ボーナスのかわりに一目惚れ?

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/01 15:00
完成日
2018/03/08 22:09

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 バレンタインが、終わった。
「そう、終わった、のよ、ね……」
 宝石商モンド氏の一人娘・ダイヤは、カレンダーを何度も確認し、ため息をついた。それは、安堵の気持ちが半分、厄介なことになったという悩みがもう半分、という複雑なため息だった。
 安堵の理由と、悩みの理由は、どちらも十日ほど時を遡った頃の出来事に原因がある。

「チョコレート売り場で、アルバイト?」
 ダイヤは、父親であるモンド氏の話を聞いて首を傾げた。
「うん、やってみないかね? 最近の取引で縁のできた紳士がね、チョコレートショップを経営していてね。短期のアルバイトを募集しているそうなんだ」
「短期なの?」
「うん、バレンタインの時期だけでいいそうだよ。お前、ここのところずっと、いろんな仕事を経験してみたい、と言っているだろう? やってみたらどうかと思ってね」
 チョコレートショップで、バレンタインチョコレートを売るお仕事。その可愛らしい響きが、ダイヤにはとても魅力的に聞こえた。いろいろな仕事を体験してみたい、という気持ちも、もちろんある。だから、即座に返事をしたのだ。
「やるわ!」
 と。
 そんなわけで、今年のダイヤのバレンタインは多忙を極めた。
 チョコレートショップはオシャレで、制服も可愛く、売っているチョコレートも華やかで、ダイヤはとても楽しく働いた。そう、楽しかったのだ。それだけは間違いない。だが。
(目が回りそうに忙しいっ!!)
 それは想像を絶する忙しさだった。ケースの前に列を作るお客さんが途切れるときなど、一生来ないのではないかと思ったほどだ。
 おかげでダイヤは、自分のバレンタインチョコレートに工夫する暇もなく、今年はそのバイト先であるチョコレートショップのボンボンショコラを詰め合わせて贈る、という結果になった。贈られた方は「おかげで今年はまともなチョコレートが食べられますよ」なんて憎まれ口を叩いていたが。
 それでもダイヤは、途中で投げ出すことなくアルバイトを勤め上げた。とにかく忙しかったけれどお店の人は皆親切に仕事を教えてくれたし、とてもいい経験ができた。だから、ひたすら働いて終わったバレンタインに文句はない。無事に、働くことができた、というのが、安堵の理由だった。
 問題は、ここからだ。
 バレンタインの数日後、ダイヤ宛に一通の手紙が届いたのである。差出人は「ジャン・マルコリーニ」。知らない名前だった。封を切ってみると、その手紙の中身は。
「う、嘘でしょ……」
 熱烈なラブレターだったのである。
 なんでも、チョコレートショップで働いているダイヤを見かけて一目惚れしたとのことだった。是非とも恋人になってはくださらないか、と綺麗な文字で綴られていた。
「恋人!?」
「きゃー!! 凄いじゃないですか、お嬢さま!! アルバイトで思いがけないボーナスがもらえましたねえ!!」
「な、何がボーナスよ!!!」
 色めき立つメイドたちを怒鳴り、ダイヤはすぐさま断りの手紙を書いた。ちょっと躊躇いはしたが、こういうことははっきり言っておいた方がいいと思って「他に好きな人がいる」としっかり書きいれた。世間知らずであわてんぼうのダイヤにしては、的確な判断だったと言えよう。
 しかし。相手の方が一枚上手だったのである。その手紙を書いた数日後、またしても手紙が届いた。恋人は一度諦めるから、友だちになるところから始めませんか、というのである。これが、今のダイヤの悩みの原因だった。
「お友だちから!? お友だちからって何!? お友だちから、ってことはその先があるわけよね!? え、これ、どうしたらいいの!? めちゃめちゃ断りにくいんだけど!!!」
 今度こそ本当にパニクってしまっているダイヤなのであった。
「ねえ、ねえ。クロスさん。助けてあげたらどうですか?」
 最初は面白がっていたメイドたちだが、さすがにダイヤが可哀そうになってきて、ダイヤの一番近くに仕えるクロスにそう持ちかけた。何を隠そう、ダイヤの「好きな人」とは彼のことであるし。
「助けて、と言われましても。私には何ともしようがないのでは?」
 クロスは極めて冷淡にそう言う。メイドたちの目が剣呑になった。
「クロスさん、それ本気で言ってます?」
「本気ですけど」
 とかやっているうちに。またしても、手紙が届いた。
「えっ、返事の催促かしら」
 顔を青くしたダイヤだったが、それは招待状だった。友だちになるために、是非、ホームパーティへ来て欲しい、と言う。「お友だちをたくさん連れてきていただいて構いません。大勢で楽しく遊びましょう」とも書いてあり、ダイヤの気持ちはこれで大きく動いた。
「……お友だちを連れてってもいいのね……、それなら、よさそう」
 バレンタインにははしゃぐことのできなかった分、遊びたい、という気持ちもある。
「一緒に来てくれる人を集めて、パーティに行ってみることにするわ!」
「どうせ行くんですから楽しいパーティになるといいですね!」
「お嬢さま、何をお召しになって参ります? アクセサリーは?」
 悩みは、吹き飛んだ。
 メイドたちは、依然として涼しい顔のクロスを横目で眺めつつ、面白がる立ち位置に戻ったのであった。

