ゲスト
(ka0000)
テイク・トゥ・ジャイアンツ・ヒール
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/07 22:00
- 完成日
- 2014/12/16 23:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
何の変哲もない、地質調査の仕事だった。野営を込みで数日掛けて山を登り、複数箇所のサンプルを回収して帰還する。
それだけのはずだった。
同盟領でも辺境に程近い、北西の山岳部。イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)は茂みを掻き分けながら森を走っていた。
走っているのはイルムだけではなく、護衛を依頼したハンターたちもだ。
欲を出してサンプル数を稼ごうと、奥地へ踏み入ったのが運の尽きだった。
失敗した、とイルムは歯噛みする。全く自分の手落ちであった。
運がないと嘆いても始まらない。事前調査なり、警戒なり、もっと出来る事はあったはずだ。
「追いつかれましたか……!」
――などと言っている余裕もない。
轟音と共に木々が薙ぎ倒され、斜面を石が転がり落ちていく。
「来ますっ!」
木々を押しのけてやってきたのは、見上げるほどもある巨体。
憤怒の形相でこちらを睨む、ジャイアントだった。
●
うっかりと奥地に踏み入ったハンターたちに、あの巨人「たち」は激怒していた。――そう、巨人は複数徘徊しているようだった。
迎撃も討伐も不可能ではない。決して容易ではないだろうが、この窮地を切り抜けられない覚醒者ではない。各個撃破しながらの撤退は可能なはずだ。
ただし、それは戦える者だけがいた場合であって、護衛対象がいる状況では話が別だ。
イルムは戦いが大の苦手だ。
剣を振ってもまったく当たらないし、回避も運動力に任せた素人のそれ。銃も取り扱いは学んだが、撃てるだけで然程に当てられない。
いざ戦いとなれば、安全地帯からの機導術による支援が関の山だ。
まして、今のイルムは地質のサンプルを大量に背負っている。これが破壊されては、辺境近くまでやってきた意味がなくなってしまう。
ただの雑魔ならば、そういうこともないだろうが……巨人の一撃を受けて、ただのガラス容器が無事で済むはずがない。
そもそもハンターたちが受けた依頼はイルムの護衛であり、彼女を見捨てては骨折り損だ。
「逃げましょう」
最初の襲撃をやり過ごした後、謝罪も反省も後回しにして、イルムはまずそう告げた。
「下山して、平地にまで出られれば、あちらは追ってこないでしょう」
追ってきたとしても、安全な場所までイルムを送り届けた後でジャイアントと対峙するという選択もある。
「足手まといなのは承知しています。ですが……お願いします。どうにか、サンプルを安全な場所まで送り届けてください」
そこで自分をと言わないのがイルムらしくもあった。
襲撃後のごたごたで、現在位置は少々あやふやだ。三日かけての登山中につけてきた目印は、少なくとも近くにはない。
斜面を下れば山からは出られるだろうが……数日かけての逃避行、そう簡単に行くとは思えない。
頭を下げるイルムの表情は、自分の失敗を悔いているようだった。
リプレイ本文
●
「つまり我々は遭難しているという訳だ」
エアルドフリス(ka1856)は状況説明をそう締め括った。長閑な仕事だと思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。
巨人たちから距離を取り、ひとまずの安全を確保し、一行は腰を落ち着けて状況を分析していた。
「向こうの気持ちも全くわからないわけじゃないな……」
鈴胆 奈月(ka2802)の言葉に、エアルドフリスは頷く。
「侵犯したのはこちらだからな」
「ま、リスクをとらねば分からない事もある」
ジルボ(ka1732)はそう言って、荷物からトランシーバーを取り出した。
「イルム嬢、これを。ないと困るだろう」
「ありがとうございます」
イルムは一つを受け取って頭を下げた。
