ゲスト
(ka0000)
犬の餌
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/05 19:00
- 完成日
- 2014/12/13 11:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
この村に住んでいる犬は、誰かが「うちの犬」と言わなければ、「村の犬」だ。
あちこちで餌を貰い歩いている、黒くて足と鼻の先が茶色いこの犬もそうだ。「クロ」とか「ポチ」とか「ジョン」とか色んな名前で呼ばれ、気が向いた場所で寝るが、餌は決まったところで食べていた。あの家と、この家と、その家と、そして少し遠いが村はずれにある、シボ婆の家だ。なにせシボ婆には街の肉屋に嫁いだ娘がおり、その娘が月に3、4度ほど来ては肉と骨を置いて帰る。この骨にありつけるのなら、黒犬は少々の距離の遠さなど苦にもしないのだった。
「おお、チビ、来たのか」
シボ婆の家では、チビと呼ばれていた。チビと呼ばれるほど黒犬は小さくは無いのだが、小さい頃から通っていたのだから仕方がない。何年もずっと、だいたい昼頃の決まった時間にチビは顔を出す。それに合わせてシボ婆は餌を庭先に用意しておく。
シボ婆は一人で住んでいる。夫は先立ち、娘は離れて住む。近所の人間といってもそれほど近くなく、時々様子を見に来てはくれるが頻繁ではない。だから、チビが唯一、毎日通ってくる客だったのだ。
ある時、チビが来なかった。
どうかしたのだろうか、と心配になったが、夕方頃に庭で物音がし、見てみると餌皿が空っぽになっていたので、ああ、ちゃんと来るには来たのだと一安心した。
次の日も来なかった。けれど、夕方には餌皿はきれいに片付いている。
なかなかタイミングが悪いなあ、と、残念そうにシボ婆は呟いた。
さてその頃。
いつもならシボ婆の家の方を歩いているはずの黒犬が逆の場所にいたのを見つけた村人が声をかけた。
「おお、クロ。どうした、今日はシボ婆さんのところで骨を貰ってこないのか?」
けれど黒犬は知らん顔をして、どこかへ行ってしまった。
変だな、と思った村人は、もしやシボ婆に何かあったのかと、様子を見に行くことにした。そこで彼は、恐ろしいものを見た。
シボ婆の庭先に、コボルドが4、5匹集まっているではないか!
黒犬に用意された餌皿にある骨を嬉しそうにつまみ上げ、キャンディのように口に放り込む。ばりばりと噛み砕いて舌なめずりをし、餌皿が空っぽになると立ち去ってしまった。
何ということだ、シボ婆は黒犬に餌をあげているつもりが、コボルドを呼び寄せてしまっていたのだ! すぐに教えて止めさせなけば……。
と思ったが、村人は思いとどまった。
もし、これで急に餌を止めたとして、コボルドは大人しく引き返すだろうか? 逆上してシボ婆の家に入り込み、他の食べ物を捜したりしないだろうか?
