ゲスト
(ka0000)
【RH】猪口齢糖! 熱戦・烈戦・超激戦
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/21 12:00
- 完成日
- 2018/02/24 13:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
強化人間研究施設「アスガルド」での歓迎会から数日後。
ムーンリーフ財団が管理するこの施設では、日々強化人間研究が進められている。
リアルブルーでも真面目な研究機関なのだが、時折おかしな企画が立ち上がる。
その原因は、すべて――総帥の一言から始まる。
「ユーキ、巷ではバレンタインの準備で色めき立っているらしいな」
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフは、自分の背丈よりも少し高い椅子に腰掛けながら呟いた。
この一言にユーキは思わず身を奮わせる。
大抵の場合、このような話の始まり方はトモネが何かを考えている証拠だからだ。
だが、ユーキはトモネの世話役兼補佐役。冷静にトモネからの問いを返す。
「左様にございます」
「私は思うのだが、強化人間もかようなイベントを大事にしてやるべきではないのか?」
「お言葉ですが、彼らは普通の人間とは異なります。彼らはあくまでも対歪虚の戦力……」
「そうかもしれぬが、彼らも年齢は未だ幼い。息抜きも必要ではないか?」
ユーキの言葉を遮るトモネ。
既にトモネの中ではユーキの反論を聞く気はないようだ。
「……そうかもしれませんが、既に訓練メニューが決められております。訓練を行いその結果を研究に生かさなければなりません」
「ほほぅ」
ニヤリと笑みを浮かべるトモネ。
その笑みがロクでも無い結果を生む。
ユーキは、それを経験で学んでいた。
「ならば、訓練とすれば良いのだろう? 良かろう。私がバレンタインをモチーフにした訓練メニューを考えてやろう。それならば問題なあるまい」
●
「で、なんで俺がこんな所に呼び出されているんだ?」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉が呼び出されたのは、アスガルドのとある訓練施設であった。
そこにはドリスキルの他にトモネと強化人間の子供達が数名立っている。
「理由を知りたいか。それはこの子達の訓練に付き合って欲しいのだ」
「あん? 俺ぁてっきり子守りをしろって事かと思ったよ」
「少々聞き捨てならん単語も聞こえたが、聞き流してやろう。
どうせ、お前はバレンタインにチョコレートなど貰えぬのであろう? だから私が訓練に参加させてチョコレートをくれてやろうというのだ。ありがたく思うがいい」
「はぁ?」
トモネの言葉を理解できないドリスキル。
無理もない。バレンタインと訓練がまったく結びつかないのだ。
ただ、ドリスキルに現時点で分かる事は、この訓練に参加させられた事を不運だと諦めるしかない事だ。
「まずは、これを見るがいい」
トモネが合図をすると天井から何かが降ってきた。
雪? いや、それにしては色が茶色い。
雪に似た茶色い綿のような物体が、地面を覆っていく。
周囲は銀世界ならぬ、茶色の世界だ。
「なんだこりゃ?」
「ふふん。実はこの部屋は雪原訓練をする部屋なのだが、特別仕様に変えさせてもらった。
天井から降ってくるこれは我が財団が研究開発を進めている新型チョコレートだ。なんと、雪の特製を持っておる。これを実用化すれば、チョコレートは新たなる進化を遂げるのだが、今日はこのチョコレートを使って雪原戦闘訓練を行う」
「雪原って、これチョコレートなんだろ?」
「……細かい事を言うでない。訓練と言ったら訓練なのだ」
「分かった分かった。で、訓練って何をするんだ?」
ため息をつくドリスキル。
下手な反論をすれば面倒な事になる。ドリスキルは一刻も早くこの不毛な時間を終えたかった。
だが、それに気付かないトモネは胸を張る。
「うむ。この雪を球状にして相手にぶつけるのだ」
「わーい、雪合戦だ!」
「…………」
トモネの発表に子供達は大喜びだ。
だが、ドリスキルの嫌な予感は的中していた。
いい年したおっさんが、チョコレートで子供達と雪合戦。ラズモネ・シャングリラのクルー達に知られれば冷やかされるのは間違いなしだ。
「拒否権はどうせねぇんだろ? さっさと終わらせちまおう。俺はお姫様を守るナイトでいいのか?」
「おぬしには私のチョコレートをくれてやると言ったであろう。子供達と一緒に私を攻撃する側で構わぬ」
「いいのか?」
「遠慮する事はない。その代わりチームにはハンターを入れさせてもらう。……さぁ、参るが良い」
トモネが入り口へ呼び掛ける。
その呼び掛けに応じるように扉が開き、二人の男が室内へ入ってきた。
一人は何故か段ボールの鎧に身を包む熱血漢だ。
「任せておけ、巫女。霊闘士ソイヤが必ず守ってみせる!」
反カップル同盟『自由の鐘(ベルリバティ)』。
かつて冒険都市リゼリオにいてクリスマスを楽しむカップルを襲撃する暴挙を起こした集団があった。
その集団の中に、青銅霊闘士である事を誇りとするソイヤがいた。
毒パルムの霊闘士を名乗ってカップル達に毒パルムを投げつける嫌がらせを繰り返していた。
「こいつはソイヤというハンターらしくてな。リアルブルーへ来たが依頼がないと困っていてな。私が時給832円で雇ってやる事にしたのだ」
