• 黒祀

【黒祀】総員抜剣、クラベルを追撃せよ。

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2014/12/07 22:00
完成日
2014/12/23 00:09

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●グラズヘイムの剣、騎士の誇りにかけて

 転移魔法で忽然と姿を消したベリアルと、その配下クラベルを含む歪虚の群れ。彼らが王国西方に出現したという情報はすぐさま王国首脳陣の耳に入った。直接イスルダへ転移する力が今はないのだろう。まだ、連中はこの国に居る──それを知った王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は然るべき人物へ報告に上がった。
「本件、王女殿下には?」
 大司教セドリック・マクファーソン(kz0026)は応えない。ややあって男はこう言った。
「“我々は勝利した”、と思うか」
 短くも重い問いかけに、エリオットは息を呑んだ。王城は、城の中と思えないほどの有り様。バルコニーから確認できる街並みは惨状しか物語らない。言葉に詰まる青年を一瞥し、セドリックは背を向けた。
「エリオット・ヴァレンタイン。本件は一任する」
 今、この国でやるべきことは数えきれない。人々の暮らしを取り戻すだけでも、どれほどの時間がかかるだろうか。大司教は、確かな足取りで指示を仰ぐ者たちの元へと向かった。

 王城でのベリアルとの戦いの折、エリオットは腹を決めたことがあった。
 ハンター達が、“仇敵”を討つ為の作戦を申し出てくれた時。もはや“あれ”は、自分だけの、そして王国だけの“仇”ではないのだと、初めて感じることができた。しかしあの時、多くのハンターが王城に伏せることを申し出てくれていたが、故に城前の守りが薄いことは明らかだった。だからこそエリオットは、多数の王国騎士団員と共に城前での決戦に挑んだのだ。王女の居る広間を後にし、大事な役目をハンターに託して──そんな行動は、以前のエリオットでは考えられなかったかもしれない。
 結果、ハンターたちは王女を守り、ベリアルを退けてくれた。
 サルヴァトーレ・ロッソの来訪から、この世界の在り方は大きく変わろうとしている。あれから数多くのハンターと出会い、言葉を重ねてきた。執務室の窓辺にはハンターから譲り受けた植物が青々とした葉を茂らせ、その葉の一枚一枚が彼らの言葉を思い起こさせてくれる。
 ──もう少し“僕らを頼って”くれても罰は当たらないのに。
 ──任せられる所は民間から“募る”のも手かなぁって。
 エリオットは大きく息を吐いた。個の力ではなく、今、必要なのは……。
「王国騎士として……長として正しき決断、か」

「叔父上、此度の招集に応じて頂き──」
「……良い。連中の居る西部は我が領地に程近いこともある。捨て置けんだろう」
 エリオットは、再び王城へと帰還するとフルフェイスの兜を脱いだ中年の男と握手を交わした。
「王国連合軍も現場指揮官にヴィオラ殿を据え、既に準備は整っていると聞く。我がグリム騎士団も一般兵はそちらへ合流させ、残る覚醒者はいつでもハルトフォートに転移可能だ。連合軍の斥候としても稼働できるだろう」
 報告を受け、エリオットは首肯する。迷うことはない。
 自分が今すべきはこの王都で民を守り、復興への道標を立てること。だからこそ、彼らに“意志”を託すと決めた。

