ゲスト
(ka0000)
【東幕】おもしろき こともなき世を
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/06 12:00
- 完成日
- 2018/02/08 07:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
風雲急を告げる詩天。
反幕府・攘夷を掲げた浪士集団『鬼哭組』の暗躍は要人暗殺を経て若峰破壊へと向かっていく。
若峰を大火へ導き、九代目詩天の三条 真美(kz0198)を誘拐。詩天を頂点とする政治体制を新たに整える。
夢物語が如き理想を掲げ、革命を挑む鬼哭組。
若峰守護を掲げ、忠を持って阻止せんとする即疾隊。
物語は双方が激突する中で、佳境を迎える。
●
若峰四宿の一つ、猪名川。
詩天の西へと続く大きな道に繋がる重要な宿場町であるが、この若峰の入口とも言うべき場所をある一団がひた走る。
「どこに行けば、いいって?」
「何度も言ってるでしょ! 『清州屋』って宿! そこに敵の首魁がいるって!」
ハンター達は、走りながら必死になって目的の場所を探す。
猪名川宿、清州屋。
そここそ、攘夷浪士集団『鬼哭組』を束ねる松永武人が逗留する宿であった。
風待の親分からもたらされた情報と水野 武徳からの依頼にハンター達は動き出した。
「それにしても、あの親分って人も酷いよね。『あっしは、鬼哭組の計画阻止しますんで、後は皆さんにお任せします』って」
「仕方ない。即疾隊が浪士取り締まりを強化しても、火が付けられでもしたら即疾隊だけでは回らなくなる。誰かが市民を避難させないといけないからな」
愚痴るハンターに、別のハンターが詩天の事情を話す。
若峰の守護を担う即疾隊であるが、最近は多数の事件を抱えて人手不足は否定できない。万一、若峰が放火されれば即疾隊や町火消しだけでは対応が難しい。
侠客ではあるが、風待の親分も若峰の被害を食い止める役回りが必要なのだ。
「それで、この羽織りか。即疾隊に入ったみたいでちょっと格好いいかな」
ハンターの一人が、袖を通した羽織りの感触を確かめる。
敵の首魁がいるとはいえ、無理矢理に宿を調べるのだ。ハンターの身分では拒否されると考えたのだろう。そこで、即疾隊から特別に羽織りを貸し出された。これを身に着けて即疾隊を名乗れば宿の者も断る事は難しいはずだ。
「ここだ!」
宿を発見したハンターは、滑るように入口へ到達すると入口の戸を大きく開いた。
「何奴!」
浪士らしき侍が、反射的に刀へ手を伸ばす。
宿へと足を踏み入れたハンター達は、満を持して口を開く。
――時代劇で良く聞いた、あのセリフを叫んだ。
「「「御用改めであるっ!」」」
●
ハンター達が到着する頃から、遡ること15分前。
清州屋の二階に鬼哭組の松永武人の姿があった。これから浪士達と合流して若峰大火へ進めるべく決起。武人は火の手が上がったのを確認した後、黒駒城へ突入する手筈となっていた。
しかし、計画通りに行かぬのは世の常である。
「……て、てめぇ」
振り絞るように呟く武人。
元々、病で肺を患っている為に顔は青白い。だが、今日の武人は手足に切り傷。さらに脇腹には刀による大きな傷を受けていた。
「言ったでしょう、松永さん。素直に神の加護を受けておけば良かったのです」
「ふん、おかげで計画はご破算だ。どうせ、即疾隊にも情報が流れるように仕組んだんだろ?
お前、最初から鬼哭組を……いや、この国の侍を狙ってやがったな?」
武人は仕込み刀を杖代わりにしながら、体を支える。
眼前には神の御遣いを名乗る歪虚ブラッドリー。その傍らには、先日死亡したとされた浪士が刀の切っ先を武人に向けている。
契約者――武人にも気配で、それが分かった。
「いえいえ。すべては神の御意志です」
「大した神様だ。鬼哭組へ潜り込み、浪士達に契約者となれば怖くないとでも言って丸め込んだか。
それに飽き足らず、即疾隊と鬼哭組を衝突させて多数の死傷者が出れば、てめぇの『布教活動も』……」
そう言い掛けた瞬間、武人は激しく咳き込んだ。
そして、両手でも受け止めきれない程の血を吐き出した。普通であれば、とうの昔に意識を失っているだろう。
「あなたが病に倒れたのは残念です。
でも、大丈夫ですよ。神の僕となれば、あなたはまだ戦えます。死しても蘇れるのです」
「死んでも蘇る? そんな逃げ道残してこの国を変えられるかよ。
