• 黒祀

【黒祀】寄せ集めのセレネイド

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/05 19:00
完成日
2014/12/14 09:35

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王国の貴族ローレンス・ブラックバーン伯爵は、避難してきた農村の長を集め、戦後に向けた幾つかの指示を出していた。一つ目は、歪虚の侵攻で破壊された家屋や城壁の修復に参加する事。今後破壊された農村を復興するにあたり、報酬としてまとまった現金を与えておけば領主の支援無しでも飢えを回避できる。復興と一口に言っても都市部での被害も範疇に含まれ、余剰があれば(もしかすれば無くても)他所の領地を助ける必要もある。今の内に可能な限り仕事を減らしておきたいというのが一番の理由だった。二つ目は、複数の村の住人が集まっている間に合同で見合いをすること。これも村同士の関わりを深め、互助させることで領主の負担を減らすのが目的だった。減った人口を増やす目的も有り、伴侶をなくした者に配偶者を宛がい生活を安定させる狙いもある。とにかくこれから金がかかるし人手がかかる。
 二つの指示はその状況でなお税をかけたくない領主の善意からの提案であり、それを理解して村長達も協力的であった。しかし人付き合いには摩擦はつきもの。善意で行ったからと言って、何事も上手く行くわけではないのである。



 城の本丸へ帰って来た従者リカードの左目周りには、見事なまでに丸い青あざがついていた。丸みのある童顔で青あざとなれば、喧嘩をしてきた子供のようにも見える。失礼と思いつつも、ブラックバーン伯はくっくっという笑い声を隠せなかった。今年50を数えるローレンスだが、穏やかな笑みが似合う彼は年齢をずっと若く見せていた。
「大殿……」
「いやすまん。見事にあとが残っておるからついな」
 笑ったままでは忠勤に励む彼の立場が無い。ローレンスは深呼吸して笑いを収めた。事件はまだ解決していない。リカードの後ろ、部屋の外には見慣れぬ村娘が、緊張で身体をこわばらせながら立っている。
「彼女はアブランク村の村長の娘、デリアです。今回の経緯を良く知っていると言うので、連れてまいりました」
 リカードが呼ぶとデリアはおずおずと執務室へと入った。彼女は修繕を重ねた古着を着てはいたが、手も足も清潔でくすんだ茶髪もよく梳かれている。村娘だが村長の娘に必要な見栄えは備えていた。デリアはスカートの裾を摘むと、深く頭を下げ型どおりのお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、ローレンス伯爵。デリアでございます」
「うむ。早速で悪いが今回の件の事、今一度最初から詳しく教えて欲しい」
「はい。……では」
 デリアは言葉を選びながら、ゆっくりと事情を紐解いていった。
 それは昼過ぎの事であった。城の補修に出されていた村人の2人が殴り合いになるほどの喧嘩をした。喧嘩をしたのはアブランク村のエイベル、バストー村のブラッド。喧嘩の原因ははっきりしている。2人が見合いをしたシノン村のキャロルにまつわる事だった。
 キャロルは村に住むには不釣合いに美しい娘だった。村長の家に生まれた彼女は家事や料理など家の中のことはわかるが、畑や森のことはわからないという典型的な箱入り娘だ。エイベルはその美しさに一目ぼれし、足繁く通っては贈り物をして何度も愛を伝えた。
「必ず幸せにする。俺の村に一緒に来て欲しい」
 エイベルはアブランクで一番の猟師であり、一番のきこりでもあった。
「君の為に村長の家よりも立派な家を建ててみせる」
 と言ったのは、あながちホラでもないだろう。体躯は長身でやや痩せ気味だが頑健無比。彼なら独力でもやってのけるかもしれないと誰にも思わせる説得力があった。そんな彼は村の男からも女からも尊敬を集めていた。一方、ブラッドは彼女に付帯する財産と人脈に目をつけていた。農業で自活するバストー村にとって、街道にあるシノン村との交流は死活に関わる。村の交流が強くなればもっと村の暮らしは安定する。そう彼は考えた。同時に、彼は求婚する相手にも配慮を欠かしてはいなかった。
「結婚する以上、決して不自由はさせない。飢えや寒さとは無縁の生活にしてみせる」
 彼は彼なりに伴侶となる女性には真摯だった。シノン村の村長がある種の政略の道具として美人の娘を引き合わせたことも理解していた。だから愛してくれとも、愛しているとも言わず「大事にする」と告げるのが、彼なりの好意の表し方だった。この2人の理解の差、目的の差が喧嘩の原因になったわけだが、2人して自分のほうが正しいと強く思い至る原因は他にある。キャロルはよく出来た『箱入り娘』だった。彼女は2人のどちらにも色よい返事をしていたという。曰く。
「まあ素敵ですね。でもこれ以上広い家では、たくさん子供が居ませんと寂しくなりそうですね」とか。
「飢えや寒さは覚悟しております。けれども、あなたなら二つの村の畑を麦で一杯に出来るのでしょうね」などなど。
 今後の話をさも当然のように流している。そんな状況の2人がお互いの存在を知る事、お互いの結婚観が違うことを理解する事は時間の問題だった。そして今日遂に、彼女の扱いで齟齬があり喧嘩に発展した。やっかみから女性陣の流す悪い噂を耳にしていた事もあり、喧嘩に歯止めをかけるのは一苦労であった。
「なるほどな。で、その2人はどうした?」
「それぞれの村長に預けました。今頃は説教されているところかと」
 リカードは溜息を付きながら答えた。そこまで相当悶着があったのだろう。戦闘があったわけでも無いのに疲れきった顔をしていた。
「あの……ブラックバーン伯、あの2人は悪気があったわけでは……」
「わかっておる。ただの村人同士の喧嘩だ。咎めたりはせん。ただこのままでは良くない。また喧嘩になるようでは困る。デリアよ。その2人が今後喧嘩せぬように宥めることはできるか?」
「……すみません。私では……」
「そうか」
 ローレンスは申し訳なさそうに俯くデリアに、安心させるよう優しく微笑んだ。
「大殿、如何が致しましょう?」
「ふむ。確かその班には警備にハンターをつけていたな」
「はい。喧嘩の様子も見ていたそうです」
 準備の良いリカードは工事現場の資料も持ち歩いていた。資料によればローテーションを行うハンターが8名居る。十分な数だと伯爵は頷いた。
「では彼らに仲裁をやってもらう。わしの名前を出して仲裁すれば遺恨になるやもしれん。だが中立な立場のハンターならば、どちらに肩入れすることもあるまい。双方に遺恨にならぬよう、双方が納得するように取り計らえ。報酬も追加すると伝えよ」
「はっ。そのように伝えます」
「デリア、すまんがハンター達に協力してやってくれ。その間のことは私から村長に連絡しておこう」
「はい。畏まりました」
「うむ。もしもの時はわしが村長を通じて命令するが、それは最後の手段だ。やりたくはない。2人とも頼んだぞ」
 伯爵は書類を閉じるとリカードに引き渡す。多忙な伯爵はそのまま別の執務に入り、見送った二人に再び視線を送ることはなかった。