「王国連合軍は、現時刻を以て西部に転移したベリアル並びに配下の歪虚軍を追撃する。総員、出撃せよ」


●追撃

 ベリアル及びクラベルの一行は、先刻から続くニンゲンたちの襲撃に頭を悩ませていた。
「ええい、ニンゲンどもめ、羽虫の如きしつこさよ! 今一度私の力を見せてやらねばならぬようだな!」
「やめて。気を失った貴方の身体を島まで運ぶなんて、私はしたくないわ」
「ならばどうせよと言うのだ、私のクラベルよ」
「私が殿軍を務めるから先に帰っていて。面倒だけれど、仕方がないわ。マテリアルの枯渇した貴方なんてただの豚羊だもの」
「メェ!?」
 クラベルはびしびしと文字通り鞭を打って主を先に行かせ、背後を振り返る。
 ニンゲンの追撃部隊はなかなかの規模で、こちらの現有戦力では迎撃に多少手間取りそうだ。傲慢の歪虚たる自分たちが負けることなどありはしないが、王都強襲で力を消耗した現状では苦しいことに変わりはない。島まで直接転移するには回復する時間がないし、さてどうするか。
 クラベルは自ら最後尾について敵先頭の騎馬を鉄針の投擲で殺しつつ、思案する。と、唐突に隣に『影』が顕現した。長身の『影』がクラベルとニンゲンの間に割って入る。
 ――これは?

 『影』との接触後、クラベルはすぐさま前方へ戻った。
 集団の速度を上げる。道の先には一つの街。面倒だ。迂回するか――いや。
 ――壁にしてしまえばいい。
 クラベルは先頭に立って街の外壁まで辿り着くや、壁上から矢を射掛けてくるニンゲンに向かって妖艶に微笑んだ。
「いい? 『ここを開け、私の前に住民を連れてきなさい。この私の役に立たせてあげるわ、木偶の貴方たちを……』」

 かくしてその街――酒造りの街デュニクスの住民のうち、不運にも歪虚を打倒せんと集まっていた善良なる者の半数ほどが、戦いに駆り出された。
 ベリアルを追撃してきた王国騎士団や聖堂戦士団、そしてハンターたちとの戦いに……。


●闇より暗し

 フラベルのマテリアルは、今なお探知できない──否。この表現は、全くもってバカバカしい。
 正しくは、“彼女はこの世界から消失した”だろう。
「本当に“死んだ”のね、あの子」
 身体と思考の不均衡を感じる。これはどうにも抗い難い。
 主君の命を果たせなかったことも。ニンゲン共に傷をつけられたことも。大聖堂を目前に撤退せざるをえなかったことも。“あの子”を失ったことも。折り重なるフラストレーション。だからという訳ではないけれど、少女は通りがかった町で【ニンゲン障壁】を作った。
 余興程度のつもりだし、この下らない殿軍任務が、多少なりとも面白くなるなら僥倖。無論、少女は自分が万全の状態でない事くらい理解してはいた。だから、それを補う手段の一つに使えるものを使っただけなのだろう。
 だが──それが吉とでたか凶とでたか。町の門を出てすぐ、クラベルの頬を一つの矢尻が引き裂いた。
「黒大公の慰み者よ。貴様は、ここで果てろ」
 1つ目は影。2つ目はニンゲン障壁。これで追撃者の多くを引き離したはずだが、この羽虫は一体どこから湧いて出たのだろう。
「実に、面倒だわ」
 先刻受けたばかりの射撃の威力は中々上等だった。今の少女の状態では、この騎兵の追撃を放置しての撤退は恐ろしく危険だ。“潰しておかねばまずい”──そう判断してからのクラベルは恐るべき速さだった。
「今の私は楔を作る必要もなければ『門』の維持もしていない。どんな死に様でも叶えてあげるわ。ふふ、私もあれの優しさに影響されたのかしら」
 騎兵集団に接近し、鞭をけしかけては凶悪な力で叩きつけ、締め上げた。
「ゲイル様ッ!」
「今のが指揮官? 強いのね、先に死んでもらうわ」
 ──少女の後方へ新たな戦力が現れたことに、クラベルはまだ気付いていなかった。

リプレイ本文

「強いのね、先に死んでもらうわ……さようなら」
 クラベルが振った鞭は、指揮官ゲイルの首へ幾重にも絡み付いた。直後、男の体は鞭のしなりに合わせて宙を舞い、渾身の力で頭部から大地に叩きつけられた。全身鎧の重量に抗えず、男はがしゃりと重い金属音と共に地に沈む。そうして、ゲイルは無残に殺された。
 騎兵達の叫びが聞こえる。放たれる矢は散漫で、指揮官を失った彼らの動揺が窺い知れる反面、少女は顔色一つ変えず淡々と次の的を定めている。
 この惨劇は、ハンターらがクラベルに気付かれないよう全力移動を開始した“後”の出来事。
 『騎兵にクラベルの意識が集中している間に、隠密的に接近し奇襲する』という狙い通り、少女がハンターに気付いたのは、彼らの“痛烈な奇襲”を受けた時だった。

