• 幻兆

【幻兆】Miosotide

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/01 22:00
完成日
2018/03/15 21:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――本当は、あまりこの山に来たくなかった。

 元々、辺境の北は寒い土地だ。
 冬ともなれば尚更で、分厚い雪や氷に覆われた山などがあるくらいには寒い。
 こんな季節に山に来たところで、何か獲れる訳でもない。
 それでも、ここに来たのは……昨夜、大きな地震があったから。
 山に何事か起きて、周囲に影響が出るようなことになれば、春を迎えた時に困った事態になる。
 それを避ける為にわざわざこうして調べに来たのだ。

 ――あともう1つ、ここに来たくなかった理由がある。
 ここを通りかかった人間は、銀色の蝶を見ることがあるという。
 こんな寒い土地に蝶などいる訳がない。
 その筈なのに、目撃情報が後を絶たず……。
 薄気味悪さも手伝って、あまり人が寄り付かない場所となっていた。

「あーあ。ツイてないな……」
 ボヤく男。ここに派遣されたのも、仲間達とのカード勝負に負けたからだ。
 負けてしまったからには仕方がないとやって来たが、本当はすぐにでも帰りたい。
 ……何事もなければそれが一番だし、何かあれば報告しなければならないし。
 とにかく行って、ちょっと見たら、すぐに戻ろう――。

 重い足取りで山頂付近まで来た彼。
 きょろきょろと周囲を伺って……山を形成する氷山の一部が崩落していることに気付いた。
 昨日の地震の影響だろう。剥がれ落ちたのはあそこだけだろうか……?
 近づいた彼。落ちて割れた氷。その隙間を覗き込んで……そこに、見慣れぬものがあることに気が付いた。
「何だ……? 船? これリアルブルーのマークか……?」
 見た感じ、大分前に機能を停止したようでところどころ錆びている。
 剥げかけた塗装にかろうじてマークのようなものが見て取れた。
 廃棄したにしても何故こんな場所に……?
 ひとまず、族長に報告しよう……。
 男は踵を返すと、一目散に彼の一族がいる逗留地を目指した。

●山の中の船
「辺境の北の山にリアルブルーの船、ですか?」
「……ああ。北の地に逗留している辺境部族からそんな報告が来てな……。特徴を聞く限り、どうやら哨戒艇と呼ばれるもののようなんだが……」
 バタルトゥ・オイマト(kz0023)の言葉に目を丸くするハンター達。
 部族会議に持ち込まれたという話に、ハンターは首を傾げる。
「何だってそんなところに哨戒艇が?」
「……分からん。が、北の山は急勾配だ。そんな大きなものをわざわざ投棄しに行くとも考え難い……」
「何らかの理由でそこに不時着したんですかね……」
「人は乗っていなかったのか?」
「ああ……。大分朽ちているということでな……昨日今日にやって来たものではないらしい……」
 考え込むハンター達。
 いくら人気のない山の中とはいえ、リアルブルーの宇宙哨戒艇が墜落するようなことがあれば真っ先に部族会議に報告が上がるはずだ。
 それもなく、朽ちているということは大分前のものなのか……。
「……ともあれ、部族の者達が気味悪がっていてな。……本当にリアルブルーの哨戒艇なのであれば、宙軍に報告をしなければならん……」
「要するに、そこに行って確かめてきて欲しい、と。そういうことですね?」
「うむ……。俺は仕事があって、同行出来ぬのだが……北の山は寒い。十分な装備を固めて行ってくれ……」
「あー。そうか。バタルトゥ、怪我して寝込んでる間ヴェルナーに任せっきりだったから仕事溜まってんのか。大変だな……」
「分かりました。分かったことはまとめてご報告します」
「宜しく頼む……。足りないものがあれば貸し出すゆえ、声をかけてくれ……」
 バタルトゥに頷き返すハンター達。
 北の山へと向かう為の準備を始める。