「スライム座の青銅霊闘士ソイヤだ。君は、マテリアルを感じた事はあるか?」
「スラ……なんだって?」
ドリスキルは早くも頭痛を感じていた。
この場から一刻も立ち去りたい。
しかし、問題児はもう一人存在していた。
「ひやぁ、スゲェ景色だなぁ! オラ、たまげたぞ!」
尖った頭にオレンジの胴着を着た男だ。
見るからに筋肉質な男だが、何故か残念なオーラが漏れ出ている。
「オッス! オラ、剛空。よろしくな! ここで天下一格闘会をやってるって聞いてやってきた! オラ、わくわくしてきたぞ」
トモネによれば、剛空もソイヤ同様に自由の鐘のメンバーらしい。
強い奴と戦う事に喜びを感じる格闘士だが、ソイヤによれば何らかの流派を修めているらしい……。
「良いか。私とソイヤと剛空でドリスキルと子供達を迎え撃つ。見事、私にチョコレートを命中させればお前達の勝ちだ。褒美に菓子をくれてやろう」
「やったー! 頑張ろうぜ!」
歓喜に溢れる子供達であったが、ドリスキルは呆然とする他無かった。
今日は久しぶりの休日。
酒場でゆっくりと飲むつもりだったのだが、まさかこんな形で踏みにじられるとは――。
そんな気持ちを踏みにじるように、トモネは開幕時間を告げる。
「開始は三十分後。それまでしっかり準備をするのだぞ、皆の者」
ムーンリーフ財団が管理するこの施設では、日々強化人間研究が進められている。
リアルブルーでも真面目な研究機関なのだが、時折おかしな企画が立ち上がる。
その原因は、すべて――総帥の一言から始まる。
「ユーキ、巷ではバレンタインの準備で色めき立っているらしいな」
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフは、自分の背丈よりも少し高い椅子に腰掛けながら呟いた。
この一言にユーキは思わず身を奮わせる。
大抵の場合、このような話の始まり方はトモネが何かを考えている証拠だからだ。
だが、ユーキはトモネの世話役兼補佐役。冷静にトモネからの問いを返す。
「左様にございます」
「私は思うのだが、強化人間もかようなイベントを大事にしてやるべきではないのか?」
「お言葉ですが、彼らは普通の人間とは異なります。彼らはあくまでも対歪虚の戦力……」
「そうかもしれぬが、彼らも年齢は未だ幼い。息抜きも必要ではないか?」
ユーキの言葉を遮るトモネ。
既にトモネの中ではユーキの反論を聞く気はないようだ。
「……そうかもしれませんが、既に訓練メニューが決められております。訓練を行いその結果を研究に生かさなければなりません」
「ほほぅ」
ニヤリと笑みを浮かべるトモネ。
その笑みがロクでも無い結果を生む。
ユーキは、それを経験で学んでいた。
「ならば、訓練とすれば良いのだろう? 良かろう。私がバレンタインをモチーフにした訓練メニューを考えてやろう。それならば問題なあるまい」
●
「で、なんで俺がこんな所に呼び出されているんだ?」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉が呼び出されたのは、アスガルドのとある訓練施設であった。
そこにはドリスキルの他にトモネと強化人間の子供達が数名立っている。
「理由を知りたいか。それはこの子達の訓練に付き合って欲しいのだ」
「あん? 俺ぁてっきり子守りをしろって事かと思ったよ」
「少々聞き捨てならん単語も聞こえたが、聞き流してやろう。
どうせ、お前はバレンタインにチョコレートなど貰えぬのであろう? だから私が訓練に参加させてチョコレートをくれてやろうというのだ。ありがたく思うがいい」
「はぁ?」
トモネの言葉を理解できないドリスキル。
無理もない。バレンタインと訓練がまったく結びつかないのだ。
ただ、ドリスキルに現時点で分かる事は、この訓練に参加させられた事を不運だと諦めるしかない事だ。
「まずは、これを見るがいい」
トモネが合図をすると天井から何かが降ってきた。
雪? いや、それにしては色が茶色い。
雪に似た茶色い綿のような物体が、地面を覆っていく。
周囲は銀世界ならぬ、茶色の世界だ。
「なんだこりゃ?」
「ふふん。実はこの部屋は雪原訓練をする部屋なのだが、特別仕様に変えさせてもらった。
天井から降ってくるこれは我が財団が研究開発を進めている新型チョコレートだ。なんと、雪の特製を持っておる。これを実用化すれば、チョコレートは新たなる進化を遂げるのだが、今日はこのチョコレートを使って雪原戦闘訓練を行う」
「雪原って、これチョコレートなんだろ?」
「……細かい事を言うでない。訓練と言ったら訓練なのだ」
「分かった分かった。で、訓練って何をするんだ?」
ため息をつくドリスキル。
下手な反論をすれば面倒な事になる。ドリスキルは一刻も早くこの不毛な時間を終えたかった。
だが、それに気付かないトモネは胸を張る。
「うむ。この雪を球状にして相手にぶつけるのだ」
「わーい、雪合戦だ!」
「…………」
トモネの発表に子供達は大喜びだ。
だが、ドリスキルの嫌な予感は的中していた。
いい年したおっさんが、チョコレートで子供達と雪合戦。ラズモネ・シャングリラのクルー達に知られれば冷やかされるのは間違いなしだ。
「拒否権はどうせねぇんだろ? さっさと終わらせちまおう。俺はお姫様を守るナイトでいいのか?」
「おぬしには私のチョコレートをくれてやると言ったであろう。子供達と一緒に私を攻撃する側で構わぬ」
