ゲスト
(ka0000)
復讐よりも、報復よりも
マスター:須崎なう

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/14 12:00
- 完成日
- 2018/02/23 02:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
百獣の王と呼ばれるライオンも、生まれたての頃から育てていれば主人に甘えるように。その異形のコボルドはある一人の老人にひどく懐いていた。
五年前のことになる。
生まれつき左耳は無く、幼体にしては一回り以上大きい体格。胎内から落ちると同時に母を死なせてしまったその異形のコボルドが群れから見放されるのは当然の流れだった。
生まれて間もないコボルドに狩りの知識はない。ただ衰弱死を待つだけだったそのコボルドに手を差し伸べたのは、当時、体の衰えを感じ引退を考えていた猟師の老人だった。
●
老人の息子がとある街の領主だったことも幸いし、普通より体格の大きいコボルドでも生活に支障のない広さの屋敷に住めた。老人はそのコボルドと家族のように接し、愛情を込めて育て、『リグル』という名前を与えられた。
「なぁリグル。次の月に孫たちが遊びにくるんじゃが、覚えておるか?」
もちろん覚えていた。
「グルルっ」と小さく鳴き、それを返事とする。
「そうか、そうか。孫たちも昔はリグルのこと怖がってたが……リグルも頑張ったからの。楽しみじゃわい」
頑張った、というのは少し大げさだとリグルは思った。
鋭く長い爪は必要がない。むしろ、絨毯に引っかかって大変だった。
ぎらつく牙も、見せると怖がられる。怖がられるのは寂しかった。だから極力口は開きたくない。
生まれもった大きな体躯も、相手を威圧してしまう。だから、なるべく二足で立つことを控えているだけだ。
だから頑張ったことといえば、まだ小さかった孫たち二人にだけは早く馴染めるようにと、強く甘えることを我慢したことくらいか。
「グルっ」
「リグルもいい子に育ったが、謙虚すぎていかんの」
その鳴き声だけでリグルの思いを汲み、老人はそう呟きながらリグルの頭を撫でた。
「グルルン!」
その撫でが心地いいのだろう。ぺたりと右耳を伏せ、ふかふかの毛並みと尻尾を上機嫌に揺らしながら幸せそうな顔を浮かべるのだった。
――――数時間後、その生活に亀裂が走るとは知らずに。
●
この街の人口は他の都市と比べても、これといって多いわけではない。
一番の特徴といえば、工業系の建造物が多いことだ。
増築や改築。あるいは逆に細い道を無理やりに通し、必要の無くなった建造物の中には使われなくなったまま放置されているものもある。
そんな街だからだろう。迷路のように入り組んだ路地が形成され、街の領主でさえもそのすべてを洗い出し切れてはいない。
そんな街に日陰者が多く潜むのは自然だった。
この街には工業地区が多い他にもう一つ、大きな特徴がある。
それは不良やチンピラといった柄の悪い連中が異常なほど多いということだ。
●
静謐な夜の空気にガラスの割れる音が響き渡り、そのコボルドは何事かと飛び起きた。
混乱したのは一瞬で、音源が主人である老人の部屋の方角だと気づくやいなや、全脚力を使って走り出だす。
壷が割れる音が鳴り。箪笥が倒れたのか、床が僅かに振動する。
聞こえてくるのは聞き覚えのない男の声だ。
「おいおいおい? ここってば領主の屋敷だろう? いくらなんでもシケすぎじゃねーか」
「アニキ! こっちの箪笥にゃなにもありやせんぜ!」
「あーあ、まじでなんもねえ。どうするよアニキ」
三人の男たちがそれぞれ愚痴をもらす。
「阿呆、が……。息子の屋敷と間違えるなんぞ、とんだ愚か者が忍び込んだものじゃの……」
「ンあ?? よれよれのジジィが調子に乗ったこといってんじゃねーぞ!!」
ゴスッという鈍い音が鳴るのと、コボルドが老人の寝室に飛び込むのは殆ど同時。
その獣の瞳に映り込んだのは、金属棒を振り下ろした男と、ぐったりと崩れ落ちる老人の姿……。
コボルドの思考が白で塗りつぶされ、次に、赤黒い斑点が思考を染め上げていく。
「ったく、あーあ。とんだ無駄骨じゃねーかよ…………、お?」
素っ頓狂に語尾を濁したのは、アニキと呼ばれていた男。
舎弟と思われる二人がその声に反応しようとするが、それよりも速く、舎弟の一人のシルエットがグシャリと折れた。
「……え?」
その声を発したのは、まだ無事なほうの舎弟だった。
視線の先には、その肩から夥しい血を流す舎弟仲間と、乱立する牙を突き立てた大型コボルドの姿……。
「ガウウウウウウウ…………」
低く唸る獣の声で正気に戻ったのか、アニキと舎弟、無事な二人が割れた窓へと引き返す。
