ゲスト
(ka0000)
山へお帰りレア妖精
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/02/11 19:00
- 完成日
- 2018/02/17 00:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはドワーフ、ベムブルの花屋。
寒さ厳しい季節にも色とりどりの花が店舗を飾り、道行く人々の足を止めさせている。
時折トイプードル型コボルドコボちゃんがお手伝いにも来るこの店には、今、ちょっとした問題が起きていた。
店主のベムブルはハンターたちの前に、観葉植物の鉢を持ってきた。
静かにねという注意を交え、大きな木の葉をそっとめくる。
するとそこには小さなコウモリが3匹、羽を畳んでぶら下がっていた――いや、よくよく見ればコウモリではない。羽と足以外はパルムめかしたぽてぽての人型。妖精だ。
葉を持ち上げられていることに気づいたのか、1匹が迷惑そうにチーチー鳴いた。
ベムブルはそっと葉を戻し、改めて説明をした。
「これは妖精谷っていう場所にしか生息していない妖精なんだ。夜行性でね、昼はこうやって寝ているんだ――この前用事があって生息地の近辺へ行ったんだけど、その時どういう弾みか荷物に紛れてついてきちゃったみたいで……この子たちを元の住処に戻してやってきてくれないかな? 本当は僕がやるのがいいんだろうけど、どうも暇が取れなくて」
「いいですよ。で、その場所というのはどのあたりなんですか?」
問うハンターたちにベムブルは、地図を示し教えてくれた。
そこは高冷にして急峻な山岳地帯。
ハンターたちは今現在該当地がどうなっているかを想像しつつ、ベムブルに聞いた。
「ベムブルさん、今の季節はこのあたり一輪の花も無さそうですけど……妖精たち放して大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。本来この子たち、冬は休眠しているものなんだ。こうやって起きているほうが問題なんだよ。現地に着いたらドームみたいなものがある。この子たちの仲間が作ったものだよ。そこに皆固まって寝ているはずだから、中に押し込んであげて。そうしたらすぐ一緒になって休眠しちゃうはずだから」
●
ハンターたちは雪に埋もれた山道を進んでいた。
彼らが手にしているのはがっちり防水布で包んだ鳥籠。その中に止まり木ごと妖精が入っているのだ。
暗いので夜になったと勘違いしているのか、中でチーチー不満そうな声を上げている。
隊列の先頭はカチャ。後続のため故郷の郷から借りてきたアーマーを使い、雪かきしながら進んでいる。これの修繕改装費のローンはいつ払い終わるのだろうと心ひそかに憂えながら。
そのアシストをしているのは八橋杏子。
妖精谷を直に訪れたことがある彼女は今回、道案内役を勤めている。
「あの時は、このあたりにゴブリンの盗賊団がいたのよね。それが一掃された後は、もう似たようなのが住み着くことはなかったそうだけど……」
山の天気は変わりやすい。さっき晴れていたかと思えばにわかに暗くなり粉雪がぱらつき出す。
とはいえ、歩けないほど天候が大幅に崩れることはなかった。
さしたる変化のない山道をひたすら進んで行く。
「……なにかこう、単調ですね」
「しりとりでもしましょうか」
「じゃあ最初はりんご」
「ゴリラ」
「ランプ」
「ぷ……プードル」
「ルンバ」
「バーサーカー」
「蚊取り線香」
「馬」
「ママ」
「マンゴープリン――の入ったパフェ」
「ちょっと待った、今のは駄目でしょ、今のは」
「いいじゃない、『ん』で終わってないんだから」
「駄目でしょう。今のやり方許したら、なんでも通っちゃうことになりますよ」
軽くもめ始めたその時、間近でバサッと雪が落ちる音がした。
皆いっせいに身構える。
行く手の木から大きな蛇がするする降りてきた。こんな季節に蛇が動き回れるわけはない。まして頭が2つもあるわけはない。明白に歪虚である。
どうやら餌の匂いを嗅ぎ付けて出てきたらしい。赤い舌をちらちらさせ、滑るように向かってくる。
カチャは仲間から鳥籠を受け取り、座席の下へ入れ込んだ。万一にも歪虚から襲われないようにするために。
●
コウモリ妖精の一団は草で編んだドームの中。仲良くぶら下り、寝ている。
ドームの壁は厚い。降り注いでくる雪にもびくともしない。
うとうとしながら起きた1匹は、ふと隣に寝ていたはずの数匹がいないことに気づく。どこに行ったのかなと訝しんでいるうち、またうとうと寝入ってしまう。
花咲く春はまだまだ先なのだ。
寒さ厳しい季節にも色とりどりの花が店舗を飾り、道行く人々の足を止めさせている。
時折トイプードル型コボルドコボちゃんがお手伝いにも来るこの店には、今、ちょっとした問題が起きていた。
