ゲスト
(ka0000)
池の水を全部抜いたらVOIDが出現した件
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/13 09:00
- 完成日
- 2018/02/18 17:37
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
定期的な報告の為、リゼリオの本部を訪れていた、紡伎 希(kz0174)は街角のカフェで一人、手紙を書いていた。
宛先はオキナだ。それも、ダイレクトにオキナに届くわけではない。オキナの知人を通じて届けられる。
ハンターズソサエティ本部で新しい仕事を受け取ったので、予定よりも帰りが遅れるという内容だ。
「……リアルブルーか……」
希は表向き、転移者という事になっている。
転移した際に記憶を喪失した設定だったが、それが思わぬ事を招いた。
『リアルブルーに行けば、記憶が蘇る可能性がある』
事情を知らないスタッフから、そんな事を告げられた。
そんな訳で、リアルブルーからの“ある依頼”を、希は任されたのであった。
依頼内容は難しい事では無かった。
クリムゾンウェストという世界の事。
覚醒者と歪虚との戦いの事。
そして、転移者の事……。
それらの体験談を話して欲しいというのが依頼主の希望だった。
なんでも、昨年暮れでのイベントで、ハンターと交流を持った依頼主が、「これはぜひ、地元の皆にも知って貰いたい!」と思ったそうだ。
そんな訳で、依頼主の地元の会場を借りて、体験談を発表する……ことになり、気の利いたとあるスタッフが希に仕事を持ってきたのだった。
「……内容、まとめておかないと」
独り言を呟く希。
もっとも、彼女自身、嫌だったという訳ではない。
これも不思議な巡り合わせというものだろう。あるいは、必然だったかもしれない。
「いっぱい、話せたらいいな……」
希は緑色の折り鶴の形をした耳飾りに手を触れた。
●
それは冬の晴れた日だった。
リアルブルーのある国に訪れた希は、ある町に到着した。
「この辺り、田舎でしょ」
依頼主が苦笑を浮かべながら手を広げる。
周囲は一面、畑が広がっていた。冬野菜か、背の低い葉物が栽培されているようだ。
「いや、見る物全て、新鮮です」
「それなら、いいんだが。さぁ、こちらですよ」
希は素直に感想を言ったはずだが、気を遣ったと思われたようだ。
どこまでも綺麗に舗装された道路。デンキなるものを運ぶという金属の糸。
すれ違う車両の様々なデザイン。町を歩く人の服装。
まさに異世界。希は幾度となく目をパチクリとさせた。
「大きい建物ですね」
案内された会場は町が管理している建物という。
「一昔前の遺産とも言いうべきものですけどね。景気が良かった頃に建てたものなので、維持費は大変ですけど」
「そうなのですね……あちらは?」
会場のすぐ脇では、妙な光景になっていた。
池――のようだが水位が低い。池の真横で、激しい音を立てる機械。
「あぁ、掻い掘りですね。池の中の泥を掻き出して、お日様の力で池を消毒するんです」
不思議そうに池の様子を見つめる希に、依頼主が答えた。
VOIDとの戦いが激しさを増し、掻い掘りしている余裕が無かったが、ここ最近、リアルブルーではハンター達の活躍もあり、戦況は良い。
絶好の機会というべきなのだろう。
「きっと、帰る頃には水が完全に抜けるでしょう。なかなか、壮観ですよ」
「それは楽しみです」
笑って応える希だった。
●
「なんかとんでもないものが出たりしねーよな」
不安そうに作業員が呟く。
排水ポンプの稼働は問題ない。膨大な量の水がポンプを通して排出されていく。
「まぁ、外来種ばかりだろうな」
「狂暴なのは遠慮してーぜ」
同僚の言葉にげんなりしながら、池を見つめる。
池の傍の歩道を歩く市民も池を見つめていた。
「今日はなんだか、人が多いな」
「なんだ、お前、知らねーのか? 今日は異世界へ行った人の体験談があるらしいぜ」
「異世界か。おとぎ話みたいだな」
その存在を知らない訳ではない。
メディアを通じて理解しているつもりではある。だが、実際、異世界へ行った人物の話を、生で聞ける機会はあまりないのも事実だろう。
「……」
大きな建物に視線を向けていた時だった。
突如、池の中央付近から、巨大な音が響いた。
爆発……ではない。水が弾けるような音だ。
「な、な、なんだ!?」
「おい、あれ見ろ!」
同僚が指を差した先には、1匹の亀。
ただし、普通の亀ではない。見た目は縁日によく見かけた亀だが、問題なのは、その大きさだ。
「どんだけ、でけーんだよ!」
人よりも大きい。車と同じくらいはあるだろうか。
「VOIDだ!」
「ここにかよ!」
「ほら、いつだったか、ここら一帯に飛来したって噂あったろ」
作業員達が知る由もないが、確かにその亀はVOIDだった。
亀のVOIDではなく……飛来して、偶然にも沼に落ちた小さいVOIDが沼に潜んでいた亀と融合。
池の底で着々と力を蓄えていたのが、今回、掻い掘りで姿を現したのだ。
「なんだか……やばそうだな……」
