ゲスト
(ka0000)
マグノリアクッキーのチョコの日
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/08 22:00
- 完成日
- 2018/02/16 03:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
冬晴れの麗らかな昼下がり。
今日の来客は疎ら、少し遠出をしている移動販売の馬車は好調のようだけれど。
暦を眺めて、春を待ち。窓にちらつく雪に溜息を零す。
閑散とした店内を眺め、ティーカップの紅茶を冷ましながら、一人きりの店番が少し退屈。
「……チョコの日と言っていたかしら」
2月の半ばに恋人の日があって、リアルブルーのある地方では、チョコを交換したり、別の地方では花を贈ったりして楽しむのだとか。
この店にも時折、リアルブルー出身のお客様が見えることがある。
「新しいメニュー、作ってみましょう――ねえ、アリシア!」
支店長は勢いよくキッチンへの扉を開けて、クッキー生地を伸ばしていた店員に向かって輝くばかりの笑顔を向けた。
●
チョコの日の特別ペアセット。
チョコレートをたっぷりと練り込んだガトーショコラを2切れ。
白いクリームにレッドカラントと花弁のように削ったピンクのチョコレートを散らして飾る。
ドリンクはホットチョコレートに、ハート型のマシュマロを浮かべて蕩けさせながら。
季節のクッキーもチョコレートと、チョコチップ。皮ごと使った赤い林檎ジャムを乗せて。
いつもならアイスボックスクッキーを籠で出す所だけれど、ハートの型抜きチョコクッキーに変更して。
白いプレートに整えてみると、なかなか可愛らしく纏まって、自画自賛ながら美味しそう。
「どうかしら?」
「……チョコ好きな人には良いんじゃないですか?」
「……不味くは無いんですよ……ただ……」
「くどくないですか-?」
「……クッキーだけでもプレーンにしてみません?」
「ココアも変更可能にした方がいいですよー。コーヒーの根強い人気はなかなか侮れません」
試食した店員達が彼是と言いながらも完食しているのは、やっぱり味は悪くないと言うことだろう。
結局、期間限定でドリンクにホットチョコレートを加え、型抜きクッキーはチョコとプレーンの2種類を用意することになった。
売り出した初日の感触では、恋人達よりもチョコ好きな女性客に人気の様子。
これはこれで、と支店長はカウンターからいつも通りに静かな店を眺めて穏やかに微笑んでいる。
冬晴れの麗らかな昼下がり。
今日の来客は疎ら、少し遠出をしている移動販売の馬車は好調のようだけれど。
暦を眺めて、春を待ち。窓にちらつく雪に溜息を零す。
閑散とした店内を眺め、ティーカップの紅茶を冷ましながら、一人きりの店番が少し退屈。
「……チョコの日と言っていたかしら」
2月の半ばに恋人の日があって、リアルブルーのある地方では、チョコを交換したり、別の地方では花を贈ったりして楽しむのだとか。
この店にも時折、リアルブルー出身のお客様が見えることがある。
「新しいメニュー、作ってみましょう――ねえ、アリシア!」
支店長は勢いよくキッチンへの扉を開けて、クッキー生地を伸ばしていた店員に向かって輝くばかりの笑顔を向けた。
●
チョコの日の特別ペアセット。
チョコレートをたっぷりと練り込んだガトーショコラを2切れ。
白いクリームにレッドカラントと花弁のように削ったピンクのチョコレートを散らして飾る。
ドリンクはホットチョコレートに、ハート型のマシュマロを浮かべて蕩けさせながら。
季節のクッキーもチョコレートと、チョコチップ。皮ごと使った赤い林檎ジャムを乗せて。
いつもならアイスボックスクッキーを籠で出す所だけれど、ハートの型抜きチョコクッキーに変更して。
白いプレートに整えてみると、なかなか可愛らしく纏まって、自画自賛ながら美味しそう。