その二人の背中目掛けて、コボルドは咥えていた意識のないチンピラをフルスイングで投げつけた。
ガッシャーンという、盛大な音が屋敷に響き渡る。
すでに割れていた窓ガラスが無残にはじけ、三人のチンピラは屋外へと投げ出された。
「…………」
その大型コボルド――リグルは横たわった主人へと顔を近づける。
「…………リ、グ……」
意識は朦朧としているようだが、確かに息はあった。
流血するような傷はないが、代わりにその片足は、不自然に折れ曲がっている。
「…………」
リグルは主人の体を押し、楽な体勢にしてやると、割れた窓を抜け星空の下へと姿をさらす。
外でガラスの破片と共に倒れているのは、右肩から血を流す意識のないチンピラただ一人だけ。
残りの二人はどうやら逃げたらしい。
●
その日の夜、屋敷の近隣に住んでいた人々は轟く雄叫びで目を覚ました。
その異変に気づき、いちはやく屋敷を訪れた住民が目撃したのは止めることなく吼え続ける大型コボルドの姿だったという。
●
リグルはやってきた目撃者を一瞥すると、獲物を追って夜の闇へと消えた。
五年前のことになる。
生まれつき左耳は無く、幼体にしては一回り以上大きい体格。胎内から落ちると同時に母を死なせてしまったその異形のコボルドが群れから見放されるのは当然の流れだった。
生まれて間もないコボルドに狩りの知識はない。ただ衰弱死を待つだけだったそのコボルドに手を差し伸べたのは、当時、体の衰えを感じ引退を考えていた猟師の老人だった。
●
老人の息子がとある街の領主だったことも幸いし、普通より体格の大きいコボルドでも生活に支障のない広さの屋敷に住めた。老人はそのコボルドと家族のように接し、愛情を込めて育て、『リグル』という名前を与えられた。
「なぁリグル。次の月に孫たちが遊びにくるんじゃが、覚えておるか?」
もちろん覚えていた。
「グルルっ」と小さく鳴き、それを返事とする。
「そうか、そうか。孫たちも昔はリグルのこと怖がってたが……リグルも頑張ったからの。楽しみじゃわい」
頑張った、というのは少し大げさだとリグルは思った。
鋭く長い爪は必要がない。むしろ、絨毯に引っかかって大変だった。
ぎらつく牙も、見せると怖がられる。怖がられるのは寂しかった。だから極力口は開きたくない。
生まれもった大きな体躯も、相手を威圧してしまう。だから、なるべく二足で立つことを控えているだけだ。
だから頑張ったことといえば、まだ小さかった孫たち二人にだけは早く馴染めるようにと、強く甘えることを我慢したことくらいか。
「グルっ」
「リグルもいい子に育ったが、謙虚すぎていかんの」
その鳴き声だけでリグルの思いを汲み、老人はそう呟きながらリグルの頭を撫でた。
「グルルン!」
その撫でが心地いいのだろう。ぺたりと右耳を伏せ、ふかふかの毛並みと尻尾を上機嫌に揺らしながら幸せそうな顔を浮かべるのだった。
――――数時間後、その生活に亀裂が走るとは知らずに。
●
この街の人口は他の都市と比べても、これといって多いわけではない。
一番の特徴といえば、工業系の建造物が多いことだ。
増築や改築。あるいは逆に細い道を無理やりに通し、必要の無くなった建造物の中には使われなくなったまま放置されているものもある。
そんな街だからだろう。迷路のように入り組んだ路地が形成され、街の領主でさえもそのすべてを洗い出し切れてはいない。
そんな街に日陰者が多く潜むのは自然だった。
この街には工業地区が多い他にもう一つ、大きな特徴がある。
それは不良やチンピラといった柄の悪い連中が異常なほど多いということだ。
●
静謐な夜の空気にガラスの割れる音が響き渡り、そのコボルドは何事かと飛び起きた。
混乱したのは一瞬で、音源が主人である老人の部屋の方角だと気づくやいなや、全脚力を使って走り出だす。
壷が割れる音が鳴り。箪笥が倒れたのか、床が僅かに振動する。
聞こえてくるのは聞き覚えのない男の声だ。
「おいおいおい? ここってば領主の屋敷だろう? いくらなんでもシケすぎじゃねーか」
「アニキ! こっちの箪笥にゃなにもありやせんぜ!」
「あーあ、まじでなんもねえ。どうするよアニキ」
三人の男たちがそれぞれ愚痴をもらす。
「阿呆、が……。息子の屋敷と間違えるなんぞ、とんだ愚か者が忍び込んだものじゃの……」
「ンあ?? よれよれのジジィが調子に乗ったこといってんじゃねーぞ!!」
ゴスッという鈍い音が鳴るのと、コボルドが老人の寝室に飛び込むのは殆ど同時。
その獣の瞳に映り込んだのは、金属棒を振り下ろした男と、ぐったりと崩れ落ちる老人の姿……。
コボルドの思考が白で塗りつぶされ、次に、赤黒い斑点が思考を染め上げていく。