水を抜かれた事で怒っているのか、それとも、今こそ新たなマテリアルを求める時が来たと認識したのか。
亀VOIDがニュッと頭を天へと伸ばし、負のマテリアルの光線を放った。
それだけで、作業員達が乗ってきたトラックが粉砕する。
慌てて逃げだした作業員達を追い掛ける形で、亀VOIDは動き出した。
作業員からの通報で、体験談を聞くために集まった市民達の避難が始まる。
「ここは、私達が食い止めます」
怯える依頼主に希が力強く宣言したのであった。
定期的な報告の為、リゼリオの本部を訪れていた、紡伎 希(kz0174)は街角のカフェで一人、手紙を書いていた。
宛先はオキナだ。それも、ダイレクトにオキナに届くわけではない。オキナの知人を通じて届けられる。
ハンターズソサエティ本部で新しい仕事を受け取ったので、予定よりも帰りが遅れるという内容だ。
「……リアルブルーか……」
希は表向き、転移者という事になっている。
転移した際に記憶を喪失した設定だったが、それが思わぬ事を招いた。
『リアルブルーに行けば、記憶が蘇る可能性がある』
事情を知らないスタッフから、そんな事を告げられた。
そんな訳で、リアルブルーからの“ある依頼”を、希は任されたのであった。
依頼内容は難しい事では無かった。
クリムゾンウェストという世界の事。
覚醒者と歪虚との戦いの事。
そして、転移者の事……。
それらの体験談を話して欲しいというのが依頼主の希望だった。
なんでも、昨年暮れでのイベントで、ハンターと交流を持った依頼主が、「これはぜひ、地元の皆にも知って貰いたい!」と思ったそうだ。
そんな訳で、依頼主の地元の会場を借りて、体験談を発表する……ことになり、気の利いたとあるスタッフが希に仕事を持ってきたのだった。
「……内容、まとめておかないと」
独り言を呟く希。
もっとも、彼女自身、嫌だったという訳ではない。
これも不思議な巡り合わせというものだろう。あるいは、必然だったかもしれない。
「いっぱい、話せたらいいな……」
希は緑色の折り鶴の形をした耳飾りに手を触れた。
●
それは冬の晴れた日だった。
リアルブルーのある国に訪れた希は、ある町に到着した。
「この辺り、田舎でしょ」
依頼主が苦笑を浮かべながら手を広げる。
周囲は一面、畑が広がっていた。冬野菜か、背の低い葉物が栽培されているようだ。
「いや、見る物全て、新鮮です」
「それなら、いいんだが。さぁ、こちらですよ」
希は素直に感想を言ったはずだが、気を遣ったと思われたようだ。
どこまでも綺麗に舗装された道路。デンキなるものを運ぶという金属の糸。
すれ違う車両の様々なデザイン。町を歩く人の服装。
まさに異世界。希は幾度となく目をパチクリとさせた。
「大きい建物ですね」
案内された会場は町が管理している建物という。
「一昔前の遺産とも言いうべきものですけどね。景気が良かった頃に建てたものなので、維持費は大変ですけど」
「そうなのですね……あちらは?」
会場のすぐ脇では、妙な光景になっていた。
池――のようだが水位が低い。池の真横で、激しい音を立てる機械。
「あぁ、掻い掘りですね。池の中の泥を掻き出して、お日様の力で池を消毒するんです」
不思議そうに池の様子を見つめる希に、依頼主が答えた。
VOIDとの戦いが激しさを増し、掻い掘りしている余裕が無かったが、ここ最近、リアルブルーではハンター達の活躍もあり、戦況は良い。
絶好の機会というべきなのだろう。
「きっと、帰る頃には水が完全に抜けるでしょう。なかなか、壮観ですよ」
「それは楽しみです」
笑って応える希だった。
●
「なんかとんでもないものが出たりしねーよな」
不安そうに作業員が呟く。
排水ポンプの稼働は問題ない。膨大な量の水がポンプを通して排出されていく。
「まぁ、外来種ばかりだろうな」
「狂暴なのは遠慮してーぜ」
同僚の言葉にげんなりしながら、池を見つめる。
池の傍の歩道を歩く市民も池を見つめていた。
「今日はなんだか、人が多いな」
「なんだ、お前、知らねーのか? 今日は異世界へ行った人の体験談があるらしいぜ」
「異世界か。おとぎ話みたいだな」
その存在を知らない訳ではない。
メディアを通じて理解しているつもりではある。だが、実際、異世界へ行った人物の話を、生で聞ける機会はあまりないのも事実だろう。
「……」
大きな建物に視線を向けていた時だった。
突如、池の中央付近から、巨大な音が響いた。
爆発……ではない。水が弾けるような音だ。
「な、な、なんだ!?」
「おい、あれ見ろ!」
同僚が指を差した先には、1匹の亀。
ただし、普通の亀ではない。見た目は縁日によく見かけた亀だが、問題なのは、その大きさだ。
「どんだけ、でけーんだよ!」
人よりも大きい。車と同じくらいはあるだろうか。
「VOIDだ!」
「ここにかよ!」
「ほら、いつだったか、ここら一帯に飛来したって噂あったろ」
作業員達が知る由もないが、確かにその亀はVOIDだった。
亀のVOIDではなく……飛来して、偶然にも沼に落ちた小さいVOIDが沼に潜んでいた亀と融合。
