ゲスト
(ka0000)
【反影】アウトサイド・ユニオン
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/03/03 19:00
- 完成日
- 2018/03/13 01:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●a past event
「……α・M・8658236・ステーツマン、私は今日転送セクトでのアーキテクチャー補助作業があるので……午後まで場を離れるわ……」
「ああ、そういえば今日だったかな。β・M・35625434・ワーカーの転送は」
「……ええ……残念なことに、成人再訓練所に入所しても回復の見込みがなくて……」
「仕方ないさ。手続き通りに治療は施したんだろう?」
「ええ……それでも駄目だったのよ。気の毒なことにね……本当にどうしてあんなことになったのかしら……たった1人としか関係を持ちたがらないなんて……」
「さあね。それよりμ・F・92756471・マゴイ。君、今晩は誰とも先約はないかね?」
「……確かなかったはずだと思うわ」
「じゃあ私と付き合ってくれるかい」
「……ええ。いいわ。それでは行ってくるわね……午後にはここに戻ってくるから」
●そして変わらぬ滅亡の日々
「……と言いつつそのまま帰ってこなかったわけだがね、君は」
ユニオンは滅亡の日に向かって動いている。いつも通りに。
ワーカーは働きソルジャーは警備をしマゴイは会議をしている。いつも通りに。
ステーツマンはだらりと長椅子に腰掛けたまま、自分の手を開いたり閉じたりした。
これまでになく自分の内側から力が湧いてくるのを感じている。μ・マゴイがこの世界に放出して行った多量のマテリアルのおかげだ。
多分もう少しだった。後一押しで彼女は精霊として自己を維持する事が出来なくなり、この世界と一体化してしまったはずだ。自分と同じく歪虚として。
「君にはぜひ戻ってきてもらわないとね……私も飽き飽きしているんだよ。パニック映画のラストを延々巻き戻して見させられていることに……ほかの連中はそりゃ気楽なものさ。起きたことを全部忘れてるんだから。しかし私はそうなれなくてね……」
窓の外にはきれいな青空が広がっている。
あれはマゴイたちが結界の内側に張り付けている映像だ。荒廃した外の世界を見せて市民を不安がらせないように、との配慮から。
もう全員死んでいるんだからそんなことにこだわる必要もないのだが、本人たちにその自覚がない以上いかんともしがたい。
ユニオンが終わりを迎える数年前から、危急のさい異世界へユニオンを移転させてはどうかという案が出ていた。
その下準備として、ユニオンの維持と創設に欠かせない市民生産機関とそれに付随するインフラ工作機械等を、異世界に送りこむ実験もなされていた。
そのうち何個かは行方知れずになったが、幾つかはうまく、今クリムゾンウェストと呼ばれているこの世界に到着させることが出来た(現在μ・マゴイが使っているのがそれだ)。
しかし、それ以上にことを進めることは出来なかった。エバーグリーンの崩壊があまりにも早すぎたのだ。
「あれよあれよという間だったね実際……」
μが転送事故に巻き込まれ姿を消したのは、この滅亡の日より1年前のこと。
もし彼女があの事故に巻き込まれていなかったらどうだっただろう、とステーツマンは時々考える。そして唇を歪める。彼女が他のマゴイたちと同じようにウテルスを守り死んでいっただろうことが、容易に想像出来るので。
……部屋に備え付けてあるウォッチャーが声を発した。
【α・M・8658236・ステーツマン、α・M・8658236・ステーツマン、緊急会議が招集されました。速やかに出席をお願いします】
ステーツマンはそちらへちらりと目を向けた。
「……私はこれから出張だ。μ・マゴイを迎えに行かなければならないんだよ」
●動かせないルール
一口に異界の管理者と言っても、内実はさまざまだ。
人間の形をしている者もいれば、そうでない者もいる。
自分が管理者であることを知っている者もいれば、知らない者もいる。
異界の中に留まり続けている者もいれば、その外に出てくる者もいる。
異界から出たステーツマンは、肩越しに振り返ってぼやいた。
「ワーカーなりソルジャーなり一緒に連れ出せれば楽なんだがね……」
しかしそうはいかない。彼らは異界のサイクルの中だけにしか存在しえないのだ。
試しに何度かついてこさせようとしたこともあるが、決まって境界を越えられなかった――本人達はそのことを覚えていなかろうが。なにしろ数日単位で記憶が巻き戻し再生されている状態なので。
「……ああ、実に面倒だ……」
この汚染地帯にいる限り彼は格段の負担を感じず動ける。
しかしそこから出た場合、そうはいかない。正のマテリアルが優勢な場においては、現出するだけでも力を使うようになる。この間はるばるマゴイのもとまで行った時のように。
とはいえ、今回はそれほどのことはないだろうという確信が彼にはあった。
何故なら前回よりも確実に力を増しているからだ。その現れの第一が、地を踏むこの感触である――異界の外でも実体化出来ているのだ。
一つどれほどのものなのかと試してみたくなったステーツマンは、咆哮を放つ。
かさかさにひび割れた大地と大気が激しく振動した。
それが確かに以前より強いものになっていることを確信しつつ彼は、眠たげに周囲を見回す。
輝きを失った赤い太陽。地平線まで広がる荒野。生きているものは何もない。どこまでも不毛な、面白くも痒くもない空間だ。
星の反対側にいる住人はここがこうなっていることに今更気づき、慌てて調査のための人員を送り込んできているが、さてそれが何の役に立つものかと歪虚になっている彼は思う。
遅かれ早かれ彼らの世界も異界の一つとなるだろう。邪神を消滅させることは、事実上不可能なのだから。
「……まあ、どうでもいいことだがね……」
ステーツマンは生あくびを噛み殺した。視線を一点に向ける。
倦怠で濁った目が苛立ちの炎を宿す。
「……いや、あれはどうでもよくないね……」
大きく息を吸い込みまたしても咆哮。先程より大きいもの。
彼はたちまちのうちに、巨大な蟻の化け物へと姿を変える。
●見敵即攻撃
鼓膜を突き破るかのような咆哮。常人が受ければ恐慌のあまり発狂し、死に至りかねない叫び。
ハンターたちは跳ね上がりそうな心臓を押さえる。
彼らが対峙するのは体高3メートル、全長7メートルはあろうかという巨大な蟻型の化け物。
鎌のような顎を持ち、複眼を赤く光らせている……。
「……α・M・8658236・ステーツマン、私は今日転送セクトでのアーキテクチャー補助作業があるので……午後まで場を離れるわ……」
「ああ、そういえば今日だったかな。β・M・35625434・ワーカーの転送は」
「……ええ……残念なことに、成人再訓練所に入所しても回復の見込みがなくて……」
「仕方ないさ。手続き通りに治療は施したんだろう?」