「いいのか?」
「遠慮する事はない。その代わりチームにはハンターを入れさせてもらう。……さぁ、参るが良い」
トモネが入り口へ呼び掛ける。
その呼び掛けに応じるように扉が開き、二人の男が室内へ入ってきた。
一人は何故か段ボールの鎧に身を包む熱血漢だ。
「任せておけ、巫女。霊闘士ソイヤが必ず守ってみせる!」
反カップル同盟『自由の鐘(ベルリバティ)』。
かつて冒険都市リゼリオにいてクリスマスを楽しむカップルを襲撃する暴挙を起こした集団があった。
その集団の中に、青銅霊闘士である事を誇りとするソイヤがいた。
毒パルムの霊闘士を名乗ってカップル達に毒パルムを投げつける嫌がらせを繰り返していた。
「こいつはソイヤというハンターらしくてな。リアルブルーへ来たが依頼がないと困っていてな。私が時給832円で雇ってやる事にしたのだ」
「スライム座の青銅霊闘士ソイヤだ。君は、マテリアルを感じた事はあるか?」
「スラ……なんだって?」
ドリスキルは早くも頭痛を感じていた。
この場から一刻も立ち去りたい。
しかし、問題児はもう一人存在していた。
「ひやぁ、スゲェ景色だなぁ! オラ、たまげたぞ!」
尖った頭にオレンジの胴着を着た男だ。
見るからに筋肉質な男だが、何故か残念なオーラが漏れ出ている。
「オッス! オラ、剛空。よろしくな! ここで天下一格闘会をやってるって聞いてやってきた! オラ、わくわくしてきたぞ」
トモネによれば、剛空もソイヤ同様に自由の鐘のメンバーらしい。
強い奴と戦う事に喜びを感じる格闘士だが、ソイヤによれば何らかの流派を修めているらしい……。
「良いか。私とソイヤと剛空でドリスキルと子供達を迎え撃つ。見事、私にチョコレートを命中させればお前達の勝ちだ。褒美に菓子をくれてやろう」
「やったー! 頑張ろうぜ!」
歓喜に溢れる子供達であったが、ドリスキルは呆然とする他無かった。
今日は久しぶりの休日。
酒場でゆっくりと飲むつもりだったのだが、まさかこんな形で踏みにじられるとは――。
そんな気持ちを踏みにじるように、トモネは開幕時間を告げる。
「開始は三十分後。それまでしっかり準備をするのだぞ、皆の者」
リプレイ本文
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉は、天井を見上げた。
上から舞い落ちる茶色の雪は、既に床を埋め尽くして異様なる光景を形成していた。
「俺がお前を守ってやるからよ、おっさん」
そう言いながら、マルコスはドリスキルの腰辺りに手を当てた。
強化人間であり、今回実施される特別雪中訓練の参加者だ。幼いながらもリーダーシップがある少年と評価されている。
「誰がおっさんだ! お兄さんと呼べ!」
「初めまして、なの……ドリルおにい……ドリル『さん』」
星空の幻(ka6980)はドリスキルへ挨拶をしようとしたが、顔を一目見た途端に言い換えた。
「おいっ! 今、しれっとお兄さんって付けようとして止めただろ!」
「失礼……噛みましたの」
「嘘つけっ!」
「噛みまみちたの」
ドリスキルと星空の問答。
そうしている間にも、茶色の雪が降り積もっていく。ムーンリーフ財団が開発した雪のようなチョコレートだ。
「わあ、本当にチョコだ」
雪を前に強化人間のランディはしゃがみ込んだ。力持ちだが、比較的大人しい少年だ。
「こっちのチビはマイペースだな。気楽にやるぐらいがちょうどいい訓練かもな」
ドリスキルは、ランディを上から見下ろす。
今回行われる特殊雪中訓練は、『雪状のチョコレートで雪合戦』をする事だ。
「何を見ている、ですの?」
星空は、相手となるトモネのチームを見据える玄武坂 光(ka4537)に気付いた。
視線を向けた星空の瞳にも、異様な姿が飛び込んでくる。
「『自由の鐘』とかいうの二人……何かどこかで見た事あるような……うーん」
反カップル同盟『自由の鐘(ベルリバティ)』。
かつて冒険都市リゼリオにてカップルを別れさせる為に活動した嫉妬集団。何故かリアルブルーにまで姿を見せたようだが、今回に限ってはトモネに雇われて訓練に参加しているようだ。
(なかなかに味のあるメンバーじゃねぇか)
腕を組み、自由の鐘のメンバーである二人のハンターを熱く見つめる光。
一人は段ボール製の自作鎧を身に纏う男。
もう一人はオレンジの格闘道着を身につける男。
いずれも怪しい雰囲気を漂わせている。
しかし、光の視線は鎧の男へと吸い寄せられる。
「あいつは……!?」
まさかリアルブルーへ来てまで青銅霊闘士と出会うとは――。
これも星の下に生まれた宿命だというのか。
光はマルコスとランディに向き直ると、片膝をついて視線を二人に合わせた。
「がきんちょ共、あのソイヤって奴は俺が何とかする。総帥のお嬢ちゃんはお前らに任せる」
●
一方、トモネのチームも別の意味で賑やかであった。
「勝利は確定している。安心するがいい。わっはっは」
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフ。
アスガルドの訓練施設で、強化人間と一緒にチョコレート雪合戦に興じるつもりのようだ。
やはり年相応に同年代の子供とはしゃぎたいのだろうか。
「安心してくれ、巫女。青銅霊闘士として俺が守ってみせる」
スライム座の青銅霊闘士を名乗るソイヤは、親指を立てて自分を指し示す。
「あくまで訓練だからな。ぶっとばす必要はないわけだ。楽しもうぜ」