池の底で着々と力を蓄えていたのが、今回、掻い掘りで姿を現したのだ。
「なんだか……やばそうだな……」
水を抜かれた事で怒っているのか、それとも、今こそ新たなマテリアルを求める時が来たと認識したのか。
亀VOIDがニュッと頭を天へと伸ばし、負のマテリアルの光線を放った。
それだけで、作業員達が乗ってきたトラックが粉砕する。
慌てて逃げだした作業員達を追い掛ける形で、亀VOIDは動き出した。
作業員からの通報で、体験談を聞くために集まった市民達の避難が始まる。
「ここは、私達が食い止めます」
怯える依頼主に希が力強く宣言したのであった。
リプレイ本文
●イクシード
ドレスの袖から薄い布地を、腕から手まで伸ばしてUisca Amhran(ka0754)はキュっと拳を握った。
突然のVOIDの襲来。折角の講演会が、このままでは中止になってしまう。
「ノゾミちゃんの夢を叶えるための邪魔はさせないっ」
リアルブルーで転移者の話をする事。それが、あの娘――紡伎 希(kz0174)――の夢。
その機会が訪れたのだ。ここでVOID如きに邪魔される訳にはいかない。
耳先を隠していた髪を解き、UiscaはVOIDの前に毅然として立った。
天王寺茜(ka4080)も1体のVOIDの前に立っていた。
(小さい頃にリアルブルーで地球からコロニーに移り住んで、転移してクリムゾンウェストに、そして今はここに、か)
長いとはいえないが、これまでの人生の歩みを茜は心の中で振り返る。
幾度と環境が変わった。それは我ながら凄いとも思う。そして、今、目の前には亀VOID。これも、巡り合わせというものなのか。
「大丈夫、戦えます。私も撃退に参加します!」
講演会に合わせ、普通の服装だが、愛用の武器は持って来ている。
巨大な緑色の魔導ガントレットを彼女は掲げた。
もう一人、VOIDの前に立つのは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)だった。
遠くに見える景色も、後ろの建物も、見慣れない風景を一望する。
「リアルブルーには殆ど来たことがなかったですが……ここまで発展しているとは、異世界というのも大したものですね」
道路は綺麗に舗装されているし、同じ規格で歪みなく作られた柵も美しい。
文化の差というものかもしれないが、それだけが理由でもないだろう。
「……と、感心していたら、この有様だとは……ともかく、早々に片付けてしまわなければ」
法衣をバサリと広げ、布地で作られたグローブを装着した腕を構えた。
戦闘になるとは思っていなかったものの、司祭としての正装で選択は間違っていなかったといえよう。
服装という点でいうと、今回、ハンター達には大きな制限があった。
依頼主からの要望により、戦姿では、一般市民が恐怖を感じてしまうのではないかという事らしい。
チャイナドレスを着こなしたヘルヴェル(ka4784)が不敵な笑みを浮かべて、スラリとした足を一歩踏み出す。
スリットから見える、白い肌とガーターが艶めかしい。
「……掻い掘りは良いことなんですが、こう、見たくないものをたまに見つけちゃいますよね」
ガーターに付けてあった柄だけのそれを手慣れた指の動きで掴む。
覚醒者から流れるマテリアルに反応し、柄の先から氷の刃が形成された。
「亀でまだ良かったということにしておきましょう」
その剣先をVOIDに向けた。
姿形は亀そのものだが、発せられるのは負のマテリアル。
狂気VOIDが融合したものだろう。池どころか、リアルブルーにとっての外来種亀となってしまったようだ。
「こういった『もしも』の為に居るのが私達でもありますからね」
氷を思わすような冷静さを湛えながら、微笑を浮かべるフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
腕を覆う古びた包帯には怪しげな呪文が描かれ、ドレスのスカートが風に揺れる。
「出来る限り、迅速に終わらせましょうか」
広場とはいえ、これ以上、被害を出す事は許されないのだ。
●VOID討伐
ハンター達の作戦は単純明快だった。
VOIDの数は3体。対して、ハンター達は希も入れれば6人。
サシで足止めしている間に残りのハンターによる集中攻撃。勿論、それはサシで止められる事が前提となる訳だが。
「ウミガメ……にしても大きすぎね、あれ」
茜が汗を垂らしてそんな言葉を呟いた。トラック位の大きさはあるだろうか。
のっしのっしと進む速さは亀にしては早い方だろう。
「あの光線が会場近くに届く前に、足止めしないと」
威嚇のつもりだったのか、亀VOIDは負のマテリアルの光線をトラックに向かって放っていた。
それだけで、トラックは爆発した。威力は言うまでもないだろう。
マテリアルがUiscaの唄に乗って広がる。
「見た目は亀ですが、油断大敵です。VOIDには変わりありませんし」
彼女の歌には特別な力が宿っている。覚醒者のマテリアルでVOIDのマテリアルを圧するのだ。
その結果、敵の力を大きく削ぐ事ができる。硬そうな敵なので、防御力を下げる意味はあるだろう。
