• 東幕

【東幕】はもんのうら

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/06 15:00
完成日
2018/02/12 11:10

みんなの思い出

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オープニング

 反幕府・攘夷を掲げた浪士集団『鬼哭組』の暗躍は要人暗殺を経て若峰破壊へと向かっていく。

 九代目詩天の三条 真美(kz0198)の留守を狙い、若峰を大火へ導き、水野武徳(kz0196)を殺害の上、黒狗城を占拠。
 詩天を頂点とする政治体制を新たに整える。

 夢物語が如き理想を掲げ、革命を挑む鬼哭組。
 若峰守護を掲げ、忠を持って阻止せんとする即疾隊。

 物語は双方が激突する中で、佳境を迎える。


 即疾隊屯所に到着したハンターは局長達の指示あるまで待機となった。
 ハンター達の前に姿を現した副局長の前沢恭吾はいつも通りだが、一番隊長の壬生和彦の瞳に輝きは失われており、整った顔立ちに笑みはなく、玲瓏たる様子を引き立てている。
 二人も様子を隠しているようであったが、ハンター達は即疾隊が鬼哭組の浪士を捕えたという話は聞いている。
 最後に入ってきた局長はハンター達の様子を横目で見て、軽い調子で「悪いな、待たせて」と軽い調子で謝った。
「一番隊と共に急ぎで黒狗城へ行ってもらいたい」
 局長が即座にハンター達に指示を出した。
「奴らの狙いは黒狗城を炎上させ、その隙に城を占拠する事」
 その狙いに全員に緊張が走る。
「今は城の主たる真美様が不在ゆえ、水野殿を殺害を考えていたという」
 更に言葉を紡ぐ前沢に「本気だな」とハンターの一人が呟く。
「すぐにでも火付けを止めに行く。続け」
 和彦が腰を上げると、ハンター達はすぐに従った。

 隊服である羽織に袖を通したハンター達は屯所を飛び出して黒狗城へと駆けていく。
 日が暮れており、夜の色が空を染めている。
 顔を上げたハンターと目を合わせたのは今にも満ちそうな月。
 明るい月夜に 犯行するのは自信の現れだろうか。
 決して、成就させないとハンターは胸に秘める。


 黒狗城付近にいた浪人達は周囲の警備に気づかれないように身を潜めていた。
 松永武人より火付けと占拠の指揮を任されたのは東行大輔という浪人。
 若峰入りしている時は笠を被り、顔を隠していた。
 大輔が手を挙げて他の浪人達へ合図を送る。
 音を消して走り去る同志の背を見送っていた。
 数名の『同志』は死者であることを彼は知っている。鬼哭組の首魁である松永武人が手を組んだ得体の知れない異邦人の仕業であることは薄々気づいている。
 自分達は松永の指示により、この城に火をつけ、騒ぎに乗じて中に入り、水野武徳を殺害し、城を占拠する。
 元は同じ秋寿派とはいえ、奴は裏切り者。
 戦いで裏切りは常。しかし、我が主を死に追いやった恨みは残る。
 城を占拠した後は民に混乱がもたらされるだろうが、覚悟なくして政を覆すことはできないのだ。
 しかし、自身の『主』が願う事なのかと大輔は自問を繰り返すも、答えは出ない。
 千石原の乱の時、逃げ出したのは主の命だった。
 若い命を失うわけにはいかないと……しかし、逃げた秋寿派の者は心が荒む日々を過ごしていた。
 憂さ晴らしに繰り返す乱闘、役人の目から逃げるのはいつものことだった。
 乱闘に勝っても、無力と打ちのめされる自分に愛想が尽きそうになった時に姿を現したのは松永武人だ。
 薄ら笑いを浮かべた松永武人は大輔を鬼哭組に誘った。
 今の詩天を壊し、新体制を作る。
 東行大輔が松永へ返した言葉は只一つ。
 ――凡ては、詩天が為。

