ゲスト
(ka0000)
演想──悪意に乗る作為
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/06 22:00
- 完成日
- 2018/02/09 06:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
六つの反応が全て、目的地に到達することなく消滅したことを認めて、静かに、このやり方では目的を達せられないと結論する。
……インタラプタ、と呼称するこの歪虚はエンドレスと同種の寄生型狂気である。高性能のサーバーPCへと取り憑き、情報や演算を支援する存在だった。
それが今まで何をしていたのかと言えば、何のことは無い、これはバグを抱えた鎌倉クラスタからの攻撃により損傷し、以降、鎌倉クラスタの存在によって身動きが取れなかったのだ。そして鎌倉クラスタが消滅したかと思えば、支援すべき母体も失われていたわけである。
今のハンターたちには勢いがあり、対し己の存在は卑小である、とこれは理解していた。ならば孤立したこの身で何が成せるか。
目指したのは大きな戦果を挙げることではなく小さな失点を負わせることだった。ほんの少しでも、今の人間の居住地に、出来れば人そのものに被害を与えられればそれでよかった。
勢いというのは隙でもあるのだ。輝きを放つ者に対しこの世界の者たちは僅かな失敗こそを赦さない。故に『護れなかったのか』と責められる程度の戦力で行った。それでも勝算はあったが、ハンターたちは予想を超えて迅速に駆けつけた。
……そうしてその原因は、すぐに知れた。
偶々、付近に、別の目的でハンターたちが待機していたのだ。とある劇の公演。その護衛として。一度中断となりそして迅速な対応により再開されたこの劇は、より一層ハンターたちの存在をこの世界の人々に印象付け──
『でもそれってさ、自分たちの力をアピールするためにタイミング狙ってやったんじゃねーの?』
ネットワークの海の中。それを見つける。つくづくもこの世界は心地よい狂気に溢れているとしばし浸った。
ああ全く、勢いというものは隙なのだ。栄光を手にしたものは完璧を求められ続け、完璧であろうともそれを認めずこじつけてでも粗を見つけようとするものが現れる。
突いてみるべきは、この隙なのかもしれない。ハンターに『汚点』を背負わせ、動きを止めるためには。
●
「で、貴方としてはどういうつもりだったのか聞かせてもらいましょうか」
「つもりも何も。言われているような目論見は全くないし、俺たちが誰よりも不本意です」
高瀬少尉の尋問に、伊佐美 透(kz0243)としてはそう答えるよりなかった。
ハンターが出演するという事を話題にした舞台が、VOIDの襲撃により中断。ハンターの活躍により再開……と言う流れが、あらかじめVOIDの存在を探知していた上での話題作りの自作自演ではないか、という意見が市民たちの間で交わされていることが問題視されつつある。
まったく馬鹿らしいひねくれた意見で、初めはろくに相手にもされていなかったのだが──二度、同じことが起これば、話の流れも変わってくる。
「一度目の時点で、『逆に良かった』なんて思っていない。敵の存在が確認されていないかは……勿論確かめました」
「前日まで、巧妙に潜伏していた敵が、偶々姿を現した? 二度も?」
「……俺たちの認識としては、そういう事になります。軍が別の情報を把握できたというなら、むしろ教えてください」
真面目な思いで、請うように透がそこで頭を下げると、高瀬少尉は苦々しそうに顔を歪めた。
「まあ……そこに関しては正直、こちらのデータも一緒です。前日に何か感知したものは、こちらにもありませんが……何ですかその顔」
「いや、正直に教えてもらえたのが意外で……貴方は俺の芝居は嫌いなんだろうに」
「僕をなんだと思って……! 大体、」
そこまで言ったところで、高瀬少尉は不意に口を閉ざした。
あからさまに途中で止まった言葉に、透はどうしたものかとしばらく見つめ続ける。やがてその視線に耐えかねるように高瀬少尉は顔を逸らして。
「……ハンターが過度に目立とうとすることに意見はありますが、貴方の演技が悪いとは言ってない」
ぼそっと漏らした。
暫し、今の発言が出た意味を考える。
「え。あ、もしかして観に来た?」
「別に! 貴方が! 前にあんな挑発してきたから! 避けたらまた侮られると思ったまでです!」
「挑発? って、あー……言われてみれば確かにそれっぽいこと言ったけど……」
つまりどういうことか。もう一度、経緯と反応をゆっくりと推察するに。それは。
「何というか……意外と素直か君は」
「うるっさい! 調子に乗るな!? 大体何急にタメ口になってるんださっきまで敬語だっただろう!?」
「あーいや。よく見たら明らかに年下だしなあと意識したらつい……いや年上ぶる気はないんだが。近い年代なんだしもしかしてもう少し友好的になれるんじゃないかと」
「な……。あ……。っ! だから調子に乗るな! あくまで僕の矜持として情報は正確に述べたまでだ! 僕は! あくまで! ハンターと慣れあう気は、無い!」
顔を真っ赤にして、バン! と少尉は机を叩く。
これに関してはまだこれ以上つつかない方がよさそうだが。これは。彼のこの反応には。
……。ああ。そうか……と。
「もう一度、ちゃんと調べさせてほしい」
ふと、声を真剣なものに切り替えてそう切り出すと、高瀬少尉もすぐに我に返り「何?」と聞き返してきた。