店主のベムブルはハンターたちの前に、観葉植物の鉢を持ってきた。
静かにねという注意を交え、大きな木の葉をそっとめくる。
するとそこには小さなコウモリが3匹、羽を畳んでぶら下がっていた――いや、よくよく見ればコウモリではない。羽と足以外はパルムめかしたぽてぽての人型。妖精だ。
葉を持ち上げられていることに気づいたのか、1匹が迷惑そうにチーチー鳴いた。
ベムブルはそっと葉を戻し、改めて説明をした。
「これは妖精谷っていう場所にしか生息していない妖精なんだ。夜行性でね、昼はこうやって寝ているんだ――この前用事があって生息地の近辺へ行ったんだけど、その時どういう弾みか荷物に紛れてついてきちゃったみたいで……この子たちを元の住処に戻してやってきてくれないかな? 本当は僕がやるのがいいんだろうけど、どうも暇が取れなくて」
「いいですよ。で、その場所というのはどのあたりなんですか?」
問うハンターたちにベムブルは、地図を示し教えてくれた。
そこは高冷にして急峻な山岳地帯。
ハンターたちは今現在該当地がどうなっているかを想像しつつ、ベムブルに聞いた。
「ベムブルさん、今の季節はこのあたり一輪の花も無さそうですけど……妖精たち放して大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。本来この子たち、冬は休眠しているものなんだ。こうやって起きているほうが問題なんだよ。現地に着いたらドームみたいなものがある。この子たちの仲間が作ったものだよ。そこに皆固まって寝ているはずだから、中に押し込んであげて。そうしたらすぐ一緒になって休眠しちゃうはずだから」
●
ハンターたちは雪に埋もれた山道を進んでいた。
彼らが手にしているのはがっちり防水布で包んだ鳥籠。その中に止まり木ごと妖精が入っているのだ。
暗いので夜になったと勘違いしているのか、中でチーチー不満そうな声を上げている。
隊列の先頭はカチャ。後続のため故郷の郷から借りてきたアーマーを使い、雪かきしながら進んでいる。これの修繕改装費のローンはいつ払い終わるのだろうと心ひそかに憂えながら。
そのアシストをしているのは八橋杏子。
妖精谷を直に訪れたことがある彼女は今回、道案内役を勤めている。
「あの時は、このあたりにゴブリンの盗賊団がいたのよね。それが一掃された後は、もう似たようなのが住み着くことはなかったそうだけど……」
山の天気は変わりやすい。さっき晴れていたかと思えばにわかに暗くなり粉雪がぱらつき出す。
とはいえ、歩けないほど天候が大幅に崩れることはなかった。
さしたる変化のない山道をひたすら進んで行く。
「……なにかこう、単調ですね」
「しりとりでもしましょうか」
「じゃあ最初はりんご」
「ゴリラ」
「ランプ」
「ぷ……プードル」
「ルンバ」
「バーサーカー」
「蚊取り線香」
「馬」
「ママ」
「マンゴープリン――の入ったパフェ」
「ちょっと待った、今のは駄目でしょ、今のは」
「いいじゃない、『ん』で終わってないんだから」
「駄目でしょう。今のやり方許したら、なんでも通っちゃうことになりますよ」
軽くもめ始めたその時、間近でバサッと雪が落ちる音がした。
皆いっせいに身構える。
行く手の木から大きな蛇がするする降りてきた。こんな季節に蛇が動き回れるわけはない。まして頭が2つもあるわけはない。明白に歪虚である。
どうやら餌の匂いを嗅ぎ付けて出てきたらしい。赤い舌をちらちらさせ、滑るように向かってくる。
カチャは仲間から鳥籠を受け取り、座席の下へ入れ込んだ。万一にも歪虚から襲われないようにするために。
●
コウモリ妖精の一団は草で編んだドームの中。仲良くぶら下り、寝ている。
ドームの壁は厚い。降り注いでくる雪にもびくともしない。
うとうとしながら起きた1匹は、ふと隣に寝ていたはずの数匹がいないことに気づく。どこに行ったのかなと訝しんでいるうち、またうとうと寝入ってしまう。
花咲く春はまだまだ先なのだ。
リプレイ本文
●歪虚遭遇前。
マルカ・アニチキン(ka2542)は山道の分岐点に差しかかる度、雪だるまを作っている。下山する際の道しるべとして。
防寒対策として保温インナーとワークスーツを着用しているが、マッピングする手に何度も息を吹きかけこすり合わせる。
「寒いですねー……」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、その呟きに頷いた。
「本当ですねー。手袋してても冷えますもん」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は、元気よく胸を張る。
「なんのこれしき。辺境の冬山に比べればまだまだじゃで」
彼らの後方には鳳凰院ひりょ(ka3744)、天竜寺 舞(ka0377)、パール(ka2461)、リナリス・リーカノア(ka5126)がいる。