 大輔は月の高さを確認する為に顔を上げた。
 明日は満月。
 仕官を始めた頃、今は亡き主が満月は望みが成就する時であり、新月は何かを始める時と教えてくれた。
 答えを出すためにこの役目は果たさねばならないのだ。
 月が満ちようとするこの時に。
 彼は今回の指示を受けた後、奇妙な事に遭遇した。
 下調べをしていた時、暫く門を開けてなかった屋敷が診療所だと知り、その後に鬼哭組に入ることになっていた浪人達が夜中、診療所に侵入しようとしていたのだ。
 正気を失った浪人達の様子に何かの仕業ではと察していた。
 あの異邦人の仕業かは分からないが、役目を終え、松永に進言しなくてはならないと大輔は思う。
 詩天にはあの異邦人の他になにかいる。
 そして、診療所に出入りしていたあの即疾隊隊士にも接触せねばならない。
「何故、現三条家の犬になっているんだ……」
 苛立ちを隠さず、大輔は呟いた。

リプレイ本文

 即疾隊局長の命を受け、一番隊士として黒狗城へ駆け出していた。
 城の門の近くに来た即疾隊は周囲を伺うが、人影はまだ見えず。
「仕方ない。手分けして探すぞ」
 一番隊長の壬生和彦が告げ、背中合わせにそれぞれの道へ走っていった。

 空を見上げれば、月は随分と高くなっている。
「いつ火の手が上がるか分かりません。急ぎましょう」
「はいっ」
 二班に同行するフィルメリア・クリスティア(ka3380)の言葉に隊士達が返事を返す。
 殿を守るのは和音・空(ka6228)。
 またもや詩天にきな臭いものが迷いこんでいる。
 今回は詩天だけの話ではないことも知っているが、復興の隙を狙うかのように入れ替わり立ち替わり何かが蔓延っているのだ。
 月が城の影に隠れ周囲が暗くなった。
 注意深く探していると、微かに話し声が聞こえてくる。
 耳を澄まして場所を突き止めようとした瞬間、冬の冷えで紅潮する空の頬のすぐ横を何かが通っていった。
「ぐぁ!」
 短い悲鳴が隊士より聞こえ、他の隊士が前に出る。
 片膝をついた隊士は片腕を押さえており、足元には矢が地に突き刺さっていた。
「かすり傷です。隊長に連絡を……」
 顔を歪める隊士の頼みを受けたフィルメリアは一班へ連絡する。

 二班が浪士を見つける頃、一班が注意深く進んでいくと、木綿花(ka6927)の魔導スマートフォンが着信を伝える。
 通信の相手はフィルメリア。鬼哭組浪士を発見したという内容と、中に弓を使い手がいるという事。
 了承し、手短に通信を切った木綿花は二班の状況を和彦へ伝える。
「急ぎましょう」
 冷静さを保っている和彦であるが、内心は隊士の事を心配して鬼哭組浪士への怒りを募らせているのだろう。
「そろそろ門が近い。見落としがないように」
 アーク・フォーサイス(ka6568)の言葉に和彦は頷く。
 門の前ではなく、少し離れた隠れることが出来る場所、横道等に潜んでいる可能性がある。
 燃やした火で城を燃やす事も考慮しているだろうが、狙いは城の中へ入る為の陽動。
 風に乗って煙の匂いに気づく即疾隊は駆け出す。
 微かに空へと燻らせる煙を何人かの浪人らしい男達が囲んでいた。
 キヅカ・リク(ka0038)は素早く火を持っている浪人を見つけ出す。
「頭冷やせ!」
 叫んだと同時にリクは試作型貯水石に溜め込んだ水を頭上から放水する。
 いきなりの放水に一人の浪士が素早く後退りをした。
「そこまでだ」
 七葵(ka4740)が制止の声を上げると、彼は半歩下がり、和彦へと譲る。
「即疾隊だ。鬼哭組浪士東行大輔と見受ける、此度の騒ぎを止めに来た。縛につけ」
 静かに降伏を促す和彦に浪士の一人が苛立ちを隠さずに顔を顰めた。先程、リクの水を避けた浪人だ。
 自分達がしようとしていることを邪魔された事への苛立ちなのだろうかと様子を窺っていると、浪人は苦々しく口を開く。
「葦原和彦……千石原の乱に参戦しなかった臆病者」
 即疾隊の一部、ハンターにしか知らない名を声に出す大輔は真っすぐ和彦の方を睨みつける。