「どうして敵が急に姿を現したのか。そのタイミングと、現状に作為は無いのか。俺たちの手で調べさせてほしい」
「……。分かってるのか。それで何もなかったら、それこそ恥の上塗りだぞ」
「ああそうだな。その時は、俺のことは好きにしてくれ」
「それは……どういう意味で言っている」
「ハンター資格のはく奪でもクリムゾンウェストに永久追放でも好きにすればいい。それで他の人たちに類が及ばないように始末をつけてくれ」
「……そうなったら、それこそあなたの望みは潰えるぞ! 『ただの偶然』は、証明できないだろうに!」
「俺は! もうこの世界の人たちに伝えてきたんだ! 舞台の上で!」
同じことが重なって。不信を覚える人がいるのは理解できる。それでも。味方してくれる言葉が、こんなに少ないのだろうか。どこかで、不当に掻き消されていないのか。
「全力で、演じた。その結果、俺と言う存在が怪しいというのがこの世界の人たちの答えなら……受け入れる。器じゃなかったと、諦めるさ。でも、」
でも、今のままで、そうだと結論付ける前に、もう一度。
「一度だけ。俺は、俺がやってきたことを信じる。俺が観せてきたものは……届いてる。劇場で、手ごたえはあったんだ!」
現在。紅と蒼の世界を超えて通信をする手段は、アナログ含めて、無い。それでも。
……今は見えなくとも。呼びかけた想いに、応える想いは無かったのか。
「……勝手にすればいい。依頼があるならそれに沿って動くハンターをどうこうするなんて話は……ありません」
そうして、終わりならこれで、と言い捨てて、高瀬少尉は立ち上がって、この場は終わった。
……インタラプタ、と呼称するこの歪虚はエンドレスと同種の寄生型狂気である。高性能のサーバーPCへと取り憑き、情報や演算を支援する存在だった。
それが今まで何をしていたのかと言えば、何のことは無い、これはバグを抱えた鎌倉クラスタからの攻撃により損傷し、以降、鎌倉クラスタの存在によって身動きが取れなかったのだ。そして鎌倉クラスタが消滅したかと思えば、支援すべき母体も失われていたわけである。
今のハンターたちには勢いがあり、対し己の存在は卑小である、とこれは理解していた。ならば孤立したこの身で何が成せるか。
目指したのは大きな戦果を挙げることではなく小さな失点を負わせることだった。ほんの少しでも、今の人間の居住地に、出来れば人そのものに被害を与えられればそれでよかった。
勢いというのは隙でもあるのだ。輝きを放つ者に対しこの世界の者たちは僅かな失敗こそを赦さない。故に『護れなかったのか』と責められる程度の戦力で行った。それでも勝算はあったが、ハンターたちは予想を超えて迅速に駆けつけた。
……そうしてその原因は、すぐに知れた。
偶々、付近に、別の目的でハンターたちが待機していたのだ。とある劇の公演。その護衛として。一度中断となりそして迅速な対応により再開されたこの劇は、より一層ハンターたちの存在をこの世界の人々に印象付け──
『でもそれってさ、自分たちの力をアピールするためにタイミング狙ってやったんじゃねーの?』
ネットワークの海の中。それを見つける。つくづくもこの世界は心地よい狂気に溢れているとしばし浸った。
ああ全く、勢いというものは隙なのだ。栄光を手にしたものは完璧を求められ続け、完璧であろうともそれを認めずこじつけてでも粗を見つけようとするものが現れる。
突いてみるべきは、この隙なのかもしれない。ハンターに『汚点』を背負わせ、動きを止めるためには。
●
「で、貴方としてはどういうつもりだったのか聞かせてもらいましょうか」
「つもりも何も。言われているような目論見は全くないし、俺たちが誰よりも不本意です」
高瀬少尉の尋問に、伊佐美 透(kz0243)としてはそう答えるよりなかった。
ハンターが出演するという事を話題にした舞台が、VOIDの襲撃により中断。ハンターの活躍により再開……と言う流れが、あらかじめVOIDの存在を探知していた上での話題作りの自作自演ではないか、という意見が市民たちの間で交わされていることが問題視されつつある。
まったく馬鹿らしいひねくれた意見で、初めはろくに相手にもされていなかったのだが──二度、同じことが起これば、話の流れも変わってくる。
「一度目の時点で、『逆に良かった』なんて思っていない。敵の存在が確認されていないかは……勿論確かめました」
「前日まで、巧妙に潜伏していた敵が、偶々姿を現した? 二度も?」
「……俺たちの認識としては、そういう事になります。軍が別の情報を把握できたというなら、むしろ教えてください」
真面目な思いで、請うように透がそこで頭を下げると、高瀬少尉は苦々しそうに顔を歪めた。
「まあ……そこに関しては正直、こちらのデータも一緒です。前日に何か感知したものは、こちらにもありませんが……何ですかその顔」
「いや、正直に教えてもらえたのが意外で……貴方は俺の芝居は嫌いなんだろうに」
「僕をなんだと思って……! 大体、」
そこまで言ったところで、高瀬少尉は不意に口を閉ざした。
あからさまに途中で止まった言葉に、透はどうしたものかとしばらく見つめ続ける。やがてその視線に耐えかねるように高瀬少尉は顔を逸らして。
「……ハンターが過度に目立とうとすることに意見はありますが、貴方の演技が悪いとは言ってない」
ぼそっと漏らした。
暫し、今の発言が出た意味を考える。
「え。あ、もしかして観に来た?」