リプレイ本文

■エイベルの場合

 無限 馨(ka0544)はエイベルを見つけると、城下の酒場へと誘った。表向きは気晴らしとは言ったが、エイベルの人となりを知るためである。
「俺も惚れてると言うか憧れてる女性(ひと)がいるんすけど、やっぱその人には自分のために相手選んで欲しいじゃないすか」
「うんうん、わかるなぁー。やっぱり結婚するなら愛がないと」
 話を始めて30分。酒を入れるまでもなかったか、と楽しそうなエイベルを見ながら無限は思う。エイベルが朴訥で素直な性格なのは喋り始めて数分でわかった。喧嘩した理由も子供染みた正義感から来たものだろう。その証拠に不安に思うほどブラッドのことを悪く言うことはない。理解できないなりの配慮をする程度に彼は大人だった。これ以上、間に入って何かをする必要は無さそうだ。
「ちなみにキャロルにダメって言われたら、どうするんすか?」
「えっ? ……うーむ」
 考えてなかったらしい。思わず苦笑する。ここまでになればいっそ清々しい。
「デリアちゃんとかは? あの子も可愛いじゃないっすか」
「いや、ない。あれとはない、あんな山猿なんかと……」
 真顔で色々言うエイベルに適当に相槌を打ちつつ、無限は心のメモ帳に「脈有り」と記した。
(普通、嫌いな女は話題に出さないっすよね。そもそも、あんた女の悪口一切言ってないっすよね)
 それも分かりやすい男だ。無限はにやにや笑いながら、エイベルにもう一杯エールをおごる。彼を前に素直に全てを打ち明けない事に、僅かに罪悪感を覚えていた。
 