「ったく、あーあ。とんだ無駄骨じゃねーかよ…………、お?」
素っ頓狂に語尾を濁したのは、アニキと呼ばれていた男。
舎弟と思われる二人がその声に反応しようとするが、それよりも速く、舎弟の一人のシルエットがグシャリと折れた。
「……え?」
その声を発したのは、まだ無事なほうの舎弟だった。
視線の先には、その肩から夥しい血を流す舎弟仲間と、乱立する牙を突き立てた大型コボルドの姿……。
「ガウウウウウウウ…………」
低く唸る獣の声で正気に戻ったのか、アニキと舎弟、無事な二人が割れた窓へと引き返す。
その二人の背中目掛けて、コボルドは咥えていた意識のないチンピラをフルスイングで投げつけた。
ガッシャーンという、盛大な音が屋敷に響き渡る。
すでに割れていた窓ガラスが無残にはじけ、三人のチンピラは屋外へと投げ出された。
「…………」
その大型コボルド――リグルは横たわった主人へと顔を近づける。
「…………リ、グ……」
意識は朦朧としているようだが、確かに息はあった。
流血するような傷はないが、代わりにその片足は、不自然に折れ曲がっている。
「…………」
リグルは主人の体を押し、楽な体勢にしてやると、割れた窓を抜け星空の下へと姿をさらす。
外でガラスの破片と共に倒れているのは、右肩から血を流す意識のないチンピラただ一人だけ。
残りの二人はどうやら逃げたらしい。
●
その日の夜、屋敷の近隣に住んでいた人々は轟く雄叫びで目を覚ました。
その異変に気づき、いちはやく屋敷を訪れた住民が目撃したのは止めることなく吼え続ける大型コボルドの姿だったという。
●
リグルはやってきた目撃者を一瞥すると、獲物を追って夜の闇へと消えた。
リプレイ本文
●
常に掃除され、清潔に保たれている治療施設の一室。医療用の計測器の添えられたベッドには依頼主である領主の父であり、リグルの飼い主である老人が療養中だった。
病室には老人の他に、領主。依頼を受けたハンター達が集まっている。
彼らは既に形式的な挨拶を済ませ、依頼解決のための質問や確認などを行っていた。
「じゃあ今回の依頼、リグルについては説得、逃走したチンピラ連中は軽く痛めつけて確保ってことでいいか?」
コウ(ka3233)の言葉に、ベッドを挟んで反対側に立つ領主が頷く。
今回の依頼、特にリグルの扱いについては既にハンター達の意見は固まっていた。
見つけ次第、説得。その後、リグルが住民に受け入れてもらえるように根回しやサポートを手分けして行う。
「…………感謝、しますじゃ」
寝たきりとなっている老人がひどく掠れた声で、ハンター達にお礼をいう。やはり老人もリグルがどう扱われるのか心配だったのだろう。
●
安心したのか老人は眠ってしまったため、ハンター達は病室を出た。
「それじゃあ私は領主さんに案内してもらって、リグルくんを説得する材料を探してくるね。犬用のおもちゃとかあるかなー、ぬいぐるみとかっ」
「ではわたくしも宵待殿にお供します。捜索のために逃走者の血痕を採取する必要がございます故」
宵待 サクラ(ka5561)が無邪気に笑いながら駆け出し、軽く会釈をして空蝉(ka6951)もその後に続く。二人は領主から屋敷の位置を教えてもらうと、足早に医療施設から出て行ってしまう。
「私は話していた通り、確保されたというチンピラさんから何か情報を引き出せないか試してみます。お二人はどうしますか?」
既に領主の父には浄癒などである程度回復してもらっている。老人がベッドでぐったりしていたのは怪我よりも、心労が原因だろう。
穂積 智里(ka6819)の言葉にコウ、イルミナ(ka5759)はそれぞれどう行動するつもりかを話す。
「俺はフライングスレッドを使って高所から探すつもりだ。現時点で逃走中のチンピラの情報は無いといっていい。リグルを見つけ次第、連絡を入れる」
「私は老人の屋敷に押し入ったチンピラの情報を集めてみるわ。怪我をしたチンピラがすぐに目を覚ませばいいんだけど……」
「わかりました。意識を取り戻したチンピラから情報を得次第、皆さんに回しますね」
穂積は確保したチンピラがいるという施設へと向かった。
イルミナと二人きりになると、コウは深く息を吐く。
「ったく……すくえねえなあ……」
コウは自身の身の上と、事件を起こしたチンピラを比べ、少々苛立っていた。
イルミナもコウの過去を知っているからか、コウの独り言に言葉を返すことはない。
「……見つけましょう」
たった一言。感情の機微の読み取りにくい声音だったが、コウも頷き、表情を引き締めた。
「ああ、急いで見つけてやろう」
コウとイルミナも、それぞれ行動を開始した。
●
「うん、あったあった」
老人の屋敷にやってきた宵待は、ビックサイズのクマのぬいぐるみを両手で抱える。