どう対応するのが正しいか分からず、ともかく第一はコボルド退治だと、村人はハンターズソサエティに相談した。
あちこちで餌を貰い歩いている、黒くて足と鼻の先が茶色いこの犬もそうだ。「クロ」とか「ポチ」とか「ジョン」とか色んな名前で呼ばれ、気が向いた場所で寝るが、餌は決まったところで食べていた。あの家と、この家と、その家と、そして少し遠いが村はずれにある、シボ婆の家だ。なにせシボ婆には街の肉屋に嫁いだ娘がおり、その娘が月に3、4度ほど来ては肉と骨を置いて帰る。この骨にありつけるのなら、黒犬は少々の距離の遠さなど苦にもしないのだった。
「おお、チビ、来たのか」
シボ婆の家では、チビと呼ばれていた。チビと呼ばれるほど黒犬は小さくは無いのだが、小さい頃から通っていたのだから仕方がない。何年もずっと、だいたい昼頃の決まった時間にチビは顔を出す。それに合わせてシボ婆は餌を庭先に用意しておく。
シボ婆は一人で住んでいる。夫は先立ち、娘は離れて住む。近所の人間といってもそれほど近くなく、時々様子を見に来てはくれるが頻繁ではない。だから、チビが唯一、毎日通ってくる客だったのだ。
ある時、チビが来なかった。
どうかしたのだろうか、と心配になったが、夕方頃に庭で物音がし、見てみると餌皿が空っぽになっていたので、ああ、ちゃんと来るには来たのだと一安心した。
次の日も来なかった。けれど、夕方には餌皿はきれいに片付いている。
なかなかタイミングが悪いなあ、と、残念そうにシボ婆は呟いた。
さてその頃。
いつもならシボ婆の家の方を歩いているはずの黒犬が逆の場所にいたのを見つけた村人が声をかけた。
「おお、クロ。どうした、今日はシボ婆さんのところで骨を貰ってこないのか?」
けれど黒犬は知らん顔をして、どこかへ行ってしまった。
変だな、と思った村人は、もしやシボ婆に何かあったのかと、様子を見に行くことにした。そこで彼は、恐ろしいものを見た。
シボ婆の庭先に、コボルドが4、5匹集まっているではないか!
黒犬に用意された餌皿にある骨を嬉しそうにつまみ上げ、キャンディのように口に放り込む。ばりばりと噛み砕いて舌なめずりをし、餌皿が空っぽになると立ち去ってしまった。
何ということだ、シボ婆は黒犬に餌をあげているつもりが、コボルドを呼び寄せてしまっていたのだ! すぐに教えて止めさせなけば……。
と思ったが、村人は思いとどまった。
もし、これで急に餌を止めたとして、コボルドは大人しく引き返すだろうか? 逆上してシボ婆の家に入り込み、他の食べ物を捜したりしないだろうか?
どう対応するのが正しいか分からず、ともかく第一はコボルド退治だと、村人はハンターズソサエティに相談した。
リプレイ本文
●シボ婆
時間はちょうど、正午頃だろうか。
家の裏口が開き、中から腰の曲がった老婆、家の主のシボがのそのそと出てきた。手には白い皿があり、その中には噛みごたえのありそうな骨が盛られていた。
「おーい、チビやー」
声をかけ、何の反応も無いと知ると、溜息をついて皿を地面に置き、またのそのそと家に戻っていった。
その様子を物陰から見ていたハンター達もまた、同じように溜息をついた。
「やれやれ、チビ思いのシボ婆の気持ちも知らなんで悪さをするとは……お灸は据えてやらねばなるまいな?」
そう言うクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)に、風花・メイフィールド(ka2848)もプルミエ・サージ(ka2596)もおおいに賛同する。
「せやな。こっすい悪っるいコボルトさん達は、そないな事を二度と出来ん様に、めちゃくそにしてやらなアカンね」
「きっちり退治して差し上げましょー!!」
力一杯拳を突き上げる彼女らの手には、早くも弓や銃が握られている。
「ふうむ、威勢の良い女性というのは、華やかなものでござるな」