俺ぁ、この体だ。元より生まれ新しいく国を見られるなんて思っちゃいねぇ。この国ぶち壊せば、後を継いだ連中が立て直してくれるはずだ」
見るからに限界が近い武人。
それでも、ブラッドリーを前に一切臆する様子も無い。
――孤立無援。
武人の瞳には、強い光が宿っている。
「弱い国を滅ぼして、幕府にも他の国にも負けない国を作る。
その為には死に物狂いで力を尽くす。
志半ばに倒れるなら、後の連中にすべて託す。それが道を拓く先人の義務ってもんだろ」
「はて。確か、歪虚でも利用されるのでは? どうせ捕まれば処刑されるのでしょう? でしたら、神の僕として蘇った方が良いではありませんか」
「利用? そりゃ、この国を壊して立て直す為だ。その為なら、俺は歪虚を利用して悪名だろうと何だろうと俺が引き受けてやるよ。
だが、てめぇは俺の目的を知りながら、国を壊した後で乗っ取るつもりだったんだろう? そいつは裏切りだ。……言ったはずだせ。裏切りは、許さねぇって」
畳から仕込み刀を引き抜き、霞の構えでブラッドリーに立ち向かう。
一対三。
しかも、屋内での戦闘で病魔が蝕んでいる。
武人に、勝機はない。
だが、それでも武人は立ち向かう。
この国を、愛するが故に――。
「そうですか、神の僕にはなりませんか。
なら、せめて私があなたを天へ導きます。あなたの魂は、どんな輝きをされているのでしょうね?」
反幕府・攘夷を掲げた浪士集団『鬼哭組』の暗躍は要人暗殺を経て若峰破壊へと向かっていく。
若峰を大火へ導き、九代目詩天の三条 真美(kz0198)を誘拐。詩天を頂点とする政治体制を新たに整える。
夢物語が如き理想を掲げ、革命を挑む鬼哭組。
若峰守護を掲げ、忠を持って阻止せんとする即疾隊。
物語は双方が激突する中で、佳境を迎える。
●
若峰四宿の一つ、猪名川。
詩天の西へと続く大きな道に繋がる重要な宿場町であるが、この若峰の入口とも言うべき場所をある一団がひた走る。
「どこに行けば、いいって?」
「何度も言ってるでしょ! 『清州屋』って宿! そこに敵の首魁がいるって!」
ハンター達は、走りながら必死になって目的の場所を探す。
猪名川宿、清州屋。
そここそ、攘夷浪士集団『鬼哭組』を束ねる松永武人が逗留する宿であった。
風待の親分からもたらされた情報と水野 武徳からの依頼にハンター達は動き出した。
「それにしても、あの親分って人も酷いよね。『あっしは、鬼哭組の計画阻止しますんで、後は皆さんにお任せします』って」
「仕方ない。即疾隊が浪士取り締まりを強化しても、火が付けられでもしたら即疾隊だけでは回らなくなる。誰かが市民を避難させないといけないからな」
愚痴るハンターに、別のハンターが詩天の事情を話す。
若峰の守護を担う即疾隊であるが、最近は多数の事件を抱えて人手不足は否定できない。万一、若峰が放火されれば即疾隊や町火消しだけでは対応が難しい。
侠客ではあるが、風待の親分も若峰の被害を食い止める役回りが必要なのだ。
「それで、この羽織りか。即疾隊に入ったみたいでちょっと格好いいかな」
ハンターの一人が、袖を通した羽織りの感触を確かめる。
敵の首魁がいるとはいえ、無理矢理に宿を調べるのだ。ハンターの身分では拒否されると考えたのだろう。そこで、即疾隊から特別に羽織りを貸し出された。これを身に着けて即疾隊を名乗れば宿の者も断る事は難しいはずだ。
「ここだ!」
宿を発見したハンターは、滑るように入口へ到達すると入口の戸を大きく開いた。
「何奴!」
浪士らしき侍が、反射的に刀へ手を伸ばす。
宿へと足を踏み入れたハンター達は、満を持して口を開く。
――時代劇で良く聞いた、あのセリフを叫んだ。
「「「御用改めであるっ!」」」
●
ハンター達が到着する頃から、遡ること15分前。
清州屋の二階に鬼哭組の松永武人の姿があった。これから浪士達と合流して若峰大火へ進めるべく決起。武人は火の手が上がったのを確認した後、黒駒城へ突入する手筈となっていた。
しかし、計画通りに行かぬのは世の常である。
「……て、てめぇ」
振り絞るように呟く武人。
元々、病で肺を患っている為に顔は青白い。だが、今日の武人は手足に切り傷。さらに脇腹には刀による大きな傷を受けていた。
「言ったでしょう、松永さん。素直に神の加護を受けておけば良かったのです」
「ふん、おかげで計画はご破算だ。どうせ、即疾隊にも情報が流れるように仕組んだんだろ?