突然、猛加速した亀VOIDの1体が、アデリシアに突撃してきた。
それをアデリシアは慌てずに、光り輝くマテリアルの壁を発生させる。
「なんとか、転倒させて足を止めたい所ですね」
光壁は亀VOIDの突進に砕け散る。突進の威力が落ちた所で、アデリシアは武具で受け止めた。
後方の建物から戦闘の様子を見守っていた市民らからどよめきが響く。
覚醒者の戦いを間近で見るのは初めてなのだろう。動画で見る事はあっても、自分の目で見る事とは感じ方が違うはずだ。
「希さんはあたしたちと一緒に撃破に回ってくださいね」
「はい! ヘルヴェル様」
魔導ガントレットを構え、緊張した声で希は応えた。
「光線は出来るだけ、地面に向かって放たれるように位置取りには注意を」
フィルメリアが二人に告げる。
芝生だけはどうしようもないが、流れ弾が建物などに飛んでいく事も避けたい所。
VOIDを倒すだけなら、問題はないだろう。後はどれだけ被害を抑えられるかが大事だ。
覚醒者が騒いだだけで終わってしまうのは、依頼主とて、望まぬ事ではないはずだ。
さっと、希が茜の横に並んだ。茜は目を合わせ頷くと、構えていたガントレットを掲げる。
「ここから先には、行かせない!」
二人の機導師のガントレットからマテリアルの光が眩く光った。
それは宙で三角形を形創ると、其々の頂点から、光の筋が迸る。機導術による魔法攻撃だ。
援護を受けて、フィルメリアとヘルヴェルが一気に距離を詰める。
「まずは、どれ程の硬さか確かめますね」
突き出した腕先から機導砲を放つフィルメリア。
轟音が響くが、亀VOIDの甲羅には傷一つついていないようだった。これでも、Uiscaの歌の力が効いているのだから、相当な硬さだろう。
「でも、その衝撃は確実に届いているはずね」
手応えからそう感じた。
どんなに硬くとも、その衝撃までは無効にできるというものではないだろう。
一方、ヘルヴェルは強烈な一撃をニョッと出た頭元を狙う。
「少しでも柔らかそうな所を狙うのも、いいでしょうか」
さすがに切り落とす事はできなかったが、狙いとしては悪くはないだろう。
問題があるとすれば、敵もそう簡単に弱点をさらけ出す事はない事か。
「転ばせられれば、あるいは……」
空間でも切り裂いているのかというような不気味な音を立てて亀VOIDの鉤爪が宙を過ぎていった。
追撃を警戒する中、亀VOIDが光の杭によって動きを止める。茜が魔法で足止めに成功したのは、もっとも、Uiscaの歌の力の援護があっての事だが。
「力押しというのも悪くないはずです!」
ヘルヴェルは霊氷剣を手首の返しで素早く構え直すと、姿勢を低くする。
身動きが出来なくなった亀VOIDがカッと口を開いた。負のマテリアルの光線が放たれる。
茜と希の防御障壁が光線の射線上に現れた。
「この程度なら!」
その援護の下、障壁を突破した光線を受け止めるように切り裂きながら、ヘルヴェルの刃が亀VOIDの頭に突き刺さった。
チャンスと見たフィルメリアも攻勢に出る。
「どれだけ外が頑丈でも、逃がしきれないだけの衝撃を叩き込めば…っ」
ドレスのスカートが彼女の動きの後に続くようになびく。
振り払うように亀VOIDがハンターの接近に対して脚を振ったが、地面に手を付きながら軽く前転してフィルメリアが接敵すると気合の一言と共に拳を突き出す。
格闘士の力で防御力を貫通する技だ。
「次に行きます」
ボロボロと崩れ落ちる亀VOIDからアデリシアが抑えている敵へと視線を向けた。
どーん! と大きな音と共に亀VOIDがひっくり返った。
人間よりも大きなサイズではあるが、それを転ばす事が出来るというのは、生半可な事ではない。
だが、覚醒者にはそれが出来る。
「ひっくり返れば儲けものというところでしたが、上手くいきました」
アデリシアがやったものだった。
聖導士には敵の攻撃の勢いを利用し、逆に盾で強く押しこんで、相手の態勢を崩す戦闘技術がある。
相手は4つ足であるので、成功するかどうかは難しくなるだろうが、アデリシアの練度ならば、十分に成功できた。
「この機会を見逃しません」
マテリアルを高め、アデリシアはパリィグローブに魔力を注ぎ込んだ。
そうする事で、強力な一撃を放つ事が出来るのだ。それを、亀VOIDの柔らかそうな丸見え同然の腹へと叩き込んだ。
何かが砕ける感触が確かに伝わる。
フィルメリアも体内のマテリアルを高めつつ、ひっくり返った亀VOIDに近付く。
「その硬さの及ばない場所はどうかしら……いいえ、いっそその硬さごと撃ち砕いてみせるくらいで、丁度いいのかしらね」
幾重にも重ねる魔法陣が展開。それはマテリアルの光を伴って氷の如く、太陽の光を反射した。
魔法陣を通して放たれたのは機導師としては基本的なスキルである機導砲だが、その威力は絶大だった。
戦力バランスが崩れると勝敗はあっけない程、早いもの。
最後に残った1体もハンターからの集中攻撃により、すぐにボロボロとなる。
「前衛で戦うクルセイダーの力、お見せしますっ!」
Uiscaも聖導士としての力で亀VOIDを転がす。