ちなみに、老人のハンカチもこの屋敷で入手済みだ。
空蝉は既にチンピラの血痕を回収しているため、屋敷の外にいる。
「やっぱりリグルくん、すごく大事にされてたんだなー」
リグルの熊のぬいぐるみが置いてあった部屋を見渡しながら、宵待はニコニコと嬉しそうだった。「よいしょっ」という掛け声と共に、熊のぬいぐるみを背負うと屋敷の外に出た。その後ろを二匹の柴犬がてこてこと追従する。
外には血痕を回収し終えたらしい空蝉が、狛犬にチンピラの臭いを覚えさせているようだった。イヌワシは既に飛び立った後らしく、離れた空に小さな影が見える。
「それでは、この臭いを辿ってください」
狛犬は空蝉の命令に首肯し、すぐさま走り出す。
「太郎も、モコ四郎も、リグルくんを追っかけるよー」
「「わんっ」」
二匹の柴犬も、狛犬を追うように走り出した。
「では、わたくし達も行きましょう」
「そうだね」
●
確保したチンピラは意識を取り戻していた。
聞き取りを行っているのは穂積だ。
しかし、その成果は芳しくなかった。逃走する二人のチンピラの名前と、その生活区域は容易に聞き出せたが、それだけだと位置の特定はむずかしい。外見の特徴も印象は薄く、捜索の手がかりとしてとしては弱かった。
入手した情報を通信機で皆に送ると、穂積も次の行動へと移る。
向かったのは酒場だ。位置情報は事前に領主から聞き出しておいた。
「~~♪ ~~~~♪ ~♪」
運よく酒場には吟遊詩人と思われる旅人のような格好の男が、楽器を片手に詠っていた。
穂積はキリのいい間を見て吟遊詩人に話を持ちかける。
「お年寄りの狩人が拾って育てたコボルドが、臆病でバカな3人組の強盗を吠えて追い払ったという歌を、誰でも口ずさめるような明るい分かりやすい童謡のような形で作って広めていただきたいのです」
穂積は依頼を受けてくれた吟遊詩人に依頼料を渡すと、自らも捜索へと向かった。
●
フライングスレッドを使って高所まで上ったコウは、街を見渡す。
工業地特有の詰まった四角い建造物群が視界に広がる。近景ならば建物同士の隙間から路地が見えるが、遠景は殆ど見えない。結果、移動しては停止して一望を繰り返すことになる。
穂積からの連絡でチンピラの生活区域の特定は住んでいる。今はその近辺にアタリを付けて捜索していた。
「ここには……いねえなあ」
かれこれ一時間は経過しただろうか。
正直、既にチンピラ連中がリグルに追いつかれているのではないか、とすら思ってしまう。
「……それでも、地道に探すしかねえか」
今のところ、追加情報はない。そもそもチンピラ連中がリグルからどうやって逃げ延びているのか……。
●
迷路のように入り組んだ道の途中で、イルミナは適当なチンピラを捕まえ、その区域を束ねているというボスの元に案内してもらっていた。
案内された廃工場で待っていたのはドレッドヘアの男だ。
「領主の父親の屋敷から逃げた賊を追っているの。どこにいるか知らない?」
逃げている二人と、確保されている一人の名前を出し、威圧をかけながらイルミナは問う。しかし、ドレッドヘアの男は肩を竦めて首を振った。
「残念だが俺に協力できることはねぇ。縄張りごとに地図があんだよ、パズルのピースみたいに区分けされた地図がな。たぶんソイツらチンピラ仲間と地図の情報を交換しつつ、そのでけぇコボルドが通れない道を選んで逃げてるんだろ」
「…………そう」
少なくとも、目の前の男が逃走者二人を匿っているような感じはしない。領主が捜索隊を組んでいるとハッタリを仄めかしても、動じた様子がなかった。
●
『リグルくんを発見しました』
連絡を入れたのは宵待。殆ど同時に、
『わたくしも同じく、狛犬が標的を捕捉』
空蝉からの吉報。
リグルと逃走者二人、ハンター達にそれぞれの位置情報が渡る。
『ここからだと……俺はリグルのほうが近いな。イルミナはどうだ?』
『私は逆ね。賊のほうが近いわ』
『私もチンピラさんの近くです』
単純に距離で二手に分けるならリグルに宵待とコウ。チンピラ二人に空蝉、イルミナ、穂積となるが……。
『賊に三人もいらない』
というイルミナの言により、リグルに宵待、コウ、イルミナ。チンピラ二人に空蝉、穂積となった。
●
空蝉の視線の先。二人のチンピラがそれぞれ別々の方向へと分かれる。
ハンターの視線でも感じ取ったのか、それともチンピラ特有の危険察知なのか。
空蝉は片方のチンピラにイヌワシを付け、穂積へメッセージを送る。
『穂積殿。賊もどうやら二手に分かれるようでございます。片方、イヌワシが目印として追跡してございます故、そちらの賊を穂積殿にお願い致します』
『イヌワシさんの方が私ですね。わかりました』
通信を終え、改めて標的を視界の中心に捉えた。
