ゲスト
(ka0000)
少女と不思議なリンゴ
マスター:くさのうえのひよこ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/25 07:30
- 完成日
- 2018/03/05 03:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
名もなき村の近くにある深い森。
その朝露の滴る薄暗い森の中に、少女の姿があった。
「今日もおばあちゃんにリンゴを届けなくちゃ」
優しくて大好きなおばあちゃん。
少女が幼かった頃、風邪をひくと、おばあちゃんは決まって少女の大好きなリンゴをむいて食べさせてくれた。
今度は私が元気にしてあげたい――そう願って、身体の弱いおばあちゃんの住む小屋まで、毎朝採れたてのリンゴを届けるのが少女の日課だった。
「がぅ」
茂みから狼が顔を覗かせた。
だが、狼が少女を襲ってくる様子はない。
「おはよう、狼さん。今日はいい天気だねっ」
狼はしばらくじっと少女の顔を見つめていたが、自分に危害を加えてこないと分かると、ふいと茂みの奥へ去ってしまった。
「やあ、毎日ご苦労さん」
今度は茂みから、背の高い男が手を振りながら少女の前に立った。
「おはよう、狩人さん!」
「どうやら狼のヤツも、この森でたくさん採れるリンゴを食べて満腹らしい」
狩人と呼ばれた男は、森の奥にある大きなリンゴの樹を指さす。
「みんなあのリンゴの樹さんに助けられているのかな?」
「そうだな。樹齢もかなり古そうだし……この森の守り神みたいだな」
風だろうか、さわさわと葉を揺らす音が聞こえる。
頬を撫でるそよ風が気持ちいい。
少女はリンゴの樹に近付いた。
「リンゴをひとつくださいな。いつもありがとう」
少女は赤く実ったリンゴに手を伸ばした。
●
「おばあちゃん! 今日も採れたてのリンゴを持ってきたから食べてね」
「まぁまぁ……いつもありがとうね」
ベッドから身を起こし、その赤いリンゴを少女から受け取って机の上のナイフで皮をむき、8つに切り分けた。
「一緒に食べましょう」
「わぁ、おいしいね、おばあちゃん!」
噛むと、じゅわっと甘い液が口いっぱいに広がる。
「本当に美味しい……体の芯から癒してくれるような優しいお味だねぇ」
「またリンゴの樹さんからこの美味しいリンゴをもらってくる! だから、早く元気になってね!」
「ええ、ありがとうね」
おばあちゃんの目が潤み、涙が零れ落ちた。
●
「おはよう! 今日も美味しいリンゴを下さいなっ」
森の中を進み、いつも通りに少女はリンゴの樹の前に立つ。
少女は元気に挨拶をすると、赤くて美味しそうな果実をひとつ手でもいだ。
「グルル……」
「あれ、狼さん?」
狼が茂みから少女を見ていた。
いつもよりも毛並みが悪く、また、聞いたことがない声で唸っている。
「どうしたのかな、機嫌が悪いみたい」
お腹が空いているのかな、と思った少女は、そっとリンゴを差し出してみる。
「ダメだ、そいつは君を襲おうとしている! 逃げろ!」
「えっ」
叫ぶ声に反応して振り向くと、いつもは大人しい狼が少女に向って飛び掛かってきた。
グッと強い力で手を引かれ、とっさにその鋭い爪を逃れる。――狩人だ。
狼の鋭い爪は、少女が避けた先にあったリンゴの樹の幹を傷つけた。
「リンゴの樹……枯れ、ちゃった……」
あんなにも生き生きとして雄大だった樹が、葉は枯れて茶色になり、太かった幹はまるで生気がないように朽ちて皮が剥がれていた。
――ぽとり。
何かが落ちる音がした。
なんだろう、と目を凝らして見てみると、金色に輝くリンゴが落ちている。
「グルル……」
くるり、と狼は身をひるがえし、少女と狩人の方に向き直った。
その時、狼の目が赤く光った。
「逃げるぞ!」
狩人が少女の手を強く引っ張った。
「待って、狩人さん! 今、リンゴの樹さんから『さようなら』と聞こえたような気がするの! そこに、何かを落として……」
「今、ここに居ちゃダメだ! あの狼は正気じゃない!」
狩人は少女を抱え上げ、村の入口まで全力で走った。
●ハンターオフィスにて
「依頼が届きました」
ハンターオフィスの職員は、淡々とした声で届いた依頼書を読み上げた。
「依頼者は、森の側の小さな村に住む狩人」
「その村の北方にある森の奥で生息していた狼が、昨晩から人を襲うようになったとの事です。この依頼書を見る限りは、恐らく雑魔化しているかと思われます」
「村人に目撃されている狼は小型が3匹と大型が2匹。普段は大人しく、これまで人を襲う事はなかったそうです」
職員はペンをくるくると回し、契約処理を進めながら話を続けた。