「ナンだか大変な状況になっちゃったケレド、まぁコレはコレで面白い経験ダネ?」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は気楽にそう言って頭の後ろで腕を組んだ。
「そう言えるあんたが羨ましいね」
ジルボは装備を確かめながら苦笑した。
イルムは受け取ったトランシーバーをじっと見つめ、小さく息を吐く。傍目には変わらぬ無表情のように見えるが、そうではないのは皆分かっている。
「大丈夫、気にしないで」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、イルムの背をそっと撫でた。
「警告を怠ったわたし達にも責任はあるからね」
「申し訳……ありがとうございます」
「ん、よし」
謝罪の言葉をすんでで飲み込んだイルムに、ソフィアはひとつ頷く。
一方、もう一人の無表情――メトロノーム・ソングライト(ka1267)はじっと目を閉じていた。
怒り狂った巨人に追いかけられる……子供の頃に見た悪夢のような現実。今でも恐ろしい。怯えが顔に出ないことだけが救いだった。
ちらりとイルムを見れば、彼女も時折背後を気にしていた。怯えているのは自分だけではない。メトロノームはきゅっと唇を引き結んだ。
「大丈夫……怖くないです」
「そうそう。ジャイアントなんて俺が叩っ切って……いや、流石に無理かな……」
その呟きに、ティト・カミロ(ka0975)が大見得を切ろうとしたが失敗する。
「やれやれ、長い逃避行になりそうだ」
ロニ・カルディス(ka0551)は呟いた。
●
下山に当たって、一同は闇雲に下って行くことを避け、一度登上しルートを確定させることにした。
勿論そうする以上巨人との遭遇率も上がるし、下手に時間をかけることで物資が不足する危険もある。
「物資はどれくらいあるんだ?」
「食料が、予備も含めて四日分ですね」
エアルドフリスの問いに、イルムは答えた。
「光や煙だけでなく、煮炊きの匂いも目立ちますから、火の使用はできる限り控えないと……」
「あぁ……匂いは盲点でしたね」
丁寧に火を付ければ煙は殆ど出ないし、光は生地の厚い布で遮断できる。焚き火自体は、巨人が近くにいなければ問題ない。相手もずっと活動しているわけはないので、タイミングを見計らう必要はあるが焚き火は使えるはずだ。
というイルムの説明に、メトロノームは小さく頷いた。
「でしたら煮炊きが基本ですか」
「最悪野草で食べれそうなものを見繕ってもいいんですが」
ジルボはそれを聞いて指を立てた。
「ようはこういうことだな? うまい飯を食うためには、夜までに距離を稼ぐ必要がある」
イルムが首肯したのを見て、エアルドフリスは腕を組む。
「なら、もたもたしてはいられんな」
「行ってくる」
今回、エアルドフリスとジルボは斥候を務める。ここから先は斥候二人が尾根へと登り、帰路の判断をつける。それまで本隊は身を隠せそうな洞穴で待機だ。
本隊に先駆けて偵察に向かった二人を見送り、ロニは手近な岩に目印を刻む。
「それらしい痕跡もない。この近辺にはいなさそうだが」
「来るかどうかは分からないしね」
ソフィアは木によじ登って監視を始めた。
……待機中、斥候の帰りを待っているわけだから、やれることは少ない。先の逃走での消耗を癒やす程度だ。メトロノームは動きやすいようにと、結った三つ編みを直している。
イルムはじっと簡素な地図を見返していた。もう何度目かは分からないし、もう分かることもない。
それを見たアルヴィンは、彼女の肩をぽんと叩いた。
「取り合えず、何とかナルって思って笑って御覧ヨ」
はっとイルムが顔を上げると、彼自身はにこにこと笑っていた。
「嘘デモ笑顔で居れば、幸運は寄って来るんダヨ」
イルムはその言葉に面食らったようにまばたきを繰り返し、それから、指で口元をぐいっと持ち上げた。
「その理論だと、私は幸せにはなれそうにないですね」
イルムはぐっと伸びをして、眼鏡を押し上げた。
「ふふふ。上手く笑えてるジャないか」
とアルヴィンが笑った頃に合わせて、上からソフィアが降りてきた。同時に、ティトのトランシーバーが反応する。
「1体、こっちに向かってきてる」