「どうかしら?」
「……チョコ好きな人には良いんじゃないですか?」
「……不味くは無いんですよ……ただ……」
「くどくないですか-?」
「……クッキーだけでもプレーンにしてみません?」
「ココアも変更可能にした方がいいですよー。コーヒーの根強い人気はなかなか侮れません」
試食した店員達が彼是と言いながらも完食しているのは、やっぱり味は悪くないと言うことだろう。
結局、期間限定でドリンクにホットチョコレートを加え、型抜きクッキーはチョコとプレーンの2種類を用意することになった。
売り出した初日の感触では、恋人達よりもチョコ好きな女性客に人気の様子。
これはこれで、と支店長はカウンターからいつも通りに静かな店を眺めて穏やかに微笑んでいる。
リプレイ本文
●
イルミナ(ka5759)が来たいと言っていた店の前。
白い屋根に映えるロゴを見上げ、硝子の窓から店内を覗う。
甘い香りを漂わせ、淡い色の紙とリボンで包まれた店一杯のクッキー。
こういう店がすきなんだなと、意外そうに思いながらコウ(ka3233)はその扉に手を掛けた。
コウに続いて店内へ進みながら、イルミナは目を泳がせて俯いた。
チョコレートとクッキーのお店があるらしい。酒場で若い男が恋人を誘おうと話している声を小耳に挟んだ。
そういうのも、ありなのかしら。
今年も上達しない手作りのチョコを贈るよりも。そう思って、コウを誘った内心は明かしてはいない。
イルミナはコウの様子を覗いながら、1つ手に取って眺めた箱を小さな溜息と共に元に戻す。
甘い香り、可愛らしいクッキーと、この季節によく売れるチョコレート。
華やかなリボンを掛けたギフトボックスに、棚のあちこちに飾られた花。
無理した手作りよりも上手でロマンチック、来て良かったと小さな声で呟いた。
非日常に戸惑いながらも、コウは初めて知った恋人の一面に、興味深く店内を見回している。
「――ってーか……」
難しそうな顔で言いかけて黙ると、コウを見ているイルミナに気付いて困ったように首を横に振った。
2人が喫茶スペースへ移動しようとした時だった。
からん、と扉のベルが鳴る。
「ここだよ。オススメのお店なんだって」
開けた扉を押さえて、隣の女性を振り返った少年の、緊張気味に少し上擦った声。
幼馴染みに聞いていたんだと話している。
女性は少し固い表情で店の中へ。
聞き覚えのある少年の声、恋人を誘うと聞いた彼のものだった。
彼等は迷わずに喫茶スペースへ歩いて行く。
ごく自然に手を取って、椅子の背を引いて、メニューを差し出す様子が覗える。
さして広くない店内ではその幸せそうな気配まで伝わってくるようだった。
コウとイルミナも空いているテーブルに着くと、店員にお勧めを尋ねてこの季節だけのセットメニューを注文する。
向こうのテーブルでも同じ物を頼んでいたらしい。
●
椅子に座ってオーダーを終えて、レオン(ka5108)はほっと安堵の息を吐いた。
気付くと向かいの席の恋人、ルシール・フルフラット(ka4000)に見とれている。
そのくせ、咄嗟の言葉遣いが以前のものに戻りそうになってしまったり、何となく緊張してしまったり。
「どうした?……やはり、通常のペアセットの方が良かったか?」
ルシールがゆっくりと瞬いて首を僅かに傾けた。その頬が微かに赤く、声が少し早口に聞こえた。
レオンとの関係を、弟子から将来の夫へと変じたそれを考えては照れている。
ルシールの内心を知らず、僕もチョコが良かったと、レオンは微笑んだ。
擦れ違った女性に見覚えがあった。
何だか大変そうにしていたと思い出しながら、しかし、連れの少年は彼女との時間を楽しみにしているようだ。
僕らも楽しみましょう。
彼等が注文をした頃に、こちらのテーブルへプレートが運ばれてきた。
白いプレートに乗せられた、しっとりとチョコの詰まった重さを感じるガトーショコラ。
淡い雪化粧の様に粉砂糖がふわりと塗されて、蕩けそうな白いクリームが添えられる。