 ……このまま、只逃がす訳にはいかない。
 鮮烈な感情を心の内に閉じ込めて、誠堂 匠(ka2876)が魔導拳銃を構える。仲間を先導する様に瞬脚で詰めた距離。絶対に外す訳にはいかないと、目と指先に全神経を集中させた。
 轟く銃声。クラベルに焦げ付くような衝撃が走る。足を撃たれた。誰かが後ろに迫っている──銃声が促すままに少女が振り返ると、既に歪な暗器が間近に迫っていた。最早少女も避け得ないだろうそれは、銃声にぴたりと合わせて投げ放たれたジェーン・ノーワース(ka2004)の手裏剣だった。
「なるほど。さっきの“ニンゲンの命を囮に使った”のね」
 とはいえクラベルにも意地がある。すぐ傍に迫る暗器をかわすべく大きく身体を捩った。だが、辛うじて致命傷を避けるのが限度。禍々しい刃は少女の細い足へ突き刺さり、噴き出す体液にジェーンが笑みを浮かべる。
「逃げるなら今のうちじゃないかしら。見逃してあげるわよ?」
 忌々しい挑発。だが睨みつける間もなかった。
「──ッ!」
 直後、2発目の銃声と共にクラベルの体が大きく傾いた。
 先の一撃、急所を外す事に専念したツケは、余りに大きかったようだ。

 ──こんな俺でも、王国の仇敵を討つ為の一歩、その一助くらいにはなれるはずだ。
 痛烈な銃撃の主は、ラスティ(ka1400)だった。彼の友人である匠とジェーンの先制は確実に成功を収めている。
 やるべき時は、今……強く握り締めた拳を緩めれば、巡る血流に指先の感覚は鋭敏になる。少年の身体の周囲に次々浮かび上がっては消える数式。次第に、マテリアルがエネルギーに変換されゆき……覚醒。少年は今、かつてないほどマテリアルの“繋がり”を感じていた。
「……期待には、応えなきゃ嘘だよな」
 鍛え抜いたライフルの“たった1発”に、少年は全ての想いを注ぎ込んだのだった。

 こうして少女は、思考の切り替えを余儀なくされる。
 厄介な弓兵は片付けたが、それと同等に厄介な連中が現れたと認めざるを得ない。
 対象、変更。標的は……誰?
 ここで、クラベルは苦々しく眉を寄せる。最後に食らった銃撃が間違いなく最も危険だ。この狙撃手を仕留めねば、逃走に影響が出るのは自明の理。だが、銃を持っている人間は複数いるうえに、回避に専念していた余りに誰があの狙撃手なのかがわからなかった。これも連中の奇襲作戦の一つなのだろう。
「……纏めて始末した方が早いわね」