すっと一同の気配が変わった。洞穴の奥に身を潜め、ソフィアが草木でそれらしく入り口を偽装する。
遅れて、ズシン……と重い足音が響き始めた。地の揺れを感じ、メトロノームは身動いだ。
――やがて足音が離れていくのを確かめてから、一同はほっと息をついた。
斥候と合流し、すぐに下山を開始した。ジルボとロニが時計盤と太陽を使って方角を確認しながら、悪路を避けて下っていく。
斥候の二人が先行し、本隊先頭をティト、中央にアルヴィンとイルム、その後ろに後衛のメトロノームと奈月。最後尾を、前衛のソフィアとロニが固める。
行軍自体に問題はなかったが、巨人との遭遇は時折発生した。隠れる場所があればやり過ごせるのだが、そうでない時も多い。
今もそうだ。
息を潜めていた彼らの方へと向かってくる巨人の1体を見て、ソフィアは木から飛び降りた。斥候の二人が合流にと戻ってくる中、メトロノームが静かに構える。
「……来るね」
ティトは揺れと足音が大きくなってくるのを確かに感じた。
「なるべく傷つけたくはないな」
「私もそう思います」
奈月の言葉をメトロノームも肯定する。木の影に身を隠す一同の前に、ついに巨人が姿を表した。
『見つけた、侵入者!』
「やはり隠れきれんか」
ロニがぼやく前で、メトロノームの髪が震え始めた。
「どうかお眠りください」
覚醒し、彼女は眠りの呪歌を歌い上げる。囁くような小夜曲に呑まれ、程なく歩みも覚束なくなった巨人を見て、一同は走りだした。
倒れ伏す振動を背に聞きながら、メトロノームは呟いた。
「テリトリーに不用意に入り込んだのは此方の落ち度ですから」
なるべく危害を加えないというのも、一同の方針であった。
●
夜の山は危険、とイルムが言い、野営の準備が始まった。
「斥候のお二人で周囲の警戒をお願いします。ティトさん、薪を集めてくれますか?」
「任せろ!」
「奈月さんとソフィアさんは一先ず焚き火の土台作りを、メトロノームさんには食料をお任せします」
三人の了解を受けて、自分も作業を始めようとするイルム。
「……まさか、イルムさん料理はしないよね?」
ティトの言葉に、イルムは視線を逸らす。
「……苦手ですから」
と穴を掘ろうとする彼女から、エアルドフリスはスコップを取り上げた。
「山に一番詳しいのはあんただ。倒れられると皆が困る」
「ソウソウ。寝不足は判断力も、前向きな思考も曇らせるカラネ。休む事を仕事と思ってネ☆」
監視に向かうエアルドフリスから、アルヴィンはスコップを受け取った。
「……分かりました。ここに穴をお願いします」
「任せテ!」
煙の出ない篝火のコツは燃料を冷まさないことだ。掘った穴に枝を立てかけ火をつけると、最初に少し煙が出た以外はほぼ無煙だった。
「土は保温性が高いですからね」
「へえ……」
大本はインディアン式ですと言うイルムに、奈月は呆れた声を漏らしてスープを飲み干した。
「戻った。交代頼む」
「分かった。奈月、行こう」
「了解」
エアルドフリスとジルボは、火に当たって休息を取った。入れ替わりに、ロニと奈月が見張りに出る。
「質素な食事になってしまって、申し訳ないです」
メトロノームはスープの器を手渡して頭を下げた。派手な料理は出来ないので、塩胡椒で野菜を煮たスープとパンだ。
「いや、問題ない」
エアルドフリスは首を横に振った。冬の近い山中で夜営するのだ、温かい物はありがたかった。
初めは煮炊きも避けようとしていたメトロノームだが、ソフィアの偽装工作が遠目に分からないくらいまで光を遮っていたので、匂いに注意すれば温かい物は作れる。
「ソフィアさんには、テントの設置までお任せしてしまって……」
「いいのいいの。わたしの領分だしね。若いのは休みなさい」
イルムの言葉に、ソフィアはからからと笑ってパンを齧った。
そのまま雑談が始まる。ティトが周囲の逃走経路を幾つか見繕ってきたので、最初はその分析からだった。その流れの後で、ジルボはひとつ疑問を投げかけた。
「しっかし……アイツ等何で人間嫌いなんだろうね」
イルムは難しい顔で唸った。彼は何度かの遭遇に合わせて身振りで戦意がないことを示していたが、相手はロクに聞き入れなかったのだ。
「離れた部族も一様に人を嫌い、人里離れた場所に住む……何か口承されているのかもしれませんね」