メンバー達を見てつい呟いたのは、スタン・ファーコート(ka3417)。なにせ彼が初めて依頼を受けたときには、同行したのはオカマや女装やよく分からない連中だった。もっとも、そのよく分からない連中の一人は、ウサギの着ぐるみで出陣したスタン本人も含まれているのだが。しかし今、目の前に並んでいるのは真っ当な女性ばかりであった。
だが勇ましい彼女らのなかで一人、Charlotte・V・K(ka0468)は複雑な表情をしていた。
……果たして、コボルドを退治することは正しいのか? 今はまだ、誰も傷ついていない。けれど、傷ついてからでは遅い……そんなことを考えてしまう。
「どうしたの?」
心配したリューリ・ハルマ(ka0502)がCharlotteの顔を覗き込む。
「なんか、怖い顔だよ」
「ああ……この顔が癖なんだ、すまない」
不快にさせてしまったかと、頭を下げる。
「この癖のせいで、昔から動物に懐かれない」
言いながら、隣に行儀良く座っているダックスフンドの頭を撫でる。
「村に住んでいる犬は全て村の犬、か……。うちの犬も、ここで暮らした方が幸せなんじゃないだろうかねぇ」
「まさか! 家族は一緒の方がいいに決まってるじゃない」
「だといいけどねぇ……」
結論を急ぐことはない、この仕事が終わるまでに決めて貰おう。
「そうだよ、今は仕事のことだけ考えようよ。コボルドにゴハンを横取りされっぱなしじゃ、村の犬になってもお腹空かせちゃうよね。食べ物の恨みは怖いって、コボルドに思い知らせてやれー!!」
「そうだー、食べられちゃったお返しに、食べてやれーー!!」
「えっ?」
「え?」
唐突なことを言いだした、ミネット・ベアール(ka3282)に、皆が振り返る。狩猟部族の中で暮らしていた彼女にとって、なぜ狩るかといえば食べるためである。なのでコボルドも、当然食べるつもりでこの場に来ていた。
「……食べ、る、の?」
「食べないの?」
どうやら意識の差違があるらしい。けれど、残らず退治するという点では意見は一致した。
「そんで、お婆ちゃんに教えた方がエエかなあ? 庭先でドカチャカやることになるかもしれへんし」
「妾は、しない方が良いと考えるが」
クラリッサ=Wが言った。知らせて余計な心配をさせても可哀想だ。事件を隠す後ろめたい理由があるでなし、わざわざ教えなくてもよいだろう。
この点についても、皆の考えは同じとなった。
●コボルド
庭に置きっぱなしの餌皿に、空しく木枯らしが吹き付ける。
「婆ちゃんは、出てきそうにないな」
炊事の煙が昇っているのを見て、風花は言った。木戸もぴったり閉められ、出てくる様子はない。さあ、どこからコボルドは現れるのかと、ハンターはじっと息をひそめて待っていた。あらかじめ依頼人にコボルドが出入りした道の位置を確認してはいたが、たかが1回の目撃情報、いつも同じ進路が使われるとも限らず、四方に目を遣っていた。
「まとまって動いてくれると、やり易いのじゃがのう……」
見張りを続けるクラリッサ=Wの視線の先に、枝に結ばれた白いリボンが揺れていた。あの下には、ミネットが仕掛けた罠がある。足を引っかけるロープを張ったり、草どうしを結んだりする簡素なものだ。あの方向へ追いやることが出来ればよいのだが。
「来たよ!」
いよいよ待ちに待った連中のお出ましだ。聞いていた場所と同じところから5匹のコボルドが顔を出した。鼻をひくひくさせながら、まっすぐ餌皿に向かってきた。硬そうな骨であったが、鋭い牙でばりばりと簡単に噛み砕いてしまう。犬1匹のために用意された量はわずかなもので、あっという間に食べ尽くすと、この場にもう用はないと言わんばかりに、さっさと動き出した。庭を横切り、元の雑木林へ入ろうとする。
そのコボルド達の真っ正面にプルミエが飛び出して、銃を突きつけた。
「いぇあ! いっきますよーー!!」
オートマチックST43から1発の弾丸が飛び出し、コボルドの顔を擦った。外れた弾丸は後ろの木に当たり、乾いた音を立てた。プルミエはコボルドの反応を見る。怯えて逃げ出すか、喧嘩を売られたと思って反撃してくるか。
しめた、反応は後者だ!