リプレイ本文

 ハンターたちは一度、モンド邸に集められた。ダイヤはまだ身支度中だというので、応接室で待つことになる。
「27歳の男が16歳の女の子の「お友達」として参加して良いものなのだろうか……」
 複雑そうに鞍馬 真(ka5819)が呟くと、クロスが微笑んだ。
「何を仰いますか。鞍馬さまは間違いなくお嬢さまのお友達です。年齢など関係ありませんよ」
「そうかな。そう言ってもらえると嬉しいよ。……クロス君は行かないんだね。てっきり、使用人として、衣装の準備とかで出向くと思ってたんだけど。というか、普通にお友達の一人として行ったりはしないの?」
「お友達? 私が、お嬢様の? まさか」
 クロスは穏やかに首を横に振った。その様子には特に動揺も見られない。
「ふむふむ、なるほど……一筋縄ではいかなそうですね……」
 玉兎・恵(ka3940)がそれを見て小声で呟くと、ハンターたちに紅茶を配るメイドたちに声をかけ、ダイヤにラブレターを送ってきたジャン・マルコリーニについて質問しはじめた。その問いかけの意味をすぐさま悟ったメイドたちは、わざと声を大きくして、手紙の筆跡が美しく、家柄が良く、礼儀正しい言葉を使っていた、と話した。
「お相手さんなかなかいい人そうじゃないですか。恵がんばって応援しちゃいます!」
 満面の笑みで煽るようなセリフを口にした恵に、クロスの眉がぴくりと動いた。何かを飲み込むように、ぐ、と引き締められた喉はしかし、何も言わないままだ。恵の頬がふくれ、クロスに怒りの言葉が向けられようとしたとき。応接室に、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が入ってきた。
「ダイヤ君のご両親から、クロス君の休暇の許可を貰ってきたよ! と、いうわけで。ふっふー♪ クロス君をデートに誘おう!」
「はい?」
 突然のことでさすがに呆気に取られたクロスを、イルムは笑顔で捕らえる。
「ボクでは不満かな? なあに心配することはないよ。エスコートはお任せあれっ。さあ行こう。今すぐ行こう。時間の神は嫉妬深いんだ。立ち止まっていてはあっと言う間に過ぎ去ってしまうよ!」
「え、いや、ちょっとお待ちください」
 クロスが慌てつつも取り乱すことなく断ろうとするところに、すっと近づいてきたのは巳蔓(ka7122)だった。ゴシックドレスをメイドたちに着せてもらい、応接室に合流した彼女は、真剣な面持ちでクロスに告げる。
「ジャンさん、そしてマルコリーニ家の方々にはどのような思惑があるのでしょうか。それが不明である以上、警戒しておく必要があると考えます。クロスさんのようなダイヤさんをよく知る男性が同行して下されば何か起きても心強いのですが」
「……ごもっともではあります」
 まだためらう様子を見せたクロスだったが、このあたりで連れ出される覚悟を決めたらしく、ため息をついて頷いた。ちょうど、そのとき。
「皆さんお待たせしました!」
 ドレスアップしたダイヤが現れたのだった。