お前、最初から鬼哭組を……いや、この国の侍を狙ってやがったな?」
武人は仕込み刀を杖代わりにしながら、体を支える。
眼前には神の御遣いを名乗る歪虚ブラッドリー。その傍らには、先日死亡したとされた浪士が刀の切っ先を武人に向けている。
契約者――武人にも気配で、それが分かった。
「いえいえ。すべては神の御意志です」
「大した神様だ。鬼哭組へ潜り込み、浪士達に契約者となれば怖くないとでも言って丸め込んだか。
それに飽き足らず、即疾隊と鬼哭組を衝突させて多数の死傷者が出れば、てめぇの『布教活動も』……」
そう言い掛けた瞬間、武人は激しく咳き込んだ。
そして、両手でも受け止めきれない程の血を吐き出した。普通であれば、とうの昔に意識を失っているだろう。
「あなたが病に倒れたのは残念です。
でも、大丈夫ですよ。神の僕となれば、あなたはまだ戦えます。死しても蘇れるのです」
「死んでも蘇る? そんな逃げ道残してこの国を変えられるかよ。
俺ぁ、この体だ。元より生まれ新しいく国を見られるなんて思っちゃいねぇ。この国ぶち壊せば、後を継いだ連中が立て直してくれるはずだ」
見るからに限界が近い武人。
それでも、ブラッドリーを前に一切臆する様子も無い。
――孤立無援。
武人の瞳には、強い光が宿っている。
「弱い国を滅ぼして、幕府にも他の国にも負けない国を作る。
その為には死に物狂いで力を尽くす。
志半ばに倒れるなら、後の連中にすべて託す。それが道を拓く先人の義務ってもんだろ」
「はて。確か、歪虚でも利用されるのでは? どうせ捕まれば処刑されるのでしょう? でしたら、神の僕として蘇った方が良いではありませんか」
「利用? そりゃ、この国を壊して立て直す為だ。その為なら、俺は歪虚を利用して悪名だろうと何だろうと俺が引き受けてやるよ。
だが、てめぇは俺の目的を知りながら、国を壊した後で乗っ取るつもりだったんだろう? そいつは裏切りだ。……言ったはずだせ。裏切りは、許さねぇって」
畳から仕込み刀を引き抜き、霞の構えでブラッドリーに立ち向かう。
一対三。
しかも、屋内での戦闘で病魔が蝕んでいる。
武人に、勝機はない。
だが、それでも武人は立ち向かう。
この国を、愛するが故に――。
「そうですか、神の僕にはなりませんか。
なら、せめて私があなたを天へ導きます。あなたの魂は、どんな輝きをされているのでしょうね?」
リプレイ本文
「貴様らっ!?」
清州屋の一階にいた三人の浪士は鯉口を切って右手を柄にかける。
入口から飛びこんできた複数の男女。
羽織から、その者達が即疾隊だとすぐに分かる。
「目標は二階か。先に行け。ここは食い止める」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、一歩歩み出る。
剛刀「大輪一文字」に手をかけ、すらりと鞘から刀を引き抜いた。切っ先は、ゆっくりと浪士の三人へ向けられる。
それを受け、他のハンター達は眼前にあった階段を駆け上がっていく。
「ま、待て!」
反射的に体を階段へ向けようとする浪士。
しかし、その行く手をアルトの大輪一文字が阻んだ。
「警告は一度だけだ。死にたくなければ武器を置いて投降してもらおうか?」
アルトから放たれる殺気。
幾度もの修羅場、死線をくぐり抜けてきたハンターだからこそ放てる気。浪士達は気圧され、他のハンターを追い掛ける事ができない。
「ここは私も抑えます」
アルトの背後で穂積 智里(ka6819)が堕杖「エグリゴリ」を握り締めて立っていた。
他のハンターと共に二階へ行くと思われた智里であったが、敢えて一階の浪士足止めを選択したようだ。
「行かなかったのか」
「二人で戦えば、早く二階へ行けますから」
力強く言葉を返す智里。
アルトは二階へ行かなかった事を咎める気はない。
どのような状態になろうとも、眼前の敵を斬り伏せればいい。
それが、アルトに課せられた役目なのだ。
「邪魔立てするなら、斬る」
「そうか。刀を抜くなら、話が早い。
……来い。まとめて相手になってやる」
剣を抜いた浪士達を前に、アルトは一歩も退く気はなかった。
●
二階に上がった時点で、鼻腔に纏わり付く血の香り。
ねっとりとした錆の香りが目的の場所へハンター達を誘ってくれる。
板張りの床を走るハンター達。
部屋の襖に手を掛けて、勢い良く開いた。
「即疾隊です。神妙になさい」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、部屋の中を見回した。
契約者らしき浪士が二人。
先日折立岬で見かけたブラッドリーと名乗った歪虚。
そして――。
「新たな敵か……た、武徳んとこ傭兵、か」
鬼哭組の松永武人。
仕込み刀を手に戦っていたのだろう。武人の体は既に多くの傷に塗れていた。
だが、足下の血は明らかに傷だけのものではない。
「おや、これは……。招かれざる客ですか」
ブラッドリーはハンター達に向き直った。
「こいつぁ、いよいよ……だな」
刀を杖の代わりにして立ち上がる武人。
だが、太股や胸の傷から溢れる血が着物を朱に染めていく。
それでもハンターに対峙しようとする武人であったが――。
「言ったわよね、この国を他に負けない国にするって。なら、こんな所で命を捨てるよりも、この国の未来を託す者を見つけて受け継がせなさい」
ユーリは、武人を守るように背を向ける。
そして、蒼姫刀「魂奏竜胆」の刃をブラッドリーへと差し向けた。
「お前ぇ……」
「でなければ……あの時、私が倒した光陰隊の少年の祈りが踏みにじられる。あなたが刀を振るえないのなら、今この時は私が代わりに振るってあげる」
ユーリは、先日の戦いを思い返していた。
光陰隊と呼ばれた少年達は、詩天の未来を案じていた。