「また、狼に襲われて枯れた樹から、金色のリンゴが落ちたとの話も聞いています」
「合わせて、その金色のリンゴの調査もお願い出来たらと思います」
「では、よろしくお願いします」
名もなき村の近くにある深い森。
その朝露の滴る薄暗い森の中に、少女の姿があった。
「今日もおばあちゃんにリンゴを届けなくちゃ」
優しくて大好きなおばあちゃん。
少女が幼かった頃、風邪をひくと、おばあちゃんは決まって少女の大好きなリンゴをむいて食べさせてくれた。
今度は私が元気にしてあげたい――そう願って、身体の弱いおばあちゃんの住む小屋まで、毎朝採れたてのリンゴを届けるのが少女の日課だった。
「がぅ」
茂みから狼が顔を覗かせた。
だが、狼が少女を襲ってくる様子はない。
「おはよう、狼さん。今日はいい天気だねっ」
狼はしばらくじっと少女の顔を見つめていたが、自分に危害を加えてこないと分かると、ふいと茂みの奥へ去ってしまった。
「やあ、毎日ご苦労さん」
今度は茂みから、背の高い男が手を振りながら少女の前に立った。
「おはよう、狩人さん!」
「どうやら狼のヤツも、この森でたくさん採れるリンゴを食べて満腹らしい」
狩人と呼ばれた男は、森の奥にある大きなリンゴの樹を指さす。
「みんなあのリンゴの樹さんに助けられているのかな?」
「そうだな。樹齢もかなり古そうだし……この森の守り神みたいだな」
風だろうか、さわさわと葉を揺らす音が聞こえる。
頬を撫でるそよ風が気持ちいい。
少女はリンゴの樹に近付いた。
「リンゴをひとつくださいな。いつもありがとう」
少女は赤く実ったリンゴに手を伸ばした。
●
「おばあちゃん! 今日も採れたてのリンゴを持ってきたから食べてね」
「まぁまぁ……いつもありがとうね」
ベッドから身を起こし、その赤いリンゴを少女から受け取って机の上のナイフで皮をむき、8つに切り分けた。
「一緒に食べましょう」
「わぁ、おいしいね、おばあちゃん!」
噛むと、じゅわっと甘い液が口いっぱいに広がる。
「本当に美味しい……体の芯から癒してくれるような優しいお味だねぇ」
「またリンゴの樹さんからこの美味しいリンゴをもらってくる! だから、早く元気になってね!」
「ええ、ありがとうね」
おばあちゃんの目が潤み、涙が零れ落ちた。
●
「おはよう! 今日も美味しいリンゴを下さいなっ」
森の中を進み、いつも通りに少女はリンゴの樹の前に立つ。
少女は元気に挨拶をすると、赤くて美味しそうな果実をひとつ手でもいだ。
「グルル……」
「あれ、狼さん?」
狼が茂みから少女を見ていた。
いつもよりも毛並みが悪く、また、聞いたことがない声で唸っている。
「どうしたのかな、機嫌が悪いみたい」
お腹が空いているのかな、と思った少女は、そっとリンゴを差し出してみる。
「ダメだ、そいつは君を襲おうとしている! 逃げろ!」
「えっ」
叫ぶ声に反応して振り向くと、いつもは大人しい狼が少女に向って飛び掛かってきた。
グッと強い力で手を引かれ、とっさにその鋭い爪を逃れる。――狩人だ。
狼の鋭い爪は、少女が避けた先にあったリンゴの樹の幹を傷つけた。
「リンゴの樹……枯れ、ちゃった……」
あんなにも生き生きとして雄大だった樹が、葉は枯れて茶色になり、太かった幹はまるで生気がないように朽ちて皮が剥がれていた。
――ぽとり。
何かが落ちる音がした。
なんだろう、と目を凝らして見てみると、金色に輝くリンゴが落ちている。
「グルル……」
くるり、と狼は身をひるがえし、少女と狩人の方に向き直った。
その時、狼の目が赤く光った。
「逃げるぞ!」
狩人が少女の手を強く引っ張った。
「待って、狩人さん! 今、リンゴの樹さんから『さようなら』と聞こえたような気がするの! そこに、何かを落として……」
「今、ここに居ちゃダメだ! あの狼は正気じゃない!」
狩人は少女を抱え上げ、村の入口まで全力で走った。
●ハンターオフィスにて
「依頼が届きました」
ハンターオフィスの職員は、淡々とした声で届いた依頼書を読み上げた。
「依頼者は、森の側の小さな村に住む狩人」
「その村の北方にある森の奥で生息していた狼が、昨晩から人を襲うようになったとの事です。この依頼書を見る限りは、恐らく雑魔化しているかと思われます」
「村人に目撃されている狼は小型が3匹と大型が2匹。普段は大人しく、これまで人を襲う事はなかったそうです」
職員はペンをくるくると回し、契約処理を進めながら話を続けた。
「また、狼に襲われて枯れた樹から、金色のリンゴが落ちたとの話も聞いています」
「合わせて、その金色のリンゴの調査もお願い出来たらと思います」
「では、よろしくお願いします」
リプレイ本文
●
「まずはどうするか、だ」