 エメラルド・シルフィユ(ka4678)はうむむ、とうなりつつパーティ会場であるマルコリーニ家の大広間に立っていた。
「昔からこういう席は苦手だ……」
 きらびやかな空間に気圧され気味になりつつ、エメラルドはひとまず、ジャン・マルコリーニを観察してみることにした。ジャンは、ダイヤたち一行の到着を知ると、すぐに出迎えに現れ、ダイヤに向かって丁寧にお辞儀をし、挨拶していた。
「今日はおいでくださってありがとうございます」
「こ、こちらこそ、お招きありがとうございます」
 ジャンはとても礼儀正しく、かつにこやかで感じが良かった。ダイヤもホッとしたように笑顔になっている。しかし、時々視線をさまよわせて「誰か」の様子を気にしていた。
「そんなに悪い相手ではないのかもしれん……が、まあ大切なのは本人達の気持ち。何と言って諦めさせようか……。なあ、恵……? って、なんか楽しそうじゃないか……?」
 会場に揃っているジャンの学友たちを見回してうきうきしたような表情でいる恵を見て、エメラルドは嫌な予感を抱いた。
 無事に最初の挨拶を終えたダイヤは、だいぶ気が楽になったらしく、パーティ会場のテーブルの上を見回して、何から食べようかとうきうきしだした。その隣で、杢(ka6890)もきょろきょろしている。
「エビフライばあるとええだんずね……」
「あちらにあるようですよ。取って来てあげましょう」
 鳳城 錬介(ka6053)が穏やかに笑ってそう申し出た。テーブルを巡り、料理を皿に取りながら、すかさずジャンの友人たちに挨拶して偵察する。
「うーん、美味しい! 皆と遊ぶのも久しぶりな気がするし、嬉しいわ。アルバイトも楽しかったけど」
「チョコいっぱい売っただんず? お疲れ様だんず」
 料理を頬張り、杢はダイヤを労った。ありがとう、とダイヤは心から嬉しそうな笑顔になる。アルバイトでの出来事をあれこれと杢に語ってると、視界の端に、恐ろしい顔でジャンに突進していく大伴 鈴太郎(ka6016)の姿が映った。
「おう、テメェかよ? ダイヤに粉かけてる男ってのはよ」
「粉……? ええと、はじめまして、ですね。ジャンと申します」
「ウッセー、テメェの名前なんざ聞いてねンだよ。いいから、ちっとツラ貸せや」
 モンド家のメイドたちから事情を聞いた鈴太郎は、自分がダイヤを助けねばと燃え上がっているのだった。
「あなたはダイヤさんのお友だちなんですね。では、よくご存じなのではないでしょうか。ダイヤさんがとても素晴らしいお嬢さんだということが」
「当たり前だろ!? んなこたテメェに言われなくても知ってんだよ!!」
 鈴太郎が拳を振り上げた。ジャンは、それにひるむことなく言葉を続ける。
「そうですよね。僕は買い物客であふれるチョコレートショップで、てんてこ舞いになりながら、それでも一度も笑顔を絶やさない彼女を見て、なんて素晴らしい人だろうと思いました。ですから、もっとこの素晴らしい人と仲良くなりたいと思ったんです」
「ぐ……」
 冷静で筋の通った話をされ、鈴太郎が固まる。振り上げた拳で殴ることもできず、さりとてそのまま下ろすこともできなくなっていた。ふたりのただならぬ空気に周囲が気が付き、パーティ会場がざわめく。真と錬介が鈴太郎の両脇に駆けつけた。
「鈴君、どうしたんだ」
「大友さん、ちょっと落ち着きましょう」
「止めんな、ふたりとも! お、おい、いいか、ダイヤにはなあ、クロスっていう……」
「わーーー!!」
 鈴太郎のセリフはばっちり会場中に響き、顔を真っ赤にしたダイヤがすっ飛んでくる。
「ちょっと鈴さん!!」
 ジャンから引き剥がすようにして壁際に引っ張っていくと、ダイヤは目を吊り上げて怒った。
「なんてこと言うのよ!! 失礼にもほどがあるわ!!」
 普段から感情豊かなダイヤだが、こと怒りに関してはここまでの苛烈さは珍しい。
「だ、だって、ダイヤが困ってっから……」
 鈴太郎は塩をかけられた青菜のごとく、瞬時に萎れてしまった。
「私が困ってたら、相手に失礼をはたらいていいということにはならないでしょ!?」
「え……、あ……」
 ダイヤの怒りを正面から浴び、早々に心が折れてしまった鈴太郎は目を泳がせつつ脱兎のごとく駆け出した。
「あっ」
「鈴くんは、こっちでサポートしておくよ」
 真が苦笑しながらダイヤに目配せをし、そっと言葉を続けた。
「いい機会だし、ダイヤ嬢はクロス君以外の男性を知るのも良いと思うよ。色々な人を知って、それでもクロス君が好きという気持ちが揺らがないのなら、想いはもっと強くなると思うし」
「えっ、あ、うん……」
 好き、という直接的な言葉を耳にしてダイヤは赤くなりつつ、頷いた。真はくすりと笑って、ダイヤの前を離れると、逃げ去った鈴太郎を追いかけて行った。それを見送って、ダイヤはため息をつく。
「ジャンさんに謝りに行かなくちゃ」
「ご一緒しましょう」
 錬介が言うと、ダイヤはホッとして頷き、ありがとう、と言った。