ユーリはその真っ直ぐな彼らに代わって、武人を守り通す覚悟だ。
「今暮らしている人達の生活ごと破壊しかねない方法は、やっぱりどこかで無理が出てくると思うよ。限られた時間だったとはいえ、国を憂いているのなら、もう少し……もう少し別のやり方はなかったのかい?」
瀬崎 琴音(ka2560)は、部屋に入ると契約者の浪士の前に立った。
刀「和泉兼重」は、鞘から抜き放たれる。
琴音は武人と考えを異にしていた。
だが、今は目の前の敵を葬る事が最優先だ。
「依頼もしてねぇのに、お前ら……ぶっ! ゴホっ、ゴホ!」
息も絶え絶えの武人を守ろうとしている琴音とユーリ。
そんな二人に声を掛けようとする武人であったが、突然咳き込み始める。
武人の体に降り掛かる病魔は、確実に武人の命を削っていく。
「松永さんは病で倒れるか、私に殺されるかのいずれかです。神に仕えれば、願いも叶うというのに愚かな事です」
壁に寄りかかる武人。
残された時間が少ない事はハンターの目にも明らかだった。
そんな重い空気の中、その空気を一変させる者が入室する。
「わふっ! ぶらっどりーさん! 僕ですー、駄犬ですっ。遊んでくれてありがとうですーっ」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)。
一瞬にして緊張感を破壊するセリフで登場するが、アルマの攻撃はブラッドリーを追い詰めた事もある。
ブラッドリーはアルマの顔を見た途端、光球を前方へ集める。
「あなたは、あの時の……」
「あの……お名前、僕にとってすごく呼びにくいので、ドリーさんって呼んだらダメです? あっ、僕、アルマです! 呼んでくれたら、嬉しいですー」
尻尾があれば、左右へ大きく振っていたであろうアルマ。
下から覗き込むようにねだる様は子犬のようだ。
「ど、ドリー? 好きになさい。神に仕えないのであれば、敵も同然です」
「わふぅー! やったですー」
許可がもらえて喜ぶアルマ。
鬼哭組を巡る清洲屋の戦いは、こうして幕を開けた。
●
(チャンスは一度……うまくいけば良いのですが)
狭霧 雷(ka5296)は部屋の外で息を殺していた。
隠の徒を使用。アルマの背後に隠れてここまでやってきたが、すべてはブラッドリーを追い詰める一手の為だ。
アルマの火力が直撃すれば、確実に敵を追い詰められる。
だが、既にアルマの火力はブラッドリーに知られてしまっている。
如何にして的中させるかが鍵だと狭霧は考えていた。
チャンスは一度。
狭霧は、千載一遇のチャンスを待ち続けていた。
●
「くっ、化物が」
一階では、アルトと智里が浪人達を追い詰めていた。
しかし、二人を前に三人の浪人達は翻弄されていた。
特にアルトの剣撃が振るわれる度に、浪人達は肝が冷える思いだ。
「警告はした上で投降をしなかった。自業自得だ」
部屋の区切りとなる鴨居を境に、アルトと浪人は対峙していた。
清洲屋へハンターが来た際に見せた浪人の威勢は、何処かへ消え失せていた。
その原因は、足下で倒れている浪人であった。
一刀。
上段から振り下ろされた一撃で、一人の浪人が斬られた。
瞬時の出来事に、他の浪人達も呆気に取られる他なかった。
「投降して下さい。これ以上の戦いは、無意味です」
智里が再び浪人達へ投降を勧める。
アルトを支援するように智里はデルタレイで浪人を牽制。
既に心が折れ掛けている浪人を前に、力で制圧する必要はないと考えたのだ。
だが、浪人達も意地がある。
この場へ集った覚悟がある。
その想いが無謀なる行動へ浪人達を移させる。
「松永さんが、待っているんだ!」
浪人は意を決して大きく踏み込んだ。
突き。
切っ先は、アルトに向けられている。
しかし、アルトは冷静に横へ移動して突きを回避。
同時に、浪人の刀に向けて大輪一文字の振り下ろした。
軋む金属音が部屋に響き、浪人の刀は中央から真っ二つにへし折られる。
「ああっ!」
無情な結果を受け、その場へしゃがみ込む浪人。
圧倒的な剣術の差に、浪人達は勝利がない事を悟ったのだ。
「斬れ」
「ダメです。死んではいけません」
投降と同時に死を選択しようとする浪人達を、智里は止めた。
もう浪人達に戦う意志はない。
ならば、アルトと智里は二階へ急ぐべきだ。
「アルトさん、それでよろしいですね?」
「依頼の目的は二階の歪虚だ。彼らが邪魔をしないのならば、それでいい」
「何故だ!? 何故、我らを戦いの中で終わらせてくれぬのだ!」
踵を返して二階へ向かうアルトを前に、浪人達は叫んだ。
ハンター達が現れた時点で、計画の失敗を悟っていたのだろう。だからこそ、せめて戦場で討死にしてすべてを終えたかった。
それは浪人達にとって慈悲を求める行為なのだが、智里は頭を振って否定する。
「生きて下さい。もっと生きたかった、武人さんの為に」
●
二階で始まった戦いは、武人を守りながらの戦いとなった。
「それっ!」
ジェットブーツで距離を縮めた琴音。
小太刀「鈴鳴」を片手に、身を屈めて潜り込みを狙う。
「!」
浪人が上から刀を振りかぶる。
だが、刀の刃が鴨居にかかり、振り下ろせない。
「やっぱり、室内の戦いに慣れてないよ。この人達」
琴音は浪人の至近距離まで近付くと鈴鳴を一閃。
琴音が小太刀を用いた理由はここにある。
大きな刀を振るえば、障害物に当たる可能性が高い。確実に敵へ一撃を与えるなら、取り回しの効く武器を選択するべきだ。
一撃を受けた浪士。刀を鴨居から引き抜こうと悪戦苦闘している。
「こっちの浪士は引き受ける。そっちは頼んだよ」
「分かりましたわ」
琴音に応えるユーリ。
眼前にはブラッドリーの姿があった。
「そうやってどれだけの魂を……祈りと願いを踏み躙ってきた?