前方には案内役の杏子、アーマーに乗ったカチャ、妖精籠を背負子で負うルベーノ・バルバライン(ka6752)。
アーマーで雪をかき分けるカチャが、ルベーノに話しかけている。
「ルベーノさん、妖精こちらで引き受けましょうか? アーマーの積載容量はまだ十分ありますよ」
ルベーノは呵々と笑った。
「荷運びには慣れているからな。それに手が空いた人間が多い方が、いざという時に良かろう」
そして懐からウイスキーを取り出し、ラッパ飲み。
「身体を温めるなら運動と酒だろう? お前も飲むか?」
「あ、ちょっといただきます」
●歪虚遭遇後。
歪虚の出現を受けハンターたちは、早速迎撃態勢をとる。
マルカはアーマーに積み直された妖精とカチャに攻撃が行かないよう、足止めを行う。
双頭の蛇目がけグラビティフォールが炸裂した。
重力波が紫の光を伴い蛇の上に収束、つかの間動けなくさせた。
その間にリナリスが前衛となる舞、ひりょ、ルベーノにウィンドガストを付与。続いてディヤーが同じく舞たちへ、ウォーターウォークをかけた。本来は水の上を歩くためのスキルなのだが、滑り止めくらいにはなるかも知れないと思ってのことである。
「足場くらいは何とかできるぞー?」
加えて彼らの武器へ、ファイアエンチャントも付与。
「炎は当てにせんが、攻撃力はあてにしてもらってよいぞと!」
かくして前衛の攻撃力は上昇した。まずひりょが仕掛ける。
(ふむ。いかにも毒を持ってそうな相手だな……。噛まれるのだけは避けた方が良さそうだ)
炎をまとったヒートソードを、蛇の開いた口目がけ叩きつける。
片方の頭部の牙が砕け散った。
続いてはルベーノの番。
「うむ、そろそろ出てくれなくては氷の彫像になる所だった……実にありがたい」
燃える鉄爪とパリィグローブにて放たれる青龍翔咬波。
蛇は迫り来る攻撃を察知し避けようとしたが、先程牙を折られた方の頭が跡形もなく吹き飛ぶ結果に終わった。
「なに? 冬場に蛇ってもっと季節を考えろっての!」
舞が悪態をつき、残った頭目がけ、ヒートソードで切りかかる。紅蓮斬の発動。
たださえ炎をまとった刃が更に火力を増し、蛇の頭部を切断。
宙に舞った頭部はディヤーの近くに落ちた――まだ死んではいない。口を開き、ゴソゴソ動き始める。
ディヤーは聖機剣を正眼に構え威嚇した。
「ふむ……ワシの剣の錆になりに来たか……?」
とは言いつつも実際に相手をする気はさらさらない。寒いし面倒だし。パールがアーマーの陰からシャドウブリッドを放ったのを好機とし、場から飛び下がる。
黒い衝撃によって蛇の顎から先が砕け散った。
樹上に移動し動静を見守っていたルンルンが動く。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法壁走り! 山を越え谷を越え、いつか貴方の住む町へです」
急接近し地縛符を仕掛け移動封じ。
続いてフルフィウスチェーンで念入りに拘束。
とどめとして火炎符を見舞う。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法火炎陣! 必殺忍法7つの力何だからっ!」
蛇の頭は勢いよく炎に包まれ、きれいさっぱり消滅した。
杏子は攻撃の構えを解く。
「もう終わり? 早かったわねー」
カチャも肩の力を抜いた。
「私たちが何する暇もありませんでしたね」
それはそれでいいことなのだが、リナリスは少し不満そうだ。
「カチャのアーマーパンチ、見たかったんだけどなあ」
舞はアーマーから降ろされた籠の防水布をちょっと開き、妖精の無事を確かめる。
おまんじゅうのような顔が眉間にしわを寄せていた。チーチー鳴いているところからするに元気そうだ。
かわいいなと思いながら籠を包み直す。
「そういえばカチャ、あんたまた借金背負ったんだって? 妹に聞いたけど」
「……いえまあ、はい……ええでも大丈夫ですよ、錫杖の分だけは来月中に完済しますから。計算上はこのアーマーの修繕費も3年で終わる見込みですし!」
前向きにぐっと拳を握って見せるカチャ。
舞は、完済のころカチャにはまた別の借金が発生しているのではないかという予感を止めることが出来なかった。
(……そういえばクリムゾンウェストには自己破産制度ってないのかな。あ、でもカチャはハンターとして仕事してるし、申請しても認められないかもな……)
そこでリナリスがアーマーの操縦席に飛び乗り、カチャに抱き着く。
「大丈夫だよカチャ、負債なんてすぐ返せるから♪ あたしはアイテムやスキルの強化に力を入れないからお金余るんだ♪」
「いいですよそんな、私の借金ですしリナリスさんに肩代わりしてもらうわけには」
「そんな水臭いこと言わない♪ あたしたち将来を誓い合った仲なんだしさっ♪」
