ゲスト
(ka0000)
英霊マゴイは不調です
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/02/21 22:00
- 完成日
- 2018/02/26 23:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●魔術師協会。
「マゴイと連絡がとれへんやと?」
「はい。例の通信機で何度交信してみても出ないんです……一応書簡送信機で文書は送れるんですけど、そっちもまた返信がなくて。まあ、忙しいだけかもしれないのですが……気掛かりでして。先だって行われました異界探索の報告からしますに、彼女、明らかに様子がいつもと違っていたそうですし」
「……うーん、まあ、そうやったらしいな。マゴイがそこまで情緒不安定になるとか、今一つ信じられけんけど」
「α・ステーツマンとマゴイさんとは、親しかったんですか?」
「まあ親しいっちゃ親しいやろな。マゴイはαの直属やったから」
「そうですか……」
「それにしても連絡とれへんちゅうのは気になるな。仕事が人生のあいつが」
「そうなんですよねえ……上層部も気にしてまして。これだけ長期間連絡が取れないということは、また島で何か起きているのではないかと。で、直接確かめてこいということになりまして。スペットさんも、一緒に来てくださいますか?」
「そら、行くわ。あいつがどうにかなりでもしたら、俺の顔戻る当てが一切なくなるさかいな」
猫鼻をひくひくさせるスペットは、急にガタンと立ち上がった。足元で声がしたからだ。
『さよーか、よかったのじゃ。βも一緒に行くなら安心じゃ。なにしろわし一人では、心細いでのう』
足元をのぞき込めば、しゃがみ潜んでいる黒うさぐるみ――英霊ぴょこにして、θ。そしてコボルドコボちゃん。
『わしもな、いささか気掛かりでな、マゴイが。一応、ほれ、英霊仲間じゃしな。あまり近づくのはまだちょっと、あれじゃけど。そうそう、通訳にコボも行くぞよ』
「わし!」
●ユニゾン島。クリオン島。もしくはマゴイ島。
コボルドたちは大変心配であった。どこかに出掛けていたマゴイが、とても元気を無くし帰ってきたからだ。
最近ずっと地下深い自分の巣穴へこもりがち。見回りには出てくるが、よく立ち止まり休んでいる。そして時折ぶわりと涙を浮かばせる。
白い服には血が付いたまま。どこか怪我しているらしい。そこが痛むのかもしれない。
マゴイは自分たちにとてもよくしてくれるとてもよいボスである。自分たちはボスが好きである。だから元気がないなら元気になれるようなことをしたい。何か力になれるようなことをしたい。
というわけで、彼らは集まって相談をした。
「まごい、げんきにするにはどうしたらいいとおもうか」
「げんきがないときおいしいものたべると、げんきがでる。まごいにもなにかごちそうすればいいとおもう」
「いいあんだけど、だめでないかな。まごいはなにもたべないから」
「あ、そうか」
「ぼす・まごいはしろいふくがよごれたままなので、かなしいのではないか? あらってあげたらふく、またしろくなってよろこぶとおもう」
「いいあんだけど、だめでないかな。ぼくらまごいにさわれないから」
「あ、そうか」
「しろいはなをあつめておくるのはどうだろう? たしかこのまえしまにきたおきゃくさんからしろいはなかごをもらって、よろこんでいたようなきがする」
「あ、それならできそう」
「やってみようか」
「でも、どこからはなをもってくる?」
「かんたん。かだんにいっぱいある」
「かだんのはなはかだんでさいてないとだめなのではないかな」
「あ、そうか」
これはという手立てがなかなか見つからないコボルドたち。車座になってああでもないこうでもないと話を続ける。
●島の周辺。
島にしょっちゅう出入りしている人魚たちもまた、マゴイについて話し合っていた。
彼女たちはコボルドよりも精霊という存在に詳しい。
マゴイの服が汚れたままなのは、負のマテリアルによる汚染を自分で除去出来ない位弱っているからである。人間に例えるなら、免疫力が著しく下がっているのである。安静にしているだけではなかなか元の状態まで回復しにくいだろう。外部から何らか働きかける必要がある――というところまでは分かっている。
「なんでも、とても環境の悪いところに行かれたみたいよ」
「それで体調を崩されたのね」