■ブラッドの場合
 
 シメオン・E・グリーヴ(ka1285)とブラッドの会話は、妙に事務的に流れていった。ブラッドが生真面目な性格なのだろう。事務的な口調は『今回の件の報告は感情を交えず』という姿勢の表れだった。
「さあ、どうだったか。幸せにできない、という事を言った気はします」
 覚えてはいるが、事が終わった以上あまり触れたくはないのだろう。エイベルと同じく彼も善良な性質だったが、はぐらかすという処世術を覚えているため、多くの事を聞きだそうとするとなかなかに手強い相手になった。
「本当に私事なのですね」
「ええ。申し訳ありません」
 ただ事務的なだけで質問には誠実に答えている。過去を詳らかにしても益はない。シメオンは別の件の確認をすることにした。
「ところで話は変わりますが、二つほど確認してよろしいですか?」
「何なりと」
「ではお言葉に甘えて。まず1件目、相互扶助の関係を結ぶのは他の村とでも問題はないですか?そして2件目、キャロル嬢が別の人を選んだ場合、もしくは誰も選ばない場合、その意思は優先できますか?」
「最初の話は問題ない。優先順位をつけたまでのことです。ダメなら他をあたります。次の話は……」
 ブラッドは言葉を途切れさせる。答えに迷っている風ではないが、心配事でもあるような顔だった。
「何か問題が?」
「いえ、そういうわけではありませんが、彼女の意思でというのは難しいのではないでしょうか」
 シメオンは苦笑した。彼や彼の兄弟姉妹達なら問題ないが、彼なりの心配の仕方はきっと普通の村人には理解し辛いのだろう。それゆえの軋轢だったのかもしれない。
「たとえ小さな村にも、権力というのはあります。村長の娘ではそこから自由にはなれません」
「大丈夫です。それも、考えてあります。私達には私達なりのやり方がありますから」
 シメオンは飛び切りの笑顔を作った。ブラッドはそれでも不安そうだが、その件はシメオンの兄が取り仕切っている。信頼する兄のこと、必ず上手くやるだろう。シメオンは欠片も不安に思って居なかった。
 ブラッドは悩みながらも、「お願いします」と若いシメオンに深く頭を下げた。


■キャロルの場合

 イスフェリア(ka2088)とユナイテル・キングスコート(ka3458)の2人は、シノン村のキャロルと会っていた。あんな騒ぎの後だけあり、普段は熱烈に面会を申し込む男性陣もいない。喧騒から離れた雰囲気の応接間で、2人は熱い紅茶を振舞われた。
「御用向きは……あのお2人の件ですね?」
「そうです。喧嘩の原因はもうお聞きになりましたか?」
「ええ……」
 ユナイテルは更に身を乗り出した。
「わかっているなら話は早いです。キャロル、無用な諍いを生まない為にも貴女の本心を聞かせてください」
「私の本心ですか?」
 キャロルは視線を落とす。それは考え事をしているというよりは、感情を隠すかのような仕草だった。
「わかりません。私は、自分で何かを選んだことなどありません。父や母が良いというものを、良いのだと信じてきました」
「じゃあ……」
「それ以上は、ご想像にお任せします」
 キャロルは話は一区切りとばかりに紅茶で口を湿らせた。これ以上この件で語る事は無いと言外に牽制している。聞かれてその通り答えられるような立場の人物であれば、今回の問題とはなっていないだろう。筋金入りの笑顔の仮面を、ここ最近で会ったばかりの人間が外すのは並大抵の事ではない。
「では、これまでのことは両親の意向であると?」
 今度はユナイテルに代わりイスフェリアが話を続ける。感情を表に出さないのであれば、表面的な話にあわせるまで。
「見合いの件であればそうです。結婚は親同士で決めることですもの」
「あの2人で悩んでいることも?」
「2人とも良い方なのは確かです。ですが、不安も無いわけでは無いです」
 彼女の不安の中身はほぼイスフェリアの予想通りだった。彼ら2人の求婚はそれぞれ感情と立場に拠っている。短期的に信用するには十分に足るが、彼らの人格を見定めないうちは信頼するには足りない。それは父親の意向でありながらも、彼女自身にしかない不安でもあった。
「どちらにせよ、父の決めることです。あまりでしゃばりたくはありません」
 キャロルは再度立場の話に戻る。彼女にとってはそれで全て。語ろうにもそれ以上を意識していないために、それ以上は語ることができない。
「わかりました。ちなみにですけど、顔とか声の好みはどちらが好きですか?」
「顔と声ですか……?」
 イスフェリアはどうでも良い事のように、軽い口調で本題を切り出した。自分の意志は父と共にあると示した後の彼女であれば、ここで何を切り出そうとも彼女の本意とはとられない。この質問は何を自由に答えても許される質問であり、ここでしか彼女の本意を聞くことはできない。彼女は政治によって生きる存在だ。その前提無しに、本心を聞くことはできない。キャロルは困ったような顔をする。それは今までの苦笑交じりのものでなく、こどもっぽい表情であった。
「それでしたら………ああ……でも……」
「エイベルさんのほうが、背が高くて逞しいですよね」
「そ…それはそうなんですけど」
 キャロルの言葉はしどろもどろで中々形にならない。そういう受け答えは慣れていないのだ。イスフェリアはたっぷり5分かけ、彼女の言葉を引き出した。