契約手続きを済ませたソティス=アストライア(ka6538)は、オフィスに集まった面々の顔を見渡した。
すると、パール(ka2461)が、スッと手を挙げて発言する。
「狼雑魔の討伐はもちろんですけれど、ボクは金色のリンゴが気になりますねえ」
「金色のリンゴねぇ……大概不思議な力があるもんだが、どうなんだろうな?」
ソティスがうーん、と首を傾げると、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が、ポンと手を叩いて大きな声で言った。
「私は、村に行って、金色のリンゴについてもう少し詳しく聞いてみたいです。きっと調査の手がかりになると思うもの」
「ねっちゃのところへ行くだんずか? おらもねっちゃと話したかっただんず」
ルンルンの提案を聞いて、大きな瞳をさらに輝かせる杢(ka6890)。
「金のリンゴなんて、まるで御伽噺のようだんずね。おら、リンゴも好きだんずよ、焼きリンゴが一番だんず」
「うんうん、おいしそ……あっ、金のリンゴを食べようだなんて、おっ思ってないですよ!」
一瞬眉をひそめたパールに気づいたルンルンが、否定するように手をバタバタとさせて目線をそらした。
「リンゴを見つけたら、狩人さんか少女に届け、ます、よ?」
全員の顔をジッと見つめながら、パールが念を押すように伝える。
それを聞いたソティスは、ゴホン、と咳払いをした。
「――では。まずは村に向かうとしよう」
ソティスの言葉に、全員が頷いた。
●
村は静かだった。
また、狼を警戒してか、外に出ている村人はいなかった。
「少女は、ここで家族と暮らしているみたいですね」
少女の住所について書いてもらったメモの通り進むと、立派な建物があった。
扉の前に立って扉をノックする。と、しばらくして中から――年は10歳頃だろうか――まだ幼い顔つきの少女が、恐る恐る顔を覗かせる。
詳しい話を聞きたい、と伝えるとバンッと扉を大きく開けた。
「ハンターさん! 狼さんが……リンゴの樹さんが……! 助けて……!」
「落ち着いて」
ソティスが冷静な声でなだめると、少女は少し落ち着きを取り戻し、
「ごめんなさい……私、森のみんなが心配で、眠れなくって」
ふら、とよろめき、倒れそうになる。
それを杢が、小さな身体で真っ先に支えた。
「ねっちゃは、少し休んだ方がいいだんず。おらたちに全部任せるだんず」
「ありがとう……」
「金色のリンゴは必ず探してくるでだんず。でも、本当にええだんず?」
杢がそう言うと、少女は首を傾げた。
「ねっちゃと仲良しさんば倒さないといけねだんず」
少女が哀しい顔をする。
答えるより先に、建物の奥から背の高い男が姿を見せた。
「――いや、あれは今までの狼とは違う。雑魔だ」
「狩人さん」
「やっぱり雑魔か。話は分かった。それで、そのリンゴの樹は森のどの辺にある?」
ソティスがそう聞くと、狩人が地図を取り出して説明する。
「この辺だな。村の人々が通る際に使用していた道の、一番奥だ」
「よし、その枯れたリンゴの樹周辺を捜索しよう。事が終わり次第、報告に寄るとしよう」
●
少女の家から出た一行は、北方にある森の入り口に到着した。
「ここが、村の人たちが森を通る際に使用していた道のようだな。狼は……奥にいるのか? 見えないな」
ソティスが森に入ろうとするのを、パールが止めた。
「道があるとはいえ、幹や枝で遮られて視界が悪いです。横から不意を突かれたら厄介かと。ここは1人が囮となって道へおびき出し、一気に叩くのが得策かと思われます」
パールの提案に全員が頷いた。
ふと、ソティスが困った顔をする。
「囮か……私は火力は出せる代わりに紙装甲なんだ。別の者に頼みたいが」
そうソティスが呟くと、
「はい! ここはニンジャらしく、私がやります!」
即座に元気よく手を挙げるルンルン。
「助かるよ。攻撃は任せてくれ。狼たる私が直々に引導を渡してやろう」
ふふ、と微笑むソティス。
「ルンルンさんが囮役だんず? せば気を付けるだんずよ」
杢は少し心配そうに大きな瞳をルンルンに向けている。
そんな杢にルンルンは「大丈夫だよー」と微笑んだ。
「私は、皆さんをサポートしますね」
パールは木の葉のような太めの眉を垂らし、ニコリと笑った。
●
「狼さ~ん、どこですか~」
平静を装いつつ、不意打ちされないよう足跡や物音に警戒するルンルン。
――ガサッ。
(来たっ! 小型3匹だ!)
「赤頭巾ちゃんならぬ、赤ベレーちゃんが相手をするのです!」
ルンルンは、森の道をさらに奥へと走る。
小型の狼は、3匹ともルンルンを攻撃しようと追いかけた。
(よしっ、道におびき出し成功した! 狼は後ろの3人には気が付いていないみたい!)