「皆で歌ってあげましょうか。そうしたら精霊というのは、元気になるものよ」
「そうね。でもあの方、最近ずっと寝込まれているみたいで、なかなか海まで出てきてくれないわ」
「じゃあ、こちらから行ってみましょうか」
結論がまとまりかけたところで彼女たちは、水平線を見る。
「あら、船が来た」
「グリークさんの船が来たわ」
●マゴイさんは不調です。
市民生産機関会議室。
白い花籠が傍らに置かれた席でマゴイは、ぼそぼそ言った。
『……今日の会議を始めます……』
体が重い。だるい。すぐ疲れる。わけもなく涙が出る。これすなわち皆不安定の兆候である。
まことによろくない。
それが分かっているのにマゴイは、自分ではどうにも出来なかった。
調整室へ行ってセルフ調整をかければその当座はすっきりするのだが、しばらくするとまた元の状態に戻ってしまう。亜空間で休んでみても同じことだ。
『……前はこんなことはなかったのに……』
新しいユニオンをちゃんと管理してやらなければ。ワーカーが待っている。
そう思って気持ちを奮い立たせようとするのだが、そのつど虚無内で起きたことが頭をよぎり、がくっと士気が落ちる。
α・ステーツマンがいれば留保案件がすぐ片付くと思っていたのに。
ユニオンをもっとよくしてくれると思っていたのに。
それがあんなことを言うなんて。あんなことをするなんて。
ウテルス。かわいそうなウテルス。苦しんで死んでしまった。そして今も苦しみ続けている。あの世界で。
『……何故こうなっているのか意見を……』
それだけ言ってマゴイは、力つきたように机に伏した。答える声はどこにもない。
当然だ、1人会議をしているのだから。
異界の中にはあんなにたくさんマゴイがいたのにここには私だけ。
マゴイは初めて、1人で会議は出来ないのだということをひしひしと実感した。
リプレイ本文
●人魚たちの話
ハンターたちは船に寄ってきた人魚たちに、マゴイの現況について尋ねた。
人魚たちはすぐ教えてくれた。
「精霊様は帰って来られてから、ずっと島の中に籠もっておられます」
「これまでだったら、海の方にもちょくちょく出て来られていたのですが……」
「そういうわけで私たち、歌を歌ってさしあげようと思いまして。そうすれば精霊は、元気になるものですから」
天竜寺 詩(ka0396)は異界から帰還した際、マゴイがひどく落胆していたことを思う。
(先日のユニオンの様子は過去の出来事だけど、マゴイは初めて見る光景だから衝撃も大きかったんだろうな)
レイア・アローネ(ka4082)は人魚に質問した。
「マゴイは島のどこにいるんだ? よかったら教えてもらいたいのだが」
「私たちは陸に上がれませんから、よく分かりません」
「コボルドたちのほうが、詳しいことを知っていると思います」
「最近は彼らもあまり、浜に出て来ませんけどね」
眉を八の字にしたミオレスカ(ka3496)が、ルベーノ・バルバライン(ka6752)に言う。
「なんだか、様子が良くないみたいですね」
「そのようだな。恐らくあいつらも意気消沈しているだろうとは思っていたが」
マルカ・アニチキン(ka2542)は額に手をかざし、前方の島を見やった。
スペットが顔を手のひらで仰ぐ。
「もっと便のええとこにユニオン作ったらええのになあ……行き来に時間かかり過ぎやでほんま」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は船の舳先で頭をかいている。
「マゴイ殿の元気がないと? そもそもなんとなくボーっとしておる姿しか思いつかぬで元気かどうかの判断がつかにくいのう……飛んだり跳ねたりするわけでもなく……あ、いつぞや飛んではいたかの」
詩は人魚達に、自分たちに同行してくれるよう持ちかけた。
「あなたたちもマゴイを気にしてるんだよね? それじゃ、一緒に来て。あなたたちと私たちと、それにコボルド。一緒に歌えばもっともっと、マゴイが元気になると思うから」
●出ておいでマゴイ
地下から地上に出てきたマゴイは目を細めた。
元気なときなら何でもない真昼の陽光がこたえる。
ユニオンの白い町並みも見ても心があまり安らがない。むしろ異界のあれこれを思い出し憂鬱になる始末。
『……見回り……日が傾いてからにしようかしら……』
呟き地面に潜りかけた彼女は、ふと動きを止めた。
どこかから歌声が聞こえてくる。
ゆにおんゆにおんいいところ、みんなであそんでたのしいな……