回復魔法の使いどころがなかったなあと惜しみつつパールは、マルカと一緒に耳をすませた。
……雪山は完全に静寂を取り戻している。
「雪崩の心配は無さそうですね」
「……そうですね。よかったです。グラビティフォールを使いましたから、ちょっと心配だったんですよ」
籠を背負子に積み直したルベーノは、ひりょと話し込んでいる。
「しかし妖精と言うのは一体何なのだろうな。精霊の話せぬものをそう呼ぶのか本体部分がパルムであるからそうなのか。これだけコウモリに似ているのだ、幻獣と言ってもいいような気さえするのだが」
「俺は精霊は世界を支える番人、妖精は人よりも精霊に近い存在という認識だが。どうなのだろうな……妖精、か。リアルブルーにいた頃は妖精も精霊もその存在すら感じる機会はなかったものだが……案外リアルブルーも科学が発達する前はそういった存在も身近なものだったのかもしれないな」
ディヤーは寒さ対策の足踏みをし、皆を促した。
「では、早速しりとり再開じゃ。『パフェ』に続いて『エール』。次、ルンルン殿な」
「りょーかいです。じゃあ……ルンルン忍法雲隠れの術高跳び電光石火」
「うんむ。さっきのマンゴープリンと同じく反則ぽく匂いがするぞ」
「これはちゃんとした忍法の名前だから、マンゴープリンの入ったパフェとは違うのです。次、リナリスさんお願いします」
「はーい。じゃ、宝物っ♪ 最愛の人♪ 可愛い子猫♪」
「待てい! ルンルン殿以上に反則ではないか、しりとりとして繋がっておらんぞ!」
「そんなことないよー。全部引っくるめて、カチャって読むんだもーん♪」
●妖精谷到着。
歪虚を退治した後一同は、順調に雪をかき分け進んでいった。
雪崩もなく、滑落もなく、クレバスにはまることもなく。幸運に恵まれた道程だ。
しりとりは相変わらず続いていた。
今は、パールの番である。
「エリンギ 牛乳 ウナギパイ いかめし しじみ汁」
お腹がすいているのか、食べ物の名詞ばかり出てくる。
続いてルンルン。
「ルンルン忍法雷の術。めがね、うくれれ、おいーっす」
続けてはルベーノ。
「『す』か。なら、スクワット――しかし俺達もユニット持込み可なら代わってやれたのだが……1人で雪かきさせてすまんな、カチャ」
「いいえ、お気になさらず。アーマー使ってますから、それほど大変じゃありませんよ。杏子さん、谷はもうすぐですか?」
「ええ、そろそろつくはずよ」
杏子の言葉通り、ほどなく一気に視界が開けた。
谷間に着いたらぜひ写真をと意気ごんでいたルンルンは、がくりときた。
「この時期、雪しかない……」
マルカは骸骨のランタンをいったん降ろし、カバンの中にいるパルムを出してやる。
「つきましたよー」
パルムはマルカの肩に乗りしげしげ辺りを見回す。
真っ白な雪に覆われたすり鉢状の台地――中央に凍った湖が見える。その近くに入り口がないかまくらのようなものがあった。
「おう、あれではないかの? ドームとやらは」
ディヤーはいち早くそちらへ向かった。
遠目に見てかなり大きいなと思ったが、近くで見るとなお大きい。大型テントくらいはある。人が入れるような入り口はやはり見当たらない。妖精たちのサイズを考えれば、当然なのかも知れないが。
一同はひとまず、ドームに被さった雪をどけてみる。
すると、枯れ草を束ね編んで作られたドーム本体が出てきた。
形をなるべく崩さないよう注意しながら内側に入る。アーマ-は外に置いて。
窓もないため中は暗かった。
マルカはランタンで、ルベーノは灯火の水晶球で周囲を照らす。
リナリスとルンルンが感嘆の声を上げた。天井近くに何本も差し渡されている止まり木に、コウモリ妖精たちがずらりとぶら下がっているのが見えたからだ。
「なかなか壮観だね」
と、呟くひりょ。
妖精たちがもそもそし始めた。身を揺すって目をこすり、チーチーとざわつき始める。
「む、眩しかったか、すまんな」
ルベーノは水晶球をローブの端で包み、光量を押さえた。
舞は籠の防水布を解き、妖精3匹を出してやる。
「もう仲間とはぐれんじゃないよ」
と言って飛ばそうとする――が、飛ばない。
見れば3匹とも眠っていた。
「こら、寝るならぶら下がってからにしな」
手の中で何度か揺すられた妖精は、ようやく目を覚ました。
自分とよく似た姿の妖精をマルカのパルムは、興味の尽きない様子で眺めている。
ルベーノは舞から妖精を受け取り、軽く天井目がけて投げた。
3匹はぱたぱた羽ばたき止まり木に止まり、逆さになって翼を畳む。
仲間が戻されたことを理解したのか妖精たちは、しだいに静かになり、また元通り寝入ってしまった。
杏子がほっと息を吐いた。
「とにかくこれで妖精は、無事送り届けたってことね。じゃあ帰りましょうか」
マルカは天井に向けていたランタンを降ろす。
「天候が荒れないうちに山を降りられれば良いのですが……」
そこでひりょが異を唱える。