「別に! 貴方が! 前にあんな挑発してきたから! 避けたらまた侮られると思ったまでです!」
「挑発? って、あー……言われてみれば確かにそれっぽいこと言ったけど……」
つまりどういうことか。もう一度、経緯と反応をゆっくりと推察するに。それは。
「何というか……意外と素直か君は」
「うるっさい! 調子に乗るな!? 大体何急にタメ口になってるんださっきまで敬語だっただろう!?」
「あーいや。よく見たら明らかに年下だしなあと意識したらつい……いや年上ぶる気はないんだが。近い年代なんだしもしかしてもう少し友好的になれるんじゃないかと」
「な……。あ……。っ! だから調子に乗るな! あくまで僕の矜持として情報は正確に述べたまでだ! 僕は! あくまで! ハンターと慣れあう気は、無い!」
顔を真っ赤にして、バン! と少尉は机を叩く。
これに関してはまだこれ以上つつかない方がよさそうだが。これは。彼のこの反応には。
……。ああ。そうか……と。
「もう一度、ちゃんと調べさせてほしい」
ふと、声を真剣なものに切り替えてそう切り出すと、高瀬少尉もすぐに我に返り「何?」と聞き返してきた。
「どうして敵が急に姿を現したのか。そのタイミングと、現状に作為は無いのか。俺たちの手で調べさせてほしい」
「……。分かってるのか。それで何もなかったら、それこそ恥の上塗りだぞ」
「ああそうだな。その時は、俺のことは好きにしてくれ」
「それは……どういう意味で言っている」
「ハンター資格のはく奪でもクリムゾンウェストに永久追放でも好きにすればいい。それで他の人たちに類が及ばないように始末をつけてくれ」
「……そうなったら、それこそあなたの望みは潰えるぞ! 『ただの偶然』は、証明できないだろうに!」
「俺は! もうこの世界の人たちに伝えてきたんだ! 舞台の上で!」
同じことが重なって。不信を覚える人がいるのは理解できる。それでも。味方してくれる言葉が、こんなに少ないのだろうか。どこかで、不当に掻き消されていないのか。
「全力で、演じた。その結果、俺と言う存在が怪しいというのがこの世界の人たちの答えなら……受け入れる。器じゃなかったと、諦めるさ。でも、」
でも、今のままで、そうだと結論付ける前に、もう一度。
「一度だけ。俺は、俺がやってきたことを信じる。俺が観せてきたものは……届いてる。劇場で、手ごたえはあったんだ!」
現在。紅と蒼の世界を超えて通信をする手段は、アナログ含めて、無い。それでも。
……今は見えなくとも。呼びかけた想いに、応える想いは無かったのか。
「……勝手にすればいい。依頼があるならそれに沿って動くハンターをどうこうするなんて話は……ありません」
そうして、終わりならこれで、と言い捨てて、高瀬少尉は立ち上がって、この場は終わった。
リプレイ本文
「うげ……アイツまたイチャモンつけてきたンか? オレあの少尉苦手だ……」
大伴 鈴太郎(ka6016)はそう言って顔を歪めた。
「でも今回ばっかは同意見だぜ。マジで偶然だったらどうすンだよ?」
「……言った通り、『それならもういい』、だよ。俺が演じた結果が、余計に不信を募らせるっていうのが、歪みのない結果なら」
「あのな。ヒトのこた言えねぇけど、トールも感情的になり過ぎだって──」
鈴が透に言えたのは、そこまでだった。
ツカツカと透に近づいた星野 ハナ(ka5852)が、渾身のボディーブローを彼に叩き込む。
「好意持ってくれてるツンデレ木端役人に進退かけてもできるかどうかわからない大事を頼む甘えっぷりも腹立ちますけどぉ、自分1人我慢すればハンターに悪評が立たないとか考える後ろ向きっぷり勘違いが超腹立ちますぅ!」
「──……」
「ごろつきハンターなんて山ほどいますぅ、もう何十人とふっ飛ばしてきましたぁ! それでもハンターへの依頼が揺らがないのは、真摯に依頼と向き合い歪虚と戦うハンターがいるからですぅ! 誰が何を思おうが100人中の99人が堕ちようがそれでもハンターとして立つ覚悟のある人間が居る限りハンターの誇りも信頼も揺らぎません揺らがせません、ハンターはそう思ってハンター続けてるんですぅ、自分の迷いをハンターへの信頼なんて甘え言葉にすり替えんなハンター舐めんなですぅ!」
言葉を挟む余地もなく彼女は一息でそう言うと、その場にいる人間をぐるりと全員指指した。
「ここだけでも透さんの夢を期待してる人間がこれだけいるんですよぅ、貴方が夢に走るのにまだ足りないんですかぁ……?」
そうして。
「夢に夢見過ぎてる私が悪いんでしょぉけどぉ……雑音ばっかり耳を傾ける透さんは大っ嫌いですぅ!」
そう言い捨てるまでに、答えを待つ間はやはりなかった。言い切るなり他者を振り払い飛び出していく。やがて聞こえてくるのはバイクの音である。
一同、それを複雑な顔で見送っている。咎める者が居ないのは、皆心境は理解するからか。
状況が不透明な状況での単独強行軍の危険性を理解しつつも、彼女の行動は容認される空気だった。
彼女の行動は。
誰も追う様子がないことを認めると、透がすぐに追跡を始めるというのは──単純に、だれも予想してなかったらしい。
「えっ!? ちょっ……」
これには鞍馬 真(ka5819)が慌てた声を上げた。彼の計画では、透とチィにも調査の同行を願うつもりだったからだ。
かくして。
方針は、のっけから瓦解した。
●
「ハンターが目立つのが目障りなら、当然対策はしていますよね?」
初月 賢四郎(ka1046)がそう言って高瀬少尉に接触すると、少尉は露骨に苦手意識を浮かべて見せた。