「ええ……それでも駄目だったのよ。気の毒なことにね……本当にどうしてあんなことになったのかしら……たった1人としか関係を持ちたがらないなんて……」
「さあね。それよりμ・F・92756471・マゴイ。君、今晩は誰とも先約はないかね?」
「……確かなかったはずだと思うわ」
「じゃあ私と付き合ってくれるかい」
「……ええ。いいわ。それでは行ってくるわね……午後にはここに戻ってくるから」
●そして変わらぬ滅亡の日々
「……と言いつつそのまま帰ってこなかったわけだがね、君は」
ユニオンは滅亡の日に向かって動いている。いつも通りに。
ワーカーは働きソルジャーは警備をしマゴイは会議をしている。いつも通りに。
ステーツマンはだらりと長椅子に腰掛けたまま、自分の手を開いたり閉じたりした。
これまでになく自分の内側から力が湧いてくるのを感じている。μ・マゴイがこの世界に放出して行った多量のマテリアルのおかげだ。
多分もう少しだった。後一押しで彼女は精霊として自己を維持する事が出来なくなり、この世界と一体化してしまったはずだ。自分と同じく歪虚として。
「君にはぜひ戻ってきてもらわないとね……私も飽き飽きしているんだよ。パニック映画のラストを延々巻き戻して見させられていることに……ほかの連中はそりゃ気楽なものさ。起きたことを全部忘れてるんだから。しかし私はそうなれなくてね……」
窓の外にはきれいな青空が広がっている。
あれはマゴイたちが結界の内側に張り付けている映像だ。荒廃した外の世界を見せて市民を不安がらせないように、との配慮から。
もう全員死んでいるんだからそんなことにこだわる必要もないのだが、本人たちにその自覚がない以上いかんともしがたい。
ユニオンが終わりを迎える数年前から、危急のさい異世界へユニオンを移転させてはどうかという案が出ていた。
その下準備として、ユニオンの維持と創設に欠かせない市民生産機関とそれに付随するインフラ工作機械等を、異世界に送りこむ実験もなされていた。
そのうち何個かは行方知れずになったが、幾つかはうまく、今クリムゾンウェストと呼ばれているこの世界に到着させることが出来た(現在μ・マゴイが使っているのがそれだ)。
しかし、それ以上にことを進めることは出来なかった。エバーグリーンの崩壊があまりにも早すぎたのだ。
「あれよあれよという間だったね実際……」
μが転送事故に巻き込まれ姿を消したのは、この滅亡の日より1年前のこと。
もし彼女があの事故に巻き込まれていなかったらどうだっただろう、とステーツマンは時々考える。そして唇を歪める。彼女が他のマゴイたちと同じようにウテルスを守り死んでいっただろうことが、容易に想像出来るので。
……部屋に備え付けてあるウォッチャーが声を発した。
【α・M・8658236・ステーツマン、α・M・8658236・ステーツマン、緊急会議が招集されました。速やかに出席をお願いします】
ステーツマンはそちらへちらりと目を向けた。
「……私はこれから出張だ。μ・マゴイを迎えに行かなければならないんだよ」
●動かせないルール
一口に異界の管理者と言っても、内実はさまざまだ。
人間の形をしている者もいれば、そうでない者もいる。
自分が管理者であることを知っている者もいれば、知らない者もいる。
異界の中に留まり続けている者もいれば、その外に出てくる者もいる。
異界から出たステーツマンは、肩越しに振り返ってぼやいた。
「ワーカーなりソルジャーなり一緒に連れ出せれば楽なんだがね……」
しかしそうはいかない。彼らは異界のサイクルの中だけにしか存在しえないのだ。
試しに何度かついてこさせようとしたこともあるが、決まって境界を越えられなかった――本人達はそのことを覚えていなかろうが。なにしろ数日単位で記憶が巻き戻し再生されている状態なので。
「……ああ、実に面倒だ……」
この汚染地帯にいる限り彼は格段の負担を感じず動ける。
しかしそこから出た場合、そうはいかない。正のマテリアルが優勢な場においては、現出するだけでも力を使うようになる。この間はるばるマゴイのもとまで行った時のように。
とはいえ、今回はそれほどのことはないだろうという確信が彼にはあった。
何故なら前回よりも確実に力を増しているからだ。その現れの第一が、地を踏むこの感触である――異界の外でも実体化出来ているのだ。
一つどれほどのものなのかと試してみたくなったステーツマンは、咆哮を放つ。
かさかさにひび割れた大地と大気が激しく振動した。
それが確かに以前より強いものになっていることを確信しつつ彼は、眠たげに周囲を見回す。
輝きを失った赤い太陽。地平線まで広がる荒野。生きているものは何もない。どこまでも不毛な、面白くも痒くもない空間だ。
星の反対側にいる住人はここがこうなっていることに今更気づき、慌てて調査のための人員を送り込んできているが、さてそれが何の役に立つものかと歪虚になっている彼は思う。
遅かれ早かれ彼らの世界も異界の一つとなるだろう。邪神を消滅させることは、事実上不可能なのだから。
「……まあ、どうでもいいことだがね……」
ステーツマンは生あくびを噛み殺した。視線を一点に向ける。
倦怠で濁った目が苛立ちの炎を宿す。
「……いや、あれはどうでもよくないね……」
大きく息を吸い込みまたしても咆哮。先程より大きいもの。
彼はたちまちのうちに、巨大な蟻の化け物へと姿を変える。
●見敵即攻撃
鼓膜を突き破るかのような咆哮。常人が受ければ恐慌のあまり発狂し、死に至りかねない叫び。
ハンターたちは跳ね上がりそうな心臓を押さえる。
彼らが対峙するのは体高3メートル、全長7メートルはあろうかという巨大な蟻型の化け物。
鎌のような顎を持ち、複眼を赤く光らせている……。
リプレイ本文
●蟻と人間
歪虚を前に襟毛を膨らませ唸り上げるイェジド『天照』。
その背に乗った天竜寺 詩(ka0396)は目を見張る。ステーツマンが蟻に身を変じたからではない。それはもう異界で目にしたことがある。問題は変身後の姿がそのとき見たものと比べて、確実に巨大化しているということなのだ。
「ステーツマン、もうあれだけの力を発揮できるようになったの!?」
汚染攻撃への予防対策として彼女は、仲間たち全員に茨の祈りをかけて回る――その効果は彼女自身を除くハンターとユニット全てに及んだ。
R7エクスシア『ジャウハラ』に搭乗しているディヤー・A・バトロス(ka5743)は、キャンディが入った口をもごもごさせる。
「おー、あれがステーツマン殿か?……ワシには巨大蟻にしか見えんが」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はR7エクスシアの操縦桿を握る手に力を込める。
「お前如き歪虚にμをくれてやるわけにはいかん。お前如きに倒された自分も赦しがたい。ゆえに、俺がお前を滅してやろう、ステーツマン!」
マリエル(ka0116)は落ちつかなげに鳴くリーリー『セセリ』の首を撫で、なだめた。
「どう、どう」
セセリに同乗していたセレスティア(ka2691)は鞍から降り、目視で蟻のサイズを計る。