でも、きっとこういうのでしょうね。『神の傍へと召された。その為の礎になったのだ』、と……」
「分かっているではありませんか」
ユーリは知っていた。
ブラッドリーの光球は、かつて人だったものだ。ブラッドリーの能力により光球とされて、能力を好きに使われている。
先日も光陰隊の若者がブラッドリーによって光球にされた瞬間をユーリは目撃している。
「とんだ神様がいるものね」
「神への侮辱は許しません。」
怒りを露わにするブラッドリー。
「わふっ! ドリーさんはちょっと本気出してもすぐに壊れそうになくて安心ですっ」
軽い口調で『壊れそうにない』と口にするアルマ。
その破壊力はブラッドリーも体験している。
「あなたが神に遣えてくれるなら、これほど心強い事はないのですが」
「僕、魔王の卵なので。見ず知らずの神様に従う魔王はいないですー」
「魔王……本当にハンターというのは奇妙な存在です。我が友が興味を抱いたのも頷けます」
「……コーリアスさん……?」
「!」
アルマの呟きに一瞬驚嘆するブラッドリー。
だが、その何かに納得したように小さく頷く。
「そうですか、友を知っていましたか。ならば……」
そう言い掛けた瞬間、浪人の一人がアルマに向けて突きを放つ。
空気を裂きながら、伸びる刀。
だが、アルマも素早く反応する。
「わふー、邪魔ですー。先に壊しちゃえばいいです?」
アルマのデルタレイ。
突きの姿勢に入ってた浪人は回避する術はない。
宙に生まれた三角。そこから放たれる光は、瞬時に浪人の体を貫いた。
先程までブラッドリーと会話していた空気が、浪人の行動で一変。
それは、ハンター側が次の行動へ移すチャンスでもあった。
「この刃に願いを込めて斬り結びましょう。踏みにじって奪った祈りと願いで、この刃と雷を容易く阻めると思わないでよ」
浪人が倒れるよりも早く、ユーリの刺突一閃。
浪人が放った突きとは段違いの威力を持った一撃が、ブラッドリーへと放たれる。
それに対してブラッドリーは光球の盾で刺突一閃を阻む。
「踏みにじる? 神の供物になるという名誉を与えたというのに」
三つの光球で光の盾を形成したブラッドリーは、残る光球で雷を放つ。
強烈な稲光がユーリを襲う。
「! 接近ではなく、雷ですか」
飛び退くユーリ。
次の瞬間、ユーリがいた場所に雷が落下。畳みを黒く焦がす。
ユーリはブラッドリーを警戒しながら、迅雷の構えを取る。
前面を警戒しながら、魂奏竜胆を鞘へ収める。
一瞬の停滞。
お互いが、お互いを警戒する時間。
だからこそ、別方向からの攻撃に反応が鈍る。
「貴方が神のご加護とやらなら、こっちは破壊神といったところですかね」
アルマの影から飛び出した狭霧。
今まで隠の徒で身を隠していた為、ブラッドリーも対応が遅れる。
その隙を逃さず、狭霧はファントムハンド。
幻影がブラッドリーに掴み掛かる。
「このような手段で私を抑えられるとでも?」
掴む事には抵抗したが、幻影の腕はすぐに解かれてしまう。
だが――『これでいい』。
狭霧の狙いはブラッドリーを掴む事ではない。
『目標の位置へ軌道修正する事』だ。
そして、その場所に配置すれば魔王の卵が動く事を知っている。
「わふー、ドリーさん! 遊ぶですー」
アルマが青星の魂を放つ。
扇状に炎の力を持った破壊エネルギーが噴射。
ブラッドリーも攻撃を防ぐのが精一杯だ。
「しまった……!」
光の盾で防ごうとするも、アルマの攻撃力は身を持って知っている。
防ぎ切れないと悟ったのだろう。ブラッドリーは敢えて後方へジャンプ。そのまま窓から部屋の外に目掛けて飛び降りる。
「あ! ズルいですー」
窓から飛び出したブラッドリーへアルマが叫ぶ。
見ればブラッドリーの光球はすべて消滅。瞬時の判断で逃走する事を選択したのだろう。
●
浪人を倒した後、部屋に残されたのはハンターと武人だけだ。
既に息も絶え絶えな武人。
「罪人を死んで英雄になんてさせませんよ」
狭霧は武人に声をかける。
このまま生かして捕縛するつもりだ。
正当な裁きを受けさせる事こそが、次に繋がると考えていたのだ。
だが、武人はハンターに向けて刀を構える。
「どういう事です?」
「俺ぁ元々英雄になるつもりなんてねぇよ。限られた命の中で、何を為して何を残すか。それが武士ってもんだ。俺ぁ、俺の中の武士に従って動くだけだ」
あくまでも捕縛を拒否する武人。
使っても処刑されるか。病死するか。
限られた命の中で必死に足掻き続ける。
武人の覚悟は強い。
こうなれば力ずくでも身柄を押さえるしかない。
「武人さん、ここで逃げてもあの神父は貴方を確実に歪虚にするでしょう。それでも逃げたいなら、私は貴方が逃げるのを止めません」
「…………」
智里の言葉を武人は黙って聞いていた。
武人の計画は今やブラッドリーの暗躍で崩壊。
鬼哭組も瓦解するだろう。
その中で、武人へ選択を迫る。
人としての生か。