過去に何かあったのかもしれない。住処を追われたなどの恨まれるようなことが。
荷物からサンプルを取り出して無事を確かめるイルムに、エアルドフリスは問いかけた。
「そういえば、今回の調査の意義は何なんだ?」
「植生と土壌の関係の調査から、農業地域に取り入れられそうな情報を得たいそうです。思いつく限りだと、山菜の平野部での栽培でしょうか?」
つまり研究の詳細は聞かされていないらしい。それもそうかとエアルドフリスは頷いた。
「サンプルは多い方がいいのですが、行き過ぎましたね」
「人の領域の境界は守るべきだろうが、知識もまた必要なのでなあ」
スープを飲み干すと、二人は小さく息をついた。
「……凹むのはなしにしますが、ええ、やっぱり失敗でした」
「まぁまぁ、気にしないで」
ソフィアはイルムの肩をポンポン叩く。
「止めなかった以上全員の責任だよ。若者を諌めるのも年長者の役割なんだけどねー。反省だよ」
「……ええと」
難しい声でソフィアを見るイルムに、あぁ、と彼女は苦笑して耳に口を寄せた。
「実は……」
「……え、あ、その、すみません今まで」
途端にぺこぺこと頭を下げるイルム。その肩を再度叩いてソフィアは快活に笑った。
「いーのいーの、気にしないで。それより、今までの調査の話とか聞かせて欲しいな。経験長そうだし……」
「向こうでも似たようなことをしていましたから、慣れてはいますね」
先日の渓流の調査に端を発し、二人の雑談が酒の好みに差し掛かった所で、ロニと奈月が戻ってくる。見張り交代ということで、ソフィアは名残惜しげにその場を離れた。
●
「そう怒りなさんな、あんた方の邪魔をしたい訳じゃあない……と、お休み頂こうか」
催眠魔術が巨人を眠らせ、その隙に一行はその場を離れる。もう何度目かのやりとりだが……。
「悪い、今ので打ち止めだ」
エアルドフリスは諸手を上げた。これ以上は敵を眠らせられないらしい。
覚醒するにも限界はあるし、会得したスキルも無尽蔵に使えるわけではない。遭遇時の多くは眠りの魔術で対処してきた。そのため逸れることも悪路に悩まされることもなかったが、此処から先はそうもいかない。
一同は泉の畔で一時合流して休息を取っていた。
山の上から見えたのは川の流れだった。ここの川は泉に繋がっているのを、登山中に確認している。
ニ日目の夕方には川に辿り着くことが出来たので、三日目にそこを遡上して泉に戻ったのだ。
「というコトハ、下山ルートには戻ッテ来れタのカナ?」
「ええ。これで迷わずに帰れます」
もうこの辺になると傾斜も緩やかで、走りづらいこともない。順調に行けば、今日中には突破できるはずだ。
安堵する一同。だがその時、数人が足の裏で振動を感じ取る。はっとして顔を見合わせ、茂みへ咄嗟に身を隠す。巨人はすぐに現れた。
泉の水を何度かすくって飲んでいる巨人。
「見つからないでくれ……頼むよ」
奈月の願いも虚しく、巨人が茂みに目を向け、そして吼えた。
『今度こそ逃さぬ!』
メトロノームはすぐに覚醒し、最後の眠りの魔術を唱える。だが彼女の魔術を受けた巨人は、頭をぶんぶんと振って眠気を払った。
「すみません、抵抗されました」
状況は芳しくなさそうだ。少なくとも現状で走って逃げ切るのは難しい。素早く隊列を整えると、ティトは剣を抜いた。
「よっしゃこい! 捌き切ってや……うおおお!?」
ティトが防御を固めて巨人を待ち受ける。だが振り下ろされた巨剣の一撃を防御できるわけもなく、慌ててその場を飛び退いた。
「ちょっと足を止めてくれないかな」
「分かった」
奈月がLEDライトを構えて、機導砲を放つ。足元に着弾したそれに巨人の足が一瞬止まった。
「シュールですよね」
「僕は大真面目なんだけどな」
イルムの呟きに、奈月は頭を掻いた。続けてジルボも威嚇射撃で巨人を牽制する。
「傷つけるつもりはないが、傷つけられるつもりもない」
ロニの影の弾丸が木の葉を散らして視界を封じる。そこへソフィアが乾坤一擲、電撃の機導術を放った。
「ごめんね!」
強烈な電撃に動きの鈍る巨人。巨体故に完全に麻痺したわけではないようだが、逃げる隙はできた。
「今のうちダヨ!」