ざっと体高3メートル、全長7メートルと言ったところか。ならば立ち上がったとして、CAMと大きさはそんなに変わらない。
「実体化して現れるとは……でも、好きにはさせません」
「私もできるだけの事をします。無茶はしないでくださいね」
マリエルと言葉を交わし頷きあった彼女は、ロザリオ『タビアイマーン』の力を借り、前衛を担当する人々――ルベーノ、陽、ディヤー、詩――へアンチボディを施す。
R7エクスシア『シュネルギア』に乗った八島 陽(ka1442)は口中でキャンディを転がしながら、魔導型ドミニオン『ハリケーン・バウ・USC』にいるミグ・ロマイヤー(ka0665)に語りかけた。トランシーバーを使って。
「あの大きさの蟻の機敏さとパワー、要注意だね……飛ぶ可能性はあると思う? 羽蟻みたいに」
ミグは穴が空くほど読み込んだ報告書の内容を頭で反芻しつつ、応える。
『さて、そこは試してみなければ分からぬの。とりあえず前回は飛ばなんだらしいが。それよりも汚染能力の方が気掛かりじゃて。奴はまるで殺生石のような存在じゃな』
「……ミグさん、リアルブルーの妖怪伝承に詳しいんだね」
『まあの。ミグはこう見えてインテリじゃで。どちらにしても奴がこちらの甘い汁に味をしめないうちにお引き取り願おうかの』
言葉を切ったミグは、視線を下方に向けた。そこにはフライングスレッドに乗りこむマルカ・アニチキン(ka2542)の姿がある。
『マルカ殿、くれぐれも敵に近づき過ぎぬようにな。ソリがあるとはいえ、御身は生身と同じ状態じゃからの』
イヤリング『エピキノニア』を通じ送られてくるミグの呼びかけに、マルカは背筋を伸ばす。
「はいっ」
巨大な蟻が動き出す。土埃を巻き上げて。
●迎撃
「行こう、天照」
詩の声に応え天照が動いた。影のように地をかすめ走り巨大な蟻を追い抜き、正面に回り込もうとする。
それだけでもう汚染が始まった。汚染は乗り手よりも先にユニットを襲う。天照は視力が急速に低下してきた。しかし走る。まだ健全な耳と鼻に頼って。
その波打つ背にしがみつく詩は、大声で蟻に問う。
「ステーツマン! 一体何しに外へ出てきたの!」
蟻は足を止めることなく答える。
「μ・マゴイをユニオンに連れ戻すのだよ。何しろ彼女がいなくては、新しい法案の作成が出来ないからね」
「マゴイはあの島でコボルドや人魚、それに新しく来るかもしれない市民達と新しい生活を始めるんだ。あの島、ユニゾン島が今のマゴイにとってのユニオンだよ。だから貴方はもうマゴイにとってのステーツマンじゃない。彼女が貴方に従う義理はもう無いんだ!」
「そうかい。ではそんな出来損ないのユニオンは消滅させよう。そうすれば彼女も理解することだろう。本当のユニオンは、やはりここにしかないのだとね」
「……!」
こいつは滅ぼすしかない。詩がそう思ったとき、ルベーノのエクスシアが突っ込んできた。
鎧通しを蟻の身に打ち込む。
直後エクスシアの視界がブラックアウトした。続けて動作システムが次々ダウンし始める。イニシャライズオーバーが機動し続けていてなお、汚染が機体を侵してきたのだ。
ルベーノはそれに対し、スキルトレースを利用した知的黄金律で対抗する――汚染速度の方が早い。BS解除にまでは至らない。
エクスシアの背後で臨戦態勢をとっていたマリエルは、すぐさまその異変に気づいた。リーリーを駆けさせ対象に接近、ピュリファイケーションを施す。
ブラックアウトしていた視界が戻った。とはいえ解像度は落ちたまま。景色すべてにスモークがかかったような見え具合だ。だがルベーノは臆する事なく攻撃を続ける。味方がまんべんなく汚染を被るより、自分一人に汚染が集中していた方がマシだ、という考えに基づく行動だ。
「まだもってくれよ、エクスシアッ」
この時点で彼以外のハンター、並びにユニットに向かう汚染が薄れた。
ルベーノの奮戦を補助する形で、試作電磁加速砲『ドンナー』を放つ陽。
雷撃をまとった弾丸が高速度で発射される。
蟻は一撃目を避けた。
リロードキャストを使用し、第二撃。
今度は当たった。黒光りする甲殻から煙が上がる。しかし歩みは止まらない。どうやら敵は魔法攻撃に対し、かなりの抵抗力を持っているようだ。
ディヤーはイニシャライズオーバーを展開し、周囲の汚染値を軽減させることに努める。そしてMライフル『イースクラW』の銃身にマテリアルの刃を生じさせ、蟻に突きかかる。
槍は蟻の体に当たりかけた、が、かわされる。
先程のドンナーも回避したことからするに、巨体に似合わぬ素早さを持っているらしい。
ジャウハラは踊るように機体を反転させ、いったん蟻と距離を取る。まるで相手と遊んでいるかのような動きだ。内実はけしてそうでないこと、言うまでもないが。
「なんか知らんがやっぱり歪虚なのじゃな、御身は。歪虚の破壊衝動に、自我の意識は勝てぬのか?」
「おかしなことを言う。破壊衝動を押さえ切れないのは、むしろ君たちの方なのではないかね? 何もしていない私を攻撃してくるのだから。先にも言ったが、私はただマゴイを本来いるべき場所に連れ戻そうとしているだけだよ。彼女は必要な人間だ。ユニオンにとっても私にとっても」
ディヤーは目の前が急に暗くなってくるのを覚えた。とっさに自分の手を見下ろし、汚染されているのが己の視覚ではなくジャウハラの視覚であることを確認する。
フライングスレッドで上空旋回していたマルカが、トランシーバーの回線を使い呼びかけてきた。
『皆さん離れてください! ファイアーボールを投下します!』
ファイアーボールの効果対象はその場にいたもの全員。敵味方の区別はない。ハンターたちはフレンドリーファイアーを避けるため、蟻から距離を置いた。
立て続けに火球が投下され、爆発が起きる。乾き切った地表が砕け土煙が立ち上がる。視界が遮られる。蟻の歩みが一時的に止まった。
遠方でタイミングを伺っていたミグが、プラズマキャノン『アークスレイ』を発射したのはその時だ。
当たった。狙っていた頭部ではなく脚部に。
脚が一本砕けた。蟻の移動力が下がる。
そこを狙って天照が鋭い牙を突き立てる。
蟻はうるさそうにそちらへ視線を向ける。
とたんに天照が、つんのめるようにして倒れた。詩は地面に投げ出される。
急ぎ起き上がり駆け寄ってみれば、相棒は四肢を突っ張って硬直したまま動かなくなっている。大きく胸を波打たせているが息をしていない。
「天照……! しっかり!」
詩はピュリファイケーションを発動した。セレスティアも駆け寄り、フルリカバリーを施した。
イェジドは詰まっていたものを吐き出すかのように激しく呼吸した。おぼつかぬ足取りで起き上がる。
その間陽は彼女らに蟻の注意が行かぬよう、エレクトリックショックを仕掛けた。
炸裂する雷撃。
だが蟻は動きを止めない。そのまま進み続ける。
先程ルベーノの機体とディヤーの機体に起きたことが今度はシュネルギアに起きた。視覚の遮断だ。
彼はキャンディーの味を確かめる。自分の五感に異常が起きていないことを確認してから、機動浄化術・浄癒をすぐさま発動し、汚染の解除にかかる。
その間にルベーノが再び蟻に挑みかかった。仲間に意識を向ける余裕を与えまいと。