 巳蔓とイルムは、クロスを交えて料理や飲み物を楽しんでいた。
「何か思惑があるわけでもなさそうですし、ジャンさんは好青年なようですし、心配ありませんね」
 クロスはそう言いながらサラダを食べている。しれっとしてはいるが、そんなことをわざわざ口に出すあたり、心配していることが丸わかりだ。さすがのクロスも完全な冷静さを保てないらしい、とイルムは黙って微笑んだ。
 鈴太郎の騒動は三人の耳にも入ってきたけれど、駆けつける前に収束したらしいと聞いて胸を撫で下ろした。その、直後。
「どうやらそろそろ、音楽の演奏が始まるそうです。私も、お仲間に入れて貰ってきますね」
 巳蔓は、愛用の横笛を手に準備をしている楽隊の方へ足を向けた。ほどなく、始まったのは華やかなワルツ。
「さあ、クロス君、踊ろうか」
「は!?」
 イルムは当然のように手を差し出し、クロスの戸惑いなどどこ吹く風でさっさと手を取ると、滑らかにエスコートして踊り始めた。
「ステップを知らない? 心配ご無用さっ。ボクが手取り足取り教えてあげるよ」
「ちょ、ちょっと!」
 抵抗も虚しく、クロスはあっという間に引っ張り出されてしまった。しかし、引っ張り出されたのは実はクロスだけではなかった。
「え!? ダンス!?」
 目を白黒させているのはエメラルドだ。「エメにもいい人が見つかればいいのに」と考えていた恵は、エメラルドの背中を押し、ジャンの学友たちと親交を深めさせていた。その努力の甲斐あって、と言うべきか、エメラルドはその中のひとりからダンスを申し込まれたのだ。困り切って恵を振り返り、助けを求めるが。
「いいじゃない、エメ。踊ってらっしゃいよ! 大丈夫、きっと上手にリードしてもらえるから!」
 恵は助けるどころか目を輝かせて背中を押し続けるのであった。
「は!? 後で覚えてろよ恵……!」
 あたふたするエメラルドを、恵は実にいい笑顔で見送ったのだった。
 くるくると踊る人々を、ダイヤはジュースを飲みながら眺めた。錬介はいつの間にか少し離れたところでジャンの友人たちと話している。ジャンは、バイオリン演奏の真っ最中だ。見事な弓さばきを披露しながら、時々ダイヤに微笑みを向けてくるが、ダイヤはそれに応えている余裕がなかった。なにせ、踊っている人々の中にはクロスがいるのだから。
(なによ、結構楽しそうにしちゃってさ)
 面白くない気持ちはあったが、相手はイルムだ。ダイヤのことを思っての行動だということはわかっている。それに。
(クロスも、こうやって楽しめるのね)
 そういう、喜びもあった。昔、クロスはダイヤのことを「お嬢さまにはお友達がいない」と言って揶揄したけれど、実はクロスも同じことなのだ。なにせお屋敷から出られなかったダイヤに付きっきりでいたのだ。だから、ダイヤは自分に今こうして友達が増えたことも嬉しいのと同時に、クロスにも友達ができたことが嬉しいのだった。そう考えていると、ダイヤの目は自然と柔らかくなり、あたたかな視線で、クロスの姿を追った。
(エメを目立たせて……、っていう計画だったんだけど、必要なかったかも)
 恵はダイヤの様子を見て微笑んだ。誰からどんな熱烈な視線を向けられようと、ダイヤがその視線に応えることはなさそうだ。
 ワルツが一曲終った。
「素晴らしい音色でしたよ」
「ありがとうございます。皆さんにはとても及びませんが」
 笛で参加していた巳蔓は、周囲の演奏者に握手を求められ、嬉しそうに応じている。
「誰かを想うのは自由だんず。せばだば、それが相手の負担になっでしまうのは違うと思うだんず」
 杢はそっとジャンの隣に立った。ダイヤがクロスを目で追う様子を指差し、こう続ける。
「おらにはとっても幸せそうに見えるだんず。ジャンさんば、あの気持ちに勝てるだんず?」
「……勝ち負けは、ともかくとして」
 ジャンはバイオリンをおろして、柔らかく笑った。そこにはもしかしたら、少しだけ悲哀があったかもしれない。だが、とても優しい微笑みだった。
「私にも、あのダイヤさんはとっても幸せそうに見えますよ」