「まあ待つんだ。ついでだから皆、ここで少し休んで行こう。下山の道も険しいのに変わりは無いからね」
と言って彼は、手持ちの紅茶とチョコレートを皆に分けた。
ディヤーは一口でそれらを飲み込み、カチャに言う。
「そうじゃ、ついでじゃからカチャ殿のアーマーの調子、見ておこうかの」
「ディヤーさん、機械のことが分かるんですか」
「おお。少しならな。最近何かとCAMに乗ることが多いからのう」
舞は荷物から魔導カメラを取り出し、レア妖精の姿を撮影した。後で妹に見せるために。
(滅多に見られないものって言うんだから、喜ぶよね。お姉ちゃんありがとう! なんて)
抱き着かれほっぺにちゅーされるところまで想像し、1人で盛り上がる。その様をパールが、横で不思議そうに眺める。
(舞さん、何か楽しいことでも思い出されているのでしょうか……)
しばし小休止した後、皆はドームを出た。入ってきたときと同様、通った箇所を元通り塞いで。
ルベーノは自分の荷物、仲間の荷物、並びにアーマーの操縦席など調べて回る。妖精がまた紛れ込んでいないかどうか確認するために。
「いや、さすがにまた付いてこられると洒落にならんからな。ついてくる契約でもすれば違うのだろうが」
結果は大丈夫、異状なし。というわけで、一同揃って下山。来る時に雪は除去されていたので、帰り道はぐんと楽だった。マッピングも十分だったので、迷うこともなかった。
●下山後。麓の町のカフェ。
ハンターたちはテーブルを囲み歓談している。
彼らの席の前には、チョコ餅の入った小さな箱。ココアを注文したおまけとして、もれなくついてきたのである。今バレンタインフェアをしているとかいうことで。
ルンルンはココアの甘さと暖かさにほっこりしつつ、杏子に言った。
「あの谷春になったら、また行きたいです」
「ああ、それはいいわ。花が咲く季節にはあそこ、本当にきれいだから……にしても今年は、どこも寒いわよね」
ひりょは甘みを口の中で転がしつつ、深く頷く。
「そうだね。特に帝国北部や辺境あたりなどは、記録的な大雪だそうだよ」
そこでディヤーがしたり顔。
「暦の上ではもう春じゃとな。立春と言うらしいぞ」
彼の前には簡易式の茶釜がしゅんしゅん湯気を吹き出している。その中で沸いている湯は、妖精谷から持ち帰った雪を溶かしたもの――無論体に触らないよう、ピュアウォーターで消毒している。
「この寒さに、よくわからん言葉じゃが、昔の人の言じゃ。よく観察してみようぞ。冬寒ければ春遠からじよの」
茶を立て啜り、まだ遠い春の息吹を感じようとする。
だがうまくいかなかった。テーブルに次から次へケーキだのタルトだの、パスタだの、おいしそうな代物が運ばれてくるので。
これすべて、ルベーノの注文である。
「さあ皆、どんどんやってくれ。今日は奢りだ。カチャも飲め。いける口だろう?」
「いいんですか、ルベーノさん。そんなにお金使っちゃって」
「カチャは借金で大変なのだろう? ユニットも出したのだし素直に奢られれば良かろう」
「そーだよ、素直に奢られちゃお♪」
リナリスは、カチャの肩を叩く。
そしてプレミアムチョコレートを渡そう――としたところで、カチャが先にマカロンの包みを取り出した。
「リナリスさん、どうぞ。あんまりこう、いいものじゃなくて申し訳ないですけど……バレンタインですから」
カチャの側から唇が重なった。
不意をつかれてリナリスは、一瞬きょとんとする。
そこにカチャが、おでこをこつんと当ててきた。
「たまには私の方から、ね」
リナリスは――燃えた。
「……我慢できなくなっちゃった♪」
「え、いや、どこに行」
「ふたりっきりになれるとこー!」
と叫んでカチャをどこかへ拉致して行く。
ひょりはしみじみ言った。
「いいですね、バレンタイン……皆さんは誰かに渡すご予定などはおありで?」
舞はカチャたちの様子がうまく撮れていたかなと魔導カメラをいじりながら、言う。
「あたしはもちろん予定ありだよ。妹にね」
パールはむー、としばし考えこんでから答えた。
「ボクは特にはありませんかねえ。マルカさんはどうですか?」
「え! わ、私ですか、ええっと……今のところ特には……ないかなと」
と言うものの何か心当たりがあるのかどうか。マルカは、顔をほんのり赤らめた。
マルカ・アニチキン(ka2542)は山道の分岐点に差しかかる度、雪だるまを作っている。下山する際の道しるべとして。
防寒対策として保温インナーとワークスーツを着用しているが、マッピングする手に何度も息を吹きかけこすり合わせる。
「寒いですねー……」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、その呟きに頷いた。
「本当ですねー。手袋してても冷えますもん」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は、元気よく胸を張る。