 通話を終えて戦闘状態となった二班の方は、隊士達が抜刀し、臨戦態勢を整えている。
 後方にいる空は何よりも先にワイルドカードを発動させた。
「浪士の方をお願いします」
 そう告げたフィルメリアは剣を抜いた。その刀身は青白い結晶のようで、同時に彼女は狙いと決めた契約者だろう者達へと足を向けた。
「逃走を防いでください。空さんも援護します」
 浪士が逃走することで問題が上がるのは若峰……詩天の民に更なる恐怖を与える事になる。
 手負いの罪人ほど何をするのかわからず、それ故に恐怖た不安は強くなるもの。
「承知した。和音殿、援護頼みますっ」
 隊士が二人に声をかけると、他の隊士達もそれに倣って浪士達へと向かう。
「任せて」
 黒曜の瞳を輝かせた空は呪画「山河社稷図」を広げた。
「囲い込んで背後をとって!」
 空がそう告げると、隊士は横に駆け出して浪人達の背後を取るように回り込む。浪人達は後方に隊士、前方に空がいる。
 浪士の一人が半身の姿勢を取り、刀を水平に構えた途端、瞬時に浪士は空がいる方向へと駆け出した。隊士達も緊張したが、空は疾風剣の展開と理解し、その場を動かなかった。
「うっ!」
 疾風剣を繰り出そうとした浪士の一撃は空が掲げている盾で防がれてしまっている。そして、浪士の足を鈍らせているのは空が仕込んでいた地縛符。
「和音殿っ」
 隊士の一人が空と浪士の間に入り、浪士へと斬りかかる。
 これで対浪士の方は有利な運びとなった。空は契約者と対峙するフィルメリアの方へと意識を向けた。


 鬼哭組浪士東行大輔の言葉に七葵が目を細める。怒りを胸の内に秘め、冷たく睨みつけている。
「秋寿派の残党と聞いたな」
 妖刀「村正」の柄に手をかけつつ大輔を見据えるのはアーク。彼の指摘に大輔は「左様」と返した。
「現三条家の形態を破壊する為、我々は黒狗城へ火を放つ」
「水野様を殺害する……と」
 言葉を続けたのは木綿花だ。
「そうだ。君主にさせようとしていた秋寿様を裏切り、我が主を死に至らしめた水野を倒し、新しい政権を作る」
 大輔は鯉口を切り、ゆっくりと刀を抜く。その表情は復讐と怒りに燃えるもの。
 武将における裏切りはよくあること。
 いつなくなるかわからない命。苦楽と共にした盟友だろうが、命を優先して裏切り、殺すことだってある。
 水野武徳は未来を予見し、真美側へついたのだ。
「忠義の為、政を終わらす……いい建前だね」
 言葉を挟んだのはアークだった。
「お前の主が求め、返す忠義とは、そんなものなのか」
 淡々と告げられるアークの言葉と視線は大輔を真っすぐ射る。
「煩い、黙れ!」
 首を振って叫ぶ大輔は同行している者へ顔を向けた。
「斬れ!」
 大輔の言葉に反応した同行者の浪士はどこか緩慢とした動きで武器を構える。
「契約者……」
 唇を一文字に引き、呟くのは木綿花。
 一度死に、歪虚の眷属として再び動くことが出来た者……契約者。説得は不可能だろう。
「ならば、道は一つしかないのですね」
 侘しさを感じるような声音で木綿花は覚醒する。
 瞬間、彼女はその場をジェットブーツで浪士の頭上を飛んだ。
 木綿花のマテリアルに反応した星剣「アルマス・ノヴァ」が無数の光を帯びる。彼女が纏う黒色の着物に映え、星空のように美しい。
 着地をした木綿花は契約者の攻撃に気づき、剣で振り捌く。
 木綿花が交戦を開始すると、リクは電流線のオーラを纏わせる。帯電したマテリアルがリクの周囲で小さく爆ぜると、自身の身体を光らせてマッスルトーチを展開する。
 おもむろに手を前に出したリクは指先を自分へ向けるように動かし、挑発を狙う。
 契約者となった者の知能がどれだけかは分からないが、彼らの意識をこちらに向けることはできた。
 大輔もまたリクの方向へ向けたが、その意識はすぐに途切れる。本能的危機を伝えるのは視界の端を掠める白銀の刃。
 身を捩らせ、着物の袖を着るだけで済んだが大輔を狙い澄ます視線はただで済まさない気迫があった。
「お前の相手は俺だ」
 静かに告げるのは七葵。
 契約者の一人が七葵の方へと刀を向けようとすると、瞬脚で間合いを詰めたアークが妖刀を鞘より抜き放ち、黒い刀身を契約者へと斬りつける。
 逃がす気はなく、すぐに仕留めるつもりだ。