立て直されないように、無数の龍の牙や爪を食い込ませる魔法を続けて、完全に動きを止めさせた。
「一気に片をつけましょう」
低い腰だめから剣先を突き出しながら、ヘルヴェルが身動きの出来ない亀VOIDに突撃する。
それは、亀VOIDの首元に深々と刺さると、素早い動きでバク転しながら退く。反撃を警戒した訳ではない。仲間の攻撃に合わせてスペースを開くためだ。
「イスカさん!」
魔導ガントレットをマテリアルの力で巨大化させた希の呼び掛けに応じ、Uiscaは強く頷いた。
白龍への祈りの力が込められた聖なる拳を、希の攻撃と重ねて叩き込む。
「龍撃、粉砕っ!」
大音響と共に、亀VOIDが砕け散った。
●それぞれの想いを
ハンター達があっという間にVOIDを倒し、被害も無かった為、講演会は予定通り行われる事になった。
騒ぎを聞きつけたせいか、市民の数も増えており、壇上からチラリと客席の方を見ると、もの凄い数に膨れ上がっていた。
これも、ハンター達の活躍の影響というものなのだろうか……。
舞台裏に控えていた希が表情を堅くしている。普段からあまり、表情が動く子ではなかったのだが、さすがに大勢の市民に驚いているようだ。
「だ、大丈夫ですよ、イスカさん」
ぎこちない笑顔を見せて希は言った。
そんな希を、Uiscaはそっと抱き締めた。暫く、抱き締めたまま、彼女は静かに告げた。
「ノゾミちゃん、転移者の人たちのこと、この世界の人たちに思う存分伝えてきて……ここへ来られなかった人の分も込めて、ね」
「……はい!」
ポンポンと背中を叩き、Uiscaは希を解放すると、ニッコリと微笑んだ。
緑髪の少女は、自身の顔をパンパンと叩くと、頷き、耳飾りに手を触れながら、歩きだした。
希の話が始まり、ホッとした顔で依頼主が溜め込んでいた息を吐き出した。
「良かったですね。講演会が無事に続けられて」
ヘルヴェルが優しい口調で言った。
VOIDを討伐してすぐに再開できるように声を掛けたのは彼女であった。
こういうのは勢いが大事だ。敵を倒した勢いそのまま、再開するのと、数時間か開いてしまっての再開は、やはり、その心象は違う。
「皆さんのおかげですよ。後は希さんが、どの様な体験談を語られるのかというのもありますが」
「体験談。さて、何を持って体験というのでしょうか……楽しい事、驚く事だけじゃありませんからねぇ……」
転移者の受付嬢らしいが、どんな事を語るのか、ヘルヴェルは耳を傾けた。
希の声がスピーカーを通じて医務室に聞こえてくる。
それを聴きながら、アデリシアは回復魔法を唱えていた。
避難の際に流れに巻き込まれて派手に階段から落ちた人が居たので、彼女が治癒させていたのだ。
回復魔法を受けていた市民は、文字通り、目を丸めて驚いていた。
「凄いですよ! 本当に、ありがとうございます!」
「まあ……これで多少なりとも我々が普段どうしているのか、知ってもらえれば御の字といったところですか」
訊けば、リアルブルーには回復魔法での治療という概念はなく、医学という事。
お互いの違う所を知るというのは、きっと、関係を築く大事な一歩なはずだ。
「ここも良いところだけど……はあ」
座席の上で膝を抱えながら茜が小さく呟いた。
希の話は転移してからの出来事を告げていた。その足跡は茜と同じではないが、茜は改めて自分を振り返っていた。
こうして、リアルブルーに帰れる事も出来るようになった。もっとも、覚醒者は長く留まれないが。
LH044コロニーを失った自分は、果たして、どちらの世界に『帰る』べきなのか。
依頼を通じて沢山の仲間も出来たのもある。一瞬、赤い瞳を持つオートマトンを浮かべた。
「……どっちに『帰る』のかな」
天井を見上げてながら、茜は答えの出ない悩みの中に意識を沈めた。
「……今の私があるのは、多くの人の“想い”があるからです。私を絶望から救ってくれた人、私が憧れた人、私が……」
希の語りを耳にしながら、フィルメリアは、ふと、自分が話す立場だったら、何を語っただろうかと思った。
転移して、物理的にも文化的にも無いものもあれば、変わらない物もあった。
そんな中、多くの依頼や関わりを通じ、転移するまで知らない事があったと気が付きもした。
未知を既知へと変えていく過程、冒険心とも呼べるようなそれが。
「けれど、二つの世界でも、変わらないと知ったのは……『人』ね」
大きな壁を目の前にしても、人はそれを乗り越えようとした。
其々が大切な何かを作り、築いて、あるいは残して繋げていく為に。
「私が転移者として感じたのは、人が作り上げていく物を守る為に戦いたいって、再認識できた事かな」
小さく呟きながら、フィルメリアは優し気な眼差しで、語り続ける希を見つめたのだった。
転移者が体験談を語る講演会は、会場傍の池から現れたVOIDにより一時は中止になる所であった。
しかし、ハンター達の迅速で適切な対応により、VOIDは速やかに討伐。被害も少なく、講演会は無事に続けられたのだった。
希の体験談は好評だったそうで、また、語る機会ができたという。
おしまい
ドレスの袖から薄い布地を、腕から手まで伸ばしてUisca Amhran(ka0754)はキュっと拳を握った。