チョコレートの濃厚なブラウンと、クリームの白の鮮やかなコントラストに、花弁を思わせるピンクのチョコレートが愛らしく飾られている。
隣に乗せられたハート型のチョコレートクッキーは、零れるほど甘い林檎のジャムを添えて、明るい照明に艶々と煌めいて見える。
折角特別な日なのだからと注文したが、とても良い物だったようだ。
ルシールが満足そうに微笑んだ。
2人の間に置かれたクッキーの量に思わず2人同時に笑って、また少し、頬を赤くする。
互いの注文した飲み物も運ばれてきて、どれから食べようかと迷いながらフォークを取った。
「あ、美味しい……聞いたとおりですね。ルシールはどう?」
ガトーショコラを一切れ、クレームを添えて味わう。
しっとりと蕩ける食感に、一口で一杯に広がるチョコレートの香り。
ルシールに尋ねれば、甘い物は好物だと嬉しそうな顔で目を細めて答えた。
この表情は、恋人になってから知ったと思う。
そのどこかに自身の影響があるのだろう。自惚れたような、誇らしいような。
ほっこりとした温かな幸せを感じ、レオンは甘いガトーショコラを噛み締めた。
「食べられないのなら、レオン、私が食べさせてあげようか?」
聡明な緑の双眸が恋人を写して細められ、ハートのクッキーを1枚摘まんでその口許へ差し出した。
不意打ちに思わず背筋を伸ばして居住まいを正しながらレオンは口を開けて受け取った。
唇が白い指を掠めただろうか。繊細で、しかし騎士として師匠として、鍛えられたその指を。
●
隣のテーブルに視線を向ける。
堂々としたその様子を参考にしようと、まじまじとレオンとルシールを見詰めるコウの向かいで、イルミナは運ばれたガトーショコラとクッキーを見て青ざめていた。
綺麗に盛り付けられたガトーショコラ、花弁のようなチョコレートや、ハートのクッキーがロマンチック。
しかし、手を伸ばすのを躊躇うほどの甘い匂いを感じる。
コウはガトーショコラにフォークを立てて、大きく切り取ったそれをぱくりと豪快に食べる。
美味いな、食えよ。イルミナを見詰める瞳がそう勧めるようににっこりと笑んだ。
細く切って一口。
カカオの香りを耐えても、その甘さに表情が強張るのを感じる。
コウは何でこんなの平気で食べられるのかしら。
「……ちょっと、甘すぎない……これ……」
甘い物は苦手。けれど、甘くて可愛いお菓子の店がすきなんだな、なんて嬉しそうな恋人の方が愛らしくて、もう少しだけ隠しておきたい気分になる。
白いカップを満たすオレンジに似た淡い色の水色、爽やかに甘酸っぱい香りで一息吐いて、フォークを持ち直してもう一口。
一口毎に溜息が零れ、紅茶を啜っては暗い顔でクッキーやガトーショコラを眺めるイルミナに、コウは首を捻る。
「あー、ああ、そう……だ、な?」
不機嫌そうな様子に、先ずはと同意を示してみるが、既に半分ほど減ったプレートに説得力は無い。
イルミナもそれを気にした様子が無いとすれば、何が失敗しただろうか。
救いの切欠を探す様に見回した目が、隣のテーブルの青年の視線とぶつかった。
レオンはコウの視線にフォークを置いて軽い会釈を、コウもきまりが悪そうに肩を竦めた。
「っと、あー……や、お似合いだなあって。この店にはよく来るのか、な?」
見ていたのは気付いただろうと、隠さずに打ち明けてレオンとルシールへ交互に視線を向けた。
レオンはルシールと視線を交わして笑むと、初めてだと答えた。
「どう?よかったら一緒に。師匠もかまいませんか?」
賑やかな方がいいと、ルシールに尋ねると、ルシールも拒む様子も無くコウとイルミナを見た。
コウもその誘いに乗ることにして、イルミナに声を掛ける。
「コウだ。よろしくな」
「ボクはレオン。よろしく」
決まりだ、とコウとレオンが話を進め、ルシールもそれに協力するように椅子の向きを直している。
「――ちょっ……コウ……!」