アルヴィンの号令で、一同はその場から駆け出した。
後はもう、出せる限りの速度で山を下っていった。
先の咆哮で他の巨人が集まっているらしく、もたもたとしている余裕はない。進行方向を巨人が塞がないうちに抜けるべきであった。
「あと一息……」
時折坂道を駆け下りるなどのショートカットを経て、夕日が木の葉から差し込む頃。
「――見えた! 外だ!」
ジルボが叫ぶ。だが、後方からははっきりと足音が、それも複数聞こえてきていた。
「このまま街道まで逃げましょう! 人の生活圏まで深追いしてくることはないはずです!」
イルムの言葉を信じて一同は山を駆け下り、木々を抜け――。
平原に飛び出しても、暫く前へと走り続けた。
「……追ってこないね」
ソフィアが後ろを確認して呟く。
「逃げ切れたようだな」
足音は次第に緩やかになり、最後は反転して遠ざかっていく。それを聞いてロニは言った。
「助かった……んですね」
メトロノームが息を切らして口にすると、同じくイルムも頷く。
「皆さん……ありがとうございました。まずは、オフィスに戻りましょう」
「いや、愉快ナ体験だったネ?」
「そう言えるのはあんただけだろうよ、アルヴィン」
笑うアルヴィンに、エアルドフリスは頭を振って答えた。
「つまり我々は遭難しているという訳だ」
エアルドフリス(ka1856)は状況説明をそう締め括った。長閑な仕事だと思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。
巨人たちから距離を取り、ひとまずの安全を確保し、一行は腰を落ち着けて状況を分析していた。
「向こうの気持ちも全くわからないわけじゃないな……」
鈴胆 奈月(ka2802)の言葉に、エアルドフリスは頷く。
「侵犯したのはこちらだからな」
「ま、リスクをとらねば分からない事もある」
ジルボ(ka1732)はそう言って、荷物からトランシーバーを取り出した。
「イルム嬢、これを。ないと困るだろう」
「ありがとうございます」
イルムは一つを受け取って頭を下げた。
「ナンだか大変な状況になっちゃったケレド、まぁコレはコレで面白い経験ダネ?」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は気楽にそう言って頭の後ろで腕を組んだ。
「そう言えるあんたが羨ましいね」
ジルボは装備を確かめながら苦笑した。
イルムは受け取ったトランシーバーをじっと見つめ、小さく息を吐く。傍目には変わらぬ無表情のように見えるが、そうではないのは皆分かっている。
「大丈夫、気にしないで」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、イルムの背をそっと撫でた。
「警告を怠ったわたし達にも責任はあるからね」
「申し訳……ありがとうございます」
「ん、よし」
謝罪の言葉をすんでで飲み込んだイルムに、ソフィアはひとつ頷く。
一方、もう一人の無表情――メトロノーム・ソングライト(ka1267)はじっと目を閉じていた。
怒り狂った巨人に追いかけられる……子供の頃に見た悪夢のような現実。今でも恐ろしい。怯えが顔に出ないことだけが救いだった。
ちらりとイルムを見れば、彼女も時折背後を気にしていた。怯えているのは自分だけではない。メトロノームはきゅっと唇を引き結んだ。
「大丈夫……怖くないです」
「そうそう。ジャイアントなんて俺が叩っ切って……いや、流石に無理かな……」
その呟きに、ティト・カミロ(ka0975)が大見得を切ろうとしたが失敗する。
「やれやれ、長い逃避行になりそうだ」
ロニ・カルディス(ka0551)は呟いた。
●
下山に当たって、一同は闇雲に下って行くことを避け、一度登上しルートを確定させることにした。
勿論そうする以上巨人との遭遇率も上がるし、下手に時間をかけることで物資が不足する危険もある。
「物資はどれくらいあるんだ?」
「食料が、予備も含めて四日分ですね」
エアルドフリスの問いに、イルムは答えた。
「光や煙だけでなく、煮炊きの匂いも目立ちますから、火の使用はできる限り控えないと……」
「あぁ……匂いは盲点でしたね」