なにせこの場では、数は1対5、コボルドはこの生意気な小娘を八つ裂きにしてくれようと襲いかかってきた。うまく引っかかってくれたと、プルミエはあの白いリボンがある場所へと追わせるように逃げる。
『グルルル、グワアアア』
犬の鳴き声に似たうなり声をあげながらコボルドは追いかけてくる。
何やら庭が騒がしいと、シボ婆が顔を覗かせた時。そこにはもう空っぽの餌皿しか残っていなかった。
「なかなかタイミングが悪いなあ……」
5匹のコボルドは固まったまま、プルミエを追いかけて雑木林の中に入ってきた。ハンター達がすでに包囲網を敷いているとも気付かずに。
最後尾にいたコボルドが、突然倒れた。先の4匹はそれに気付かない。
「……動けないだろう?」
Charlotteの『エレクトリックショック』が見事に命中し、コボルドは動けなくなってしまった。動かない的を外すほど、Charlotteはのろまではないのだ。こうして最初の1匹は、あっけなく炎の弾丸によって息の根を止められた。
そんな後方の騒ぎがそろそろ気付かれないはずもなく。追いかけていた小娘にもいつの間にか撒かれてしまい、コボルドも狼狽え始めた。
『ギャッ』
またも、コボルドが電撃に倒れた。異状にようやく気付いた残るコボルドは、仲間を助けることもせずその場を逃げ出そうとする。
だが、焦りゆえに、足下に敷かれた分かりやすい罠にも簡単に引っかかってしまう。すばしこい足を頼りに退散しようにも、それよりも先に武器を携えたハンター達に取り囲まれてしまった。
「ふふふ、絶対に仕留めます……」
じゅるっ、と流れる涎を拭きながらミネットはオークボウを構える。目の前にいるのはイキのいい獣だ、さぞや狩り甲斐があるだろう。
「絶対に逃がさないからね!」
『闘心昂揚』で己を鼓舞するリューリは、完全にこちらに有利な舞台に興奮していた。これで逃げられたりしたら、ハンターズソサエティの恥さらしだ。
「ガンガンいくよ!」
覚醒したリューリは敵を滅することに何ら躊躇しない。レイピアを振り上げ、コボルドに振り下ろす。
「ちぇッ」
腕をもぎ、脇腹を抉ったが、まだ生きている。周りに雑木の枝が繁っていなければ確実に仕留めただろうに。
「何の、リューリ殿。よい動きでござる!」
剣が振れなければ、突けばよい。スタンは『踏込』・『強打』の定番コンビネーションで、小さなコボルドの体を貫いた。
「御主に恨みはないが、切り捨て御免!」
切り捨てられてたまるかと、窮鼠猫ならぬウサギを噛むべく飛びかかってきた。
「うぬぅ!」
死に物狂いでかかってくる相手は小さくとも厄介だ、バスタードソードで叩き潰そうにも、ちょこまかとかわす。
その動きを止めたのは、背中に突き刺さった矢だ。『シャープシューティング』で限界まで高めた風花の集中力は、矢に迷いのない軌跡を描かせ、命中した。
『グ……グアア……』
更に一矢、また一矢。とても離れた場所から狙っているとは思えないほど、確実にコボルドに当てていく。この世界では、精霊を味方につけた者が勝利を掴むのだ。
「婆ちゃんの気持ちを踏みにじった報いや。反省しぃ」
犬の餌を横取りするコボルドは、いなくなった。
●チビ
ミネットが拵えていたのは、コボルドの墓だった。美味しく頂くつもりであったが、誰も食べたことのない亜人の肉、毒でもあったらどうするのかということで今回は諦めることにした。
「殺してしまったのに食べなくて、ごめんなさい……」
「ミネットは優しいね」
プルミエも付き合い、一緒に手を合わせた。
「これで、チビがまたシボ婆ちゃんのところに戻ってくるといいね」
そのチビは、リューリとクラリッサ=W、それにスタンが捜していた。捜す、というほど大仰でもなく。村に行ってその辺の人数人に聞けば、いつもの昼寝場所で寝ているところを見つけることができた。
「またシボお婆さんの所でご飯食べられるよ」