 一方、鈴太郎は、会場の隅ですっかりしょげかえっていた。足元を、くまごろーが心配そうにとてとて歩き回っている。タイミングを見計らった真が料理を運び、明るく話しかけて元気づけると、次第に、真だけでなく錬介や杢、ダンスを終えたイルムとクロスも集まってきた。
「くまのねっちゃ、元気出すだんず」
「なあなあ、ダイヤまだ怒ってっかなぁ……?」
「どうでしょうね……。まずは直接ぶつかってみないと分からない事もありますよ」
 錬介が優しく諭す。鈴太郎が先ほど、ダイヤにもジャンにも謝ることをせず逃げてしまったのを見ているからこそだ。
「う。そ、そうだよな……」
 大きく深呼吸をした鈴太郎は、皆に見送られ、まずはダイヤに謝るべく近付いて行った。
「あの……さ、ダイヤ……。さっきは、ごめんな」
「……私も、あんなに怒ってごめんなさい。鈴さんが私のこと考えてくれたのはわかってるわ」
 ダイヤが微笑み、ホッと息をついた。ダイヤだってケンカしたままは嫌だ。
「ジャンさんに、謝りに行きましょ」
「うん」
 鈴太郎が頷いたとき、そのジャンが自分から近付いてきた。
「あっ、えっと、その……、さっきはすんませんっした!!」
 鈴太郎が勢いよく頭を下げると、ジャンは爽やかに笑って首を横に振った。
「気にしないでください。ダイヤさんを困らせていたのは、事実ですから。……ダイヤさんは、とても素晴らしいお友達をたくさんお持ちなんですね。とても、楽しかったです。ですから、是非、僕もその仲間に入れてほしいな、と思うのですよ。そう、恋人ではなく、友達に」
「は、はい! それは、喜んで!!」
 ダイヤは顔を輝かせて頷いた。お友達が増えるのは、単純に嬉しい。そんなダイヤに、ジャンはくすりと笑って囁く。
「……ダイヤさんが誰を心に思っているのか、はっきり見せつけられましたしね」
「えっ」
 たちまち、ダイヤの顔は赤くなった。
 その様子を見守っていたクロスは、そっと、しかし長く、息を吐いた。安堵の息だった。
「ホッとした?」
 真がクロスの隣に立って尋ねる。上品な香水の香りが、ふわりと漂った。真は、ダイヤとクロスの間については急いでどうにかなって欲しいとは思っておらず、自然と良い形に落ち着くだろうと考えていた。それをゆっくり見届けられたら、という年長者らしい思いで。
「……ええ。正直に申しまして、ホッとしています」
 よほど気疲れしていたのか、クロスは珍しく素直に答えた。
「でも。今回、私は何もしていません。……そろそろ、腹をくくらねばならないのでしょうね」
 クロスがそう言って、複雑そうな視線を向ける先には、「新しいお友達」と笑い合うダイヤの姿があった。

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MVP一覧

  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    ka6890
  • 淡緑の瞳
    巳蔓ka7122

重体一覧

参加者一覧

  • 白兎と重ねる時間
    玉兎・恵(ka3940
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • 淡緑の瞳
    巳蔓(ka7122
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/01 10:58:23
アイコン いざ、(男女の)戦場へ!
エメラルド・シルフィユ(ka4678
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/03/01 14:46:00