武士としての死か。
「そうでないなら……私が貴方の志を引き継ぎます。貴方と全く同じではないけれど、最期まで詩天を守り詩天を強くし、詩天で生きる」
「お前ぇが引き継ぐ? 大きく出たな。やれるもんなら、やってみな。
一つだけ教えてやる。ブラッドリーは相手を信奉させる事に拘ってやがった。信奉しなきゃ光の球にでもするつもりだろう、な!」
武人は智里に向けて仕込み刀を大きく振りかぶる。
智里はそっと目を閉じた後、機導砲で武人の胸を撃ち抜いた。
力を失い、前のめりで倒れる武人。
その瞳から輝きが失われていく。
――鬼哭組が引き起こした事件は、思わぬ形で終焉を迎える。
だが、松永武人の攘夷は、詩天に次なる試練を与えようとしていた。
清州屋の一階にいた三人の浪士は鯉口を切って右手を柄にかける。
入口から飛びこんできた複数の男女。
羽織から、その者達が即疾隊だとすぐに分かる。
「目標は二階か。先に行け。ここは食い止める」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、一歩歩み出る。
剛刀「大輪一文字」に手をかけ、すらりと鞘から刀を引き抜いた。切っ先は、ゆっくりと浪士の三人へ向けられる。
それを受け、他のハンター達は眼前にあった階段を駆け上がっていく。
「ま、待て!」
反射的に体を階段へ向けようとする浪士。
しかし、その行く手をアルトの大輪一文字が阻んだ。
「警告は一度だけだ。死にたくなければ武器を置いて投降してもらおうか?」
アルトから放たれる殺気。
幾度もの修羅場、死線をくぐり抜けてきたハンターだからこそ放てる気。浪士達は気圧され、他のハンターを追い掛ける事ができない。
「ここは私も抑えます」
アルトの背後で穂積 智里(ka6819)が堕杖「エグリゴリ」を握り締めて立っていた。
他のハンターと共に二階へ行くと思われた智里であったが、敢えて一階の浪士足止めを選択したようだ。
「行かなかったのか」
「二人で戦えば、早く二階へ行けますから」
力強く言葉を返す智里。
アルトは二階へ行かなかった事を咎める気はない。
どのような状態になろうとも、眼前の敵を斬り伏せればいい。
それが、アルトに課せられた役目なのだ。
「邪魔立てするなら、斬る」
「そうか。刀を抜くなら、話が早い。
……来い。まとめて相手になってやる」
剣を抜いた浪士達を前に、アルトは一歩も退く気はなかった。
●
二階に上がった時点で、鼻腔に纏わり付く血の香り。
ねっとりとした錆の香りが目的の場所へハンター達を誘ってくれる。
板張りの床を走るハンター達。
部屋の襖に手を掛けて、勢い良く開いた。
「即疾隊です。神妙になさい」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、部屋の中を見回した。
契約者らしき浪士が二人。
先日折立岬で見かけたブラッドリーと名乗った歪虚。
そして――。
「新たな敵か……た、武徳んとこ傭兵、か」
鬼哭組の松永武人。
仕込み刀を手に戦っていたのだろう。武人の体は既に多くの傷に塗れていた。
だが、足下の血は明らかに傷だけのものではない。
「おや、これは……。招かれざる客ですか」
ブラッドリーはハンター達に向き直った。
「こいつぁ、いよいよ……だな」
刀を杖の代わりにして立ち上がる武人。
だが、太股や胸の傷から溢れる血が着物を朱に染めていく。
それでもハンターに対峙しようとする武人であったが――。
「言ったわよね、この国を他に負けない国にするって。なら、こんな所で命を捨てるよりも、この国の未来を託す者を見つけて受け継がせなさい」
ユーリは、武人を守るように背を向ける。
そして、蒼姫刀「魂奏竜胆」の刃をブラッドリーへと差し向けた。
「お前ぇ……」
「でなければ……あの時、私が倒した光陰隊の少年の祈りが踏みにじられる。あなたが刀を振るえないのなら、今この時は私が代わりに振るってあげる」
ユーリは、先日の戦いを思い返していた。
光陰隊と呼ばれた少年達は、詩天の未来を案じていた。
ユーリはその真っ直ぐな彼らに代わって、武人を守り通す覚悟だ。
「今暮らしている人達の生活ごと破壊しかねない方法は、やっぱりどこかで無理が出てくると思うよ。限られた時間だったとはいえ、国を憂いているのなら、もう少し……もう少し別のやり方はなかったのかい?」
瀬崎 琴音(ka2560)は、部屋に入ると契約者の浪士の前に立った。
刀「和泉兼重」は、鞘から抜き放たれる。
琴音は武人と考えを異にしていた。
だが、今は目の前の敵を葬る事が最優先だ。
「依頼もしてねぇのに、お前ら……ぶっ! ゴホっ、ゴホ!」
息も絶え絶えの武人を守ろうとしている琴音とユーリ。
そんな二人に声を掛けようとする武人であったが、突然咳き込み始める。
武人の体に降り掛かる病魔は、確実に武人の命を削っていく。