突然のVOIDの襲来。折角の講演会が、このままでは中止になってしまう。
「ノゾミちゃんの夢を叶えるための邪魔はさせないっ」
リアルブルーで転移者の話をする事。それが、あの娘――紡伎 希(kz0174)――の夢。
その機会が訪れたのだ。ここでVOID如きに邪魔される訳にはいかない。
耳先を隠していた髪を解き、UiscaはVOIDの前に毅然として立った。
天王寺茜(ka4080)も1体のVOIDの前に立っていた。
(小さい頃にリアルブルーで地球からコロニーに移り住んで、転移してクリムゾンウェストに、そして今はここに、か)
長いとはいえないが、これまでの人生の歩みを茜は心の中で振り返る。
幾度と環境が変わった。それは我ながら凄いとも思う。そして、今、目の前には亀VOID。これも、巡り合わせというものなのか。
「大丈夫、戦えます。私も撃退に参加します!」
講演会に合わせ、普通の服装だが、愛用の武器は持って来ている。
巨大な緑色の魔導ガントレットを彼女は掲げた。
もう一人、VOIDの前に立つのは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)だった。
遠くに見える景色も、後ろの建物も、見慣れない風景を一望する。
「リアルブルーには殆ど来たことがなかったですが……ここまで発展しているとは、異世界というのも大したものですね」
道路は綺麗に舗装されているし、同じ規格で歪みなく作られた柵も美しい。
文化の差というものかもしれないが、それだけが理由でもないだろう。
「……と、感心していたら、この有様だとは……ともかく、早々に片付けてしまわなければ」
法衣をバサリと広げ、布地で作られたグローブを装着した腕を構えた。
戦闘になるとは思っていなかったものの、司祭としての正装で選択は間違っていなかったといえよう。
服装という点でいうと、今回、ハンター達には大きな制限があった。
依頼主からの要望により、戦姿では、一般市民が恐怖を感じてしまうのではないかという事らしい。
チャイナドレスを着こなしたヘルヴェル(ka4784)が不敵な笑みを浮かべて、スラリとした足を一歩踏み出す。
スリットから見える、白い肌とガーターが艶めかしい。
「……掻い掘りは良いことなんですが、こう、見たくないものをたまに見つけちゃいますよね」
ガーターに付けてあった柄だけのそれを手慣れた指の動きで掴む。
覚醒者から流れるマテリアルに反応し、柄の先から氷の刃が形成された。
「亀でまだ良かったということにしておきましょう」
その剣先をVOIDに向けた。
姿形は亀そのものだが、発せられるのは負のマテリアル。
狂気VOIDが融合したものだろう。池どころか、リアルブルーにとっての外来種亀となってしまったようだ。
「こういった『もしも』の為に居るのが私達でもありますからね」
氷を思わすような冷静さを湛えながら、微笑を浮かべるフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
腕を覆う古びた包帯には怪しげな呪文が描かれ、ドレスのスカートが風に揺れる。
「出来る限り、迅速に終わらせましょうか」
広場とはいえ、これ以上、被害を出す事は許されないのだ。
●VOID討伐
ハンター達の作戦は単純明快だった。
VOIDの数は3体。対して、ハンター達は希も入れれば6人。
サシで足止めしている間に残りのハンターによる集中攻撃。勿論、それはサシで止められる事が前提となる訳だが。
「ウミガメ……にしても大きすぎね、あれ」
茜が汗を垂らしてそんな言葉を呟いた。トラック位の大きさはあるだろうか。
のっしのっしと進む速さは亀にしては早い方だろう。
「あの光線が会場近くに届く前に、足止めしないと」
威嚇のつもりだったのか、亀VOIDは負のマテリアルの光線をトラックに向かって放っていた。
それだけで、トラックは爆発した。威力は言うまでもないだろう。
マテリアルがUiscaの唄に乗って広がる。
「見た目は亀ですが、油断大敵です。VOIDには変わりありませんし」
彼女の歌には特別な力が宿っている。覚醒者のマテリアルでVOIDのマテリアルを圧するのだ。
その結果、敵の力を大きく削ぐ事ができる。硬そうな敵なので、防御力を下げる意味はあるだろう。
突然、猛加速した亀VOIDの1体が、アデリシアに突撃してきた。
それをアデリシアは慌てずに、光り輝くマテリアルの壁を発生させる。
「なんとか、転倒させて足を止めたい所ですね」
光壁は亀VOIDの突進に砕け散る。突進の威力が落ちた所で、アデリシアは武具で受け止めた。
後方の建物から戦闘の様子を見守っていた市民らからどよめきが響く。
覚醒者の戦いを間近で見るのは初めてなのだろう。動画で見る事はあっても、自分の目で見る事とは感じ方が違うはずだ。
「希さんはあたしたちと一緒に撃破に回ってくださいね」
「はい! ヘルヴェル様」
魔導ガントレットを構え、緊張した声で希は応えた。
「光線は出来るだけ、地面に向かって放たれるように位置取りには注意を」