「自分の動きも把握済かと」
「……そりゃあ、森山艦長に直接聞けばそんなところでしょう」
試されてる、と言うのが分かった上で求める答えを言うしかないことに舌打ちすらしそうな顔で少尉は答える。
「こちらの手札の一部とBETくらいは見せますよ」
回答に、頷くと賢四郎は以前の意見交換の件と称し以下のように提案した。
ハンターにも個々の考えがあり一枚岩でない事を伝えた上で、旧軍出身ハンターの復帰の便宜を図る事での取込が可能だと。
「宣伝部隊以外にもハンターとの繋がりがあればどうです?」
そう言って、自身もまた、少尉の所属する派閥への協力を匂わせると、暗に交渉相手となることを匂わせ、反応を待った。
少尉は、暫し何か考えていたが、やがて首を振る。意図としては、この交渉のテーブルには乗らない、だ。
興味がない、という事は、彼、および彼の派閥はハンターの取込や切り崩しは行っていない? ただ、少し考える様子が見れたのは気になる。
言葉すら出さずに否を示したのは、つまりそこから見える情報すら与える気はない、という事か。
「土産も無しでは信用できんでしょう。故にこれはBET……Showdawnまで預けておきます」
まともな交渉をするにはまだ遠すぎる。そう判断し、【東征】東方解放戦功労章を渡そうとする。少尉はただ困惑の顔で、置かれたそれに暫く手を出さずに見つめるだけだった。
「そう言えば、透さんの啖呵への対応はどうする気なんですか」
「それは……今の話と関りが?」
「いえ。軍と無駄な衝突はしたくないし、彼は手段で無く目的で演じているから手助けしたくなる、それだけですよ」
「手段で無く目的、か……」
ぽつりと、なんとも言えない響きで少尉は呟いた。そして、はっとした顔の後、作ったような冷笑を浮かべた。
「まあ、こちらとしてはやはり。普段こちらに居ないハンターを市民たちは信用しきれないという、良い材料ではありますよね」
流れ次第では、その波を利用させてもらう可能性はあるだろう。そう匂わせるのみで、具体的な措置は述べなかった。
●
「ハンターの情報が敵に筒抜けだった可能性も捨てきれないな。しかし、問題はどのようにして情報を手に入れたかだ」
呟き、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は気を引き締めた。
リアルブルーに一時帰還を果たしたハンターたちが化け物扱いされた事件は記憶に新しい。
ならば、今回も「ハンターの自作自演」というあらぬ風評が広まれば、再びリアルブルー人の不信感を買う可能性も高いだろう。
彼女個人としては他人の評価などどうでもいいが、ハンター全体への風当たりが強くなるのは戦略上好ましくないと考えていた。
……状況に対するアプローチとして、まず彼女が考えたのは現場周辺の住民への聞き込み調査を行う事だった。だが、今回の現場と言うのは鎌倉クラスタ落下の際の被害を受け未だ復興の叶っていない地域となる。近隣に住民はいない。
公園の管理者、となると、現在あえてそれに該当するのはと言えば、復興を担当する部署だろう、とは教えてもらえる。ハンターと名乗れば、連絡を取ることは出来た。
「事件当日周囲で何か不審な物体や生命体の目撃情報などは無いだろうか」
『当日……は、お問い合わせの区域での撤去などの活動はありませんね。なので目撃情報と言うと……』
「監視カメラなどもないのだろうか」
『インフラは……軒並み壊滅していますから、そういった類の情報も難しいですね……勿論、VOIDの反応は確認してもらってますが』
がれき撤去などの作業員は動員しているが、危険が明らかならば実施することは出来ない。その確認は必ず行われている。
「ふむ。当日、おかしな反応は無かったのだろうか」
『事件発生までは、報告されていません。当日は』
「……当日は?」
『まあたまに……変な反応は。出るんですけど、気がついたら無くなってるみたいな。姿も被害も確認できないので、誤差か、今もたまに現れることのある残党が、そのまま居なくなったのかと』
手がかりかもしれない。
「当日でなくていい。それなりに近い日付で、反応があった点をデータとして送ってもらうことは可能か」
『分かりました』
「……と言うわけで、これが不審な反応のあった地点となる」
魔導スマホを真に示しながらコーネリアは聞き込みの成果を述べた。
結局電話調査で済んだため、彼女の合流は早かった。それで何とか、暫定的に彼らは行動を立て直す。
銭洗弁天、頼朝像、英勝寺などの目立つ物を予めポイントとして設定し、ポイント間は全員で行動、到達したら散会し周辺調査。公園周辺の調査はバイクで、公園内は徒歩。
散会時に交戦する場合は無理せず撤退し合流を優先、合流時に交戦する際は粘って敵の戦闘力を計る。
これが、真の立てた源氏山公園周辺を直接調査する上での方針である。
それに従い、鈴はチィと共に探索を開始している。捜索範囲を考えると、これ以上ハナが向かった方面に人手をやるわけにもいかないので、一旦真は単独で動き、そして連絡してきたコーネリアにこちらへの合流を頼む形になったわけだ。
「……」
彼女が聞いてきてくれたポイントには、幾つか建物と重なるものがある。
目立つように歩き向こうから襲ってきてくれれば楽なのだが、これまで発見されていない以上望み薄かもしれない。
鈴が言っていたことも思い出す。
『軍でも捕捉できねぇてこたアイツらマテリアルレーダーの偽装電波でも出せンのか?