ミリア・ラスティソード(ka1287)は大量のチョコ玉をトモネの傍らでせっせと量産し続けていた。
今回、ハンターにチョコレート仕様に変更した武器が貸与されている。弾の代わりにチョコレートの塊を発射するのだが、トモネは普通の人間。銃器の扱いにも慣れていないだろう。そう考えたミリアは、トモネが攻撃できるように雪合戦さながらのチョコ玉を製作していたのだ。
「ふふふ、チョコ玉か。気遣いは感謝するが、私の周りにチョコレートを集めておくだけで良い」
「大丈夫か?」
「案ずるな。私が誰かをお子様達にしっかり教育してやろう」
自信満々のトモネ。
ミリアからみれば、トモネも強化人間のマルコス達も同じお子様なのだが。
「でぇじょーぶだ。万が一死んじまっても龍玉を七つ集めて青龍にお願いすりゃ、生き返してもらえっから」
自由の鐘の剛空と名乗るオレンジの胴着を着た男は、腕を組みながら一人で勝手に頷いている。
ちなみに青龍へ龍玉を自称する石ころを七つ渡した所で、迷惑がられるだけだ。剛空の妄言として聞き流すのがベストだろう。
「私達、ヴァレンティヌスの殉教日を祝わないから。オールハートデーってそんなに盛り上がるものじゃなかったもの。サンクスギビングデイの方がまだお祭り騒ぎしてたわ。でも、騒げる理由があるのなら、何でもいいんじゃないかしら」
マリィア・バルデス(ka5848)は、貸し出された拳銃を入念にチェックしていた。
マリィアから見れば、この訓練は一風変わったイベントだ。
だが、気を抜く気は一切ない。
バレンタインに模様替えはされているものの、大人と子供が敵対する形となる。
大人は子供の壁。
乗り越えるべき壁。
おまけに相手チームにはドリスキルが参加している。できるなら、マルコス達やトモネも楽しく訓練に励みたいところだ。
「10分。案外、気を抜けない訓練になりそうね」
「期待しておるぞ。私をしっかり護衛するが良い」
マリィアの言葉を受け、トモネは同じチームの者達へ期待を寄せる。
勝っても負けても恨みっこなし。
それぞれの思惑を抱きながら、間もなく訓練開始の時間を迎える。
●
「行くっぞー! ついて来い、ランディ!」
「あ、待ってよぉ」
訓練開始直後、真っ先に動いたのは強化人間のマルコスとランディ。
全体を把握せず、無鉄砲な突撃。やはり強化人間と言っても経験までは補えない。
「へっ、来やがったな」
二人の行く手を阻んだのはミリアであった。
借り受けたチョコレート仕様のアサルトライフルを斉射。二人の足止めに成功する。
「……わっ! いきなり撃ちやがったな、おばさん!」
「訓練だからって手は抜かねぇ……って、誰がおばさんだ!」
素早く壁に身を隠すマルコス。
まだ幼いマルコスから見れば、まだ若いミリアであってもおばさん扱いなのだろうか。それなら、某艦長はミイラ扱いされても仕方ない。
一方、ランディの方の方も物陰に隠れたのだが――。
「危険を予期して行動しないと、部隊の全滅を招くわよ」
ランディが物陰に隠れる事を予想していたマリィア。
一息つく間も与えず、距離を詰めて側面から回り込む。そして、手にしていた拳銃を構え、躊躇無く引き金を引く。
発射されたチョコレートの弾丸は、ランディの顔に命中。炸裂したチョコレートがランディの顔を茶色に染める。
「うわっ!」
「常に最悪の事態を考えなさい。生き残りたいなら……」
次の言葉を言い掛けたマリィアだったが、言葉を無理矢理飲み込んだ。
反射的に身を後へ逸らす。
次の瞬間、茶色い雪玉がマリィアの居た場所を通過していった。
「あー、肩作ってから投げねぇと痛めちまうかな?」
「中尉」
雪玉を投げてきたのはドリスキルだった。
マリィアは、数歩後へ下がる。
ランディとドリスキルの二人を警戒する為だ。
「さっきまでぼやいてたのに、やる気が出たようね。それにしても、訓練でも敵対すると厄介ね。雪玉が嫌な所を狙って飛んできたもの」
「始まっちまったら、やるしかねぇよな。
それに俺は戦車兵だからな。狙いに関しちゃ負ける気はねぇよ。それによ、これでもガキの頃はピッチャーで四番だったんだぜ?」
何処まで本気か分からない憎まれ口を叩くドリスキル。
右肩を回しながら、ゆっくりと近付いてくる。マリィアを射程距離で捕捉する為だろう。
「中尉が野球? 似合わないわね。是非、見てみたいものだわ」
「いいだろう。バックネット裏に良い席を用意してやる。コーラとホットドックを忘れるなよ」
マリィアとドリスキルの間に訓練と思えない空気が流れていた。
●
「こっからは近付けさせねぇ」
トモネの前に陣取り、チョコレート仕様のアサルトライフルで敵を迎撃するミリア。
マルコス達のチームは、このみりあを何とかしなければトモネに近づく事もできない。
早速、星空が動き出す。
「倒すの……」
地面がチョコレートである事を利用して、横へ飛ぶ星空。
体をチョコレートに預けながら、チョコレート仕様のデリンジャーを数発発射する。
チョコレートの弾丸は、近くの壁へ命中。しかし、チョコレートの硬い欠片が跳弾となってミリアを襲う。
「ちっ、跳弾かよっ!」
ミリアは反射的なアサルトライフルライフルを顔に寄せて弾丸を防ぐ。
弾かれる弾丸。
だが、その隙に星空は一気に間合いを詰める。星空の後方からは、マルコスが再び走り寄ってくる。
「次は負けねぇぞ」
「近付けりゃ、防ぐのが難しくなる!」
後方へ向けて飛び退くミリア。