「松永さんは病で倒れるか、私に殺されるかのいずれかです。神に仕えれば、願いも叶うというのに愚かな事です」
壁に寄りかかる武人。
残された時間が少ない事はハンターの目にも明らかだった。
そんな重い空気の中、その空気を一変させる者が入室する。
「わふっ! ぶらっどりーさん! 僕ですー、駄犬ですっ。遊んでくれてありがとうですーっ」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)。
一瞬にして緊張感を破壊するセリフで登場するが、アルマの攻撃はブラッドリーを追い詰めた事もある。
ブラッドリーはアルマの顔を見た途端、光球を前方へ集める。
「あなたは、あの時の……」
「あの……お名前、僕にとってすごく呼びにくいので、ドリーさんって呼んだらダメです? あっ、僕、アルマです! 呼んでくれたら、嬉しいですー」
尻尾があれば、左右へ大きく振っていたであろうアルマ。
下から覗き込むようにねだる様は子犬のようだ。
「ど、ドリー? 好きになさい。神に仕えないのであれば、敵も同然です」
「わふぅー! やったですー」
許可がもらえて喜ぶアルマ。
鬼哭組を巡る清洲屋の戦いは、こうして幕を開けた。
●
(チャンスは一度……うまくいけば良いのですが)
狭霧 雷(ka5296)は部屋の外で息を殺していた。
隠の徒を使用。アルマの背後に隠れてここまでやってきたが、すべてはブラッドリーを追い詰める一手の為だ。
アルマの火力が直撃すれば、確実に敵を追い詰められる。
だが、既にアルマの火力はブラッドリーに知られてしまっている。
如何にして的中させるかが鍵だと狭霧は考えていた。
チャンスは一度。
狭霧は、千載一遇のチャンスを待ち続けていた。
●
「くっ、化物が」
一階では、アルトと智里が浪人達を追い詰めていた。
しかし、二人を前に三人の浪人達は翻弄されていた。
特にアルトの剣撃が振るわれる度に、浪人達は肝が冷える思いだ。
「警告はした上で投降をしなかった。自業自得だ」
部屋の区切りとなる鴨居を境に、アルトと浪人は対峙していた。
清洲屋へハンターが来た際に見せた浪人の威勢は、何処かへ消え失せていた。
その原因は、足下で倒れている浪人であった。
一刀。
上段から振り下ろされた一撃で、一人の浪人が斬られた。
瞬時の出来事に、他の浪人達も呆気に取られる他なかった。
「投降して下さい。これ以上の戦いは、無意味です」
智里が再び浪人達へ投降を勧める。
アルトを支援するように智里はデルタレイで浪人を牽制。
既に心が折れ掛けている浪人を前に、力で制圧する必要はないと考えたのだ。
だが、浪人達も意地がある。
この場へ集った覚悟がある。
その想いが無謀なる行動へ浪人達を移させる。
「松永さんが、待っているんだ!」
浪人は意を決して大きく踏み込んだ。
突き。
切っ先は、アルトに向けられている。
しかし、アルトは冷静に横へ移動して突きを回避。
同時に、浪人の刀に向けて大輪一文字の振り下ろした。
軋む金属音が部屋に響き、浪人の刀は中央から真っ二つにへし折られる。
「ああっ!」
無情な結果を受け、その場へしゃがみ込む浪人。
圧倒的な剣術の差に、浪人達は勝利がない事を悟ったのだ。
「斬れ」
「ダメです。死んではいけません」
投降と同時に死を選択しようとする浪人達を、智里は止めた。
もう浪人達に戦う意志はない。
ならば、アルトと智里は二階へ急ぐべきだ。
「アルトさん、それでよろしいですね?」
「依頼の目的は二階の歪虚だ。彼らが邪魔をしないのならば、それでいい」
「何故だ!? 何故、我らを戦いの中で終わらせてくれぬのだ!」
踵を返して二階へ向かうアルトを前に、浪人達は叫んだ。
ハンター達が現れた時点で、計画の失敗を悟っていたのだろう。だからこそ、せめて戦場で討死にしてすべてを終えたかった。
それは浪人達にとって慈悲を求める行為なのだが、智里は頭を振って否定する。
「生きて下さい。もっと生きたかった、武人さんの為に」
●
二階で始まった戦いは、武人を守りながらの戦いとなった。
「それっ!」
ジェットブーツで距離を縮めた琴音。
小太刀「鈴鳴」を片手に、身を屈めて潜り込みを狙う。
「!」
浪人が上から刀を振りかぶる。
だが、刀の刃が鴨居にかかり、振り下ろせない。
「やっぱり、室内の戦いに慣れてないよ。この人達」
琴音は浪人の至近距離まで近付くと鈴鳴を一閃。
琴音が小太刀を用いた理由はここにある。
大きな刀を振るえば、障害物に当たる可能性が高い。確実に敵へ一撃を与えるなら、取り回しの効く武器を選択するべきだ。
一撃を受けた浪士。刀を鴨居から引き抜こうと悪戦苦闘している。
「こっちの浪士は引き受ける。そっちは頼んだよ」
「分かりましたわ」
琴音に応えるユーリ。
眼前にはブラッドリーの姿があった。
「そうやってどれだけの魂を……祈りと願いを踏み躙ってきた?