●管理者の理屈
上空から混戦を見下ろしているマルカは、ルベーノのエクスシアに対し蟻が大きく口を開けるのを見た。
咆哮を出そうとしていることを悟り魔法洗浄を仕掛ける。
空中に渦を巻いた光はたちまちに黒く濁り、霧散した。打ち消しに失敗したのだ。
耳をつんざく轟音。マルカは機上でパニックを起こす。
そこでがつんと衝撃が来た。蟻が脚を振り上げソリにぶつけたのである。
ソリごと墜落するマルカ。
マリエルはセセリを走らせ、彼女の救援に向かう。
天照の治癒を終えたセレスティアは、その補助に回った。少しでも蟻の動きを牽制するためレクイエムを奏でる。
幸い蟻は彼女らの動きに着目することはなかった。ルベーノが文字通り命を懸け注意を引いているからである。
「マテリアルへの執着を賢しらにμへの好意や虚無での必要性と説くか。存外ステーツマンというのは頭が悪い」
彼は自分の視力自体が落ちてき始めたのを感じている。汚染がユニットの内部まで浸透しつつあるのだ。
しかし動揺を出す事なく煽り続ける。
「ああすまん、今のお前はただの昆虫、脳ではなくあるのはキノコ体とかいうのだったか。胸や腹部への神経節で身体を動かしているのだったな。道理で理路整然とした思考も行動もとれないわけだ……いや、お前の場合は元々そうだったのかもしれんが」
「不出来な頭脳で無理に難しいことを言おうとせずともいいんだよ。私にかまう事なくさっさと消えてくれないかね、後進世界の原住民」
マリエルからピュリファイケーション、リーリーからリーリーヒーリングをかけてもらったマルカは再びソリに乗り、舞い上がる。『IFO』の使用制限回数は使い切っていなかったのだ。
危険だとは承知していたがステーツマンに接近する。
シュネルギアとジャウハラが展開しているイニシャライズオーバーが周囲の汚染効果を減殺してはいたが、それでも何も感じないというわけにはいかない。視覚に異常が起きた。周囲のものが二重にぶれて見える。
それでも彼女は声を張り上げる。どうしても聞きたいことがあったのだ。
「かつて共にいたマゴイさんとあの頃に戻りたいと言いたいのですよね? あの悲劇を繰り返す世界で感じた喪失を彼女で埋めたい気持ちは理解出来ました……しかし、どうしてそれがマゴイさんを吸収する事に繋がってしまったのですか? 極論では……」
蟻はその言葉に沈黙した。
直後触覚を震わせ笑い始める。振動で周辺の大地が震えた。
「いやはや、何を言い出すかと思えば。悲劇を繰り返す、だって? あれが悲劇だって?」
その笑いに詩は強い反発を抱いた。
マゴイはユニオンの死にあれだけ心痛めていたのに、当事者であろうはずのこの男は、まるきりなんとも思っていないらしいのだ。
「……ステーツマン……何がそんなにおかしいの」
「昨日死んだ人間が今日生き返って一言一句違わず同じことを言って同じことをしてまた死んで――それが千、万、億兆回繰り返されるんだよ。悲劇どころか最高に出来の悪いコメディじゃないかね」
ディヤーはじりじり間合いを計りつつ、言った。キャンディーを一旦頬の片隅に寄せておいて。
「そういえば、あの世界、御身の死に様が記録されておらんかったの?」
「私は管理者だからね。ほかの連中のように無意味なサイクルを繰り返しはしないのさ。私という存在があるからこそ、ワーカーもソルジャーもマゴイもウテルスも存在し続けていられる。つまりまあ私は――あの世界において君達が言うところの『神様』なのだろうね。うんざりするよ。そんな状況下において、せめてまともに話が出来る相手が欲しいと思うのは、何かいけないことかね?」
ルベーノが吠えた。回数切れを起こした鎧通しの代わりに青龍翔咬波を、蟻の体に打ち込む。
「悪いが俺は真人間ゆえ歪虚や虫如きの言葉が理解できるほど低能ではなくてな。恨み言なら黄泉路の壁に向かって独り呟くがいいわっ!」
拳が正確に当たっているのかどうか、どの程度のダメージを与えているのか、本人には確認することが出来ない。外部モニタの不具合が直っていないからだ。
しかしはたで見ているものには、確実に入ったのが分かる。
蟻が金属を擦り合わせるような声を上げた。その大顎でエクスシアの胴体を挟んだ。
●蟻の一穴
蟻の大顎がルベーノのエクスシアに何度も刺さる。エクスシアの外部装甲、並びに武器が砕けた。
ジャウハラはイースクラWを媒介して、ブリザードを発動させた。
蟻の表面が白く凍りつく。ルベーノのエクスシアから顎から離れる。
陽は再びドンナーを構えた。CAMのサイズに応じた巨大な光の三角形が現れる。その頂点から伸びた光の一つが、蟻の体に当たる。光線に貫かれた複眼が白熱し煙を上げる。
蟻が後退りした。貫かれた複眼がじくじくした黒い体液で覆われ復元して行く。
シュネルギアの視界がブラックアウトした。続けて外部からの音声が入らなくなる。操作機器が次々と動かなくなっていく。
「くそっ!」
陽は白虹・清癒を立て続けに発動させ、いち早い汚染の解除につとめる。
クルセイダーたち――詩、セレスティア、マリエルは現在最大の被害を受けているルベーノの救援に向かう。
その際限りあるスキルが重ならないよう、作業を分担した。
詩が、蟻を引きつける役を負う。
「私はステーツマンの注意を引くから、マリエルさん、セレスティアさん、浄化をお願い!」
治癒を受け勢いを取り戻した天照は蟻の背後から足に食いつき、猛攻撃をかけた。
それに合わせて乗り手の詩は、プルガトリオをあるだけ見舞う。黒い刃が蟻の体を貫き動きを鈍らせる。
更なる牽制のためマリエルは、太刀『菊理姫』にてセイクリッドフラッシュを放つ。
「擬似接続開始。岩戸より顕現を。アマテラス!」
光の波動と衝撃。蟻は再び動きを止めた。
それら一連の動きを見ていたマルカは、突如脳裏に次の考えを閃かせた。
(……もしかして、光に弱い?……)
彼女は魔導拳銃『マーキナ』に特殊光撃弾『アラマズド』を詰め、引き金を引く。強烈な光が蟻の動きを止めた。
攻撃が途絶えている隙にセレスティアは、ルベーノの機体と本人へピュリファイケーションをかけ、機能回復に努める。
もちろんその間、他のハンターたちも黙っていない。それぞれ持てるスキルを、惜しまず叩き込み続ける。
ミグはこの機を逃さず一気に、遠距離から中距離まで間合いを縮めた。
バズーカ『ロウシュヴァウスト』の照準を蟻の腹に合わせ、引き金を引く。
回避力が落ちていたせいだろう、至近距離からの強打はそのまま蟻の体を穿った。
鋼鉄のごとき外殻がへこみ、ねばくて黒い液体があふれ出す。
この打撃はかなりこたえたらしい。蟻は巨体をよろめかせた。だがすぐ反撃が来る。ハリケーン・バウの視界が即座に断ち切られた。続いて通信機能が遮断される。操作関係のシステムがダウンして行く。
それに対し彼女はリブートで対抗した。
汚染が解除される。
そこへ蟻が新たな汚染を及ぼそうとする。
マルカはカウンターマジックを発動し、それを阻害する。
蟻は、彼女に向けてもう一度咆哮する。
衝撃波に吹き飛ばされるマルカ。地面に叩きつけられる寸前光の翼で包まれ事なきを得る。セレスティアの紋章剣『鳳凰』だ。
