角なんだもの、思い切り楽しんでいきましょ!」
 クリムゾンウェスト生れ、クリムゾンウェスト育ちのスキュア・W・スカイスクレイパ(ka7101)が嬉しそうにニコニコと笑ってみせれば、そろそろ時間ですよとソサエティの職員が促す。
 リムネラはこういう警護を必要とする程度には重要人物なのは間違いなく、ソサエティ側としてもそれを重要視しているからこそこういう「お忍び旅行」と相成ったのだ。
「それではどうか、楽しい旅をしてくださいね」
 ソサエティの職員達は、そう言って旅人達を見送った。


「ようこそ、ソサエティリアルブルー支部へ!」
 言われてはっとそちらに目を向けると、可愛らしい服装を纏った職員がにっこりと微笑んでくれていた。
 ソサエティの支部があるのは東京の秋葉原。その中のビルの一角で、活動を行っている。しかしそのオフィス内には結構な人数がひしめいていた。
「クリムゾンウェストのユニオンリーダーが来ると聞いて、みんな色めき立ってたんですよ」
 はじめに挨拶の言葉を言った職員が、そう繋げる。
「それにしてもユニオンリーダーのリムネラさんはお若い女性と聞いてはいましたが……」
 今回、なにぶん「若い女性参加者」が多い。一瞬戸惑ったものの、ぺこりとリムネラが頭を下げてみれば、それが誰だかすぐにわかったのだろう。長い蜂蜜色の髪は緩く結ばれ、ついでに伊達眼鏡をして、服装も相まって地味だが清楚な雰囲気を漂わせている。
「今回は、ヨロシクお願いシマス」
 慣れない土地だからだろうか、流石のリムネラも緊張気味。
「そんなに畏まらなくていいですよ。うん、写真も見つかりましたし、ばっちり本人ですね。他の皆さんは基本護衛と聞いていますが……?」
 職員がファイルをめくりながら確認すると、
「それと、折角リアルブルーにおるのじゃ、楽しまねば損であろう?」
 キララがそう言って笑う。スキュアも、
「うんうん! リムネラにも折角の旅行なんだし、羽を伸ばして貰いたいしね! 胸キュンな本とかを一緒に探したりできたら、楽しいだろうし!」
 彼女の趣味はいわゆる少女漫画的なもの。買いものに行くのなら、是非これはチェックしたいと思っているのだ。リムネラにも是非是非! と楽しそうにみんなに周辺観光マップを渡して、早速自身もチェックを入れている。
「あと、お昼は折角なんだし動物とのふれあいカフェに行きましょう? ……その為には、」
 イスカはそう言うと、リムネラの懐できょろきょろしているヘレをじいっと眺めた。この手のいわゆるクリーチャーというものに抵抗感の低いアキハバラとはいえ、ヘレの姿は流石に目立つだろう。
「それじゃあ、みんな。ショッピング行ってみましょう!」
 イリエスカが嬉しそうに拳を振り上げると、ハンターたちはこくっと首を縦に振る。
「……あ、でもその前に」
 スキュアはふと思い付いてスマホでリムネラ、そしてヘレの写真をパシャリ。
「万が一リムネラたちとはぐれた時に人に聞きやすいよう、写真を持っておけば安心でしょ?」
 ついでにみんなのスマホと連絡先も交換して、なにかの時に連絡を取れるようにしておいた。
「は、はい! 想像していたよりももっと人がいっぱいみたいなので、凄くどきどきしているんですけど、頑張ります!」
 燐火が首から巾着型の財布をぶら下げ、きゅっと小さく拳を握って見せた。