声をかけてみたが、もちろん言葉が通じるはずもなく、けれど自分に向かって話しかけられたのは分かるようで、チビは尻尾を振った。
「おお、拙者たちの言ってることが分かるでござるか、賢い犬よのう」
得体の知れないウサギが黒犬の頭に手を伸ばす前に、チビは飛び上がって避けた。危機を察知する、まさしく賢い犬である。
「……どうする、おまえもあのチビのように生きるか?」
Charlotteは最初の決意通り、傍らの愛犬に尋ねてみた。けれど、犬は自分について歩いた。これが答えらしい。
さて、この解決した一連の事件を、改めてシボ婆に伝えるべきだろうか。ここ数日間の落胆を慰めることはできるかもしれない。
「うちはあんまり口が巧ぅないし、そこんとこは他ん人にお任せやわ」
風花はおさげ髪に指を絡め、申し訳なさそうに言った。
「慰める必要はないでござろう」
きっとチビは明日、シボ婆のところへ行くに違いない。
何の根拠もないけれど、ハンター達はそれを確信していた。
翌日。村は、平穏ないつも通りの日常が送られていた。
時間はちょうど、正午頃だろうか。
家の裏口が開き、中から腰の曲がった老婆、家の主のシボがのそのそと出てきた。手には白い皿があり、その中には噛みごたえのありそうな骨が盛られていた。
「おーい、チビやー」
声をかけ、何の反応も無いと知ると、溜息をついて皿を地面に置き、またのそのそと家に戻っていった。
その様子を物陰から見ていたハンター達もまた、同じように溜息をついた。
「やれやれ、チビ思いのシボ婆の気持ちも知らなんで悪さをするとは……お灸は据えてやらねばなるまいな?」
そう言うクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)に、風花・メイフィールド(ka2848)もプルミエ・サージ(ka2596)もおおいに賛同する。
「せやな。こっすい悪っるいコボルトさん達は、そないな事を二度と出来ん様に、めちゃくそにしてやらなアカンね」
「きっちり退治して差し上げましょー!!」
力一杯拳を突き上げる彼女らの手には、早くも弓や銃が握られている。
「ふうむ、威勢の良い女性というのは、華やかなものでござるな」
メンバー達を見てつい呟いたのは、スタン・ファーコート(ka3417)。なにせ彼が初めて依頼を受けたときには、同行したのはオカマや女装やよく分からない連中だった。もっとも、そのよく分からない連中の一人は、ウサギの着ぐるみで出陣したスタン本人も含まれているのだが。しかし今、目の前に並んでいるのは真っ当な女性ばかりであった。
だが勇ましい彼女らのなかで一人、Charlotte・V・K(ka0468)は複雑な表情をしていた。
……果たして、コボルドを退治することは正しいのか? 今はまだ、誰も傷ついていない。けれど、傷ついてからでは遅い……そんなことを考えてしまう。
「どうしたの?」
心配したリューリ・ハルマ(ka0502)がCharlotteの顔を覗き込む。
「なんか、怖い顔だよ」
「ああ……この顔が癖なんだ、すまない」
不快にさせてしまったかと、頭を下げる。
「この癖のせいで、昔から動物に懐かれない」
言いながら、隣に行儀良く座っているダックスフンドの頭を撫でる。
「村に住んでいる犬は全て村の犬、か……。うちの犬も、ここで暮らした方が幸せなんじゃないだろうかねぇ」
「まさか! 家族は一緒の方がいいに決まってるじゃない」
「だといいけどねぇ……」
結論を急ぐことはない、この仕事が終わるまでに決めて貰おう。
「そうだよ、今は仕事のことだけ考えようよ。コボルドにゴハンを横取りされっぱなしじゃ、村の犬になってもお腹空かせちゃうよね。食べ物の恨みは怖いって、コボルドに思い知らせてやれー!!」
「そうだー、食べられちゃったお返しに、食べてやれーー!!」
「えっ?」
「え?」