「なんのこれしき。辺境の冬山に比べればまだまだじゃで」
彼らの後方には鳳凰院ひりょ(ka3744)、天竜寺 舞(ka0377)、パール(ka2461)、リナリス・リーカノア(ka5126)がいる。
前方には案内役の杏子、アーマーに乗ったカチャ、妖精籠を背負子で負うルベーノ・バルバライン(ka6752)。
アーマーで雪をかき分けるカチャが、ルベーノに話しかけている。
「ルベーノさん、妖精こちらで引き受けましょうか? アーマーの積載容量はまだ十分ありますよ」
ルベーノは呵々と笑った。
「荷運びには慣れているからな。それに手が空いた人間が多い方が、いざという時に良かろう」
そして懐からウイスキーを取り出し、ラッパ飲み。
「身体を温めるなら運動と酒だろう? お前も飲むか?」
「あ、ちょっといただきます」
●歪虚遭遇後。
歪虚の出現を受けハンターたちは、早速迎撃態勢をとる。
マルカはアーマーに積み直された妖精とカチャに攻撃が行かないよう、足止めを行う。
双頭の蛇目がけグラビティフォールが炸裂した。
重力波が紫の光を伴い蛇の上に収束、つかの間動けなくさせた。
その間にリナリスが前衛となる舞、ひりょ、ルベーノにウィンドガストを付与。続いてディヤーが同じく舞たちへ、ウォーターウォークをかけた。本来は水の上を歩くためのスキルなのだが、滑り止めくらいにはなるかも知れないと思ってのことである。
「足場くらいは何とかできるぞー?」
加えて彼らの武器へ、ファイアエンチャントも付与。
「炎は当てにせんが、攻撃力はあてにしてもらってよいぞと!」
かくして前衛の攻撃力は上昇した。まずひりょが仕掛ける。
(ふむ。いかにも毒を持ってそうな相手だな……。噛まれるのだけは避けた方が良さそうだ)
炎をまとったヒートソードを、蛇の開いた口目がけ叩きつける。
片方の頭部の牙が砕け散った。
続いてはルベーノの番。
「うむ、そろそろ出てくれなくては氷の彫像になる所だった……実にありがたい」
燃える鉄爪とパリィグローブにて放たれる青龍翔咬波。
蛇は迫り来る攻撃を察知し避けようとしたが、先程牙を折られた方の頭が跡形もなく吹き飛ぶ結果に終わった。
「なに? 冬場に蛇ってもっと季節を考えろっての!」
舞が悪態をつき、残った頭目がけ、ヒートソードで切りかかる。紅蓮斬の発動。
たださえ炎をまとった刃が更に火力を増し、蛇の頭部を切断。
宙に舞った頭部はディヤーの近くに落ちた――まだ死んではいない。口を開き、ゴソゴソ動き始める。
ディヤーは聖機剣を正眼に構え威嚇した。
「ふむ……ワシの剣の錆になりに来たか……?」
とは言いつつも実際に相手をする気はさらさらない。寒いし面倒だし。パールがアーマーの陰からシャドウブリッドを放ったのを好機とし、場から飛び下がる。
黒い衝撃によって蛇の顎から先が砕け散った。
樹上に移動し動静を見守っていたルンルンが動く。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法壁走り! 山を越え谷を越え、いつか貴方の住む町へです」
急接近し地縛符を仕掛け移動封じ。
続いてフルフィウスチェーンで念入りに拘束。
とどめとして火炎符を見舞う。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法火炎陣! 必殺忍法7つの力何だからっ!」
蛇の頭は勢いよく炎に包まれ、きれいさっぱり消滅した。
杏子は攻撃の構えを解く。
「もう終わり? 早かったわねー」
カチャも肩の力を抜いた。
「私たちが何する暇もありませんでしたね」
それはそれでいいことなのだが、リナリスは少し不満そうだ。
「カチャのアーマーパンチ、見たかったんだけどなあ」
舞はアーマーから降ろされた籠の防水布をちょっと開き、妖精の無事を確かめる。
おまんじゅうのような顔が眉間にしわを寄せていた。チーチー鳴いているところからするに元気そうだ。
かわいいなと思いながら籠を包み直す。
「そういえばカチャ、あんたまた借金背負ったんだって? 妹に聞いたけど」
「……いえまあ、はい……ええでも大丈夫ですよ、錫杖の分だけは来月中に完済しますから。計算上はこのアーマーの修繕費も3年で終わる見込みですし!」
前向きにぐっと拳を握って見せるカチャ。
舞は、完済のころカチャにはまた別の借金が発生しているのではないかという予感を止めることが出来なかった。
(……そういえばクリムゾンウェストには自己破産制度ってないのかな。あ、でもカチャはハンターとして仕事してるし、申請しても認められないかもな……)
そこでリナリスがアーマーの操縦席に飛び乗り、カチャに抱き着く。
「大丈夫だよカチャ、負債なんてすぐ返せるから♪ あたしはアイテムやスキルの強化に力を入れないからお金余るんだ♪」