 そんなわけでまず訪れたのは、日本でも有数のディスカウントショップチェーン店。ここで揃わないものはないと言われるほど、品揃えは豊富だ。秋葉原の店舗もかなりしっかりしたサイズで、そのくせ店内所狭しと様々な商品が並んでいて、はじめて入った人が驚くこと請け合いという感じである。
 と、
「ねえねえリムネラさん。このお洋服、ヘレちゃんにどうですか?」
 イスカが示したのはいわゆるペット用の服、それにベビー服。ふわっと着飾っていれば、特徴的な龍の翼なども隠れてしまえるだろうというのが、チョイスの理由らしい。
 ふわふわのシフォンやオーガンジーをふんだんに用いたその服は、なるほどヘレの体格にもしっかり似合い、一目で龍と見抜けるものは少なかろう。
 色もヘレと同じような真っ白のものが、とくに愛らしい。ペット用衣料品でもベビー服と言って遜色ないくらいだ。早速お買い上げしてヘレに着せてやると、いつにも増してふわふわな感じが実に愛らしい。
 今回は必要経費などはユニオン側からも出ると言うことで、買いものにも思わず熱が入ってしまいそうだ。
「あ……申し訳ありません。購入のため、しばしおそばを離れておりました」
 と、フィロがどこからか戻ってきて皆に手渡したのは、人数分の大きめなぬいぐるみ。ヘレにどことなく似た白っぽい龍もあれば、他にもトカゲやワニ、犬のぬいぐるみなど、結構な重さの筈だが、本人は平然とした顔で自分用のとかげのぬいぐるみを抱きしめる。
「少々目立ちますが、こうしていればぬいぐるみが好きな一団と認識されるかと思います。そうであれば、ヘレさまが外を見えるよう、ご主人様が連れ歩いたとしても多少はカバーできるかと思いまして」
 なるほど、木は森の中に隠せという作戦である。ヘレも言いたいことは何となくわかるのだろう、ぱちんと瞬きをするとお行儀良くリムネラの腕の中に収まった。
 一行は店を出ると、改めて街を見渡す。
 いわゆるコンクリートジャングルな町並み、あちこちに掲げられている様々な店の大きな看板。それに加えてアキハバラならではというか、最近流行りのアニメーションやゲームの広告などもあちこちに見掛けられ、時には街全体でアニメーションなどとタイアップしての規格なども催されるのだという。
「それにしても……噂には聞いていたがアニメの聖地アキバというのは、本当にすごいのう! リアルブルーマニアのわしはむろんリサーチ済みじゃが、百聞は一見にしかずとは本当にこのことを言うのじゃな」
 キララが目を輝かせて頷く。確かに、写真で見たり、或いは伝聞の情報だけではここまで盛り上がっている様子は分からないだろう。その横で妹のイスカがクスクスと笑う。彼女は以前、機会あってリアルブルーに来たことがあるのだが――
「ほら、ほら、あそこ。今は車が通っていますけど、お休みの日には車が通らなくなるんです。で、前にあそこで、こすぷれをして歌を歌ったことがあるのですが、怒られてしまって……」
 そう言って、照れくさそうにはにかむ。すると、
「ああ、それはきっと、こういう所でパフォーマンスをする時はたいてい許可が必要だからな。恐らく無許可でやれば、注意を受けてしまうのも無理はないんじゃないかと思うぞ」
 一数がそう言って、気にするなと言わんばかりに小さく微笑んだ――と言っても、一数はぶ厚い前髪のせいで、表情の読み取りにくい人物ではあるのだが。
 アキハバラの目抜き通りは、今日は平日だが歩道にはたくさんの若者達が歩いている。学生と思しき制服姿の少年少女も多く、ここが観光地的な役割も果たしているのはすぐにわかった。
「ミンナ、楽しそうに笑ってイマスね」
 リムネラはにっこりと嬉しそうに笑う。普段はユニオンとその周辺ばかりしか知らない彼女にとって、これだけの大人数がひとところにいるというのはそれだけで新鮮なのだ。
「とはいえ、同じリアルブルー世界でも崑崙とは随分と雰囲気が違うのですね……」
 メイド服姿のフィロは感心したように周囲を見渡すと、あちこちで見掛ける文字にふと首をかしげた。
「ここはメイドの多い街なのですね」
 確かにメイド喫茶も多く、その売り子達が愛らしいメイド服姿で「ご主人様、いかがですか?」と尋ねてきたり、店のチラシを配ったりしているわけなのだが、ここにいるメイド達は言ってみればビジネスでメイドのコスチュームを纏っている者達。
 根っからのメイドであるフィロとは随分と違いがある、筈だ。
「まあ、メイド服を着たウェイトレスとのコミュニケーションを行うのがいわゆるメイド喫茶って奴だよ。言われて見ればホンモノのメイドがあちこちにいるクリムゾンウェストではそれを売りにした商売なんてそうそう無いよな」
「確かに……こういう格好が可愛らしいから、と言うのがメイド喫茶が流行るようになった一因ですからね。メイドという存在が当たり前にあるクリムゾンウェストでは、成立しにくい商売なのかもしれません」
 一数がそう指摘すれば、観智も改めてその事実を考察する。リアルブルーとクリムゾンウェストの違いというのをちらりと垣間見た瞬間であった。