丁寧に火を付ければ煙は殆ど出ないし、光は生地の厚い布で遮断できる。焚き火自体は、巨人が近くにいなければ問題ない。相手もずっと活動しているわけはないので、タイミングを見計らう必要はあるが焚き火は使えるはずだ。
というイルムの説明に、メトロノームは小さく頷いた。
「でしたら煮炊きが基本ですか」
「最悪野草で食べれそうなものを見繕ってもいいんですが」
ジルボはそれを聞いて指を立てた。
「ようはこういうことだな? うまい飯を食うためには、夜までに距離を稼ぐ必要がある」
イルムが首肯したのを見て、エアルドフリスは腕を組む。
「なら、もたもたしてはいられんな」
「行ってくる」
今回、エアルドフリスとジルボは斥候を務める。ここから先は斥候二人が尾根へと登り、帰路の判断をつける。それまで本隊は身を隠せそうな洞穴で待機だ。
本隊に先駆けて偵察に向かった二人を見送り、ロニは手近な岩に目印を刻む。
「それらしい痕跡もない。この近辺にはいなさそうだが」
「来るかどうかは分からないしね」
ソフィアは木によじ登って監視を始めた。
……待機中、斥候の帰りを待っているわけだから、やれることは少ない。先の逃走での消耗を癒やす程度だ。メトロノームは動きやすいようにと、結った三つ編みを直している。
イルムはじっと簡素な地図を見返していた。もう何度目かは分からないし、もう分かることもない。
それを見たアルヴィンは、彼女の肩をぽんと叩いた。
「取り合えず、何とかナルって思って笑って御覧ヨ」
はっとイルムが顔を上げると、彼自身はにこにこと笑っていた。
「嘘デモ笑顔で居れば、幸運は寄って来るんダヨ」
イルムはその言葉に面食らったようにまばたきを繰り返し、それから、指で口元をぐいっと持ち上げた。
「その理論だと、私は幸せにはなれそうにないですね」
イルムはぐっと伸びをして、眼鏡を押し上げた。
「ふふふ。上手く笑えてるジャないか」
とアルヴィンが笑った頃に合わせて、上からソフィアが降りてきた。同時に、ティトのトランシーバーが反応する。
「1体、こっちに向かってきてる」
すっと一同の気配が変わった。洞穴の奥に身を潜め、ソフィアが草木でそれらしく入り口を偽装する。
遅れて、ズシン……と重い足音が響き始めた。地の揺れを感じ、メトロノームは身動いだ。
――やがて足音が離れていくのを確かめてから、一同はほっと息をついた。
斥候と合流し、すぐに下山を開始した。ジルボとロニが時計盤と太陽を使って方角を確認しながら、悪路を避けて下っていく。
斥候の二人が先行し、本隊先頭をティト、中央にアルヴィンとイルム、その後ろに後衛のメトロノームと奈月。最後尾を、前衛のソフィアとロニが固める。
行軍自体に問題はなかったが、巨人との遭遇は時折発生した。隠れる場所があればやり過ごせるのだが、そうでない時も多い。
今もそうだ。
息を潜めていた彼らの方へと向かってくる巨人の1体を見て、ソフィアは木から飛び降りた。斥候の二人が合流にと戻ってくる中、メトロノームが静かに構える。
「……来るね」
ティトは揺れと足音が大きくなってくるのを確かに感じた。
「なるべく傷つけたくはないな」
「私もそう思います」
奈月の言葉をメトロノームも肯定する。木の影に身を隠す一同の前に、ついに巨人が姿を表した。
『見つけた、侵入者!』
「やはり隠れきれんか」
ロニがぼやく前で、メトロノームの髪が震え始めた。
「どうかお眠りください」
覚醒し、彼女は眠りの呪歌を歌い上げる。囁くような小夜曲に呑まれ、程なく歩みも覚束なくなった巨人を見て、一同は走りだした。
倒れ伏す振動を背に聞きながら、メトロノームは呟いた。
「テリトリーに不用意に入り込んだのは此方の落ち度ですから」
なるべく危害を加えないというのも、一同の方針であった。
●
夜の山は危険、とイルムが言い、野営の準備が始まった。
「斥候のお二人で周囲の警戒をお願いします。ティトさん、薪を集めてくれますか?」
「任せろ!」
「奈月さんとソフィアさんは一先ず焚き火の土台作りを、メトロノームさんには食料をお任せします」
三人の了解を受けて、自分も作業を始めようとするイルム。
「……まさか、イルムさん料理はしないよね?」