同時に後方へ振り返り、トモネの身を案じる。
「気を付けろ! 奴らが来るぞ!」
「ふふん、早速来たか。ならば早速見せてやろう」
トモネは手にしていたリモコンのボタンを押した。
地面が開き、下からせり上がって来たのは茶色く大きなキャノン。
チョコレートのように光を放つそれは、見る者に脅威を与える。
「聞いておるぞ。何やらキャノンというのが流行っておるそうだな。私も技術部に手配して作らせたぞ。早速、チョコレートをキャノンに入れて……と」
キャノンの後部から集めておいたチョコレートを注ぎ混むトモネ。
その前ではミリアが星空を相手に善戦を見せていた。
再び振り返ったミリアの前に現れたのは大口径のキャノン。
そして、その姿は星空の目にも飛び込んでくる。
「あれは……何?」
「一体何をやって……って、なんだそれっ!?」
驚く二人。
だが、当のトモネは不敵にも笑みを浮かべる。
「キャノンの前におると危ないぞ。早く避けるがいい」
衝撃。
轟音と共に発せられたチョコレートの玉が飛来。ミリアと星空の間を抜け、訓練場の壁に激突する。既に雪合戦の域を遙かに超えた兵器と化したキャノンである。
思わず、星空もキャノンの存在を危険視する。
「それ……危ない奴ですの」
「ちょっと気合い入れて作りすぎたか。まあ、おぬしらなら何とかなるじゃろう。許せ」
許せ、の一言で押し通そうとするトモネ。
訓練でありながら、いつしかそれぞれの動きに熱を帯び始めていた。
●
一方、残念な意味で熱を帯び始めた者達も存在していた。
「元青銅霊闘士候補生、玄武坂光、行くぜ! 高まれ! 俺のマテリアル!」
光の闘志が燃え上がり、体内のマテリアルが体を駆け巡る……気がする。
距離を置いて対峙するのは、同じく青銅霊闘士を名乗るソイヤだ。
「マテリアルを燃焼させたか。相手にとって不足無しっ!
行くぞ! スライム……流 星 拳っ!」
ソイヤが持参したスライムをこね回してチョコレートを塗した匠の逸品。
当たるとダメージは無いが、気色悪い。
光は『地を駆けるもの』でスライムを素早く回避。一気に間合いを詰めていく。
「くっ、やるな!」
「俺も負けてはいられん! 行くぞっ!」
ソイヤを視覚で捉える光。
既に右腕は下方へ向けて、大きく引かれている。
野生の瞳がソイヤの逃げ道を見定める。
「故郷の大滝をも切り裂く……俺の一撃を食らえっ! 玄武昇竜覇」
繰り出される下段からの強烈なアンダスロー。
勢いよく放たれたチョコレートは、ソイヤの顔に命中。だが、何故か宙へ舞い上がるソイヤ。雰囲気からなのか、自分からジャンプしたようだ。
「やるな。暗黒霊闘士……いや、黄金霊闘士クラスの力を持つようだな」
口から血が出たわけでも無いのに、手首でチョコレートを拭うソイヤ。
どうやら、光はソイヤに認められたようだ。
そして、光が認められたのはソイヤだけではなかった。
「うひゃー、おめぇすげぇ強ぇな! オラ、わくわくしてきたぞ」
裸旋流格闘士を名乗る剛空という男。
強い奴を前にすると気持ちが昂ぶるのだろうか、一人で勝手に興奮している。
「あんたも青銅霊闘士か?」
「いや、オラは違ぇぞ。今日はお前ぇと全力で戦えねぇのが残念だけど、ちょびっと本気出させてもらうぞ」
そう言いつつ、オレンジの胴着を放り投げる剛空。
同時に前へと踏み込む。
一足飛び。そう表現しても差し支えない早さだ。
「早い。だが、負けられない。霊闘士の一人として」
光は、地を駆けるもので剛空との間合いを詰める。
お互い、必殺の一撃にすべてを賭けるようだ。
「玄武亢龍覇っ!」
「チョコレート、ハーメーハーメー……波っっ!」
剛空は、手に握られたチョコレートを前に突き出して擦り付けようとする。
だが、玄武は寸前で剛空の一撃を躱しながら背後へと回り込もうとする。
お互いのプライドが激突。
まるで周囲のチョコレートをすべて吹き飛ばすかのような熱いバトルが始まる。
●
訓練終了まで後2分。
戦況はトモネチームが優勢であった。大きいのはミリアがトモネを防衛している事だ。トモネ以外は命中しても勝負に影響しない。この為、ミリアが盾となって守っている状況は、攻める側にとって壁そのものであった。
「よくやったな、ミリア。褒めて遣わす。どれ、私も一つ助けてやるとしよう」
トモネは某キャノンへチョコレートを一気に注ぎ混む。
だが、明らかに大量にチョコレートが注入されていく。
「おい、さすがにそれは多すぎねぇか?」
「大丈夫だ。我が財団の技術を信じようではないか。では、最後に盛大な一発を……」
ミリアの心配をよそに、再びボタンを押すトモネ。
しかし、先程と異なり、キャノンは大きく揺れ始める。
明らかにヤバい雰囲気を放ち始める。
「大丈夫なの……?」
「おかしいな。反応が鈍いのかもしれん。それ、発射じゃ」
敵チームの星空にも心配される中、容赦なくボタンを連打するトモネ。
どんどん振動が大きくなっていく。
それはミリアと星空にとって不安の種でしかなかった。
「もう止せ、それ以上……」
そうミリアが言い掛けた瞬間、キャノンは派手に爆発。
両チームに降り掛かるように大量のチョコレートが弾け飛んだ。
中央にいたトモネもチョコレートを頭から被った。
最早、ぶつけられても判別できない姿だ。
――トモネの自爆。
勝敗は曖昧なまま、訓練は終了となった。
●
「はい、これ。どうせ誰からももらっていないんでしょ?」
全員がシャワーを浴びた後、マリィアはドリスキルにハート型のクッキーを贈った。