声に引き寄せられるように彼女は歩きだした。
途中見慣れないものが道端に置いてあるのに気づく――土の入った白いプランターと、使用済みのコップ。
『……?……』
●お加減いかがですか
人魚と歌っていたコボルド・ワーカーたちが急に口を閉じ鼻を鳴らした。そして一斉に走って行った。倉庫の影からゆらゆら出てきたマゴイのところに。
予想していた以上な彼女のやつれぶりに、思わず目を見張るマルカ。
ミオレスカはひとまず一礼し挨拶する。
「初めまして、ミオレスカです。よろしくお願いします」
『……よろしく……』
「あの……顔色が悪いようですが、何か召し上がりませんか?」
その言葉にマゴイは、ぼんやり首を振った。
『……私は何も食べないわ……』
レイアも近づき挨拶をする。
「初めまして。私はレイア・アローネ――どうぞよろしく」
『……よろしく……』
ルベーノはマゴイの頭に手を置こうとした。しかし手はすかりと空を切った。彼女に実体がないのだということを改めて思い出し、苦笑する。
「触って慰めてやれないのは辛いものだな。μ、Θのように人形に入ってみないか? お前次第だが、俺はお前を撫でて抱きしめて慰めたい」
彼はマゴイの傍らに人形を置いた。大きさ1メートルほどのくたくたした布製。真っ白な長い髪をした女の子の人形を。
マゴイはそれを見下ろし湿っぽい声で言う。
『……生きてないと……動かせない……』
ディヤーが寄ってきて、しおたくれたマゴイを気遣う。
「真実不調そうじゃのう、マゴイ殿」
詩は、マゴイの服についている汚れだけでもどうにかしようと試みた。
「マゴイ、ちょっと動かないでね」
と断りを入れ、ピュリファイケーションをかける。1、2、3、4回。
毒々しいほどの赤が薄まり淡い桜色へと変じる。マゴイの顔色が少しばかりよくなった。
完全に汚染を消去出来たわけではないにしても、大分楽になったらしい。
それを見てコボルドたちがうれしげに吠える。
ぴょこがそろそろ近づいてきて言った。
『マゴイよ、人形入ってみたらどうじゃの。たとい動かせなくても気分が変わるかも知れんで』
マゴイの姿が霞のように消える。同時に人形の額へ目玉模様が浮き出す。
しかしそれ以上のことは起きない。人形はでれんと地面に座ったまま呟く。
『……重い……』
先程自分で言った通り、憑依する対象が生きていないと動かせないらしい。不便だなと思いつつルベーノは彼女を抱き上げ、軽く撫でた。
改めて詩は三味線を手にする。
「ねえマゴイ、今コボルドと人魚達はね、一緒にユニオンの歌の練習をしてたんだ。改めて聞いてあげてよ。私も伴奏をつけるから――コボちゃんもね」
自作の空き缶三味線を手にコボちゃん、吠えた。
「うわし、わしっし」
『……歌の練習……?……ワーカーの日課にそういうものはなかったはずだけど……』
レイアは戸惑うマゴイに言った。尻尾を振るコボルドたちに愛らしさを覚えつつ。
「彼らが自分で考えてやり始めたんだ。君のために出来ることを何かしよう、と話し合ってね」
そして『ユニオンのうた』が改めて歌われる。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
詩とコボちゃんの三味線、人魚たちの声、コボルドたちの声。
三者三様の音は不思議と調和し、耳に快く響いた。
ディヤーはぐんにゃりしている人形マゴイに顔を向ける。
「そういえば以前、マルカ殿やカチャ殿の身体に入っとったじゃろう。アレはワシにもできるのかの?」
『……もちろん出来る……』
「おお、そうか。あの時確か「カチャ殿」は朝食を食べなかったが、ユニオンには朝食べる習慣がないのかの?」
『……いいえ……私自身に食べる必要がないからよ……エレメント化してからは空腹も喉の渇きも覚えないしね……』
「……のう、マゴイ殿。ワシに乗り移ってみんかの? マゴイ殿は知らぬじゃろうが、ワシは健啖家じゃ、食べることを思い出してもよいかも知れぬ」
折よく島内放送が聞こえてきた。
<<お昼です、お昼です。皆さん休憩を取りましょう>>
●食べ、話す
コボルドたちはルベーノが持ってきてくれた犬用ビスケットを、コボちゃんと一緒にぽりぽり。
人魚たちは桟橋に腰掛け、バラエティーランチをつまんでいる。
額に目玉模様のついたディヤー=マゴイは白いカップを音もなくすすった。カップの中に入っているのは、ミオレスカ作の透明山菜万能スープを、多量のお湯で割った飲み物。
『……このくらいがちょうどいい味……』