「それにしてもアキハバラって、いろいろ売ってて迷っちゃいそうだよなー。もちろん、アキハバラらしいものは買って帰りたいって思うけれど」
 イリエスカが首をかしげながら、近くに歩いている人たちに「アキハバラらしいもの」を持っているかどうか、眼で確認していく。近くにあったアニメグッズの専門店でも店員に聞いてみたところ、
「アキバらしい土産ですか? 食べ物ならこういう痛クッキーとかも人気あるし、あとは東京限定、アキバ限定のキーホルダーなんかも人気だと思いますよ」
「痛クッキー……?」
 聞き慣れない単語に首をかしげるイリエスカ。店員が持ってきたのは、クッキーの表面に「萌」やハートマーク、それに「アキバに行ってきました」というような文句がちりばめられた、可愛らしい女の子の包装紙に包まれたクッキーだった。
「こういった、ちょっとイタイ感じの食べ物なんかは洒落で買う人も結構多いんですよ。いかにもオタクの聖地ってかんじで、見て楽しいし食べても楽しい。もともと食べ物の土産は喜ばれる傾向が強いですし、丁度いいんでしょうね」
 店員はそう言ってくすりと笑う。確かに、食べてしまえるものなら嫌がる人も少ないだろうが、折角のリアルブルー旅行となれば手元に残る土産も添えたいところだ。そう付け加えると、
「そう言うのなら、ご当地キャラクターものが人気ですね。ネコのマスコットがメイド服着てるとか、人気ありますよ」
 差し出されたのはなるほど、リボンをつけた猫がメイド服を着ているストラップだ。確かに可愛らしいし、大きなものでもないのでさりげないアクセントとなるだろう。
「マスコット系は男女ともに人気高いですね。さっきのクッキーはどちらかというと男性人気が高いんですけど」
 ふむふむ、と頷きながら、一行はそれぞれ思い思いのご当地マスコットを購入していくのだった。
 あるものは自分のため、あるものは友人や仲間との揃いで――。
「そういえば、これ……」
 イスカが指さしたのは最近人気だという獣人の女の子達が出てくるアニメのポスター。
「リアルブルーには、こんな亜人さんたちもいるんですね……?」
 アニメーションなどのいわゆるメディア的な文化がまだ遅れ気味のクリムゾンウェストの人々から見れば、アニメーションも現実と勘違いしてしまうのかも知れない。
「ふむ、随分と多様な亜人じゃのう……って、これはアニメじゃぞ、イスカ。このきゃらくたぁのこすぷれをして歌ったりする催しの案内のようじゃな」
「へえ……面白そうですね」
 キララに指摘され、しかしそれも楽しそうと思えるイスカはかなりできた人物であるに違いない。
「そういえば、ここ、別のフロアには漫画とかも売ってるのよね!」
 少女漫画的めくるめくラブロマンスを夢みるスキュアは、想像だけでもう頬を染め、胸をときめかせてしまっている。それと、どこで聞いたか「どーじんし」や「恋愛ゲーム」なるものにも興味津々という様子で、店員にも一生懸命になって売り場を尋ね、そしてたどり着いた宝のありか(=売り場)で蕩けそうな表情を浮かべていた。
「折角ならリムネラとも一緒に楽しみたいわ、仲良くきゅんきゅんしたいもの!」
「きゅんきゅん……デスか?」
 リムネラは小さく首をかしげた。よく分からないという表情で。良く考えてみればそう言った色恋沙汰とは縁遠いリムネラ、その感覚がいまいち分かっていないのかも知れない。
「そ、そういえば、疑問なのですが、同じ本を沢山買っている方が、いたのですが……一冊で十分ではないのですか? 沢山ないと駄目なのですか?」
 と、やはり本好きで同じフロアをきょろきょろ見回していた燐火が不思議そうに目をぱちぱちとさせながら問いかける。確かに、このフロアでは何人かが同じ本を二冊、三冊と購入しているのが目についた。ふむ、と観智は顎に手をやると、
「ああ……観賞用と布教用、とか言う奴かもですね。こればかりは、その人が何を目当てに複数買っているか、まちまちですけれど」
 初めてのリアルブルーにパンクしそうになっている燐火をよしよしとなだめた。
 それにしても、やはりというかアキハバラには魅力的な書物などが多い。観智も口元を緩めて、本を一冊手に取った。一数も同様に、オーディオ売り場にいってCDを手に取る。ソレが妙に懐かしい気がした。