裏で操ってンのがいっかもって話だけど、前にサーバーに巣食うウイルスみてーな歪虚に手ぇ焼いたコトがあってさ。テメェは戦わずに操った自動兵器ばっか寄越してくるヤな野郎でよ。状況からして同類が一枚噛ンでっかもな。感知できねぇなら早えトコ元凶みっけて潰すしかねぇぜ』
サーバーに巣食う歪虚。筐体が身を隠すなら、やはり建物内の捜索は必要と思われた。
「これらの建物……次のポイントで共有してそれぞれで調べるか……」
そう言ったところで。
『鞍馬さん?』
ずっと呼びかけていた通信に反応があった。
●
『すまない。やっと片手が使える状況になった。こっちは星野さんを追いかけて、葛原岡神社から寿福寺方面を走り抜けた形になる。このまま周囲を走破して敵の出現を待つ形なのかな。今のところ敵の発見と交戦はないが』
遅れはとっても追われると思ってない相手を追うのは難しくはない。まして意図的に狙われようという節すら見せる様子では。
「そう。情報連携有難う……じゃないよね!?」
『……本当に、すまない。ただ、俺はやっぱり……自分の夢の代償を他の人に払わせるのは嫌だよ』
他の人にとっては彼女の行動は『自己責任』なのかもしれないが。透から見れば完全に『自分のせい』だ。
『誰も追わないのを見て。あそこで俺が他の人に「追いかけないのか?」と任せようとするのも余りにもどうかと思ったから……俺としてはこう動くしかなかった』
「……。それで、彼女とはどうなったのかな」
『どうにも。交戦になったら背中から撃たれてでも乱入して無理矢理守るしかないと思ってるが』
つまり、今は合流しているわけでは無く、彼女のバイク音が捕捉出来る位置を保っているという事らしい。
重く溜息を吐く。
「……透さん。私は今回、君を一人にもしたくなかったんだ。襲撃が偶然じゃないなら透さんが狙われている可能性もあると考えていた」
『──っ』
通信の向こうで気配がする。考えが及んでいなかったらしい。
「そこで、とりあえずの提案なんだけど。今からハナさんとまともに共闘出来るよう努力することは出来ないかな」
少し、長い沈黙があった。
『……彼女の問いに答えるならYesになるんだ』
「……は?」
『とても嬉しくはあるが。彼女や君たちが俺の演技をどう思うかは、俺の目指すことに対してあまり重要じゃない』
そう告げる声は、一先ず聞く限りは静かで落ち着いていた。流石にすぐに言う言葉が浮かばずに、今度は真が沈黙する。
『──君の提案がそもそも実現可能か、俺には分からない。可能性があるとしても、今はあまりに余裕が足りない』
事実だった。真自身、いつまでもこうして話しているわけにはいかない。コーネリアの視線を感じ、そろそろ捜索に戻らなければと意識した。
●
「こうなっと歪虚がいンの祈るっきゃねぇな……。これ以上……故郷が傷つけられンのは見たかねぇけどよ」
チィと歩きながら鈴がぼやく。
「そっすね! 任せてくだせえこの街も気合入れて護りまさあ!」
応えるチィには、特に不安も疑問もないようだった。鈴が苦笑する。
「情報持ち帰ンのが第一だ。無茶せず行こうな」
そう呼びかけると、チィはちょっと考えてから、しっかりと頷いた。
歪虚の習性は分からないが、クラスタ核が舞殿を根城にしてた事を考えると、同じように例えば銭洗弁天などに潜んでいる可能性はあるだろうか。
予測を立てながら、合流と離散を繰り返し、捜索を進めていく。
真から連携された手がかりを元に、やがてたどり着いたのは源氏山公園よりやや南西。比較的無事な建物が残る一角を捜索していく中。踏み込んだ中、違和感を覚える建物を発見した。地下への入り口を発見し、降りる。
降りてすぐ、広い空間だった。そして、すぐにそれは、居た。
例の人形兵士──手にしているのは、大剣!
「ビンゴだ! やっぱり潜んでいやがった! ……いつの間に、人の故郷に妙なもんこさえやがって……!」
怒りと共に、通信で連携をとる。この建物もコーネリアによって示されたポイントの一つだ。先の合流の際につけた記号を告げると、意識を撤退へと向ける。
大剣持ちが構えると、鈴はチィを庇うような位置に立つ。チィが牽制するように浅く斬撃を放った。大した傷は与えなかったが、初めから隙を作るのが目的なのだろう。意図を理解して鈴も機を見計らい、降りてきた階段へと向かう。
そこに。何か伸びてきた。
伸びてきた影は二本。それは絡まるLANケーブルの束のようにも見えた。だがその隙間から、狂気によくみられる触手の肉感が覗く。
大剣持ちの更に後ろから、何かが触手を伸ばしてきている!