でも、きっとこういうのでしょうね。『神の傍へと召された。その為の礎になったのだ』、と……」
「分かっているではありませんか」
ユーリは知っていた。
ブラッドリーの光球は、かつて人だったものだ。ブラッドリーの能力により光球とされて、能力を好きに使われている。
先日も光陰隊の若者がブラッドリーによって光球にされた瞬間をユーリは目撃している。
「とんだ神様がいるものね」
「神への侮辱は許しません。」
怒りを露わにするブラッドリー。
「わふっ! ドリーさんはちょっと本気出してもすぐに壊れそうになくて安心ですっ」
軽い口調で『壊れそうにない』と口にするアルマ。
その破壊力はブラッドリーも体験している。
「あなたが神に遣えてくれるなら、これほど心強い事はないのですが」
「僕、魔王の卵なので。見ず知らずの神様に従う魔王はいないですー」
「魔王……本当にハンターというのは奇妙な存在です。我が友が興味を抱いたのも頷けます」
「……コーリアスさん……?」
「!」
アルマの呟きに一瞬驚嘆するブラッドリー。
だが、その何かに納得したように小さく頷く。
「そうですか、友を知っていましたか。ならば……」
そう言い掛けた瞬間、浪人の一人がアルマに向けて突きを放つ。
空気を裂きながら、伸びる刀。
だが、アルマも素早く反応する。
「わふー、邪魔ですー。先に壊しちゃえばいいです?」
アルマのデルタレイ。
突きの姿勢に入ってた浪人は回避する術はない。
宙に生まれた三角。そこから放たれる光は、瞬時に浪人の体を貫いた。
先程までブラッドリーと会話していた空気が、浪人の行動で一変。
それは、ハンター側が次の行動へ移すチャンスでもあった。
「この刃に願いを込めて斬り結びましょう。踏みにじって奪った祈りと願いで、この刃と雷を容易く阻めると思わないでよ」
浪人が倒れるよりも早く、ユーリの刺突一閃。
浪人が放った突きとは段違いの威力を持った一撃が、ブラッドリーへと放たれる。
それに対してブラッドリーは光球の盾で刺突一閃を阻む。
「踏みにじる? 神の供物になるという名誉を与えたというのに」
三つの光球で光の盾を形成したブラッドリーは、残る光球で雷を放つ。
強烈な稲光がユーリを襲う。
「! 接近ではなく、雷ですか」
飛び退くユーリ。
次の瞬間、ユーリがいた場所に雷が落下。畳みを黒く焦がす。
ユーリはブラッドリーを警戒しながら、迅雷の構えを取る。
前面を警戒しながら、魂奏竜胆を鞘へ収める。
一瞬の停滞。
お互いが、お互いを警戒する時間。
だからこそ、別方向からの攻撃に反応が鈍る。
「貴方が神のご加護とやらなら、こっちは破壊神といったところですかね」
アルマの影から飛び出した狭霧。
今まで隠の徒で身を隠していた為、ブラッドリーも対応が遅れる。
その隙を逃さず、狭霧はファントムハンド。
幻影がブラッドリーに掴み掛かる。
「このような手段で私を抑えられるとでも?」
掴む事には抵抗したが、幻影の腕はすぐに解かれてしまう。
だが――『これでいい』。
狭霧の狙いはブラッドリーを掴む事ではない。
『目標の位置へ軌道修正する事』だ。
そして、その場所に配置すれば魔王の卵が動く事を知っている。
「わふー、ドリーさん! 遊ぶですー」
アルマが青星の魂を放つ。
扇状に炎の力を持った破壊エネルギーが噴射。
ブラッドリーも攻撃を防ぐのが精一杯だ。
「しまった……!」
光の盾で防ごうとするも、アルマの攻撃力は身を持って知っている。
防ぎ切れないと悟ったのだろう。ブラッドリーは敢えて後方へジャンプ。そのまま窓から部屋の外に目掛けて飛び降りる。
「あ! ズルいですー」
窓から飛び出したブラッドリーへアルマが叫ぶ。
見ればブラッドリーの光球はすべて消滅。瞬時の判断で逃走する事を選択したのだろう。
●
浪人を倒した後、部屋に残されたのはハンターと武人だけだ。
既に息も絶え絶えな武人。
「罪人を死んで英雄になんてさせませんよ」
狭霧は武人に声をかける。
このまま生かして捕縛するつもりだ。
正当な裁きを受けさせる事こそが、次に繋がると考えていたのだ。
だが、武人はハンターに向けて刀を構える。
「どういう事です?」
「俺ぁ元々英雄になるつもりなんてねぇよ。限られた命の中で、何を為して何を残すか。それが武士ってもんだ。俺ぁ、俺の中の武士に従って動くだけだ」
あくまでも捕縛を拒否する武人。
使っても処刑されるか。病死するか。
限られた命の中で必死に足掻き続ける。
武人の覚悟は強い。
こうなれば力ずくでも身柄を押さえるしかない。
「武人さん、ここで逃げてもあの神父は貴方を確実に歪虚にするでしょう。それでも逃げたいなら、私は貴方が逃げるのを止めません」
「…………」
智里の言葉を武人は黙って聞いていた。
武人の計画は今やブラッドリーの暗躍で崩壊。
鬼哭組も瓦解するだろう。
その中で、武人へ選択を迫る。
人としての生か。
武士としての死か。
「そうでないなら……私が貴方の志を引き継ぎます。貴方と全く同じではないけれど、最期まで詩天を守り詩天を強くし、詩天で生きる」
「お前ぇが引き継ぐ? 大きく出たな。やれるもんなら、やってみな。
一つだけ教えてやる。ブラッドリーは相手を信奉させる事に拘ってやがった。信奉しなきゃ光の球にでもするつもりだろう、な!」
武人は智里に向けて仕込み刀を大きく振りかぶる。
智里はそっと目を閉じた後、機導砲で武人の胸を撃ち抜いた。
力を失い、前のめりで倒れる武人。
その瞳から輝きが失われていく。
――鬼哭組が引き起こした事件は、思わぬ形で終焉を迎える。
だが、松永武人の攘夷は、詩天に次なる試練を与えようとしていた。
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相談 瀬崎 琴音(ka2560) 人間(リアルブルー)|13才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/02/05 18:59:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/03 11:49:28 |