「――――ターゲット照合一致。目標認識。捕獲開始。対象ノ生存確保ヲ最優先。逃走ヲ阻止シマス」
瞳の奥のシグナルランプが点灯し、穏やかだった口調も機械的なソレへと変わる。
「な、なんだぁテメェ!?」
突如響いた異様な声に、チンピラは驚きつつも刃物を構えようとするが――遅い。
放たれた活人剣がチンピラの意識を一瞬で刈り取る。チンピラは泡を噴きながら頽れ、刃物が手を離れて地面に落ちた。
「では拘束させていただきます」
空蝉はチンピラの衣服の一部を帯状に破くと強く捻り、強度を高めた上で手足を拘束した。
●
イヌワシを追っていくと、穂積は息を切らした男を発見した。
「あなたが屋敷を襲ったチンピラさんですね?」
念のためにと確認を取る。
その一言に対し、びくりと震えながら男は振り返えった。
「もう逃げられないことはわかっているのでしょう? 素直に投降――――」
「うおおぉぉぉ!!」
「やっぱり最後まで聞いてくれませんか……」
振り上げられた拳が穂積に迫る。
しかし拳は届かず、展開した攻性防壁によって弾かれた。気を失った男は麻痺によってひくひくと全身を痙攣させていた。
●
突き出た鼻を地面に近づけて、臭いを嗅ぎ分ける。身体を起こし、標的の方角へと駆ける。
瞳に宿すのは純粋な怒り。人間風に言うなら、アイツだけは一発ぶん殴らねぇと気がすまない、といったところか。
しかしまた壁にぶつかる。リグルの図体では通ることのできない建物同士の隙間がそこにはあった。吼えたい衝動を堪え、また獲物の臭いを探す。
そんな動作を繰り返すリグルの前に三人のハンターが現れる。
「俺の言葉がわかるか? 落ち着け、リグル」
コウが一歩前に出、攻撃の意思がないことをアピールするために軽く手を上げる。
しかし、リグルは警戒を弱めることなく「グルルル」と威嚇に喉を振るわせる。牙を見せ付けるように剥き出しにし、低く低く唸る。
「「わんっ」」
緊張感が支配する空間に、場違いなほど甲高い犬の鳴き声が割って入った。それは宵待が連れている二匹の柴犬。太郎と百九十四郎(モコ太郎)だ。
リグルの視線がコウからそれ、二匹の柴犬と、宵待に移る。
「リグルくん。これ、見て!」
その手で掲げたのは一枚のハンカチだ。そして宵待の足元には先ほどまで背負っていた大きな熊のぬいぐるみもある。
その二つはリグルにとって、家族の象徴だった。隣にいると誓った主人。そして、主人の家族から贈られた品。リグルは唸るのをやめた。しかしそれでも警戒心がまだ残っているのか、その場から一歩も動こうとはしない。
「リグルくん、きみのご主人様とその息子さんがすっごく心配してた! 息子さんに言われて探しに来たんだ。はやくおうちに帰ろう!」
「お前の爺さんにあった。大丈夫だ、生きてる。ここでお前があいつらをやっちまったら、爺さんを裏切ることになんぞ!」
二人の必死の説得。それでもリグルは動こうとはしない。耳はたれ、尻尾も大人しい。腰も屈めて小さくなり、既に戦意はないようにみえる。それでも何故か、コウ達へとは近づいてこない。そこには主人の持ち物と、大切なぬいぐるみがあるというのに。
行き場のない怒りが、解消されることなくリグルの内で渦巻いていた。
そんなリグルに、そっと歩み寄る影が一つ。
イルミナだ。
背伸びをして、リグルの頭をそっと手で撫でる。彼女はそっと目を伏せ、抱いた感情を紡ぐ。
「…………お爺さんを一人にはしないで」
それは家族を失い、孤独に呑まれた過去がある彼女だからこそリグルに伝えたい言葉だった。
広い屋敷に二人ぼっち。使用人がするのは身の回りの世話だけで。あの老人の心を埋めていたのはリグルだったはずだ。
今ベッドで寝ているあの老人は、きっと寂しさで苦しんでいる。それは、怒りで屋敷を飛び出したリグルだってかわらない。孤独が始まりだったリグルだからこそ、主人を孤独にするのはつらかった。
イルミナはリグルから手を離すと、コウ達の立つ場所まで戻り、
「……さ、帰りましょう。リグル」
●
紙吹雪が舞って、広場はパレードのような賑やかさに包まれていた。
中心にいるのはリグル。その背には何故か、宵待が乗ってはしゃいでいた。
軽快な音楽が響き、吟遊詩人の詩が子供達の声で詠われる。合唱だった。その内容は勿論、穂積が事前に根回ししておいたため喜劇調のものとなっている。
「ここまでやってくれるとは……本当に、何とお礼をいえばいいのか」
その光景に領主はハンカチが手放せなくなっていた。
リグルの誤解を解き、悪い噂を正す。今日一日でなんとかなる事柄ではないが、子供達が受け入れているのだ。
空蝉からのアドバイスのもと、大人たちへの事情説明も悪くはない掴みだった。全員が納得したわけではないだろうが、領主も根気よく説得していくとのこと。時間はまだ掛かるかもしれないが、住民もきっとリグルを受け入れてくれるだろう。