●Miosotide

 ――ウ。

 ――誰だ。俺を呼ぶのは。

 ――エ…………ロウ。

 ……やめろ。俺は知らない。お前など知らない。

「青木よ。……どうした?」
「……いや、何でもない。俺を呼び出したりして一体何の用だ」
 山のような大きなクマのぬいぐるみを見上げる青木 燕太郎(kz0166)。
 怠惰の王であるビックマー・ザ・ヘカトンケイルは気怠げに深い深いため息をついた。
「うむ。実はな……ここのところ、空気がおかしい。どうも妙だ」
「妙……? お前の指示通り遺跡は破壊してきたぞ?」
「おう。あのクソ大精霊がオカンムリらしいからそれは疑ってねえよ。ただ、それ以外にも何か動き出してる気がしてな」
「ハンターではないのか」
「違う。もっと厄介な匂いだ。今のうちに潰しておかねえと面倒くせぇことになる匂いっつーのか」
「お前がそこまで言うのも珍しいな」
「気のせいならいいんだがよ。調べにトーチカ達を向かわせた。お前も調べて来てくれ」
「……ふむ。分かった」
「ヒュー! 今回はやけに素直だな?」
「反抗した方が良かったのか?」
「とんでもねえ。気が変わらないうちに行って来てくれ」
 ニヤリと笑うビックマー。青木はそれを一瞥すると、彼の根城を後にした。

リプレイ本文

 辺境の北部は山脈というほどではないが、小さい山々が連なる土地だ。
 元より、歪虚が多く現れる場所とあってあまり近づく者もいない。
 春になれば雪をかき分けて生える山野草を摘みにくる辺境部族もいるが、雪と氷に閉ざされる冬ともなるとなおのことで――。
 吹き抜ける冷たい風に、岩井崎 メル(ka0520)とアティ(ka2729)が身震いする。
「さ、寒……!! 防寒具借りたけど冷たいッ!」
「結構風が強いですね……」
「ホントだねー。バタルトゥさんがイヤーマフを着けて行けって言ったの分かる気がする」
「思ったより足場が悪いね。皆気を付けて行こう」
 風を避けるようにフードを目深に被るリューリ・ハルマ(ka0502)。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の声に、仲間達が頷く。
 急勾配の山道は岩と氷が多く、とても歩きにくい。
 ――うっかり滑ったりしてジャミング・コートが解除されないように気を付けないと。
 この山道で隠密行動はなかなか厳しいかもしれないな――。
 メルは続く岩々を見つめて、小さくため息をつく。
「こんな山の中に哨戒艇があるなんて、不時着したのかなぁ」
「……恐らく転移に巻き込まれてここに飛ばされて来たんだと思う」
「どうして分かるの?」
「ちょっと心当たりがあってね。……そういえば、メルさん。行方不明の哨戒艇のデータって何か分かった?」
 アルトの問いに首を振るメル。しょんぼりと肩を落として続ける。
「ハンターオフィスを通して宙軍に問い合わせて貰ったんだけど、『機密情報です』の一点張りだったよ」
「まあ、行方不明の艦というのはあまり名誉な情報ではないですから……そういう意味でも言いたくないのかもしれませんね」
「うん。オフィス職員のイソラちゃんの話だと、転移やVOIDの襲撃で行方不明になった船が多すぎて軍も把握しきれてないんじゃないかって言ってた」
「実際その通りなんだろうね……」
 宥めるようなアティの声にこくりと頷くメルとリューリ。
 ――サルヴァトーレ・ロッソのような大きな艦が消えれば大ニュースにもなるだろうけれど。
 クリムゾンウェストの大精霊がヒトを集める為に繰り返し起こした転移。
 そして襲い来るVOIDによって、星の数ほどの艦隊が消えたはずだ。
 当時の混乱を考えても、全ての記録が残っている方が難しいだろうと思えた。
「そういえば、銀の蝶の目撃情報があるそうですね」
「あー! それ、私聞いて来た!!」
 アティの呟きにはいはーい! とリューリが挙手をする。
 北の山間部周辺を活動範囲として使っている辺境部族の面々の話によると、最近この山に近づくとキラキラと銀色に輝く蝶が現れるのだと言う。
 蝶は現れると見つけた人を先導するように飛んで……気が付くと消えているのだそうだ。
「結構な数の人が見てるみたいだよ」
「この寒いのに蝶……? 昆虫だったら生きられないよね。何だろう。歪虚かな」
「歪虚だったらとっくに人襲ってるんじゃないのかな」
 続けたリューリに、首を傾げるメル。アルトの言葉にアティが考え込む。
「寒さによる幻覚の可能性もありましたが……沢山の人が見ているとなるときちんと確認した方が良さそうですね」
 頷くハンター達。雪化粧をした連なる岩々や険しい坂道を登り続け、ようやく開けた場所へとたどり着いた。
「ここが山頂ですか……?」
「あれが哨戒艇かな」
 きょろきょろと周囲を伺うアティ。アルトが岩山の間を覗き込むと、氷に覆われた哨戒艇らしきものが目に入った。
 アティはそれを魔導スマートフォンで撮ろうとして……持ってきていなかったことに気付く。
「どうしたの?」
「哨戒艇の機体を撮影しようと思ったんですが、魔導スマートフォンを忘れてきてしまって……」
「ああ、じゃあ僕が撮るよ」
「すみません、お願いします」
 アルトに頭を下げるアティ。魔導スマートフォンのシャッター音を聞きながら、まじまじと哨戒艇を見る。
 錆びが目立つ機体。剥げかけた塗装にかろうじてマークのようなものが見て取れて……1つは宙軍のマークだろうか。
 もう1つは見覚えがないが、恐らく部隊を示すマークだろう。
 結構腐食が進んでいるように見えるのに、形を保っているという事実。リアルブルーの技術力の高さにアティは素直に感心する。
「中に入れそうですか?」
「ちょっと氷退かさないと無理かな……。リューリちゃん手伝って貰っていい?」
「いいよー。斧でどっかーんってする?」
 仲間達が哨戒艇と対峙している間、メルは周囲を警戒していた。
 滞りなくここまでやって来れたが、ここは歪虚が多く出る土地。
 探索に集中し過ぎて、歪虚に背後を取られる事態になるのは笑えない。
 その時、視界に何かが横切って……メルが小さな声をあげた。
「メルちゃん、どうしたの?」
「あれを見て……!」
 一斉に振り返る仲間達。メルが指差す先には銀色に輝く蝶がひらひらと舞っていた。
「銀色の蝶……!」
「待って。ちょっと試したいことがあるの」
 用心深く距離を詰めようとする仲間達を制止するリューリ。
 祖霊の力を呼び起こすと、深淵の声に耳を傾ける。
 ――蝶からは何も見えない。聞こえない。
 けれど、背後。船の方から複数の声が聞こえた。