どうやらマゴイは特別薄味嗜好らしい。
彼女がある程度持ち直してきたらしいと見たルベーノは、本題を切り出す。
「μ、あの過去の空間のウテルスは、歪虚のα・ステーツマンに囚われて何度も死を迎えている……一緒に助けてやりに行かないか」
マゴイの両目からぶわっと涙が零れた。どうやらその問題についてまだ割り切れていないらしい。
『……ウテルス……かわいそうなウテルス……α・ステーツマンがステーツマンではなくなってしまった……』
そこで詩が身を乗り出し、説いた。
「マゴイ、ウテルスの死は過去の事なんだよ。過去を変える事は出来ないし、しちゃいけないんだ。マゴイにとって過去のユニオンもステーツマンも大切な物だとは思う。けど今マゴイが立ってる場所は此処なんだよ。どうしてコボルドや人魚達が歌を歌ったか解る? マゴイの事が好きで心配だからだよ。マゴイが彼らを幸せにしてあげたように、彼らもマゴイを幸せにしてあげたいって思ってるんだよ。マゴイには彼らと一緒に後じゃなく前を向いて歩いて欲しいって思うんだ」
マゴイは今初めて気づいたように周囲を見回した。
尻尾を振るコボルド・ワーカー。桟橋に腰を下ろしている人魚たち。θにβにハンターたち。
レイアは肩をすくめる。
「まあ、だから立ち直れなどとは言わない。人に言われてどうこう出来る程度のものなら、最初から塞いだりしないだろうしな。気落ちしているなら落ち込めばいい。誰にでもそういう時はあるものだ――君は1人ではない。だからむしろ安心して悩め、好きなだけ落ち込め」
ミオレスカはマゴイの気持ちを今一度確認した。
「ステーツマンさんをやっつけたいですか? それとも、そうではないのですか?」
『……彼のことについては……まだ考えがよくまとまらない……でもウテルスをあのままにしてはおけないし……』
マルカは教本「スタディボディランゲージ」を持ち出し静かに音読する。
「『男性を落としたかったら、少し酔ったふりをして、後ろから甘えるようにして男性の首に腕を巻き付け肩から肘、肘から手首、首後部にカンヌキのように固めた反対の腕が△を描くようにして――」
ぴょこがぱたぱた騒ぎだした。
『あ、その続き知っとるのじゃ! 頸動脈を締めて横隔膜をカカトで押さえるんじゃ。そしたらすぐ落ちるんじゃ。幼年訓練所で習うた奴じゃ。習うた奴じゃ。なつかしいのうー』
接近戦における型はどの世界も共通しているらしい。
思いながらスペットはマルカの提案に異議を唱えた。
「マゴイには無理ちゃうか? 体あらへんから」
「確かに、マゴイさんに肉体はありません……ですが、力のある方に憑依すれば可能ではないですか? 1つの選択肢として、是非心の隅に置いてください」
マルカから向けられた視線の意を解したルベーノは、自ら補足する。
「俺ならいつでも協力してやるぞ。虚無を維持する高位歪虚を倒せば、繰り返す滅びを回避できるかもしれないという話が出ている。加えて奴には個人的に、この間の借りを是非とも返さなければならんからな」
ミオレスカはさらに続ける。
「どちらかが倒れるまで戦ってみるなら、それでも、お手伝いします」
『…………』
マゴイは黙り込んだ。
考えがまとまっていないというのもあるだろうが、積極的にステーツマンを倒したいという意志は固まっていないように見える。
詩はふと次のように思った。確信は持てなかったけれど。
(もしかしたら自分で気づいてないだけで、マゴイはステーツマンを愛していたのかも)
止まってしまった会話を再び動かしたのは、マルカだ。
「マゴイさん、その問題については後でゆっくり考えるとして、別の議題に取り掛かりませんか? 例えば――島の名前を考えるとか。ユニオン島、マゴイ島、クリオン島、ユニゾン島……正式にどれにするかまだ決めていないんでしょう?」
『……そういえば、そうね……その件についても会議をしなくては……』
憂え気味に顔を上げたマゴイは、マルカの次の言葉に目を見開いた。
「この際ですから島に住んでる皆にも、会議に参加してもらったらどうですか?」
『……マゴイ以外は会議に参加出来ないことになっているわ……』
「じゃあ、参考として意見を聴くだけでも。レイアさんも先程おっしゃられましたけど、コボルドワーカーの皆さんも人魚さんたちも、マゴイさんのために何かしようと話し合って、歌を歌うことを決めました。マゴイさんほど色々なことを知っているわけじゃありませんけれど、皆自分たちの問題について考えることは出来るんです。こうしたらいいんじゃないかとか、ああしたらいいんじゃないかとか――」