 ──それは、ハンター達が目の当たりにしたデュニクスの町の災厄そのものだった。
『同種族で不必要に殺し合うイキモノは、ニンゲンくらいだわ。ニンゲンはニンゲンらしく“同志討ちでもしてなさい”』
 彼女の初手は、物理的な攻撃などではなかった。
 放たれる言葉は不自然なほど周囲の覚醒者達に響き渡る。誰もがその声に耳を傾けてしまうような、奇妙な“強制”力が感じられた。
 ただ一人、“術”の使用を警戒していた匠は警戒の強さから“それ”に真っ先に抗い、そして打ち破る。しかし青年が周囲に警鐘を鳴らすも空しく、彼が目にしたのは自分と対になって奇襲を仕掛けたジェーンの、望まぬ姿だった。
「おい、ジェーン! 聴こえてんのかッ!?」
 少女の後方で銃を構えていたラスティが懸命に叫ぶ。
 当のジェーンに少年の声は確かに届いていたけれど、“強制”に抗うことはできなかった。
 “同志”討ちをしなさい──今の少女にはそれだけが全て。ジェーンにとっての“同志”とは、すなわち“彼”の事に他ならなかった。
 懐から暗器を取り出し、ラスティへ向け寸分の狂いなくスローイング。これは、自然で当然の行為。いや、当初予定していた“対象は違った”気がするが、今の少女にとっては些細なことだ。
「いい加減……目を醒ませ……ッ!」
 少女が意識の操縦権を奪い返したのは、それからすぐの事だった。
「ラスティ……?」
 少女の目に最初に映ったものは、首から真っ赤な血を噴き出し、崩れ落ちる“同志”の姿。ラスティは自ら動く力すら奪われ、大地にその身を横たえた。癒し手である聖導士らは、両名とも騎兵の元へ向かっている最中。つまり今、少年を癒す手段は無い。
 もはやラスティがこの戦いに復帰することは難しいだろう。それでも少女は、彼の傍に駆け寄ることをしなかった。そしてラスティも、少女の“行い”を責めることはしなかった。それどころか、彼は残る力で口の端を上げてみせる。つまりラスティは“笑った”のだ。力を振り絞って発した少年の声は酷く小さい。故に、少女の耳には届かなかったが、ジェーンは彼の示唆するところを余すことなく理解していた。
「……責任はとるわ」
 時を移さず、呟くジェーンへ向け強制されるがままに落葉松 鶲(ka0588)が銃弾を放った。
「あ……ジェーンさん、お怪我は!?」
 難なく弾をかわすジェーンに術効の解けた鶲が声をかける。
 だが、当の少女は何を言うでもなく首を横に振り、“対象”に向き直った。躊躇なく駆ける少女の赤いフードが、風に揺れていた。

 他方、クラベルの強制を跳ねのけ、走り続けたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が騎兵の元に到着。青年は開口一番こう告げた。
「クラベルを討つ。その為に、あんたらの力を貸してくれねーかァ」
 シガレットは反応を探るように騎兵を見渡す。すると、すぐ傍で肩から流血し、弓を握れないでいる騎士の存在に気付いた。青年が何の気なしに騎士に掌を翳すと、暖かで柔らかな光が傷を包み込んでゆく。
「クラベルのヤツは相当に素早い。逃げ道を潰し、着実に削りてェ。だから、弓を撃つ時は一斉射を頼めるかァ? 射手は一人でも多い方がいいだろ」
「私も治療ができる。早く態勢を立て直し、敵の攻撃に備えよう」
 シガレットに続き、クラベルを迂回してきたゲルト・フォン・B(ka3222)も無事騎兵の元に到着。彼らを鼓舞するように声を張ると、率先して治療にあたり始めた。そんな彼らの行為に促されたのだろうか。騎兵の誰かが叫びを上げた。
「ゲイル様の為にすべきことは何だ!」
 その声に、周囲の兵が唸り声を上げ呼応。指揮官を失い、消えかけていた士気が聖導士らの手で蘇った。
「田舎の城というより砦から出てきたばかりの私がいきなりこんな大切な戦いに出るとはな……ほら、これでいい」
「2人とも、感謝する」
 彼らの治療で、騎士が続々戦線復帰を果たしてゆく。馬は死に絶えていても、弓を引くことができれば大きな戦力だ。まだ近くで倒れている騎士も、生きている者は治療し、戦線に戻してやることができるだろう。
 ハンターと相対するべく騎兵に背を向けたクラベル目掛け、文字通り“一矢報いる”ために矢を番える。
 騎士達の反撃が、今、始まろうとしていた。