 ――寒い。どうしてこんな目に……。
 ――誰か。助けてくれ。誰か……!

 それは悲しみと死への怯え。そして怒りと強い故郷への思い。
 ……皆、故郷へと戻ることを願いながら力尽きて行ったのだろう。

 ――ああ、この船は。やっぱり燕太郎さんの……。

 以前、ライブラリで見た地獄。リアルブルーの小さな哨戒艇を襲った悲劇は事実だったのだと悟って、リューリは涙ぐむ。
 そしてもう1つ、小さな声に気付いた。

 ――エン……ロウ。……タロウ。

「セトさん……? セトさんなの?」
 聞き覚えのあるそれに思わず声をあげたリューリ。
 気が付くと銀色の蝶は彼女の頭上を舞っていて……あの人の鮮やかな銀糸の髪と重なって見えた。
「リューリちゃん、大丈夫?」
「うん……。アルトちゃん、あの蝶、多分セトさんだ」
「えっ?」
「セトさん、すごく燕太郎さん心配してるみたい……。声が……」
「そっか。この哨戒艇は、やっぱりあの場所なんだね」
「……アルトさん、ビンゴだった?」
 ポロリと涙を零すリューリを支えるアルト。メルの問いに頷く彼女を見てアティが確認するように口を開く。
「……皆さん、この哨戒艇をご存知なんですか?」
「リューリさんとアルトさんは心当たりがあるんだって」
「以前血盟作戦の時にね。記録を見たことがあって……状況が似てたから、そうじゃないかなとは思ってたんだけど」
「聞かせて戴いてもいいですか?」
「うん。リアルブルーの護衛任務に向かう予定だった部隊が転移に巻き込まれた。彼らが乗っていた哨戒艇は突然氷の山中に放り出されたんだよ。その中に、青木燕太郎って呼ばれる人間もいた」
「……青木? あの歪虚の青木ですか?」
 頷くアルトに声を失くすアティ。
 まさかここが、あちこちに混乱を齎している歪虚に縁があるものだとは――。
「……とりあえず、調べなくちゃね。それを裏付ける為にも」
「うん。そうだね。リューリちゃん動ける?」
「……うん。大丈夫」
 哨戒艇を見つめて言うメルに頷くアルト。
 落ち着きを取り戻したリューリを見て、アティも首を縦に振る。
「それじゃ、手分けして探索しましょうか」
「うん! 歪虚が出たらすぐに報せ合おうね!」
 メルの指示に頷いた仲間達は、思い思いの場所に散って行く。