マルカはもどかしげに言葉を選び選びして話す。
そこに詩が参加した。
「マゴイ、ユニオンにいた時と全く同じやり方でやろうとしても無理だよ。マゴイはあなた1人しかいないし……ステーツマンもあの通りで、もう当てに出来る見込はないでしょ? ユニオン法が大事なのは分かるけど、現実に合わせてもう少し柔軟に運用出来ないかな?」
ディヤーの額にあった目玉模様が薄れ消える。
我に返った彼は頭を振り、腹を抑えた。
「――あれ、ワシ、なんだかさっぱり食べたような気がせんのじゃが……何じゃ、この白湯は」
彼の体から抜けたマゴイはコボルドたちに、恐る恐る尋ねる。コボルド語で。
『……うー……ユニオン……クリオン……ユニゾン……マゴイ……わん……?』
するとたちまち賑やかな反応が返ってきた。
「うにおん!」
「うにぞん!」
「まごーい!」
「くいおん!」
「うにぞん!」
マゴイはびっくりした顔をした。続いて人魚たちに声をかけた。
『……あなたたちは市民でないけど……この島の名前に付いて……何か意見がある……?』
「そうですね、私たちはユニゾンという名前が好きですね」
「あら、マゴイ島の方がシンプルで良くない?」
「それじゃありきたりね」
「やっぱり響きがいい名前の方がいいわよ」
ディヤーはマゴイに憑依されている最中意識が眠った状態だったため、ことの成り行きがさっぱり分からない。
「ミオレスカ殿、一体全体何がどうなったのじゃ?」
ミオレスカは彼のカップに通常の濃さのスープを注ぎ直し、言った。
「ええとですね、ただ今島のお名前を決めようと、意見を徴収されているところです」
●命名・ユニゾン島
マルカは地面に、グリーク商会から買ってきた大きな紙を広げた。
息を吸いひたと紙を見据える。五色大筆を走らせ記したのは、「ユニゾン島」の文字。
コボルドも人魚も、圧倒的にユニゾンの名称を選んだものが多かった。
マゴイはその名前を正式名称として採択した。学術名称としては『ユニオン・マゴイ・クリオン・ユニゾン島』と全部盛りであったが。
『……では本日から、この島はユニゾン島と呼ぶことに……』
コボルドたちは喜び長鳴きし、人魚たちは早速歌い始める。
ディヤーは己にウォーターウォークをかけ、海面に飛び降りた。
「このめでたき日に、ひとつ舞を披露しようぞ。ウタ殿もどうかの?」
「いいよ。お祝いだしね」
「踊りに自信のあるコボルド、おらぬか?」
コボちゃん以下数匹のコボルドが手を上げた。
残りのコボルドたちと人魚たちは、ユニオンの歌を歌った。
レイアはそれに手拍子を送る。
ミオレスカはマゴイへ、彼らと一緒に歌ってみないかと促した。
「考えるのもいいですが、休憩も大事ですよ」
マゴイが曲に合わせて体を揺らし、ハミングを始める。
ルベーノは彼女の衣装についていた桜色の染みが薄らぎ消えて行くのを、確かに見た。
ハンターたちは船に寄ってきた人魚たちに、マゴイの現況について尋ねた。
人魚たちはすぐ教えてくれた。
「精霊様は帰って来られてから、ずっと島の中に籠もっておられます」
「これまでだったら、海の方にもちょくちょく出て来られていたのですが……」
「そういうわけで私たち、歌を歌ってさしあげようと思いまして。そうすれば精霊は、元気になるものですから」
天竜寺 詩(ka0396)は異界から帰還した際、マゴイがひどく落胆していたことを思う。
(先日のユニオンの様子は過去の出来事だけど、マゴイは初めて見る光景だから衝撃も大きかったんだろうな)
レイア・アローネ(ka4082)は人魚に質問した。
「マゴイは島のどこにいるんだ? よかったら教えてもらいたいのだが」
「私たちは陸に上がれませんから、よく分かりません」
「コボルドたちのほうが、詳しいことを知っていると思います」
「最近は彼らもあまり、浜に出て来ませんけどね」
眉を八の字にしたミオレスカ(ka3496)が、ルベーノ・バルバライン(ka6752)に言う。
「なんだか、様子が良くないみたいですね」
「そのようだな。恐らくあいつらも意気消沈しているだろうとは思っていたが」
マルカ・アニチキン(ka2542)は額に手をかざし、前方の島を見やった。
スペットが顔を手のひらで仰ぐ。