ここに至ってようやく蟻は、クルセイダーたちの存在に注視した。
「なるほど、さっきからいらない小細工をしているのは君たちかね」
セセリが立ち止まった。せわしく首を巡らし鳴き騒いだかと思うや、突然ぐにゃりと座り込んでしまう。ついでマリエル自身にも汚染が来る。
彼女らが危険だと見たディヤーは、カウンターマジックを惜しみ無く発動した。
新たな汚染の影響が彼によってくい止められている間に、ルベーノが立ち上がった。すでにエクスシアは半壊状態となり彼自身も大怪我を負っていたが、まだ動くことは出来る。喋ることも。
精神安定剤を飲み思考を沈め考える。こいつが言われて一番腹を立てそうなことは何かと。そして、声を張り上げる。
「……貴様も未練がましい男だな、ステーツマン……虫に分別を期待するのが間違いかもしれんが、これだけは言わせろ。いいかよく聞け。貴様がいなくなったところでμは何ひとつ困らん。俺に乗り換えればすむことだからな。ただ一人の相手にこだわらないのがユニオンの正しい作法なのだろう? だから心置きなく消えろ。遠慮なく消えろ。今すぐ消えろ」
直後エクスシアが、すさまじい勢いで吹っ飛ばされた。咆哮の力によって。鎌の顎がエクスシアを捕らえところ構わず噛み砕く。振り回し地面に叩きつける。理性など微塵も感じられない暴れぶりだ――むろんそれと同時に強烈な汚染も発している。
陽は自分自身の目がかすみ、耳が遠くなるのを感じた。しかし味覚はそのままだ。汚染の広がり方にむらが出来ていたのである。敵意が一点に集中していたゆえに。
ルベーノが機体ごと粉々になる前に、ミグが発したバズーカ弾が大命中した。
蟻の頭部に穴が空く。
マリエルは鉄屑寸前になったエクスシアからルベーノを引きずり出し回収し、リーリーに乗せ離脱した。彼はもう戦える状態ではない。
それを蟻が追う。
●退散
視界が暗くなる。音が遠ざかって行く。
「懐かしい感覚じゃな」
妙に冷静な口調で呟いたディヤーは、セレスティアにピュリファイケーションを要請し、五感を正常値に戻す。
そうしてから改めて見れば、蟻の輪郭が溶けてきていた。
どうやら実体を維持出来なくなってきているようだ。
だがそのことに本人は気づいていないらしい。あくまでもルベーノに向かっていこうとしている。
そこにマルカが目眩ましのための発煙手榴弾を投げ付け、セレスティア同様リーリーの護衛を務めながら、後方に下がって行く。
代わって詩と天照が蟻の前面に躍り出た。
「私は、ユニオンの理念が好きじゃない。だけど、コボルドや人魚達は好き。それにマゴイ個人は嫌いじゃない。だからステーツマン、絶対ここは通さない!」
狼の牙が蟻の足に穴を空け裂いた。先程まではどんなに噛まれてもびくともしなかったのに。
やはりこいつは弱ってきているのだ。
その確信を得た陽は機槍『アレストフォーク』で突きかかった。
蟻の胸部と腹部の間のくびれた部分に機槍の又を差し込んで、機体のパワーと重量をかけて押さえ込む。
ミグが言った。
「よーし、そのまま押さえておってくれ! まだバズーカが1発残っておるでな!」
巨砲が吠え、火線が走る。
蟻は胸部に大きな穴を空けた。
輪郭がいよいよ揺らぎ、液状になってゆく。
ディヤーがイースクラWで狙撃し、追い打ちをかける。
「これなら当たるのじゃろ?」
蟻は、もう蟻でもなんでもなくなった。ただの大きな黒い染みだ。
それが地面に吸い込まれるように小さくなって行く。
ディヤーは問いかける。
「御身にとって今、ユニオンは腐敗した頂点が怠惰に生きる為の国か?」
否定も肯定もないまま染みは姿を消した――消滅ではない。異界へ戻って行ったのだ。
ディヤーは溶けて小さくなったキャンディーを噛み砕いた。
「……ならば今のマゴイ殿には理解が及ばぬわけじゃの」
ハンターたちはステーツマンを深追いしようとはしなかった。
自分たちも随分な損害を受けている今、相手の縄張りまで踏み込むのはあまりにも危険だからだ。
負傷の応急治療と汚染の除去が終わった後詩は、天照の頭を撫でた。
「よくやったね」
天照はふさふさの尻尾を振った。
ミグはこきこき首を鳴らす。
「やれやれ、まあ一件落着かの、この場は」
陽は親指で、大破したルベーノのエクスシアを指さした。
「ひとまずあの大荷物を持って帰らないとね」
「じゃな。しかしまあ、乗り手ともどもめたくそやられたものよのう……ディヤーよ、手伝え」
「わかった、蟻とキリギリスじゃ!」
「な、なんじゃいきなり」
「いやの、なぜステーツマン殿が蟻の姿をしておったか、ずっと考えておったのよ。やはり働き者があやつの本質かの!」
フライングスレッドへ乗せ代えるためセセリからルベーノを降ろしていたマリエルが、振り向き異論を唱える。
「蟻の群れの中には、常に何パーセントか働かない個体が存在しているらしいですよ」
マルカが遠慮がちに同意する。
「あ、その話、私も聞いたことあります……」
そこにセレスティアが意見した。
「それ以前に、そもそもオス蟻は働かないものではなかったでしょうか?」
ディヤーは目を丸くした。そして、勢いよく手を打ち叩いた。
「なるほど! そういうことじゃったのか! 謎が全て解けたぞ!」
●決別
ルベーノは目を開けた。
自分が病院にいると気づく。ついで、脇に誰かが立っているのに気づく。
首を回してみれば、白い服に長い黒髪。細面の女。
枕元には白い花束。見舞いの品らしい。
「……マゴイではないか。どうしたんだ」
『……随分重傷だと魔術師協会から聞いたので……お見舞いに……転移が使えるくらいには力が戻ってきたのでね……』
「そうか。まあ元気になったならそれでいい。依頼の内容については、聞いたのか?」
『……ええ……α・ステーツマンがまた現れたそうね……』
マゴイは悄然と肩を落とした。
少しの間、場を沈黙が支配する。
やがてマゴイがポツリと言った。
『……私はあの人から……ワーカーを守らなければいけない……あの人は本当に、すっかり変わってしまった……私は……あの人のユニオンを終わらせなければならないのだと思う……』
歪虚を前に襟毛を膨らませ唸り上げるイェジド『天照』。
その背に乗った天竜寺 詩(ka0396)は目を見張る。ステーツマンが蟻に身を変じたからではない。それはもう異界で目にしたことがある。問題は変身後の姿がそのとき見たものと比べて、確実に巨大化しているということなのだ。
「ステーツマン、もうあれだけの力を発揮できるようになったの!?」
汚染攻撃への予防対策として彼女は、仲間たち全員に茨の祈りをかけて回る――その効果は彼女自身を除くハンターとユニット全てに及んだ。
R7エクスシア『ジャウハラ』に搭乗しているディヤー・A・バトロス(ka5743)は、キャンディが入った口をもごもごさせる。
「おー、あれがステーツマン殿か?……ワシには巨大蟻にしか見えんが」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はR7エクスシアの操縦桿を握る手に力を込める。