オールハートデーとして訓練に参加した全員にクッキーを配っていたのだ。
「ふぅん」
「何?」
「お前、クッキーなんか焼けたんだな」
「あら? 中尉には必要なかったかしら」
「いや、ありがたく頂戴するさ。焦げる程刺激的なクッキーをゆっくり堪能させてもらう」
ドリスキルがクッキーを眺める姿を見て、マリィアはそっと鼻で笑う。
遠くからトモネが大声で二人へ呼び掛ける。
「おい、おぬしら。折角なので記念写真を撮るぞ。早く来ぬか」
上から舞い落ちる茶色の雪は、既に床を埋め尽くして異様なる光景を形成していた。
「俺がお前を守ってやるからよ、おっさん」
そう言いながら、マルコスはドリスキルの腰辺りに手を当てた。
強化人間であり、今回実施される特別雪中訓練の参加者だ。幼いながらもリーダーシップがある少年と評価されている。
「誰がおっさんだ! お兄さんと呼べ!」
「初めまして、なの……ドリルおにい……ドリル『さん』」
星空の幻(ka6980)はドリスキルへ挨拶をしようとしたが、顔を一目見た途端に言い換えた。
「おいっ! 今、しれっとお兄さんって付けようとして止めただろ!」
「失礼……噛みましたの」
「嘘つけっ!」
「噛みまみちたの」
ドリスキルと星空の問答。
そうしている間にも、茶色の雪が降り積もっていく。ムーンリーフ財団が開発した雪のようなチョコレートだ。
「わあ、本当にチョコだ」
雪を前に強化人間のランディはしゃがみ込んだ。力持ちだが、比較的大人しい少年だ。
「こっちのチビはマイペースだな。気楽にやるぐらいがちょうどいい訓練かもな」
ドリスキルは、ランディを上から見下ろす。
今回行われる特殊雪中訓練は、『雪状のチョコレートで雪合戦』をする事だ。
「何を見ている、ですの?」
星空は、相手となるトモネのチームを見据える玄武坂 光(ka4537)に気付いた。
視線を向けた星空の瞳にも、異様な姿が飛び込んでくる。
「『自由の鐘』とかいうの二人……何かどこかで見た事あるような……うーん」
反カップル同盟『自由の鐘(ベルリバティ)』。
かつて冒険都市リゼリオにてカップルを別れさせる為に活動した嫉妬集団。何故かリアルブルーにまで姿を見せたようだが、今回に限ってはトモネに雇われて訓練に参加しているようだ。
(なかなかに味のあるメンバーじゃねぇか)
腕を組み、自由の鐘のメンバーである二人のハンターを熱く見つめる光。
一人は段ボール製の自作鎧を身に纏う男。
もう一人はオレンジの格闘道着を身につける男。
いずれも怪しい雰囲気を漂わせている。
しかし、光の視線は鎧の男へと吸い寄せられる。
「あいつは……!?」
まさかリアルブルーへ来てまで青銅霊闘士と出会うとは――。
これも星の下に生まれた宿命だというのか。
光はマルコスとランディに向き直ると、片膝をついて視線を二人に合わせた。
「がきんちょ共、あのソイヤって奴は俺が何とかする。総帥のお嬢ちゃんはお前らに任せる」
●
一方、トモネのチームも別の意味で賑やかであった。
「勝利は確定している。安心するがいい。わっはっは」
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフ。
アスガルドの訓練施設で、強化人間と一緒にチョコレート雪合戦に興じるつもりのようだ。
やはり年相応に同年代の子供とはしゃぎたいのだろうか。
「安心してくれ、巫女。青銅霊闘士として俺が守ってみせる」
スライム座の青銅霊闘士を名乗るソイヤは、親指を立てて自分を指し示す。
「あくまで訓練だからな。ぶっとばす必要はないわけだ。楽しもうぜ」
ミリア・ラスティソード(ka1287)は大量のチョコ玉をトモネの傍らでせっせと量産し続けていた。
今回、ハンターにチョコレート仕様に変更した武器が貸与されている。弾の代わりにチョコレートの塊を発射するのだが、トモネは普通の人間。銃器の扱いにも慣れていないだろう。そう考えたミリアは、トモネが攻撃できるように雪合戦さながらのチョコ玉を製作していたのだ。
「ふふふ、チョコ玉か。気遣いは感謝するが、私の周りにチョコレートを集めておくだけで良い」
「大丈夫か?」
「案ずるな。私が誰かをお子様達にしっかり教育してやろう」
自信満々のトモネ。
ミリアからみれば、トモネも強化人間のマルコス達も同じお子様なのだが。
「でぇじょーぶだ。万が一死んじまっても龍玉を七つ集めて青龍にお願いすりゃ、生き返してもらえっから」
自由の鐘の剛空と名乗るオレンジの胴着を着た男は、腕を組みながら一人で勝手に頷いている。
ちなみに青龍へ龍玉を自称する石ころを七つ渡した所で、迷惑がられるだけだ。剛空の妄言として聞き流すのがベストだろう。
「私達、ヴァレンティヌスの殉教日を祝わないから。オールハートデーってそんなに盛り上がるものじゃなかったもの。サンクスギビングデイの方がまだお祭り騒ぎしてたわ。でも、騒げる理由があるのなら、何でもいいんじゃないかしら」
マリィア・バルデス(ka5848)は、貸し出された拳銃を入念にチェックしていた。
マリィアから見れば、この訓練は一風変わったイベントだ。
だが、気を抜く気は一切ない。
バレンタインに模様替えはされているものの、大人と子供が敵対する形となる。
大人は子供の壁。
乗り越えるべき壁。
おまけに相手チームにはドリスキルが参加している。できるなら、マルコス達やトモネも楽しく訓練に励みたいところだ。