フィルメリアが二人に告げる。
芝生だけはどうしようもないが、流れ弾が建物などに飛んでいく事も避けたい所。
VOIDを倒すだけなら、問題はないだろう。後はどれだけ被害を抑えられるかが大事だ。
覚醒者が騒いだだけで終わってしまうのは、依頼主とて、望まぬ事ではないはずだ。
さっと、希が茜の横に並んだ。茜は目を合わせ頷くと、構えていたガントレットを掲げる。
「ここから先には、行かせない!」
二人の機導師のガントレットからマテリアルの光が眩く光った。
それは宙で三角形を形創ると、其々の頂点から、光の筋が迸る。機導術による魔法攻撃だ。
援護を受けて、フィルメリアとヘルヴェルが一気に距離を詰める。
「まずは、どれ程の硬さか確かめますね」
突き出した腕先から機導砲を放つフィルメリア。
轟音が響くが、亀VOIDの甲羅には傷一つついていないようだった。これでも、Uiscaの歌の力が効いているのだから、相当な硬さだろう。
「でも、その衝撃は確実に届いているはずね」
手応えからそう感じた。
どんなに硬くとも、その衝撃までは無効にできるというものではないだろう。
一方、ヘルヴェルは強烈な一撃をニョッと出た頭元を狙う。
「少しでも柔らかそうな所を狙うのも、いいでしょうか」
さすがに切り落とす事はできなかったが、狙いとしては悪くはないだろう。
問題があるとすれば、敵もそう簡単に弱点をさらけ出す事はない事か。
「転ばせられれば、あるいは……」
空間でも切り裂いているのかというような不気味な音を立てて亀VOIDの鉤爪が宙を過ぎていった。
追撃を警戒する中、亀VOIDが光の杭によって動きを止める。茜が魔法で足止めに成功したのは、もっとも、Uiscaの歌の力の援護があっての事だが。
「力押しというのも悪くないはずです!」
ヘルヴェルは霊氷剣を手首の返しで素早く構え直すと、姿勢を低くする。
身動きが出来なくなった亀VOIDがカッと口を開いた。負のマテリアルの光線が放たれる。
茜と希の防御障壁が光線の射線上に現れた。
「この程度なら!」
その援護の下、障壁を突破した光線を受け止めるように切り裂きながら、ヘルヴェルの刃が亀VOIDの頭に突き刺さった。
チャンスと見たフィルメリアも攻勢に出る。
「どれだけ外が頑丈でも、逃がしきれないだけの衝撃を叩き込めば…っ」
ドレスのスカートが彼女の動きの後に続くようになびく。
振り払うように亀VOIDがハンターの接近に対して脚を振ったが、地面に手を付きながら軽く前転してフィルメリアが接敵すると気合の一言と共に拳を突き出す。
格闘士の力で防御力を貫通する技だ。
「次に行きます」
ボロボロと崩れ落ちる亀VOIDからアデリシアが抑えている敵へと視線を向けた。
どーん! と大きな音と共に亀VOIDがひっくり返った。
人間よりも大きなサイズではあるが、それを転ばす事が出来るというのは、生半可な事ではない。
だが、覚醒者にはそれが出来る。
「ひっくり返れば儲けものというところでしたが、上手くいきました」
アデリシアがやったものだった。
聖導士には敵の攻撃の勢いを利用し、逆に盾で強く押しこんで、相手の態勢を崩す戦闘技術がある。
相手は4つ足であるので、成功するかどうかは難しくなるだろうが、アデリシアの練度ならば、十分に成功できた。
「この機会を見逃しません」
マテリアルを高め、アデリシアはパリィグローブに魔力を注ぎ込んだ。
そうする事で、強力な一撃を放つ事が出来るのだ。それを、亀VOIDの柔らかそうな丸見え同然の腹へと叩き込んだ。
何かが砕ける感触が確かに伝わる。
フィルメリアも体内のマテリアルを高めつつ、ひっくり返った亀VOIDに近付く。
「その硬さの及ばない場所はどうかしら……いいえ、いっそその硬さごと撃ち砕いてみせるくらいで、丁度いいのかしらね」
幾重にも重ねる魔法陣が展開。それはマテリアルの光を伴って氷の如く、太陽の光を反射した。
魔法陣を通して放たれたのは機導師としては基本的なスキルである機導砲だが、その威力は絶大だった。
戦力バランスが崩れると勝敗はあっけない程、早いもの。
最後に残った1体もハンターからの集中攻撃により、すぐにボロボロとなる。
「前衛で戦うクルセイダーの力、お見せしますっ!」
Uiscaも聖導士としての力で亀VOIDを転がす。
立て直されないように、無数の龍の牙や爪を食い込ませる魔法を続けて、完全に動きを止めさせた。
「一気に片をつけましょう」
低い腰だめから剣先を突き出しながら、ヘルヴェルが身動きの出来ない亀VOIDに突撃する。
それは、亀VOIDの首元に深々と刺さると、素早い動きでバク転しながら退く。反撃を警戒した訳ではない。仲間の攻撃に合わせてスペースを開くためだ。
「イスカさん!」
魔導ガントレットをマテリアルの力で巨大化させた希の呼び掛けに応じ、Uiscaは強く頷いた。
白龍への祈りの力が込められた聖なる拳を、希の攻撃と重ねて叩き込む。
「龍撃、粉砕っ!」
大音響と共に、亀VOIDが砕け散った。
●それぞれの想いを