 一通りショッピングも堪能してから、向かうのはふれあいカフェ。動物を放し飼いに近い状態にして、一緒に遊びながら食べることのできる喫茶店というのがこの近辺には幾つもあるのだ。
「と言っても、ドッグカフェ、猫カフェ……種類は多いようじゃがな」
 するとリムネラは微笑みながらそっと指さした。そこにあるのは可愛らしいデザインの看板の、「うさぎカフェ」。
「わ、可愛らしそうですね! 私も行ってみたいです、行きましょうキララ姉さま!」
 イスカも嬉しそうに顔を綻ばせると、
「わしのうでがなるわ、ふふ」
 指をわきわきさせながらにやりと笑うキララ。
 普段チューダがユニオンに時折顔を見せたり、ユニオンの近くに犬猫がいたりと、ガーディナにいる普段から動物に囲まれやすい環境ではあるが、いわゆる商売としての動物たちはどうなのか、リムネラとしても純粋に興味を持ったのだ。
 早速店に入ると、いらっしゃいませ、と言う挨拶とともにあちこちで草を食むうさぎが見受けられる。
「皆さんぬいぐるみとかお好きなんですねー? うちのうさぎさん達もふかふかでかわいいですから、どうぞ好きな子を選んでくださいね!」
 皆が抱えているぬいぐるみを見て、店員達もにっこりと笑顔。もふもふした物が好きな集団と勘違いされたのだろう、それはある意味計画通りとも言えるのでありがたい話だ。店主の女性によれば、本当はもっとたくさんの種類の動物もおきたいらしいのだが、動物同士の相性も合ってソレは実際にはなかなか難しいのだという。
「お店はワンオーダー制になっていまして、それと一緒に遊びたいうさぎさんを選んでくれますか? 今日は大人しくて店でも一番人気のジャックちゃんがまだ指名されてませんから、どうですか? 団体さんですし、他の子もだいじょうぶですよ?」
 それならと、自分たちのドリンクや軽食、それにうさぎのジャックくん、メアリーちゃんなどをお願いする。やがて連れられてきたジャックくんは、なるほど、いわゆるロップイヤーラビットのオスだった。メアリーちゃんはネザーランドドワーフのメスらしい。ふかふかした触り心地は、たしかにどこかの幻獣王を彷彿としつつも、しかしその愛らしさは幻獣王の比ではない。どこかとぼけた愛らしい表情で無心に野菜を食んでいる――それだけならチューダもするであろうが、如何してこんなにも愛らしさというのが違うのだろうか。
 メアリーちゃんやジャックくんはおとなしくもさもさと餌のはっぱを食べながら、みんなにされるがままに撫でられ、時々微かに首をかしげたりもしている。そう言う愛嬌は、それこそチューダにないと言うことで新鮮なのかも知れない。
「可愛いですね……いやされマス」
 リムネラも笑顔を見せ、ヘレにもちょんと触らせてやる。ぬいぐるみのふりをしたままのヘレだが、じっさいにふかふかのジャックくんに触れると思わずきゅい、と声を上げてしまった。
「あら? もしかしてその子、生き物ですかあ~?」
 店員が目をぱちくりさせて近づいてくる。
「むむむ、ばれてしまっては仕方がないのう、この子は稀少な「ツノトカゲのアルビノ種」なのじゃ。非常に高価じゃて、無闇と触れるでないぞや?」
 キララがあらかじめ用意していた言い訳を説明する。店員もそれを聞いて妙に納得したらしく、
「ジャックくんと喧嘩しないように気をつけて下さいねー」
 くらいの軽い注意ですんでしまう。アキバ慣れしていない観光客だというのがわかるのだろう、店員達の扱いもそういう意味では慣れたものだ。
 ハンターたちは特製パンケーキに舌鼓をうち、ジャックくんたちと戯れる一時は実に至福としか言いようがない。
(でもこういうお店、衛生面とか大丈夫なのかしら……?)
 スキュアは内心思いつつ、きょろきょろ周囲を見回してみる。よく見ればあちらこちらにアルコール除菌作用のあるウェットティッシュが置かれていたり、うさぎの躾もしっかりされていたりと出来る限りの衛生面や動物たちのケアをしているようだ。ふわふわの触り心地だって、店の者が毎日綺麗に梳っているからなのだろう。
(なるほど、これは病院の衛生管理にも応用できるかも知れないわね)
 医者の家系に産まれたスキュアとしては、やはりそういうことが気になるのだろう。
「でもでもっ、こういう施設がリゼリオにもあったら、素敵でしょうね! 動物を飼いたくてもなかなか飼えない人が、きっとくると思うんです。それこそ、癒しを求めて!」
 燐火の言葉は弾んでいる。きっとこんなカフェが身近にあったら毎日のように通うのではないのだろうか。
「そうデスね。キット、喜ぶ人も多いハズです」
 リムネラもにっこりと頷き返した。