 一方、二班は戦闘の真っただ中であり、フィルメリアは契約者と戦っていた。
 彼女が先に狙ったのは弓持ちの契約者だった。
 フィルメリアの前に出現した光の三角形が契約者の肩や腕を狙う。光が契約者の身体を貫いても弓を引いている。
 速い射出で矢がフィルメリアを襲う。反射的にジェットブーツを使って回避したが、契約者は執拗にフィルメリアを追う。
 日本刀使いの契約者と対峙していた空は地縛符は使っているものの、弓の厄介ぶりに柳眉を潜ませる。
「一旦下がって!」
 空が叫ぶと、フィルメリアはジェットブーツで後ろへ下がった。白く華奢な空の指に挟まれた五枚の符で彼女が展開させたのは五色光符陣。
 術が発動すると、結界が契約者を囲む。逃げるという選択肢を成功させないように光が契約者たちの目を焼く。
 光が収まった瞬間、フィルメリアは再びジェットブーツを発動させる。弓使いも構えようとするが、五色光符陣の光でまだまともに見れず、矢を番う事ができていない。
 隙を逃さずに彼女はマテリアルを武器へ流し込む。
 一気に巨大化した星剣を迷うことなく契約者へ叩きつけた。
 顔を上げたフィルメリアは空の方を向くと、彼女もまた、風雷陣で仕留めている。
 大丈夫と確信したフィルメリアがジェットブーツで割り込んだのは隊士と浪士の戦い。一人の浪士は戦闘不能状態になっていたが、隊士達も怪我を負っている。
「女! 邪魔だてするな!」
 言い終わるか否か、フィルメリアは剣を振り上げて浪士の手から刀を飛ばし、回転しながら放物線を描き、切っ先が地面に突き刺さった。
「死者を利用してまで謀反を図ると言うのが気に食いません」
 フィルメリアの水よりも、氷よりも透明で冷たい声音はそのまま、苛烈な怒りを浪士へと向ける。
 生と死を弄ぶという事が彼女の激情に火を点していた。


 上段に構えた契約者は迷いなくアークへ凶刃を振り下ろす。
 アークから見て横から斬りかかられており、彼は間に合えと願うばかりに村正を下段から振り上げた。
 しかし、タイミングが合わず、凶刃がアークの身体を斬りつける。
 痛みに顔を顰めたアークは契約者の攻撃を終えたタイミングを逃さずに一歩踏み出す。
 返す刀宜しく、アークが契約者へ斬りかかる。
 契約者が回避することも受けることも出来ずに捻りを加えた一撃が彼の胸に突き刺さった。
「逃がさない……あるべき形に戻ってもらう」
 生を終わらせた者が歪虚の手によって再び動く……いかなる理由があっても死は死。在るべき姿へ還らせるのも未だ生きる者がすべき事……とアークは思う。
 決定的なダメージを食らった契約者は立つ余力も奪われ、そのまま崩れ落ちる。

 木綿花の心に引っかかっていた事は『赤い羽根の首飾り』を付けた東方の者でない男と、刀。
 人の生活に爪痕を残しているのに、風のように姿を消しており、彼女の中で納得がいかなかった。
 どんな理由があってあの地に足を踏み入れたのか。
 鬼哭組の浪士が武器欲しさに東方の地を回っていたのか、様々な可能性がある。
 思案にくれていても、木綿花へ容赦なく剣撃を打ち付ける契約者は力知らずのように思えた。人間ではなく、歪虚の眷属だからかもしれない。
 苦し紛れに木綿花はデルタレイを発動させ、動きを怯ませる。
「はっ!」
 木綿花の気合と共に繰り出された一撃は契約者の胸を深く斬り裂いた。
 大きく息を吐いた木綿花はちらりと七葵と戦う大輔の方を向く。
 まだ、目の前の疑問が解消されていない。