 ──そんな気運の中、戦いの流れを明確に変えたのは、煉華(ka2548)だった。
 文月 弥勒(ka0300)の大振りの一撃をかわした直後の隙をつき、煉華がクラベルの顔へ銃口を突き付け、引鉄を引いた。弾丸は確かに顔面に当たったはずだが、全く傷が付いていない。自分の攻撃ではこの少女に歯が立たない──そんな事実に気付いていたが、煉華は自身に引くことを課さなかった。
 そんな青年が下した判断、それは“自らを標的にさせる”ことだった。
「惨たらしく葬ってやろうか、先に逝った……何だったか? 例の小娘があの世でベソをかいている頃だろう」
 この一言が、決定的な“挑発”となった。少女が、明白に目の色を変える。
 気付いた鶲は、銃撃でその気配を阻もうと挑むが、クラベルの鞭が弾丸を見事に弾き飛ばす。
「貴女の逃げるこの姿も……騒乱の良いデザートとして報告されるのですか?」
 次の手、挑発を試みるもクラベルは鶲の言葉にまるで耳を貸さず、ただただ煉華を睨み据えている。
 ……どうやら煉華の勘は酷く冴えていたらしい。
 フラベルを貶められることが、今のクラベルには一番堪えるようだ。
 濃密に満ちる殺気。クラベルが“腹を決めた”その瞬間、少女の姿は数瞬前まで居た場所から消失した。
 瞬く間に煉華を射程に捉えると、少女は勢いよく鞭を振り上げる。先程自分がそうされたように、煉華の顔面を鞭で盛大に叩きつければ、衝撃に青年が大きく吹き飛んだ。覚悟を決めて挑んだ煉華も態勢を立て直すが、頭部への衝撃に意識は混濁。だが、悟られぬよう気丈に少女を見据えて構える。
 ──スキルで強化していたとはいえ、あと一撃、食らったら終わりだな。
 回復手は二人とも騎士団側で、ヒールは射程外。圧倒的な死の予感に、煉華は乾いた笑いを浮かべる。
 しかしその時、少女の後背から矢の雨が降り注いだ。騎士団の一斉射だ。クラベル自身、矢の一本一本をかわす事など苦でもないが、同時にあちこちから降り注がれては敵わない。
 少女の集中がぷつりと途切れたそこへ、再びジェーンが暗器を投擲。それを追い撃つは、弥勒。
「時間を稼ぎてえんだろ? 少し付き合えよ」
 少年は、クラベルの側面から全身の力を込めて踏込み、一気に剣を振り抜いた。大ぶりの刃が少女の腹を一刀両断──かと思いきや、クラベルはその刃を片手で掴み、止める。当の弥勒も、別段驚く訳でもなく、品定めするような目つきで少女を見据える。
「おい、歪虚って何だ? てめえは自分を何だと思ってやがる」
「不躾な質問ね、ニンゲンらしくて素敵」
「いいから答えろ。てめえらは何が目的で人を脅かす。種を増やしてえのか?」
 強引な問いに気乗りのしない様子のクラベルだったが、突如掴んだままの弥勒の刃をぐいと手繰り寄せると、勢いのまま弥勒の首を握り締めた。
「逆に聞くけれど」
 凶悪な素早さに抵抗する術もなく、空気を求めて口を開ける弥勒。無論、少年がただで済ませるはずもない。弥勒は空いた手でクラベルの腕を握り潰そうと爪を立てるが、少女の手は緩まない。
「ニンゲンは、何の目的で懸命に生きる花や実を狩り、他種族の肉を食べ、種を増やすの? 木を切り、山を壊し、資源を溶かして地も大気も汚す。ニンゲンは自分を何だと思っているの?」
 致命的な損傷になるより速く、間髪いれずに匠から放たれた銃弾がクラベルを襲う。当然それをかわすべく、少女はしぶしぶ弥勒から手を離し、距離をとった。解放された弥勒は咳き込みながらも、漸く得られた酸素を肺の奥底まで送ると、不敵に笑んだ。
「……ようやく話の出来そうなヤツに出逢えたぜ」
「私は話すつもりなんてないわ」
 用があるのは、そこの“死にたがり”──煉華だけ、と。クラベルは再び身を屈める。
 だが、肝心の煉華の前には、匠が立ちはだかっていた。
「あなた……さっきからとても邪魔よ。そこをどきなさい」
「大人しく聞くと思うのか? ……代償は、必ず払わせる」
 此処に居ない王国騎士達と、そして、目の前で死んだゲイルの為にも。
 青年は誓いを新たに深く構えると、同時に少女が瞬を駆けた。鞭が大きくしなり、振り下ろす強烈な一撃。だが……手ごたえがない。まさか、と目を見張るクラベルが確認したのは、寸での所で身をかわした匠の姿。
 匠の瞳に濁る強い情念は、仄かに暗い色をしている。そんなことに、少女は気付いてしまった。
「……ふ、あはは」