鈴は己に伸びてきた触手の攻撃を受けようと武器を掲げる。その、パリィグローブに向けて触手が群がっていく。ケーブルに見えるそれが枝分かれし、突き刺さると負のマテリアルを放ってくる。浸食され奪われる感触に、正のマテリアルを込めて抵抗する。
やがて弾かれるように触手は離れていった。グローブは……動かせる。
「チィ!?」
確認する用に鈴は叫ぶ。
「大したことねえでさあ! ……なんとか」
すぐに無事な声を返してくる。その声に苦痛はないが焦りは見えた。
「気を付けてくだせえ……スキル封じでさぁ」
まだ悲壮感が無いところを見るに彼も抵抗に成功はしたらしい。様子からするに、余裕の抵抗では、ない。
不意の攻撃に再び大剣持ちが距離を詰めてくる。奥に目を凝らすと、更に別の触手が蠢く影が見えた。
ヤバい。鈴は怪力無双を使うとチィを抱え上げ、縮地瞬動で即座にその場を去る。ちゃんと闘争手段を用意していた鈴故の脱出だった。場合によっては、これを振り払うのはもっと苦労したかもしれない。
建物の外に出ると、鈴はチィを下ろす。合流に向け走り出すと、逃げてきた方向からだけではない気配が生まれるのを感じた。
どうやら、兵士を格納する施設はこの地域に点在していたらしい。逃げる側だけではない、向かう側も道中で交戦しながらの集合となった──なおこの頃には、ハナは多少頭は冷えていた。
そして、戦いの果て。
彼らは再び、この地に巣食っていたVOIDの存在をはっきりと確認する。サーバーPC筐体に張り付き一つ目を覗かせ、機械と融合したような触手を伸ばす狂気の姿を。間違いなく、人形たちはこのVOIDが操作しているという確信と共に。
情報はすぐ、ハンターオフィスに報告された。コーネリアにより、高瀬少尉を通じて連合軍にも。
大伴 鈴太郎(ka6016)はそう言って顔を歪めた。
「でも今回ばっかは同意見だぜ。マジで偶然だったらどうすンだよ?」
「……言った通り、『それならもういい』、だよ。俺が演じた結果が、余計に不信を募らせるっていうのが、歪みのない結果なら」
「あのな。ヒトのこた言えねぇけど、トールも感情的になり過ぎだって──」
鈴が透に言えたのは、そこまでだった。
ツカツカと透に近づいた星野 ハナ(ka5852)が、渾身のボディーブローを彼に叩き込む。
「好意持ってくれてるツンデレ木端役人に進退かけてもできるかどうかわからない大事を頼む甘えっぷりも腹立ちますけどぉ、自分1人我慢すればハンターに悪評が立たないとか考える後ろ向きっぷり勘違いが超腹立ちますぅ!」
「──……」
「ごろつきハンターなんて山ほどいますぅ、もう何十人とふっ飛ばしてきましたぁ! それでもハンターへの依頼が揺らがないのは、真摯に依頼と向き合い歪虚と戦うハンターがいるからですぅ! 誰が何を思おうが100人中の99人が堕ちようがそれでもハンターとして立つ覚悟のある人間が居る限りハンターの誇りも信頼も揺らぎません揺らがせません、ハンターはそう思ってハンター続けてるんですぅ、自分の迷いをハンターへの信頼なんて甘え言葉にすり替えんなハンター舐めんなですぅ!」
言葉を挟む余地もなく彼女は一息でそう言うと、その場にいる人間をぐるりと全員指指した。
「ここだけでも透さんの夢を期待してる人間がこれだけいるんですよぅ、貴方が夢に走るのにまだ足りないんですかぁ……?」
そうして。
「夢に夢見過ぎてる私が悪いんでしょぉけどぉ……雑音ばっかり耳を傾ける透さんは大っ嫌いですぅ!」
そう言い捨てるまでに、答えを待つ間はやはりなかった。言い切るなり他者を振り払い飛び出していく。やがて聞こえてくるのはバイクの音である。
一同、それを複雑な顔で見送っている。咎める者が居ないのは、皆心境は理解するからか。
状況が不透明な状況での単独強行軍の危険性を理解しつつも、彼女の行動は容認される空気だった。
彼女の行動は。
誰も追う様子がないことを認めると、透がすぐに追跡を始めるというのは──単純に、だれも予想してなかったらしい。
「えっ!? ちょっ……」
これには鞍馬 真(ka5819)が慌てた声を上げた。彼の計画では、透とチィにも調査の同行を願うつもりだったからだ。
かくして。
方針は、のっけから瓦解した。
●
「ハンターが目立つのが目障りなら、当然対策はしていますよね?」
初月 賢四郎(ka1046)がそう言って高瀬少尉に接触すると、少尉は露骨に苦手意識を浮かべて見せた。
「自分の動きも把握済かと」
「……そりゃあ、森山艦長に直接聞けばそんなところでしょう」
試されてる、と言うのが分かった上で求める答えを言うしかないことに舌打ちすらしそうな顔で少尉は答える。
「こちらの手札の一部とBETくらいは見せますよ」
回答に、頷くと賢四郎は以前の意見交換の件と称し以下のように提案した。
ハンターにも個々の考えがあり一枚岩でない事を伝えた上で、旧軍出身ハンターの復帰の便宜を図る事での取込が可能だと。