ティトの言葉に、イルムは視線を逸らす。
「……苦手ですから」
と穴を掘ろうとする彼女から、エアルドフリスはスコップを取り上げた。
「山に一番詳しいのはあんただ。倒れられると皆が困る」
「ソウソウ。寝不足は判断力も、前向きな思考も曇らせるカラネ。休む事を仕事と思ってネ☆」
監視に向かうエアルドフリスから、アルヴィンはスコップを受け取った。
「……分かりました。ここに穴をお願いします」
「任せテ!」
煙の出ない篝火のコツは燃料を冷まさないことだ。掘った穴に枝を立てかけ火をつけると、最初に少し煙が出た以外はほぼ無煙だった。
「土は保温性が高いですからね」
「へえ……」
大本はインディアン式ですと言うイルムに、奈月は呆れた声を漏らしてスープを飲み干した。
「戻った。交代頼む」
「分かった。奈月、行こう」
「了解」
エアルドフリスとジルボは、火に当たって休息を取った。入れ替わりに、ロニと奈月が見張りに出る。
「質素な食事になってしまって、申し訳ないです」
メトロノームはスープの器を手渡して頭を下げた。派手な料理は出来ないので、塩胡椒で野菜を煮たスープとパンだ。
「いや、問題ない」
エアルドフリスは首を横に振った。冬の近い山中で夜営するのだ、温かい物はありがたかった。
初めは煮炊きも避けようとしていたメトロノームだが、ソフィアの偽装工作が遠目に分からないくらいまで光を遮っていたので、匂いに注意すれば温かい物は作れる。
「ソフィアさんには、テントの設置までお任せしてしまって……」
「いいのいいの。わたしの領分だしね。若いのは休みなさい」
イルムの言葉に、ソフィアはからからと笑ってパンを齧った。
そのまま雑談が始まる。ティトが周囲の逃走経路を幾つか見繕ってきたので、最初はその分析からだった。その流れの後で、ジルボはひとつ疑問を投げかけた。
「しっかし……アイツ等何で人間嫌いなんだろうね」
イルムは難しい顔で唸った。彼は何度かの遭遇に合わせて身振りで戦意がないことを示していたが、相手はロクに聞き入れなかったのだ。
「離れた部族も一様に人を嫌い、人里離れた場所に住む……何か口承されているのかもしれませんね」
過去に何かあったのかもしれない。住処を追われたなどの恨まれるようなことが。
荷物からサンプルを取り出して無事を確かめるイルムに、エアルドフリスは問いかけた。
「そういえば、今回の調査の意義は何なんだ?」
「植生と土壌の関係の調査から、農業地域に取り入れられそうな情報を得たいそうです。思いつく限りだと、山菜の平野部での栽培でしょうか?」
つまり研究の詳細は聞かされていないらしい。それもそうかとエアルドフリスは頷いた。
「サンプルは多い方がいいのですが、行き過ぎましたね」
「人の領域の境界は守るべきだろうが、知識もまた必要なのでなあ」
スープを飲み干すと、二人は小さく息をついた。
「……凹むのはなしにしますが、ええ、やっぱり失敗でした」
「まぁまぁ、気にしないで」
ソフィアはイルムの肩をポンポン叩く。
「止めなかった以上全員の責任だよ。若者を諌めるのも年長者の役割なんだけどねー。反省だよ」
「……ええと」
難しい声でソフィアを見るイルムに、あぁ、と彼女は苦笑して耳に口を寄せた。
「実は……」
「……え、あ、その、すみません今まで」
途端にぺこぺこと頭を下げるイルム。その肩を再度叩いてソフィアは快活に笑った。
「いーのいーの、気にしないで。それより、今までの調査の話とか聞かせて欲しいな。経験長そうだし……」
「向こうでも似たようなことをしていましたから、慣れてはいますね」
先日の渓流の調査に端を発し、二人の雑談が酒の好みに差し掛かった所で、ロニと奈月が戻ってくる。見張り交代ということで、ソフィアは名残惜しげにその場を離れた。
●
「そう怒りなさんな、あんた方の邪魔をしたい訳じゃあない……と、お休み頂こうか」
催眠魔術が巨人を眠らせ、その隙に一行はその場を離れる。もう何度目かのやりとりだが……。
「悪い、今ので打ち止めだ」
エアルドフリスは諸手を上げた。これ以上は敵を眠らせられないらしい。