■デリアの場合

 貸し与えられた衛兵詰め所の一室で、イルカ・シュヴァリエ(ka2708)とデリアは外回りに行った仲間の帰還を待っていた。大よそ事前調査の内容は想定の範囲で収まっている。ひとまずは安心出来そうとイルカが伝えると、デリアは大きく溜息を吐いた。
「キャロルさんは悪い噂ばっかりであんまり良く知らないんですよね」
「そうでしたか。では、話をされたことも?」
「ありません。遠巻きに顔を見たぐらいです」
「……では悪い噂と言うのは?」
 イルカの質問にデリアは口をもごもごさせる。同じ女性の醜い部分だ。あまり見せたくはないのだろう。
「想像にお任せします。汚くない言い方をしますと、性悪女という話です」
「なるほど……。わかりました、聞かないことにします」
 それはもう、色んな言い方と罵り方がある。聞かないほうが良いだろう。イルカは気分転換にもう一つ気になることを質問した。
「話は変わりますが…」
「はい」
「わざわざこんな話を引き受けるなんて、やはり彼――エイベルさんが大事ですか?」
「え? うーん……」
 デリアの反応は困っているような顔だが、照れているような風ではなかった。
「どうかなあ。そりゃ意識したこと、ないこともないけど」
「意識したこと、あるんですね。今はもう違うのですか?」
「うん……それは、まあ、嫌いじゃないけど。でも、向こうがそんな気ないしね」
 その言葉はそれ以上でもそれ以下でもなく。結婚にこそ否定的でないが、友達で居た時間が長すぎて異性として捉えていない。恋愛に転びやすいが、そういう間柄でも無いらしい。
「それに、私もキャロルさんと同じよ。そういうのは子供の頃に納得したことだわ」
「伯爵の村の互助を高める必要性は理解出来ます、けれど貴女の感情を殺して良いモノでは無い筈です」
 イルカはむっとして言い返した。その理由は自分の気持ちからの言葉ではない。自分の為になる言葉じゃない。逃げているも同然に聞こえてしまう。
「……ありがとう」
 イルカの感情がわかったのか、デリアは優しく微笑み返すだけだった。
「大丈夫よ。誰と結婚しても、不幸にはならないわ」
 心配をよそに、開拓村で生きる娘の答えは逞しかった。