身を翻し、ルンルンは忍法を唱える。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! カードを場に伏せ、ターンエンドです」
狼が通る道を予測して地縛符を置くと、ルンルンを攻撃しようと飛び掛かって来ていた狼2匹がその結界に足を踏み入れた。
「かかった! 今です!」
すかさず、弓を持ったパールがルンルンにプロテクションを掛ける。
「逃がさねだんず、凍ってけれー」
杢は、術から逃れた1匹の狼に狙いを定め、矢を放つ。
矢は脚に当たり、狼の脚は動きを止めた。
「レイターコールドショット命中だべ。やるなら纏まっている今だんずよ!」
ソティスは姿勢を正し、口元を緩めた。
「狼雑魔はこれで何度目か、という気もするが。歪虚になったからには狩られるがいい……!」
ソティスが前方に展開させた魔法陣から、複数体青白い炎を纏った狼が召喚される。
召喚した狼たちの口から吐き出された火球は、空で爆発し、炎の雨を降らせた。
その炎の雨は、無慈悲に小さな狼たちへと降り注ぐ。
「グアォォォォ……!」
狼たちの小さな叫び声。
それは次第に風にかき消され、その場には力なく横たわる小さな骸だけが残る。
召喚した狼たちは次第に霧となり、風と共に散っていった。
「ナイス、残りは大型2匹っ!」
ソティスの豪快な魔法に、ルンルンは、指を鳴らして喜んだ。
パールは警戒したように、辺りを見渡す。
「これまで何のアクションもしてこなかったということは、この先にいるってことですね」
「まて、この先は――」
全員の視線が森の奥に注がれる。
道が狭く、葉や草が深く生い茂っている。
「奥でフレイムレインを使うと、樹を巻き込んでしまいそうだな」
ううむ、と顎に手を当てて考え込むソティス。
「ここからも作戦通りで行けると思います。ルンルンさん、狼を手前の広い道までおびき出せられますか?」
そんなパールの言葉に、ルンルンは頷いた。
「任せてください。だって私、ニンジャですから!」
奥の狭くなっている道に駆け出そうとしたルンルンを、パールが呼び止める。
「あっ、待ってください! プロテクションを掛け直します!」
急いでプロテクションを掛けた。
――同時に、茂みから大きな狼が1匹、顔を出した。
「あっ、わっ」
「パールさんっ!」
狼の奇襲攻撃。油断していたパールに牙をむいて飛び掛かって来る。
「いっ、たぁ」
ルンルンがパールを庇った。
パールは突き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「ごめんなさい、ルンルンさんっ!」
「大丈夫、大丈夫。ほぼこのシールドで受け止めた――後でヒールをお願いします」
「わかりました!」
パールが一旦下がろうと立ち上がると、それを見た狼が追いかけようとする。
「そうはいかないだんず、威嚇射撃だんず」
いつの間にか茂みに隠れていた杢が弓を構え、狼の足元に矢を打ち込む。
狼は追いかける脚を止めた。
「ルンルン忍法五星花! 舞って星の花弁!」
複数の光の結界が現れ、大きな狼を包む。
明るくて大きな光が灼熱の炎となって、狼の胴体を焼きつける。
そこへ、距離をとったパールが、
「――断罪します。ジャッジメント!」
光の杭を狼の胴体に打ち込んだ。
大きな狼はその場で動かなくなった。
「あと1匹っ!」
「……せば、どこにいるだんず?」
「任せて!」
スイッ、と樹の幹を伝い、ルンルンは樹の枝に移動した。
「樹の上も、ルンルンの庭みたいなものなのです」
「ルンルンさん、そこから狼が見えるだんず?」
「――ええっと、あ、いた!」
森の奥、茂みの隙間からこちらの様子をうかがっている赤い目が見える。
「私がこちらまで誘導します! 足止め後、攻撃をお願いします!」
樹の枝を伝って、ひょいひょいと渡り歩くルンルン。
大きな狼はそれにつられて移動を始めたようだ。
ルンルンは道に出たところで、
「ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
と、狼の目の前に結界を展開する。
狼が動きを止めた。
「攻撃開始だんず」
「ボクも、杢さんに合わせて矢を打ちますっ」
龍弓を構える杢に目配せをして、パールも矢を放つ。
「グガォ」
矢は狼に命中し、小さく悲鳴を上げた。
しかし狼は倒れず、杢とパールに向って前脚を伸ばして飛び掛かる。
「こいつはガラじゃないんだが……仕方ないかね!」
杢とパールの後ろにいたソティスが、杖を狼に向ける。
「ブリザード!」
狼の周りに冷気の嵐が吹き荒れる。
嵐が止むと同時に、狼は凍り付き動かなくなった。
「――ゆっくりと眠れ、雑魔となってしまった狼どもよ」
パールが辺りを見渡し、気配がないことを悟るとホッと息をつく。
「これで、合わせて5匹。全ての雑魔狼を倒したのでしょうか?」
「恐らくはそうでしょう」