 時間を忘れてしまいそうになるほどゆっくり休憩を取ってから、ハンターたちは坂を登っていく。アキハバラから神田明神にいくには、緩やかだがやや長い坂を登っていくことになるからだ。
「そういえば、ここの神社……は、ドンナ場所なのですか?」
 リムネラが問うと、
「そうですね、神道における神社に祀られている日本の神様は、感覚的にはクリムゾンウェストの精霊とかにも近い概念なんですよね……実在の有無を除いてしまえば。英霊のような方もおられますし……自然精霊のような方も。神田明神の御祭神は……ええと」
 観智が記憶を頼りに説明していく。懐の手帳をぱらぱらと眺め、
「ああ、ええと……オオナムチノミコト、スクナヒコナノミコト、それに平将門公……どちらかというと英霊寄りの方々、でしょうか? 少なくとも将門公は、あちらの精霊に喩えるのなら、間違いなく英霊同様の方ですね。生きていた頃の逸話なども残っているはずですし……前のふた柱に関しては、公式な記録などが作られる以前の存在ですので、創作の可能性も、地方の豪族の可能性もありますが」
 事前にリサーチしてきてあったのだろう、観智が丁寧に説明をする。
「英霊を祀る聖地デスか! ソレはなんとも興味深いデス!」
 リムネラも目を輝かせる。
「参拝の仕方は、それほど作法を気にする必要もあまりないはずですよ。もともと作法自体、近代になって作られた物のようですし」
 観智はそう説明するが、それでもリムネラとしては気になるものらしい。このあたり、やはり巫女と呼ばれる由縁なのだろうが。
「でも、ボクも知りたいです!」
 燐火も興味深そうにはいっと手を上げた。こちらについては一数もあらかじめ調べてきたようで、小さく微笑んでから燐火をそっと撫でてやる。
「それなら、基本的なことだけれど……神田明神の御祭神は、さっきしてもらったから、参拝の仕方をさっくり教えるよ。まず、鳥居や門をくぐる前には一礼する。神様への挨拶だ。それから、参道も神様の通り道だから、中央は歩かずに端を歩くようにする」
「面白いのですね。神というのはそれだけを聞くと傲慢にも思えますが、そうではないのですよね?」
 フィロが尋ねると、もちろんと返事が返ってきた。
 やがて一行も大きな朱塗りの門の前にやってくる。赤には魔除けの意味があるのだと、観智が教えてくれた。
「まず、神社に来たら手水舎で身を清める。と言っても、手と口をすすぐ形だけれどね。ひしゃくに水を掬って、それで手を洗い、その水で口もすすぐ。でも、ひしゃくに直接口をつけるのは禁止だ。最後に掴んでいたひしゃくの柄を洗うようにして、清めは終わり。このとき、ひしゃくに汲む水一回分で済ませた方がいいと聞いたこともあるから上手く配分してこなそう」
 一数のアドバイスに、ふむふむと頷くクリムゾンウェストのハンターたち。しかしはじめから上手くいくわけもなく、水をつい零してしまったりひしゃくに口をつけてしまったり、びしゃびしゃになりながらも一応手を清めることができた。
「……あれはなんですか?」
 イスカが不思議そうに見つめているのは、いわゆる絵馬をかける場所だ。ものによっては色とりどりのイラストが描かれていたりして、見るものを思わず惹きつける何かがある。
「此処はアキハバラに近く、アニメーションの舞台にもなったことがありますから。それで、こういったイラストを描かれた絵馬も沢山飾られているんですよ」
 観智と一数の説明を受けて、イスカが目を輝かせる。
「聖地にこんなものを導入したら、楽しそうだね! きっと人気も出て、聖地も明るくなりそう!」
 そう提案しては見たものの、リムネラはそれに僅かに首をかしげるのみ。どうも聖地はあくまでも聖地なので、俗のイメージをあまり多く持ち込みたくはないらしい。
 聖と俗は本来相容れないもの。それを考えれば……と言うのがリムネラの考えなのだそうだ。
「でも見よう見まねでも、なんだかドキドキするわね。ちょっと楽しいわ」
 スキュアがそういえば、
「えっと、ここから先は如何するんだっけ、お金を入れてお願い事もできるって、ちらっと聞いたけれど」
 イリエスカが不思議そうに聞いてみる。
「うん……目の前に見える建物、あれが本殿なんだけど、そこに賽銭箱って言うのがあってね。そこにお金を納めるんだ。それも作法があって、まず軽くお辞儀をしてから鈴を鳴らして神様に訪問してきたことを告げ、お賽銭を納める。この金額は自由だけど、俺なら「ごえん」つながりで五円玉をいれるかな」
 一数はそう言うと、中央に穴の開いた五円玉を見せて、言ったとおりの作法で賽銭箱に投入した。
 周囲のみんなも、それに合わせて真似てみせる。
「うん。そしたら、二礼二拍一礼。二回深くお辞儀をしてから胸の高さで手を合わせて二回柏手を打つ。そして手を揃えてお祈りをしてから最後にもう一度礼をする……これが基本だね」
 そう言うと、さらりとその行程を示してみせる一数。なるほど、リアルブルーとクリムゾンウェストでは信仰のあり方も結構異なるらしい。みなも思い思いの願いを祈っているようだ。
 リムネラも柏手を打って目を閉じる。
 と――