 鞭の先を手元に戻した少女へ、ハンター達が再三の攻勢。
 ジェーンの暗器が脚を抉り、続く弥勒の大剣の切っ先に少女の胴部が裂ける。その衝撃に態勢を崩したクラベルを鶲の銃が追い立てた。
「窮鼠猫を噛む……には、鼠は大きく凶暴ですね」
 弾丸が少女の身体を穿つも、大した傷ではないとでも言うようにクラベルは表情を崩さない。
 少女は眼前のハンターをまるで無視して執拗に煉華を狙おうとするが、またも“想定通り”匠が行く手を阻んだ。
 そんな青年の目を見ると、思わず笑いがこみ上げる。
「何がおかしい……!」
 匠は次の攻撃を予感し、構える。そんな青年目掛け、放たれたクラベルの鞭が今度こそ彼の身体を捉えた。
「ねぇ、あなた“誰”と戦ってるの? 本当、サイアクに淀んだ目をしてるのね」
 ぎち、と青年の身体を絞るように強く撒きつく鞭。そして、少女は渾身の力で匠を“振り上げた”。そのまま大地に叩きつけ、首の骨を折り、死に至らしめる──つもりだったのだろう。しかし鞭の先端が最高点に達した時、手にした鞭の柄がふっと軽くなるのに気付いてしまった。
「歪虚製、とはいえ切れるものだね」
 先端に目を向ければ青年の姿は勿論、鞭の先すらそこになく。見事に着地した青年の手には鋭いナイフが光っていた。
「……!」
 不覚を取ったはずじゃない。この青年だけ、思い通りにいかない。
 そして自分の余力は自分が一番よく知っている。故に、焦りが募る。
 だからこそ、少女は“その一撃”をかわす事ができなかったのだろう。
「流石は傲慢、てとこかァ? “後ろ”をまるきり無視するとは、余程自信があるようだなァ」
 ──少女を後方から襲った、途方もない衝撃。クラベルの全身を電流のように鋭い痛みと熱が支配してゆく。
 少女の背に“叩きこまれた”それは、接触の瞬間、より一層勢いを増し少女の腹を穿った。
「なッ……」
 シガレットの渾身の銃撃に、クラベルの身体が前のめる。当然、この隙にたたみこまれるジェーンの投擲、弥勒の大剣、蓮華の直剣、鶲、そして匠の銃撃。怒涛の攻勢に騎兵達の一斉掃射が覆い被さる。ゲルトが今なお治療し、立ち直らせた弓兵が射撃に加わって、矢は嵐の如く少女へ降り注いだ。
 かわしきれない──遂に、クラベルが崩れ落ちた。

 限界を悟った少女は、最後の力を振り絞って大地を蹴った。どこにそんな余力を残していたのか、という速さであっという間に遠ざかってゆく。咄嗟に飛び出したシガレットだが、弓兵を守るように立ち、クラベルから離れた位置で銃撃していたことも起因し、少女の足に触れることは適わなかった。

 こうして作戦は終了。犠牲は払ったが、ハンターは課された命題を確かに成してみせた。
 森の中に逃げ込んだ少女を待ち受ける奇妙な出会いなど、誰も予感せぬままに……。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 15
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワースka2004
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876

重体一覧

参加者一覧

  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • 温かき姉
    落葉松 鶲(ka0588
    人間(蒼)|20才|女性|闘狩人
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 隻腕の救い手
    煉華(ka2548
    人間(紅)|35才|男性|霊闘士
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • ビキニアーマーマイスター
    ゲルト・フォン・B(ka3222
    人間(紅)|19才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談
ラスティ(ka1400
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/12/07 21:12:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/04 13:58:23