椅子を寄せて、2つのテーブルを4人で囲む。イルミナも慌てて動きながら、初対面とそれに近い2人には目を合わせられずに俯いていた。
●
コウは話が弾んでいるレオンとルシールを眺めながらも、イルミナの様子を見詰めている。
正確な歳の見当は付かないが、2人とも年上だろうか。落ち付いていて、大人に見える。
イルミナの機嫌は相変わらず、2人に声を掛ける前よりも気落ちしている様に見えた。
原因が分かれば良いのだが、ガトーショコラを食べる手も止まってしまっている。
誘ったデートが上手くいかず、苦手な物を前に会話も乏しく、人見知りにダブルデートが堪えていて。
イルミナの落ち込んだ赤い双眸が、ちらりと覗った2人はデートに慣れている様に見えた。
視線をコウに向ける。
私達は、ああは見えないわよね。そう零しそうになる溜息を飲み込んで、ガトーショコラを小さく切る。
感じる視線が、何と無しに落ち付かない。
レオンは、ふと悪戯に目を細めて口角を上げた。
ルシールのプレートは既に空になっている。好機だと頬が緩む。
一口サイズに切ったガトーショコラに、クリームと添えられたピンクのチョコレートを飾って見栄えを整える。
フォークの上に乗せたそれを、すっと恋人の口許へ。
「ぼくの分もどう? 師匠。ほら、アーン」
緑の双眸に同じ色の瞳が瞠る様が写る。
困ったように眉が下がり、年上の女性は少女のように屈託無く笑って、差し出されたそれを喜んだ。
ガトーショコラを味わいながら、ルシールは静かに瞼を伏せた。
「…………なあ、レオン」
考え事の続きのような声で呼び掛けて、開かれた瞳は真っ直ぐレオンを見詰める。
互いの間には既に契りが交わされている。しかし、その実感はまだ淡い。浮き足立っているようにさえ感じる。
扱い兼ねた感情に、どうしたものかなと呟いて、ルシールは答えを探す様に婚約者となる恋人を見詰めた。
ルシールがガトーショコラを受け取った瞬間、これだ、と、コウもクッキーを取る。
幸い籠のクッキーだけでなく、自身のプレートのチョコレートクッキーもまだ残っていた。
「イルミナ」
呼び掛ければ項垂れて機嫌を損ねていたらしい顔が上がって嬉しそうな声で答える。
もしかして、声を掛けるのが足りなかったのだろうか。折角好きな店に連れてきてくれたんだから。
何、コウ。
そう答える口にクッキーを押し付けた。
「好きなんだろ。お前が来たいっていったんだし……俺の分もやるよ」
イルミナは反射的に、ハートの端を咥えるように受け取った。
そして、食べさせられたと知った瞬間に、白い頬が真っ赤に染め上がる。
掛けられた言葉に答える事も出来ず、コウの手が離れるとクッキーを自分の手で支えて一口囓る。
落ち込んでいたこと、悩んでいたことが吹き飛んで頭の中が真っ白になった。
コウは真っ赤になりながら目を瞠って困惑し、もごもごとクッキーを頬張っている恋人を見詰める。
好きなものを食べたら笑顔になるだろう。
笑えば誰にも負けないくらい可愛いんだと、満足げに頷いた。
クッキーを手に困惑しているイルミナを横目に、レオンもルシールの悩む瞳を真摯に見詰める。
出会った頃からその美しさは変わらないように思うし、より美しくなったようにも思う。
ルシール。隣のテーブルを気に掛けて戻していた呼び方を正して囁く。
籠のクッキーを1枚摘まむとルシールはレオンに改めて好物を尋ねた。
「あまり上手では無い、が。練習しよう」
レオンの好きな料理を作る。家庭の味を探求だ。この後どうだと尋ねるのは、ルシールが導き出した応えなのだろう。レオンも最後に1枚頬張って、勿論と満面の笑みで頷いた。
レオンとルシールの退店の後も、コウから受け取ったクッキーを少しずつ食べ進め。
まだ半分近く残るそれを見詰めてはどうしようかと首を傾げる。
折角、コウから貰ったのに。思い出すだけでまた思考が止まって仕舞うけれど、その甘さとの勝負は五分。
食べ終わるのが先か。
不機嫌の真相を知られるのが先か。