木製の車椅子のようなものに腰掛けて、リグルの主人である老人も遠くからリグルを眺めていた。
傍らには小さな女の子。手には赤い花が握られていた。その女の子は老人と楽しそうに少しだけ言葉を交わすと、老人から一旦離れていく。
きっと女の子はこれからハンター達のもとを回り、赤い花を一輪ずつ手渡して、まだ舌足らずな口でお礼を言うのだろう。
「りぐーちゃんを、たすけてくれて、ありがとうございます!」
―― END ――
常に掃除され、清潔に保たれている治療施設の一室。医療用の計測器の添えられたベッドには依頼主である領主の父であり、リグルの飼い主である老人が療養中だった。
病室には老人の他に、領主。依頼を受けたハンター達が集まっている。
彼らは既に形式的な挨拶を済ませ、依頼解決のための質問や確認などを行っていた。
「じゃあ今回の依頼、リグルについては説得、逃走したチンピラ連中は軽く痛めつけて確保ってことでいいか?」
コウ(ka3233)の言葉に、ベッドを挟んで反対側に立つ領主が頷く。
今回の依頼、特にリグルの扱いについては既にハンター達の意見は固まっていた。
見つけ次第、説得。その後、リグルが住民に受け入れてもらえるように根回しやサポートを手分けして行う。
「…………感謝、しますじゃ」
寝たきりとなっている老人がひどく掠れた声で、ハンター達にお礼をいう。やはり老人もリグルがどう扱われるのか心配だったのだろう。
●
安心したのか老人は眠ってしまったため、ハンター達は病室を出た。
「それじゃあ私は領主さんに案内してもらって、リグルくんを説得する材料を探してくるね。犬用のおもちゃとかあるかなー、ぬいぐるみとかっ」
「ではわたくしも宵待殿にお供します。捜索のために逃走者の血痕を採取する必要がございます故」
宵待 サクラ(ka5561)が無邪気に笑いながら駆け出し、軽く会釈をして空蝉(ka6951)もその後に続く。二人は領主から屋敷の位置を教えてもらうと、足早に医療施設から出て行ってしまう。
「私は話していた通り、確保されたというチンピラさんから何か情報を引き出せないか試してみます。お二人はどうしますか?」
既に領主の父には浄癒などである程度回復してもらっている。老人がベッドでぐったりしていたのは怪我よりも、心労が原因だろう。
穂積 智里(ka6819)の言葉にコウ、イルミナ(ka5759)はそれぞれどう行動するつもりかを話す。
「俺はフライングスレッドを使って高所から探すつもりだ。現時点で逃走中のチンピラの情報は無いといっていい。リグルを見つけ次第、連絡を入れる」
「私は老人の屋敷に押し入ったチンピラの情報を集めてみるわ。怪我をしたチンピラがすぐに目を覚ませばいいんだけど……」
「わかりました。意識を取り戻したチンピラから情報を得次第、皆さんに回しますね」
穂積は確保したチンピラがいるという施設へと向かった。
イルミナと二人きりになると、コウは深く息を吐く。
「ったく……すくえねえなあ……」
コウは自身の身の上と、事件を起こしたチンピラを比べ、少々苛立っていた。
イルミナもコウの過去を知っているからか、コウの独り言に言葉を返すことはない。
「……見つけましょう」
たった一言。感情の機微の読み取りにくい声音だったが、コウも頷き、表情を引き締めた。
「ああ、急いで見つけてやろう」
コウとイルミナも、それぞれ行動を開始した。
●
「うん、あったあった」
老人の屋敷にやってきた宵待は、ビックサイズのクマのぬいぐるみを両手で抱える。
ちなみに、老人のハンカチもこの屋敷で入手済みだ。
空蝉は既にチンピラの血痕を回収しているため、屋敷の外にいる。
「やっぱりリグルくん、すごく大事にされてたんだなー」
リグルの熊のぬいぐるみが置いてあった部屋を見渡しながら、宵待はニコニコと嬉しそうだった。「よいしょっ」という掛け声と共に、熊のぬいぐるみを背負うと屋敷の外に出た。その後ろを二匹の柴犬がてこてこと追従する。
外には血痕を回収し終えたらしい空蝉が、狛犬にチンピラの臭いを覚えさせているようだった。イヌワシは既に飛び立った後らしく、離れた空に小さな影が見える。
「それでは、この臭いを辿ってください」
狛犬は空蝉の命令に首肯し、すぐさま走り出す。
「太郎も、モコ四郎も、リグルくんを追っかけるよー」
「「わんっ」」
二匹の柴犬も、狛犬を追うように走り出した。
「では、わたくし達も行きましょう」
「そうだね」
●
確保したチンピラは意識を取り戻していた。
聞き取りを行っているのは穂積だ。