「10分。案外、気を抜けない訓練になりそうね」
「期待しておるぞ。私をしっかり護衛するが良い」
マリィアの言葉を受け、トモネは同じチームの者達へ期待を寄せる。
勝っても負けても恨みっこなし。
それぞれの思惑を抱きながら、間もなく訓練開始の時間を迎える。
●
「行くっぞー! ついて来い、ランディ!」
「あ、待ってよぉ」
訓練開始直後、真っ先に動いたのは強化人間のマルコスとランディ。
全体を把握せず、無鉄砲な突撃。やはり強化人間と言っても経験までは補えない。
「へっ、来やがったな」
二人の行く手を阻んだのはミリアであった。
借り受けたチョコレート仕様のアサルトライフルを斉射。二人の足止めに成功する。
「……わっ! いきなり撃ちやがったな、おばさん!」
「訓練だからって手は抜かねぇ……って、誰がおばさんだ!」
素早く壁に身を隠すマルコス。
まだ幼いマルコスから見れば、まだ若いミリアであってもおばさん扱いなのだろうか。それなら、某艦長はミイラ扱いされても仕方ない。
一方、ランディの方の方も物陰に隠れたのだが――。
「危険を予期して行動しないと、部隊の全滅を招くわよ」
ランディが物陰に隠れる事を予想していたマリィア。
一息つく間も与えず、距離を詰めて側面から回り込む。そして、手にしていた拳銃を構え、躊躇無く引き金を引く。
発射されたチョコレートの弾丸は、ランディの顔に命中。炸裂したチョコレートがランディの顔を茶色に染める。
「うわっ!」
「常に最悪の事態を考えなさい。生き残りたいなら……」
次の言葉を言い掛けたマリィアだったが、言葉を無理矢理飲み込んだ。
反射的に身を後へ逸らす。
次の瞬間、茶色い雪玉がマリィアの居た場所を通過していった。
「あー、肩作ってから投げねぇと痛めちまうかな?」
「中尉」
雪玉を投げてきたのはドリスキルだった。
マリィアは、数歩後へ下がる。
ランディとドリスキルの二人を警戒する為だ。
「さっきまでぼやいてたのに、やる気が出たようね。それにしても、訓練でも敵対すると厄介ね。雪玉が嫌な所を狙って飛んできたもの」
「始まっちまったら、やるしかねぇよな。
それに俺は戦車兵だからな。狙いに関しちゃ負ける気はねぇよ。それによ、これでもガキの頃はピッチャーで四番だったんだぜ?」
何処まで本気か分からない憎まれ口を叩くドリスキル。
右肩を回しながら、ゆっくりと近付いてくる。マリィアを射程距離で捕捉する為だろう。
「中尉が野球? 似合わないわね。是非、見てみたいものだわ」
「いいだろう。バックネット裏に良い席を用意してやる。コーラとホットドックを忘れるなよ」
マリィアとドリスキルの間に訓練と思えない空気が流れていた。
●
「こっからは近付けさせねぇ」
トモネの前に陣取り、チョコレート仕様のアサルトライフルで敵を迎撃するミリア。
マルコス達のチームは、このみりあを何とかしなければトモネに近づく事もできない。
早速、星空が動き出す。
「倒すの……」
地面がチョコレートである事を利用して、横へ飛ぶ星空。
体をチョコレートに預けながら、チョコレート仕様のデリンジャーを数発発射する。
チョコレートの弾丸は、近くの壁へ命中。しかし、チョコレートの硬い欠片が跳弾となってミリアを襲う。
「ちっ、跳弾かよっ!」
ミリアは反射的なアサルトライフルライフルを顔に寄せて弾丸を防ぐ。
弾かれる弾丸。
だが、その隙に星空は一気に間合いを詰める。星空の後方からは、マルコスが再び走り寄ってくる。
「次は負けねぇぞ」
「近付けりゃ、防ぐのが難しくなる!」
後方へ向けて飛び退くミリア。
同時に後方へ振り返り、トモネの身を案じる。
「気を付けろ! 奴らが来るぞ!」
「ふふん、早速来たか。ならば早速見せてやろう」
トモネは手にしていたリモコンのボタンを押した。
地面が開き、下からせり上がって来たのは茶色く大きなキャノン。
チョコレートのように光を放つそれは、見る者に脅威を与える。
「聞いておるぞ。何やらキャノンというのが流行っておるそうだな。私も技術部に手配して作らせたぞ。早速、チョコレートをキャノンに入れて……と」
キャノンの後部から集めておいたチョコレートを注ぎ混むトモネ。
その前ではミリアが星空を相手に善戦を見せていた。
再び振り返ったミリアの前に現れたのは大口径のキャノン。
そして、その姿は星空の目にも飛び込んでくる。
「あれは……何?」
「一体何をやって……って、なんだそれっ!?」
驚く二人。
だが、当のトモネは不敵にも笑みを浮かべる。
「キャノンの前におると危ないぞ。早く避けるがいい」
衝撃。
轟音と共に発せられたチョコレートの玉が飛来。ミリアと星空の間を抜け、訓練場の壁に激突する。既に雪合戦の域を遙かに超えた兵器と化したキャノンである。
思わず、星空もキャノンの存在を危険視する。
「それ……危ない奴ですの」
「ちょっと気合い入れて作りすぎたか。まあ、おぬしらなら何とかなるじゃろう。許せ」
許せ、の一言で押し通そうとするトモネ。
訓練でありながら、いつしかそれぞれの動きに熱を帯び始めていた。
●
一方、残念な意味で熱を帯び始めた者達も存在していた。
「元青銅霊闘士候補生、玄武坂光、行くぜ! 高まれ! 俺のマテリアル!」
光の闘志が燃え上がり、体内のマテリアルが体を駆け巡る……気がする。
距離を置いて対峙するのは、同じく青銅霊闘士を名乗るソイヤだ。
「マテリアルを燃焼させたか。相手にとって不足無しっ!