 槍使いの契約者と対峙していたリクはリアルブルー時代、漫画で読んだ事を思い出していた。
 剣と槍が戦う場合、剣術使いは槍使いの三倍の技量が必要という話。
「……邪魔を……するな……」
 呻くように話しかける契約者は槍の穂先を突き出す。話しかけられたのと同時に繰り出された攻撃にリクは少し反応が送れたが、聖機剣の切っ先で攻撃をいなす。
「我々は……三条家を滅ぼす……」
 死してなお、現三条家への悔恨を残し、歪虚の眷属となった契約者……否、浪士の姿にリクは胸の芯から感情が揺さぶられる。
「だめだ……そんなんじゃ……!」
 どんな土地でも権力は欲しがられることをリクは経験を通じて身に染みていた。
 国を変えるという事がどんなことかも。
 奥歯を噛みしめたリクは自身へ振り下ろされる穂先を剣で受け止めると、すぐさま次の攻撃でリクの脇腹を削るように横へ薙ぐ。
「ぐぁ……!」
 痛みを堪え、リクはマテリアルを集中させ、契約者へ扇状の炎……豪炎を放出した。
 契約者もまた苦しめられた獄炎の如くの炎。
「……光を見なくちゃ……」
 いつでも痛みに慣れたくはない。リクは動かなくなった契約者を見つめ、呟くが、七葵の方を向く。
 生かさなくてはならない。

 間合いを詰めた七葵が剣を交わすのは東行大輔。
「何に唆されたが知らないが、真美様は秋寿様の想いを継ぎ、詩天の復興に尽力されている」
 横からの剣撃を大輔は苦し紛れに受け流しで刃を流す。
「お前が担ごうとしている者は果たしてそれ以上に秋寿様を、詩天を想って事を成そうとしているのか!?」
 七葵の問いかけは大輔が蓋をし逃げていたこと。
「お前は千石原の乱に駆けつけたか」
 問いかけに応えなかった大輔は七葵に問い返した。
「お前に分かるのか。死を覚悟した奴が主君から逃げろと言われた者の絶望や惨めさを!」
 大輔の叫びに七葵は目を見張ると同時に腹に蹴りを食らい、よろめく。
「けほ……っ。お前の主君は……」
「俺は葦原家に逃がされて生き延びた。あの方の為なら命を捨てることが出来た!」
 怒りまかせに振り上げた大輔の一撃が七葵に襲いかかろうとした時、影が割って入る。
「和彦……」
 大輔の一撃を返す和彦の前髪は上げられており、整った顔が露になっていた。
「お前の主君は上原様か。だから俺の事を知っていたのか」
 七葵に手を差し伸べ、立ち上がらせる。
「何故、お前が現三条の犬になっている! お前も裏切り者なのか!」
 非難の声が和彦へ浴びせられると、七葵は和彦を後ろに立つ。赤い瞳が激怒の感情をうつす。
「これ以上、和彦や真美様……否、詩天を貶める言葉は許さん!」
 七葵は彼らの絶望、苦しみ、悲しみを知っている。
 国とは一面でできるものではない。民、臣下、君主がそれぞれの面となり作り上げる。
 詩天はまだ作っている最中だ。
 それを邪魔するものは許すことができない。
 七葵と大輔の気合と共に込められた一撃がぶつかった。
 影が重なり、崩れたのは大輔だ。
「秋寿様も願っていた。生きろ」
 膝をつく大輔へ七葵は静かに告げる。


 二班と合流し報告し合った。
 結果、契約者は討伐完了。
 指示役である東行大輔は捕縛。
「尋ねたいことがあります」
「お前か」
 大輔は木綿花を覚えていた模様。彼女の質問は亀田診療所を襲撃した浪士の事、鬼哭組に赤い羽根の首飾りをした者がいるか。
「あの女医者が戻ってきた後から様子がおかしくてな。俺なりに調べていた。奴ら女と一緒のところを見たという話だ。この辺では見ない美女だとか。
 後、そんな飾りした奴は見たことがない」
「そうですか」
「……ブラッドリー同様、東方に流れ込む異邦人はいる。アイツらをおかしくした女もどこかにいるだろう」
 疲れた様子の大輔を空が一瞥し、遠くなった月を見上げる。
「まだ、終わらなさそうね」
 空が息を吐くと白く視界を遮った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 即疾隊一番隊士
    和音・空(ka6228
    人間(紅)|19才|女性|符術師
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/02 00:20:53
アイコン 相談卓
本多 七葵(ka4740
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/02/05 23:51:00