しかし、その成果は芳しくなかった。逃走する二人のチンピラの名前と、その生活区域は容易に聞き出せたが、それだけだと位置の特定はむずかしい。外見の特徴も印象は薄く、捜索の手がかりとしてとしては弱かった。
入手した情報を通信機で皆に送ると、穂積も次の行動へと移る。
向かったのは酒場だ。位置情報は事前に領主から聞き出しておいた。
「~~♪ ~~~~♪ ~♪」
運よく酒場には吟遊詩人と思われる旅人のような格好の男が、楽器を片手に詠っていた。
穂積はキリのいい間を見て吟遊詩人に話を持ちかける。
「お年寄りの狩人が拾って育てたコボルドが、臆病でバカな3人組の強盗を吠えて追い払ったという歌を、誰でも口ずさめるような明るい分かりやすい童謡のような形で作って広めていただきたいのです」
穂積は依頼を受けてくれた吟遊詩人に依頼料を渡すと、自らも捜索へと向かった。
●
フライングスレッドを使って高所まで上ったコウは、街を見渡す。
工業地特有の詰まった四角い建造物群が視界に広がる。近景ならば建物同士の隙間から路地が見えるが、遠景は殆ど見えない。結果、移動しては停止して一望を繰り返すことになる。
穂積からの連絡でチンピラの生活区域の特定は住んでいる。今はその近辺にアタリを付けて捜索していた。
「ここには……いねえなあ」
かれこれ一時間は経過しただろうか。
正直、既にチンピラ連中がリグルに追いつかれているのではないか、とすら思ってしまう。
「……それでも、地道に探すしかねえか」
今のところ、追加情報はない。そもそもチンピラ連中がリグルからどうやって逃げ延びているのか……。
●
迷路のように入り組んだ道の途中で、イルミナは適当なチンピラを捕まえ、その区域を束ねているというボスの元に案内してもらっていた。
案内された廃工場で待っていたのはドレッドヘアの男だ。
「領主の父親の屋敷から逃げた賊を追っているの。どこにいるか知らない?」
逃げている二人と、確保されている一人の名前を出し、威圧をかけながらイルミナは問う。しかし、ドレッドヘアの男は肩を竦めて首を振った。
「残念だが俺に協力できることはねぇ。縄張りごとに地図があんだよ、パズルのピースみたいに区分けされた地図がな。たぶんソイツらチンピラ仲間と地図の情報を交換しつつ、そのでけぇコボルドが通れない道を選んで逃げてるんだろ」
「…………そう」
少なくとも、目の前の男が逃走者二人を匿っているような感じはしない。領主が捜索隊を組んでいるとハッタリを仄めかしても、動じた様子がなかった。
●
『リグルくんを発見しました』
連絡を入れたのは宵待。殆ど同時に、
『わたくしも同じく、狛犬が標的を捕捉』
空蝉からの吉報。
リグルと逃走者二人、ハンター達にそれぞれの位置情報が渡る。
『ここからだと……俺はリグルのほうが近いな。イルミナはどうだ?』
『私は逆ね。賊のほうが近いわ』
『私もチンピラさんの近くです』
単純に距離で二手に分けるならリグルに宵待とコウ。チンピラ二人に空蝉、イルミナ、穂積となるが……。
『賊に三人もいらない』
というイルミナの言により、リグルに宵待、コウ、イルミナ。チンピラ二人に空蝉、穂積となった。
●
空蝉の視線の先。二人のチンピラがそれぞれ別々の方向へと分かれる。
ハンターの視線でも感じ取ったのか、それともチンピラ特有の危険察知なのか。
空蝉は片方のチンピラにイヌワシを付け、穂積へメッセージを送る。
『穂積殿。賊もどうやら二手に分かれるようでございます。片方、イヌワシが目印として追跡してございます故、そちらの賊を穂積殿にお願い致します』
『イヌワシさんの方が私ですね。わかりました』
通信を終え、改めて標的を視界の中心に捉えた。
「――――ターゲット照合一致。目標認識。捕獲開始。対象ノ生存確保ヲ最優先。逃走ヲ阻止シマス」
瞳の奥のシグナルランプが点灯し、穏やかだった口調も機械的なソレへと変わる。
「な、なんだぁテメェ!?」
突如響いた異様な声に、チンピラは驚きつつも刃物を構えようとするが――遅い。
放たれた活人剣がチンピラの意識を一瞬で刈り取る。チンピラは泡を噴きながら頽れ、刃物が手を離れて地面に落ちた。
「では拘束させていただきます」
空蝉はチンピラの衣服の一部を帯状に破くと強く捻り、強度を高めた上で手足を拘束した。
●
イヌワシを追っていくと、穂積は息を切らした男を発見した。
「あなたが屋敷を襲ったチンピラさんですね?」
念のためにと確認を取る。
その一言に対し、びくりと震えながら男は振り返えった。
「もう逃げられないことはわかっているのでしょう? 素直に投降――――」
「うおおぉぉぉ!!」
「やっぱり最後まで聞いてくれませんか……」
振り上げられた拳が穂積に迫る。