「お前如き歪虚にμをくれてやるわけにはいかん。お前如きに倒された自分も赦しがたい。ゆえに、俺がお前を滅してやろう、ステーツマン!」
マリエル(ka0116)は落ちつかなげに鳴くリーリー『セセリ』の首を撫で、なだめた。
「どう、どう」
セセリに同乗していたセレスティア(ka2691)は鞍から降り、目視で蟻のサイズを計る。
ざっと体高3メートル、全長7メートルと言ったところか。ならば立ち上がったとして、CAMと大きさはそんなに変わらない。
「実体化して現れるとは……でも、好きにはさせません」
「私もできるだけの事をします。無茶はしないでくださいね」
マリエルと言葉を交わし頷きあった彼女は、ロザリオ『タビアイマーン』の力を借り、前衛を担当する人々――ルベーノ、陽、ディヤー、詩――へアンチボディを施す。
R7エクスシア『シュネルギア』に乗った八島 陽(ka1442)は口中でキャンディを転がしながら、魔導型ドミニオン『ハリケーン・バウ・USC』にいるミグ・ロマイヤー(ka0665)に語りかけた。トランシーバーを使って。
「あの大きさの蟻の機敏さとパワー、要注意だね……飛ぶ可能性はあると思う? 羽蟻みたいに」
ミグは穴が空くほど読み込んだ報告書の内容を頭で反芻しつつ、応える。
『さて、そこは試してみなければ分からぬの。とりあえず前回は飛ばなんだらしいが。それよりも汚染能力の方が気掛かりじゃて。奴はまるで殺生石のような存在じゃな』
「……ミグさん、リアルブルーの妖怪伝承に詳しいんだね」
『まあの。ミグはこう見えてインテリじゃで。どちらにしても奴がこちらの甘い汁に味をしめないうちにお引き取り願おうかの』
言葉を切ったミグは、視線を下方に向けた。そこにはフライングスレッドに乗りこむマルカ・アニチキン(ka2542)の姿がある。
『マルカ殿、くれぐれも敵に近づき過ぎぬようにな。ソリがあるとはいえ、御身は生身と同じ状態じゃからの』
イヤリング『エピキノニア』を通じ送られてくるミグの呼びかけに、マルカは背筋を伸ばす。
「はいっ」
巨大な蟻が動き出す。土埃を巻き上げて。
●迎撃
「行こう、天照」
詩の声に応え天照が動いた。影のように地をかすめ走り巨大な蟻を追い抜き、正面に回り込もうとする。
それだけでもう汚染が始まった。汚染は乗り手よりも先にユニットを襲う。天照は視力が急速に低下してきた。しかし走る。まだ健全な耳と鼻に頼って。
その波打つ背にしがみつく詩は、大声で蟻に問う。
「ステーツマン! 一体何しに外へ出てきたの!」
蟻は足を止めることなく答える。
「μ・マゴイをユニオンに連れ戻すのだよ。何しろ彼女がいなくては、新しい法案の作成が出来ないからね」
「マゴイはあの島でコボルドや人魚、それに新しく来るかもしれない市民達と新しい生活を始めるんだ。あの島、ユニゾン島が今のマゴイにとってのユニオンだよ。だから貴方はもうマゴイにとってのステーツマンじゃない。彼女が貴方に従う義理はもう無いんだ!」
「そうかい。ではそんな出来損ないのユニオンは消滅させよう。そうすれば彼女も理解することだろう。本当のユニオンは、やはりここにしかないのだとね」
「……!」
こいつは滅ぼすしかない。詩がそう思ったとき、ルベーノのエクスシアが突っ込んできた。
鎧通しを蟻の身に打ち込む。
直後エクスシアの視界がブラックアウトした。続けて動作システムが次々ダウンし始める。イニシャライズオーバーが機動し続けていてなお、汚染が機体を侵してきたのだ。
ルベーノはそれに対し、スキルトレースを利用した知的黄金律で対抗する――汚染速度の方が早い。BS解除にまでは至らない。
エクスシアの背後で臨戦態勢をとっていたマリエルは、すぐさまその異変に気づいた。リーリーを駆けさせ対象に接近、ピュリファイケーションを施す。
ブラックアウトしていた視界が戻った。とはいえ解像度は落ちたまま。景色すべてにスモークがかかったような見え具合だ。だがルベーノは臆する事なく攻撃を続ける。味方がまんべんなく汚染を被るより、自分一人に汚染が集中していた方がマシだ、という考えに基づく行動だ。
「まだもってくれよ、エクスシアッ」
この時点で彼以外のハンター、並びにユニットに向かう汚染が薄れた。
ルベーノの奮戦を補助する形で、試作電磁加速砲『ドンナー』を放つ陽。
雷撃をまとった弾丸が高速度で発射される。
蟻は一撃目を避けた。
リロードキャストを使用し、第二撃。
今度は当たった。黒光りする甲殻から煙が上がる。しかし歩みは止まらない。どうやら敵は魔法攻撃に対し、かなりの抵抗力を持っているようだ。
ディヤーはイニシャライズオーバーを展開し、周囲の汚染値を軽減させることに努める。そしてMライフル『イースクラW』の銃身にマテリアルの刃を生じさせ、蟻に突きかかる。
槍は蟻の体に当たりかけた、が、かわされる。
先程のドンナーも回避したことからするに、巨体に似合わぬ素早さを持っているらしい。
ジャウハラは踊るように機体を反転させ、いったん蟻と距離を取る。まるで相手と遊んでいるかのような動きだ。内実はけしてそうでないこと、言うまでもないが。
「なんか知らんがやっぱり歪虚なのじゃな、御身は。歪虚の破壊衝動に、自我の意識は勝てぬのか?」
「おかしなことを言う。破壊衝動を押さえ切れないのは、むしろ君たちの方なのではないかね? 何もしていない私を攻撃してくるのだから。先にも言ったが、私はただマゴイを本来いるべき場所に連れ戻そうとしているだけだよ。彼女は必要な人間だ。ユニオンにとっても私にとっても」
ディヤーは目の前が急に暗くなってくるのを覚えた。とっさに自分の手を見下ろし、汚染されているのが己の視覚ではなくジャウハラの視覚であることを確認する。
フライングスレッドで上空旋回していたマルカが、トランシーバーの回線を使い呼びかけてきた。
『皆さん離れてください! ファイアーボールを投下します!』
ファイアーボールの効果対象はその場にいたもの全員。敵味方の区別はない。ハンターたちはフレンドリーファイアーを避けるため、蟻から距離を置いた。
立て続けに火球が投下され、爆発が起きる。乾き切った地表が砕け土煙が立ち上がる。視界が遮られる。蟻の歩みが一時的に止まった。
遠方でタイミングを伺っていたミグが、プラズマキャノン『アークスレイ』を発射したのはその時だ。
当たった。狙っていた頭部ではなく脚部に。
脚が一本砕けた。蟻の移動力が下がる。
そこを狙って天照が鋭い牙を突き立てる。
蟻はうるさそうにそちらへ視線を向ける。
とたんに天照が、つんのめるようにして倒れた。詩は地面に投げ出される。
急ぎ起き上がり駆け寄ってみれば、相棒は四肢を突っ張って硬直したまま動かなくなっている。大きく胸を波打たせているが息をしていない。
「天照……! しっかり!」
詩はピュリファイケーションを発動した。セレスティアも駆け寄り、フルリカバリーを施した。
イェジドは詰まっていたものを吐き出すかのように激しく呼吸した。おぼつかぬ足取りで起き上がる。
その間陽は彼女らに蟻の注意が行かぬよう、エレクトリックショックを仕掛けた。
炸裂する雷撃。
だが蟻は動きを止めない。そのまま進み続ける。