「もっと便のええとこにユニオン作ったらええのになあ……行き来に時間かかり過ぎやでほんま」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は船の舳先で頭をかいている。
「マゴイ殿の元気がないと? そもそもなんとなくボーっとしておる姿しか思いつかぬで元気かどうかの判断がつかにくいのう……飛んだり跳ねたりするわけでもなく……あ、いつぞや飛んではいたかの」
詩は人魚達に、自分たちに同行してくれるよう持ちかけた。
「あなたたちもマゴイを気にしてるんだよね? それじゃ、一緒に来て。あなたたちと私たちと、それにコボルド。一緒に歌えばもっともっと、マゴイが元気になると思うから」
●出ておいでマゴイ
地下から地上に出てきたマゴイは目を細めた。
元気なときなら何でもない真昼の陽光がこたえる。
ユニオンの白い町並みも見ても心があまり安らがない。むしろ異界のあれこれを思い出し憂鬱になる始末。
『……見回り……日が傾いてからにしようかしら……』
呟き地面に潜りかけた彼女は、ふと動きを止めた。
どこかから歌声が聞こえてくる。
ゆにおんゆにおんいいところ、みんなであそんでたのしいな……
声に引き寄せられるように彼女は歩きだした。
途中見慣れないものが道端に置いてあるのに気づく――土の入った白いプランターと、使用済みのコップ。
『……?……』
●お加減いかがですか
人魚と歌っていたコボルド・ワーカーたちが急に口を閉じ鼻を鳴らした。そして一斉に走って行った。倉庫の影からゆらゆら出てきたマゴイのところに。
予想していた以上な彼女のやつれぶりに、思わず目を見張るマルカ。
ミオレスカはひとまず一礼し挨拶する。
「初めまして、ミオレスカです。よろしくお願いします」
『……よろしく……』
「あの……顔色が悪いようですが、何か召し上がりませんか?」
その言葉にマゴイは、ぼんやり首を振った。
『……私は何も食べないわ……』
レイアも近づき挨拶をする。
「初めまして。私はレイア・アローネ――どうぞよろしく」
『……よろしく……』
ルベーノはマゴイの頭に手を置こうとした。しかし手はすかりと空を切った。彼女に実体がないのだということを改めて思い出し、苦笑する。
「触って慰めてやれないのは辛いものだな。μ、Θのように人形に入ってみないか? お前次第だが、俺はお前を撫でて抱きしめて慰めたい」
彼はマゴイの傍らに人形を置いた。大きさ1メートルほどのくたくたした布製。真っ白な長い髪をした女の子の人形を。
マゴイはそれを見下ろし湿っぽい声で言う。
『……生きてないと……動かせない……』
ディヤーが寄ってきて、しおたくれたマゴイを気遣う。
「真実不調そうじゃのう、マゴイ殿」
詩は、マゴイの服についている汚れだけでもどうにかしようと試みた。
「マゴイ、ちょっと動かないでね」
と断りを入れ、ピュリファイケーションをかける。1、2、3、4回。
毒々しいほどの赤が薄まり淡い桜色へと変じる。マゴイの顔色が少しばかりよくなった。
完全に汚染を消去出来たわけではないにしても、大分楽になったらしい。
それを見てコボルドたちがうれしげに吠える。
ぴょこがそろそろ近づいてきて言った。
『マゴイよ、人形入ってみたらどうじゃの。たとい動かせなくても気分が変わるかも知れんで』
マゴイの姿が霞のように消える。同時に人形の額へ目玉模様が浮き出す。
しかしそれ以上のことは起きない。人形はでれんと地面に座ったまま呟く。
『……重い……』
先程自分で言った通り、憑依する対象が生きていないと動かせないらしい。不便だなと思いつつルベーノは彼女を抱き上げ、軽く撫でた。
改めて詩は三味線を手にする。
「ねえマゴイ、今コボルドと人魚達はね、一緒にユニオンの歌の練習をしてたんだ。改めて聞いてあげてよ。私も伴奏をつけるから――コボちゃんもね」
自作の空き缶三味線を手にコボちゃん、吠えた。
「うわし、わしっし」
『……歌の練習……?……ワーカーの日課にそういうものはなかったはずだけど……』
レイアは戸惑うマゴイに言った。尻尾を振るコボルドたちに愛らしさを覚えつつ。
「彼らが自分で考えてやり始めたんだ。君のために出来ることを何かしよう、と話し合ってね」
そして『ユニオンのうた』が改めて歌われる。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
詩とコボちゃんの三味線、人魚たちの声、コボルドたちの声。
三者三様の音は不思議と調和し、耳に快く響いた。