唐突なことを言いだした、ミネット・ベアール(ka3282)に、皆が振り返る。狩猟部族の中で暮らしていた彼女にとって、なぜ狩るかといえば食べるためである。なのでコボルドも、当然食べるつもりでこの場に来ていた。
「……食べ、る、の?」
「食べないの?」
どうやら意識の差違があるらしい。けれど、残らず退治するという点では意見は一致した。
「そんで、お婆ちゃんに教えた方がエエかなあ? 庭先でドカチャカやることになるかもしれへんし」
「妾は、しない方が良いと考えるが」
クラリッサ=Wが言った。知らせて余計な心配をさせても可哀想だ。事件を隠す後ろめたい理由があるでなし、わざわざ教えなくてもよいだろう。
この点についても、皆の考えは同じとなった。
●コボルド
庭に置きっぱなしの餌皿に、空しく木枯らしが吹き付ける。
「婆ちゃんは、出てきそうにないな」
炊事の煙が昇っているのを見て、風花は言った。木戸もぴったり閉められ、出てくる様子はない。さあ、どこからコボルドは現れるのかと、ハンターはじっと息をひそめて待っていた。あらかじめ依頼人にコボルドが出入りした道の位置を確認してはいたが、たかが1回の目撃情報、いつも同じ進路が使われるとも限らず、四方に目を遣っていた。
「まとまって動いてくれると、やり易いのじゃがのう……」
見張りを続けるクラリッサ=Wの視線の先に、枝に結ばれた白いリボンが揺れていた。あの下には、ミネットが仕掛けた罠がある。足を引っかけるロープを張ったり、草どうしを結んだりする簡素なものだ。あの方向へ追いやることが出来ればよいのだが。
「来たよ!」
いよいよ待ちに待った連中のお出ましだ。聞いていた場所と同じところから5匹のコボルドが顔を出した。鼻をひくひくさせながら、まっすぐ餌皿に向かってきた。硬そうな骨であったが、鋭い牙でばりばりと簡単に噛み砕いてしまう。犬1匹のために用意された量はわずかなもので、あっという間に食べ尽くすと、この場にもう用はないと言わんばかりに、さっさと動き出した。庭を横切り、元の雑木林へ入ろうとする。
そのコボルド達の真っ正面にプルミエが飛び出して、銃を突きつけた。
「いぇあ! いっきますよーー!!」
オートマチックST43から1発の弾丸が飛び出し、コボルドの顔を擦った。外れた弾丸は後ろの木に当たり、乾いた音を立てた。プルミエはコボルドの反応を見る。怯えて逃げ出すか、喧嘩を売られたと思って反撃してくるか。
しめた、反応は後者だ!
なにせこの場では、数は1対5、コボルドはこの生意気な小娘を八つ裂きにしてくれようと襲いかかってきた。うまく引っかかってくれたと、プルミエはあの白いリボンがある場所へと追わせるように逃げる。
『グルルル、グワアアア』
犬の鳴き声に似たうなり声をあげながらコボルドは追いかけてくる。
何やら庭が騒がしいと、シボ婆が顔を覗かせた時。そこにはもう空っぽの餌皿しか残っていなかった。
「なかなかタイミングが悪いなあ……」
5匹のコボルドは固まったまま、プルミエを追いかけて雑木林の中に入ってきた。ハンター達がすでに包囲網を敷いているとも気付かずに。
最後尾にいたコボルドが、突然倒れた。先の4匹はそれに気付かない。
「……動けないだろう?」
Charlotteの『エレクトリックショック』が見事に命中し、コボルドは動けなくなってしまった。動かない的を外すほど、Charlotteはのろまではないのだ。こうして最初の1匹は、あっけなく炎の弾丸によって息の根を止められた。
そんな後方の騒ぎがそろそろ気付かれないはずもなく。追いかけていた小娘にもいつの間にか撒かれてしまい、コボルドも狼狽え始めた。
『ギャッ』
またも、コボルドが電撃に倒れた。異状にようやく気付いた残るコボルドは、仲間を助けることもせずその場を逃げ出そうとする。
だが、焦りゆえに、足下に敷かれた分かりやすい罠にも簡単に引っかかってしまう。すばしこい足を頼りに退散しようにも、それよりも先に武器を携えたハンター達に取り囲まれてしまった。