「いいですよそんな、私の借金ですしリナリスさんに肩代わりしてもらうわけには」
「そんな水臭いこと言わない♪ あたしたち将来を誓い合った仲なんだしさっ♪」
回復魔法の使いどころがなかったなあと惜しみつつパールは、マルカと一緒に耳をすませた。
……雪山は完全に静寂を取り戻している。
「雪崩の心配は無さそうですね」
「……そうですね。よかったです。グラビティフォールを使いましたから、ちょっと心配だったんですよ」
籠を背負子に積み直したルベーノは、ひりょと話し込んでいる。
「しかし妖精と言うのは一体何なのだろうな。精霊の話せぬものをそう呼ぶのか本体部分がパルムであるからそうなのか。これだけコウモリに似ているのだ、幻獣と言ってもいいような気さえするのだが」
「俺は精霊は世界を支える番人、妖精は人よりも精霊に近い存在という認識だが。どうなのだろうな……妖精、か。リアルブルーにいた頃は妖精も精霊もその存在すら感じる機会はなかったものだが……案外リアルブルーも科学が発達する前はそういった存在も身近なものだったのかもしれないな」
ディヤーは寒さ対策の足踏みをし、皆を促した。
「では、早速しりとり再開じゃ。『パフェ』に続いて『エール』。次、ルンルン殿な」
「りょーかいです。じゃあ……ルンルン忍法雲隠れの術高跳び電光石火」
「うんむ。さっきのマンゴープリンと同じく反則ぽく匂いがするぞ」
「これはちゃんとした忍法の名前だから、マンゴープリンの入ったパフェとは違うのです。次、リナリスさんお願いします」
「はーい。じゃ、宝物っ♪ 最愛の人♪ 可愛い子猫♪」
「待てい! ルンルン殿以上に反則ではないか、しりとりとして繋がっておらんぞ!」
「そんなことないよー。全部引っくるめて、カチャって読むんだもーん♪」
●妖精谷到着。
歪虚を退治した後一同は、順調に雪をかき分け進んでいった。
雪崩もなく、滑落もなく、クレバスにはまることもなく。幸運に恵まれた道程だ。
しりとりは相変わらず続いていた。
今は、パールの番である。
「エリンギ 牛乳 ウナギパイ いかめし しじみ汁」
お腹がすいているのか、食べ物の名詞ばかり出てくる。
続いてルンルン。
「ルンルン忍法雷の術。めがね、うくれれ、おいーっす」
続けてはルベーノ。
「『す』か。なら、スクワット――しかし俺達もユニット持込み可なら代わってやれたのだが……1人で雪かきさせてすまんな、カチャ」
「いいえ、お気になさらず。アーマー使ってますから、それほど大変じゃありませんよ。杏子さん、谷はもうすぐですか?」
「ええ、そろそろつくはずよ」
杏子の言葉通り、ほどなく一気に視界が開けた。
谷間に着いたらぜひ写真をと意気ごんでいたルンルンは、がくりときた。
「この時期、雪しかない……」
マルカは骸骨のランタンをいったん降ろし、カバンの中にいるパルムを出してやる。
「つきましたよー」
パルムはマルカの肩に乗りしげしげ辺りを見回す。
真っ白な雪に覆われたすり鉢状の台地――中央に凍った湖が見える。その近くに入り口がないかまくらのようなものがあった。
「おう、あれではないかの? ドームとやらは」
ディヤーはいち早くそちらへ向かった。
遠目に見てかなり大きいなと思ったが、近くで見るとなお大きい。大型テントくらいはある。人が入れるような入り口はやはり見当たらない。妖精たちのサイズを考えれば、当然なのかも知れないが。
一同はひとまず、ドームに被さった雪をどけてみる。
すると、枯れ草を束ね編んで作られたドーム本体が出てきた。
形をなるべく崩さないよう注意しながら内側に入る。アーマ-は外に置いて。
窓もないため中は暗かった。
マルカはランタンで、ルベーノは灯火の水晶球で周囲を照らす。
リナリスとルンルンが感嘆の声を上げた。天井近くに何本も差し渡されている止まり木に、コウモリ妖精たちがずらりとぶら下がっているのが見えたからだ。
「なかなか壮観だね」
と、呟くひりょ。
妖精たちがもそもそし始めた。身を揺すって目をこすり、チーチーとざわつき始める。
「む、眩しかったか、すまんな」
ルベーノは水晶球をローブの端で包み、光量を押さえた。
舞は籠の防水布を解き、妖精3匹を出してやる。
「もう仲間とはぐれんじゃないよ」
と言って飛ばそうとする――が、飛ばない。
見れば3匹とも眠っていた。
「こら、寝るならぶら下がってからにしな」
手の中で何度か揺すられた妖精は、ようやく目を覚ました。
自分とよく似た姿の妖精をマルカのパルムは、興味の尽きない様子で眺めている。
ルベーノは舞から妖精を受け取り、軽く天井目がけて投げた。
3匹はぱたぱた羽ばたき止まり木に止まり、逆さになって翼を畳む。
仲間が戻されたことを理解したのか妖精たちは、しだいに静かになり、また元通り寝入ってしまった。