「せば、リンゴの樹を探しに行くだんず?」
「そうだな、日が暮れる前に森の奥へ行こう」
「――待って下さいっ!」
一同が森の奥へ入ろうとするのを、パールが止めた。
「パールさんば、どうしただんず?」
「皆さん、周りを見て下さい」
パールに促され、一同は辺りを見渡す。
まだ雑魔になって日が浅いためだろうか、狼たちの死体が残っている。
「――狼の、骸があるな」
ソティスがそう言うと、パールは哀しそうに俯いた。
「少女のお友達を、このままにしていくのは……ボクは嫌です」
「パールさん……」
「日暮れまで時間がないが、まぁ――」
ソティスが地面を触って土の硬さを確認する。
「この樹の下に穴を掘って狼5匹埋めるくらいなら、4人で力を合わせれば、できないこともないな」
●
程なくして、狼たちの墓は完成した。
地面に穴を掘って狼を入れ、土をかぶせて上に棒を差しただけの簡素な墓だったが、パールは最後まで丁寧に土を整えていた。
さらに、咲いていた白い花を5本摘み、墓の前に置く。
(貴方たちがここにいること、あの子にちゃんと伝えるからね)
泥だらけになった両手を合わせた。
「あそこに枯れた――リンゴの樹があるだんず」
杢が指をさした先に、大きな樹が佇んでいた。
「あっ、あれは金色のリンゴ……? 茂みの中に光っているモノが見えます」
ルンルンが見つけると同時に、杢が樹に向って走り出す。
「金色のリンゴ、ぴかぴかだんずー!」
「あっ、杢さん、転びま――」
パールが『転びますよ』と言い終わる前に、杢が樹の根っこに引っ掛かり、見事に転んでいた。
杢が立ち上がろうと身体を起こしかけ、また寝転ぶ。
「えっ? 杢さん、大丈夫ですか?」
「ここに、赤ちゃんがいるだんず」
「あ、赤ちゃん!?」
驚いたパールが樹の根っこあたりで転がっている杢に駆け寄り、視線の先を覗く。
「あ――地面から小さい芽が生えてます! それもみっつも!」
「恐らくは……この樹が落とした実を動物たちが食して土に種が落ち、育ったのだろうな」
「また、森のみんなでリンゴが食べられるんですね!」
「実が生るのは――何年か先、だろうがね」
杢は金色のリンゴを、そっと大事な宝物を触るように両手ですくい上げた。
「こんにちはだんず。金のリンゴさんばなしてここにいるだんず?」
――シン、と森は静まり返っている。
「……声、とやらはもしかして、あの娘だけに聞こえるものなのか?」
「たげー綺麗だんず。ぴかぴかだんずね」
ジー、と取り出した魔導カメラのレンズ越しに金色のリンゴを調べるルンルン。
「金色、という以外は、ごく普通のリンゴのように見えますね……何も感じられません」
杢は、声がどうしても聞きたくて、金色のリンゴに耳を当てていた。
「恥ずかしがり屋だんずね。せば、ねっちゃのところに連れて行ってあげるだんず」
「そうだな、そろそろ日も暮れそうだ」
●
少女の家に着くと少女は不在で、今はおばあちゃんの小屋に行っている、と言われ、狩人がその小屋へ案内してくれた。
「狼さんのお墓を作ってくれてありがとう。私、毎日行くね」
少女は一同に感謝し、一粒の涙を流した。
「ねっちゃ、ぴかぴかのリンゴが見つかっただんず。元気を出すだんず」
杢は拾った金色のリンゴを少女に手渡した。
「あっ、これはリンゴの樹さんの……ありがとう!」
少女がパアッと明るい表情になる。
「それから、樹の赤ちゃんがいただんず」
「え?」
「説明しよう――地面にリンゴの樹の芽が3つ生えていた」
「ええっ、本当に!?」
少女は、金色のリンゴをキュウと嬉しそうに抱きしめた。
「嬉しい……! また、樹さんに会えるんだね!」
少女の笑顔を見た一同は、我々はこれで、と立ち去ろうとする。
「――待って!」
少女が一同を呼び止める。
「この金色のリンゴ、みんなで食べよう?」
「いいのか? お前の大事なリンゴの樹が最後に残した実だぞ?」
「みんなと食べたいの――私、うさぎリンゴがむけるようになったの。ちょっと待ってて」
「うさぎ! おら食べたいだんず!」
真っ先に飛びつく杢。
――程なくして。
「さぁ、どうぞ」
机の皿の上に、皮がうさぎの耳になった『うさぎリンゴ』が並べられた。
「耳がピカピカだんずね。いただきまーす!」
「では……遠慮なく」
杢が真っ先に耳が輝くうさぎリンゴにかぶりつく。
実は甘味の好きなソティスも、待ってましたとばかりに手を伸ばした。
「おばあちゃん、私リンゴをうまくむけるようになったんだよ?」
「まぁまぁ……それじゃ、これからはお願いしようかね」
おばあちゃんが一口、リンゴをかじる。
「まぁ~とっても美味しいリンゴだこと!」
急にベッドから身を起こす。
「お、おばあちゃん!?」
これには一同も驚き、目を丸くしていた。
おばあちゃんは立ち上がり、部屋をうろうろとする。
「おかしいねぇ、急に外を走りたくなってきたよ」