ハンター達があっという間にVOIDを倒し、被害も無かった為、講演会は予定通り行われる事になった。
騒ぎを聞きつけたせいか、市民の数も増えており、壇上からチラリと客席の方を見ると、もの凄い数に膨れ上がっていた。
これも、ハンター達の活躍の影響というものなのだろうか……。
舞台裏に控えていた希が表情を堅くしている。普段からあまり、表情が動く子ではなかったのだが、さすがに大勢の市民に驚いているようだ。
「だ、大丈夫ですよ、イスカさん」
ぎこちない笑顔を見せて希は言った。
そんな希を、Uiscaはそっと抱き締めた。暫く、抱き締めたまま、彼女は静かに告げた。
「ノゾミちゃん、転移者の人たちのこと、この世界の人たちに思う存分伝えてきて……ここへ来られなかった人の分も込めて、ね」
「……はい!」
ポンポンと背中を叩き、Uiscaは希を解放すると、ニッコリと微笑んだ。
緑髪の少女は、自身の顔をパンパンと叩くと、頷き、耳飾りに手を触れながら、歩きだした。
希の話が始まり、ホッとした顔で依頼主が溜め込んでいた息を吐き出した。
「良かったですね。講演会が無事に続けられて」
ヘルヴェルが優しい口調で言った。
VOIDを討伐してすぐに再開できるように声を掛けたのは彼女であった。
こういうのは勢いが大事だ。敵を倒した勢いそのまま、再開するのと、数時間か開いてしまっての再開は、やはり、その心象は違う。
「皆さんのおかげですよ。後は希さんが、どの様な体験談を語られるのかというのもありますが」
「体験談。さて、何を持って体験というのでしょうか……楽しい事、驚く事だけじゃありませんからねぇ……」
転移者の受付嬢らしいが、どんな事を語るのか、ヘルヴェルは耳を傾けた。
希の声がスピーカーを通じて医務室に聞こえてくる。
それを聴きながら、アデリシアは回復魔法を唱えていた。
避難の際に流れに巻き込まれて派手に階段から落ちた人が居たので、彼女が治癒させていたのだ。
回復魔法を受けていた市民は、文字通り、目を丸めて驚いていた。
「凄いですよ! 本当に、ありがとうございます!」
「まあ……これで多少なりとも我々が普段どうしているのか、知ってもらえれば御の字といったところですか」
訊けば、リアルブルーには回復魔法での治療という概念はなく、医学という事。
お互いの違う所を知るというのは、きっと、関係を築く大事な一歩なはずだ。
「ここも良いところだけど……はあ」
座席の上で膝を抱えながら茜が小さく呟いた。
希の話は転移してからの出来事を告げていた。その足跡は茜と同じではないが、茜は改めて自分を振り返っていた。
こうして、リアルブルーに帰れる事も出来るようになった。もっとも、覚醒者は長く留まれないが。
LH044コロニーを失った自分は、果たして、どちらの世界に『帰る』べきなのか。
依頼を通じて沢山の仲間も出来たのもある。一瞬、赤い瞳を持つオートマトンを浮かべた。
「……どっちに『帰る』のかな」
天井を見上げてながら、茜は答えの出ない悩みの中に意識を沈めた。
「……今の私があるのは、多くの人の“想い”があるからです。私を絶望から救ってくれた人、私が憧れた人、私が……」
希の語りを耳にしながら、フィルメリアは、ふと、自分が話す立場だったら、何を語っただろうかと思った。
転移して、物理的にも文化的にも無いものもあれば、変わらない物もあった。
そんな中、多くの依頼や関わりを通じ、転移するまで知らない事があったと気が付きもした。
未知を既知へと変えていく過程、冒険心とも呼べるようなそれが。
「けれど、二つの世界でも、変わらないと知ったのは……『人』ね」
大きな壁を目の前にしても、人はそれを乗り越えようとした。
其々が大切な何かを作り、築いて、あるいは残して繋げていく為に。
「私が転移者として感じたのは、人が作り上げていく物を守る為に戦いたいって、再認識できた事かな」
小さく呟きながら、フィルメリアは優し気な眼差しで、語り続ける希を見つめたのだった。
転移者が体験談を語る講演会は、会場傍の池から現れたVOIDにより一時は中止になる所であった。
しかし、ハンター達の迅速で適切な対応により、VOIDは速やかに討伐。被害も少なく、講演会は無事に続けられたのだった。
希の体験談は好評だったそうで、また、語る機会ができたという。
おしまい
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亀VOID討伐に向けて フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/02/12 22:44:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/09 21:13:32 |
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質問卓 アデリシア・R・時音(ka0746) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/02/12 20:51:43 |