杏子がほっと息を吐いた。
「とにかくこれで妖精は、無事送り届けたってことね。じゃあ帰りましょうか」
マルカは天井に向けていたランタンを降ろす。
「天候が荒れないうちに山を降りられれば良いのですが……」
そこでひりょが異を唱える。
「まあ待つんだ。ついでだから皆、ここで少し休んで行こう。下山の道も険しいのに変わりは無いからね」
と言って彼は、手持ちの紅茶とチョコレートを皆に分けた。
ディヤーは一口でそれらを飲み込み、カチャに言う。
「そうじゃ、ついでじゃからカチャ殿のアーマーの調子、見ておこうかの」
「ディヤーさん、機械のことが分かるんですか」
「おお。少しならな。最近何かとCAMに乗ることが多いからのう」
舞は荷物から魔導カメラを取り出し、レア妖精の姿を撮影した。後で妹に見せるために。
(滅多に見られないものって言うんだから、喜ぶよね。お姉ちゃんありがとう! なんて)
抱き着かれほっぺにちゅーされるところまで想像し、1人で盛り上がる。その様をパールが、横で不思議そうに眺める。
(舞さん、何か楽しいことでも思い出されているのでしょうか……)
しばし小休止した後、皆はドームを出た。入ってきたときと同様、通った箇所を元通り塞いで。
ルベーノは自分の荷物、仲間の荷物、並びにアーマーの操縦席など調べて回る。妖精がまた紛れ込んでいないかどうか確認するために。
「いや、さすがにまた付いてこられると洒落にならんからな。ついてくる契約でもすれば違うのだろうが」
結果は大丈夫、異状なし。というわけで、一同揃って下山。来る時に雪は除去されていたので、帰り道はぐんと楽だった。マッピングも十分だったので、迷うこともなかった。
●下山後。麓の町のカフェ。
ハンターたちはテーブルを囲み歓談している。
彼らの席の前には、チョコ餅の入った小さな箱。ココアを注文したおまけとして、もれなくついてきたのである。今バレンタインフェアをしているとかいうことで。
ルンルンはココアの甘さと暖かさにほっこりしつつ、杏子に言った。
「あの谷春になったら、また行きたいです」
「ああ、それはいいわ。花が咲く季節にはあそこ、本当にきれいだから……にしても今年は、どこも寒いわよね」
ひりょは甘みを口の中で転がしつつ、深く頷く。
「そうだね。特に帝国北部や辺境あたりなどは、記録的な大雪だそうだよ」
そこでディヤーがしたり顔。
「暦の上ではもう春じゃとな。立春と言うらしいぞ」
彼の前には簡易式の茶釜がしゅんしゅん湯気を吹き出している。その中で沸いている湯は、妖精谷から持ち帰った雪を溶かしたもの――無論体に触らないよう、ピュアウォーターで消毒している。
「この寒さに、よくわからん言葉じゃが、昔の人の言じゃ。よく観察してみようぞ。冬寒ければ春遠からじよの」
茶を立て啜り、まだ遠い春の息吹を感じようとする。
だがうまくいかなかった。テーブルに次から次へケーキだのタルトだの、パスタだの、おいしそうな代物が運ばれてくるので。
これすべて、ルベーノの注文である。
「さあ皆、どんどんやってくれ。今日は奢りだ。カチャも飲め。いける口だろう?」
「いいんですか、ルベーノさん。そんなにお金使っちゃって」
「カチャは借金で大変なのだろう? ユニットも出したのだし素直に奢られれば良かろう」
「そーだよ、素直に奢られちゃお♪」
リナリスは、カチャの肩を叩く。
そしてプレミアムチョコレートを渡そう――としたところで、カチャが先にマカロンの包みを取り出した。
「リナリスさん、どうぞ。あんまりこう、いいものじゃなくて申し訳ないですけど……バレンタインですから」
カチャの側から唇が重なった。
不意をつかれてリナリスは、一瞬きょとんとする。
そこにカチャが、おでこをこつんと当ててきた。
「たまには私の方から、ね」
リナリスは――燃えた。
「……我慢できなくなっちゃった♪」
「え、いや、どこに行」
「ふたりっきりになれるとこー!」
と叫んでカチャをどこかへ拉致して行く。
ひょりはしみじみ言った。
「いいですね、バレンタイン……皆さんは誰かに渡すご予定などはおありで?」
舞はカチャたちの様子がうまく撮れていたかなと魔導カメラをいじりながら、言う。
「あたしはもちろん予定ありだよ。妹にね」
パールはむー、としばし考えこんでから答えた。
「ボクは特にはありませんかねえ。マルカさんはどうですか?」
「え! わ、私ですか、ええっと……今のところ特には……ないかなと」
と言うものの何か心当たりがあるのかどうか。マルカは、顔をほんのり赤らめた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/10 21:17:19 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/02/10 20:48:45 |