「う、うーん……これは、樹が娘に最後に残した、なんというか、凄いリンゴだな……」
ソティスが困った顔でそう言うと、ルンルンが笑い出す。
つられて、全員が笑っていた。
「まずはどうするか、だ」
契約手続きを済ませたソティス=アストライア(ka6538)は、オフィスに集まった面々の顔を見渡した。
すると、パール(ka2461)が、スッと手を挙げて発言する。
「狼雑魔の討伐はもちろんですけれど、ボクは金色のリンゴが気になりますねえ」
「金色のリンゴねぇ……大概不思議な力があるもんだが、どうなんだろうな?」
ソティスがうーん、と首を傾げると、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が、ポンと手を叩いて大きな声で言った。
「私は、村に行って、金色のリンゴについてもう少し詳しく聞いてみたいです。きっと調査の手がかりになると思うもの」
「ねっちゃのところへ行くだんずか? おらもねっちゃと話したかっただんず」
ルンルンの提案を聞いて、大きな瞳をさらに輝かせる杢(ka6890)。
「金のリンゴなんて、まるで御伽噺のようだんずね。おら、リンゴも好きだんずよ、焼きリンゴが一番だんず」
「うんうん、おいしそ……あっ、金のリンゴを食べようだなんて、おっ思ってないですよ!」
一瞬眉をひそめたパールに気づいたルンルンが、否定するように手をバタバタとさせて目線をそらした。
「リンゴを見つけたら、狩人さんか少女に届け、ます、よ?」
全員の顔をジッと見つめながら、パールが念を押すように伝える。
それを聞いたソティスは、ゴホン、と咳払いをした。
「――では。まずは村に向かうとしよう」
ソティスの言葉に、全員が頷いた。
●
村は静かだった。
また、狼を警戒してか、外に出ている村人はいなかった。
「少女は、ここで家族と暮らしているみたいですね」
少女の住所について書いてもらったメモの通り進むと、立派な建物があった。
扉の前に立って扉をノックする。と、しばらくして中から――年は10歳頃だろうか――まだ幼い顔つきの少女が、恐る恐る顔を覗かせる。
詳しい話を聞きたい、と伝えるとバンッと扉を大きく開けた。
「ハンターさん! 狼さんが……リンゴの樹さんが……! 助けて……!」
「落ち着いて」
ソティスが冷静な声でなだめると、少女は少し落ち着きを取り戻し、
「ごめんなさい……私、森のみんなが心配で、眠れなくって」
ふら、とよろめき、倒れそうになる。
それを杢が、小さな身体で真っ先に支えた。
「ねっちゃは、少し休んだ方がいいだんず。おらたちに全部任せるだんず」
「ありがとう……」
「金色のリンゴは必ず探してくるでだんず。でも、本当にええだんず?」
杢がそう言うと、少女は首を傾げた。
「ねっちゃと仲良しさんば倒さないといけねだんず」
少女が哀しい顔をする。
答えるより先に、建物の奥から背の高い男が姿を見せた。
「――いや、あれは今までの狼とは違う。雑魔だ」
「狩人さん」
「やっぱり雑魔か。話は分かった。それで、そのリンゴの樹は森のどの辺にある?」
ソティスがそう聞くと、狩人が地図を取り出して説明する。
「この辺だな。村の人々が通る際に使用していた道の、一番奥だ」
「よし、その枯れたリンゴの樹周辺を捜索しよう。事が終わり次第、報告に寄るとしよう」
●
少女の家から出た一行は、北方にある森の入り口に到着した。
「ここが、村の人たちが森を通る際に使用していた道のようだな。狼は……奥にいるのか? 見えないな」
ソティスが森に入ろうとするのを、パールが止めた。
「道があるとはいえ、幹や枝で遮られて視界が悪いです。横から不意を突かれたら厄介かと。ここは1人が囮となって道へおびき出し、一気に叩くのが得策かと思われます」
パールの提案に全員が頷いた。
ふと、ソティスが困った顔をする。
「囮か……私は火力は出せる代わりに紙装甲なんだ。別の者に頼みたいが」
そうソティスが呟くと、
「はい! ここはニンジャらしく、私がやります!」
即座に元気よく手を挙げるルンルン。
「助かるよ。攻撃は任せてくれ。狼たる私が直々に引導を渡してやろう」
ふふ、と微笑むソティス。
「ルンルンさんが囮役だんず? せば気を付けるだんずよ」
杢は少し心配そうに大きな瞳をルンルンに向けている。
そんな杢にルンルンは「大丈夫だよー」と微笑んだ。
「私は、皆さんをサポートしますね」
パールは木の葉のような太めの眉を垂らし、ニコリと笑った。
●
「狼さ~ん、どこですか~」
平静を装いつつ、不意打ちされないよう足跡や物音に警戒するルンルン。
――ガサッ。
(来たっ! 小型3匹だ!)
「赤頭巾ちゃんならぬ、赤ベレーちゃんが相手をするのです!」
ルンルンは、森の道をさらに奥へと走る。
小型の狼は、3匹ともルンルンを攻撃しようと追いかけた。
(よしっ、道におびき出し成功した! 狼は後ろの3人には気が付いていないみたい!)