覚醒するにも限界はあるし、会得したスキルも無尽蔵に使えるわけではない。遭遇時の多くは眠りの魔術で対処してきた。そのため逸れることも悪路に悩まされることもなかったが、此処から先はそうもいかない。
一同は泉の畔で一時合流して休息を取っていた。
山の上から見えたのは川の流れだった。ここの川は泉に繋がっているのを、登山中に確認している。
ニ日目の夕方には川に辿り着くことが出来たので、三日目にそこを遡上して泉に戻ったのだ。
「というコトハ、下山ルートには戻ッテ来れタのカナ?」
「ええ。これで迷わずに帰れます」
もうこの辺になると傾斜も緩やかで、走りづらいこともない。順調に行けば、今日中には突破できるはずだ。
安堵する一同。だがその時、数人が足の裏で振動を感じ取る。はっとして顔を見合わせ、茂みへ咄嗟に身を隠す。巨人はすぐに現れた。
泉の水を何度かすくって飲んでいる巨人。
「見つからないでくれ……頼むよ」
奈月の願いも虚しく、巨人が茂みに目を向け、そして吼えた。
『今度こそ逃さぬ!』
メトロノームはすぐに覚醒し、最後の眠りの魔術を唱える。だが彼女の魔術を受けた巨人は、頭をぶんぶんと振って眠気を払った。
「すみません、抵抗されました」
状況は芳しくなさそうだ。少なくとも現状で走って逃げ切るのは難しい。素早く隊列を整えると、ティトは剣を抜いた。
「よっしゃこい! 捌き切ってや……うおおお!?」
ティトが防御を固めて巨人を待ち受ける。だが振り下ろされた巨剣の一撃を防御できるわけもなく、慌ててその場を飛び退いた。
「ちょっと足を止めてくれないかな」
「分かった」
奈月がLEDライトを構えて、機導砲を放つ。足元に着弾したそれに巨人の足が一瞬止まった。
「シュールですよね」
「僕は大真面目なんだけどな」
イルムの呟きに、奈月は頭を掻いた。続けてジルボも威嚇射撃で巨人を牽制する。
「傷つけるつもりはないが、傷つけられるつもりもない」
ロニの影の弾丸が木の葉を散らして視界を封じる。そこへソフィアが乾坤一擲、電撃の機導術を放った。
「ごめんね!」
強烈な電撃に動きの鈍る巨人。巨体故に完全に麻痺したわけではないようだが、逃げる隙はできた。
「今のうちダヨ!」
アルヴィンの号令で、一同はその場から駆け出した。
後はもう、出せる限りの速度で山を下っていった。
先の咆哮で他の巨人が集まっているらしく、もたもたとしている余裕はない。進行方向を巨人が塞がないうちに抜けるべきであった。
「あと一息……」
時折坂道を駆け下りるなどのショートカットを経て、夕日が木の葉から差し込む頃。
「――見えた! 外だ!」
ジルボが叫ぶ。だが、後方からははっきりと足音が、それも複数聞こえてきていた。
「このまま街道まで逃げましょう! 人の生活圏まで深追いしてくることはないはずです!」
イルムの言葉を信じて一同は山を駆け下り、木々を抜け――。
平原に飛び出しても、暫く前へと走り続けた。
「……追ってこないね」
ソフィアが後ろを確認して呟く。
「逃げ切れたようだな」
足音は次第に緩やかになり、最後は反転して遠ざかっていく。それを聞いてロニは言った。
「助かった……んですね」
メトロノームが息を切らして口にすると、同じくイルムも頷く。
「皆さん……ありがとうございました。まずは、オフィスに戻りましょう」
「いや、愉快ナ体験だったネ?」
「そう言えるのはあんただけだろうよ、アルヴィン」
笑うアルヴィンに、エアルドフリスは頭を振って答えた。
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質問掲示板 イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/12/07 00:28:01 |
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相談卓 ティト・カミロ(ka0975) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/12/07 22:07:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/02 19:17:22 |