ディヤーはぐんにゃりしている人形マゴイに顔を向ける。
「そういえば以前、マルカ殿やカチャ殿の身体に入っとったじゃろう。アレはワシにもできるのかの?」
『……もちろん出来る……』
「おお、そうか。あの時確か「カチャ殿」は朝食を食べなかったが、ユニオンには朝食べる習慣がないのかの?」
『……いいえ……私自身に食べる必要がないからよ……エレメント化してからは空腹も喉の渇きも覚えないしね……』
「……のう、マゴイ殿。ワシに乗り移ってみんかの? マゴイ殿は知らぬじゃろうが、ワシは健啖家じゃ、食べることを思い出してもよいかも知れぬ」
折よく島内放送が聞こえてきた。
<<お昼です、お昼です。皆さん休憩を取りましょう>>
●食べ、話す
コボルドたちはルベーノが持ってきてくれた犬用ビスケットを、コボちゃんと一緒にぽりぽり。
人魚たちは桟橋に腰掛け、バラエティーランチをつまんでいる。
額に目玉模様のついたディヤー=マゴイは白いカップを音もなくすすった。カップの中に入っているのは、ミオレスカ作の透明山菜万能スープを、多量のお湯で割った飲み物。
『……このくらいがちょうどいい味……』
どうやらマゴイは特別薄味嗜好らしい。
彼女がある程度持ち直してきたらしいと見たルベーノは、本題を切り出す。
「μ、あの過去の空間のウテルスは、歪虚のα・ステーツマンに囚われて何度も死を迎えている……一緒に助けてやりに行かないか」
マゴイの両目からぶわっと涙が零れた。どうやらその問題についてまだ割り切れていないらしい。
『……ウテルス……かわいそうなウテルス……α・ステーツマンがステーツマンではなくなってしまった……』
そこで詩が身を乗り出し、説いた。
「マゴイ、ウテルスの死は過去の事なんだよ。過去を変える事は出来ないし、しちゃいけないんだ。マゴイにとって過去のユニオンもステーツマンも大切な物だとは思う。けど今マゴイが立ってる場所は此処なんだよ。どうしてコボルドや人魚達が歌を歌ったか解る? マゴイの事が好きで心配だからだよ。マゴイが彼らを幸せにしてあげたように、彼らもマゴイを幸せにしてあげたいって思ってるんだよ。マゴイには彼らと一緒に後じゃなく前を向いて歩いて欲しいって思うんだ」
マゴイは今初めて気づいたように周囲を見回した。
尻尾を振るコボルド・ワーカー。桟橋に腰を下ろしている人魚たち。θにβにハンターたち。
レイアは肩をすくめる。
「まあ、だから立ち直れなどとは言わない。人に言われてどうこう出来る程度のものなら、最初から塞いだりしないだろうしな。気落ちしているなら落ち込めばいい。誰にでもそういう時はあるものだ――君は1人ではない。だからむしろ安心して悩め、好きなだけ落ち込め」
ミオレスカはマゴイの気持ちを今一度確認した。
「ステーツマンさんをやっつけたいですか? それとも、そうではないのですか?」
『……彼のことについては……まだ考えがよくまとまらない……でもウテルスをあのままにしてはおけないし……』
マルカは教本「スタディボディランゲージ」を持ち出し静かに音読する。
「『男性を落としたかったら、少し酔ったふりをして、後ろから甘えるようにして男性の首に腕を巻き付け肩から肘、肘から手首、首後部にカンヌキのように固めた反対の腕が△を描くようにして――」
ぴょこがぱたぱた騒ぎだした。
『あ、その続き知っとるのじゃ! 頸動脈を締めて横隔膜をカカトで押さえるんじゃ。そしたらすぐ落ちるんじゃ。幼年訓練所で習うた奴じゃ。習うた奴じゃ。なつかしいのうー』
接近戦における型はどの世界も共通しているらしい。
思いながらスペットはマルカの提案に異議を唱えた。
「マゴイには無理ちゃうか? 体あらへんから」
「確かに、マゴイさんに肉体はありません……ですが、力のある方に憑依すれば可能ではないですか? 1つの選択肢として、是非心の隅に置いてください」
マルカから向けられた視線の意を解したルベーノは、自ら補足する。
「俺ならいつでも協力してやるぞ。虚無を維持する高位歪虚を倒せば、繰り返す滅びを回避できるかもしれないという話が出ている。加えて奴には個人的に、この間の借りを是非とも返さなければならんからな」
ミオレスカはさらに続ける。
「どちらかが倒れるまで戦ってみるなら、それでも、お手伝いします」
『…………』
マゴイは黙り込んだ。
考えがまとまっていないというのもあるだろうが、積極的にステーツマンを倒したいという意志は固まっていないように見える。