身を翻し、ルンルンは忍法を唱える。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! カードを場に伏せ、ターンエンドです」
狼が通る道を予測して地縛符を置くと、ルンルンを攻撃しようと飛び掛かって来ていた狼2匹がその結界に足を踏み入れた。
「かかった! 今です!」
すかさず、弓を持ったパールがルンルンにプロテクションを掛ける。
「逃がさねだんず、凍ってけれー」
杢は、術から逃れた1匹の狼に狙いを定め、矢を放つ。
矢は脚に当たり、狼の脚は動きを止めた。
「レイターコールドショット命中だべ。やるなら纏まっている今だんずよ!」
ソティスは姿勢を正し、口元を緩めた。
「狼雑魔はこれで何度目か、という気もするが。歪虚になったからには狩られるがいい……!」
ソティスが前方に展開させた魔法陣から、複数体青白い炎を纏った狼が召喚される。
召喚した狼たちの口から吐き出された火球は、空で爆発し、炎の雨を降らせた。
その炎の雨は、無慈悲に小さな狼たちへと降り注ぐ。
「グアォォォォ……!」
狼たちの小さな叫び声。
それは次第に風にかき消され、その場には力なく横たわる小さな骸だけが残る。
召喚した狼たちは次第に霧となり、風と共に散っていった。
「ナイス、残りは大型2匹っ!」
ソティスの豪快な魔法に、ルンルンは、指を鳴らして喜んだ。
パールは警戒したように、辺りを見渡す。
「これまで何のアクションもしてこなかったということは、この先にいるってことですね」
「まて、この先は――」
全員の視線が森の奥に注がれる。
道が狭く、葉や草が深く生い茂っている。
「奥でフレイムレインを使うと、樹を巻き込んでしまいそうだな」
ううむ、と顎に手を当てて考え込むソティス。
「ここからも作戦通りで行けると思います。ルンルンさん、狼を手前の広い道までおびき出せられますか?」
そんなパールの言葉に、ルンルンは頷いた。
「任せてください。だって私、ニンジャですから!」
奥の狭くなっている道に駆け出そうとしたルンルンを、パールが呼び止める。
「あっ、待ってください! プロテクションを掛け直します!」
急いでプロテクションを掛けた。
――同時に、茂みから大きな狼が1匹、顔を出した。
「あっ、わっ」
「パールさんっ!」
狼の奇襲攻撃。油断していたパールに牙をむいて飛び掛かって来る。
「いっ、たぁ」
ルンルンがパールを庇った。
パールは突き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「ごめんなさい、ルンルンさんっ!」
「大丈夫、大丈夫。ほぼこのシールドで受け止めた――後でヒールをお願いします」
「わかりました!」
パールが一旦下がろうと立ち上がると、それを見た狼が追いかけようとする。
「そうはいかないだんず、威嚇射撃だんず」
いつの間にか茂みに隠れていた杢が弓を構え、狼の足元に矢を打ち込む。
狼は追いかける脚を止めた。
「ルンルン忍法五星花! 舞って星の花弁!」
複数の光の結界が現れ、大きな狼を包む。
明るくて大きな光が灼熱の炎となって、狼の胴体を焼きつける。
そこへ、距離をとったパールが、
「――断罪します。ジャッジメント!」
光の杭を狼の胴体に打ち込んだ。
大きな狼はその場で動かなくなった。
「あと1匹っ!」
「……せば、どこにいるだんず?」
「任せて!」
スイッ、と樹の幹を伝い、ルンルンは樹の枝に移動した。
「樹の上も、ルンルンの庭みたいなものなのです」
「ルンルンさん、そこから狼が見えるだんず?」
「――ええっと、あ、いた!」
森の奥、茂みの隙間からこちらの様子をうかがっている赤い目が見える。
「私がこちらまで誘導します! 足止め後、攻撃をお願いします!」
樹の枝を伝って、ひょいひょいと渡り歩くルンルン。
大きな狼はそれにつられて移動を始めたようだ。
ルンルンは道に出たところで、
「ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
と、狼の目の前に結界を展開する。
狼が動きを止めた。
「攻撃開始だんず」
「ボクも、杢さんに合わせて矢を打ちますっ」
龍弓を構える杢に目配せをして、パールも矢を放つ。
「グガォ」
矢は狼に命中し、小さく悲鳴を上げた。
しかし狼は倒れず、杢とパールに向って前脚を伸ばして飛び掛かる。
「こいつはガラじゃないんだが……仕方ないかね!」
杢とパールの後ろにいたソティスが、杖を狼に向ける。
「ブリザード!」
狼の周りに冷気の嵐が吹き荒れる。
嵐が止むと同時に、狼は凍り付き動かなくなった。
「――ゆっくりと眠れ、雑魔となってしまった狼どもよ」
パールが辺りを見渡し、気配がないことを悟るとホッと息をつく。
「これで、合わせて5匹。全ての雑魔狼を倒したのでしょうか?」
「恐らくはそうでしょう」
「せば、リンゴの樹を探しに行くだんず?」
「そうだな、日が暮れる前に森の奥へ行こう」
「――待って下さいっ!」
一同が森の奥へ入ろうとするのを、パールが止めた。
「パールさんば、どうしただんず?」
「皆さん、周りを見て下さい」
パールに促され、一同は辺りを見渡す。