先程ルベーノの機体とディヤーの機体に起きたことが今度はシュネルギアに起きた。視覚の遮断だ。
彼はキャンディーの味を確かめる。自分の五感に異常が起きていないことを確認してから、機動浄化術・浄癒をすぐさま発動し、汚染の解除にかかる。
その間にルベーノが再び蟻に挑みかかった。仲間に意識を向ける余裕を与えまいと。
●管理者の理屈
上空から混戦を見下ろしているマルカは、ルベーノのエクスシアに対し蟻が大きく口を開けるのを見た。
咆哮を出そうとしていることを悟り魔法洗浄を仕掛ける。
空中に渦を巻いた光はたちまちに黒く濁り、霧散した。打ち消しに失敗したのだ。
耳をつんざく轟音。マルカは機上でパニックを起こす。
そこでがつんと衝撃が来た。蟻が脚を振り上げソリにぶつけたのである。
ソリごと墜落するマルカ。
マリエルはセセリを走らせ、彼女の救援に向かう。
天照の治癒を終えたセレスティアは、その補助に回った。少しでも蟻の動きを牽制するためレクイエムを奏でる。
幸い蟻は彼女らの動きに着目することはなかった。ルベーノが文字通り命を懸け注意を引いているからである。
「マテリアルへの執着を賢しらにμへの好意や虚無での必要性と説くか。存外ステーツマンというのは頭が悪い」
彼は自分の視力自体が落ちてき始めたのを感じている。汚染がユニットの内部まで浸透しつつあるのだ。
しかし動揺を出す事なく煽り続ける。
「ああすまん、今のお前はただの昆虫、脳ではなくあるのはキノコ体とかいうのだったか。胸や腹部への神経節で身体を動かしているのだったな。道理で理路整然とした思考も行動もとれないわけだ……いや、お前の場合は元々そうだったのかもしれんが」
「不出来な頭脳で無理に難しいことを言おうとせずともいいんだよ。私にかまう事なくさっさと消えてくれないかね、後進世界の原住民」
マリエルからピュリファイケーション、リーリーからリーリーヒーリングをかけてもらったマルカは再びソリに乗り、舞い上がる。『IFO』の使用制限回数は使い切っていなかったのだ。
危険だとは承知していたがステーツマンに接近する。
シュネルギアとジャウハラが展開しているイニシャライズオーバーが周囲の汚染効果を減殺してはいたが、それでも何も感じないというわけにはいかない。視覚に異常が起きた。周囲のものが二重にぶれて見える。
それでも彼女は声を張り上げる。どうしても聞きたいことがあったのだ。
「かつて共にいたマゴイさんとあの頃に戻りたいと言いたいのですよね? あの悲劇を繰り返す世界で感じた喪失を彼女で埋めたい気持ちは理解出来ました……しかし、どうしてそれがマゴイさんを吸収する事に繋がってしまったのですか? 極論では……」
蟻はその言葉に沈黙した。
直後触覚を震わせ笑い始める。振動で周辺の大地が震えた。
「いやはや、何を言い出すかと思えば。悲劇を繰り返す、だって? あれが悲劇だって?」
その笑いに詩は強い反発を抱いた。
マゴイはユニオンの死にあれだけ心痛めていたのに、当事者であろうはずのこの男は、まるきりなんとも思っていないらしいのだ。
「……ステーツマン……何がそんなにおかしいの」
「昨日死んだ人間が今日生き返って一言一句違わず同じことを言って同じことをしてまた死んで――それが千、万、億兆回繰り返されるんだよ。悲劇どころか最高に出来の悪いコメディじゃないかね」
ディヤーはじりじり間合いを計りつつ、言った。キャンディーを一旦頬の片隅に寄せておいて。
「そういえば、あの世界、御身の死に様が記録されておらんかったの?」
「私は管理者だからね。ほかの連中のように無意味なサイクルを繰り返しはしないのさ。私という存在があるからこそ、ワーカーもソルジャーもマゴイもウテルスも存在し続けていられる。つまりまあ私は――あの世界において君達が言うところの『神様』なのだろうね。うんざりするよ。そんな状況下において、せめてまともに話が出来る相手が欲しいと思うのは、何かいけないことかね?」
ルベーノが吠えた。回数切れを起こした鎧通しの代わりに青龍翔咬波を、蟻の体に打ち込む。
「悪いが俺は真人間ゆえ歪虚や虫如きの言葉が理解できるほど低能ではなくてな。恨み言なら黄泉路の壁に向かって独り呟くがいいわっ!」
拳が正確に当たっているのかどうか、どの程度のダメージを与えているのか、本人には確認することが出来ない。外部モニタの不具合が直っていないからだ。
しかしはたで見ているものには、確実に入ったのが分かる。
蟻が金属を擦り合わせるような声を上げた。その大顎でエクスシアの胴体を挟んだ。
●蟻の一穴
蟻の大顎がルベーノのエクスシアに何度も刺さる。エクスシアの外部装甲、並びに武器が砕けた。
ジャウハラはイースクラWを媒介して、ブリザードを発動させた。
蟻の表面が白く凍りつく。ルベーノのエクスシアから顎から離れる。
陽は再びドンナーを構えた。CAMのサイズに応じた巨大な光の三角形が現れる。その頂点から伸びた光の一つが、蟻の体に当たる。光線に貫かれた複眼が白熱し煙を上げる。
蟻が後退りした。貫かれた複眼がじくじくした黒い体液で覆われ復元して行く。
シュネルギアの視界がブラックアウトした。続けて外部からの音声が入らなくなる。操作機器が次々と動かなくなっていく。
「くそっ!」
陽は白虹・清癒を立て続けに発動させ、いち早い汚染の解除につとめる。
クルセイダーたち――詩、セレスティア、マリエルは現在最大の被害を受けているルベーノの救援に向かう。
その際限りあるスキルが重ならないよう、作業を分担した。
詩が、蟻を引きつける役を負う。
「私はステーツマンの注意を引くから、マリエルさん、セレスティアさん、浄化をお願い!」
治癒を受け勢いを取り戻した天照は蟻の背後から足に食いつき、猛攻撃をかけた。
それに合わせて乗り手の詩は、プルガトリオをあるだけ見舞う。黒い刃が蟻の体を貫き動きを鈍らせる。
更なる牽制のためマリエルは、太刀『菊理姫』にてセイクリッドフラッシュを放つ。
「擬似接続開始。岩戸より顕現を。アマテラス!」
光の波動と衝撃。蟻は再び動きを止めた。
それら一連の動きを見ていたマルカは、突如脳裏に次の考えを閃かせた。
(……もしかして、光に弱い?……)
彼女は魔導拳銃『マーキナ』に特殊光撃弾『アラマズド』を詰め、引き金を引く。強烈な光が蟻の動きを止めた。
攻撃が途絶えている隙にセレスティアは、ルベーノの機体と本人へピュリファイケーションをかけ、機能回復に努める。
もちろんその間、他のハンターたちも黙っていない。それぞれ持てるスキルを、惜しまず叩き込み続ける。
ミグはこの機を逃さず一気に、遠距離から中距離まで間合いを縮めた。
バズーカ『ロウシュヴァウスト』の照準を蟻の腹に合わせ、引き金を引く。
回避力が落ちていたせいだろう、至近距離からの強打はそのまま蟻の体を穿った。
鋼鉄のごとき外殻がへこみ、ねばくて黒い液体があふれ出す。
この打撃はかなりこたえたらしい。蟻は巨体をよろめかせた。だがすぐ反撃が来る。ハリケーン・バウの視界が即座に断ち切られた。続いて通信機能が遮断される。操作関係のシステムがダウンして行く。