行くぞ! スライム……流 星 拳っ!」
ソイヤが持参したスライムをこね回してチョコレートを塗した匠の逸品。
当たるとダメージは無いが、気色悪い。
光は『地を駆けるもの』でスライムを素早く回避。一気に間合いを詰めていく。
「くっ、やるな!」
「俺も負けてはいられん! 行くぞっ!」
ソイヤを視覚で捉える光。
既に右腕は下方へ向けて、大きく引かれている。
野生の瞳がソイヤの逃げ道を見定める。
「故郷の大滝をも切り裂く……俺の一撃を食らえっ! 玄武昇竜覇」
繰り出される下段からの強烈なアンダスロー。
勢いよく放たれたチョコレートは、ソイヤの顔に命中。だが、何故か宙へ舞い上がるソイヤ。雰囲気からなのか、自分からジャンプしたようだ。
「やるな。暗黒霊闘士……いや、黄金霊闘士クラスの力を持つようだな」
口から血が出たわけでも無いのに、手首でチョコレートを拭うソイヤ。
どうやら、光はソイヤに認められたようだ。
そして、光が認められたのはソイヤだけではなかった。
「うひゃー、おめぇすげぇ強ぇな! オラ、わくわくしてきたぞ」
裸旋流格闘士を名乗る剛空という男。
強い奴を前にすると気持ちが昂ぶるのだろうか、一人で勝手に興奮している。
「あんたも青銅霊闘士か?」
「いや、オラは違ぇぞ。今日はお前ぇと全力で戦えねぇのが残念だけど、ちょびっと本気出させてもらうぞ」
そう言いつつ、オレンジの胴着を放り投げる剛空。
同時に前へと踏み込む。
一足飛び。そう表現しても差し支えない早さだ。
「早い。だが、負けられない。霊闘士の一人として」
光は、地を駆けるもので剛空との間合いを詰める。
お互い、必殺の一撃にすべてを賭けるようだ。
「玄武亢龍覇っ!」
「チョコレート、ハーメーハーメー……波っっ!」
剛空は、手に握られたチョコレートを前に突き出して擦り付けようとする。
だが、玄武は寸前で剛空の一撃を躱しながら背後へと回り込もうとする。
お互いのプライドが激突。
まるで周囲のチョコレートをすべて吹き飛ばすかのような熱いバトルが始まる。
●
訓練終了まで後2分。
戦況はトモネチームが優勢であった。大きいのはミリアがトモネを防衛している事だ。トモネ以外は命中しても勝負に影響しない。この為、ミリアが盾となって守っている状況は、攻める側にとって壁そのものであった。
「よくやったな、ミリア。褒めて遣わす。どれ、私も一つ助けてやるとしよう」
トモネは某キャノンへチョコレートを一気に注ぎ混む。
だが、明らかに大量にチョコレートが注入されていく。
「おい、さすがにそれは多すぎねぇか?」
「大丈夫だ。我が財団の技術を信じようではないか。では、最後に盛大な一発を……」
ミリアの心配をよそに、再びボタンを押すトモネ。
しかし、先程と異なり、キャノンは大きく揺れ始める。
明らかにヤバい雰囲気を放ち始める。
「大丈夫なの……?」
「おかしいな。反応が鈍いのかもしれん。それ、発射じゃ」
敵チームの星空にも心配される中、容赦なくボタンを連打するトモネ。
どんどん振動が大きくなっていく。
それはミリアと星空にとって不安の種でしかなかった。
「もう止せ、それ以上……」
そうミリアが言い掛けた瞬間、キャノンは派手に爆発。
両チームに降り掛かるように大量のチョコレートが弾け飛んだ。
中央にいたトモネもチョコレートを頭から被った。
最早、ぶつけられても判別できない姿だ。
――トモネの自爆。
勝敗は曖昧なまま、訓練は終了となった。
●
「はい、これ。どうせ誰からももらっていないんでしょ?」
全員がシャワーを浴びた後、マリィアはドリスキルにハート型のクッキーを贈った。
オールハートデーとして訓練に参加した全員にクッキーを配っていたのだ。
「ふぅん」
「何?」
「お前、クッキーなんか焼けたんだな」
「あら? 中尉には必要なかったかしら」
「いや、ありがたく頂戴するさ。焦げる程刺激的なクッキーをゆっくり堪能させてもらう」
ドリスキルがクッキーを眺める姿を見て、マリィアはそっと鼻で笑う。
遠くからトモネが大声で二人へ呼び掛ける。
「おい、おぬしら。折角なので記念写真を撮るぞ。早く来ぬか」
依頼結果
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訓練会場控室(相談卓) 玄武坂 光(ka4537) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/02/20 23:47:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/19 08:16:03 |