イルミナ(ka5759)が来たいと言っていた店の前。
白い屋根に映えるロゴを見上げ、硝子の窓から店内を覗う。
甘い香りを漂わせ、淡い色の紙とリボンで包まれた店一杯のクッキー。
こういう店がすきなんだなと、意外そうに思いながらコウ(ka3233)はその扉に手を掛けた。
コウに続いて店内へ進みながら、イルミナは目を泳がせて俯いた。
チョコレートとクッキーのお店があるらしい。酒場で若い男が恋人を誘おうと話している声を小耳に挟んだ。
そういうのも、ありなのかしら。
今年も上達しない手作りのチョコを贈るよりも。そう思って、コウを誘った内心は明かしてはいない。
イルミナはコウの様子を覗いながら、1つ手に取って眺めた箱を小さな溜息と共に元に戻す。
甘い香り、可愛らしいクッキーと、この季節によく売れるチョコレート。
華やかなリボンを掛けたギフトボックスに、棚のあちこちに飾られた花。
無理した手作りよりも上手でロマンチック、来て良かったと小さな声で呟いた。
非日常に戸惑いながらも、コウは初めて知った恋人の一面に、興味深く店内を見回している。
「――ってーか……」
難しそうな顔で言いかけて黙ると、コウを見ているイルミナに気付いて困ったように首を横に振った。
2人が喫茶スペースへ移動しようとした時だった。
からん、と扉のベルが鳴る。
「ここだよ。オススメのお店なんだって」
開けた扉を押さえて、隣の女性を振り返った少年の、緊張気味に少し上擦った声。
幼馴染みに聞いていたんだと話している。
女性は少し固い表情で店の中へ。
聞き覚えのある少年の声、恋人を誘うと聞いた彼のものだった。
彼等は迷わずに喫茶スペースへ歩いて行く。
ごく自然に手を取って、椅子の背を引いて、メニューを差し出す様子が覗える。
さして広くない店内ではその幸せそうな気配まで伝わってくるようだった。
コウとイルミナも空いているテーブルに着くと、店員にお勧めを尋ねてこの季節だけのセットメニューを注文する。
向こうのテーブルでも同じ物を頼んでいたらしい。
●
椅子に座ってオーダーを終えて、レオン(ka5108)はほっと安堵の息を吐いた。
気付くと向かいの席の恋人、ルシール・フルフラット(ka4000)に見とれている。
そのくせ、咄嗟の言葉遣いが以前のものに戻りそうになってしまったり、何となく緊張してしまったり。
「どうした?……やはり、通常のペアセットの方が良かったか?」
ルシールがゆっくりと瞬いて首を僅かに傾けた。その頬が微かに赤く、声が少し早口に聞こえた。
レオンとの関係を、弟子から将来の夫へと変じたそれを考えては照れている。
ルシールの内心を知らず、僕もチョコが良かったと、レオンは微笑んだ。
擦れ違った女性に見覚えがあった。
何だか大変そうにしていたと思い出しながら、しかし、連れの少年は彼女との時間を楽しみにしているようだ。
僕らも楽しみましょう。
彼等が注文をした頃に、こちらのテーブルへプレートが運ばれてきた。
白いプレートに乗せられた、しっとりとチョコの詰まった重さを感じるガトーショコラ。
淡い雪化粧の様に粉砂糖がふわりと塗されて、蕩けそうな白いクリームが添えられる。
チョコレートの濃厚なブラウンと、クリームの白の鮮やかなコントラストに、花弁を思わせるピンクのチョコレートが愛らしく飾られている。
隣に乗せられたハート型のチョコレートクッキーは、零れるほど甘い林檎のジャムを添えて、明るい照明に艶々と煌めいて見える。
折角特別な日なのだからと注文したが、とても良い物だったようだ。
ルシールが満足そうに微笑んだ。
2人の間に置かれたクッキーの量に思わず2人同時に笑って、また少し、頬を赤くする。
互いの注文した飲み物も運ばれてきて、どれから食べようかと迷いながらフォークを取った。
「あ、美味しい……聞いたとおりですね。ルシールはどう?」
ガトーショコラを一切れ、クレームを添えて味わう。