 氷で覆われた哨戒艇。メルとリューリは氷を少しづつどかしながら周辺を探索していた。
「うーん……。哨戒艇の他に何かが移動・出現した痕跡は無い、か。やっぱり地震が原因で崩れたのかなぁ」
「地震が起きた原因っていうのも気になるよね」
「そうだね。ノアーラ・クンタウの地下におっきなグランドワーム出たことあったけど、またああいうのがウロウロしてたりしないよね」
「わー……ありそうで嫌だなー……」
「地震については引き続き注意した方がいいって報告書に書いておこうよ」
「そうだね」
 頷き合う2人。
 一体どれくらい氷を退けただろうか。
 ふと足元に、氷ではない物体を見つけてメルがしゃがみ込む。
「これ何だろう」
「骨……みたいだね」
 リューリの声にハッとするメル。見ると、周囲は人間のものと思わしき骨が散乱していた。
「……これ、全部人の骨……? 随分沢山……。ねえ、何で船の中にいないの?」
「見た記録によると、ここの部隊の一番偉い人が飢えと寒さで錯乱しちゃったみたいでね。生き残ってる人達を外に追い出しちゃったんだよ」
「何それひどい……!」
「本当酷いことするよね!」
 ぷりぷりと怒るメルとリューリ。
 でも、これが『酷いことだ』と思えるのも、2人が人一倍純真だからというのもあるが……飢えと寒さに耐えながら救援を待つという極限状態に陥ったことがないからなのかもしれない。
 ――否。私は、そういう状況になっても。
 誰かを思いやる気持ちを忘れたくない……。
「……骨と遺品、集めよう。このままにしておいたら可哀想だよ」
「うん。そうだね。ねえ、メルちゃん」
「ん?」
「もし、仲間がピンチに陥って……その時に強い歪虚が現れて、契約したら仲間を助けてやるって言われたらどうする?」
 リューリの問いに考え込むメル。本当にそういう状況になってみなければ分からないけれど……ふと、大好きな旦那様やお友達の顔が思い浮かんだ。
「……契約はしないで、助かる道を探す、かな。だって私が歪虚になったら皆悲しむもん」
「そっか。メルちゃんはいい子だねえええ」
「わ。わ。リューリさんくすぐったいよ!?」
 メルに抱きつき、もふもふと頭を撫でるリューリ。
 ――燕太郎さんも、メルちゃんみたいに気が付いてくれたら、きっと別な道があったのに……。
 歪虚になった理由すらも忘れてしまったあの黒い影が、哀れで仕方がなかった。