詩はふと次のように思った。確信は持てなかったけれど。
(もしかしたら自分で気づいてないだけで、マゴイはステーツマンを愛していたのかも)
止まってしまった会話を再び動かしたのは、マルカだ。
「マゴイさん、その問題については後でゆっくり考えるとして、別の議題に取り掛かりませんか? 例えば――島の名前を考えるとか。ユニオン島、マゴイ島、クリオン島、ユニゾン島……正式にどれにするかまだ決めていないんでしょう?」
『……そういえば、そうね……その件についても会議をしなくては……』
憂え気味に顔を上げたマゴイは、マルカの次の言葉に目を見開いた。
「この際ですから島に住んでる皆にも、会議に参加してもらったらどうですか?」
『……マゴイ以外は会議に参加出来ないことになっているわ……』
「じゃあ、参考として意見を聴くだけでも。レイアさんも先程おっしゃられましたけど、コボルドワーカーの皆さんも人魚さんたちも、マゴイさんのために何かしようと話し合って、歌を歌うことを決めました。マゴイさんほど色々なことを知っているわけじゃありませんけれど、皆自分たちの問題について考えることは出来るんです。こうしたらいいんじゃないかとか、ああしたらいいんじゃないかとか――」
マルカはもどかしげに言葉を選び選びして話す。
そこに詩が参加した。
「マゴイ、ユニオンにいた時と全く同じやり方でやろうとしても無理だよ。マゴイはあなた1人しかいないし……ステーツマンもあの通りで、もう当てに出来る見込はないでしょ? ユニオン法が大事なのは分かるけど、現実に合わせてもう少し柔軟に運用出来ないかな?」
ディヤーの額にあった目玉模様が薄れ消える。
我に返った彼は頭を振り、腹を抑えた。
「――あれ、ワシ、なんだかさっぱり食べたような気がせんのじゃが……何じゃ、この白湯は」
彼の体から抜けたマゴイはコボルドたちに、恐る恐る尋ねる。コボルド語で。
『……うー……ユニオン……クリオン……ユニゾン……マゴイ……わん……?』
するとたちまち賑やかな反応が返ってきた。
「うにおん!」
「うにぞん!」
「まごーい!」
「くいおん!」
「うにぞん!」
マゴイはびっくりした顔をした。続いて人魚たちに声をかけた。
『……あなたたちは市民でないけど……この島の名前に付いて……何か意見がある……?』
「そうですね、私たちはユニゾンという名前が好きですね」
「あら、マゴイ島の方がシンプルで良くない?」
「それじゃありきたりね」
「やっぱり響きがいい名前の方がいいわよ」
ディヤーはマゴイに憑依されている最中意識が眠った状態だったため、ことの成り行きがさっぱり分からない。
「ミオレスカ殿、一体全体何がどうなったのじゃ?」
ミオレスカは彼のカップに通常の濃さのスープを注ぎ直し、言った。
「ええとですね、ただ今島のお名前を決めようと、意見を徴収されているところです」
●命名・ユニゾン島
マルカは地面に、グリーク商会から買ってきた大きな紙を広げた。
息を吸いひたと紙を見据える。五色大筆を走らせ記したのは、「ユニゾン島」の文字。
コボルドも人魚も、圧倒的にユニゾンの名称を選んだものが多かった。
マゴイはその名前を正式名称として採択した。学術名称としては『ユニオン・マゴイ・クリオン・ユニゾン島』と全部盛りであったが。
『……では本日から、この島はユニゾン島と呼ぶことに……』
コボルドたちは喜び長鳴きし、人魚たちは早速歌い始める。
ディヤーは己にウォーターウォークをかけ、海面に飛び降りた。
「このめでたき日に、ひとつ舞を披露しようぞ。ウタ殿もどうかの?」
「いいよ。お祝いだしね」
「踊りに自信のあるコボルド、おらぬか?」
コボちゃん以下数匹のコボルドが手を上げた。
残りのコボルドたちと人魚たちは、ユニオンの歌を歌った。
レイアはそれに手拍子を送る。
ミオレスカはマゴイへ、彼らと一緒に歌ってみないかと促した。
「考えるのもいいですが、休憩も大事ですよ」
マゴイが曲に合わせて体を揺らし、ハミングを始める。
ルベーノは彼女の衣装についていた桜色の染みが薄らぎ消えて行くのを、確かに見た。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/21 19:05:11 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/02/21 19:53:05 |