しっとりと蕩ける食感に、一口で一杯に広がるチョコレートの香り。
ルシールに尋ねれば、甘い物は好物だと嬉しそうな顔で目を細めて答えた。
この表情は、恋人になってから知ったと思う。
そのどこかに自身の影響があるのだろう。自惚れたような、誇らしいような。
ほっこりとした温かな幸せを感じ、レオンは甘いガトーショコラを噛み締めた。
「食べられないのなら、レオン、私が食べさせてあげようか?」
聡明な緑の双眸が恋人を写して細められ、ハートのクッキーを1枚摘まんでその口許へ差し出した。
不意打ちに思わず背筋を伸ばして居住まいを正しながらレオンは口を開けて受け取った。
唇が白い指を掠めただろうか。繊細で、しかし騎士として師匠として、鍛えられたその指を。
●
隣のテーブルに視線を向ける。
堂々としたその様子を参考にしようと、まじまじとレオンとルシールを見詰めるコウの向かいで、イルミナは運ばれたガトーショコラとクッキーを見て青ざめていた。
綺麗に盛り付けられたガトーショコラ、花弁のようなチョコレートや、ハートのクッキーがロマンチック。
しかし、手を伸ばすのを躊躇うほどの甘い匂いを感じる。
コウはガトーショコラにフォークを立てて、大きく切り取ったそれをぱくりと豪快に食べる。
美味いな、食えよ。イルミナを見詰める瞳がそう勧めるようににっこりと笑んだ。
細く切って一口。
カカオの香りを耐えても、その甘さに表情が強張るのを感じる。
コウは何でこんなの平気で食べられるのかしら。
「……ちょっと、甘すぎない……これ……」
甘い物は苦手。けれど、甘くて可愛いお菓子の店がすきなんだな、なんて嬉しそうな恋人の方が愛らしくて、もう少しだけ隠しておきたい気分になる。
白いカップを満たすオレンジに似た淡い色の水色、爽やかに甘酸っぱい香りで一息吐いて、フォークを持ち直してもう一口。
一口毎に溜息が零れ、紅茶を啜っては暗い顔でクッキーやガトーショコラを眺めるイルミナに、コウは首を捻る。
「あー、ああ、そう……だ、な?」
不機嫌そうな様子に、先ずはと同意を示してみるが、既に半分ほど減ったプレートに説得力は無い。
イルミナもそれを気にした様子が無いとすれば、何が失敗しただろうか。
救いの切欠を探す様に見回した目が、隣のテーブルの青年の視線とぶつかった。
レオンはコウの視線にフォークを置いて軽い会釈を、コウもきまりが悪そうに肩を竦めた。
「っと、あー……や、お似合いだなあって。この店にはよく来るのか、な?」
見ていたのは気付いただろうと、隠さずに打ち明けてレオンとルシールへ交互に視線を向けた。
レオンはルシールと視線を交わして笑むと、初めてだと答えた。
「どう?よかったら一緒に。師匠もかまいませんか?」
賑やかな方がいいと、ルシールに尋ねると、ルシールも拒む様子も無くコウとイルミナを見た。
コウもその誘いに乗ることにして、イルミナに声を掛ける。
「コウだ。よろしくな」
「ボクはレオン。よろしく」
決まりだ、とコウとレオンが話を進め、ルシールもそれに協力するように椅子の向きを直している。
「――ちょっ……コウ……!」
椅子を寄せて、2つのテーブルを4人で囲む。イルミナも慌てて動きながら、初対面とそれに近い2人には目を合わせられずに俯いていた。
●
コウは話が弾んでいるレオンとルシールを眺めながらも、イルミナの様子を見詰めている。
正確な歳の見当は付かないが、2人とも年上だろうか。落ち付いていて、大人に見える。
イルミナの機嫌は相変わらず、2人に声を掛ける前よりも気落ちしている様に見えた。
原因が分かれば良いのだが、ガトーショコラを食べる手も止まってしまっている。
誘ったデートが上手くいかず、苦手な物を前に会話も乏しく、人見知りにダブルデートが堪えていて。
イルミナの落ち込んだ赤い双眸が、ちらりと覗った2人はデートに慣れている様に見えた。
視線をコウに向ける。