それに対し彼女はリブートで対抗した。
汚染が解除される。
そこへ蟻が新たな汚染を及ぼそうとする。
マルカはカウンターマジックを発動し、それを阻害する。
蟻は、彼女に向けてもう一度咆哮する。
衝撃波に吹き飛ばされるマルカ。地面に叩きつけられる寸前光の翼で包まれ事なきを得る。セレスティアの紋章剣『鳳凰』だ。
ここに至ってようやく蟻は、クルセイダーたちの存在に注視した。
「なるほど、さっきからいらない小細工をしているのは君たちかね」
セセリが立ち止まった。せわしく首を巡らし鳴き騒いだかと思うや、突然ぐにゃりと座り込んでしまう。ついでマリエル自身にも汚染が来る。
彼女らが危険だと見たディヤーは、カウンターマジックを惜しみ無く発動した。
新たな汚染の影響が彼によってくい止められている間に、ルベーノが立ち上がった。すでにエクスシアは半壊状態となり彼自身も大怪我を負っていたが、まだ動くことは出来る。喋ることも。
精神安定剤を飲み思考を沈め考える。こいつが言われて一番腹を立てそうなことは何かと。そして、声を張り上げる。
「……貴様も未練がましい男だな、ステーツマン……虫に分別を期待するのが間違いかもしれんが、これだけは言わせろ。いいかよく聞け。貴様がいなくなったところでμは何ひとつ困らん。俺に乗り換えればすむことだからな。ただ一人の相手にこだわらないのがユニオンの正しい作法なのだろう? だから心置きなく消えろ。遠慮なく消えろ。今すぐ消えろ」
直後エクスシアが、すさまじい勢いで吹っ飛ばされた。咆哮の力によって。鎌の顎がエクスシアを捕らえところ構わず噛み砕く。振り回し地面に叩きつける。理性など微塵も感じられない暴れぶりだ――むろんそれと同時に強烈な汚染も発している。
陽は自分自身の目がかすみ、耳が遠くなるのを感じた。しかし味覚はそのままだ。汚染の広がり方にむらが出来ていたのである。敵意が一点に集中していたゆえに。
ルベーノが機体ごと粉々になる前に、ミグが発したバズーカ弾が大命中した。
蟻の頭部に穴が空く。
マリエルは鉄屑寸前になったエクスシアからルベーノを引きずり出し回収し、リーリーに乗せ離脱した。彼はもう戦える状態ではない。
それを蟻が追う。
●退散
視界が暗くなる。音が遠ざかって行く。
「懐かしい感覚じゃな」
妙に冷静な口調で呟いたディヤーは、セレスティアにピュリファイケーションを要請し、五感を正常値に戻す。
そうしてから改めて見れば、蟻の輪郭が溶けてきていた。
どうやら実体を維持出来なくなってきているようだ。
だがそのことに本人は気づいていないらしい。あくまでもルベーノに向かっていこうとしている。
そこにマルカが目眩ましのための発煙手榴弾を投げ付け、セレスティア同様リーリーの護衛を務めながら、後方に下がって行く。
代わって詩と天照が蟻の前面に躍り出た。
「私は、ユニオンの理念が好きじゃない。だけど、コボルドや人魚達は好き。それにマゴイ個人は嫌いじゃない。だからステーツマン、絶対ここは通さない!」
狼の牙が蟻の足に穴を空け裂いた。先程まではどんなに噛まれてもびくともしなかったのに。
やはりこいつは弱ってきているのだ。
その確信を得た陽は機槍『アレストフォーク』で突きかかった。
蟻の胸部と腹部の間のくびれた部分に機槍の又を差し込んで、機体のパワーと重量をかけて押さえ込む。
ミグが言った。
「よーし、そのまま押さえておってくれ! まだバズーカが1発残っておるでな!」
巨砲が吠え、火線が走る。
蟻は胸部に大きな穴を空けた。
輪郭がいよいよ揺らぎ、液状になってゆく。
ディヤーがイースクラWで狙撃し、追い打ちをかける。
「これなら当たるのじゃろ?」
蟻は、もう蟻でもなんでもなくなった。ただの大きな黒い染みだ。
それが地面に吸い込まれるように小さくなって行く。
ディヤーは問いかける。
「御身にとって今、ユニオンは腐敗した頂点が怠惰に生きる為の国か?」
否定も肯定もないまま染みは姿を消した――消滅ではない。異界へ戻って行ったのだ。
ディヤーは溶けて小さくなったキャンディーを噛み砕いた。
「……ならば今のマゴイ殿には理解が及ばぬわけじゃの」
ハンターたちはステーツマンを深追いしようとはしなかった。
自分たちも随分な損害を受けている今、相手の縄張りまで踏み込むのはあまりにも危険だからだ。
負傷の応急治療と汚染の除去が終わった後詩は、天照の頭を撫でた。
「よくやったね」
天照はふさふさの尻尾を振った。
ミグはこきこき首を鳴らす。
「やれやれ、まあ一件落着かの、この場は」
陽は親指で、大破したルベーノのエクスシアを指さした。
「ひとまずあの大荷物を持って帰らないとね」
「じゃな。しかしまあ、乗り手ともどもめたくそやられたものよのう……ディヤーよ、手伝え」
「わかった、蟻とキリギリスじゃ!」
「な、なんじゃいきなり」
「いやの、なぜステーツマン殿が蟻の姿をしておったか、ずっと考えておったのよ。やはり働き者があやつの本質かの!」
フライングスレッドへ乗せ代えるためセセリからルベーノを降ろしていたマリエルが、振り向き異論を唱える。
「蟻の群れの中には、常に何パーセントか働かない個体が存在しているらしいですよ」
マルカが遠慮がちに同意する。
「あ、その話、私も聞いたことあります……」
そこにセレスティアが意見した。
「それ以前に、そもそもオス蟻は働かないものではなかったでしょうか?」
ディヤーは目を丸くした。そして、勢いよく手を打ち叩いた。
「なるほど! そういうことじゃったのか! 謎が全て解けたぞ!」
●決別
ルベーノは目を開けた。
自分が病院にいると気づく。ついで、脇に誰かが立っているのに気づく。
首を回してみれば、白い服に長い黒髪。細面の女。
枕元には白い花束。見舞いの品らしい。
「……マゴイではないか。どうしたんだ」
『……随分重傷だと魔術師協会から聞いたので……お見舞いに……転移が使えるくらいには力が戻ってきたのでね……』
「そうか。まあ元気になったならそれでいい。依頼の内容については、聞いたのか?」
『……ええ……α・ステーツマンがまた現れたそうね……』
マゴイは悄然と肩を落とした。
少しの間、場を沈黙が支配する。
やがてマゴイがポツリと言った。
『……私はあの人から……ワーカーを守らなければいけない……あの人は本当に、すっかり変わってしまった……私は……あの人のユニオンを終わらせなければならないのだと思う……』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/02/25 17:59:32 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/26 18:50:47 |
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![]() |
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/03/03 15:17:58 |