 リムネラの頭に、何か、強く重く響くような声が聞こえたような気がした。
 それから、ふっと足元が掬われるような違和感を感じて――。


 ――次にリムネラが目を開けたのは、神社の休憩所だった。周囲には、心配そうな顔で見守っているハンターたちがいる。
「え、ドウして……」
「ご主人様は、柏手を打ってから倒れられて……慌ててこちらに運んできたのです。大丈夫でしょうか。それにしても申し訳ありません、私たちがついていながら……」
 フィロが状況をかいつまんで説明してから体調を尋ねると、リムネラはゆっくりと頷いて見せた。
「……ソノ、声が聞こえたような気が、シテ」
「声?」
 イリエスカが不思議そうに尋ねる。
「エエ……何処か悲痛な、訴えかけるような、声デシタ……」
 と、そこまで言ってリムネラは手元にヘレがいないことに気付いた。
「ソウ言えば……ヘレは?」
 リムネラが不安そうに尋ねると、イスカがふわふわのドレスを着たヘレをリムネラに差しだした。しかしそのヘレもくったりとしていて、どうにも生気が無い。いや、昏々と眠っている――と言う表現がしっくりくるような感じだ。
「ヘレ……? コレは、どういう……?」
 リムネラの問いに、イスカが涙目になる。
「……気が付いたら、リムネラさんが倒れてすぐくらいに、ヘレちゃんもぐったりしてて……何か良くなかったんでしょうか」
「ヘレはクリムゾンウェストの存在じゃからのう。何か……たとえば空気があわなかったとか、あったのかも知れんな」
 キララが首をひねる。
「それにしても突然で……一過性のものなら、いいんですが」
 観智がそう言って眉間にしわを寄せた。

 その後、リムネラはヘレと共にリアルブルーへ戻るのだが、ヘレはまったく目を覚まさなかった。
 原因も不明――リムネラも必死で看病を続けているが、ヘレの容態はまったく変わらない。 
 リムネラの初めてのリアルブルーは、怪しい雲行きのまま、幕を閉じていくことになったのだった――。

 そして、この事件がリムネラとヘレに大きな試練をもたらす事になる。

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MVP一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智ka0896

  • 多田野一数ka7110

重体一覧

参加者一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 食事は別腹
    イリエスカ(ka6885
    オートマトン|16才|女性|猟撃士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

  • スキュア・W・スカイスクレイパ(ka7101
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人

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スキュア・W・スカイスクレイパ(ka7101
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/02/03 20:00:05
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/03 12:47:54