私達は、ああは見えないわよね。そう零しそうになる溜息を飲み込んで、ガトーショコラを小さく切る。
感じる視線が、何と無しに落ち付かない。
レオンは、ふと悪戯に目を細めて口角を上げた。
ルシールのプレートは既に空になっている。好機だと頬が緩む。
一口サイズに切ったガトーショコラに、クリームと添えられたピンクのチョコレートを飾って見栄えを整える。
フォークの上に乗せたそれを、すっと恋人の口許へ。
「ぼくの分もどう? 師匠。ほら、アーン」
緑の双眸に同じ色の瞳が瞠る様が写る。
困ったように眉が下がり、年上の女性は少女のように屈託無く笑って、差し出されたそれを喜んだ。
ガトーショコラを味わいながら、ルシールは静かに瞼を伏せた。
「…………なあ、レオン」
考え事の続きのような声で呼び掛けて、開かれた瞳は真っ直ぐレオンを見詰める。
互いの間には既に契りが交わされている。しかし、その実感はまだ淡い。浮き足立っているようにさえ感じる。
扱い兼ねた感情に、どうしたものかなと呟いて、ルシールは答えを探す様に婚約者となる恋人を見詰めた。
ルシールがガトーショコラを受け取った瞬間、これだ、と、コウもクッキーを取る。
幸い籠のクッキーだけでなく、自身のプレートのチョコレートクッキーもまだ残っていた。
「イルミナ」
呼び掛ければ項垂れて機嫌を損ねていたらしい顔が上がって嬉しそうな声で答える。
もしかして、声を掛けるのが足りなかったのだろうか。折角好きな店に連れてきてくれたんだから。
何、コウ。
そう答える口にクッキーを押し付けた。
「好きなんだろ。お前が来たいっていったんだし……俺の分もやるよ」
イルミナは反射的に、ハートの端を咥えるように受け取った。
そして、食べさせられたと知った瞬間に、白い頬が真っ赤に染め上がる。
掛けられた言葉に答える事も出来ず、コウの手が離れるとクッキーを自分の手で支えて一口囓る。
落ち込んでいたこと、悩んでいたことが吹き飛んで頭の中が真っ白になった。
コウは真っ赤になりながら目を瞠って困惑し、もごもごとクッキーを頬張っている恋人を見詰める。
好きなものを食べたら笑顔になるだろう。
笑えば誰にも負けないくらい可愛いんだと、満足げに頷いた。
クッキーを手に困惑しているイルミナを横目に、レオンもルシールの悩む瞳を真摯に見詰める。
出会った頃からその美しさは変わらないように思うし、より美しくなったようにも思う。
ルシール。隣のテーブルを気に掛けて戻していた呼び方を正して囁く。
籠のクッキーを1枚摘まむとルシールはレオンに改めて好物を尋ねた。
「あまり上手では無い、が。練習しよう」
レオンの好きな料理を作る。家庭の味を探求だ。この後どうだと尋ねるのは、ルシールが導き出した応えなのだろう。レオンも最後に1枚頬張って、勿論と満面の笑みで頷いた。
レオンとルシールの退店の後も、コウから受け取ったクッキーを少しずつ食べ進め。
まだ半分近く残るそれを見詰めてはどうしようかと首を傾げる。
折角、コウから貰ったのに。思い出すだけでまた思考が止まって仕舞うけれど、その甘さとの勝負は五分。
食べ終わるのが先か。
不機嫌の真相を知られるのが先か。
依頼結果
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参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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RP打ち合わせ卓 イルミナ(ka5759) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/02/08 08:15:34 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/04 22:37:28 |