「ふふふ、絶対に仕留めます……」
じゅるっ、と流れる涎を拭きながらミネットはオークボウを構える。目の前にいるのはイキのいい獣だ、さぞや狩り甲斐があるだろう。
「絶対に逃がさないからね!」
『闘心昂揚』で己を鼓舞するリューリは、完全にこちらに有利な舞台に興奮していた。これで逃げられたりしたら、ハンターズソサエティの恥さらしだ。
「ガンガンいくよ!」
覚醒したリューリは敵を滅することに何ら躊躇しない。レイピアを振り上げ、コボルドに振り下ろす。
「ちぇッ」
腕をもぎ、脇腹を抉ったが、まだ生きている。周りに雑木の枝が繁っていなければ確実に仕留めただろうに。
「何の、リューリ殿。よい動きでござる!」
剣が振れなければ、突けばよい。スタンは『踏込』・『強打』の定番コンビネーションで、小さなコボルドの体を貫いた。
「御主に恨みはないが、切り捨て御免!」
切り捨てられてたまるかと、窮鼠猫ならぬウサギを噛むべく飛びかかってきた。
「うぬぅ!」
死に物狂いでかかってくる相手は小さくとも厄介だ、バスタードソードで叩き潰そうにも、ちょこまかとかわす。
その動きを止めたのは、背中に突き刺さった矢だ。『シャープシューティング』で限界まで高めた風花の集中力は、矢に迷いのない軌跡を描かせ、命中した。
『グ……グアア……』
更に一矢、また一矢。とても離れた場所から狙っているとは思えないほど、確実にコボルドに当てていく。この世界では、精霊を味方につけた者が勝利を掴むのだ。
「婆ちゃんの気持ちを踏みにじった報いや。反省しぃ」
犬の餌を横取りするコボルドは、いなくなった。
●チビ
ミネットが拵えていたのは、コボルドの墓だった。美味しく頂くつもりであったが、誰も食べたことのない亜人の肉、毒でもあったらどうするのかということで今回は諦めることにした。
「殺してしまったのに食べなくて、ごめんなさい……」
「ミネットは優しいね」
プルミエも付き合い、一緒に手を合わせた。
「これで、チビがまたシボ婆ちゃんのところに戻ってくるといいね」
そのチビは、リューリとクラリッサ=W、それにスタンが捜していた。捜す、というほど大仰でもなく。村に行ってその辺の人数人に聞けば、いつもの昼寝場所で寝ているところを見つけることができた。
「またシボお婆さんの所でご飯食べられるよ」
声をかけてみたが、もちろん言葉が通じるはずもなく、けれど自分に向かって話しかけられたのは分かるようで、チビは尻尾を振った。
「おお、拙者たちの言ってることが分かるでござるか、賢い犬よのう」
得体の知れないウサギが黒犬の頭に手を伸ばす前に、チビは飛び上がって避けた。危機を察知する、まさしく賢い犬である。
「……どうする、おまえもあのチビのように生きるか?」
Charlotteは最初の決意通り、傍らの愛犬に尋ねてみた。けれど、犬は自分について歩いた。これが答えらしい。
さて、この解決した一連の事件を、改めてシボ婆に伝えるべきだろうか。ここ数日間の落胆を慰めることはできるかもしれない。
「うちはあんまり口が巧ぅないし、そこんとこは他ん人にお任せやわ」
風花はおさげ髪に指を絡め、申し訳なさそうに言った。
「慰める必要はないでござろう」
きっとチビは明日、シボ婆のところへ行くに違いない。
何の根拠もないけれど、ハンター達はそれを確信していた。
翌日。村は、平穏ないつも通りの日常が送られていた。
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659) 人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/12/04 21:43:55 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/02 00:34:49 |