「宣伝部隊以外にもハンターとの繋がりがあればどうです?」
そう言って、自身もまた、少尉の所属する派閥への協力を匂わせると、暗に交渉相手となることを匂わせ、反応を待った。
少尉は、暫し何か考えていたが、やがて首を振る。意図としては、この交渉のテーブルには乗らない、だ。
興味がない、という事は、彼、および彼の派閥はハンターの取込や切り崩しは行っていない? ただ、少し考える様子が見れたのは気になる。
言葉すら出さずに否を示したのは、つまりそこから見える情報すら与える気はない、という事か。
「土産も無しでは信用できんでしょう。故にこれはBET……Showdawnまで預けておきます」
まともな交渉をするにはまだ遠すぎる。そう判断し、【東征】東方解放戦功労章を渡そうとする。少尉はただ困惑の顔で、置かれたそれに暫く手を出さずに見つめるだけだった。
「そう言えば、透さんの啖呵への対応はどうする気なんですか」
「それは……今の話と関りが?」
「いえ。軍と無駄な衝突はしたくないし、彼は手段で無く目的で演じているから手助けしたくなる、それだけですよ」
「手段で無く目的、か……」
ぽつりと、なんとも言えない響きで少尉は呟いた。そして、はっとした顔の後、作ったような冷笑を浮かべた。
「まあ、こちらとしてはやはり。普段こちらに居ないハンターを市民たちは信用しきれないという、良い材料ではありますよね」
流れ次第では、その波を利用させてもらう可能性はあるだろう。そう匂わせるのみで、具体的な措置は述べなかった。
●
「ハンターの情報が敵に筒抜けだった可能性も捨てきれないな。しかし、問題はどのようにして情報を手に入れたかだ」
呟き、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は気を引き締めた。
リアルブルーに一時帰還を果たしたハンターたちが化け物扱いされた事件は記憶に新しい。
ならば、今回も「ハンターの自作自演」というあらぬ風評が広まれば、再びリアルブルー人の不信感を買う可能性も高いだろう。
彼女個人としては他人の評価などどうでもいいが、ハンター全体への風当たりが強くなるのは戦略上好ましくないと考えていた。
……状況に対するアプローチとして、まず彼女が考えたのは現場周辺の住民への聞き込み調査を行う事だった。だが、今回の現場と言うのは鎌倉クラスタ落下の際の被害を受け未だ復興の叶っていない地域となる。近隣に住民はいない。
公園の管理者、となると、現在あえてそれに該当するのはと言えば、復興を担当する部署だろう、とは教えてもらえる。ハンターと名乗れば、連絡を取ることは出来た。
「事件当日周囲で何か不審な物体や生命体の目撃情報などは無いだろうか」
『当日……は、お問い合わせの区域での撤去などの活動はありませんね。なので目撃情報と言うと……』
「監視カメラなどもないのだろうか」
『インフラは……軒並み壊滅していますから、そういった類の情報も難しいですね……勿論、VOIDの反応は確認してもらってますが』
がれき撤去などの作業員は動員しているが、危険が明らかならば実施することは出来ない。その確認は必ず行われている。
「ふむ。当日、おかしな反応は無かったのだろうか」
『事件発生までは、報告されていません。当日は』
「……当日は?」
『まあたまに……変な反応は。出るんですけど、気がついたら無くなってるみたいな。姿も被害も確認できないので、誤差か、今もたまに現れることのある残党が、そのまま居なくなったのかと』
手がかりかもしれない。
「当日でなくていい。それなりに近い日付で、反応があった点をデータとして送ってもらうことは可能か」
『分かりました』
「……と言うわけで、これが不審な反応のあった地点となる」
魔導スマホを真に示しながらコーネリアは聞き込みの成果を述べた。
結局電話調査で済んだため、彼女の合流は早かった。それで何とか、暫定的に彼らは行動を立て直す。
銭洗弁天、頼朝像、英勝寺などの目立つ物を予めポイントとして設定し、ポイント間は全員で行動、到達したら散会し周辺調査。公園周辺の調査はバイクで、公園内は徒歩。
散会時に交戦する場合は無理せず撤退し合流を優先、合流時に交戦する際は粘って敵の戦闘力を計る。
これが、真の立てた源氏山公園周辺を直接調査する上での方針である。
それに従い、鈴はチィと共に探索を開始している。捜索範囲を考えると、これ以上ハナが向かった方面に人手をやるわけにもいかないので、一旦真は単独で動き、そして連絡してきたコーネリアにこちらへの合流を頼む形になったわけだ。
「……」
彼女が聞いてきてくれたポイントには、幾つか建物と重なるものがある。
目立つように歩き向こうから襲ってきてくれれば楽なのだが、これまで発見されていない以上望み薄かもしれない。
鈴が言っていたことも思い出す。
『軍でも捕捉できねぇてこたアイツらマテリアルレーダーの偽装電波でも出せンのか?