■そしてシノン村

 村人への聞き込みに携わった者を含み3名、ルイ・シュヴァリエ(ka1106)、アルバート・P・グリーヴ(ka1310)、ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)はシノン村の村長宅を訪ねていた。既に日が落ちた後ではあったが、村長の指定でこの時間に訪ねる事になっていた。村長の最初の言葉は、おおよそ予想通りの回答があった。
「……娘にあのような物言いをさせておるのは私です」
 事前にわかっていたことだった。アブランクとバストーの女性はキャロルに厳しい意見ばかりだったが、逆にシノン村の女性は皆キャロルに同情的だった。外にも出れない、結婚にも自由がない、友達を作ることもできない。それを女性から解決できない分まで含め、今回の件で心配する者も多かった。
「私どもの村は周辺の村との交易で食っておるようなものです。大切な娘をどこにやるかで、村の行く末が決まってしまうのです。それが結果として今回の騒動となったことは、まこと申し訳なく思うております」
「顔をあげてください村長。美しい令嬢を巡って男が争うのは世の習い。良いことではありませんが、よくある小さな諍いにすぎません」
 アルバートは優雅な仕草で村長の手を取る。普段のオネエ口調も混乱を招かないように封印してあった。
「安心してください。この縁談が成らずとも村の相互協力がなされるよう、領主のブラックバーン伯には口添えいたします」
「おお……! ありがとうございます。今回の件、解決のためなら何でも致しますので、何なりと申してくだされ」
 特に確約を得ているわけではないが、貴族のアルバートがそう言うと非常に説得力があった。村長はアルバートの手を握りながらまた深く頭を下げる。彼らにしても今後の復興の不安があった。良心的な領主だが十分な支援を行えない可能性がある。見合い一つが存亡に関わるというのはそう誇張過ぎるわけでもない。ひとまずは現状で悪感情が残りそうな気配は無い。問題はキャロルがどうするかのみだ。
「村長、キャロルが相手を決めてしまわないと他の娘が嫁ぎ遅れる」
 ルトガーは言外に周囲の不利益を示唆して決断を迫った。
「はい。重々承知しております。やはり、早々に選んだほうが良いでしょうか?」
 村長はいまだに決めかねているような風情だったが、ルトガーの言は村長には重い。風聞を気にする性質である以上、あと一押しで決着する。そんな時に 声をかけたのはルイであった。
「一つ確認して良いか」
「はい、何でしょう?」
「結婚相手がどちらが良いか決めがたい、ということはどちらも同じぐらい価値ある相手と村長は思っているのですね?」
「え……ええ、そうですが」
「では、どうでしょうか。娘さんに選んでいただくというのは?」
「娘に……ですか?」
 村長にとって娘の幸せは頭にあっても、選択の自由は念頭になかったらしい。子供では十分な判断ができないから、相手は親が決めるもの。そういう認識でしかない。説得に言葉が足りない分、ルトガーも後に続いた。畳み掛けるならここしかない。
「決められないぐらい両方とも良いのなら、娘さんが選んでも構わないでしょう。
 結婚相手を父親でなく彼女が選んだときっぱり言えば、周囲も納得するでしょう」
 さらに寛容さを見せることで父親である彼の風聞も良くなる。ルトガーは言葉にしなかったが、村長はルトガーが伏せた内容もしっかりと理解していた。
「……それもそうですね。ではそうしましょう」
 村長は頷くと妻に言いつけキャロルを呼び出した。ルイは思わず笑みを浮かべる。これで、イスフェリアがかわした約束を果たす事が出来るというもの。視線を横に向けると、ルトガーは鷹揚に頷き、アルバートが無言で親指を立てていた。



 結果、キャロルはエイベルを選んだ。本人は選んだ理由を「顔や性格の好み」と答えたが、それは理由の半分だろう。彼女が政治的な条件以外を理由とした事は、ささやかながら父への反逆でもあった。遅まきながらの可愛い反抗期である。ルトガーやアルバートは彼女が伴侶を選んだ現場で理解したが、優しく笑みをこぼしただけで特に何を言うこともなかった。
 ブラッドはおとなしく引き下がり、代わりではないがデリアと結婚することにした。ブラッドは政治的な条件を理由に選んだと答えたが、それを直に聞いたシメオンに言わせれば「何か彼にも思うところがあったらしい」とのこと。でなければ即答で名前を出しはしない。彼も薄々デリアが自分達を庇っていたことに気付いたのかもしれないが、それを本人に聞くことはできなかった。
 その後、村は領主の願いどおり自力での復興を開始する。復興には三つの村が何でも総出で行い、大規模な仕事ではエイベルとブラッドが並んで陣頭指揮を取る姿があったという。

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MVP一覧

  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴka1285
  • クラシカルライダー
    ルトガー・レイヴンルフトka1847
  • 導きの乙女
    イスフェリアka2088

重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士

  • ルイ・シュヴァリエ(ka1106
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴ(ka1285
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 全てを見渡す翠眼
    アルバート・P・グリーヴ(ka1310
    人間(紅)|25才|男性|魔術師
  • クラシカルライダー
    ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
    人間(紅)|50才|男性|機導師
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士

  • イルカ・シュヴァリエ(ka2708
    人間(蒼)|18才|女性|魔術師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談部屋
イルカ・シュヴァリエ(ka2708
人間(リアルブルー)|18才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/12/04 22:58:02
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/01 01:46:58