しかし拳は届かず、展開した攻性防壁によって弾かれた。気を失った男は麻痺によってひくひくと全身を痙攣させていた。
●
突き出た鼻を地面に近づけて、臭いを嗅ぎ分ける。身体を起こし、標的の方角へと駆ける。
瞳に宿すのは純粋な怒り。人間風に言うなら、アイツだけは一発ぶん殴らねぇと気がすまない、といったところか。
しかしまた壁にぶつかる。リグルの図体では通ることのできない建物同士の隙間がそこにはあった。吼えたい衝動を堪え、また獲物の臭いを探す。
そんな動作を繰り返すリグルの前に三人のハンターが現れる。
「俺の言葉がわかるか? 落ち着け、リグル」
コウが一歩前に出、攻撃の意思がないことをアピールするために軽く手を上げる。
しかし、リグルは警戒を弱めることなく「グルルル」と威嚇に喉を振るわせる。牙を見せ付けるように剥き出しにし、低く低く唸る。
「「わんっ」」
緊張感が支配する空間に、場違いなほど甲高い犬の鳴き声が割って入った。それは宵待が連れている二匹の柴犬。太郎と百九十四郎(モコ太郎)だ。
リグルの視線がコウからそれ、二匹の柴犬と、宵待に移る。
「リグルくん。これ、見て!」
その手で掲げたのは一枚のハンカチだ。そして宵待の足元には先ほどまで背負っていた大きな熊のぬいぐるみもある。
その二つはリグルにとって、家族の象徴だった。隣にいると誓った主人。そして、主人の家族から贈られた品。リグルは唸るのをやめた。しかしそれでも警戒心がまだ残っているのか、その場から一歩も動こうとはしない。
「リグルくん、きみのご主人様とその息子さんがすっごく心配してた! 息子さんに言われて探しに来たんだ。はやくおうちに帰ろう!」
「お前の爺さんにあった。大丈夫だ、生きてる。ここでお前があいつらをやっちまったら、爺さんを裏切ることになんぞ!」
二人の必死の説得。それでもリグルは動こうとはしない。耳はたれ、尻尾も大人しい。腰も屈めて小さくなり、既に戦意はないようにみえる。それでも何故か、コウ達へとは近づいてこない。そこには主人の持ち物と、大切なぬいぐるみがあるというのに。
行き場のない怒りが、解消されることなくリグルの内で渦巻いていた。
そんなリグルに、そっと歩み寄る影が一つ。
イルミナだ。
背伸びをして、リグルの頭をそっと手で撫でる。彼女はそっと目を伏せ、抱いた感情を紡ぐ。
「…………お爺さんを一人にはしないで」
それは家族を失い、孤独に呑まれた過去がある彼女だからこそリグルに伝えたい言葉だった。
広い屋敷に二人ぼっち。使用人がするのは身の回りの世話だけで。あの老人の心を埋めていたのはリグルだったはずだ。
今ベッドで寝ているあの老人は、きっと寂しさで苦しんでいる。それは、怒りで屋敷を飛び出したリグルだってかわらない。孤独が始まりだったリグルだからこそ、主人を孤独にするのはつらかった。
イルミナはリグルから手を離すと、コウ達の立つ場所まで戻り、
「……さ、帰りましょう。リグル」
●
紙吹雪が舞って、広場はパレードのような賑やかさに包まれていた。
中心にいるのはリグル。その背には何故か、宵待が乗ってはしゃいでいた。
軽快な音楽が響き、吟遊詩人の詩が子供達の声で詠われる。合唱だった。その内容は勿論、穂積が事前に根回ししておいたため喜劇調のものとなっている。
「ここまでやってくれるとは……本当に、何とお礼をいえばいいのか」
その光景に領主はハンカチが手放せなくなっていた。
リグルの誤解を解き、悪い噂を正す。今日一日でなんとかなる事柄ではないが、子供達が受け入れているのだ。
空蝉からのアドバイスのもと、大人たちへの事情説明も悪くはない掴みだった。全員が納得したわけではないだろうが、領主も根気よく説得していくとのこと。時間はまだ掛かるかもしれないが、住民もきっとリグルを受け入れてくれるだろう。
木製の車椅子のようなものに腰掛けて、リグルの主人である老人も遠くからリグルを眺めていた。
傍らには小さな女の子。手には赤い花が握られていた。その女の子は老人と楽しそうに少しだけ言葉を交わすと、老人から一旦離れていく。
きっと女の子はこれからハンター達のもとを回り、赤い花を一輪ずつ手渡して、まだ舌足らずな口でお礼を言うのだろう。
「りぐーちゃんを、たすけてくれて、ありがとうございます!」
―― END ――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 イルミナ(ka5759) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/02/13 08:54:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/11 23:42:29 |