まだ雑魔になって日が浅いためだろうか、狼たちの死体が残っている。
「――狼の、骸があるな」
ソティスがそう言うと、パールは哀しそうに俯いた。
「少女のお友達を、このままにしていくのは……ボクは嫌です」
「パールさん……」
「日暮れまで時間がないが、まぁ――」
ソティスが地面を触って土の硬さを確認する。
「この樹の下に穴を掘って狼5匹埋めるくらいなら、4人で力を合わせれば、できないこともないな」
●
程なくして、狼たちの墓は完成した。
地面に穴を掘って狼を入れ、土をかぶせて上に棒を差しただけの簡素な墓だったが、パールは最後まで丁寧に土を整えていた。
さらに、咲いていた白い花を5本摘み、墓の前に置く。
(貴方たちがここにいること、あの子にちゃんと伝えるからね)
泥だらけになった両手を合わせた。
「あそこに枯れた――リンゴの樹があるだんず」
杢が指をさした先に、大きな樹が佇んでいた。
「あっ、あれは金色のリンゴ……? 茂みの中に光っているモノが見えます」
ルンルンが見つけると同時に、杢が樹に向って走り出す。
「金色のリンゴ、ぴかぴかだんずー!」
「あっ、杢さん、転びま――」
パールが『転びますよ』と言い終わる前に、杢が樹の根っこに引っ掛かり、見事に転んでいた。
杢が立ち上がろうと身体を起こしかけ、また寝転ぶ。
「えっ? 杢さん、大丈夫ですか?」
「ここに、赤ちゃんがいるだんず」
「あ、赤ちゃん!?」
驚いたパールが樹の根っこあたりで転がっている杢に駆け寄り、視線の先を覗く。
「あ――地面から小さい芽が生えてます! それもみっつも!」
「恐らくは……この樹が落とした実を動物たちが食して土に種が落ち、育ったのだろうな」
「また、森のみんなでリンゴが食べられるんですね!」
「実が生るのは――何年か先、だろうがね」
杢は金色のリンゴを、そっと大事な宝物を触るように両手ですくい上げた。
「こんにちはだんず。金のリンゴさんばなしてここにいるだんず?」
――シン、と森は静まり返っている。
「……声、とやらはもしかして、あの娘だけに聞こえるものなのか?」
「たげー綺麗だんず。ぴかぴかだんずね」
ジー、と取り出した魔導カメラのレンズ越しに金色のリンゴを調べるルンルン。
「金色、という以外は、ごく普通のリンゴのように見えますね……何も感じられません」
杢は、声がどうしても聞きたくて、金色のリンゴに耳を当てていた。
「恥ずかしがり屋だんずね。せば、ねっちゃのところに連れて行ってあげるだんず」
「そうだな、そろそろ日も暮れそうだ」
●
少女の家に着くと少女は不在で、今はおばあちゃんの小屋に行っている、と言われ、狩人がその小屋へ案内してくれた。
「狼さんのお墓を作ってくれてありがとう。私、毎日行くね」
少女は一同に感謝し、一粒の涙を流した。
「ねっちゃ、ぴかぴかのリンゴが見つかっただんず。元気を出すだんず」
杢は拾った金色のリンゴを少女に手渡した。
「あっ、これはリンゴの樹さんの……ありがとう!」
少女がパアッと明るい表情になる。
「それから、樹の赤ちゃんがいただんず」
「え?」
「説明しよう――地面にリンゴの樹の芽が3つ生えていた」
「ええっ、本当に!?」
少女は、金色のリンゴをキュウと嬉しそうに抱きしめた。
「嬉しい……! また、樹さんに会えるんだね!」
少女の笑顔を見た一同は、我々はこれで、と立ち去ろうとする。
「――待って!」
少女が一同を呼び止める。
「この金色のリンゴ、みんなで食べよう?」
「いいのか? お前の大事なリンゴの樹が最後に残した実だぞ?」
「みんなと食べたいの――私、うさぎリンゴがむけるようになったの。ちょっと待ってて」
「うさぎ! おら食べたいだんず!」
真っ先に飛びつく杢。
――程なくして。
「さぁ、どうぞ」
机の皿の上に、皮がうさぎの耳になった『うさぎリンゴ』が並べられた。
「耳がピカピカだんずね。いただきまーす!」
「では……遠慮なく」
杢が真っ先に耳が輝くうさぎリンゴにかぶりつく。
実は甘味の好きなソティスも、待ってましたとばかりに手を伸ばした。
「おばあちゃん、私リンゴをうまくむけるようになったんだよ?」
「まぁまぁ……それじゃ、これからはお願いしようかね」
おばあちゃんが一口、リンゴをかじる。
「まぁ~とっても美味しいリンゴだこと!」
急にベッドから身を起こす。
「お、おばあちゃん!?」
これには一同も驚き、目を丸くしていた。
おばあちゃんは立ち上がり、部屋をうろうろとする。
「おかしいねぇ、急に外を走りたくなってきたよ」
「う、うーん……これは、樹が娘に最後に残した、なんというか、凄いリンゴだな……」
ソティスが困った顔でそう言うと、ルンルンが笑い出す。
つられて、全員が笑っていた。
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【相談卓】 ソティス=アストライア(ka6538) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/02/24 22:03:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/21 01:30:04 |