裏で操ってンのがいっかもって話だけど、前にサーバーに巣食うウイルスみてーな歪虚に手ぇ焼いたコトがあってさ。テメェは戦わずに操った自動兵器ばっか寄越してくるヤな野郎でよ。状況からして同類が一枚噛ンでっかもな。感知できねぇなら早えトコ元凶みっけて潰すしかねぇぜ』
サーバーに巣食う歪虚。筐体が身を隠すなら、やはり建物内の捜索は必要と思われた。
「これらの建物……次のポイントで共有してそれぞれで調べるか……」
そう言ったところで。
『鞍馬さん?』
ずっと呼びかけていた通信に反応があった。
●
『すまない。やっと片手が使える状況になった。こっちは星野さんを追いかけて、葛原岡神社から寿福寺方面を走り抜けた形になる。このまま周囲を走破して敵の出現を待つ形なのかな。今のところ敵の発見と交戦はないが』
遅れはとっても追われると思ってない相手を追うのは難しくはない。まして意図的に狙われようという節すら見せる様子では。
「そう。情報連携有難う……じゃないよね!?」
『……本当に、すまない。ただ、俺はやっぱり……自分の夢の代償を他の人に払わせるのは嫌だよ』
他の人にとっては彼女の行動は『自己責任』なのかもしれないが。透から見れば完全に『自分のせい』だ。
『誰も追わないのを見て。あそこで俺が他の人に「追いかけないのか?」と任せようとするのも余りにもどうかと思ったから……俺としてはこう動くしかなかった』
「……。それで、彼女とはどうなったのかな」
『どうにも。交戦になったら背中から撃たれてでも乱入して無理矢理守るしかないと思ってるが』
つまり、今は合流しているわけでは無く、彼女のバイク音が捕捉出来る位置を保っているという事らしい。
重く溜息を吐く。
「……透さん。私は今回、君を一人にもしたくなかったんだ。襲撃が偶然じゃないなら透さんが狙われている可能性もあると考えていた」
『──っ』
通信の向こうで気配がする。考えが及んでいなかったらしい。
「そこで、とりあえずの提案なんだけど。今からハナさんとまともに共闘出来るよう努力することは出来ないかな」
少し、長い沈黙があった。
『……彼女の問いに答えるならYesになるんだ』
「……は?」
『とても嬉しくはあるが。彼女や君たちが俺の演技をどう思うかは、俺の目指すことに対してあまり重要じゃない』
そう告げる声は、一先ず聞く限りは静かで落ち着いていた。流石にすぐに言う言葉が浮かばずに、今度は真が沈黙する。
『──君の提案がそもそも実現可能か、俺には分からない。可能性があるとしても、今はあまりに余裕が足りない』
事実だった。真自身、いつまでもこうして話しているわけにはいかない。コーネリアの視線を感じ、そろそろ捜索に戻らなければと意識した。
●
「こうなっと歪虚がいンの祈るっきゃねぇな……。これ以上……故郷が傷つけられンのは見たかねぇけどよ」
チィと歩きながら鈴がぼやく。
「そっすね! 任せてくだせえこの街も気合入れて護りまさあ!」
応えるチィには、特に不安も疑問もないようだった。鈴が苦笑する。
「情報持ち帰ンのが第一だ。無茶せず行こうな」
そう呼びかけると、チィはちょっと考えてから、しっかりと頷いた。
歪虚の習性は分からないが、クラスタ核が舞殿を根城にしてた事を考えると、同じように例えば銭洗弁天などに潜んでいる可能性はあるだろうか。
予測を立てながら、合流と離散を繰り返し、捜索を進めていく。
真から連携された手がかりを元に、やがてたどり着いたのは源氏山公園よりやや南西。比較的無事な建物が残る一角を捜索していく中。踏み込んだ中、違和感を覚える建物を発見した。地下への入り口を発見し、降りる。
降りてすぐ、広い空間だった。そして、すぐにそれは、居た。
例の人形兵士──手にしているのは、大剣!
「ビンゴだ! やっぱり潜んでいやがった! ……いつの間に、人の故郷に妙なもんこさえやがって……!」
怒りと共に、通信で連携をとる。この建物もコーネリアによって示されたポイントの一つだ。先の合流の際につけた記号を告げると、意識を撤退へと向ける。
大剣持ちが構えると、鈴はチィを庇うような位置に立つ。チィが牽制するように浅く斬撃を放った。大した傷は与えなかったが、初めから隙を作るのが目的なのだろう。意図を理解して鈴も機を見計らい、降りてきた階段へと向かう。
そこに。何か伸びてきた。
伸びてきた影は二本。それは絡まるLANケーブルの束のようにも見えた。だがその隙間から、狂気によくみられる触手の肉感が覗く。
大剣持ちの更に後ろから、何かが触手を伸ばしてきている!
鈴は己に伸びてきた触手の攻撃を受けようと武器を掲げる。その、パリィグローブに向けて触手が群がっていく。ケーブルに見えるそれが枝分かれし、突き刺さると負のマテリアルを放ってくる。浸食され奪われる感触に、正のマテリアルを込めて抵抗する。
やがて弾かれるように触手は離れていった。グローブは……動かせる。
「チィ!?」
確認する用に鈴は叫ぶ。
「大したことねえでさあ! ……なんとか」
すぐに無事な声を返してくる。その声に苦痛はないが焦りは見えた。
「気を付けてくだせえ……スキル封じでさぁ」
まだ悲壮感が無いところを見るに彼も抵抗に成功はしたらしい。様子からするに、余裕の抵抗では、ない。
不意の攻撃に再び大剣持ちが距離を詰めてくる。奥に目を凝らすと、更に別の触手が蠢く影が見えた。
ヤバい。鈴は怪力無双を使うとチィを抱え上げ、縮地瞬動で即座にその場を去る。ちゃんと闘争手段を用意していた鈴故の脱出だった。場合によっては、これを振り払うのはもっと苦労したかもしれない。
建物の外に出ると、鈴はチィを下ろす。合流に向け走り出すと、逃げてきた方向からだけではない気配が生まれるのを感じた。
どうやら、兵士を格納する施設はこの地域に点在していたらしい。逃げる側だけではない、向かう側も道中で交戦しながらの集合となった──なおこの頃には、ハナは多少頭は冷えていた。
そして、戦いの果て。
彼らは再び、この地に巣食っていたVOIDの存在をはっきりと確認する。サーバーPC筐体に張り付き一つ目を覗かせ、機械と融合したような触手を伸ばす狂気の姿を。間違いなく、人形たちはこのVOIDが操作しているという確信と共に。
情報はすぐ、ハンターオフィスに報告された。コーネリアにより、高瀬少尉を通じて連合軍にも。
依頼結果
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/02/06 21:58:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/03 09:34:49 |
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質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/02/06 17:59:34 |