「……ドア、丸ごと外れるとは思わなかった。そんなに力入れてないのに……」
「まあ、腐食が進んでいましたし、アルトさんが怪力という訳ではないと思いますよ?」
 憮然とするアルトにフォローするアティ。
 アルトが哨戒艇のドアを丸ごと外すという力業で船の中の潜入に成功していた。
 薄暗い船内。充満する埃の匂い。入ってすぐに、骨が散乱していることに気付く。
「ご遺体がこんなところに……」
「……争ったような跡があるね」
 アルトの声に目線を移すアティ。船内はところどころ壊れていて……飛び散っているどす黒いものは血だろうか。
 小型とはいえ哨戒艇。何人もの人間が寝泊まりできるような設備がある船だ。
 それが軍の関係者に何の連絡もなく放置されている。
 この事実が物語るものは……。
「やはり不慮の事象によるもので間違いなさそうですね……」
「ひとまず状況は記録しておこう。アティさん、ご遺体の収集、頼んでもいいかな。僕、ちょっと試したいことがあるんだ」
「はい! 勿論です。遺品もあるようでしたら分別して回収、記録しておきます」
「ありがとう。何かあったらすぐ呼んで」
「はい。アルトさんもお気をつけて」
 笑顔のアティに手を振るアルト。
 記憶を頼りに奥へと進む。
 ――確かこっちが操縦室だったはず。青木がコルト長官を始末した場所……。
 奥に向かう途中にも、人骨が散乱していて当時の混乱を伺わせる。
 そしてたどり着いた操縦室。
 アルトは部屋を見渡してため息をつく。
 そこは特に酷く破壊されており、破壊された場所から氷山が浸食し、腐食の進み具合も酷い状態だった。
「……これは無理そうだな」
 呟くアルト。操縦室が無事であれば何とか電力を復活させ、船に残っているデータをペンダントの記憶媒体に移せるかと思ったのだが……。
 電力の復活どころか、記憶媒体の差込口自体が消失している。
 仕方ない。せめて遺品だけでも……と思ったアルト。ふと、視界の隅に銀色の蝶が横切った。
「……セトさん?」
 誰もいない空間に声をかける彼女。
 答えるものはないが……ふと、足元に輝くものを見つけてしゃがみ込む。
「これ、ドックタグ……」
 銀色のペンダントを拾い上げたアルト。
 プレートの文字を一文字づつ確認して、目を見開く。

 ああ、間違いない。これはセトの……。

 そしてペンダントの隣に黒い革表紙の手帳が落ちているのも見つけた。
 大分腐食が進んでいるが……書かれているのはリアルブルーの文字だろうか。
 ここにも『Seth』という表記を見つけて、手帳の持ち主が誰であったのかを覚った。
「……助けに来るのが遅くなってごめん。君の弟が、君を探してるんだ。ここにいることは必ず伝えるから」
 遺品を大事に抱えて、頭を垂れるアルト。
 あの黒い歪虚があのままでは、きっとセトも安心して眠れまい。
 リューリの為にも。あの歪虚は必ずこの手で――。
 彼女は墓標の中で、そっと誓いを立てた。


「……思ったより沢山のご遺骨がありました。これを全て持ち帰るのは不可能だと思うんですが……」
「お墓、作ってあげたいな。このまま野ざらしじゃ寒くて可哀想だよ」
「そうだね。……とはいえ、メルちゃんスコップ持ってる?」
「持ってきてない! ユニットがあればすぐ掘れそうなのになぁ」
「そもそもここにお墓を作ったらお墓参り大変だよね……」
 アティの呟きにうーんと考え込むメルとリューリ。アルトも首を捻る。
「遺骨があったことを伝えて、お墓の場所はバタルトゥさんに相談した方がいいかな……」
「ご遺骨は交じり合ってしまっていて特定は不可能なものもありますが、遺品と哨戒艇のデータについて分かる限り記録を取りましたし、これはハンターオフィスにお届けするとして……お墓の場所が決まるまで寒くないように哨戒艇の中にいて戴きましょうか」
 テキパキと報告書の束をまとめるアティに頷く仲間達。
 彼らはその後、出来る限り人の形を保つように船内に遺骨を並べた。
 せめて寒くないように。寂しくないように――。
 出来れば彼等の宗派に則り祈ってあげたかったが、分からなかったので、せめて……と。アティは自らが信奉する神に祈りをささげる。
「エクラの光よ、どうかこの者達に安寧の眠りをお与えください……」


 探索を終える頃には、もう日が傾き始めていた。
「歪虚が出なくて良かったけど、これ以上遅くなると暗くなって危ないよね」
「そうですね。帰り道に歪虚が出ないとも限りませんし、そろそろ引き上げましょう」
 メルとアティの提案に頷く仲間達。
 リューリは振り返ると、じっと哨戒艇を見る。
「……セトさんはずっと燕太郎さんを心配してたんだね。大丈夫、伝言は必ず伝えるから。もうちょっとだけ待ってて」
「リューリちゃん、行くよー!」
「はーい!」
 アルトに呼ばれ駆け出すリューリ。その時ふと、銀色の蝶が待っているのを見たような気がした。

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MVP一覧

  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
リューリ・ハルマ(ka0502
エルフ|20才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/03/01 15:49:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/25 11:39:59